以下、実施例について図面を用いて説明する。なお、本発明は鉄道および高速道路の遅延評価に適用可能であるが、以下の説明では鉄道の事例で説明する。高速道路に適用する場合には、鉄道における一部用語を高速道路の用語に置き換えて考えればよく、この置き換え事例については適宜説明する。
本実施例では、鉄道での遅延損失の評価を行う装置10の一例を説明する。
図1は、本実施例における遅延損失評価装置の構成の例を示す図である。遅延損失評価装置10は、輸送情報管理部11、流動情報管理部12、影響範囲抽出部13、所要時間計算部14、遅延時間計算部15、損失評価部16、評価結果格納部17、表示部18を有する。
また遅延損失評価装置10は、入力し、検出しあるいは加工した各種の情報を記憶しておくデータベースを保有している。例えば輸送情報管理部11は、路線データベースDB1、輸送障害・事故事例情報データベースDB2を有する。流動情報管理部12は、入出場履歴データベースDB3、標準パターンデータベースDB4を有する。また評価結果格納部17は、評価結果データベースDB5を有する。なお流動情報管理部12は、標準データ計算部19を備えている。
以下、遅延損失評価装置10内の各装置の動作について詳細に説明する。
図2は、輸送情報管理部11が有する路線データベースDB1に格納される路線データテーブルTB1の例を示した図である。路線データテーブルTB1には、レコードID21、出発駅22、到着駅23、区間24、区間路線名25の各要素から構成されるデータが格納される。
レコードID21は、路線データを表す各レコードにユニークに割り当てられたIDである。出発駅22および到着駅23は、各路線データの出発駅および到着駅の組み合わせである。区間24は、出発駅22から到着駅23までの区間を構成する乗り換え区間である。区間路線名25は、区間24が属する路線の名称である。区間24および区間路線名25は、各路線データに格納される出発駅22および到着駅23に対して所定の乗り換え回数分だけ格納される。
この路線データベースDB1によれば、特定の乗客が切符あるいは定期券などを使用してA駅から入場し、区間1の路線名Xを利用してA1駅に移動し、ここで区間Nの路線名Pを利用してA1駅からB駅に移動し退場したときの記録が、レコードID21の「1」として登録されている。同様に他の乗客の利用履歴もレコードID21により区分されて記録される。
なお、路線データベースDB1に格納される路線データテーブルTB1が高速道路の場合にも同様に構築可能であることは言うまでもなく、この場合には特定の車両のETC情報などを用いて出発駅(入場したランプあるいはインタチェンジ)と退場駅(退場したランプあるいはインタチェンジ)が、通過した高速路線名とともに記録されればよい。
鉄道の場合も高速道路の場合にも、路線データベースDB1に格納される路線データテーブルTB1の構築に必要なデータは、自動改札機やETC装置などの既存設備を利用して自動的に収集可能なデータである。なお、これらの既存設備を利用した自動収集可能なデータには時刻データを含む。
図3は、輸送情報管理部11が有する輸送障害・事故事例データベースDB2に格納された輸送障害・事故事例データテーブルTB2の例を示した図である。輸送障害・事故事例データテーブルTB2には、レコードID31,日付32、発生時刻33、運転再開時刻34、発生路線35、発生箇所36、発生原因37、ダイヤ正常化時刻38の各要素から構成されるデータが格納される。
レコードID31は、各輸送障害・事故事例データにユニークに割り当てられたIDである。日付32は、輸送障害あるいは事故が発生した日付である。発生時刻33は、輸送障害・事故が発生した時刻である。運転再開時刻34は、輸送障害・事故が発生したことにより列車が運行を見合わせた後、運転を再開した時刻である。発生路線35は、障害・事故が発生した路線の名称である。発生箇所36は、障害・事故が発生した箇所である。発生原因37は、輸送障害・事故が発生した原因である。ダイヤ正常化時刻38は、列車ダイヤが通常通りに回復した時刻である。
このデータベースによれば、2011年1月1日の19時に路線YのX地点で人身事故が発生し、20時に運転再開したがダイヤが正常化したのは21時であったときの記録が、レコードID31の「1」として登録されている。同様に他の遅延事象についてもレコードID31として事故事例データテーブルTB2に記録される。
なお図2の路線データテーブルTB1の構築に必要なデータは、既存設備を利用して自動的に収集可能なデータであったが、図3の事故事例データテーブルTB2の構築に必要なデータの一部には、設備の運転監視員による後日の判断と人的入力に頼るものがある。
事故事例データテーブルTB2は、高速道路の場合にも同様に構築可能であることは言うまでもないが、この場合には特に運転再開時刻34とダイヤ正常化時刻38について明確な指針が得られるわけではないので、設備の運転監視員による後日の判断と人的入力が必要とされる。
なお、各種テーブルに記録される情報が、鉄道と高速道路でまったく同じものが必要かというと必ずしもそうではない。設備の相違に応じて不要なものあるいは代用可能な別データを使用することも可能である。
図4は、流動情報管理部12が有する入出場履歴データベースDB3に格納される入出場履歴データテーブルTB3の例を示した図である。入出場履歴データテーブルTB3には、ID41,入場時刻42、出場時刻43、入場駅44、出場駅45の各要素から構成されるデータが格納される。
各レコードに記録される入出場履歴データは、各駅の改札口に設置された自動改札機を通過したICカード乗車券や磁気券の情報から生成される。ID41は各レコードに格納された入出場情報を識別するためのIDである。入場時刻42は入場駅44に入場した時刻、出場時刻43は出場駅45から出場した時刻である。
この入出場履歴データベースDB3によれば、2011年1月1日の19時にA駅に入場し、同日の19時5分にB駅から退場したことがレコードID41の「1」として登録されている。同様に他の入出場履歴についてもレコードID41として入出場履歴データテーブルTB3に記録される。
なお入出場履歴データテーブルTB3について、高速道路の場合にも同様に通過時刻と入出場個所の情報として自動的に収集可能であり、データ構築が可能であることは言うまでもない。
図5は、流動情報管理部12が有する標準パターンデータベースDB4に格納される標準パターンデータテーブルTB4の例を示した図である。標準パターンデータテーブルTB4は、輸送障害や事故が発生しない通常時における所定の発着駅間の所要時間を格納したデータである。標準パターンデータテーブルTB4は、日付区分51,入場時刻時間帯52、入場駅53、出場駅54、標準所要時間55、平均所要時間56、所要時間の中央値57、所要時間の分散値58の各要素から構成される。
日付区分51は,例えば通常時における所定の入出場駅間の所要時間が平日の所要時間か休日の所要時間かを区別するための情報である。入場時刻52、入場駅53、出場駅54は、格納された所要時間に対する入場時刻、出場駅、到着駅を表す情報である。標準所要時間55は、当該入場時刻、出発駅、到着駅における標準的な所要時間を表す情報である。平均所要時間56は、当該入出場駅間における平均所要時間を表す情報である。所要時間の中央値57は、当該入出場駅間における所要時間の中央値を表す情報である。所要時間の分散値58は、当該入出場駅間における所要時間の分散値である。
このうち、標準所要時間55、平均所要時間56、所要時間の中央値57、所要時間の分散値58は、標準データ計算部19において計算される。具体的な計算方法は以下のとおりである。
まず標準所要時間55は、例えば列車のダイヤ情報を基に作成される。あるいは、入出場履歴データベースDB3に格納された当該駅間の入出場履歴データテーブルTB3から、輸送障害や事故が発生しなかった日時をひとつ選択して、当該日時における入出場駅間の所要時間を標準所要時間としてもよい。なお高速道路の場合には、ダイヤ情報が存在しないので後者の手法とされるのが良い。また、季節、曜日、時間帯により変動することを加味するのが良い。
平均所要時間56は、以下のようにして作成される。入出場履歴データベースDB3に格納された当該入場時刻および入出場駅間の入出場履歴データテーブルTB3から、輸送障害や事故が発生しなかった、かつ当該日付区分(平日または休日)に該当する日時における履歴情報を抽出する。そして抽出された入出場履歴における所要時間の平均値を計算して、平均所要時間56とする。
所要時間の中央値57は、以下のようにして作成される。入出場履歴データベースDB3に格納された当該入場時刻および発着駅間の入出場履歴から、輸送障害や事故が発生しなかった、かつ当該日付区分(平日または休日)に該当する履歴情報を抽出する。そして抽出された入出場履歴における所要時間の中央値を計算して、所要時間の中央値57とする。
所要時間の分散値58は、以下のようにして作成される。入出場履歴データベースDB3に格納された当該入場時刻および発着駅間の入出場履歴から、輸送障害や事故が発生しなかった、かつ当該日付区分(平日または休日)に該当する履歴情報を抽出する。そして抽出された入出場履歴における所要時間の分散値を計算して、所要時間の分散値58とする。
本実施例では、輸送情報管理部11に格納された路線データベースDB1および輸送障害・事故事例情報データベースDB2、流動情報管理部12に格納された入出場履歴データベースDB3、および標準パターンデータベースDB4に格納された各データテーブルを入力情報として、輸送障害や事故による遅延損失を評価する。
遅延損失の評価は、具体的には以下の手順で処理がおこなわれる。まず図1の影響範囲抽出部13において、輸送障害・事故の影響範囲を特定する処理を行う。所要時間計算部14では、影響範囲抽出部13において特定された範囲に存在する発着駅間を利用した利用者の、障害・事故発生時における所要時間を計算する。遅延時間計算部15では、所要時間計算部14によって計算された所要時間に基づいて、遅延時間を計算する。損失評価部16は、遅延時間計算部15によって計算された遅延時間に基づいて、損失を評価する。評価結果格納部17は、損失評価部16によって評価された評価結果を格納する。表示部18は、損失評価部16によって評価された評価結果、あるいは評価結果格納部17に格納された評価結果をユーザに提示する。
以下、図1各部における処理について詳細に説明する。
まず影響範囲抽出部13では、路線データベースDB1に格納された路線データテーブルTB1、および輸送障害・事故事例情報データベースDB2に格納された輸送障害・事故事例データテーブルTB2を参照して、評価対象とする輸送障害・鉄道事故に影響する発着駅、および時間帯を特定する。
図6は、影響範囲抽出部13の処理手順を示すフローチャートである。
図6の処理ではまず、ステップS131において、輸送障害・事故事例データテーブルTB2から、評価対象とする過去の障害・事故事例を選択する。この処理は、例えば列車運行事業者において列車の輸送管理業務を担当する担当者が、入力画面等から評価対象としたい輸送障害・事故事例を選択する操作を行うことによって実現可能である。
以下の説明事例では、図3の輸送障害・事故事例データテーブルTB2から、評価対象とする過去の障害・事故事例としてID31の「1」を選択したものとする。これは、2011年1月1日の19時に路線YのX地点で発生した人身事故のときの記録であり、このときの遅延損失評価作業を実行すべく事例選択した。
次にステップS132において、ステップS131で選択された事例から、発生路線、および時間帯を抽出する。この処理は、輸送障害・事故事例データテーブルTB2から選択された障害・事故事例レコードより、発生路線35、発生時刻33、運転再開時刻34を抽出し、この運転再開時刻34よりも所定の時間より前の時刻から、運転再開時刻34よりも所定の時間だけ後の時刻の間を、所定の時間間隔単位で分割した時間帯を、障害・事故による影響を受けた時間帯と定義することにより行われる。
具体的には例えば図3の輸送障害・事故事例データテーブルTB2のID31が「1」の事例で、運転再開時刻34(20時)よりも所定の時間(例えば2時間)より前の時刻(18時)から、運転再開時刻34よりも所定の時間(2時間)だけ後の時刻(22時)の間を、所定の時間間隔単位(5分)で分割した時間帯を、障害・事故による影響を受けた時間帯と定義することにより行われる。
次にステップS133において、図2の路線データテーブルTB1から発生路線を使用する発着駅のレコードを抽出する。具体的には、図3の輸送障害・事故事例データテーブルTB2における発生路線35(図3の「1」の例では、路線Y)をキーにして、路線データテーブルTB1における路線名25を検索し、これが(路線Y)と一致するレコードを検索し、発着駅を抽出する。
図2の場合に、線路名に路線Yの情報を含む利用者の記録としては、路線データテーブルTB1のID21が「3」、「4」が該当し、上記の処理により、評価対象とする輸送障害・事故によって影響を受けた利用者が利用した発着駅としてC,D,E駅を特定する。これにより、事故点を含む路線を利用して移動した乗客の全ての発着駅が抽出される。抽出された発着駅の集合が影響範囲ということになる。
なおステップS133の処理は、発生路線を使用する発着駅のレコードを抽出したものであるが、これはさらに以下のようにすることも可能である。ステップS133のさらに改良された処理では、輸送障害・事故の発生路線ばかりでなく、この路線に関連する他の路線も対象とする。例えば、直通運転を根拠として、線区(路線)通しを紐付けして、遅れの波及する可能性のある他の関連線区を使用する発着駅のレコードをも抽出する。
図31は、関連線区を記憶した線路関連テーブルTB7であり、例えば路線データベースDB1に保持されるのが良い。線路関連テーブルTB7は、路線名151、関連路線1(152),関連路線2(153)、関連路線N(156)で構成されており、例えば、東京都内の中央線を路線名151としたとき、中央線に直通運転している青梅線が関連路線1(152)に定義されている。関連路線が複数存在する場合には、全ての関連路線が抽出される。
ステップS133の改良された処理では、路線関連テーブルTB7から、障害・事故発生路線に関連する路線を抽出し、そのうえで障害・事故発生路線と関連路線の双方について路線データテーブルTB1から、これらの路線を使用する発着駅のレコードを抽出するという2段階処理を実行することになる。
このステップS133の改良された処理によれば、直通運転を根拠として、線区(路線)通しを紐付けして、遅れの波及する可能性のある線区を含む区間の人数・遅れ時分を計算することができる。
ステップS134において、ステップS131からS133までの処理によって得られた、障害・事故による影響を受けた発着駅、および時間帯情報を出力する。
次に所要時間計算部14の動作について説明する。図7は、所要時間計算部14の処理手順を示すフローチャートである。
まずステップS141において、影響範囲抽出部13によって特定された発着駅・時間帯の情報を参照する。この事例の場合、発着駅としてC,D,E駅を特定しており、時間帯として18時から22時までの5分刻みの時間帯の情報が参照される。
ステップS142において、入出場履歴データテーブルTB3からステップS141において特定された発着駅・時間帯に該当するレコードを検索する。出発駅は44、到着駅は出場駅45、時間帯は入場時刻42が該当するか否かを判定することにより、該当するレコードを検索する。図4の入出場履歴データテーブルTB3を上記の条件で検索した結果、ID41が、「1」、「2」のレコードが抽出される。「3」、「4」のケースでは発着駅情報は該当するが、時間帯が別の日である。「5」は、発着駅が相違している。
ステップS143において、ステップS142によって検索された当該発着駅における各レコードの入場時刻42、および出場時刻43の情報から、各入出場履歴における入場駅44から出場駅43までの所要時間を計算する。「1」のレコードでは入場駅44(A駅)から出場駅43(B駅)までの所要時間は100分であるが、「2」のレコードでは110分である。
ステップS144では、ステップS143において計算された当該入出場駅の所要時間のデータ集合から、所要時間の平均値、あるいは中央値を計算する。
ステップS145では、ステップS143において計算された当該入出場駅の所要時間のデータ集合から、当該発着駅を利用した利用人数を計算する。
ステップS146では、ステップS141において入力されたすべての発着駅、時間帯に該当する入出場駅・時間帯における所要時間の平均値あるいは中央値、および利用人数を計算したか否かを判定する。そしてもし計算が終了していれば処理を終了する。一方もし計算が終了していない発着駅があれば、ステップS142に戻って、処理を継続する。
図8に、所要時間計算部14における処理結果の例を示す。処理結果80は、入場日時時間帯81、入場駅82、出場駅83、所要時間の中央値(または平均値)84、利用人数85の各情報から構成される。
図8の例では、入場日時時間帯81が同日の19時からの5分間にA駅に入場し、B駅から退場した人数の合計は100人であり、その所要時間の中央値は110分であった。また入場日時時間帯81が同日の19時10分からの5分間にC駅に入場し、D駅から退場した人数の合計は220人であり、その所要時間の中央値は220分であった。また入場日時時間帯81が同日の19時15分からの5分間にC駅に入場し、D駅から退場した人数の合計は200人であり、その所要時間の中央値は60分であった。なお図8に図示していないが、所要時間の中央値とともに、発着駅、時間帯ごとの平均所要時間が算出されている。
次に遅延時間計算部15の動作について説明する。図9は、遅延時間計算部15の処理手順を示すフローチャートである。
まずステップS151において、所要時間計算部14で計算された入出場駅・時間帯毎の所要時間の平均値あるいは中央値を参照する。
ステップS152において、図5の標準パターンデータテーブルTB4から、当該入出場駅・時間帯における通常時所要時間を参照する。通常時所要時間は標準所要時間55とする。あるいは平均所要時間56、あるいは所要時間の中央値57としてもよい。なお平日の19時における駅A,B間の通常時所要時間は、標準所要時間55を参照すると90分であり、平均所要時間56、あるいは中央値57では、それぞれ100分、110分である。この数値は、平日と休日では一般に相違する。
ステップS153において、ステップS151およびステップS152によって検索された所要時間および通常時所要時間から、当該入出場駅および時間帯における所要時間差を計算する。
ステップS154において、ステップS151において検索されたすべての入出場駅および時間帯において、所要時間差を計算したか否かを判定する。そしてもし計算が終了していればステップS155に進む。一方もし計算が終了していない入出場駅、時間帯があれば、ステップS151に戻って、処理を継続する。
ステップS155において、所要時間計算部14における処理結果と合わせて、入出場駅および時間帯ごとの所要時間差および利用人数を出力する。
次に損失評価部16の動作について説明する。図10は、損失評価部16の処理手順を示すフローチャートである。
まず図10のステップS161において、遅延時間計算部15から出力される入出場駅・時間帯毎の所要時間差および利用人数を参照する。
ステップS162において、輸送障害・事故事例パターンデータテーブルTB2から、発生時刻33、および運転再開時刻34、ダイヤ正常化時刻38を参照する。
ステップS163において、時間帯毎の損失時間および影響人数を計算する。具体的には、影響範囲抽出部13において定義した、発生時刻33よりも所定の時間より前の時刻から、運転再開時刻34よりも所定の時間だけ後の時刻の間を、所定の時間間隔単位で分割した時間帯毎に、各入出場駅における所要時間差が閾値以上か否かを判定する。
そして各入出場駅における閾値以上の所要時間差を各入出場駅における損失時間、損失時間が発生した各入出場駅における利用人数を影響人数と定義する。すなわち影響人数は、利用人数のうちある閾値以上の所要時間差を有した、すなわち影響を被ったと考えられる人数である。
次に(1)式の計算を行うことにより、影響範囲における時間帯ごとの損失時間を計算する。
[数1]
時間帯毎の損失時間=Σ(各入出場駅における損失時間×影響人数) (1)
すなわち、各時間帯における各入出場駅における損失時間を、影響人数で乗算した値を、影響範囲抽出部13において特定されたすべての入出場駅の組み合わせに対して合計することによって、影響範囲における時間帯毎の損失時間を計算する。
ステップS163における処理を、所定の時間帯、すなわち運転再開時刻34よりも所定の時間より前の時刻から運転再開時刻34よりも所定の時間だけ後の時刻だけ、所定の時間間隔で計算する。
このときの計算結果の一例が、図11に示すような時系列データとして得られる。時系列データにおける横軸は入場時刻であり、発生時刻34を原点(0)としている。また縦軸は、当該時間帯における損失時間を表している。ここで損失時間は、通常の駅間通過に要した時間と、この事故のときに実際に通過に要した時間の差であり、例えば事故発生後の5分間隔での損失時間をプロットして表している。図11によれば、事故発生後40分経過時点頃に損失時間の最大値が生じ、その前後では低下する傾向が見て取れる。
ステップS164では、一人当たりの損失時間を求める。具体的には、ステップS163において求めた時間帯毎の損失時間を、利用人数で除算することによって計算される。
ステップS165において、影響発生時刻を計算する。ここでは、輸送障害・事故が発生する以前に改札に入場した利用者も、目的地に到着する以前に障害・事故による影響を受けることが想定されるので、この観点での影響も加味する。
その場合、図11の時系列データには、輸送障害・事故が発生する時刻以前から、損失時間が増大することが考えられる。影響発生時刻は、この損失時間が増大を開始する時刻、すなわち輸送障害・事故による影響が出始めた時刻と定義する。この影響発生時刻は、ステップS167において損失時間の積算値を計算する際に使用される。
図12は、ステップS165における影響発生時刻の計算方法を示すフローチャートである。
ここではまずステップS165aにおいて、図10における処理ステップS164において計算された、一人当たりの損失時間の時系列データを参照する。
ステップS165bにおいて、損失時間を計算し始めた時刻から発生時刻までの一人当たりの損失時間の時間変化dtを計算する。時間変化dtは、(2)式で計算される。
[数2]
dt=(時間帯tにおける一人当たりの損失時間)
−(時間帯t−1における一人当たりの損失時間) (2)
ステップS165cにおいて、影響発生時刻を計算する。具体的には、dtの絶対値がある閾値以上を超えた時刻を影響発生時刻と判定することによって計算する。図11の事例では、事故発生時刻(横軸において時刻0の時点)の30分ほど前に入場した乗客に与えた影響が表れ始めていることが見て取れる。
ステップS166において、流動正常化時刻を計算する。列車の運転が再開した後、利用者の流動が正常と同じ状態に戻るまでには一定の時間を要すると考えられる。この流動が正常と同じ状態に戻った時刻を、流動正常化時刻と定義する。この流動正常化時刻は、ステップS167において損失時間の積算値を計算する際に使用される。
図13は、ステップS166における流動正常化時刻の計算方法を示すフローチャートである。
図13ではステップS166aにおいて、図10における処理ステップS164において計算された、一人当たりの損失時間の時系列データを参照する。
ステップS166bにおいて、運転再開時刻から損失時間を計算し終える時刻までの一人当たりの損失時間の時間変化dtを計算する。時間変化dtは、ステップS165bにおける計算方法と同一である。
ステップS166cにおいて、流動正常化時刻を計算する。具体的には、ある一定時間以上dtの絶対値がある閾値以内に収まった場合に損失時間が収束し、正常時に戻ったと判定する。そしてその時刻を流動正常化時刻と判定する。図11の事例では、事故発生時刻(横軸において時刻0の時点)の130分ほど後に入場した乗客にはこの事故による影響が表れていないことが見て取れる。
ステップS167において、総損失時間を計算する。具体的には、影響発生時刻から運転再開時刻までの損失時間、および運転再開時刻から流動正常化時刻までの損失時間を積算することによって計算する。
ステップS168において、処理結果を出力して処理を終了する。
損失評価部16によって計算された計算結果は、評価結果格納部17における評価結果データベースDB5に格納される。
図14は、評価結果格納部17が有する評価結果データベースDB5に格納される評価結果データテーブルTB5の例を示した図である。評価結果データテーブルTB5は、レコードID61、影響発生時刻62、流動正常化時刻63、影響発生時刻から運転再開時刻までの総損失時間64、運転再開時刻から流動正常化時刻までの総損失時間65、損失時間時系列データ66、利用人数時系列データ67、影響人数時系列データ68、一人当たり損失時間時系列データ69の各要素から構成されるデータが格納される。
このうち、レコードID61は、各レコードにユニークに割り当てられたIDであり、輸送障害・事故事例データテーブルTB2におけるレコードID31と同一の値が格納される。
影響発生時刻62は、損失評価部16おける処理ステップS165において計算される値である。流動正常化時刻63は、処理ステップS166において計算される値である。影響発生時刻から運転再開時刻までの総損失時間64、および運転再開時刻から流動正常化時刻までの総損失時間65は、処理ステップS167において計算される値である。損失時間時系列データ66は、処理ステップS163において計算される損失時間値の時系列データである。利用人数時系列データ67は、処理ステップS163において参照される利用人数の時系列データである。影響人数時系列データ68は、処理ステップS163において計算される影響人数の時系列データである。一人当たり損失時間時系列データ69は、処理ステップS164において計算される値の時系列データである。
上記までにおいて説明した、損失評価部16によって計算された計算結果、および評価結果格納部17における評価結果データベースDB4に格納される評価結果データテーブルTB5は、表示部18において表示され、列車運行事業者において列車の輸送管理業務を担当する担当者が計算結果を評価するために用いられる。
図15から図17に表示部18における画面の表示例を示す。
まず図15に、表示部18における画面の第一の表示例を示す。画面180には、損失評価部16において計算された総損失時間181および利用人数・影響人数182、一人当たりの損失時間183が時系列データとして表示される。時系列表示としては、影響発生時刻、運転再開時刻、流動正常化時刻、さらには事故発生時刻などが同時に表記されることにより、全体状況の把握が容易となる。
但し、時系列データ表示は数値把握には適さないので、合わせて総損失時間、影響人数、一人当たりの損失時間の積算値などが数値情報として184,185,186のように表示するのがよい。さらには、総損失時間の積算値を対数値であらわした、総損失評価値187を表示するのがよい。
図16に、表示部18における画面の第二の表示例を示す。この表示例188では、例えば影響開始時刻から運転再開までの総損失時間および影響人数、一人当たりの損失時間、運転再開から流動正常化時刻までの総損失時間および影響人数、一人当たりの損失時間を6段階に離散化して、離散化した値をレーダチャートにて表現した表示例を示している。
図17に、表示部18における画面の第三の表示例を示す。この表示例189では、評価結果格納部17における評価結果データベースDB5に格納される評価結果データテーブルTB5の時系列データ66あるいは67,68のデータから、総損失評価値を計算して、横軸にたとえば障害・事故発生から流動正常化までの時間、縦軸に総損失評価値をとって、散布図の形式で表示したものである。表示された各点Pのひとつひとつが、評価データテーブルTB5の1レコードから計算された損失評価値に相当する。
このような散布図によって各障害・事故の損失評価値を表現することにより、たとえばある障害が過去の類似した事例の集合に対して、相対的にどの程度の障害であったか、さらには障害発生後の列車運行制御がどの程度適切であったかを評価することができる。
本実施例では、遅延損失評価装置10の別の実施例を説明する。
図18は、第二の実施例における遅延損失評価装置の構成の例を示す図である。図18の遅延損失評価装置10のうち、既に説明した第一の実施例10と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。
実施例2における遅延損失評価装置10では、実施例1の構成に加えて、さらに入場人数偏差判定部100、および待ち時間計算部101を備えた構成になっている。実施例1では改札に入場した利用者を対象に損失を計算することを特徴としていた。これに対して実施例2では、障害・事故発生が原因で所望の時刻に改札に入場しなかった、あるいは入場できなかった利用者の待ち時間による損失時間を加味して損失を評価することができる構成になっている。
以下、未利用者の損失を加味した遅延損失評価装置10について説明する。
第2の実施例では、流動情報管理部12に格納される入出場履歴データベースDB3に各駅における日々の入場者数を記録した入場者数データテーブルTB3Aを追加し、また標準パターンデータベースDB4に、通常時の入場者数を記録した入場者数データテーブルTB4Aが追加格納されている。
このうち図19には、入出場履歴データベースDB3に追加設置された入場者数データテーブルTB3Aの例を示す。各駅における日々の入場者数データテーブルTB3Aは、入場時刻46、入場駅47、入場人数48の各要素から構成される。入場者数データテーブルTB3Aは、入出場履歴データテーブルTB3を入場駅単位で集計することにより作成される。
図20には、標準パターンデータベースDB4に追加設置される通常時入場者数データテーブルの例を示す。通常時入場者数データテーブルTB4Aは、日付区分71,入場時刻72、入場駅73、入場人数74、入場人数の分散値75の各要素から構成される。日付区分71は,例えば通常時における所定の入場駅の入場人数が平日の入場人数か休日の入場人数かを区別するための情報である。入場時刻72、入場駅73、入場人数74は、それぞれ当該日付区分における所定の入場時刻、入場駅における標準的な入場人数を表すデータである。このデータは、過去における平均的な駅利用者を駅ごとに纏めて記憶したものであり、日々の利用者を曜日、時間帯、季節などに分けて作成、記憶しておくのが良い。
通常時入場者数データテーブルTB4Aは、標準データ計算部19において作成される。具体的な計算方法は以下の通りである。
まず入出場履歴データベースDB3に格納された当該入場時刻および入出場駅間の入出場履歴データテーブルTB3から、輸送障害が発生しなかった、かつ当該日付区分(平日または休日)に該当する日時における履歴情報を抽出する。そして抽出された入出場履歴情報の集合から、当該時刻における入場の平均値を計算して、入場人数74とする。
入場人数の分散値75は、当該日付区分における所定の入場時刻、入場駅における入場人数の分散値である。入場人数の分散値75は、入出場履歴データベースDB3に格納された当該入場時刻および入出場駅間の入出場履歴データテーブルTB3から、輸送障害・事故が発生しなかった、かつ当該日付区分(平日または休日)に該当する日時における履歴情報から計算する。
本実施例では、第一の実施例に加えて、さらに障害・事故発生が原因で所望の時刻に改札に入場しなかった、あるいは入場できなかった利用者の損失時間を加味して損失を評価することができる。具体的には、以下の手順で行われる。
図18の入場人数偏差判定部100において、各時刻において輸送障害・事故時の入場人数と、通常時の入場人数とを比較して、輸送障害・事故発生時の近傍における入場人数が障害・事故発生時と通常時においてどの程度差があるかを判定する。
そして待ち時間計算部101において、障害・事故発生時と通常時の入場人数に差があると判定された時間帯における、運転再開を待った時間を推定する。そして損失評価部16において実施例1において説明した所要時間に基づいた損失時間に、待ち時間により損失時間を加算して損失を評価する。
以下,入場人数偏差判定部100および待ち時間計算部101の処理について説明する。図21は、入場人数偏差判定部100の処理手順を示すフローチャートである。
図21ではまずステップS171において、輸送情報管理部11に格納された輸送障害・事故発生時事例パターンデータテーブルTB2から発生路線、発生時刻、運転再開時刻を参照する。
ステップS172において、輸送情報管理部11に格納された路線データテーブルTB1、およびステップS171において参照された障害・事故発生時発生路線を参照して、障害発生路線上の入場駅を検索する。
ステップS173において、ステップS172において検索された入場駅毎に、流動情報管理部12に格納された日々の入場者数データTB3Aから障害・事故発生日時の入場人数、および通常時入場者数データTB4Aから該当日付区分に該当する入場人数を参照する。参照対象とする時間帯は、障害・事故発生時刻から、運転再開時刻から所定の経過時間までとする。
ステップS174において、障害・事故発生時発生時刻から運転再開時刻までの各時間帯の障害・事故発生時と通常時の入場人数を比較して、障害・事故発生日の入場人数と通常時の入場者との差が統計的に有意である時間が所定の時間帯以上存在するか否かを判定する。
もし所定の時間帯以上存在すると判定されれば、輸送障害・事故発生によって当該駅に改札に入場できなかった利用者が存在すると判定し、次のステップSに進む。一方、もし所定の時間帯以上存在しないと判定されれば、ステップS173に戻り、他の入場駅に対して処理を繰り返す。
ステップS175において、運転再開時刻から所定の時間経過後までの各時間帯の障害・事故発生時と通常時の入場人数を比較して、障害・事故発生日の入場人数と通常時の入場者との差が統計的に有意である時間帯を抽出し、時間帯および入場人数差を出力する。この処理によって統計的に有意な時間帯における入場人数の差が、運転再開を待って入場した利用者と推定することができる。
ステップS176において、処理対象とするすべての入場駅において、ステップS173からS175までの処理を行ったか否かを判定する。そしてもし処理が終了していればステップS177に進んで、該当する入場駅および時間帯、入場人数の差を出力して処理を終了する。一方もし計算が終了していない入場駅があれば、ステップS173に戻って、処理を継続する。
図22に、図21で示した入場人数偏差判定部103の処理手順のうち、ステップS174およびステップS175における処理手順を説明した図を示す。図22では、通常時の入場人数の時間変化U1(点線)と、障害・事故発生時の入場人数の時間変化U2(実線)を示している。
図22の例では、通常の利用者は夕刻(本事例での障害発生時刻である19時)にかけて増加し、その後100人/5分ほどの入場者数で推移する。これに対し、障害・事故発生時の入場人数U2は、夕刻までは通常の利用数と大差なく推移しているが、障害発生時刻から激減し、逆に運転再開時刻から普段の利用者以上の利用者が入場している。これによれば、障害発生により待機していた利用者が運転再開により入場してきたことが見て取れる。
係る利用者の入場推移に対し、ステップS174における処理は、通常時と障害・事故発生時の発生時刻から運転再開時刻までの各時間帯の入場人数の偏差ΔU1が存在するか否かを判定する処理である。またステップS175における処理は、通常時と障害・事故時の運転再開時刻から所定の時間経過までの各時間帯の入場人数の偏差ΔU2を判定する処理である。
待ち時間計算部101では、入場人数偏差判定部100によって計算された障害・事故発生時と通常時の入場人数に差があると判定された時間帯および入場人数差に基づいて、運転再開を待った時間を推定し、損失を計算する。
図23は、待ち時間計算部101の処理手順を示すフローチャートである。
ステップS181において、入場人数偏差判定部100から出力される入場駅と時間帯における待ち時間を推定する。具体的には例えば運転再開時刻から発生時刻を引いた時間差を推定待ち時間とすることができる。
ステップS182において、当該時間帯における損失時間を計算する。具体的には、以下の(3)式により計算する。
[数3]
損失時間=(待ち時間)×(障害・事故時と通常時の入場人数の差) (3)
ステップS183において、損失時間および人数差を出力して、処理を終了する。
待ち時間計算部101において計算された損失時間は、損失評価部16に入力される。そして実施例1において説明した損失時間および影響人数に加算される。表示部18における表示は実施例1の場合と同等である。あるいは待ち時間による損失値のみを実施例1で示した方法によって表示してもよい。
本実施例では、遅延損失評価装置10の別の実施例を説明する。
図24は、第三の実施例における遅延損失評価装置の構成の例である。遅延損失評価装置10のうち、既に説明した第二の実施例10と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。
実施例3における遅延損失評価装置10では、実施例2の構成に加えて、さらに迂回情報管理部202、迂回人数計算部200、迂回時間計算部201を備えた構成になっている。また迂回情報管理部202は、迂回パターンデータベースDB6を有する。障害・事故が発生すると、障害・事故が発生した路線と並行する別の路線に迂回して目的地に向かう利用者が多く存在する。実施例3の特徴は、実施例2に加えて、さらに別の路線に迂回したことによる損失時間を加味して、損失を評価できる構成になっている。
以下遅延損失評価装置10について説明する。
第3の実施例では、さらに迂回情報管理部202を備え、迂回パターンデータベースDB6を有する。迂回パターンデータベースDB6には、乗換可能駅データテーブルTB6a、および迂回経路データテーブルTB6bが格納される。また、入出場履歴データベースDB3には、さらに入出場利用人数履歴データテーブルTB3Bが格納される。
図25は、迂回パターンデータベースDB6に格納される乗り換え可能駅データテーブルTB6Aの例を示した図である。乗り換え可能駅データテーブルTB6Aには、乗換対象駅91、乗換可能駅92、乗り換え時間93の各要素から構成されるデータが格納される。あるレコードにおける乗換対象駅91と乗換可能駅92の関係は、例えばある乗換対象駅Aの周辺には、乗換可能な駅が最大N個存在し、その駅はD駅からG駅であることを表している。また、乗り換え時間93は、乗換対象駅から乗換可能駅までの乗り換え所要時間を表している。
図26は、迂回パターンデータベースDB6に格納される経路データテーブルTB6Bの例を示した図である。経路データテーブルTB6Bには、出発駅94、到着駅95、経路96の各要素から構成されるデータが格納される。
出発駅94、到着駅95には、図25で示した乗り換え可能駅データテーブルTB6Aにおける乗換対象駅91に対応した駅名を格納する。経路96としては、経路1、経路2、・・・経路Nがあり、これらの項目には出発駅94、到着駅95に到達可能な経路の集合を格納する。経路96には、乗り換え可能駅データテーブルTB6Aにおける乗換可能駅92をそれぞれ出発駅、目的駅にした経路集合も含まれる。
経路データテーブルTB6Bの作成方法は、例えば以下の方法が考えられる。駅集合を鉄道ネットワークとして、出発駅94、到着駅95を始点および終点として、経路探索を実施することにより作成可能である。あるいは、入出場履歴データベースDB3に格納された入出場履歴データテーブルTB3における入出場履歴に基づいて、利用履歴のある入出場駅を経路情報として格納してもよい。
図27には、入出場履歴データベースDB3に格納される各入出場駅における日々の利用者数を記録した入出場利用人数履歴データテーブルTB3Bの例を示す図である。入出場利用人数履歴データテーブルTB3Bは、入場時刻111、入場駅112、出場駅113、利用人数114の各要素から構成される。入出場利用人数履歴データテーブルTB3Bは、入出場履歴データテーブルTB3を入出場駅単位で集計することにより作成される。
上記までに説明した乗換可能駅データテーブルTB6A、および迂回経路データテーブルTB6B、入出場利用人数履歴データテーブルTB3B、実施例2において説明した各機能、迂回人数計算部200、および迂回時間計算部201における処理にもとづいて、他の路線に迂回したことによる損失時間を加味して、損失を評価することができる。
以下、迂回人数計算部200および迂回損失時間計算部201の処理について説明する。図28は迂回人数計算部200の処理手順を示すフローチャートである。
図28ではまずステップS191において、実施例2における入場人数偏差判定部100において計算された、障害・事故発生時の入場人数と通常時の入場者との差が統計的に有意である時間が所定の時間帯以上存在する障害・事故発生路線上の駅、および時間帯情報を入力する。
ステップS192において、乗り換え可能駅データテーブルTB6Aを参照して、ステップS191において入力された障害・事故発生路線上の駅に対する乗り換え可能駅を検索する。
ステップS193において、乗り換え可能駅における障害・事故時入場者数と、通常時入場者との差が統計的に有意である時間が所定の時間帯以上存在するか否かを判定する。
もし所定の時間帯以上存在すると判定されれば、輸送障害・事故発生によって乗り換え可能駅に迂回した利用者が存在すると判定し、次のステップS194に進む。一方、もし所定の時間帯以上存在しないと判定されれば、ステップS192に戻り、当該障害・事故発生路線上の駅に対するその他の乗り換え可能駅に対して処理を繰り返す。
ステップS194において、入出場利用人数履歴データテーブルTB3B、および迂回経路データテーブルTB6Bを参照して、迂回経路における利用者数を集計する。
ステップS195において、処理対象とするすべての乗り換え可能駅において、ステップS193からS194までの処理を行ったか否かを判定する。そしてもし処理が終了していればステップS196に進む。入場人数の差を出力して処理を終了する。一方もし計算が終了していない入場駅があれば、ステップS192に戻って、他の乗り換え可能駅に対して処理を継続する。
ステップS196において、処理対象とするすべての障害・事故発生路線上の駅において、ステップS192からS195までの処理を行ったか否かを判定する。そしてもし処理が終了していれば、ステップS197に進み、乗り換え対象駅、乗り換え可能駅、時間帯、入場人数の差の情報を出力して処理を終了する。一方もし計算が終了していない入場駅があれば、ステップS191に戻って、他の乗り換え対象駅に対して処理を継続する。
図29に、図28で示した迂回人数計算部200の処理手順のうち、ステップS191およびステップS193における処理手順を説明した図を示す。
同図において、A駅はステップS191で入力された障害・事故発生路線上のある乗換対象駅、D駅およびG駅はA駅の乗り換え可能駅である。グラフA,D,Gは、それぞれA駅およびD駅、G駅における、通常時の入場人数の時間変化(点線)、障害・事故発生時の入場人数の時間変化(実線)、およびその差を示している。
ステップS193における動作は、乗換駅D,Gにおける障害・事故時入場者数と、通常時入場者との差2907,2908が統計的に有意である時間が所定の時間帯以上存在するか否かを判定する処理である。
図30は迂回損失時間計算部201の処理手順を示すフローチャートである。
ステップS201において、迂回人数計算部200から出力される、各乗り換え対象駅、乗り換え可能駅と所定の時間帯情報、標準パターンデータベースDB4に格納された標準パターンデータテーブルTB4、所要時間計算部14で計算された処理結果(図8の80)情報を参照して、障害・事故発生時の迂回経路を利用した所要時間と、通常時の経路を利用した所要時間との差を計算する。障害・事故発生時の迂回経路を利用した所要時間は、乗り換え可能駅から目的地までの所要時間である。また通常時の経路を利用した所要時間は、乗り換え対象駅から目的地までの所要時間である。
ステップS202において、入出場履歴データベースDB3に格納された情報を参照して、障害・事故発生時の迂回経路を利用した人数と、通常時迂回経路を利用する人数との差を計算する。
ステップS203において、乗り換え可能駅データテーブルTB6Aに格納された乗換対象駅から乗換可能駅までの乗換時間を加味して、損失時間を計算する。具体的には、以下の(4)式により計算する。
[数4]
損失時間=(所要時間差+乗換時間)×(障害・事故時と通常時の迂回経路利用人数の差) (4)
ステップS204において、損失時間および人数差を出力して、処理を終了する。
迂回損失時間計算部201において計算された損失時間は、損失評価部16に入力される。そして実施例2において説明した損失時間および影響人数に加算される。表示部18における表示は実施例1、および実施例2の場合と同等である。あるいは迂回による損失値のみを実施例1で示した方法によって表示してもよい。
以上、図面を用いて本発明について説明をしてきたが、本発明の手法はいわば、「個体が運行施設内に入場し、退出する時間と場所を記憶し、運行正常時と運行異常時の場所間移動に要した時間差を時間帯ごとに求め、運行異常発生による時間帯ごとの時間差について個体ごとの総和を遅延損失として時系列的に求める」ものということができる。
ここで、運行施設とは鉄道設備であり、個体は駅構内に入場し退出する乗客である。あるいは、運行施設は高速道路であり、個体はランプあるいはインターチェンジから入場し退出する車両である。本発明は、いずれの場合にも適宜適用することが可能である。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。