以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施の形態においては、本発明に係る車両の制御装置を、自動変速機として無段変速機(以下、CVT(Continuously Variable Transmission) ともいう。)を搭載した車両に適用した場合について説明する。
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1は、動力源としてのエンジン10と、変速装置20と、油圧制御装置30と、デファレンシャル機構40と、ドライブシャフト43と、駆動輪45と、ECU(Electronic Control Unit)100とを備えている。本実施の形態に係る車両1の制御装置は、ECU100を含んで構成されており、エンジン10を制御するとともに、後述するトルクコンバータ50を含んで構成される変速装置20を制御するようになっている。
エンジン10は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しないシリンダの燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の内燃機関である動力装置により構成されている。エンジン10に用いられる燃料は、ガソリンや軽油等に限られず、エタノール等のアルコールを含むアルコール燃料であってもよい。
エンジン10は、燃焼室内で混合気の吸気、燃焼および排気を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復移動させ、ピストンに連結されたクランクシャフト15を回転させるようになっている。クランクシャフト15は、変速装置20に連結されるとともに、エンジン10で発生された動力を変速装置20に伝達するようになっている。この変速装置20の構成については、後で詳述する。
また、エンジン10に繋がる吸気経路11の下流部には、電子制御式のスロットルバルブ12が設けられており、エンジン10の各シリンダに供給される吸入空気の吸入空気量を調整するようになっている。エンジン10は、ECU100からの制御に基づき、スロットルバルブ12のスロットル開度に応じてその出力が制御されるようになっている。
油圧制御装置30は、トルクコンバータ50を含む変速装置20に作動油としてのオイルを供給するとともに、供給するオイルの油圧を調整することにより、変速装置20を制御するようになっている。油圧制御装置30は、後述するECU100によって制御される複数のソレノイドバルブを備えており、各ソレノイドバルブのON/OFFを制御することで、油圧回路の切り替えおよび油圧の制御を行うようになっている。
ドライブシャフト43は、左ドライブシャフト43Lおよび右ドライブシャフト43Rを有している。駆動輪45は、左駆動輪45Lおよび右駆動輪45Rを有している。
デファレンシャル機構40は、変速装置20から伝達された動力を、左ドライブシャフト43Lを回転させることによって左駆動輪45Lに伝達するとともに、右ドライブシャフト43Rを回転させることによって右駆動輪45Rに伝達するようになっている。これにより、デファレンシャル機構40は、カーブ等を走行する際に、左駆動輪45Lと右駆動輪45Rとの回転数の差を吸収するようになっている。
駆動輪45は、ドライブシャフト43に取り付けられた金属製のホイールと、ホイールの外周に取り付けられた樹脂製のタイヤとを備えている。駆動輪45は、ドライブシャフト43によって伝達された動力により回転し、タイヤと路面との摩擦作用によって、車両1を走行させるようになっている。
ECU100は、ROM(Read Only Memory)102と、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、入力インタフェースおよび出力インタフェースとを備えている。ECU100を構成するCPU、ROM102、RAM、EEPROM、入力インタフェースおよび出力インタフェースは、バスを介して相互に通信可能に接続されている。
ECU100のROM102には、読み出し専用のデータとして、後述するトルクコンバータ50の油圧制御や変速装置20に含まれるCVT70の変速制御、トルクコンバータ50の駆動力判定のための制御等の処理を規定した制御プログラム、および各制御プログラムを実行する際に参照するマップ等のデータが予め記憶されている。ECU100のCPUは、ROM102に記憶された制御プログラムおよびマップ等に基づいて、所定の時間間隔(例えば、10ms)毎に演算処理を実行するようになっている。
ROM102に予め記憶されるマップとしては、後述するプライマリプーリ72の入力側油圧シリンダ73のプライマリシーブ圧と、セカンダリプーリ77の出力側油圧シリンダ78のベルト挟圧と、CVT70の変速比と、後述するアクセルペダル14の開度(以下、アクセル開度Accともいう。)との関係を示すマップがある。また、ROM102には、後述するトルクコンバータ50の出力側の推定エンジントルクを算出する算出式や、後述するスロットルセンサ89から取得されるスロットル開度(もしくはエンジン回転数)とエンジントルクとの関係を示すマップが予め記憶されている。
また、ECU100のROM102には、ロストドライブ判定のためのタービン回転数Ntを判定する際の閾値となるタービン回転数判定閾値(以下、単に「判定閾値」ともいう。)Ntoのデータが記憶されている。この判定閾値Ntoは、一定の値ではなく、エンジン10の始動後の所定時間におけるエンジン回転数Neの立ち上がり特性のばらつきを考慮して予め実験的に定められた可変の値である。
具体的には、図4に一例として示すように、エンジン始動判定後の所定時間経過時のエンジン回転数Neと、トルクコンバータ50に供給されるオイルの油温tho毎にエンジン回転数Neが高くなるに従って高い値となるように設定された複数の判定閾値Ntoとの関係を表すマップMPが、記憶手段としてのROM102に記憶されている。
ECU100のRAMには、CPUによる演算結果や、後述する各種センサから入力されたデータ等が一時的に記憶されるようになっている。また、不揮発性のメモリからなるEEPROMには、例えば、エンジン10の停止時に保存すべきデータ等が記憶されるようになっている。また、車両用制御プログラムおよびマップ等を、ROM102に記憶させる代わりに、このEEPROMに記憶させるようにしてもよい。
ECU100の入力インタフェースには、後述する各種センサが接続されており、これらセンサが検出した信号が入力されるようになっている。また、ECU100の出力インタフェースには、油圧制御装置30(図3参照)の一部を構成する複数のソレノイドバルブが接続されている。ECU100は、各種センサで検出された信号を入力インタフェースを介して入力し、必要に応じてROM102やRAMを参照してCPUにより演算を行い、その演算結果に基づいた制御信号を出力インタフェースを介して出力することにより、本実施の形態に係る各種制御を実行するようになっている。
このように、ECU100は、車両1の全体の制御を統括する電子制御装置となっている。ECU100は、図示しない他のECU、例えば、車両1のブレーキを制御するブレーキECU、車両1に搭載されているバッテリの充放電を制御するバッテリECU等をさらに備えるようにしてもよい。
車両1は、さらに、スタートスイッチ2、クランクセンサ81、シフトセンサ82、駆動軸回転数センサ83、アクセル開度センサ84、入力軸回転数センサ85、出力軸回転数センサ86、タービン回転数センサ87、ブレーキセンサ88、スロットルセンサ89および油温センサ90を備えている。これら各センサのうち、入力軸回転数センサ85、出力軸回転数センサ86およびタービン回転数センサ87については、後述する変速装置20と関連させて説明する。
スタートスイッチ2は、例えばプッシュ式スイッチである。スタートスイッチ2は、運転者によってON操作、すなわちボタンが押下されると、ON操作されたことを表す信号をECU100に出力するようになっている。なお、スタートスイッチ2は、キーをキーシリンダに差し込んで所定の位置まで回転させるものであってもよい。
クランクセンサ81は、クランクシャフト15のクランク位置またはクランク角度を検知してエンジン回転数Neを検出するためのクランクポジションセンサにより構成されている。クランクセンサ81は、クランクシャフト15の回転数を検出して信号に変換し、その信号をエンジン回転数NeとしてECU100に出力するようになっている。したがって、このクランクセンサ81は、本発明に係る第1の検出手段を構成する。以下の記載において、このクランクセンサ81を、便宜上「Neセンサ」ともいう。
シフトセンサ82は、シフトレバー22が、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、マニュアル(M)等の各種シフトポジションのうちいずれのシフトポジションにあるのかを検出するシフトポジションセンサにより構成されている。Pポジションは駐車レンジに対応し、Rポジションは後進レンジに対応し、Nポジションは中立レンジに対応し、Dポジションは前進レンジに対応する。Mポジションは、手動変速モードにおいて自動変速機(後述するCVT70)の変速レンジをシフトアップおよびシフトダウンするためのシーケンシャルシフトレンジに対応する。
シフトセンサ82は、シフトレバー22のシフトポジションを検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。ここでは、シフト手段としてシフトレバー22を採用しているが、この形態に限らず、シフトボタン等を採用してもよい。
ECU100は、シフトレバー22がDポジションに位置していることをシフトセンサ82から取得した場合には、自動変速モードに移行し、車速、スロットル開度および変速マップに基づき、油圧制御装置30を介して自動変速機(後述するCVT70)の変速段をシフトするようになっている。また、ECU100は、シフトレバー22がMポジションに位置していることをシフトセンサ82から取得した場合には、手動変速モードに移行するとともに、運転者により指示された変速レンジに応じて自動変速機(後述するCVT70)の変速段をシフトするようになっている。
駆動軸回転数センサ83は、左ドライブシャフト43Lの回転数を検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。ECU100は、駆動軸回転数センサ83から出力された左ドライブシャフト43Lの回転数を表す検出信号に基づいて、車両1の走行速度、すなわち車速を算出するようになっている。本実施の形態においては、駆動軸回転数センサ83は、左ドライブシャフト43Lの回転数を検出するようにしているが、これには限られず、右ドライブシャフト43Rの回転数を検出するようにしてもよい。
アクセル開度センサ84は、運転者の踏込みにより操作されるアクセルペダル14の近傍に配置され、アクセル開度Accを検出するようになっている。アクセル開度センサ84は、アクセルペダル14の踏込み量に対してリニアな関係の出力電圧が得られるリニアタイプのアクセルポジションセンサ、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されている。アクセル開度センサ84は、アクセル開度Accを検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。
ブレーキセンサ88は、運転者の踏込みにより操作されるブレーキペダル42の近傍に配置され、ブレーキペダル42の踏込み量を検出するようになっている。ブレーキセンサ88は、ブレーキペダル42の踏込み量に対してリニアな関係の出力電圧が得られるリニアタイプのブレーキポジションセンサにより構成されている。ブレーキセンサ88は、ブレーキペダル42の踏込み量を検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。
スロットルセンサ89は、例えば、電子制御式のスロットルバルブ12のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されており、スロットル開度を表す信号をECU100に出力するようになっている。したがって、このスロットルセンサ89は、本発明に係るエンジン10への吸入空気量を調整するスロットルバルブ12のスロットル開度を検出する第2の検出手段を構成する。
ECU100は、スロットルセンサ89から取得した信号と、Neセンサ(クランクセンサ81)から取得した信号とに基づいて、スロットルバルブ12のスロットル開度を制御することにより、エンジン回転数Neを目標回転数となるよう制御可能になっている。
油温センサ90は、トルクコンバータ50を含む変速装置20に供給されるフルードとしてのオイルの油温を検出するようになっている。油温センサ90は、例えば、油温に応じて抵抗値が変化するサーミスタにより構成されている。油温センサ90は、油温を検出してその油温に応じた抵抗値に相当する信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。
次に、変速装置20の構成について説明する。
図2に示すように、変速装置20は、トルクコンバータ50と、前後進切り替え機60と、ベルト式のCVT70と、減速歯車機構80とを備えている。エンジン10から出力された動力は、トルクコンバータ50から前後進切り替え機60およびCVT70を介して減速歯車機構80に至る動力伝達経路を介してデファレンシャル機構40に伝達され、左駆動輪45Lおよび右駆動輪45Rに分配されるようになっている。
トルクコンバータ50は、ポンプインペラー51pと、タービンランナー51tと、ステータ51sと、フロントカバー52と、ロックアップクラッチ53とを備えている。トルクコンバータ50は、車両1のエンジン10とCVT70との間に設けられ、エンジン10から出力された動力をCVT70に伝達するようになっている。
ポンプインペラー51pは、フロントカバー52を介してクランクシャフト15に連結されている。タービンランナー51tは、タービンシャフト54を介して前後進切り替え機60に連結されている。ステータ51sは、一方向クラッチを介して非回転部材に回転可能に支持されている。
ポンプインペラー51pとタービンランナー51tとは、対向して設けられている。ポンプインペラー51pとタービンランナー51tとの対向部には、それぞれ多数のブレードが備えられるとともに、オイルが充填されている。これにより、ポンプインペラー51pとタービンランナー51tとの間では、オイルを介して動力伝達が行われるようになっている。
すなわち、エンジン10がクランクシャフト15を介してポンプインペラー51pを回転させると、ポンプインペラー51pからタービンランナー51tに向かってオイルが流出されるようになっている。タービンランナー51tは、ポンプインペラー51pから流出されたオイルによって回転されることにより、トルクコンバータ50のタービンシャフト54を回転させるようになっている。
また、ステータ51sは、ポンプインペラー51pからタービンランナー51tに向かって流れるオイルの方向を制御して、トルク増大作用を行うようになっている。このような構成により、トルクコンバータ50は、エンジン10から出力された回転トルクを増大して、前後進切り替え機60に伝達するようになっている。
また、タービンランナー51tにはロックアップクラッチ53が設けられている。ロックアップクラッチ53は、タービンシャフト54と一体回転するよう取り付けられるとともに、タービンシャフト54の軸方向に移動可能なように構成されている。また、ロックアップクラッチ53とフロントカバー52との間には、解放側油室55が形成されている。解放側油室55には、解放側油路56が連通している。ロックアップクラッチ53とタービンランナー51tとの間には、係合側油室57が形成されている。係合側油室57には、係合側油路58およびドレン油路59が連通している。
ロックアップクラッチ53は、係合側油室57内の係合側油圧と解放側油室55内の解放側油圧とのロックアップ差圧により、軸方向に移動してフロントカバー52に対して係合状態または解放状態に切り替わるようになっている。ロックアップクラッチ53は、ポンプインペラー51pおよびタービンランナー51tを一体的に連結して相互に一体回転させることにより、燃費向上を図るようになっている。
前後進切り替え機60は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置によって構成されており、サンギヤ61と、キャリヤ62と、リングギヤ63と、発進クラッチとしての前進クラッチ64と、後進ブレーキ66とを備えている。サンギヤ61は、トルクコンバータ50のタービンシャフト54に連結されている。キャリヤ62は、サンギヤ61とリングギヤ63との間に設けられる第1のピニオンギヤ67および第2のピニオンギヤ68の各回転軸に回転可能に連結されるとともに、CVT70の入力軸であるプライマリシャフト71に連結されている。
前進クラッチ64は、キャリヤ62とサンギヤ61との間に設けられるとともに、油圧により係合状態と解放状態とに切り替わるようになっている。すなわち、前進クラッチ64は、トルクコンバータ50とCVT70との間に設けられるとともに、トルクコンバータ50とCVT70との間を係合する係合状態と、トルクコンバータ50とCVT70との間を解放する解放状態と、トルクコンバータ50とCVT70との間を所定のスリップ率でスリップさせる滑り状態と、の間で伝達状態を切り替えるようになっている。
後進ブレーキ66は、リングギヤ63とハウジング65との間に設けられるとともに、油圧により係合状態と解放状態とに切り替わるようになっている。
前後進切り替え機60は、前進クラッチ64が係合状態であるとともに後進ブレーキ66が解放状態であると、サンギヤ61と、キャリヤ62と、リングギヤ63とが一体回転させられてタービンシャフト54がプライマリシャフト71に直結されるようになっている。これにより、前進方向の駆動力が、タービンシャフト54からプライマリシャフト71に伝達され、最終的には駆動輪45にまで伝達されるようになっている。
また、前後進切り替え機60は、前進クラッチ64が解放状態であるとともに後進ブレーキ66が係合状態であると、リングギヤ63は固定される。このため、タービンシャフト54と一体回転するサンギヤ61の回転方向に対して、第1のピニオンギヤ67および第2のピニオンギヤ68を介してキャリヤ62は反対方向に回転するようになっている。これにより、キャリヤ62と連結したプライマリシャフト71はタービンシャフト54に対して逆回転させられるため、後進方向の駆動力が駆動輪45に伝達されるようになっている。
CVT70は、駆動側プーリとしてのプライマリプーリ72と、被駆動側プーリとしてのセカンダリプーリ77と、伝動ベルト75とを有している。伝動ベルト75は、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のそれぞれに形成されたV溝に巻き掛けられている。CVT70は、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝の内壁部と伝動ベルト75との間の摩擦力を利用して動力を伝達するようになっている。
本実施の形態に係る車両の制御装置は、各プーリ72,77に供給されるオイルの油圧を制御することにより、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77からの伝動ベルト75への挟圧力を制御するようになっている。
プライマリプーリ72は、可動シーブ72aと、固定シーブ72bと、油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ73とを備えている。可動シーブ72aは、プライマリシャフト71に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられている。固定シーブ72bは、プライマリシャフト71に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動できないように設けられている。入力側油圧シリンダ73は、プライマリシーブ圧により可動シーブ72aを軸方向に移動させるようになっている。
プライマリプーリ72は、入力側油圧シリンダ73により可動シーブ72aを軸方向に移動させることにより、固定シーブ72bとの間のV溝幅を変更可能になっている。プライマリプーリ72は、V溝幅を変更することにより、有効径、すなわち伝動ベルト75の巻き掛け径を変更するようになっている。
セカンダリプーリ77は、可動シーブ77aと、固定シーブ77bと、油圧アクチュエータとしての出力側油圧シリンダ78とを備えている。可動シーブ77aは、セカンダリシャフト79に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられている。固定シーブ77bは、セカンダリシャフト79に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動できないように設けられている。出力側油圧シリンダ78は、ベルト挟圧により可動シーブ77aを軸方向に移動させるようになっている。
セカンダリプーリ77は、出力側油圧シリンダ78により可動シーブ77aを軸方向に移動させることにより、固定シーブ77bとの間のV溝幅を変更可能になっている。セカンダリプーリ77は、V溝幅を変更することにより、有効径、すなわち伝動ベルト75の巻き掛け径を変更するようになっている。
そして、油圧制御装置30から入力側油圧シリンダ73および出力側油圧シリンダ78に供給されるオイルの油圧により、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝幅が変化して、伝動ベルト75の巻き掛け径が変更されるようになっている。このように、CVT70は、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の軸方向に与えられる推力を制御することにより、実変速比を無段階に変化できるようになっている。
すなわち、CVT70は、入力側油圧シリンダ73のプライマリシーブ圧が油圧制御装置30によって制御されることにより、プライマリプーリ72のV溝幅が変化して伝動ベルト75の巻き掛け径が変更されるようになっている。これにより、ECU100は、CVT70の変速比(=プライマリシャフト71の回転数/セカンダリシャフト79の回転数)を連続的に変化させることができるようになっている。
また、CVT70は、出力側油圧シリンダ78のベルト挟圧が油圧制御装置30によって制御されることにより、伝動ベルト75が滑りを生じないようにセカンダリプーリ77からのベルト挟圧力が制御されるようになっている。
CVT70は、運転者の要求に応じてシフトレンジを切り替え可能になっている。CVT70は、シフトレンジとして、Pレンジ、Nレンジ、Dレンジ、Rレンジ、シーケンシャルシフトレンジとしてのMレンジ等を備えている。
変速装置20は、さらに、入力軸回転数センサ85、出力軸回転数センサ86およびタービン回転数センサ87を備えている。入力軸回転数センサ85は、プライマリシャフト71の回転数を検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。出力軸回転数センサ86は、セカンダリシャフト79の回転数を検出して信号に変換し、その信号をECU100に出力するようになっている。
また、タービン回転数センサ87は、タービンシャフト54の回転数Ntを検出して信号に変換し、その信号をタービン回転数NtとしてECU100に出力するようになっている。以下の記載において、このタービン回転数センサ87を、便宜上「Ntセンサ」ともいう。
次に、油圧制御装置30の構成について説明する。
図3に示すように、油圧制御装置30は、変速速度制御部110と、ベルト挟圧力制御部120と、ライン圧制御部130と、ロックアップ係合圧制御部140と、クラッチ圧制御部150と、マニュアルバルブ160とを備えている。
変速速度制御部110は、変速制御用の第1ソレノイドバルブ(DS1)111および第2ソレノイドバルブ(DS2)112から出力される油圧に応じてプライマリプーリ72の入力側油圧シリンダ73に供給される油圧を制御するようになっている。つまり、変速速度制御部110は、油圧を制御することでCVT70の変速比を制御するようになっている。
ベルト挟圧力制御部120は、ベルト挟圧力制御用のリニアソレノイドバルブ(SLS)121から出力される油圧に応じてセカンダリプーリ77の出力側油圧シリンダ78に供給される油圧を制御するようになっている。つまり、ベルト挟圧力制御部120は、油圧を制御することでベルト挟圧力を制御するようになっている。
ライン圧制御部130は、ライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131から出力される油圧に応じてライン圧を制御するようになっている。ここでいうライン圧とは、オイルポンプ35によって供給され、図示しないレギュレータバルブによって調圧された油圧をいう。
ロックアップ係合圧制御部140は、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141から出力される油圧に応じてトルクコンバータ50のロックアップクラッチ53の係合力、すなわち伝達トルクを制御するようになっている。ロックアップクラッチ53は、その伝達トルクの大きに応じて解放状態、係合状態、スリップ状態(解放状態と係合状態との中間の状態)のいずれかの状態に制御されるようになっている。
クラッチ圧制御部150は、ライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131から出力される油圧に応じて、マニュアルバルブ160から前後進切り替え機60の前進クラッチ64または後進ブレーキ66に供給される油圧を制御するようになっている。
マニュアルバルブ160は、運転者によるシフトレバー22の操作に連動して作動し、油路を切り替えるようになっている。
変速制御用の第1ソレノイドバルブ(DS1)111および第2ソレノイドバルブ(DS2)112、ベルト挟圧力制御用のリニアソレノイドバルブ(SLS)121、ライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131およびロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141は、それぞれECU100に接続されている。これら各ソレノイドバルブには、ECU100から制御信号が供給されるようになっている。
各ソレノイドバルブは、それぞれECU100からの制御信号に応じて制御油圧を出力することにより、それぞれ対応する各制御部から出力される油圧を制御することによって制御対象である各油圧アクチュエータを制御するようになっている。すなわち、第1ソレノイドバルブ(DS1)111および第2ソレノイドバルブ(DS2)112は、CVT50の変速比を制御する変速制御に用いられ、リニアソレノイドバルブ(SLS)121は、伝動ベルト75のベルト挟圧力制御に用いられ、リニアソレノイドバルブ(SLT)131は、ライン圧の制御に用いられ、リニアソレノイドバルブ(SLU)141は、ロックアップクラッチ53の係合圧制御に用いられる。
例えば、ライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131は、ECU100が出力するデューティ値によって決まる電流値に応じて制御油圧をライン圧制御部130およびクラッチ圧制御部150に出力するようになっている。このリニアソレノイドバルブ(SLT)131は、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。
また、ベルト挟圧力制御用のリニアソレノイドバルブ(SLS)121は、ECU100が出力するデューティ値によって決まる電流値に応じて制御油圧をベルト挟圧力制御部120に出力するようになっている。具体的には、リニアソレノイドバルブ(SLS)121は、入力された油圧を図示しないソレノイドバルブの駆動電流に応じて調圧し制御油圧として出力させることにより、出力側油圧シリンダ78に供給される油圧を制御するようになっている。このリニアソレノイドバルブ(SLS)121は、上述のライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131と同様に、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。
また、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141は、ECU100が出力するデューティ値によって決まる電流値に応じて制御油圧を低圧または高圧に切り替えてロックアップ係合圧制御部140に出力するようになっている。具体的には、リニアソレノイドバルブ(SLU)141は、入力された油圧を図示しないソレノイドバルブの駆動電流に応じて調圧し低圧または高圧の制御油圧として出力させることにより、トルクコンバータ50に供給される油圧を制御するようになっている。
したがって、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141を備えた油圧制御装置30は、本発明に係るトルクコンバータ50に供給されるフルードとしてのオイルの供給圧を低圧と高圧との間で変更可能な供給圧変更手段を構成する。このリニアソレノイドバルブ(SLU)141は、上述のライン圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLT)131と同様に、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。
このように、トルクコンバータ50に供給される油圧は、ECU100がロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141を制御することによって、低圧または高圧に切り替えられるようになっている。
本実施の形態に係る車両1の制御装置は、早期に発進性能を確保する等のために、エンジン始動後に高圧に設定するようになっており、通常制御モードのときはオイルの消費量を抑えて燃費の向上を図るためトルクコンバータ50へのオイルの供給圧を低圧に設定するようになっている。以下の説明では、便宜上、リニアソレノイドバルブ(SLU)141をONにしたときに制御油圧が高圧に切り替えられ、リニアソレノイドバルブ(SLU)141がOFFのときは制御油圧が低圧に維持されているものとする。
本実施の形態に係る制御装置を搭載した車両1においては、例えば1週間程度の長期駐車後、エンジン10を始動させて直ぐにシフトレバー22を走行ポジション(例えばDポジション)にシフトした際、アクセル開度Accが0または低開度状態で車両1が発進できない状態、所謂ロストドライブ状態が一時的に発生する場合がある。
ロストドライブ状態が発生する原因は、長期駐車によりトルクコンバータ50内部のオイルが抜けてエアが流入し、エンジン始動から直ぐにシフトレバー22をDポジション等にシフトしてもオイル充填量が十分でないためタービン回転数Ntの立ち上がりが遅くなり、エンジン10から自動変速機(CVT70)への動力が十分に伝達できない場合が生じ得るからである。
現状の技術による車両の制御装置は、エンジン始動後のロストドライブ判定を、一律にエンジン始動後所定時間の経過時点でタービン回転数が立ち上がっているか否かに基づいて行うようになっている。つまり、エンジン始動後のエンジン回転数Neの立ち上がり特性のばらつきは考慮されていない。このため、エンジンの個体差等に応じて出力にばらつきが生じた場合、タービン回転数が立ち上がるまでに要する時間も一定とはならず、ロストドライブ状態か否かの判定を精度よく行うことができない。
具体的には、ロストドライブ判定のためのタービン回転数Ntの判定閾値を一律に高い値に設定すると、実際はロストドライブ状態でないのにロストドライブ状態であると誤判定してしまい、これにより不要なロストドライブ対策を行ってしまうことになる。この結果、燃費の悪化を招くばかりか、過大なクリープトルクの発生や所謂ガレージシフトショック等、ドライバビリティの悪化を招くことになる。一方、判定閾値を一律に低い値に設定すると、実際はロストドライブ状態であるのにロストドライブ状態でないと誤判定する結果となってしまう。つまり、ロストドライブ状態を正確に判定することができない。
また、本実施の形態に係る車両1においては、ECU100は、タービン回転数Ntの立ち上がりが早くなるよう変速装置20および油圧制御装置30を制御するようになっている。具体的には、ECU100は、エンジン10の始動後に、変速装置20のトルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧を高圧にするよう油圧制御装置30を制御するようになっている。したがって、ECU100は、本発明に係る制御手段を構成する。
これにより、油圧制御装置30からの制御に基づいてオイルポンプ35からトルクコンバータ50に供給されるオイルの供給量が増加するようになっている。この結果、トルクコンバータ50内に充填されるオイルの量が、エンジン10の始動時にオイルの供給圧を低圧にしたままの状態と比べて増加し、タービン回転数Ntの立ち上がりが早くなる。
また、ECU100は、エンジン10の始動後にロストドライブ状態であるか否かを精度よく判定する必要があるため、エンジン10の始動判定後の所定時間経過時にタービン回転数Ntを判定するための判定基準として上記のタービン回転数判定閾値Ntoを用いている。
すなわち、ECU100は、ROM102に記憶された上記のマップMPと、Neセンサ81から出力されるエンジン回転数Neを表す信号と、油温センサ90から出力される油温thoを表す信号とに基づいて、ロストドライブ判定のための判定閾値Ntoを算出するようになっている。
図4のマップMPに示すように、例えば油温が20℃の場合、判定閾値Ntoは、始動判定後の所定時間経過時のエンジン回転数Neが800rpm、1000rpm、1200rpm、1400rpm、1600rpmと高くなるに従って高い値(それぞれ700rpm、1000rpm、1100rpm、1300rpm、1600rpm)となるよう設定されている。これは、以下の理由による。
エンジン回転数Neは、エンジン10の個体差や使用条件に応じて、始動判定後の立ち上がり特性にばらつきが生じる。このため、エンジン10の出力特性のばらつきを考慮したタービン回転数判定閾値Ntoを用いてロストドライブ状態か否かを判定する必要がある。
エンジン回転数Neの立ち上がりが急峻な場合は、正常な状態であればタービン回転数Ntの立ち上がりも急峻となるため、タービン回転数判定閾値Ntoを高くしなければ、正確にロストドライブ状態を判定することができない。一方、エンジン回転数Neの立ち上がりが緩やかな場合は、正常な状態であればタービン回転数Ntの立ち上がりも緩やかとなるため、タービン回転数判定閾値Ntoを低くしなければ、正確にロストドライブ状態を判定することができない。
したがって、エンジン回転数Neの立ち上がりが急峻なエンジン特性、すなわち、始動判定後の所定時間経過時のエンジン回転数Neが高い場合は、判定閾値Ntoも高い値である必要がある。このため、始動判定後の所定時間経過時のエンジン回転数Neが高い程、判定閾値Ntoを高い値に設定している。
また、エンジン10の始動後タービン回転数Ntが立ち上がるまでの時間は、トルクコンバータ50に供給されるオイルの油温thoに依存して変化する。したがって、図4のマップMPに示すように、油温thoに応じて判定閾値Ntoを設けている。
なお、図4に示すマップMPの例では、エンジン回転数Neが高くなるに従って高い値となるよう設定された複数の判定閾値Ntoは、各油温tho(0℃、20℃、40℃、60℃)に対して同じ値となっているが、これは一例である。例えば、車種によっては、油温tho毎に判定閾値Ntoを異ならせるようにしてもよい。
本実施の形態に係るECU100は、エンジン10の始動後所定時間が経過した時点で、ROM102に記憶された上記のマップMPから算出した判定閾値Ntoに基づいてタービン回転数Ntを判定することで、トルクコンバータ50内のオイルの充填状態を判定し、その充填状態に応じてロストドライブ状態か否かを判定するようになっている。
具体的には、ECU100は、エンジン10の始動後所定時間が経過した時点で、タービン回転数Ntが判定閾値Ntoより低いという判定条件が成立した場合に、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が動力伝達には不十分であり、トルクコンバータ50の状態がロストドライブ状態にあると判定するようになっている。
この場合、ECU100は、対策制御の一つである、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が動力伝達に十分となるまで、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141が継続してONとなるよう制御するようになっている。また、ECU100は、エンジン始動時から所定時間以内に走行レンジへシフト操作が行われたことを条件に、対策制御の一つである、エンジン10への吸入空気量を調整するスロットルバルブ12を閉じる制御(以下、便宜上「電スロ閉じ制御」ともいう。)を行うようになっている。なお、以下の記載において、対策制御という用語は、特に定義しない限り、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141をONにする制御と、電スロ閉じ制御の両方を含むものとする。
電スロ閉じ制御は、車両1が走行レンジ(例えば、DポジションまたはRポジション)にあるときにハードウエアの保護の面から、トルクコンバータ50内の部品(ポンプインペラー51p、タービンランナー51t、ステータ51s等)が破損するのを防止するために行う。
また、現状の技術において、エンジン始動後にロストドライブ状態が発生した場合に、ロストドライブ対策として、オイルポンプによるトルクコンバータへのオイル供給量を増大させることが考えられる。しかしながら、オイル供給量を増大させているときにトルクコンバータ内のオイルの充填量が動力伝達に十分となった時点、すなわち、駆動力が確保された時点を的確に判定できないと、不必要にオイル供給量を増大させる制御を継続してしまうことになる。なお、ここでいう「オイルの充填量が動力伝達に十分」とは、ロストドライブ状態が解消していることを意味している。
現状の技術による車両の制御装置は、ロストドライブ状態を解消するための対策を行っているときにトルクコンバータの駆動力が確保された時点を的確に判定する点については考慮されていない。このため、ロストドライブ対策を行っている最中に、実際はトルクコンバータの駆動力が確保されているのに駆動力が確保されていないと誤判定してしまい、その後も不要なロストドライブ対策を継続してしまうことになる。
この結果、所要の駆動力が確保された時点以降も不要なロストドライブ対策を継続してしまうことに起因して、早期に通常制御へ復帰できず、燃費が悪化する。
本実施の形態に係る車両1においては、ECU100は、ロストドライブ対策によってトルクコンバータ50が十分な駆動力を有するに至ったかどうかを判定するようになっている。その判定のため、まず、ECU100は、エンジン10からトルクコンバータ50への入力トルクと、トルクコンバータ50から変速機構(前後進切り替え機60およびCVT70)への出力トルクとを算出するようになっている。
具体的には、ECU100は、トルクコンバータ50への入力トルクとして、スロットルセンサ89から取得したスロットル開度の情報に基づきROM102に記憶されている上記のマップを参照してトルクコンバータ50の入力側の推定エンジントルクTe0を算出するようになっている。また、ECU100は、トルクコンバータ50からの出力トルクとして、以下の式(1)から、エンジン回転数Neとトルクコンバータ特性の一つである容量係数Cとに基づきトルクコンバータ50の出力側の推定エンジントルクTe0Cを算出するようになっている。したがって、ECU100は、本発明に係るトルク算出手段を構成する。
Te0C=C・Ne2…………(1)
さらに、ECU100は、その算出した入力側の推定エンジントルクTe0と出力側の推定エンジントルクTe0Cとの差(=Te0−Te0C)が、所定値以下であるか否かに応じて、トルクコンバータ50がエンジン10からCVT70への十分な動力伝達能力、すなわち、駆動力を有しているか否かを判定するようになっている。この場合の判断基準となる所定値は、少なくともクリーピングが生じ得る値に設定され、予め実験的に定められている。
そして、ECU100は、トルクコンバータ50の入力側の推定エンジントルクTe0と、出力側の推定エンジントルクTe0Cとの差(=Te0−Te0C)が、所定値以下という判定条件が成立した場合に、トルクコンバータ50が十分な駆動力を有していると判断するようになっている。また、ECU100は、この時点で、ロストドライブ状態は解消されていると判断するようになっている。
一方、ECU100は、トルクコンバータ50の入力側、出力側の各推定エンジントルクTe0、Te0Cの差(=Te0−Te0C)が所定値を超えている場合には、トルクコンバータ50の駆動力はまだ不十分であり、ロストドライブ状態はまだ解消されていないと判断するようになっている。
さらに、ECU100は、ロストドライブ対策によってトルクコンバータ50に十分な駆動力が確保されたと判断した場合に、対策制御としての電スロ閉じ制御を終了して、エンジン始動後に高圧に制御したトルクコンバータ50へのオイルの供給圧を低圧に戻すよう油圧制御装置30を制御するようになっている。したがって、ECU100は、本発明に係る制御手段を構成する。
一方、ECU100は、エンジン10の始動後所定時間が経過した時点で、タービン回転数Ntが判定閾値Nto以上という判定条件が成立した場合に、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が動力伝達には十分であり、トルクコンバータ50の状態がロストドライブ状態にないと判定するようになっている。この場合、ECU100は、上記の対策制御、すなわち、電スロ閉じ制御を行うことなく、エンジン始動後に高圧に制御したトルクコンバータ50へのオイルの供給圧を低圧に戻すよう油圧制御装置30を制御するようになっている。
次に、本実施の形態に係るECU100により実行されるトルクコンバータ50の駆動力判定のための制御について、図5および図6を参照して説明する。以下に説明する一連の処理は、予めECU100のROM102に記憶されている制御プログラムによって実現され、ECU100のCPUによって所定の時間間隔で(例えば、10ms毎に)実行される。
図5に示すように、まず、ECU100は、車両1の停止中に、エンジン10が始動されたか否か、すなわち、運転者によりイグニッションスイッチのON操作に続いてスタートスイッチ2がON操作されたか否かを判断する(ステップS1)。ECU100は、エンジン10が始動されていないと判断した場合には(ステップS1でNO)、エンジン10が始動されるまでステップS1の処理を繰り返す。
一方、ECU100は、エンジン10が始動されたと判断した場合には(ステップS1でYES)、ステップS2に移行し、内蔵のタイマーを起動させて経過時間の計測を開始する。すなわち、ECU100は、エンジン10が始動された時点でエンジンスタートフラグをONにし、このエンジン始動時からの経過時間を計測し始める。
また、ECU100は、タイマーを起動させると同時に、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141をONにするよう油圧制御装置30を制御する(ステップS3)。これにより、リニアソレノイドバルブ(SLU)141から出力される制御油圧に基づいてロックアップ係合圧制御部140により、トルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧が高圧となるよう制御される。この結果、トルクコンバータ50内へのオイルの注入速度が増大し、トルクコンバータ50内に充填されるオイルの量が、オイルの供給圧を低圧にしたままの状態と比べて増加する。
次に、ECU100は、エンジン10が完爆状態となったか否かを判断する(ステップS4)。この完爆の判定は、エンジン回転数Neが所定の回転数、例えば、350rpm以上に到達したか否かに基づいて行う。ECU100は、エンジン10が完爆状態となっていないと判断した場合には(ステップS4でNO)、エンジン回転数Neが所定の回転数に到達するまでステップS4の処理を繰り返す。
次に、ECU100は、タイマーで計測されている経過時間を参照して、エンジン10が完爆状態となった時点から所定時間、例えば、300〜400ms経過したか否かを判断する(ステップS5)。ECU100は、完爆から所定時間が経過していないと判断した場合には(ステップS5でNO)、その所定時間が経過するまでステップS5の処理を繰り返す。
一方、ECU100は、完爆から所定時間が経過したと判断した場合には(ステップS5でYES)、Neセンサ(クランクセンサ81)からその時点でのエンジン回転数Ne(=ne)を取得し(ステップS6)、さらに、油温センサ90からその時点での油温thoを取得する(ステップS7)。ECU100は、取得したエンジン回転数Ne(=ne)および油温thoの各データをECU100のRAMに一時格納する。
次に、図6に示すように、ECU100は、ROM102に記憶されたマップMP(図4参照)から、エンジン始動判定後の所定時間、すなわち、完爆から所定時間が経過した時点で取得したエンジン回転数Ne(=ne)と油温thoに応じた判定閾値Ntoを算出する(ステップS8)。
さらに、ECU100は、Ntセンサ(タービン回転数センサ87)からその時点でのタービン回転数Ntを取得し(ステップS9)、取得したタービン回転数NtのデータをECU100のRAMに一時格納する。
次に、ECU100は、その取得したタービン回転数Ntが判定閾値Ntoに到達していないか否か、すなわち、Nt<Ntoであるか否かを判断する(ステップS10)。ECU100は、タービン回転数Ntが判定閾値Ntoに到達していないと判断した場合には(ステップS10でYES)、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が動力伝達には不十分でありロストドライブ状態にあると判定する。
次に、ECU100は、タイマーで計測されている経過時間を参照して、エンジン10が始動された時点から所定時間T0以内に走行レンジへシフト操作が行われたか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、ECU100は、シフトセンサ82から出力される検出信号に基づいて、その所定時間T0以内に運転者がシフトレバー22をPポジションからDポジションまたはRポジションにシフトチェンジしたか否かを判断する。
判断基準となる所定時間T0は、オイルの充填不足に起因して起こり得るトルクコンバータ50内の部品(ポンプインペラー51p、タービンランナー51t、ステータ51s等)の破損を回避するのに十分なオイル充填時間に設定されている。
ECU100は、エンジン始動から所定時間T0以内に走行レンジへシフト操作が行われたと判断した場合には(ステップS11でYES)、ステップS12に移行する。この場合、走行レンジへシフト操作が行われていることにより、運転者はアクセルペダル14を踏み込もうとしている状態にある。
次に、ECU100は、スロットルバルブ12を閉じるよう電スロ閉じ制御を行う(ステップS12)。これにより、ECU100は、運転者がアクセルペダル14を踏み込もうとしてもその要求を受け付けずに、スロットルバルブ12を閉じることでエンジン回転数Neの上昇を抑えてタービン回転数Ntを低下させるようになっている。
次に、ECU100は、トルクコンバータ50がエンジン10からCVT70への十分な動力伝達能力を有しているか否か、すなわち、駆動力が有るか否かを判断する(ステップS13)。駆動力の有無の判定は、上述したトルクコンバータ特性の一つである容量係数Cを用いて行うことができる。
具体的には、ECU100は、スロットルセンサ89を介してスロットルバルブ12のスロットル開度から算出したトルクコンバータ50の入力側の推定エンジントルクTe0と、上述した式(1)を用いてエンジン回転数Neと容量係数Cとから算出したトルクコンバータ50の出力側の推定エンジントルクTe0Cとの差が、所定値以下である場合には駆動力が有ると判断し、所定値を超えている場合には駆動力が無いと判断する。
ECU100は、駆動力が無いと判断した場合には(ステップS13でNO)、ステップS12に戻って上記の処理を繰り返す。一方、ECU100は、駆動力が有ると判断した場合には(ステップS13でYES)、ステップS14に移行し、電スロ閉じ制御を終了する。
さらに、ECU100は、ロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141をOFFにするよう油圧制御装置30を制御する(ステップS15)。これにより、リニアソレノイドバルブ(SLU)141から出力される制御油圧に基づいてロックアップ係合圧制御部140により、トルクコンバータ50へのオイルの供給圧が通常制御モード時の低圧となるよう制御される。この後、本処理は終了する。
一方、ECU100は、タービン回転数Ntが判定閾値Nto以上に到達していると判断した場合には(ステップS10でNO)、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が動力伝達には十分でありロストドライブ状態にないと判定し、ステップS15に移行してリニアソレノイドバルブ(SLU)141をOFFにする。すなわち、ECU100は、トルクコンバータ50へのオイルの供給圧を通常制御モード時の低圧に戻すよう油圧制御装置30を制御する。この後、本処理は終了する。
また、ECU100は、エンジン始動から所定時間T0以内に走行レンジへシフト操作が行われていないと判断した場合には(ステップS11でNO)、ステップS16に移行する。この場合、シフトレバー22はPポジションの位置にあり、アクセルペダル14は操作されていない状態にある。
次に、ECU100は、タイマーで計測されている経過時間を参照して、エンジン10が始動された時点から所定時間T1が経過したか否かを判断する(ステップS16)。
判断基準となる所定時間T1は、エンジン始動時のトルクコンバータ50の状態、すなわち、トルクコンバータ50内のオイルがトルクコンバータ50の構造上最大量抜けた状態から、所要のクリープトルクが確保できるのに十分な量のオイルが充填されるのに必要な時間を考慮して設定されている。
ECU100は、エンジン始動から所定時間T1が経過していないと判断した場合には(ステップS16でNO)、ステップS11に戻って上記の処理を繰り返す。
一方、ECU100は、エンジン始動から所定時間T1が経過したと判断した場合には(ステップS16でYES)、ステップS15に移行してリニアソレノイドバルブ(SLU)141をOFFにする。すなわち、ECU100は、トルクコンバータ50へのオイルの供給圧を通常制御モード時の低圧に戻すよう油圧制御装置30を制御する。この後、本処理は終了する。
図7は、本実施の形態に係る車両の制御装置の動作を示すタイミングチャートである。図中、上から順に、I/G(イグニッションスイッチ)のON/OFF動作は実線W1に示し、ENG(エンジン10)のON/OFF動作は実線W2に示し、完爆判定に係るON/OFF動作は実線W3に示し、シフト操作の切り替え動作は実線W4に示し、エンジン回転数Neおよびタービン回転数Ntのエンジン始動後の変化はそれぞれ実線W5およびW6に示し、ロスト判定(ロストドライブ状態か否かの判定)に係るON/OFF動作は実線W7に示し、TC潤滑判定(トルクコンバータ50内のオイルの充填量が十分であるか否かの判定)に係るON/OFF動作は実線W8に示し、リニアソレノイドバルブ(SLU)のON/OFF動作は実線W9に示し、アイドルアップを行う(あり)か否(なし)かの動作は実線W10に示し、電スロ閉じを行う(あり)か否(なし)かの動作は実線W11に示す。
また、左から右方向に延びる時間軸において、(1)で示すt1〜t2は、クランキングから完爆までの期間を示し、(2)で示すt2〜t4は、PポジションからDポジションへシフト操作が行われている期間を示し、(3)で示すt4〜t5は、ブレーキペダル42からアクセルペダル14への踏み替えが行われている期間を示し、(4)で示すt5以降は、アクセルペダル14が操作されている期間を示す。
図7に示すように、t0の時点でI/G(イグニッションスイッチ)がON操作され、次いでt1の時点でスタートスイッチ2のON操作によりENG(エンジン10)が始動されると、実線W5に示すように、エンジン回転数Neが上昇し始める。このとき、実線W9に示すように、油圧制御装置30のロックアップ係合圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLU)141がONに切り替えられ、トルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧が高圧に制御される。
次に、エンジン回転数Neが上昇して所定の回転数(例えば、350rpm)に到達したt2の時点で、実線W3に示すように、完爆の判定が行われる(OFF→ON)。さらに、その完爆から所定時間(例えば、300〜400ms)経過したt3の時点で、エンジン回転数Neのばらつきを考慮して定められた判定閾値Ntoとタービン回転数Ntとの比較に基づいて、実線W7に示すように、ロストドライブ状態にあるか否かの判定が行われる(OFF→ON)。
ロストドライブ状態にあると判定された場合には、実線W10に示すように、アイドルアップが行われる(なし→あり)。このアイドルアップにより、実線W5に示すように、エンジン回転数Neは、通常のアイドル回転数(例えば、600rpm)より高いアイドル回転数(例えば、1300〜1500rpm)に上昇する。これにより、トルクコンバータ50内にオイルが充填され始め、実線W6に示すように、タービン回転数Ntが立ち上がり始める。
次いで、実線W4に示すように、エンジン始動時のt1の時点から所定時間T0以内のt5の時点でシフト操作(Pポジション→Dポジション)が行われると、実線W11に示すように、電スロ閉じ制御が行われる(なし→あり)。このとき、実線W10に示すように、アイドルアップは、トルクコンバータ50内の部品が破損するのを防止するために、中止される(あり→なし)。電スロ閉じ制御により、実線W5、W6に示すように、エンジン回転数Neの上昇が抑えられ、タービン回転数Ntは低下し始める。
次いで、トルクコンバータ50内にオイルが所定量充填されると、実線W11に示すように、t6の時点で電スロ閉じ制御が終了する(あり→なし)。このとき、実線W8に示すように、トルクコンバータ50内のオイルの充填量が駆動力を有するに十分であるか否かのTC潤滑判定が行われる(OFF→ON)。その後、t7の時点でタービン回転数Ntが0に低下してから以降、実線W5、W6に示すように、エンジン回転数Neの上昇に追従するようにタービン回転数Ntが上昇していく。
そして、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差が所定値以下となったt8の時点で、実線W8に示すように、TC潤滑判定が終了する(ON→OFF)。このとき、ロストドライブ状態は解消されているものと判定され、実線W7に示すように、ロスト判定が終了する(ON→OFF)。また同時に、実線W9に示すように、リニアソレノイドバルブ(SLU)141がOFFに切り替えられ、トルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧が高圧から低圧に切り替えられて、通常制御に復帰する。その後、トルクコンバータ50内にオイルが満たされているので、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づくことになる。
なお、図5および図6に示すフローチャートにおいては、トルクコンバータ50が駆動力を有していると判定された場合を電スロ閉じ制御の終了条件としているが、図7に示す動作タイミングチャートに示すように、t5の時点から一定の時間が経過した場合を電スロ閉じ制御の終了条件としてもよい。
以上説明したように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン10の始動後にトルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧を高圧にすることでオイルの供給量を増加させているので、ロストドライブ状態が発生した場合にその対策を行うことができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンの始動後に、トルクコンバータ50の入力側の推定エンジントルクTe0と出力側の推定エンジントルクTe0Cとの差(=Te0−Te0C)が、所定値以下であると判定した場合に、トルクコンバータ50がエンジン10からCVT70への十分な動力伝達能力、すなわち、十分な駆動力を有していると判断することができる。したがって、ロストドライブ状態を解消したことを的確に判定できるので、最適なタイミングで通常の制御に復帰できる。
具体的には、本実施の形態に係る車両の制御装置は、駆動力が確保された時点でトルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧を低圧にすることで、ロストドライブ対策としてのオイルの供給量を増加させる制御を必要最小限の時間で止めることができる。この結果、従来と比べて消費電力が減少し燃費を向上させることができる。また、エンジン10の始動後に、オイルの供給量を増加させる制御によって車両発進時のクリーピングが適切に行われるため、発進能力の低下を抑制することができる。
したがって、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン始動後の駆動力が確保された時点を的確に判定して、燃費を向上させることができるとともに、発進能力の低下を抑制することができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、トルクコンバータ50の出力側に実トルクを検出するセンサ等を設けなくても、トルクコンバータ50の入力側で検出されるエンジン回転数Neと、トルクコンバータ50の容量係数Cと、に基づいて、上述した式(1)から、トルクコンバータ50の出力側の推定エンジントルクTe0C(=C・Ne2)を算出することができる。したがって、本実施の形態に係る車両の制御装置は、コストを増大させることなく、トルクコンバータ50の出力側の推定エンジントルクTe0Cを算出することができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、トルクコンバータ50が十分な駆動力を有していると判断するための基準となる、トルクコンバータ50の入力側の推定エンジントルクTe0と出力側の推定エンジントルクTe0Cとの差(=Te0−Te0C)が、少なくともクリーピングが生じ得る値に設定されているので、車両発進時のクリーピングが適切に行われ、発進能力を向上させることができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン10の始動後にトルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧を高圧にすることでオイルの供給量を増加させているので、タービン回転数Ntの立ち上がりが早くなり、その結果、ロストドライブ判定のためのタービン回転数Ntを判定するタイミングを早めることができる。これにより、ロストドライブ状態か否かの判定を速やかに行うことができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、ロストドライブ状態を解消したことを的確に判定できるので、エンジン10の始動後に、リニアソレノイドバルブ(SLU)141をOFFしてトルクコンバータ50へのオイルの供給圧を低圧にするタイミングを適切に制御することができる。これにより、トルクコンバータ50以外の必要部位(例えば、CVT70の伝動ベルト75やギヤ等)へのオイルの供給を、従来と比較して十分に行うことができる。また、電スロ閉じ制御も適切なタイミングで通常制御に戻すことができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、ロストドライブ状態でエンジン始動から所定時間T0以内に走行レンジへシフト操作が行われた場合には、電スロ閉じ制御を行っているので、トルクコンバータ50内の部品(ポンプインペラー51p、タービンランナー51t、ステータ51s等)が破損するのを防止することができる。
また、上述した実施の形態に係る車両の制御装置においては、トルクコンバータ50に供給されるオイルの供給圧を低圧と高圧との間で変更可能な供給圧変更手段として、リニアソレノイドバルブ(SLU)141を用いるようにしたが、これに代えて、スロットルバルブ12を用いるようにしてもよいし、リニアソレノイドバルブ(SLU)141とスロットルバルブ12とを併用するようにしてもよい。この場合、ECU100は、アイドルアップを実行するようエンジン10の各シリンダに供給される吸入空気量を調節して、スロットルバルブ12を制御することで、オイルの供給圧を高圧と低圧との間で切り替えることができる。
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、エンジン始動後の駆動力が確保された時点を的確に判定して、燃費を向上させることができるとともに、発進能力の低下を抑制することができるという効果を有し、駆動源から出力された動力を変速機構に伝達する動力伝達装置を備えた車両の制御装置全般に有用である。