JP5993666B2 - 積層体の製造方法 - Google Patents
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本発明者らは、層状物質の粉末を堆積させて形成した分離層によれば、特許文献1に記載の方法のように光照射を要することなく、剥離力を加えることにより、または加熱処理によって、層内剥離や界面剥離を起こすことができると考え更なる検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
[1]第一の基板上に層状物質粉末を堆積させることにより分離層を形成すること、
形成した分離層上に一層以上の薄膜を形成すること、および、
形成した薄膜の最表面上に第二の基板を積層すること、
により、第一の基板と第二の基板との間に、第一の基板側から分離層および一層以上の薄膜をこの順に有する積層体前駆体を作製すること、
作製した積層体前駆体を分離層において分離することにより、第二の基板上に上記薄膜を有する積層体を得ること、
を含む、基板上に薄膜を有する積層体の製造方法。
[2]分離層を、層状物質粉末および溶媒を含む塗布液を第一の基板上に塗布し乾燥させることにより形成する、[1]に記載の積層体の製造方法。
[3]層状物質は、酸化グラフェンおよびグラフェンからなる群から選択される、[1]または[2]に記載の積層体の製造方法。
[4]第一の基板は、第二の基板よりも高い耐熱性を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[5]第二の基板はポリマーフィルムである、[1]〜[4]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[6]分離層上に、100℃以上の温度での熱処理を含む成膜処理により薄膜を形成することを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[7]第二の基板側から力を加えることにより分離層において積層体前駆体を分離する、[1]〜[6]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[8]分離層上に形成された薄膜の最表面に、層状物質の層間剥離が生じる温度以上の温度での熱処理を含む積層工程により第二の基板を積層することを含み、
分離層の分離が、上記熱処理中に始まる、[1]〜[7]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[9]分離層に改質処理を施した後、前記薄膜形成を行う[1]〜[8]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[10]改質処理はプラズマ処理である[9]に記載の積層体の製造方法。
[11]分離層における分離後、積層体表面にプラズマ処理を施し残留層状物質を除去することを含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[12]分離層における分離後、第二の基板および薄膜の少なくとも一方の上に更に薄膜を形成することを含む、[1]〜[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(1)第一の基板上に層状物質粉末を堆積させることにより分離層を形成すること、形成した分離層上に一層以上の薄膜を形成すること、および、形成した薄膜の最表面上に第二の基板を積層すること、により、第一の基板と第二の基板との間に、第一の基板側から分離層および一層以上の薄膜をこの順に有する積層体前駆体を作製する工程(以下、「積層体前駆体作製工程」という)。
(2)作製した積層体前駆体を分離層において分離することにより、第二の基板上に上記薄膜を有する積層体を得る工程(以下、「分離工程」という)。
以下、上記工程を含む本発明の製造方法について、更に詳細に説明する。
上記積層体前駆体は、転写用基板である第一の基板上に形成された薄膜を、被転写基板である第二の基板上に転写するための前駆体である。当該前駆体を、その後に行われる分離工程において分離層を介して分離することにより、第二の基板上に薄膜を有する積層体を得ることができる。
これに対し本発明では、薄膜形成のための成膜処理は、最終的に得られる積層体に含まれる基板上では行われないため、基板の制約なく、所望の薄膜を有する積層体を得ることができる。なお本発明における熱処理に関する温度とは、熱処理時の第一の基板の温度をいうものとする。薄膜形成は、CVD(MOCVD、低圧CVD、ECR−CVDを含む)、蒸着、分子線蒸着(MB)、スパッタリング、イオンプレーティング、PVD等の各種気相成膜法、電気メッキ、浸漬メッキ(ディッピング)、無電解メッキ等の各種メッキ法、ラングミュア・プロジェット(LB)法、スピンコート、スプレーコート、ロールコート等の塗布法、各種印刷法、転写法、インクジェット法、粉末ジェット法等を用いることができる。
以上説明した方法により作製した積層体前駆体を分離層において分離することにより、第二の基板上に前記薄膜を有する積層体を得ることができる。上記の通り、第二の基板の積層中に分離層の分離が始まっていた場合には、必要に応じて剥離力を加えることにより、積層体を第一の基板と分離することができる。第二の基板の積層中に分離層の分離が完了する場合もあり、この場合には、特に外力を加えることなく、積層体前駆体から第一の基板を取り除くことで、第二の基板上に薄膜を有する積層体を得ることができる。または、第二の基板の積層中に分離層の分離が生じない場合は、剥離力を加えることで、積層体を第一の基板と分離することができる。分離のために加える剥離力は、少なくともいずれか一方の基板側から加えればよい。分離層の層内剥離や分離層と第一の基板または薄膜との界面において界面剥離が生じることで、分離層の分離が完了する。
分離層は、層状物質粉末が堆積することで形成された層であって結晶層のように下層と強固に結合する層ではないため、容易に界面剥離し得る。また、層状物質の層間剥離が生じることになり、層内剥離も容易に生じ得る。したがって、分離層と隣接する第一の基板や薄膜にダメージを与えることなく、積層体前駆体を分離層において分離し、第二の基板上に薄膜が積層した積層体を得ることができる。分離後に積層体表面に分離層またはその一部が残留している場合には、そのままデバイス作製に付してもよく、洗浄、機械的処理(研磨等)、酸処理、エッチング等により除去してもよい。エッチングは、例えば、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、大気圧バリア放電、ヘリウムガス、アルゴンガス等による低周波プラズマ等のプラズマ処理により行うことができる。
また、例えば半導体LSIの分野で利用されているスマートカット(登録商標)法では、Si基板(下地Si基板)を水素イオンで照射し表面近傍を粗な構造に変化させた後に擬似結晶Si膜を堆積した後、基板との接触面積を低減させ、基板から擬似結晶化Si膜を機械的に剥離する。このため下地Si基板は、1回だけしか使用することができず消耗品となる。これに対し上記の通り、本発明では第一の基板にダメージを与えることなく分離することができるため、分離後、必要に応じて洗浄処理等を施すことにより、第一の基板を転写用基板として再利用することができる。
積層体の作製
図1に概略を示す手順により、ポリイミド製可撓性フィルム上に半導体シリコン薄膜およびアルミニウム蒸着膜をこの順に有する積層体を作製した。
以下に、作製方法の詳細を説明する。
天然黒鉛SNO−3(純度99.97質量%以上)10gを、硝酸ナトリウム(純度99%)7.5g、硫酸(純度96%)621g、過マンガン酸カリウム(純度99%)45gからなる混合液中に入れ、約20℃で5日間、緩やかに撹拌しながら放置した。得られた高粘度の液を、5質量%硫酸水溶液1000cm3に約1時間で撹拌しながら加えて、さらに2時間撹拌した。得られた液に過酸化水素(30質量%水溶液)30gを加えて、2時間撹拌した。
この液を、水により十分精製することで、平板状の酸化グラフェンの水分散液を得た。液の一部を40℃で真空乾燥させ、乾燥前後の質量変化を測定した結果から、液中の酸化グラフェンの固形分濃度は1.3質量%と算出された。なお、この液には、一部還元グラフェンが含まれている。
液の一部を水で希釈してからマイカの上で乾燥させ、原子間力顕微鏡を使って酸化グラフェンの厚みを評価したところ、30個の粒子で確認された厚みは1.5nm以下の厚みの酸化グラフェン粒子が20個で67%、5nm以下の厚みの酸化グラフェンは30個で100%と、いずれも全体の60%以上含有していた。30個の粒子で確認された粒子径(最大径(外側輪郭線上の任意の2点を、その間の長さが最大になるように選んだ時の長さ))の平均は3μmであった。
第一の基板として、ガラス基板(コーニング社製商品名イーグル2000)、溶融石英基板、または結晶Si基板を用いた。ガラスおよび石英基板は、トリクロロエチレン、メタノール、アセトンを用いて各15分3回の超音波洗浄を行った。結晶Si基板は、上記と同様の超音波洗浄後、0.5質量%希フッ酸による洗浄処理を10秒行うことで表面の自然酸化膜を除去した。
上記(1)で得た1.3質量%酸化グラフェン水溶液0.6gに水、エタノールをそれぞれ0.7g添加して0.3質量%の酸化グラフェンを含む塗布液を調製した。この塗布液をスピンコート(4000rpm、120秒)で各基板表面に塗布し、大気中で140℃、30分熱処理することで残留溶媒を除去した。こうして各基板上に、酸化グラフェン薄片が堆積した分離層が形成された。形成した分離層の厚さを、分光エリプソメトリー(Horiba Jobin Yvon: UVISEL)により測定したところ、1〜50nmであった。
分離層を形成した各基板を真空容器に設置し、原料ガスと水素の混合ガスを出発原料として、容量結合型RFまたはマイクロ波プラズマCVD法により、0.5〜2μmの膜厚のアモルファス、微結晶または多結晶Si薄膜を分離層上に形成した。原料ガスとしては、SiH4またはジクロロシラン(SiH2Cl2)を用いた。ガス流量比は、(SiH4またはSiH2Cl2):H=3〜10:100(standard cc per minutes SCCM)、基板温度は250〜800℃、圧力は300〜1000mTorrとした成膜条件でSi薄膜を成膜した。原料ガスと水素の混合比を変化させることで、膜構造を調整しアモルファス、微結晶、多結晶Si薄膜を作製した。Si薄膜の成膜時の基板温度が400℃以下の場合にはガラス基板を、400℃超の場合には熔融石英基板または結晶Si基板を用いた。第一の基板の繰り返し使用を可能とするために、成膜時の加熱により基板が変形することを防ぐためである。膜構造の評価はX線回折およびラマン分光法により行った。さらに、一部の多結晶Si薄膜は、分離層を積層した石英基板上に上記方法で形成したアモルファスSi薄膜を大気圧アルゴン熱プラズマジェット(ガス温度1万K)により数ミリ秒の短時間熱処理を行い多結晶化させて作製した。
上記で作製した各種Si薄膜の膜厚を分光エリプソメトリー(Horiba Jobin Yvon: UVISEL)により測定したところ、300〜2000nmの範囲であった。
上記(3)で作製したSi薄膜表面に、三菱ガス化学株式会社製ポリイミド樹脂(商品名ネオプリム(登録商標))を溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド:γ―プチロラクトン=78.9:11.9(質量比)の混合溶媒)に溶解した10.2質量%ポリイミド樹脂溶液を、回転数2000rpm、30秒の条件でスピンコートにより塗布した後、直ちに140℃で30分乾燥した。これによりSi薄膜表面にポリイミドフィルムが形成された。上記乾燥中に分離層の層内剥離が生じたことを目視で確認した。酸化グラフェンの層間剥離が生じる温度以上の温度で乾燥を行ったため、分離層において酸化グラフェンの層間剥離が生じたことによるものである。
上記(4)で得た積層体前駆体のポリイミドフィルム表面にカプトン(登録商標)テープを貼り、このテープを人の手により上方に引き上げると、分離層が層内剥離または第一の基板との界面で界面剥離することにより第一の基板が分離され、ポリイミドフィルム上にSi薄膜を有する積層体が得られた。
第一の基板分離後の積層体表面に残留していた酸化グラフェンを、アルゴンまたはヘリウム大気圧プラズマ処理(出力10W、アルゴンまたはヘリウムに対して2質量%の水素を添加、流量0.5SLM)を3.5分間行い除去した。積層体の1つについて、プラズマ処理前(プラズマ処理時間0分)、2分間処理後、3分間処理後、3.5分間処理後の被プラズマ処理表面の顕微鏡写真を、図2に示す。処理時間が長くなるほど表面上の酸化グラフェンが除去されることが確認された。
こうして得られた積層体の1つの写真を、図3に示す。
太陽電池の作製
上記(3)の後に、以下の工程を行った点を除き、実施例1と同様の方法で積層体を作製した。
上記(3)の後、形成したSi薄膜上に、PH3を添加したSiH4、Si2H6、 SiF4、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4を原料ガスとするプラズマCVD法により、厚さ50nmのN型低抵抗Si薄膜を成膜した後、その上に真空蒸着によりAl膜(厚さ20〜50nm)を形成した。ここで形成したAl膜は、太陽電池において裏面電極として機能する。
こうして、ポリイミドフィルム上にAl膜、N型低抵抗Si薄膜、およびSi薄膜をこの順に有する積層体が得られた。
次いで、得られた積層体の最表層Si薄膜の表面に塗布または霧化塗布法で導電性高分子膜を形成した後、140℃で30分乾燥した。その後、導電性高分子膜上に真空蒸着またはペーストの塗布(5mm角)によりAg膜を成膜した。このAg膜は、太陽電池において上部電極として機能する。
開放電流は5〜20mA/cm2、短絡電圧は0.3〜0.5V、量子(変換)効率は2〜5%であり、太陽電池として良好な性能を示すことが確認された。
実施例1の工程(2)において、厚さ20nm〜50nmの厚さに形成した分離層(酸化グラフェン層)表面に、アルゴン大気圧プラズマ処理(出力10W、アルゴンに対して2質量%の水素を添加、流量0.5SLM)を5分間行った後、実施例1の工程(3)と同様の方法でプラズマ処理面上にSi薄膜を形成した。
形成したSi薄膜表面に、人の手により力を加えてポリイミドフィルム(商品名ネオプリム(登録商標))またはパラフィンフィルムを圧着して積層体前駆体を得た。
その後、積層体前駆体のポリイミドフィルムまたはパラフィンフィルムを人の手により上方に引き上げると、分離層が層内剥離またはSi薄膜との界面で界面剥離することにより第一の基板が分離され、ポリイミドフィルムまたはパラフィルム上にSi薄膜を有する積層体が得られた。
1つのサンプルについて、プラズマ処理前(プラズマ処理時間0分)、2分間処理後、4分間処理後、5分間処理後の被プラズマ処理表面の顕微鏡写真を、図4に示す。処理時間が長くなるほど分離層(酸化グラフェン層)の表面が改質されたことが確認された。熱処理なしで分離層での分離が可能であった理由は、プラズマ処理により分離層表面および分離層が改質されたことによるものと考えられる。
こうして得られた積層体(ポリイミドフィルム使用)の1つの写真を、図5に示す。
Claims (11)
- 第一の基板上に酸化グラフェンおよびグラフェンからなる群から選択される物質の粉末を堆積させることにより分離層を形成すること、
形成した分離層上に一層以上の薄膜を形成すること、および、
形成した薄膜の最表面上に第二の基板を積層すること、
により、第一の基板と第二の基板との間に、第一の基板側から分離層および一層以上の薄膜をこの順に有する積層体前駆体を作製すること、
作製した積層体前駆体を分離層において分離することにより、第二の基板上に上記薄膜を有する積層体を得ること、
を含む、基板上に薄膜を有する積層体の製造方法。 - 分離層を、酸化グラフェンおよびグラフェンからなる群から選択される物質の粉末および溶媒を含む塗布液を第一の基板上に塗布し乾燥させることにより形成する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
- 第一の基板は、第二の基板よりも高い耐熱性を有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 第二の基板はポリマーフィルムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 分離層上に、100℃以上の温度での熱処理を含む成膜処理により薄膜を形成することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 少なくともいずれか一方の基板側から力を加えることにより分離層において積層体前駆体を分離する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 分離層上に形成された薄膜の最表面に、酸化グラフェンおよびグラフェンからなる群から選択される物質の層間剥離が生じる温度以上の温度での熱処理を含む積層工程により第二の基板を積層することを含み、
分離層の分離が、上記熱処理中に始まる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。 - 分離層に改質処理を施した後、前記薄膜形成を行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 改質処理はプラズマ処理である請求項8に記載の積層体の製造方法。
- 分離層における分離後、積層体表面にプラズマ処理を施し残留する酸化グラフェンおよびグラフェンからなる群から選択される物質を除去することを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
- 分離層における分離後、第二の基板および薄膜の少なくとも一方の上に更に薄膜を形成することを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
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