JP5942940B2 - エタノールアミンリン酸を有効成分とする細胞機能増強剤 - Google Patents

エタノールアミンリン酸を有効成分とする細胞機能増強剤 Download PDF

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Description

本明細書は、エタノールアミンリン酸を有効成分とする細胞機能増強剤に関する。
エタノールアミンリン酸(Ethanolamine phosphate、以下、単にEPという。)は、エタノールアミンやホスホグリセロールエタノールアミンとともに生体膜などにおいて広く存在している。また、EPは、細胞膜の主要成分であるホスファチジルコリン(レシチン)および神経組織に多く存在するホスファチジルエタノールアミンなど細胞に必須なリン脂質の前駆体であることが知られている。
一方、EPやエタノールアミンは、細胞成長因子の増強剤として培地に添加できることが知られている(特許文献1、2、3)。また、EPは、アセトアルデヒド脱水素酵素活性を増強する活性成分であり二日酔いなどの肝臓系疾患や腸粘膜障害に有用であることも知られている(特許文献4、5、6)。さらに、うつ病のバイオマーカーである可能性があることが報告されている。
特開平6−78759号公報 特表平4−501660号公報 特表2000−506374号公報 特開2002−104961号公報 特開平8−310994号公報 国際公開第99/39703
EPの作用は、以上のように多様である。本明細書は、EPの新たな用途を提供する。
本発明者らは、EPが有する細胞への作用に着目して種々検討した。その結果、EPには、従来にない新規な機能があること及び当該機能に基づき新たな用途を提供できるという知見を得た。本明細書はこうした知見に基づき以下の手段を提供する。
(1)EPを有効成分として含有する、動物細胞機能増強剤。
(2)血清及び増殖因子不存在下での細胞増殖剤である、(1)に記載の動物細胞機能増強剤。
(3)気道上皮細胞、肺線維芽細胞、角質上皮細胞及び毛乳頭細胞からなる群から選択される1種又は2種以上の動物細胞の細胞増殖剤である、(1)又は(2)に記載の動物細胞機能増強剤。
(4)異形性細胞よりも正常細胞を選択的に増殖する細胞増殖剤である、(1)〜(3)のいずれかに記載の動物細胞機能増強剤。
(5)上皮系細胞のバリア機能促進剤である、(1)に記載の動物細胞機能増強剤。
(6)アポトーシス抑制剤である、請求項1に記載の動物細胞機能増強剤。
(7)培養細胞構造体の作製剤である、(1)に記載の動物細胞機能増強剤。
(8)エタノールアミンリン酸を有効成分とする、毛髪育成剤。
(9)動物の体外において、動物細胞とエタノールアミンリン酸とを接触させて、前記動物細胞の機能を増強する方法。
(10)動物細胞に対する作用剤のスクリーニング方法であって、
エタノールアミンリン酸の存在下で前記動物細胞と被験化合物とを接触させて、前記動物細胞における影響を測定する工程、
を備える、方法。
異なるFBS濃度下における株化正常ヒト気道上皮細胞に対するEPの増殖効果を示す図であり、左図は、絶対値で表し、右図は、コントロールに対する比で表す。 無血清時における細胞画像を示す図であり、左図は、EP0μMの場合であり、右図は、EP1000μMの場合である。 初代ヒト気道上皮細胞に対するEPの増殖作用を示す図である。 初代ヒト肺線維芽細胞におけるEPの増殖作用を示す図である。 初代ヒト毛乳頭細胞に対するEPの増殖作用を示す図である。 初代ヒト毛乳頭細胞に対するEP及びミノキシジルの増殖作用を示す図である。 がん細胞(A549、THP−1、HL−60)及びモデル細胞(HEK293)におけるEPの増殖作用を示す図である。 EPによる細胞増殖効果のMEK1/2阻害薬による抑制を示す図である。 EP及びその代謝誘導体からの細胞構成成分に至る代謝マップを示す図である。 EP及びその代謝誘導体による細胞増殖/毒性効果を示す図である。 GABA受容体作動薬の細胞増殖抑制効果の確認結果を示す図である。左図はGABAによる結果を示し、右図はホモタウリンによる結果を示す。 GABA受容体拮抗薬の細胞増殖抑制効果の確認結果を示す図である。 FBS及びEPによる、無血清ストレス誘導カスパーゼ3/7活性上昇の阻害効果確認結果を示す図である。 EPによる株化正常気道上皮細胞のバリア機能促進効果の確認結果を示す図である。 ヒト気道上皮細胞がん細胞株Calu-3(左図)及びヒト正常初代ケラチノサイトHEKa(右図)に対するEPのバリア機能向上効果の確認結果を示す図である。
本明細書は、EPを有効成分とする動物細胞の機能増強剤、EPを利用し動物細胞の機能増強方法及び動物細胞への作用剤又は阻害剤のスクリーニング方法等に関する。EPは、細胞膜の成分として周知であるが、本発明者らによれば、その細胞に対する作用は、代謝経路において近縁の化合物とは格別に異なっており、EPを利用することにより効果的に動物細胞の機能を増強できる。動物細胞の機能増強は、例えば、細胞増殖、アポトーシス抑制、バリア機能向上など多種にわたる。
以下、本明細書の開示について詳細に説明する。
(動物細胞機能増強剤)
本明細書に開示される動物細胞機能増強剤は、EPを有効成分として含有している。EPは、またそのリン酸基においてナトリウム、カリウムなどの一価の金属イオン、カルシウム、マグネシウムなどの二価の金属イオン等との塩を形成するリン酸イオンの形態であってもよい。
動物細胞としては、特に限定しないで、ヒト及び非ヒト動物の細胞が挙げられる。細胞の種類も特に限定されない。動物は初代であっても株化細胞であってもよい。また、由来も特に限定されないが、肺、気道、表皮に由来する細胞が挙げられる。また、細胞形態として、上皮細胞であってもよいし、線維芽細胞などの結合組織の細胞であってもよい。
動物細胞としては、なかでも、気道上皮細胞、肺線維芽細胞、角質上皮細胞及び毛乳頭細胞がEPによる細胞増殖対象として好ましく挙げられる。これらの細胞は、初代細胞であっても株化細胞であってもよい。
EPの作用は、動物細胞、特には、ヒトを含む哺乳類動物細胞に有効である。また、こうしたEPの作用に基づけば、EPはそれ自体、外用のほか、血管等の脈管経由による投与、経口投与、注入や注射による投与のほか、各種投与形態において、動物細胞に対して各種作用を発現するものである。
(細胞増殖機能)
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の一つの機能としては、細胞増殖機能が挙げられる。EPの細胞増殖機能の一つの特徴は、血清又は各種成長因子などの増殖因子の存在下での細胞増殖のほか、血清及び増殖因子の非存在下であってもEPは動物細胞の増殖を確保することができることが挙げられる。換言すれば、糖などの炭素源と無機塩のみを含む基本培地にEPを添加することで動物細胞の増殖を確保することができる。これらの作用は、EPの代謝経路の類縁化合物であるエタノールアミン、ホスホリルコリン、CDP−コリン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンでは得られない作用である。
なお、ここで血清とは、動物の血液由来であれば特に限定されないが、典型的には、牛胎児、牛新生児、仔牛、成牛などのウシ、ヤギ、ニワトリ及びブタなどの各種動物の血液由来の血清が挙げられる。増殖因子も、特に限定されないで、公知の細胞増殖にもちいられうる内因性タンパク質が挙げられる。典型的には、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経成長因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、血小板由来成長因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等が挙げられる。
細胞機能増強剤の他の一つの特徴は、異形細胞よりも正常細胞の増殖を選択的に促進することが挙げられる。がん細胞などの異形細胞よりも正常細胞に対して選択的に増殖機能を発揮することで、特に、生体に適用した場合において、異形細胞の増殖促進に基づく悪影響がないこと及び正常細胞を増殖させることが治療上や予防上の意義が大きい疾患(例えば、各種のがんが挙げられる。また、創傷治癒が必要な疾患が挙げられる。)において有意義である。
なお、異形細胞としては、正常細胞で通常観察される細胞形態から隔たっている細胞を意味している。典型的には、被験細胞を光学顕微鏡を使って観察した場合に、形態が正常から隔たっている細胞を意味している。ここで正常細胞とは、細胞の種類によって異なるが例えば核の大きさ等などによる評価によって決定されうる。また、異形細胞が有する正常細胞からの隔たりも細胞種類によっても異なるが、典型的には、がん細胞等が挙げられる。
EPを細胞増殖剤として用いるとき、細胞増殖機能が発揮される範囲で添加されればよいが、例えば、100nM以上10mM以下、好ましくは1μM以上1mM以下、より好ましくは10μM以上1mM以下の範囲で培地等に含めることができる。
(バリア機能促進機能)
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の他の一つの機能としては、上皮系細胞のバリア機能促進機能が挙げられる。上皮細胞は、生体からのバリア機能を達成する組織を構成する細胞であり、上皮系細胞とは、分化により上皮細胞としてのバリア機能を発揮する細胞を意味している。上皮系細胞のバリア機能を増強することで、有害物質やアレルゲンの進入を抑制できる上皮細胞及び組織を作製できる。なお、EPは、上皮系細胞の細胞増殖機能も有していることから、効果的にこうした組織や細胞集団を構築できる。EPをバリア機能促進剤として用いるときは、バリア機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同様の濃度で培地等に含めることができる。
本明細書におけるバリア機能とは、より具体的には、外界からの非特異的な高分子及び刺激性の低分子の侵入に対する侵入防止機構を意味している。生体の上皮は、異物侵入を抑制するために、上皮細胞間にタイトジャンクションと呼ばれる密接結合のための構造体を形成して隣接する細胞間(細胞間隙)の分子の移動を抑制している。本明細書におけるバリア機能とはより具体的にこうした異物侵入の抑制促進作用、換言すればタイトジャンクションの強度向上作用を意味している。こうしたバリア機能は、すなわち、タイトジャンクションの強度は、細胞シート上下の経上皮電気抵抗(transepthelial electrical resistance; TRT)により評価される。また、そのタイトジャンクションの強度の上昇はデキストラン等の高分子の細胞シート間の透過速度の低下により評価される。
(アポトーシス抑制機能)
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の他の一つの機能は、アポトーシス抑制機能である。アポトーシス抑制機能を発揮することで、細胞の増殖や機能を発揮させることができる。なお、既に説明したように、EPは、正常細胞の増殖機能を担っているので、アポトーシス抑制機能は、正常細胞のアポトーシス抑制機能であるといえる。アポトーシス抑制剤として用いるときは、アポトーシス抑制機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同程度の濃度で培地等に含めることができる。
(培養細胞構造体の作製剤)
EPは、上皮細胞のほか線維芽細胞の細胞増殖機能を有していること、及びバリア機能促進機能を有していることから、上皮細胞、線維芽細胞、及びこれらの二つの細胞を増殖させて形成する各種の培養細胞構造体の作製剤として有用である。例えば、皮膚代替物となる細胞シートを始めとする各種形態の培養細胞構造体が挙げられる。培養細胞構造体の形態は特に限定されない。細胞構造体の形態は特に限定されないで、細胞構造体の用途や適用する組織や臓器形態に応じて適宜選択される。例えば、シート状、棒状、管状等、球形状等が挙げられる。また、培養細胞構造体の作製方法自体は、当業者において周知であり、EPの有効量を培養細胞構造体を培養する培地に含有させることにより、EPを培養細胞構造体の作製剤として利用できる。培養細胞構造体の作製剤として用いるときは、細胞増殖機能及びバリア機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同程度の濃度で培地等に含めることができる。
(毛髪育成剤)
EPは、毛髪育成剤としても利用できる。EPは、毛乳頭細胞の増殖効果を有している。毛乳頭細胞の増殖は、毛髪の育成効果を意味している。したがって、EPを有効成分として含む、頭皮などを含む各種の皮膚に適用する外用の毛髪育成剤が提供される。毛髪育成剤としての形態は特に限定されないで、公知の頭皮や皮膚に適用される外用剤の形態が採用可能である。例えば、ローション、クリーム、エッセンス、シャンプー、リンス等が挙げられる。EPは、毛髪育成作用がある範囲で含まれればよく、例えば、0.000001質量%以上1質量%の範囲で含めることができる。好ましくは0.0001質量%以上0.1質量%以下である。また、外用剤としての用法・用量も特に限定されないが、例えば、1回以上3回以下/日を外用で用いることができる。
(評価又はスクリーニング用の試薬)
EPは、動物細胞に対してその機能を増強する作用を有していることから、EPの存在下で動物細胞と被験化合物を接触させて、当該被験化合物の前記細胞に対する作用を評価する試薬として用いることができる。細胞機能を増強させた状態で被験化合物の作用を評価できるので、より効果的な評価やスクリーニングが可能となる。作用の評価は、細胞の種類や被験化合物の種類や作用の種類によって種々に異なるが、当業者であれば、評価の目的に応じて適宜設定することができる。また、EPを、被験化合物の評価又はスクリーニング用の試薬として用いるときは、細胞増殖機能、バリア機能等、EPが細胞に対してその機能を増強させる濃度であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同様の濃度で培地等に含めることができる。
(動物細胞の機能増強方法等)
本明細書に開示される動物細胞の機能の増強方法は、動物の体外において、動物細胞とEPとを接触させて、前記動物細胞の機能を増強する方法である。既に説明したように、EPは、細胞機能を増強することができる。動物の体外において、当該動物個体とは自家又は他家由来の動物細胞とEPとを接触させることで、動物細胞を効果的に増殖させ、バリア機能を促進させ、アポトーシスを抑制することができる。したがって、この方法は、細胞を各種用途(発酵、医療(補綴や移植を含む)、薬剤、)に用いる場合において、細胞を増殖等させるのに有用である。特に、個体から採取し、体外でEPを用いて機能を増強した細胞として増殖して、その細胞を再び個体に移植するなどの移植医療に有用である。
本方法は、動物細胞の細胞増殖方法、バリア機能の優れた動物細胞の生産方法、アポトーシス抑制機能に優れた動物細胞の生産方法としても実施できる。また、本方法は、ヒト及び非ヒト動物の毛髪促進方法としても実施できる。さらに、本方法は、動物細胞のバリア機能の向上方法、動物細胞のアポトーシス抑制方法としても実施できる。
(スクリーニング方法等)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、動物細胞に対する作用剤のスクリーニング方法であり、EPの存在下で前記動物細胞と被験化合物とを接触させて、前記動物細胞における作用を測定する工程、を備えることができる。EPは、動物細胞の機能を強化する。EPの存在下で動物細胞と被験化合物とを接触させることで、精度よくあるいはより現実的に被験化合物の動物細胞に対する作用をインビトロでも測定できる。
被験化合物は、特に限定されないで、ポリペプチド、DNAやRNAなどの核酸、脂質、そのほかの各種の有機化合物、金属塩などの各種の無機塩類を含む無機化合物等が挙げられる。EPは、通常、動物細胞の培地に含めることができる。また、被験化合物も典型的には、動物細胞の培地に一時的に、継続的に、あるいは断続的に供給することができる。細胞に対するEPの濃度は、特に限定されないが、スクリーニングの目的に応じて適宜設定できる。例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同様の濃度で培地等に含めることができる。
被験化合物の動物細胞に対する作用は特に限定されない。細胞の各種機能を亢進する作用及び低下させる作用の双方を含んでいる。こうした作用の測定方法は、当業者であればスクリーニングの目的に応じて適宜設定することができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明するが、以下の実施例は本明細書の開示を限定するものではない。
(ホスホエタノールアミンの細胞増殖効果)
96ウェルプレートに株化正常ヒト気道上皮細胞(BEAS−2B細胞)(ATCC)を1×104cells/cm2となるように播種した。培地は、10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、細胞をPBSで200μl/ウェルで穏やかに洗浄し、0、0.125、0.25、及び0.5%FBSに置換した(90μl/ウェル)。培地交換後、10μl/ウェルでEP溶液を加える。96時間後に増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイの操作は以下のとおりとした。
(1)96ウェルプレートからデカンテーション及びタッピングにより培地を除去
(2)予め37℃で加温した無血清培地(RPMI−1640)に、10分の1の割合になるように、WST−8試薬(同仁化学)を混和し、培地を除去したウェルに添加した。
(3)CO2インキュベータ内で1時間呈色反応を行い、吸光プレートリーダーで450nm及び650nmの吸光度を測定した。
(4)各ウェル間の補正として、吸光度450nm−吸光度650nmを求める。
(5)ブランクの4ウェルの平均値を全ウェルの補正値から差し引いて、これを相対的な細胞数相当値とした。結果を図1及び図2に示す。
図1(a)及び(b)には、異なるFBS濃度下におけるBEAS−2B細胞に対するEPの細胞増殖効果を示す。(a)は、絶対値で示し、(b)は、EP0μM時の吸光度に対する比として表している。
図1(a)に示すように、EP濃度依存的にBEAS−2B細胞は増殖した。mMレベルでの高濃度域でも、EPに起因すると考えられる明らかな毒性は認められなかった。また、FBSを一切含まない条件でも、EPは細胞を増殖させることができ、0.5%FBSの時とさほど変わらず細胞を増殖させることができた。図1(b)に示すように、FBSが培地に含まれていないと、低血清ストレスで細胞は死滅する(EP 0μM参照)。しかしながら、EPを添加することで、最大11倍の細胞増殖が認められた(図1(b))。
また、図2には、EP0μMとEP1000μMとの細胞増殖状態画像を示す。図2に示すように、EP0μMでは、細胞死を起こしたりあるいは線維芽細胞状に萎縮したりしていたのに対し、EP1000μMでは容器底面を覆うように細胞が増殖した。また、細胞は同心円方向に進展し互いに密着した。
(初代正常ヒト気道上皮細胞(HBEpC)での増殖効果)
96ウェルプレートにHBEpC細胞(IWAKI)を3×104cells/cm2となるように播種した。培地はBEGM(タカラバイオ、完全培地)を使用した。24時間後に、細胞をHEPESバッファーで1ウェルあたり200μlで穏やかに洗浄し、基礎培地(下垂体抽出物、ペプチド増殖因子を含まない培地)BEBMに対し、抗生物質GA−1000のみを添加したものに置換した(1ウェルあたり90μl)。培地交換後、設定濃度の10倍濃度のEP溶液を1ウェルあたり10μl加え、96時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図3に示す。
図3に示すように、初代正常ヒト気道上皮細胞に対してもEPは増殖促進効果を有していた。また、基礎培地には、下垂体抽出物やペプチド増殖因子を含まないため、こうしたものとの組み合わせあるいは相乗効果に依拠せず無血清培地であっても、初代正常ヒト気道上皮細胞に対して増殖促進効果があった。また、EPは、濃度依存的に増殖促進効果を有しており、mMレベルでも毒性を示さず7μMでも2倍程度の増殖促進効果を発揮した。
(初代正常ヒト肺線維芽細胞 (NHLF)での増殖効果)
96ウェルプレートにNHLF細胞(タカラバイオ)を3×104cells/cm2となるように播種した。培地は、10% FBS DMEMを使用した。24時間後に、細胞をPBSで1ウェルあたり200μlで穏やかに洗浄し、0% FBS DMEMに置換した(1ウェルあたり90μl)。培地交換後、10μl/ウェルのEP溶液を加え、124時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図4に示す。
図4に示すように、初代ヒト線維芽細胞においても、EPは、増殖促進効果を発揮することを確認した。肺の線維芽細胞の増殖は、喘息における気道リモデリング形成に大きな役割を果たす。これまで気道リモデリングは、喘息や慢性閉塞性肺疾患などの病態形成に関与すると思われていたが、線維芽細胞の増殖は損傷した上皮の創傷治癒過程における重要な役割を果たすことが明らかになりつつあり、EPの喘息治癒効果の1つとして挙げられる。
(初代正常ケラチノサイト(角化細胞、HEKa)での増殖効果)
48ウェルプレートにHEKa細胞(タカラバイオ)を2×104cells/cm2になるように播種した。培地は、基礎培地Epilife(M-EPI-500-CA, Invitrogen)に対し、添加因子としてHKGS Kit (S-001-K, Invitrogen)を使用した。なお、このHKGS Kitには、ウシ下垂体抽出物、ウシインシュリン、ヒドロコルチゾン、ウシトランスフェリン及びヒトEGFを含んでいる。24時間後に、細胞を1ウェルあたり400μlのPBSで穏やかに洗浄し、1ウェルあたり252μlの基礎培地 Epilife に置換し、24時間培養した。培養後、EP溶液を1ウェルあたり28μl加え、EP投与後21日後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、試薬及び培地量を2.8倍とする以外は実施例1と同様に行った。結果を図5に示す。
図5に示すように、初代ヒトケラチノサイトにおいても、EPは増殖促進効果を発揮した。増殖促進効果は、最低濃度15.6μMでほぼ最大効果が得られている。ケラチノサイトは皮膚を構成する細胞であり、この細胞を増殖および機能付加を行う物質は極めて有用性が高い。再生医療における、皮膚シートの作製時に、EPを応用することが可能であり、動物性のタンパクを含まない、アレルギー作用の少ない組織片作製のための培地成分として利用が可能である。
(初代正常ヒト毛乳頭細胞 (HHDPC)での増殖効果)
96ウェルプレートにHHDPC細胞(コスモバイオ)を1×104cells/cm2となるように播種した。培地は、完全培地MSCM(500、ScienCell)を使用した。24時間後に、細胞を1ウェルあたり200μlのPBSで穏やかに洗浄し、1ウェルあたり90μlの0% FBS DMEMに体積比1%の完全培地MSCMを添加したものに置換して24時間培養した。培養後、EP溶液を1ウェルあたり10μl加え、EP投与後6日後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。臨床で発毛作用が認められているミノキシジルについても同様に試験した。結果を図6に示す。
図6に示すように、EPは、臨床で発毛作用が認められているミノキシジルと同等あるいはそれ以上の増殖効果を発揮した。ミノキシジルの有効濃度は数十〜400nMの狭い範囲であり、それ以上では毒性が出るが、本成分は非常に広い濃度域で増殖効果が認められており、安全性の高い化合物であることがわかった。また、ミノキシジルは高濃度であると細胞毒性を呈するが、EPは細胞内内在性物質であり毒性を呈しない点において有利である。HHDPC細胞における増殖効果とヒトにおける発毛/育毛作用との相関が既に認められており、EPは、発毛/育毛剤として利用可能であることがわかった。
(がん細胞、および不死化モデル細胞での増殖効果)
(1)A549およびHEK293細胞;付着系細胞の場合
96ウェルプレートにA549(ヒトII型肺胞上皮細胞:腺癌)及びHEK293(アデノウイルス不死化ヒト胎児腎細胞)を1×104cells/cm2になるように播種した。培地は0% FBS RPMI−1640を使用した。播種から24時間後に、1ウェルあたり20μlのPBSで細胞を洗浄し、0% FBS RPMI−1640に置換した。培地交換後、設定濃度の10倍濃度のEP溶液を1ウェルあたり10μl加えた。EP添加後96時間後に、増殖試験(WST-8 アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図7に示す。
(2)THP−1、HL−60細胞;浮遊系細胞の場合
EP投与前に対数増殖状態になるように、10% FBS RPMI−1640にて2〜10×105cells/cm2となるように10% FBS RPMI−1640にてTHP−1(ヒト急性単球性白血病細胞)およびHL−60(ヒト骨髄性白血病細胞)を対数増殖培養した。その後、1000rpmで細胞培養液を遠心・遠沈させ、0% FBS RPMI−1640に2×104cells/cm2になるように、1ウェルあたり90μlを96ウェルプレートに分注した。次いで、EP溶液を1ウェルあたり10μl加えて、72時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を行った。浮遊系の細胞に対するWST−8アッセイは、培養中の細胞懸濁液に対して、直接WST−8アッセイ試薬を1ウェルあたり10μlずつを分注し、1時間後に、450nm、600nmの吸光度をプレートリーダーで測定し、以上の実施例と同様にデータ解析を行った。結果を図8に示す。
図7に示すように、A549、HL60及びHEK293については、EPは高濃度域でも全く細胞増殖能を示さなかった。これに対して、THP−1については、125μM以上の高濃度域においてわずかに細胞増殖能が認められた。
以上の結果から、EPは、正常細胞に対して高い選択性で増殖効果を発揮し、がん細胞に対してはほとんど増殖効果を発揮しないことがわかった。
(MEK1/2阻害剤による本成分の増殖効果の抑制確認実験)
細胞増殖の調節はいくつもの細胞内シグナルが介在することが知られている。一般的には細胞外からの増殖シグナル(ホルモン)が、細胞膜レセプターに結合し、細胞内のタンパクを数段階の階層シグナルで活性化し、最下層の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated Protein Kinase;MAPK)が細胞核内に移行し、次いで細胞増殖に必要な遺伝子の発現調節を行う事が知られている。MAPKはいくつかのファミリーが知られており、ERK1/2、JNK、p38,ERK5,ERK7などが同定されている。EPの増殖効果のメカニズムとして上記のいずれかが想定された。予備検討を実施したところERK1/2の上位階層にあるMEK1/2(ERK1/2を活性化(リン酸化する分子))阻害薬により増殖効果が抑制されることが分かった。
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS−2Bを1x104cells/cm2になるように、96ウェルプレートに播種した。培地には10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後にMEK1/2 阻害薬U0126(Cayman)を含む1ウェルあたり90μlの0.1% FBS RPMI−1640で置換した。その後、2.5μMのEP溶液を10ul/ウェルで加えた(最終濃度250nM)。72時間経過後、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図8に示す。
図8に示すように、MEK1/2阻害薬で添加しないとき、EP250μMによる処理によって、細胞が3倍程度に増殖した。一方、異なるMEK1/2阻害薬を投与したとき、当該薬剤の単独処理により細胞数の減少が認められるが、25μMのEPによる増殖抑制効果はそれよりも上回っていた。以上のことから、EPの増殖メカニズムの一つとして、MEK1/2およびその下流のMAPKであるERK1/2を介した増殖シグナルが関与していることがわかった。
(EPの代謝上位/下位物質による増殖効果)
EPは細胞膜の主要成分ホスファチジルコリン(レシチン)および神経組織に多く存在するホスファチジルエタノールアミンなど細胞に必須なリン脂質の前駆体であることが知られている。EPの増殖効果が、これら細胞構成物質の補給に起因するかどうかを確認するための実験として、EPの代謝上位および下位の物質による増殖効果有無の検討を行った。EP及びEPの上位/下位成分の上記細胞構成成分に至る代謝マップを図9に示す。
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS−2Bを1x104cells/cm2になるように、96ウェルプレートに播種した。培地には10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、1ウェルあたり90μlの0.1% FBS RPMI−1640で置換した。EPおよびEP代謝誘導体を10μl/ウェルで加えた。72時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。EP及びその誘導体による増殖/毒性作用を図10に示す。
図10に示すように、EPは用量依存的に増殖作用をもたらしたが、その他の成分では大きな増殖促進作用は認められなかった。また、EPの代謝上位にあるエタノールアミンの作用は、EPに比べて極めて微弱であることがわかった。以上のことから、EPの増殖作用は脂質前駆体の補給によるものではなく、EPの特異的作用であることがわかった。
(GABA受容体作動薬による増殖効果およびGABA‐A受容体拮抗薬による増殖抑制作用)
本成分を包括的化合物データベースであるPubChem(http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)にて構造類似化合物を検索すると、生理活性物質GABA‐A受容体作動薬のhomotaurineが該当する。本成分による細胞増殖効果がGABA受容体を介するかどうかを確認するために、GABA作動薬および拮抗薬による介入実験を実施した。
株化正常ヒト気道上皮細胞 BEAS−2Bを1x104cells/cm2になるように、96ウェルプレートに播種した。培地には10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、1ウェルあたり90μlの0.1% FBS RPMI−1640に置換した。次いで、GABA (GABA−AおよびGABA−B受容体作動薬)およびhomotaurine(ホモタウリン)(GABA−A作動薬)を1ウェルあたり10μl加えた。72時間後に増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは実施例1と同様に行った。結果を図11に示す。
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS−2Bを1x104cells/cm2になるように96ウェルプレートに播種した。培地には10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、1ウェルあたり、GABA−A阻害薬((−)−Bicuculline Methochloride,#14343 SIGMA;BMと略)を含む90μlの0.1% FBS RPMI−1640で置換した。EP溶液を1ウェルあたり10μl加えた。72時間後に増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは実施例1と同様に行った。結果を図12に示す。
図11に示すように、GABA−AおよびGABA−B受容体作動薬GABAおよびEP構造類似物質GABA−A受容体作動薬ホモタウリンは統計的に有意な増殖作用をもたらさなかった。また、図12に示すように、GABA−A受容体拮抗薬BMによりEPの増殖作用は阻害されなかった。以上のことから、EPの増殖作用はGABA受容体を介さないメカニズムによりもたらされることがわかった。
(EPによる無血清誘導カスパーゼ(caspase)3/7活性上昇阻害効果)
EPは無血清において、単独で細胞増殖をもたらす。一般的に動物細胞は複数の増殖因子の存在がなければ生存できない。これらが欠如すると、細胞に備わったアポトーシスと呼ばれる自殺機能(プログラムされた細胞死)が稼動する。アポトーシスの細胞内経路はいくつか知られているが、知られている全てのアポトーシス経路はcaspase3/7とよばれるペプチダーゼの活性上昇に集約される。よって、本成分のアポトーシス調節作用の有無はcaspase3/7活性を測定する事により推定が可能となる。そこで以下の実験を行った。
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS−2B細胞を5x104cells/cm2になるように96ウェルプレートに播種する。培地は、10% FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、1ウェルあたり200μlのPBSで細胞を穏やかに洗浄し、1ウェルあたり90μlの0% FBS RPMI−1640で置換した。培地交換後、EPあるいはFBS溶液を1ウェルあたり10μl加えた。24時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)及びcaspase3/7アッセイ(Caspase−Glo3/7アッセイ,Promega)を実施した。WST−8アッセイは実施例1と同様に行い、caspase3/7アッセイは、添付文書どおり行った。caspase 3/7活性は発光試験により測定し、ブランク平均値を引いた値から、WST−8アッセイの補正吸光度(相対的な細胞数に相当)で除算することにより、細胞あたりのcaspase 3/7活性を算出した。結果を図13に示す。
図13左のFBS濃度とカスパーゼ3/7活性との関係に示すように、無血清培地に交換する事により上昇したカスパーゼ3/7活性はFBS添加により濃度依存的に低下した。一方、図13右のEP濃度とカスパーゼ3/7活性との関係に示すように、EP1000μMでカスパーゼ3/7活性は0.72倍程度に低下した。回帰曲線により、EP1000μMは、FBS 2.2%の効果に相当する。以上のことから、EPは細胞増殖能に加え、アポトーシス経路の最終シグナル経路であるcaspase3/7を強く阻害することがわかった。したがって、EPはアポトーシス抑制剤として機能することがわかった。
(EPによる株化正常気道上皮細胞のバリア機能(経上皮電気抵抗・物質透過性)
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS2Bをセルカルチャーインサート(353104,BD FALCON)に1x105cells/cm2となるように播種した(図14参照)。使用培地は10% FBS RPMI−1640とした。培地量は、インサート側200μl、ウェル側を750μlとした。翌日、1% FBS RPMI−1640に以下4条件の試薬を調製したものに1日1回置換/培地交換し、MilliCell(ミリポア)にて経上皮電気抵抗(TER)を測定した。
条件1; コントロール
条件2; EP 1mM
条件3; デキサメタゾン 1μM (デキサメタゾン(Dex):バリア機能を高めることを知られる陽性対照物質)
条件4; EP 1mM およびDex 1μM
細胞播種から7日後に、透過性試験を以下のとおり実施した。
[透過性試験]
4Kダルトンの蛍光デキストラン分子(SIGMA)を0.1mg/mlになるようにセルカルチャーインサートに加え、1時間後、ウェル側の培地を20μl取り出し、各濃度における蛍光強度から浸透した蛍光デキストラン量を推定した。インサート側からウェル側への物質の浸透速度Pappは一般的に下記の式で求められる。結果を図14に示す。
Papp = (ウェル側培地の体積/インサート面積×初期インサート濃度)×(ウェル側の変化濃度/経過時間)
図14左に示すように、EPを投与した株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS2Bでは49%のTERの上昇が認められた。上皮のバリア機能は、一般的には、経上皮電気抵抗(TER)に相関することが知られており、物質の透過速度はTERと逆相関の関係にある。図14右に示すように、蛍光デキストラン分子の透過速度Pappを測定したところ、EPを投与した細胞においては、25%もの透過速度の低下、すなわち、バリア機能の亢進が認められた。また、この細胞においては、陽性対照物質であるデキサメタゾン単独処理、及びデキサメタゾンとEPとの共処理ではTER上昇、Pappの低下は認められなかった。以上のことから、EPには、バリア機能の亢進および上皮細胞の増殖効果により、喘息患者の損傷した気道域においてアレルゲン等の透過が妨げられることにより、喘息治療効果が期待できる。
(BEAS−2B以外の細胞におけるEPのバリア機能修飾作用)
(Calu−3 ヒトがん化気道上皮細胞)
Calu−3をセルカルチャーインサート(353104, BD FALCON)に3x105cells/cm2になるように播種した。10% FBS RPMI−1640にてコンフルエントになるまで培養し、コンフルエントになった時点で、0.1% FBS RPMI−1640に下記を含むものに置換し、1日1回培地交換した。実施例11と同様にTERを測定した。結果を図15に示す。
条件1; コントロール
条件2; デキサメタゾン 1μM
条件3; EP 1mM
(HEKa ヒト初代正常ケラチノサイト、成人)
HEKaをセルカルチャーインサート(353104,BD FALCON)に6x104cells/cm2になるように播種した。培地は基礎培地Epilife(M−EPI−500−CA,Invitrogen)に対し、添加因子としてHKGS Kit(S−001−K,Invitrogen)を加えた完全培地で培養し、コンフルエントになった時点で、完全培地にCalu−3と同様の条件1〜3で特定化合物を含むものに置換し、1日1回培地交換した。実施例11と同様にTERを測定した。結果を図15に示す。
図15左に示すように、Calu−3、HEKaともにコントロールに対して統計的に有意なTER値の上昇が認められた(それぞれ2.0および2.3倍)。これらの結果から、EPによるバリア機能亢進作用は上皮細胞に一般的に認められる作用であることがわかった。また、ヒトの皮膚を構成するケラチノサイトの場合、EPにより細胞増殖の促進およびTER値の向上がみられるため、再生医療分野での質の高い移植片作製の際の有力な補助剤、あるいは化粧品分野における肌荒れ、敏感肌などに対する添加剤、あるいは抗アトピー薬有効成分として利用することが可能である。
以上、本発明の実施形態および実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。

Claims (12)

  1. エタノールアミンリン酸を有効成分として含有する、血清及び増殖因子の非存在下で動物細胞(ただし、癌細胞を除く。)を選択的に増殖させるための細胞増殖剤
  2. 前記動物細胞は、気道上皮細胞、肺線維芽細胞、角質上皮細胞及び毛乳頭細胞からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の細胞増殖剤
  3. エタノールアミンリン酸を10μM以上1mM以下で前記動物細胞の増殖培地に添加して用いるための、請求項1又は2に記載の細胞増殖剤。
  4. エタノールアミンリン酸を有効成分として含有する、血清及び増殖因子の非存在下で上皮系細胞(ただし、癌細胞を除く。)のバリア機能を促進するためのバリア機能促進剤
  5. エタノールアミンリン酸を10μM以上1mM以下で前記動物細胞の増殖培地に添加するための、請求項4に記載のバリア機能促進剤
  6. エタノールアミンリン酸を有効成分として含有する、血清及び増殖因子の非存在下で動物細胞(ただし、癌細胞を除く。)のアポトーシスを抑制するためのアポトーシス抑制剤
  7. エタノールアミンリン酸を10μM以上1mM以下で前記動物細胞の増殖培地に添加するための、請求項6に記載のアポトーシス抑制剤
  8. エタノールアミンリン酸を有効成分として含有する、血清及び増殖因子の非存在下で動物細胞(ただし、癌細胞を除く。)の培養細胞構造体を作製するための作製剤
  9. エタノールアミンリン酸を10μM以上1mM以下で前記動物細胞の増殖培地に添加するための、請求項8に記載の培養細胞構造体を作製するための作製剤。
  10. エタノールアミンリン酸を有効成分として含有する、毛髪育成剤。
  11. 動物の体外において、血清及び増殖因子の非存在下で、動物細胞(ただし、癌細胞を除く。)とエタノールアミンリン酸とを接触させて、前記動物細胞を選択的に増殖する方法
  12. 血清及び増殖因子の非存在下で動物細胞(ただし、癌細胞を除く。)に対して細胞増殖作用を有する作用剤のスクリーニング方法であって、
    血清及び増殖因子の非存在下であって、エタノールアミンリン酸の存在下で前記動物細胞と被験化合物とを接触させて、前記動物細胞を選択的に増殖する作用を測定する工程、
    を備える、方法。
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