JP5950307B2 - 腸を一時的に閉塞するための組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、医学的内視鏡検査法および内視鏡手術の分野に関し、特に、腸鏡検査法および腸の手術の分野に関する。
内視鏡検査法は、長年にわたり人間医学および獣医学において使用されてきている既に確立された診断方法である。この方法で使用される内視鏡は日夜開発が続けられており、今では、例えば光ファイバを用いた、身体内部の単純な照明または画像化に留まらず、低侵襲手術を行うための道具ともなっている。光ファイバとは別に、最新の内視鏡は、例えば、空気吸入器またはガスポンプ、イルリガートル、吸引ポンプ、さらに、注入用カニューレなどのフレキシブルツール、把持もしくは切断ツール、または、電流を用いて凝固を行うワイヤー電極を備えている。内視鏡は、各外科的処置に必要な医療ツールを導入する導管をいくつか有している。
特に人間と動物の腸における腸鏡を用いた外科的処置では、下剤の事前投与にも関わらず、検査および/または外科的治療の行われる場所を通過する排泄物によりしばしば困難が生じる。それにより手術がより困難でより長時間になるだけでなく、例えば組織サンプルの収集や組織の除去のための外科的処置では、患者が感染症にかかるリスクにもなる。そのため、腸鏡手術の間、腸の密閉を可能にすることが望まれるであろう。
文献では、本発明者が見出したのはWO2008/103891のみである。そのメインクレームは概ね、体温で粘性ポリマー組成物を硬化させ、「哺乳動物のある部位において」ポリマープラグを形成させることを含む。しかし、その出願の他の部分に記載の唯一の目的は、動脈の閉鎖、つまり止血にある。該文献における開示は、逆感熱性ポリマー、つまり、室温では水溶性であるが、体温で溶液から析出するポリマーに基づいている。例えば、商標名Pluronics(登録商標)としてBASFから市販されているものなどのポロキサマーが挙げられる。
天然および合成ポリマーを用い、場合により更に温度の変化で誘発されるポリマー溶液のゲル化を利用した止血を扱った他の文献としては以下が挙げられる。G.M. Stiel et al., Z. Kardiol. 81(10), 543-545 (1992)(ポリマーとしてコラーゲンを使用)および、J. Raymond et al., Biomaterials 25, 3983 (2005)(ポロキサマー);CN 1273860(ポロキサマー407);KR 2002/023441(N−イソプロピルアクリルアミドのコポリマー);および、US 5,894,022(アルブミン)。腸の閉鎖にこれらの材料を使用することは、引用文献の何れにも記載も提案もされていない。最初の2つの文献は、WO2008/103891にも引用されているが、ゲル化による血管閉塞プラグの形成は不利であると記載している。分解後のプラグがより狭い血管を塞ぐ恐れがあったり(Stiel et al.のコラーゲンに関して)、プラグが数分で望まれずに崩壊したり(Raymond et al.のポロキサマーに関して)するからである。
本発明の目的のために、温度変化が引き金となって状態変化を起こしうる材料は条件付で適するだけである。なぜなら、手術前の原則的に空になっている腸管腔では、血管での使用に反して、粘性ポリマー溶液を十分に素早く温めて、大部分の溶液が閉塞すべき部位を流れ過ぎてしまう前にポリマープラグを形成させることは不可能であろうためである。
この背景に対して、本発明の目的は、腸の一時的な閉塞の形成のための好適な材料を提供することにある。
発明の開示
このように、本発明は、一方では、哺乳動物の腸の一時的な閉塞を形成するための固体化可能な組成物の使用に関する。該組成物は、流動性を有し、かつ、腸内の所望の部位で固体化されて固体プラグを形成するものである。その個体プラグの構造は、後に閉塞を少なくとも部分的に除去するために変化する。他方では、本発明はその組成物に関する。本発明の組成物は、例えば、通常の内視鏡の1つまたは幾つかの導管を経由して所望の部位までポンプ注入されその場で固体化されうる。組成物を固体化する方法、および、外科処置が完了した後でプラグを除去する方法は、より詳細に後述するように、特に制限されない。唯一の本質的な側面は、プラグが問題の部位に到達する排泄物のバリアとなるように充分に長時間充分に安定したものとなり、医者がプラグの下流の内視鏡手術をなんの障害もなく行えるようにすることである。
プラグは、腸を完全に閉塞(100%)する必要は必ずしもないが、少なくとも、半固体または固体の排泄物が手術部位を通らないようにしなければならない。それは、プラグが例えば、多孔性構造を有していてもよいことを意味する。しかし、より流動性のある排泄物の通過も防止されることが好ましく、そのためにはプラグの密度がより緻密であることを要する。閉塞される腸の管腔の幅は種々異なる(例えば、小腸の幅は約2.5cm、結腸の幅は約6cmである)ので、本発明の組成物の腸内で固体化した後の構造は、所望の要件および腸内の目標適用部位に応じて、種々の可能な構造のうちの1つとなる。その構造について、以下にさらに詳述する。
組成物は、好ましくは、少なくとも1つの天然または合成ポリマーの流動性のある溶液、懸濁液、または分散液であり、好ましくは、膨張、凝固、重合、および架橋結合からなる群から選択される1以上の方法によって固体化され固体プラグを形成し得る。このように、一方では、通常の内視鏡を介して腸内の所望の適用部位に組成物を運ぶことができ、他方では、プラグ形成部位での急速な固体化が確保でき、排泄物が各部位に到達するのを効率的に防ぐことができる。
水もしくは他の溶媒または混合溶媒中での膨張は、組成物の固体化の簡単な方法であり、そしてまた患者にとって耐えられるものである。用いられるあらゆる有機溶媒は、腸粘膜の刺激を大きく防止するために生理学的に安全でなければならない。好ましくは、水または水性混合溶媒が使用される。幾つかの好ましい実施形態では、組成物はさらに固体化されて固体の泡またはゲルを形成し得る。これらは、急速に生成され簡単に除去されうるためである。本発明はまた、重合または架橋結合による、そしてまた溶液、懸濁液または分散液の凝固による、本発明の好適な組成物の固体化を含む。
本明細書において「凝固」または「凝集」とは、天然または合成ポリマーのコロイド溶液、懸濁液または分散液からの該ポリマーの析出をいう。析出の過程で膨張しそれによって腸を閉塞するゲルを形成するポリマーは、本発明の目的のために特に関心事であり、ゆえに、本明細書の目的のためには、「凝固」または「凝集」という用語は、同時に起こる膨張を包含する。
ゲル形成ポリマーの例としては、ゼラチン、ペクチン、その他のポリペプチド、澱粉、セルロース、アガロースなどの多糖類、トラガカントまたはカラヤゴムおよびその他のゴム類、ポリペプチドと多糖類からなる混合化合物(プロテオグリカンおよび糖タンパク質(例えば、カゼイン)など)が挙げられるが、核タンパク質、リポタンパク質、および、ポリペプチドと非タンパク性構成成分(合成ポリマーなど)のその他の組み合わせ(例えば、いわゆる「超吸収体」、つまり、ポリアクリル酸塩やポリグリコール(前述のポロキサマーなど))、ならびに前述の化合物の誘導体も挙げられる。
特に好ましいものとしては、ポリマーであって、その溶液、懸濁液、または分散液が、時として粘弾性またはチキソトロピー性挙動(つまり、エネルギーが供給されているときは流動性を示すが、エネルギー供給が止むと再度固体化して固体ゲル(つまりプラグ)を形成する)を示すものである。そのようなポリマーの公知の例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、多糖類(アルギン酸塩、デキストランまたはセルロースエーテルなど)、例えば、カルボキシメチルセルロース誘導体、および、ゲル形成ポリマーとして先に挙げた化合物の幾つかである。
例えば液体組成物がある条件に晒されたとき、例えば特定の閾値濃度、温度、pH値、またはイオン濃度を各値が超え、または下回ったときに、凝固は自然に発生し得る。または、凝固は処置をする医者によって意図的に誘発されてもよい。凝固のそのような誘発は、例えば、「ゲル化剤」を用いて行われる。この「ゲル化剤」については、後ほど定義をするが、本発明の組成物に含まれてもよく、または別に、例えば他の流動性製剤の形態で、閉塞の部位に運ばれてもよい。前者の場合(ゲル化剤を予め(唯一の)流動性組成物に含ませておく場合)、ポットライフ(つまり、ゲル化剤を添加してからゲル化が効果的に生じるまでの時間)に注意すべきである。後者の場合(ゲル化剤を別に供給する場合)、本発明の組成物は二成分システムとなり、一方は、天然または合成ポリマーの溶液、懸濁液または分散液からなり、他方は、ゲル化剤の流動性製剤からなる。
本明細書においてその最も広い意味において使用される場合、「ゲル化剤」とは、本発明の組成物のゲル化を誘導するあらゆる物質をいう。これは、より狭義のゲル化剤、つまりゲル形成ポリマーそれ自体、および「増粘剤」としばしば呼ばれる他の高分子、ならびに、ポリマーの凝固と同時のゲル化を誘発するためにポリマー溶液または懸濁液のイオン濃度またはゼータ電位を充分に変化させる、塩溶液などの、凝固剤、凝集剤または析出剤の両方を含む。前述のように、二成分システムは、2つの製剤、つまり、凝固させるポリマーの濃度が異なっており、かつポリマーが凝固、析出および同時にゲル化して所望のプラグを形成するような濃度を閉塞部位で提供する(コロイド)溶液、懸濁液、または分散液から構成されてもよい。
本明細書で用いられる場合、「閉塞の部位」とは、一時的に閉塞される腸の部位をいう。本発明の組成物は、その流動性のため場合によっては、後に固体化されるプラグの位置より若干上の位置に注入されなければならない。従って、閉塞の部位の定義は変動値(例えば、約10cm)範囲を含む。また、本発明に含まれる全ての場合に、組成物をできるだけ速やかに固体化させて所望の位置から流下するのを大幅に阻止する必要があることは、当業者にとって明白である。このため、本発明の大抵の組成物は、腸にポンプ注入できるように適度に流動性があるが、その場で素早く(好ましくは数秒以内に)固体化するという粘度を有していなければならない。例外としては、例えば、流動状態での粘度が供給エネルギーの量に依存する、粘弾性またはチキソトロピー性組成物が挙げられる。
特に好ましい実施形態では、凝固後さらに膨張可能なまたは「無限に」膨張可能なポリマーが用いられる。第1の膨張の過程で最初にゲルとなってゲルプラグを形成し、該ゲルプラグは、追加の膨張剤(好ましくは水)の添加で溶解され閉塞が除去される。適切な例としては、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、および類似の化合物ならびにそれらの誘導体が挙げられる。(時には繰り返される)膨張を用いたプラグの破壊については、後に、さらに詳細に説明する。
本明細書で用いられる場合、「重合」とは、重合性モノマーまたはプレポリマーの高分子鎖を形成するあらゆる反応をいい、「架橋結合」とは、そのような重合反応の特別な場合であって、2以上のポリマー鎖が結合されて3次元のポリマーネットワークを形成するものをいう。この目的に用いうるモノマーおよびプレポリマーは、特に制限を受けるものではないが、自明な理由で、生理学的に安全であることが決定的な判断基準となる。とりわけ、腸の粘膜に炎症を起こしてはならないし、また、腸の粘膜に吸収されるべきではではない。しかし、モノマーまたはプレポリマーから得られたポリマーの分解−望まれるか故意に起こされる分解−の過程で、養分として有益であってその吸収が望ましい代謝産物を生成するモノマーまたはプレポリマーは、この点において例外となる。脂質、タンパク質、および炭水化物を含め、エチレン二重結合などの重合性基で前もって修飾されることで所望のモノマーまたはプレポリマーに変形されうる数多くの例がある。可能な化合物があまりにも多いので、ビニル基が重合されると、容易に開裂され得るポリビニルアルコール誘導体を産出する単糖類および多糖類の炭酸ビニルエステルのみを例として記載する。炭酸エステルの開裂から生じるポリビニルアルコールは代謝的に不活性であるが、多糖類は酵素消化されて単糖類になる。単糖類は、体内で利用され腸で吸収され得る。
閉塞される腸の管腔の幅に良好に適合させるために、腸粘膜の腸分泌物の水分中、または必要な場合に使用され得る溶媒中で膨張するポリマーを形成する重合性モノマーまたはプレポリマーを用いることが好ましい。
重合を行う方法−および腸で組成物によって作られたプラグを分解する方法−は、使用部位に大きく依存する。腸内細菌叢および腸分泌物の化学成分は、個々の腸の箇所(小腸、結腸)およびその細分箇所(十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸)によって大きく異なるからである。このため、本発明の組成物は、それぞれの化学的環境を伴う特定の使用領域に適合させねばならない。
重合を行う方法は、特に制限を受けるわけではないが、一般には、アニオン重合、カチオン重合およびラジカル重合、重縮合、重付加、開環重合などが適用されうる。重合速度ができるだけ速いことが望まれるので、なかでも、ラジカル重合は選択すべき方法であり、本発明によれば好ましい。ラジカル重合は、熱的または光化学的に開始される。どちらの場合も、従来の内視鏡の光ファイバを通じた照射により誘発され得る。充分に粘性のある充分な量の重合性組成物が、例えば、内視鏡の導管を通して所望の部位にポンプ注入され得、その後直ぐに、重合を誘発するために、内視鏡の別の導管にある光ファイバを通じて光の照射(例えば、熱開始剤については赤外線放射、または、一般的な光開始剤の大部分についてはUV/VIS放射)が行われ得る。これに関連して用いられるラジカル開始剤は、好ましくは、一般に、Type−I開始剤およびType−II開始剤から選択されうる。Type−I開始剤、つまり、アルファ開裂型開始剤には、ベンゾイン誘導体、アセトフェノン誘導体、ベンジルケタール誘導体、およびアシルホスフィンオキシド誘導体があり、Type−II開始剤、つまり、水素引抜型開始剤には、ベンゾフェノン誘導体、キノン誘導体、ジケトン誘導体およびチオキサントン誘導体などがある。
重合性組成物への放射の浸透深さは通常相対的に低いことも記憶しておかなければならない。このため、層厚は、例えば、UV反応性光開始剤を用いた重合の場合、約2cmを超えてはならない。この理由で、赤外線放射開始剤を用いた光重合または熱重合は、比較的に広い腸管腔を有する領域、つまり、例えば結腸には好ましくない。
重合性組成物の全ての化学成分が、重合される前に接する組織にとって無害である限り、重合反応の持続時間は二次的な重要事項に過ぎない。前述のように、組成物には流動性が必要であり、そのために組成物の一部が流れてしまうという問題がある。そのため、組成物の重合した部分が、重合が本質的に完了するまで、所定の閉塞部位において残りの組成物を留めることができるのを確実にするよう、重合は数秒以内に十分に進行しなければならない。
重合性組成物は、好ましくは、水、もしくは体が耐えられる有機溶媒、またはそれらの混合物である溶媒を含みうる。しかし、粘性は可能な限り高くあるべきであり、また、組成物は流動性を有し、かつ可能な限り高い重合速度を有するべきであるため、組成物は溶媒フリーの場合もある。その場合、全てのまたは一部のモノマーは、重合過程で形成されるポリマーに組み込まれる反応性希釈液として機能しうる。このように形成されたポリマーは、少なくともプラグの周辺領域にある腸分泌物に含まれる水で膨張可能である。
本発明によれば、本発明の組成物は、重合の前に体が良好に耐えられるだけでなく、その構造が変化した後、またはポリマープラグが再び破壊された後にも耐えられるモノマーまたはプレポリマーを含むことが好ましい。特に、組成物は、可能な−または所望される−腸内でのポリマーの分解時に不活性である化合物、または粘膜によって吸収されうる養分として機能し得る化合物であることが好ましい。前者の場合の例としては、エステル結合の重合および開裂後の副産物としてポリビニルアルコールを形成するビニルエステルポリマーが含まれる。このポリビニルアルコールは、その不活性のために、数多くの薬品の一部となっている(例えば、保護コロイドとして)。後者の場合の例としては、多種多様の多糖類、ポリペプチド、および脂質から選択されうる。そのため、本明細書ではグリコーゲンとゼラチンだけを多糖類とポリペプチドのあり得る例として記載している。
前述のように、組成物はプラグ形成のため固体化可能でなければならず、そのプラグの構造は、閉塞のその後の少なくとも部分的な除去のために変化するものであり、その構造変化は、少なくとも部分的な機械的、物理的および/または化学的な破壊である。本明細書において、プラグ構造の少なくとも部分的な破壊とは、その最も広い意味において、腸の所定の部位を流下する排泄物の量が、その部位を閉塞した直後よりも多くなるような、プラグ構造のあらゆる変化を意味する。そのような構造変化は、自然に生じてもよいし、および/または、外部からの影響によって誘発されてもよい。「自然に」変化が生じる場合は、腸内の条件、例えば、腸粘膜のpH値、または腸に分泌される酵素、が引き金となり得る。
「プラグ構造の機械的な破壊」には、腸の閉塞を少なくとも部分的に除去し、およびプラグの構造的完全性に好ましく影響を与えまたは破壊するのに適したツールを用いて臨床医によって取られるあらゆる処置が含まれる。この目的のために、通常の内視鏡に備えられている、または装備可能である、様々な把持または切断ツールを既に述べた方法で用いてもよく、または、特殊なツールをこの目的のために構成してもよい。このように、腸の閉塞を少なくとも部分的に除去するために、構造によってはプラグは、鉗子または外科用メスを用いて切断されてもよく、グリッパーを用いて引きちぎられてもよく、ピンを用いて穿孔されてもよい。
本発明はまた、内視鏡手術が完了した後、内視鏡の一方の端に搭載された把持ツールでプラグを把持し、次に、肛門を経由して腸からプラグを(場合によっては基本的に無傷の状態で)引き出すことも含む。この場合、閉塞を少なくとも部分的に除去するためのプラグの変更可能な構造の前述の要件は、プラグ材料が弾力性のある可撓性を有し、同時に、十分に一貫したものであることを意味する。そうであれば、閉塞しているプラグを、粘膜に傷を付けずに腸壁から剥がして腸から運び出すことができる。本発明はまた、プラグをツールで把持し腸壁から取り除いてから、手作業で取り出す代わりに、後からくる排泄物によりプラグにかかる圧力でプラグが肛門へ運ばれる場合も包含する。しかし、肛門への道筋で腸に新たに望まれない閉塞ができるおそれがあるため、この実施形態は好まれない。
プラグの機械的な破壊の後で分解することもできる。分解は自然に生じても、臨床医によって開始されてもよく、また、大体急速に起こりうる。好ましい例では、その粘弾性またはチキソトロピー性挙動のために形成されたプラグは、機械的なエネルギーを与えられて流動状態に再変換される。機械的なエネルギーは、プラグにせん断応力の形で、つまり、内部に侵入しかき混ぜ動作をすることによって、任意に腸壁に低圧力をかけることによって、与えられ、その結果、プラグ材料の少なくとも一部が閉塞部位から流下し、閉塞が除去される。続いて徐々にプラグ材料は腸分泌物によって分解され、最終的に肛門から除去され、または腸粘膜に吸収される。少なくとも一部の吸収は、プラグを除去する全ての場合において好ましい変形例の一つである。
プラグの物理的な構造変化は、ツールを用いないで、構造を充分変化させるすべての過程を含む。これにより、プラグ材料の実質的な化学変化なしに、腸の閉塞を少なくとも部分的に除去する。これは、例えば、温度の上昇または下降による構造変化を含む。本明細書における目的のために、膨張および収縮(膨張の逆過程を意味する)も、その過程でプラグ材料の化学結合の状態に必然的に顕著な変化を引き起こすものであっても、定義のその最も広い意味において含まれる。
臨床医によって引き起こされる温度変化は、例えば、赤外線をプラグに照射することによって引き起こされてもよい。その場合もやはり、適切な光源が用いられ、最新の内視鏡に付設されている光ファイバがこの目的に使用されうる。さらに、赤外領域に適合した特殊な光ファイバケーブルが用いられるとよりよい結果が得られる。
腸内環境による、例えばプラグに達した排泄物の影響による、自然な膨張/収縮は除外されないが、これらのプロセスは通常、反応相手に的を絞った供給、つまり、水もしくは溶媒などの膨張剤、または収縮剤もしくは「非膨張剤」(つまり、膨張したポリマー(例えば、ヒドロゲル)の、膨張の度合いや体積を減少させる薬剤)を必要とする。例えば、使用可能な収縮剤としては、イオン性溶質の塩溶液または他の溶液もしくは懸濁液であって、該イオン性溶質が膨張したポリマー中に入り込み、その副原子価を飽和するため、膨張したポリマーはもはや水または溶媒と結合できず、膨張の度合いの減少を引き起こしプラグを縮小させるものである。
プラグの構造は、膨張剤または追加の膨張剤の供給が所望の構造変化を引き起こすために充分なものになるよう、膨張または(本発明の組成物が、プラグを形成するために膨張によってすでに固体化されている場合、)さらなる膨張によって少なくとも部分的に破壊されることが好ましい。追加の膨張剤は、第1の膨張プロセスで用いたものと同じ薬剤であってもよいし、他の薬剤であってもよい。本発明の組成物を固体化させる第1の膨張は、例えば水を用いて行われてもよく、そうして形成されたプラグの構造はその後、水性混合溶媒を第2の膨張剤として用いて再び(少なくとも部分的に)破壊されてもよい。またはその逆であってもよい。
膨張によって引き起こされる構造変化は、プラグ材料の(多かれ少なかれ完全な)溶解とその単なる軟化の両方を含みうる。(再び)膨張した軟化したプラグを機械的に破壊することは容易(またはより容易)であり得、あるいは、肛門への道筋で腸に新たな閉塞を生じさせる危険性なく、その部位に来た排泄物の圧力でプラグが自然に腸から排出される程度に、プラグ材料が軟化されてもよい。後者の変形例は、物理的または物理化学的な破壊と機械的な除去の組合せを含む構造変化の例である。
前述の膨張に対して代替的または付加的に、プラグの構造は、電磁放射の照射によって少なくとも一部は破壊されてもよい。本発明の組成物は、例えば、適切な波長の光が照射されると酸を放出し、プラグの所望の構造変化を誘発する、光酸発生剤を含有するポリマーを含みうる。ポリマーはまた、例えば、照射されるとプラグ材料内で重合又は架橋結合を起こし該材料の構造変化を引き起こす光開始剤を含有しうる。構造変化は、例えば、(より)多孔性でより透過性のポリマーネットワークの生成にあってもよく、または、プラグ材料の光重合で膨張性が増す材料の生成にあってもよい。後者のケースは、照射と膨張の組合せによって引き起こされる構造変化の例である。
膨張と照射に対して代替的または付加的に、プラグの構造はまた、化学結合の開裂により少なくとも部分的に破壊可能であってもよい。本明細書では、物理的な構造変化に対する前述の定義とこの定義とを区別するために、「開裂性化学結合」という用語が主に共有結合を意味する。膨張または収縮の過程において、また、凝固過程においても、配位結合、例えば、水素結合、またはイオン結合などの二次結合は「開裂される」からである。
そのような化学結合の開裂のために、好ましくは、本発明の組成物は、1以上のポリマー、および/または、不安定な結合を含有する1以上のモノマーを含む。このモノマーは、組成物が重合または架橋結合によって固体化されるとき重合されてポリマーネットワークを形成するものである。本明細書でその最も広い意味において用いられる場合、「不安定な結合」とは、比較的簡単な方法で、および好ましくは穏やかな環境下で化学的に開裂されうる結合をいう。不安定な結合は、好ましくは、加水分解、光および温度に感受性のある結合から選択され、好ましくは、アセタール結合、ケタール結合、エステル結合、オルトエステル結合、アゾ結合、エーテル結合および無水物結合からなる群から選択される。酵素的に開裂可能な結合もまた好ましく、体内で生成され、腸に分泌される消化酵素によって開裂されうる結合が特に好ましく、結合のタイプは手術の目的部位、従って閉塞の目的部位にやはり依存する。
例えば、前述の光酸発生剤の1つを照射することによって酸を発生させ、酸に不安定な結合の開裂をプラグ内で起こすことが可能である。これは、照射と化学結合の開裂の組合せによって起こる構造変化の例である。生理的に無害であるためには、照射の影響により光酸生成剤から放出される酸、または故意に例えば試薬(溶液)として付加される酸は、強すぎてはならない。このために、不安定な(この場合、酸に不安定な)結合は、弱酸性の媒体で早くも開裂されるものでなければならない。塩基が使用されて塩基に不安定な結合を開裂させる場合にもこれは類似的に当てはまる。これもまた、加水分解感受性結合の例となる。
この理由のために、希釈した酸または塩基の存在下でも開裂性を有する、酸または塩基に不安定な結合を有する化合物が特に好ましい。そのような化合物としては、炭酸塩、アセタール、無水物およびオルトエステルが挙げられる。こうして、弱酸または弱アルカリのpH値のキームスまたは排泄物によって開裂され得るプラグ材料を得ることができる。pH値は、哺乳動物によって代謝される食物の組成および腸の手術部位の位置に依存するが、結果的に、外部介入なしに、少なくとも部分的に、プラグは徐々に分解される。例えば、pH値は、十二指腸で約5から8の間、結腸で5.5から6.8の間である。実際には、閉塞の目標部位の腸のpH値は、処置の前の一定期間にわたりこの目的に特別に適した食事を患者に与えることによって、ある程度まで制御されうる。
アゾ基およびジアゾ基などの光または温度に感受性のある結合を有する化合物も、本発明の組成物により形成されたプラグの構造の、光分解または熱分解による変化または破壊にとって好ましい。どちらの場合も、変化/破壊は、内視鏡の光ファイバを通じた照射がやはり引き金となる。
本発明の組成物の顕著な優位性は、従来の内視鏡の導管を通じて、例えばポンプ注入することにより、肛門を経由して所望の部位に、使用部位に供給され、その部位において前記プラグを形成するのに適切な様式で固体化され得ることにある。このように、本発明の組成物の使用では、腸の閉塞を達成するために腸壁に傷をつけることは必要とされない。腸の閉塞は、非侵襲または低侵襲な方法(適用された定義によって)および処置を受けている患者が非常によく耐えられる方法で、達成され得る。
好ましくは、本発明の組成物で形成された固体プラグも肛門を経由して除去される。それは任意に、その構造物の先行する少なくとも一部の破壊の後であってもよい。プラグ構造物の少なくとも部分的な破壊が化学的または生物学的な分解を伴う場合、肛門を経由する除去に対して代替的または付加的に、患者の腸壁を通じた少なくとも部分的な吸収も起こり得る。
プラグ形成に必要な成分に加えて、本発明の組成物は、哺乳動物の腸への適用が不可能でなく、かつ本発明の効果を妨げない限り、さらにどんな成分を含有してもよい。本明細書に明示される例としては、増粘剤または流動剤などの粘度調節剤、可溶化剤または溶解性促進剤(例えば、界面活性剤および乳化剤)、ゲル化剤、泡安定剤、および接着剤が挙げられる。後者は、腸壁に対するプラグの接着性を向上させるために機能する。例えば、極めて粘着性の高い天然ポリマー、例えば、前述のトラガカントやカラヤゴム、がそのために用いられてもよい。それらは、例えば、プラグが膨張の結果としてのみ形成されるなら、組成物に単純に混合されればよく、または、可能な重合反応に関与する方法で修飾されてもよい。この場合、そのような誘導体は、単独の重合性化合物であってもよく、重合されてプラグを形成するホモポリマーになってもよい。または、組成物の他の重合性成分とコポリマーを形成してもよい。
本発明の組成物が投与される患者は、特に制限を受けるわけではなく、ペットまたは家畜であってもよい。しかし、特に内視鏡手術の費用が相当な額になることから、患者は通常ヒト患者であるだろう。
図1から図3は、豚の天然の腸における本発明の実施形態のモデル実験の写真である。 図1から図3は、豚の天然の腸における本発明の実施形態のモデル実験の写真である。 図1から図3は、豚の天然の腸における本発明の実施形態のモデル実験の写真である。
以下、図面を参照しつつ、非限定的で例示的なケースおよび豚の腸部分を用いた実際のモデル実験により本発明を詳細に説明する。
本発明の組成物の組成および性質はどちらも、閉塞を形成するポリマープラグの形成方法および除去方法に著しく影響を受けるので、以下に述べる実施例は、これら方法的な態様によりグループ分けされる。実施例1から13は、プラグ形成のための様々なタイプの固体化を説明する。それに続く実施例14から28は閉塞の除去を説明する。以下の実施例では個々の場合で特に明確に述べていないかもしれないが、実際には、プラグ形成方法と除去方法はいかようにも組合せ可能である。全ての実施例において、本発明の組成物は、内視鏡の導管を通じて簡単に閉塞部位に供給される。少なくとも理論上は、例えば、別のチューブまたは導管を通じて、または例えば、注射器により腸壁を介してといった、閉塞部位に各組成物を運ぶための他の選択肢があるが、それらから生じる複雑さのために、そのような処置は実際にはほとんど利用されない。
前述のように、本発明の組成物は、あらゆる追加の成分を含有しうる。医療化学の分野の平均的な技術者であれば、互いに適合しうる成分であり、接する腸の粘膜が耐えられる成分の適切な製剤を簡単に処方しうる。
A)腸に閉塞を形成する種々の方法
A1.ゲル化/凝固による組成物の固体化
実施例1および2−二成分システム
ゲル化点に近い濃度にある膨張性ポリマーの水性コロイド溶液または懸濁液(製剤A)を、従来の内視鏡の導管を通じて所望の閉塞部位にポンプ注入する。その内視鏡の同じ導管または第2の導管を通じて、ゲル化剤の流動性製剤Bの充分な量を腸の同じ部位に投与する。粘度とポンプ圧は、一方では、2製剤の温度が導管内で大きく変化し過ぎないように各製剤が迅速に目標部位に運ばれるように選択され、他方では、2つの液体の多くの量が閉塞部位から流れてしまわないように2製剤の迅速な混合が確保されるように選択される。
実施例1:ポリマー自体がゲル化剤として機能する。
製剤A、Bは、任意に化学修飾されている、寒天、ゼラチン、カラギーナンなどのコロイド溶液である。任意の修飾は、例えば、ゲル状態からゾル状態への遷移が起こる温度(以下、「ゲル化温度」という)を変えるのに役立つ。この温度は通常、ゼラチンで35℃、寒天で45℃である。または、任意の修飾は、さもなければ固体ゲルが1%溶液で既に形成され得るようなときに、溶解度を改善するのに役立つ。代替的または付加的に、非イオン形成性界面活性剤などの界面活性剤、例えば、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、または他の適切な薬剤が、より高い濃度においてのみゲル化が起こるという効果を有する溶解性促進剤として付加されうる。
そのような溶解性促進剤が付加されない場合、製剤Aは、ゲル化点直前の濃度の水性溶液、例えば、最大約0.9%溶液であり得、製剤Bは、ゲル化温度を超える温度に熱せられる、より高い濃度の水性溶液であり得る。より高い濃度は、該2つの構成要素の定量的な割合および混合率に依存する。例えば、100mlの0.9%製剤Aと、10mlの温かい15%製剤Bが、同時に閉塞場所に供給される。これに関連して用いられる「温かい」とは、十分に高い温度であって、内視鏡の導管内で冷やされる可能性があるにも関わらず、溶液が、導管内でゲル化しないように、内視鏡から腸管腔に放出されるときにゲル化温度を上回る温度を有するのを担保する温度をいう。流速、流路の長さ、および、運ばれる溶液と導管の材料の間の熱交換の程度に応じて、導管に入れられる時点での温度は、50〜60℃あれば充分であろう。好ましくは、温度は、放出点でゲル化温度を少し、例えば<5℃超えるのみである。そうであれば、冷却が充分に速く生じてプラグを形成し、過度の量の溶液がさらに下流に流れるのを防止しうる。
2つの溶液は、ゲル化濃度を超える濃度と、ゲル化温度より下の温度で、混合物となり、ポリマーは直ちに固体ゲルプラグを形成する。固体ゲルプラグの外径は約4〜5cmであり、各部位で腸に栓をする。
代替的に、水または生理食塩水が製剤Bとして用いられる。この場合、ゲル化は、ゲル化値より有意に上の濃度(例えば、5%溶液)およびゲル化温度を超える温度でポリマー溶液を製剤Aとして閉塞部位にポンプ注入し、室温または室温より低い温度(例えば10〜15℃)の水を供給することにより開始され、ゲル化温度より低い温度で混合物が素早く形成される。
実施例2:追加のゲル化剤
製剤Aは、実施例1に記載の、ゼラチン、寒天、または同様の、任意に修飾されたポリペプチドまたは多糖類の、約0.9%溶液であり、製剤Bは、飽和食塩水など、別のゲル化剤の溶液である。二成分を混合すると、ポリマーの溶解度は食塩によって低くなり、ポリマーは凝固しゲル化して所望のプラグを形成する。
実施例3〜6−一成分システム
二成分システムで前述したのと同様の機構および/またはレオロジー効果を用いて、本発明は単一の流動性組成物の形でも実施されうる。
実施例3:温度の自然変化によるゲル化
ゲル化値を超える濃度の前述のポリペプチドまたは多糖類のうちの一つの溶液が、温められた状態、つまり、閉塞部位に到達したときの溶液の温度がゲル化温度より若干高い温度であるような充分に高い温度で腸内に供給される。冷却の過程で、組成物はゲル化し閉塞を形成する。
しかしながら、代替的には、逆方向に温度が変化した場合にゾル状態からゲル状態への変化が起こる、つまり、温められるとゲルになる、ポリマーの溶液または懸濁液を用いてもよい。この例としてはポロキサマーが挙げられる。ポロキサマーは、技術水準によれば周知であり、既に最初のところで述べている。ポロキサマーは、冷たい溶液の形態で、例えば約15℃の温度で、供給され、それぞれのゲル化温度、例えば20℃に、温められるとゲル化する。しかし、加熱によるゲル化はたいてい冷却によるゲル化よりかなりゆっくりであることを考慮に入れなければならず、この変形例は本発明では好ましくない。
実施例4:標的化された加熱によるゲル化
温度を上げてゲル化するポリマーに関する前述の問題は、その場で溶液を更に加熱することによって解決され得る。実施例3に記載のように、約15℃の溶液を閉塞部にポンプ注入し、直ちに内視鏡の光ファイバを通じて赤外線を照射して十分に急速加熱し溶液をゲル化してもよい。これは、ゲル化と照射の組合せによるプラグ形成の例である。
実施例5:脱水によるゲル化
実施例1で述べたように、約0.9%のゼラチン溶液、または同様の溶液が閉塞部位にポンプ注入される。その溶液は、任意に、セルロースエーテルなどの増粘剤、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、または、ポリビニルアルコールを添加することにより、体温でなんとか流動性を示す程度の粘度に調整されている。組成物は好ましくは、内視鏡の導管に入れられる前に体温に予め温められる。腸で組成物から水が吸収されるために、その粘度は増し、その濃度がゲル化の閾値を超えるとゲル化し、プラグを形成する。
実施例6:粘弾性またはチキソトロピー性によるゲル化
この場合、体がよく耐えられる、粘弾性またはチキソトロピー性挙動を示す天然または合成ポリマーの、コロイド溶液、懸濁液または分散液が用いられる。製剤は、好ましくは、ポリエチレングリコール、多糖類(例えば、アルギン酸塩、デキストラン)、またはセルロースエーテル(例えば、カルボキシメチルセルロース誘導体)などの、1以上の適切なポリマーを、外部エネルギーが供給されていなければ製剤が流動性を示さず、少量のエネルギーの供給で内視鏡の導管を通してポンプ注入されうるような濃度で、含有する。付加的または代替的に、製剤は、一定量の(さらなる)生理学的に安全なチキソトロピック剤を含有しうる。
実際には、ゲル形態の適切なポリマーの溶液、懸濁液または分散液は、製剤が流動性を維持するのに充分なエネルギーを提供するせん断応力を起こすような圧力と流速で、かき回しおよび閉塞部位に内視鏡の導管を通してポンプ注入されることによって液化する。導管からの放出後、エネルギーはもはや供給されないので製剤は素早く固体化し、腸管腔を閉塞する固体ゲルを形成する。
A2.重合を用いた組成物の固体化
実施例7〜10−一成分システム。
これらの場合、本発明の重合性組成物は、製剤として閉塞部位にポンプ注入され、重合によって固体化され、固体プラグを形成する、全ての場合で、重合は基本的にその場で、つまり閉塞部位で起こるだけであるが、組成物が流動性を維持している範囲で、導管を通して運ばれている間に重合が既に始まっている場合もある。一般に、重合によって形成されたポリマーは、任意にそこにある溶媒、または腸分泌物からの水、またはその両方によって膨張しうるべきであることは、一成分システムおよび二成分システムの両方を含めて全ての重合の例について再度言及されるべきである。
実施例7:室温での重合
重合性製剤は、適切なモノマーまたはプレポリマーを、室温で既に反応性の開始剤、および、任意に、溶媒、好ましくは水、と混合させて作られる。この場合、適切な開始剤としては、主に、フリーラジカル重合のレドックス開始剤、例えば、いずれも水溶性であるFe2+/H2O2の系、ペルオキソ硫酸塩/メタ重硫酸塩の系、過酸化物/チオ硫酸塩の系、またはペルオキソ硫酸塩/チオ硫酸塩の系が挙げられる。修飾セルロースなどの異なる多糖類誘導体のグラフト重合では、多糖類自体が還元のレドックス相手として機能するため、例えばセリウム(IV)塩の使用で足りる。アニオン性およびカチオン性開始剤も用いうるが、イオン性重合の反応速度が遅いために好ましくない。
重合性モノマーおよびプレポリマーは、特に制限を受けるものではない。好ましくは、水溶性の、生理学的に安全な化合物で、水で膨張可能なポリマーになる反応をする化合物、より好ましくは、エチレン二重結合を有する化合物、特に、そのポリマーが分解すると腸に養分として吸収され得る化合物になり得る化合物、例えば、脂肪酸、アミノ酸またはフルーツ酸のビニルエステル、例えば、乳酸、クエン酸、酒石酸のビニルエステル、が選択される。重合されたとき、これらの化合物は、酸または塩基のおよび/またはエステラーゼの影響下で開裂されてポリビニルアルコール(PVAL)および該当する酸になる、ポリビニルアルコールの誘導体を産出する。アスパラギン酸またはクエン酸もしくは酒石酸、または同様のポリカルボン酸が用いられた場合、それらのジビニルエステルまたはトリビニルエステルは−それら自身で、またはモノビニルエステルに加えて−架橋剤として機能するように用いられ得る。モノエステルモノマーとトリエステルモノマーの割合によって架橋結合の程度が制御され、それによりポリマーの膨張性が制御される。上述の理由から、ポリマーは膨張しすぎないことが通常望ましいため、架橋剤の量は好ましくは約10モル%以下であり、より好ましくは、5モル%以下である。
プレポリマーがモノマーの代わりにまたはモノマーに加えて用いられる場合、その忍容性と分解性も考慮しなければならない。好ましい例では、前述したように、例えばポリペプチド、多糖類などの天然ポリマーの改良された代表物が含まれる。特に、ゼラチン、ヒアルロン酸、または、グリコーゲンのビニルオキシカルボニルオキシ誘導体、つまり、炭素のモノビニルエステル−例えば、プレポリマーにOH基、NH基、またはNH基がないもの−で、脱カルボキシル化で簡単に開裂してPVALと該当する天然ポリマーになり得るもの、が含まれる。
いかなる場合にも、室温で機能する開始剤の重合は、成分が混合されたとき早速開始されるが、その程度は、例えば、内視鏡の導管に入れる前に製剤を冷却しておくことによって、または、微量の安定剤を添加しておくことによって、微量に抑えることができる。それでも、閉塞部位への供給はなるべく早く、つまり、比較的に高い圧力、高い流速で、導管がつまらないように、行う必要がある。組成物が体内で温まると、重合反応は加速し急速に進んで完了する。重合物は、続いて水で膨張し、閉塞を示すプラグを形成する。
実施例8:熱開始重合
実施例7に記載のものと同様の組成物、つまり、例えば、モノマーまたはプレポリマーとしてビニルエステルまたは炭酸ビニル誘導体を用いた組成物であるが、有機過酸化物などの熱重合開始剤、例えば、過酸化ジベンゾイルもしくは過酸化ジ−tert−ブチル、またはアゾ化合物と組み合わせた組成物。閉塞部位で、組成物に直ぐに、内視鏡の第2の導管にある光ファイバを通じて赤外線を照射する。理想的には、かなりの量の組成物がさらに下流に流れてしまう前に重合を開始させるため、第1の導管からの製剤の出口で同時に赤外線を照射する。腸の粘膜が火傷しないように腸の粘膜に照射しないように注意を要する。
実施例9:光重合
前の2つの実施例に記載のものと同様の組成物が、光開始剤、および任意に追加の感光薬(sensitizer)または共開始剤(co-initiator)を用いて作られる。閉塞部位で、製剤は再度直ちに照射される。この場合、従来の光開始剤によりたいてい吸収される、UV/VIS領域にある適切な波長の光が用いられる。臨床医は再度、任意の刺激を防止すべく周囲の腸粘膜を照射しないよう注意を要する。
実例として、非常に高い反応速度を可能とする、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(CibaからDarocur(登録商標) 1173として入手可能)などの単純なヒドロキシアルキルフェノンが開始剤として用いられ、200から340nmの間の波長の光が照射される。的確な波長は開始剤の濃度に依存する。濃度は、好ましくは、水/アルコールまたは水/グリコール(エーテル)などの、水と有機溶媒の混合物で、好ましくは、0.001%から0.1%の間である。2、3秒で、重合性基の大部分は反応し、所望のプラグを形成する膨張ポリマーが得られる。
実施例10:発泡下での重合
付加的に発泡剤を含有する、実施例7から9に記載のものなどの組成物は、閉塞部位で重合されるが、発泡剤が形成されたポリマーを発泡させ、腸管腔を完全に閉塞する。アゾ化合物が開始剤として使用された場合、開始剤自体が発泡剤として機能してもよく、および/または、1以上のモノマーまたはプレポリマーが、ポリマーを膨らませて発泡体を形成するように、重合の過程で気体を放出する機能基、例えば熱の影響下で、例えば、カルボキシル基を除去するときにCOを解放するポリウレタンまたは炭酸塩、を含有する。付加的に、ポリマー発泡体の安定性と弾性を増加させるために組成物は泡安定剤を含有してもよい。例としては、脂肪酸アルカノールアミド、またはエトキシ化ポリシロキサンが挙げられる。
実施例11〜13:二成分システム
重合により硬化しうる本発明の組成物も、2製剤A、Bからなる二成分システムであってよく、2番目の成分は、好ましくは重合開始剤を含有する。しかし、重合開始剤は前記2番目の製剤に含まれている(唯一の成分である)必要はない。開始剤の代わりにまたは開始剤に追加して、2番目の成分は、例えば、膨張剤、1以上のさらなるモノマーまたはプレポリマー、重合を止める重合防止剤、重合システムが接触する腸壁の保護溶液、などを含む。実例の目的で3つの好ましい実施形態を以下に記載する。
実施例11:2番目の成分は重合開始剤を含む。
ここで、実施例7に記載のものなどの重合性組成物、つまり、室温で反応する開始剤、例えば、レドックス開始剤Fe2+/H2O2、を含む重合性組成物は、二成分システムの形で用いられる。製剤Bは、最少量の溶媒(好ましくは、水)に溶解された開始剤を含有し、製剤Aは、組成物のその他全ての成分を含有する。実施例1、2と同様に、2製剤は、内視鏡の2つの導管を介して別々に閉塞部位に注入され、そこで、混合され、重合が開始される。他の点では一致している一成分システムと比較して優れている点は、導管内での重合が効果的に防止されるということである。このことは、冷却または阻害剤による組成物の阻害を必要とせずに、より反応性の開始剤を用いうることを意味する。本発明はまた、両製剤が、一定量の同じ開始剤または2つの異なる開始剤、例えば、レドックス開始剤および光開始剤、を含む場合も包含する。
実施例12:2番目の成分は膨張剤を含む。
実施例9に記載のものと同様の重合性組成物、つまり、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンなどの光開始剤を含有するが、全ての成分を溶解するために、最少量の溶媒、好ましくは、水/グリコールエーテルの混合物も含有する重合性組成物が、製剤Aとして閉塞部位にポンプ注入され、そこでUV放射によって重合される。同時にまたは数秒、例えば2または3秒、遅れて、純水または水/溶媒の混合物、例えばまた、水/グリコールエーテルの混合物、が製剤Bとして閉塞部位にポンプ注入され、そこで形成されるポリマーの充分な膨張を確保する。この2番目の製剤Bは、内視鏡の別の導管を通してポンプ注入されてもよいが、例えば、内視鏡に3つの使用可能な導管がないときなどは、先の製剤Aと同じ導管を通してポンプ注入されてもよい。このシステムの優れている点は、製剤Aの重合が実施例9の場合よりもより急速に起こるという点にある。
実施例13:2番目の成分は保護剤を含む。
実施例7〜11のいずれか1つに記載の重合性製剤は、閉塞部位にポンプ注入されそこで重合する。しかし、その前に、閉塞部位周りの腸の粘膜の領域(例えば、口側方向および反口側方向へそれぞれ、5から10cm)には、プラグ材料の接触および放射に対して粘膜を保護するために、保護剤の膜が被覆される。付加的に、保護剤は、腸壁に対するプラグの接着性を向上させるために接着剤として働き得る。実例としてはやはり、トラガカントやカラヤなどの前述のゴムが挙げられるが、異なる他の、粘膜がよく耐えうる、例えば、ゼラチン、グリコーゲン、その他の、好ましくは天然の、ポリマーの、溶液、懸濁液、およびゲルが挙げられる。こうした粘膜に先に設けておく裏張りは、本発明のあらゆる他の例示的な実施形態と組み合わせても実施され得る。
以下、内視鏡手術の完了後、プラグを除去する種々の変形例について説明する。以下の実施例およびより一般的な前述の方法の全ての可能な組合せは、本発明の範囲に含まれうる。
B)閉塞を除去する種々の方法
B1.閉塞の機械的な除去
実施例14、15−プラグの機械的な取り外し
これらの実施例は、ポリマープラグを腸の粘膜から単に外すだけであるが、その後の腸からの最終的な除去は何らかの適切な方法で主として行われうる。
実施例14:プラグを引き抜く。
充分に安定しているプラグ(例えば、ゼラチンもしくは修飾ゼラチン、または泡安定剤を用いて弾性を与えられたポリマー発泡体の膨張または重合によって得られる粘性ゲル)は、内視鏡の端にある把持ツールを用いて閉塞部位から反口側の方向に引き離される。閉塞部位が接着性の被覆物で予め裏打ちされていて、その接着性被覆物無しにはプラグ材料が粘膜に十分に接着しない場合には、プラグはもう腸壁に接着されることはないので、これで充分である。その後の腸内からの除去は、次の排泄物の圧力によっておよび/または腸内分泌による溶解によって(任意には少なくとも部分的な吸収と組み合わさって)、肛門から行われる。
実施例15:せん断応力の適用
プラグが粘弾性またはチキソトロピー性挙動により閉塞部位に形成された好ましい例の各々では、処置をする医者は、内視鏡を、好ましくは、内視鏡の適切な突起物を、プラグに入れて、かき回す動作を行い、任意に、腸壁に少し圧力をかけ、せん断効果でプラグを除去する。このように適用されたせん断応力によって、粘弾性/チキソトロピー性プラグ材料は、少なくとも部分的に、流動性状態に戻り、閉塞部位から流下し、閉塞を除去する。流下は、医者が内視鏡でこする動作をすることにより補助されてもよい。腸からの最終的な除去は、実施例14のように、自然に放出される、および/または、少なくとも部分的に溶解され、任意に吸収されることによって、行われてもよい。正確には、この実施例は、閉塞の機械的な除去と物理的な除去の組合せである。
実施例16〜19−プラグの機械的破壊
プラグの構造的完全性が機械的手段によって完全に破壊される、または全く破壊されない、前述の実施例14および実施例15に反して、以下の実施例は、プラグの構造が、機械的手段によって部分的に破壊される実施形態について説明する。
実施例16:プラグに穿孔する。
特に、プラグが、腸内で分解されうる材料からなる、例えば、前述のポリペプチドまたは多糖類を基盤とした、発砲プラスチックまたはゲルからなる場合、内視鏡の端に設けられたピンなどの突起物でプラグに孔をあけて閉塞を破壊すれば、閉塞が除去され、排泄物が再度各部位を通過できるようになるのに充分である。その後、閉塞材料は徐々に化学的、例えば酵素的に分解され、または消化される。
実施例17:プラグを引き裂く
実施例14と比較して、構造的に安定していないが、実施例15のように、腸内で分解するプラグ材料であり、さらに、例えば、先に接着剤を適用した後、ゲルまたは発泡体の場合に腸壁に非常に強く付着するプラグ材料の場合、例えば、内視鏡に実装された適切なツールでプラグを把持し、プラグを引き裂くようにしてもよい。これは、閉塞の除去後、多かれ少かれ、大きな破片が腸壁に付着したまま残るがその後に化学的に分解され(例えば消化され)ることを意味する。
実施例18:プラグの切断
実施例15と同様の方法では、しかし特に、より粘性および/または弾性のある、生物学的に分解可能なプラグ材料が用いられた場合には、プラグは、内視鏡に実装されている外科用メスまたは同様の切断ツールで切断することによって破壊されてもよい。最新の内視鏡はそのようなツールを通常装備している。除去はその後、好ましくは、酵素分解を用いて行われる。
B2.閉塞の物理的な除去
実施例19、20−温度上昇によるプラグの除去。
プラグ形成に関する実施例4および実施例8と同様の方法で、プラグの除去も、赤外線の照射、これにより引き起こされる材料の加熱、を用いて、行われてもよい。
実施例19:ゾル/ゲル遷移を用いたプラグの除去
実施例1に記載のものと同様の組成からなるプラグ、つまり、寒天などの天然ポリマーのゲルからなるプラグは、ゲル化温度を超える温度(例えば、45℃)まで赤外線の照射により加熱される。これにより、材料の液化がおこり閉塞が除去される。腸内からの最終的な除去はやはり、材料の自然な放出によって、または好ましくは酵素分解によって起こってもよい。
実施例20:熱収縮によるプラグの除去
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドなどの熱応答性ヒドロゲルおよびそのコポリマーから重合によって得られるプラグは、赤外線の照射により加熱される。これによりヒドロゲルは水を解放して小さくなり大幅に(例えば、元々の体積の20〜30%だけ)収縮する。材料が再び膨張するために利用できる十分な水はないため、その後材料は自然な方法で除去され得る。
実施例21〜23−膨張または溶解によるプラグの除去
前述したように、ゲルの構造は追加の膨張剤、電解質溶液または溶媒の追加によって大きく変化し得る。
実施例21:さらなる膨張
内視鏡の導管を介して、追加の水、好ましくは元のプラグの容積の数倍の水、例えば、2倍から3倍以上、例えば、200から300mlの水が、ゼラチン、寒天、または他のポリペプチドもしくは多糖類(例えば、実施例1に記載のもの)等の無限に膨張可能なヒドロゲルからなるプラグにポンプ注入される。これにより、ゲルの濃度は最終的にゲル化に必要な閾値レベル以下、例えば、1%にまで減少し、液化される。
実施例22:収縮
ヒドロゲル(例えば、実施例1に記載のゼラチンのヒドロゲル)は、内視鏡の導管を介してプラグにポンプ注入される、飽和食塩水または生理食塩水などの電解質溶液で処理される。これにより、塩イオンでのポリマー内の結合部位の飽和が起こり、ゲルが小さくなり収縮する。次に、自然におよび/または消化および吸収による腸からの除去が可能になる。
実施例23:溶媒の追加
ヒドロゲル(例えば、実施例1に記載のゼラチンのヒドロゲル)は、例えば、ゼラチンの場合、非常に薄められた酢酸またはグリコール、例えばエチレングリコールの溶媒で処理される。溶媒は内視鏡の導管を介してプラグにポンプ注入される。これにより、ゼラチンは溶解され閉塞部位から流れ去る。
B3.化学結合の開裂による閉塞の除去
実施例24および25−照射による結合の開裂
次の2つの実施例は、プラグ材料内の結合を開裂させる物理的・化学的方法が一体化した例である。
実施例24:赤外線の照射
この場合、実施例20に反して、赤外線の使用は、プラグ全体を加熱してその構造を変化させることを目的としない。ポリマーネットワーク内のアゾ結合などの温度感受性化学結合を開裂させることを目的とする。閉塞の形成のために、アゾ化合物は二官能性モノマーとしてつまり架橋剤として機能し、ビニルエステルモノマーまたは修飾ゼラチンもしくは修飾寒天などの一官能性「メイン」ポリマーと、光化学開始剤(例えば、Darocur(登録商標) 1173)を用いて、共重合されてもよい。こうして形成されたプラグは内視鏡手術のあと、赤外線に晒されると、アゾ結合が架橋結合部位で標的化された様式で開裂され、Nを開放し、プラグの構造的完全性の実質的な変化をもたらす。
一方で、このようにして開裂された材料はもはやあまり膨張性はなく水などの溶媒の存在によって液化され得る。他方で、例えば、架橋結合の度合いが高くそのためにネットワークの剛性が高いため、結合開裂前の膨張性が著しく制限されている場合、材料は、架橋結合の度合いの減少により膨張性が増す可能性がある。どちらの場合も、その後に水などの膨張剤を供給すると、実施例21と同様にして、プラグ材料の溶解を引き起こし得る。前述の幾つかの実施例に既に記載したように、プラグ材料は酵素によってさらに開裂され得、かつ任意に吸収され得る。
実施例25:UV/VIS光の照射
この実施例は、UVまたは可視光によって開裂可能な光酸発生剤、例えば、ニトロベンジルエステルまたはスルホニウム塩もしくはヨードニウム塩がプラグのポリマーネットワーク内に含有されている場合について記載する。この光酸発生剤は、添加剤の形で存在してもよいし、または、適切に修飾されている場合には、ポリマー構造内に組み込まれてもよい(即ち、共重合化)。例えば、ビニルエステルまたは修飾ゼラチンもしくは寒天が、やはり(他の)モノマーとして機能してもよい。しかし、この場合、アセタールまたは無水物結合などの酸に不安定な結合を有するコモノマー、好ましくは、架橋結合として機能するコモノマー、例えば、メタクリル酸無水物または好ましくは炭酸ジビニル、の存在が必須である。プラグ形成のための重合は、熱的に、または、レドックス開始剤、もしくは、光酸発生剤とは完全に異なる波長の光を吸収する光開始剤を用いて、行われたものであってもよい。
内視鏡手術の完了後、光酸発生剤が吸収可能な波長の光をプラグに照射し、プラグ構造を破壊する。これにより、酸が解放されて酸に不安定な結合の開裂を引き起こし、−架橋結合の度合いに応じて−上記実施例24に記載の結果と同様の結果となり得る。
実施例26〜28−酸、塩基または酵素を用いた結合の開裂
光酸発生剤の照射を用いてプラグ材料内に酸を発生させる代わりに、外部的に酸が供給されてもよい。同様に、このことは、塩基または酵素で開裂可能な結合など、他のタイプの化学的に不安定な結合にも当てはまる。
実施例26:希酸または希塩基の追加
実施例25に記載のものと同様の材料からなるプラグは、好ましくは、身体が耐えられる弱酸または弱塩基で処理される。つまり、その溶液は内視鏡の導管を通して閉塞部位にポンプ注入される。酸または塩基の影響のために、それぞれ酸または塩基に不安定な結合は、好ましくは、架橋結合部位にあるその結合は、開裂され、膨張性の増大または低下、または、その後の酵素的切断のより良いアクセス性をやはり引き起こし得る。
実施例27:酵素溶液の追加
実施例25に記載の酸または塩基溶液の代わりにまたはそれに追加して、プラグは、ポリマーネットワークで働く酵素の溶液で処理されてもよい。ゼラチンヒドロゲルの場合、アミノペプチダーゼまたはカルボキシペプチダーゼなどのペプチダーゼまたはペプチドヒドロラーゼが用いられうる。寒天または他の多糖類ゲルの場合、該当するグリコシダーゼが用いられうる。例えば、寒天ではガラクトシダーゼを用いうる。糖タンパク質およびプロテオグリカンでは、両タイプの酵素を含む混合物が用いられうる。好ましくは、各患者種の自己の酵素、つまり特に人体の内因性の酵素が用いられる。
実施例28:腸分泌物によるプラグの開裂
既に幾度か述べたように、本発明の組成物の特に好ましい実施形態は、任意に先の外部介入後に、腸の自然環境で、つまり、特に腸分泌物の影響下で、分解可能であるプラグを作り出す。この環境には、酸に不安定な結合、それ程多くはないが塩基に不安定な結合も含め、それらの結合の開裂を引き起こしうる腸液のpH値、および、プラグが酵素分解を起こしうるそれぞれの腸の箇所の酵素環境を含む。好ましくは、プラグ材料は分解されると、患者の栄養成分になり、腸壁を介して吸収され得る。
腸での自然分解の他の変形例としては、周辺分解である。これは即ち、腸粘膜に接触する部位におけるプラグ材料の分解および部分的な溶解であり、一方では腸壁へのプラグの接着性を高めるが、他方ではまた、以後の排泄物によってかかる圧力による反口側方向へのその後の移送の過程で、肛門を通じてプラグが安全に放出され得る程度まで体積を徐々に減少させるというものである。この場合、用いられ得るのは、本明細書で既に幾度か記載した、主に天然ポリマーとその誘導体である。
実施例29〜31−豚の腸でのモデル実験
現在、本発明の特に好ましい実施形態は、前記実施例1および実施例2に記載のポリペプチドと多糖類のゲル化溶液を含む。それらは、治療される患者が最も耐えられるプラグ形成の方法を保障し、同時に、全く自然の成分だけ、特に食品添加物として承認されている成分の使用を可能とするからである。特に、別のゲル化剤を有する、実施例2に従う、二成分システムが好ましい。−腸内の閉塞部位、およびプラグ形成の指定の時点について−最も良好に標的化されたゲル化を可能とするからである。
有用なポリペプチドと多糖類のリストは長くなる。食品として承認されている製品の例としては、動物性タンパク質ポリペプチドであるゼラチンおよびカゼイン(乳タンパク質)ならびに多糖類であるアルギン酸塩(E400−405)、寒天(E406)、カラギーナン(E407)、イナゴマメのゴム(carobin)(ローカストビーンガム、E410)、グアーガム(グアービーンの粉、E412)、トラガカント(E413)、アラビアゴム(E414)、キサンタンガム(E415)、カラヤ(E416)、およびペクチン(E440)がある。カッコ内は、欧州連合登録番号である。これらの製品は、生理学的に完全に安全である。腸で使用されるタンパク質は−それらの滞留時間によるが−部分的に分解および吸収される。多糖類の多くは体内に吸収されることができずに排出される。
数多くの実験を、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、紅藻類から抽出された多糖類を用いて行った。その実験において、ゲル化点に近い値に濃度を調整した溶液を、食肉解体場から入手した豚の天然の腸の断片(各50cmの長さ)に入れ、そこで、ゲル化剤として機能する2番目の溶液と混合し、ゲルプラグを自然に形成させた。
実施例29:アルギン酸ナトリウム
アルギン酸ナトリウムの水性溶液もカルシウムイオンの存在下で自然にゲル化する。カルシウムイオンは、自然に形成される最初の段階のゲル膜を通して確定したゲル層厚までだけに拡散する。このゲル層下のアルギン酸ナトリウムは、ゲル化しないで液体のまま残る。その結果、水性アルギン酸ナトリウムが適宜水性カルシウムイオン溶液に入れられ、安定したゲル泡が形成される。泡の内部は、非ゲル状アルギン酸ナトリウムからなる。ゲル膜の厚さは、アルギン酸ナトリウム溶液の最初の濃度とカルシウム溶液の濃度によって決まる。適切なカルシウム塩としては、アルギン酸ナトリウムのように医薬品純度で入手可能である塩化カルシウムであろう。
架橋結合反応の100%の変換では、0.5モルのカルシウムイオンが、1当量のアルギン酸塩と反応する。こうして、少なくとも20%の変換に達するために、一般に、充分な量のカルシウム塩水溶液が、充分に高い濃度で、所望の処置部位の上流の腸の所望の領域に、内視鏡のカニューレを用いて投入され、その位置で液体充満領域が形成される。
例えば、0.1〜5wt%の間の好ましい濃度のアルギン酸ナトリウムの溶液がこの液体充満領域に投入される。これにより、非ゲル状のアルギン酸塩溶液で満たされた自然にゲル化したアルギン酸カルシウムの壁からなるゲル泡の形成が引き起こされる。その後、所望の閉塞に到達するまで、つまり、所望の部位にゲルプラグが形成されるまで、アルギン酸塩溶液がゲル泡内に注入される。
作られたゲル泡は、腸の一時的な完全な閉塞をもたらす大きさを有する。ゲル泡は周囲の腸壁に接触し機械的に腸を閉塞する。ゲル泡の必要な大きさとそのための両溶液の必要量は、腸の目標領域のそれぞれの状況に依存する。
液体充満領域の形成を簡単にするために、カルシウム溶液が、適切な増粘剤、例えば、澱粉誘導体で高い粘度に調整されてもよい。腸壁に対するゲル泡の接着性を増加させるために、腸壁(粘膜)への接着性を増加させる添加剤がアルギン酸塩溶液に付加されてもよい(例えば、カゼインなどの可溶性タンパク質)。さらに、貯蔵安定性を増加させるために、安定剤(例えば、ソルビン酸カリウム)が両溶液に付加されてもよい。
ゲル泡の近傍のカルシウム濃度が充分に高ければ、(時には手違いにより望まれずに)ゲル泡のゲル膜に損傷が生じても、非ゲル状のアルギン酸塩溶液の放出で直ちに新鮮なゲル膜が新しく形成されゲル泡の損傷が修復される。内視鏡のカニューレの放出端は、好ましくは、ゲル泡の形成に適した形状、つまり、例えば、漏斗状またはフランジ状を有する。
具体的には、塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)の1%水溶液100mlを一端に結び目を有する豚の腸に注入した。その後、その液体にカニューレを差し込み、その塩化カルシウム溶液にアルギン酸ナトリウムの2%水溶液50mlを注入した。両溶液は室温(つまり21℃)であり、アルギン酸塩溶液は、よく見えるように色濃くされた(青色色素)。アルギン酸カルシウムは、注入の開始から自然に形成され、塩化カルシウム溶液の液体内で固体膜を形成した。膜は膨張してゲル泡を形成し完全に腸片を閉塞した。図1において、暗色のゲル泡とその上の残りの塩化カルシウム溶液がはっきりと見て取れる。腸を逆さまにしても、図2に示されるように、ゲル泡は強固に腸壁に付着しており、数時間保存した後も安定していた。
このように形成されたプラグの除去の際、最初に、その周りの塩化カルシウム溶液を200mlの脱イオン水で洗い流した。その後、ピンでプラグに孔を開け、非ゲル状のアルギン酸塩溶液をゲル泡から放出させた。次に、ゲル泡を指で掴むと簡単に腸壁から剥がすことができ腸片から引き出せた。図3は、長手方向に切り開いた腸片内の空のゲル泡を示している。ゲル膜の一部は裂かなくても既に腸から剥がれている。このように、この例は、実施例2、14および16の組合せである。
実施例30−カラギーナン
カラギーナンは温水に簡単に溶解する。しかし、約2wt%の濃度から開始して、冷却後にゲル化してヒドロゲルを形成する。これは、カラギーナンが実施例1に記載の一成分システムに非常に適していることの理由である。アルギン酸塩溶液と同様に、希釈された、冷たいカラギーナン水溶液が、カルシウムイオンの存在下で自然に架橋結合され、ゲルを形成する。カラギーナンの場合、その架橋結合はカリウムイオンでも達成されうる。
本発明の実施形態としてゲル化によるプラグ形成の原理の一般的な有効性を例証するために、カラギーナンの使用は実施例29とは逆の方法(最初に多糖類溶液を豚の腸に注入し、次に金属イオン溶液を注入してゲル泡を形成したという意味である)に基づくものであった。順序の反転(当然実施例29でも機能する)は、多糖類やタンパク質などの、ゲル化点より若干下に調整された、ゲル化剤の溶液は、粘度を増加させられることをうまく活用し、場合によっては、増粘剤を追加しなくても最初に腸内に注入された溶液が閉塞部位から流下しないようにする。
実際には、カラギーナンの粘性水性溶液100ml(濃度1wt%)を豚の腸に注入し、次に、その液体の中心にカニューレを差し込み、塩化カルシウム二水和物(CaCl2HO)の1%溶液50mlをカラギーナン溶液に注入した。カラギーナンはまた界面で自然に架橋結合され、ソフトで弾性のあるゲルを形成した。塩化カルシウム溶液を追加すると再び膨張し、泡化したゲルが腸管腔を完全に占めた。腸を逆さにしても、ゲルは強固に腸壁に付着しており数時間の保存の間も安定していた。
その後、非架橋結合カラギーナン溶液を脱イオン水で洗い流し、形成されているゲルプラグを指で掴み腸壁から引き離した。これはゲル膜の破裂を引き起こし−先の実施例に比べてカラギーナンゲルの接着力がより高いためである−、非架橋結合塩化カルシウム溶液が放出された。このように、この例は、前記実施例2〜17の組合せである。
実施例31−ゼラチン
ゼラチンの水溶液(濃度約1wt%以上)は温度35℃以下で自然にゲル化した。同じゲル化効果が、ゼラチン溶液のイオン強度の増加で溶解度を低くすることにより遂行されうる。ゼラチンは無制限に膨張しうるので、そのヒドロゲルはさらに水を追加することによって再溶解され得る。
こうして、室温(21℃)に冷やされた100mlの粘性ゼラチン水溶液(濃度約0.9wt%)を豚の腸に注入し、次に液体の中心にカニューレを差し込んで、50mlの飽和食塩水(35℃)をゼラチン溶液に注入した。ゼラチンは自然にゲル化し軟らかいゲルを形成した。やはり、腸を逆さまにしてもゲルは腸壁に強固に付着しており、数時間の保管の後も安定していた。
このように形成されたプラグはその後、40℃に予加熱された脱イオン水(計740ml)の注入でさらなる膨張を起こし、やはりその最中に液化して、腸から洗い落とされた。この例は、前記実施例2および21の組合せである。
前述のモデル実験の結果として、アルギン酸ナトリウムを用いた実施例29が最も有望であることが証明された。ゲル泡の形成により閉塞されるべき腸管腔に対して2つの多糖類ゲルを適合させることは、とりわけ、ゲル泡による腸壁への圧力のため、ゼラチンを用いるよりも簡単であり、よりきつく腸管腔を閉塞することもできる。さらに、アルギン酸ナトリウムの使用によって、プラグは、好ましくは、そのタンパク質に対する自然な親和性と、粘膜に対するその後のより強い接着性のため、カラギーナンの場合よりもより簡単に腸壁から剥がれ得る。その結果、アルギン酸ナトリウムとCa2+の組合せが今のところ、本発明の最も好ましい実施形態である。
このように、本発明は、種々の、しかし簡素で効率的な方法で、腸を一時的に閉塞し、内視鏡手術をスムーズに行うことができるように、利用可能な幾つかの新規な組成物を提供する。該閉塞は、処置の完了後にいくつかの異なる方法で取り外し可能である。閉塞の形成には従来の内視鏡を利用しうる。

Claims (9)

  1. 哺乳動物の腸の一時的な閉塞を形成するための組成物であって、前記組成物は、少なくとも一つの天然または合成ポリマーの流動性のある溶液、懸濁液または分散液であって、かつ、固体化可能であって腸の所望の部位において固体プラグを形成し、前記プラグの構造は、その後の少なくとも部分的な前記閉塞の除去のために変化し得るものであり、その特徴が、前記組成物はチキソトロピー剤を含有し、チキソトロピー性挙動を示すことであり、前記組成物は、液化可能である固体組成物であるとき、機械的なエネルギーを供給することによって流動状態に変換可能であり、流動状態において、前記組成物は導管を通して腸の所望の部位にポンプ注入することができ、エネルギーの供給を止めることによって、再び固体化し、固体プラグを形成する、組成物。
  2. 前記ポリマー自体がチキソトロピー剤として機能することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記チキソトロピー剤が1以上のポリエチレングリコールまたは多糖類を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記チキソトロピー剤がアルギン酸塩、デキストランおよびセルロースエーテルから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
  5. 前記ポリマーが、不安定な結合を含み、かつ前記プラグの構造が前記結合を開裂させることにより少なくとも部分的に破壊されうることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 前記不安定な結合が、加水分解、光および温度に感受性の結合、ならびに酵素により開裂可能な結合から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
  7. 前記不安定な結合が、アセタール結合、ケタール結合、エステル結合、オルトエステル結合、アゾ結合、エーテル結合および無水物結合からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
  8. 化学結合を開裂させることにより、前記固体プラグが、腸壁に吸収されることによって除去可能である分解産物に変換され得ることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
  9. 前記哺乳動物が人間であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
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