本発明を具体化した実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置100の概略構成を示す図である。図2は、図1の動力伝達装置100に備えられるトランスファ24を示す図である。図3は、図1の動力伝達装置100に備えられるフロントディファレンシャル30およびクラッチ装置38周辺を示す図である。
図1には、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)形式の車両をベースとした四輪駆動車の動力伝達装置100を例示している。動力伝達装置100は、走行用の駆動力源としてのエンジン12からの動力を副駆動輪としての左右一対の前輪14L、14R(単に「前輪14」とも言う)、および、主駆動輪としての左右一対の後輪16L、16R(単に「後輪16」とも言う)へそれぞれ伝達するものである。
具体的に、動力伝達装置100は、エンジン12に連結されたトルクコンバータ20を有する自動変速機22と、自動変速機22の出力側に連結されてその自動変速機22から伝達された動力を前輪14および後輪16に分配するトランスファ(動力分配装置)24と、トランスファ24にて分配された動力を前輪14および後輪16にそれぞれ伝達するフロントプロペラシャフト26およびリヤプロペラシャフト28と、フロントプロペラシャフト26およびリヤプロペラシャフト28にそれぞれ連結されるフロントディファレンシャル(差動装置)30およびリヤディファレンシャル(差動装置)32とを備えている。フロントディファレンシャル30と前輪14L、14Rとは、左右一対の車軸34L、34R(単に「車軸34」とも言う)を介して連結され、リヤディファレンシャル32と後輪16L、16Rとは、左右一対の車軸36L、36R(単に「車軸36」とも言う)を介して連結されている。動力伝達装置100において、エンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、トランスファ24、フロントプロペラシャフト26およびリヤプロペラシャフト28、フロントディファレンシャル30およびリヤディファレンシャル32、車軸34および車軸36等の動力伝達経路を順次介して、前輪14および後輪16へそれぞれ伝達される。
トランスファ24は、リヤプロペラシャフト28とフロントプロペラシャフト26との間の動力伝達の遮断(切断)または接続を選択的に切り替え、自動変速機22からの動力を後輪16のみに伝達したり、あるいは、前輪14および後輪16のそれぞれに分配する。また、トランスファ24は、高速側ギヤ段(高速側変速段)Hおよび低速側ギヤ段(低速側変速段)Lのいずれかを成立させて、自動変速機22からの動力を変速して伝達する副変速機としての機能を有している。
詳細には、トランスファ24は、図2に示すように、自動変速機22のトランスミッションケース40の後方側に連結された非回転部材としてのトランスファケース42を備えている。トランスファケース42内には、軸心C1上に、シングルピニオン型の遊星歯車装置44を主体に構成されている副変速機46と、リヤプロペラシャフト28に連結された第1出力軸(主駆動軸)48と、副変速機46から第1出力軸48に至る2つの動力伝達経路のいずれかが連結状態とされることにより低速側ギヤ段Lまたは高速側ギヤ段Hを選択的に成立させる第1噛合クラッチ装置50と、第1出力軸48(リヤプロペラシャフト28)に対する相対回転の許容または阻止が選択的に切り替えられるように設けられたドライブスプロケット52と、第1出力軸48に対するドライブスプロケット52の相対回転の許容または阻止を選択的に切り替える第2噛合クラッチ装置(2WD/4WD切替装置)54とが設けられている。
また、トランスファケース42内には、軸心C2上に、フロントプロペラシャフト26に連結された第2出力軸(副駆動軸)60と、第2出力軸60に対して相対回転不能に設けられたドリブンスプロケット62とが設けられている。第1出力軸48上のドライブスプロケット52と、第2出力軸60上のドリブンスプロケット62とには、チェーン64(あるいはベルト等)が巻き掛けられている。
トランスファ24は、自動変速機22の出力軸68に連結された入力軸66の回転を、副変速機46を介して第1出力軸48へ伝達する。ここで、第1出力軸48に対するドライブスプロケット52の相対回転が許容されている状態では、第1出力軸48から第2出力軸60への動力伝達は行われない。つまり、第1出力軸48から第2出力軸60までの動力伝達経路が遮断される。一方、第1出力軸48に対するドライブスプロケット52の相対回転が阻止されている状態では、第1出力軸48からドライブスプロケット52、チェーン64、およびドリブンスプロケット62を介して第2出力軸60への動力伝達が行われる。つまり、第1出力軸48から第2出力軸60までの動力伝達経路が接続される。
副変速機46の遊星歯車装置44は、入力軸66に連結されて軸心C1まわりに回転可能なサンギヤS1と、サンギヤS1に対して同心状に配置され、軸心C1まわりにトランスファケース42に回転不能に連結されたリングギヤR1と、これらサンギヤS1およびリングギヤR1と噛み合う複数個のピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1まわりの公転可能に支持するキャリヤCA1とを有している。サンギヤS1の回転速度は、入力軸66の回転速度に対して等速である一方、キャリヤCA1の回転速度は、入力軸66の回転速度に対して減速される。サンギヤS1には、第1噛合クラッチ装置50の同期噛合機構70のクラッチギヤ72が、サンギヤS1に対し相対回転不能に固設されている。また、キャリヤCA1には、第1噛合クラッチ装置50の噛合クラッチ74のクラッチギヤ76が、キャリヤCA1に対し相対回転不能に固設されている。
第1噛合クラッチ装置50は、高速側ギヤ段Hを成立させるための同期噛合機構(シンクロ機構)70と、低速側ギヤ段Lを成立させるための噛合クラッチ74とを備えている。同期噛合機構70は、第1出力軸48に対して相対回転不能にスプライン嵌合されるクラッチハブ78と、クラッチハブ78にスプライン嵌合されることにより、クラッチハブ78に対して相対回転不能、且つ、軸心方向に相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ80と、遊星歯車装置44とクラッチハブ78との間に配置されてサンギヤS1に固設されたクラッチギヤ72と、スリーブ80およびクラッチギヤ72の回転が非同期状態であるときにスリーブ80のクラッチギヤ72方向への移動を阻止するシンクロナイザリング82とを備えている。シンクロナイザリング82は、スリーブ80とクラッチギヤ72とを相互に噛み合わせる際にスリーブ80とクラッチギヤ72とを相互に同期させる機能を有する。クラッチギヤ72は、スリーブ80の内周面に設けられた内周歯に対して相対回転不能、且つ、軸心方向に相対移動可能に噛み合う外周歯を有している。スリーブ80のクラッチハブ78に対する軸心方向への移動(摺動)は、シフトアクチュエータ84(例えば電動モータ等)によって行われる。この場合、シフトアクチュエータ84には、軸心方向と平行な方向に延びる第1シフトフォークシャフト95が出力部材として取り付けられており、第1シフトフォークシャフト95の先端部に第1シフトフォーク96が固設されている。そして、シフトアクチュエータ84の駆動によって第1シフトフォークシャフト95が軸心方向に沿って移動させられることにより、第1シフトフォーク96を介してスリーブ80のクラッチハブ78に対する軸心方向への移動が行われるようになっている。
噛合クラッチ74は、上述したスリーブ80と、キャリヤCA1に固設されたクラッチギヤ76とを有している。クラッチギヤ76は、スリーブ80の外周面に設けられた外周歯86に対して相対回転不能、且つ、軸心方向に相対移動可能に噛み合う内周歯を有しており、外周歯86に対するクラッチギヤ72とは反対側に配置されている。
第1噛合クラッチ装置50においては、シフトアクチュエータ84の駆動によってスリーブ80が軸心方向に沿って摺動し、スリーブ80が同期噛合機構70のクラッチギヤ72と噛み合うことにより副変速機46において高速側ギヤ段Hが成立させられる。そして、サンギヤS1およびクラッチギヤ72を介して第1出力軸48へ動力が伝達される経路が高速側ギヤ段Hを成立させる動力伝達経路となる。一方、スリーブ80が軸心方向に沿って摺動し、スリーブ80が噛合クラッチ74のクラッチギヤ76と噛み合うことにより副変速機46において低速側ギヤ段Lが成立させられる。そして、キャリヤCA1およびクラッチギヤ76を介して第1出力軸48へ動力が伝達される経路が低速側ギヤ段Lを成立させる動力伝達経路となる。なお、トランスファ24は、図2に示す状態のように、スリーブ80がクラッチギヤ72、76のいずれとも噛み合わないことによりニュートラル状態となり、高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの間でギヤ段が切り替えられる際には、このニュートラル状態を経てから切り替えられる。
第2噛合クラッチ装置54は、例えば公知のドグクラッチ等からなる2WD/4WD切替装置である。具体的には、第2噛合クラッチ装置54は、第1出力軸48に対して相対回転不能にスプライン嵌合されるクラッチハブ88と、クラッチハブ88にスプライン嵌合されることにより、クラッチハブ88に対して相対回転不能、且つ、軸心方向に相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ90と、ドライブスプロケット52とクラッチハブ88との間に配置されてドライブスプロケット52に固設されたクラッチギヤ92とを備えている。クラッチギヤ92は、スリーブ90の内周面の内周歯に対して相対回転不能、且つ、軸心方向に相対移動可能に噛み合う外周歯を有している。スリーブ90は、ドライブスプロケット52を第1出力軸48に対して相対回転可能とする位置と相対回転不能とする位置との間、言い換えれば、ドライブスプロケット52とスリーブ90とを接続する位置と接続を解除する位置との間で移動可能となっている。スリーブ90のクラッチハブ88に対する軸心方向への移動(摺動)は、シフトアクチュエータ84によって行われる。この場合、シフトアクチュエータ84には、軸心方向と平行な方向に延びる第2シフトフォークシャフト97が出力部材として取り付けられており、第2シフトフォークシャフト97の先端部に第2シフトフォーク98が固設されている。そして、シフトアクチュエータ84の駆動によって第2シフトフォークシャフト97が軸心方向に沿って移動させられることにより、第2シフトフォーク98を介してスリーブ90のクラッチハブ88に対する軸心方向への移動が行われるようになっている。
第2噛合クラッチ装置54において、シフトアクチュエータ84の非駆動時には、スリーブ90がクラッチハブ88に対して図2に示すような位置に位置決めされている。この位置では、スリーブ90とクラッチギヤ92との接続が解除されており、ドライブスプロケット52は、第1出力軸48に対して軸心C1まわりに相対回転可能とされており、ドライブスプロケット52は、第1出力軸48に対して空転させられるため、ドライブスプロケット52を介して第2出力軸60側への動力伝達は行われない。一方、シフトアクチュエータ84の駆動によりスリーブ90がドライブスプロケット52側へ移動させられることで、スリーブ90がクラッチギヤ92と噛み合うと、第1出力軸48に対するドライブスプロケット52の軸心C1まわりの相対回転が阻止される。これにより、ドライブスプロケット52が第1出力軸48と一体的に回転させられるので、ドライブスプロケット52、チェーン64、およびドリブンスプロケット62を介して第2出力軸60側への動力伝達が行われるようになる。すなわち、動力伝達装置100は、第2噛合クラッチ装置54によって、第1出力軸48から後輪16のみにエンジン12からの動力を伝達する二輪駆動状態と、後輪16にエンジン12からの動力を伝達することに加えて第2出力軸60から前輪14に動力を伝達する四輪駆動状態(直結四輪駆動状態)とに切り替えられる。
動力伝達装置100が四輪駆動状態のとき、トランスファ24によって第2出力軸60に分配された動力は、フロントプロペラシャフト26を介してフロントディファレンシャル30に入力される。図1に示すように、フロントプロペラシャフト26の端部には、傘歯車であるドライブピニオン104が設けられており、ドライブピニオン104の歯車は、フロントディファレンシャル30の傘歯車であるリングギヤ106と噛み合うように構成されている。リングギヤ106は、ディファレンシャルケース(デフケース)108に固定されており、車軸34の軸心まわりに一体回転(公転)する。
この実施形態では、フロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間に、ADD機構としての噛合クラッチ38が設けられている。具体的に、車軸34Rは、フロントディファレンシャル30側に機械的に連結された車軸341Rと、前輪14R側に機械的に連結された車軸342Rとに分割されている。噛合クラッチ38は、車軸341R、342Rの間に配置されている。噛合クラッチ38によって、車軸341R、342Rの間で動力が伝達される接続状態と、動力伝達が切断される切断状態とが切り替えられるようになっている。噛合クラッチ38は、例えば車軸341R、車軸342Rの間を選択的に断続する公知のドグクラッチ等からなり、フロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達の切断または接続を選択的に切り替える断続切替機構として機能するものである。つまり、噛合クラッチ38は、切断状態(解放状態)においてはフロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路を遮断する一方、接続状態においてはフロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路を接続する。
具体的に、噛合クラッチ38と、この噛合クラッチ38の作動状態(接続状態または切断状態)を切り替えるための電動モータ(ADDモータ)112とによって、クラッチ装置(ADD装置)110が構成されている。クラッチ装置110においては、電動モータ112の駆動によって、噛合クラッチ38の作動状態が選択的に切り替えられ、車軸341R、342Rが接続された状態である接続状態と、車軸341R、342Rが切断された状態である切断状態とが切り替えられる。電動モータ112のモータ荷重は前輪14側への伝達トルクを考慮して設定される。
図3に示すように、噛合クラッチ38は、車軸341Rの外周部に形成された外周歯130と、車軸342Rの外周部に形成された外周歯134と、外周歯130、134に嵌合可能な内周歯136が形成された円筒状のスリーブ138とを備えている。スリーブ138の外周側には、円筒状の環状溝(図示省略)が形成されており、環状溝には、係合部材142(図1参照)が係合されている。係合部材142は、電動モータ112の駆動によって軸心方向(図3では、軸心C3方向)に沿って移動させられ、この係合部材142の移動により、スリーブ138が軸心方向に移動させられる。
スリーブ138が図3に示す位置にあるとき、噛合クラッチ38が切断状態にある。このとき、スリーブ138は、軸心方向において車軸342R側に移動されており、車軸341Rの外周歯130と、スリーブ138の内周歯136との噛合が解除されている。このため、車軸341R、342Rが切断された状態となる。この図3に示す状態から、電動モータ112の駆動によって、スリーブ138が軸心方向においてフロントディファレンシャル30側に移動されることで、車軸341Rの外周歯130とスリーブ138の内周歯136とが噛み合わされる。これにより、車軸341R、342Rが接続された状態となる。
なお、噛合クラッチ38(クラッチ装置110)が切断状態のとき、図3の実線の矢印で示すような回転状態となり、噛合クラッチ38が接続状態のとき、図3の破線の矢印で示すような回転状態となる。具体的には、噛合クラッチ38が切断状態のとき、前輪14Lおよび前輪14Rは同回転方向、且つ、同回転速度で回転する。これに従い、車軸34Lおよび車軸342Rは、同回転方向、且つ、同回転速度で回転する。また、車軸34Lの端部に設けられているサイドギヤ35Lも同様に、車軸34Lと一体的に回転させられ、サイドギヤ35Lと噛み合うピニオンギヤ39がピニオンシャフト37まわりに自転させられる。さらに、ピニオンギヤ39と噛み合う車軸341Rが車軸34Lに対して、逆回転方向、且つ、同回転速度で回転させられる。すなわち、車軸341Rが車軸342Rに対して、逆回転方向、且つ、同回転速度で回転させられる。一方、噛合クラッチ38が接続状態のとき、車軸341Rが、車軸342Rと同回転方向、且つ、同回転速度で回転する。このとき、車軸34Lおよび車軸34Rの回転が等しくなることから、デフケース108およびリングギヤ106が軸心C3まわりに車軸34Lおよび車軸34Rと一体的に回転させられる一方、ピニオンギヤ39の自転が停止される。
噛合クラッチ38(クラッチ装置110)は、動力伝達装置100が四輪駆動状態のとき、接続状態に切り替えられ、二輪駆動状態のとき、切断状態に切り替えられる。すなわち、動力伝達装置100が二輪駆動状態のとき、第2噛合クラッチ装置54が切断状態とされ、エンジン12からの動力は、トランスファ24によって左右の後輪16のみに伝達される。このとき、噛合クラッチ38により車軸341R、342Rが接続されていれば、前輪14によって、車軸34、フロントディファレンシャル30、フロントプロペラシャフト26、第2出力軸60、ドリブンスプロケット62、チェーン64、ドライブスプロケット52等が連れ回される。このため、動力伝達装置100において減速方向のトルク(引き摺りトルク)がかかることになり、燃費が低下する。そこで、動力伝達装置100が二輪駆動状態に切り替えられることに連動して、噛合クラッチ38を切断状態に切り替えることで、フロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達を遮断する。これにより、前輪14が回転したとしても、フロントディファレンシャル30において動力伝達が遮断され、フロントプロペラシャフト26、第2出力軸60、チェーン64、ドライブスプロケット52等の連れ回りが防止される。
動力伝達装置100が四輪駆動状態のとき、噛合クラッチ38によって車軸341R、342Rが接続されると、エンジン12によって発生され、トランスファ24によって分配された動力がフロントプロペラシャフト26を介してフロントディファレンシャル30に伝達され、車軸34を介して左右の前輪14に伝達される。このとき、第2噛合クラッチ装置54が接続状態とされたトランスファ24によって分配された残りの駆動力は、リヤプロペラシャフト28、リヤディファレンシャル32、および車軸36を介して左右の後輪16にそれぞれ伝達される。
動力伝達装置100は、制御装置としての電子制御ユニット(ECU)200によって制御される。ECU200は、例えば、CPU、ROM、RAMなどを含む構成となっている。ROMには、各種制御プログラム、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。ECU200は、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、自動変速機22の変速制御、第1、第2噛合クラッチ装置50、54の切替制御、クラッチ装置110の切替制御等を実行する。
ECU200には、図1に示すように、例えばエンジン回転速度センサ162により検出されたエンジン回転速度Neを表す信号、リヤペラ回転速度センサ164により検出されたリヤプロペラシャフト28の出力回転速度Nprに対応する車速Vを表す信号、各車輪速センサ166により検出された各車輪(すなわち前輪14R、14L、後輪16R、16L)の回転速度Nwに対応する車輪速Nfr、Nfl、Nrr、Nrlを表す信号、ダイヤルポジションセンサ168により検出された駆動状態切替ダイヤルスイッチ170の操作位置Pdialを表す信号、駆動状態検出スイッチ(トランスファスイッチ)172により検出されたトランスファ24における動力伝達状態に対応する二輪駆動状態S2WDおよび四輪駆動状態S4WDを表す信号、作動状態検出スイッチ(ADDスイッチ)174により検出されたクラッチ装置110の噛合クラッチ38の作動状態に対応する接続状態Sonおよび切断状態Soffを表す信号等が供給される。
また、ECU200からは、例えばエンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機22の変速制御のための変速制御指令信号St、シフトアクチュエータ84により第1シフトフォークシャフト95を介して第1噛合クラッチ装置50を作動させることで、副変速機46のギヤ段を高速側ギヤ段Hまたは低速側ギヤ段Lへ切り替えるためのハイロー切替制御指令信号Shl、シフトアクチュエータ84により第2シフトフォークシャフト97を介して第2噛合クラッチ装置54を作動させることでトランスファ24における駆動状態を二輪駆動状態または四輪駆動状態へ切り替えるための駆動状態切替制御指令信号S2-4、電動モータ112により噛合クラッチ38を作動させることでフロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路の切断または接続を切り替えるためのADD切替制御指令信号Sadd等が出力される。駆動状態切替ダイヤルスイッチ170は、例えば運転者の近傍に設けられて運転者により手動操作されるダイヤル式のスイッチであり、高速側ギヤ段Hでの二輪駆動状態(H−2WD)、高速側ギヤ段Hでの四輪駆動状態(H−4WD)、および低速側ギヤ段Lでの四輪駆動状態(L−4WD)のいずれかへの切り替えを指示するための3つの操作位置Pdialを備えている。なお、駆動状態切替ダイヤルスイッチ170は、ダイヤル式のものに限らず、例えばスライド式やシーソー式のものであってもよい。
ECU200は、駆動状態切替ダイヤルスイッチ170の操作位置Pdialを表す信号に基づいてトランスファ24の切替制御を実行する。具体的には、ECU200は、操作位置Pdialが二輪駆動状態(H−2WD)を表す信号の場合には、副変速機46のギヤ段を高速側ギヤ段Hへ切り替えるためのハイロー切替制御信号Shlをシフトアクチュエータ84に出力し、第1シフトフォークシャフト95を介して第1噛合クラッチ装置50を作動させることで副変速機46のギヤ段を高速側ギヤ段Hへ切り替える。加えて、ECU200は、トランスファ24における駆動状態を二輪駆動状態へ切り替えるための駆動状態切替制御指令信号S2-4をシフトアクチュエータ84に出力し、第2シフトフォークシャフト97を介して第2噛合クラッチ装置54を切断状態とする。
一方、ECU200は、操作位置Pdialが四輪駆動状態(H−4WD)を表す信号の場合には、二輪駆動状態(H−2WD)の場合と同様に、副変速機46のギヤ段を高速側ギヤ段Hへ切り替えるためのハイロー切替制御指令信号Shlをシフトアクチュエータ84に出力する。加えて、ECU200は、トランスファ24における駆動状態を四輪駆動状態へ切り替えるための駆動状態切替制御指令信号S2-4をシフトアクチュエータ84に出力し、第2シフトフォークシャフト97を介して第2噛合クラッチ装置54を接続状態とする。
他方、ECU200は、操作位置Pdialが四輪駆動状態(L−4WD)を表す信号の場合には、副変速機46のギヤ段を低速側ギヤ段Lへ切り替えるためのハイロー切替制御指令信号Shlをシフトアクチュエータ84へ出力し、第1シフトフォークシャフト95を介して第1噛合クラッチ装置50を作動させることで副変速機46のギヤ段を低速側ギヤ段Lへ切り替える。加えて、ECU200は、四輪駆動状態(H−4WD)の場合と同様に、トランスファ24における駆動状態を四輪駆動状態へ切り替えるための駆動状態切替制御指令信号S2-4をシフトアクチュエータ84へ出力する。
また、ECU200は、駆動状態切替ダイヤルスイッチ170の操作位置Pdialを表す信号に基づいてクラッチ装置110の噛合クラッチ38の切替制御を実行する。具体的には、ECU200は、操作位置Pdialが二輪駆動状態(H−2WD)を表す信号の場合には、フロントディファレンシャル30と前輪14との間の動力伝達経路を遮断するためのADD切替制御指令信号Saddを電動モータ112に出力し、噛合クラッチ38を切断状態とする。一方、ECU200は、操作位置Pdialが四輪駆動状態(H−4WD)および四輪駆動状態(L−4WD)のいずれかを表す信号の場合には、フロントディファレンシャル30と前輪14との間の動力伝達経路を接続するためのADD切替制御指令信号Saddを電動モータ112に出力し、噛合クラッチ38を接続状態とする。
次に、動力伝達装置100において行われる四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替制御の一例について、図4を参照して説明する。図4に示すフローチャートは、四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切替制御に関するものであり、ECU200によって一定周期ごとに実行される。
まず、ECU200は、ステップST1において、四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)へ切り替えられる指令信号が出力されたか否かを判定する。この判定は、駆動状態切替ダイヤルスイッチ170の操作位置Pdialからの駆動状態切替制御指令信号S2-4に基づいて行うことが可能である。ステップST1の判定結果が肯定判定(Yes)の場合にはステップST2に進む。一方、ステップST1の判定結果が否定判定(No)の場合にはリターンする。
次に、ECU200は、ステップST2において、車速が所定の車速V1未満であるかを判定する。この判定は、リヤペラ回転速度センサ164により検出されたリヤプロペラシャフト28の出力回転速度Nprに対応する車速Vを表す信号に基づいて行うことが可能である。ステップST2の判定結果が肯定判定(Yes)の場合にはステップST3に進む。一方、ステップST2の判定結果が否定判定(No)の場合には、処理が待機状態とされる。
次に、ECU200は、ステップST3において、トランスファ24の第2噛合クラッチ装置54を切断状態に切り替えるため、シフトアクチュエータ84への通電を行ってシフトアクチュエータ84を駆動する。これにより、第2噛合クラッチ装置54のスリーブ90がクラッチギヤ92との接続を解除する方向に移動され、トランスファ24において四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切り替えが開始される。
次に、ECU200は、ステップST4において、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了したか否かを判定する。つまり、トランスファ24において四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切り替えが完了したか否かが判定される。この判定は、トランスファスイッチ172により検出されたトランスファ24における動力伝達状態を表す信号に基づいて行うことが可能であり、この信号が二輪駆動状態S2WDを表す信号である場合、肯定判定(Yes)となり、その信号が四輪駆動状態S4WDを表す信号である場合、否定判定(No)となる。ステップST4の判定結果が肯定判定(Yes)の場合には、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了したとしてステップST6に進む。一方、ステップST4の判定結果が否定判定(No)の場合には、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了していないとしてステップST5に進む。
次に、ECU200は、ステップST5において、第2噛合クラッチ装置54を切断状態に切り替える切替時間t1が所定の設定時間T1を経過したか否かを判定する。この切替時間t1は、シフトアクチュエータ84の駆動時間(通電時間)であり、ステップST3のシフトアクチュエータ84の駆動開始時点(通電開始時点)から計時される。設定時間T1は、四輪駆動状態での走行中に動力伝達装置100に蓄積される循環トルクに起因して第2噛合クラッチ装置54のスリーブ90の摺動抵抗が大きくなり、第2噛合クラッチ装置54の切替時間t1が長くなること等を考慮して、予め実験、シミュレーション等により決定される。ステップST5の判定結果が肯定判定(Yes)の場合にはステップST9に進む。一方、ステップST4の判定結果が否定判定(No)の場合には上記ステップST4に進む。
次に、ECU200は、ステップST6において、シフトアクチュエータ84への通電を停止してシフトアクチュエータ84を停止するとともに、クラッチ装置110の噛合クラッチ38を切断状態に切り替えてフロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路を切断するため、電動モータ112への通電を行って電動モータ112を駆動する。これにより、噛合クラッチ38のスリーブ138が車軸341Rとの接続を解除する方向に移動され、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが開始される。
次に、ECU200は、ステップST7において、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが完了したか否かを判定する。つまり、フロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路が切断されたか否かが判定される。この判定は、ADDスイッチ174により検出された噛合クラッチ38の作動状態を表す信号に基づいて行うことが可能であり、この信号が切断状態Soffを表す信号である場合、肯定判定(Yes)となり、その信号が接続状態Sonを表す信号である場合、否定判定(No)となる。ステップST7の判定結果が肯定判定(Yes)の場合には、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが完了したとしてステップST8に進む。一方、ステップST7の判定結果が否定判定(No)の場合には、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが完了するまで処理が待機状態とされる。
次に、ECU200は、ステップST8において、電動モータ112への通電を停止して電動モータ112を停止する。
また、ECU200は、ステップST9において、シフトアクチュエータ84への通電を停止してシフトアクチュエータ84を停止するとともに、噛合クラッチ38を切断状態に切り替えてフロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路を切断するため、電動モータ112への通電を行って電動モータ112を駆動する。この場合、シフトアクチュエータ84の停止により、第2噛合クラッチ装置54のスリーブ90の移動が停止され、トランスファ24における四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切り替えが一旦停止(中断)される。そして、電動モータ112の駆動により、噛合クラッチ38のスリーブ138が車軸341Rとの接続を解除する方向に移動され、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが開始される。
次に、ECU200は、ステップST10において、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが完了したか否かを判定する。この判定は、上記ステップST7の判定と同様である。ステップST10の判定結果が肯定判定(Yes)の場合にはステップST12に進む。一方、ステップST10の判定結果が否定判定(No)の場合にはステップST11に進む。
次に、ECU200は、ステップST11において、噛合クラッチ38を切断状態に切り替える切替時間t2が所定の設定時間T2を経過したか否かを判定する。この切替時間t2は、電動モータ112の駆動時間(通電時間)であり、ステップST9の電動モータ112の駆動開始時点(通電開始時点)から計時される。設定時間T2は、四輪駆動状態のとき、前輪14側への伝達トルクに応じて噛合クラッチ38のスリーブ138の摺動抵抗が大きくなり、噛合クラッチ38の切替時間t2が長くなること等を考慮して、予め実験、シミュレーション等により決定される。ステップST11の判定結果が肯定判定(Yes)の場合にはステップST15に進む。一方、ステップST11の判定結果が否定判定(No)の場合には上記ステップST10に進む。
次に、ECU200は、ステップST12において、電動モータ112への通電を停止して電動モータ112を停止するとともに、第2噛合クラッチ装置54を切断状態に切り替えるため、シフトアクチュエータ84への通電を再開してシフトアクチュエータ84を再駆動する。シフトアクチュエータ84の再駆動により、ステップST9で停止されていた第2噛合クラッチ装置54のスリーブ90の移動が再開され、トランスファ24において四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切り替えが再開される。
次に、ECU200は、ステップST13において、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了したか否かを判定する。この判定は、上記ステップST4の判定と同様である。ステップST13の判定結果が肯定判定(Yes)の場合には、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了したとしてステップST14に進む。一方、ステップST13の判定結果が否定判定(No)の場合には、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが完了するまで処理が待機状態とされる。
次に、ECU200は、ステップST14において、シフトアクチュエータ84への通電を停止してシフトアクチュエータ84を停止する。
次に、ECU200は、ステップST15において、電動モータ112への通電を停止して電動モータ112を停止するとともに、第2噛合クラッチ装置54を切断状態に切り替えるため、シフトアクチュエータ84への通電を再開してシフトアクチュエータ84を再駆動する。この場合、電動モータ112の停止により、噛合クラッチ38のスリーブ138の移動が停止され、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えが一旦停止(中断)される。そして、シフトアクチュエータ84の再駆動により、ステップST9で停止されていた第2噛合クラッチ装置54のスリーブ90の移動が再開され、トランスファ24において四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)への切り替えが再開される。そして、ステップST15の処理の後、上記ステップST4に進む。
この実施形態では、四輪駆動状態(H−4WD)から二輪駆動状態(H−2WD)へ切り替える際、トランスファ24(第2噛合クラッチ装置54)による二輪駆動状態への切り替えが完了していなくても二輪駆動状態への切替開始から設定時間T1経過した場合には(ステップST5でYes)、クラッチ装置110(噛合クラッチ38)の切断状態への切り替えを開始している(ステップST9)。より具体的には、設定時間T1の経過後、第2噛合クラッチ装置54による二輪駆動状態への切り替えを停止し(ステップST9)、クラッチ装置110の切断状態への切替完了後(ステップST10でYes)、第2噛合クラッチ装置54による二輪駆動状態への切り替えを再開している(ステップST12)。
これにより、設定時間T1の経過後、噛合クラッチ38を切断状態に切り替えることで、四輪駆動状態での走行中に動力伝達装置100に蓄積された循環トルクが解放されるので、第2噛合クラッチ装置54による二輪駆動状態への切り替えを循環トルクによって妨げられることなく行うことができる。つまり、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えによって、フロントディファレンシャル30と前輪14Rとの間の動力伝達経路を切断することにより、動力伝達装置100に蓄積された循環トルクがなくなる。これにより、循環トルクによるスリーブ90の摺動抵抗がなくなり、第2噛合クラッチ装置54を切断状態に速やかに切り替えることができる。したがって、四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替時間を短くすることができ、四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替性能を向上させることができる。
ここで、蓄積された循環トルクに比べ、シフトアクチュエータ84の荷重(モータ荷重)が不十分であって第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えが困難な場合にも、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えに伴う循環トルクの解放により、シフトアクチュエータ84による第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えを容易に行うことができる。つまり、四輪駆動状態での前輪14側への伝達トルクに比べ、電動モータ112のモータ荷重が十分に大きければ、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えを容易に行うことができるので、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えを停止して噛合クラッチ38の切断状態への切り替えを行い、そして、噛合クラッチ38の切断状態への切り替え後、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えを再開するようにしている。
一方、四輪駆動状態での前輪14側への伝達トルクに比べ、電動モータ112のモータ荷重が不十分であり、噛合クラッチ38の切替時間t2が長くなった場合には、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えを停止して第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えを再開し、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えと、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えとをそれぞれの設定時間T1、T2ごとに交互に行うようにしている。このように、第2噛合クラッチ装置54の切断状態への切り替えに伴う前輪14側への伝達トルクの遮断と、噛合クラッチ38の切断状態への切り替えに伴う循環トルクの解放とを徐々に行うことで、第2噛合クラッチ装置54の切替時間t1と噛合クラッチ38の切替時間t2との総計を全体として短くして、四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替性能を向上させるようにしている。
なお、上記実施形態では、FR形式の車両をベースとした四輪駆動車の動力伝達装置100について説明したが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)形式の車両をベースとした四輪駆動車の動力伝達装置にも本発明を適用することができる。
上記実施形態では、副変速機能を有するトランスファ24を備えた動力伝達装置100について説明したが、副変速機能を有しないトランスファを備えた動力伝達装置にも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、クラッチ装置110(噛合クラッチ38)を車軸34R側に設けた場合について説明したが、車軸34L側にクラッチ装置を設ける構成としてもよい。