JP5930289B2 - 新規微生物及びこれを用いるポリ塩化ビフェニルの分解方法 - Google Patents
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このようなPCB廃棄物の分解方法としては、従来から、焼却方法以外に、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、水素供与物質による還元熱化学分解法、紫外線照射法等による光分解法が知られている。これらのうち、紫外線分解法は、PCBを極性有機溶媒中に溶かして紫外線を照射することにより脱塩素化し、残留するPCBを生物処理又は触媒処理等によって無害化するものであり、常温、常圧処理できるため安全性が高いという利点がある。
本発明の微生物の種類としては、ゲノム上にビフェニル分解(以下、PCB分解ともいう)酵素群の遺伝子を有し、生育速度の速い微生物であればよく、このような微生物は通常ビフェニルを単一の炭素源として生育し得る微生物からのスクリーニングを繰り返し行うことにより見出される。生育したビフェニル資化菌(群)の中から、生育速度の速い菌株を単離し、16SrDNA解析及びアピキット等を用いる細菌同定検査により、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)であることを同定した。
さらに本発明の微生物は、後述する遺伝子解析の結果、従来から報告されているコマモナス・テストステロニTK102株が有するビフェニル分解酵素群とは異なる酵素群をコードする新規な微生物であることが分かった。天然にビフェニル分解酵素を産生する微生物としては、シュードモナス属、コマモナス属、ブルクホルデリア属、スフィンゴモナス属、ロドコッカス属、ラルストニア属等に属する多くの細菌があるが、ビフェニル資化性菌のスクリーニング段階でビフェニル分解活性が高くかつ生育速度が速い微生物を選択することは、先に挙げた微生物間においてbphオペロン配列の組換えを起こし得たPCB分解活性に優れる新規な微生物の取得が期待できる。
本発明に係る新規なコマモナス属に属する微生物が有するビフェニル分解酵素群は、例えば、配列番号1に示す塩基配列又はこれと90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ得る。ここで、配列番号1に示す塩基配列は、微生物由来のbphオペロンを含む11279塩基対からなり、少なくとも、2−ヒドロキシペンタ−2,4―ジエノエートヒドラターゼ(BphE;配列番号2)、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(BphG;配列番号3)、4−ヒドロキシ−2−オキソバレレートアルドラーゼ(BphF;配列番号4)、推定膜タンパク質(BphX;配列番号5)、ビフェニルジオキシゲナーゼαサブユニット(BphA1;配列番号6)、ビフェニルジオキシゲナーゼβサブユニット(BphA2;配列番号7)、ビフェニルジオキシゲナーゼフェレドキシンサブユニット(BphA3;配列番号8)、シス−2,3−ジオールデヒドロゲナーゼ(BphB;配列番号9)、ジヒドロキシビフェニルジオキシゲナーゼ(BphC;配列番号10)及び2−ヒドロキシ−6−オキソ−6−フェニルヘキサ−2,4−ジエン酸ヒドロラーゼ(BphD;配列番号11)の10個の酵素タンパク質をコードする。
また、前記相同体は、配列番号2〜11に示されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上のホモロジーを有するタンパク質であってもよい。ちなみに上記ビフェニル分解酵素群の各タンパク質についてのホモロジー検索は、例えば、GenBankやDNA Databank of JAPAN(DDBJ)を対象に、FASTAやBLASTなどのプログラムを用いて行うことができる。配列番号2〜11に記載のそれぞれのアミノ酸配列を用いて、GenBankを対象にBLAST programによりホモロジー検索を行った結果、配列番号2〜11の配列は、従来から公知のコマモナス・テストステロニTK102株のビフェニル分解酵素群とは約90%の相同性しか有さないことが分かった(下記表1参照)。
本発明は、これらの類縁菌の中から見出された新規な微生物が、本発明のPCB分解方法に用いる上で極めて有用な性質を有するという事実に基づくものであり、以下に、その培養方法及びPCB分解方法への使用について詳細に説明する。
最初に、高いポリ塩化ビフェニル分解活性を有する細菌コマモナス・テストステロニYU14-111の培養法について述べる。培地は非特許文献4を参考にpHが6.8〜7.0までとなるように調整した合成培地が良く、さらにビフェニルを炭素源として0.05〜0.1%(w/v)まで加えたものが望ましい。さらにビフェニルは、あらかじめジメチルスルホキシドにて溶解したものを加えても良い。本培養に至る前に3段階の前培養を行う事が、細菌を適切に生育する上で望ましい。手順は、培地量の10倍以上の容積の試験管などに前に述べたビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地を2〜3mlまで入れ、15〜18%(w/w)までに調整したグリセロールへ菌体量としてOD660=0.1〜0.8までとなるように−80℃以上で凍結保存したコマモナス・テストステロニYU14-111株をできるだけ速やかに解凍したものを播種し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養し、次に培地量で5倍以上の容積のフラスコなどに入れた同じくビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地27〜30mlまでにその全量を投入し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養し、さらに培地量の5倍以上の容積のフラスコなどにビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地270〜300mlまでに全量を投入し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養する。本培養は温度と空気または酸素の曝気を制御でき、さらに撹拌翼を装備しその翼形状はタービン型でも良く、回転数も制御できるファーメンターなどの自動培養装置を用いるのが望ましい。前培養と同じく合成培地2.7〜3Lまでに対し、ビフェニルを0.02〜0.05%(w/v)までとなるように加えて、そこへ前培養した培養液全量を投入する。撹拌翼の回転数は400〜600rpmまでとし、空気の場合は4〜5L/minまでとし、温度は30〜35℃までとなるように調節する。培養液中の酸素濃度を高めるために排圧ユニットを用いるとなお良い。その場合は排圧を0.005〜0.01MPaまでとなるよう調節すると良い。細菌の生育と共に炭素源であるビフェニルが消費されるが、さらにビフェニルを0.02〜0.05%(w/v)までとなるように継続的に加えていくことが望ましく、さらにビフェニルはあらかじめジメチルスルホキシドにて溶解したものを加えても良く、最終的により高塩素化されたポリ塩化ビフェニルの分解活性を獲得した細菌が得られる。培養中の培養液のpHは細菌の最終収量に影響を与えるため、その範囲は7.0〜9.0までとするのが望ましく、pHの調整にはアンモニウム塩を0.02%〜0.05%(w/v)までとなるように断続的に加えるのが良く、硫酸アンモニウムでも良い。また硫酸アンモニウムの選択は、培養中に消費する窒素源を補充する上でも望ましい。最終の培養液のOD660=2.5〜3.0までで、湿重量が15〜20gまでの高活性なポリ塩化ビフェニル分解細菌であるコマモナス・テストステロニYU14-111が得られる。
本発明のポリ塩化ビフェニルの分解方法は、上記微生物を培養して得られた菌体を含む生物製剤とポリ塩化ビフェニルとを接触させることを特徴とする。本発明の好ましい実施形態では、このようにして得られた生物製剤を、比較的低濃度のポリ塩化ビフェニル汚染油と接触させたときに高いPCB分解活性を発揮することができる。
スクリーニングに使用した合成培地(W培地)は、非特許文献4の記載を参考として、以下のような組成とした。
その結果、液体培養にてビフェニル資化性の確認された菌は、プレート上で約0.5mmの白色のコロニーを形成した。マスタープレートから再度シングルコロニーとして単離した微生物のビフェニル資化性を確認するとともに、16SrDNA解析を行った結果、コマモナス・テストステロニの16SrDNA配列と100%一致した。このようにして単離された菌をYU14-111株と命名し、グリセロールストックを作製した。
なお、このようにして得られた菌株の生化学的性質をアピ同定キット アピ20NE(シスメックス・ビオメリュー株式会社製)を用いて調べた結果、以下のようなデータが得られ、この結果からもコマモナス・テストステロニであることが確認された。
ビフェニル資化菌におけるビフェニル/PCB分解については、既知の分解細菌において、酸素分子をPCBの塩素置換の少ない2,3−位に導入後、環開裂、加水分解を経て、塩化安息香酸へと分解する経路が知られている。
既知のPCB分解細菌のBphA1(ビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼαサブユニット)のアミノ酸配列の比較から、保存性の高い領域を数カ所選び(Lys-Val-Phe-Lue-Asn-Gln-Cys(配列番号14)、Gln-Phe-Cys-Ser-Asp-Met-Tyr(配列番号15)、 Glu-Gln-Asp-Asp-Gly-Glu-Asn(配列番号16)など)、degenerateプライマーを作製した。YU14-111株を、OD660=0.6〜1.0まで培養した培養液0.1〜1.2 mlから遠心集菌した菌体を、適当量のTE緩衝液(10 mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0)に懸濁し、80〜100℃で15〜20分間加熱後、遠心した上清をYU14-111株の熱抽出物として使用した。これを鋳型とし、作製したdegenerateプライマーを用いて、94℃、3分→[94℃、30秒→52℃、30秒→68℃、1分(30サイクル)]→68℃、3分、の反応条件でPCRを行い、増幅されたDNA断片を、アガロースゲルより抽出・回収した。DNAの抽出・回収および精製は、ヨウ化ナトリウムまたは類似の塩によりアガロースを溶解し、DNAをシリカゲル膜に吸着させる方法にて行った。精製したDNA断片の塩基配列は、ダイデオキシ法により決定し、YU14-111株のBphA1遺伝子(bphA1)の一部をコードしていることを確認した。
Primer bphA-inv Fw: 5’-GCCCCAATGAGGTGGAAGTG-3’(配列番号12)
Primer bphA-inv Rv: 5’-GCACATTGACCAGGTTACCG-3’(配列番号13)
ポリ塩化ビフェニル分解細菌(製剤)の調製は、−20〜−80℃で凍結保存した菌体を2回洗浄した後、20mMりん酸塩緩衝液で再懸濁することでポリ塩化ビフェニル分解細菌溶液を調製した。
次に、ポリ塩化ビフェニル分解反応を、材質が全てガラスか少なくとも容器の内面がガラスライナーとなった反応容器にて、前述のポリ塩化ビフェニル分解細菌溶液をOD660=60となるようこれへ投入し、さらにポリ塩化ビフェニルに対する細菌溶液を分散させるため界面活性剤であるTriton X-100を0.005%となるよう加え、100mg/LのカネクロールKC−300を反応液全量は500μlとなるように投入した。反応は50rpmで転倒撹拌し、反応温度は30℃にて全体の温度が均一となるようにして行った。
ポリ塩化ビフェニル分解細菌(製剤)の調製は、実施例3と同様に行った。
次に、ポリ塩化ビフェニル分解反応を、材質が全てガラスか少なくとも容器の内面がガラスライナーとなった反応容器にて、前述のポリ塩化ビフェニル分解細菌溶液をOD660=10となるようこれへ投入し、5mg/LのカネクロールKC−300を反応液全量が0.5〜1mlとなるように投入した。反応は50rpmで転倒撹拌し、反応温度は30℃にて全体の温度が均一となるようにして行った。
実施例3及び4と同様の方法により、カネクロールKC−300等の商用PCBを用いて本発明の菌株のPCB異性体分解特性を調べた結果を以下の表6に示す。表6において、分解率表示欄の100mg/lは、高濃度PCB分解反応において、細菌溶液をOD660=60となるように投入し、48時間転倒攪拌した後の結果であり、5mg/lは、低濃度PCB分解反応において、細菌溶液をOD660=10となるように投入し、16時間転倒攪拌した後の結果である。
Claims (5)
- 配列番号2〜11に示す各アミノ酸配列と95%以上の相同性を有するそれぞれのアミノ酸配列からなるビフェニル分解酵素群をコードするDNAを含み、ポリ塩化ビフェニル分解活性を有することを特徴とする、コマモナス属に属する微生物。
- 前記DNAが、配列番号1に示す塩基配列又はこれと90%以上の相同性を有する塩基配列からなる請求項1に記載の微生物。
- 前記微生物が、受託番号NITE P-1215として寄託されているコマモナス・テストステロニYU14-111株である請求項1又は2に記載の微生物。
- 請求項1〜3いずれか一項に記載の微生物を培養して得られた菌体を含む生物製剤とポリ塩化ビフェニルとを接触させることを特徴とするポリ塩化ビフェニルの分解方法。
- 前記生物製剤は、請求項1〜3いずれか一項に記載の微生物を培養して得られた菌体の凍結融解物であるか、又は当該菌体と賦形剤とを含む凍結乾燥物である請求項4に記載のポリ塩化ビフェニルの分解方法。
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