JP2016042827A - ポリ塩化ビフェニル類分解用微生物触媒及びその組み合わせ - Google Patents

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Abstract

【課題】保存安定性に優れるとともに、散布後の環境拡散、生態系へ与える影響が少なく、とりわけ環境から新しく未知な能力を獲得することのない、新規な微生物触媒を提供する。
【解決手段】芳香族化合物の分解反応に関わる一群の酵素を過剰発現させた微生物菌体に、賦形剤を添加し、噴霧乾燥してなる乾燥菌体を含む微生物触媒。
【選択図】図1

Description

本発明は、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)分解用微生物触媒及びそれを組み合わせてなる複合微生物触媒に関する。
ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)は、ビフェニルの1個以上の水素原子を塩素原子で置換した化合物の総称をいう。置換塩素の数及び位置によって多くの異性体が存在するが、理論上209種類に別れることが知られている。PCBsは化学的性状が極めて安定で、絶縁性や不燃性、高脂溶性、可塑性等に優れるため、電気製品や熱媒体、絶縁油、可塑剤、塗料及びノンカーボン紙の溶剤など、非常に多岐にわたる製品分野に使用されてきた。しかしながら、生体に対する毒性が高く、臓器や脂肪組織に蓄積しやすく、発癌性があり、それに伴い皮膚障害や内臓障害、ホルモン異常なども引き起こすことから、現在ではその使用が国内のみならず国際的にも禁止されている。
国内でこれまでに輸入・製造販売されたPCBsは、およそ55,000トンと推定される。その使用が禁止された上、使用者に対する保管が義務付けられた後、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法等により、所定の期限までに無害化する計画が立てられている。近年、電気機器中の絶縁油に、1kg当たり数十mg程度という微量のPCBsが検出されるものが大量に存在することが明らかとなったが、この微量PCBs汚染油については、使用あるいは保管に関する正確な数量は把握できていない。PCBsの分解方法としては、従来からの焼却法に加えて、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、水素供与物質による還元熱化学分解法、紫外線照射法等による光分解法等が知られている。これらのうち、紫外線分解法は、PCBsを極性有機溶媒中に溶かして紫外線を照射することにより脱塩素化し、続いて残留するPCBsを生物処理又は触媒処理等によって無害化するものであり、常温、常圧処理できるため安全性が高く、毒性を有するPCBsを、生命体である微生物が異化することでその分解物の安全性が高いと想定され、化学処理等に較べて利点があると考えられる。
PCBsを分解する菌として、これまでに報告されている微生物は、シュードモナス属細菌(Pseudomonas sp.)KF707株(非特許文献1)、コマモナス・テストステロニ(Comamonastestosteroni)TK102株(非特許文献2)及びバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)LB400株(非特許文献3)などがある。これらの微生物は、ビフェニルジオキシゲナーゼ(BphA酵素)をはじめとする一連のビフェニル分解に関与する酵素群を発現し、その生化学的、遺伝学的な解析が精力的に行われた。
しかしながら、これらのPCBs分解菌を別々に培養し、個々のポリ塩化ビフェニル異性体に対する分解特性を詳細に検討することにより、PCBs分解に最適な組み合わせの複数の微生物を配合した複合微生物製剤は知られていない。
さらに、遺伝子組換え生物の使用による生物多様性への悪影響を防止することを目的とした「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(カルタヘナ議定書)」による規制では、カルタヘナ第一種において、例えば、環境修復技術や金属回収・固定化技術、生物農薬などの分野で、その官庁などからの利用承認アセスメントを、カルタヘナ第二種では、例えば、試薬や工業用原料生産のために遺伝子組換え生物などの拡散防止処置を講ずることが必要とされている。したがって、遺伝子組み換え技術によりPCB分解に係る一群の酵素を組み込んだ微生物を産業上利用する場合は、これらの規制に適合しなければならない。
末永光他、微生物によるポリ塩化ビフェニル(PCB)の分解:最近の遺伝生化学的研究、Journal of Environmental Biotechnology, Vol.2, No.1, 1-12, 2002 Shimura M. et al, Journal of Fermentation and Bioengineering , Vol. 81, No. 6, pp.573-576, 1996. Bopp, LH, J. Ind. Microbiol. 53: 23-29, 1986
本発明は、保存安定性に優れるとともに、散布後の環境拡散、生態系へ与える影響が少なく、とりわけ環境から新しく未知な能力を獲得することのない、新規な微生物触媒を提供することを課題とする。
また、このような微生物触媒を用いて、PCB汚染油などに含まれる比較的低濃度のポリ塩化ビフェニル類を効率的にしかも基準値(0.5mg/kg以下)以下の残存濃度まで分解、無毒化することを目的とする。
芳香族化合物の分解反応に関わる一群の複合酵素を発現する微生物菌体に、賦形剤を添加して噴霧乾燥したところ、凍結保存菌体に比べて大きく活性低下することなく乾燥菌体を得ることができた。得られた乾燥菌体は保存安定性に優れ、これを用いて効率よくPCBsを分解、無毒化しうることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の態様を含む。
[1]芳香族化合物の(酸化的)分解反応に関わる一群の酵素を過剰発現させた嫌気性ならびに好気性を示す全ての微生物菌体に、賦形剤を添加し、噴霧乾燥してなる乾燥菌体を含む微生物触媒。
[2]前記乾燥菌体が、核酸を転移し又は複製する能力を不活化した死細菌細胞からなる[1]に記載の微生物触媒。
[3]前記賦形剤が、乳糖、スキムミルク、トレハロース、ショ糖、マルトデキストリン、酵母エキス及びアラビアガムからなる群より選択される[1]又は[2]に記載の微生物触媒。
[4]前記酵素が、芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを含む[1]〜[3]のいずれかに記載の微生物触媒。
[5]前記芳香環水酸化ジオキシゲナーゼが、ビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ若しくはビフェニル−3,4−ジオキシゲナーゼ又はこれらの混合物を含む[1]〜[4]のいずれかに記載の微生物触媒。
[6]リン酸緩衝液に再懸濁した時に、生細胞と同様の細胞形態に分散しうる[1]〜[5]のいずれかに記載の微生物触媒。
[7]基質特異性の異なる複数の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼのそれぞれを過剰発現させた[1]〜[6]のいずれかに記載の複数の微生物触媒を組み合わせてなる、ポリ塩化ビフェニル類分解用組成物。
本発明に係る微生物触媒は、生物多様性の保全から使用が困難であった微生物、例えば、産業上有用な微生物にもかかわらず、核酸を転移し又は複製する能力を有する細胞に該当したり、あるいは遺伝子組換え生物であったりして、その利用ができなかった微生物の利用を可能にすることを特徴とする。
これにより、生物多様性の保全に影響を及ぼすと懸念される遺伝子組換え生物を含む細胞生物の利用が簡便となり、したがって、世界における有用微生物の開放系での利用範囲も大きく拡がるであろうことから、産業の活性化が期待できるものである。
異なる賦形剤を用いて作製した微生物触媒の酵素活性の評価結果(n=3)である。 DLS法による微生物触媒の粒子サイズとサイズ分布を表わす。 凍結保存した生菌体(コントロール)の電顕像である。 乾燥した微生物触媒の電顕像である。 リン酸塩緩衝液に再懸濁した微生物触媒の電顕像である。
本発明の微生物触媒は、産業上有用となる微生物種において、必要とする単独の酵素や、代謝に関わる一連の酵素群を、あらかじめ強発現させた上で、細胞保護作用のある賦形剤、例えば、糖質類などを加えて希釈増量し、スプレードライヤーなどで強制乾燥させることで、微生物としては死滅している(すなわちカルタヘナ法での生物の定義として、核酸を転移し、または複製する能力を有しない生体由来物質となる)が、その細胞の形態や構造を維持させることで、細胞内あるいは細胞表面に存在する酵素活性を維持させる性質や、基質となる物質の細胞膜透過性を保存していることを特徴とする。
(芳香族化合物分解酵素)
本発明の微生物触媒に使用しうる芳香族化合物分解酵素は、芳香族化合物を含む汚染物質を分解しうる酵素であれば特に限定されるものではなく、多種多様な汚染物質を分解するものとして多くの動物又は微生物由来の酵素を用いることができる。これらの中でも、特に、芳香環水酸化ジオキシゲナーゼ、又はRieske non-heme iron oxygenaseと称される一群の酵素が好ましく、これらは多くの芳香族化合物分解経路での最初の反応であるシス型二水酸化反応を触媒する。トルエンやナフタレンに加えてベンゼン、クメン、フェナントレン、ピレン等の単環・多環の芳香族炭化水素に限らず、ダイオキシン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール等のヘテロ環式芳香族化合物、PCB等のビフェニル環化合物等の種々の芳香族化合物の好気的代謝経路において、これらの酵素は初発酸化酵素として一連の分解反応の進行の有無を左右する重要な役割を果たしている。芳香環水酸化ジオキシゲナーゼは、基質を認識し酸化反応を行う酸化酵素(TO:terminal oxygenase)と、電子をNAD(P)HからTOに伝える電子伝達系から構成される多成分酵素である。電子伝達系は、NAD(P)Hから電子を受け取るレダクターゼ(Red)単独で構成される場合と、Redとフェレドキシン(Fdx)の二つで構成される場合がある。
微生物は、芳香族化合物への暴露とそれへの適応、進化を通じて多種多様の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを生み出してきたと考えられ、現在では、数十種以上の化合物の分解酵素として200以上の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼが単離されている。電子伝達鎖の特徴による芳香環水酸化ジオキシゲナーゼの分類、及び酸化酵素触媒サブユニットのアミノ酸配列アライメントに基づく各酵素の分子系統樹による分類等は、「野尻秀昭他3名、蛋白質核酸酵素Vol.50, No.12, (2005) pp.1519-1526」に記載されており、その全内容は参照により本願に組み込まれるものとする。
好ましい実施形態において、本発明の微生物触媒は、上記芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを菌体内に発現した微生物触媒であり、二水酸化反応によって生じた中間体生成物をさらに分解して最終的にはアセチルCoAやピルビン酸等のエネルギー物質にまで変換しうるその他の代謝酵素を含む。例えば、ビフェニル分解に関与する一連の酵素群を挙げれば、芳香環水酸化ジオキシゲナーゼとしてのビフェニルジオキシゲナーゼ(BphA酵素)の他に、BphAの産物から2つの水素を除くジヒドロジオールジヒドロゲナーゼ(BphB酵素)、BphB産物に酸素1分子が付加してHOPDAを生成する2,3−ジヒドロキシビフェニルジオキシゲナーゼ(BphC酵素)、ついで、HOPDAを安息香酸と2−ヒドロキシペンタ−2,4−ジエノエートとに分解する2−ヒドロキシル−6−オキソ−6−フェニルヘキサ−2,4−ジエン酸ヒドロラーゼ(BphD酵素)、そして、アセチルCoAとピルビン酸に転換する2−ヒドロキシペンタ−2,4−ジエノエートヒドラターゼ(BphE酵素)、4−ヒドロキシ−2−オキソバレレートアルドラーゼ(BphF酵素)及びアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(BphG酵素)等を含む。
このような芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを有する微生物は、自然環境中から対象とする芳香族化合物又はそれと構造の類似する化合物を培地に添加して、当業者に既知の方法によりスクリーニングすることができる。例えば、PCBs分解菌は、ビフェニルを単一の炭素源として生育し得る微生物からのスクリーニングを繰り返し行うことにより見出される。天然にビフェニル分解酵素を産生する微生物としては、シュードモナス属、コマモナス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、ロドコッカス属、ラルストニア属等に属する多くの細菌があるが、ビフェニル資化性菌のスクリーニング段階でビフェニル分解活性の一つの指標となる黄橙色を示すメタ開裂物質(例えば、2−hydroxy−6−oxo−6−phenylhexa−2,4−dienote)を速やかに生産し、且つ生育速度が速い微生物を選択することで、PCB分解活性に優れる微生物の取得が期待できる。
さらに、スクリーニングにより得られた微生物から当該物質の分解に関与する酵素遺伝子、例えば、ビフェニル分解酵素遺伝子をクローン化し、これらに部位特異的突然変異誘発法等によって変異を導入することで、さらにPCB分解活性の向上した遺伝子群を作製することができる。なお遺伝子に変異を導入する方法には、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えば、エラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャフリングやカセットPCR等の分子進化工学的手法は、例えば、Kurtzman,A. L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A., Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001等に記載されている。これらの手法によって作製された突然変異遺伝子を、もとの微生物のゲノムDNAと置換するか、プラスミドDNAやコスミドDNAにクローン化して宿主微生物に導入し、新規な微生物を作製することも可能である。本発明の方法に使用しうる酸素添加酵素、好ましくは芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを産生する微生物は、このような方法により、当業者であれば容易に入手しうると考えられる。
本発明の微生物触媒は、基質特異性の異なる2種以上の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを発現する微生物を組み合わせることが好ましい。好気性微生物におけるPCBs分解系の最初の酵素であるビフェニルジオキシゲナーゼ(BphA)について、基質特異性の異なる少なくとも2種類を組み合わせることがより好ましい。BphAは4つのサブユニット(BphA1、BphA2、BphA3及びBphA4)から構成されており、そのうちの大サブユニット(BphA1)が二原子酸素添加反応の基質特異性に関与していることが判っている。したがって、本発明の好ましい実施形態では、少なくともBphA1の化学構造が異なり、それによってPCBsに対する基質特異性も異なった少なくとも2種類のビフェニルジオキシゲナーゼ(BphA)を組み合わせて用いることができる。
本発明において、前記少なくとも2種類のビフェニルジオキシゲナーゼは、少なくとも1種のポリ塩化ビフェニルに対して、ビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ活性及び/又はビフェニル−3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有する。したがって、2種類のBphAを組み合わせる場合、1種類のBphAは、ポリ塩化ビフェニルに対するビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ活性を有し、他の1種類のBphAは、ビフェニル−3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有することが好ましい。これら2種類のBphAを含む限り、さらに別の基質特異性を有する酵素、例えば、ビフェニル−1,2−ジオキシゲナーゼ活性を有するBphAが存在してもよい。また、同じビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ活性であっても基質となるPCB異性体の種類によって異なる活性を有する複数の酵素を含有していてもよい。
ここで、「ビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ活性」とは、少なくとも1種類のポリ塩化ビフェニル異性体に対して当該ビフェニル環の2位と3位に二原子酸素添加反応を行うことができる酵素活性である。例えば、コマモナス・テストステロニYAZ2株由来のBphAは、2,4’,5−トリクロロビフェニルや2,4,4’−トリクロロビフェニルに対する2,3−ジオキシゲナーゼ活性を有することが分っている。一方、「ビフェニル−3,4−ジオキシゲナーゼ活性」とは、少なくとも1種類のポリ塩化ビフェニル異性体に対して当該ビフェニル環の3位と4位に二原子酸素添加反応を行うことができる酵素活性である。例えば、バークホルデリア属LB400株由来のビフェニルジオキシゲナーゼは、2,5,4’−トリクロロビフェニルや2,5,2’,5’−テトラクロロビフェニルに対して、2,5−ジクロルリングの3,4−位に酸素分子を導入することができる。
(微生物の培養法)
本発明の微生物触媒を作製する上で、主要な原料となる、上記ビフェニルジオキシゲナーゼをはじめとするビフェニル代謝経路で働く一連の酵素種を、自らの細胞内に強発現することができる微生物種について述べる。
ビフェニルを唯一の炭素源として、0.05〜0.1%(w/v)を含む液体あるいは固形培地を用いスクリーニングして(例えば、特開2013−179890号公報参照)その候補とした、シュードモナス属やコマモナス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、ロドコッカス属、ラルストニア属、アクロモバクター属、ステノトロフォモナス属などの細菌を用いる。これらの細菌種では、PCBsの分解に関連する酵素群が、細胞内で発現する。
あるいは遺伝子組換えにより、PCBsの分解に関連する酵素種を単独、あるいは複数、遺伝子組換え技術でもって作創した過剰発現細菌なども、本微生物種に含まれる。とりわけ、過剰発現細菌において発現したPCBs分解酵素種は極めて不安定であるため、本発明を用い、酵素を固定化することで、より安定した触媒として利用が可能になることから、極めて新しく、且つ有為な手段と考える。
次に、上記で示したPCBs分解酵素群を高発現する細菌体を、速やかに、高い回収率で得る培養法について述べる。
培地は、K. Kimbara et. al. Agric. Biol. Chem., 52 (11), 2885-2891, 1988. を参考に、pHが6.8〜7.0までとなるように調整した合成培地が良く、さらにビフェニルを炭素源として0.05〜0.1%(w/v)まで加えたものが望ましい。さらにビフェニルは、あらかじめジメチルスルホキシドにて溶解したものを加えても良い。本培養に至る前に3段階の前培養を行うことが、細菌を効率良く増殖させる上で望ましい。手順は、培地量の10倍以上の容積の試験管などに、前に述べたビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地を2〜3mLまで入れ、15〜18%(w/w)までに調整したグリセロールへ菌体量としてOD660=0.1〜0.8までとなるように、−80℃以下で凍結保存した細菌株を、できるだけ速やかに解凍したものを播種し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養し、次に培地量で5倍以上の容積のフラスコなどに入れた、同じくビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地27〜30mLに、その全量を投入し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養し、さらに培地量の5倍以上の容積のフラスコなどにビフェニルを0.05〜0.1%(w/v)まで加えた合成培地270〜300mLに、全量を投入し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、OD660=0.4〜0.8まで培養する。本培養は、温度と空気または酸素の曝気を制御でき、さらに撹拌翼を装備し、その翼形状はタービン型で良く、回転数も制御できるファーメンターなどの自動培養装置を用いるのが望ましい。前培養と同じく合成培地2.7〜3Lまでに対し、ビフェニルを0.02〜0.05%(w/v)までとなるように加えて、そこへ、前培養した培養液全量を投入する。撹拌翼の回転数は400〜600rpmまでとし、空気の場合は4〜5L/分までとし、温度は30〜35℃までとなるように調節する。培養液中の酸素濃度を高めるために排圧ユニットを用いるとなお良い。その場合は排圧を0.005〜0.01MPaまでとなるよう調節すると良い。細菌の生育と共に炭素源であるビフェニルが消費されるが、さらにビフェニルを0.02〜0.05%(w/v)までとなるよう、継続的に加えていくことが望ましく、さらにビフェニルは、あらかじめジメチルスルホキシドにて溶解したものを加えても良く、最終的に、より高塩素化されたPCBsの分解活性を獲得した細菌が得られる。培養中の培養液のpHは、細菌の最終収量に影響を与えるため、その範囲は7.0〜9.0までとするのが望ましく、pHの調整には、必要に応じて、アンモニウム塩を0.02%〜0.05%(w/v)までとなるように断続的に加えるのが良く、硫酸アンモニウムでも良い。また硫酸アンモニウムの添加は、培養中に窒素源も消費する場合において望ましい。最終の培養液のOD660=2.5〜3.0までで、湿重量が15〜20gまでの高活性なPCBs分解細菌が得られる。
さらに、遺伝子組換えで作創したPCBs過剰発現細菌株の培養法について述べる。
培地は、Luria Broth(1.0%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム)(以下、「LB培地」とする)、あるいはTerrific Brothを改変したイースト・エキストラクト2.4%とトリプトン1.2%を主成分とし(以下、「TB改変培地」とする)、リン酸水素二ナトリウム塩とリン酸二水素ナトリウム塩それぞれ70mMを、6対4の比率で配合した緩衝成分を含み、オートクレーブによる滅菌の後にpH6.8〜7.0で調整したものが望ましい。
本培養に至る前に、二段階の前培養を行う事が望ましく、培地量の10倍以上の容積の試験管などに、上記のいずれかの培地を2〜3mLまで、薬剤耐性遺伝子を含む組換え発現ベクターで形質転換した宿主細菌を培養する場合は、抗生物質を100μg/mLあるいは適量を加え、抗生物質の種類としては、アンピシリンやネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどを含み、15〜18%(w/w)までに調整したグリセロールへ、OD660=0.1〜0.9までとなるように−80℃以下で凍結保存した細菌株を速やかに解凍したものを播種し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、3〜5時間まで培養し、次にTB改変培地を300mLまでに、直ちにその全量を投入し、振盪回転を120rpm、温度を30〜35℃まで、7〜9時間まで培養する。
本培養は、羽根付きフラスコと恒温振盪培養機との組み合わせで行うことができ、温度と空気または酸素の曝気を制御でき、さらに撹拌翼を装備しその翼形状はタービン型でも良く、回転数も制御できるファーメンターなどの自動培養装置を用いるのが望ましい。培養装置を限定するものではないが、試作においては、エイブル株式会社製、微生物培養装置BMS−05NCを用いることができる。抗生物質の添加の有り無しなど、前培養と同条件に整えた2×YT培地あるいはTB改変培地2.7〜3Lまでに対し、そこへ前培養した培養液を全量投入する。この場合の菌液の濁度は、0.03〜0.08までとなるように調整するのが良く、0.05が望ましい。撹拌翼の回転数は400〜600rpmまでとし、空気の場合は4〜5L/分までとし、温度は30〜35℃までとなるように調節する。培養液中の酸素濃度を高めるために排圧ユニットを用いるとなお良い。その場合は排圧を0.005〜0.01MPaまでとなるよう調節すると良く、培養は6〜10時間まで行うのが良く、8時間が望ましい。誘導性プロモーターを含む組換え発現ベクターで形質転換した宿主細菌を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)などを、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)などを培地に添加することができる。培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主細胞に適した条件下で行われる。最終的に、湿重量1Lあたり9g以上の遺伝子組換え型PCBs分解細菌が得られる。
(賦形剤)
前述の方法で得られた細菌体は、重力あるいは遠心による回収時において、生理食塩水あるいは20mMのリン酸塩緩衝液で少なくとも2回洗浄することが望ましく、リン酸塩はリン酸ナトリウム及びリン酸カリウム塩を用いるのが良い。その後、菌体に対し細胞保護作用を示す賦形剤を添加する。例えば、乳糖やスキムミルク、トレハロース、ショ糖、マルトデキストリン、酵母エキス、アラビアガムなどの糖質を用い、菌体濃度5〜15%(w/v)までに対し1〜3%(w/v)まで加えると、最終的に−20〜−80℃までに温度制御された冷凍庫などで保存できる。とりわけ乳糖は、費用対効果や細胞保護作用の面で優れているので、これを用いることが望ましい。
(微生物菌体の乾燥方法)
得られた野生型、あるいは遺伝子組換え型を含むPCBs分解酵素群を高発現する細菌体の乾燥法、すなわち、発明品の最終形態となる触媒化法について述べる。
賦形剤とした糖質類と混合した湿菌体の乾燥は、凍結乾燥機やドラムドライヤー、スプレードライヤーを用いることができるが、スプレードライヤーが望ましい。発明を限定するものでないが、例えば、試作用としては、EYELA製SD−1000型を用いることができる。本機は、乾燥経路において、蒸発缶とサイクロンを備える。乾燥に重要な入口温度として、蒸発缶前の吸気管に温度センサーが取り付けてあり、また出口温度として、蒸発缶とサイクロンの間に温度センサーが取り付けてある。本乾燥工程においては、本機の入口温度を100〜120℃まで、出口温度を60〜70℃までの範囲で設定することが望ましい。その他に、ブロア風量は毎分0.75立米までとし、噴霧圧力は70〜90kPa、送液量は毎分5〜15mLまでとする。
賦形剤とした糖質、0.4〜0.6gまでと混合して凍結した菌体、あるいは培養後、糖質と混合して凍結せず用意した湿菌体を2〜3gまでを用い、最終液量22〜28mLまでに調製した試料を、上記に示す設定を施したスプレードライヤーなどが指定する試料容器に入れて、取り付ける。実際に乾燥作業に入る前に、蒸留水などを通液して、出口温度を適値へと調節してから行うことが望ましい。本乾燥工程から回収された乾燥菌体は0.2〜0.7gまでとなり、投入した原材料の重量に対する紛体の収率は32〜49%(w/w)までとなる。
他方で、菌体のみ、及び賦形剤を含む菌体原液両方を加温加熱、水分のみを蒸発させ、その残留固形分を秤量した結果から、原液固形分濃度(スラリー濃度)を導き出した結果、菌体のみで0.03g/mL、賦形剤とした糖質で、乳糖やスキムミルク、トレハロース、ショ糖、マルトデキストリン、酵母エキス、アラビアガムを含む菌体の全てで0.05g/mLだった。したがって、触媒中の菌体量は60%(w/w)であり、賦形剤とした糖質は40%(w/w)であることを特徴とする微生物触媒が完成する。
(ポリ塩化ビフェニルの分解反応)
本発明の微生物触媒を用いるPCBsの分解方法は、上記で乾燥した菌体を水性媒体に分散させたものとPCBsとを接触させることを特徴とする。本発明の好ましい実施形態では、このようにして得られた微生物触媒を、比較的低濃度のPCBs汚染油と接触させたときに高いPCBs分解活性を発揮することができる。
本発明で対象となるPCBsとしては、ビフェニル化合物に塩素原子が置換した化合物が含まれ、その置換塩素原子の数は1〜10個である。平均置換塩素原子数は、一般に2〜6個である。本発明では、これらのPCBsから選択された少なくとも一種を用いることができ、それぞれ単独で又は二種以上を任意に組み合わせたものも用いることができる。一般に、PCBsは単一化合物として存在せずに、塩素原子の数や置換位置が異なる配合物として存在する。従って、塩素原子の数及び置換位置の組み合せからして、理論上209種類の異性体が存在し、市販品には、およそ70から100、あるいはこれらを越える数の異性体が配合存在している。
本発明の分解あるいは無害化の方法で処理できるPCBsとしては、特徴的には、3,4,4’,5−テトラクロロビフェニルや3,3’,4,4’−テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5−ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’−ペンタクロロビフェニル、2,3,4,4’,5−ペンタクロロビフェニル、2,3’,4,4’,5−ペンタクロロビフェニル、2’,3,4,4’,5−ペンタクロロビフェニルに加えて、2,2’,4,4’−テトラクロロビフェニルや2,2’,4,5−テトラクロロビフェニル、2,2’,3,5’−テトラクロロビフェニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
PCBsは、通常PCB単体の配合物として市販されており、これがコンデンサーやトランスに使用されている。その具体例としては、鐘淵化学(株)が製造販売したカネクロールKC−200(2塩化ビフェニル)やKC−300(3塩化ビフェニル)、KC−400(4塩化ビフェニル)、KC−500(5塩化ビフェニル)、KC−600(6塩化ビフェニル)、KC−1000(KC500/トリクロルべンゼン=60/40(質量比)の配合物)や、三菱モンサント(株)が製造販売したアロクロール1254(54%Chlorine)等も挙げられる。
本発明の微生物触媒を用いるPCBsの分解反応は、PCBsを含む油性成分と、上記微生物触媒及び場合により界面活性剤を含む水性媒体と、を混合してエマルジョン化する工程と、前記エマルジョンを通気、攪拌する工程と、を含む。分解すべきPCBsは、エマルジョン全量に対し0.05〜1000mg/L、好ましくは1〜100mg/L程度含むことができ、当該エマルジョン中に、本発明の微生物触媒を0.2〜20重量%、好ましくは2〜12重量%程度添加することにより行うことができる。エマルジョン化しない場合は、トライトンX−100等の界面活性剤0.005%を加え、さらに必要な場合は超音波を加えて均質化させる。さらにエマルジョン化を促進するために、あらかじめPCBsを含む油の粘性を下げる処理(例えば、アルコール化等)を行っても良い。反応条件は、約20〜40℃、好ましくは25〜35℃、さらに好ましくは約30℃に調温し、pHは6〜9とし、攪拌した状態で約12〜72時間処理することができ24時間以内が好ましい。このような処理は、密閉式で攪拌でき、そこへ酸素マイクロバブルを供給できる反応装置を用いて行うことができ、すなわち小型の専用装置を用いて行うことが好ましい。ポリ塩化ビフェニル類分解反応装置が小型化できることにより、微量PCBsを保管するような貯蔵所でも直接処理作業を行うことができる(参考文献として特願2013−141383を参照できる)。
本発明の微生物触媒は、水性媒体と混合した際、元の微生物菌体粒子まですぐに分散して均一な分散液を形成することが、PCBsの分解反応を促進する上で好ましい。油性成分に溶解しているPCBsは、水性媒体と混合して形成されるエマルジョン中で、本発明の微生物触媒の細胞膜を透過し、あるいは細胞膜の近くで、一群のPCBs分解酵素と接触することでその分解反応が進むと考えられる。したがって、当該微生物触媒の分散性は、基質であるPCBsとの接触頻度を増加させる上で反応速度論的にも極めて重要な性質である。
さらに本発明の微生物触媒は、基質特異性の異なる複数の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを、それぞれ過剰発現させた複数の微生物触媒を組み合わせることが好ましい。上述したように、分解すべきPCBsは、その置換塩素原子の数と位置において極めて不均一な化合物集団であるから、それぞれの汚染油に含まれるPCBsの性状に合わせて、複数の微生物触媒の混合比率を調整し、最適なPCBs分解用組成物を調製しうることも本発明の1つの利点である。
以下に本発明の詳細について実施例等を挙げて説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 微生物触媒を用いた生存確認試験
本試験は、微生物触媒中に生存する細菌が存在しないことを確認する目的で行った。
本試験には、本発明である触媒化処理を施したビフェニルジオキシゲナーゼゼをはじめとするビフェニル分解酵素群を高発現するコマモナス属細菌種(ロット番号:YU130926SD−1)を用いた(以下、「本触媒」とする)。本触媒は、ビフェニルに対し特異的に反応し、反応においては黄色を呈することが判っている。
本触媒を無機液体培地に懸濁し、14mg/mL(菌濁度において、OD660=10.8、細菌細胞数にして約1×1010個/mLに相当)に調製した。無機液体培地は、表1を成分で構成されるものを用いた。
上記懸濁液10μL(約1×10個の細菌細胞を含む)を、0.1%ビフェニルを含む無機液体培地2mLに添加し、温度30℃、120rpmで、5日間振盪培養を行ったが、菌体の生育による顕著な濁度の上昇は確認されなかった。
また、無機培地を主成分とした固形培地が入った培養皿に、唯一の炭素源として、ビフェニルをその蓋に固定し、上記で調製した本触媒の懸濁液を無機培地で1×10−4倍に希釈した溶液40μL(約40,000個の細菌細胞を含む)を播種して、温度30℃で一定とした環境で、5日間の培養を試みた。一方、LB培地(1.0%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム)を1/5に希釈した栄養固形培地を用いて、上記同様の培養実験も試みた。その結果、両試験において、本触媒特有の、ビフェニル分解を示す黄色の呈色ならびに、菌コロニー形成・発育を認めなかった。
以上の結果から、本発明において作製した微生物触媒中に、生存菌体は含まれていないことが示された。
[実施例2] 異なった糖質で作製した微生物触媒の活性確認試験
本試験では、微生物触媒中の酵素活性の残存評価を目的に試験を行った。
本試験には、本発明である触媒化処理を、賦形剤とした糖質である、乳糖やスキムミルク、トレハロース、ショ糖、マルトデキストリン、酵母エキス、アラビアガムを用いて、それぞれ施したビフェニルジオキシゲナーゼをはじめとするビフェニル分解酵素群を高発現するコマモナス属細菌種(ロット番号:YU120917SD−1〜8)を用いた(以下、「本触媒」とする)。
微生物触媒液の調整は、乾燥した本触媒を、適量の20mMリン酸塩緩衝液で再懸濁することで試験溶液を調製した。
次に、試験反応溶液を、材質が全てガラスか少なくとも容器の内面がガラスライナーとなった反応容器にて、前述の試験溶液をOD660=10となるようこれへ投入し、基質としては、5mg/LのカネクロールKC−300を、反応液全量が500μLとなるように投入した。
反応は50rpmで転倒撹拌し、反応温度は30℃にて、全体の温度が均一となるよう、3時間または24時間行った。分解反応物後の、各反応溶液中の未分解のポリ塩化ビフェニルの残量とするガスクロマトグラフィー質量分析計(以下、GC/MSとする)(Agilent Technologies 7890A/5975C)で測定した結果を、以下の表2及び図1に示した。
GC/MSへ導入する試料の調製法については、文献(Miyauchi et al. JOUNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING Vol.105, No.6, 628−635. 2008)を参考に、あらかじめポリ塩化ビフェニルの分析ピークに重ならない物質を内部標準物質としたアントラセンと塩酸を添加したポリ塩化ビフェニル抽出反応液にその倍量の酢酸エチルを加えて、遠心分離を2,700〜6,400×gまでで10分間行い、有機相側の上清を回収した。遠心分離の際、有機相と水相の間にエマルジョンが解消されない場合は、少量のエタノールを添加すると良い。またポリ塩化ビフェニルの抽出効率を高めるために、この操作を2回繰り返した。抽出液を硫酸ナトリウムにて脱水後、適宜、酢酸エチルでGC/MSの感度に応じて希釈し、GC/MSへ注入して計測した。
以上の結果から、表2ならびに図1が示したように、本触媒の酵素活性の低下は、コントロールである凍結菌体と比較して、およそ20%〜30%までの範囲で抑えることができると示された。また、糖質の中でも、最も高い活性保存性を示したのがショ糖であったが、活性が高く再現性にも優れ、リン酸緩衝液への溶解性、対費用効果に優れるなど、産業利用上、乳糖が賦形剤としては最も優れていると考えられた。
[実施例3] 微生物触媒の粒子サイズとサイズ分布
微生物触媒の物理化学的特性を確認する目的で、乳糖を用いて微生物触媒化した試料の、粒子サイズとサイズ分布の確認を行った。
ドライスプレーでの乾燥工程において、糖質が細胞全体を均一に包み込みながら乾燥することで、複数の細胞が凝集することが懸念される。その結果、微生物触媒全体から見た、基質と細胞との接触面積が減少することから、触媒活性に大きな影響を及ぼすことが想定された。本試験では、微生物触媒が細胞ごとに均一に糖質で包含され乾燥し、反応時のリン酸塩緩衝液へ懸濁されても良く分散されているかを観察した。
本試験には、本発明である触媒化処理を施したビフェニルジオキシゲナーゼをはじめとするビフェニル分解酵素群を高発現するコマモナス属細菌種(ロット番号:YU130926SD−1)を用いた(以下、「本触媒」とする)。
試験懸濁液は、本触媒がOD660=0.1となるよう、適量の20mMリン酸塩緩衝液(pH=7.5)を用い、再懸濁して調製した。
試験懸濁液内の微生物触媒の粒子サイズとサイズ分布は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering法(以下、「DLS法」とする)を用いて調べた。測定機器は、Malvern社製、ゼータサイザーナノZSを使用した。本機器の設定パラメーターは、微生物細胞のReflective Indexを、1.37〜1.39までの範囲(Katz et al. JOUNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS Vol.9, No.2, 277−287. 2003)で、1.39が望ましく、蒸留水となる溶媒のReflective Indexを1.33、Viscosity of Sampleを1 Centipoise(CP)、Equilibrium Timeを120秒、Temperatureを25℃として、計測を行った。
上記の結果から、図2に示すように、本触媒の平均粒子サイズは904.2nmで、おおよそ一般的微生物細胞のサイズに近似であることが判った。
[実施例4] 微生物触媒の電顕像
微生物触媒の物理化学的特性を確認する目的で、乳糖を用いて微生物触媒化した試料の、細胞膜の形態や構造の保存性確認を行った。
走査型電子顕微鏡を用いて行った。分析機器はキーエンス株式会社製、VE−9800を用いた。
微生物細胞の固定法は、最初に、適量の微生物触媒を懸濁した溶液を1mL用意し、これをメンブレン膜(メルクミリポア社製、アイソポア0.2μm GTTP)で濾過して微生物細胞を固定する。次に、このメンブレン膜を2%グルタルアルデヒド溶液に1時間浸漬させた後、蒸留水で流洗し、50%〜90%まで10%毎、最後は98%の水エタノール溶液へ順次、30分間、浸漬して脱水を完了させる。微生物触媒が固定されたメンブレン膜は、100%エタノールで保存でき、あるいは脱水後速やかに、日本電子株式会社製のFine coat ion sputter JFC−1100を用いて金を蒸着させた後、検鏡することができる。
以上の結果から、図3ならびに図4、図5が示すように、最も酵素活性が高く凍結保存された菌体と同様に、乾燥状態の微生物触媒やリン酸塩緩衝液に再懸濁した微生物触媒も、微生物細胞全体の形態が良く保たれ、細胞膜の構造にも大きなダメージを受けていないことが示された。したがって、本発明によって作製された微生物触媒は、形態的や構造的から見た場合、細胞膜内外に適切に酵素を固定化できており、基質の細胞膜透過性を維持していることが、本試験から示唆された。

Claims (7)

  1. 芳香族化合物の分解反応に関わる一群の酵素を過剰発現させた微生物菌体に、賦形剤を添加し、噴霧乾燥してなる乾燥菌体を含む微生物触媒。
  2. 前記乾燥菌体が、核酸を転移し又は複製する能力を不活化した死細菌細胞からなる請求項1に記載の微生物触媒。
  3. 前記賦形剤が、乳糖、スキムミルク、トレハロース、ショ糖、マルトデキストリン、酵母エキス及びアラビアガムからなる群より選択される請求項1又は2に記載の微生物触媒。
  4. 前記酵素が、芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを含む請求項1〜3の何れか一項に記載の微生物触媒。
  5. 前記芳香環水酸化ジオキシゲナーゼが、ビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ若しくはビフェニル−3,4−ジオキシゲナーゼ又はこれらの混合物を含む請求項1〜4の何れか一項に記載の微生物触媒。
  6. リン酸緩衝液に再懸濁した時に、生細胞と同様の細胞形態に分散しうる1〜5の何れか一項に記載の微生物触媒。
  7. 基質特異性の異なる複数の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼのそれぞれを過剰発現させた請求項1〜6のいずれか一項に記載の複数の微生物触媒を組み合わせてなる、ポリ塩化ビフェニル類分解用組成物。
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