本発明において、好適には、前記車両は、例えば前記駆動力源の動力を前記自動変速機などの動力伝達装置を介して前記駆動輪へ伝達するものである。また、前記自動変速機は、所定の係合装置の係合と解放との切替えによって各々異なる変速比(ギヤ比)を有する複数の変速段(ギヤ段)が択一的に形成される有段式自動変速機である。例えば、この有段式自動変速機は、公知の遊星歯車式自動変速機により構成される。この遊星歯車式自動変速機における係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはバンドブレーキ等の係合装置が広く用いられる。また、前記車両は、例えば複数の係合装置の油圧アクチュエータにそれぞれ油圧を供給する油圧制御回路を備えている。この油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブやON−OFFソレノイドバルブ等を備え、それらソレノイドバルブの出力油圧を直接的或いはシフトコントロールバルブ等を介して間接的に係合装置の油圧アクチュエータにそれぞれ供給する。尚、上記「油圧を供給する」とは、「油圧を作用させる」或いは「ある油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
また、好適には、前記駆動力源としては、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンが用いられる。或いは、前記駆動力源としては、例えば電動機等の原動機が単独で或いは上記エンジンと組み合わせて用いられる。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられたエンジン12から駆動輪26までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両10に設けられた制御系統の要部を説明する図である。図1において、駆動力源としてのエンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ14を経て入力軸16から自動変速機18に入力され、自動変速機18の出力軸20から差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)22や一対の車軸(ドライブシャフト)24等を順次介して左右の駆動輪26へ伝達される。
自動変速機18は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース内において1組乃至複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置(係合要素)とを有し、その係合装置によって複数のギヤ段が択一的に成立させられる公知の遊星歯車式自動変速機である。例えば、自動変速機18は、複数の係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置の係合と解放との切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。複数の係合装置はそれぞれ、エンジン12からの動力を受ける入力軸16と駆動輪26に動力を伝達する出力軸20との間で回転とトルクとを伝達する油圧式の摩擦係合装置である。この入力軸16は、自動変速機18の入力軸であるが、トルクコンバータ14のタービン翼車によって回転駆動されるタービン軸でもある。
前記油圧式の摩擦係合装置は、油圧制御回路28によってそれぞれ係合と解放とが制御され、その油圧制御回路28内のソレノイドバルブ等の調圧によりそれぞれのトルク容量すなわち係合力が変化させられて、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するクラッチやブレーキである。ここで、係合装置のトルク容量(以下、クラッチトルクという)は、例えば係合装置の摩擦材の摩擦係数や摩擦板を押圧する係合油圧によって決まるものである。係合装置を滑らすことなく(すなわち係合装置に差回転速度を生じさせることなく)入力軸16と出力軸20との間でトルク(例えば入力軸16に入力される変速機入力トルクTiすなわちタービントルクTt)を伝達する為には、そのトルクに対して各係合装置にて受け持つ必要がある伝達トルク分(すなわち係合装置の分担トルク)が得られるトルク容量が必要になる。但し、伝達トルク分が得られるトルク容量においては、トルク容量を増加させても伝達トルクは増加しない。尚、本実施例では、便宜上、クラッチトルクと係合油圧とを同義に取り扱うこともある。
自動変速機18におけるギヤ段の一例としては、例えばクラッチC1とブレーキB1との係合により低車速側ギヤ段(ローギヤ段例えば第1速ギヤ段)が成立させられ、クラッチC1とブレーキB2との係合により高車速側ギヤ段(ハイギヤ段例えば第2速ギヤ段)が成立させられる。従って、上記ローギヤ段とハイギヤ段との間の変速時には、ブレーキB1とブレーキB2とで掴み替えが行われる。本実施例では、変速時に掴み替えが行われる係合装置のうちで、ローギヤ段側の成立に関与する係合装置(例えばブレーキB1)をローギヤ段係合装置と称し、ハイギヤ段側の成立に関与する係合装置(例えばブレーキB2)をハイギヤ段係合装置と称する。ローギヤ段係合装置は、ローギヤ段からハイギヤ段へのアップシフト時には解放側の係合装置となり、ハイギヤ段からローギヤ段へのダウンシフト時には係合側の係合装置となる。一方で、ハイギヤ段係合装置は、上記アップシフト時には係合側の係合装置となり、上記ダウンシフト時には解放側の係合装置となる。
図1に戻り、車両10には、例えば自動変速機18の変速制御などに関連する変速制御装置を含む電子制御装置70が備えられている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置70は、エンジン12の出力制御、自動変速機18の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や油圧制御用(変速制御用)等に分けて構成される。また、電子制御装置70には、各種センサ(例えば各回転速度センサ50,52,54、アクセル開度センサ56、スロットル弁開度センサ58、シフトセンサ60など)により検出された各種信号(例えばエンジン12の回転速度を表すエンジン回転速度ωe,入力軸16の回転速度を表すタービン回転速度ωtすなわち変速機入力回転速度ωi,車速Vに対応する出力軸20の回転速度を表す変速機出力回転速度ωo、車両10の駆動力(駆動トルク)に対する運転者の要求量を表すアクセル開度Acc、スロットル弁開度θth、シフトレバー或いはパドルスイッチによるシフト操作SHなど)が、それぞれ供給される。また、電子制御装置70からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機18の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路28を作動させる為の油圧指令信号Spなどが、それぞれ出力される。
図2は、電子制御装置70による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2において、エンジン出力制御手段すなわちエンジン出力制御部72は、例えば要求されたエンジントルクTe(以下、要求エンジントルクTedem)が得られるように、スロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置を制御するエンジン出力制御指令信号Seを出力する。エンジン出力制御部72は、例えばアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと要求駆動力Fdemとの予め記憶された不図示の関係(駆動力マップ)から実際のアクセル開度Acc及び車速Vに基づいて要求駆動力Fdemを算出する。そして、エンジン出力制御部72は、例えば駆動輪26のタイヤ有効半径、現在の自動変速機18のギヤ段におけるギヤ比、出力軸20よりも駆動輪26側の動力伝達経路における終減速比、及びトルクコンバータ14のトルク比tに基づいて、要求駆動力Fdemが得られる要求エンジントルクTedemを算出する。尚、トルクコンバータ14のトルク比tは、例えば速度比(=タービン回転速度ωt/ポンプ回転速度ωp(エンジン回転速度ωe))とトルク比t、効率、及び容量係数とのそれぞれの予め記憶された公知の関係(トルクコンバータ14の作動特性図)から実際の速度比eに基づいて算出される。
変速制御手段すなわち変速制御部74は、自動変速機18の変速制御を実行する。具体的には、変速制御部74は、車速V及びアクセル開度Accを変数として予め記憶された公知の関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速判断を行う。そして、変速制御部74は、自動変速機18の変速を実行すべきと判断した場合には、変速すべきギヤ段が得られるように自動変速機18の自動変速制御を実行する。例えば、変速制御部74は、判断したギヤ段が達成されるように、自動変速機18の変速に関与する係合装置を係合及び/又は解放させる油圧指令信号Spを油圧制御回路28へ出力する。この油圧指令信号Spとしては、例えばローギヤ段係合装置のトルク容量(以下、ローギヤ段側クラッチトルクという)を得る為の油圧指令値、及びハイギヤ段係合装置のトルク容量(以下、ハイギヤ段側クラッチトルクという)を得る為の油圧指令値である。
ここで、変速制御としては、例えば変速ショックや変速時間等が適切であるかを実車にて評価しつつ適合により予め定められた制御マップから、変速時のトルク容量(或いは油圧指令値)を決定して自動変速機18の変速を実行する手法がある。このような制御マップを用いる手法では、どの変速の種類での変速であるかによって、各々異なる制御マップを作成する必要がある。その為、自動変速機18のギヤ段が多段化される程、上記適合作業に多くの労力等が必要となってくる。上記変速の種類とは、例えばパワーオンアップシフト、パワーオフアップシフト、パワーオンダウンシフト、及びパワーオフダウンシフトといった各種の変速パターン(変速様式)と、1速−2速間などの各種のギヤ段間との組み合わせで表される各種の変速態様である。より具体的には、変速の種類は、1速→2速パワーオンアップシフト、2速→1速パワーオンダウンシフトなどとして表される。
そこで、本実施例では、変速制御として、上記制御マップを用いる手法に替えて、変速目標値を実現させる制御操作量を決定する予め定められた変速モデルを用いて自動変速機18の変速を実行する手法を採用する。上記変速目標値は、変速時に実現したい変化態様を定める要素(例えば変速時間、駆動力等)の目標値である。上記制御操作量は、制御対象に対して操作する要素(エンジントルク、クラッチトルク等)の要求値である。
以下において、変速モデルを用いた自動変速機18の変速制御について詳しく説明する。自動変速機18の変速中における運動方程式は、次式(1)及び次式(2)で表される。この式(1)及び式(2)は、自動変速機18を構成する相互に連結された各回転要素毎の運動方程式、及び自動変速機18を構成する遊星歯車装置における関係式から導き出されたものである。上記各回転要素毎の運動方程式は、各回転要素におけるイナーシャと回転速度時間変化率との積で表されるトルクを、遊星歯車装置の3つの部材(サンギヤ、キャリヤ、リングギヤ)、及び係合装置の両側の部材のうちで各回転要素に関与する部材に作用するトルクにて規定した運動方程式である。また、遊星歯車装置における関係式は、遊星歯車装置の歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)を用いて、その遊星歯車装置の3つの部材におけるトルクの関係と回転速度時間変化率の関係とを各々規定した関係式である。この式(1)及び式(2)において、dωt/dtは、タービン回転速度ωt(すなわち変速機入力回転速度ωi)の時間微分すなわち時間変化率であり、入力軸16側の回転部材の速度変化量としての入力軸16の角加速度(以下、入力軸角加速度)を表している(図面乃至数式においては時間変化率をドットで示している、以下の説明において同じ)。dωo/dtは、変速機出力回転速度ωoの時間変化率であり出力軸角加速度を表している。Ttは、入力軸16側の回転部材上のトルクとしての入力軸16上のトルクであるタービントルクすなわち変速機入力トルクTiを表している。このタービントルクTtは、トルクコンバータ14のトルク比tを考慮すればエンジントルクTe(=Tt/t)と同意である。Toは、出力軸20側の回転部材上のトルクとしての出力軸20上のトルクである変速機出力トルクを表している。Tclowは、ローギヤ段側クラッチトルクであり、アップシフト時には解放側のクラッチトルクとなり、ダウンシフト時には係合側のクラッチトルクとなる。Tchiは、ハイギヤ段側クラッチトルクであり、アップシフト時には係合側のクラッチトルクとなり、ダウンシフト時には解放側のクラッチトルクとなる。a1,a2,b1,b2,c1,c2,d1,d2はそれぞれ、この式(1)及び式(2)を導き出した際に定数としたものであり、上記各回転要素におけるイナーシャ及び上記遊星歯車装置の歯車比から設計的に定められる係数である。この定数の具体的な数値は、例えば変速の種類(例えば変速パターンやギヤ段間)毎に異なる。従って、上記運動方程式としては1つの所定のものであるが、自動変速機18の変速には、変速の種類毎に異なる定数とされたそれぞれの変速の種類に対応する運動方程式が用いられる。
前記式(1)及び式(2)は、変速目標値と制御操作量との関係を定式化した自動変速機18のギヤトレーン運動方程式である。ここでの変速目標値は、変速時間及び駆動力の各目標値を表現でき、ギヤトレーン運動方程式上で取り扱えるものである。本実施例では、変速時間を表現できる要素の一例として、入力軸角加速度dωt/dtを用いている。また、駆動力を表現できる要素の一例として、変速機出力トルクToを用いている。つまり、本実施例では、変速目標値を、入力軸角加速度dωt/dtと、変速機出力トルクToとの2つの値で設定している。一方で、本実施例では、それら変速目標値を成立させる制御操作量を、タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)と、ローギヤ段側クラッチトルクTclowと、ハイギヤ段側クラッチトルクTchiとの3つの値で設定している。そうすると、運動方程式が前記式(1)及び式(2)の2式で構成されることに対して制御操作量が3つある為に、2つの変速目標値を成立させる制御操作量を一意に解くことはできない。その為、変速モデルを用いて、2つの変速目標値を実現するような自動変速機18の所望の変速を実行することができない。尚、出力軸角加速度dωo/dtは、回転速度センサ54の検出値である変速機出力回転速度ωoから算出される。
ところで、前記式(1)及び式(2)の運動方程式に、ある拘束条件を追加することで制御操作量を一意に解くことができると考えられる。ここで、自動変速機18の変速制御において難しいとされることは、解放側の係合装置と係合側の係合装置とのトルクの受け渡し(すなわち変速進行度)を制御することである。一方で、3つの制御操作量を決定する為に何れかの制御操作量を所定の値とする場合には、各変速パターン毎に合わせた所定の値とするなど無数の定め方がある。この所定の値に関し、例えば解放側のクラッチトルク及び係合側のクラッチトルクのうちで一方のみを拘束条件とすると、変速中にタイアップや吹き上がりが発生し易くなったり、また、敢えて変速中にタイアップや吹き上がりを発生させる制御の制御性が低下したりする可能性がある。或いは、例えばエンジントルクの変化態様を拘束条件とすると、イナーシャ相中にエンジントルクを一時的に変化させるようなエンジントルクダウン制御を実行できなくなる可能性がある。そこで、本実施例では、変速中のトルクの受け渡しを表現したり制御するのに適しており、また、何れの変速パターンにも対応することができる、解放側の係合装置と係合側の係合装置とで受け持つ伝達トルクのトルク分担率を、上記拘束条件として設定することを見出した。つまり、変速中のトルクの受け渡しを運動方程式に組み込むことができ、且つ制御操作量を一意に解くことができる、伝達トルクのトルク分担率を上記拘束条件として設定することを見出した。上記トルク分担率は、自動変速機18の変速時に解放側の係合装置と係合側の係合装置とで受け持つ必要がある合計の伝達トルク(合計伝達トルク)を例えば入力軸16上のトルク(入力軸上合計伝達トルク)に置き換えたときに、その入力軸上合計伝達トルクに対して両係合装置が各々分担する伝達トルクの割合である。本実施例では、ローギヤ段係合装置のトルク分担率を「xlow」とし、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率を「xhi」として、それぞれのトルク分担率を、変速中のトルクの受け渡しを反映するように時系列で変化するトルク分担率x(例えば0≦x≦1)を用いて次式(3)及び次式(4)のように定義する。
xlow = x ・・・(3)
xhi = 1−x ・・・(4)
ローギヤ段側クラッチトルクTclowとハイギヤ段側クラッチトルクTchiとの関係式は、入力軸16上のトルクに置き換えた「Tclow」及び「Tchi」と、前記式(3)及び式(4)とに基づいて、「x」(=xlow)と「1−x」(=xhi)とを用いて定義することができる。そして、前記式(1)、前記式(2)、及び「Tclow」と「Tchi」との関係式から、制御操作量である、タービントルクTt、ローギヤ段側クラッチトルクTclow、及びハイギヤ段側クラッチトルクTchiを算出する関係式が導き出される。タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)は、「x」(=xlow)、「1−x」(=xhi)、入力軸角加速度dωt/dt、及び変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、ローギヤ段側クラッチトルクTclowは、「x」(=xlow)、入力軸角加速度dωt/dt、及び変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、ハイギヤ段側クラッチトルクTchiは、「1−x」(=xhi)、入力軸角加速度dωt/dt、及び変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。つまり、本実施例の変速モデルは、前記変速目標値と前記制御操作量とを含む自動変速機18の運動方程式(前記式(1),(2))と、前記トルク分担率を表す関係(前記式(3),(4))とを用いて、前記変速目標値に基づいて前記制御操作量を算出するものである。このように、本実施例では、前記式(1),(2)に、トルク分担率xにて設定した拘束条件を追加することで、変速モデルを用いて自動変速機18の変速を実行する。よって、2つの変速目標値に対して3つの制御操作量があったとしても、上記変速モデルを用いて3つの制御操作量を適切に決定することができる。この変速モデルとしては1つの所定のものであるが、上述したように変速の種類(例えば変速パターンやギヤ段間)毎に異なる定数とされたギヤトレーン運動方程式が用いられるので、自動変速機18の変速には、それぞれの変速の種類に対応する変速モデルが用いられることになる。
ここで、エンジン12の状態として、駆動状態(パワーオン状態)と被駆動状態(パワーオフ状態)とがある。変速モデルを用いて自動変速機18の変速を実行する制御では、駆動状態であるか被駆動状態であるかに応じて制御を切り分ける。具体的には、駆動状態では変速機入力回転速度ωiが上昇し易い一方で、被駆動状態では変速機入力回転速度ωiが低下し易い。その為、駆動状態と被駆動状態とでは変速目標値に追従させることができる方の係合装置が異なる。従って、エンジン12が駆動状態の場合には、変速機入力回転速度ωiの上昇を妨げられるようにハイギヤ段側クラッチトルクTchiを高める必要がある。また、エンジン12が被駆動状態の場合には、変速機入力回転速度ωiの低下を妨げられるようにローギヤ段側クラッチトルクTclowを高める必要がある。尚、エンジン12の状態が駆動状態とは、エンジン12の動力により駆動輪26が回転駆動される車両状態であり、エンジン12の状態が被駆動状態とは、駆動輪26側からの回転によりエンジン12が回転駆動される車両状態である。つまり、上記駆動状態や被駆動状態とは、エンジン12を単体で見た場合の作動状態ではなく、車両10の動力伝達経路における動力伝達方向の状態を示すものである。従って、仮にエンジン12単体では正トルクを出せる状態であっても、被駆動状態となる場合もある。見方を換えれば、ある回転軸上のトルクが正トルクであれば駆動状態であり、ある回転軸上のトルクが負トルクであれば被駆動状態である。但し、制御上は、正トルクと負トルクとで駆動状態と被駆動状態とを切り分ける必要はなく、変速目標値に追従させ易くなるように駆動状態と被駆動状態とを切り分ければ良い。
そこで、本実施例では、電子制御装置70は、変速モデルを用いた自動変速機18の変速を実行する際に、エンジン12の状態が駆動状態の場合は、ダウンシフト時には解放側の係合装置となる(換言すれば、アップシフト時には係合側の係合装置となる)ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくする一方で、エンジン12の状態が被駆動状態の場合は、ダウンシフト時には係合側の係合装置となる(換言すれば、アップシフト時には解放側の係合装置となる)ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくする。
上述したように変速を実行した場合に、解放側の係合装置のトルク分担率を大きくするパワーオンダウンシフトやパワーオフアップシフトでは、係合側の係合装置が係合されない可能性がある。その為、電子制御装置70は、確実な変速完了を保障する為に、変速機入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度へ同期させるときは、変速時における係合側の係合装置のトルク分担率を大きくする。
図3は、変速パターンに合わせて変速を適切に進行させる為に、上述した制御を反映させて設定した各変速パターン毎のトルク分担率の変化時期(すなわち解放側の係合装置と係合側の係合装置とのトルクを受け渡すタイミング)の一例である。
具体的には、パワーオンアップシフト或いはパワーオフダウンシフトでは、エンジントルクTe(パワーオン時の正トルク、或いはパワーオフ時の負トルク(エンジンフリクショントルク))によってタービン回転速度ωt(すなわち変速機入力回転速度ωi)が変化させられる方向と、変速に伴うタービン回転速度ωtの変化方向(変速によって進められる方向)とが異なる。すなわち、パワーオンアップシフト或いはパワーオフダウンシフトでは、エンジントルクTeにより自発的に変速を進行できない。従って、トルク分担率を変えないまま解放側のクラッチトルクの絶対値のみを低下させるだけでは(すなわち解放側の係合装置を解放に向かわせるだけでは)変速を進行させられないので、係合側の係合装置によりタービン回転速度ωtを変速に伴う変化方向へ変化させる必要がある。そこで、変速パターンがパワーオンアップシフト或いはパワーオフダウンシフトの場合には、図3の(a),(d)に示すように、変速を適切に進行させる為に、トルク分担率を変化させる時期をイナーシャ相開始前とする(すなわち解放側の係合装置と係合側の係合装置とのトルクの受け渡しをイナーシャ相開始前に実行する)。
一方で、パワーオフアップシフト或いはパワーオンダウンシフトでは、エンジントルクTeによってタービン回転速度ωtが変速に伴う変化方向へ変化させられる。すなわち、パワーオフアップシフト或いはパワーオンダウンシフトでは、エンジントルクTeにより自発的に変速を進行できる。従って、トルク分担率を変えないまま解放側のクラッチトルクの絶対値のみを低下させるだけで変速を進行させられるので、係合側の係合装置によりタービン回転速度ωtを変速に伴う変化方向へ変化させる必要がない。パワーオフアップシフト或いはパワーオンダウンシフトでは、係合側の係合装置により変速を進行させようとすると、却ってイナーシャトルクが増大して変速ショックが悪化する可能性がある。そこで、変速パターンがパワーオフアップシフト或いはパワーオンダウンシフトの場合には、図3の(c),(b)に示すように、変速を適切に進行させる為に、トルク分担率を変化させる時期をイナーシャ相終了時とする。すなわち、パワーオフアップシフト或いはパワーオンダウンシフトの場合には、変速ショックが抑制された滑らかな変速を実現する為に、エンジントルクTeに合わせて解放側の係合装置を解放することだけで変速を進行させた後、解放側の係合装置と係合側の係合装置とのトルクの受け渡しをイナーシャ相の終了に合わせるように実行することで係合側の係合装置によりタービン回転速度ωtを変速後の同期回転に合わせる。ここでの、イナーシャ相終了時とは、例えばイナーシャ相が概ね終了したような、タービン回転速度ωtが変速後の同期回転に概ね近づいた時点である。つまり、イナーシャ相終了時とは、係合側の係合装置を係合に向かわせなくとも、エンジントルクTeと解放側の係合装置の解放とによりイナーシャ相が開始されて更に進行させられ、タービン回転速度ωtを変速後の回転速度に同期させるところだけ係合側の係合装置を係合に向けて制御すれば良いような、イナーシャ相の終了間近の時点である。尚、エンジントルクTeと解放側の係合装置の解放とによりイナーシャ相が進行させられて終了させられ得る場合には、イナーシャ相終了時をイナーシャ相終了後としても良い。
ところで、変速過渡中において、運転者のアクセル操作や走行状態の変化等により、エンジン12の状態が駆動状態と被駆動状態との間で切り替わる場合がある。上述したように、変速モデルを用いて自動変速機18の変速を実行する制御では、駆動状態と被駆動状態との何れにも対応している。しかしながら、変速当初のエンジン12の状態に対応させるだけでは変速中に駆動状態と被駆動状態とが切り替わった場合に対応させられない可能性がある。つまり、エンジン12の状態が切り替わると追従させる為のクラッチトルクが不足して、変速当初のままでは変速目標値に追従できず、例えば変速ショックが発生したり或いは変速が進行し難くなったりする可能性がある。
本実施例の電子制御装置70は、上述したように、エンジン12の状態が駆動状態の場合はハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくする一方で、エンジン12の状態が被駆動状態の場合はローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくする。従って、この電子制御装置70は、変速モデルを用いた自動変速機18の変速中にエンジン12の状態が被駆動状態から駆動状態へ変化した場合には、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくする側へ変更する一方で、その変速中にエンジン12の状態が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合には、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくする側へ変更することになる。よって、変速中に駆動状態と被駆動状態とが切り替わった場合に対応することができる。
係合装置は、パッククリアランスが詰まった状態にならないと、クラッチトルクを発生させることができない。その為、トルク分担率を大きくする側の係合装置がクラッチトルクを発生させられるような状態(例えばパッククリアランスが詰まった状態)に制御されてないときに、トルク分担率を小さくする側の係合装置のトルク分担率を実際に小さくさせてしまうと、変速時に各々の係合装置にて受け持つべき伝達トルクに対して各々の係合装置のトルク容量の総和が不足して変速目標値に追従させ難くなる可能性がある。そこで、本実施例では、電子制御装置70は、トルク分担率を大きくする側の係合装置がトルク容量を発生させられるような状態に制御されている場合(すなわちクラッチパック詰め制御を完了している場合)に、トルク分担率の変更を可能とする。
より具体的には、図2において、変速制御部74は、自動変速機18の変速中であるか否かを、例えば実行すべきと判断した変速が未だ終了していないか否かに基づいて判定する。また、変速制御部74は、自動変速機18の変速中には、変速に関与する係合装置のうちで現在解放状態となっている係合装置のパッククリアランスを詰めた状態とするクラッチパック詰め制御を実行する。
制御操作量算出手段すなわち制御操作量算出部76は、変速制御部74により自動変速機18の変速中であると判定された場合には、上記変速モデルを用いて、前記変速目標値に基づいて前記制御操作量を算出する。具体的には、制御操作量算出部76は、トルク分担率算出手段すなわちトルク分担率算出部78と、変速目標値算出手段すなわち変速目標値算出部80とを備えている。制御操作量算出部76は、前記制御操作量の算出に際して、変速中のエンジン12の状態が駆動状態であるか或いは被駆動状態であるかを、例えばアクセル開度Acc(或いはスロットル弁開度θth、推定エンジントルク)、走行抵抗(ロードロード)、車速Vなどに基づいて判定する。また、制御操作量算出部76は、変速制御部74によるクラッチパック詰め制御が完了しているか否かを、例えばクラッチパック詰め制御の開始からの継続時間がパッククリアランスを詰めた状態となったと判断できる為の予め定められた所定時間を経過したか否かに基づいて判定する。また、制御操作量算出部76は、変速機入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度へ同期させるときであるか否かを、例えば実際の変速機入力回転速度ωiと変速後の同期回転速度との差回転速度が同期制御の開始を判断できる為の予め定められた所定差回転速度よりも小さくなったか否かに基づいて判定する。
トルク分担率算出部78は、変速制御部74により変速が判断されたときには、制御操作量算出部76による駆動状態か被駆動状態かの判定結果に基づいて、トルク分担率を算出する。具体的には、トルク分担率算出部78は、変速中には、制御操作量算出部76による判定結果が駆動状態である場合には、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくすると共にローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを小さくする。一方で、トルク分担率算出部78は、変速中には、制御操作量算出部76による判定結果が被駆動状態である場合には、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくすると共にハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを小さくする。この際、トルク分担率の変化を伴う場合には、トルク分担率算出部78は、トルク分担率xを変化させる態様(例えば傾き等)が予め定められた関係(変速進行度マップ)から、変化開始時(或いは前回算出時)からの経過時間に基づいてトルク分担率xを算出する。そして、トルク分担率算出部78は、前記式(3)及び式(4)から、その算出したトルク分担率xに基づいてローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowとハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiとを算出する。上記変速進行度マップは、例えば変速の種類(変速パターンやギヤ段間)毎に予め定められている。また、トルク分担率xの初期値は、アップシフトでは1とされ、ダウンシフトでは0とされている。
トルク分担率算出部78は、トルク分担率を変更する場合には、制御操作量算出部76によりクラッチパック詰め制御の完了が判定されていることを条件とする。また、トルク分担率算出部78は、制御操作量算出部76により変速機入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度へ同期させるときであると判定された場合には、係合側の係合装置のトルク分担率を大きくすると共に、解放側の係合装置のトルク分担率を小さくする。
変速目標値算出部80は、例えばイナーシャ相中のタービン回転速度ωt(=変速機入力回転速度ωi)の変化が変速ショックの抑制と変速時間とを両立させる所定変化となるように入力軸角加速度dωt/dtを変化させる態様が予め定められた関係(入力軸角加速度変化マップ)から、イナーシャ相開始時(或いは前回算出時)からの経過時間に基づいてイナーシャ相中の入力軸角加速度dωt/dtの目標値を算出する。また、変速目標値算出部80は、例えばイナーシャ相中以外では、タービン回転速度ωt(=変速機入力回転速度ωi)の変化に基づいて入力軸角加速度dωt/dtの目標値を算出する。加えて、変速目標値算出部80は、例えば変速機出力トルクToを変化させる態様が予め定められた関係(変速機出力トルク変化マップ)から、エンジン出力制御部72により算出された要求駆動力Fdem及び変速制御開始時(或いは前回算出時)からの経過時間に基づいて変速機出力トルクToの目標値を算出する。尚、上記入力軸角加速度変化マップ及び変速機出力トルク変化マップは、例えば変速の種類(変速パターンやギヤ段間)毎に予め定められている。
制御操作量算出部76は、前記制御操作量を算出する関係式から、トルク分担率算出部78により算出された係合装置のトルク分担率(x,xlow,xhi)、及び変速目標値算出部80により算出された各変速目標値(dωt/dt、Toの各目標値)に基づいて、制御操作量としての、タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)、ローギヤ段側クラッチトルクTclow、及びハイギヤ段側クラッチトルクTchiの各要求値を算出する。
エンジン出力制御部72は、制御操作量算出部76により算出されたタービントルクTt(エンジントルクTeも同意)の要求値が得られるように、エンジン出力制御指令信号Seを出力する。変速制御部74は、判断した自動変速機18のギヤ段が達成されるように、制御操作量算出部76により算出されたローギヤ段側クラッチトルクTclow及びハイギヤ段側クラッチトルクTchiの各要求値を得る為の油圧指令信号Spを油圧制御回路28へ出力する。
図4は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち駆動状態と被駆動状態との切り替わりが発生したとしても変速モデルを用いて自動変速機18の所望の変速を適切に実行する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図5及び図6は、図4のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートであって、図5はダウンシフト中に被駆動状態から駆動状態へ変化した場合の一例であり、図6はダウンシフト中に駆動状態から被駆動状態へ変化した場合の一例である。
図4において、先ず、変速制御部74に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば自動変速機18の変速中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合(図5,6のt1時点乃至t6時点)は制御操作量算出部76に対応するS20において、現在解放状態となっている係合装置のクラッチパック詰め制御が完了しているか否かが判定される。次いで、制御操作量算出部76に対応するS30において、エンジン12の状態が駆動状態であるか或いは被駆動状態であるかが判定される(図5,6のt1時点乃至t6時点)。次いで、制御操作量算出部76に対応するS40において、変速機入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度へ同期させるときであるか否かが判定される(図5,6のt1時点乃至t6時点)。次いで、トルク分担率算出部78に対応するS50において、例えば上記S30における駆動状態か被駆動状態かの判定結果に基づいて、係合装置のトルク分担率(x,xlow,xhi)が算出される。その為、駆動状態か被駆動状態かに基づいて係合装置のトルク分担率が変更される(図5のt2時点乃至t3時点,t4時点乃至t4’時点、図6のt4時点乃至t4’時点)。従って、変速中に、駆動状態と被駆動状態とが切り替わった場合でも、係合装置のトルク分担率が変更されることになる。具体的には、被駆動状態から駆動状態へ変化した場合には、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiが速やかに大きくされる側へ変更されると共にローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowが速やかに小さくされる側へ変更される(図5のt4時点乃至t4’時点)。或いは、駆動状態から被駆動状態へ変化した場合には、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowが速やかに大きくされる側へ変更されると共にハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiが速やかに小さくされる側へ変更される(図6のt4時点乃至t4’時点)。この際、上記S20にてクラッチパック詰め制御が完了していると判定されていることを条件としてトルク分担率が変更される。また、S40にて同期させるときであると判定された場合には係合側の係合装置のトルク分担率が大きくされると共に解放側の係合装置のトルク分担率が小さくされる(図5のt5時点乃至t5’時点、図6のt5時点)。次いで、変速目標値算出部80に対応するS60において、各変速目標値(入力軸角加速度dωt/dt、変速機出力トルクToの各目標値)が算出される。次いで、制御操作量算出部76に対応するS70において、前記制御操作量を算出する関係式から、上記S50にて算出された係合装置のトルク分担率、及び上記S60にて算出された各変速目標値に基づいて、制御操作量(エンジントルクTe、ローギヤ段側クラッチトルクTclow、ハイギヤ段側クラッチトルクTchiの各要求値)が算出される。次いで、エンジン出力制御部72及び変速制御部74に対応するS80において、上記S70にて算出された各制御操作量が得られるように、エンジン出力制御指令信号Se及び油圧指令信号Spが出力されて、エンジン12、解放側の係合装置、及び係合側の係合装置が制御される。
図5において、例えば変速モデルを用いて各目標値を実現させる各要求値が決定され、変速制御が開始される(本実施例ではt1時点、比較例ではt2時点)。この変速制御開始時点では、パワーオフダウンシフトであるので、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowが大きくされる側へ変更されると共にハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiが小さくされる側へ変更される(t2時点乃至t3時点)。この際、本実施例では、係合側のクラッチパック詰め制御の完了(t2時点)後に、トルク分担率が変更されるので、変速目標値へより追従させ易い。本実施例では、イナーシャ相開始(t3時点)後に、アクセルオンに伴って被駆動状態から駆動状態へ切り替えられると、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiが速やかに大きくされる側へ変更されると共にローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowが速やかに小さくされる側へ変更される(図5のt4時点乃至t4’時点)。比較例のように、被駆動状態から駆動状態へ切り替えられても変速当初の被駆動状態での制御が継続されると、変速目標値へ追従させられず、変速ショックが増大させられる(二点鎖線参照)。これに対して、本実施例では、変速目標値へ追従させ易く、変速ショックが抑制される。加えて、変速同期中は、係合側の係合装置のトルク分担率が大きくされると共に解放側の係合装置のトルク分担率が小さくされる(図5のt5時点乃至t5’時点)。よって、確実に変速が完了させられる。
図6において、例えば変速モデルを用いて各目標値を実現させる各要求値が決定され、変速制御が開始される(t1時点)。この変速制御開始時点では、パワーオンダウンシフトであるので、トルク分担率は変更されない。ここでは、今後のトルク分担率の変更に備えて、係合側のクラッチパック詰め制御が実行される(t1時点乃至t2時点)。本実施例では、イナーシャ相開始(t3時点)後に、アクセルオフに伴って駆動状態から被駆動状態へ切り替えられると、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowが速やかに大きくされる側へ変更されると共にハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiが速やかに小さくされる側へ変更される(図6のt4時点乃至t4’時点)。比較例のように、駆動状態から被駆動状態へ切り替えられても変速当初の駆動状態での制御が継続されると、変速目標値へ追従させられず、変速を進行させ難くなる(二点鎖線参照)。これに対して、本実施例では、変速目標値へ追従させ易く、変速ショックが抑制される。この実施例では、同期制御開始時点で元々係合側の係合装置のトルク分担率が大きくされているので、変速同期中にトルク分担率は変更されない。
上述のように、本実施例によれば、前記式(1)及び式(2)の運動方程式に何らかの拘束条件を設定しなければその式が解けないことに対して、トルク分担率xを拘束条件としたので、変速制御において難しいとされる係合装置のトルクの受け渡しを制御するのに適しており、且つその式を解くことができる。見方を換えれば、トルクの受け渡しを表現したトルク分担率xを拘束条件としたので、何れの変速パターンにも所定の変速モデルにて対応することができる。具体的には、変速進行度を制御するのに適したトルク分担率xを拘束条件とすることで、タイアップや吹き上がりの発生を抑制したり、反対に、敢えてタイアップや吹き上がりを発生させる制御の制御性が向上する。また、エンジントルクダウン制御を適切に実行することができる。このように、本実施例によれば、2つの変速目標値に対して3つの制御操作量があったとしても、変速モデルを用いて3つの制御操作量を適切に決定し、2つの変速目標値を実現するような自動変速機18の所望の変速を実行することができる。
また、本実施例によれば、更に、エンジン12が駆動状態の場合はハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくする一方で、エンジン12が被駆動状態の場合はローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくするので、変速中に駆動状態と被駆動状態とが切り替わった場合に対応させることができる。つまり、変速目標値に追従させることができる方の係合装置のクラッチトルクが高められることになり、変速目標値に追従させ易くなる。よって、本実施例では、変速モデルを用いて自動変速機18の所望の変速を一層適切に実行することができる。
また、本実施例によれば、変速中にエンジン12が被駆動状態から駆動状態へ変化した場合には、ハイギヤ段係合装置のトルク分担率xhiを大きくする側へ変更する一方で、変速中にエンジン12が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合には、ローギヤ段係合装置のトルク分担率xlowを大きくする側へ変更するので、変速中に駆動状態と被駆動状態とが切り替わった場合に、変速目標値に確実に追従させ易くなる。
また、本実施例によれば、係合側となる係合装置のクラッチパック詰め制御が完了している場合に、トルク分担率の変更を可能とするので、変速目標値に追従させ難くなる可能性があるという課題の発生が回避される。
また、本実施例によれば、変速機入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度へ同期させるときは、変速時における係合側の係合装置のトルク分担率を大きくするので、変速中に駆動状態と被駆動状態とが切り替わったことに伴って係合装置のトルク分担率を変更したとしても、変速が確実に完了させられる。
また、本実施例によれば、前記式(1)及び式(2)の運動方程式と、前記式(3)及び式(4)の関係とを用いて、変速目標値に基づいて制御操作量を算出するので、変速制御において難しいとされるトルクの受け渡しに関連する制御を上記運動方程式に反映させることができ、3つの制御操作量を適切に決定することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、その他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、本発明を、図4のフローチャートにて説明したが、これに限らない。例えば、クラッチパック詰め制御を実行しないのであれば、図4のS20のステップは必要ない。或いは、クラッチパック詰め制御を実行する場合であっても、図4のS20のステップは必ずしも必要ない。また、図6に示す本実施例のように、変速同期中にトルク分担率変更する必要がないような場合などには、図4のS40のステップは必要ない。また、図4におけるステップS50とS60とは実行順が入れ替わっても差し支えない。
また、前述の実施例では、本発明を、図5及び図6のタイムチャートに示すように、ダウンシフトを例示して主に説明したが、アップシフトであっても本発明が適用されることは言うまでもないことである。
また、前述の実施例では、出力軸20側の回転部材として出力軸20を例示したが、これに限らず、出力軸20側の回転部材は、出力軸20から駆動輪26までの動力伝達経路における回転部材であれば良い。入力軸16側の回転部材として入力軸16を例示したが、これに限らず、入力軸16側の回転部材は、エンジン12から入力軸16までの動力伝達経路における回転部材であれば良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。