<電子機器の外観>
図1〜3は、それぞれ、実施の形態に係る電子機器1の外観を示す斜視図、前面図及び裏面図である。図4は、図2に示される電子機器1の矢視A−Aにおける断面構造の概略図である。図5は、図2に示される電子機器1の矢視B−Bにおける断面構造の概略図である。図6は、電子機器1が備えるカバー部材2の裏面図である。図6に示されるカバー部材2には、電子機器1が備える圧電振動素子190及び表示パネル120が取り付けられている。本実施の形態に係る電子機器1は、例えば、スマートフォン等の携帯電話機である。
図1〜6に示されるように、電子機器1は、表示パネル120(図4)の表示面120aを覆う透明のカバー部材(カバーパネルとも呼ばれる)2と、カバー部材2を支持する前面側ケース3と、前面側ケース3に取り付けられる背面側ケース4とを備えている。背面側ケース4は、前面側ケースに取り付けられる、電池200を収納するケース本体40と、ケース本体40に対して電子機器1の裏面側から取り付けられるカバー部材41とで構成されている。ケース本体40に収納された電池200はカバー部材41で覆われている。本実施の形態では、カバー部材2、前面側ケース3及び背面側ケース4が、電子機器1の外装ケース5を構成している。電子機器1の形状は、平面視で略長方形の板状となっている。
カバー部材2は、電子機器1の前面部分における、周端部(周縁部)以外の部分を構成している。前面側ケース3及び背面側ケース4は、電子機器1の前面部分の周端部、側面部分及び裏面部分を構成している。前面側ケース3及び背面側ケース4のそれぞれは、例えば、樹脂及び金属で形成されている。前面側ケース3及び背面側ケース4を形成する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂あるいはナイロン系樹脂が採用される。また、金属としては、例えばアルミニウムなどが挙げられる。前面側ケース3と背面側ケース4とで囲まれた空間には、後述するCPU101及びDSP102などの各種部品が搭載されたプリント基板(図示せず)が設けられている。
カバー部材2は、板状であって、平面視において略長方形を成している。カバー部材2は、表示パネル120の表示面120aと対向する内側の第1主面20と、第1主面20とは反対側に位置する外側の第2主面21とを有している。第2主面21は、電子機器1の前面の一部を構成している。以後、第1主面20を「内側主面20」と呼び、第2主面21を「外側主面21」と呼ぶことがある。
図6に示されるように、カバー部材2は、内側主面20及び外側主面21に平行な第1方向DR1に沿って長い略長方形を成している。したがって、内側主面20及び外側主面21に平行かつ第1方向DR1に垂直な方向を第2方向DR2とすると、カバー部材2における第1方向DR1に沿った長さは、カバー部材2における第2方向DR2に沿った長さよりも大きくなっている。以後、第1方向DR1を「長手方向DR1」と呼び、第2方向DR2を「短手方向DR2」と呼ぶことがある。
カバー部材2は、サファイアから成る。ここで、サファイアとは、アルミナ(Al2O3)を主成分とする単結晶のことをいい、本明細書では、Al2O3純度が約90%以上の単結晶のことをいう。傷がよりつき難く、割れや欠け等をより確実に抑制する点で、Al2O3純度は99%以上であることが好ましい。カバー部材2の材料としては他に、例えば、ダイヤモンド、ジルコニア、チタニア、水晶、タンタル酸リチウム、酸化窒化アルミニウムなどが挙げられる。これらも、傷がよりつき難く、割れや欠け等をより確実に抑制する点で、純度が約90%以上の単結晶が好ましい。
カバー部材2には、表示パネル120の表示が透過する透明の表示部分(表示窓とも呼ばれる)2aが設けられている。表示部分2aは例えば平面視で長方形を成している。表示パネル120から出力される可視光は表示部分2aを通って電子機器1の外部に取り出される。使用者は、電子機器1の外部から、表示部分2aを通じて、表示パネル120に表示される情報が視認可能となっている。
カバー部材2における、表示部分2aを取り囲む周端部(周縁部)2bの大部分は、例えばフィルム等が貼られることによって黒色となっている。これにより、周端部2bの大部分は、表示パネル120の表示が透過しない非表示部分となっている。
図4に示されるように、カバー部材2の内側主面20にはタッチパネル130が貼り付けられている。そして、表示部である表示パネル120は、タッチパネル130における、内側主面20側の主面とは反対側の主面に貼り付けられている。つまり、表示パネル120は、タッチパネル130を介してカバー部材2の内側主面20に取り付けられている。そして、表示パネル120はカバー部材2と前面側ケース3とで挟まれている。カバー部材2では、表示パネル120と対向している部分が表示部分2aとなる。使用者は、カバー部材2の表示部分2aを指等で操作することによって、電子機器1に対して各種指示を与えることができる。
図1,2,6に示されるように、カバー部材2の下側端部にはマイク穴50があけられている。また、図3に示されるように、電子機器1の裏面10には、具体的には背面側ケース4のカバー部材41の外側の面には、スピーカ穴80があけられている。
外装ケース5内には、後述する、近接センサ140、前面側撮像部160、裏面側撮像部170及び圧電振動素子190が設けられている。図4,5に示されるように、圧電振動素子190は、カバー部材2の内側主面20に対して貼付部材250によって貼り付けられている。カバー部材2の上側端部には、外装ケース5内の近接センサ140が電子機器1の外部から視認できるための近接センサ用透明部60が設けられている。近接センサ用透明部60には、その内側から近接センサ140が取り付けられる。また、カバー部材2の上側端部には、外装ケース5内の前面側撮像部160が有する撮像レンズが電子機器1の外部から視認できるための前面レンズ用透明部70が設けられている。そして、電子機器1の裏面10には、外装ケース5内の裏面側撮像部170が有する撮像レンズが電子機器1の外部から視認できるための裏面レンズ用透明部90が設けられている。
図4に示されるように、カバー部材2は前面側ケース3に対して貼付部材260によって貼り付けられる。具体的には、カバー部材2の内側主面20が貼付部材260を介して前面側ケース3に貼り付けられる。図6では、貼付部材260が斜線で示されている。図6に示されるように、カバー部材2の内側主面20の周端部211の全周囲が、貼付部材260によって前面側ケース3に貼り付けられる。貼付部材260としては、両面テープあるいは接着剤が採用される。
<電子機器の電気的構成>
図7は電子機器1の電気的構成を主に示すブロック図である。図7に示されるように、電子機器1には、制御部100、無線通信部110、表示パネル120、タッチパネル130、近接センサ140が設けられている。さらに電子機器1には、マイク150、前面側撮像部160、裏面側撮像部170、外部スピーカ180、圧電振動素子190及び電池200が設けられている。電子機器1に設けられた、カバー部材2以外のこれらの構成要素は外装ケース5内に収められている。
制御部100は、CPU(Central Processing Unit)101、DSP(Digital Signal Processor)102及び記憶部103等を備えている。制御部100は、電子機器1の他の構成要素を制御することによって、電子機器1の動作を統括的に管理する。
記憶部103は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の、制御部100(CPU101及びDSP102)が読み取り可能な非一時的な記録媒体で構成されている。記憶部103には、電子機器1を制御するための、具体的には電子機器1が備える無線通信部110、表示パネル120等の各構成要素を制御するための制御プログラムであるメインプログラム及び複数のアプリケーションプログラム等が記憶されている。制御部100の各種機能は、CPU101及びDSP102が記憶部103内の各種プログラムを実行することによって実現される。
なお記憶部103は、ROM及びRAM以外の、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体を備えていても良い。記憶部103は、例えば、小型のハードディスクドライブ及びSSD(Solid State Drive)等を備えていても良い。
無線通信部110は、アンテナ111を有している。無線通信部110は、電子機器1とは別の携帯電話機からの信号、あるいはインターネットに接続されたウェブサーバ等の通信装置からの信号を基地局を介してアンテナ111で受信する。無線通信部110は、受信信号に対して増幅処理及びダウンコンバートを行って制御部100に出力する。制御部100は、入力される受信信号に対して復調処理等を行って、当該受信信号に含まれる、音声や音楽などを示す音信号(音情報)などを取得する。
また無線通信部110は、制御部100で生成された、音信号等を含む送信信号に対して、アップコンバート及び増幅処理を行って、処理後の送信信号をアンテナ111から無線送信する。アンテナ111からの送信信号は、基地局を通じて、電子機器1とは別の携帯電話機あるいはインターネットに接続された通信装置で受信される。
表示部である表示パネル120は、例えば、液晶表示パネルあるいは有機ELパネルである。表示パネル120は、制御部100によって制御されることによって、文字、記号、図形などの各種情報を表示する。表示パネル120に表示される情報は、カバー部材2の表示部分2aを通じて、電子機器1の使用者に視認可能となる。
タッチパネル130は、例えば、投影型静電量容量方式のタッチパネルである。タッチパネル130は、カバー部材2の表示部分2aに対する物体の接触を検出する。タッチパネル130は、カバー部材2の内側主面20に貼り付けられている。タッチパネル130は、互いに対向配置されたシート状の二つの電極センサを備えている。二つの電極センサは透明粘着性シートによって貼り合わされている。
一方の電極センサには、それぞれがX軸方向(例えば電子機器1の左右方向)に沿って延在し、かつ互いに平行に配置された複数の細長いX電極が形成されている。他方の電極センサには、それぞれがY軸方向(例えば電子機器1の上下方向)に沿って延在し、かつ互いに平行に配置された複数の細長いY電極が形成されている。カバー部材2の表示部分2aに対して使用者の指等が接触すると、その接触箇所の下にあるX電極及びY電極の間の静電容量が変化する。これにより、タッチパネル130においてカバー部材2の表示部分2aに対する操作(接触)が検出される。タッチパネル130は、X電極及びY電極の間の静電容量変化を示す電気的信号を生成して制御部100に出力する。制御部100は当該電気的信号に基づいてカバー部材2の表示部分2aに対して行われた操作の内容を特定し、それに応じた動作を行う。
近接センサ140は、例えば赤外線方式の近接センサである。近接センサ140は、当該近接センサ140に対して物体が所定距離以内に近接すると検出信号を出力する。この検出信号は制御部100に入力される。制御部100は、近接センサ140から検出信号を受け取ると、例えば、タッチパネル130での操作検出機能を停止する。
前面側撮像部160は、撮像レンズ及び撮像素子などで構成されている。前面側撮像部160は、制御部100による制御に基づいて、静止画像及び動画像を撮像する。前面側撮像部160の撮像レンズは、電子機器1の前面に設けられた前面レンズ用透明部70から視認可能となっている。したがって、前面側撮像部160は、電子機器1の前面側(カバー部材2側)に存在する物体を撮像することが可能である。
裏面側撮像部170は、撮像レンズ及び撮像素子などで構成されている。裏面側撮像部170は、制御部100による制御に基づいて、静止画像及び動画像を撮像する。裏面側撮像部170の撮像レンズは、電子機器1の裏面10に設けられた裏面レンズ用透明部90から視認可能となっている。したがって、裏面側撮像部170は、電子機器1の裏面10側に存在する物体を撮像することが可能である。
マイク150は、電子機器1の外部から入力される音を電気的な音信号に変換して制御部100に出力する。電子機器1の外部からの音は、カバー部材2の前面に設けられたマイク穴50から電子機器1の内部に取り込まれてマイク150に入力される。なお、マイク穴50は、電子機器1の側面に設けても良いし、裏面10に設けても良い。
外部スピーカ180は、例えばダイナミックスピーカである。外部スピーカ180は、制御部100からの電気的な音信号を音に変換して出力する。外部スピーカ180から出力される音は、電子機器1の裏面10に設けられたスピーカ穴80から外部に出力される。スピーカ穴80から出力される音については、電子機器1から離れた場所でも聞こえるような音量となっている。
圧電振動素子190は、上述のように、電子機器1の前面に設けられたカバー部材2の内側主面20に対して貼付部材250によって貼り付けられている。貼付部材250としては、両面テープあるいは接着剤が採用される。圧電振動素子190は、制御部100から与えられる駆動電圧によって振動させられる。制御部100は、音信号に基づいて駆動電圧を生成し、当該駆動電圧を圧電振動素子190に与える。圧電振動素子190が、制御部100によって音信号に基づいて振動させられることによって、カバー部材2が音信号に基づいて振動する。その結果、カバー部材2から使用者に受話音が伝達される。この受話音の音量は、使用者がカバー部材2に耳を近づけた際に適切に聞こえる程度の音量となっている。カバー部材2から使用者に伝達される受話音については後で詳細に説明する。
電池200は、電子機器1の電源を出力する。電池200から出力された電源は、電子機器1が備える制御部100及び無線通信部110などに含まれる各電子部品に対して供給される。
<圧電振動素子の詳細>
図8,9は、それぞれ、圧電振動素子190の構造を示す上面図及び側面図である。図8,9に示されるように、圧電振動素子190は一方向に長い形状を成している。具体的には、圧電振動素子190は、平面視で長方形の細長い板状を成している。圧電振動素子190は、例えばバイモルフ構造を有している。圧電振動素子190は、シム材190cを介して互いに貼り合わされた第1圧電セラミック板190a及び第2圧電セラミック板190bを備えている。
圧電振動素子190では、第1圧電セラミック板190aに対して正の電圧を印加し、第2圧電セラミック板190bに対して負の電圧を印加すると、第1圧電セラミック板190aは長手方向に沿って伸び、第2圧電セラミック板190bは長手方向に沿って縮むようになる。これにより、図10に示されるように、圧電振動素子190は、第1圧電セラミック板190aを外側にして山状に撓むようになる。
一方で、圧電振動素子190では、第1圧電セラミック板190aに対して負の電圧を印加し、第2圧電セラミック板190bに対して正の電圧を印加すると、第1圧電セラミック板190aは長手方向に沿って縮み、第2圧電セラミック板190bは長手方向に沿って伸びるようになる。これにより、図11に示されるように、圧電振動素子190は、第2圧電セラミック板190bを外側にして山状に撓むようになる。
圧電振動素子190は、図10の状態と図11の状態とを交互にとることによって、長手方向に沿って撓み振動を行う。制御部100は、第1圧電セラミック板190aと第2圧電セラミック板190bとの間に、正の電圧と負の電圧とが交互に現れる交流電圧を印加することによって、圧電振動素子190を長手方向に沿って撓み振動させる。
このような構造を有する圧電振動素子190は、図6に示されるように、カバー部材2の内側主面20の周端部211に配置される。具体的には、圧電振動素子190は、カバー部材2の内側主面20の上側端部における、短手方向DR2の中央部に配置される。また、圧電振動素子190は、その長手方向が、カバー部材2の短手方向DR2に沿うように配置される。これにより、圧電振動素子190は、カバー部材2の短手方向DR2に沿って撓み振動を行う。そして、圧電振動素子190の長手方向の中心は、カバー部材2の内側主面20の上側端部における短手方向DR2の中心と一致している。
ここで、上述の図10,11に示されるように、撓み振動を行う圧電振動素子190では、その長手方向の中心が最も変位量が大きくなる。したがって、圧電振動素子190の長手方向の中心が、カバー部材2の内側主面20の上側端部における短手方向DR2の中心と一致することによって、圧電振動素子190における、撓み振動での変位量が最大となる箇所が、カバー部材2の内側主面20の上側端部における短手方向DR2の中心に一致するようになる。
また、カバー部材2の上側端部における、前面側ケース3及び表示パネル120が取り付けられない部分領域220は、カバー部材2の短手方向DR2に沿って長くなっている。したがって、部分領域220は、その形状に起因して、長手方向DR1よりも短手方向DR2に沿って撓み易くなっている。圧電振動素子190は、その長手方向(撓み振動を行う方向)が、部分領域220の長手方向に沿うように当該部分領域220に配置されることから、当該部分領域220は振動し易くなる。よって、カバー部材2から使用者に受話音を伝達し易くなる。
なお、図8〜11に示される圧電振動素子190では、シム材190cを間に挟んで貼り合わされた第1圧電セラミック板190a及び第2圧電セラミック板190bから成る構造が1つだけ設けられていたが、複数の当該構造を積層させても良い。この場合には、圧電振動素子190の積層構造の層数は、28層以上が好ましく、44層以上がさらに好ましい。これにより、十分な振動をカバーパネル2に伝達することができる。
また、圧電振動素子190は、圧電セラミック材料の他に、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸などの有機圧電材料などから構成されても良い。具体的には、例えば、圧電振動素子190は、互いに積層された、ポリ乳酸フィルムから成る第1及び第2圧電板で構成されても良い。圧電板に設ける電極としては、例えばITO(Indium-Tin-Oxide、すなわちインジウム錫酸化物)などの透明電極が用いられることが可能である。
<受話音の発生について>
本実施の形態に係る電子機器1では、圧電振動素子190がカバー部材2を振動させることによって、当該カバー部材2から気導音及び伝導音が使用者に伝達される。言い換えれば、圧電振動素子190自身の振動がカバー部材2に伝わることにより、当該カバー部材2から気導音及び伝導音が使用者に伝達される。
ここで、気導音とは、外耳道孔(いわゆる「耳の穴」)に入った音波(空気振動)が鼓膜を振動させることによって、人の脳で認識される音である。一方で、伝導音とは、耳介が振動させられ、その耳介の振動が鼓膜に伝わって当該鼓膜が振動することによって、人の脳で認識される音である。以下に、気導音及び伝導音について詳細に説明する。
図12は気導音及び伝導音を説明するための図である。図12には、電子機器1の使用者の耳の構造が示されている。図12においては、波線400は気道音が脳で認識される際の音信号(音情報)の伝導経路を示している。実線410は伝導音が脳で認識される際の音信号の伝導経路を示している。
カバー部材2に取り付けられた圧電振動素子190が、受話音を示す電気的な音信号に基づいて振動させられると、カバー部材2が振動して、当該カバー部材2から音波が出力される。使用者が、電子機器1を手に持って、当該電子機器1のカバー部材2を当該使用者の耳介300に近づけると、あるいは当該電子機器1のカバー部材2を当該使用者の耳介300に当てると(接触させると)、当該カバー部材2から出力される音波が外耳道孔310に入る。カバー部材2からの音波は、外耳道孔310内を進み、鼓膜320を振動させる。鼓膜320の振動は耳小骨330に伝わり、耳小骨330が振動する。そして、耳小骨330の振動は蝸牛340に伝わって、蝸牛340において電気信号に変換される。この電気信号は、聴神経350を通って脳に伝達され、脳において受話音が認識される。このようにして、カバー部材2から使用者に対して気導音が伝達される。
また、使用者が、電子機器1を手に持って、当該電子機器1のカバー部材2を当該使用者の耳介300に当てると、耳介300が、圧電振動素子190によって振動させられているカバー部材2によって振動させられる。耳介300の振動は鼓膜320に伝わり、鼓膜320が振動する。鼓膜320の振動は耳小骨330に伝わり、耳小骨330が振動する。そして、耳小骨330の振動は蝸牛340に伝わり、蝸牛340において電気信号に変換される。この電気信号は、聴神経350を通って脳に伝達され、脳において受話音が認識される。このようにして、カバー部材2から使用者に対して伝導音が伝達される。図11では、耳介300内部の耳介軟骨300aも示されている。
なお、ここでの伝導音は、骨導音(「骨伝導音」とも呼ばれる)とは異なるものである。骨導音は、頭蓋骨を振動させて、頭蓋骨の振動が直接蝸牛などの内耳を刺激することによって、人の脳で認識される音である。図12においては、例えば下顎骨500を振動させた場合において、骨伝導音が脳で認識される際の音信号の伝達経路を複数の円弧420で示している。
このように、本実施の形態では、圧電振動素子190が前面のカバー部材2を適切に振動させることによって、カバー部材2から電子機器1の使用者に対して気導音及び伝導音を伝えることができる。使用者は、カバー部材2に耳(耳介)を近づけることによって当該カバー部材2からの気導音を聞くことができる。また使用者は、カバー部材2に耳(耳介)を接触させることによって当該カバー部材2からの気導音及び伝導音を聞くことができる。本実施の形態に係る圧電振動素子190では、使用者に対して適切に気導音及び伝導音を伝達できるように、その構造が工夫されている。使用者に対して気導音及び伝導音を伝えることができるように電子機器1を構成することによって様々メリットが発生する。
例えば、使用者は、カバー部材2を耳に当てれば音が聞こえることから、電子機器1において耳を当てる位置をそれほど気にすることなく通話を行うことができる。
また、使用者は、周囲の騒音が大きい場合には、耳をカバー部材2に強く押し当てることによって、伝導音の音量を大きくしつつ、周囲の騒音を聞こえにくくすることができる。よって、使用者は、周囲の騒音が大きい場合であっても、適切に通話を行うことができる。
また、使用者は、耳栓やイヤホンを耳に取り付けた状態であっても、カバー部材2を耳(より詳細には耳介)に当てることによって、電子機器1からの受話音を認識することができる。また、使用者は、耳にヘッドホンを取り付けた状態であっても、当該ヘッドホンにカバー部材2を当てることによって、電子機器1からの受話音を認識することができる。
なお、カバー部材2のうち、圧電振動素子190が取り付けられている部分が比較的振動し易くなる。したがって、使用者は、カバー部材2のうち圧電振動素子190が取り付けられている上側端部(特に上側端部の短手方向DR2の中央部)に対して、耳を近づけたり、耳を押し当てたりすると、カバー部材2からの音が聞こえ易くなる。
<カバー部材の撓みについて>
本実施の形態では、カバー部材2の第1主面(内側主面)20及び第2主面(外側主面)21は、サファイアのa面に平行である。また、カバー部材2の長手方向DR1はサファイアのc軸に平行である。そして、カバー部材2の長手方向DR1はサファイアのm軸に平行である。m軸はa面に平行であって、かつc軸と垂直を成している。
ここで、サファイアの結晶構造は異方性を有している。a面に平行な主面を有するサファイアでは、その結晶構造の異方性により、c軸に平行な方向よりもm軸に平行な方向に撓み易い。
本実施の形態では、カバー部材2の第1主面20及び第2主面21はサファイアのa面に平行であり、かつカバー部材2の長手方向DR1はサファイアのc軸に平行であることから、カバー部材2は、サファイアの結晶構造の異方性の観点からは、長手方向DR1よりも短手方向DR2に撓み易くなっている(曲がり易くなっている)。図13は、カバー部材2が長手方向DR1に撓む様子を示す図である。図14は、カバー部材2が短手方向DR2に撓む様子を示す図である。以下に、サファイアの撓み易さを確認する試験を行った結果について説明する。
図15はサファイアから成る試料パネル600の撓み易さを確認する試験(以後、「撓み確認試験」と呼ぶ)を行った結果を示すグラフである。図16は撓み確認試験の方法を説明するための図である。図17は試料パネル600を示す平面図である。
図16,17に示されるように、試料パネル600は、第1主面601と、それとは反対側の第2主面602とを有し、正方形を成している。試料パネル600の一辺の長さAは62mmであって、試料パネル600の厚みTは0.475mmである。
第1主面601及び第2主面602はサファイアのa面に平行である。試料パネル600が有する、互いに平行な一対の辺610,611は、サファイアのc軸に平行である。そして、試料パネル600が有する、互いに平行な一対の辺612,613は、c軸に垂直なm軸に平行である。
撓み確認試験では、図16に示されるように、試料パネル600が鉄製の台座700の上に設置される。このとき、試料パネル600は台座700に置かれるだけであって固定されない。そして、台座700上の試料パネル600の中心部620に対して押し込み力Fが与えられたときの当該中心部620の変位量が測定される。押し込み力Fは、試料パネル600の中心部620に棒状部材が押し付けされることによって当該中央部620に与えられる。撓み確認試験では、押し込み力Fが一定速度で変化し、各押し込み力Fでの試料パネル600の中心部620変位量が測定される。押し込み力Fの変化速度は5N/秒である。以後、当該中心部620の変位量を単に「変位量」と呼ぶ。
撓み確認試験では、試料パネル600がm軸に平行な方向に撓む場合の変位量(以後、第1変位量」と呼ぶ)と、試料パネル600がc軸に平行な方向に撓む場合の変位量(以後、「第2変位量」と呼ぶ)とが測定される。第1変位量が測定される場合には、試料パネル600における、辺610を含む幅Bの端部630と、試料パネル600における、辺611を含む幅Bの端部631とが台座700で支持された状態で、試料パネル600の中央部620に押し込み力Fが加えられる。幅Bは12.5mmに設定される。また、第2変位量が測定される場合には、試料パネル600における、辺612を含む幅Bの端部632と、試料パネル600における、辺613を含む幅Bの端部633とが台座700で支持された状態で、試料パネル600の中央部620に押し込み力Fが加えられる。
図15には、押し込み力Fが10N〜50Nまで変化する場合の第1及び第2変位量が示されている。図15の横軸は押し込み力Fを示しており、図15の縦軸は押し込み力Fが10Nのときの値を基準とした第1及び第2変位量を示している。図15に示されるグラフG11,G12,G13は、第1変位量の1回目、2回目及び3回目の測定結果の近似直線をそれぞれ示している。またグラフG21,G22,G23は、第2変位量の1回目、2回目及び3回目の測定結果の近似直線をそれぞれ示している。
図15に示されるように、第1変位量を示すグラフG11,G12,G13の傾きは、第2変位量を示すグラフG21,22,23の傾きよりも大きくなっている。このことは、正方形の試料パネル600が、c軸に平行な方向よりもm軸に平行な方向に撓み易いことを意味している。これにより、a面に平行な主面を有するサファイアでは、その結晶構造の異方性により、c軸に平行な方向よりもm軸に平行な方向に撓み易いと言える。
このように、本実施の形態に係るカバー部材2は、サファイアの結晶構造の異方性の観点からは、長手方向DR1よりも短手方向DR2に撓み易くなっている。言い換えれば、カバー部材2は、その結晶構造的には、長手方向DR1よりも短手方向DR2に撓み易くなっている。そして、圧電振動素子190は、上述のように、カバー部材2の短手方向DR2に沿って撓み振動を行う。したがって、カバー部材2は圧電振動素子190の撓み振動によって振動し易くなる。その結果、使用者に対して気導音及び伝導音(受話音)が伝達され易くなる。
また、本実施の形態では、カバー部材2がサファイアから成るため、カバー部材2の表示部分2a、つまりカバー部材2における、使用者によって操作される部分が傷付きにくくなる。
また、カバー部材2は、一方向に長い形状を成していることから、カバー部材2の形状の観点からは、短手方向DR2よりも長手方向DR1に撓み易くなっている。しかしながら、カバー部材2は、サファイアの結晶構造の異方性の観点からは、短手方向DR2よりも長手方向DR1に撓みにくくなっている。したがって、カバー部材2は、長手方向DR1に撓みにくくなり、その結果、カバー部材2に割れやひび等が発生しにくくなる。
なお、カバー部材2が、サファイアの結晶構造の異方性の観点からは、長手方向DR1よりも短手方向DR2に撓み易くなっているからといって、客観的に長手方向DR1よりも短手方向DR2に撓み易くなっているとは限らない。同様に、カバー部材2が、その形状の観点から、短手方向DR2よりも長手方向DR1に撓み易くなっているからといって、客観的に短手方向DR2よりも長手方向DR1に撓み易くなっているとは限らない。
また、上記の例では、圧電振動素子190は1つだけ設けられているが、図18に示されるように、カバー部材2の内側主面20上に複数の圧電振動素子190を設けても良い。図18の例では、複数の圧電振動素子190がカバー部材2の短手方向DR2に沿って並べられている。また、各圧電振動素子190は、その長手方向がカバー部材2の短手方向DR2に沿うように並べられている。図15の例では、2つの圧電振動素子190が設けられているが、3つ以上の圧電振動素子190を設けても良い。
また、上記の例では、本願発明を携帯電話機に適用する場合を例にあげて説明したが、本願発明は、カバー部材を振動部により撓み振動させる機能を有するものであれば適用することができる。スマートフォン等の携帯電話機以外にも、例えば、タブレット端末、腕時計、メガネ、ヘッドホン、かつら、ベルト、ポータブルレコーダ、ポータブルプレイヤーなどにも本願発明を適用することができる。
以上のように、電子機器1は詳細に説明されたが、上記した説明は、全ての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。また、上述した各種変形例は、相互に矛盾しない限り組み合わせて適用可能である。そして、例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。