以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.第1実施形態
1−1.機能構成
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。図1に示すように、本実施形態の原子発振器1は、光発生部10、原子20、光検出部30、発振制御部40、光強度監視部50、バイアス設定部60、駆動部70を含んで構成されている。なお、本実施形態の原子発振器は、適宜、図1の構成要素(各部)の一部を省略又は変更したり、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
光発生部10は、複数の発光素子12を含み、複数の発光素子12から選択された発光素子12は、駆動部70が出力する駆動信号に応じた周波数差の第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させ、原子20の集団に照射する。光発生部10は、例えば、アレイ化された複数の発光素子12を有する1つの半導体レーザーで実現してもよいし、1つの発光素子12を有する半導体レーザーを複数設けて実現してもよい。半導体レーザーとしては、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)や、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーなどを用いることができる。特に、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)は、チップの上面に発光部を形成するので複数の発光素子のアレイ化が容易であり、小型化に特に有利である。
原子20は、Λ型3準位を有する原子であり、例えば、ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等のアルカリ金属原子である。
光検出部30は、選択されている発光素子12から照射されて原子20を透過した光を検出する。
発振制御部40は、光検出部30の検出信号に基づいて、選択されている発光素子12が発生する光の中心周波数を微調整するとともに、第1の光と第2の光が共鳴光対(原子20に電磁誘起透過現象を発生させる共鳴光対)となるように制御し、制御信号を駆動部70に出力する。
駆動部70は、発振制御部40が出力する制御信号に応じた駆動電流を生成し、選択されている発光素子12を駆動する。
光強度監視部50は、光検出部30の出力信号に基づいて、原子20を透過した光の強度を監視し、発光素子12の選択を変更すべきか否かを判定する。
バイアス設定部60は、複数の発光素子12から発光させる発光素子12を選択し、駆動部70を介して、当該選択された発光素子にバイアス電流を設定する処理(発生する光の中心周波数を設定する処理)を行う。
テーブル情報62は、複数の発光素子12の各々の識別情報とバイアス電流の設定値との対応関係を特定可能なテーブル情報であり、例えば、複数の発光素子12の各々の識別番号と駆動部70の駆動電圧(発光素子12にバイアス電流を供給するための駆動電圧)の設定値との対応関係が定義されたテーブル情報であってもよい。
図2は、第1実施形態の原子発振器の制御方法の一例を示すフローチャート図である。図2に示すように、本実施形態では、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S10のY)、まず、バイアス設定部60が、複数の発光素子12からバイアス電流の設定値が最も小さい発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S20,バイアス初期設定ステップ)。
次に、光監視部50が、光検出部30の出力信号に基づいて、原子20を透過した光の強度を監視し、発光素子12の選択を変更すべきか否かを判定する(S30,光強度監視ステップ)。
発光素子の選択を変更しない場合は(S40のN)、改めてステップS30の処理を行い、発光素子の選択を変更する場合は(S40のY)、バイアス設定部60が、テーブル情報62を利用して、現在選択されている発光素子12のバイアス電流の次に小さいバイアス電流の発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S50,バイアス設定変更ステップ)。
ステップS30以降の処理は、原子発振器1の電源がオフするまで繰り返し行われる。
次に、本実施形態の原子発振器の具体的な構成例についてより詳細に説明する。
1−2.具体的構成例
図3は、第1実施形態の原子発振器の構造例を示す図であり、原子発振器を垂直方向に切断した断面図である。また、図4は、半導体レーザーの上面図であり、図5は、第1実施形態の原子発振器の具体的な構成例を示す図である。なお、図3において、制御部は図示を省略している。また、図5において、コリメートレンズ102とペルチェ素子104は図示を省略している。
図3に示すように、第1実施形態の原子発振器1は、半導体レーザー110の上面側にコリメートレンズ102、ガスセル120、光検出器130が、所定の間隔を設けてこの順に配置され、筐体100に収容されている。筐体100の内部にペルチェ素子104が設けられており、筐体100の内部温度が一定に保持されている。
半導体レーザー110は、複数の発光素子(レーザーダイオード)112を有し、選択された1つの発光素子が周波数の異なる複数の光を発生させる。本実施形態では、半導体レーザー110は、アレイ化された複数の発光素子112を有する垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)であり、図4に示すように、チップの上面に複数の発光素子112の発光部112aと電極112bが一列に形成されている。各発光素子112は、電極112bに駆動電流が供給されることで発光部112aが発光するようになっている。なお、図4の例は、半導体レーザー110は、4個の発光素子112を有しているが、2個、3個、又は5個以上の発光素子112を有するようにしてもよい。
半導体レーザー110は、複数の発光素子112から選択された1つの発光素子112の発光部のみが発光するように設定されており、この光はコリメートレンズ102で平行光にされてガスセル120に入射する。
ガスセル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子が封入されたものであり、ガスセル120を透過した光は、光検出器130に入射する。
光検出器130は、入射した光を検出し、光の強度に応じた検出信号を出力する。この光検出器130の出力信号が制御部に入力され、制御部の出力信号が半導体レーザー110に入力される。
図5に示すように、第1実施形態の原子発振器1の制御部200は、検波回路210、変調回路220、低周波発振器230、検波回路240、電圧制御水晶発振器(VCXO)250、変調回路260、低周波発振器270、周波数変換回路280、光強度監視回路290、バイアス設定部300、メモリー310、D/A変換器(DAC)320、駆動回路330を含んで構成されている。なお、本実施形態の原子発振器1は、適宜、図5の構成要素(各部)の一部を省略又は変更したり、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
光検出器130の出力信号は検波回路210、検波回路240、光強度監視回路290に入力される。検波回路210は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器230の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。変調回路220は、検波回路210による同期検波を可能とするために、低周波発振器230の発振信号(検波回路210に供給される発振信号と同じ信号)を変調信号として検波回路210の出力信号を変調して駆動回路330に出力する。変調回路220は、周波数混合器(ミキサー)、周波数変調(FM:Frequency Modulation)回路、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)回路等により実現することができる。
検波回路240は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器270の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。そして、検波回路240の出力信号の大きさに応じて、電圧制御水晶発振器(VCXO)250の発振周波数が微調整される。電圧制御水晶発振器(VCXO)250は、例えば、数MHz〜数10MHz程度で発振する。
変調回路260は、検波回路240による同期検波を可能とするために、低周波発振器270の発振信号(検波回路240に供給される発振信号と同じ信号)を変調信号として電圧制御水晶発振器(VCXO)250の出力信号を変調する。変調回路260は、周波数混合器(ミキサー)、周波数変調(FM)回路、振幅変調(AM)回路等により実現することができる。
周波数変換回路280は、一定の周波数変換率で変調回路260の出力信号を周波数変換して駆動回路330に出力する。
駆動回路330は、2つのNMOSトランジスター332,334、コイル336、コンデンサー338を含んで構成されている。
NMOSトランジスター332のゲートには、変調回路220の出力信号が入力され、NMOSトランジスター334のゲートには、DAC320の出力信号が入力される。DAC320は、選択されている発光素子112のバイアス電流を設定するものであり、NMOSトランジスター334を介して発光素子112にDAC320の出力電圧に応じたバイアス電流が流れる。このバイアス電流は、MOSトランジスター332を介して流れる電流が重畳されて微調整される。すなわち、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、検波回路210、変調回路220、駆動回路330を通るフィードバックループ(第1のフィードバックループ)により、選択されている発光素子112が発生させる光の中心波長λ0(中心周波数f0)が微調整される。
具体的には、アルカリ金属原子の2P3/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI−1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ1(周波数f1)、アルカリ金属原子の2P3/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI+1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ2(周波数f2)に対して、中心波長λ0が(λ1+λ2)/2とほぼ一致する(中心周波数f0が(f1+f2)/2とほぼ一致する)ように制御される。あるいは、アルカリ金属原子の2P1/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI−1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ1(周波数f1)、アルカリ金属原子の2P1/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI+1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ2(周波数f2)に対して、中心波長λ0が(λ1+λ2)/2とほぼ一致する(中心周波数f0が(f1+f2)/2とほぼ一致する)ように制御されるようにしてもよい。
駆動回路330は、さらに、コイル336とコンデンサー338により、バイアス電流に、周波数変換回路280の出力周波数成分(変調周波数fm)の電流(変調電流)が重畳され、選択されている発光素子112に供給する。この変調電流により、選択されている発光素子112に周波数変調がかかり、中心周波数f0の光とともに、その両側にそれぞれ周波数がfmだけずれた周波数f0+fmの光と周波数f0−fmの光を発生させる。そして、本実施形態では、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、検波回路240、電圧制御水晶発振器(VCXO)250、変調回路260、周波数変換回路280、駆動回路330を通るフィードバックループ(第2のフィードバックループ)により、周波数f0+fmの光と周波数f0−fmの光がガスセル120に封入されているアルカリ金属原子にEIT現象を発生させる共鳴光対となるように、すなわち、この2種類の光の周波数差2fmがΔE12に相当する周波数f12と正確に一致するように、周波数変換回路280の出力周波数fmがf12/2と正確に一致するように微調整される。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、ΔE12に相当する周波数が9.192631770GHzなので、周波数変換回路280の出力信号の周波数が4.596315885GHzと一致した状態で安定する。
バイアス設定部300は、スイッチ制御部302と、バイアス選択部304を含んで構成されており、不揮発性のメモリー310(EEPROM等)に記憶されているバイアス設定テーブル312を参照し、発光させる発光素子112を選択する処理と選択した発光素子112のバイアス電流(2光波吸収が起こる駆動電流又はその付近の駆動電流)を設定する処理を行う。本実施形態では、バイアス設定テーブル312には、発光素子112の識別番号とバイアス電流の設定値(DAC320の入力コード)との対応関係が定義されており、さらに、各発光素子112の選択順位の情報も含まれている。このバイアス設定テーブル312は、例えば、原子発振器1の最終検査工程等において、発光素子112毎に最適なバイアス電流の設定値を検査して作成される。
スイッチ制御部302は、原子発振器1の起動時に、バイアス設定テーブル312を参照して選択順位がもっとも小さい(1番目の)発光素子112を選択し、選択した発光素子112にバイアス電流が供給されるように、半導体レーザー110に設けられたスイッチ回路114を制御する。バイアス選択部304は、原子発振器1の起動時に、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ制御部302が選択した発光素子112に対応付けられたバイアス電流の設定値をDAC320に設定する。これにより、原子発振器1の起動時に、あらかじめ決められた発光素子112が選択されて、バイアス設定テーブル312で定義された設定値に応じたバイアス電流が供給されるようになる。
そして、上述した2つのフィードバックループ(第1のフィードバックループと第2のフィードバックループ)により、選択されている発光素子112は、図6に示すように、中心周波数f0の光と、その両側に周波数がfm(=f12/2)ずつ異なる複数の光を安定して発生させる。図6において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。そして、周波数f1=f0+fmの光と周波数f2=f0−fmの光がガスセル120に封入されたアルカリ金属原子にEIT現象を生じさせる共鳴光対となり、光検出器130の出力信号が、極めて急峻なEIT信号のピーク付近になるようにロックする。これにより、原子発振器1は、安定発振を維持し、極めて高い周波数安定度を実現することができる。
ところが、選択されている発光素子112が故障すると、発光素子112の発光レベルが低下してEIT信号のピークが低くなり、あるいは発光素子112の発光が停止してEIT信号が消滅し、原子発振器1は、安定発振を維持することができなくなる。そこで、本実施形態の原子発振器1では、起動後、安定発振するようになると、光強度監視回路290が動作を開始し、光検出器130の出力信号の電圧レベルを監視し、所定の閾値よりも高いか低いかを判定する。選択されている発光素子112が正常であれば、ガスセル120を透過して光検出器130で検出される光の強度はほとんど変化しない。この場合、光検出器130の出力信号の電圧レベルは閾値よりも高く、光強度監視回路290はハイレベルの信号を出力する。一方、選択されている発光素子112が故障すると、光検出器130で検出される光の強度が低下し、あるいはほぼ0になる。この場合、光検出器130の出力信号の電圧レベルが閾値よりも低くなり、光強度監視回路290はローレベルの信号を出力する。この閾値は、原子発振器1が要求される周波数安定度を維持するために、最低限必要な、光検出器130の出力信号の電圧レベル以上の電圧値に設定される。
バイアス設定部300は、光強度監視回路290の出力信号がハイレベルであれば、発光素子112の選択を変更しない。一方、光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化すれば、バイアス設定部300のスイッチ制御部302は、バイアス設定テーブル312を参照して選択順位が次に小さい(2番目の)発光素子112を選択し、選択した発光素子112にバイアス電流が供給されるように、半導体レーザー110に設けられたスイッチ回路114を制御する。また、バイアス選択部304は、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ制御部302が選択した発光素子112に対応付けられたバイアス電流の設定値をDAC320に設定する。これにより、新たな発光素子112が選択されて、バイアス設定テーブル312で定義された設定値に応じたバイアス電流が供給されるようになり、上述した2つのフィードバックループ(第1のフィードバックループと第2のフィードバックループ)により、光検出器130の出力信号が、再びEIT信号のピーク付近になるように瞬時にロックする。従って、選択されている発光素子112が故障した場合でも、原子発振器1は極めて高い周波数安定度を維持することができる。
なお、図5の半導体レーザー110、発光素子112、ガスセル120に含まれるアルカリ金属原子、光検出器130、駆動回路330は、それぞれ図1の光発生部10、発光素子12、原子20、光検出部30、駆動部70に相当する。また、図5の検波回路210、変調回路220、低周波発振器230、検波回路240、電圧制御水晶発振器(VCXO)250、変調回路260、低周波発振器270、周波数変換回路280からなる構成は、図1の発振制御部40に相当する。また、図5の光強度監視回路290、バイアス設定部300、バイアス設定テーブル312は、それぞれ図1の光強度監視部50、バイアス設定部60、テーブル情報62に相当する。
図7(A)は、第1実施形態におけるバイアス設定テーブル312の一例を示す図である。図7(A)の例は、半導体レーザー110に4つの発光素子112が設けられている場合の例である。
図7(A)の例のバイアス設定テーブル312では、発光素子112の識別番号(発光素子ID)とEIT信号を発生させるためのバイアス設定値の対応関係が定義されており、バイアス設定値によるバイアス電流の設定値が小さい順に並べられている。バイアス設定値は、発光素子112に所望のバイアス電流(2光波吸収が起こる駆動電流又はその付近の駆動電流)を供給するためにDAC320に設定する入力コードであり、本実施形態では、駆動回路330が図5に示したように構成されているため、バイアス設定値(DAC320の入力コード)が大きいほどバイアス電流の設定値も大きくなる。図7(A)の例では、IDが3→2→4→1の順に並べられており、IDが3の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D3により設定されるバイアス電流Ib3が最も小さく、IDが2の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D2により設定されるバイアス電流Ib2が2番目に小さい。さらに、IDが4の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D4により設定されるバイアス電流Ib4が3番目に小さく、IDが1の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D1により設定されるバイアス電流Ib1が最も大きい。
また、図7(A)の例のバイアス設定テーブル312では、各IDに、選択中(1)か未選択(0)かを示す選択フラグが対応付けられており、原子発振器1の出荷時には、IDが3の発光素子112が選択中、その他の発光素子112は未選択になっている。
このバイアス設定テーブル312は、先頭から順にメモリー310のあらかじめ決められたアドレスに記憶されており、バイアス設定部300は、起動時に、当該アドレスを参照し、バイアス設定テーブル312から選択フラグが1に設定されているID=3、バイアス設定値=D3を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが3の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D3を設定する。
IDが3の発光素子112に故障等が発生して光強度監視回路290の出力レベルがハイレベルからローレベルに変化した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=3の次に並べられているID=2、バイアス設定値=D2を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが2の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D2を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=3の選択フラグを1から0に、ID=2の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
同様に、IDが2の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=2の次に並べられているID=4、バイアス設定値=D4を読み出し、IDが4の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D4を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=2の選択フラグを1から0に、ID=4の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
さらに、IDが4の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=4の次に並べられているID=1、バイアス設定値=D1を読み出し、IDが1の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D1を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=4の選択フラグを1から0に、ID=1の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
なお、図7(B)に示すように、第1実施形態におけるバイアス設定テーブル312は、IDが小さい発光素子112から順に並べられ、IDと選択順位(図7(A)のIDの並び順と同じ)の対応関係が定義されていてもよい。図7(B)のバイアス設定テーブル312は、先頭から順にメモリー310のあらかじめ決められたアドレスに記憶された場合等、IDとアドレスの対応関係があらかじめ固定されていればアドレスによってIDが特定されるので、発光素子IDの項目は無くてもよい。このように、バイアス設定テーブル312は、発光素子112の識別情報を明示的に含まずに、発光素子112の識別情報とバイアス電流の設定値の情報との対応関係を定義するものであってもよい。
図8は、本実施形態の原子発振器の制御方法の具体例を示すフローチャート図である。図8に示すように、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S110のY)、まず、バイアス設定部300が、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ回路114を制御して選択フラグが1に設定されている発光素子112を選択し、バイアス電流を設定する。当該ステップS120は、図2のバイアス初期設定ステップ(S20)に対応する。
次に、バイアス設定部60が、発振周波数がロックしたか否かを判定する。バイアス設定部60は、例えば、光検出器130の検出強度が所定の閾値よりも大きくなった場合に発振周波数がロックしたと判定する。より具体的には、バイアス設定部60は、光強度監視回路290の出力信号がローレベルからハイレベルに変化した場合に発振周波数がロックしたと判定してもよいし、直接、光検出器130の出力信号を監視し、光検出器130の出力信号の電圧レベルが所定の閾値よりも高くなった場合に発振周波数がロックしたと判定してもよい。あるいは、バイアス設定部60が判定する代わりに、光検出器130の出力信号を監視し、光検出器130の出力信号の電圧レベルが所定の閾値よりも高くなったか否かを判定するロック判定回路を別途設けてもよい。
発振周波数がロックしていない場合(S140のN)、ステップS130の処理を繰り返し行う。
一方、発振周波数がロックした場合(S140のY)、次に、光強度監視回路290が、光検出器130の出力信号を監視し、閾値よりも高いか否かを判定する(S150)。具体的には、光検出器130の出力信号が閾値よりも低くなった場合、光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。なお、ノイズの影響等を考慮して、光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する閾値が、ローレベルからハイレベルに変化する閾値よりも低くなるようにヒステリシスを持たせてもよい。当該ステップS150は、図2の光強度監視ステップ(S30)に対応する。
光検出器130の出力信号の電圧レベルが閾値よりも高ければ(光強度監視回路290の出力信号がハイレベルであれば)(S160のN)、ステップS130の処理を繰り返し行う。
一方、光検出器130の出力信号の電圧レベルが閾値よりも低くなった場合(光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化した場合)(S160のY)、バイアス設定部60が、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ回路114を制御して選択順位が次に小さい発光素子112を選択し、バイアス電流を設定する(S170)。当該ステップS170は、図2のバイアス設定変更ステップ(S50)に対応する。
以上に説明した第1実施形態の原子発振器では、バイアス設定テーブル312において、バイアス電流の設定値が小さい順に選択順位が決められており、原子発振器1の最初の起動時に、バイアス電流の設定値が最も小さい発光素子112が選択される。そして、現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112が故障し、ガスセル120を透過して検出器130で検出される光の強度が低下したような場合、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112の次に小さい他の発光素子112が選択され、バイアス設定テーブル312で定義されているバイアス電流が設定される。従って、第1実施形態の原子発振器によれば、新たに選択された他の発光素子112に対して、スイープを行ってバイアス電流を設定する場合と比較して、安定発振するまでの時間が短くなり、長期にわたって高い周波数安定度を維持することができる。
また、第1実施形態の原子発振器によれば、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112に最も近い他の発光素子112を選択することになるので、発光素子112の選択変更に伴うバイアス電流の変化量が小さくなり、発光素子112の選択変更後、安定発振を開始するまでの時間を短くすることができる。
さらに、第1実施形態の原子発振器によれば、バイアス電流の設定値が小さい発光素子112ほど優先して使用されるので、消費電力を小さくすることができる。
2.第2実施形態
2−1.機能構成
第2実施形態の原子発振器の機能ブロック図は第1実施形態(図1)と同様であるため、その図示を省略する。ただし、第2実施形態の原子発振器1は、第1実施形態の原子発振器1に対して、バイアス設定部60の機能が異なる。第2実施形態の原子発振器のその他の機能構成は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図9は、第2実施形態の原子発振器の制御方法の一例を示すフローチャート図である。図9に示すように、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S10のY)、まず、バイアス設定部60が、複数の発光素子12からバイアス電流の設定値が最も大きい発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S20,バイアス初期設定ステップ)
次に、光監視部50が、光検出部30の出力信号に基づいて、原子20を透過した光の強度を監視し、発光素子12の選択を変更すべきか否かを判定する(S30,光強度監視ステップ)。
発光素子の選択を変更しない場合は(S40のN)、改めてステップS30の処理を行い、発光素子の選択を変更する場合は(S40のY)、バイアス設定部60が、テーブル情報62を利用して、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子12の次に大きい発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S50,バイアス設定変更ステップ)。
ステップS30以降の処理は、原子発振器1の電源がオフするまで繰り返し行われる。
次に、本実施形態の原子発振器の具体的な構成例についてより詳細に説明する。
2−2.具体的構成例
第2実施形態の原子発振器の構造例の図は、第1実施形態(図3及び図4)と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
また、第2実施形態の原子発振器の具体的な構成例の図は、第1実施形態(図5)と同様であるため、その図示を省略する。ただし、第2実施形態の原子発振器1では、第1実施形態の原子発振器に対して、バイアス設定テーブル312の構成が異なる。第2実施形態の原子発振器におけるその他の各構成要素の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図10(A)は、第2実施形態におけるバイアス設定テーブル312の一例を示す図である。図10(A)の例は、半導体レーザー110に4つの発光素子112が設けられている場合の例である。
図10(A)の例のバイアス設定テーブル312では、図7(A)と同様に、発光素子112の識別番号(発光素子ID)とバイアス設定値の対応関係が定義されているが、バイアス設定値によるバイアス電流の設定値が大きい順に並べられている。図10(A)の例では、IDが1→4→2→3の順(図7(A)と逆順)に並べられており、IDが1の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D1により設定されるバイアス電流Ib1が最も大きく、IDが4の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D4により設定されるバイアス電流Ib4が2番目に大きい。さらに、IDが2の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D2により設定されるバイアス電流Ib2が3番目に大きく、IDが3の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D3により設定されるバイアス電流Ib3が最も小さい。
また、図10(A)の例のバイアス設定テーブル312では、原子発振器1の出荷時には、IDが1の発光素子112が選択中(選択フラグ=1)、その他の発光素子112は未選択(選択フラグ=0)になっている。
このバイアス設定テーブル312は、先頭から順にメモリー310のあらかじめ決められたアドレスに記憶されており、バイアス設定部300は、起動時に、当該アドレスを参照し、バイアス設定テーブル312から選択フラグが1に設定されているID=1、バイアス設定値=D1を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが1の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D1を設定する。
IDが1の発光素子112に故障等が発生して光強度監視回路290の出力レベルがハイレベルからローレベルに変化した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=1の次に並べられているID=4、バイアス設定値=D4を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが4の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D4を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=1の選択フラグを1から0に、ID=4の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
同様に、IDが4の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=4の次に並べられているID=2、バイアス設定値=D2を読み出し、IDが2の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D2を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=4の選択フラグを1から0に、ID=2の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
さらに、IDが2の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=2の次に並べられているID=3、バイアス設定値=D3を読み出し、IDが3の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D3を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=2の選択フラグを1から0に、ID=3の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
なお、図10(B)に示すように、第2実施形態におけるバイアス設定テーブル312は、図7(B)と同様に、IDが小さい発光素子112から順に並べられ、IDと選択順位(図10(A)のIDの並び順と同じ)の対応関係が定義されていてもよい。
第2実施形態の原子発振器の制御方法の具体例を示すフローチャート図は、第1実施形態(図8)と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
以上に説明した第2実施形態の原子発振器では、バイアス設定テーブル312において、バイアス電流の設定値が大きい順に選択順位が決められており、原子発振器1の最初の起動時に、バイアス電流の設定値が最も大きい発光素子112が選択される。そして、現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112が故障し、ガスセル120を透過して検出器130で検出される光の強度が低下したような場合、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112の次に大きい他の発光素子112が選択され、バイアス設定テーブル312で定義されているバイアス電流が設定される。従って、第2実施形態の原子発振器によれば、新たに選択された他の発光素子112に対して、スイープを行ってバイアス電流を設定する場合と比較して、安定発振するまでの時間が短くなり、長期にわたって高い周波数安定度を維持することができる。
また、第2実施形態の原子発振器によれば、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112に最も近い他の発光素子112を選択することになるので、発光素子112の選択変更に伴うバイアス電流の変化量が小さくなり、発光素子112の選択変更後、安定発振を開始するまでの時間を短くすることができる。
3.第3実施形態
3−1.機能構成
第3実施形態の原子発振器の機能ブロック図は第1実施形態(図1)と同様であるため、その図示を省略する。ただし、第3実施形態の原子発振器1は、第1実施形態の原子発振器1に対して、バイアス設定部60の機能が異なる。第3実施形態の原子発振器のその他の機能構成は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図11は、第3実施形態の原子発振器の制御方法の一例を示すフローチャート図である。図11に示すように、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S10のY)、まず、バイアス設定部60が、複数の発光素子12からバイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S20,バイアス初期設定ステップ)
次に、光監視部50が、光検出部30の出力信号に基づいて、原子20を透過した光の強度を監視し、発光素子12の選択を変更すべきか否かを判定する(S30,光強度監視ステップ)。
発光素子の選択を変更しない場合は(S40のN)、改めてステップS30の処理を行い、発光素子の選択を変更する場合は(S40のY)、バイアス設定部60が、テーブル情報62を利用して、未だ選択されていない他の発光素子12の中から、現在選択されている発光素子12のバイアス電流の設定値との差が最も小さいバイアス電流の設定値の発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S50,バイアス設定変更ステップ)。
ステップS30以降の処理は、原子発振器1の電源がオフするまで繰り返し行われる。
次に、本実施形態の原子発振器の具体的な構成例についてより詳細に説明する。
3−2.具体的構成例
第3実施形態の原子発振器の構造例の図は、第1実施形態(図3及び図4)と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
また、第3実施形態の原子発振器の具体的な構成例の図は、第1実施形態(図5)と同様であるため、その図示を省略する。ただし、第3実施形態の原子発振器1では、第1実施形態の原子発振器に対して、バイアス設定テーブル312の構成が異なる。第3実施形態の原子発振器におけるその他の各構成要素の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図12(A)は、第3実施形態におけるバイアス設定テーブル312の一例を示す図である。図12(A)の例は、半導体レーザー110に4つの発光素子112が設けられている場合の例である。
図12(A)の例のバイアス設定テーブル312では、図7(A)と同様に、発光素子112の識別番号(発光素子ID)とバイアス設定値の対応関係が定義されているが、バイアス設定値によるバイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112から、選択順位が1つ前の発光素子112のバイアス電流の設定値との差が最も小さいバイアス電流の発光素子112を優先して並べられている。図12(A)の例では、IDが2→4→3→1の順に並べられており、IDが2の発光素子112に対応付けられたバイアス設定値D2により設定されるバイアス電流Ib2が平均値に最も近い。ここで、平均値とは、半導体レーザー110に含まれるすべての発光素子112のバイアス電流の設定値の平均値、すなわちIDが1〜4の各発光素子112にそれぞれ対応付けられたバイアス設定値D1〜D4による各バイアス電流の設定値Ib1,Ib2,Ib3,Ib4の平均値Ib=(Ib1+Ib2+Ib3+Ib4)/4である。つまり、Ib1,Ib2,Ib3,Ib4のうち、Ib2が平均値Ibに最も近い。また、Ib4とIb2との差(=|Ib4−Ib2|)は、Ib3とIb2との差(=|Ib3−Ib2|)及びIb1とIb2との差(=|Ib1−Ib2|)よりも小さい。さらに、Ib3とIb4との差(=|Ib3−Ib4|)は、Ib1とIb4との差(=|Ib1−Ib4|)よりも小さい。
また、バイアス設定テーブル312では、原子発振器1の出荷時には、IDが2の発光素子112が選択中(選択フラグ=1)、その他の発光素子112は未選択(選択フラグ=0)になっている。
このバイアス設定テーブル312は、先頭から順にメモリー310のあらかじめ決められたアドレスに記憶されており、バイアス設定部300は、起動時に、当該アドレスを参照し、バイアス設定テーブル312から選択フラグが1に設定されているID=2、バイアス設定値=D2を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが2の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D2を設定する。
IDが2の発光素子112に故障等が発生して光強度監視回路290の出力レベルがハイレベルからローレベルに変化した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=2の次に並べられているID=4、バイアス設定値=D4を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが4の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D4を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=2の選択フラグを1から0に、ID=4の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
同様に、IDが4の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=4の次に並べられているID=3、バイアス設定値=D3を読み出し、IDが3の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D3を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=4の選択フラグを1から0に、ID=3の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
さらに、IDが3の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=3の次に並べられているID=1、バイアス設定値=D1を読み出し、IDが1の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D1を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=3の選択フラグを1から0に、ID=1の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。
なお、図12(B)に示すように、第3実施形態におけるバイアス設定テーブル312は、IDが小さい発光素子112から順に並べられ、IDと選択順位(図12(A)のIDの並び順と同じ)の対応関係が定義されていてもよい。
第3実施形態の原子発振器の制御方法の具体例を示すフローチャート図は、第1実施形態(図8)と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
以上に説明した第3実施形態の原子発振器では、バイアス設定テーブル312において、バイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112を先頭に、バイアス電流の設定値が1つ前の発光素子112に最も近い発光素子112を優先して選択順位が決められており、原子発振器1の最初の起動時に、バイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112が選択される。そして、現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112が故障し、ガスセル120を透過して検出器130で検出される光の強度が低下したような場合、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112に最も近い他の発光素子112が選択され、バイアス設定テーブル312で定義されているバイアス電流が設定される。従って、第1実施形態の原子発振器によれば、新たに選択された他の発光素子112に対して、スイープを行ってバイアス電流を設定する場合と比較して、安定発振するまでの時間が短くなり、長期にわたって高い周波数安定度を維持することができる。
また、第3実施形態の原子発振器では、最初にバイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112が選択されるので、最初に発光素子112の選択を変更する際に、バイアス電流の設定値が現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112の次に小さい発光素子112、及び、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112の次に大きい発光素子112のうち、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112に近い方の発光素子112が選択される。従って、第3実施形態の原子発振器によれば、最初に発光素子112の選択を変更する際に、バイアス電流の変化量がより小さくなる確率が高くなり、発光素子112の選択変更後、安定発振を開始するまでの時間をより短くできる可能性がある。
4.第4実施形態
4−1.機能構成
図13は、第4実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。第4実施形態の原子発振器1は、第1実施形態(図1)に対して、バイアス検出部40が追加されており、バイアス設定部60の機能が異なる。第4実施形態の原子発振器のその他の機能構成は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
図14は、第4実施形態の原子発振器の制御方法の一例を示すフローチャート図である。図14に示すように、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S10のY)、まず、バイアス設定部60が、複数の発光素子12からバイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S20,バイアス初期設定ステップ)
次に、光監視部50が、光検出部30の出力信号に基づいて、原子20を透過した光の強度を監視し、発光素子12の選択を変更すべきか否かを判定する(S30,光強度監視ステップ)。
発光素子の選択を変更しない場合は(S40のN)、選択されている発光素子12のバイアス電流を検出し(S60,バイアス検出ステップ)、改めてステップS30の処理を行う。
一方、発光素子の選択を変更する場合は(S40のY)、バイアス設定部60が、テーブル情報62を利用して、未だ選択されていない他の発光素子12の中から、ステップS60で検出されたバイアス電流との差が最も小さいバイアス電流の設定値の発光素子12を選択し、当該選択された発光素子12にバイアス電流を設定する(S50,バイアス設定変更ステップ)。
ステップS30以降の処理は、原子発振器1の電源がオフするまで繰り返し行われる。
次に、本実施形態の原子発振器の具体的な構成例についてより詳細に説明する。
4−2.具体的構成例
図15は、第4実施形態の原子発振器の具体的な構成例を示す図である。第4実施形態の原子発振器1は、第1実施形態(図5)に対して、バイアス電流検出回路340が追加されており、バイアス設定部300の機能が異なる。
バイアス電流検出回路340は、選択されている発光素子112のバイアス電流を所定の周期で検出する。具体的には、バイアス電流検出回路340は、駆動回路330に含まれるNMOSトランジスター332のドレイン端子とNMOSトランジスター334のドレイン端子との接続ノードを流れる電流を所定の周期で検出し、当該電流値(バイアス電流の検出値)をメモリー310に記憶する。あるいは、バイアス電流検出回路340は、検出した電流を流すためのDAC320の入力設定値を算出し、当該入力設定値をメモリー310に記憶してもよい。なお、バイアス電流検出回路340は、選択されている発光素子112(ダイオード)のアノード電圧を検出し、検出した電圧値をメモリー310に記憶してもよいし、検出した電圧値から発光素子112のバイアス電流を計算し、計算したバイアス電流値をメモリー310に記憶してもよいし、計算したバイアス電流を流すためのDAC320の入力設定値を計算し、当該入力設定値をメモリー310に記憶してもよい。
バイアス設定部300のスイッチ制御部302は、原子発振器1の起動時に、バイアス設定テーブル312を参照してあらかじめ決められた発光素子112を選択し、選択した発光素子112にバイアス電流が供給されるように、半導体レーザー110に設けられたスイッチ回路114を制御する。バイアス選択部304は、原子発振器1の起動時に、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ制御部302が選択した発光素子112に対応付けられたバイアス電流の設定値をDAC320に設定する。
その後、原子発振器1の発振周波数がロックした後、選択されている発光素子112が故障する等して光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化すると、バイアス設定部300のスイッチ制御部302は、バイアス設定テーブル312を参照し、メモリー310に記憶されているバイアス電流の検出値(バイアス電流検出回路340が最後に検出したバイアス電流値)に最も近いバイアス電流の発光素子112を選択し、選択した発光素子112にバイアス電流が供給されるように、半導体レーザー110に設けられたスイッチ回路114を制御する。また、バイアス選択部304は、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ制御部302が選択した発光素子112に対応付けられたバイアス電流の設定値をDAC320に設定する。
第4実施形態の原子発振器におけるその他の各構成要素の機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
なお、図15の半導体レーザー110、発光素子112、ガスセル120に含まれるアルカリ金属原子、光検出器130、駆動回路330は、それぞれ図13の光発生部10、発光素子12、原子20、光検出部30、駆動部70に相当する。また、図15の検波回路210、変調回路220、低周波発振器230、検波回路240、電圧制御水晶発振器(VCXO)250、変調回路260、低周波発振器270、周波数変換回路280からなる構成は、図13の発振制御部40に相当する。また、図15の光強度監視回路290、バイアス設定部300、バイアス設定テーブル312、バイアス電流検出回路340は、それぞれ図13の光強度監視部50、バイアス設定部60、テーブル情報62、バイアス検出部80に相当する。
図16は、第4実施形態におけるバイアス設定テーブル312の一例を示す図である。図16の例は、半導体レーザー110に4つの発光素子112が設けられている場合の例である。
図16の例のバイアス設定テーブル312では、発光素子112の識別番号(発光素子ID)、バイアス電流の設定値(バイアス設定値)及び選択順位の対応関係が定義されており、IDが小さい発光素子112から順に並べられている。
また、バイアス設定テーブル312では、原子発振器1の出荷時には、IDが2の発光素子112が選択中(選択フラグ=1)、その他の発光素子112は未選択(選択フラグ=0)になっている。このIDが2の発光素子112のバイアス電流Ib2は、平均値Ib=(Ib1+Ib2+Ib3+Ib4)/4に最も近い。
さらに、バイアス設定テーブル312では、各IDに、使用済み(1)か使用済みでない(使用中あるいは未選択)(0)かを示す使用済みフラグが対応付けられており、原子発振器1の出荷時には、すべての発光素子112の使用済みフラグは0になっている。
このバイアス設定テーブル312は、先頭から順にメモリー310のあらかじめ決められたアドレスに記憶されており、バイアス設定部300は、起動時に、当該アドレスを参照し、バイアス設定テーブル312から選択フラグが1に設定されているID=2、バイアス設定値=D2を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが2の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D2を設定する。すなわち、本実施形態では、バイアス電流が平均値に最も近い発光素子112が選択される。
IDが2の発光素子112に故障等が発生して光強度監視回路290の出力レベルがハイレベルからローレベルに変化した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312を参照し、選択フラグと使用済みフラグがともに0に設定されているID=1,3,4の発光素子112のうち、メモリー310に記憶されている、IDが2の発光素子112のバイアス電流の検出値(バイアス電流検出回路340が最後に検出したバイアス電流値)Ib2’に最も近いバイアス電流の発光素子112を選択する。バイアス設定部300は、例えば、先頭のIDから順に選択フラグと使用済みフラグがともに0に設定されている発光素子112のバイアス電流の設定値と検出値Ib2’との差を計算し、その差が最も小さい発光素子112を選択する。例えば、IDが4の発光素子112のバイアス電流の設定値が検出値Ib2’に最も近い場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=4、バイアス設定値=D4を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが4の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D4を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=2の選択フラグを1から0に、ID=4の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。さらに、バイアス設定部300は、ID=2の使用済みフラグを0から1に書き換える。
同様に、IDが4の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312を参照し、選択フラグと使用済みフラグがともに0に設定されているID=1,3の発光素子112のうち、IDが4の発光素子112のバイアス電流の検出値Ib4’に最も近いバイアス電流の発光素子112を選択する。例えば、IDが3の発光素子112のバイアス電流の設定値が検出値Ib4’に最も近い場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312からID=3、バイアス設定値=D3を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが3の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D3を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=4の選択フラグを1から0に、ID=3の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。さらに、バイアス設定部300は、ID=4の使用済みフラグを0から1に書き換える。
さらに、IDが3の発光素子112に故障等が発生した場合、バイアス設定部300は、バイアス設定テーブル312から、唯一選択フラグと使用済みフラグがともに0に設定されているID=1、バイアス設定値=D1を読み出し、スイッチ回路114を制御してIDが1の発光素子112を選択するとともにDAC320にバイアス設定値D1を設定する。そして、バイアス設定部300は、ID=3の選択フラグを1から0に、ID=1の選択フラグを0から1にそれぞれ書き換える。さらに、バイアス設定部300は、ID=3の使用済みフラグを0から1に書き換える。
図17は、本実施形態の原子発振器の制御方法の具体例を示すフローチャート図である。
図17に示すように、原子発振器1の電源がオンして起動すると(S110のY)、まず、バイアス設定部60が、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ回路114を制御して選択フラグが1に設定されている発光素子112を選択し、バイアス電流を設定する。当該ステップS120は、図14のバイアス初期設定ステップ(S20)に対応する。
次に、バイアス設定部60が、発振周波数がロックしたか否かを判定する。バイアス設定部60は、例えば、光検出器130の検出強度が所定の閾値よりも大きくなった場合に発振周波数がロックしたと判定する。
発振周波数がロックしていない場合(S140のN)、ステップS130の処理を繰り返し行う。
一方、発振周波数がロックした場合(S140のY)、次に、光強度監視回路290が、光検出器130の出力信号を監視し、閾値よりも高いか否かを判定する(S150)。具体的には、光検出器130の出力信号が閾値よりも低くなった場合、光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。当該ステップS150は、図14の光強度監視ステップ(S30)に対応する。
光検出器130の出力信号の電圧レベルが閾値よりも高ければ(光強度監視回路290の出力信号がハイレベルであれば)(S160のN)、検出周期が経過している場合(S180のY)はバイアス電流検出回路340がバイアス電流を検出してメモリー310に記憶し(S190)、検出周期が経過している場合(S180のN)はステップS150の処理を再び行う。ステップS190は、図14のバイアス検出ステップ(S60)に対応する。
一方、光検出器130の出力信号の電圧レベルが閾値よりも低くなった場合(光強度監視回路290の出力信号がハイレベルからローレベルに変化した場合)(S160のY)、バイアス設定部60が、バイアス設定テーブル312を参照し、スイッチ回路114を制御して、ステップS190で記憶したバイアス電流の検出値に最も近い発光素子112を選択し、バイアス電流を設定する(S170)。当該ステップS170は、図14のバイアス設定変更ステップ(S50)に対応する。
以上に説明した第4実施形態の原子発振器では、バイアス設定テーブル312において、バイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112の選択フラグが1に設定されており、原子発振器1の最初の起動時に、バイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112が選択される。そして、現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112が故障し、ガスセル120を透過して検出器130で検出される光の強度が低下したような場合、バイアス電流の設定値が現在選択されている発光素子112のバイアス電流(実際の検出値)に最も近い他の発光素子112が選択され、バイアス設定テーブル312で定義されているバイアス電流が設定される。従って、第4実施形態の原子発振器によれば、経時変化により、現在選択されている発光素子112のバイアス電流が変わった場合でも、発光素子112の選択変更に伴うバイアス電流の変化量を小さくすることができるので、安定発振するまでの時間が短くなり、長期にわたって高い周波数安定度を維持することができる。
また、第4実施形態の原子発振器では、最初にバイアス電流の設定値が平均値に最も近い発光素子112が選択されるので、発光素子112の選択を変更する際に、経時変化により発光素子112のバイアス電流が増加している場合も減少している場合も、現在選択されている(選択フラグ=1の)発光素子112のバイアス電流の検出値との差が小さいバイアス電流の設定値の発光素子112が選択される確率を高めることができる。
5.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
5−1.変形例1
例えば、本実施形態の原子発振器1において、半導体レーザー110の中心波長λ0(中心周波数f0)が、ガスセル120に封入されたアルカリ金属原子の2P1/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI+1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ2(周波数f2)にほぼ一致するようにバイアス電流を設定するとともに、周波数変換回路280が変調回路260の出力信号をΔE12に相当する周波数に等しい周波数の信号に変換するように変形してもよい。あるいは、本実施形態の原子発振器1において、半導体レーザー110の中心波長λ0(中心周波数f0)が、ガスセル120に封入されたアルカリ金属原子の2P1/2のI−1/2の励起準位(I+1/2の励起準位でもよい)と2S1/2のI−1/2の基底準位とのエネルギー差に相当する波長λ1(周波数f1)にほぼ一致するようにバイアス電流を設定するとともに、周波数変換回路280が変調回路260の出力信号をΔE12に相当する周波数に等しい周波数の信号に変換するように変形してもよい。
図18(A)は、前者のケースの半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルを示す概略図であり、図18(B)は、後者のケースの半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルを示す概略図である。図18(A)及び図18(B)において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。図18(A)の場合は、f1とf0の差f1−f0がΔE12に相当する周波数にほぼ等しいので、周波数f1の光と中心周波数f0の光がガスセル120に封入されたアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる共鳴光対となる。一方、図18(B)の場合は、f0とf2の差f0−f2がΔE12に相当する周波数にほぼ等しいので、中心周波数f0の光と周波数f2の光がガスセル120に封入されたアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる共鳴光対となる。
5−2.変形例2
また、例えば、本実施形態の原子発振器1を電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)を用いた構成に変形してもよい。すなわち、半導体レーザー110は、周波数変換回路280の出力信号(変調信号)による変調がかけられず、設定されたバイアス電流に応じた単一周波数f0の光を発生させる。この周波数f0の光は、電気光学変調器(EOM)に入射し、周波数変換回路280の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。その結果、図6と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させることができる。そして、この電気光学変調器(EOM)が発生させる光がガスセル120に照射される。この原子発振器では、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)による構成が図1又は図13の光発生部10に相当する。
なお、電気光学変調器(EOM)の代わりに、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)を用いてもよい。
なお、本実施形態又は変形例の原子発振器の構成は、共鳴光対によって金属原子に電磁誘起透過現象を発生させる様々な量子干渉装置に応用することができる。
例えば、本実施形態又は変形例の原子発振器と同様の構成により、ガスセル120の周辺の磁場の変化に追従して電圧制御水晶発振器(VCXO)250の発振周波数が変化するため、ガスセル120の近傍に磁気測定対象物を配置することで磁気センサー(量子干渉装置の一例)を実現することができる。
また、例えば、本実施形態又は変形例の原子発振器と同様の構成により、極めて安定した金属原子の量子干渉状態(量子コヒーレンス状態)を作り出すことができるので、ガスセル120に入射する共鳴光対を取り出すことで、量子コンピュータ等に用いる光源(量子干渉装置の一例)を実現することもできる。
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。