本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る索状体保持具を備えた作業機械の要部を示す。この作業機械は、旋回フレーム2と、この旋回フレーム2に搭載される運転室4と、コントロールバルブ6と、を備える。前記運転室4は複数の隔壁によって囲まれ、当該隔壁によって当該運転室4の内部と外部とが隔てられている。コントロールバルブ6は、運転室4の後方の位置で前記旋回フレーム2に搭載される油圧機器である。このコントロールバルブ6は、前記運転室4の外部に設けられる外部機器に相当する。
前記運転室4内には、シート台11と、運転席であるシート17と、スライド機構12と、が設けられている。前記シート17は前記シート台11の上に設置される。前記スライド機構12は、前記シート17と前記シート台11との間に介在し、当該シート台11に対して当該シート17が特定のシート移動方向、この実施の形態では作業機械の前後方向、にスライド移動することを可能にするように当該シート17と当該シート台11とを結合する。具体的に、前記シート17は、図2に示される前端位置と、図3に示される後端位置との間でスライド移動することが許容されている。
前記シート17にはこれと一体にスライドするようにコントロールボックス13が付設されている。このコントロールボックス13は、回動操作されることが可能な操作レバー14と、この操作レバー14の操作に応じてパイロット圧を出力するシート側機器であるパイロット弁15と、を含む。このパイロット弁15は、それぞれが索状体を構成する複数の油圧配管16を介して前記コントロールバルブ6に接続される。この実施形態に係る前記油圧配管16は、例えばゴムホースのように柔軟で比較的撓みやすい材質を有する。
前記パイロット弁15は運転室4内にあり、前記コントロールバルブ6は運転室4の後方すなわち外部にあるため、これらを相互に接続する前記油圧配管16は、前記運転室4の隔壁を貫くように配索される。この実施の形態では、当該隔壁のうち前記運転室4の床部を構成するフロアプレート10に貫通穴18が設けられ、前記油圧配管16は当該貫通穴18に挿通されるようにして運転室4の内外にわたり配索される。従って、前記シート17及びこれに付設される前記コントロールボックス13が図2に示される前端位置と図3に示される後端位置との間で前後方向にスライド移動するのに伴い、これら図2及び図3に示されるように前記各油圧配管16が当該前後方向に振られるようにして撓み変形し、当該油圧配管16の前記フロアプレート10に対する傾きが変化する。
この作業機械は、さらに、本発明に係る索状体保持具に相当する保持具HDを備える。この保持具HDは、前記フロアプレート10上に固定された状態で前記油圧配管16を保持するとともに前記貫通穴18を塞いで運転室4内を密閉する役割を果たす。
なお、本発明に係る索状体保持具が保持する索状体は前記油圧配管16に限られない。当該索状体は、運転室の隔壁を通って配索されるものであればよく、例えば他の油圧配管や配水管、あるいは電気接続用のケーブルであってもよい。また、本発明に係る索状体保持具が固定される隔壁は前記フロアプレート10に限らず、他の隔壁、例えば運転室を側方から囲む側壁であってもよい。
前記実施の形態に係る保持具HDは、図4〜図14に示すようなグロメット20と、クランプ部と、固定具と、を備える。前記クランプ部は第1クランプ部材30A及び第2クランプ部材30Bを含み、前記固定具は、被締結部38と、締結具であるボルト44及びナット46と、を含む。
前記グロメット20は、ゴム等の弾性材により形成されており、索状体保持部に相当する配管保持部22と、前記フロアプレート10に固定される固定部23と、連結部25と、を一体に有する。
前記配管保持部22は、前記各油圧配管16と直接接触してこれらを保持する部分であり、全体がブロック状、ここでは略直方体状、をなす。この配管保持部22を上下方向(本発明にいうシール面の法線方向)に沿って貫通するように複数の(ここでは図5に示される6個の)配管挿通孔21A,21B,21C,21D,21E及び21Fが形成されており、配管保持部22は各配管挿通孔21A〜21Fをそれぞれ囲む内周面を有する。各配管挿通孔21A〜21Fにはそれぞれ前記油圧配管16が挿通可能であり、各配管挿通孔21A〜21Fの径は、これに挿通されるべき油圧配管16の外周面に前記内周面が密着可能となるように、当該油圧配管16の外径と略同等に設定されている。
本発明に係る索状体挿通孔の個数及び配列は限定されず、少なくとも本発明に含まれる傾斜切れ目が到達する索状体挿通孔が含まれていればよい。この実施の形態では、前記各配管挿通孔21A〜21Fの軸方向が前記フロアプレート10に沿う水平方向に対して直交するとともに、当該軸方向に直交する方向のうち図4に矢印A1で示される第1配列方向に並ぶ2つの列にわたって各配管挿通孔21A〜21Fが配列され、各列は前記軸方向に直交する方向であって図4に矢印A2に示されるように前記第1配列方向と直交する方向に3個の配管挿通孔が配列されている。具体的に、第1の列には前記第2配列方向に沿って前記配管挿通孔21A,21B,21Cがその順に配列され、第2の列には同じく前記第2配列方向に沿って前記配管挿通孔21D,21E,21Fがその順に配列されている。また、各列において互いに前記第2配列方向に隣り合う配管挿通孔同士は僅かに重なり合っていて当該第2配列方向に相互つながっている。
前記固定部23は、前記配管保持部22の外周面から所定の小さな距離をおいて当該配管保持部22を囲む枠状をなし、前記連結部25を介して前記配管保持部22と一体につながる。換言すれば、前記固定部23は、前記油圧配管16の配索領域を囲む。前記固定部23は、平坦な下面を有し、この下面は、前記フロアプレート10のうちの前記貫通穴18の周縁部の上面と全周にわたり密着可能なシール面23aを構成している。このシール面23aは、前記貫通穴18を囲むように全周にわたり連続していればよく、この条件を満たす範囲で前記固定部23の下面の一部によってのみ構成されてもよい。この固定部23の下端部のうち前記シール面23aに直交する方向であって前記矢印A2で示される方向の両外側に位置する部分は外向きに突出しており、この突出した部分が変位規制突出部23bを構成している。
前記固定部23は、さらに、一対の位置決め部23dを有する。これらの位置決め部23dは、前記シール面23aよりも下方に突出する部分であって、前記貫通穴18に遊嵌されることによりフロアプレート10に対するグロメット20の大まかな位置決めを可能にする部分である。
この実施の形態に係る配管保持部22は、接触阻止部24を含む。この接触阻止部24は、前記配管保持部22に保持される各油圧配管16が前記第1及び第2クランプ部材30A,30Bに接触するのを阻止するための部分である。具体的に、この接触阻止部24は、前記配管保持部22の周縁部分から上向きつまりシール面23aから遠ざかる向きに立ち上がり、前記配管保持部22に保持される各油圧配管16を包囲する形状を有する。
前記連結部25は、前記配管保持部22と前記固定部23との間に全周にわたって介在しながら当該配管保持部22と当該固定部23とを当該固定部23の内側の領域内で相互に連結する部分である。従って、この連結部25は、前記配管保持部22及び前記固定部23と協働して前記貫通穴18を完全に塞ぐことが可能である。
この連結部25は、前記シール面の法線方向と直交する方向であって前記第1配列方向と平行な基準方向から見て、前記配管保持部22が前記固定部23の内側の領域内で前記第2配列方向に平行な傾き許容方向に傾くことを許容するように弾性変形することが可能な形状を有する。
ここで、前記位置決め部23dが前記貫通穴18の内側に遊嵌されることにより、前記グロメット20の第1配列方向すなわち前記基準方向が前記作業機械の左右方向つまり前記シート17の移動方向と直交する方向に合致しかつ前記第2配列方向すなわち前記傾き許容方向が前記作業機械の前後方向つまり前記シート17の移動方向と平行な方向に合致するように、当該位置決め部23dの位置が設定されている。つまり、この実施の形態に係る保持具HDは、その第2配列方向及び前記傾き許容方向が作業機械の前後方向と合致しかつこれと直交する第1配列方向が作業機械の左右方向と合致するように当該作業機械に設置されるべく、設計されている。
前記連結部25について、「配管保持部22が固定部23の内側の領域内で傾くことを許容する」とは、当該配管保持部22全体がシール面の法線方向である上下方向について当該固定部23の内側の領域内に完全に収められることを限定する趣旨ではなく、当該上下方向について当該配管保持部22の少なくとも一部が当該固定部23の内側の領域内に含まれている状態で当該配管保持部22の傾きが許容される態様をすべて含む趣旨である。従って、前記配管保持部22は、図9に示すように上下方向について前記固定部23の内側に完全に収まっているものに限らず、例えば配管保持部22の下端が固定部23の下端よりも下側にはみ出していたり、配管保持部22の上端が固定部23の上端よりも上側にはみ出したりしていてもよい。
前記連結部25の形状は、具体的には、図9に示すような薄肉部25aを部分的に有している。この薄肉部25aは、図7に示すように上下方向すなわちシール面23aの法線方向に沿う方向に延び、その厚み方向が当該法線方向と直交する形状を有している。具体的に、この薄肉部25aは、前記固定部23の内側面の下端から前記シール面23aの法線方向に沿って上向きに延び、前記配管保持部22の外側面につながる形状を有する。この薄肉部25aは、図13及び図14に示すように当該薄肉部25aの厚み方向に撓み変形することによって、その撓み方向への前記固定部23に対する前記配管保持部22の傾きを許容する。
前記連結部25には、図7及び図9に示すような下向きに開く一対の溝27が形成され、当該連結部25のうち当該各溝27のすぐ外側に位置する部分が前記薄肉部25aを構成している。つまり、当該各溝27が形成されている領域と前記連結部25のうち前記薄肉部25aが存在する領域とは一致している。
この実施の形態において前記溝27が形成される領域は、図7に示すように、前記連結部25のうち前記傾き許容方向(図7では左右方向)について前記配管保持部22の両外側にそれぞれ位置する部分を含む一対の領域である。詳しくは、前記各溝27は、前記傾き許容方向について前記配管保持部22の両外側で当該傾き許容方向と直交する前記基準方向(図7では上下方向)に延びる第1部分27aと、第1部分27aの両端から前記傾き許容方向(図7では左右方向)に沿ってそれぞれ内向きに延びる一対の第2部分27bと、を有し、各溝27のすぐ外側に前記薄肉部25aが存在している。換言すれば、前記連結部25のうち前記溝27が途切れている部分、すなわち、一方の溝27の第2部分27bと他方の溝27の第2部分27bとの間に介在する部分であって前記基準方向(図7では上下方向)の両外側に位置する部分は、前記薄肉部25aを持たない部分であって当該薄肉部25よりも大きな肉厚を有する厚肉部25bを構成している。
このような薄肉部25aと厚肉部25bとが混在する連結部25の形状は、前記固定部23に対する配管保持部22の傾きが許容される方向を前記傾き許容方向に限定することを可能にする。具体的には、前記薄肉部25aの前記傾き許容方向への撓み変形と前記厚肉部25bのねじれ変形との組み合わせによって当該傾き許容方向への前記配管保持部22の傾きが許容される一方、両厚肉部25bが並ぶ方向である基準方向への配管保持部22の傾きはほとんど許容されない。ただし、本発明に係る連結部は前記薄肉部25aと前記厚肉部25bとを併有するものに限定されない。例えば、前記配管保持部22の傾き方向を限定する必要がない場合には、前記薄肉部25aが全周にわたって存在していてもよい。
前記固定部23は一対の傾き規制部23cを有する。これらの傾き規制部23cは、前記固定部23のうち前記基準方向について前記配管保持部22の両側に位置する部分であって、当該固定部23のうち前記傾き許容方向について前記索状体保持部の両側に位置する部分よりも上向きすなわち前記シール面23aから離れる向きに突出する部分であり、前記配管保持部22に含まれる前記接触阻止部24と当接することにより、前記基準方向への前記油圧配管16の傾きを規制する。この傾き規制部23cは、適宜省略が可能である。
この実施の形態に係るグロメット20には、前記各配管挿通孔21A〜21Fへの油圧配管16の挿通を容易にするための第1の切れ目26A及び第2の切れ目26Bが形成されている。これらの切れ目26A,26Bは、前記配管保持部22での前記各列における配管挿通孔のうち一方の外端に位置する配管挿通孔とその外側のグロメット20の外側面との間に位置する全てのグロメット20の部分(配管保持部22、接触阻止部24、連結部25、及び固定部23を含む部分)を図4に矢印A2で示す方向であって図7の左右方向に沿う方向に横切って当該固定部23の外端に至る直線状をなしている。
具体的に、前記第1の切れ目26Aは、平面状をなし、前記グロメット20の外側面(図7では右側面)から前記配管挿通孔21A〜21Fの軸方向(この実施の形態では上下方向)と直交する方向であって前記第2配列方向と平行な第1の切込み方向(図7では左右方向)に沿って前記固定部23、前記連結部25及び前記配管保持部22を直線状に横断し、第1の索状体挿通孔に相当する配管挿通孔21A、つまり、同じ列に属する配管挿通孔21A〜21Cのうち作業機械搭載時において最も当該作業機械の後側に位置する配管挿通孔21A、に至る。これにより、第1の切れ目26Aは当該第1の切れ目26Aを境としてその両側のグロメット20の部分を分断する。同様に、前記第2の切れ目26Bも、平面状をなし、前記グロメット20の外側面(図7では右側面)から前記配管挿通孔21A〜21Fの軸方向と直交する方向であって前記第1の切込み方向と平行な第2の切込み方向(図7では左右方向)に沿って前記固定部23、前記連結部25及び前記配管保持部22を直線状に横断し、第2の索状体挿通孔に相当する配管挿通孔21D、つまり、同じ列に属する配管挿通孔21D〜21Fのうち作業機械搭載時において最も当該作業機械の後側に位置する配管挿通孔21D、に至る。これにより、第2の切れ目26Bは当該第2の切れ目26Bを境としてその両側のグロメット20の部分を分断する。
前記第1の切れ目26Aによるグロメット20の分断は、この第1の切れ目26Aを通じて索状体である油圧配管16を前記配管挿通孔21Aさらにはこれとつながる配管挿通孔21B,21Cに対して側方から(つまり当該配管挿通孔21A〜21Cの軸方向と直交する第1の切込み方向に沿って)挿入することを可能にする。同様に、前記第2の切れ目26Bによるグロメット20の分断は、この第2の切れ目26Bを通じて索状体である油圧配管16を前記配管挿通孔21Dさらにはこれとつながる配管挿通孔21E,21Fに対して側方から(つまり当該配管挿通孔21D〜21Fの軸方向と直交する第2の切込み方向に沿って)挿入することを可能にする。
さらに、この保持具HDの特徴として、図8に示すように、前記第1及び第2の切れ目26A,26Bは、本発明にいう傾斜切れ目となっている。具体的に、前記第1の切れ目26Aは、前記第1の切込み方向からみて前記配管挿通孔21Aの軸方向に対して第1の向きに(図8では上端から右下がりに)傾斜する傾斜切れ目であり、前記第2の切れ目26Bは、前記第2の切込み方向からみて前記配管挿通孔21Dの軸方向に対して前記第1の向きと逆の第2の向きに(図8では上端から左下がりに)傾斜する傾斜切れ目である。つまり、前記第1及び第2の切れ目26A,26Bは、前記第1及び第2切込み方向から見て、下方に向かうに従って両切れ目26A,26B同士の間隔が次第に狭くなる形状、すなわち略V字状に傾斜している。この傾斜は、いわゆるくさび効果により、グロメット20のうち第1及び第2の切れ目26A,26Bの間の部分20aが当該第1及び第2の切れ目26A,26Bの両外側の部分に対して下方に相対変位することを強力に規制する。
前記第1クランプ部材30A及び前記第2クランプ部材30Bは、前記クランプ部を構成し、互いに締結されることにより前記グロメット20を外側からクランプする。この実施の形態に係るクランプ部が前記グロメット20をクランプする方向すなわちクランプ方向は、前記各配管挿通孔21A〜21Fの軸方向に対して直交する方向であって前記第1及び第2の切れ目26A,26Bの第1及び第2切込み方向並びに前記傾き許容方向と直交する方向、つまり前記基準方向と平行な方向、である。
具体的に、前記第1クランプ部材30Aは、前記基準方向と直交する方向、つまり前記第1及び第2切込み方向及び前記傾き許容方向と平行な方向、に延びる平板状をなし、前記グロメット20の側面に対して立直状態で前記クランプ方向(図4の矢印A1の方向)の一方の側から当接可能な形状を有する。この第1クランプ部材30Aの長手方向の両端部には前記ボルト40が挿通可能なボルト挿通孔32が穿設され、当該ボルト40と螺合する前記ナット42が前記ボルト挿通孔32と合致するように前記第1クランプ部材30Aの外側面(グロメット20に対向する面と反対側の面)に溶接などで固定されている。
前記第2クランプ部材30Bは、同じく板状であって、かつ、前記第1クランプ部材30Aと反対の側から前記グロメット20を囲む帯状を有する。具体的に、この第2クランプ部材30Bは、クランプ板部33と、一対の側板部35,35と、締結部37と、を一体に有し、その長手方向全域にわたって均一な高さ寸法(前記配管挿通孔21の軸方向と平行な方向であって前記シール面23aの法線と平行方向の寸法)を有する。
前記クランプ板部33は、前記第1クランプ部材30Aと平行な方向に延びる部分であり、当該第1クランプ部材30Aと反対の側から立直状態で前記グロメット20の側面に当接可能な形状を有する。前記両側板部35,35は、前記クランプ板部33の両端から前記クランプ方向と平行な方向に沿ってグロメット20の両側方を通って、より詳しくは当該グロメット20における前記固定部23の両変位規制突出部23bの上方を通って、前記第1クランプ部材30A側に向かって延びる。従って、両変位規制突出部23bは、その上面が前記両側板部35,35の下端面と当接することによって、グロメット20に対する第2クランプ部材30Bの下向きの相対変位(つまり隔壁であるフロアプレート10に近づく向きの相対変位)を規制することができる。
換言すれば、両変位規制突出部23bは、前記第1及び第2クランプ部材30A,30Bによりクランプされる被クランプ部分である配管保持部22の外周面から外向きに突出した部分であって、この変位規制突出部23bと前記第1及び第2クランプ部材30A,30Bとの当接によって、当該第1及び第2クランプ部材30A,30Bのグロメット20に対する位置決めと、当該第1及び第2クランプ部材30A,30Bの当該グロメット20に対する下向きの相対変位の規制と、が行われる。
前記各締結部37は、前記第1クランプ部材30Aに締結される部分であり、前記両側板部35,35の端部であって前記クランプ板部33と反対側の端部から外向きに突出する。これらの締結部37にはそれぞれボルト挿通孔37aが穿設され、各ボルト挿通孔37a及びこれに対応する前記第1クランプ部材30Aのボルト挿通孔32に前記ボルト40が挿通された状態で当該ボルト40が前記ナット42に螺合され、締め付けられることにより、両締結部37が第1クランプ部材30Aにそれぞれ前記クランプ方向に締結されることが可能である。
ここにおいて、両側板部35,35の長さ、すなわち前記基準方向と平行な方向の寸法、は、前記両締結部37が前記第1クランプ部材30Aに締結されることにより、前記クランプ板部33と前記第1クランプ部材30Aが前記グロメット20を前記クランプ方向にクランプすることを可能にする寸法であって、前記切れ目26の存在に関わらず前記グロメット20の配管保持部22の各内周面が各油圧配管16の外周面に全周にわたって密着するまで当該グロメット20を圧縮方向に弾性変形させることが可能な寸法に、設定されている。また、前記側板部35,35同士の間の間隔、すなわち前記第1及び第2切込み方向並びに前記傾き許容方向と平行な方向の間隔は、当該方向のグロメット20の寸法よりも僅かに大きく設定されている。これは、前記第1及び第2クランプ部材30A,30Bによる前記クランプ方向のクランプすなわち同方向についてのグロメット20の弾性圧縮変形が当該グロメット20を当該クランプ方向と直交する方向(前記第1及び第2切込み方向並びに前記傾き許容方向と平行な方向)に膨張させるのを許容するための膨張しろを見越したものである。
前記被締結部38は、前記フロアプレート10にその板厚方向つまり法線方向に締結される部分であり、この実施の形態では前記第1クランプ部材30Aと一体につながっている。この被締結部38は、前記第1クランプ部材30Aとともに前記傾き許容方向と平行な方向に延び、かつ当該第1クランプ部材30Aの下端から外向き(グロメット20と反対の向き)に延びている。すなわち、この実施の形態に係る被締結部38は、当該第1クランプ部材30Aとともに連続したL字状の断面を構成している。換言すれば、この実施の形態では、L字状の断面を有する単一の板材によって、前記第1クランプ部材30Aと前記被締結部38とが構成されている。
前記被締結部38には、その長手方向に沿って並ぶ複数のボルト挿通孔39が穿設されている。一方、前記フロアプレート10には複数のボルト挿通孔19が前記各ボルト挿通孔39にそれぞれ対応する位置に形成され、これらのボルト挿通孔19にそれぞれ合致する位置で前記フロアプレート10の下面に図4に示すようなナット46が溶接等で固定されている。そして、前記ボルト挿通孔39及びボルト挿通孔19に締結具であるボルト44が上から挿通され、前記ナット46に螺合されて締め付けられることにより、前記被締結部38がその板厚方向すなわち前記シール面23aの法線と平行な上下方向に沿って前記フロアプレート10に締結される。
ここにおいて、前記グロメット20における固定部23の高さ寸法、すなわち、当該固定部23における変位規制突出部23bの上面からシール面23aに至るまでの寸法は、当該変位規制突出部23bの上面に前記第2クランプ部材30Bの両側板部35,35の下端面が当接した状態で前記被締結部38が前記フロアプレート10に締結されることによって前記グロメット20の弾性圧縮変形を伴いながら前記シール面23aが前記フロアプレート10における貫通穴18の周縁部の上面に押付けられて密着するように、設定されている。具体的には、前記変位規制突出部23bの高さ寸法は、前記両側板部35,35の下端面と前記固定部39の下面との上下方向の間隔よりも僅かに大きく設定されている。
なお、被締結部とクランプ部との関係は、当該被締結部の隔壁への締結によって当該隔壁にグロメットのシール面を密着させるように互いに一体に変位するようにつながっていればよく、必ずしも前記被締結部38と第2クランプ部材30Aのように単一の部材により構成される態様に限定されない。例えば被締結部とクランプ部とが締結具その他の連結具を用いて相互に相対変位不能となるように連結された態様でもよい。また、本発明に係る固定具は、クランプ部を介さずにグロメットを直接的に隔壁に固定するものでもよい。
次に、前記保持具HDの使用要領及び作用を説明する。この保持具HDは、例えば次の手順によって使用されることができる。なお、以下の作業はシート17が図2に示される前端位置にある状態で行われる。これは、後に詳述するように、当該シート17が当該前端位置から図3に示される後端位置にスライド移動したときに前記保持具HDの特徴である第1及び第2の切れ目26A,26Bの傾斜によるくさび作用を有効に働かせるためである。
1)隔壁であるフロアプレート10の貫通穴18に各油圧配管16が挿通される。当該油圧配管16は、運転室4内のシート側機器であるパイロット弁15と外部機器であるコントロールバルブ6とに接続される。
2)グロメット20が第1及び第2の切れ目26A,26Bに沿って開かれ、各配管挿通孔21A〜21F内に各油圧配管16が側方から、すなわち、当該油圧配管16の軸方向と直交する方向であって図4に矢印A2で示される第1切込み方向及び第2切込み方向(第2配列方向及び傾き許容方向と平行な方向)から、挿入される。これにより、当該油圧配管16が各配管挿通孔21A〜21Fに挿通された状態になる。具体的に、前記第1の切れ目26Aは、この第1の切れ目26Aを通じて当該第1の切れ目26Aがつながる配管挿通孔21Aさらにはこれとつながる配管挿通孔21B,21Cに油圧配管16が側方から挿入されることを、許容する。同様に、前記第2の切れ目26Bは、この第2の切れ目26Bを通じて当該第2の切れ目26Bがつながる配管挿通孔21Dさらにはこれとつながる配管挿通孔21E,21Fに油圧配管16が側方から挿入されることを、許容する。この油圧配管16の挿入作業は、例えば当該油圧配管16を各配管挿通孔21A〜21Fに沿って軸方向に挿入する作業に比べて作業者の負担を格段に低減する。
3)グロメット20に対して第1クランプ部材30Aと第2クランプ部材30Bのクランプ板部33とが前記第1及び第2切込み方向と直交する前記クランプ方向の両外側からあてがわれる。さらに、第2クランプ部材30Bの締結部37と第1クランプ部材30Aとがクランプ用締結具であるボルト40及びナット42を用いて締結される。この締結により、第1クランプ部材30Aと第2クランプ部材30Bのクランプ板部33との間隔が縮められ、これらによるグロメット20の前記クランプ方向のクランプが実現される。
このクランプは、グロメット20を弾性圧縮変形させることにより当該グロメット20の各内周面すなわち各配管挿通孔21を囲む内周面を確実に各油圧配管16の外周面に密着させる。この密着は、グロメット20の配管保持部22による各油圧配管16の保持を確実にするとともに、当該配管保持部22と各油圧配管16との間のシール性を高める。さらに、前記クランプ方向は前記第1及び第2切込み方向と直交しているので、グロメット20のうち前記第1及び第2の切れ目26A,26Bにより分断された部分同士の密着をより顕著なものにし、これにより、当該第1及び第2の切れ目26A,26Bの存在にかかわらず高いシール性を確保することを可能にする。
さらに、前記クランプ方向が前記傾き許容方向と直交することは、前記クランプによりグロメットに与えられる外力が前記連結部25の弾性変形に基づく前記固定部23に対する前記配管保持部22の傾きに与える抵抗を最小にする。
前記クランプは、好ましくは前記第2クランプ部材30Bの両側板部35,35の下面がグロメット20の固定部23の両変位規制突出部23bの上面に当接する位置で行われる。この当接は、グロメット20に対する両クランプ部材30A,30Bの下向きの相対変位の規制、すなわちフロアプレート10に近づく向きの相対変位の規制、をより確実にする。
4)グロメット20の位置決め部23dが貫通穴18に嵌り込む位置でフロアプレート10の上にグロメット20が載置される。これにより、当該グロメット20の固定部23の下面すなわちシール面23aが前記フロアプレート10における貫通穴18の周縁部の上面に対して全周にわたり接触した状態になる。このとき、当該グロメット20の第1及び第2切込み方向並びに傾き許容方向は作業機械の前後方向と合致し、当該グロメット20の基準方向及びクランプ方向は作業機械の左右方向と合致する。
5)前記の状態で前記第1クランプ部材30Aと一体につながる被締結部38が固定用締結具であるボルト44及びナット46を用いてフロアプレート10に締結される。この締結により前記被締結部38と一体に第1及び第2クランプ部材30A,30Bが下向きすなわちフロアプレート10に近づく向きに変位し、当該第2クランプ部材30Bの両側板部35,35がグロメット20の固定部23の変位規制突出部23bを上から押圧することにより当該固定部23のシール面23aをフロアプレート10における貫通穴18の周縁部に密着させる。これにより、隔壁であるフロアプレート10上への保持具HDの設置が完了する。
この保持具HDでは、前記のようにグロメット20に形成された第1及び第2の切れ目26A,26Bが各配管挿通孔21A〜21Fへの各油圧配管16の挿入作業を容易にするのに加え、当該第1及び第2の切れ目26A,26Bに与えられた傾斜が、当該第1及び第2の切れ目26A,26Bの存在にかかわらず当該グロメット20の高いシール性を確保することを可能にする。
具体的に、前記第1及び第2の切れ目26A,26Bは、これらの間に挟まれたグロメット20の部分をその両外側の部分から分断するものであるため、仮にこれら第1及び第2の切れ目26A,26Bが従来のように傾斜をもたない切れ目であったとすると、つまり、前記配管挿通孔21A〜21Fの軸方向と平行な上下方向に延びる平面で構成されている切れ目であるとすると、例えばシート17が図2に示す前端位置から図3に示す後端位置にスライド移動した際に、このシート17に付設されたコントロールボックス13のパイロット弁15に接続された各油圧配管16が前方に傾斜する姿勢から後方に傾斜する姿勢に大きく変位し(図2及び図3を比較参照)、これにより前記グロメット20のうち前記両切れ目26A,26Bの間の部分20aを当該両切れ目26A,26Bの両外側の部分に対して容易に下方へ相対変位させてしまう可能性がある。これに対し、図8等に示される第1及び第2の切れ目26A,26Bは、下方に向かうに従って両切れ目26A,26Bの間の部分20aに入り込んでいく方向(第1の切れ目26Aは左方、第2の切れ目26Bは右方)に傾斜しているため、いわゆるくさび作用を発揮して、当該両切れ目26A,26Bの間の部分20aがその両外側の部分に対して下方に相体変位するのを有効に抑止することができる。
一方、この実施の形態に係る保持具HDにおいてクランプ部を構成する前記第1及び第2クランプ部材30A,30Bは、前記第1及び第2の切れ目26A,26Bの第1及び第2の切込み方向と直交するクランプ方向に互いに締結されることによって前記グロメット20を当該クランプ方向の両外側からクランプするため、前記第1及び第2の切れ目26A,26Bにより分断された部分同士の密着度を高めるとともに、当該分断された部分同士の相対変位をさらに抑止することができ、これにより、当該グロメット20のシール性をさらに向上させることができる。
さらに、この実施の形態に係るグロメット20は、前記油圧配管16を保持する配管保持部22と、フロアプレート10に固定される固定部23と、に加え、これら配管保持部22と固定部23との間に介在する連結部25を備え、当該連結部25が前記固定部23に対する前記配管保持部22の傾き許容方向つまり第1及び第2の切込み方向と平行な方向への相対的な傾きを許容するように弾性変形するので、その傾きによって前記油圧配管16から前記配管保持部22に加えられる荷重を吸収して前記第1及び第2の切れ目26A,26の間の部分20aの変位をさらに抑えることができる。
具体的に、この実施の形態に係る作業機械では、図1〜図3に示されるシート17及びこれに付設されるコントロールボックス13が図2に示される前端位置と図3に示される後端位置との間で作業機械の前後方向にスライド移動するのに伴い、前記のように各油圧配管16が当該前後方向に大きく振られることになるが、図13及び図14に示されるように、前記連結部25の弾性変形により、前記油圧配管16の動きに追従して当該油圧配管16を保持する配管保持部22が前記固定部23に対して前記前後方向すなわち前記傾き許容方向に傾くことが許容される。この傾きが、当該配管保持部22に加えられる荷重を有効に軽減する。
より詳しくは、この実施の形態に係る前記連結部25のうち前記傾き許容方向について前記配管保持部22の両側に位置する各薄肉部25aの当該傾き許容方向への撓み変形と、前記傾き許容方向と直交する前記基準方向について前記配管保持部22の両側に位置する各厚肉部25bの当該基準方向の回転軸を中心とするねじれ変形と、の組合せが、前記油圧配管16の動きに柔軟に追従するような前記配管保持部22の前記固定部23に対する傾きを、許容する。
さらに、前記傾き許容方向と前記クランプ方向とが互いに直交する方向であることは、前記クランプ部によるクランプが前記配管保持部22の傾きに与える抵抗を最小限にすることができる。
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されない。本発明は、例えば次のような態様をとることが可能である。
(1)切れ目の個数について
本発明は、単一の切れ目のみが形成されたグロメット、あるいは3本以上の切れ目が形成されたグロメットを備える索状体保持具も包含する趣旨である。単一の切れ目のみが形成されたグロメットでは、当該単一の切れ目がその切込み方向から見て索状体挿通孔の軸方向に対して傾斜する傾斜切れ目であることにより、当該傾斜切れ目により互いに分断されたグロメットの部分同士の前記軸方向の相対変位のうち当該部分同士が互いに圧接する向きの相対変位を抑止することが可能である。逆に、複数の切れ目が形成されたグロメットでは、当該複数の切れ目のうちの少なくとも一つが傾斜切れ目であれば、その傾斜切れ目によって互いに分断されたグロメットの部分について前記の相対変位の抑止効果を享受することが可能である。
(2)第1の切れ目及び第2の切れ目の傾斜について
本発明に係るグロメットが第1及び第2の切れ目を含む場合、そのうちの少なくとも第1の切れ目が傾斜切れ目であれば、当該第1及び第2の切れ目の間のグロメットの部分の相対変位の抑止が可能である。換言すれば、本発明は、前記第2の切れ目が第2の索状体挿通孔に対して傾斜せずにこれと平行な切れ目である態様も含む。
しかし、図8に示すように第1及び第2の切れ目26A,26Bが互いに逆向きに傾斜することは、両切れ目26A,26Bの間の部分20aの特定の向き(図では下向き)への変位を規制する、いわゆるくさび効果を倍増させる。従って、この実施の形態では、各切れ目26A,26Bの傾斜角度を小さく抑えて当該切れ目26A,26Bを通じての油圧配管16の挿入作業を容易にしながら、高い相対変位抑止効果を得ることが可能である。また、第1及び第2の切れ目26A,26Bの傾斜が図8に示す傾斜とそれぞれ逆である場合、つまり、両切れ目26A,26B同士の間隔が下方に向かうに従って拡大されるように両切れ目26A,26Bが傾斜している場合、前記とは逆に両切れ目26A,26Bの間のグロメット部分20aの両外側部分に対する上向きの相対変位が規制されることは、いうまでもない。
一方、図15に第1の切れ目26A及び第2の切れ目26Bのように両切れ目26A,26Bが互いに同じ向きに傾斜している場合(例えば第1及び第2切込み方向から見て両切れ目26A,26Bが平行である場合)、配管挿通孔21A〜21Fの軸方向の双方について(上向き及び下向きのいずれについても)両切れ目26A,26Bの間のグロメット20の部分の両切れ目26A,26Bの両外側の部分に対する相対変位を抑止することができる利点がある。
(3)切込み方向について
前記第1の切込み方向及び第2の切込み方向は、平行でなく、索状体挿通孔の軸方向から見て互いに交差する方向であってもよい。この場合も、少なくとも第1の切れ目が傾斜切れ目であれば、グロメットのうち当該第1の切れ目と第2の切れ目との間の部分が両切れ目の両外側の部分に対して前記軸方向に相対変位することを抑止することが可能である。その一方、前記の実施の形態のように第1及び第2の切込み方向が互いに平行であることは、第1及び第2の索状体挿通孔に対する索状体の挿入方向を統一してその挿入の作業を効率化することを可能にする。また、この場合、前記のように両切込み方向に対して直交する方向からグロメットをクランプすることにより、第1及び第2の切れ目の双方について、当該切れ目により分断されたグロメットの部分同士の密着性の向上と、相対変位の更なる抑止とが、同時に実現される。
(4)グロメットについて
本発明では、グロメットの具体的な形状は限定されない。当該グロメットは、例えば、前記連結部25をもたず全体が単一のブロックとして形成されたものでもよい。その具体的な形状にかかわらず、当該グロメットの外側面から索状体挿通孔に至る傾斜切れ目を形成することが可能である。