JP5991033B2 - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリアミド樹脂が本来有する耐熱性、電気絶縁性などを損なうことなく、高度な耐トラッキング性を有すると共に、機械的強度、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアミド樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくは、高い耐電圧特性を要求される電気・電子部品や自動車電装部品のような、特に高度な耐トラッキング性と優れた機械的強度とを同時に要求される用途に適するポリアミド樹脂組成物に関するものである。
ポリアミド樹脂は、耐熱性、機械的強度、電気絶縁性、及び成形性に優れることから、電気・電子部品や自動車電装部品等に幅広く用いられている。中でも非密閉状態で湿気、塵埃にさらされた状態で高電圧のかかる電気・電子部品や自動車電装部品においては、耐トラッキング性が要求される。近年この様な部品においては、各種機器の小型化の趨勢から薄肉化、小型化されてきており、その結果絶縁距離が短くなり成形品の耐トラッキング性と機械的強度の更なる向上が望まれている。しかしながら、ポリアミド樹脂は、耐トラッキング性能が低く、高度な耐トラッキングが要求される部分には使用が困難であった。
ポリアミド樹脂の耐トラッキング性を改良する試みについては、これまでにもいくつかの検討がなされ、(a)ポリアミド樹脂、(b)メラミンシアヌレート、及び(c)ホウ酸金属塩からなるウィスカーを配合する樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)ポリアミド樹脂、(b)臭素系難燃剤、(c)アンチモン化合物、(d)水酸化マグネシウム及び(e)ガラス繊維を配合する樹脂組成物(例えば特許文献2参照。)等が提案されている。
特開平11−001613号公報(特許請求の範囲参照。) 特開平11−172101号公報(特許請求の範囲参照。)
しかし、特許文献1,2に提案された樹脂組成物においては、耐トラッキング性がまだ十分に満足できないという課題があった。また、これらの提案樹脂組成物においては、十分に優れた耐トラッキング性を得るためには、高いフィラー含有量が必須となり、このため組成物の機械的強度の低下が著しく、更には金型離型性や成形品外観の悪化をきたすものであった。即ち、これらの樹脂組成物はおしなべて、優れた耐トラッキング性と、高い機械的強度、良好な金型離型性や成形品外観とを同時に得ることは難しかった。
そこで、本発明は、特に高度な耐トラッキング性を有すると共に、機械的強度、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とし、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に有用なポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、無機フィラー及び繊維状充填材を配合し、更に必要に応じて離型剤を配合するポリアミド樹脂組成物が、高度な耐トラッキング性を有すると共に、機械的強度、金型離型性、成形品外観にも優れる組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、少なくとも下記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)1〜50重量部、水酸化マグネシウム(C1),2CaO・3B・5HOで表されるホウ酸カルシウムの水和物(C2),ハイドロタルサイト(C3)から選択される1種以上の無機フィラー(C)30〜200重量部及びガラス繊維(D)30〜200重量部を含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物に関するものである。

Figure 0005991033
(ここで、x、zはいずれもが0を超え、yが0以上、x+y+z=1であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)1〜50重量部、水酸化マグネシウム(C1),2CaO・3B・5HOで表されるホウ酸カルシウムの水和物(C2),ハイドロタルサイト(C3)から選択される1種以上の無機フィラー(C)30〜200重量部及び繊維状充填剤(D)30〜200重量部からなるものである。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂(A)とは、一般的には重合可能なω−アミノ酸、ラクタム、又はジカルボン酸とジアミン等を原料とし、これらの開環重合、重縮合によって得られる重合体、又はこれらの共重合体やブレンド物をいう。
原料であるω−アミノ酸としては、例えばε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸や、2−クロロ−パラアミノメチル安息香酸、2−メチル−パラアミノメチル安息香酸、4−アミノメチル安息香酸等の芳香族アミノ酸等が挙げられ、ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等が挙げられ、カルボン酸としては、例えばアジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、キシリレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられ、ジアミンとしては、例えばヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(又は2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、テレフタルジアミン等が挙げられる。
該ポリアミド樹脂(A)としては、例えばポリアミド6(ε−アミノカプロン酸又はε−カプロラクタムの重縮合ポリアミド)、ポリアミド11(11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムの重縮合ポリアミド)、ポリアミド12(12−アミノドデカン酸又はラウリルラクタムの重縮合ポリアミド)、ポリアミド66(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の共縮重合ポリアミド)、ポリアミド46(テトラメチレンジアミンとアジピン酸の共縮重合ポリアミド)、ポリアミド610(ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の共縮重合ポリアミド)、ポリアミド6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の共縮重合ポリアミド)、ポリアミド6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の共縮重合ポリアミド)、ポリアミド9T(ノナンメチレンジアミンとテレフタル酸の共縮重合ポリアミド)が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する上記の一般式(1)で示されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)は、ポリアミド樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させるために用いられるものである。そして、該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)は、上記の一般式(1)において、x、z、はいずれもが0を超え、yは0以上、x+y+z=1であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基からなるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体である。
ここで、xが0である場合、得られる組成物は耐熱性に劣るものとなる。また、zが0である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。そして、特に高い耐トラッキング性と良好な機械的強度を併せ持つポリアミド樹脂組成物となることから、x=0.25〜0.94、y=0〜0.15、z=0.02〜0.75の範囲であるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であることが好ましく、また、x、y、z、はいずれもが0を超えるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、特にx=0.69〜0.94、y=0.01〜0.15、z=0.02〜0.30の範囲であるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等を挙げることができる。ここで、炭素数10を超えるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。
該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の製法は特に制限はなく、例えばエチレン単量体、脂肪酸ビニルエステル単量体及びビニルアルコール単量体を共重合する方法;エチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を部分鹸化する方法、等により得ることが可能であり、中でもエチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を部分鹸化し得られるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体は工業的に入手が容易であることから好ましく、中でもエチレン−酢酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、工業的に入手が容易であること、特に耐トラッキング性に優れるポリアミド樹脂組成物となることから最も好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、1〜50重量部である。該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量が1重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。一方、該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量が50重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、成形品外観に劣るものとなる。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する無機フィラー(C)は、水酸化マグネシウム(C1),2CaO・3B・5HOで表されるホウ酸カルシウムの水和物(C2),ハイドロタルサイト(C3)から選択される1種以上の無機フィラーである。
該水酸化マグネシウム(C1)としては、水酸化マグネシウムと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも、得られるポリアミド樹脂組成物が、耐トラッキング性に優れ、かつ高い機械的強度を有するものとなることから、化学式Mg(OH)で示される水酸化物を80重量%以上含む比較的純度の高い水酸化マグネシウムが好ましく、化学式Mg(OH)で示される水酸化物を80重量%以上、CaO含有量5重量%以下、塩素含有量1重量%以下である水酸化マグネシウムがより好ましく、Mg(OH)95重量%以上、CaO含有量1重量%以下、塩素含有量0.5重量%以下である水酸化マグネシウムが更に好ましく、Mg(OH)98重量%以上、CaO含有量0.1重量%以下、塩素含有量0.1重量%以下の高純度水酸化マグネシウムが最も好ましい。
該水酸化マグネシウム(C1)は、特に耐トラッキング性、機械的強度、成形品外観に優れたポリアミド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が0.3〜10μmの範囲を有するものであることが好ましく、特に0.5〜3μmの範囲を有するものであることが好ましい。また、該水酸化マグネシウム(C1)の比表面積は、特に耐トラッキング性、機械的強度に優れたポリアミド樹脂組成物となることから、比表面積が10m/g以下であることが好ましい。
該水酸化マグネシウム(C1)としては、例えば表面処理が施されていない水酸化マグネシウム(以下、表面未処理水酸化マグネシウム(C1−1)と記す。)、高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸の金属塩、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等で表面処理が施された水酸化マグネシウム(以下、表面処理水酸化マグネシウム(C1−2)と記す。)、等であることが好ましく、そして、表面処理水酸化マグネシウムの表面被覆処理剤について特に制限はなく、高級脂肪酸及びその金属塩としては、例えばステアリン酸、オレイン酸等、及びそのアルカリ金属塩等;アニオン系界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル等;リン酸エステルとしては、例えばオルトリン酸と高級アルコールのエステル類等;シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等;チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等;アルミニウム系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等;多価アルコールと脂肪酸のエステル類としては、例えばグリセリンモノステアレート等、が挙げられる。そして、これら水酸化マグネシウム(C1)の中でも特に機械的強度に優れるポリアミド樹脂組成物となることから、表面処未理水酸化マグネシウム(C1−1)、シラン系カップリング剤で表面処理が施された表面処理水酸化マグネシウム(C1−2)及びこれらの混合物が好ましい。
該ホウ酸カルシウムの水和物(C2)としては、2CaO・3B・5HOの構造式で表されるものであり、一般的には天然鉱物であるコマレナイトとして称されることもあるものであり、該ホウ酸カルシウムの水和物(C2)が2CaO・3B・5HOの構造を有するものであれば、天然鉱物に限定されるものではない。
そして、該ホウ酸カルシウムの水和物(C2)は、特に耐トラッキング性、機械的強度、成形品外観に優れるポリアミド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が1〜30μmの範囲を有するものであることが好ましく、特に1〜20μmの範囲を有するものであることが好ましい。
また、該ホウ酸カルシウムの水和物(C2)は、その表面が被覆処理されているもの、若しくはされていないもののいずれも用いることができる。表面が被覆処理される場合の、表面被覆処理剤は特に制限はなく、高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸の金属塩、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、多価アルコールと脂肪酸のエステル類等が挙げられる。高級脂肪酸及びその金属塩としては、例えばステアリン酸、オレイン酸等、及びそのアルカリ金属塩等;アニオン系界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル等;リン酸エステルとしては、例えばオルトリン酸と高級アルコールのエステル類等;シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等;チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等;アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等;多価アルコールと脂肪酸のエステル類としては、例えばグリセリンモノステアレート等、が挙げられる。
該ハイドロタルサイト(C3)としては、ハイドロタルサイトと称される範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えば下記の一般式(2)で示されるものを挙げることができる。
(M1−a(OH))(Cn−a/n・mHO (2)
(ここで、Mは2価の金属、Nは3価の金属、Cn−は陰イオンを表し、aは0<a<1、mはm≧0、nは1,2又は3である。)
上記の一般式(2)で示されるハイドロタルサイトは、(M1−a(OH))で表わされる複合金属水酸化物の層と、その層の間に挿入したCn−で示される陰イオン及び水とから成る構造よりなるものである。そして、層間に挿入された水(以下、層間水と言う。)は、おおよそ200℃前後に加熱することにより層間より脱離させることが可能である。
本発明のポリアミド樹脂組成物を調製する際には、加熱溶融混練法により調製することが一般的であり、その際の混練温度は250℃以上に達することが多いことから、該ハイドロタルサイト(C3)としては、加熱溶融混練時における層間水の脱離を抑制することが可能となることから、予め層間水を脱離させたものであることが好ましい。層間水を脱離させる方法としては、例えば加熱乾燥する方法が挙げられる。この様な加熱乾燥装置としては、例えば静置型乾燥機、回転・撹拌型乾燥機、搬送型乾燥機等が例示できる。また加熱条件としては、処理するハイドロタルサイトの量、加熱乾燥装置の型式や大きさ等により異なるものではあるが、例えば加熱温度としては200〜280℃、加熱時間としては2時間〜半日程度であることが好ましい。
そして、上記の一般式(2)で示されるハイドロタルサイトのMである2価の金属としては、例えばMg、Zn、Ca、Ni、Co等を挙げることができ、Nである3価の金属としては、例えばAl、Fe、Mn、Cr等を挙げることができ、Cn−である陰イオンとしては、例えばCO 2−、SO 2−、Cl等を挙げることができる。また、aは0<a<1であり、層間水の量を示すmとしては、m≧0であり、本発明のポリアミド樹脂組成物を調製する際に脱離する水が少なくなることから0≦m≦5であることが好ましい。
該ハイドロタルサイト(C3)としては、具体的には(Mg0.75Al0.25(OH))(CO 2−0.125・4HO、(Mg0.75Al0.25(OH))(CO 2−0.125、(Mg0.67Al0.33(OH))(CO 2−0.167・3HO、(Mg0.67Al0.33(OH))(CO 2−0.167、(Mg0.7Al0.3(OH))(CO 2−0.15・3.5HO又は(Mg0.7Al0.3(OH))(CO 2−0.15等を挙げることができる。
該ハイドロタルサイト(C3)は、特に耐トラッキング性、機械的強度、成形品外観に優れるポリアミド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が0.3〜10μmの範囲を有するものであることが好ましく、特に0.4〜2μmの範囲を有するものであることが好ましい。また、該ハイドロタルサイト(C3)の比表面積は、特に耐トラッキング性、機械的強度に優れたポリアミド樹脂組成物となることから、20m/g以下であることが好ましい。
また、該ハイドロタルサイト(C3)は、その表面が被覆処理されているもの、若しくはされていないもののいずれも用いることができる。表面が被覆処理される場合の、表面被覆処理剤は特に制限はなく、高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸の金属塩;アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、多価アルコールと脂肪酸のエステル類等が挙げられる。高級脂肪酸及びその金属塩としては、例えばステアリン酸、オレイン酸等、及びそのアルカリ金属塩等;アニオン系界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル等;リン酸エステルとしては、例えばオルトリン酸と高級アルコールのエステル類等;シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等;チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等;アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等;多価アルコールと脂肪酸のエステル類としては、例えばグリセリンモノステアレート等、が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物において、該無機フィラー(C)として、水酸化マグネシウム(C1),ホウ酸カルシウムの水和物(C2),ハイドロタルサイト(C3)のそれぞれを単独で用いることも可能であり、又、2種以上の混合物として用いることも可能である。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する無機フィラー(C)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、30〜200重量部である。該無機フィラー(C)の配合量が30重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。一方、該無機フィラー(C)の配合量が200重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、金型離型性、成形品外観に劣るものとなる。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する繊維状充填剤(D)は、該ポリアミド樹脂組成物の機械的強度及び寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、この目的を達成できる繊維状充填剤であれば、如何なるものを用いることも可能である。繊維状充填剤(D)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、ガラス繊維が好ましい。該繊維状充填剤(D)は、該ポリアミド樹脂組成物の機械的強度が高いものとなることから、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する繊維状充填剤(D)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、30〜200重量部である。該繊維状充填剤(D)の配合量が30重量部未満である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。一方、該繊維状充填剤(D)の配合量が200重量部を越える場合、得られる組成物は溶融流動性、成形品外観に劣るものとなる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、得られる成形品の金型離型性や外観をより優れたものとするために離型剤(E)を配合してなることが好ましい。該離型剤(E)としては離型剤として知られている範疇に属するものであれば用いることが可能であり、例えばカルナバワックス(E1)、ポリエチレンワックス(E2)、ポリプロピレンワックス(E3)、ステアリン酸金属塩(E4)、酸アマイド系ワックス(E5)等を挙げることができ、その中でも特に得られる成形品の金型離型性、成形品外観に優れるポリアミド樹脂組成物となることからカルナバワックス(E1)であることが好ましい。
該カルナバワックス(E1)としては、一般的な市販品を用いることができ、例えば(商品名)精製カルナバ1号粉(日興ファインプロダクツ製)等を挙げることができる。
該離型剤(E)の配合量は、特に金型離型性、成形品外観に優れるポリアミド樹脂組成物となることからポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜5重量部であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填剤を配合していてもよく、非繊維状充填剤としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、タルク、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、マイカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填剤は、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであってもよい。
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート等の1種以上を混合して使用することができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常250〜350℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、パワーモジュール、各種端子板、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバータ、多極ロッド、電気部品キャビネット、ライトソケット、プラグ、コンデンサ封口板などの用途に特に好適に使用できる。
本発明は、高度な耐トラッキング性を有すると共に、機械的強度、金型離型性、および成形品外観にも優れるポリアミド樹脂組成物を提供するものであり、該ポリアミド樹脂組成物は、特に電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なものである。
次に、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されるものではない。
実施例及び比較例において用いたポリアミド樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、無機フィラー、繊維状充填剤、カルナバワックスの詳細を以下に示す。
<ポリアミド樹脂>
ポリアミド樹脂(A−1)(以下、単にPA(A−1)と記す。):(株)クラレ製、(商品名)ジェネスタN1000A、ポリアミド9T。
<エチレン−ビニルアルコール系共重合体>
エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体(B−1)(以下、単に共重合体(B−1)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6820、x=0.817、y=0.021、z=0.162、Rがメチル基。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B−2)(以下、単に共重合体(B−2)と記す。):東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6051、x=0.802、y=0、z=0.198。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(B−3)(以下、単に共重合体(B−3)と記す。):(株)クラレ製、(登録商標)エバール F171B、x=0.32、y=0、z=0.68。
<水酸化マグネシウム>
表面未処理水酸化マグネシウム(C1−1)(以下、単に水酸化マグネシウム(C1−1)と記す。);マーティンスベルク社製、(商品名)マグニフィンH5;Mg(OH)含有量99.8重量%、平均粒子径0.8μm、比表面積5.5m/g。
表面処理水酸化マグネシウム(C1−2)(以下、単に水酸化マグネシウム(C1−2)と記す。);協和化学工業(株)製、(商品名)キスマ5P;Mg(OH)含有量99.5重量%、平均粒子径0.7μm、比表面積6.5m/g、表面処理:メタクリロキシシラン。
ホウ酸カルシウムの水和物(C2−1)(以下、単にホウ酸カルシウム(C2−1)と記す。);キンセイマテック(株)製、(商品名)UBP3ミクロン品、平均粒子径3μm。
ハイドロタルサイト(C3−1)(以下、単にハイドロタルサイト(C3−1)と記す。);堺化学工業(株)製、(商品名)STABIACE HT-1;(Mg0.67Al0.33(OH))(CO 2−0.167・3HO、平均粒子径0.58μm、BET比表面積10m/g。
ハイドロタルサイト(C3−2)(以下、単にハイドロタルサイト(C3−2)と記す。);ハイドロタルサイト(C3−1)を加熱処理し、層間水を脱離除去し、(Mg0.67Al0.33(OH))(CO 2−0.167としたもの。
<繊維状充填剤>
ガラス繊維(D−1);エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製、(商品名)RES03−TP91;繊維径9μm、繊維長3mm。
<カルナバワックス>
カルナバワックス(E1−1);日興ファインプロダクツ製、(商品名)精製カルナバ1号粉末。
ハイドロタルサイトの加熱処理
送風定温乾燥機(アドバンテック社製、(商品名)FC−610)にハイドロタルサイト(C3−1)を入れ、220℃で5時間加熱処理し、ハイドロタルサイトの層間水を脱離除去しハイドロタルサイト(C3−2)を得た。本加熱処理によりハイドロタルサイト(C3−1)は11重量%減量し、層間水は脱離除去された。
実施例及び比較例で用いた評価・測定方法を以下に示す。
〜耐トラッキング性の測定〜
射出成形により直径50mm、厚さ3mmの円盤状試験片を作製し、該試験片を用いて、ICE112に準じて比較トラッキング指数(以下、CTIと記す。)を測定した。CTIとして500(V)を超えるものを耐トラッキング性に優れると判断した。
〜曲げ強度の測定〜
射出成形により長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの試験片を作製し、該試験片を用いて、ASTM D−790 Method−1(三点曲げ法)に準じ、曲げ強度を測定した。測定装置は(商品名)AG−5000B(島津製作所製)を用い、支点間距離50mm、測定速度1.5mm/分の試験条件で行った。曲げ強度として120MPa以上のものを機械的強度に優れると判断した。
〜金型離型性〜
射出成形機に、長さ120mm、幅60mm、深さ20mm、厚さ2mmの箱型成形品の金型を装着し、次いで、シリンダー温度310℃、冷却時間60秒、及び金型温度135℃の条件で、ポリアミド樹脂組成物を射出し、冷却後、金型コアからの該箱型成形品の離型性を評価した。金型コアからまったく抵抗無く離型できる状態を○、抵抗はあるものの離型に手間取らない状態を△、抵抗が大きく離型に手間取る状態を×として判定した。離型性が○である状態を離型性に優れると判断した。
〜成形品外観〜
耐トラッキング性の測定と同じ円盤状試験片を作成し、該試験片の表面状態を目視にて観察した。表面全体に艶のあるものを○、表面の一部に艶のあるものを△、表面にまったく艶のないものを×として判定した。成形品外観が○であるものを成形品外観に優れると判断した。
実施例1
PA(A−1)45.5重量%、共重合体(B−1)9.0重量%及び水酸化マグネシウム(C1−1)45.5重量%の割合で配合して、シリンダー温度320℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(D−1)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアミド樹脂組成物を作製した。その際のポリアミド樹脂組成物の構成割合は,PA(A−1)100重量部に対し、共重合体(B−1)20重量部、水酸化マグネシウム(C1−1)100重量部、ガラス繊維(D−1)100重量部であった。
該ポリアミド樹脂組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、CTIを測定し成形品外観を評価するための円盤状試験片、曲げ強度を測定するための試験片をそれぞれ成形した。更に金型離型性を評価した。これらの結果を表1に示した。
得られたポリアミド樹脂組成物は、CTI、曲げ強度、金型離型性、及び成形品外観に優れていた。
実施例2〜6
PA(A−1)、共重合体(B−1,2,3)、水酸化マグネシウム(C1−1)、水酸化マグネシウム(C1−2)、ホウ酸カルシウム(C2−1)、ハイドロタルサイト(C3−1)、ハイドロタルサイト(C3−2)、ガラス繊維(D−1)及びカルナバワックス(E1−1)を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアミド樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
得られた全てのポリアミド樹脂組成物は、CTI、曲げ強度、金型離型性、及び成形品外観に優れていた。
Figure 0005991033
比較例1〜5
PA(A−1)、共重合体(B−1)、水酸化マグネシウム(C1−1)、水酸化マグネシウム(C1−2)、ホウ酸カルシウム(C2−1)、及びガラス繊維(D−1)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法により組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
比較例1,2,3,5で得られる組成物はCTIで劣り、比較例4,6で得られる組成物は曲げ強度で劣っていた。また、比較例3,4で得られる組成物は金型離型性で劣り、比較例4で得られる組成物は成形品外観でも劣っていた。
Figure 0005991033
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高度な耐トラッキング性を有すると共に、機械的強度、金型離型性、および成形品外観にも優れるものであり、特に電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に期待されるものである。

Claims (6)

  1. ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、少なくとも下記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)1〜50重量部、水酸化マグネシウム(C1)、2CaO・3B・5HOで表されるホウ酸カルシウムの水和物(C2)、ハイドロタルサイト(C3)から選択される1種以上の無機フィラー(C)30〜200重量部及びガラス繊維(D)30〜200重量部を含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
    Figure 0005991033
    (ここで、x、zはいずれもが0を超え、yは0以上、x+y+z=1であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
  2. ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9Tから選択される1種以上のポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)が、x=0.25〜0.94、y=0〜0.15、z=0.02〜0.75のエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. エチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体(B)が、x=0.69〜0.94、y=0.01〜0.15、z=0.02〜0.30のエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、さらに離型剤(E)0.01〜5重量部を配合してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 離型剤(E)が、カルナバワックス(E1)、ポリエチレンワックス(E2)、ポリプロピレンワックス(E3)、ステアリン酸金属塩(E4)、酸アマイド系ワックス(E5)からなる群より選択される1種以上の離型剤であることを特徴とする請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
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