次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る船舶用レーダ装置1の構成を示すブロック図である。
船舶用レーダ装置1は、レーダアンテナ11及びレーダ送受信部12を備えたアンテナユニット(レーダアンテナ部)2と、レーダ指示機(信号処理装置)3と、を備えている。
船舶用レーダ装置1は、いわゆるパルスレーダ装置として構成されている。即ち、レーダアンテナ11は、指向性の強いパルス状電波の送信を行い、当該パルス状電波が物標(エコー源)に反射して戻ってきたエコー(反射波)を受信するように構成されている。また、レーダアンテナ11は、所定の回転速度で水平面内を回転しながら、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、自船を中心として水平面内を360°にわたってスキャンし、周囲のエコー源の様子を取得することができる。
レーダアンテナ11が受信した受信信号は、レーダ送受信部12が備える図略のA/D変換部においてサンプリングされ、デジタルの信号に変換された後、レーダ指示機3に入力される。なお、以下の説明において、受信信号をサンプリングした結果の個々のサンプル値のことを、「受信データ」と呼ぶことがある。
レーダ指示機3は、受信信号取得部13と、制御部14と、表示処理部15と、表示部16と、を主に備えている。
受信信号取得部13は、受信信号をレーダ指示機3に取り込むための外部インタフェース(例えばコネクタ等)である。受信信号取得部13が取得したデジタルの受信信号は、制御部14に出力される。
制御部14では、上記受信信号に対して所定の信号処理が行われる(詳しくは後述する)。従って、本実形態のレーダ指示機3は、信号処理装置として機能すると言うことができる。そして、表示処理部15において、自船周囲のエコー源の様子を示すラスタ画像(レーダ映像)が生成され、表示部16に出力される。従って、本実施形態のレーダ指示機3は、レーダ映像生成装置であると言うこともできる。
表示部16は、カラー表示可能な液晶ディスプレイとして構成され、上記レーダ映像を表示するように構成されている。以上の構成で、レーダアンテナ11で取得した自船周囲のエコー源の様子を、表示部16に表示することができる。
表示部16に表示されるレーダ映像の例を、図2(a)の模式図に示す。図2(a)に示すように、自船位置90を中心として、船舶91、ブイ92、陸地93、雨雪反射95等を示すエコー像がレーダ映像中に表示される。船舶用レーダ装置1のオペレータは、例えば夜間のように肉眼で周囲の様子を確認することが難しい状況であっても、表示部16に表示されたレーダ映像を確認することにより安全に航行することができる。
本実施形態の船舶用レーダ装置1におけるレーダ映像と比較するため、従来のレーダ装置におけるレーダ映像の例を図2(b)の模式図に示す。図2(b)に示すように、従来のレーダ装置においては、不要なエコー像である海面反射94が表示されてしまっている。また、ブイ92などはエコーの信号レベルが低く、エコー像も小さいため、オペレータが見逃してしまうおそれがある。また、従来のレーダ装置のレーダ映像では、陸地93の正確な輪郭形状(海岸線)を把握することが難しいという問題がある。更に、雨雪反射95のエコー像に陸地93が埋もれてしまい、陸地の形状を把握することが更に難しくなっている。
そして、既に説明したように、従来のレーダ装置で海面反射や雨雪反射等を抑圧するためにゲイン制御を行うと、必要な信号までも抑圧してしまう。従って、仮に従来のレーダ装置で海面反射や雨雪反射を抑圧するためにゲイン制御を行うと、例えば図2(b)のブイ92のように信号の弱いエコー像はレーダ映像に表示されなくなってしまうという問題があったのである。
この点、本実施形態では、図2(a)に示すように、海面反射のエコー像は表示させないようにすることができる。即ち、必要な信号(船舶、ブイ、陸地など)を残しつつ、不要信号(海面反射)のみを抑圧することが可能となっている。一方、雨雪反射のエコー像は、雨雲を避けて航行したい場合に重要な情報となるので、海面反射のように完全に抑圧することなく、信号レベルを抑えて表示している(なお、図中では信号レベルの強弱をハッチングの間隔で表現している)。また、図2(a)に示すように、ブイ92のように小さくて見にくいエコー像を、(図2(b)の従来のレーダ映像に比べて)拡大して表示することができるようになっている。更に、陸地93は輪郭が強調され、塗りつぶされている(図ではハッチングで表現している)ので、陸地93の輪郭形状を正確に把握することができる。このように、本実施形態のレーダ装置では、エコー源の種類に応じて、エコー像を柔軟に調整することができるように構成されている。
次に、上記のようにエコー像の種類ごとにエコー像を調整するための構成について、詳しく説明する。
まず、制御部14の構成について説明する。制御部14は、図略のCPU、RAM、ROM等のハードウェアと、前記RAMに記憶された信号処理プログラム等のソフトウェアと、から構成されている。前記信号処理プログラムには、共通信号処理ステップ、識別ステップ、抽出ステップ、ヘッダ挿入処理ステップ、種類別信号処理ステップ、スキャン相関処理ステップ、統計処理ステップ等が含まれている。そして、前記ハードウェアとソフトウェアとが協働して動作することにより、制御部14を、共通信号処理部17、種類識別処理部18、ヘッダ挿入処理部19、種類別信号処理部20、スキャン相関処理部21、統計処理部22等として機能させることができるように構成されている。以下、図1のブロック図を参照して具体的に説明する。
共通信号処理部17においては、受信信号取得部13から入力された受信信号に対して、ノイズ除去、干渉除去などの処理が行われる。なお、この共通信号処理部17における処理内容は、前記信号処理プログラムの共通信号処理ステップに対応している。前記ノイズ除去等の処理が施された受信信号は、種類識別処理部18に出力される。
種類識別処理部18においては、共通信号処理部17から出力された受信信号に対して、当該受信信号の種類を識別する処理が行われる。本実施形態において、受信信号の種類を識別する処理は、個々の受信データに対して行われる。従って、種類識別処理部18において行われる処理についてより具体的に説明すると、個々の受信データについて、どのようなエコー源から反射してきた信号をサンプリングした受信データであるのか、を識別する処理であると言える。なお、この種類識別処理部18における処理内容は、前記信号処理プログラムの識別ステップに対応している。
ここで、船舶用レーダ装置1の場合、レーダアンテナ11が受信した受信信号には、海面反射に基づくエコーを示す信号、雨雪反射に基づくエコーを示す信号、船舶からのエコーを示す信号、陸地からのエコーを示す信号、ブイやボンデンからのエコーを示す信号、サイドローブのエコーなどが含まれていると考えられる。このように、受信信号の種類としては複数の可能性が考えられるため、本実施形態では、複数の方法を組み合わせて受信信号の種類を識別している。
受信信号の種類を識別する方法は、大別すると、受信データ以外の情報を用いて識別する方法と、受信データに所定の処理を施して得られた情報に基づいて識別する方法と、に分けて考えることができる。
まず、受信データ以外の情報を用いる方法について説明する。本実施形態では、受信データ以外の情報として、AIS情報と、地図情報と、を主に用いている。このため、本実施形態の船舶用レーダ装置1には、AIS受信機23と、GPS受信機24と、方位センサ25と、地図情報保持部26と、が接続されている。
AIS受信機23は、他船から送信されてくるAIS信号を受信するように構成されている。AIS(Univeral Shipborne Automatic Identification System:船舶自動識別システム)とは、自船の位置情報や航行情報等を無線通信によって周囲に送信するシステムであり、前記情報を他船から受信することで当該他船の船位等の情報(AIS情報)を取得することができるものである。そして、AIS受信機23は、受信した上記AIS情報を船舶用レーダ装置1に対して出力する。船舶用レーダ装置1が備えるAIS情報取得部27は、上記AIS情報を取得するように構成されている。
GPS受信機24は、GPS衛星からのGPS信号を受信して自船の位置(地球基準の絶対的な位置)に関する情報を取得し、船舶用レーダ装置1に出力するように構成されている。船舶用レーダ装置1が備えるGPS情報取得部28は、上記自船の位置に関する情報を取得するように構成されている。
方位センサ25は、自船の船首方向(地球基準の絶対的な方角)を取得し、船舶用レーダ装置1に出力するように構成されている。船舶用レーダ装置1が備える方位情報取得部29は、上記船首方向に関する情報を取得するように構成されている。
地図情報保持部26は、地図情報(電子海図又は海岸線データなど)を記憶している記憶媒体ないし外部機器である。船舶用レーダ装置1が備える地図情報取得部30は、地図情報保持部26から地図情報を読み出して、その内容を取得するように構成されている。
前記AIS情報取得部27、GPS情報取得部28、方位情報取得部29及び地図情報取得部30が取得した情報は、それぞれ種類識別処理部18に入力される。
種類識別処理部18は、AIS情報取得部27が取得したAIS情報に基づいて、各受信データが船舶からのエコーを示す受信データであるか否かを識別するように構成されている。具体的には以下のとおりである。
周知のように、船舶用レーダ装置1のようなパルスレーダ装置においては、電波を送信してからエコーを受信するまでの時間に基づいて、エコー源(船舶や陸など)までの距離rを取得できる。また、エコーを受信したときのアンテナの向きに基づいて、自船から見たエコー源の方向θを取得することができる。即ち、各受信データに対応するエコー源の位置を、極座標(r,θ)で取得することができる。一方、AIS情報からは、周囲の船舶の船位(位置)を取得することができる。
従って、各受信データに対応するエコー源の位置(r,θ)と、AIS情報に基づいて取得した他船(周囲の船舶)の船位と、を照らし合わせることにより、当該受信データが船舶からのエコーを示しているか否か(当該受信データの種類が船舶か否か)を識別することができる。
なお、レーダ装置で取得されるエコー源の位置は、自船を中心とした相対的な位置情報である。一方、AIS情報に基づいて取得される他船の船位は、地球基準の絶対的な位置情報である。従って、両者を照らし合わせるためには、AISに基づく他船の絶対的な船位情報を、自船を中心とした相対的な位置情報に変換する必要がある。そこで、種類識別処理部18は、AIS情報に基づいて取得した他船の絶対的な船位情報を、前記GPS情報及び方位情報を用いて相対的な位置情報に変換したうえで、レーダ装置で取得されたエコー源の相対的な位置情報と照らし合わせるように構成されている。
また、種類識別処理部18は、地図情報取得部30が取得した地図情報に基づいて、各受信データが陸地からのエコーを示す受信データであるか否かを識別するように構成されている。具体的には以下のとおりである。
地図情報には、陸地の形状や位置等の情報を、地球基準の絶対的な座標で表現したデータが含まれている。従って、各受信データに対応するエコー源の位置と、地図情報に基づいて取得した陸地の位置や形状の情報と、を照らし合わせることにより、当該受信データが陸地からのエコーを示しているか否か(当該受信データの種類が陸地か否か)を識別することができる。なお、地図情報に含まれる情報は地球基準の絶対的な座標で表現されているので、種類識別処理部18は、地図情報に基づいて取得した陸地の位置及び形状を、AIS情報の場合と同様に相対的な情報に変換したうえで、レーダ装置で取得されたエコー源の位置情報と照らし合わせるように構成されている。
次に、受信信号の種類を、受信データに所定の処理を施して得られた情報に基づいて識別する方法について説明する。本実施形態では、この種の種類識別方法として、スキャン相関処理部21の処理結果に基づいて種類を識別する方法と、統計処理部22の処理結果に基づいて種類を識別する方法と、信号の出現パターンを認識することにより種類を識別する方法と、を採用している。
スキャン相関処理部21は、共通信号処理部17でノイズ除去等が行われた受信データに対して、スキャン相関処理を行う。なお、このスキャン相関処理部21における処理内容は、前記信号処理プログラムのスキャン相関処理ステップに対応している。
スキャン相関処理に関しては公知であるので詳細な説明は省略するが、最新の受信信号と過去の受信信号との相関をとることにより、時間的に安定して検出される信号(過去の信号との相関性が高い信号)は残しつつ、時間的にランダムに変動する信号(過去の受信信号との相関性が低い信号)を抑圧する処理である。ここで、船舶、ブイ、陸地などからのエコーは、時間的に安定して検出される信号である。一方、海面反射に基づくエコーは、時間的にランダムに変動する信号である。従って、受信信号に対して上記スキャン相関処理を行うことにより、海面反射に基づく信号のみを抑圧することができる。
スキャン相関処理済みの受信信号は、スキャン相関処理部21から種類識別処理部18に出力される。前述のように、スキャン相関処理済みの受信信号では海面反射のみが抑圧されているので、種類識別処理部18において、信号レベルが抑圧されている受信データを調べることにより、海面反射に基づくエコーを示す受信データを検出することができる。種類識別処理部18は、以上の方法により、各受信データが海面反射を示す受信データであるか否か(受信データの種類が海面反射か否か)を識別するように構成されている。このように、スキャン相関処理部21は、海面反射を示す受信データを識別するための処理を行っているので、海面反射検出部であると言える。
また、スキャン相関処理済みの受信信号において、信号レベルが抑圧されていない信号は、時間的に安定して検出される信号(船舶、ブイ又はボンデン、陸地などからのエコーを示す信号)である。ここで、船舶からのエコーを示す受信データと、陸地からのエコーを示す受信データは、既に説明した方法で識別することができる。そこで、種類識別処理部18は、スキャン相関処理で信号レベルが抑圧されていない受信データのうち、船舶でも陸地でもないと識別されている受信データを、ブイ(又はボンデン)を示す受信データであると識別するように構成されている。
一方、統計処理部22は、共通信号処理部17でノイズ除去等が行われた受信信号について、統計的な情報を取得するように構成されている。統計処理部22の処理結果は、種類識別処理部18に対して出力される。種類識別処理部18は、統計処理部22が出力する統計処理結果に基づいて、各受信データが、雨雪反射を示す受信データであるか否か(受信データの種類が雨雪反射か否か)を識別するように構成されている。このように、統計処理部22は、雨雪反射を示す受信データを識別するための処理を行っているので、雨雪反射検出部であると言える。
以下、上記の処理について簡単に説明する。即ち、雨雪反射に基づくエコーを示す受信信号は、一定の傾向を有するという特徴がある。従って、ある距離範囲に含まれる受信データの信号レベルの統計情報を抽出し、当該統計情報が雨雪反射に基づくエコーが示すパターンと一致している場合は、種類識別処理部18は、当該距離範囲内の受信データは雨雪反射に基づくエコーを示していると判断する(例えば、ある距離範囲に含まれる受信データの信号レベルのヒストグラムを求め、当該ヒストグラムが所定のパターンを示している場合に、当該距離範囲内の受信データは雨雪反射に基づくエコーを示していると判断する)。
また、サイドローブのエコーは、メインローブのエコーの近傍に所定のパターンで出現する。種類識別処理部18は、各受信データが当該出現パターンに従っているか否かを認識することにより、当該受信データがサイドローブのエコーを示しているか否かを識別するように構成されている。
以上の構成により、種類識別処理部18において、各受信データが、海面反射に基づくエコー、雨雪反射に基づくエコー、船舶からのエコー、陸地からのエコー、ブイ(又はボンデン)からのエコー、サイドローブのエコー、の何れを示しているかを識別することができる。即ち、種類識別処理部18は、各受信データの種類を識別しているので、受信信号の種類を識別していると言うことができる。なお、例えば陸地の上に雨が降っているような場合、1つの受信データが雨雪反射に基づくエコーと陸地からのエコーとの両方を示すという場合があり得る。従って、1つの受信データが2つ以上の種類に分類されても良い。種類識別処理部18で各受信データの種類を識別した結果は、ヘッダ挿入処理部19へ出力される。
ヘッダ挿入処理部(識別子付与部)19は、個々の受信データに対して、当該受信データの種類を示すヘッダ情報(識別子)を付与するように構成されている。なお、このヘッダ挿入処理部19における処理内容は、前記信号処理プログラムのヘッダ挿入処理ステップに対応している。
このヘッダ情報は、例えば6ビット分のビットフラグとして構成すれば好適である。例えば、第0ビットを陸地フラグ、第1ビットを船舶フラグ、第2ビットをブイ・ボンデンフラグ、第3ビットを海面反射フラグ、第4ビットを雨雪反射フラグ、第5ビットをサイドローブフラグとする。この場合、例えば船舶からのエコーを示す受信データには「000010」というヘッダ情報を付与する(なお、右端のビットを第0ビットとした)。また例えば、陸地からのエコーと雨雪反射に基づくエコーの両方を示す受信データには、「010001」というヘッダ情報を付与すれば良い。
受信データに対してヘッダ情報を付与した例を、図3の一番上に示す。図に示すのは、1スイープ(パルス状電波を1回送信してエコーを受信する動作)の間に受信した受信信号の波形の例であり、縦軸は信号レベル、横軸はエコー源までの距離を示している。なお、図3には受信信号の一部のみについてヘッダ情報が示されているが、実際には、受信信号をサンプリングした個々の受信データ全てに対してヘッダ情報が付与される。ヘッダ情報が付与された受信データは、種類別信号処理部20へ出力される。
種類別信号処理部20は、陸地からのエコーを示す受信信号に対して信号処理を行う陸地用信号処理部40と、船舶からのエコーを示す受信信号に対して信号処理を行う船舶用信号処理部41と、ブイ(又はボンデン)からのエコーを示す受信信号に対して信号処理を行うブイ・ボンデン用信号処理部42と、海面反射によるエコーを示す受信信号に対して信号処理を行う海面反射用信号処理部43と、雨雪反射によるエコーを示す受信信号に対して信号処理を行う雨雪反射用信号処理部44と、を備えている。なお、サイドローブのエコーは意味のない偽像であるため、サイドローブのエコーを示す受信信号に対する信号処理は行わない。
種類別信号処理部20は、前記ヘッダ情報付きの受信データが入力されてくると、当該受信データの種類をヘッダ情報に基づいて取得するとともに、信号処理部40〜44の中で、前記種類に対応した信号処理部に対して前記受信データを出力するように構成されている。例えば、ビットフラグの第0ビット(陸地フラグ)が「1」になっている受信データは、陸地からのエコーを示す受信データであるから、陸地用信号処理部40に対して出力される。また例えば、ビットフラグの第1ビット(船舶フラグ)が「1」になっている受信データは、船舶からのエコーを示す受信データであるから、船舶用信号処理部41に対して出力される。
以上のような処理が全ての受信データに対して行われるので、受信信号の波形全体として見た場合、元の受信信号から種類別の受信信号が抽出され、当該種類別の受信信号それぞれに対して別々に信号処理が行われることになる。この様子を、図3に概念的に示す。図3に示すように、一番上(1段目)に示す受信信号(ヘッダ情報が付与された受信信号)から、陸地からのエコーを示す受信信号と、船舶からのエコーを示す受信信号と、ブイ(又はボンデン)からのエコーを示す受信信号と、海面反射に基づくエコーを示す受信信号と、雨雪反射に基づくエコーを示す受信信号と、が抽出され、抽出されたそれぞれの受信信号が、当該受信信号の種類に対応した信号処理部に入力される。このように、種類別信号処理部20は、種類ごとに信号を抽出する抽出部であると言うことができる。なお、抽出部としての種類別信号処理部20の処理内容は、前記信号処理プログラムの抽出ステップに対応している。
以下、各信号処理部40〜44が行う信号処理について、具体的に説明する。なお、信号処理部40〜44の処理内容は、前記信号処理プログラムの種類別信号処理ステップに対応している。
陸地用信号処理部40には、陸地からのエコーを示す受信データのみが入力されているので、陸地からのエコーに特有の処理を行うことができる。具体的には、陸地用信号処理部40においては、例えば海岸線に相当する部分の受信データの信号レベルを増幅する処理を行う。これにより、海岸線が強調されたエコー像をレーダ映像上に表示することができるため、陸地の輪郭形状(海岸線)をユーザが正確に把握することができる。また、陸地用信号処理部40においては、入力された受信データの信号レベルを一定とする処理を行っても良い。これにより、レーダ映像上では陸地部分のエコー像が均一に塗り潰されたように表示されるため、陸地の存在をユーザが認識し易くすることができる。
船舶用信号処理部41は、船舶からのエコーを示す受信データのみが入力されているので、船舶からのエコーに特有の処理を行うことができる。具体的には、陸地用信号処理部40においては、例えば入力された受信データの信号レベルを上げる(ゲインを上げる)処理が行われる。これにより、船舶からのエコーを示すエコー像を、レーダ映像上で強調して表示することができる。また、エコー像の輪郭をシャープにする処理を行っても良い。
ブイ・ボンデン用信号処理部42は、ブイ又はボンデンからのエコーを示す受信データのみが入力されているので、ブイ(又はボンデン)からのエコーに特有の処理を行うことができる。具体的には、ブイ・ボンデン用信号処理部42においては、例えばエコー拡大(エコーストレッチ)処理を行う。これにより、ブイやボンデンのように小さい物標であっても、ユーザがレーダ映像上で見易いようにエコー像を大きく表示することができる。
海面反射用信号処理部43は、海面反射に基づくエコーを示す受信データのみが入力されているので、海面反射に基づくエコーに特有の処理を行うことができる。具体的には、海面反射用信号処理部43においては、例えば受信データの信号レベルを下げる処理(ゲインを下げる処理)を行う。これにより、レーダ映像に海面反射が表示されてしまうことを防止できる。
雨雪反射用信号処理部44は、雨雪反射に基づくエコーを示す受信データのみが入力されているので、雨雪反射に基づくエコーを示す受信信号に特有の処理を行うことができる。具体的には、雨雪反射用信号処理部44においては、例えば受信データの信号レベルを下げる処理(ゲインを下げる処理)を行う。これにより、レーダ映像に雨雪反射が表示されてしまうことを防止できる。もっとも、雨雪反射用信号処理部44においては、ユーザの選択に応じて、ゲインを上げる処理を行っても良い。これにより、雨が降っている領域をはっきりとレーダ映像上に表示することができるので、雨雲を避けた針路で航行したいというニーズにも対応することができる。
以上のように、受信データの種類別に信号処理を行うので、当該信号処理の影響が他の種類の受信データに及ぶことが無い。例えば、海面反射に基づくエコーを示す受信データに対してゲインを下げる処理を行っても、それ以外の種類の受信データのゲインを下げてしまうことが無い。このように、受信データの種類ごとに独立した信号処理を行うことができるので、柔軟にエコー像を調整することが可能となり、ユーザにとって必要な情報が見易く表示されたレーダ映像を生成することができる。
次に、上記レーダ映像を生成するための構成について説明する。
各信号処理部40〜44は、上記の信号処理を行った後、当該信号処理済みの受信データを画像メモリ31に出力する。これにより、画像メモリ31には、自船周囲のエコー源の様子を示すラスタ画像が記憶される。
受信データに基づいてラスタ画像を生成する方法は周知であるが、以下に簡単に説明する。前述のように、受信データが示すエコー源の位置は極座標で取得されている。一方、ラスタ画像の各画素の位置は直交座標で表現される。そこで、受信データを画像メモリに出力する際には、前記極座標で表現されたエコー源の位置を直交座標に変換し、当該位置に対応する画素のアドレスを指定して出力する。これにより、画像メモリに記憶されているラスタ画像の適切な画素に、エコー像がプロットされる。そして、この処理をレーダアンテナの1回転分の受信データに対して行うことにより、自船周囲のエコー源の様子を示すラスタ画像を生成することができる。
画像メモリ31は、ラスタ形式の画像データを複数記憶可能に構成されている。本明細書において、前記複数の画像データのそれぞれを「レイヤ」と呼ぶことがある。レイヤは、受信信号の種類ごとに用意されている。即ち、画像メモリ31は、陸地のレイヤを記憶する陸地描画レイヤ記憶部50と、船舶のレイヤを記憶する船舶描画レイヤ記憶部51と、ブイ(又はボンデン)のレイヤを記憶するブイ・ボンデン描画レイヤ記憶部52と、海面反射のレイヤを記憶する海面反射描画レイヤ記憶部53と、雨雪反射のレイヤを記憶する雨雪反射描画レイヤ記憶部54と、を備えている。
ここで、「陸地のレイヤ」とは、陸地用信号処理部40が出力した受信データに基づいて生成されたラスタ画像である。「船舶のレイヤ」とは、船舶用信号処理部41が出力した受信データに基づいて生成されたラスタ画像である。「ブイ(又はボンデン)のレイヤ」とは、ブイ・ボンデン用信号処理部42が出力した受信データに基づいて生成されたラスタ画像である。「海面反射のレイヤ」とは、海面反射用信号処理部43が出力した受信データに基づいて生成されたラスタ画像である。「雨雪反射のレイヤ」とは、雨雪反射用信号処理部44が出力した受信データに基づいて生成されたラスタ画像である。
前述のように、各信号処理部40〜44が信号処理を行う受信データは、特定の種類の受信データのみが抽出されたものであるから、各信号処理部40〜44が出力する信号処理済みの受信データには、特定の種類の受信データのみが含まれている。また、各信号処理部40〜44が出力する受信データは、当該受信信号の種類に応じた信号処理を行ったものである。従って、種類ごとのレイヤ記憶部50〜54には、種類ごとにエコー像が調整されたラスタ画像が記憶されることになる(図4の左側参照)。なお、このように、本実施形態の信号処理プログラムが実行されることにより、最終的にラスタ画像を生成することができるので、本実施形態の信号処理プログラムはレーダ映像生成プログラムであると言うこともできる。
例えば、陸地描画レイヤ記憶部50に記憶されている陸地のレイヤには、陸地を示すエコー像のみが含まれており、しかもそのエコー像は、陸地用信号処理部40における信号処理によって海岸線部分が強調されている。また例えば、ブイ・ボンデン描画レイヤ記憶部52に記憶されているブイ(又はボンデン)のレイヤには、ブイ又はボンデンを示すエコー像のみが含まれており、しかもそのエコー像は、ブイ・ボンデン用信号処理部42における信号処理によって拡大されている。このように、各レイヤに含まれるエコー像は、当該エコー像の種類に応じて適切に調整されたものとなっている。
表示レイヤ選択部32には、レイヤ記憶部50〜54に記憶されているそれぞれのレイヤのうち、どのレイヤを表示するかをユーザが指定した表示レイヤ選択信号が入力されている。表示レイヤ選択部32は、この表示レイヤ選択信号に応じて全部又は一部のレイヤを選択し、選択したレイヤを画像メモリ31から読み出して表示処理部15に出力するように構成されている。表示処理部15は、表示レイヤ選択部32が出力した各レイヤを重ね合わせて(重畳させて)、1枚のラスタ画像(レーダ映像)を生成する処理を行う。表示処理部15が生成したレーダ映像は表示部16に転送され、表示される。
レーダ映像を生成する処理の様子を、図4に概念的に示す。図4は、レーダ映像に海面反射が表示されないようにユーザが設定している場合を示している。この場合、表示レイヤ選択部32は、海面反射描画レイヤ記憶部53以外のレイヤ記憶部50,51,52,54からレイヤを読み出し、表示処理部15に出力する。これにより、表示処理部15には海面反射のレイヤが出力されないので、表示処理部15で各レイヤを重ね合わせる処理を行うことにより、海面反射を示すエコー像が含まれないレーダ映像を生成することができる。
なお、複数の画像を重畳して表示器に表示する構成は、例えば上記の特許文献2にも開示されている。しかし、特許文献2の構成は、レーダ映像自体は1枚のレイヤであるため、本実施形態のように特定の種類のエコー像を選択的に表示させないという処理を行うことはできない。この点、本実施形態の船舶用レーダ装置1においては、レーダ映像を複数のレイヤに分離しているので、レイヤごとに表示/非表示を選択することが可能となっているのである。
そして、表示レイヤ選択部32から出力されるレイヤ(陸地のレイヤ、船舶のレイヤ、ブイ(又はボンデン)のレイヤ、雨雪反射のレイヤ)においては、それぞれ種類に応じてエコー像が調整されているので、表示処理部15で各レイヤを重畳することにより、種類に応じてエコー像が調整されたレーダ映像(図2(a)参照)を最終的に生成し、表示部16に表示することができる。
以上で説明したように、レーダ指示機3は、受信信号取得部13と、種類識別処理部18と、種類別信号処理部20と、を備える。受信信号取得部13は、レーダアンテナ11が受信した受信信号を取得する。種類識別処理部18は、受信信号の種類を識別する。種類別信号処理部20は、受信信号を種類ごとに抽出する。また、前記種類別信号処理部20は、抽出された受信信号に対して、受信信号の種類ごとに個別の信号処理を行う。
これにより、受信信号の種類に応じて適切な信号処理を行うことができる。また、受信信号を種類ごとに抽出して個別の信号処理を行うので、当該信号処理が他の種類の受信信号に影響を及ぼすことを防止できる。従って、例えば、信号処理としてゲイン制御を行う場合、任意の種類の受信信号のみを選択的に抑圧することができる等、柔軟な信号処理が可能となる。
また、本実施形態のレーダ指示機3において、種類識別処理部18は、受信信号の種類として、陸、船舶、ブイ(又はボンデン)、海面反射及び雨雪反射を識別することが可能である。
このように、受信信号の種類を、当該受信信号が何に由来するエコーを示しているのかという観点から識別することにより、当該種類に応じた適切な信号処理を行うことができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、地図情報を取得する地図情報取得部30を備える。そして、種類識別処理部18は、地図情報に基づいて受信信号の種類を識別する。
これにより、地図情報に基づいて受信信号の種類を精度良く識別することができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、以下のように構成されている。即ち、種類識別処理部18は、陸地を示す受信信号を地図情報に基づいて識別する。種類別信号処理部20は、前記陸地を示す受信信号に対して、他の種類の受信信号に対する信号処理とは異なる信号処理を行う。
即ち、地図情報には、少なくとも陸地の位置と形状を示す情報が含まれているから、陸地を示す受信信号を前記地図情報に基づいて精度良く識別することができる。これにより、陸地を示す受信信号を抽出することができるので、他の種類の受信信号に影響を及ぼすことなく、陸地を示す受信信号に特有の処理を行うことができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、AIS情報を取得するAIS情報取得部27を備える。そして、種類識別処理部18は、AIS情報に基づいて受信信号の種類を識別する。
これにより、AIS情報に基づいて受信信号の種類を精度良く識別することができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、以下のように構成されている。即ち、種類識別処理部18は、船舶を示す受信信号をAIS情報に基づいて識別する。種類別信号処理部20は、前記船舶を示す受信信号に対して、他の種類の受信信号に対する信号処理とは異なる信号処理を行う。
即ち、AIS情報には船の位置を示す情報が含まれているので、船舶を示す受信信号をAIS情報に基づいて精度良く識別することができる。これにより、船舶を示す受信信号を抽出することができるので、他の種類の受信信号に影響を及ぼすことなく、船舶を示す受信信号に特有の処理を行うことができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、海面反射を示す受信信号を識別するための処理を行うスキャン相関処理部21を備える。種類別信号処理部20は、前記海面反射を示す受信信号に対して、他の種類の受信信号に対する信号処理とは異なる信号処理を行う。
これにより、海面反射を示す受信信号を抽出することができるので、他の種類の受信信号に影響を及ぼすことなく、海面反射を示す受信信号に特有の処理を行うことができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、雨雪反射を示す受信信号を識別するための処理を行う統計処理部22を備える。種類別信号処理部20は、前記雨雪反射を示す受信信号に対して、他の種類の受信信号に対する信号処理とは異なる信号処理を行う。
これにより、雨雪反射を示す受信信号を抽出することができるので、他の種類の受信信号に影響を及ぼすことなく、雨雪反射を示す受信信号に特有の処理を行うことができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、種類別信号処理部20で信号処理された種類毎の受信信号を合成してレーダ映像を生成する表示処理部15を備えている。
即ち、種類に応じて信号処理が施された受信信号を合成することで、エコー像が種類ごとに調整されたレーダ映像を得ることができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、画像メモリ31と、表示レイヤ選択部32と、を備える。画像メモリ31は、種類別信号処理部20で信号処理された種類毎の受信信号を、種類毎に用意されたレイヤに記憶可能である。表示レイヤ選択部32は、外部からの入力される表示レイヤ選択信号に基づいて、種類別のレイヤのうち全部又は一部のレイヤを選択する。表示処理部15は、表示レイヤ選択部32で選択されたレイヤを合成してレーダ映像を生成する。
これにより、ユーザの選択によって不必要なレイヤを表示しないようにすることができる。
また、本実施形態のレーダ指示機3は、受信信号に対して、当該受信信号の種類に応じたヘッダ情報を付与するヘッダ挿入処理部19を備える。種類別信号処理部20は、前記ヘッダ情報に基づいて、受信信号を種類ごとに抽出する。
このように受信信号に識別子を付することにより、種類別信号処理部20において受信信号を種類ごとに簡単に抽出することができる。
また、本実施形態の船舶用レーダ装置1は、アンテナユニット2と、レーダ指示機3と、を備えている。アンテナユニット2は、電磁波を送信するとともに反射波を受信し、受信した反射波に応じた受信信号をレーダ指示機3に出力する。
このレーダ装置は、受信信号の種類に応じて柔軟に信号処理を行うことができる。
また、本実施形態の信号処理プログラムは、以下のステップを含む処理を信号処理装置に実行させるプログラムである。即ち、この信号処理プログラムは、識別ステップと、抽出ステップと、種類別信号処理ステップと、を含む。識別ステップでは、レーダアンテナ11が受信した受信信号の種類を識別する。抽出ステップでは、前記受信信号を種類ごとに抽出する。種類別信号処理ステップでは、前記抽出された受信信号に対して、受信信号の種類ごとに個別の信号処理を行う。
これにより、受信信号の種類に応じて適切な信号処理を行うことができる。また、受信信号を種類ごとに抽出して個別の信号処理を行うので、当該信号処理が他の種類の受信信号に影響を及ぼすことを防止できる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
制御部14は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアと、プログラム等のソフトウェアと、から構成されるとして説明したが、これに限らず、専用のハードウェアから構成されていても良い。
本発明のレーダ装置は、船舶用レーダ装置に限らず、他の種類のレーダ装置にも適用することができる。また、本発明のレーダ装置は、パルスレーダ式のレーダ装置に限らず、例えばFMCWレーダにも適用することができる。
本発明の信号処理装置は、表示部を備えたレーダ指示機に限らない。例えば、それ自体は表示部を備えず、生成したレーダ映像のデータを外部のディスプレイに対して出力するように構成しても良い。
表示処理部15においてレーダ映像を生成する際には、ユーザの選択によって、各レイヤを重ね合わせる際の画像処理方法を変更できるように構成しても良い。
例えば、表示処理部15で各レイヤを重ね合わせる処理を行う際に、各レイヤの透明度を指定できるように構成することができる。この場合、例えば雨雪反射のレイヤを半透明で表示するように指定すれば、船舶や陸地の上に雨が降っている様子をレーダ映像上で表現することができる。
また例えば、表示処理部15で各レイヤを重ね合わせる処理を行う際に、レイヤごとに色調等を指定できるように構成しても良い。このように構成すれば、ユーザにとって重要性の低いレイヤを目立たない色調で表示したり、重要なレイヤは目立つ色調で表示するなど、レーダ映像を更に柔軟に調整することができる。
なお、上記のように表示処理部15でレイヤの色調を調整することができるように構成した場合、ユーザにとって不必要なレイヤを目立たない色調として表示するように構成すれば、更に好適である。この場合、不必要なエコー像(例えば海面反射等)を含むレイヤを目立たなくすることができるので、表示レイヤ選択部32を省略して、全てのレイヤを表示処理部15に出力するようにしても良い。
また、上記のように表示処理部15で各レイヤの色調を調整することにより特定の種類のエコー像を強調又は抑圧して表示することができるので、当該色調の調整処理は、従来のゲイン制御に相当するものである。従って、上記のように各レイヤの色調を調整できるように構成した場合、海面反射用信号処理部43等で行うゲイン制御を省略することもできる。
ヘッダ挿入処理部19は、受信データが極座標から直交座標に座標変換される前に(即ちラスタ画像が生成される前に)ヘッダ情報を付与するものとしたが、いったん座標変換が行われた後にヘッダ情報を付与するように構成しても良い。この場合、ラスタ画像の各画素に対してヘッダ情報が付与される。なお、この構成の場合、種類別信号処理部による処理は、各レイヤの画素それぞれ(種類別のラスタ画像に変換された後の受信データ)に対して行われる。
受信信号に付与する識別子はビットフラグに限らず、当該受信信号の種類を特定できる情報であればどのようなものでも良い。ただし、ビットフラグは必要なデータ数も少なく、比較判定も容易であるため、識別子として特に好適である。
ヘッダ挿入処理部19は省略しても良い。この場合、例えば種類識別処理部18と信号処理部40〜44の間に信号の流れを切り替えるための切替スイッチを設け、受信信号の種類に応じて前記切替スイッチを切り替えることにより、信号処理部40〜44のうち何れかに振り分けて受信信号を出力するように構成しても良い。
種類識別処理部18で識別する受信信号の種類は、上記実施形態の例に限らないのは勿論である。例えば、船舶、ブイ、ボンデンのように物標そのものの種類を識別するのでは無く、移動物標/固定物標というように、移動速度に応じて種類分けを行っても良い。
また例えば、種類識別処理部18において、受信信号に含まれるホワイトノイズを識別するように構成することもできる。反射対象物からの反射エコー以外の信号であるホワイトノイズを識別する方法としては、例えば、レーダアンテナから電波を送信していない期間(エコーを受信しない期間)の受信信号の信号レベルを測定し、当該信号レベルをホワイトノイズレベルとして、エコーを受信する期間の間にホワイトノイズレベル以下の受信信号が検出された場合は、当該受信信号をホワイトノイズとして識別する方法が考えられる。
種類識別処理部18において受信信号の種類を識別する方法は、上記実施形態の例に限らず、適宜の方法を用いることができる。
例えば、電子海図には航路ブイの位置情報も含まれているので、地図情報に基づいて、航路ブイからのエコーを示す受信信号を識別することもできる。また例えば、船舶のような移動物標からのエコーを識別するために、トレイル(航跡)の情報を用いることができる。また例えば、雨雪反射に基づくエコーを識別するために、衛星ラジオ等による天気情報を用いることができる。この他、受信信号に対して複素信号処理を行うことにより取得される位相及び周波数の情報に基づいて、当該受信信号の種類を識別することもできる。
信号処理部40〜44で行う信号処理は、上記実施形態の例に限定されず、任意の信号処理を行うことができる。
例えば、雨雪反射用信号処理部44において、TT(Target Tracking:目標追尾)を行っても良い。本発明の構成によれば、雨雪反射を示す受信データのみを抽出することができるので、雨雪反射に対するTTが可能となる。なお、TTとは、目標をレーダ映像上で捕捉・追尾することにより当該目標の針路等を予測する技術のことである。これにより、雨雲の移動方向等を予測しながら、雨を避けた針路で航行することができる。
また例えば、船舶用信号処理部41において、エコートレイル生成処理を行っても良い。これにより、船舶を示すエコー像にのみトレイル(航跡)が生成され、海面反射等にはトレイルが生成されないので、トレイルを見易く表示することができる。
また、船舶用信号処理部41においては、特に何も信号処理を行わなくても良い。本発明の構成によれば、船舶からのエコーを示す受信信号を抑圧することなく、不要な信号のみを抑圧することが可能であるため、船舶を示す受信信号を強調する処理を特に行わなくても、船舶のエコー像をレーダ映像上でユーザが容易に認識することができる。
また例えば、船舶用信号処理部41においては、船舶が存在する位置に船舶のマークを表示するような処理を行っても良い。
また、どの種類の受信信号にどのような信号処理を行うべきかは、装置の用途、ユーザの好み、気象状況、周囲の物標の状況等によって異なる。従って、種類別信号処理部20における信号処理の内容を、受信信号の種類ごとにユーザが設定・変更できるように構成されることが好ましい。これにより、ユーザの必要に応じて柔軟に信号処理を行うことができる。