JP5963233B2 - Htlv−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬および前記医薬を用いた抗体療法の治療効果の確認方法 - Google Patents

Htlv−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬および前記医薬を用いた抗体療法の治療効果の確認方法 Download PDF

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本発明は、HTLV−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬、および前記医薬を用いた抗体療法の治療効果の確認方法に関する。
現在、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type-1;以下「HTLV−I」と略記する)の感染者は、日本に約110万人存在する。そして、HTLV−I感染者のうちの約0.3%(約3000人)は、HTLV−I関連脊髄症(HTLV-I associated myelopathy;以下「HAM」と略記する)を発症する。
HAMは、発症者の数が大変少ないため、病因解明および治療薬開発のための研究が進みにくい。また、HAMは、国の難病性疾患克服研究事業の対象疾患に指定されている。現在、HAMに対する有効な治療法は確立されておらず、一刻も早い治療法の開発が切望されている。
HAMの病態の特徴として、末梢血および脳脊髄液中においてHTLV−I感染細胞の数が非常に多くなり、その量に比例して過剰な免疫応答が誘発されて、HTLV−I特異的細胞傷害性Tリンパ球が異常に増加することが挙げられる。HAMの脊髄病変では、HTLV−I感染細胞や各種炎症細胞(CD4T細胞やCD8細胞傷害性Tリンパ球)が、血液脳関門を介して脊髄外から脊髄内に浸潤していることが病理学的に報告されている。これらのことから、HAMの病態は、感染細胞に起因した過剰な免疫応答による神経組織障害であると考えられている。
これらの病態をふまえたHAMの治療戦略として、(1)HTLV−I感染細胞の排除、(2)過剰免疫応答(脊髄炎症)の沈静化、(3)損傷した脊髄の再生、が挙げられる。HAMを根治するためには、脊髄の再生治療が必要である。しかし、再生治療を成功させるためには、まず(1)または(2)を実現することが必要不可欠である。現在、HAMの治療には、(2)過剰免疫応答の沈静化を実現するために、ステロイドやインターフェロンなどの非特異的な抗炎症治療が用いられている。これらの治療方法は、短期的には治療効果を発揮するが、治療が長期化すると、副作用や治療効果の減弱が認められている。このように、従来の治療方法は、HAMの病態に即した治療法ではなかった。
一方、近年、ケモカインの一種であるCXCL10(IP−10;Interferon-inducible protein 10)がリウマチ性関節炎や炎症性腸疾患などに関与していると報告されている。そして、これらの疾患を特異的に治療するため、抗CXCL10抗体が抗体医薬として有用であることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。これに伴い、関節リウマチおよび潰瘍性大腸炎を対象として、抗ヒトCXCL10抗体を用いた第II相試験が完了している。
特表2007−514419号公報
前述のとおり、HAMを効果的に治療するためには、脊髄における過剰免疫応答(慢性的な炎症)を沈静化することが極めて重要であるが、この炎症を特異的に沈静化できる医薬はまだ開発されていない。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、脊髄における炎症を制御して、HAMを治療または予防することができる医薬を提供することを目的とする。また、本発明は、HAMに対する抗体療法の治療効果を確認する方法を提供することも目的とする。
一般的な炎症では、ケモカインが炎症細胞の遊走に関与していることが知られている。このことから、HAM発症者の脊髄における炎症でもケモカインが関与していることが考えられる。そこで、本発明者は、HAMの炎症に関与しているケモカインを網羅的に探索した結果、CXCL10がHAMの炎症に最も強く関与していることを見出した。後述するように、HAM発症者では、CXCL10の産生および炎症細胞などの浸潤が繰り返されることにより、脊髄における炎症が慢性化していると推察される。
そして、本発明者は、上記知見に基づきさらに検討した結果、抗CXCL10抗体がHAMの治療薬として有用であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のHTLV−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬に関する。
[1]ヒトCXCL10に特異的に結合する抗ヒトCXCL10抗体または前記抗体の断片を含む、HTLV−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬。
また、本発明は、以下のHTLV−1関連脊髄症の患者(発症者)に対する抗体療法の治療効果の確認方法に関する。
[2]HTLV−1関連脊髄症の患者に対する抗ヒトCXCL10抗体または前記抗体の断片を用いた抗体療法の治療効果を確認する方法であって、前記患者から採取された脳脊髄液を準備するステップと、前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度を測定するステップと、前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度を指標として、前記抗体療法の治療効果を判定するステップと、を有する、抗体療法の治療効果の確認方法。
[3]前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度が所定の値より低いときに、前記抗体療法が前記患者に対して有効であると判定する、[2]に記載の治療効果の確認方法。
本発明の医薬によれば、HAM発症者に見られる炎症を制御することができるため、HAMを効果的に治療または予防することができる。また、本発明の治療効果の確認方法によれば、本発明の医薬を用いてHAMを治療する場合に、その治療効果を確認することができる。
図1A〜Cは、HAM発症者とHAM非発症者の脳脊髄液中におけるケモカイン濃度を示すグラフ(1)である。 図2A〜Cは、HAM発症者とHAM非発症者の脳脊髄液中におけるケモカイン濃度を示すグラフ(2)である。 図3A〜Cは、HAM発症者とHAM非発症者の脳脊髄液中におけるケモカイン濃度を示すグラフ(3)である。 図4A〜Cは、脳脊髄液中の各種ケモカイン濃度と納の運動障害重症度との関係を示すグラフである。 図5A〜Cは、脳脊髄液中と血清中におけるケモカイン濃度を比較したグラフである。 遊走阻害試験の結果を示すグラフである。
1.本発明の医薬
本発明の医薬は、HAMを治療または予防するための医薬であって、ヒトCXCL10に特異的に結合する抗ヒトCXCL10抗体またはその断片を含むことを特徴とする。
前述したように、一般的な炎症において、ケモカインは、炎症細胞の遊走に重要な役割を果たしていることが知られている。しかしながら、HAM発症者の脊髄における炎症にどのケモカインが関与しているのか、またHAM発症者の脊髄における炎症が慢性化する機構に関しては、明確に証明されていない。そこで、本発明者は、HAM発症者の脊髄において炎症が慢性化する機構について、以下の仮説を立てた。
まず、HAM発症者では、脊髄内に浸潤したHTLV−I感染細胞や各種炎症細胞が、周辺の神経組織に存在する細胞などに作用してケモカインの産生を誘導する。そして、脊髄内のケモカイン濃度が上昇すると、脊髄の内外でケモカインの濃度勾配が生じ、脊髄外の炎症細胞がさらに脊髄内に遊走(浸潤)する。このように、HAM発症者では、ケモカインの産生および炎症細胞などの浸潤が繰り返されることにより、炎症サイクルが形成されて炎症が慢性化すると考えられる。
このように、本発明者は、特定のケモカインがHAM発症者の脊髄における炎症サイクルに重要な役割を果たしていると考え、そのようなケモカインを網羅的に探索した。その結果、本発明者は、CXCL10がHAMの炎症サイクルに最も関与していることを見出した。すなわち、後述の実施例に示すように、HTLV−1感染者のうち、HAM発症者の脳脊髄液中におけるCXCL10の濃度は、HAM非発症者の脳脊髄液中におけるCXCL10の濃度と比較して著しく高い。また、HAM発症者の脳脊髄液中におけるCXCL10と、運動障害重症度スコアとの間には、強い相関関係が見られる。さらに、HAM発症者の脳脊髄液中におけるCXCL10の濃度は、血清中におけるCXCL10の濃度より高い。これらのことから、CXCL10がHAMにおける炎症サイクル形成の重要因子であることが強く示唆される。
HAM発症者における炎症サイクル形成のメカニズムは、以下のように推察される(これに限定されるわけではない)。脊髄に浸潤したHTLV−1感染細胞はIFN−γを産生する。産生されたIFN−γは、脊髄内の他の細胞(例えば、マクロファージ)に対してCXCL10の産生を誘導し、CXCL10の濃度勾配を形成する。CXCL10の受容体であるCXCR3が発現している脊髄外の炎症性細胞は、CXCL10の作用により、脊髄内に遊走しIFN−γを産生する。産生されたIFN−γは、脊髄内の他の細胞(例えば、マクロファージ)に対してCXCL10の産生をさらに誘導する。これにより、脊髄内から脊髄外にかけてCXCL10の濃度勾配がさらに形成され、脊髄外のCXCR3陽性細胞をさらに脊髄内へ誘引する。
以上のように、HAMにおける炎症サイクル形成の主要なケモカインは、CXCL10である可能性が非常に高い。よって、抗ヒトCXCL10抗体を用いて炎症サイクルを抑制することで、HAMを効果的に治療または予防することができると考えられる。実際、本発明者らは、抗ヒトCXCL10抗体を用いることで、HAM発症者由来の末梢血単核細胞(CXCR3陽性細胞を含む)の遊走を阻害できることを確認している(実施例参照)。この結果は、抗ヒトCXCL10抗体を用いることでHAMを治療または予防できることを支持している。
抗ヒトCXCL10抗体を用いた抗体療法がHAMの有用な治療法となりうるか否かを検討する上で最も重要な点は、副作用をもたらす可能性の有無である。この点、前述したように、抗CXCL10抗体は、関節リウマチおよび潰瘍性大腸炎を対象とした第II相試験が完了しているため、大きな副作用がある可能性は低いと考えられる。
本発明の医薬に含まれる抗ヒトCXCL10抗体またはその断片の種類は、ヒトCXCL10に特異的に結合しうる抗体またはその断片であれば特に限定されない。
本発明の医薬に含まれる抗CXCL10抗体の例には、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体およびヒト抗体が含まれる。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域(以下「VH」と略記する)および軽鎖可変領域(以下「VL」と略記する)と、ヒト抗体の重鎖定常領域(以下「CH」と略記する)および軽鎖定常領域(以下「CL」と略記する)とからなる抗体である。可変領域についての動物の種類は、マウスやラット、ハムスター、ウサギなどのハイブリドーマを作製しうる動物であれば特に限定されない。ヒト型キメラ抗体は、ヒトCXCL10に特異的に結合するヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることで作製されうる。ヒト型キメラ抗体のCHは、ヒトイムノグロブリン(以下「hIg」と略記する)であれば特に限定されないが、hIgGクラスのものが好ましい。ヒト型キメラ抗体のCLは、hIgに属すれば特に限定されない。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLの相補性決定領域(以下「CDR」と略記する)をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体である。ヒト型CDR移植抗体は、ヒトCXCL10に特異的に結合するヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRを任意のヒト抗体のVHおよびVLのフレームワーク(以下「FR」と略記する)に移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることで、作製されうる。ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列は、ヒト抗体由来のアミノ酸配列であれば特に限定されない。ヒト型CDR移植抗体のCHは、hIgであれば特に限定されないが、hIgGクラスのものが好ましい。ヒト型CDR移植抗体のCLは、hIgに属すれば特に限定されない。
本発明の医薬に含まれる抗ヒトCXCL10抗体の断片の例には、上記各抗体の断片が含まれる。抗体の断片の種類は特に限定されず、例えばFab、Fab’、F(ab’)、scFv、diabody、dsFv、CDRを含むペプチドなどである。
Fabは、IgGをパパイン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のFabは、抗ヒトCXCL10抗体をパパインで処理するか、前記抗体のFabをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。
F(ab’)は、IgGをペプシン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のF(ab’)は、抗ヒトCXCL10抗体をペプシンで処理するか、Fab’(後述)をチオエーテル結合またはジスルフィド結合で結合させることで、作製されうる。
Fab’は、F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のFab’は、抗ヒトCXCL10抗体のF(ab’)をジチオスレイトールで処理するか、前記抗体のFab’をコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカーを用いて連結した抗原結合活性を有する抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のscFvは、抗ヒトCXCL10抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のdiabodyは、抗ヒトCXCL10抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、diabodyをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体断片である。抗ヒトCXCL10抗体のdsFvは、抗ヒトCXCL10抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含むペプチドである。抗ヒトCXCL10抗体のCDRを含むペプチドは、抗ヒトCXCL10抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入して発現させることで、作製されうる。また、抗ヒトCXCL10抗体のCDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によっても作製することができる。
本発明の医薬に含まれる抗ヒトCXCL10抗体またはその断片は、例えば、前述の特許文献1に記載された抗ヒトCXCL10抗体またはその断片である。
本発明の抗ヒトCXCL10抗体を含む医薬は、HAMの治療薬または予防薬として単独でも投与されうるが、通常は薬理学的に許容される1または2以上の担体と混合し、製剤学の技術分野において良く知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供されることが好ましい。
投与経路は、特に限定されず、HAMの治療に最も効果的なものを適宜選択することができる。投与経路の例には、経口投与、ならびに口腔内投与や気道内投与、直腸内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与などの非経口投与が含まれる。通常は、静脈内投与が好ましい。
投与形態も、特に限定されず、投与経路などに応じて適宜選択することができる。投与形態の例には、注射剤や噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、座剤、軟膏、テープ剤などが含まれる。経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などが挙げられる。非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などが挙げられる。通常は、注射剤が好ましい。
注射剤は、塩溶液またはブドウ糖溶液あるいは両者の混合物からなる担体などを用いて調製されうる。また、粉末注射剤は、抗ヒトCXCL10抗体を常法に従って凍結乾燥し、これに塩化ナトリウムを加えることにより製造されうる。
投与量および投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なるが、有効成分(抗ヒトCXCL10抗体またはその断片)の量として通常成人1日あたり0.1μg/kg〜100mg/kg程度であり、好ましくは10μg/kg〜5mg/kg程度である。
本発明の医薬は、HAM発症者の脊髄における炎症サイクルを抑制しうるので、HAMに対する抗ヒトCXCL10抗体を用いた抗体療法に使用されうる。すなわち、本発明の医薬は、HAMの治療薬または予防薬として使用されうる。
2.本発明の治療効果の確認方法
本発明の治療効果の確認方法は、HAM発症者(患者)に対する、抗ヒトCXCL10抗体またはその断片を用いた抗体療法の治療効果を確認する方法である。
本発明の治療効果の確認方法は、1)HAM発症者の脳脊髄液を準備する第1のステップと、2)脳脊髄液中のCXCL10の濃度を測定する第2のステップと、3)測定したCXCL10の濃度に基づいて、HTLV−1関連脊髄症における治療効果を判定する第3のステップと、を有する。
第1のステップでは、抗体療法を受けているHAM発症者から採取された脳脊髄液を準備する。
第2のステップでは、第1のステップで準備した脳脊髄液に含まれるCXCL10の濃度を測定する。CXCL10の濃度の測定方法は、特に限定されない。たとえば、ビーズアレイ法やELISA法などで測定すればよい。
第3のステップでは、第2のステップで測定したCXCL10の濃度を指標として、抗体療法の治療効果を判定する。
前述の通り、HAM発症者の脳脊髄液中のCXCL10の濃度は、健常者(HAM非発症者)に比べて顕著に高い。したがって、脳脊髄液中のCXCL10の濃度が所定の値より低くなれば、抗体療法が当該HAM発症者に対して有効であると判定することができる。
本発明の治療効果の確認方法は、HAM発症者に対する治療効果を確認することができるので、当該HAM発症者に対して抗体療法が有効であるかを確認することができる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.脳脊髄液中におけるケモカイン濃度の測定
前述したように、ケモカインは、HAM発症者の炎症サイクルにおいて重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、HAM発症者の炎症サイクルにおいて重要な役割を果たしているケモカインを見出すことを目的として、HAM発症者およびHAM非発症者(HTLV−1感染者)における脳脊髄液中の各種ケモカイン濃度を調べた。
図1〜3は、HAM発症者とHAM非発症者(HTLV−1感染者)の脳脊髄液中におけるケモカイン濃度を示すグラフである。今回の実験では、CXCL9(MIG;図1A)、CXCL10(IP−10;図1B)、CXCL11(I−TAC;図1C)、CCL3(MIP−1α;図2A)、CCL4(MIP−1β;図2B)、CCL5(RANTES;図2C)、CCL17(TRAC;図3A)、CCL20(MIP−3α;図3B)およびCCL22(MDC;図3C)の9種類のケモカインについて濃度を比較した。統計学的処理は、マンホイットニーのU検定(Mann-Whitney U-test)を行った。
図1C、図2A〜Cおよび図3A〜Cに示されるように、CXCL11、CCL3、CCL4、CCL5、CCL17、CCL20およびCCL22については、HAM発症者における脳脊髄液中の濃度と、HAM非発症者における脳脊髄液中の濃度との間に、有意差は認められなかった。一方、図1Aおよび図1Bに示されるように、CXCL9およびCXCL10については、HAM発症者における脳脊髄液中の濃度が、HAM非発症者における脳脊髄液中の濃度に対して有意に高かった。また、CXCL9とCXCL10とを比較すると、HAM発症者における脳脊髄液中の濃度は、CXCL9よりもCXCL10のほうが100倍近く大きな値であった。これは、CXCL9よりもCXCL10の方がより容易に検出できることを意味する。
これらの結果から、CXCL9および/またはCXCL10が、HAM発症者の炎症サイクルにおいて重要な役割を果たしている可能性があることが示唆される。
2.脳脊髄液中のケモカイン濃度と運動障害重症度との関係
次に、CXCL9およびCXCL10がHAM発症者の炎症サイクルに関与しているかどうかを確認するため、HAM発症者における脳脊髄中の濃度と、HAMの症状の指標となる納の運動障害重症度(Osame motor dysfunction score)との相関関係について調べた。
図4は、脳脊髄液中の各種ケモカイン濃度と納の運動障害重症度との関係を示したグラフである。本実験では、CXCL9、CXCL10およびCCL5(コントロール)について調べた。統計学的処理は、スペアマンの相関解析(Spearman's rank correlation)により行った。
図4Cに示されるように、脳脊髄液中におけるCCL5の濃度と納の運動障害重症度との間には、ほとんど相関関係は見られなかった(相関係数r=0.2375、有意水準p=0.2347)。また、図4Bに示されるように、脳脊髄液中におけるCXCL9の濃度と納の運動障害重症度との間には、低い正の相関が認められた(相関係数r=0.4789、有意水準p=0.0086)。一方、図4Aに示されるように、脳脊髄液中におけるCXCL10の濃度と納の運動障害重症度との間には、高い正の相関関係が認められた(相関係数r=0.6621、有意水準p=0.0001)。
これらの結果からも、CXCL9およびCXCL10が、HAM発症者の炎症サイクルに関与している可能性があることが示唆される。
3.脳脊髄液中と血清中のケモカイン濃度の比較
HAM発症者で見られる炎症サイクルは、脊髄内から脊髄外にかけてのケモカインの濃度勾配により、炎症細胞が脊髄外(血液)から脊髄内に浸潤することで起こると考えられる。そこで、CXCL9およびCXCL10について、脊髄内の濃度が高く、脊髄外の濃度が低い濃度勾配が形成されているかどうかを確認するため、HAM発症者の脳脊髄液および血清中の濃度を調べた。
図5は、HAM発症者の脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)中と血清(serum)中におけるケモカイン濃度を比較したグラフである。本実験では、CXCL9、CXCL10およびCCL5(コントロール)について調べた。統計学的解析は、ペアT検定(paired t-test)を行った。
図5Bおよび図5Cに示されるように、HAM発症者において、脳脊髄液中におけるCXCL9およびCCL5の濃度は、血清中の濃度より著しく低い値であった。これは、CXCL9およびCCL5は、脊髄内の濃度が高く、脊髄外の濃度が低い濃度勾配(炎症細胞の脊髄内への遊走に必要な濃度勾配)を形成していないことを意味する。この結果から、CXCL9およびCCL5は、HAMの炎症サイクル形成への貢献度に乏しいと考えられる。一方、図5Aに示されるように、HAM発症者において、脳脊髄液中におけるCXCL10の濃度は、血清中の濃度より高い値であった。これは、CXCL10は、脊髄内の濃度が高く、脊髄外の濃度が低いという、炎症細胞の脊髄内への遊走に必須の濃度勾配を形成していることを意味する。
以上の結果から、HAM発症者において、脊髄外から脊髄内への炎症細胞の遊走には、CXCL10が関与していることが強く証明された。
4.遊走阻害試験
上記1〜3の実験結果から、CXCL10は、HAM発症者における細胞遊走の主要な因子と考えられる。このことから、CXCL10による細胞遊走の作用を阻害することで、HAMの炎症サイクルを制御することができると考えられる。そこで、CXCL10を認識する抗CXCL10抗体、およびCXCL10の受容体であるCXCR3を認識する抗CXCR3抗体による細胞遊走の阻害効果について調べた。遊走阻害試験は、ケモタキシスチャンバー(MBA96;Neuroprobe社)を用いて行った。
1)上室用の培養液の調製
上室用の培養液は、HAM発症者における血液のモデルである。HAM発症者の末梢血単核球細胞(PBMC)を1mLの1×PBSで洗浄した。次いで、1500rpmで5分間、4℃で遠心分離した後、上清を除去した。37℃に加温したRPMI1640培養液(ウシ血清アルブミン1mg/mLを含む)を10mL加え、細胞数を測定した。1×10細胞/100μLとなるように調整した培養液に、以下の3種類の抗体のうちのいずれか一種類の抗体を最終濃度で10μg/mLとなるように添加し、室温で30分間培養した。抗体は、抗ヒトCXCL10抗体(MAB226;R&D Systems社)、抗ヒトCXCR3抗体(MAB160;R&D Systems社)、およびコントロールとして抗マウスIgG抗体(MAB002;R&D Systems社)を使用した。その後、各培養液を上室ウェルに1×10細胞/100μL/ウェルとなるように分注した(図6参照)。
2)下室用の培養液の調製
下室用の培養液は、HAM発症者における脊髄のモデルである。最終濃度が0.25μg/mLとなるようにリコンビナントヒトCXCL10(266−IP;R&D Systems社)を添加したRPMI1640培養液(ウシ血清アルブミン1mg/mLを含む)を、400μL/ウェルとなるように下室ウェルに分注した(図6参照)。
3)細胞数の測定
下室の上にケモタキシスフィルター(PFD5;Neuroprobe社)を被せ、上室を重ねてロックした。その後、5%CO存在下で、37℃、120分間培養した。培養後の下室の培養液を回収して遠心分離した後、下室に遊走したPBMCの数をフローサイトメーターで測定した。測定結果を図6に示す。図6における細胞遊走indexは、CXCL10非存在下で下室に遊走したPBMCの数に対する、CXCL10存在下で下室に遊走したPBMCの数である。また、統計学的解析は、Kruskal-Wallis検定後、Dunns検定をGraphPad Prism 5を用いて行った。
4)結果
図6は、遊走阻害試験の結果を示すグラフである。図6の実験No.2に示されるように、CXCL10の濃度勾配を形成することで、PBMCの上室から下室への細胞遊走が促進された。この状態でコントロール抗体を上室の培養液に添加したところ、図6の実験No.3に示されるように、細胞遊走はまったく抑制されなかった。同様に、抗CXCR3抗体を上室の培養液に添加したときも、図6の実験No.4に示されるように、細胞遊走はほとんど抑制されなかった。この理由は不明であるが、使用した抗CXCR3抗体がCXCR3とCXCL10の結合を阻害しなかった可能性がある。
これに対し、抗CXCL10抗体を上室の培養液に添加したところ、図6の実験No.5に示されるように、細胞遊走を有意に抑制することができた(p<0.05)。このことから、中和抗体として抗CXCL10抗体を使用することで、CXCL10の濃度勾配によるPBMCの細胞遊走を抑制できることがわかる。
以上の結果から、本発明の医薬は、HAM発症者における炎症サイクルを制御し、HAMを治療または予防できることが強く示唆された。
本発明の医薬は、HAMの治療薬または予防薬として有用である。また、本発明の治療効果の確認方法は、本発明の医薬を用いてHAMを治療する場合に、その治療効果を確認する方法として有用である。

Claims (2)

  1. ヒトCXCL10に特異的に結合する抗ヒトCXCL10抗体または前記抗体のヒトCXCL10に特異的に結合する断片を含む、HTLV−1関連脊髄症を治療または予防するための医薬。
  2. HTLV−1関連脊髄症の患者に対する、ヒトCXCL10に特異的に結合する抗ヒトCXCL10抗体または前記抗体のヒトCXCL10に特異的に結合する断片を用いた抗体療法の治療効果を確認する方法であって、
    前記抗体療法を受けた前記患者から採取された脳脊髄液を準備するステップと、
    前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度を測定するステップと、
    前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度を指標として、前記抗体療法の治療効果を判定するステップと、を有
    前記抗体療法の治療効果を判定するステップでは、前記脳脊髄液中のCXCL10の濃度が所定の値より低いときに、前記抗体療法が前記患者に対して有効であると判定する、
    抗体療法の治療効果の確認方法。
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