以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造について説明する。
図1(A)及び図1(B)には、本実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造が適用されたH形鋼梁10が示されている。なお、矢印Xは、H形鋼梁10の梁軸方向を示しており、梁軸方向のうちH形鋼梁10の端部(鉄骨柱30)に向う方向を梁軸方向外側とし、H形鋼梁10の中央部に向う方向を梁軸方向内側として以下説明する。
H形鋼梁10は、鉄骨柱30と図示しない鉄骨柱の間に架設されている。このH形鋼梁10は、図示しない梁本体と、梁本体の長手方向両端部にそれぞれ連結された梁ブラケット12とを備えている。梁ブラケット12はFAランク相当のH形鋼で構成され、梁ブラケット12の端部が鉄骨柱30に外側面に突き当てられて溶接等により接合されている。なお、梁ブラケット12は工場等で予め鉄骨柱30に接合されており、現場において梁ブラケット12に梁本体を溶接や高力ボルト等で連結することにより、H形鋼梁10が構成されている。また、本実施形態では、鉄骨柱30が角形鋼管で構成されているが、H形鋼等で構成しても良い。
H形鋼梁としての梁ブラケット12は、上下一対のフランジ部12Aと、これらのフランジ部12Aを繋ぐウェブ部12Bとを備えている。梁ブラケット12のウェブ部12Bの一端は、鉄骨柱30の外側面に突き当てられて溶接されており、鉄骨柱30によってその変形が拘束された拘束端12BKとされている。また、ウェブ部12Bには、設備等に用いられる貫通孔14が形成されている。貫通孔14は中心Cを中心とした半径Rの円形の孔で、梁ブラケット12と梁本体(図示省略)との梁継手部(連結部)を避けて鉄骨柱30側の塑性化領域に形成されている。この貫通孔14によって、梁ブラケット12のウェブ部12Bが部分的に欠損されている。なお、ここでいう塑性化領域とは、地震力を受けたときに、最初に塑性化し易いH形鋼梁10の端部側の領域を意味し、例えば、H形鋼梁10の梁端から梁成の1〜2倍の領域である。
梁ブラケット12のフランジ部12Aの両面には、一対の補強プレート16がそれぞれ設けられている。一対の補強プレート16は、その断面積が全長に渡って略一定とされたフラットバー(平鋼板)で構成され、ウェブ部12Bにおける貫通孔14の上下(上下方向両側)に重ねられている。また、一対の補強プレート16は、長手方向を梁軸方向(矢印X方向)にして略平行に配置されており、正面視にて長手方向一端(梁軸方向外側の一端)Loが貫通孔14よりも梁軸方向外側に位置すると共に、長手方向他端(梁軸方向内側の他端)Liが貫通孔14よりも梁軸方向内側に位置している。
また、図2(A)に示されるように、補強プレート16の上下端部(長辺側の端部)としての上端部16A及び下端部16Bは、梁ブラケット12のウェブ部12Bの表面に接合されている。具体的には、補強プレート16は、上端部16A及び下端部16Bがその全長に渡ってウェブ部12Bに隅肉溶接で連続溶接されている。これにより、梁ブラケット12のウェブ部12Bに作用するせん断力に対し、補強プレート16が全断面積で抵抗可能になっている。
なお、本実施形態では、補強プレート16の長手方向一端16Lo及び長手方向他端16Liが梁ブラケット12のウェブ部12Bの表面に接合されていないが、溶接等で接合しても良い。また、補強プレート16の上端部16A及び下端部16Bをエポキシ樹脂等の接着剤で梁ブラケット12のウェブ部12Bの表面に接合しても良い。また、補強プレート16は、溶接代を残して上端部16A又は下端部16Bを貫通孔14の縁に近づけることが望ましい。
次に、補強プレート16の各種設定値について詳説する。なお、以下で説明する設定値は、後述する載荷実験及び解析の結果に基づくものである。
先ず、補強プレート16の断面積について説明する。
各補強プレート16の断面積は、貫通孔14によるウェブ部12Bの欠損を補うように設定されている。具体的には、図1(B)に示されるように、梁軸方向(矢印X方向)と直交し、貫通孔14の中心Cを通る切断面CP(1B−1B線)で切断した梁ブラケット12及び各補強プレート16の断面において、4本の補強プレート16の断面積Fの合計値Fsumが、貫通孔14による梁ブラケット12のウェブ部12Bの最大断面欠損面積Gmax以上(Fsum≧Gmax)になるように設定されている。この図1(B)に示される断面では、切断面CPが貫通孔14の中心Cを通るため、貫通孔14による梁ブラケット12のウェブ部12Bの断面欠損面積が最大となっている。
なお、図1(A)及び図2(A)にそれぞれ示されるように、各補強プレート16の幅(上下方向の長さ)WはR/2以上(W≧R/2)、各補強プレート16の板厚tは梁ブラケット12のウェブ部12Bの板厚u以上(t≧u)に設定することが好ましい。また、溶接の施工性の観点から、補強プレート16の板厚tは、梁ブラケット12のウェブ部12Bの板厚uのワンサイズアップ以下に設定することが好ましい。
また、本実施形態では、各補強プレート16の断面積Fを略同一に設定したがこれに限らない。各補強プレート16の断面積Fは、前述した条件を満たせば良く、例えば、各補強プレート16の幅W、板厚t等を異なる値に設定しても良い。
次に、補強プレート16の長手方向の長さについて説明する。
図1(A)に示されるように、切断面CPから梁軸方向に沿った補強プレート16の長手方向他端16Liまでの長さ(必要長さ)S2は、下記式(1)を満たすように設定されている。
S2≧2R ・・・(1)
一方、切断面CPから梁軸方向に沿った補強プレート16の長手方向一端16Loまでの長さ(必要長さ)S1は、梁ブラケット12のウェブ部12Bの拘束端12BKから梁軸方向に沿った貫通孔14の中心Cまでの距離をDとしたときに、下記式(2)及び式(3)を満たすように設定されている。
1.75R≦D≦2.25Rの場合、
D−0.25R≦S1≦D ・・・(2)
2.25R<Dの場合、
S1≧2R ・・・(3)
ここで、梁ブラケット12のウェブ部12Bにおける拘束端12BKは、その変形が鉄骨柱30によって拘束される。従って、ウェブ部12Bにおける拘束端12BK付近の領域(以下、「拘束端側領域E」という)では、鉄骨柱30による補強効果が得られるため、局部座屈が発生し難くなっている。そのため、拘束端側領域Eは、補強プレート16によって補強する必要がない。従って、貫通孔14によるウェブ部12Bの耐力低下領域と拘束端側領域Eとが重複する場合は、その重複量に応じて補強プレート16の必要長さS1が前述した必要長さS2よりも短くなる。
本実施形態では、梁ブラケット12の拘束端12BKから貫通孔14側(梁軸方向内側)へ0.25Rまでの領域(V=0.25R)が拘束端側領域Eとされており、貫通孔14によるウェブ部12Bの耐力低下領域が拘束端側領域Eと重複するように、即ち、1.75R≦D≦2.25Rの範囲内に貫通孔14が形成されている。従って、補強プレート16の長さS1は、上記式(2)を満たすように設定されている。なお、補強プレート16の長さS1の最小値は1.5Rである。
一方、図3に示されるように、貫通孔14によるウェブ部12Bの耐力低下領域と拘束端側領域Eとが重複しないように、即ち、2.25R<Dの範囲内に貫通孔14が形成されている場合は、上記式(3)を満たすように補強プレート16の長さS1が設定される。この場合、鉄骨柱による補強効果が得られないため、補強プレート16の必要長さS1は、前述した補強プレート16の長さS2(式(1)参照)と同じになる。
次に、本実施形態に係る作用について説明する。
図2(A)に示されるように、梁ブラケット12のウェブ部12Bの両面には、一対の補強プレート16がそれぞれ設けられている。これらの補強プレート16は、ウェブ部12Bにおける貫通孔14の上下にそれぞれ配置されており、その上端部16A及び下端部16Bがウェブ部12Bの表面に接合されている。即ち、補強プレート16の上端部16A及び下端部16Bが、梁ブラケット12のウェブ部12Bに一体化されている。これにより、梁ブラケット12のウェブ部12Bに作用するせん断力に対し、補強プレート16がその全断面積で抵抗可能となり、補強プレート16の所定断面におけるせん断応力分布Qが矩形となる。従って、補強プレート16の補強効果が向上する。
一方、図2(B)に示される比較例のように、高力ボルト40及びナット42によって補強プレート16の中央部を梁ブラケット12のウェブ部12Bに接合する構成では、補強プレート16の上端部16A及び下端部16Bが梁ブラケット12のウェブ部12Bに一体化されず、自由端部となる。従って、梁ブラケット12のウェブ部12Bに作用するせん断力に対し、補強プレート16の上端部16A及び下端部16Bが抵抗できず、所定断面におけるせん断応力分布Qがパラボラ形状(半円形状)となる。従って、補強プレート16の補強効果が低下する。
このように本実施形態では、補強プレート16の上端部16A及び下端部16Bを梁ブラケット12のウェブ部12Bの表面に接合することにより、梁ブラケット12のウェブ部12Bに作用するせん断力に対して補強プレート16がその全断面積で抵抗するため、補強プレート16の補強効果が向上する。
また、従来技術(例えば、特許文献1)のように、梁ブラケットと梁本体とを連結する梁継手部に形成された貫通孔の上下に、梁ブラケットのウェブ部と梁本体のウェブ部とにまたがるようにアングルを設けた構成では、梁継手部において梁ブラケットのウェブ部と梁本体のウェブ部とが連続しておらず、これらのウェブ部がせん断力に対して抵抗しない。従って、梁継手部に作用するせん断力には主としてアングルが抵抗するため、アングルの耐力負担が大きくなる。また、梁ブラケットのウェブ部と梁本体のウェブ部とが連続しないため、アングルにはせん断力だけでなく、局所的な曲げモーメント(局所曲げモーメント)が作用する。従って、アングルの耐力負担が更に大きくなるため、アングルの必要板厚等が厚くなる。
これに対して本実施形態では、梁継手部を避けて梁ブラケット12のウェブ部12Bに貫通孔14を形成し、この貫通孔14の上下に補強プレート16を設ける構成であるため、補強プレート16、及び貫通孔14の周辺に残存するウェブ部12Bがせん断力に対して抵抗する。従って、従来技術と比較して、補強プレート16の耐力負担が小さくなるため、補強プレート16の板厚等を薄くすることができる。
また、他の従来技術として、貫通孔の外周に沿ってリングプレート(リング状の当て板)等を梁ブラケット等のウェブ部に接合する補強方法がある。この補強方法では、リングプレートの形状が円形であることから、鋼材からリングプレートを切りだすときに鋼材の無駄が生じる。さらに、溶接代を確保するためにウェブ部の貫通孔よりも大きな貫通孔を有するリングプレートを形成する必要があるため、鋼材の無駄が大きい。
これに対して本実施形態では、補強プレート16の形状が矩形であることから、鋼板から補強プレート16を効率よく切り出すことができるため、鋼材の無駄が少ない。更に、後述する載荷実験及び解析の結果に基づいて、各補強プレート16の断面積Fの合計値Fsum、及び長さS1,S2が設定されている。従って、過剰な補強を抑制することができるため、補強プレート16の鋼材の無駄を省くことができる。また、後述する載荷実験及び解析の結果に基づいて、各補強プレート16の断面積Fの合計値Fsum、及び長さS1,S2を設定することにより、貫通孔14がない梁ブラケット12と同等の力学的性状を得ることができる。
また、前述したように、梁ブラケット12のウェブ部12Bには、貫通孔14周辺部の耐力低下領域が拘束端12BK側の拘束端側領域Eと重複するように貫通孔14が形成されている。従って、鉄骨柱30によって貫通孔14周辺部の耐力低下領域が補強されるため、切断面CPから梁軸方向内側へ延びる補強プレート16の長手方向他端16Liまでの長さS2と比較して、切断面CPから梁軸方向外側(鉄骨柱30側)へ延びる補強プレート16の長手方向一端16Loまでの長さS1を短くすることができる。従って、補強プレート16の材料コストを削減することができる。更に、鉄骨柱30と補強プレート16の長手方向一端16Loとの間に拘束端側領域E分の隙間を空けることができるため、梁ブラケット12のウェブ部12Bに対する補強プレート16の接合作業が容易となる。
以上説明したように、本実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、貫通孔14が形成された梁ブラケット12のウェブ部12Bに対する補強プレート16の補強効果を向上することができる。
次に、上記実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の変形例について説明する。
上記実施形態では、梁継手部(図示省略)を有するブラケットタイプのH形鋼梁10を例に説明したが、上記実施形態は、梁継手部を有しないH形鋼梁についても適用可能である。例えば、図4には、ダイアフラム工法によって鉄骨柱30に接合されたノンブラケットタイプのH形鋼梁20が示されている。H形鋼梁20は、上下一対のFAランク相当のフランジ部20Aと、貫通孔14が形成されたFAランク相当のウェブ部20Bを備えている。このH形鋼梁20は、そのフランジ部20Aが鉄骨柱30の外周面に設けられた一対の外ダイアフラム32に溶接等で接合されると共に、そのウェブ部20Bが鉄骨柱30の外側面に設けられたガセットプレート34に重ねられて高力ボルト36によって接合されている。
このようにダイアフラム工法によって鉄骨柱30に接合されたH形鋼梁20には、一般に梁継手部が存在しないが、このようなH形鋼梁20についても上記実施形態は適用可能である。即ち、上記実施形態における梁継手部を避けてウェブ部に形成された貫通孔とは、梁継手部が必須であることを意味するものではなく、本変形例におけるH形鋼梁20のように梁継手部が存在しないウェブ部20Bに形成された貫通孔14も含む概念である。なお、ダイアフラムは、外ダイアフラム32に限らず、内ダイアフラム、通しダイアフラムでも良い。
また、ガセットプレート34によって鉄骨柱30とH形鋼梁20のウェブ部20Bとを接合する構成では、ウェブ部20Bにおけるガセットプレート34の梁軸方向内側の端部34Aに沿った部位が、ウェブ部20Bの拘束端20BKとなる。従って、上記式(1)〜式(3)を用いる場合は、拘束端20BKを基準として貫通孔14の中心Cまでの距離Dを求めることになる。なお、ガセットプレート34に限らず、ガセットプレート34に相当する部材によって鉄骨柱30とH形鋼梁20のウェブ部20Bとが接合される場合についても同様である。
次に、図5(A)に示される変形例のように、梁ブラケット12のウェブ部12Bに2つの貫通孔22,24が隣接して形成されている場合は、一対の補強プレート26によってウェブ部12Bにおける2つの貫通孔22,24の周辺部を補強しても良い。
具体的には、梁ブラケット12のウェブ部12Bには、半径が異なる2つの貫通孔22,24が隣接して形成されている。貫通孔22は中心C1を中心とする半径R1の円形の孔とされ、貫通孔24は中心C2を中心とする半径R2(R1>R2)の円形の孔とされている。これらの貫通孔22,24の上下には、2つの貫通孔22,24にまたがるように一対の補強プレート26がそれぞれ設けられている。なお、一対の補強プレート26は、梁ブラケット12のウェブ部12Bの両面に設けられている。
また、一対の補強プレート26に関し、貫通孔24の中心C2を通る切断面CP2から梁軸方向に沿った補強プレート26の長手方向他端26Liまでの長さS2は、上記式(1)を満たすように設定されており、貫通孔22の中心C1を通る切断面CP1から梁軸方向に沿った補強プレート26の長手方向一端26Loまでの長さS1は上記式(2)及び式(3)を満たすように設定されている。更に、補強プレート26の幅Wや断面積等の条件も上記実施形態と同様である。
なお、本変形例では、補強プレート26の長さS1は貫通孔22の半径R1を基準として設定され、補強プレート26の長さS2は貫通孔24の半径R2を基準として設定される。例えば、補強プレート26の長さS1を算出する際は、式(2)及び式(3)における半径Rとして貫通孔22の半径R1が用いられる。また、半径R1及び半径R2の大きい方をRmaxとすると、補強プレート26の幅Wは、W≧Rmax/2に設定されている。なお、貫通孔22の半径R1と貫通孔24の半径R2とは、同じでも良いし、R1<R2でも良い。
このように2つの貫通孔22,24にまたがる一対の補強プレート26によってウェブ部12Bにおける貫通孔22,24の周辺部を補強することにより、2つの貫通孔22,24を別々の補強プレート26で補強する構成と比較して、補強プレート26の数を低減することができる。従って、施工性が向上する。また、2つの貫通孔22,24の周辺部に対する補強を別々に検討し、貫通孔22の周辺部にのみ補強が必要な場合であっても、貫通孔22に貫通孔24が接近していると、貫通孔24の影響によって貫通孔22の周辺部に対する補強のみでは性能を確保できない場合がある。この場合に、一対の補強プレート26によって貫通孔22,24の周辺部を連続補強とすることにより性能を確保することができる。
なお、貫通孔22の半径R1と貫通孔24の半径R2の平均値をRave(=(R1+R2)/2)とし、貫通孔22,24の中心C1,C2間の距離をPとしたときに、4Rave<Pとなる場合は、図5(B)に示されるように、ウェブ部12Bにおける貫通孔22,24の周辺部を別々の補強プレート46,48で補強しても良い。また、梁ブラケット12に作用する曲げモーメントは、鉄骨柱30から離れるに従って小さくなる。従って、4Rave<Pであって、補強の必要がない程度に貫通孔24が鉄骨柱30から離れている場合は、貫通孔24を補強しなくても良い。
また、図5(B)に示される変形例において、切断面CP1から補強プレート46の長手方向一端46Loまでの長さS1、及び切断面CP1から補強プレート46の長手方向他端46Liまでの長さS2を求める際は、上記式(1)〜式(3)における半径Rとして、貫通孔22の半径R1を用いれば良い。これと同様に、切断面CP2から補強プレート48の長手方向一端48Loまでの長さS1、及び切断面CP2から補強プレート48の長手方向他端48Liまでの長さS2を求める際は、上記式(1)〜式(3)における半径Rとして、貫通孔24の半径R2を用いれば良い。
次に、上記実施形態では、補強プレート16としてフラットバー(平鋼板)を用いたが、補強プレートとしては、L形鋼、T形鋼、C形鋼等のアングルを用いても良い。このようにアングルを用いることにより、フラットバーを用いた構成と比較して、H形鋼梁10の変形性能を向上することができる。
また、貫通孔14の周辺に小梁が取り付く場合は、補強プレート16を回し溶接すれば良い。更に、補強プレート16は一部材(一枚板)に限定されず、分割された複数部材を一部材と同等の性能になるように接合して用いることも可能である。小梁用ガセットプレート等により分割される場合も同様である。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
次に、載荷実験及び解析について説明する。
<概要>
本載荷実験及び解析では、補強プレートの断面積、長さ、幅、形状等をパラメータとし、実験モデルを用いた載荷実験、及び解析モデルを用いた有限要素法による解析を行った。
<実験モデル及び解析モデル>
図6(A)には、各種の実験モデル及び解析モデルの基本モデルが示されている。基本モデルにおけるH形鋼梁60は、曲げモーメントが卓越するロングスパン梁を模擬したものであり、長手方向一端部が図示しない鉄骨柱に接合(解析モデルでは、固定)された片持ち梁とされている。H形鋼梁60は、上下一対のフランジ部60Aとウェブ部60Bを備えたFAランク相当のH形鋼(強度490N/mm2級)で構成され、梁スパンが1250mm、梁成が300mmとされている。また、H形鋼梁60のウェブ部60Bには中心Cを中心とした半径R(=76mm)の円形の貫通孔64が形成されており、ウェブ部60Bの最大断面欠損面積Gmaxが912mm2(=半径76mm×2×板厚6mm)とされている。また、H形鋼梁60のウェブ部60Bの板厚は6mmとされている。
H形鋼梁60のウェブ部60Bに対する補強としては、図6(B)に示されるようにウェブ部60Bの両面に補強プレートとしての一対のフラットバー(平鋼板)66を設けた構成(以下、「補強タイプ1」という)と、図6(C)に示されるようにウェブ部60Bの一方の面に一対の補強プレートとしてのフラットバー66を設けると共に、ウェブ部60Bの他方の面に補強プレートとしての一対のアングル(L形鋼)68を設けた構成(以下、「補強タイプ2」という)を用いた。
補強タイプ1及び補強タイプ2における一対のフラットバー66は、貫通孔64の上下に設けられており、上下端部がH形鋼梁60のウェブ部60Bの表面に隅肉溶接(解析モデルでは、固定)されている。また、補強タイプ2における一対のアングル68は、フランジ部68Aとウェブ部68Bとを備え、ウェブ部68BをH形鋼梁60のウェブ部60Bに重ねると共に、フランジ部68Aを貫通孔64側に向けて配置されている。また、アングル68では、ウェブ部68Bの上下端部がH形鋼梁60のウェブ部60Bに隅肉溶接(解析モデルでは、固定)されている。
図7には、各モデル1〜19の詳細が示されている。これらのモデル1〜19について、H形鋼梁60の長手方向一端部を図示しない鉄骨柱に接合(解析モデルでは、固定支持)した状態で、H形鋼梁60の長手方向他端部の加力点P(フランジ部60A間の中間点)に鉛直荷重を上方へ載荷しながら同加力点(変位測定点)Pの変位を計測した。
なお、モデル1は、基本モデルに貫通孔64が形成されていない無孔の構成であり、モデル2は、基本モデルに貫通孔64が形成されているが、補強プレート(フラットバー66及びアングル68)がない構成である。また、モデル4は、図6(B)に示される補強タイプ1の構成において、あえて断面積が設定した条件に満たない場合を見るためにH形鋼梁60のウェブ部60Bの片面にのみ2本とし、かつ板厚の小さいフラットバー66を設けた構成である。更に、図7に示される補強プレートの各種寸法は、補強タイプ1ではフラットバー66の寸法を示し、補強タイプ2ではフラットバー66及びアングル68のウェブ部60Bの寸法を示している。
<評価基準>
性能評価では、全塑性耐力及び塑性変形倍率の2つの項目について評価した。なお、全塑性耐力及び塑性変形倍率の2つの項目が以下の基準値を満たすことが必須条件である。全塑性耐力とは、図8(A)に示されるように、載荷実験等の結果から得られた荷重変形関係において、初期剛性の延長線80と二次勾配の延長線82が交差する交点84の荷重(耐力)を意味し、無孔のモデル1の全塑性耐力を基準にモデル3〜19の全塑性耐力を評価した。また、塑性変形倍率は変形性能を表す指標であり、図8(B)に示されるように、前述した全塑性耐力の変位をδPとし、最大耐力の変位をδUとしたときに、塑性変形倍率=(δU/δP)−1で表されるものであり、鋼構造限界状態設計指針・同解説(日本建築学会)に規定されたFAランクに相当するP−1―1区分(塑性変形倍率≧4)を基準に、モデル3〜19の塑性変形倍率を評価した。
<載荷実験結果及び解析結果>
図9〜図17には、載荷実験又は解析の結果が示されている。
先ず、図9及び下記表1には、モデル1〜4の載荷実験結果が示されている。なお、モデル3とモデル4では、フラットバー66の断面積Fの合計値Fsumが異なっており、合計値Fsumを貫通孔64による最大断面欠損面積Gmax(=912mm2)で除した値がモデル3では1.05(=960mm2/912mm2)となり、モデル4では0.53(=480mm2/912mm2)となっている。
図9から分かるように、モデル3では、無孔のモデル1と同等以上の力学的性状が得られた。また、表1から分かるように、モデル1の全塑性耐力は212.06kNであるのに対し、モデル3の全塑性耐力は221.24kNとなり、モデル3の全塑性耐力が基準値であるモデル1の全塑性耐力よりも大きくなった。更に、モデル3の塑性変形倍率は6.82kNとなり、基準値以上(塑性変形倍率≧4)となった。一方、モデル4では、全塑性耐力が194.76kNとなり、基準値よりも小さくなった。このことから、フラットバー66の断面積Fの合計値Fsumが貫通孔64による最大断面欠損面積Gmax以上のときに、無孔のモデル1と同等以上の力学的性状を得られることが確認できる。
次に、図10には、モデル1〜3の載荷実験結果及び解析結果が示されている。図10から分かるように、各モデル1〜3の解析結果が各々の載荷実験結果に類似していることから、本解析が妥当であることが確認できる。
次に、図11には、モデル1,及びモデル5〜7の解析結果が示されている。なお、モデル5〜7では、フラットバー66の幅Wが異なっている(図7参照)。また、モデル6の幅W(38mm)は、貫通孔64の半径R(76mm)の1/2とされている。
図11から分かるように、モデル5では、全塑性耐力が基準値を下回った。一方、モデル6,7では、全塑性耐力及び塑性変形倍率が基準値以上となった。このことから、フラットバー66の幅Wは、貫通孔64の半径Rの1/2以上(W≧R/2)であることが好ましいことが分かる。なお、本条件は必須条件ではなく、例えば、フラットバー66の幅板厚比等によりW<R/2でも良い場合がある。
次に、図12にはモデル1、及びモデル8〜11の解析結果が示されており、図13(A)には解析結果から得られたモデル1、及びモデル8〜11の全塑性耐力が示されている。なお、モデル8〜11では、フラットバー66及びアングル68の長さS1が異なっている(図7参照)。また、図13(B)には、解析結果から得られたモデル1、及びモデル9,10,12〜14の全塑性耐力が示されている。なお、モデル10とモデル9,12〜14とは、フラットバー66及びアングル68の長さS1が異なっている(図7参照)。また、モデル9,12〜14では、フラットバー66及びアングル68の長さS2が異なっている(図7参照)。
図12及び図13(A)から分かるように、拘束端60BKから貫通孔64の中心までの距離Dが一定の場合、フラットバー66及びアングル68の長さS1が大きくなるにつれて全塑性耐力が大きくなる傾向があり、モデル8,9では全塑性耐力が基準値を下回った。一方、モデル10,11では、全塑性耐力及び塑性変形倍率が基準値以上となった。このことから、フラットバー66及びアングル68の長さS1が1.75R以上のときに無孔のモデル1と同等以上の力学的性状が得られることが確認できる。更に、図13(B)から分かるように、フラットバー66及びアングル68の長さS2が大きくなるにつれて全塑性耐力が大きくなる傾向があり、フラットバー66及びアングル68の長さS1を図12及び図13(A)から確認された下限値の1.75Rにし、フラットバー66及びアングル68の長さS2を2Rとしたモデル10では全塑性耐力が基準値以上となり、塑性変形倍率も基準値以上となった。このことから、フラットバー66及びアングル68の長さS2が2R以上のときに、無孔のモデル1と同等以上の力学的性状が得られることが確認できる。
ここで、フラットバー66及びアングル68では、必要長さS1が必要長さS2よりも短くなっている。これは、図6(A)に示されるように、H形鋼梁60のウェブ部60Bの拘束端60BKの支持条件が固定とされているため、拘束端60BK周辺部の変形が小さくなったためと考えられる。本解析では、H形鋼梁60のウェブ部60Bの拘束端60BKから貫通孔64の中心Cまでの距離Dが2Rとされている。従って、距離Dからフラットバー66及びアングル68の必要長さS1を差し引いた領域、即ち、拘束端60BKから貫通孔64側へ0.25R(=2R−1.75R)までの領域(図1(A)における拘束端側領域Eに相当)では、フラットバー66及びアングル68による補強が不要であることが確認できる。
図14(A)には、モデル1,及びモデル6,15〜17の解析結果が示されている。また、図14(B)には、解析結果から得られたモデル6,15〜17の全塑性耐力が示されている。なお、モデル6,15〜17では、拘束端60BKから貫通孔64の中心Cまでの距離D、及びフラットバー66の長さS1(=D−0.25R)が異なっている。
図14(A)及び図14(B)から分かるように、モデル16,17では、全塑性耐力が基準値を下回った。一方、モデル15では、全塑性耐力が基準値を僅かに上回り、塑性変形倍率が基準値以上となった。また、モデル6では、全塑性耐力及び塑性変形倍率が基準値以上となった。このことから、拘束端60BKから貫通孔64の中心Cまでの距離Dが1.75R以上、且つフラットバー66の長さS1が1.5R以上(S1≦D)のときに、無孔のモデル1と同等以上の力学的性状が得られることが確認できる。
次に、図15には、モデル1,及びモデル3’,18の解析結果が示されている。なお、モデル3’とモデル18とでは補強タイプが異なっている(図7参照)。
図15から分かるように、モデル3’,18では、全塑性耐力及び塑性変形倍率が基準値以上となった。また、モデル18は、モデル3’と比較して大変位量領域において耐力の低下が小さくなった。このことから、フラットバー66とアングル68とを組み合わせたモデル18は、フラットバー66のみを用いたモデル3’と比較して変形性能(塑性変形倍率)が向上したことが確認できる。
次に、図16には、モデル1,15,19の解析結果が示されている。ここで、モデル19は、ダイアフラム工法による鉄骨柱との接合を模擬したモデルであり、モデル15においてH形鋼梁60のウェブ部60Bの片面にガセットプレート34(図4参照)を設けたものである。なお、モデル19では、H形鋼梁60のウェブ部60Bにおけるガセットプレート34の梁軸方向内側の端部34A(図4参照)から貫通孔64の中心までの距離Dが1.75Rとされている。また、ガセットプレート34が重ねられたウェブ部60Bの領域は、その支持条件が固定とされている。
図16から分かるように、モデル15,19では、全塑性耐力及び塑性変形倍率が基準値以上となった。また、モデル19の解析結果が、モデル15の解析結果に近似した。このことから、モデル19では、ウェブ部60Bにおけるガセットプレート34の梁軸方向内側の端部34A(図4参照)に沿った部位が、モデル15における拘束端60BKに相当することが確認できる。
次に、図17には、モデル18、及びモデル18においてフラットバー66にSS400(強度400N/mm2級)を用いたモデル18’の解析結果が示されている。なお、モデル18では、フラットバー66にSN490(強度490N/mm2級)が用いられている。
図17から分かるように、モデル18’の解析結果がモデル18の解析結果に近似した。このことから、フラットバー66の鋼材強度は、H形鋼梁60の鋼材強度と同等、若しくはH形鋼梁60の鋼材強度のワンランク下程度でも良いことが確認できる。
以上の載荷実験結果及び解析結果から上記実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の有効性が確認できた。