蓄電素子の異常時には、蓄電素子の温度上昇および内圧上昇を速やかに抑えるために大電流で放電し、蓄電素子のエネルギーを放出することが必要であるが、特許文献1〜5のような技術では、以下の観点から難しい。
特許文献1のような技術では、板状の正極端子と板状の負極端子とにより絶縁層を挟み込んだ構造であるため、振動などの衝撃を与えられた場合に絶縁層が外れて予期せぬ短絡が起こることは否定できず、耐振動性や耐衝撃性の点で問題がある。また、この短絡機構は、正極端子および負極端子に外部から付勢力を与えられることを前提としており、絶縁層が溶融しても外部からの付勢力のために絶縁層の融解物が介在し、抵抗値が低減しにくい構成となっている。このため、この構成では、確実に短絡させて放電させることが難しい。また、特許文献1のような技術では短絡機構(短絡素子)の短絡時の抵抗値の安定性および再現性の問題があるため、電池の異常時に緊急的に放電させることは難しい。
また、特許文献2のNTC素子を利用する技術では、通常使用時も微小電流が流れ続けるため電池システムとしての自己放電量が大きくなり好ましくない。
同じく特許文献2のバイメタルスイッチを利用する技術では、バイメタルスイッチにより正極端子と負極端子とを短絡させるため、短絡する箇所が構造的に一点となる。しかし、バイメタルスイッチでは、上述のように短絡する箇所が構造的に一点となるため大電流を流すことが難しく、短絡性能を確保することが困難である。バイメタルスイッチの短絡する箇所の面積を大きくし電池の安全化を図ろうとすると、バイメタルスイッチを大きくする必要があり、生産コストが増加してしまうといった問題がある。さらに、バイメタルスイッチの場合には、元々接触していない部分が、温度上昇があってスイッチ部分が変形し接触する事により短絡する。つまり、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においては、安定した絶縁性能を得ることは難しく、短絡素子の信頼性にも問題があると考えられる。
また、特許文献3および特許文献4のような技術では、正極と負極とを短絡させる部位が小さい。つまり、正極と負極とが短絡された場合の、短絡経路における抵抗が十分に小さくない。このため、短絡箇所から大電流で放電を行うことは難しく、大電流を流そうとすると短絡箇所の部位を大きくする必要があり好ましくない。
また、特許文献5のような技術では、バネによって負極端子部が固定されているため、振動などの外部衝撃によって作動する可能性がある。
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、異常が発生して内部の温度が過度に上昇した場合に、正極と負極とを確実に短絡させて安定的にかつ速やかに放電させることのできる蓄電素子を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る蓄電素子は、電極体と、前記電極体の正極と負極とを短絡させるための短絡素子と、前記電極体および前記短絡素子を収容する第一容器と、を備え、前記短絡素子は、前記電極体の正極側に電気的に接続される第一電気伝導体と、前記電極体の負極側に電気的に接続される第二電気伝導体と、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体との間に配置される絶縁体と、前記絶縁体と前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方との間に配置される低融点合金層と、を有する溶融層と、前記第一電気伝導体と、前記第二電気伝導体と、前記溶融層とを収容する第二容器とを有し、前記溶融層は、前記所定温度以上において、前記低融点合金層の一部または全部が融解することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させる。
これによれば、第一容器の内部に電極体および短絡素子が配置される。そして、短絡素子は、溶融層が、電流を導通させることが可能な低融点合金と、電流を導通させない絶縁体とにより構成されており、低融点合金層が所定温度以上において一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。つまり、低融点合金層が融解し、融解した低融点合金が、例えば予め絶縁体に設けられる孔、または、絶縁体が変形することにより生じる隙間等に入り込むことにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを導通状態とさせる。このため、溶融層は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させることになる。
このように、短絡素子は、第一容器の内部に収容されているため、蓄電素子に異常が発生した場合に高温になる蓄電素子の内部の温度の影響を直接的に受ける。このため、短絡素子は、蓄電素子に異常が発生して高温になった場合に、速やかに第一電気伝導体と第二電気伝導体とを導通状態とさせることにより電極体の正極と負極とを短絡させることができる。
また、短絡素子は、正極側と電気的に接続される端部以外の第一電気伝導体、負極側と電気的に接続される端部以外の第二電気伝導体、および溶融層が第二容器に収容されることによりなるため、溶融層が蓄電素子内部に設けられる電解液と接触しないようにすることができる。これにより、溶融層の低融点合金が電解液に対して溶解することにより、蓄電素子の性能が低下することを防ぐことができる。また、短絡素子が第二容器を備える構成とすることにより、振動などの外部衝撃によって第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層の位置関係が崩れて第一電気伝導体および第二電気伝導体が短絡しにくい構造となっている。このため、短絡素子が誤作動することを低減でき、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においても、所定温度未満の環境下では短絡素子は安定した絶縁性能を維持できる。
以上のことから、蓄電素子は、異常が発生して内部の温度が過度に上昇した場合に、正極と負極とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
また、前記短絡素子は、前記電極体の内部に設けられてもよい。
これによれば、蓄電素子が異常な状態になった場合に高温になりやすい電極体の内部に蓄電素子が設けられるため、蓄電素子が異常な状態になった場合に速やかに第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させて、蓄電素子内部のエネルギーを放出することにより、蓄電素子の温度上昇および圧力上昇を低減させることができる。
また、前記電極体は、巻芯と、前記正極および前記負極と、前記正極および前記負極の間に配置されるセパレータと、が積層されるように前記巻芯に捲回されてなる捲回体と、を有し、前記短絡素子は、前記巻芯の内部に設けられてもよい。
これによれば、電極体は、正極および負極と、セパレータとが積層されるように、巻芯を中心として捲回されてなる捲回型の電極体である。そして、短絡素子は、捲回型の電極体の最内周に配置される巻芯の内部に設けられる。このため、蓄電素子が異常な状態になった場合に最も高温になりやすい電極体の中心に蓄電素子が設けられるため、蓄電素子が異常な状態になった場合に速やかに第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させて、蓄電素子内部のエネルギーを放出することにより、蓄電素子の温度上昇および圧力上昇を低減させることができる。
また、前記短絡素子は、前記電極体と、前記第一容器の内壁との間に設けられ、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とのうちで熱伝導性が高い方が前記電極体側を向くように配置されてもよい。
これによれば、短絡素子は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とのうちで熱伝導性が高い方が電極体側を向くように配置されるため、蓄電素子に異常が発生して電極体が高温になった場合に、電極体において発生した熱を短絡素子に速やかに伝えることができる。このため、短絡素子は、蓄電素子が高温になった場合に、速やかに電極体の正極および負極を短絡させることができる。
また、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方は、前記低融点合金層が溶着または接着されてもよい。
このように、第一電気伝導体および第二電気伝導体のうちの少なくとも一方に低融点合金層を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金層と予め溶着または接着された第一電気伝導体または第二電気伝導体と融解した低融点合金との馴染み性が改善され、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になり低融点合金が融解した場合に、第一電気伝導体または第二電気伝導体と融解した低融点合金との電気的接続をより確実にすることができる。
また、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方は、メッシュ状の部材で構成されてもよい。
これによれば、第一電気伝導体および第二電気伝導体の少なくとも一方は、メッシュ状の金属部材で構成されるため、表面積を大きく確保でき、かつ、融解した低融点合金をメッシュ状の金属部材の内部に形成されている隙間に保持しやすい構造である。このように、メッシュ状の金属部材は、融解した低融点合金と接触した場合に、融解した低融点合金を保持したまま維持できるため、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続された状態を維持できる。このため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、短絡素子は、速やかに第一電気伝導体と第二電気伝導体とを電気的に接続することができる。また、短絡素子は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続された状態を維持することができるため、安定的に蓄電素子のエネルギーを放出させることができる。
また、前記低融点合金層は、低融点合金と、前記低融点合金の前記低融点合金層の厚み方向に垂直な方向における外側を囲う枠状部材と、により構成されてもよい。
これによれば、低融点合金層は、低融点合金の低融点合金層の厚み方向に垂直な方向の外側に枠状部材が設けられるため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、融解した低融点合金が短絡素子作動前の溶融層の位置の外側に流出することを防ぐことができる。
また、前記枠状部材は、弾性材料からなってもよい。
このため、枠状部材は、例えば、外部から圧力がかかった場合であっても、圧力に応じて収縮できるため、融解した低融点合金が枠状部材の外側に流出することを防ぐことができる。
また、前記短絡素子は、さらに、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体のうちの少なくとも一方の外側に配置され、前記所定温度近傍において膨張する熱膨張部材と、前記熱膨張部材と、前記第一電気伝導体と、前記第二電気伝導体と、前記溶融層とを合わせた体積の膨張を抑制する膨張抑制部材と、を備えてもよい。
これによれば、短絡素子は、膨張抑制部材により、熱膨張性材料、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を合わせた体積が膨張しないように抑制されている状態である。つまり、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になり、熱膨張性材料が膨張すれば、熱膨張部材、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を合わせた体積の膨張が膨張抑制部材により抑制されているため、第一電気伝導体および第二電気伝導体が互いに近づく方向に圧力がかかる。このため、融解した低融点合金によって、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続されやすくできる。
また、前記絶縁体は、孔が形成されており、前記溶融層は、前記低融点合金層が融解して前記絶縁体の前記孔に流入することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させてもよい。
これによれば、絶縁体には孔が形成されており、低融点合金層が融解して絶縁体の孔に流入することにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。このため、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
また、前記溶融層は、前記低融点合金層が融解し、かつ、前記絶縁体の一部または全部が変形することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させてもよい。
これによれば、絶縁体の一部または全部が変形することにより、絶縁体に融解した低融点合金層が流入する隙間(孔)が生じる。このため、溶融層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
また、前記溶融層は、前記絶縁体と前記低融点合金層とが積層されることによりなってもよい。
また、本発明は、このような蓄電素子として実現できるだけでなく、複数の蓄電素子が直列および並列の少なくとも一方により接続されてなる蓄電素子群からなる蓄電素子システムであって、前記複数の蓄電素子の少なくとも一つは、上述した蓄電素子である、蓄電素子システムとして実現することもできる。
本発明に係る蓄電素子によれば、蓄電素子に異常が発生して電池内部の温度が過度に上昇した場合に、電極体の正極と負極とを確実に短絡させて安定的かつ速やかに放電させ、蓄電素子の更なる温度上昇及び圧力上昇を抑制することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲だけによって限定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
(実施の形態)
図1は、蓄電素子の外観を模式的に示す斜視図である。図2は、蓄電素子の容器本体を分離させた場合の構成を示す斜視図である。図3は、電極体の外観とその内部に配置される短絡素子とを模式的に示す斜視図である。
蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池である。
同図に示すように、蓄電素子10は、第一容器としての蓄電容器100と、正極端子200と、負極端子300とを備え、蓄電容器100は、上壁である蓋板110と容器本体111とを備えている。また、蓄電容器100には、電極体120と、短絡素子150と、正極集電体130と、負極集電体140とが収容されている。つまり、蓄電素子10は、電極体120と、短絡素子150と、第一容器としての蓄電容器100とを備える。
なお、蓄電素子10の蓄電容器100の内部には電解質などが封入されているが、図示は省略する。また、蓄電素子10は、非水電解質電池には限定されず、非水電解質電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
蓄電容器100は、金属からなる矩形筒状で底を備える容器本体111と、当該容器本体111の開口を閉塞する金属製の蓋板110とで構成されている。なお、図1および図2において、蓋板110と容器本体111とはZ軸方向(上下方向)に沿って並んで配置される。蓋板110は、矩形の板状部材であり、その長手方向がY軸方向に沿っており、その短手方向がX軸方向に沿っている。また、蓄電容器100は、電極体120等を内部に収容後、蓋板110と容器本体111とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。
電極体120は、正極と負極とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。具体的には、電極体120は、負極と正極との間にセパレータが挟み込まれるように、セパレータを介して負極および正極を捲回して形成され、全体が長円形状とされている。なお、同図では、電極体120の形状としては長円形状を示したが、円形状または楕円形状でもよい。
短絡素子150は、電極体120の内部に配置され、電極体120の正極と負極とを短絡させるための素子である。短絡素子150は、電極体120の正極側および負極側に電気的に接続される。
正極端子200は、電極体120の正極に電気的に接続された電極端子であり、負極端子300は、電極体120の負極に電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200および負極端子300は、電極体120に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体120に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための金属製の電極端子である。また、正極端子200および負極端子300は、電極体120の上方に配置された蓋板110に取り付けられている。
正極集電体130は、電極体120の正極と蓄電容器100の側壁(Y軸方向の端部に配置される壁)との間に配置され、正極端子200と電極体120の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、正極集電体130は、電極体120の正極と同様、アルミニウムで形成されている。
負極集電体140は、電極体120の負極と蓄電容器100の側壁との間に配置され、負極端子300と電極体120の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、負極集電体140は、電極体120の負極と同様、銅で形成されている。
電極体120は、図3に示すように、捲回体121と、巻芯126とを有する。捲回体121は、正極122および負極123と、正極122および負極123の間に配置される第一セパレータ124および第二セパレータ125とが積層されるように巻芯に捲回されてなる。より具体的には、電極体120は、正極122と、第一セパレータ124と、負極123と、第二セパレータ125とがこの順に積層され、かつ、断面が長円形状になるように巻芯126の外周に捲回されることにより形成される。そして、短絡素子は、電極体120の内部であって、巻芯126の内部に設けられる。
さらに詳しくは、正極122と負極123とは、セパレータ124、125を介し、長尺帯状の幅方向(Y軸方向)に互いにずらして、当該幅方向に沿う回転軸を中心に長円形状に捲回されている。そして、正極122および負極123は、それぞれのずらす方向の端縁部を活物質層の非形成部とすることにより、捲回軸の一端側には、正極活物質層が形成されていない正極基材であるアルミニウム箔が露出し、捲回軸の他端側には、負極活物質層が形成されていない負極基材である銅箔が露出している。つまり、電極体120のY軸方向の一端側の一部は、正極基材であるアルミニウム箔のみが露出する正極接続部127であり、電極体120のY軸方向の他端側の一部は、負極基材である銅箔のみが露出する負極接続部128である。また、電極体120の捲回軸方向(Y軸方向)の両端部には正極集電体130および負極集電体140が上記捲回軸方向(Y軸方向)と垂直方向(Z軸方向)に延びて配置されている。そして、正極集電体130は、電極体120の正極接続部127と電気的に接続され、負極集電体140は、電極体120の負極接続部128と電気的に接続される。
正極122は、アルミニウムからなる長尺帯状の正極集電体シートの表面に、正極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる正極122は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
例えば、正極活物質としては、LiMPO 4 、Li2MSiO 4 、LiMBO 3 (MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム等のスピネル化合物、Li1+αM1−αO 2 (0≦α<1、MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のリチウム遷移金属酸化物等を用いることができる。
負極123は、銅からなる長尺帯状の負極集電体シートの表面に、負極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる負極123は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
例えば、負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4Ti5O12等)、ポリリン酸化合物などが挙げられる。
巻芯126は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の絶縁性を有する長尺帯状の材料からなる。巻芯126は、正極122、負極123、およびセパレータ124、125が捲回されるときの捲回軸となる部材である。巻芯126の内部には、図3に示すように、短絡素子150が設けられる。短絡素子150については、図4および図5を用いて後述する。
図4は、短絡素子150の外観を模式的に示す斜視図である。図5は、図4における短絡素子150のV−V断面図である。短絡素子150は、同図に示すように、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153と、第二容器としての短絡容器160とを有する。
第一電気伝導体151は、Y軸方向に延びる長尺の板状の金属部材であり、本実施の形態ではアルミニウムからなる。第一電気伝導体151は、電極体120の正極側である正極接続部127とともに正極集電体130に電気的に接続される。第二電気伝導体152は、Y軸方向に延びる長尺の板状の金属部材であり、本実施の形態では銅からなる。第二電気伝導体152は、電極体120の負極側である負極接続部128とともに負極集電体140に電気的に接続される。
溶融層153は、絶縁体としての絶縁体フィルム154と低融点合金層155とを有する。絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との間に配置される。低融点合金層155は、絶縁体フィルム154と第二電気伝導体152との間に配置される。なお、低融点合金層155は、絶縁体フィルム154と第二電気伝導体152との間に配置されることに限らずに、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の少なくとも一方との間に配置されればよく、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151との間に配置されてもよいし、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の両方との間に配置されてもよい。溶融層153は、所定温度未満において第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを絶縁し、所定温度以上において、少なくとも低融点合金層155の一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。
低融点合金層155は、融点が70〜250℃の合金が好ましく、さらに言えば、70〜150℃の合金が好ましく、より最適な融点としては70〜120℃である。なお、低融点合金層155の融点が70〜250℃の場合には、短絡素子150を例えば蓄電素子10の内部の温度を計測し、蓄電素子10内部の温度が所定温度以上になった場合に、ヒータなどの加熱手段により積極的に加熱することにより意図的に短絡素子150を短絡させる場合に有効である。また、低融点合金層155の融点が70〜150℃の場合には、キャパシタや高安全型リチウム電池における電解液気化による蓄電素子の膨張を抑制するという観点から特に有効である。また、低融点合金層155の融点が70〜120℃の場合には、一般的なリチウム電池において有効である。
低融点合金層155は、例えば、すず(Sn)または鉛(Pb)を含む低融点はんだである。なお、低融点合金層155に使用される合金としては、150℃以上のものであってもよく、例えば融点が200℃の合金であっても効果がある。また、低融点合金層155は、低融点合金にフラックス剤を混合させておく、または、低融点合金層155が接触する層(以下、「接触層」とする。)である絶縁体フィルム154、または、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152に予めフラックス剤を塗布しておくことが好ましい。このように、フラックス剤を使用することにより、低融点合金層155と、接触層との濡れ性が向上し、蓄電素子をより安定的に短絡放電させることが可能となる。また、接触層の表面に低融点合金層155を層状に塗布することが容易にできる。なお、フラックス剤としては、例えば有機酸、アミン類、ハロゲン化物等の少なくとも一種を活性剤として含有するロジンベースのフラックス剤を利用することができる。
絶縁体フィルム154は、薄膜状の絶縁体であり複数の孔が形成される。絶縁体フィルム154は、融点が150℃以上の材質が好ましく、例えばシリコンゴムやテフロン(登録商標)樹脂などである。絶縁体フィルム154はまた、低融点合金層155の合金に対して濡れ性があるシリコンゴムが好ましい。なお、絶縁体フィルム154の融点は低融点合金層155の融点よりも高いことが好ましい。例えば、絶縁体フィルム154の材質が低融点合金層155と同様の融点である70〜250℃の場合は、その融点未満の温度で変形(特に収縮)することにより、不要な短絡を起こすことになり、好ましくない。絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との絶縁を実質的に為している部材であるため、短絡を意図する温度(つまり所定温度)未満の場合には両者を確実に絶縁し、所定温度以上となった場合に両者を確実に短絡させることが求められる。つまり、絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを確実に絶縁した状態で、より薄く孔の面積の割合が大きいことが好ましい。孔の面積の割合を大きくするためには、孔の数を増やすことと、一つの孔の大きさを大きくすることが考えられる。なお、ここでは絶縁体として、孔を有する絶縁体フィルム154を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、絶縁性かつ多孔性を有するものであればよく、絶縁性材料から構成されたネットやメッシュ多孔体(つまり網状の材料)などを用いることができる。
短絡容器160は、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153とを収容する容器であって、アルミラミネートフィルムによりなる。短絡容器160を構成するアルミラミネートフィルムは、金属層の一方の面にベースフィルム層を積層すると共に他方の面にシーラント層を積層した3層構造の矩形のフレキシブルなラミネートフィルムである。金属層は、アルミニウム箔から成り、短絡容器160のガスバリア性を確保し非水電解液の浸入を確実に防止するために設けられた中間層である。また、ベースフィルム層は、ナイロン等の樹脂層から成り、短絡容器160の強度を高めるために設けられた外側層である。さらに、シーラント層は、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂から成り、アルミラミネートフィルムの周縁部を熱溶着するために設けられた内側層である。短絡容器160は、1枚のアルミラミネートフィルムから構成されてもよいし、2枚のアルミラミネートフィルムから構成されてもよい。
短絡素子150は、短絡容器160に収容された状態で、Y軸方向の端部の一方から第一電気伝導体151の一部が露出しており、Y軸方向の端部の他方から第二電気伝導体152の一部が露出している。短絡素子150は、第一電気伝導体151の短絡容器160から露出している一部と正極集電体130とが電気的に接続され、第二電気伝導体152の短絡容器160から露出している一部と負極集電体140とが電気的に接続される。
また、溶融層153は、短絡素子150として構成される際に、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との間であって、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが重なり合う領域(以下、「短絡領域」とする。)に少なくとも配置される。このように溶融層153を配置することにより、短絡素子150の内部において第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とは絶縁体フィルム154により電気的に絶縁された状態となる。
そして、溶融層153は、所定温度(本実施の形態では70〜150℃のいずれかであって、低融点合金層155の融点)以上になった場合、低融点合金層155が融解し、絶縁体フィルム154の孔に流入することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。このとき、短絡素子150の抵抗値(Ω)は、短絡前に比べて9桁以上低下する。つまり、短絡素子150は、通常時は蓄電素子の自己放電を小さくするために実質的に絶縁状態であることが必要であり、このましくは1MΩ以上の高抵抗であることが必要である。一方、短絡素子150は、短絡状態においては、蓄電素子を急速に放電させ電池内のエネルギーを放出させることが必要であるため、低抵抗で端子間を短絡させることが必要である。短絡時の抵抗値は、放電開始時の電池電圧、電池の容量及び設定する短絡電流の大きさによって適した値が異なるが、短絡素子の抵抗値が短絡前に比べて6桁以上低下させることが望ましい。より具体的には、短絡時の抵抗値R[Ω]はR=x/yz(ただし、xは電池電圧[V]、yは電池容量(Ah)、zは短絡電流/電池容量の値(h−1))から算出した値となる様に設定することが望ましい。このように、短絡前後の短絡素子150の抵抗変化を6桁以上とすることにより、通常時の自己放電を小さくでき、かつ、短絡時の電池の放電を急速に行うことができる。
本実施の形態に係る蓄電素子10によれば、蓄電容器100の内部に電極体120および短絡素子150が配置される。そして、短絡素子150は、溶融層153が、電流を導通させることが可能な低融点合金層155と、電流を導通させない絶縁体フィルム154とにより構成されており、低融点合金層155が所定温度以上において一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを電気的に接続して短絡させる。つまり、低融点合金層155が融解し、融解した低融点合金層155が、例えば予め絶縁体フィルム154に設けられる孔等に入り込むことにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを導通状態とさせる。このため、溶融層153は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させることになる。
このように、短絡素子150は、蓄電容器100の内部に収容されているため、蓄電素子10に異常が発生した場合に高温になる蓄電素子10の内部の温度の影響を直接的に受ける。このため、短絡素子150は、蓄電素子10に異常が発生して高温になった場合に、速やかに第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを導通状態とさせることにより電極体120の正極122と負極123とを短絡させることができる。
また、短絡素子150は、正極側と電気的に接続される端部以外の第一電気伝導体151、負極側と電気的に接続される端部以外の第二電気伝導体152、および溶融層153が短絡容器160に収容されることによりなるため、溶融層153が蓄電素子10内部に設けられる電解液と接触しないようにすることができる。これにより、溶融層153の低融点合金層155が電解液に対して溶解することにより、蓄電素子10の性能が低下することを防ぐことができる。また、短絡素子150が第二容器としての短絡容器160を備える構成とすることにより、振動などの外部衝撃によって第一電気伝導体151、第二電気伝導体152、および溶融層153の位置関係が崩れて第一電気伝導体151および第二電気伝導体152が短絡しにくい構造となっている。このため、短絡素子150が誤作動することを低減でき、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においても、所定温度未満の環境下では短絡素子150は安定した絶縁性能を維持できる。
以上のことから、蓄電素子10は、異常が発生して内部の温度が過度に上昇した場合に、正極122と負極123とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
また、本実施の形態に係る蓄電素子10によれば、蓄電素子10が異常な状態になった場合に高温になりやすい電極体120の内部に蓄電素子10が設けられるため、蓄電素子10が異常な状態になった場合に速やかに第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させて、蓄電素子10内部のエネルギーを放出することにより、蓄電素子10の温度上昇および圧力上昇を低減させることができる。
また、本実施の形態に係る蓄電素子10によれば、電極体120は、正極122および負極123と、セパレータ124、125とが積層されるように、巻芯126を中心として捲回されてなる捲回型の電極体である。そして、短絡素子150は、捲回型の電極体120の最内周に配置される巻芯126の内部に設けられる。このため、蓄電素子10が異常な状態になった場合に高温になりやすい電極体120の中心に蓄電素子10が設けられるため、蓄電素子10が異常な状態になった場合に速やかに第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させて、蓄電素子10内部のエネルギーを放出することにより、蓄電素子10の温度上昇および圧力上昇を低減させることができる。
また、本実施の形態に係る蓄電素子10の短絡素子150によれば、絶縁体フィルム154には孔が形成されており、低融点合金層155が融解して絶縁体フィルム154の孔に流入することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。このため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、電極体の正極側と負極側とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
(実施の形態の変形例)
(1)
上記実施の形態に係る蓄電素子10では、短絡素子150は、電極体120の内部に設けられるが、これに限らずに、第一容器としての蓄電容器100の内部に設けられていれば、例えば図6または図7に示すように、電極体120の外部に設けられても構わない。
図6は、変形例(1)に係る蓄電素子10aの容器本体111を分離させた場合の構成を示す図である。図7は、変形例(1)の他の形態に係る蓄電素子10bの容器本体111を分離させた場合の構成を示す図である。なお、上記実施の形態に係る蓄電素子10と同じ構成要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図6および図7に示す蓄電素子10a、10bでは、短絡素子150は、電極体120と、蓄電容器100の内壁との間に設けられ、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とのうちで熱伝導性が高い方が電極体120側を向くように配置される。図6に示す蓄電素子10aでは、短絡素子150は、電極体120の側面であって、その長手方向が電極体120の捲回軸方向に沿うように配置される。また、図7に示す蓄電素子10bでは、短絡素子150は、電極体120の底面側であって、その長手方向が電極体120の捲回軸方向に沿うように配置される。そして、蓄電素子10a、10bでは、短絡素子150は、第一電気伝導体151よりも熱伝導性が高い第二電気伝導体152が電極体120側を向くように配置される。また、蓄電素子10a,10bは、図示しないが、上記実施の形態にかかる蓄電素子10と同様に、短絡素子150の第一電気伝導体151が正極集電体130に電気的に接続され、第二電気伝導体152が負極集電体140に電気的に接続される。
変形例(1)に係る蓄電素子10a、10bによれば、短絡素子150は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とのうちで熱伝導性が高い第二電気伝導体152が電極体120側を向くように配置されるため、蓄電素子10a、10bに異常が発生して電極体120が高温になった場合に、電極体120において発生した熱を短絡素子150に速やかに伝えることができる。このため、短絡素子150は、蓄電素子10a、10bが高温になった場合に、速やかに電極体120の正極122および負極123を短絡させることができる。
(2)
上記実施の形態に係る蓄電素子10では、短絡素子150の構成要素の一つである低融点合金層155は、低融点合金のみの層であるが、図8または図9に示す短絡素子250のように、低融点合金256と、低融点合金256の低融点合金層255の厚み方向に垂直な方向(つまり、低融点合金層255の延在方向)における外側を囲う枠状部材257と、により構成される形態であっても構わない。なお、図8は、変形例(2)に係る短絡素子250の図4におけるVIII−VIII断面図である。また、図9は、変形例(2)に係る短絡素子250の短絡容器160を除いた構成要素の分解斜視図である。なお、上記実施の形態または変形例(1)に係る蓄電素子10、10a、10bと同じ構成要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
変形例(2)に係る短絡素子250によれば、溶融層253は、低融点合金256の延在方向の外側を囲う枠状部材257を配置しているため、蓄電素子10に異常が発生して蓄電素子10が高温になった場合に、融解した低融点合金256が枠状部材257の存在により、短絡素子作動前の溶融層の位置の外側に流出することを防ぐことができる。なお、枠状部材257は、弾性材料からなることが好ましい。枠状部材257が弾性材料から構成されれば、例えば、外部から圧力がかかった場合であっても、圧力に応じて収縮できるため、融解した低融点合金256が枠状部材257の外側に流出することを防ぐことができる。また、枠状部材257は、低融点合金256が融解し、かつ、圧力を受けたときに、変形して低融点合金256を枠状部材257の外側に流出することを防ぐことができれば弾性変形をする材料に限るものではなく塑性変形する材料であってもよい。
(3)
上記実施の形態に係る蓄電素子10では、短絡素子150の構成要素の一部である第一電気伝導体151および第二電気伝導体152は板状の金属部材であるが、板状の部材であることにかぎらずに、メッシュ状の金属部材であってもよい。図10は、変形例(3)に係る短絡素子350の図4におけるX−X断面図である。図10に示す短絡素子350は、第一電気伝導体351と、第二電気伝導体352と、溶融層153と、正極接続部材353と、負極接続部材354と、短絡容器360とを有する。第一電気伝導体351は、メッシュ状の金属部材であり、アルミニウムからなる。第二電気伝導体352は、メッシュ状の金属部材であり、銅からなる。第一電気伝導体351、溶融層153、および第二電気伝導体352は、この順に積層される。
正極接続部材353は、長尺の板状の金属部材でありアルミニウムからなる。正極接続部材353は、第一電気伝導体351と電極体120の正極接続部127および/または正極集電体130とを電気的に接続する部材である。正極接続部材353は、端部が短絡容器160から露出している部分を有し、当該露出している部分は正極側へ接続される接続端子として機能する。
負極接続部材354は、長尺の板状の金属部材である銅からなる。負極接続部材354は、第二電気伝導体352と電極体120の負極接続部128および/または負極集電体140とを電気的に接続する部材である。負極接続部材354は、端部が短絡容器160から露出している部分を有し、当該露出している部分は負極側へ接続される接続端子として機能する。
変形例(3)に係る蓄電素子の短絡素子350によれば、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352は、メッシュ状の金属部材で構成されるため、表面積を大きく確保でき、かつ、融解した低融点合金256をメッシュ状の金属部材の内部に形成されている隙間に保持しやすい構造である。このように、メッシュ状の金属部材により構成される第一電気伝導体351および第二電気伝導体352は、融解した低融点合金256と接触した場合に、融解した低融点合金256を保持したまま維持できるため、第一電気伝導体351と第二電気伝導体352とが電気的に接続された状態を維持できる。このため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、短絡素子350は、速やかに第一電気伝導体351と第二電気伝導体352とを電気的に接続することができる。また、短絡素子350は、第一電気伝導体351と第二電気伝導体352とが電気的に接続された状態を維持することができるため、安定的に蓄電素子のエネルギーを放出させることができる。なお、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352の両方をメッシュ状の金属部材としているが、これに限らずに、いずれか一方であっても上述した効果はある。
(4)
上記実施の形態または変形例(1)〜(3)に係る蓄電素子10、10a、10bでは、特に言及していないが、第一電気伝導体151(351)および第二電気伝導体152(352)の少なくとも一方は、低融点合金層155(255)が溶着または接着されていてもよい。
このように、第一電気伝導体151(351)および第二電気伝導体152(352)のうちの少なくとも一方に低融点合金層155(255)を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金層155(255)と予め溶着または接着された第一電気伝導体151(351)または第二電気伝導体152(352)と溶融した低融点合金との馴染み性が改善され、電気的接続をより確実にすることができ、より安定的に蓄電素子の短絡を可能とすることができるため好ましい。
また、第一電気伝導体151(351)および第二電気伝導体152(352)のうちの少なくとも一方に低融点合金層155(255)を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金に熱が伝導しやすくなるために、速やかに蓄電素子10、10a、10bを短絡させることが可能となる。なお、第一電気伝導体151(351)と第二電気伝導体152(352)のうち、より熱伝導率の高い方に低融点合金層155(255)を予め溶着または接着することにより、電極体120の熱を効率よく低融点合金層155(255)に伝えることができ、より速やかに蓄電素子10、10a、10bの短絡を可能とすることができるため好ましい。
(5)
上記実施の形態、変形例(2)、または変形例(3)に係る短絡素子150、250、350では、第一電気伝導体151(351)および第二電気伝導体152(352)を近づけるための付勢力が加えられていない構成であるが、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352を近づけるための付勢力を、両者の電気的接触が意図されるときに、与える構成の短絡素子450としてもよい(図11および図12参照)。
図11は、変形例(5)に係る図4における短絡素子450のXI−XI断面図である。図12は、変形例(5)に係る図11における短絡素子450のXII−XII断面図である。図11に示す短絡素子450は、第一電気伝導体351と、第二電気伝導体352と、溶融層253と、正極接続部材353と、負極接続部材354と、熱膨張部材456と、短絡容器460とを有する。つまり、変形例(5)に係る短絡素子450は、変形例(3)に係る短絡素子350の構成に熱膨張部材456が追加されていることと、熱膨張部材456が追加されることにより機能が追加されている短絡容器460とが異なる。このため、以下では、熱膨張部材456および短絡容器460の説明のみ行う。
熱膨張部材456は、第一電気伝導体351、溶融層253、および、第二電気伝導体352の積層された多層体のうちで、第一電気伝導体351の外側に配置され、所定温度近傍において膨張する。具体的には、熱膨張部材456は、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いることが考えられる。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂(例えば、アクリロニトリル)からなるシェルと、シェルの内部に充填されている液状炭化水素ガス(例えば、イソブタンなど)とにより構成される。熱膨張性マイクロカプセルは、所定温度以上に加熱されると、シェルを構成する熱可塑性樹脂の軟化し、かつ、シェルに内包されている液状炭化水素ガスがガス化してシェル内の内圧が上昇することによって、膨張する。このように、熱膨張部材456は、所定温度に加熱された場合、シェル内の液状炭化水素ガスがガス化することにより膨張するため、所定温度に達した直後の熱膨張部材456の体積は所定温度に達する前の熱膨張部材456の体積の約50倍と大きくなる。そして、短絡容器460は、熱膨張部材456と、第一電気伝導体351と、第二電気伝導体352と、溶融層253とを合わせた体積(以下、「短絡素子体積」とする)が膨張することを抑制する膨張抑制部材として機能する。
なお、熱膨張部材456が膨張する「所定温度近傍」とは、低融点合金256が融解する所定温度以下であることが好ましく、低融点合金256が融解する所定温度と同じ温度であることがさらに好ましい。ただし、「所定温度近傍」は、低融点合金256が融解する所定温度より高い温度であっても、短絡素子150を短絡させることは可能である。つまり、低融点合金256が融解しているときに、熱膨張部材456が膨張することにより、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352が互いに近づく方向に圧力がかかれば、課題を解決することができるため、熱膨張部材456が膨張する温度は所定温度と一致している必要はない。
なお、短絡容器460が膨張抑制部材として機能しているが、これに限らずに、短絡素子体積が膨張することを抑制できる部材であれば短絡容器460を利用することに限るものではない。例えば、熱膨張部材456のさらに外側、および、第二電気伝導体352のさらに外側に設けられる2枚の板状部材と、2枚の板状部材の端部に接続され、2枚の板状部材の距離が短絡素子の厚みを維持するように規制する接続部材とから構成されるような膨張抑制部材であってもよい。また、熱膨張部材456は、多層体のうちで第一電気伝導体351の外側に配置されることに限るものではなく、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352のうちの少なくとも一方の外側に配置されていれば、その配置位置は限定されない。
このように、熱膨張部材456が所定温度に加熱されてその体積が50〜100倍になろうとし、かつ、短絡容器160が熱膨張部材456と、第一電気伝導体351と、第二電気伝導体352と、溶融層253とを合わせた厚みが所定の厚みとなるように規制しているため、第一電気伝導体351および第二電気伝導体352が互いに近づく方向に圧力が加えられることになる。つまり、熱膨張部材456および短絡容器460の構成によって、溶融層253の低融点合金256が融解するタイミングに合わせて、第一電気伝導体351と第二電気伝導体352とが近づくような付勢力を第一電気伝導体351および第二電気伝導体352に与えることができる。このため、融解した低融点合金は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを電気的に接続しやすくできる。
(6)
上記変形例(2)に係る短絡素子250では、溶融層253は、図9によると、絶縁体フィルム154と低融点合金層255とのX軸方向から視たときの面積が略同一である(つまり、絶縁体フィルム154と低融点合金層255とが互いに接触している側の面の面積は略同一である)が、これに限らない。例えば、図13に示すように、X軸方向から視たときの面積が、低融点合金層255のより大きい絶縁体フィルム554を採用した溶融層553としてもよい。なお、図13は、変形例(6)に係る短絡素子の短絡容器を除いた構成要素の分解斜視図である。つまり、絶縁体フィルム554と低融点合金層255とが互いに接触している側の面について、絶縁体フィルム554の面積の方が低融点合金層255の面積よりも大きい。このように、絶縁体フィルム554を構成するにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが重なり合う短絡領域の面積よりも絶縁体フィルム554の大きさを大きくすることができるため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが、上記変形例(2)に係る短絡素子250の構成よりもさらに直接接触しにくい構成とすることができる。これにより、振動などの衝撃が与えられるような場合であっても、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが意図しない条件で短絡することを防ぐことができる。
(7)
上記実施の形態または変形例(1)〜(6)に係る短絡素子150、250、350、450では、溶融層153、253は、1層の絶縁体フィルム154と1層の低融点合金層155、255とにより構成されるが、これに限らない。例えば、溶融層は、1層の絶縁体フィルムを2層の低融点合金層が挟み込むように積層された3層構造であってもよい。
(8)
また、例えば図示しないが、溶融層は、低融点合金層を絶縁体コーティングにより包み込むようにコーティングするコーティング構造であってもよい。
なお、溶融層がコーティング構造である場合の絶縁体コーティングは、絶縁塗布剤、蝋材、熱収縮フィルム、電気絶縁性の塗料などの材料を採用することが考えられる。
より具体的には、絶縁体塗布剤の一例としては、エポキシ系、ウレタン系、シリコン系、アクリル系、またはテフロン(登録商標)系の樹脂がある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、低融点合金層が融解することにより低融点合金層にコーティングされている絶縁体コーティング(絶縁体塗布剤)が断裂および崩壊し、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
蝋材の一例としては、パラフィン系ワックスがある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、低融点合金層が融解し、さらに絶縁体コーティング(ろう材)が、低融点合金層が融解した後または同時に融解することにより生じた隙間から溶融した合金がしみ出すことにより第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
熱収縮フィルムの一例としては、ポリスチレン系またはポリエステル系のフィルムがある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、絶縁体コーティング(熱収縮フィルム)が熱収縮することにより、絶縁体コーティングに隙間が生じる。同時に、溶融層においては、低融点合金層が融解していることから、絶縁体コーティングに生じた隙間に融解した低融点合金層が流入し、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
電気絶縁性の塗料の場合には、溶融層は、絶縁体塗布剤の場合と同様に作用して、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。
変形例(8)の短絡素子によれば、絶縁体コーティングの一部または全部が変形することにより、絶縁体コーティングに融解した低融点合金層が流入可能な隙間が絶縁体コーティングに生じる。このため、溶融層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される箇所を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。また、変形例(8)のような絶縁体コーティングにより低融点合金層をコーティングして溶融層を構成する場合、上記実施の形態の溶融層よりも安価に製造可能である。
(9)
上記実施の形態または変形例(1)〜(8)に係る短絡素子150、250、350、450では、第一電気伝導体151(351)と、溶融層153(253)と、第二電気伝導体152(352)とが平面状に積層されているが、これに限らない。
例えば、短絡素子は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが溶融層を介して積層された状態で捲回されることにより形成される捲回構造であってもよいし、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが溶融層を介して積層された状態で蛇腹状に折りたたまれることにより形成される折り畳み構造であってもよい。
このように、捲回構造または折り畳み構造となるように短絡素子を構成することにより、溶融層が所定温度以上となって低融点合金層が融解した場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが接触する面積を大きくすることができ、より大きな短絡電流を流すことができる。
(10)
上記実施の形態または変形例(1)〜(9)に係る短絡素子150、250、350、450では、短絡素子150、250、350、450を短絡させる所定温度は、70〜250℃としているが、例えば、蓄電素子10のセパレータ124、125のシャットダウン温度以下であることが好ましい。これにより、蓄電素子10がセパレータ124、125によりシャットダウンする以前に短絡素子150、250、350、450が短絡することにより蓄電素子10に蓄えられたエネルギーを放出させることができる。このため、より低温度な状態であって、かつ速やかに蓄電素子10のエネルギーを放出させることができる。
(11)
上記実施の形態または変形例(1)〜(10)に係る短絡素子150、250、350、450では、第一電気伝導体151(351)はアルミニウムからなり、かつ、第二電気伝導体152(352)は銅からなるが、これに限らずに、熱伝導性が高いものであればよい。例えば、第一電気伝導体151(351)および第二電気伝導体152(352)の少なくともどちらか一方が、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、ニクロムおよび他の金属材料の中から選択できる。また、同様に、正極接続部材353および負極接続部材354についても同様のことが言える。
(12)
上記実施の形態の短絡素子150は、一つの蓄電素子10の正極側と負極側とを短絡させるものであるが、一つの蓄電素子10に限らずに、複数の蓄電素子10を組み合わせたものに対して適用してもよい。例えば、図14に示す蓄電素子システム500のように、蓄電素子10の複数の各端子を端子接続部材501により直列に接続した構成であってもよい。また、図14のような直列に接続した蓄電素子システム500に限らずに複数の蓄電素子10を並列に接続することによる蓄電素子システムとしてもよいし、直列接続と並列接続とが組み合わされた蓄電素子システムとしてもよい。