以下、本発明を電子機器の一例としての印刷装置に具体化した一実施形態を、図1〜図15を用いて説明する。
[構成]
図1に示すように、印刷装置11は、媒体の一例である用紙P(シート)を搬送する搬送ローラー対12を備える。可動部材の一例としてのキャリッジ13は、用紙Pの搬送方向(図1では右方向)と交差する幅方向(図1では紙面と直交する方向)に延びるように架設されたガイド軸14に案内されて幅方向(主走査方向)に往復移動可能な状態に設けられている。キャリッジ13の用紙Pと対向する部位には用紙Pに対してインクを噴射する印刷ヘッド15が取り付けられている。印刷ヘッド15と用紙Pを挟んで対向する位置には支持台16が幅方向に沿って延びる状態で配置されている。支持台16よりも搬送方向(副走査方向)の下流側(図1における右側)の位置には印刷後の用紙Pを排出する排出ローラー対17が設けられている。搬送ローラー対12は駆動ローラー12aとこれに連れ回りする従動ローラー12bとを備え、排出ローラー対17は駆動ローラー17aとこれに連れ回りする従動ローラー17bとを備える。搬送モーター18が駆動されると、その動力は不図示の動力伝達機構を介して各駆動ローラー12a,17aに伝達され、各駆動ローラー12a,17aの回転に各従動ローラー12b,17bが連れ回りすることにより用紙Pは搬送される。
また、キャリッジ13の移動経路の両端位置付近に配置された駆動プーリー19及び従動プーリー20(図2参照)には、無端状のタイミングベルト21が巻き掛けられており、このタイミングベルト21の所定箇所にキャリッジ13が連結されている。駆動プーリー19は、動力源の一例である直流モーター22の出力軸に対して直接又は減速機構(図示せず)を介して接続されている。直流モーター22が正逆転駆動されると、各プーリー19,20に案内されて正逆回転するタイミングベルト21を介してキャリッジ13は幅方向(主走査方向)に沿って往復移動する。
また、キャリッジ13の主走査方向における位置を検出するリニアエンコーダー23が設けられている。リニアエンコーダー23は主走査方向に沿って張設されたリニアスケール24と、リニアスケール24に一定ピッチで形成されたスリットを通過した光を検知するセンサー25とを有し、センサー25はスリットを通過した光の検知数と同数のパルスを有するエンコーダー信号を出力する。
また、印刷装置11は、印刷等の制御を司るコントローラー30を備える。コントローラー30には、ユーザーに操作される操作パネル31が接続されている。この操作パネル31には各種の表示を行う表示部32が設けられている。また、コントローラー30には、外部(例えばホスト装置)と通信のために接続される通信インターフェイス33が接続されている。
コントローラー30は、印刷装置11の全体の動作を制御するメイン制御部35を備える。また、コントローラー30は、搬送ローラー対12及び排出ローラー対17の動力源である搬送モーター18を駆動制御する搬送制御部36、直流モーター22を駆動制御することでキャリッジ13の移動を制御する制御部の一例としてのキャリッジ制御部37、及び印刷ヘッド15による印刷を制御する印刷ヘッド制御部38を備える。
図2に示すように、キャリッジ13は駆動プーリー19と従動プーリー20との間に巻き掛けられたタイミングベルト21に取り付けられ、駆動プーリー19を直流モーター22により駆動することで、ガイド軸14に沿って主走査方向(図2における左右方向)に往復移動する。キャリッジ13にはリニアエンコーダー23のセンサー25が設けられ、センサー25は、タイミングベルト21と平行に配置されたリニアスケール24に一定ピッチ毎に形成されたスリットを通過した光を検知することで、キャリッジ13の移動量に比例するパルス数のエンコーダー信号を出力する。このエンコーダー信号はキャリッジ13の位置検出に用いるためにキャリッジ制御部37(図1参照)にフィードバックされる。なお、本実施形態では、例えばキャリッジ13のホーム位置を原点「0」とするキャリッジ13の主走査方向における相対位置をキャリッジ位置Xとする。
図3(a)は、キャリッジ13の速度プロファイルを示すグラフであり、キャリッジ位置Xと速度V(キャリッジ速度)との対応関係を示す。図3(a)に示すように、キャリッジ13の速度プロファイルは、キャリッジ13の起動位置Xsから目標位置Xcまでの区間で速度Vを「0」から目標速度Vcまで加速する加速領域と、目標速度Vcに保持する定速領域と、減速開始位置Xdから停止位置Xeまでの区間で速度Vを目標速度Vcから「0」まで減速する減速領域とを備える。キャリッジ制御部37は、図3(a)のグラフで示された速度プロファイルに沿ってキャリッジ13を速度制御するため、キャリッジ位置Xの目標位置との位置偏差と目標速度との対応関係を示す速度制御テーブルを参照する参照テーブル部42(図4参照)を備え、参照テーブル部42が速度制御テーブルを参照してその時々のキャリッジ位置Xの位置偏差に応じた目標速度Vを取得し、その取得した目標速度Vに対応する速度指令値(指令信号)に基づいて直流モーター22を駆動制御する。
図3(b)はキャリッジ13の定速領域における振動特性を示すグラフである。このグラフは、キャリッジ位置Xと周波数fとの対応関係を示す。このグラフ中の実線は、各プーリー19,20及びタイミングベルト21などを含む動力伝達部と、タイミングベルト21に固定されたキャリッジ13とを含むキャリッジ駆動系の固有振動(以下「キャリッジ駆動系振動」ともいう。)を示す。キャリッジ駆動系振動はキャリッジ位置Xに応じて実線で示すように変化する。このグラフでキャリッジ位置Xを示す横軸において同図左端側がホーム位置側であり、同図右端側が直流モーター22側となっている。そして、定速領域におけるキャリッジ駆動系振動の周波数(固有振動数)は、キャリッジ13がホーム位置側から直流モーター22側に近づくほど高周波数となる傾向にある。なお、キャリッジ駆動系振動の周波数は、例えばキャリッジ駆動系を公知の方法でモデル化した等価回路の運動方程式を解くことで算出される。
また、直流モーター22が一定の回転速度Vmcで回転している定速領域では、直流モーター22には回転速度Vmcに応じた周波数のモーター回転振動が発生する。このモーター回転振動には、1次振動、2次振動、3次振動、…がある。そして、キャリッジ駆動系振動の周波数が、図3(b)に示すようにキャリッジ位置Xに応じて変化するため、キャリッジ13の移動経路上にキャリッジ駆動系振動とモーター回転振動とが共振する領域が発生する。図3(b)はその一例として、キャリッジ駆動系振動が、モーター回転m次振動とモーター回転n次振動(但し、m<n)に共振する場合を示している。キャリッジ駆動系振動は、キャリッジ位置Xがホーム位置寄りのA領域にあるときに周波数fmのモーター回転m次振動と共振し、キャリッジ位置Xがモーター側寄りのB領域にあるときに周波数fnのモーター回転n次振動と共振する。なお、図3(b)では、本実施形態の効果を説明するため、A領域とB領域とが一部重複する領域でキャリッジ13が周波数fmの振動と周波数fnの振動に共振する場合の例を示している。
図3(b)に示す例のように、キャリッジ駆動系がA領域とB領域で異なる周波数fm,fnで振動する場合、図9(a)に実線で示すようにキャリッジ13は定速領域におけるA領域で周波数fmの振動Fmにより速度変動するとともに、B領域で周波数fnの振動Fnにより速度変動する。このキャリッジ13の周波数の異なる複数種の振動を小さく抑えるため、本実施形態のキャリッジ制御部37は、キャリッジ13で発生する振動の位相と逆位相となる図9(a)に破線で示す逆位相トルクを加えるアクティブダンパー制御を行う。
次にキャリッジ制御部37の構成を図4に基づいて説明する。ここでは、直流モーター22をPID制御する例を示す。キャリッジ制御部37は、直流モーター22を駆動制御するため、減算器41、テーブル参照部42、減算器43、比例係数回路44、積分係数回路45、微分係数回路46、比例補正部47、積分補正部48、微分補正部49、加算器50、最終補正部51、モータードライバー52、エンコーダー速度検出部53及びエンコーダー位置検出部54を備える。なお、本実施形態では、リニアエンコーダー23及びエンコーダー位置検出部54により、位置検出部の一例が構成される。
また、キャリッジ制御部37は、リニアエンコーダー23が出力するエンコーダー信号に基づきエンコーダー位置検出部54が検出したキャリッジ13の位置(以下「キャリッジ位置X」ともいう。)に応じた周波数のダンパー波形(補正波形)を用いて直流モーター22の駆動を制御する補正制御部の一例としてのアクティブダンパー55を備える。また、キャリッジ制御部37は、このアクティブダンパー55がキャリッジ13の駆動を制御するために利用するパラメーターが登録されるNVRAM56(不揮発性ランダムアクセスメモリー、Non Volatile Random Access Memory)を備え、アクティブダンパー55による制御(以下「アクティブダンパー制御」という。)がある場合とない場合とでキャリッジ13の振動を測定して比較し、アクティブダンパー制御の効果(振動低減効果)を判断するために測定部の一例としての振動量測定部57及び判定部58を備える。更にキャリッジ制御部37は、アクティブダンパー55の動作を制御すると共に、アクティブダンパー55がキャリッジ13の振動を制御するために利用するパラメーターを更新する較正部の一例としてのキャリブレーション実行制御部59を備える。
アクティブダンパー55がキャリッジ13の駆動制御に利用するためNVRAM56に登録されたパラメーターには、周波数、位相及び振幅の3つがある。ここで、周波数は、キャリッジ駆動系振動が、モーター回転N次振動(但しN=1,2,…)のうち周波数の異なる複数のモーター回転振動(本例ではモーター回転m次振動とn次振動)と共振するときの周波数である。この周波数は、キャリッジ位置Xに応じたキャリッジ駆動系振動と、定速領域における直流モーター22の回転速度Vmcとが既知であることから予め決まっている。そして、直流モーター22の定速領域における回転速度Vmcは、速度モードに応じて異なるので、周波数、位相及び振幅のパラメーターは速度モード毎に登録されている。このパラメーターの詳細については後述する。
次に図4を参照して、キャリッジ制御部37による直流モーター22の駆動制御について説明する。キャリッジ制御部37には、メイン制御部35から、キャリッジ13の目標位置が入力される。
減算器41は、入力された目標位置から、エンコーダー位置検出部54により検出された実際の位置を減算し、位置偏差を求める。テーブル参照部42は、位置偏差に対する目標速度がテーブルとして登録され、減算器41の求めた位置偏差に対応する目標速度を出力する。減算器43は、この目標速度から、エンコーダー速度検出部53により検出された実際の速度を減算し、速度偏差を求める。
比例係数回路44、積分係数回路45及び微分係数回路46は、減算器43の求めた速度偏差に、それぞれ比例係数、積分係数及び微分係数を乗算する。比例補正部47、積分補正部48及び微分補正部49は、比例係数回路44、積分係数回路45及び微分係数回路46の出力にそれぞれ必要な補正を施す。
最終補正部51は、比例補正部47、積分補正部48及び微分補正部49の出力の加算値(指令信号の値)とアクティブダンパー55の値(補正波形信号の値)とを加算器50によって加算した値に最終補正を施し、パルス幅変調(PWM)されたモーター駆動信号(制御信号)として、モータードライバー52に供給する。モータードライバー52は、このモーター駆動信号により、直流モーター22を駆動する。直流モーター22を駆動することで移動したキャリッジ13の移動量に比例する数のパルスを含むエンコーダー信号がリニアエンコーダー23から読み込まれ、エンコーダー速度検出部53はその速度情報を、エンコーダー位置検出部54はその位置情報であるキャリッジ位置Xを、それぞれ出力する。以上は一般的なPID制御であり、ここではこれ以上の詳しい説明を省略する。
[アクティブダンパーの基本的動作]
図6はアクティブダンパー制御による制振動作を説明する図であり、この図を参照してアクティブダンパー55及びNVRAM56の動作を説明する。
キャリッジ13がモーター回転振動との共振で振動した場合、図6の実線で示すようにキャリッジ13の速度が周期的に変動する速度振動が発生し、キャリッジ13の移動方向における周期的な進みまたは遅れを生じさせる。この速度振動を低減させるため、図6の点線で示すような正弦波をキャリッジ13の動きに加える、すなわち、キャリッジ13の振動と逆位相の振動が生じるように、直流モーター22のトルクを制御する。具体的には、アクティブダンパー55によりキャリッジ13の振動と逆位相のトルクを発生させるための補正波形信号の一例であるダンパー波形信号を生成し、加算器50により、PID演算後の最終出力値、すなわち比例補正部47、積分補正部48及び微分補正部49の出力の加算値(指令値)に加算する。換言すれば、キャリッジ13を目標速度に制御するためのPID演算後の値を指令値とする指令信号と、アクティブダンパー55によりキャリッジ13の振動と逆位相のトルクを発生させるために生成されたダンパー波形信号とを合成し、その合成した信号値に最終補正部51による補正を施した信号値をもつ制御信号としてモーター駆動信号をモータードライバー52に出力する。このように本実施形態における制御信号であるモーター駆動信号にはダンパー波形信号が重畳されている。この結果、キャリッジ13の速度振動は図6の2点鎖線に示すように、大幅に抑えられる。
なお、本実施形態では、キャリッジ13を目標速度に制御する指令信号を生成するための各部41〜49により指令信号生成部の一例が構成され、ダンパー波形信号を生成するアクティブダンパー55及びNVRAM56によりダンパー波形制御部の一例が構成される。そして、指令信号とダンパー波形信号とを加算により合成してPWM信号からなるモーター駆動信号(制御信号)を生成する加算器50により、合成部の一例が構成される。そして、モーター駆動信号(制御信号)に基づいて直流モーター22を制御する各部41〜52により、制御部の一例が構成される。
図5はアクティブダンパー55の機能構成を示す。図5に示すように、アクティブダンパー55は、エンコーダー位置検出部54からのキャリッジ位置Xを入力するエリア判定部61を備える。図8に示すように、キャリッジ位置Xは、キャリッジ13の可動範囲を4096EP(エンコーダーパルス)としてそのエンコーダーパルス値で表される。本実施形態では、キャリッジ13の可動範囲を複数のエリアに区分している。図8の一例ではキャリッジ13の可動範囲を16個の領域、すなわちエリア♯0〜♯15に区分している。図5に示すエリア判定部61は、入力したキャリッジ位置Xがどのエリアに属するかを判定し、キャリッジ位置の属するエリアの更新の有無を判定する。
また、アクティブダンパー55は、キャリッジ13の振動と逆位相の信号を生成するため、その逆位相のダンパー波形を規定するパラメーターをキャリッジ位置Xに応じて選択(取得)する取得部の一例としてのパラメーター選択部62を備えている。パラメーター選択部62は、NVRAM56内のパラメーター記憶部63に記憶されたパラメーターからキャリッジ位置に応じたパラメーターを選択する。さらにアクティブダンパー55は、パラメーター選択部62が選択したパラメーターに基づいてダンパー波形を生成する波形生成部64と、1つのエリアに複数の周波数が選択されて周波数の異なる複数のダンパー波形が生成された場合に、複数のダンパー波形を合成する波形合成部65とを備える。
本実施形態のパラメーター選択部62は、エリア判定部61がエリア♯xの更新があったと判定する度にその更新されたエリア♯xに応じた最適なパラメーターを選択する。ここで、パラメーターには、ダンパー波形の周波数(又は周期)と位相とゲイン(振幅)とがある。パラメーター選択部62は、エリア♯xに応じたダンパー波形の周波数を選択する周波数選択部71と、選択された周波数のダンパー波形の位相(位相オフセット)を選択する位相選択部72と、位相の決まったダンパー波形の振幅に相当するゲイン(ダンパーゲイン)を選択する振幅選択部73とを備える。
また、パラメーター記憶部63には、キャリッジ13の振動と同じ周期の正弦波(ダンパー波形)を値の配列で表したダンパー波形テーブルWTが記憶されている。さらにパラメーター記憶部63には、周波数選択部71がエリア♯xに応じたダンパー波形の周波数を選択する際に参照する周波数テーブルFTと、位相選択部72がエリア♯xに応じた位相を選択する際に参照する位相テーブルPTと、振幅選択部73がエリアに応じたゲイン(振幅)を選択する際に参照する振幅テーブルATとが記憶されている。
ダンパー波形テーブルWTには、本実施形態では、正弦波(ダンパー波形)の値の配列からなるテーブルが、周波数(又は周期)別に設けられている。アクティブダンパー55内のパラメーター選択部62は、エンコーダー位置検出部54により検出されるキャリッジ位置Xの属するエリア♯xの更新毎に、その更新されたエリア♯x(但しx=0,1,2,…,15)に対応する周波数及び位相の波形値を選択し、その選択した波形値に、そのエリア♯xに応じて選択したダンパーゲイン(振幅)を乗じて出力する。キャリッジ13の振動を低減するための最適な位相オフセット(キャリッジ13の位置に対するダンパー波形の位相のずれ)とダンパーゲインは、往路及び復路のそれぞれについて、予め印刷装置11の製造時、出荷時、またはサービス作業のときのキャリブレーションにより求めておき、NVRAM56に登録しておく。但し、印刷装置11の電源投入直後の効果判定処理でキャリブレーションが必要との判定結果が得られた場合は、キャリブレーション処理を行って位相オフセット及びダンパーゲイン(振幅)が更新される。
図7はダンパー波形テーブルWTの値の配列を波形図で表したものである。本実施形態では、パラメーター記憶部53には、図7(a),(b)に示すように、周波数(又は周期)の異なる1周期分のダンパー波形を値の配列で規定する複数(この例では2個)のダンパー波形テーブルWT1,WT2が記憶されている。ダンパー波形テーブルとしては、例えば256個の配列で1周期の正弦波が定義されたものを用い、これをリングバッファテーブルとして用いる。図7ではダンパー波形を定義する256個の配列のうち8個の代表点の配列のみ示している。キャリッジ位置X(エンコーダー位置)の下位8ビットの値と位相オフセットとからダンパー波形テーブルWT中の配列番号を求め、その配列番号の値(波形値)を読み出すことで、キャリッジ13の位置に対応する位相の波形値を取得することができる。なお、ダンパー波形テーブルWTをNVRAM56内ではなく、アクティブダンパー55内あるいは他のメモリーに記憶してもよい。
[領域区分]
大型の印刷装置11でキャリッジ13の往復距離が例えば24インチや44インチに及ぶものでは、キャリッジ13の振動の周波数が場所によって異なることがある。これに対応するためには、NVRAM56にはキャリッジ13の可動範囲を複数に区分したエリア♯x毎に周波数を登録し、さらに周波数に対応する位相及び振幅がキャリッジ位置Xに対応付けて登録されている。アクティブダンパー55は、エンコーダー位置検出部54が検出したキャリッジ位置Xの属するエリア♯xに対応する周波数をNVRAM56から読み出すとともに、その読み出した周波数のダンパー波形についてキャリッジ位置Xに応じた位相及びゲインをNVRAM56から読み出す。そして、アクティブダンパー55は、その読み出した周波数、位相及びゲインで規定されるダンパー波形信号を生成し、直流モーター22の駆動状態の制御に使用するようにしている。
図8はダンパー波形の一例を説明する図であり、キャリッジ13の可動範囲を複数に区分したエリア毎の最適位相の例を示す。図8(a),(b)は、周波数毎のダンパー波形に対してキャリブレーションでそれぞれ決めた最適位相及び最適ゲインを適用した際のダンパー波形を示す。図8(a)は周波数fmのダンパー波形WT1に対して最適位相及び最適ゲインを適用したダンパー波形DW1である。また、図8(b)は周波数fnのダンパー波形WT2に対して最適位相及び最適ゲインを適用したダンパー波形DW2である。
図8に示す例では、キャリッジ13の初期位置であるホーム位置から終端位置であるフル位置までの可動範囲が、リニアエンコーダー23のパルス数で0〜4096であるとしている。そして、この可動範囲が16個のエリア#0〜エリア#15に区分けされ、1つのエリア♯xはパルス数で256としている。エリア#0〜エリア#3のホーム位置側の一部はキャリッジ13が往路では加速、復路では減速される領域であり、アクティブダンパー制御の対象とはしていない。また、エリア#12〜#15のフル側のキャリッジ13が往路では減速、復路では加速される領域についても、アクティブダンパー制御の対象とはしていない。ダンパー波形の振幅(ダンパーゲイン)及び位相オフセットは、エリア毎に、往路と復路とで、さらに速度モード毎に、異なる値を設定できるものとする。ここではエリア数が16の場合を示したが、それ以外の値でもよく、例えばエリア数を4、8、32、64、128のような4の倍数としたり、10、20、100としたりすることもできる。
ここで、周波数テーブルFTは、エリア♯xとダンパー波形の周波数との対応関係を示すテーブルである。周波数選択部71は、そのときのエリア♯xを基に周波数テーブルFTを参照してエリア♯xに対応する周波数を選択し、その周波数に応じたダンパー波形テーブルを選択する。また、位相テーブルPTは、エリア♯xと位相オフセットとの対応関係を示すテーブルで周波数毎に設けられている。位相選択部72は、周波数選択部71が選択した周波数に対応する位相テーブルPTを選択し、その選択した位相テーブルPTを参照してエリア♯xに対応する位相オフセットを選択する。また、振幅テーブルATは、エリア♯xとダンパーゲインとの対応関係を示すテーブルで周波数毎に設けられている。振幅選択部73は、周波数選択部71が選択した周波数に対応する振幅テーブルATを選択し、その選択した振幅テーブルATを参照してエリア♯xに対応するダンパーゲインを選択する。
そして、波形生成部64は、パラメーター選択部62から取得したそのときのエリア♯xに対応する周波数、位相オフセット及びダンパーゲインを基に、その周波数のダンパー波形テーブルWTを基にPID演算周期毎にそのときのキャリッジ位置Xに応じた波形値を求める。このとき、波形生成部64は、位相オフセットの配列番号の値を初期値とし、PID演算周期毎に配列番号を1ずつ加え256個の配列内(つまり1周期内)で値を循環させることで波形値を取得する。そして、波形生成部64は、この波形値にダンパーゲインを乗じた値をダンパー波形値として出力する。また、1つのエリア♯xに複数の周波数が選択された場合、波形生成部64は、周波数毎に同様の処理を行って周波数の異なる2つのダンパー波形値を出力する。
そして、本実施形態では、キャリッジ13の振動を抑制するため、キャリブレーションにより周波数毎に設定された最適位相及び最適ゲインが前述のテーブルPT,ATとして記憶されている。図8(a),(b)に示す周波数毎に設定された最適位相及び最適ゲインを適用したダンパー波形DW1,DW2が規定される。位相テーブルPTには、周波数fm,fn毎に、エリア♯xと最適位相θm,θnとの組合せのデータ(♯x,θx)として登録されている。また、振幅テーブルATには、周波数fm,fn毎に、エリア♯xと最適ゲインAm,Anとの組合せのデータ(♯x,Ax)として登録されている。このダンパー波形DWは、図6に示す逆位相トルクを生成するためのものである。なお、図8に示す各グラフにおいて縦軸は任意単位であり、単に振幅の大小を示す。
アクティブダンパー55は、図8(a)に示す周波数fmのダンパー波形DW1と、図8(b)に示すダンパー波形DW2とのうち、エリア♯xに応じた少なくとも一方を選択する。図8(c)は、周波数毎のダンパー波形DW1,DW2のうちエリア♯xに応じた少なくとも一方を選択したパラメーター選択部62の選択情報(パラメーター)に基づいて、波形生成部64及び波形合成部65が生成するダンパー波形DWを示す。ここで、周波数テーブルFTは、キャリッジ13がホーム位置寄りのA領域に相当するエリア♯4〜♯9で低い周波数fmが選択され、モーター側寄りのB領域に相当するエリア♯9〜♯11で高い周波数fnが選択されるように設定されている。波形生成部64は、この例では、A領域に相当するエリア♯4〜♯9の範囲で周波数fmのダンパー波形DW1を生成し、B領域に相当するエリア♯9〜♯11の範囲で周波数fnのダンパー波形DW2を生成する。また、この例では、エリア♯9では2種類のダンパー波形DW1,DW2が選択され、エリア♯9では波形合成部65が2種類のダンパー波形DW1,DW2を合成する合成処理を行ってダンパー波形DW3を生成する。
[初期キャリブレーションと装置の運用]
印刷装置11の出荷前の初期キャリブレーションを行ってパラメーターの登録が予め行われている。この初期キャリブレーションについて説明する。初期キャリブレーション時は、キャリッジ13を移動させて、そのキャリッジ13の移動方向における特定周波数の振動の位相及び振幅をキャリッジの移動方向に複数に区分した領域毎に検出して最適パラメーターを検出し、それをNVRAM56に登録する。ここで、特定周波数は、キャリッジ駆動系振動(固有振動)とモーター回転振動(例えばn次振動とm次振動)とが共振する共振周波数として設定され、本実施形態では複数の周波数が設定されている。これは、アクティブダンパー制御では、共振周波数の振動と逆位相トルクを加えて抑制するため、この共振周波数がアクティブダンパー周波数となるからである。そして、運用時には、NVRAM56に登録されたパラメーターに基づいてダンパー波形を求め、アクティブダンパー制御を実行する。
ダンパー波形の周波数と振幅と位相を選択するには、キャリッジ位置X(エンコーダー位置)からエリア番号を求めて、エリア♯x毎に定義されたダンパー波形の周波数を取得し、その取得した周波数に応じた位相オフセットとダンパーゲイン(振幅)との各値を取得する。周波数に対応する位相オフセットとダンパーゲインは、往路と復路で異なるため、移動方向に応じて使用するパラメーターを切り替える。
次に印刷装置11におけるキャリッジ駆動制御装置の作用を説明する。
[アクティブダンパー制御とキャリブレーション]
図10は図1に示す印刷装置11の電源投入後の動作を説明するフローチャートである。アクティブダンパー制御は印刷時の振動を低減するためのもので、印刷動作と並行して行われるものであるが、ここでは印刷動作については説明を省略し、アクティブダンパー制御に関連する動作のみを説明する。
電源が投入されると、キャリッジ制御部37は、キャリッジ13を駆動し、振動量測定部57により振動量を測定して、判定部58により、アクティブダイパ制御により振動低減効果が得られているかどうかを判定する(ステップS1)。この判定により振動低減効果が得られておらずキャリブレーションが必要と判断されると(ステップS2で肯定判定)、キャリブレーション実行制御部59により、キャリブレーションを実行する(ステップS3)。すなわち、キャリッジ13を移動させて最適パラメーターを検出し、その最適パラメーターをNVRAM56に登録する。一方、ステップS1の判定で振動低減効果が得られておりキャリブレーションが不要と判断された場合は(ステップS2で否定判定)、印刷装置11が通常動作を行い、アクティブダンパー55は、印刷動作に伴って、NVRAM56に登録されたパラメーターに従ってアクティブダンパー制御を実行する(ステップS4)。
ここでは、アクティブダンパー制御による振動低減効果の判定を、電源投入時の初期化シーケンスに行うものとして説明したが、他のシーケンスで行うこともできる。また、キャリブレーションが必要と判断されると、直ぐにキャリブレーションを実行するものとして説明したが、キャリブレーションが必要との判断が所定回数繰り返された後、あるいはキャリブレーションが必要との判断があってからある程度の時間、あるいはある程度の回数の印刷動作が経過してから、キャリブレーションを実行するようにしてもよい。
[振動低減効果判定]
図11は図10にステップS1として示した振動低減効果判定のフローチャートである。この図を参照して、図4に示す振動量測定部57及び判定部58の動作について説明する。
振動低減効果判定の処理において、キャリッジ制御部37の制御により、アクティブダンパー制御のある状態とない状態とでキャリッジ13を往復駆動する。このとき、キャリッジ制御部37内の振動量測定部57は、それぞれの状態におけるキャリッジ13の速度振動量を測定する(ステップS11、S12)。すなわち、振動量測定部57は、減算器43の出力する「速度偏差=目標速度−現在速度」をPID演算周期毎にフーリエ展開し、振動スペクトルを算出して、速度振動量を求める。対象とする振動がコギング振動であるため、フーリエ展開する周波数は1つでよい。また、Hanning Windowなどの窓処理はしないため、演算対象のサンプル数(EP)が振動周期の整数倍になるように、1つのエリアでは校正レンジで指定された範囲のみ演算を行う。なお、アクティブダンパー制御による振動低減効果判定においてキャリッジ13の往復駆動を複数回行い、アクティブダンパー制御がある場合の測定を複数回繰り返し、その平均により効果を判断することもできる。測定を複数回繰り返すことにより、測定バラツキを吸収することができる。
アクティブダンパー制御のある状態とない状態の二つの測定は、どちらを先に行ってもよい。また、アクティブダンパー制御のない状態でキャリッジ13を駆動したときの振動については、予め(例えばキャリブレーション時に)測定した値を使用してもよい。二つの状態で振動量を測定することで、印刷装置11毎の個体差を吸収して振動低減効果を判定することができる。
振動量測定部57の測定結果を受けて判定部58は、アクティブダンパー制御のある状態での振動量測定部57の測定値V1が限界値、例えば画像品質許容レベルを超えている場合(ステップS13で肯定判定)、超えてはいないものの、測定値V1がアクティブダンパー制御のない状態での振動量測定部57の測定値V2より大きい場合(ステップS14で肯定判定)、あるいは、測定値V2と測定値V1との差が予め定められた基準値より小さい場合(ステップS15で肯定判定)には、アクティブダンパー制御の効果が無いとして、キャリブレーションが必要と判断する(ステップS16)。ステップS13、S14、S15のいずれも否定判定の場合は、判定部58はキャリブレーションが不要と判断する(S17)。以上の判断は、キャリッジ13の可動範囲を領域分けしたエリア毎に行う。なお、振動低減効果判定(ステップS1)において振動低減効果があると判定する所定条件(S13〜S15)は一例であって、他の条件に適宜変更することができる。
[キャリブレーションによるパラメーターの校正と検証]
図4に示すキャリブレーション実行制御部59は、判定部58によりキャリブレーションが必要と判断された場合、アクティブダンパー55による制御に最適なパラメーターを検出する最適パラメーター検出処理と、検出されたパラメーターによる実際の振動低減を検証する振動低減検証処理とからなるキャリブレーションを実行する。このキャリブレーションは、上述したように、出荷前にも、少なくとも1度実行される。
図12はキャリブレーション実行制御部59による最適パラメーター検出処理のフローチャートである。まず、キャリブレーション実行制御部59は、往路と復路との各エリアでキャリッジ13が振動する周波数をアクティブダンパー周波数として、NVRAM56に設定する(ステップS21)。本実施形態では、複数の周波数(例えば2つの周波数fm,fn)をアクティブダンパー周波数としてNVRAM56に設定する。詳しくは、複数のアクティブダンパー周波数は、エリア♯xと周波数とを対応付けた周波数テーブルFTとして設定される。印刷装置11におけるキャリッジ駆動系振動及びモーター回転振動は、機種や速度モードに応じて決まり、キャリッジ駆動系振動及びモーター回転振動の共振に起因してキャリッジ13が振動する周波数及びそのエリアは予め特定できる。そのため、エリア毎のアクティブダンパー周波数には、キャリッジ駆動系をモデル化した等価回路などから計算上得られた値又は予備実験で得られた値が採用される。
次にキャリブレーション実行制御部59は、最適位相検出処理(ステップS22)を実行し、エリア毎に往路と復路とでそれぞれの最適位相を求める。そして、これらの最適位相をアクティブダンパー位相として、NVRAM56に設定する(ステップS23)。詳しくは、アクティブダンパー位相は、ダンパー波形テーブルの256個の値の始点(位相θ=0)の配列番号「0」から位相のずれ分だけオフセットした配列番号で示される位相オフセットとし、この位相オフセットをエリア♯xと対応付けた位相テーブルPTとして設定される。位相テーブルPTはアクティブダンパー周波数毎に設定される。
さらにキャリブレーション実行制御部59は、最適ゲイン検出処理(ステップS24)を実行し、エリア毎に往路と復路とでそれぞれの最適ゲインを検出する。これらの最適ゲインを、アクティブダンパー55のゲインとしてNVRAM56に設定する(ステップS25)。詳しくは、ゲイン(振幅)は、エリア♯xとゲインとを対応付けた振幅テーブルATとしてアクティブダンパー周波数毎に設定される。なお、ステップS22、S23とステップS24、S25とは逆に実行してもよく、また、ステップS22、S24を実行してから、ステップS23、S25を実行してもよい。
[最適位相検出処理]
図13は図12においてステップS22として示した最適位相検出処理の詳細を示すフローチャートである。まず、キャリブレーション実行制御部59は、1つ目のアクティブダンパー周波数を設定する(ステップS31)。次にキャリブレーション実行制御部59は、アクティブダンパー55のゲインを最適位相検出用の値に設定し(ステップS32)、全エリアについて、往路及び復路共に、アクティブダンパー位相を「0」に設定する(ステップS33)。続いてキャリブレーション実行制御部59は、キャリッジ13を往路駆動し(ステップS34)、全エリアの振動スペクトルを記憶する(ステップS35)。また、キャリブレーション実行制御部59は、キャリッジ13を復路駆動し(ステップS36)、全エリアの振動スペクトルを記憶する(ステップS37)。ステップS34〜S37の処理を所定回数繰返し、所定回数を終えると(ステップS38で肯定判定)、キャリブレーション実行制御部59は、その所定回数繰り返したパスの平均振動スペクトルを往路及び復路でそれぞれ求める(ステップS39)。
次に位相オフセットを変更し(ステップS40)、位相オフセットの値がすべて得られるまで、ステップS34〜S40の処理を繰り返す。位相オフセットの値がすべて得られて位相オフセットを終了すると(ステップS41で肯定判定)、キャリブレーション実行制御部59は、異なる位相オフセットでの値がすべて得られたら、その測定、記憶した振動スペクトルをエリア毎に比較して、最適位相を検出する(ステップS42)。
そして、全てのアクティブダンパー周波数での処理を終えるまで(ステップS43で肯定判定)、アクティブダンパー周波数を変更し(ステップS44)、変更したアクティブダンパー周波数の下でステップS32〜42を繰り返す。こうしてアクティブダンパー周波数毎に最適位相が検出される。なお、位相オフセットの変更量は、本実施形態では、360度を8ビットで表した値で16、すなわち22.5度とする。この値は、8ビットで制御でき、かつ経験的に最適な変更量である。この結果、16位相分の振動スペクトル(速度振動量)が得られる。
[最適ゲイン検出処理]
図14は図12においてステップS24として示す最適ゲイン検出処理の詳細を示すフローチャートである。まず、キャリブレーション実行制御部59は、1つ目のアクティブダンパー周波数を設定する(ステップS51)。次にキャリブレーション実行制御部59は、全エリアについて、往路及び復路共に、ダンパーゲインを「0」に設定する(ステップS52)。続いてキャリブレーション実行制御部59は、キャリッジ13を往路駆動し(ステップS53)、全エリアの振動スペクトルを記憶する(ステップS54)。また、キャリブレーション実行制御部59は、キャリッジ13を復路駆動し(ステップS55)、全エリアの振動スペクトルを記憶する(ステップS56)。キャリブレーション実行制御部59は、ステップS53〜S56を所定回数繰返し、所定回数を終えると(ステップS57で肯定判定)、その所定回数繰り返したパスの平均振動スペクトルを往路及び復路でそれぞれ求める(ステップS58)。
次にキャリブレーション実行制御部59は、ダンパーゲインを変更し(ステップS59)、最大ゲインになるまで、ステップS53〜S59の処理を繰り返す。ダンパーゲインが最大ゲインになると(ステップS60で肯定判定)、キャリブレーション実行制御部59は、記憶した振動スペクトルをエリア毎に比較して、最適ゲインを検出する(ステップS61)。
そして、全てのアクティブダンパー周波数での処理を終えるまで(ステップS62で肯定判定)、アクティブダンパー周波数を変更し(ステップS63)、変更したアクティブダンパー周波数の下でステップS52〜61の処理を繰り返す。こうしてアクティブダンパー周波数毎に最適ゲインが検出される。この最適ゲイン検出処理では、例えば、各エリアの速度振動量(振動スペクトル)を往路及び復路でそれぞれ複数パス(例えば2〜8パス)分記憶する。複数パス分の速度振動量を同じエリア同士で比較し、振動量が最小だったダンパーゲインを最適値とする。振動量の最小値が複数検出された場合には、最も小さいダンパーゲインを最適値とする。
[振動低減検証処理]
次にキャリブレーション実行制御部59による振動低減検証処理を説明する。この処理において、キャリブレーション実行制御部59は、検証のためのキャリッジ13の駆動処理を行い、全エリアの振動スペクトルを複数にわたり測定して記憶する。詳しくは、キャリブレーション実行制御部59は、キャリッジ13を往路で駆動して全エリアの振動スペトルを記憶し、次にキャリッジ13を復路で駆動して全エリアの振動スペトルを記憶する。そして、この処理を指定回数繰り返す。
続いて、キャリブレーション実行制御部59は、記憶したパス数分の振動スペクトルの平均値を、往路、復路別々にエリア毎に算出し、往路、復路それぞれの平均スペクトルを基準振動量として設定する。また、キャリブレーション実行制御部59は、全エリアについて、往路、復路共にダンパーゲインを「0」に設定し、同様の処理を行う。すなわち、検証のためのキャリッジ13の駆動処理により全エリアの振動スペクトルを複数に亘り測定して記憶し、記憶したパス数分の振動スペクトルの平均値を往路、復路別々にエリア毎に算出し、往路、復路それぞれの平均スペクトルを初期振動量として設定する。
[アクティブダンパー制御]
次にアクティブダンパー55によるアクティブダンパー制御について説明する。図15はアクティブダンパー制御処理の詳細を示すフローチャートである。
まず、アクティブダンパー55は、キャリッジ位置Xを入力し(ステップS71)、エリア判定部61がそのキャリッジ位置Xの属するエリア♯xを判定する(ステップS72)。次にエリア判定部61は、エリア♯xが更新されたか否かを判定する。すなわち、エリア♯nから♯n+1(往路時)又はエリア♯nから♯n−1(復路時)に更新されたか否かを判定する。エリアが更新されると(ステップS73で肯定判定)、周波数選択部71が、その更新されたエリア♯xを基に周波数テーブルFTを参照してそのエリア♯xに応じた周波数(アクティブダンパー周波数)を選択する(ステップS74)。次に位相選択部72が、その更新されたエリア♯xを基に、先に選択されたアクティブダンパー周波数に対応する位相テーブルPTを参照してそのエリア♯xに応じた位相(位相オフセット)を選択する(ステップS75)。さらに振幅選択部73が、その更新されたエリア♯xを基に、先に選択されたアクティブダンパー周波数に対応する振幅テーブルATを参照してそのエリア♯xに応じたゲイン(ダンパーゲイン)を選択する(ステップS76)。
そして、波形生成部64は、選択した周波数のダンパー波形(ダンパー波形値)を、選択した位相・選択したゲインで生成する。詳しくは、波形生成部64は、選択した周波数のダンパー波形テーブルWTを読み出し、ダンパー波形テーブルWTにおいて選択した位相オフセットに対応する配列番号の値(波形値)を取得し、この波形値に選択したゲインで乗じてダンパー波形値を生成する。例えば1つのエリア♯xに周波数の異なる複数の波形値を生成した場合は(ステップS78で肯定判定)、波形合成部65が波形を合成する(ステップS79)。すなわち、波形合成部65は周波数の異なる複数の波形値を加算する。エリア♯xに対応する周波数が1つで波形が1つの場合(ステップS78で否定判定)と、波形が複数あって複数の波形を合成した場合は、アクティブダンパー55がそのダンパー波形値を出力する。そして、キャリッジ位置Xがアクティブダンパー制御終了位置になるまで、ステップS71〜S80の処理を繰り返す。
アクティブダンパー55から出力されたダンパー波形値は、比例補正部47、積分補正部48及び微分補正部49の出力の加算値と加算器50によって加算される。そして、最終補正部51がその加算値に最終補正を施し、パルス幅変調(PWM)されたモーター駆動信号として、モータードライバー52に供給する。モータードライバー52は、このモーター駆動信号により、直流モーター22を駆動する。
このモーター駆動信号により駆動制御される直流モーター22は、図9(a)に示すようにキャリッジ13がA領域にあるときに周波数fmの速度振動Fm(実線で示す)に逆位相トルク(破線で示す)が加わるとともに、キャリッジ13がB領域にあるときに周波数fnの速度振動Fn(実線で示す)に逆位相トルク(破線で示す)が加わる。また、A領域とB領域との重複領域には、周波数fmの速度振動Fmと周波数fnの速度振動Fnとの合成振動に(実線で示す)に逆位相トルク(破線で示す)が加わる。この結果、アクティブダンパー制御によって、図9(b)に示すようにキャリッジ13の振動が定速領域の全域において小さく抑えられる。
以上詳述したように本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)エンコーダー位置検出部54が検出したキャリッジ13の位置に応じた周波数、位相及び振幅がパラメーター選択部62によりそれぞれ選択される。アクティブダンパー55(制御部)は、キャリッジ13の位置に応じて選択された周波数、位相及び振幅を利用して、エンコーダー位置検出部54により検出されたキャリッジ13の位置に応じて直流モーター22の駆動を制御する。よって、キャリッジ13の駆動中における振動を小さく抑えることができる。
(2)キャリッジ13の位置に応じて選択された周波数、位相及び振幅に基づく補正信号と、キャリッジ13を位置に応じた目標速度に駆動制御する駆動信号とが合成部により合成されて制御信号が生成される。制御部は制御信号に基づいて駆動部の駆動を制御する。よって、キャリッジ13の駆動中における異なる周波数の複数種の振動を共に小さく抑えることができる。
(3)キャリッジ制御部37が制御信号(PWM出力信号)に基づいて直流モーター22を駆動制御したときのキャリッジ13の移動方向の振動量が振動量測定部57(測定部)により測定される。判定部58は振動量測定部57が測定したキャリッジ13の移動方向の振動量が、振動低減効果があるとする判定条件を満たすか否かを判定する。判定部58により振動量が判定条件を満たすと判定されなかった場合、キャリブレーション実行制御部59(較正部)は、判定条件を満たす振動量となるように、キャリッジ13の位置に応じた周波数毎に、対応する位相及び振幅を較正する。よって、キャリッジ13の駆動系の経年劣化などにより、キャリッジ13の位置に応じた周波数に対応する位相及び振幅がずれても、そのずれた位相及び振幅に対してキャリブレーション(較正)が行われることにより、継続的に、キャリッジ13の移動中における複数種の振動を小さく抑えることができる。
(4)検出されたキャリッジ位置Xの属するエリア♯xに応じた周波数が複数設定されている場合、波形合成部65は、波形生成部64が周波数毎に位相及び振幅に応じて生成した複数のダンパー波形の値を合成してダンパー波形信号を生成する。よって、このような周波数の異なる複数のダンパー波形が合成されたダンパー波形信号が指令信号と合成されて制御信号が生成されるので、キャリッジ13の移動中のあるエリア♯xで周波数の異なる複数種の振動が混在してもその複数種の振動が混在した振動も低減することができる。
(5)キャリッジ13の移動経路においてその一端側に配置された直流モーター22に近いほど、キャリッジ13の移動方向に周波数の異なる領域は高周波数となるように設定されている。このため、キャリッジ13の移動中にその移動経路の一端側に配置された直流モーター22に近いほど高周波数となる複数種の振動が発生しても、それらの複数種の振動を共に小さく抑えることができる。
(6)キャリッジ13の移動経路をその移動方向に複数に区分したエリア♯xを設定した。エリア判定部61がキャリッジ位置の属するエリア♯xが更新されたと判定したときに、パラメーター選択部62は、そのときのエリア♯x(領域)に応じた周波数、位相及び振幅を選択する。よって、パラメーター選択部62がキャリッジ13の位置毎に位置に応じた周波数、位相及び振幅を選択する構成に比べ、選択処理回数を相対的に少なく済ませることができる。エンコーダー検出位置はかなり高い解像度で検出されるが、適切な頻度でキャリッジ位置に応じた周波数、位相及び振幅を選択することができる。このため、振動抑制効果をさほど損なわずに、パラメーター選択部62の処理負担を軽減できる。
(7)印刷ヘッド15が設けられたキャリッジ13が移動するときの振動を小さく抑えることができるので、印刷ヘッド15の印刷により高い印刷品質の印刷物を得ることができる。
(8)アクティブダンパー55(制御部)は、エンコーダー位置検出部54が検出したキャリッジ13の位置に応じた周波数、位相及び振幅に基づいて直流モーター22(動力源)を駆動制御するアクティブダンパー制御を行う。よって、キャリッジ13の可動中に異なる周波数の複数種の振動が発生しても、アクティブダンパー制御を行うことにより、それら複数種の振動を小さく抑えることができる。
(9)印刷装置11に備えられたキャリッジ13の駆動制御装置により、キャリッジ13と動力伝達部などからなるキャリッジ駆動系(可動部材駆動系)の固有振動と直流モーター22(動力源)の振動とが共振してキャリッジ13の移動中のA領域とB領域とを含む複数の領域に周波数の異なる複数種の振動が発生しても、これら複数種の振動を小さく抑えることができる。
なお、上記実施形態は以下のような形態に変更することもできる。
・選択すべきダンパー波形をキャリッジ位置の属するエリアが更新される度に判定したが、選択すべきダンパー波形をキャリッジ位置毎に判定してもよい。
・周波数の異なる複数の共振域が重複するエリアが存在する場合を考慮して波形合成部65を設けたが、波形合成部65を廃止し、合成は行わず、キャリッジ位置が属するエリア又はキャリッジ位置に応じた1種類のダンパー波形を出力する構成でもよい。この構成でも共振域に応じた適切な周波数・位相・振幅のダンパー波形を信号に加えられるので、周波数の異なる複数の共振域があっても、各共振域におけるキャリッジ13の振動を小さく抑えることができる。
・キャリッジ位置の属するエリアと対応するダンパー波形の周波数を予め決めておく構成に替え、エリアに対応するダンパー波形の周波数をキャリブレーションにより更新してもよい。例えば周波数(又は周期)の異なる複数(例えば5〜10個)のダンパー波形が登録されたダンパー波形テーブルを用意する。キャリブレーションのための振動量測定を所定回数のパス(往路と復路)毎にダンパー波形の周波数を変化させながら振動量測定部57が行い、その測定された振動量に基づき判定部58が一番高い振動低減効果であると判定した、キャリッジ位置X又はエリア♯xに応じた最適周波数を採用して周波数テーブルに設定する。この場合、ダンパー波形の周波数が更新された場合、その更新された周波数のダンパー波形を使用して、さらに最適位相及び最適ゲインの検出処理を行って必要に応じて位相及びゲイン(振幅)を較正する。
・ダンパー波形の周波数の種類は変更せず(例えばfm,fnの2種類のまま)、周波数を設定するキャリッジ位置X又はエリア♯xを変更する較正方法を採用してもよい。
・エリア更新毎のアクティブダンパー制御に替え、PID演算周期毎に、エンコーダー位置検出部54により検出されるキャリッジ位置に対応する周期及び位相の波形値を選択し、その選択した波形値にキャリッジ位置に応じて選択したダンパーゲイン(振幅)を乗じて出力する構成も採用できる。
・キャリッジ13を目標速度にするための直流モーター22の制御はPID制御に限定されず、他の公知のフィードバック制御を採用してもよい。さらにフィードフォワード制御を採用することもできる。
・動力源は直流モ−ターに限定されない。誘導モーター及び同期モーター(例えばステッピングモーター)等の交流モーターでもよい。さらに動力源は超音波モーターでもよい。
・キャリッジ駆動系を振動(共振)させる振動源は、キャリッジの動力源に限定されない。電子機器に設けられた他の動力源(例えば搬送モーター18)でもよい。この場合、可動部材の動力源は、回転モーターに限定されず、リニアモーターでもよく、さらにエアシリンダーでもよい。
・アクティブダンパー55によるアクティブダンパー波形形成方法は適宜変更できる。例えば周波数選択部71がエリア♯xに応じた周波数のダンパー波形テーブルを選択し、そのダンパー波形テーブルにおいて位相選択部72がエリア♯xに応じた位相に対応する配列番号の波形値を選択し、さらに振幅選択部73がその波形値に対してエリア♯xに応じたゲイン(振幅)を乗じてアクティブダンパー波形値を求める構成でもよい。そして、このアクティブダンパー波形値の生成及び波形合成部65への出力を、キャリッジ位置X毎に行うことで、逆位相トルク用の補正信号を生成する。このようにパラメーター選択部62がパラメーターの選択に加え波形生成処理も行い、波形生成部64を廃止した構成でもよい。
・例えば、図4の説明ではNVRAM56、振動量測定部57、判定部58、キャリブレーション実行制御部59をアクティブダンパー55とは別の構成として示したが、これらをアクティブダンパー55内に一体に構成することもできる。また、一部の機能をメイン制御部35で実現することもできる。
・アクティブダンパー制御による振動低減効果ありとする所定条件は、図9から図11を参照して説明した例に限定されるものではない。例えば、アクティブダンパー制御のある状態とない状態の振動量の測定値を比較するのではなく、「アクティブダンパー制御がある場合の振動量が、画像品質許容レベルに対して所定の範囲内にある」ということだけを条件としてもよい。また、以前のキャリブレーションで得られた最適パラメーターにおける振動量を基準とし、それから振動量がどれだけ変化したかを条件としてもよい。
・アクティブダンパー制御の適用領域は、キャリッジ13の移動可能範囲の全域としてもよい。また、印刷ヘッド15により印刷が行われる印刷領域が定速領域の両側において加速領域の一部及び減速領域の一部にも及ぶ場合は、その印刷領域の全域でアクティブダンパー制御を採用することが好ましい。
・エリア♯の幅は一定ではなく、アクティブダンパー制御の適用領域内の場所によって異なる幅を設定してもよい。例えば周波数設定領域の境界付近のエリアの幅を狭くし、それよりも周波数設定領域の内側にあるエリア♯xの幅を広くするとよい。
・キャリッジ制御部37は、ソフトウェアで構成してもよいし、ハードウェアで構成してもよいし、さらにソフトウェアとハードウェアとが協働する構成としてもよい。
・アクティブダンパー制御により低減する振動は、コギング振動やモーター回転振動に限定されない。電子機器内の可動部材の動力源以外の他の動力源やその駆動系の振動が原因で可動部材の移動中に発生する振動でも構わない。
・前記各実施形態では、電子機器を液体噴射装置の1つであるインクジェット式の印刷装置に具体化したが、液体噴射装置に適用する場合、印刷装置に限定されず、インク以外の他の液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体を含む)を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置でもよい。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために熱硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置でもよい。さらに電子機器は、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置であってもよい。
・印刷装置は、インクジェット方式に限定されず、ドットインパクト方式の印刷ヘッドを備えたものでもよい。また、印刷装置は、印刷機能の他に、スキャナー機能やコピー機能などを備えた複合機でもよい。また、印刷装置が印刷をする対象の媒体(印刷媒体)は用紙に限定されず、樹脂製のフィルム、金属箔、金属フィルム、樹脂と金属の複合体フィルム(ラミネートフィルム)、織物、不織布、セラミックシートなどであってもよい。さらに媒体はシート状であることに限定されず立体物でもよい。
・電子機器は、印刷装置に限定されない。可動部材の駆動制御を行うどのような電子機器でもよい。例えば、スキャナー、CD(Compact Disk)やDVDなどの光学ピックアップ装置の駆動制御などに適用することができる。例えばスキャナーの場合、読取りヘッドを備えたキャリッジの移動(走査)中に複数種の振動が発生しても、アクティブダンパー制御により複数種の振動を小さく抑えることができるので、読取りヘッドによる原稿読み取り位置のずれを低減できる。さらに半導体チップや基板に電子部品を実装するために電子部品を把持する把持部(可動部材)が、電子部品の実装のために移動経路に沿って移動する構成の部品実装装置、半導体チップやウェハ、基板等の搬送対象物を把持して搬送元から搬送先まで搬送経路(移動経路)に沿って移動する把持部(可動部材)を備えた搬送装置などであってもよい。例えば把持部が移動中の振動により実装位置で停止してもしばらく振動していると、部品の被実装物への実装位置精度が低下する心配があり、その対策として例えば停止後、振動が収まるまでの待ち時間の経過後に実装動作を開始し、これが原因で部品実装作業のサイクルタイムが長くなり作業効率の低下が危惧される。しかし、アクティブダンパー制御の採用により、把持部の移動中に発生する複数種の振動が小さく抑えられることにより、部品実装作業の短いサイクルタイムを維持しつつ電子部品を高い実装位置精度で実装することができる。このように移動経路に沿って移動する可動部材を備えた電子機器に広く本発明を適用することができる。