図1はこの発明の実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図、図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は図1に示す船外機の拡大側面図である。
図1から図3において、符号1は船舶を示す。船舶1には船外機10が船体(艇体)12に搭載される。
船外機10は、スターンブラケット14とチルティングシャフト16を介して船体12の後尾(船尾)12aに取り付けられる。船外機10の上部には、図2に示すように、内燃機関(以下「エンジン」という)18が搭載される。エンジン18は火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、排気量2200ccを備える。船外機10においてエンジン18は水面上に位置し、エンジンカバー20によって覆われる。
エンジン18の吸気管22にはスロットルボディ24が接続される。スロットルボディ24は内部にスロットルバルブ26を備えると共に、スロットルバルブ26を開閉駆動するスロットル用電動モータ28が一体的に取り付けられる。スロットル用電動モータ28の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ26に接続される。
船外機10の下部にはプロペラ30が取り付けられると共に、水平軸回りに回転自在に支持され、エンジン18からの動力をプロペラ30に伝達するプロペラシャフト32が配置される。エンジン18とプロペラシャフト32の間には1速、2速等の複数の変速段を有する変速機34が介挿される。
変速機34は、複数の変速段を切り替え自在な変速機構36と、シフト位置を前進(フォワード)位置、後進(リバース)位置および中立(ニュートラル)位置に切り替え自在なシフト機構38とからなる。変速機構36は、エンジン18のクランクシャフト(図示せず)に接続されるインプットシャフト40と、インプットシャフト40にギヤを介して接続されるカウンタシャフト42と、カウンタシャフト42に複数のギヤを介して接続されるアウトプットシャフト44とが平行に配置された平行軸式の有段式変速機構からなる。
プロペラ30は、複数の羽根30a(図2では1枚のみ示す)と、プロペラ30の本体を構成すると共に、羽根30aが取り付けられるボス30bとを備える。プロペラ30は可変ピッチプロペラからなり、各羽根30aのピッチ角(進行方向に対する羽根30aの角度)が変更可能なように構成される。従って、ピッチ角を変えることでプロペラ30のピッチ(プロペラ30が1回転する間に船舶1(船体12)の進む距離(インチ))を変更することができる。
プロペラ30において、ピッチ(ピッチ角)の変更は、プロペラ30の各羽根30aに連結された変節軸50および変節軸50の動作を制御する油圧機構52により行われる。
変節軸50は、中空のプロペラシャフト32内を軸方向移動自在に挿通されたピストンロッドからなり、変節軸50の一端側(図面右側)にはピストン50aが形成される。
変節軸50の先端部(他端側)付近の外周面には径方向に突出した複数個の突部50b(図2では1つのみ示す)が設けられる。突部50bは各羽根30aの羽根軸下部に形成された溝に嵌合可能なように構成される。
変節軸50の移動(伸縮)に伴って突部50bが軸方向に移動するとき、羽根30aは突部50bの軸方向への移動と連動してピッチ角を変化させる方向に移動(回転)する。即ち、突部50bの軸方向の動きが羽根軸下部の溝を介して羽根30aのピッチ角の動きに変換される。
油圧機構52は、ギヤポンプ52aと、ギヤポンプ52aとプロペラシャフト32内の油室32aとを接続する配管52bと、ギヤポンプ52aからの作動油の量を制御するソレノイドバルブ(電磁バルブ)52c等からなる。
ギヤポンプ52aは、アウトプットシャフト44の外周に固定されてアウトプットシャフト44と共に回転するポンプ駆動用ギヤ52dによって駆動される。ポンプ駆動用ギヤ52dはギヤポンプ52a内のドライブギヤ52a1に連結されるため、ポンプ駆動用ギヤ52dが回転すると、これに伴ってドライブギヤ52a1も回転させられる。さらに、ドライブギヤ52a1が回転すると、ドライブギヤ52a1に噛み合うドリブンギヤ52a2も回転させられる。
ギヤポンプ52aは、ドライブギヤ52a1とドリブンギヤ52a2が回転しながら噛み合うときにギヤポンプ油室52a3内の作動油を吸い込むと共に、吸い込んだ作動油を反対側から吐出する。ギヤポンプ52aから吐出された作動油は、配管52bを通って油室32aに供給され、供給された作動油によってピストン50aは図面左方向に移動させられる。
ソレノイドバルブ52cは配管52bに設けられ、ギヤポンプ52aからの作動油の吐出量を調整する。従って、ソレノイドバルブ52cのソレノイドを励磁(あるいは消磁)することにより、プロペラ30のピッチを変更することができる。また、油室32aにはピストン50aの位置を示す出力を生じるピストン位置センサ(ピッチ検出手段)54が設けられる。よってピストン位置センサ54の出力値に基づいてプロペラ30のピッチを算出することができる。
スイベルケース56の付近には、船外機10の船体12に対するチルト角またはトリム角を調整可能なパワーチルトトリムユニット(トリム角調整機構。以下「トリムユニット」という)58が配置される。
トリムユニット58は、チルト角調整用の油圧シリンダ58aとトリム角調整用の油圧シリンダ58bを一体的に備え、これら油圧シリンダ58a,58bを伸縮させることで、スイベルケース56をチルティングシャフト16を回転軸として回転させ、船外機10をチルトアップ/ダウンまたはトリムアップ/ダウンさせる。尚、油圧シリンダ58a,58bは、船外機10に配置された図示しない油圧回路に接続されて作動油の供給を受けて伸縮させられる。また、チルト角とトリム角は共に、チルティングシャフト16を回転軸とした船外機本体の回動角を示す値であることから、以下の説明ではそれらを単に「トリム角」という。
尚、プロペラシャフト32は、トリムユニット58の初期状態(トリム角θが初期角度(0°)の状態)において、その軸線32aが船舶1の進行方向に対して略平行となるように配置される。
図3に示すように、スロットルバルブ26の付近にはスロットル開度センサ(スロットル開度検出手段)60が取り付けられ、スロットルバルブ26の開度(スロットル開度)THを示す信号を出力する。また、エンジン18のクランクシャフト付近にはクランク角センサ(機関回転数検出手段)62が取り付けられ、所定のクランク角ごとにパルス信号を出力する。さらに、チルティングシャフト16の付近にはトリム角センサ64が配置され、船外機10のトリム角θに応じた信号を出力する。
上記した各センサの出力は船外機10に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)70に入力される。ECU70はCPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10のエンジンカバー20内部に配置される。
図1の説明に戻ると、船体12の操縦席72付近には操船者(図示せず)によって操作自在なステアリングホイール74とシフト・スロットルレバー76が配置される。シフト・スロットルレバー76は初期位置から船体12に対して前後方向に揺動操作自在であり、操船者からの前進/後進指示およびエンジン18に対する加速/減速指示を含むエンジン回転数の指示を入力する。
シフト・スロットルレバー76の付近にはシフト位置センサ78が取り付けられ、操船者によるシフト・スロットルレバー76の操作に応じた信号(シフト・スロットルレバー76の回転軸の回転角に応じた信号)SHPSを出力する。これら各センサの出力もECU70に入力される。
ECU70と各センサとは例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式(例えばNMEA2000。具体的にはCAN(Controller Area Network))で通信自在に接続される。
また、ECU70は、入力されたセンサ出力などに基づいてスロットル用電動モータ28の動作、変速機34、プロペラ30のピッチ角、トリムユニット58の動作などを制御するが、この実施例に係る船舶1の制御装置は操作系(ステアリングホイール74やシフト・スロットルレバー76)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の装置からなる。
図4はECU70のシフト位置判定動作、トリムアップ判定動作およびイニシャルトリム判定動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはECU70によって所定の周期ごとに実行される。
以下説明すると、先ずS(ステップ)10においてシフト位置センサ78の出力値(出力電圧)SHPSに基づいてソフト位置を判定するシフト位置判定処理を行う。
図5はECU70のシフト位置判定動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
図5に示すように、S20においてシフト位置センサ78の出力値SHPSに基づき、シフト位置がフォワード(前進)、ニュートラル(中立)、リバース(後進)のいずれであるかを判断する。この実施例では例えばシフト位置センサ78の出力値SHPSが2V以下のときはリバース、2Vを超えるが3V以下のときはニュートラル、3Vを超えるときはフォワードであると判断する。
S20の処理においてシフト位置センサ78の出力値SHPSが3Vを超えるとき、シフト位置はフォワードと判断できるため、S22に進んでフォワード時の制御、即ち、フォワード制御を実行する。一方、シフト位置センサ78の出力値SHPSが2Vを超えるが3V以下のとき、シフト位置はニュートラルと判断できるため、S24に進んでニュートラル時の制御、即ち、ニュートラル制御を実行する。また、シフト位置センサ78の出力値SHPSが2V以下のとき、シフト位置はリバースと判断できるため、S26に進んでリバース時の制御、即ち、リバース制御を実行する。尚、ニュートラル制御とリバース制御はこの発明とは直接の関係がないため詳細な説明は省略する。
図6はフォワード制御動作、より具体的にはプロペラピッチ制御動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
先ずS100においてギヤINピッチ変更フラグのビットが1にセットされているか否か判断する。ギヤINピッチ変更フラグは、シフト位置がフォワードにセットされてギヤインされた後、ピッチが加速待機ピッチになったときに1にセットされるフラグである。加速待機ピッチは、船舶1を微速航行速度状態(加速待機状態)にするピッチ、換言すると、船舶1の航行速度がトローリング速度のような例えば5ノット以下の低速となるピッチを意味する。従って、加速待機ピッチのとき、船舶1はプロペラ30の回転に対して僅かしか進まない(この実施例では加速待機ピッチは5インチである)。
最初のプログラムループではギヤINピッチ変更フラグのビットは0にリセットされているため、S100で否定されてS102に進み、ピッチを加速待機ピッチに変更すると共に、S104に進んでギヤINピッチ変更フラグのビットを1にセットする。
ギヤINピッチ変更フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS100で肯定されてS106に進み、スロットル開度センサ60の出力値に基づいてスロットル開度THの所定時間(単位時間。例えば500msec)当たりの変化量ΔTHを算出し、算出された変化量ΔTHがΔTH0以上か否か判断する。
S106は船舶1が減速状態にあるか否か、即ち、スロットル開度THが閉じる方向に所定量変化したか否かを判断(判定)するための処理であるため、ΔTH0は負値(例えば−0.5deg)とされる。最初のプログラムループでは船舶1は通例減速状態にないため、S106で否定されてS108に進み、加速中フラグのビットが0にリセットされているか否か判断する。加速中フラグは、船舶1が加速状態か否かを判断するためのフラグであり、船舶1が加速中でないときは0にリセットされ、加速中のときは1にセットされる。
最初のプログラムループでは加速中フラグのビットは0にリセットされているため、S108で肯定されてS110に進み、船舶1の加速状態をスロットル開度THの変化量ΔTHに基づいて判断する。
具体的には、船舶1が全く加速していない状態、即ち、スロットル開度THの変化量ΔTHが0degか、または船舶1が緩加速(緩やかな加速)状態、即ち、変化量ΔTHが0degを超えてΔTH1(所定値。例えば5deg)未満の状態にあるか、あるいは船舶1が急加速状態、即ち、変化量ΔTHがΔTH1以上の状態にあるかを判断(判定)する。
S110において船舶1が全く加速していない状態にあると判断されるときは以降の処理を終了する一方、船舶1が緩加速状態にあると判断されるときはS112に進んで緩加速ピッチ切替フラグのビットが0にリセットされているか否か判断する。
緩加速ピッチ切替フラグは、船舶1が緩加速状態にあり、ピッチが燃費最適ピッチのときに1にセットされるフラグである。また、燃費最適ピッチは、ある速度における最大燃費が得られるピッチ、即ち、燃費を重視したピッチを意味し、実験などにより例えば19インチと定められる。
S112で肯定、即ち、緩加速ピッチ切替フラグのビットが0にリセットされていると判断されるときはS114に進んでピッチを燃費最適ピッチに変更した後、S116に進み、緩加速ピッチ切替フラグのビットを1にセットして処理を終了する。
緩加速ピッチ切替フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS112で否定されてS118に進み、スロットル開度センサ60の出力値に基づきスロットル開度THが全開(所定開度。全開またはその近傍を含む。以下同じ)になったか否か判断する。
S118で否定されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS120に進んでピッチを移動効率最適ピッチに変更する。移動効率最適ピッチは、船舶1の移動効率が最も良いピッチ、換言すると、最高速度が得られやすいピッチを意味する。具体的には、エンジン18の出力が最大となるエンジン回転数で船舶1を航行させたときに船舶1の速度が所定速度以上(より具体的には最高速度またはその近傍)となるピッチを意味する。
例えば6000rpmで最高出力が発揮されるエンジンの場合には6000rpmで船舶1を航行させ、ピッチを10インチ、11インチ、12インチ、・・・と変えながら船舶1の航行速度を計測する。そして、航行速度が最大となるピッチを特定し、それを移動効率最適ピッチとする。尚、この実施例では移動効率最適ピッチは例えば17インチとされる。
図6フロー・チャートにおいて、S110で変化量ΔTHがΔTH1以上、即ち、船舶1が急加速状態と判断されるときはS122に進んで加速中フラグのビットを1にセットする。
加速中フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS108で否定されてS124に進み、ピッチ制御終了フラグのビットが0にリセットされているか否か判断する。ピッチ制御終了フラグは、このフロー・チャートに示すプロペラピッチ制御が終了するときに1にセットされるフラグである。
S124で否定されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS126に進み、加速初期ピッチ切替フラグのビットが0にリセットされているか否か判断する。加速初期ピッチ切替フラグについては後述する。
最初のプログラムループでは加速初期ピッチ切替フラグのビットは0にリセットされているため、S126で肯定されてS128に進み、プロペラ30のスリップ率(滑り率)SPの所定時間当たりの変化量ΔSPを算出すると共に、算出された変化量ΔSPがΔSP1未満か否か判断する。
尚、プロペラ30のスリップ率SPは船舶1(船体12)の理論速度Vaと実速度Vに基づいて以下の式(1)により算出される。また、理論速度Vaはエンジン18や変速機34の運転状態、プロペラ30の仕様に基づき以下の式(2)により算出される。
スリップ率SP=(理論速度Va(km/h)−実速度V(km/h))/理論速度Va(km/h) ・・・式(1)
理論速度Va(km/h)=(エンジン回転数NE(rpm)×プロペラピッチ(インチ)×60×2.54×10−5)/(変速段の減速比) ・・・式(2)
式(1)で実速度Vは船舶1に搭載されるGPS受信装置(図示せず)の出力値(位置情報)から算出される。また、式(2)で変速段の減速比は変速機34において現在選択されている変速段の減速比であって、例えば2速のときの減速比は1.9となる。また、60なる数値は1分間当たりのエンジン回転数NEを1時間当たりの値に換算するためのものであり、2.54×10−5なる数値はプロペラピッチをインチからキロメートルに換算するためのものである。
S128はスリップ率SPの変化量ΔSPが正値か負値かを判断するための処理であるため、ΔSP1は例えば0とされる。従って、S128で否定、即ち、スリップ率SPの変化量ΔSPが0(ΔSP1)以上、換言すると、スリップ率SPの変化量ΔSPが0または正値と判断されるときはS130に進んでピッチを所定割合で増加(上昇)させる(ピッチが所定割合で増加するようにピッチ角を変化させる)。具体的には例えば1秒間にピッチが5インチ上昇するように定められた増加量に基づいてピッチを増加させる。
一方、S128で肯定、即ち、スリップ率SPの変化量ΔSPが0(ΔSP1)未満、換言すると、スリップ率SPの変化量ΔSPが負値と判断されるときはS132に進んで加速初期ピッチ切替フラグのビットを1にセットする。
加速初期ピッチ切替フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS126で否定されてS134に進み、スロットル開度THが全開になったか否か判断する。
S134で否定されるときはS136に進んでピッチを加速最適ピッチに変更する一方、肯定されるときはS138に進んでスリップ率SPがSP1(例えば40%)以下か否か判断する。
尚、加速最適ピッチは、船舶1の航行加速度が増加するようなピッチ、具体的には船舶1の加速性能が最も発揮されるピッチを意味し、より具体的にはエンジン18の最大トルクが発生するエンジン回転数で船舶1を航行させたときに船舶1の加速度が所定加速度以上(具体的には最大加速度またはその近傍)となるピッチを意味する。
従って、例えば4500rpmで最大トルクが発揮されるエンジン18の場合には4500rpmで船舶1を航行させ、そのとき最も加速度が得られるピッチを特定し、特定されたピッチを加速最適ピッチ(例えば14インチ)とする。
S138で否定、即ち、スリップ率SPがSP1を上回ると判断されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS140に進んでスリップ率判定フラグのビットが0にリセットされているか否か判断する。スリップ率判定フラグは、スリップ率SPがSP1以下のときに1にセットされるフラグである。
S140で肯定されるときはS142に進み、スリップ率判定フラグのビットを1にセットし、次いでS144に進んでピッチを1インチ上昇させた後、S146に進み、スリップ率更新値を0にする。スリップ率更新値については後述する。
スリップ率判定フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループではS140で否定されてS148に進み、スリップ率更新値がα(例えば−10%)か否か判断する。スリップ率更新値は、今回のプログラムループで算出されたスリップ率SPが前回のプログラムループで算出されたスリップ率SPに対してどの程度変化したかを示す値である。例えば今回のプログラムループで算出されたスリップ率SPが30%で、前回のプログラムループで算出されたスリップ率SPが40%のとき、スリップ率更新値は−10%となる。
S148で肯定されるときはS150に進んでスリップ率SPがSP2(例えば10%)以下か否か判断する。S150で否定されるときはS152に進んでピッチを1インチ上昇させた後、S154に進んでスリップ率更新値を0にする一方、S150で肯定されるときはS156に進んでピッチ制御終了フラグのビットを1にセットする。
一方、S148で否定されるときはS158に進んでトリムアップ開始フラグのビットが0か否か判断し、否定されるときは処理を終了する一方、肯定されるときはS160に進み、ピッチが所定ピッチ以上か否か判断する。
ところで、船舶1が急加速してから最高速あるいはその付近に達するまでの間にピッチを大きくすると、それに伴ってエンジン負荷も増大するため、エンジン回転数NEが低下して所定のエンジン回転数NE(例えばエンジン出力が最大となるエンジン回転数NE)を維持するのが困難となる。S160は上記した状態、即ち、検出されたピッチが、エンジン負荷が増大するピッチか否かを判断するための処理であるため、所定ピッチはエンジン負荷が増大してエンジン回転数NEが低下するようなピッチを意味し、例えば15インチと定められる。
従って、S160で否定、即ち、ピッチが所定ピッチ未満で、エンジン負荷が増大してエンジン回転数NEが低下するおそれがないと判断されるときは処理を終了する一方、S160で肯定されるときはS162に進んでトリムアップ許可フラグおよびトリムアップ開始フラグを1にセットして処理を終了する。
また、S106で肯定、即ち、スロットル開度THの変化量ΔTHがΔTH0未満と判断されるときはS164に進んで加速中フラグ、加速初期ピッチ切替フラグおよび緩加速ピッチ切替フラグのビットをそれぞれ0にリセットして処理を終了する。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、船外機10のトリムアップを実行すべきか否かのトリムアップ判定処理を行う。
図7はトリムアップ判定動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
図7に示すように、先ずS200においてトリムアップ許可フラグのビットが1か否か判断する。S200で否定されるときはトリムアップの必要がないことから、S202に進み、トリムアップ許可フラグのビットを0にリセットすると共に、S204に進んでトリムアップを停止、正確にはトリムアップを行わない。
一方、S200で肯定されるとき、具体的には、スロットル開度THが全開で、ピッチが所定ピッチ以上と判断されるとき(S134,S160)はS206に進み、トリム角θが所定角度θ1(例えば10°)未満か否か判断する。
S206の処理を最初に行うときは、トリム角θは初期角度(0°)であるため、通例肯定されてS208に進む。S208ではエンジン回転数NEの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量ΔNEがΔNE1(所定値)以下か否か判断する。
S208はエンジン回転数NEが低下もしくは低下傾向にあるか否かを判断するための処理であるため、ΔNE1はエンジン回転数NEの低下もしくは低下傾向を示す値、例えば300rpmに設定される。
従って、S208で肯定、即ち、エンジン回転数NEの変化量ΔNEがΔNE1、具体的には300rpm以下と判断されるときはエンジン回転数NEが低下もしくは低下傾向にあると判断し、後述するトリムアップを実行して、エンジン回転数NEが低下するのを抑制する。
一方、S208で否定、即ち、エンジン回転数NEの変化量ΔNEがΔNE1、具体的には300rpmを上回っていると判断されるときはエンジン回転数NEは低下もしくは低下傾向にないと判断し、S210に進んでトリムアップを停止する。
上記したように、S208で肯定されるときは原則としてトリムアップを実行するが、その前にS212に進んでスリップ率SPがSP3(所定スリップ率)以下か否か判断する。
S212はスリップ率SPに基づいてプロペラ30のキャビテーション発生のおそれがあるか否かを判断するための処理であり、SP3は例えば30%に設定される。従って、S208においてエンジン回転数NEの変化量ΔNEがΔNE1以下と判断されたとしても、S212においてスリップ率SPがSP3を上回ると判断されるとき(S212で否定)はキャビテーション発生のおそれがあるため、S210に進んでトリムアップは行わない。
一方、S212で肯定されるときはキャビテーション発生のおそれがないため、S214に進んでトリムアップを実行する。尚、トリムアップが開始された後、トリム角θが所定角度θ1に到達したと判断されるときはS206で否定されてS202に進み、トリムアップ許可フラグのビットを0にリセットすると共に、S204に進んでトリムアップを停止する。
このように、エンジン回転数NEの変化量ΔNEに基づいてエンジン回転数NEの低下(落ち込み)または低下傾向を判断し、エンジン回転数NEが低下あるいは低下傾向にあると判断したときはトリムアップを実行することで、エンジン回転数NEの低下を抑制するようにした。
但し、エンジン回転数NEが低下傾向にあると判断した場合であっても、スリップ率SPが所定スリップ率SP3を上回ると判断されるときはキャビテーションの発生が考えられるため、トリムアップは実行しないこととした。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS14に進み、船外機10のトリムダウンを実行してトリム角θをイニシャル化(初期化)すべきか否かのイニシャルトリム判定処理を行う。
図8はイニシャルトリム判定動作を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
図8に示すように、S300においてトリムダウン許可フラグのビットが1か否か判断する。S300で否定されるときはS302に進んでトリムダウンを停止する一方、肯定されるときはS304に進み、トリム角θが初期角度θ0(具体的には0°)か否か判断する。
S304で否定されるときはS306に進み、トリムユニット58を動作させてトリムダウンを開始する。その後、トリム角θが初期角度θ0になった(戻った)と判断されるときはS304で肯定されてS308に進み、トリムダウン許可フラグのビットを0にリセットし、S310に進んでトリムダウンを停止して処理を終了する。
以上のように、この発明では、船舶1が急加速状態を経て(S108等)、ほぼ最高速に達したと判断されるとき(スロットル開度THが全開。S134)、ピッチが所定ピッチ以上になった(S160)ことを条件にトリムアップ判定処理(S200からS214)を実行する。
トリムアップ判定処理ではエンジン回転数NEの変化量ΔNEとスリップ率SPに基づいてトリムアップを行うか否かの判断を行うことで、エンジン回転数NEの落ち込みとプロペラ30のキャビテーションの発生を抑制することを可能とした。
即ち、プロペラピッチ制御中、エンジン回転数NEの変化量ΔNEやスリップ率SP等をモニタし、それらに基づいてトリム角θを調整することで、エンジン回転数NEの低下やプロペラ30のキャビテーションの発生を防止することができるようになり、よって船舶1の走行性能を向上させることができるようになる。
図9は上記した処理の一部を、船舶1が加速状態から最高速に達した場合を例にとって説明するタイム・チャートである。
先ず時刻t1においてシフト位置がニュートラルからフォワードにセットされてギヤインされると、ピッチを5インチ(加速待機ピッチ)に変更する(S102)。
その後、時刻t2を経過してスロットル開度THの変化量ΔTHが5deg(ΔTH1)以上になって急加速状態になると、これに伴ってエンジン回転数NEおよびスリップ率SPも上昇する。スリップ率SPは時刻t3まで上昇し続けるが(スリップ率SPの変化量ΔSPは時刻t3まで正値)、スリップ率SPが上昇し続ける間、ピッチを14インチ(加速最適ピッチ)になるまで所定割合で増加させる(S128,S130)。
時刻t3を境にスリップ率SPが下降に転じると(スリップ率SPの変化量ΔSPが負値になると)、所定割合で上昇させていたピッチを、今度はスリップ率SPの変化に基づいて変更する(S138,S144,S150,S152)。例えば時刻t4でスリップ率SPが40%のときはピッチを14インチとし、その後、スリップ率SPが30%になるとピッチを15インチに、スリップ率SPが20%になるとピッチを16インチというように、ピッチをスリップ率SPの変化に応じて上昇させる。
時刻t5においてスリップ率SPが30%になると共に、そのときのエンジン回転数NEの変化量ΔNEが300rpm以下になったとき、トリムアップを開始させる。その後、時刻t6においてエンジン回転数NEの変化量ΔNEが300rpmを上回るとトリムアップを停止させる。
次に、時刻t7で再びエンジン回転数NEの変化量ΔNEが300rpm以下となると再びトリムアップを開始させ、その後、時刻t8でエンジン回転数NEの変化量ΔNEが300rpmを上回るとトリムアップを停止させる。
以上の如く、この発明の実施例にあっては、内燃機関(エンジン)18で駆動されると共に、ピッチを変更可能な可変ピッチプロペラ(プロペラ)30と、船体12に対するトリム角θを調整可能なトリム角調整機構(パワーチルトトリムユニット)58とを備えた船外機10の制御装置において、前記可変ピッチプロペラのピッチを検出するピッチ検出手段(ピストン位置センサ)54と、前記内燃機関の機関回転数NEを検出する機関回転数検出手段(クランク角センサ)62と、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチと前記検出された機関回転数とに基づき、前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整するトリム角調整手段(ECU70。S160,S208,S210,S214)とを備える如く構成したので、可変ピッチプロペラ30のピッチとエンジン(機関)回転数NEとに基づいてトリム角θを調整することで、船舶1が急加速してから最高速あるいはその付近に達するまでの間のピッチの変更によるエンジン回転数NEの低下を抑制し、よって船舶1の走行性能を向上させることができる。
また、前記内燃機関のスロットル開度THを検出するスロットル開度検出手段(スロットル開度センサ)60を備えると共に、前記トリム角調整手段は、検出されたスロットル開度が所定開度(スロットル開度全開またはその近傍)以上のとき、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチと前記検出された機関回転数とに基づき、前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整する如く構成した(ECU70。S134,S160,S208,S210,S214)ので、船舶1が急加速してから最高速あるいはその付近に達するまでの間のピッチの変更によるエンジン回転数NEの低下を一層抑制し、よって船舶1の走行性能を一層向上させることができる。
また、前記船体の理論速度Vaと実速度Vに基づいて前記可変ピッチプロペラのスリップ率SPを算出するスリップ率算出手段(ECU70。S128等)を備えると共に、前記トリム角調整手段は、前記算出されたスリップ率が所定スリップ率(SP3)以下のとき、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチと前記検出された機関回転数とに基づき、前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整する如く構成した(ECU70。S160,S208,S210,S212,S214)ので、エンジン回転数NEの低下のみならず、プロペラ30のキャビテーションをも抑制することができ、よって船舶1の走行性能を一層向上させることができる。
また、前記トリム角調整手段は、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチが所定ピッチ以上のとき、前記検出された機関回転数に基づき、前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整する如く構成した(ECU70。S134,S160,S208,S210,S214)ので、エンジン負荷が増大するようなピッチになっても、エンジン回転数NEに基づいてトリム角θを調整することで、エンジン回転数NEの低下を抑制することができ、よって船舶1の走行性能を向上させることができる。
また、前記トリム角調整手段は、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチが所定ピッチ以上で、かつ前記検出された機関回転数の変化量が前記所定値(ΔNE1)未満のとき、前記トリム角が増加するように前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整する如く構成した(ECU70。S134,S160,S208,S214)ので、エンジン回転数NEの低下傾向を判断し、それに基づきトリム角θを調整することで、エンジン回転数NEの低下を一層抑制することができ、よって船舶1の走行性能を一層向上させることができる。
また、前記トリム角調整手段は、前記検出された可変ピッチプロペラのピッチが所定ピッチ以上で、かつ前記検出された機関回転数の変化量が前記所定値(ΔNE1)以上のとき、前記トリム角が増加を停止するように前記トリム角調整機構を介して前記トリム角を調整する如く構成した(ECU70。S134,S160,S208,S210)ので、エンジン回転数NEが低下傾向にないときはトリム角θの増加を停止することで、船舶1の走行性能を一層向上させることができる。
尚、上記した実施例では、船舶1として船外機10を搭載した例に基づいて説明したが、船舶1は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば船内機で構成されるものであってもよい。
また、上記した実施例では、燃費最適ピッチは実験により求められると述べたが、具体的には先ず移動効率最適ピッチを特定し、次いで、ピッチを移動効率最適ピッチから徐々に変化させながら最も燃費の良いピッチを探索する。実施例では燃費最適ピッチが移動効率最適ピッチよりも2インチだけ多いピッチとしたが、これは燃費最適ピッチを移動効率最適ピッチに対して2インチ増加させたところが燃費効率が最も良くなることが実験により確かめられたためである。但し、燃費最適ピッチを移動効率最適ピッチに対してどの程度大きくするかはプロペラ30の仕様によっても異なることから、必ずしも移動効率最適ピッチより2インチ増加させたものが燃費最適ピッチになるとは限らない。
また、上記した実施例では、ΔTH0,ΔTH1,SP1,SP2,SP3,ΔSP1,ΔNE1,θ1、加速待機ピッチ、燃費最適ピッチ、移動効率最適ピッチ、加速最適ピッチ等について具体的な数値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。