JP5945106B2 - 表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法 - Google Patents

表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法 Download PDF

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Description

本発明は、表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法に係り、特に、移動焼入れ法を用いる際に、表面焼入れが重ねて行われることで生じる部分的焼戻しあるいは焼割れを抑制した表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法に関する。
小さな鋼材部品については、全体を変態点温度以上に加熱した後、所定の冷却速度以上で急冷して焼入れを行うことができる。鋼材部品が大きくなると、全体を加熱しまた急冷することが困難になることがあり、その場合、摩耗等の観点から必要な部位のみ表面から部分焼入れすることが行われる。部分焼入れの方法としては、誘導加熱コイルを鋼材部品の焼入れ部位から所定間隔離して設置し、誘導加熱コイルに高周波電力を供給しながら、鋼材部品の焼入れ部位の上を移動させて、誘導加熱しながら冷却媒体で冷却する移動焼入れ法が用いられる。
例えば、円環状の鋼材部品において内周部分に焼入れを行う場合のように、焼入れ部位が無端状であると、焼入れ開始位置から無端状の延びる方向に沿って移動焼入れを行い、再び焼入れ開始位置の近くに戻ってきたら、焼入れを終了させる。この際、焼入れ開始位置と焼入れ終了位置が重なると、そこで、表面焼入れが重ねて行われることになる。表面焼入れが重ねて行われると、その箇所が部分的に焼戻しされて硬度が低下し、あるいは焼割れが生じる。
そこで、移動焼入れ法では、表面焼入れが重ねて行われないようにソフトゾーンが設けられる。すなわち、焼入れ部が無端状に延びる1つの焼入れ領域を有する場合には、無端状の開始位置における焼入れ端部と無端状の終了位置における焼入れ端部との間の領域であり、主焼入れ部が複数の焼入れ領域を有する場合には、隣接する焼入れ領域の間の領域であるソフトゾーンの領域が設けられる。ソフトゾーンの領域は、所望の焼入れ硬度となっていないので、鋼材部品としては、その領域で摩耗性、耐久性が低下することになる。そこで、ソフトゾーンにおける性能低下を抑制する様々な工夫が提案されている。
例えば、特許文献1には、軸受軌道輪の焼入れ方法として、円環状の軌道面に接近して軌道輪廻りに相反対方向に回転する一対の冷却器付き誘導加熱コイルを配設し、両コイルが接近した状態の位置から加熱急冷を開始して相反対方向に移動焼入れすることが開示されている。そして、相反対方向に移動して再び両コイルが接近して衝合する位置にくると、両コイルによる加熱を止め、両コイルのそれぞれを今までの移動方向と逆方向に離間させ、衝合位置の部分を別の冷却装置で急冷する。これにより、衝合位置にソフトゾーンを形成することなく、軌道全面に均質な焼入れができると述べられている。
また、特許文献2には、無端状の焼入面に沿って加熱コイルを相対的に移動させる連続焼入方法において、焼継ぎ部に形成されるソフトゾーンを斜めに形成することが述べられている。具体的には、焼入開始時には、焼入れ面の無端状に延びる方向に対し直交する方向の一方側から他方側に向かって、無端状に延びる方向に対し傾斜する方向に加熱コイルを移動して傾斜状焼入れを行い、他方端まで移動すると、無端状に延びる方向に焼入れを行う。そして、焼入れ開始時の位置に戻ってきたら、焼入れ開始時の傾斜状焼入れ部分に重ならないように、無端状に延びる方向に対し傾斜する方向に加熱コイルを移動して傾斜状焼入れを行って焼終わりとする。これにより、焼入開始位置と焼入終了位置との間に傾斜したソフトゾーンが形成され、摩耗しやすい部分が無端状に延びる方向に沿って分散させることができる。
なお、本発明に関連する技術として、特許文献3には、ダンパーディスク組立体のスプラインハブに焼入層を形成する際の熱歪みを抑制するため、焼入れ硬化層を部分的に形成することが述べられている。ここでは、高周波焼入れの周波数を400kHz以上に設定することで焼入れ硬化層の深さを600μm以下とできること、また、レーザ焼入れを用いるときは、焼入れ硬化層の深さを3μm以上となるようにすることが述べられている。
特開平6−200326号公報 特開平5−33034号公報 特開平11−93971号公報
特許文献1,2の方法は、誘導加熱コイルを用いる移動焼入れにおいてソフトゾーンの影響を抑制することができるが、複雑な構成を要する。特許文献3で述べられているレーザ焼入れを用いると、熱歪みが少ないので、場合によっては、ソフトゾーンを設けなくても済む可能性がある。しかし、レーザ焼入れは、誘導加熱コイルによる高周波焼入れに比較して、焼入れ深さがかなり浅いので、適用できる範囲がかなり限定される。
本発明の目的は、移動焼入れ法を用いる際に、表面焼入れが重ねて行われることで生じる部分的焼戻しあるいは焼割れを抑制した表面焼入れ層を有する鋼材部品を提供し、また、移動焼入れ法を用いる際に、表面焼入れが重ねて行われることで生じる部分的焼戻しあるいは焼割れを抑制することを可能とする鋼材部品に表面焼入れを行う方法を提供することである。
本発明に係る表面焼入れ層を有する鋼材部品は、円環状の穴の内周面の周方向に沿った全周に渡る表面焼入れ層の領域として、穴の軸方向周りの回転方向に沿って所定の角度の角度範囲の領域をソフトゾーン部として、ソフトゾーン部を除く角度範囲の領域において予め定めた所定の主焼入れ深さの表面焼入れ層を有する主焼入れ部と、ソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆って、主焼入れ深さよりも浅い焼入れ深さの表面焼入れ層を有する副焼入れ部と、を含み、副焼入れ部は、複数の焼入れ領域でソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆っていることを特徴とする。
また、本発明に係る鋼材部品に表面焼入れを行う方法は、円環状の穴の内周面の周方向に沿った全周に渡って表面焼入れを行う方法であって、穴の軸方向周りの回転方向に沿って所定の角度の角度範囲の領域をソフトゾーン部として、ソフトゾーン部を除く角度範囲の領域において予め定めた所定の主焼入れ深さで表面焼入れを行う主焼入れ工程と、ソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆って、主焼入れ深さよりも浅い焼入れ深さで表面焼入れを行う副焼入れ工程と、を含み、主焼入れ工程は、誘導加熱コイルを鋼材部品に対し相対的に移動しながら高周波焼入れを行い、副焼入れ工程は、ソフトゾーン部にレーザ光を照射してレーザ焼入れを行うことを特徴とする。
本発明に係る表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法によれば、移動焼入れ法を用いる際に、表面焼入れが重ねて行われることで生じる部分的焼戻し、焼割れを抑制することができる。
本発明に係る実施の形態における主焼入れ部と副焼入れ部を有する鋼材部品を示す図である。 図1の鋼材部品において、まず主焼入れを行ったときの様子を示す拡大図である。 図2の主焼入れを行った後、副焼入れを行ったときの様子を示す拡大図である。 本発明に係る実施の形態の効果を説明するために、ソフトゾーン部を設けて主焼入れを行った鋼材部品の断面図である。 図4における硬度分布を示す図である。 本発明に係る実施の形態の効果を説明するために、比較例として、ソフトゾーン部を設けずに焼入れを行った鋼材部品の断面図である。 図6における硬度分布を示す図である。 本発明に係る実施の形態の効果を説明するために、レーザ焼入れにおける硬度分布を示す図である。 本発明に係る実施の形態において、副焼入れ条件として、図8の有効硬化層深さが0.55mmとしたレーザ焼入れ条件を用いた鋼材部品の断面図である。 図9における有効硬化層深さを0.75mmとしたときの鋼材部品の断面図である。 図9、図10における硬度分布を示す図である。 本発明に係る実施の形態の効果を説明するために、図8の有効硬化層深さが0.55mmとしたレーザ焼入れ条件で、表面焼入れを重ならせたときの鋼材部品の断面図である。 図12における有効硬化層深さを0.75mmとしたときの鋼材部品の断面図である。 図12、図13における硬度分布を示す図である。 本発明に係る実施の形態の効果を説明するために、図5、図7、図11、図14の結果をまとめた図である。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、表面焼入れが行われる鋼材部品の材質をS45Cの炭素鋼としたが、これは説明のための例示であって、S45C以外であっても、表面焼入れが可能な材質であればよい。また、表面焼入れが行われる鋼材部品として、円環状のポケット抜きダイ金型を述べるが、これは表面焼入れ層が無端状に延びる鋼材部品の一例である。パワーショベル、ブルドーザ、クレーン、風車、回転電機等に用いられる円環状の軸受軌道、旋回軌道を有する鋼材部品であってもよい。また、表面焼入れ層が無端状ではなくて、複数の焼入れ領域を有して、隣接する焼入れ領域の間にソフトゾーンが設けられる鋼材部品であってもよい。
また、以下では、主焼入れ部には、誘導加熱コイルを用いる高周波焼入れ法が用いられ、副焼入れ部には、レーザ光の走査によるレーザ焼入れ法が用いられるものとして説明するが、これは、副焼入れ部の焼入れ深さが主焼入れ部の焼入れ深さよりも浅くできる方法の組み合わせの一例として説明したものである。これ以外でも、焼入れ深さが浅い高周波焼入れ法を副焼入れ部に用いてもよい。また、電子ビーム焼入れ法を副焼入れ部に用いてもよい。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、表面焼入れ層を有する鋼材部品10として、円環状のポケット抜きダイ金型を示す図である。この鋼材部品10は、材質がS45Cの炭素鋼で構成され、内周面が金型の抜き面となる円環状の穴を有する。この内周面の耐摩耗性、耐久性等を確保するため、内周面の全周に渡って表面焼入れ層が設けられる。表面焼入れ層は、主焼入れ部12と、副焼入れ部20とを含んで構成される。なお、図1には、円環状の軸方向をZ方向、Z方向周りの回転方向をθ方向として示した。
主焼入れ部12は、鋼材部品10の内周面において、θ方向に沿ってほぼ360度の範囲で表面焼入れが行われる部分である。ほぼ360度の範囲というのは、θ方向に沿った一部がソフトゾーン14とされて、その領域では主焼入れ部12が形成されないからである。
主焼入れ部12に表面焼入れを行うために、図示されていない誘導加熱装置が用いられる。誘導加熱装置は、鋼材部品の内周面形状に合わせた形状を有する誘導加熱コイルと、それに近接して配置され冷媒が吐出される冷却ノズルと、これらを鋼材部品10の焼入れ面である内周面に対し予め定めた隙間を保ちながらθ方向に移動させる移動機構と、誘導加熱コイルに高周波電力を供給する電源部を含んで構成される。
誘導加熱装置を用いて、誘導加熱コイルに高周波電力を供給しながら、誘導加熱コイルを鋼材部品10の内周面に沿って移動させることで、鋼材部品10の内周面の表面に誘導電流が流れる。これによって鋼材部品10の内周面の表面から内部側が加熱される。鋼材部品10の内周面の温度がS45Cの変態点温度を超えると、S45Cの鋼材組織がオーステナイト組織となり、冷却ノズルによって所定の冷却速度以上の急冷が行われることで、マルテンサイト組織に変態し、焼入れが行われる。このような誘導加熱装置を用いて行われる焼入れ法は、移動焼入れ法の一種で、一般的に高周波焼入れ法と呼ばれる。
ソフトゾーン14は、移動焼入れにおいて、焼入れの開始位置からθ方向に沿ってぐるっと回って焼入れを行い、再び焼入れの開始位置の近傍に戻ったとき、焼入れが既に行われた領域に重ねて焼入れが行われないように、その手前で焼入れを停止するために形成された領域である。したがって、主焼入れ部12が形成された直後では、ソフトゾーン14は、焼入れが行われていないS45Cの素材領域である。
図2は、図1のA領域を拡大して示す図である。ここでは、主焼入れ部12の焼入れ開始位置がSで示され、Sの位置からぐるっとθ方向に沿って回って、焼入れ終了位置がEで示される。焼入れ開始位置Sと焼入れ終了位置Eとの間が、ソフトゾーン14である。
寸法の一例を上げると、鋼材部品10の外径が約600mm、内周面の直径が約300mm、高さが約150mmである。この場合のソフトゾーン14は、θ方向に沿って約10mmとすることができる。内周長が約1000mmであるので、ソフトゾーン14のθ方向に沿った角度は、約3.6度である。なお、図2の例では、ソフトゾーン14がZ方向に沿って一様な幅ではなく、上部で約10mm、下部で約5mmである。これらの寸法は、説明のための例示であって、勿論、これ以外の寸法であっても構わない。
また、主焼入れ部12の焼入れ深さは約1mmから約5mm、硬度は、ビッカース硬度HVで、S45Cの素材部分でHV=250程度、主焼入れ部12でHV=750程度である。なお、主焼入れ部12の硬度をロックウェル硬度HRCで示すと、HRC=56〜59程度、ショア硬度HSで示すと、HS=75〜80程度である。勿論、仕様によって、これら以外の数値であっても構わない。
副焼入れ部20は、主焼入れ部12が形成された後に、ソフトゾーン14において表面焼入れが行われる部分である。ソフトゾーン14を設けた目的は、重ね焼入れが行われないようにすることである。重ね焼入れが行われると、一度焼入れされた領域が再度加熱されることで焼戻しされ、あるいは場合によって、焼き割れが生じる。したがって、副焼入れ部20は、焼戻しされる領域をより狭くし、焼割れが生じないように、表面焼入れが行われる。
そのためには、主焼入れ部12の形成の際に、鋼材部品10に供給される入熱量に比べてより少ない入熱量で焼入れが行われる。より少ない入熱量としながら、温度を変態点以上とするには、面積当たりの入熱エネルギを確保しながら、小さな入熱面積で走査することがよい。これによって、主焼入れ部12の焼入れ深さよりも浅い焼入れ深さを有する副焼入れ部20を形成することができる。
具体的には、図示されていないレーザ焼入れ装置を用い、ソフトゾーン14について、適当なビーム径のレーザ光をZ方向に沿って走査する。図2の例では、ソフトゾーン14の幅がZ方向の下部で約5mm、上部で約10mmである。そこで、まず、ビーム径が約5mmのレーザ光をZ方向の下部と上部の間に渡って走査し、その後で、ソフトゾーン14の上部で残された約5mmの領域について、2度目のレーザ光の走査を行う。
図3は、ソフトゾーン14に、副焼入れ部20が形成される様子を示す図である。ここでは、副焼入れ部20が、第1副焼入れ部22と、第2副焼入れ部24とで構成される。このように、ソフトゾーン14の幅寸法、形状等によって、副焼入れ部20は、1以上の適当な数の焼入れ領域で構成することもできる。
副焼入れ部20の焼入れ深さの一例を上げると、約0.1mmから約1mmである。副焼入れ部20の焼入れ深さは、主焼入れ深さよりも浅く設定される。
図3に示されるように、副焼入れ部20は、ソフトゾーン14を完全に覆って形成される。すなわち、副焼入れ部20が形成された後では、鋼材部品10の内周面において、S45Cの素材部分は現れない。このような構成の他に、副焼入れ部20が形成された後でも、部分的にソフトゾーン14が残され、S45Cの素材部分が現れるものとしてもよい。
このように、鋼材部品10の表面焼入れ層の形成は、誘導加熱装置を用いて、ソフトゾーン14を残しながら主焼入れ部12を形成する主焼入れ工程と、これに引き続き、レーザ焼入れ装置を用いて、ソフトゾーン14に、副焼入れ部20を形成する副焼入れ工程とを行うことで実現される。
上記構成の作用効果を、比較例を用いながら、図4から図15を用いて説明する。図4と図5は、主焼入れ工程のみが行われた試料No.1についての断面図と硬度分布図である。図6と図7は、図4、図5に対する比較例で、ソフトゾーンを形成しない試料No.2の断面図と硬度分布図である。図8は、レーザ焼入れを説明する図である。図9から図11は、主焼入れ工程の後でソフトゾーンに副焼入れ工程を行った試料No.3,5についての断面図と硬度分布図である。すなわち、図9から図11が、図1の鋼材部品10に対応する断面図と硬度分布図である。図12から図14は、比較例で、レーザ焼入れのみを用いて重ね焼入れを行った試料No.4,6についての断面図と硬度分布図である。図15は、試料No.1からNo.6の結果をまとめた図である。
図4は、主焼入れ工程のみが行われた試料1について、ソフトゾーン14の付近を示す断面図である。図の右側と左側に高周波焼入れによって形成された主焼入れ部12が示され、その間の破線で囲んだ領域が主焼入れ部12のないソフトゾーン14である。
図5は、図4の断面において、深さ=0.1mmのところで測定したビッカース硬度HVを縦軸に取り、横軸にθ方向距離を取った硬度分布図である。これから、高周波焼入れが行われた主焼入れ部12のHVが約750前後であり、S45Cの素材部分の硬度HVが約250であることが分かり、素材部分の幅、すなわちソフトゾーン14の幅が9.5mmであることが示されている。なお、ソフトゾーン14の幅を決めるHVの閾値は600とした。
図6は、比較例として、ソフトゾーン14を形成しないで、高周波焼入れの開始位置と終了位置を重複させて重ね焼入れを行った試料2の断面図である。破線で囲んだ領域が重ね焼入れが行われたことによって焼戻しされた領域に相当する。図7は、試料2の硬度分布図で、縦軸、横軸の意味は図5と同じである。図7から、重ね焼入れが行われた領域では、再加熱のために焼戻しが生じ、HVが約300まで低下することが分かる。HVの閾値を600とした焼戻し部の幅は、約5mmである。
図8から図11は、図1の構成に対応するものである。図8は、S45Cにレーザ焼入れを行ったときの特性を示す図で、横軸に硬化層深さ、つまり表面からの深さを取り、縦軸にビッカース硬度HVが取られている。有効硬化深さを決める閾値として、HV=450を用い、試料No.3は、レーザ硬化層の目標を0.5mmとしてレーザ焼入れを行ったもので、有効硬化深さは0.55mmであった。試料No.5は、レーザ硬化層の目標を0.8mmとしてレーザ焼入れを行ったもので、有効硬化深さが0.75mmであった。
図9は、図4で説明した主焼入れ工程を行った後に、副焼入れ部20を形成するため、有効硬化深さが0.55mmとなるレーザ焼入れをソフトゾーン14に行ったときの断面図である。図10は、有効硬化深さが0.75mmとなるレーザ焼入れをソフトゾーン14に行ったときの断面図である。これらの図で、破線で囲んだ領域が、主焼入れ部12と副焼入れ部20とが重なりあう部分である。
図11は、図9の試料No.3と図10の試料No.5についての硬度分布をまとめた図である。縦軸、横軸の意味は、図5、図7と同じである。図11から、重ね焼入れが行われた領域では、再加熱のために焼戻しが生じ、HVが約300程度まで低下することが分かる。HVの閾値を600とした焼戻し部の幅は、試料No.3で約1.5mm、試料No.5で約2.0mmである。
図12から図14は、比較例として、レーザ焼入れの開始位置と終了位置を重複させて重ね焼入れを行ったときの様子を示すものである。試料No.4は、有効硬化深さが0.55mmで、試料No.6は、有効硬化深さが0.75mmである。図12は、試料No.4の断面図、図13は、試料No.6の断面図である。これらの図で、破線で囲んだ領域が、重ね焼入れとなる部分である。
図14は、図12の試料No.4と図13の試料No.6についての硬度分布をまとめた図である。縦軸、横軸の意味は、図5、図7、図11と同じである。図14から、重ね焼入れが行われた領域では、再加熱のために焼戻しが生じ、HVが約300程度まで低下することが分かる。HVの閾値を600とした焼戻し部の幅は、試料No.4で約1.5mm、試料No.6で約2.0mmである。
図15は、図5、図7、図11、図14の結果をまとめた図である。一番右側の欄に、主焼入れ部12よりも硬度が低い領域の幅、すなわち、素材部分の幅あるいは焼戻し部の幅が示されている。この幅を決める閾値は、HV=600である。図15の結果から、図1の構成、すなわち、主焼入れ部12の形成の後で、ソフトゾーン14に副焼入れ部20を形成することで、素材部分の幅が約70%減少することが分かる。すなわち、ソフトゾーン14の幅のうち、70%がHV=600以上となり、鋼材部品10としては、耐摩耗性、耐久性が大幅に向上することが期待される。
本発明に係る表面焼入れ層を有する鋼材部品及び鋼材部品に表面焼入れを行う方法は、移動焼入れ法によって焼入れが行われる鋼材部品に利用される。
10 鋼材部品、12 主焼入れ部、14 ソフトゾーン、20 副焼入れ部、22 第1副焼入れ部、24 第2副焼入れ部。

Claims (2)

  1. 円環状の穴の内周面の周方向に沿った全周に渡る表面焼入れ層の領域として、
    前記穴の軸方向周りの回転方向に沿って所定の角度の角度範囲の領域をソフトゾーン部として、該ソフトゾーン部を除く角度範囲の領域において予め定めた所定の主焼入れ深さの表面焼入れ層を有する主焼入れ部と、
    前記ソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆って、前記主焼入れ深さよりも浅い焼入れ深さの表面焼入れ層を有する副焼入れ部と、
    を含み、
    前記副焼入れ部は、複数の焼入れ領域で前記ソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆っていることを特徴とする表面焼入れ層を有する鋼材部品。
  2. 円環状の穴の内周面の周方向に沿った全周に渡って表面焼入れを行う方法であって、
    前記穴の軸方向周りの回転方向に沿って所定の角度の角度範囲の領域をソフトゾーン部として、該ソフトゾーン部を除く角度範囲の領域において予め定めた所定の主焼入れ深さで表面焼入れを行う主焼入れ工程と、
    前記ソフトゾーン部の角度範囲の領域を完全に覆って、前記主焼入れ深さよりも浅い焼入れ深さで表面焼入れを行う副焼入れ工程と、
    を含み、
    前記主焼入れ工程は、誘導加熱コイルを鋼材部品に対し相対的に移動しながら高周波焼入れを行い、
    前記副焼入れ工程は、前記ソフトゾーン部にレーザ光を照射してレーザ焼入れを行うことを特徴とする鋼材部品に表面焼入れを行う方法。
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