以下、図面を参照して、本発明に係る常温接合装置、常温接合方法、平坦化装置および平坦化方法の実施の形態について説明する。
まず、本発明に係る常温接合装置、常温接合方法、平坦化装置および平坦化方法のコンセプトについて説明する。
常温接合技術においては、接合する互いの物質表面の平滑化(粗さの極小化)が、接合性(接合強度)の良否、又は可否を左右する重要なファクターである。その平滑性と接合性との関係については、非特許文献1(H.Takagi et al.,Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)pp.4197−4203)に開示されている。図1は、その接合基板の引張強度と表面粗さ(アルゴン(Ar)ビームエッチング時間)との関係を示すグラフである。縦軸は、2枚の基板を接合した接合基板の引張強度を示している。上側の横軸は、接合直前の各基板の表面粗さを示し、下側の横軸はアルゴン(Ar)ビームエッチング時間を示している。表面粗さとエッチング時間とは対応している。ただし、表面粗さは、二乗平均粗さ(Rms(Rq)を用いている。また、基板(母材)の引張強度は、10MPa程度である。また、非特許文献2(Frost et al.,J.Phs.Vol.21(2009)224026)にはN2イオン、Arイオンのイオン照射による表面の平滑化が記載されている。
図に示されるように、長時間のアルゴン(Ar)ビームエッチングを行い、基板の表面粗さが低下した状態では、引張強度(接合強度)は顕著に低下する。一方、基板の表面粗さRmsが0.4nm以下では、母材と同程度の10MPa以上の接合強度が維持される。したがって、常温接合技術において、接合基板の接合強度を高め、接合の信頼性を向上させるためには、接合する基板の表面粗さをできるだけ小さくする必要があることが分かる。
本発明の発明者は、常温接合装置および常温接合方法において、接合基板の接合強度を高め、接合の信頼性を向上させるために、今回様々な検討を行った。その結果、接合基板の接合強度を高め、接合の信頼性を向上させるための新たな技術を世界で初めて創出した。以下に、その技術について説明する。
これまで常温接合装置の表面活性化工程には、主にイオンビームや高速原子ビーム(Fast Atom Beam:FAB)が使用され、それらビームのソースガスとしてはアルゴン(Ar)が使用されている。その他のソースガスとしては、特許文献1〜4に、不活性ガスや希ガスのように第18族元素を想起させるガス種を用いることが記載されている。さらに、具体的にヘリウム(He)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)などをソースガスの候補として挙げている場合もある。しかし、この“その他のソースガス”に関しては、すべて単なるガス種の置き換えの提案にすぎず、その具体的な使用方法や、接合性能に与える効果については何ら言及されておらず、検討もされていない。
今回、発明者は、接合基板の接合強度を高め、接合の信頼性を向上させるべく、基板表面を活性化する活性化ビームのソースガスとして3種のガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe))を用いた検討を行った。その結果、ソースガスとしてネオン(Ne)を用いた場合に、以下に示すような従来には無い有利な効果又は顕著な効果を見出した。
(1)ネオン(Ne)をソースガスとする高速原子ビームエッチングの平坦度維持効果。
まず、活性化ビームのソースガスとして3種のガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe))を用いて、基板の接合試験を行い、ガス種ごとに得られる表面エネルギー(接合強度)とFAB照射時間との相関を求めた。図2は、表面エネルギーとFAB照射時間との関係をガス種ごとに示すグラフである。縦軸は、2枚の基板を接合した接合基板の表面エネルギー(接合強度)(J/m2)を示している。基板(母材)の表面エネルギーは、2.5J/m2程度である(図1の10MPa程度に対応する)。横軸は、FAB(活性化ビーム)照射時間(s)を示している。三角印はネオン(Ne)、四角印はアルゴン(Ar)、丸印はキセノン(Xe)をそれぞれ示している。
図2に示されるように、キセノン(Xe)を用いた場合では、非常に低い接合強度しか得られなかった。しかし、ネオン(Ne)を用いた場合では、従来標準的に用いられているアルゴン(Ar)の場合と同様に、母材と同等の接合強度を達成できた。また、照射時間100秒で概ねアルゴン(Ar)の場合と同等になり、300秒間照射してもその接合強度は維持された。このことから、ネオン(Ne)は常温接合による基板接合用の活性化ビームのソースガスとして適切であることが判明した。このように、接合基板の接合強度を高め、接合の信頼性を向上させる観点から、不活性ガスや希ガスのような第18族元素であっても、適切であるものと、適切とは言い難いものとが存在することが判明した。
次に、ソースガスのガス種によって、基板表面に形成される表面粗さおよび表面性状についてAFM(原子間力顕微鏡)を用いて評価した。図3Aは、未処理のシリコンウェハの表面形状を示すAFM像である。この図は、1μm(1000nm)四方の領域を示している。この未処理のシリコンウェハ(ベアウェハ)の表面性状は、表面粗さRms(Rq)が0.18nmである。1μm(1000nm)四方のAFM像(図3A)を見ると、全面均一な凹凸分布であることが分かる。
本試験では、この未処理のシリコンウェハを初期状態とし、このシリコンウェハに対して高速原子ビーム(FAB)エッチングを行った。高速原子ビームエッチングは、常温接合プロセスにおける表面酸化膜等を除去する活性化工程を模擬している。高速原子ビームのソースガスは、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)を用いた。シリコンウェハは、各ガスを用いた高速原子ビームにより、約30nmの深さまでエッチングを施されている。図3Bは、ネオン(Ne)を用いてエッチングを行った場合の表面形状を示すAFM像である。図3Cは、アルゴン(Ar)を用いてエッチングを行った場合の表面形状を示すAFM像である。図3Dは、キセノン(Xe)を用いてエッチングを行った場合の表面形状を示すAFM像である。いずれの図も、1μm(1000nm)四方の領域を示している。
これら図3B〜図3Dによりエッチング後のシリコンウェハの表面粗さを比較すると、以下のことが判明した。まず、ネオン(Ne)の場合、図3Bを参照すると、約30nmの深さまでエッチング(約20分)を進展させても、シリコンウェハの表面粗さRms(Rq)は0.18nmであり、未処理のシリコンウェハと同一である。また、AFM像も若干の乱れが認識される程度であり、シリコンウェハ表面の面内均一性は維持されている。これに対して、キセノン(Xe)の場合、図3Dを参照すると、約30nmの深さまでエッチング(約10分)を進展させると、シリコンウェハの表面粗さRmsは1.37nmとなり、未処理のシリコンウェハと比較して大幅に粗さが悪化した。また、AFM像では、その表面に明らかなリップル(波紋)パターンが形成されている。また、アルゴン(Ar)の場合、図3Cを参照すると、約30nmの深さまでエッチング(約10分)を進展させると、シリコンウェハの表面粗さRms(Rq)は0.33nmであり、表面粗さの変化はネオン(Ne)とキセノン(Xe)との中間である。また、AFM像では、表面性状の変化もネオン(Ne)とキセノン(Xe)との中間である。ただし、図1のグラフと照らし合わせると、接合強度が十分発現する範囲と考えられる。
図4は、上記のエッチング前後の表面粗さを比較した結果を示すグラフである。縦軸は表面粗さRms(nm)を示し、横軸には未処理、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)の場合を示している。未処理のシリコンウェハ(未処理Si)の表面粗さRmsは0.18nmである。それに対して、ソースガスとしてネオン(Ne)を用いた場合、シリコンウェハの表面粗さRmsは0.18nmであり、未処理のシリコンウェハと同一である。一方、ソースガスとしてキセノン(Xe)を用いた場合、シリコンウェハの表面粗さRmsは1.37nmであり、未処理のシリコンウェハと比較して大幅に表面粗さが悪化する。また、ソースガスとしてアルゴン(Ar)を用いた場合、シリコンウェハの表面粗さRmsは0.33nmであり、表面粗さの変化はネオン(Ne)とキセノン(Xe)との中間となる。ただし、ネオン(Ne)寄りであり接合強度が十分発現する範囲である。
以上のことから、高速原子ビーム(FAB)エッチングのソースガスとしてネオン(Ne)を用いることで、基板表面の平坦度(表面粗さ)を維持しつつ、エッチング(表面酸化物等の除去)が可能となることが判明した。基板表面の平坦度(表面粗さ)が維持されることは、接合強度を高くし(図1)、接合の信頼性を向上することができる点で極めて好ましいといえる。発明者の研究により、このようなネオン(Ne)をソースガスとする高速原子ビームエッチングの特性である初期の表面粗さが小さい面に対する「平坦度(表面粗さ)維持効果」が今回世界で初めて見出された。
(2)ネオン(Ne)をソースガスとする高速原子ビームエッチングの平坦度改善効果。
次に、活性化ビームのソースガスとしてネオン(Ne)を用いた場合での表面粗さの変化を、AFMを用いて評価した。図5Aは、前処理を行ったシリコンウェハの表面形状を示すAFM像である。この図は、1μm四方の領域を示している。このシリコンウェハは、前処理として、キセノン(Xe)をソースガスとして用いた高速原子ビームを表面に1分間照射されている。そのため、表面粗さRmsは0.4nmまで悪化されている。前述の図3Dと同様に、このシリコンウェハ表面にはリップルパターンが形成されている。
本試験では、この前処理を行ったシリコンウェハを初期状態とし、このシリコンウェハに対して、ネオン(Ne)をソースガスとして用いた高速原子ビームエッチングを行った。エッチング時間は、3分、5分、20分である。図5Bは、エッチング時間が3分の場合の表面形状を示すAFM像である。図5Cは、エッチング時間が5分の場合の表面形状を示すAFM像である。図5Dは、エッチング時間が20分の場合の表面形状を示すAFM像である。いずれの図も、1μm四方の領域を示している。
これら図5B〜図5Dによりエッチング後のシリコンウェハの表面粗さを比較すると、以下のことが判明した。まず、図5Bを参照すると、3分間のエッチングにより、シリコンウェハの表面粗さRmsは0.28nmまで改善した。次に、図5Cを参照すると、5分間のエッチングにより、シリコンウェハの表面粗さRmsは0.20nmまで改善した。さらに、図5Dを参照すると、20分間のエッチングにより、シリコンウェハの表面粗さRmsは0.17nmまで改善した。また、エッチング時間(高速原子ビームの照射時間)を増していくほど、表面粗さRmsが小さくなるだけでなく、リップルパターンも消失していく様子が捉えられた。図4のグラフと照らし合わせると、このエッチングにより、未処理のシリコンウェハの表面粗さと同等にまで表面粗さを改善できることが判明した。
図6は、Neビーム(高速原子ビーム)の照射時間と表面粗さとの関係を示すグラフである。縦軸は表面粗さRms(nm)を示し、横軸はネオン(Ne)ビーム(高速原子ビーム)の照射時間(min.)を示している。図に示されるように、シリコンウェハは、ネオン(Ne)ビームのエッチングを行う前(Neビーム照射時間0分)では、キセノン(Xe)ビームによって表面が荒れた状態である(表面粗さRms0.4nm)。しかし、ネオン(Ne)ビームのエッチングを行うと、ネオン(Ne)ビームの照射時間が長くなるに連れて(3分、5分、20分)、より表面が平坦化していく(表面粗さRms0.28nm、0.20nm、0.17nm)。
以上のことから、高速原子ビーム(FAB)エッチングのソースガスとしてネオン(Ne)を用いることで、基板表面の平坦度(表面粗さ)を改善できることが判明した。基板表面の平坦度(表面粗さ)が改善できることは、接合強度を高くし、接合の信頼性を向上することができる点で極めて好ましいといえる。発明者の研究により、このようなネオン(Ne)をソースガスとする高速原子ビームエッチングの特性である初期の表面粗さが大きい面に対する「平坦度(表面粗さ)改善効果」が今回世界で初めて見出された。
上記表面粗さの改善効果が、接合強度(表面エネルギー)の向上に対して如何に寄与するかを評価した。図7は、表面エネルギーとNeビーム(高速原子ビーム)の照射時間との関係を示すグラフである。縦軸は、2枚の基板を接合した接合基板の表面エネルギー(接合強度)(J/m2)を示している。基板(母材)の表面エネルギーは、2.5J/m2程度である(図1の10MPa程度に対応する)。横軸は、Neビーム(高速原子ビーム)の照射時間(min.)を示している。
図に示されるように、シリコンウェハは、ネオン(Ne)ビームのエッチングを行う前(Neビーム照射時間0分)では、キセノン(Xe)ビームによって表面が荒れている状態である。そのため、表面エネルギー(接合強度)が小さい(0.1J/m2)。しかし、ネオン(Ne)ビームのエッチングを行うと、ネオン(Ne)ビームの照射時間が長くなるに連れて(0.5分、1分、2分、3分、5分)、より表面が平坦化していく(図5Bから図5Dと同様)。そのため、表面エネルギー(接合強度)が大きくなっていく(0.2J/m2、0.5J/m2、1.0J/m2、2.4J/m2、2.5J/m2)。このように、荒れた表面に対するネオン(Ne)ビームの照射時間を徐々に増していくことで、図6に示されるように表面粗さが小さくなるため、図7に示すように接合強度(表面エネルギー)が向上し、ついには母材強度にまで達することが確認された。
上述のように、発明者は、高速原子ビームを用いたエッチングのソースガスとしてネオン(Ne)を用いることで、そのネオン(Ne)ビームに平坦度(表面粗さ)維持効果および平坦度(表面粗さ)改善効果が有ることを見出した。これらの効果は、従来技術(例示:特許文献1〜4、非特許文献1)において今まで誰も指摘していなかった、ネオン(Ne)以外の他の不活性ガス又は希ガスには存在しない有利な効果ということができる。仮にネオン(Ne)以外の他の不活性ガス又は希ガスにこのような効果があったとしても、それらとは比較にならない顕著な効果であるということもできる。
上記平坦度(表面粗さ)維持効果および平坦度(表面粗さ)改善効果を有するネオン(Ne)ビームを用いた表面エッチングを常温接合の表面活性化工程に組み込むことで、クリーンな環境で、高品質な表面活性化・平滑化を実現することができる。すなわち、複数の基板を接合するとき、接合表面の平滑性を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、接合強度を向上することができる。それにより、複数の基板を接合するとき、接合の信頼性を向上することができる。また、ネオン(Ne)ビームを用いた表面エッチングを基板表面の平坦化工程に組み込むことで、ドライ環境下で、その基板表面の凹凸を除去し平坦にすることができる。それにより、デバイス製造プロセス全体を効率化できる。
以下では、上記平坦度(表面粗さ)維持効果および平坦度(表面粗さ)改善効果を有するネオン(Ne)ビームを用いた表面エッチングを常温接合の表面活性化工程に組み込んだ実施の形態について主に説明する。以下の実施の形態では、基板の表面を活性化する装置として複数の原子ビーム源を有する常温接合装置について説明する。ただし、本発明はその例に限定されるものではなく、ビームのガスソースとしてネオン(Ne)を用いることで、1つ又は多数の原子ビーム源を有する常温接合装置(例示:特許文献1〜4)に対しても同様に適用可能である。
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態に係る常温接合装置の構成について説明する。図8は、本実施の形態に係る常温接合装置の構成を示すブロック図である。常温接合装置100は、常温接合を実施する常温接合装置本体1と、常温接合装置本体1を制御する常温接合装置制御装置71とを具備している。
図9は、本実施の形態に係る常温接合装置本体1を示す断面図である。常温接合装置本体1は、ロードロックチャンバー2と接合チャンバー3とを具備している。ロードロックチャンバー2および接合チャンバー3は、それぞれ環境から内部を密閉する容器を備えている。常温接合装置本体1は、さらに、ゲート5とゲートバルブ6とを備えている。ゲート5は、ロードロックチャンバー2と接合チャンバー3との間に介設され、接合チャンバー3の内部とロードロックチャンバー2の内部とを接続している。ゲートバルブ6は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、ゲート5を閉鎖し、又は、開放する。
ロードロックチャンバー2は、蓋と真空排気装置(図示されず)とを備えている。その蓋は、ユーザに操作されることにより、ロードロックチャンバー2の開口部(図示されず)を閉鎖し、又は、開放する。その真空排気装置は、その開口部とゲート5とが閉鎖されているときに、その常温接合装置制御装置71に制御されることにより、ロードロックチャンバー2の内部から気体を排気する。
ロードロックチャンバー2は、さらに、複数の棚7と搬送ロボット8とを内部に備えている。複数の棚7には、カートリッジが載せられる。そのカートリッジは、概ね円盤状に形成されている。そのカートリッジは、そのカートリッジの上にウェハが載せられて利用される。搬送ロボット8は、ゲート5が開放されているときに、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、複数の棚7に配置されたカートリッジを接合チャンバー3の内部に搬送し、又は、接合チャンバー3の内部に配置されたカートリッジを複数の棚7に搬送する。
接合チャンバー3は、真空排気装置10を備えている。真空排気装置10は、ゲート5が閉鎖されているときに、その常温接合装置制御装置71に制御されることにより、接合チャンバー3の内部から気体を排気する。
図10は、本実施の形態に係る接合チャンバー3を示す断面図である。接合チャンバー3は、さらに、位置決めステージキャリッジ11と位置合わせ機構12とを備えている。位置決めステージキャリッジ11は、板状に形成されている。位置決めステージキャリッジ11は、接合チャンバー3の内部に配置され、水平方向(面内方向)に平行移動可能に、かつ、鉛直方向の回転軸を中心に回転移動可能に支持されている。位置決めステージキャリッジ11は、ウェハ(又は基板)42が載せられたカートリッジを保持することにより、そのウェハ42を保持する。位置合わせ機構12は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、位置決めステージキャリッジ11が水平方向に平行移動するように、又は、位置決めステージキャリッジ11が鉛直方向の回転軸を中心に回転移動するように、位置決めステージキャリッジ11を移動させる。
接合チャンバー3は、さらに、静電チャック14と圧接機構15とを備えている。静電チャック14は、接合チャンバー3の内部に配置され、位置決めステージキャリッジ11の鉛直上方に配置されている。静電チャック14は、鉛直方向に平行移動可能に接合チャンバー3に支持されている。静電チャック14は、誘電層から形成されている。静電チャック14は、鉛直方向に概ね垂直な平坦面が下端に形成されている。静電チャック14は、さらに、その誘電層の内部に内部電極を備えている。静電チャック14は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、その内部電極に所定の印加電圧が印加される。静電チャック14は、その内部電極に所定の電圧が印加されることにより、その誘電層の平坦面の近傍に配置されるウェハ(又は基板)52を静電力によって保持する。
圧接機構15は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、接合チャンバー3に対して鉛直方向に静電チャック14を平行移動させる。例えば、圧接機構15は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、複数の位置のうちの1つの位置に静電チャック14を配置する。その複数の位置は、アライメント位置とホーム位置と活性化位置とを含んでいる。そのアライメント位置は、下側ウェハ42が位置決めステージキャリッジ11に保持されている場合で、上側ウェハ52が静電チャック14に保持されているときに、その下側ウェハ42と上側ウェハ52とが所定の距離(例えば、1mm)だけ離れるように、設計される。そのホーム位置は、そのアライメント位置よりさらに鉛直上方である。その活性化位置は、そのホーム位置よりさらに鉛直上方である。
圧接機構15は、さらに、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、静電チャック14が配置される位置を測定し、その位置を常温接合装置制御装置71に出力する。圧接機構15は、さらに、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、静電チャック14により保持されたウェハ52に印加される荷重を測定し、その荷重をその常温接合装置制御装置71に出力する。
接合チャンバー3は、さらに、活性化装置16を備えている。活性化装置16は、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2と複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2とを備えている。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、それぞれ接合チャンバー3の内部に取付位置調整機構(図示されず)を用いて配置されている。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、位置決めステージキャリッジ11上のウェハ42の表面を活性化するのに用いられる。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、それぞれ接合チャンバー3の内部に取付位置調整機構(図示されず)を用いて配置されている。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、静電チャック14上のウェハ52の表面を活性化するのに用いられる。取付位置調整機構は、対応する下側原子ビーム源17−i又は上側ビーム源18−iの活性化ビームの照射角度を調整することができる。なお、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2と複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2とは、それぞれ2個ずつの例を示しているが、その数は2個に限定されるものではない。
常温接合装置本体1は、さらに、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2と複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2とに対応する複数のガス種切替機構を備えている。その複数のガス種切替機構のうちの下側原子ビーム源17−i(i=1,2)に対応するガス種切替機構は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、所定のガスを下側原子ビーム源17−iに供給する。図11は、本実施の形態に係るガス種切替機構を示すブロック図である。ガス種切替機構61は、複数のガス供給装置62−1〜62−4と複数のバルブ63−1〜63−4と管路64とを備えている。複数のガス供給装置62−1〜62−4は、接合チャンバー3の外部に配置されている。複数のガス供給装置62−1〜62−4は、例えば、複数のガスボンベから形成され、互いに異なる複数種の気体をそれぞれ放出する。例えば、ガス供給装置62−1〜62−4は、それぞれアルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)を放出する。複数のバルブ63−1〜63−4は、接合チャンバー3の外部に配置されている。複数のバルブ63−1〜63−4のうちの任意のバルブ63−k(k=1、2、3、4)は、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、複数のガス供給装置62−kから放出される気体を管路64に供給し、又は、その気体が管路64に供給されることを停止する。管路64は、複数のバルブ63−1〜63−4から管路64に供給される気体を下側原子ビーム源17−iに供給されるように、複数のバルブ63−1〜63−4を下側原子ビーム源17−iに接続している。このとき、下側原子ビーム源17−iは、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、ガス種切替機構61から供給される気体を用いて生成される高速原子ビームを出射する。
上側原子ビーム源18−iは、下側原子ビーム源17−iと同様に、他のガス種切替機構61を備えている。そのガス種切替機構61は、図11に示されるように構成され、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、所定のガスを上側原子ビーム源18−iに供給する。このとき、上側原子ビーム源18−iは、常温接合装置制御装置71に制御されることにより、そのガス種切替機構61から供給される気体を用いて生成される高速原子ビームを出射する。
図12は、本実施の形態に係る複数の下側ビーム源17−1〜17−2を示す斜視図である。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2のうちの任意の下側原子ビーム源17−iは、常温接合装置制御装置71に制御されることで、ガス種切替機構61から供給されるガスから形成される高速原子ビームを生成し、照射軸41−iに沿ってその高速原子ビームを出射する。照射軸41−iは、下側原子ビーム源17−iの照射孔の概ね中心を通り、下側原子ビーム源17−iの照射孔面に概ね垂直である。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、さらに、下側原子ビーム源17−1から出射される第1高速原子ビームが下側原子ビーム源17−2から出射される第2高速原子ビームと異なるように、互いに独立に常温接合装置制御装置71に制御されることもできる。ここで、高速原子ビームが互いに異なるとは、高速原子ビームの密度、速さ、元素の種類、エネルギー、が互いに異なることを意味している。さらに、高速原子ビームの照射時間、照射開始タイミング、照射終了タイミングなどが異なっていても良い。
位置決めステージキャリッジ11は、下側ウェハ42が載せられているカートリッジを保持することにより、下側ウェハ42の活性化表面40が鉛直上方を向くように、接合チャンバー3の内部に下側ウェハ42を保持する。下側ウェハ42としては、金属材料、半導体材料、絶縁体材料など、製造するデバイスに応じて最適な材料の基板が選択される。例えば、下側ウェハ42は、シリコンやサファイアの単結晶などに例示され、円板状に形成されている。下側ウェハ42は、例えば、活性化表面40に複数のパターンが形成されていてもよい。なお、下側ウェハ42は、円板状に形成されていない基板に置換されることができる。その基板としては、矩形の板に形成されたものが例示される。下側原子ビーム源17−iは、下側ウェハ42が位置決めステージキャリッジ11に保持されているときに、照射軸41−iが活性化表面40のうちの交点43−iで交差するように、接合チャンバー3に固定されている。
複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、交点43−1と交点43−2とが一致しないように、かつ、交点43−1と交点43−2とを結ぶ線分の中点が活性化表面40の中心44に一致するように、配置されている。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、さらに、交点43−1と交点43−2とを通る直線45が照射軸41−1と照射軸41−2とに垂直であるように、配置されている。複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、さらに、下側原子ビーム源17−1の照射孔から交点43−1までの距離が下側原子ビーム源17−2の照射孔から交点43−2までの距離に等しくなるように、配置されている。すなわち、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、さらに、主回転軸46に関して2回回転対称になるように、配置されている。主回転軸46は、中心44を通り、活性化表面40に垂直である。すなわち、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、主回転軸46を中心に下側原子ビーム源17−1を180度(1/2回転)だけ回転させたときに、下側原子ビーム源17−2に重なるように、配置されている。
図13は、本実施の形態に係る複数の上側ビーム源18−1〜18−2を示す斜視図である。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2のうちの任意の上側原子ビーム源18−iは、常温接合装置制御装置71に制御されることで、ガス種切替機構61から供給されるガスから形成される高速原子ビームを生成し、照射軸51−iに沿ってその高速原子ビームを出射する。照射軸51−iは、上側原子ビーム源18−iの照射孔の概ね中心を通り、上側原子ビーム源18−iの照射孔面に概ね垂直である。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、さらに、上側原子ビーム源18−1から出射される第1高速原子ビームが上側原子ビーム源18−2から出射される第2高速原子ビームと異なるように、互いに独立にその常温接合装置制御装置に制御されることもできる。ここで、高速原子ビームが互いに異なるとは、上述したとおりである。
静電チャック14は、上側ウェハ52の活性化表面50が鉛直下方を向くように、接合チャンバー3の内部に上側ウェハ52を保持する。上側ウェハ52としては、金属材料、半導体材料、絶縁体材料など、製造するデバイスに応じて最適な材料の基板が選択される。例えば、上側ウェハ52は、シリコンやサファイアの単結晶などに例示され、円板状に形成されている。上側ウェハ52は、活性化表面50に複数のパターンが形成されている。なお、上側ウェハ52は、円板状に形成されていない基板に置換されることができる。その基板としては、矩形の板に形成されたものが例示される。上側原子ビーム源18−iは、上側ウェハ52が静電チャック14に保持されている場合で、静電チャック14がその活性化位置に配置されているときに、照射軸51−iが活性化表面50のうちの交点53−iで交差するように、接合チャンバー3に固定されている。
複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、交点53−1と交点53−2とが一致しないように、かつ、交点53−1と交点53−2とを結ぶ線分の中点が活性化表面50の中心54に一致するように、配置されている。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、さらに、交点53−1と交点53−2とを通る直線55が照射軸51−1と照射軸51−2とに垂直であるように、配置されている。複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、さらに、上側原子ビーム源18−1の照射孔から交点53−1までの距離が上側原子ビーム源18−2の照射孔から交点53−2までの距離に等しくなるように、配置されている。すなわち、複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、さらに、主回転軸56に関して2回回転対称になるように、配置されている。主回転軸56は、中心54を通り、活性化表面50に垂直であり、主回転軸46に一致している。すなわち、複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、主回転軸56を中心に上側原子ビーム源18−1を180度(1/2回転)だけ回転させたときに、上側原子ビーム源18−2に重なるように、配置されている。
活性化装置16は、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2が主回転軸46に対して回転対称に配置されている。それにより、活性化装置16は、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2が非対称に配置された他の活性化装置に比較して、活性化表面40に高速原子ビームをより均一に照射することができ、活性化表面40をより均一にエッチングすることができる。同様に、複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2が主回転軸56に対して回転対称に配置されている。それにより、複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2が非対称に配置された他の活性化装置に比較して、活性化表面50に高速原子ビームをより均一に照射することができ、活性化表面50をより均一にエッチングすることができる。
このとき、常温接合装置本体1は、複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2と複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2とをそれぞれ備えている。それにより、固定された1つの下側原子ビーム源と1つの上側原子ビーム源とを備える他の常温接合装置に比較して、より広い領域をより均一に照射することができる。このため、常温接合装置本体1は、より大型の基板の表面の全体を活性化することができ、その大型の基板をより適切に接合することができる。
図14は、本実施の形態に係る常温接合装置制御装置を示すブロック図である。常温接合装置制御装置71は、コンピュータであり、図示されていないCPUと記憶装置とインターフェースとを備えている。そのCPUは、常温接合装置制御装置71にインストールされているコンピュータプログラムを実行することにより、その記憶装置とそのインターフェースとを制御する。その記憶装置は、そのコンピュータプログラムを記録し、そのCPUにより作成される情報を一時的に記録する。
そのインターフェースは、常温接合装置制御装置71に接続されている複数の外部機器により作成される情報をそのCPUに出力したり、そのCPUにより作成された情報をその複数の外部機器に出力したりする。その複数の外部機器としては、入力装置、出力装置、通信装置、リムーバルメモリドライブが例示される。その入力装置は、ユーザに操作されることにより情報を作成し、その情報をそのCPUに出力する。その入力装置としては、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネルが例示される。その出力装置は、そのCPUにより作成される情報をユーザに認識可能に出力する。その出力装置としては、ディスプレイ、音響装置、タッチパネルが例示される。その通信装置は、常温接合装置制御装置71が通信ネットワークに接続されているときに、その通信ネットワークを介してそのCPUにより作成された情報を他のコンピュータに送信し、その通信ネットワークを介して他のコンピュータから受信された情報をそのCPUに出力する。その通信装置は、さらに、常温接合装置制御装置71にインストールされるコンピュータプログラムを他のコンピュータからダウンロードすることに利用される。そのリムーバルメモリドライブは、記録媒体が挿入されたときに、その記録媒体に記録されているデータを読み出すことに利用される。そのリムーバルメモリドライブは、さらに、コンピュータプログラムが記録されている記録媒体が挿入されたときに、そのコンピュータプログラムを常温接合装置制御装置71にインストールするときに利用される。その記録媒体としては、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスク)、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク、フラッシュメモリが例示される。
そのインターフェースは、さらに、常温接合装置本体1を常温接合装置制御装置71に接続している。具体的には、そのインターフェースは、ゲートバルブ6と搬送ロボット8とロードロックチャンバー2から排気する真空排気装置とを常温接合装置制御装置71に接続している。そのインターフェースは、真空排気装置10と位置合わせ機構12と静電チャック14と圧接機構15と複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2と複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2と複数のバルブ63−1〜63−4とを常温接合装置制御装置71に接続している。
常温接合装置制御装置71にインストールされるコンピュータプログラムは、常温接合装置制御装置71に複数の機能をそれぞれ実現させるための複数のコンピュータプログラムから形成されている。その複数の機能は、搬送部72と第1活性化部73−1と第2活性化部73−2と接合部74とを含んでいる。
搬送部72は、ウェハの搬送、設置および取り出しに関して常温接合装置本体1を制御する。具体的には、ロードロックチャンバー2の真空排気装置の制御、ゲートバルブ6の開閉の制御、搬送ロボット8によるカートリッジの搬送の制御、圧接機構15の制御、および静電チャック14の制御を主に行う。
第1活性化部73−1および第2活性化部73−2は、ウェハの活性化に関して常温接合装置本体1を制御する。具体的には、接合チャンバー3の真空排気装置10の制御、ガス種切替機構61の制御、圧接機構15の制御、複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2および複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2の制御を主に行う。
接合部74は、ウェハの接合に関して常温接合装置1を制御する。具体的には、圧接機構15の制御、静電チャック14の制御、および位置合わせ機構12を主に行う。
次に、本発明の第1の実施の形態に係る常温接合方法(常温接合装置の動作)について説明する。図15は、本実施の形態に係る常温接合方法を示すフローチャートである。この常温接合方法は、上述された常温接合装置100を用いて実行される。
常温接合装置制御装置71の搬送部72は、まず、ゲートバルブ6を制御して、ゲート5を閉鎖する。その後、搬送部72は、ロードロックチャンバー2の真空排気装置を制御して、ロードロックチャンバー2の内部に大気圧雰囲気を生成し、真空排気装置10を制御して、接合チャンバー3の内部に接合雰囲気を生成する。ユーザは、複数の下側ウェハが搭載された複数の下側カートリッジと、複数の上側ウェハが搭載された複数の上側カートリッジとを予め準備しておく。その複数の下側ウェハは下側ウェハ42を含み、その複数の上側ウェハは上側ウェハ52を含んでいる。ユーザは、ロードロックチャンバー2の内部に大気圧雰囲気が生成されているとき、ロードロックチャンバー2の蓋を開けて、複数の棚7にその複数の下側カートリッジとその複数の上側カートリッジとを配置する。下側カートリッジには、活性化表面40の裏がその下側カートリッジに対向するように下側ウェハ42が載せられている。上側カートリッジには、活性化表面50がその上側カートリッジに対向するように、上側ウェハ52が載せられている。次に、ユーザは、ロードロックチャンバー2の蓋を閉鎖する。その後、搬送部72は、ロードロックチャンバー2の真空排気装置を制御して、ロードロックチャンバー2の内部に予備雰囲気を生成する(ステップS1)。
続いて、搬送部72は、ゲートバルブ6を制御して、ゲート5を開放する。次に、搬送部72は、搬送ロボット8を制御して、上側ウェハ52が接合チャンバー3の位置決めステージキャリッジ11に保持されるように、その上側カートリッジを複数の棚7から位置決めステージキャリッジ11へ搬送する。その後、搬送部72は、圧接機構15を制御して、静電チャック14を下降させる。さらに、搬送部72は、圧接機構15を制御して、静電チャック14に印加される荷重を測定する。そして、搬送部72は、その荷重が所定の接触荷重に到達するタイミングをその荷重の変化に基づいて算出し、すなわち、その上側カートリッジに載っている上側ウェハ52が静電チャック14に接触するタイミングをその荷重の変化に基づいて算出する。搬送部72は、圧接機構15を制御して、そのタイミングで静電チャック14の下降を停止させる。その結果、上側ウェハ52に静電チャック14が接触する。
次に、搬送部72は、静電チャック14を制御して、静電チャック14に上側ウェハ52を保持させる。続いて、搬送部72は、圧接機構15を制御して、静電チャック14がそのホーム位置に配置されるまで静電チャック14を上昇させる。そして、搬送部72は、搬送ロボット8を制御して、上側ウェハ52を取り上げられたその上側カートリッジを位置決めステージキャリッジ11から複数の棚7に搬送する。次に、搬送部72は、搬送ロボット8を制御して、下側ウェハ42が接合チャンバー3の位置決めステージキャリッジ11に保持されるように、その下側カートリッジを複数の棚7から位置決めステージキャリッジ11に搬送する。その後、搬送部72は、ゲートバルブ6を制御して、ゲート5を閉鎖する(ステップS2)。
次に、常温接合装置制御装置71の第1活性化部73−1および第2活性化部73−2は、圧接機構15を制御して、静電チャック14がその活性化位置に配置されるまで静電チャック14を上昇させる。そして、第1活性化部73−1および第2活性化部73−2は、真空排気装置10を制御して、接合チャンバー3の内部にその活性化雰囲気を生成する(ステップS3)。続いて、第1活性化部73−1と第2活性化部73−2は、活性化装置16を制御して、上側ウェハ52の活性化表面50と下側ウェハ42の活性化表面40とを活性化させる(ステップS4)。活性化の具体的方法については後述される。
次に、常温接合装置制御装置71の接合部74は、下側ウェハ42の活性化表面40と上側ウェハ52の活性化表面50とが活性化された後に、圧接機構15を制御して、静電チャック14を下降させ、静電チャック14をそのアライメント位置に配置する。続いて、接合部74は、上側ウェハ52と下側ウェハ42とがその位置合わせ距離だけ離れているときに、位置合わせ機構12を制御して、下側ウェハ42を上側ウェハ52に対して所定の位置合わせ位置に配置する(ステップS5)。
次に、接合部74は、下側ウェハ42がその位置合わせ位置に配置された後に、圧接機構15を制御して、静電チャック14を下降させる。続いて、接合部74は、圧接機構15を制御して、静電チャック14に印加される荷重を測定し、その荷重が所定の接合荷重に到達するタイミングを算出する。そして、接合部74は、圧接機構15を制御して、そのタイミングで静電チャック14の下降を停止させ、すなわち、上側ウェハ52と下側ウェハ42とにその接合荷重を印加する(ステップS6)。下側ウェハ42と上側ウェハ52とは、その接合荷重が印加されることにより、接合され、1枚の接合ウェハに形成される。
次に、接合部74は、静電チャック14を制御して、その接合ウェハを静電チャック14から離脱させる。続いて、接合部74は、圧接機構15を制御して、静電チャック14を上昇させる。次に、搬送部72は、ゲートバルブ6を制御して、ゲート5を開放する。続いて、搬送部72は、搬送ロボット8を制御して、その接合ウェハがロードロックチャンバー2に搬送されるように、その下側カートリッジを位置決めステージキャリッジ11から複数の棚7に搬送する(ステップS7)。
次に、搬送部72は、他の下側ウェハが載せられている他の下側カートリッジと他の上側ウェハが載せられている他の上側カートリッジとが複数の棚7に配置されているときに(ステップS8:YES)、ステップS2〜ステップS7の動作を再度繰り返して実行する。
一方、搬送部72は、接合することが予定されている下側ウェハと上側ウェハとが複数の棚7に配置されていないときに(ステップS8:NO)、ゲートバルブ6を制御して、ゲート5を閉鎖する。次に、搬送部72は、ロードロックチャンバー2の真空排気装置を制御して、ロードロックチャンバー2の内部に大気圧雰囲気を生成する(ステップS9)。その後、ユーザは、ロードロックチャンバー2の蓋を開けて、その複数の下側カートリッジとその複数の上側カートリッジとを複数の棚7から取り出すことにより、その接合ウェハを含む複数の接合ウェハをロードロックチャンバー2から取り出す。
ユーザは、さらに他の複数の下側ウェハと他の複数の上側ウェハとをさらに常温接合したいときに、その複数の下側ウェハに対応する複数の下側カートリッジとその複数の上側ウェハに対応する複数の上側カートリッジとを準備し、このような常温接合方法を再度実行する。
次に、上記常温接合方法におけるウェハ表面の活性化方法(ステップS4)について説明する。図16は、実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)を実行中の接合チャンバーを示す断面図である。活性化方法(ステップS4)を実行するとき、上側ウェハ52は活性化位置に配置された静電チャック14に保持され、下側ウェハ42は位置決めステージキャリッジ11に保持されている。活性化装置16の複数の上側原子ビーム源18−1〜18−2は、それぞれ高速原子ビームBb1、Bb2を上側ウェハ52へ出射する。それにより、上側ウェハ52の活性化表面50がエッチングされて活性化される。一方、活性化装置16の複数の下側原子ビーム源17−1〜17−2は、それぞれ高速原子ビームBa1、Ba2を下側ウェハ42へ出射する。それにより、下側ウェハ42の活性化表面40がエッチングされて活性化される。
図17は、本実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)を示すフローチャートである。下側ウェハ42の活性化表面40と上側ウェハ52の活性化表面50とを活性化させる方法は、ステップS11とステップS12とを備えている。ステップS11は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて活性化される。ステップS12は、他方のウェハの表面に、高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて活性化される。ただし、「一方のウェハ」は上側ウェハ52および下側ウェハ42のいずれか一方であり、「他方のウェハ」はいずれか他方である。各ステップは、同時に実行しても良いし、部分的に重なって実行しても良いし、排他的に実行しても良い。各ステップのビーム条件は、接合するウェハの種類に応じて、同じであっても良いし、異なっていても良い。
以上のようにして、本実施の形態に係る常温接合装置は動作する。
このように、本実施の形態では、ステップS11およびステップS12のいずれにおいても、高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを用いている。そのネオン(Ne)ビームを用いた物理エッチングにより、ウェハ表面に付着している酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等を除去して、ウェハ表面を活性化させることができる。
それに加えて、ネオン(Ne)をソースガスとして用いた場合、アルゴン(Ar)やキセノン(Xe)をソースガスとして用いた場合と比較して、高速原子ビームを照射した基板の表面粗さを顕著に小さくすることができる。それは、既述のように、ネオン(Ne)ビームには、元の表面粗さが粗くない場合には平坦度(表面粗さ)維持効果があり、元の表面粗さが粗い場合には平坦度(表面粗さ)改善効果が有るからである。その結果、ウェハ表面の表面性状を、ベアウェハの表面性状と同等の表面粗さを有する高品位な平滑面に形成することが可能となる。
仮に除去すべき酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等の層が厚い場合、従来用いられるアルゴン(Ar)ビームでは、長時間のビーム照射が必要となる。照射時間が増加すると、基板表面の表面粗さが悪化してしまう(図3A、図3C、図4)。基板表面の表面粗さが悪化すると、接合強度が低下してしまう(図1)。
しかし、ネオン(Ne)をソースガスとして用いた高速原子ビーム(ネオン(Ne)ビーム)は、既述のように、元の表面粗さが小さい場合にはその表面粗さを維持する効果がある(図3A、図3B、図4)。したがって、上記のステップS11、S12を踏めば、長時間のビーム照射が必要な場合であっても、元の表面粗さが小さければ、その表面粗さを小さいままに維持することができる。表面粗さを小さいままに維持できるので、高い接合強度を得ることが可能となる。その結果、接合対象材料を高い信頼性で接合することができる。
また、ネオン(Ne)ビームは、既述のように、元の表面粗さが大きい場合にはその表面粗さを改善する効果がある(図5A〜図5D、図6)。したがって、上記のステップS11、S12を踏めば、前処理工程などで元の表面粗さが大きければ、その表面粗さを小さくするように改善することができる。表面粗さを小さくすることができるので、高い接合強度を得ることが可能となる。その結果、接合対象材料を高い信頼性で接合することができる。
以上述べたように、本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、複数の基板を接合するとき、接合表面の平滑性を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、接合強度を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、接合の信頼性を向上することができる。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法について説明する。本実施の形態では、常温接合方法における活性化方法(ステップS4)が、第1の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に説明する。
図18は、本実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)を示すフローチャートである。下側ウェハ42の活性化表面40と上側ウェハ52の活性化表面50とを活性化させる方法は、ステップS21とステップS22とステップS23とステップS24とを備えている。ステップS21は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))ビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、高速に物理エッチングされて活性化される。ただし、表面粗さが大きくなる。ステップS22は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて、表面粗さが小さくなる。ステップS23は、他方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))ビームを照射するステップである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、高速に物理エッチングされて活性化される。ただし、表面粗さが大きくなる。ステップS24は、他方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて、表面粗さが小さくなる。ただし、「一方のウェハ」は上側ウェハ52および下側ウェハ42のいずれか一方であり、「他方のウェハ」はいずれか他方である。ステップS22はステップS21の後に行われる。ステップS24はステップS23の後に行われる。ただし、ステップS21、S22とステップS23、S24とは、同時に実行しても良いし、部分的に重なって実行しても良いし、排他的に実行しても良い。各ステップのビーム条件は、接合するウェハの種類に応じて、同じであっても良いし、異なっていても良い。
以上のようにして、本実施の形態に係る常温接合装置は動作する。
このように、本実施の形態では、ステップS21およびステップS23において、高速原子ビームとしてのネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))ビームを用いている。そして、その後に、ステップS22およびステップS24において、高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを用いている。これは、以下の理由による。
第1の実施の形態では、高速原子ビームとしてネオン(Ne)ビームのみを用いている。しかし、ネオン(Ne)は、アルゴン(Ar)に比べて原子番号が小さく、その粒子質量も小さい。そのため、ネオン(Ne)ビームを用いた場合、アルゴン(Ar)ビームを用いる場合と比較して、対象物の単位深さを除去する速度(エッチングレート[nm/min])が低くなる。例えば、図3Bの場合(Ne)、同じ深さ(約30nm)をエッチングするのに、図3Cの場合(Ar)や図3Dの場合(Xe)と比較して、2倍の時間を要している。そのため、接合基板のスループット向上を目指す上ではネックになりかねない。
そこで発明者は、ネオン(Ne)ビームによる表面粗さ改善効果に着目した。既述のように、ネオン(Ne)ビームは、ビーム照射時間経過と共に、荒れた表面を平滑化する作用(平坦度(表面粗さ)改善効果)を有している(図5A〜図5D、図6)。本実施の形態では、その効果を考慮して、まず、エッチングレートが高いアルゴン(Ar)ビームにより、高速で酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等を除去する(S21、S23)。その後、エッチングレートは低いが表面粗さ改善効果を持つネオン(Ne)ビームにて平滑化処理を行う(S22、S24)。それは、あたかも機械加工において荒加工後に仕上げ加工を行うためにツールを使い分けるかのように、高速原子ビームのソースガスを使い分ける。それにより、ウェハ表面に付着している酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等を高速に除去して、ウェハ表面を高速に活性化し、かつ、ウェハ表面の表面粗さを顕著に小さくすることができる。すなわち、活性化時間を短縮した上で平滑な面を得ることが可能である。その結果、本実施の形態により、接合強度の信頼性が高い接合基板を、高い生産性で製造することができる。
本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。それに加えて、本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、活性化時間を短縮しつつ、平滑な面を得ることが可能である。その結果、高生産性と接合強度の信頼性とを両立させて、接合基板を製造することができる。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法について説明する。本実施の形態では、常温接合方法における活性化方法(ステップS4)が、第2の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に説明する。
図19は、本実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)を示すフローチャートである。下側ウェハ42の活性化表面40と上側ウェハ52の活性化表面50とを活性化させる方法は、ステップS31とステップS32とを備えている。ステップS31は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとして、ネオン(Ne)とネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))との混合ガスのビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、ネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスのビームにより高速に粗く物理エッチングされつつ、ネオン(Ne)ビームにより表面粗さを改善するように物理エッチングされる。ステップS32は、他方のウェハの表面に高速原子ビームとして、ネオン(Ne)とネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))との混合ガスのビームを照射するステップである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、ネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスのビームにより高速に粗く物理エッチングされつつ、ネオン(Ne)ビームにより表面粗さを改善するように物理エッチングされる。ただし、「一方のウェハ」は上側ウェハ52および下側ウェハ42のいずれか一方であり、「他方のウェハ」はいずれか他方である。ステップS31とステップS32とは、同時に実行しても良いし、部分的に重なって実行しても良いし、排他的に実行しても良い。各ステップのビーム条件は、接合するウェハの種類に応じて、同じであっても良いし、異なっていても良い。
以上のようにして、本実施の形態に係る常温接合装置は動作する。
このように、本実施の形態では、ステップS31およびステップS32において、高速原子ビームとして、ネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスと、ネオン(Ne)との混合ガスのビームを用いている。すなわち、希ガスビームにより基板を物理エッチングすることで、基板表面に付着している酸化膜層等を高速に除去して表面活性化を行い、それと同時並行で、ネオン(Ne)ビームにより基板を物理エッチングすることで、基板表面を高品位な平滑面に形成する。言い換えると、第2の実施の形態におけるステップS21とステップS22とを同時に行い、ステップS23とステップS24とを同時に行っていると見ることもできる。
すなわち、本実施の形態では、質量(≒エッチングレート)の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))と、表面平滑化効果を有するネオン(Ne)との混合ガスとを、活性化ビーム(スパッタビーム)のソースガスとして用いている。それにより、高速な物理エッチングとそれに伴って形成される粗面の平滑化を同時並行で行うことができ、第2の実施の形態よりも活性化時間と平滑化時間とを短縮した上で平滑で活性な面を得ることが可能である。その結果、本実施の形態により、接合強度の信頼性が高い接合基板を、より高い生産性で製造することができる。
本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、第2の実施の形態と同様の効果を奏することができる。それに加えて、本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、活性化と平滑化とを同時に行うので、より高い生産性と接合強度の信頼性とを両立させて、接合基板を製造することができる。
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法について説明する。本実施の形態では、常温接合方法における活性化方法(ステップS4)が、第1の実施の形態と相違している。以下では、その相違点について主に説明する。
図20は、本実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)を示すフローチャートである。下側ウェハ42の活性化表面40と上側ウェハ52の活性化表面50とを活性化させる方法は、ステップS41とステップS42とを備えている。ステップS41は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))ビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、高速に物理エッチングされて活性化される。ただし、表面粗さが大きくなる場合がある。ステップS42は、他方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて活性化される。ただし、表面粗さは小さい。ただし、「一方のウェハ」は上側ウェハ52および下側ウェハ42のいずれか一方であり、「他方のウェハ」はいずれか他方である。ステップS41とステップS42とは、同時に実行しても良いし、部分的に重なって実行しても良いし、排他的に実行しても良い。各ステップのビーム条件は、接合するウェハの種類に応じて、同じであっても良いし、異なっていても良い。
以上のようにして、本実施の形態に係る常温接合装置は動作する。
このように、本実施の形態では、接合対象の一方のウェハについては、表面を活性化する高速原子ビームのソースガスとして、ネオン(Ne)よりも原子番号が大きい希ガス(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))を用いている。また、接合対象である他方のウェハについては、表面を活性化する高速原子ビームのソースガスとして、ネオン(Ne)を用いている。これは、以下の理由による。
接合対象の基板(ウェハ)の組み合わせは様々である。例えば、接合対象面の初期の表面粗さが悪い基板と、除去すべき酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等の層が厚い基板との組み合わせが考えられる。この場合、前者に対しては表面粗さを改善する効果を有するネオン(Ne)ビームを用い、後者に対してはより効率的にエッチングを伸展させるネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスビームを用いる方法が好ましい。
この例のように、一方の基板は表面の平滑性を重視し、他方の基板はエッチング深さを重視する組み合わせの場合、単一のソースガスではビーム照射条件(加速電圧、電流)の調整のみでこの要求に応えるには限界がある。このため、本実施の形態のように基板の性状に合わせてソースガスを使い分けるステップを踏むことにより、各々の基板にとって、ひいては接合性能にとって適切な活性表面を得ることが可能となる。その結果、本実施の形態により、接合強度の信頼性を向上させることができ、併せて生産性を高めることができる。
あるいは、例えば、半導体基板のような表面を少量エッチングするだけで活性表面が得られる基板と、金属基板のような除去すべき酸化膜層、有機物層、付着物、汚染物等の層が厚くて表面を多量にエッチングしないと活性化表面が得られない基板との組み合わせが考えられる。この場合にも、前者に対しては相対的に少量エッチングするネオン(Ne)ビームを用い、後者に対しては相対的に多量にエッチングするネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスビームを用いる方法が好ましい。
この例のように、一方の基板は薄くエッチングし、他方の基板では厚くエッチングする組み合わせの場合、単一のソースガスでビーム照射条件(加速電圧、電流)の調整のみでも対応可能である。しかし、薄くエッチングするようにエッチング深さを調整することは困難な場合が多い。そのため、ビーム照射条件の調整ではなく、ネオン(Ne)ビームを用いることで、極めて容易にエッチング深さの調整を行うことができる。それにより、各々の基板にとって、ひいては接合性能にとって適切な活性表面を得ることが可能となる。その結果、本実施の形態により、接合強度の信頼性を向上させることができ、併せて生産性を高めることができる。
本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。それに加えて、本実施の形態に係る常温接合装置および常温接合方法は、基板の種類や表面状態に応じて、高速原子ビームの種類を使い分けるので、より適切に基板の表面を活性化させることができる。その結果、高生産性と接合強度の信頼性とを両立させて、接合基板を製造することができる。
(変形例)
本実施の形態において、一方のウェハの表面にネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスビームを照射するステップ(S41)で、表面粗さが大きくなる場合、さらに、そのウェハの表面にネオン(Ne)ビームを照射するステップを追加しても良い。図21は、本実施の形態に係る活性化方法(ステップS4)の変形例を示すフローチャートである。
本変形例は、ステップS51とステップS52とステップS53とを備えている。ステップS51は、一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)より原子番号の大きい希ガスビームを照射するステップである。すなわち、ステップS41と同様である。それにより、「一方のウェハ」の表面が、高速に物理エッチングされて活性化される。ただし、表面粗さが大きくなる場合がある。ステップS52は、さらに、その一方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。それにより、「一方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて表面粗さが小さくなる。すなわち、表面の平坦度が改善され、平滑化される。ステップS53は、他方のウェハの表面に高速原子ビームとしてのネオン(Ne)ビームを照射するステップである。すなわち、ステップS42と同じである。それにより、「他方のウェハ」の表面が、物理エッチングされて活性化される。表面粗さは小さい。ただし、「一方のウェハ」は上側ウェハ52および下側ウェハ42のいずれか一方であり、「他方のウェハ」はいずれか他方である。ステップS51、S52とステップS53とは、同時に実行しても良いし、部分的に重なって実行しても良いし、排他的に実行しても良い。各ステップのビーム条件は、接合するウェハの種類に応じて、同じであっても良いし、異なっていても良い。
この場合にも、図20の場合と同様の効果を奏することができる。加えて、一方のウェハの平坦度が改善されるので、より接合性能を高めることができる。
(第5の実施の形態)
次に、本発明の第5の実施の形態に係る平坦化装置および平坦化方法について説明する。本実施の形態では、ネオン(Ne)ビームの平坦度(表面粗さ)改善効果を用いて基板の表面を平坦にする装置および方法について説明する。
本実施の形態に係る平坦化装置は、基板保持部(11)と、原子ビーム源(17)とを具備している。基板保持部(11)は、基板(42)を保持する。原子ビーム源(17)は、基板(42)上の凹凸を緩和するように、基板(42)の表面(40)に照射される原子ビーム(Ba)を出射する。ただし、原子ビーム(Ba)は、ネオン原子を含むビームである。
そのような平坦化装置としては、例えば、図8〜図14を用いて説明された常温接合装置を用いることができる。その場合、この常温接合装置本体1において、位置決めステージキャリッジ11が上記の基板保持部(11)に対応する。また、活性化装置16の下側原子ビーム源17−1〜17−2が原子ビーム源(17)に対応する。そして、平坦化装置としてのみ用いる場合には、常温接合装置本体1の静電チャック14、圧接機構15、および活性化装置16の上側原子ビーム源18−1〜18−2と、常温接合装置制御装置71の接合部74とは必ずしも必要ない。
この装置は、基板保持部としての位置決めステージキャリッジ11に設置された基板へ、原子ビーム源としての下側原子ビーム源17−1〜17−2からネオン(Ne)ビームを照射する。それにより、その基板表面の平坦度(表面粗さ)を改善して、平坦化することができる。
次に、本実施の形態に係る平坦化方法について説明する。図22は、本実施の形態に係る平坦化方法を示すフローチャートである。平坦化方法は、第1のステップS61と第2のステップS62とを具備している。第1のステップS61は、基板(42)を準備するステップである。第2のステップS62は、基板(42)上の凹凸を緩和するように(基板表面を平坦にするように)、基板(42)の表面(40)に原子ビーム(Ba)を出射するステップである。ただし、原子ビーム(Ba)は、ネオン原子を含むビームである。すなわち、原子ビーム(Ba)のソースガスはネオン(Ne)を含んでいる。
そのような平坦化方法としては、例えば、図15で説明された常温接合装置を用いた常温接合方法を用いることができる。その場合、例えば、図15のステップS1〜S3が、上記のステップS61に概ね対応する。図15のステップS4が上記のステップS62に概ね対応する。なお、図15のステップS5(位置合わせ)、ステップS6(接合)などは実施されない。
この方法は、表面に凹凸が有る(表面粗さが大きい)基板を準備し、その基板表面へ、ネオン(Ne)ビームを照射して、その基板表面を物理エッチングする。それにより、その基板の表面の平坦度(表面粗さ)を改善して、平坦化することができる。その結果、基板表面を、ベアウェハの表面性状と同等の表面粗さを有する高品位な平滑面に形成することができる。この場合、常温接合ほどには高真空雰囲気にする必要はない。
既述のように、ネオン(Ne)をソースガスとする高速原子ビームは、アルゴン(Ar)やキセノン(Xe)をソースガスとする高速原子ビームよりも、照射した基板表面の表面粗さを顕著に小さくする作用を有している(図4)。例えば、ネオン(Ne)ビームを用いてシリコンウェハの自然酸化膜厚(数nm)より十分大きい30nmの深さのエッチングを施しても、そのシリコンウェハの表面粗さRmsは0.18nmとなり、ベアウェハ(未処理ウェハ)の表面粗さと違いが無い(図3A、図3B)。
また、既述のように、ネオン(Ne)ビームは、ビーム照射時間が経過するに連れて、荒れた表面を平滑化していく作用、すなわち表面粗さ改善効果を有している(図6)。例えば、表面粗さRms0.40nmのシリコンウェハをネオン(Ne)ビームを用いてエッチングした場合、そのシリコンウェハの表面粗さRmsは0.17nmとなり、ベアウェハ(未処理のシリコンウェハ)の表面粗さまで表面粗さが改善される(図5A〜図5D)。
本実施の形態では、これらネオン(Ne)ビームの効果を用いることで、例えば半導体製造ラインで求められる表面研磨効果と同等の表面平坦化効果を、理想的なドライ環境下で達成することができる。すなわち、ネオン(Ne)ビームを基板表面へ照射することで、ドライ環境下で、その基板表面の表面粗さを低減することができる。それにより、従来ならばオフプロセスでCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの手法を用いて表面研摩を行っていた工程を無くすことが可能になる。これはデバイス製造プロセス全体の効率化に繋がる効果である。
上記第1〜第5の実施の形態では、さらに、以下のような共通する効果を奏することができる。半導体製造プロセス等では、製造ラインを汚染する金属汚染の防止は必須である。通常、基板表面のエッチング用の高速原子ビームは、基板表面をスパッタするのと同時に、基板周辺に位置する金属部材の表面を意図せずにスパッタしてしまう現象が起こる。しかし、上記各実施の形態では、粒子質量が小さい、すなわち衝突エネルギーが小さいネオン(Ne)ビームを用いている。それにより、基板周辺の金属部材に対するスパッタ収率を、ネオン(Ne)よりも原子番号が大きい希ガスを用いたビーム(通常はアルゴン(Ar)ビーム)よりも低く抑えられる。その結果、発生する金属部材由来の金属汚染を低減することができる。すなわち、発生する金属汚染の抑制効果を奏することができる。
上記各実施の形態により、複数の基板を接合するとき、接合の信頼性を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、接合強度を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、接合表面の平滑性を向上することができる。また、複数の基板を接合するとき、製造ラインにおける金属汚染を抑制することができる。また、複数の基板を接合するとき、ビーム照射プロセスで発生する金属汚染を抑制することができる。
本発明はいくつかの実施の形態と併せて上述されたが、これらの実施の形態は本発明を説明するために単に提供されたものであることは当業者にとって明らかであり、意義を限定するように添付のクレームを解釈するために頼ってはならない。また、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。