以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。以下では、ステータコアとロータコアとを、それぞれ電磁鋼板を積層して形成されるものとして説明するが、これは例示であって、電磁鋼板以外の板材を積層したものでもよい。また、これ以外のステータコア及びロータコアであってもよい。例えば、鋼材を加工した一体型コアでも、磁性粉末の圧粉加工により形成されるコアでもよい。また、各コアは、周方向に分割される複数の要素を環状に連結してなる分割型コアとしてもよい。また、以下では、回転電機がハイブリッド車両に搭載されて、ハイブリッド自動車の動力源としてトランスアクスルのモータジェネレータとして使用される場合を説明するが、これは例示であって、電気自動車等の他の電動車両に搭載されてもよい。また、回転電機は、単なる電動モータまたは単なる発電機の機能を持つ構成として使用してもよい。また、以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
図1は、本実施形態の回転電機システム10を示す図であり、(a)は回転電機12の軸方向断面図であり、(b)は(a)に示したロータ14のA−A断面図である。
図1(a)に示すように、回転電機システム10は、回転電機12と、油圧調整機構80と、制御装置90とを備える。まず、回転電機システム10を搭載するハイブリッド車両を説明する。
図2は、ハイブリッド車両102の前部の透視斜視図である。ハイブリッド車両102は、前部のエンジンルーム内に配置されたエンジン104及びトランスアクスル100を備え、エンジン104と、トランスアクスル100内の回転電機12との少なくとも一方を車輪106の駆動源として走行する。
図3は、図2に示したトランスアクスル100の概略断面図である。トランスアクスル100は、ケース107内に収容された回転電機12と、第2回転電機110と、動力分割機構112とを含んでいる。回転電機12は、主に電動モータとして使用される第2モータジェネレータの機能を有する。第2回転電機110は、主にエンジン104により駆動される発電機として使用される第1モータジェネレータの機能を有する。回転電機12と第2回転電機110とエンジン104とのそれぞれの回転軸28,114,116は動力分割機構112で連結される。動力分割機構112は、遊星歯車機構から構成され、エンジン104の出力を車両走行用の動力と発電用の動力とに分割する。第2回転電機110は、エンジン104から動力分割機構112を介して動力が伝達され発電し、図示しないバッテリを充電する。回転電機12は、バッテリの電力で駆動される。ケース107の内側下部は油溜まり76となり、油溜まり76に回転電機12及び第2回転電機114の下端部が浸される。この油溜まり76の油は、後述するロータに設けられる保持部材の油圧調整のため、油圧ポンプ82により吸引加圧される。
回転電機12の回転軸28の動力は、図示しない歯車機構を介して、エンジン104の走行用の動力とともに、または単独で図2に示した車輪106に伝達され、車輪106を駆動する。次に、図4、図5等を用いて、回転電機12の詳細構造を説明し、その後、油圧調整機構80及び制御装置90を説明する。
図4において、回転電機12は、図1に示したケース108に固定されるステータ16と、ステータ16に対向配置され、回転するロータ14とを備える。ステータ16は、ステータコア20と、ステータコア20に巻回されたu相、v相、w相の3相のステータコイル22u,22v,22wを含む。ステータコア20は、電磁鋼板等の金属板の積層体等の磁性材料により形成される。ステータコア20は、周方向に複数の等間隔位置に、ロータ14へ向けて径方向内側へ突出して設けられた複数のステータ突極24と、各ステータ突極24の間に形成されたスロット26とを含む。なお、「径方向」という場合、ロータ14の回転中心軸に対し直交する放射方向をいう。また、「周方向」という場合、ロータ14の回転中心軸を中心とするロータ円周方向をいう。また、「軸方向」という場合、ロータ14の軸方向をいう。
ステータコイル22u,22v,22wは、スロット26を通って各ステータ突極24にそれぞれ集中巻きで巻回される。ステータコイル22u,22v,22wに複数相の交流電流が流れると各ステータ突極24が磁化し、ステータ16に回転磁界が生成される。
なお、ステータコイルは、ステータコア20の環状部分の周方向複数個所に複数相のステータコイルを巻回するトロイダル巻きとしてもよい。
ロータ14は、ステータ16と所定の空隙をあけて径方向内側に対向配置され、ステータ16に対し回転可能である。ロータ14の中心軸孔にはケース108の軸受に支持された回転軸28が挿入固定される。ロータ14は、ロータコア30と、このロータコア30に巻回された複数のロータコイル32n,32s,34n,34sと、断面T字形に形成される保持部材36と、2つの端部部材37a、37bとを含む。保持部材36及び端部部材37a、37bは後で詳しく説明する。
ロータコア30は、電磁鋼板等の金属板の積層体等の磁性材料により形成され、外周側に周方向等間隔の複数個所に設けられた磁極部であるロータ突極38n、38sを含む。ロータ突極38nは、後述するロータコイル32n,34nによってN極に磁化されるN極突極である。ロータ突極38sは、後述するロータコイル32s,34sによってS極に磁化されるS極突極である。ロータ突極38nとロータ突極38sとは、周方向に交互に配置される。ロータコア30の外周面の隣り合うロータ突極38n、38s間は、ロータコイル32n,32s,34n,34sの配置空間を形成する溝状のスロット40となる。
ロータコイル32nは、ロータ突極38nの径方向外方の先端側に巻回されるN極誘導コイルであり、ロータコイル32sは、同様にロータ突極38sに巻回されるS極誘導コイルである。各ロータコイル32n,32sは、主にステータ16からの漏れ磁束が鎖交した場合にロータコイル電流を発生する機能を有する。
ロータコイル34nは、ロータ突極38nの径方向内方の根元側に巻回されるN極共通コイルであり、ロータコイル34sは、同様にロータ突極38sに巻回されるS極共通コイルである。ロータコイル34n,34sは、主にロータコイル34n,34sに流れる電流によりロータ突極38n,38sを磁化する機能を有する。各ロータコイル32n,32sは、後述する整流部であるダイオードを介して互いに接続される。
各ロータコイル32n,32s,34n,34sは、ロータ突極38n,38sの周囲に複数層の複数列に整列して巻回される整列巻き型である。なお、各ロータコイルは、単純なソレノイドコイルとしてもよい。
図6を用いて、隣り合うロータ突極38n、38sに巻回された複数のロータコイル32n,32s,34n,34sの接続関係を説明する。
ロータ周方向に隣り合う2つのロータ突極38n,38sを1組として、ロータ突極38nに巻かれたロータコイル32nの一端は、ロータ突極38sに巻かれたロータコイル32sの一端に、第1ダイオード42及び第2ダイオード44を介して接続されている。第1ダイオード42はロータコイル32nに接続され、第2ダイオード44はロータコイル32sに接続され、両方のダイオード42,44は、互いに順方向を逆向きにして接続点Rで接続されている。
ロータ突極38sの根元側に巻かれたロータコイル34sの一端は接続点Rに接続され、ロータコイル34sの他端は、ロータ突極38nの根元側に巻かれたロータコイル34nの一端に接続される。ロータコイル34nの他端は接続点Gで2つのロータコイル32n、32sの他端に接続される。ロータコイル34n,34sは直列に接続されることで共通コイル組を形成する。
この構成では、後述するようにステータ側からロータコイル32n,32sに磁束が鎖交してロータコイル電流が流れると、ロータコイル電流が図6のダイオード42,44により一方向に整流されることでロータ突極38n、38sが所望の極性に磁化する。ロータコイル32n、34nは、第1ダイオード42の整流方向に応じて電流が流れる場合にロータ突極38nの先端にN極を形成する。ロータコイル32s、34sは、第2ダイオード44の整流方向に応じて電流が流れる場合にロータ突極38sの先端にS極を形成する。ロータ突極38n、38sが周方向に交互に配置されるので、ロータ14で、各ロータコイル電流によってロータ突極38n、38sが周方向に交互に異なる極性であるN極とS極とになる。
なお、上記では2つのロータ突極38n、38sについて2つのダイオードを用いる場合を説明したが、ロータ14全体で2つのダイオードを共用することもできる。この場合、すべてのN極のロータコイル32nを直列接続して1つのN極の直列接続の誘導コイルとして扱い、すべてのS極のロータコイル32sを直列接続して1つのS極の直列接続の誘導コイルとして扱う。また、すべてのN極のロータコイル34nを直列接続して1つのN極の直列接続の共通コイルとして扱い、すべてのS極のロータコイル34sを直列接続して1つのS極の直列接続の共通コイルとして扱う。その上で、図6の接続関係を用いることでダイオードを2つだけで済ますことができる。この場合、隣り合う共通コイルであるロータコイル34n、34s同士を別のロータコイルを介さずに直列接続してもよい。
以上がロータコア30とロータコイル32n,32s,34n,34sとの構成であり、次に図4、図5に戻り、保持部材36を説明する。保持部材36は、ロータコア30の各スロット40内のロータコイル32n,34n及びロータコイル32s,34sの間にそれぞれ配置される。図示した実施例において、保持部材36は、軸方向に厚みを持つ断面T字形を有するもので、ステンレス、樹脂等の非磁性部材からなる保持部48を含んでいる。保持部48は、スロット40内に配置され、ロータ14の径方向に延設される脚部58と、脚部58のロータ径方向の外端部に結合される梁部60とを有する断面略T字形である。脚部58は、スロット40の底部に結合される径方向内端部56を有する。梁部60は、断面略円弧形の形状を有し、隣り合うロータ突極38n,38s間の各ロータコイル32n,32s,34n,34sの外側にかけ渡される。梁部60は、ロータ突極38n,38sの側面に結合される周方向両端部を有する。梁部60の径方向内側面に、外径側のロータコイル32n,34nのロータ径方向の外端部が隙間を介してまたは接触した状態で対向する。
なお、脚部58の径方向内端部56は、スロット40の底部に形成されて軸方向に延伸する図示しない溝部に軸方向に係止することでスロット40に結合してもよい。また、梁部60の周方向両端部は、ロータ突極38n、38sの側面に形成されて軸方向に延伸する図示しない溝部に軸方向に係止することでロータ突極38n、38sに結合してもよい。
脚部58は、内部にスロット40の径方向に延びるスライド溝61を有する。スライド溝61は、径方向に長い断面矩形で軸方向に長い形状を有する。また、補助磁性部材50が、スライド溝61内に径方向の移動可能に挿入されている。補助磁性部材50は、磁束誘導部材であり、鉄等の磁性金属から平板状に形成されている。スライド溝61内の空間は、補助磁性部材50により、径方向外側と径方向内側とに、互いの気体及び液体の通過不能に仕切られる。
バネ52は、スライド溝61内の径方向内側空間内でスライド溝61の一端である径方向内端と補助磁性部材50との間に設けられ、補助磁性部材50に径方向外側への弾力を付与する。図4、図5では、バネ52を模式的に示しているが、実際には図1(a)に示すように、バネ52は波形形状を有する板バネであり、波形の頂部と谷部との軸方向の複数個所を、補助磁性部材50の径方向内端とスライド溝51の径方向内端とにそれぞれ押し付けている。バネ52は図1のような板バネに限定するものではなく、各スライド溝51の軸方向複数個所に設けられるコイルバネにより構成してもよい。
油室54は、スライド溝61内にスライド溝61の他端である径方向外端と補助磁性部材50との間に設けられる径方向外側空間であり、内部に油が充填される。
次に、図1に戻って、ロータ14の2つの端部部材37a、37bを説明する。2つの端部部材37a、37bは、ロータコア30の軸方向両端に重ね合わされている。2つの端部部材37a、37bの基本構造は同一であるので、代表して図1(a)の右側である片側の端部部材37aについて説明する。
図7(a)は、端部部材37aの図1(a)の左端面を示す図であり、図7(b)は図7(a)のC−C断面図である。端部部材37aは、図1に示した回転軸28を内側に挿入固定する中心軸孔118を有する円板部120と、円板部120の片側面(図7(a)の表側面、図7(b)の左側面)の周方向複数個所から軸方向に突出形成された径方向突部122と、円板部120の片側面外周部から全周にわたって軸方向に突出形成された円筒部124とを含む。径方向突部122は、図1に示した保持部材36の脚部58に重ね合わせる。端部部材37aは、樹脂、非磁性金属等の非磁性材料から構成される。
各径方向突部122は、脚部58に重ね合わせて、スライド溝61の軸方向端部開口を塞ぐ機能を有する。また、各径方向突部122は、脚部58と対向する側面の径方向外端部に開口する出口孔126を有し、円板部120の内周面に開口させた入口孔128と出口孔126とを内部でL字形に形成される端部油路72で連通させている。出口孔126は、スライド溝61の径方向外端部に通じさせ、入口孔128は、回転軸28の内部に設けられた後述する軸側油路に通じさせる。図1(a)の左側である他側の端部部材37bは、入口孔128、出口孔126、及び端部油路72を省略した以外、端部部材37aと同様である。
次に、図1、図8を用いて、油圧調整機構80及び制御装置90を説明する。油圧調整機構80は、保持部材36の油室54内の油圧の調整機能を有する。油圧調整機構80は、外部油路74と、油供給源である油圧ポンプ82と、3ポート式の電磁切換弁84とを含む。電磁切換弁84は、ケース108内に設けられ、1つのポートは、油圧ポンプ82の吐出口に接続され、別の1つのポートは油溜まり76に接続される。また、電磁切換弁84の残りのポートは、回転軸28の内部の軸側油路66,67a、67bに外部油路74を介して接続される。
軸側油路は、回転軸28の内部の中心軸に沿って設けられた軸方向油路66と、回転軸28の内部に径方向に設けられ、軸方向油路66の一端部に接続された周方向複数の径方向油路67a、67bとを含み、径方向油路67a、67bの径方向外端開口は端部部材37aの端部油路72に接続されている。この構成により、軸心供給構造で外部からの油が油室54に供給可能となる。
電磁切換弁84は、制御装置90から入力される制御信号に応じて、油圧ポンプ82から供給される油を油室54に導入するか、油室54から油を油溜まり76に排出するかを切り換える。油圧ポンプ82は、図3の概略図で示すように、回転電機12の回転軸28で駆動される。なお、図3の二点鎖線で示す位置に油圧ポンプ82を設けて、油圧ポンプ82をエンジン104の回転軸116で駆動し、油溜まり76から油を吸引し、電磁切換弁84に供給可能な構成を採用してもよい。
制御装置90は、CPU、メモリ等を有するマイクロコンピュータを含む。図2に示す例では、制御装置90は、トランスアクスル100のケース107の上側に搭載されている。制御装置90は、トランスアクスル100から離れた位置、例えば、図2の二点鎖線で示す位置で車体に固定されてもよい。制御装置90には、回転電機12が車両の駆動モータとして利用される場合、図示しない車両制御部からモータ要求トルクTrが入力される。モータ要求トルクTrは、回転電機12の要求トルクであり、車両の図示しないアクセルペダルセンサ等から入力される加速指令信号に応じて算出されるトルクである。なお、制御装置90において、加速指令信号に応じてモータ要求トルクTrを直接に算出してもよい。
制御装置90には、さらにロータ14の回転速度を検出する図示しない回転速度センサからロータ回転速度Vrが入力される。制御装置90は、図示しない回転角度センサから、ロータ14の回転角度を検出し、単位時間当たりの角度からロータ回転速度Vrを算出してもよい。
制御装置90は、ロータ14の駆動を制御する駆動制御機能を有する。駆動制御機能は、入力されたモータ要求トルクTrをロータ14に発生させて駆動するように、図示しない直流電源であるバッテリとステータコイル22u,22v,22wとの間に接続された図示しないインバータに制御信号を出力し、インバータのスイッチングを制御する。インバータは、バッテリからの直流電流をu相、v相、w相の3相の交流電流に変換し、各相のステータコイル22u、22v、22wにステータ電流を供給する。インバータとバッテリとの間に昇圧装置を設けてもよい。
また、制御装置90は、油圧調整機構80を制御する機能を有する。図8は制御装置90の構成を示している。制御装置90は、回転電機12の運転状態に応じて保持部材36内部の油室54の油圧を制御する構成として、領域判定部94と、弁制御部96と、記憶部98とを有する。記憶部98は、外部記憶装置でもよい。記憶部98は、回転電機12のロータ回転速度Vrとモータ要求トルクTrと特性領域との関係を表すマップMaのデータを記憶する。マップMaは、ロータ回転速度Vrとモータ要求トルクTrとの関係で、低速高トルク領域A1と低速低トルク領域A2と高速領域A3とを区分する。
図9は、図8に示した制御装置90に記憶されたロータ回転速度Vrとモータ要求トルクTrと特性領域との関係を表すマップMaを示す図である。低速高トルク領域A1は、図9の斜格子部で示される範囲である。低速高トルク領域A1は、制御装置90で取得されるロータ回転速度Vrが予め設定される所定速度V1以下で、かつ、モータ要求トルクTrがロータ回転速度Vrに応じて設定される設定トルク以上である、図9の破線T1で示す後述するトルク曲線の上側領域である。
低速低トルク領域A2は、図9の砂地で示される範囲である。低速低トルク領域A2は、制御装置90で取得されるロータ回転速度Vrが所定速度V1以下で、かつ、モータ要求トルクTrがロータ回転速度Vrに応じて設定される設定トルク未満である、破線T1で示すトルク曲線の下側領域である。
高速領域A3は、図9の複数の丸印で示される範囲である。高速領域A3は、制御装置90で取得されるロータ回転速度Vrが所定速度V1を超える領域である。
ここで「トルク曲線T1」は、本実施形態の回転電機12で補助磁性部材50を設けない構造と同一の比較例から求められる。この比較例では、本実施形態と同様に、ロータ突極に巻かれたロータコイルと、ロータコイルに選択された極性で短絡するように接続されたダイオードとを有する電磁石型の回転電機であるが、隣り合うロータ突極間に補助磁性部材は設けられない。このような比較例では、ステータ電流とロータ回転速度とによって、誘導電流であるロータコイル電流が決まる。この場合、ロータコイル電流Irは次式で表される。
Ir=ω×φ/{Rr2+(ωL)2}1/2 ・・・(1)
ここで、ωは、ステータの回転磁界に含まれる高調波成分のうち、時間的3次で空間的2次の高調波成分によりステータからロータ突極間に生じる漏れ磁束の磁束変動周波数である。φは、ロータコイルに鎖交する磁束である。Rrは、ロータコイルの抵抗である。Lは、ロータコイルのインダクタンスである。
図10は、比較例の電磁石型の回転電機において、ロータコイル電流Irがロータ回転速度Vrに応じて不足する領域P1と過剰になる領域P2とを示す図である。図10では、上記(1)式で求めたロータコイル電流Irの上限を破線I1で示している。この場合、破線I1に対応する回転電機のトルクであるモータ要求トルクTrの上限は、上記の図9の破線T1となる。
一方、一般的な回転電機では、ロータ回転速度Vrに対応するトルクの上限は図9の実線T2で示すものとなっている。また、この実線T2に対応するロータコイル電流Irは、図10のI2となる。図10のI1とI2とを比較すると分かるように、ユーザがロータコイル電流IrとしてI2を望む場合でも、比較例の回転電機では、ロータコイル電流IrとしてI1以下しか発生しない。このため、I1とI2との交点Hの所定の回転速度V1以下である、ロータ回転速度Vrの低い領域ではユーザが望むロータコイル電流Irに対して小さい電流しか得られず、ロータコイル電流Irの不足領域P1が生じている。
逆に、ロータ回転速度Vrが回転速度V1を超える領域では、ロータコイル電流Irがユーザが望むロータコイル電流よりも多いが過剰となるので好ましくない。この理由は、ロータ回転速度Vrの高い領域でロータコイル電流Irが高くなり、ロータで発生する磁束量が過剰となることで逆起電圧が高くなり、インバータの入力電圧を高くしないとロータの実際の回転速度が低下してしまうためである。このため、ロータ回転速度Vrの高い領域でロータコイル電流Irの過剰領域P2が生じている。また、ロータの低速回転時でユーザが望むモータ要求トルクTrが低い低負荷である、図9のA2で示す領域である場合にロータコイル電流Irが高すぎると、コイル銅損が高くなって効率が悪化する要因となる。このため、ロータ回転速度Vr及びモータ要求トルクTrに応じて適切なロータコイル電流Irが得られるようにすることが望まれる。本実施形態は、このような不都合を解消するために、比較例で得られるロータコイル電流Irの上限を示す破線I1に対応する図9のトルク曲線T1と、モータ要求トルクTrの上限T2とを予め設定するとともに、T1,T2から低速高トルク領域A1、低速低トルク領域A2及び高速領域A3を設定し、予め記憶部98に領域A1、A2,A3を含むマップMaのデータを記憶させている。
図8に戻って、領域判定部94は、制御装置90で取得されるロータ回転速度Vrとモータ要求トルクTrとに応じて、マップMaから低速高トルク領域A1、低速低トルク領域A2及び高速領域A3のいずれの領域にあるかを判定する。弁制御部96は、領域判定部94で低速高トルク領域A1にあると判定された場合に、「低速高トルク条件」が成立したと判定する。この場合、弁制御部96は、補助磁性部材50をスライド溝61内で外側に移動させるように電磁切換弁84を制御する。より具体的には、弁制御部96は、保持部材36の油室54内の油圧を低下させるように電磁切換弁84を制御し、油室54内から油を排出する。
また、弁制御部96は、領域判定部94で低速低トルク領域A2にあると判定された場合に、「低速低トルク条件」が成立したと判定する。この場合、弁制御部96は、補助磁性部材50をスライド溝61内で内側に移動させるように電磁切換弁84を制御する。より具体的には、弁制御部96は、保持部材36の油室54内の油圧を増大させるように電磁切換弁84を制御し、油室54に油を導入する。
また、弁制御部96は、領域判定部94で高速領域A3にあると判定された場合に、「高速条件」が成立したと判定する。この場合も、弁制御部96は、「低速低トルク条件」成立の場合と同様に、電磁切換弁84を制御し、補助磁性部材50をスライド溝61内で内側に移動させる。なお、上記では、モータ要求トルクTrとロータ回転速度Vrとの両方に応じて油室54内の油圧を変化させるように電磁切換弁84を制御している。ただし、モータ要求トルクTrとロータ回転速度Vrとの一方に応じて電磁切換弁84を制御する構成を採用してもよい。例えばロータ回転速度Vrが予め設定した所定速度V1を超える場合に、高速条件が成立したと判定し、弁制御部96は、スライド溝61内で補助磁性部材50を内側に移動させるように電磁切換弁84を制御してもよい。
このような構成を有する油圧調整機構80及び制御装置90により、油室54の油圧が調整され、補助磁性部材50が脚部58内で径方向の外側または内側に移動する。図5の場合には、油室54の油圧が低下し、補助磁性部材50がバネ52の弾力により径方向外側に移動する。一方、図11は、油室54の油圧が高くなって補助磁性部材50がロータ内径側に移動する様子を示す、図5に対応する図である。図11に示すように、油室54の油圧が増大した場合には、油室54の油圧により補助磁性部材50がバネ52の弾力に抗してロータ内径側に移動する。
次に、回転電機12の動作を、図4及び後述する図12、図13を用いて説明する。図4に示す3相のステータコイル22u,22v,22wに3相の交流電流が流れることでステータ16に回転磁界が形成される。この回転磁界は、起磁力分布として、正弦波分布だけでなく高調波成分を含んでいる。特に、集中巻きにおいては、各相のステータコイル22u,22v,22wが互いに径方向に重なり合わないので、ステータ16の起磁力分布に含まれる高調波成分の振幅レベルが増大する。例えば、3相の集中巻きの場合には、高調波成分としてステータコイル22u,22v,22wの入力電流の周波数の時間的3次で空間的2次の高調波成分の振幅レベルが増大する。このような高調波成分は空間高調波と呼ばれる。ここで、回転磁界の基本波成分がロータ14に作用すると、ステータ16とロータ14との間の磁気抵抗が小さくなるように、ロータ突極38n,38sがステータ突極24に吸引される。これによって、ロータ14にリラクタンストルクが作用する。
また、回転磁界がステータ16からロータ14に作用すると、回転磁界に含まれる高調波成分の磁束変動により、ステータ16からスロット40内に漏れ出る漏れ磁束が発生し、その漏れ磁束が変動する。漏れ磁束の変動が大きい場合にはスロット40に配置されたロータコイル32n,32sの少なくともいずれかにロータコイル電流が発生する。ロータコイル電流が発生すると、そのロータコイル電流は、図6に示した各ダイオード42,44により整流されることで所定の一方向となる。そして、各ダイオード42,44で整流された電流が各ロータコイル32n、32s、34n、34sに流れるのに応じて各ロータ突極38n、38sが磁化し、各ロータ突極38n、38sが所望の極性の磁極として機能する。この場合、ダイオード42,44の整流方向の違いにより、各ロータコイル電流により生じる磁極として、周方向においてN極とS極とが交互に配置される。
図12は、図4に示した回転電機12において、ステータ16から生じる漏れ磁束が補助磁性部材50によりロータコイル32n、32sに誘導される様子を示す模式図である。図12に示すように、スロット40内でロータコイル32n、32s間に補助磁性部材50が配置されているので、補助磁性部材50がスライド溝61内で径方向外側に移動すると、図12に破線矢印α、βで示す方向の漏れ磁束は補助磁性部材50により誘導されて、ロータコイル32n、32sに鎖交しやすくなる。このため、ロータコイル32n、32sに鎖交する漏れ磁束の変動を大きくでき、ロータコイル32n、32sに大きなロータコイル電流を発生させ、ロータ突極38n、38sが発生する磁束量を大きくできる。この場合、ロータコア30の内部では、矢印γ方向の主磁束が形成され、その主磁束が大きくなる。そして、ロータ突極38n、38sに異なる極性のステータ突極24を引き付ける磁気吸引力が大きくなり、ロータトルクを高くできる。
一方、補助磁性部材50がスライド溝61内で径方向内側に移動すると、漏れ磁束は補助磁性部材50に案内されにくくなり、ロータコイル32n、32sに鎖交する漏れ磁束量が小さくなる。このため、ロータコイル32n、32sに鎖交する漏れ磁束の変動が小さくなり、発生するロータコイル電流が小さくなり、ロータ突極38n、38sが発生する磁束量が小さくなる。この場合、ロータ突極38n、38sに異なる極性のステータ突極24を引き付ける磁気吸引力は小さくなり、ロータトルクは低くなる。
図13は、本実施形態において、補助磁性部材50が径方向外側に移動する場合のロータコイル電流Ir1と、補助磁性部材50が径方向内側に移動する場合のロータコイル電流Ir2と、ロータ回転速度Vrとの関係を示す図である。補助磁性部材50がスライド溝61内で径方向外側に移動すると、ロータ回転速度Vrの増大に応じてロータコイル電流Ir1が急激に増大し、大きなロータコイル電流Ir1を発生させることができる。一方、補助磁性部材50がスライド溝61内で径方向内側に移動する場合も、ロータ回転速度Vrの増大に応じてロータコイル電流Ir2が増大するが、その増大の程度はロータコイル電流Ir1に比べて小さく、その最大電流値についてもロータコイル電流Ir1に比べて小さくなる。このため、補助磁性部材50の移動に応じてロータ14での発生磁束量を変更できる。
本発明によれば、図1に示した油圧調整機構80により油室54内の油圧を調整することにより補助磁性部材50をロータ14の径方向に移動させることができる。この場合、補助磁性部材50の径方向位置が変更可能となり、漏れ磁束のロータコイル32n、32sへの鎖交しやすさが変化して、ロータコイル電流の大きさが調整可能となる。
また、保持部材36の保持部48は脚部58と梁部60とを有し、保持部材36は、断面T字形に形成されるので、ロータコイル32n、32s、34n、34sに回転時に遠心力が作用する場合でも、補助磁性部材50を保持する保持部材36によりロータコイル32n、32s、34n、34sの径方向外側への飛び出しを効果的に防止できる。このため、ロータコイル電流の調整機能とロータコイル32n、32s、34n、34sの保持機能とを有する小型の回転電機12を実現できる。
また、制御装置90は、取得されたモータ要求トルクTrと取得されたロータ回転速度Vrとの少なくとも一方に応じて油室54内の油圧を変化させるように油圧調整機構80を制御するので、回転電機12の運転時に要求トルクTrとロータ回転速度Vrとの少なくとも一方に応じてロータコイル電流の大きさが調整可能となる。
また、制御装置90は低速高トルク領域A1にあり「低速高トルク条件」が成立したと判定した場合に、補助磁性部材50をスライド溝61内で外側に移動させるように油圧調整機構80を制御するので、ロータコイル電流を大きくでき、ロータ14の磁束量を増大でき、ユーザが望む所望の回転電機性能を得やすくなる。
また、制御装置90は低速低トルク領域A2にあり「低速低トルク条件」が成立したと判定した場合、及び、高速領域A3にあり「高速条件」が成立したと判定した場合に、補助磁性部材50をスライド溝61内で内側に移動させるように油圧調整機構80を制御するので、それぞれの条件成立でロータコイル電流を小さくできる。低速低トルク条件でロータコイル電流が小さくなることで、銅損を低くでき高効率化を図れる。また、高速条件でロータコイル電流が小さくなることで回転電機12の高速性能を向上できる。
また、バネ52は、保持部48内でスライド溝61の一端と補助磁性部材50との間に設けられ、補助磁性部材50をロータ径方向に押圧し、油室54は、スライド溝61の他端と補助磁性部材50との間に設けられるので、油室54内の油圧低下時の補助磁性部材50のロータ径方向への移動を、バネ52により補助できる。また、バネ52をスライド溝61の径方向内側に設けているので、バネ52を鉄等の磁性材により構成した場合でも、形状が大きく変化するバネ52がステータ16の近くに配置されるのを防止でき、バネ52がロータ磁束を調整する場合の外乱となるのを防止して磁束調整を安定して行える。
なお、本実施形態と異なり、保持部48のスライド溝61の径方向内端と補助磁性部材50との間に油室を設けて、スライド溝61の径方向外端と補助磁性部材50との間にバネを設けて、バネにより補助磁性部材50をロータ径方向の内側に押圧する構成を採用してもよい。また、スライド溝61の径方向両端と補助磁性部材50の両端とのそれぞれの間に油室を設けて、それぞれの油室の油圧を調整して補助磁性部材50を移動させる構成を採用してもよい。
また、上記では油圧調整機構80に電磁切換弁84を設けた場合を説明したが、電磁切換弁84の代わりに、油圧ポンプ82から供給される油圧を制御信号に応じた所望圧に減圧する電磁減圧弁を採用してもよい。この場合、回転電機12の回転速度の増大に応じて油室54の油圧を増大させ、補助磁性部材50に作用する遠心力の増大に関係なく、油室54の油圧を所望圧に、より精度よく調整する構成を採用することもできる。
また、上記では補助磁性部材50を保持する部材としてT字形の保持部材36を採用した場合を説明したが、保持部材は、ロータ径方向に伸びる脚部を有するI字形を有する等、種々の形状を採用できる。
また、上記では、ロータコイル32n、32s、34n、34sとして、各ロータ突極38n、38sに誘導コイルであるロータコイル32n、32sと共通コイルであるロータコイル34n、34sとの2種類のコイルを巻回する場合を説明した。ただし、本発明では、このような構成に限定せず、例えば各ロータ突極38n、38sに1種類のロータコイルのみを巻回し、各ロータコイルに選択された極性で短絡するようにダイオードを接続した構成を採用してもよい。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、ステータコイルはステータに集中巻きで巻線する場合を説明したが、ステータで高調波成分を含む回転磁界を生成できるのであればステータにステータコイルを分布巻きで巻線する構成としてもよい。