JP6417648B2 - エタノールアミンリン酸の利用 - Google Patents
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Description
(2)エタノールアミンリン酸を有効成分とする、抗炎症剤。
(3)エタノールアミンリン酸を有効成分とする、抗酸化剤。
(4)エタノールアミンリン酸を有効成分とする、炎症性疾患の予防又は治療用組成物。
(5)遺伝子の発現方法であって、EPを動物細胞に投与することにより、以下に示す第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現を促進し、以下に示す第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現を抑制する、発現方法。
(第1の遺伝子群)
EPを動物細胞に投与する工程と、
EPを投与した前記動物細胞における(5)に記載の第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベル及び/又は(5)に記載の第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程と、
前記工程で得た1又は2以上の遺伝子の発現レベルに基づいて、EPに対する前記動物細胞の反応性を評価する工程と、
を備える、方法。
(7)EPの作用を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
動物細胞に対してEPと1又は2以上の試験化合物とを投与する工程と、
前記動物細胞における(5)に記載の第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベル及び/又は(5)に記載の第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程と、
前記測定工程で得た1又は2以上の遺伝子の発現レベルに基づいて、前記1又は2以上の試験化合物のEPの作用に対する抑制作用又は増強作用を評価する工程と、
を備える、スクリーニング方法。
(8)(5)に記載の第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現産物及び当該遺伝子の発現を促進する化合物、並びに、
(5)に記載の第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現産物に対して抑制的に作用する化合物及び発現を抑制する化合物
からなる群から選択される1又は2以上の試験化合物を動物細胞に投与する工程と、
前記動物細胞の1又は2以上の細胞機能を測定する工程と、
を、備える、EP様化合物のスクリーニング方法。
(9)(5)に記載の第1の遺伝子群から選択される複数の遺伝子プローブを固定化した第1の領域と、(5)に記載の第2の遺伝子群から選択される複数の構成遺伝子をそれぞれ固定化した第2の領域と、を備える、EPの作用の調節剤のスクリーニング用固相担体。
本明細書に開示される遺伝子の発現方法は、EPを動物細胞に投与することにより、第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現を促進し、第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現を抑制する工程を備えることができる。本方法によれば、動物細胞に対するEPの投与により、動物細胞に対して特定の遺伝子の発現状況を構築できる。この遺伝子の発現状況は、動物細胞の機能増強に関与している。したがって、本発現方法は、こうした遺伝子の発現状況を呈する動物細胞の製造方法でもある。
第1の遺伝子群は、EPを動物細胞に投与することにより、その発現が促進される遺伝子からなる。こうした遺伝子としては、表9、表10及び表14に示す遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、EPによる特有の作用の発現に関連があると考えられる。第1の遺伝子群は、好ましくは表9に示す遺伝子群からなる。また、好ましくは表14に示す遺伝子からなる。
第2の遺伝子群は、EPを動物細胞に投与することにより、その発現が抑制される遺伝子からなる、こうした遺伝子としては、表11〜表13及び表15に示す遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、EPによる特有の作用の発現に関連があると考えられる。第2の遺伝子群は、好ましくは表11〜13に示す遺伝子からなる。また、第2の遺伝子群は、好ましくは表15に示す遺伝子からなる。
EP投与による動物細胞における特定遺伝子の発現状況の確認は、好ましくは、第1の遺伝子群から選択される1又は2以上遺伝子を検出するための1又は2以上のプローブを固定化した第1の領域と、第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子を検出するための1又は2以上のプローブを固定化した第2の領域と、を備える、固相担体を用い行うことが好ましい。
本明細書に開示されるEPに対する動物細胞の反応性の評価方法は、EPを動物細胞に投与する工程と、EPを投与した前記動物細胞における第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベル及び/又は第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程と、前記工程で得た1又は2以上の遺伝子の発現レベルに基づいて、EPに対する前記動物細胞の反応性を評価する工程と、を備えることができる。
本明細書に開示されるEPの作用を調節する化合物のスクリーニング方法は、動物細胞に対してEPと1又は2以上の試験化合物とを投与する工程と、前記動物細胞における第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベル及び/又は第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程と、前記測定工程で得た1又は2以上の遺伝子の発現レベルに基づいて、前記1又は2以上の試験化合物のEPの作用に対する抑制作用又は増強作用を評価する工程と、を備えることができる。
本明細書に開示されるEP様化合物のスクリーニング方法は、第1の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現産物及び当該遺伝子の発現を促進する化合物、並びに、
以下に示す第2の遺伝子群から選択される1又は2以上の遺伝子の発現産物に対して抑制的に作用する化合物及び発現を抑制する化合物
からなる群から選択される1又は2以上の試験化合物を動物細胞に投与する工程と、
前記動物細胞の1又は2以上の細胞機能を測定する工程と、
を、備えることができる。
EPは、動物細胞機能増強剤の有効成分として用いることができる。EPは、またそのリン酸基においてナトリウム、カリウムなどの一価の金属イオン、カルシウム、マグネシウムなどの二価の金属イオン等との塩を形成するリン酸イオンの形態であってもよい。
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の一つの機能としては、細胞増殖機能が挙げられる。EPの細胞増殖機能の一つの特徴は、血清又は各種成長因子などの増殖因子の存在下での細胞増殖のほか、血清及び増殖因子の非存在下であってもEPは動物細胞の増殖を確保することができることが挙げられる。換言すれば、糖などの炭素源と無機塩のみを含む基本培地にEPを添加することで動物細胞の増殖を確保することができる。これらの作用は、EPの代謝経路の類縁化合物であるエタノールアミン、ホスホリルコリン、CDP−コリン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンでは得られない作用である。
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の他の一つの機能としては、上皮系細胞のバリア機能促進機能が挙げられる。上皮細胞は、生体からのバリア機能を達成する組織を構成する細胞であり、上皮系細胞とは、分化により上皮細胞としてのバリア機能を発揮する細胞を意味している。上皮系細胞のバリア機能を増強することで、有害物質やアレルゲンの進入を抑制できる上皮細胞及び組織を作製できる。なお、EPは、上皮系細胞の細胞増殖機能も有していることから、効果的にこうした組織や細胞集団を構築できる。EPをバリア機能促進剤として用いるときは、バリア機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同様の濃度で培地等に含めることができる。
細胞機能増強剤が増強する動物細胞の他の一つの機能は、アポトーシス抑制機能である。アポトーシス抑制機能を発揮することで、細胞の増殖や機能を発揮させることができる。なお、既に説明したように、EPは、正常細胞の増殖機能を担っているので、アポトーシス抑制機能は、正常細胞のアポトーシス抑制機能であるといえる。アポトーシス抑制剤として用いるときは、アポトーシス抑制機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同程度の濃度で培地等に含めることができる。
EPは、上皮細胞のほか線維芽細胞の細胞増殖機能を有していること、及びバリア機能促進機能を有していることから、上皮細胞、線維芽細胞、及びこれらの二つの細胞を増殖させて形成する各種の培養細胞構造体の作製剤として有用である。例えば、皮膚代替物となる細胞シートを始めとする各種形態の培養細胞構造体が挙げられる。培養細胞構造体の形態は特に限定されない。細胞構造体の形態は特に限定されないで、細胞構造体の用途や適用する組織や臓器形態に応じて適宜選択される。例えば、シート状、棒状、管状等、球形状等が挙げられる。また、培養細胞構造体の作製方法自体は、当業者において周知であり、EPの有効量を培養細胞構造体を培養する培地に含有させることにより、EPを培養細胞構造体の作製剤として利用できる。培養細胞構造体の作製剤として用いるときは、細胞増殖機能及びバリア機能を促進できる範囲であれば特に限定されないが、例えば、EPを細胞増殖剤として用いるのと同程度の濃度で培地等に含めることができる。
EPは、毛髪育成剤としても利用できる。EPは、毛乳頭細胞の増殖効果を有している。毛乳頭細胞の増殖は、毛髪の育成効果を意味している。したがって、EPを有効成分として含む、頭皮などを含む各種の皮膚に適用する外用の毛髪育成剤が提供される。毛髪育成剤としての形態は特に限定されないで、公知の頭皮や皮膚に適用される外用剤の形態が採用可能である。例えば、ローション、クリーム、エッセンス、シャンプー、リンス等が挙げられる。EPは、毛髪育成作用がある範囲で含まれればよく、例えば、0.000001質量%以上1質量%の範囲で含めることができる。好ましくは0.0001質量%以上0.1質量%以下である。また、外用剤としての用法・用量も特に限定されないが、例えば、1回以上3回以下/日を外用で用いることができる。
EPは、サイトカインの抑制剤としても利用できる。EPを細胞に投与することで、サイトカイン及びケモカインをコードする遺伝子の発現の抑制を確認できている。EP投与による発現が減少しているサイトカイン及びケモカインについては、既に表9に示した。これらのサイトカイン及びケモカインは、いずれも炎症性サイトカインである。また、後述する実施例においても示すように、LPS刺激を付与した動物細胞においては、IL−8及びTNF−αの誘導が明らかに抑制されていた。したがって、EPは、サイトカイン、より具体的には、炎症性サイトカインの抑制剤である。炎症性サイトカイン(炎症誘発性サイトカイン)としては、AREG、BMP7、CCL27、CSF1,CXCL14、GDF15、IL11、IL18、IL23A、IL31、IL4、IL5、TNFSF15、VEGFA等が挙げられる。
また、EPは、酸化に対する細胞の抵抗性を高める。このため、EPは、抗酸化ストレス剤としても利用できる。すなわち、生体における酸化に起因する疾患の予防又は治療剤として用いることができる。EPを細胞に投与すると、抗酸化物質であるチオレドキシン(TXN)や過酸化水素分解酵素(CAT)の発現上昇が認められたこと、並びに後述する実施例でも説明するように、過酸化水素による細胞毒性を低減することがわかった。以上のことから、EPは、細胞に対して酸化ストレスに抵抗性を付与できる。
96ウェルプレートに株化正常ヒト気道上皮細胞(BEAS−2B細胞)(ATCC)を1×104cells/cm2となるように播種した。培地は、10%FBS RPMI−1640を使用した。24時間後に、細胞をPBSで200μl/ウェルで穏やかに洗浄し、0、0.125、0.25、及び0.5%FBSに置換した(90μl/ウェル)。培地交換後、10μl/ウェルでEP溶液を加える。96時間後に増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイの操作は以下のとおりとした。
(1)96ウェルプレートからデカンテーション及びタッピングにより培地を除去
(2)予め37℃で加温した無血清培地(RPMI−1640)に、10分の1の割合になるように、WST−8試薬(同仁化学)を混和し、培地を除去したウェルに添加した。
(3)CO2インキュベータ内で1時間呈色反応を行い、吸光プレートリーダーで450nm及び650nmの吸光度を測定した。
(4)各ウェル間の補正として、吸光度450nm−吸光度650nmを求める。
(5)ブランクの4ウェルの平均値を全ウェルの補正値から差し引いて、これを相対的な細胞数相当値とした。結果を図1及び図2に示す。
96ウェルプレートにHBEpC細胞(IWAKI)を3×104cells/cm2となるように播種した。培地はBEGM(タカラバイオ、完全培地)を使用した。24時間後に、細胞をHEPESバッファーで1ウェルあたり200μlで穏やかに洗浄し、基礎培地(下垂体抽出物、ペプチド増殖因子を含まない培地)BEBMに対し、抗生物質GA−1000のみを添加したものに置換した(1ウェルあたり90μl)。培地交換後、設定濃度の10倍濃度のEP溶液を1ウェルあたり10μl加え、96時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図3に示す。
96ウェルプレートにNHLF細胞(タカラバイオ)を3×104cells/cm2となるように播種した。培地は、10%FBSDMEMを使用した。24時間後に、細胞をPBSで1ウェルあたり200μlで穏やかに洗浄し、0%FBS DMEMに置換した(1ウェルあたり90μl)。培地交換後、10μl/ウェルのEP溶液を加え、124時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図4に示す。
48ウェルプレートにHEKa細胞(タカラバイオ)を2×104cells/cm2になるように播種した。培地は、基礎培地Epilife(M-EPI-500-CA, Invitrogen)に対し、添加因子としてHKGS Kit (S-001-K, Invitrogen)を使用した。なお、このHKGS Kitには、ウシ下垂体抽出物、ウシインシュリン、ヒドロコルチゾン、ウシトランスフェリン及びヒトEGFを含んでいる。24時間後に、細胞を1ウェルあたり400μlのPBSで穏やかに洗浄し、1ウェルあたり252μlの基礎培地 Epilife に置換し、24時間培養した。培養後、EP溶液を1ウェルあたり28μl加え、EP投与後21日後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、試薬及び培地量を2.8倍とする以外は実施例1と同様に行った。結果を図5に示す。
96ウェルプレートにHHDPC細胞(コスモバイオ)を1×104cells/cm2となるように播種した。培地は、完全培地MSCM(500、ScienCell)を使用した。24時間後に、細胞を1ウェルあたり200μlのPBSで穏やかに洗浄し、1ウェルあたり90μlの0%FBS DMEMに体積比1%の完全培地MSCMを添加したものに置換して24時間培養した。培養後、EP溶液を1ウェルあたり10μl加え、EP投与後6日後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。臨床で発毛作用が認められているミノキシジルについても同様に試験した。結果を図6に示す。
(1)A549およびHEK293細胞;付着系細胞の場合
96ウェルプレートにA549(ヒトII型肺胞上皮細胞:腺癌)及びHEK293(アデノウイルス不死化ヒト胎児腎細胞)を1×104cells/cm2になるように播種した。培地は0% FBS RPMI−1640を使用した。播種から24時間後に、1ウェルあたり20μlのPBSで細胞を洗浄し、0% FBS RPMI−1640に置換した。培地交換後、設定濃度の10倍濃度のEP溶液を1ウェルあたり10μl加えた。EP添加後96時間後に、増殖試験(WST-8 アッセイ)を実施した。WST−8アッセイは、実施例1と同様に行った。結果を図7に示す。
EP投与前に対数増殖状態になるように、10% FBS RPMI−1640にて2〜10×105cells/cm2となるように10% FBS RPMI−1640にてTHP−1(ヒト急性単球性白血病細胞)およびHL−60(ヒト骨髄性白血病細胞)を対数増殖培養した。その後、1000rpmで細胞培養液を遠心・沈殿させ、0% FBS RPMI−1640に2×104cells/cm2になるように、1ウェルあたり90μlを96ウェルプレートに分注した。次いで、EP溶液を1ウェルあたり10μl加えて、72時間後に、増殖試験(WST−8アッセイ)を行った。浮遊系の細胞に対するWST−8アッセイは、培養中の細胞懸濁液に対して、直接WST−8アッセイ試薬を1ウェルあたり10μlずつを分注し、1時間後に、450nm、600nmの吸光度をプレートリーダーで測定し、以上の実施例と同様にデータ解析を行った。結果を図8に示す。
細胞増殖の調節はいくつもの細胞内シグナルが介在することが知られている。一般的には細胞外からの増殖シグナル(ホルモン)が、細胞膜レセプターに結合し、細胞内のタンパクを数段階の階層シグナルで活性化し、最下層の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated Protein Kinase;MAPK)が細胞核内に移行し、次いで細胞増殖に必要な遺伝子の発現調節を行う事が知られている。MAPKはいくつかのファミリーが知られており、ERK1/2、JNK、p38,ERK5,ERK7などが同定されている。EPの増殖効果のメカニズムとして上記のいずれかが想定された。予備検討を実施したところERK1/2の上位階層にあるMEK1/2(ERK1/2を活性化(リン酸化する分子))阻害薬により増殖効果が抑制されることが分かった。
EPは細胞膜の主要成分ホスファチジルコリン(レシチン)および神経組織に多く存在するホスファチジルエタノールアミンなど細胞に必須なリン脂質の前駆体であることが知られている。EPの増殖効果が、これら細胞構成物質の補給に起因するかどうかを確認するための実験として、EPの代謝上位および下位の物質による増殖効果有無の検討を行った。EP及びEPの上位/下位成分の上記細胞構成成分に至る代謝マップを図9に示す。
本成分を包括的化合物データベースであるPubChem(http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)にて構造類似化合物を検索すると、生理活性物質GABA‐A受容体作動薬のhomotaurineが該当する。本成分による細胞増殖効果がGABA受容体を介するかどうかを確認するために、GABA作動薬および拮抗薬による介入実験を実施した。
EPは無血清において、単独で細胞増殖をもたらす。一般的に動物細胞は複数の増殖因子の存在がなければ生存できない。これらが欠如すると、細胞に備わったアポトーシスと呼ばれる自殺機能(プログラムされた細胞死)が稼動する。アポトーシスの細胞内経路はいくつか知られているが、知られている全てのアポトーシス経路はcaspase3/7とよばれるペプチダーゼの活性上昇に集約される。よって、本成分のアポトーシス調節作用の有無はcaspase3/7活性を測定する事により推定が可能となる。そこで以下の実験を行った。
株化正常ヒト気道上皮細胞BEAS2Bをセルカルチャーインサート(353104,BD FALCON)に1x105cells/cm2となるように播種した(図14参照)。使用培地は10% FBS RPMI−1640とした。培地量は、インサート側200μl、ウェル側を750μlとした。翌日、1% FBS RPMI−1640に以下4条件の試薬を調製したものに1日1回置換/培地交換し、MilliCell(ミリポア)にて経上皮電気抵抗(TER)を測定した。
条件1; コントロール
条件2; EP 1mM
条件3; デキサメタゾン 1μM (デキサメタゾン(Dex):バリア機能を高めることを知られる陽性対照物質)
条件4; EP 1mM およびDex 1μM
[透過性試験]
4Kダルトンの蛍光デキストラン分子(SIGMA)を0.1mg/mlになるようにセルカルチャーインサートに加え、1時間後、ウェル側の培地を20μl取り出し、各濃度における蛍光強度から浸透した蛍光デキストラン量を推定した。インサート側からウェル側への物質の浸透速度Pappは一般的に下記の式で求められる。結果を図14に示す。
Papp=(ウェル側培地の体積/インサート面積×初期インサート濃度)×(ウェル側の変化濃度/経過時間)
(Calu−3 ヒトがん化気道上皮細胞)
Calu−3をセルカルチャーインサート(353104, BD FALCON)に3x105cells/cm2になるように播種した。10% FBS RPMI−1640にてコンフルエントになるまで培養し、コンフルエントになった時点で、0.1% FBS RPMI−1640に下記を含むものに置換し、1日1回培地交換した。実施例11と同様にTERを測定した。結果を図15に示す。
条件1; コントロール
条件2; デキサメタゾン 1μM
条件3; EP 1mM
HEKaをセルカルチャーインサート(353104,BD FALCON)に6x104cells/cm2になるように播種した。培地は基礎培地Epilife(M−EPI−500−CA,Invitrogen)に対し、添加因子としてHKGS Kit(S−001−K,Invitrogen)を加えた完全培地で培養し、コンフルエントになった時点で、完全培地にCalu−3と同様の条件1〜3で特定化合物を含むものに置換し、1日1回培地交換した。実施例11と同様にTERを測定した。結果を図15に示す。
実験には正常株化気道上皮細胞BEAS-2Bを用いた。この細胞は10% FBS RPMI-1640で拡大培養し、24ウェルプレートに1x105/cm2の密度で播種した。24時間後に0.1% FBS RPMI-1640に置換し、最終濃度0 もしくは1mM EPになるように投与した(n=4)。24時間後、細胞をDNAマイクロアレイのサンプルとした。RNA抽出はQIAGEN社のRNeasy Mini Kitを使用した。DNAマイクロアレイ実験はWhole Human Genome DNA マイクロアレイ 4x44K(Agilent)を利用し、DNAマイクロアレイ実験に必要なラベリング試薬等は全てAgilent社のものを用いた。
DNAマイクロアレイ実験データは専用解析ソフトGeneSpring (Agilent)にて統計解析および変動した遺伝子から遺伝子の機能解析(Gene Ontology [GO]解析)を実施した。GO解析は統計的に有意に変動した遺伝子セットが既知の機能分類遺伝子セットにどれぐらい当てはまるかを確率的に求めるものである。計算されたp値は与えられた全ての遺伝子数(本DNAマイクロアレイでは約4万の遺伝子数)から実際に変動した遺伝子の数だけ任意に取り出した時に、それらの遺伝子から類推される機能分類が、どれぐらいの確率で偶然起き得るかを示すものである。p値の計算式は下記の通り。
Np; アレイ中のある機能分類に含まれる遺伝子の総数
Nq; ある機能分類に含まれない遺伝子の総数
x; 変動遺伝子の中にある機能分類が含まれていた数
n; 変動遺伝子の総数
EPは酸化ストレスにより誘導される低分子として同定された。一方EPを細胞に投与すると細胞増殖機能の他、アポトーシス抑制作用をもたらす事を見出した。このことからEPは酸化ストレスに対して何らかの保護的な機能をもたらしている可能性があるため、代表的な酸化ストレス試薬である過酸化水素H2O2による遺伝子発現の相関解析を行った。
全アポトーシス関連遺伝子(apoptosis, GO:0006915, 全734プローブ)を、EPおよびH2O2において十分なシグナルが得られた有効データ611プローブに関する散布図を図17に示す。アポトーシス関連遺伝子は発現上昇・減少含めゲノムレベルにおいて、統計的に有意な負の相関にあることが示された(ピアソン相関係数0.48, p=3x10-37)。
上記散布図からアポトーシス関連遺伝子におけるEPとH2O2の発現変動は負の相関が認められた。このことから、EPにより細胞内が酸化ストレスに対して保護的(還元的)な環境がもたらされている可能性がある。酸化還元関連遺伝子は、細胞内の酸化・還元状態に対して発現が調節されており、EPにより細胞内が還元的な作用がもたらされているとすると、これらの遺伝子は酸化ストレスにおける動態と逆相関となる。
EPは酸化ストレスでもたらされるアポトーシス、酸化還元関連遺伝子の発現動態と負の相関にあることを示した。酸化ストレスは細胞死の他に、サイトカイン類など炎症を誘発する遺伝子や炎症などをもたらす免疫細胞を誘引するケモカイン類を発現誘導することが知られている。EPおよびH2O2により統計的に有意に発現変化(1.5倍以上あるいは1/1.5倍以下に発現変化、p<0.05)した遺伝子の数を図20に示した。H2O2処理ではサイトカイン、ケモカインともに発現誘導がもたらされた。一方、EPは特にサイトカイン類を多く発現減少させており、炎症反応を抑える機能としては表15に示すサイトカイン類およびケモカイン類を減少させることが挙げられる。なかでも、炎症誘発性サイトカインとしては、AREG、BMP7、CCL27、CSF1,CXCL14、GDF15、IL11、IL18、IL23A、IL31、IL4、IL5、TNFSF15、VEGFA等が挙げられる。
EPによるによる遺伝子発現変化は、酸化ストレスによるそれと逆の相関にある。特に酸化ストレス指標HMOX1の発現減少は、細胞内が定常状態よりも還元的な環境をもたらされている事を示唆し、それを裏付けるように抗酸化物質であるTXNの発現上昇が認められている。一方で、上記のことは遺伝子発現変化からの機能類推であり、実際に酸化ストレスによる細胞毒性がEPにより減弱されることを示す必要がある。このため、以下の実験を行った。
Claims (9)
- エタノールアミンリン酸を有効成分とする、炎症性サイトカインの抑制剤であって、
前記炎症性サイトカインは、IL−8、TNF−α、AREG、BMP1、BMP10、BMP7、CCL27、CSF1、CXCL14、GDF15、GDF9、IFNG、IL11、IL18、IL1A、IL2、IL23A、IL31、IL4、IL5、IL7、NODAL、NRG1、TNFSF15、TXLNA及びVEGFAからなる群から選択される1種又は2種以上である、抑制剤。 - 前記炎症性サイトカインは、IL−8、TNF−α、AREG、BMP7、CCL27、CSF1、CXCL14、GDF15、IL11、IL18、IL23A、IL31、IL4、IL5及びTNFSF15からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の抑制剤。
- 生体外で動物細胞にエタノールアミンリン酸を供給して炎症性サイトカインをコードする遺伝子の発現を抑制する方法であって、
前記炎症性サイトカインは、IL−8、TNF−α、AREG、BMP1、BMP10、BMP7、CCL27、CSF1、CXCL14、GDF15、GDF9、IFNG、IL11、IL18、IL1A、IL2、IL23A、IL31、IL4、IL5、IL7、NODAL、NRG1、TNFSF15、TXLNA及びVEGFAからなる群から選択される1種又は2種以上である、方法。 - エタノールアミンリン酸を有効成分とする、動物細胞のための抗酸化ストレス剤。
- 前記動物細胞において、ALDH18A1、AOC3、APEX1、ASPH、BDH1、CAT、CBR3、CRYZ、CYBB、CYP1B1、CYP4V2、DHTKD1、DIO2、GPX8、HTATIP2、IDH1、IVD、KDM4D、LOX、NQO1、PRUNE2、PXDNL、PYCRL、RTN41P1、SCO2、SDR16C5、SORD、STEAP3、TMEM195及びTXNからなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を増強するための、請求項4に記載の抗酸化ストレス剤。
- NQO1、CAT及びTXNからなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を増強するための、請求項5に記載の抗酸化ストレス剤。
- 生体外で動物細胞にエタノールアミンリン酸を供給して酸化ストレスを抑制する方法。
- エタノールアミンリン酸を有効成分とする、上皮細胞のバリア機能向上剤(ただし、血清及び増殖因子の非存在下での使用を除く)。
- エタノールアミンリン酸を有効成分とする、上皮細胞の損傷に起因するアレルギーの予防又は治療剤。
Priority Applications (4)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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