JP5989037B2 - 精製油脂の製造方法、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法、油脂の曝光臭を低減させる方法、及び大豆油の耐冷性を改善する方法 - Google Patents
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Description
前記脱臭工程は、205〜225℃の温度条件にて、300〜800Paの真空度で、53〜100分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂であり、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0〜7.0質量%である、精製油脂の製造方法。
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上である、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法。
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上である、油脂の曝光臭を低減させる方法。
精製油脂の製造方法における脱臭工程は、水蒸気の存在下で原料油脂を加熱することで、原料油脂中の揮発性のにおい成分を除去する工程として知られる。しかし、脱臭工程の条件によっては、油脂中の栄養成分等を損なってしまったり、風味上好ましくない成分が増加してしまったりする可能性がある。その結果、得られる精製油脂の風味(甘味、コク等)が劣ってしまい、得られる精製油脂を調理に供した際に、精製油脂と、他の材料との味のバランスが悪くなる可能性がある。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、脱臭工程において、後述の温度条件、減圧条件、及び接触時間を満たす条件下で、所定の原料油脂と水蒸気とを接触させる接触工程を設けると、油脂中のにおい成分(特に、アルデヒド類)の量を低減させ、風味が良好な精製油脂が得られることを見出した。以下、接触工程における各条件について説明する。なお、本発明において、「原料油脂」とは、本発明における接触工程に供される油脂を指し、「精製油脂」とは、少なくとも接触工程を経て得られた油脂を指す。
本発明における接触工程では、原料油脂と水蒸気とを、205〜225℃、好ましくは205〜220℃、最も好ましくは210〜220℃の温度条件にて接触させる。温度条件が205℃以上であると、原料油脂の脱臭を十分に行うことができ、風味が良好な精製油脂が得られ、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。温度条件が225℃以下であると、得られる精製油脂の風味の低減を抑制でき、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。
本発明における接触工程の減圧条件は、300〜800Paの真空度、好ましくは300〜600Paの真空度、さらに好ましくは330〜600Paの真空度である。真空度が300Pa以上であると、得られる精製油脂を調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。真空度が800Pa以下であると、脱臭を十分に行うことができ、良好な風味を有する精製油脂が得られる。
本発明における接触工程では、原料油脂と、水蒸気とを53〜100分間、好ましくは53〜90分間、より好ましくは53〜85分間接触させる。接触時間が53分間以上であると、脱臭を十分に行うことができ、良好な風味を有する精製油脂が得られる。接触時間が53〜100分間の範囲であれば、得られる精製油脂を調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。接触時間が100分間以上であると、油脂中の栄養成分(トコフェロール等)の低減やトランス脂肪酸の増加をもたらし得るため好ましくない。
接触工程において原料油脂と接触させる水蒸気の量は、原料油脂に対して1.0〜7.0質量%であり、好ましくは1.5〜7.0質量%、より好ましくは2.0〜5.0質量%であってもよい。水蒸気の量が原料油脂に対して1.0質量%以上であると、脱臭を十分に行うことができ、良好な風味を有する精製油脂が得られる。水蒸気の量が原料油脂に対して7.0質量%以下であると、精製油脂中の栄養成分(トコフェロール等)の含有量の低減を抑制することができる。
本発明における脱臭工程において、上記接触工程以外における条件は、通常脱臭工程において使用される条件であってもよく、特に限定されないが、上記温度条件の上限(すなわち、225℃)を超えないこと、及び、上記減圧条件の範囲(すなわち、300〜800Paの真空度)を超えないことが好ましい。上記接触工程以外における脱臭工程の脱臭時間は、トランス脂肪酸の増加を防ぐために、合計で120分間未満であることが好ましい。本発明における脱臭工程は、接触工程からなるものであってもよい。
脱臭工程を実現するための脱臭装置としては、バッチ式、半連続式、連続式等の型が知られる。また、構造に応じて、ガードラー式、キャンプロ式、キャンプロ−ミウラ式等の各種の脱臭装置が知られる。本発明においては、いずれの型の脱臭装置を使用してもよい。下記のような脱臭装置内で、原料油脂と、水蒸気とを上記の条件で接触させた後、脱臭工程(接触工程)を経た精製油脂が得られる。
本発明の製造方法は、脱臭工程の前に脱色工程を含んでいてもよい。脱色工程の条件は特に限定されないが、原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100〜15000ppm、好ましくは300〜8000ppm、より好ましくは400〜8000ppm、最も好ましくは1000〜8000ppmの水の存在下で接触させると、得られた精製油脂は、曝光保存等によって光に曝露されたとしても、曝光臭(光への油脂の曝露に起因する不快臭であり、2,3−オクタンジオン等が原因物質である)の発生が抑制されている。このような曝光臭の抑制効果は、原料油脂が、曝光臭を生じやすいことが知られる大豆油である場合に特に顕著である。水の量が原料油脂に対して100ppm以上であると、原料油脂を十分に脱色できる。水の量が原料油脂に対して15000ppm以下であると、脱色効率を低下させずに原料油脂を脱色できる。一般的に、脱色工程は、アルカリ脱酸工程の後に行うことが多い。アルカリ脱酸工程において、通常、油脂は、水洗後に乾燥され、脱色工程に供される。かかる場合、脱色工程に供される油脂は、油脂に対して100ppm未満の水とともに存在し、ほぼ乾燥状態にある。そのため、アルカリ脱酸工程において、油脂の乾燥を行わないことで、油脂とともに存在する水分量を容易に100ppm以上にすることができる。原料油脂と、活性白土とを接触させた後、活性白土をろ過等で除去することで、脱色工程を経た油脂が得られる。
本発明における原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油(亜麻仁油)及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂である。本発明における「パーム系油脂」とは、ヨウ素価が50〜72であるパーム油又はパーム分別軟質部を指す。
本発明の製造方法によれば、風味が良好な精製油脂を得ることができる。精製油脂の風味は、官能評価によって、精製油脂の甘味及びコク、精製油脂を調理に供した際の調理品の風味、及び他材料との風味のバランスのうちのいずれかを評価することで特定される。
原料油脂(この油脂は、少なくとも脱酸工程を経た油脂である)として、大豆油、べに花油、及び、ひまわり油(いずれも、日清オイリオグループ株式会社製)のいずれかに対して、脱色工程、次いで脱臭工程を行い、各実施例及び比較例の精製油脂を得た。
得られた各精製油脂を、直接口に含み、風味を下記の基準で評価した。評価結果を表1〜3に示す。
◎:甘味及びコクを感じる
○:わずかに甘味及びコクを感じる
△:ほとんど甘味及びコクを感じない
×:雑味を感じる
得られた各精製油脂を使用し、下記の方法でスクランブルエッグ及びドレッシングを調製し、得られたスクランブルエッグ及びドレッシングの風味を評価した。各評価結果を表1〜3に示す。
強火で加熱されたフライパンに、各精製油脂(大さじ1杯)を入れた後、卵(2個)、コショウ(0.2g)、塩(0.5g)を入れて混ぜ、スクランブルエッグを調製した。得られたスクランブルエッグを室温まで放置後、下記の基準で風味を評価した。
◎:卵の風味が非常に生かされ、甘味及びコクを感じる
○:卵の風味が生かされ、甘味及びコクを感じる
△:甘味及びコクをわずかに感じる
×:甘味及びコクを感じない
容器に塩(1g)、砂糖(1g)及びコショウ(0.1g)を入れた後、酢(17g)を加えて、泡立て器で撹拌した。撹拌中に油脂(48g)を少しずつ加えて、よく混ぜ合わせ、ドレッシングを調製した。得られたドレッシングをボトルに入れ、よく振り混ぜた後、レタスに振り掛け、下記の基準で風味を評価した。
○:酢及び精製油脂の風味のバランスがよく、後味が残らない
△:精製油脂の風味に対して酢の風味が強く、後味が残る
×:ドレッシングに適さない
◎:非常に良好
〇:良好
△:普通
×:好ましくない
上記の「評価1」における実施例1、比較例2、6及び7の各精製油脂2gを20mlのバイアル瓶に入れ、180℃の加温下、10分間振とうした後、ヘッドスペースの揮発成分をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC−MS)にて分析した。分析条件は下記<GC−MS分析条件>の通りである。
<GC−MS分析条件>
GC−MS装置:GC−MSDシステム(アジレントテクノロジー社製)
カラム:DB−WAX(60m×φ0.25mm×0.5μm)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:35℃(5分間保持)→5℃/分→240℃(10分間保持)
MS検出器:スキャン分析(29−500m/z)
イオン源:230℃
四重極:150℃
エミッション電圧:70eV
上記の「評価1」と同様に、大豆油に対して、表5に記載された条件で脱色工程及び脱臭工程を行い、各実施例及び比較例の精製油脂を得た。
得られた各精製油脂について、上記の「評価1」と同様に風味を評価した。評価結果を表5に示す。
得られた各精製油脂を曝光保存(7000lux、24時間)した後、曝光後の各精製油脂について、2点嗜好試験法に基づいてにおい評価を行った。具体的には、12名のパネラーに、各精製油脂のうち「曝光臭の少ないもの」及び「においが好ましいもの」を選択させた。各精製油脂について、「曝光臭の少ないもの」及び「においが好ましいもの」のそれぞれを選択した人数を表5に示す。
得られた各精製油脂を曝光保存(7000lux、24時間)した後、曝光後の各精製油脂について、ヘッドスペースGC−MSによる分析を行った。具体的には、20mlバイアル瓶に2gの精製油脂を入れ、密栓した後に、180℃で10分間、振盪しながら加熱を行った。ネットワークヘッドスペースサンプラG1888(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、ヘッドスペース部に存在する揮発成分(3ml)をサンプリングし、GC−MSDシステム(GC6890/MSD5973、アジレント・テクノロジー株式会社製)で分析した。サンプリングされた揮発成分中に含まれる2,3−オクタンジオンについてのAREA値を算出した。その結果を表5に示す。なお、表5に記載された「2,3−オクタンジオン量」の数値は相対値である。具体的には、実施例6の数値は、比較例10のAREA値を「1」とした場合の相対値である。
<GC−MS分析条件>
GC−MS装置:GC−MSDシステム(アジレントテクノロジー株式会社製)
カラム:DB−WAX(60m×φ0.25mm×0.5μm)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:35℃(5分間保持)→5℃/分→240℃(10分間保持)
MS検出器:スキャン分析(29−500m/z)
イオン源:230℃
四重極:150℃
エミッション電圧:70eV
上記の「評価1」と同様に、大豆油に対して、表6に記載された条件で脱色工程及び脱臭工程を行い、各実施例及び比較例の精製油脂を得た。
得られた各精製油脂について、上記の「評価1」と同様に風味を評価した。評価結果を表6に示す。
得られた各精製油脂を曝光保存(7000lux、24時間)した後、曝光後の各精製油脂について、下記の基準で曝光臭を評価した。
◎:実施例10と比べて曝光臭の改善が認められる
〇:実施例10と比べて曝光臭の改善がやや認められる
△:実施例10と同程度の曝光臭である(曝光臭を少し感じる)
◎:非常に良好
〇:良好
△:食用可能である
上記の「評価1」と同様に、ロットの異なる2種の大豆油(原料油脂)に対して、表7に記載された条件で脱色工程及び脱臭工程を行い、得られた精製油脂を下記の冷却試験に供した。なお、冷却試験の開始時においては、いずれの大豆油も液状(流動性がある状態)だった。
各精製油脂を、120℃で5分間加熱し、室温まで放冷した。次いで、各精製油脂を直径40mmのガラス瓶に入れ、クーラーボックス内で、0℃の氷水中にて保存した。保存開始15時間後、20時間後、21時間後、24時間後、40時間後、48時間後、62時間後の各時点で、ガラス瓶をクーラーボックスから取り出し、油脂の様子を目視観察した。その結果を表8に示す。なお、表8中、「ゲル化時間」とは、各精製油脂がゲル化するまでに要した時間(単位:時間)を示す。
フラックス脱色油(日清オイリオグループ株式会社製)に対して、評価1と同様に脱色工程、次いで脱臭工程を行い、各実施例及び比較例の精製油脂を得た。さらに、評価1と同様に、風味評価、調理評価を行った。
Claims (7)
- 原料油脂を脱臭する脱臭工程を含み、
前記脱臭工程は、205〜225℃の温度条件にて、300〜800Paの真空度で、53〜100分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂であり、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0〜7.0質量%であり、
前記脱臭工程の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100〜15000ppmの水の存在下で接触させる脱色工程をさらに含む、精製油脂の製造方法。 - 前記原料油脂の構成脂肪酸中のリノール酸に対するオレイン酸の比率(オレイン酸/リノール酸)が5.0以下である請求項1に記載の精製油脂の製造方法。
- 前記精製油脂が、曝光臭の発生が抑制された精製油脂である、請求項1又は2に記載の精製油脂の製造方法。
- 前記脱臭工程はトレイ式脱臭装置で行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載の精製油脂の製造方法。
- 原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100〜15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205〜225℃の温度条件にて、300〜800Paの真空度で、53〜100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上である、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法。 - 原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100〜15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205〜225℃の温度条件にて、300〜800Paの真空度で、53〜100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上である、油脂の曝光臭を低減させる方法。 - 205〜225℃の温度条件にて、300〜800Paの真空度で、53〜100分間、原料油脂と、水蒸気とを接触させ、前記原料油脂は大豆油であり、
前記接触の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100〜15000ppmの水の存在下で接触させる、大豆油の耐冷性を改善する方法。
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