JP5923338B2 - トランジスタ素子 - Google Patents

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Description

本発明は、特に、優れた電流変調性を示すトランジスタ素子、さらに詳しくは、有機ELディスプレイなどの駆動に優れた、低電圧で大電流変調するオン/オフ比に優れたトランジスタ素子に関する。
近年、薄型テレビやノートパソコンの普及が進んでおり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなど、表示ディスプレイへの要求性能も高まりつつある。さらに、高機能携帯電話やタブレット型端末の普及につれ、表示ディスプレイの微細化、小型化、薄型化が、一層進みつつある。このようなディスプレイの素子の駆動には、電界効果トランジスタ(Field effect transistor:FET)が使用されている。現在、多くは無機材料であるシリコンを用いたFETが使用されているが、低コスト化、大面積化、フレキシブル化を目的として、有機トランジスタ素子を用いたディスプレイが報告されており、その実用化が期待されている。
しかし、その多くは、有機電界効果型トランジスタ(OFET)と液晶表示部または電気泳動セルとを組み合わせたものである。OFETは、その構造と移動度の低さにより、大電流を得ることは難しく、大電流を必要とする電流駆動デバイスである有機ELディスプレイの駆動素子に用いた例は、ほとんど報告されていない。そのため、有機ELディスプレイの駆動が可能であり、低電圧において大電流で動作する有機トランジスタ素子の開発が望まれている。
現在、OFETを用いて大電流を得るためには、トランジスタ素子のチャネル長を短くすることが必要であるが、チャネル長を数μm以下にすることは、大量生産を視野に入れたパターニング技術では難しい。この問題を解決するため、膜厚方向に電流を流すことにより、低電圧かつ大電流で動作可能な「縦型トランジスタ構造」が研究されている。一般に、縦型サンドイッチデバイスに用いられる素子の膜厚は数十nmから数百nmであり、しかもnmオーダー以下の膜厚の制御が高い精度で可能である。縦型トランジスタは、チャネルを膜厚方向(縦方向)にすることにより、1μm以下の短いチャネル長を容易に実現でき、大電流が得られる可能性がある。これまでに、このような縦型の有機トランジスタ素子としては、ポリアニリン膜の自己組織化ネットワーク構造をグリット電極として用いたポリマーグリッドトライオード構造縦型トランジスタや、また、微細なストライプ状の中間電極で空乏層幅を変調することによりソース・ドレイン間の電流をコントロールする静電誘導型トランジスタ(Static Induction Transistor:SIT)などが知られている。
また、有機半導体/金属/有機半導体の積層構造の作製により、高性能なトランジスタ特性を発現する縦型有機トランジスタ素子が提案されている(特許文献1)。この縦型トランジスタ素子は、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とストライプ状の中間金属電極とが設けられている。この有機トランジスタ素子では、エミッタ電極から注入された電子が中間金属電極を透過することにより、バイポーラトランジスタに似た電流変調が観測され、その中間金属電極がベース電極のように働くことから、メタルベース有機トランジスタ(Metal−Base Organic Transistor:以降MBOTと呼ぶ)と呼ばれている。
MBOTは、エミッタ電極とコレクタ電極に出力電圧を印加し、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加しない場合は電流がほとんど流れないが、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加するとエミッタ電極−コレクタ電極間に電流が流れる。このエミッタ電極−コレクタ電極間に流れる電流がコレクタ電流であり、ベース電極−コレクタ電極間に流れる電流がベース電流である。MBOTは、ベース電圧の印加により増加するベース電流に比べて、コレクタ電流が急激に増加することから、ベース電圧によるコレクタ電流の変調が可能な素子となる。エミッタ電極とコレクタ電極に電圧を印加し、エミッタ電極とベース電極間に電圧が印加されていない場合に流れてしまう「漏れ電流」がOFF電流であり、エミッタ電極とベース電極間に電圧を印加したときに流れる電流がON電流である。MBOTは、OFF電流はゼロに近く、大きなON電流が得られるトランジスタ素子である。
また、有機トランジスタ(MBOT)の構造として、透明ITO電極をコレクタ電極として、その上に有機半導体/金属/有機半導体を真空蒸着により積層することにより、簡単に作成できるMBOTが報告されている(特許文献2)。有機半導体としては、n型有機半導体材料であるジメチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(Me−PTCDI)とフラーレン(C60)が用いられており、電極材料としては、ベース電極としてAl、エミッタ電極としてAgが用いられている。このMBOTは、暗電流抑制層の導入、およびベース電極を加熱処理することにより、オン/オフ比(ON電流とOFF電流の比率)を向上させた大電流変調が可能なトランジスタ素子となる。このように、MBOTは、縦型トランジスタであるにもかかわらず、微細なグリッド電極、ストライプ電極の微細なパターニングを必要としない特徴がある。
また、有機トランジスタ素子(MBOT)として、エミッタ電極とコレクタ電極との間に有機半導体層とシート状のベース電極を有し、ベース電極とコレクタ電極の間にエネルギー障壁層、電荷透過促進層を有するMBOT(特許文献3)や、さらに、長鎖アルキル基を有するペリレンテトラカルボン酸ジイミドからなる有機半導体層をコレクタ電極側に設けてコレクタ層として利用したMBOT(特許文献4)が提案されており、加熱処理などすることなく、良好な電流変調特性やオン/オフ比を得ることが報告されている。さらに、エミッタ電極とベース電極との有機半導体層がダイオード構造であるMBOTが、良好な増幅性を有するトランジスタ素子として報告されている(特許文献5)。
また、縦型トランジスタとして、エミッタ電極とコレクタ電極との間に有機半導体層とシート状のベース電極を有し、エミッタ電極とベース電極間、コレクタ電極とベース電極間の両有機半導体層に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)/フラーレン(C60)からなるヘテロ接合有機半導体層を利用した透過性金属基板有機トランジスタが、両極性トランジスタとして報告されている(非特許文献1)。
また、縦型トランジスタとして、L字型状のエミッタ電極とコレクタ電極との間に有機半導体層と櫛形状のベース電極を有し、有機半導体層がBTQBT[ビス(1,2,5−チアジアゾロ)−p−キノビス(1,3−ジチオール)]からなる縦型トランジスタが、正孔輸送材料であるにもかかわらず大きな電流値とON/OFF比を示すことが報告されている(特許文献6)。
また、エミッタ電極とコレクタ電極との間に結晶性の高い有機半導体層を用いた有機トランジスタ素子(MBOT)についての提案があり(特許文献7)、該文献には、ベース電極と同程度の厚みの結晶サイズである有機半導体層を用いてトランジスタ素子とすることによって、電子輸送材料であるメチルペリレンを用いたMBOTが、エミッタ−コレクタ間に低電圧で、大きな電流値300mA/cm2と、高いON/OFF比の200を示すことが記載されている。
特開2003−101104号公報 特開2007−258308号公報 特開2009−272442号公報 特開2010−263144号公報 国際公開第2011/027915号パンフレット 特開2010−251472号公報 特開2010−135809号公報
J.Hung et al,Organic Electronics,10,210(2009)
しかしながら、ポリマーグリッドトライオード構造縦型トランジスタや、静電誘導型トランジスタ(SIT)は、中間電極を形成する難しさから、高性能化・大量生産は困難である。また、特許文献1、2に記載されている有機トランジスタ素子(MBOT)は、膜厚や構造によって、オフ電流が高くなることがあり、上記トランジスタは、有機半導体/金属/有機半導体の積層構造を作製すれば必ず電流変調作用が観測されるというものではない。したがって、安定した性能を発現し、大きな電流値、高い増幅率、高いオン/オフ比を得るためには、加熱処理によりベース電極表面に酸化層を設け、オフ電流の抑制層とする必要がある。また、上記特許文献3に記載されている有機トランジスタ素子(MBOT)は、ベース電極の下に絶縁体性である電流透過促進層を設けることによって、電極の加熱処理をすることなく、電流を増幅できるが、電子機器を作動させるに十分なほどの大きな電流値、大きな増幅率、大きなオン/オフ比を得ることは困難であり、正孔輸送性材料でのMBOTとしての安定した動作は困難である。
また、特許文献6に記載されている有機トランジスタ素子では、正孔輸送材料としてBTQBTにより有機半導体層を形成することにより電流変調を示すが、使用できる材料が限られており、その材料の合成も多段階であり大量の合成が困難であるとともに、素子の電極形状が櫛形やL字型であり複雑であることから、単純な製造プロセスによる安定した素子の大量生産は困難である。
また、特許文献7に記載されている有機トランジスタ素子では、結晶性の高い有機半導体層を用いることにより、大電流は成し遂げられるが、ON/OFF比は、暗電流抑制層を用いた場合でON/OFF比が250程度であり、未だ電子デバイスを駆動させることは困難である。また、正孔輸送材料の記載はあるが具体的な例としての記載はない。
非特許文献1では、両極性トランジスタ素子としての電流変調作用は示すことより、相補型論理回路などへの利用の可能性はあるが、電子機器を作動させるに十分なほどの大きな電流値、電流の増強を得ることは難しく、有機ELなどの駆動用素子として利用することは困難である。
したがって、本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、特に、単純な製造プロセスによって安定して提供することができ、大量生産をも可能にできる構造のものであって、エミッタ電極とコレクタ電極との間において、低電圧下で大きな電流変調作用とオン/オフ比に優れたトランジスタ素子(MBOT)の提供を可能にすることにある。
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、エミッタ電極とコレクタ電極との間にシート状のベース電極が配置され、かつ、該ベース電極の表裏それぞれの側にp型有機半導体層が設けられている積層構造をなすトランジスタ素子において、エミッタ電極とベース電極との間に少なくとも1層のp型有機半導体を含む有機半導体層が設けられ、かつ、ベース電極とコレクタ電極との間に、同一又は異なるp型半導体材料で形成された、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)がそれぞれに異なるp型有機半導体層からなる少なくとも2層の積層構造を有するコレクタ層が設けられていることを特徴とするトランジスタ素子を提供する。
本発明の好ましい形態としては、下記の事項が挙げられる。前記コレクタ層が、コレクタ電極側コレクタ層とベース電極側コレクタ層の2つの有機半導体層からなり、コレクタ電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)4.5から5.5eVにあるp型有機半導体層からなり、ベース電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)5.0〜6.0eVにあるp型有機半導体層からなり、かつ、コレクタ電極側コレクタ層よりもベース電極側コレクタ層のHOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)が大きいこと。p型有機半導体層の表面の粗さが、平均2乗粗さ(RMS)で5nm以下であること。コレクタ層を形成している複数のp型有機半導体層のうちのベース電極側に配置されている有機半導体層が、ジインデノペリレン、ジナフトチエノチオフェン、ニッケルフタロシアニンおよび、これらの誘導体を含んでなること。コレクタ層を形成しているp型有機半導体層のうちのコレクタ電極側に配置されている有機半導体層が、フタロシアニン、ジインデノペリレンおよび、これらの誘導体を含んでなること。エミッタ電極とベース電極との間に配置されているp型有機半導体層が、ペンタセン、フタロシアニンおよび、これらの誘導体を含んでなること。シート状ベース電極の表裏の一方の面或いは両方の面に積層された状態で、電流透過促進層がさらに設けられていること。電流透過促進層が、フッ化リチウムで形成されていること。電流透過促進層の膜圧が、0.1nmから100nmの厚みであること。前記エミッタ電極と前記ベース電極間に電圧(VB)を印加し、さらに前記エミッタ電極と前記コレクタ電極間に電圧(VC)を印加することで流れたコレクタ電流IC-ONと、エミッタ電極とベース電極間に電圧(VB)を印加せずに、前記エミッタ電極と前記コレクタ電極間に電圧(VC)を印加することにより流れるコレクタ電流IC-OFFとの比であるON/OFF(IC-ON/IC-OFF)が、1,000以上となる電流変調性を示すことである。
本発明によれば、下記の優れた特性の有機トランジスタ素子(MBOT)が提供される。本発明のトランジスタ素子は、エミッタ電極とコレクタ電極との間にシート状のベース電極が配置され、かつ、該ベース電極の表裏それぞれの側にp型有機半導体層が設けられている積層構造のものであることを一つの特徴とし、エミッタ電極とベース電極との間に少なくとも1層のp型有機半導体を含む有機半導体層を設け、かつ、ベース電極とコレクタ電極との間に、HOMO準位及び/又は半導体材料がそれぞれに異なるp型有機半導体層からなる少なくとも2層の層構造を有するコレクタ層を設けてなることを、さらなる特徴とする。本発明のトランジスタ素子は、ベース電極に対して複数のp型有機半導体層を上記のように配置し、さらに、ベース電極とコレクタ電極との間に、上記特有の関係を有する2層以上のp型有機半導体層を設けることで、低電圧で大電流を可能とする電流変調作用を安定して得ることができる。
本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)は、後述する高い性能を有するものであり、種々のディスプレイの駆動用素子、有機発光トランジスタ素子として、特に大電流変調により駆動させる有機EL、電子ペーパーを駆動する素子として有用である。これらを駆動するトランジスタ素子は、オン時とオフ時のコントラストが必要となり、より大きなオン/オフ比、暗電流の抑制が要求される。オン/オフ比が低く暗電流が大きいと、オフ時においても有機ELが発光するなどの問題を生じる。これに対し、本発明のトランジスタ素子は、オン/オフ比が高く、低電圧領域での大電流変調特性、周波数特性が優れていることにより、駆動用トランジスタ素子として高い性能を示し、十分に適用可能である。
また、本発明の有機トランジスタ素子は、低電圧領域での大電流変調が可能であり、1つのピクセル内におけるトランジスタ素子の占有面積を小さくでき、ディスプレイにおける開口率の向上を可能とし、その結果、これを適用することで、高性能、高効率のディスプレイの達成が可能となる。また、蒸着法での作成も可能であり、プラスチックなどのフレキシブル基板上にトランジスタ素子を形成することが可能であり、小型軽量化、軽量化、薄型化されたディスプレイ、デバイスの作成が可能となる。
本発明の効果をより具体的に述べれば、本発明で提供するトランジスタ素子は、図1に示したように、エミッタ電極12とコレクタ電極11間に電圧(VC)を印加し、さらにエミッタ電極12とベース電極13間に電圧(VB)を印加した場合に、エミッタ電極12とベース電極13間に流れるベース電流IBに比べて変調されたコレクタ電流ICが流れる電流変調型トランジスタ素子となる。より具体的には、その変調されたコレクタ電流ICの電流増幅率(コレクタ電流IC/ベース電流IB)は、1,000以上、さらには10,000以上にもおよぶものとなる。また、本発明で提供する有機トランジスタ素子は、エミッタ電極12とベース電極13間に電圧(VB)を印加し、さらにエミッタ電極12とコレクタ電極11間に電圧(VC)を印加することで流れたコレクタ電流IC-ON(以下、ON電流或いはオン電流と記す)と、上記電圧(VB)を印加せずに、エミッタ電極12とコレクタ電極11間に電圧(VC)を印加することにより流れるコレクタ電流IC-OFF(以下、OFF電流或いはオフ電流と記す)との比であるON/OFF(IC-ON/IC-OFF)(以下、ON/OFF比或いはオン/オフ比と記す)は、1,000以上、さらには10,000以上にもおよぶ極めて優れた電流変調性を示し、種々の用途への適用が期待される。
本発明のトランジスタ素子の構成を説明する図。 本発明の実施例のトランジスタ素子の構成を説明する図。 比較例のトランジスタ素子の構成を説明する図。 本発明のトランジスタ素子の出力特性(IC−VBカーブ)を説明する図。 本発明のトランジスタ素子の出力特性(IB−VBカーブ)を説明する図。
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、実施することができる。
先ず、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極を有し、かつ、ベース電極を挟んで表裏それぞれの側にp型有機半導体層が配置されてなる本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)について説明する。本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)は、エミッタ電極とベース電極との間に少なくとも1層のp型有機半導体を含む有機半導体層が設けられており、かつ、ベース電極とコレクタ電極との間に、HOMO準位及び/又は半導体材料がそれぞれに異なるp型有機半導体層からなる少なくとも2層の積層構造を有するコレクタ層が設けられていることを特徴とする。なお、本発明では、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、ベース電極を挟んでそれぞれ配置された有機半導体層を、コレクタ電極側のものをコレクタ層と呼び、エミッタ電極側のものをエミッタ層と呼ぶが、該コレクタ層が、少なくとも異なる2層以上のp型有機半導体層からなる。本発明では、例えば、コレクタ層が2種類の異なる化学構造物からなる2層で形成されている場合、その配置から、一方をコレクタ電極側コレクタ層と呼び、他方をベース電極側コレクタ層と呼ぶ。
本発明のトランジスタ素子(MBOT)の構造の一例を図1に示したが、図1に示すように、本発明の素子は、有機半導体/電極/有機半導体という積層構造をなす、単純な積層工程による作製が可能な縦型有機トランジスタである。図1に示したように、その構造は、基板10上に形成されるコレクタ電極11とエミッタ電極12との間に、ベース電極13と、下記の特有の構成の有機半導体層が挟まれてなる。該有機半導体層の構成は、コレクタ電極11とベース電極13間に配置された、p型有機半導体よりなるコレクタ層22(ベース電極側コレクタ層22Aおよびコレクタ電極側コレクタ層22B)と、エミッタ電極12とベース電極13間に配置されたp型有機半導体を含むエミッタ層21と、および、これらの有機半導体層に挟まれた状態のベース電極13からなる。すなわち、図1に例示した本発明のトランジスタ素子は、基板10上に、コレクタ電極11、エミッタ電極側コレクタ層22B、ベース電極側コレクタ層22A、ベース電極13、エミッタ層21、エミッタ電極12が順に積層した積層構造を有してなる。
本発明のトランジスタ素子の特徴の一つは、異なるp型有機半導体からなるコレクタ層22の構造が、コレクタ電極側に形成したコレクタ層22Bと、ベース電極部側に形成したコレクタ層22Aとを有する積層構造をなすことにある。本発明者らは、鋭意検討の結果、上記特有の構造とすることで、下記の顕著な効果が得られ、実用化が期待される有用な有機トランジスタ素子(MBOT)の達成が可能となることを見出した。すなわち、コレクタ層22における、例えば、HOMO準位がそれぞれに異なる2種のp型有機半導体材料で形成したp型有機半導体層を積層構造としたことによる効果により、電荷(正孔)をエミッタ層21からコレクタ層22Aへ効率よく注入することが可能となり、さらに、コレクタ層22Aからコレクタ層22Bへと送られた電荷は、コレクタ電極11へと移動することができる。したがって、上記の積層構造を有するコレクタ層22は、電流の流れを制御することが可能であり、エミッタ電極12からコレクタ電極11へと流れるコレクタ電流を増加させるとともに、リーク電流を抑制しオフ電流を小さく維持する効果があり、さらに、低電圧領域においも大きな出力変調動作と電流変調動作を安定してできるので、有機トランジスタ素子(MBOT)に有用である。
さらに、本発明者らは、下記の点について新たな知見を得、このことが有機トランジスタ素子(MBOT)の実用化において有効であることを見出した。本発明のトランジスタ素子(MBOT)の特徴であるコレクタ層の上に形成されるベース電極は、コレクタ層の表面粗さによりベース電極の粗さが決まる。従来の有機トランジスタ(MBOT)ではベース電極に凹凸を形成することが一般的であり、コレクタ層を平滑な面とすることは、これまで行われていなかった。これに対し、本発明者らは、コレクタ層を平滑にすることによってベース電極の膜厚の均一化ができるが、このことが、電荷(正孔)をエミッタ層21からコレクタ層22Aへ効率よく注入することを可能とし、エミッタ電極からコレクタ電極へと流れるコレクタ電流を増加させるとともに、リーク電流を抑制しオフ電流を小さく維持する効果があり、さらには、低電圧領域においても大きな出力変調動作と電流変調動作を安定してでき、有機トランジスタ素子(MBOT)に有用であることを見出した。
下記に、本発明のトランジスタ素子の性能について、より具体的に説明する。本発明のトランジスタ素子は、大きな、電流値、電流増幅率、ON時とOFF時の電流の比率であるON/OFF比を示すが、例えば、銅フタロシアニンとジインデノペリレンからなる積層構造により形成されたコレクタ層を有する本発明のトランジスタ素子との性能を、ジインデノペリレンにより形成された単層構造のコレクタ層を有するトランジスタ素子の性能と比較すると、コレクタ電流は約1,600倍と大きくなり、電流増幅率は1,200倍以上、さらに、ON/OFF比は約140倍となり、優れた性能を示すことを確認した。本発明のトランジスタ素子によって上記した顕著な性能が得られた原理について、本発明者らは、下記のように考えている。すなわち、そのメカニズムとしては、[1]ベース電流値が殆ど変化していないにも拘らずコレクタ電流値が大きく増加していること、[2]OFF電流は殆ど増えていないこと、[3]コレクタ層を構成する22Aと22Bの膜厚の比率を変えると電流値が変化することから、電圧により加速された電荷(正孔)がエミッタ層からベース電極を透過しコレクタ層へ流れ込むとき、ベース電極における電流透過率が向上し、また、エミッタ電極からエミッタ層注入された正孔が留まることなくコレクタ層に効率的に注入することを可能とするとともに、コレクタ層内においても電荷(正孔)の流れをベース電極からコレクタ電極側へと制御することが可能となり、これらによって電荷輸送性を大きく向上させているメカニズムが考えられる。
また、下記に述べるように、本発明のトランジスタ素子の性能は、表面平滑性が高い有機半導体層をコレクタ層とすることにより、大きなON電流を得られ、より優れたものとなる。より具体的には、本発明のトランジスタ素子では、コレクタ層の表面の粗さが、平均2乗粗さ(RMS)で5nm以下であるような平滑なものにすることで、より顕著な性能向上効果が得られることを確認した。例えば、銅フタロシアニンとジインデノペリレン(RMS=1.68nm)からなる積層構造により形成されたコレクタ層を有する本発明のトランジスタ素子と、銅フタロシアニンとジナフトチエノオチオフェン(RMS=13.6nm)からなる積層構造により形成されたコレクタ層を有する本発明のトランジスタ素子との性能を比較すると、銅フタロシアニンとジインデノペリレンからなる素子が、コレクタ電流は約4.5倍と大きくなり、電流増幅率は6.4倍以上、さらに、ON/OFF比は約3.3倍となり、さらに優れた性能を示した。上記した顕著な性能が得られた原理について、本発明者らは下記のように考えている。すなわち、そのメカニズムとしては、両者を比較すると、[1]ベース電流値が殆ど変化していないにも拘らずコレクタ電流値が大きく増加していること、[2]OFF電流は殆ど増えていないこと、[3]ジインデノペリレン(HOMO=5.47eV:測定値)とジナフトチエノチオフェン(HOMO=5.49eV:測定値)のHOMOがほとんど同じであることから、ベース電圧により加速された電荷(正孔)がエミッタ層からベース電極を透過しコレクタ層へ流れ込むとき、ベース電極の平滑性が高いために局所電圧がかからず、電流透過率が向上したと考えられる。
ここで、本発明のトランジスタ素子に流れる電流は、エミッタ電極とコレクタ電極との間にコレクタ電圧Vcを印加し、さらにエミッタ電極とベース電極との間にベース電圧VBを印加すると、そのベース電圧の作用により、エミッタ電極から注入された正孔が加速されてベース電極を透過し、コレクタ電極に到達する。すなわち、エミッタ電極とベース電極間にベース電圧VBを印加したときに流れるベース電流IBは、ベース電極を透過しない電流と考えられ、ベース電圧の印加によりエミッタ電極−コレクタ電極間に流れるコレクタ電流Icへと増幅されたかたちとなる。したがって、上記した性能を有する本発明のトランジスタ素子は、バイポーラトランジスタと同じような電流変調作用を安定して得ることができ、大きな出力変調と電流増幅が可能となる。
また、本発明のトランジスタ素子に流れるオン電流は、コレクタ層の層構造による整流作用とすると、そのベース電圧の作用により、エミッタ電極から注入された正孔が加速されてベース電極を透過し、コレクタ電極に到達する。すなわち、エミッタ電極とベース電極間にベース電圧VBを印加したときに流れるベース電流IBは、ベース電極を透過しない電流と考えられ、ベース電圧の印加によりエミッタ電極−コレクタ電極間に流れるコレクタ電流ICへと増幅されたかたちとなる。したがって、上記した性能を有する本発明のトランジスタ素子は、バイポーラトランジスタと同じような電流変調作用を安定して得ることができ、大きな出力変調と電流増幅が可能となる。
一方、本発明のトランジスタ素子(MBOT)のオフ電流は、コレクタ層を形成している有機半導体材料のHOMO準位の勾配により、整流効果を示し、OFF時にはベース電極からエミッタ電極へ電流は、ほとんど流れない。電圧VBを印加しない場合(VB=0V)において、ベース電極−コレクタ電極間にトランジスタ動作に不必要な漏れ電流(OFF時に流れるオフ電流)が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比を向上させることができる。したがって、有機トランジスタ素子(MBOT)を有機ELの駆動トランジスタ素子として用いた場合、暗電流が大きいとOFF時に有機EL素子の発光が起こり、ON時とOFF時のコントラストの低下を招くので、オン/オフ比は500以上であることが望ましく、好ましくは、1,000以上、さらに好ましくは、10,000以上のオン/オフ比が駆動トランジスタ素子に要求されるが、本発明のトランジスタ素子によれば、10,000以上とすることも可能であり容易に達成できる。
さらに、本発明のトランジスタ素子(MBOT)の電流値は、低電圧領域においも大きな増幅が得られ、大きな電流を得ることができ、この点からも極めて有用なものになる。一般に、有機EL素子は低電圧領域での駆動させる素子であり、駆動トランジスタ素子には数ボルトで大きな電流を出力させることが要求される。有機EL素子は、印加電圧を高くすれば、大きな電流が得られ、高強度の発光を実現できるが、発光素子材料の劣化や分解を起こし、素子の寿命を短くし、長期間の安定した発光はできなくなる。したがって、駆動電圧は、1から20V程度であり、好ましくは5V以下である。このとき、低電圧領域において、トランジスタ素子により変調される電流密度値は、特に制限されることはないが、1mA/cm2から500mA/cm2が好ましく、さらに好ましくは、1mA/cm2から200mA/cm2がよい。発光素子として利用する場合、電流密度値は1mA/cm2以下であると十分に発光させることができず、十分な発光強度が得られない。また、電流密度値が500mA/cm2を超える素子は、十分なオン/オフ比を得ることができず、OFF時(電圧0V)においても、暗電流が生じて発光素子から発光するという問題が生じることがある。
本発明のトランジスタ素子のコレクタ層は、少なくとも2層のp型有機半導体よりなる積層構造をなしていることから、広範なp型有機半導体材料を適用することができるという、製造条の利点もある。すなわち、本発明においては、コレクタ層を形成する材料は正孔を効率よく輸送できる材料であればよく、p型有機半導体層を形成することが可能な材料であれば問題なく使用できる。すなわち、本発明においては、p型有機半導体層の形成に使用される有機半導体材料は、正孔を輸送する材料(正孔輸送性材料)であればよく、このような材料で形成した、HOMO準位がそれぞれに異なるp型有機半導体層を積層したコレクタ層であれば特に制限なく使用することができる。
本発明のトランジスタ素子を構成する有機半導体膜は、適切なエネルギー準位を有することが望ましい。そのため、本発明の好適な構成としては、ベース電極とコレクタ電極との間に設けられたp型有機半導体層(コレクタ層)において、コレクタ電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)4.5から5.5eVにあるp型有機半導体層からなり、ベース電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)5.0〜6.0eVにあるp型有機半導体層からなり、コレクタ電極側コレクタ層よりもベース電極側コレクタ層のHOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)が大きくなるようにすることが挙げられる。また、エミッタ層を形成する有機半導体材料のHOMO準位(最高被占分子軌道エネルギー準位)は、特に限定されないが、本発明者らの検討によれば、エミッタ層のHOMO準位が4.5から5.5eVにあるように形成し、かつ、ベース電極側のコレクタ層を、HOMO準位(最高被占分子軌道エネルギー準位)が5.3〜6.0eVである有機半導体材料により形成した場合、HOMO準位の差により、エミッタ層から注入された正孔は、コレクタ電極へ、より効率よく移動でき、その結果、より大きな電流を得ることができる。
本発明のトランジスタ素子を構成するベース電極側コレクタ層は、エミッタ層から効率よく正孔が注入されるものであるが、該層を形成するp型有機半導体材料としては、例えば、ジインデノペリレン(DIP)、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンが挙げられる。これらの中でも特に好ましいものとしては、コレクタ層表面に平滑なベース電極を形成できるインデノペリレンが挙げられる。これらの材料の大気中光電子分光装置(AC−3:理研計器株式会社製、以下も同様の装置で測定)で測定したHOMOエネルギーレベル、AFMにより測定した表面平均2乗粗さ(RMS)は、それぞれ、DNTTでは、5.49eV、13.6nm、DIPでは、5.49eV、1.68nm、Niフタロシアニンでは、5.23eV、8.36nmである。このため、これらのいずれの材料を用いた場合も、エミッタ層から効率的に注入された正孔を、後述するコレクタ電極側コレクタ層へ効率よく移動でき、大きな電流を得ることができる。本発明者らの検討によれば、これらの中でも特に、DIPをコレクタ層表面に用いた場合に、より大きな電流値が得られる。
本発明のトランジスタ素子を構成するコレクタ電極側に形成されるコレクタ層は、上記で説明したベース電極側に形成されるコレクタ層とHOMO準位において異なるものであり、該ベース電極側コレクタ層から効率よく正孔が注入されるものである。該コレクタ電極側コレクタ層を形成するp型有機半導体材料としては、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニンが挙げられる。例えば、銅フタロシアニンの大気中光電子分光装置で測定したHOMOエネルギーレベルは、5.15eVにあり、ベース電極側に形成されたコレクタ層から、コレクタ電極へと電荷を送る電荷の流れを制御することが可能となる。
本発明のトランジスタ素子を構成するエミッタ層は、p型有機半導体により形成される有機半導体薄膜である。エミッタ層を形成する材料は正孔を効率よく輸送できる材料であればよく、p型有機半導体層を形成することが可能な材料であれば問題なく使用できる。p型有機半導体層の形成に使用される有機半導体材料は、正孔輸送型の半導体として機能し、用いる材料としては、正孔を輸送する材料(正孔輸送性材料)であれば特に制限なく使用することができる。
本発明のトランジスタ素子を構成するエミッタ層は、適切なエネルギー準位を有していることが好ましい。エミッタ層は、エミッタ電極から注入された正孔は、ベース電極界面まで移動し、ベース電極を通り、コレクタ層へ注入されるので、その形成材料としては、ベース電極からの正孔の注入が効率よく行われ、コレクタ層へ正孔を注入し易いHOMO準位(最高被占分子軌道エネルギー準位)であることが好ましい。具体的には、HOMO準位が4.5から5.5eVにある有機半導体材料が好ましく、このような材料からなるエミッタ層とすれば、注入された正孔が、コレクタ電極へ効率よく移動でき、より大きな電流を得ることができる。エミッタ層は、エミッタ電極から注入された正孔は、ベース電極界面まで移動し、ベース電極を通り、コレクタ層へ注入されるので、具体的な形成材料としては、ベース電極からの正孔の注入が効率よく行われ、コレクト層へ正孔を注入し易い、例えば、ペンタセン、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、ジナフトチエノチオフェン、ジインデノペリレンから選ばれる化合物、および、その誘導体を利用できる。
本発明のトランジスタ素子を構成するベース電極側コレクタ層の形成材料としては、エミッタ層から効率よく注入するものであればよく、先に述べたように、特に好適なものとしては、例えば、ジインデノペリレン(DIP)、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)が挙げられる。本発明者らの検討によれば、これらの材料は、そのHOMO準位の測定値が、エミッタ層から注入される正孔が、コレクタ電極側コレクタ層へと効率よく移動するのに適切なエネルギー準位を有している。ここで、上記材料の大気中光電子分光装置で測定したHOMOエネルギーレベルは、それぞれ5.47eV(DIP)、5.49eV(DNTT)である。本発明のトランジスタ素子のより好適な構成としては、上記したような材料でベース電極側の有機半導体層(コレクタ層)を形成し、エミッタ電極とベース電極との間のエミッタ層を、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)である4.5から5.5eVである好適な有機半導体材料で形成し、さらに、ベース電極と、コレクタ電極側の有機半導体層(コレクタ層)を、そのHOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)が5.3〜6.0eVの範囲にある材料により形成したものが挙げられる。上記した構成とした場合、各形成材料のHOMO準位の差により、エミッタ層から注入された正孔は、コレクタ電極へ効率よく移動でき、より大きな電流を得ることができる。
(電流透過促進層)
本発明のトランジスタ素子は、シート状のベース電極の表裏の一方の面或いは両方の面に、積層させた状態で電流透過促進層をさらに形成することも好ましい態様である。より具体的には、該電流透過促進層は、ベース電極とコレクタ層の間(コレクタ層側)、ベース電極とエミッタ層との間(エミッタ層側)のいずれか一方又は両方の位置に、必要に応じて形成され、かつ、これらの電流透過促進層は、ベース電極に積層された構造であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、ベース電極とコレクタ層の間に形成されたコレクタ層側電流透過促進層は、(1)OFF電流を減少させる、(2)ベース電流とコレクタ電流の比率が大きくなり増幅率を高くする、といった効果を発揮する。また、ベース電極とエミッタ層の間に形成されたエミッタ層側電流透過促進層は、(1)コレクタ層への電荷移動の高効率化、電荷の注入率の向上によりコレクタ電流を大きくする、(2)電極界面の改善によるOFF電流の減少をすることができ、この結果、電流増幅率、ON/OFF比をより大きくする。さらに、低電圧領域において、大きな出力変調と大電流変調が、安定して作動できるという効果をもたらす。
先述したように、本発明のトランジスタ素子を構成することができる電流透過促進層は、電流透過促進層とベース電極とが積層構造となるように形成される。電流透過促進層の形成材料には、ベース電極を透過する電流が増加する電流透過率を向上させる材料であれば問題なく使用できる。具体的には、電流透過促進層の形成材料としては、これまでに、電子注入層として知られている材料を利用することができ、例えば、アルカリ金属化合物が好ましく利用でき、特に好ましい材料としては、フッ化リチウムが挙げられる。
本発明者らの検討によれば、本発明のトランジスタ素子において、必要に応じて電流透過促進層を形成することによってもたらされる機能は、下記に述べるようである。例えば、アルミニウム電極をベース電極とし、これを電流透過促進材料であるフッ化リチウムから形成した層で挟み込んでベース電極部とした場合、ベース電極の表裏それぞれの側に、コレクタ層とエミッタ層をペンタセンで形成したMBOTの電流増幅率は、ベース電極の一方の側にのみフッ化リチウム層を形成したMBOTの77倍以上となり、さらに、その電流ICは、フッ化リチウム層を有さない場合の約2倍となり、大電流を得られることを確認した。上記した効果が得られる原理としては、[1]電流増幅率が大きく向上すること、[2]OFF電流は増えていないこと、[3]電流透過促進層の膜厚を厚くすると電流値が減少してくることから、電流透過促進層の存在は、ベース電極を形成している材料の半導体層への拡散を抑制しているとともに、電圧により加速された正孔がエミッタ層からコレクタ層へ流れるときに、ベース電極部における電流透過率も向上させているメカニズムが考えられる。
さらに、本発明のトランジスタ素子は、従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングを不要なものにできるとともに、低電圧で大電流変調が可能であり、さらに、オン/オフ比が高い発光トランジスタ素子を得ることができる。また、本発明のトランジスタ素子は、蒸着法のみで作製することも可能であり、このため、プラスチックなどのフレキシブルな基板上にも素子を形成することが可能であり、小型軽量化された簡単な構造からなる実用的な発光トランジスタ素子を簡便に製造することが可能となる。また、本発明のトランジスタ素子においては、そのコレクタ層が有機ELとなる発光層を含む発光素子部を有するものとでき、さらに、該発光素子部が、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層から選ばれる1または2以上の層からなる発光素子部を有する発光トランジスタ素子となる。
次に、本発明のトランジスタ素子の各構造・材料について説明する。
(基板)
本発明の有機トランジスタ素子は、通常、下記に挙げるような基板上に形成して使用される。この際に用いる基板は、トランジスタ素子の形態を保持できる材料であればよく、例えば、ガラス、アルミナ、石英、炭化珪素などの無機材料、アルミニウム、銅、金などの金属材料、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのプラスチック基板を用いることができる。プラスチック基板を用いた場合は、軽量で、耐衝撃性に優れたフレキシブルなトランジスタ素子を作製することができる。また、有機発光層を形成した発光トランジスタ素子として利用する場合であって、基板側から光を放出させるボトムエミッションの場合は、プラスチックフィルム、ガラスなど、光透過率の高い基板を用いることが望ましい。これら基板は、単独で使用してもよく、或いは併用してもよい。また、基板の大きさや、形態については、トランジスタ素子の形成が可能であれば、例えば、カード状、フィルム状、ディスク状、チップ状など、どのようなものでも問題なく使用できる。
(有機半導体層)
先に述べたように、本発明の有機トランジスタ素子の特徴は、構成するp型有機半導体層が、図1に示したように、コレクタ電極とベース電極間に設けたコレクタ層22と、ベース電極とエミッタ電極間に形成されたエミッタ層21からなり、さらに、これらのうちのコレクタ層22が、それぞれに異なるp型有機半導体層からなる2層以上の積層構造をもつことにある。また、ベース電極と、p型有機半導体層であるコレクタ層およびエミッタ層とは、直接或いは電流透過促進層を介して積層された状態にある(図1、図2参照)。以下、p型有機半導体層について、コレクタ層とエミッタ層とに分けて説明する。
<エミッタ層>
本発明の有機トランジスタ素子を構成するエミッタ層21は、p型有機半導体からなるが、その形成材料としては、正孔を輸送する材料であれば問題なく利用できる。また、必要に応じて、他のp型有機半導体層との多層構造としてもよいし、n型有機半導体層とのダイオード構造としてもよいし、ホール注入層との積層構造としてもよい。
本発明を構成するエミッタ層に必須のp型有機半導体層は、エミッタ電極から正孔を受け取り、これをベース電極へ、場合によっては、対をなしているn型有機半導体層、または、その界面付近まで輸送する機能を有する。p型有機半導体層を形成する材料としては、一般的なp型半導体材料であれば、特に限定なく使用でき、例えば、ペンタセン、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン類(Cu−Pc、VO−Pc、Ni−Pcなど)、ナフタロシアニン、インジコ、チオインジゴ、アントラセン、キナクリドン、オキサジアゾール、トリフェニルアミン、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリチオフェン、ポルフィリン、ジナフトチオフェンなど、またはこれらの誘導体などを用いることができる。また、エミッタ層の形成には、上記に列挙したp型有機半導体材料加えて、p型有機半導体材料として機能する正孔輸送性材料を利用することもできる。
本発明の有機トランジスタ素子を構成するエミッタ層を形成するp型半導体材料としては、電気的に安定であり、適切なイオン化ポテンシャルと電子親和力を持つこと、さらに、HOMO準位が4.5から5.5eVにある有機半導体材料が好ましく、さらには4.5から5.3eVが好ましく、さらに、ベース電極側コレクタ層のHOMO準位よりも小さいことはより好ましい。エミッタ層を形成するp型半導体層の特に好ましい材料としては、ペンタセンや、銅フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン類が挙げられる。
但し、エミッタ層のp型半導体層を形成する材料としては、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、この場合のp型半導体層は、単独成分を使用した単層構造だけでなく、2成分以上からなる混合層、2成分以上の有機半導体層よりなる積層構造であってもよい。p型有機半導体層を形成する方法としては、蒸着法、もしくは、これらの化合物を含有した溶液、分散液を用いて各種の印刷法、塗工法により形成することができる。
本発明の有機トランジスタ素子を構成するエミッタ層を形成するp型有機半導体層の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm2/V・s以上であることが好ましい。また、エミッタ層21の厚さは、コレクタ層に比べて基本的に薄いことが好ましく、エミッタ層の厚さは、300nm以下、好ましくは10nm〜300nm程度である。エミッタ層の厚さが10nm未満の場合は、ダイオード構造が一部で形成されない可能性があり、トランジスタ性能の低下、または、導通の問題が発生して歩留まりが低下することが考えられるので、好ましくない。一方、エミッタ層の厚みが300nmを超えると、製造コスト、材料コストが高くなるという問題を生じるので好ましくない。
<コレクタ層>
本発明の有機トランジスタ素子を構成するコレクタ層は、ベース電極とコレクタ電極間に、2層以上のp型有機半導体層からなる積層構造となるように、p型有機半導体材料から形成される。そして、該コレクタ層を形成する材料としては、有機半導体として通常使用されているp型有機半導体材料が挙げられ、いずれも使用できる。p型半導体材料としては、正孔を輸送する材料であれば特に制限なく、一般的に使用されているp型の有機半導体材料が使用でき、先に説明したエミッタ層に使用されるp型半導体材料をいずれも利用できる。
本発明の有機トランジスタ素子を構成するコレクタ層を形成する材料は、p型半導体材料であれば特に限定なく使用することができるが、2層以上の異なるp型有機半導体層からなる積層構造は、下記のようであることが好ましい。すなわち、ベース電極側に形成されるベース電極側コレクタ層は、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)が5.0〜6.0eVの範囲にある材料よりなるp型有機半導体層であることが好ましく、さらに好ましくは、HOMO準位がこの範囲にある材料の中でも特に、ジインデノペリレン(HOMO:5.47eV)、ジナフトチエノチオフェン(HOMO:5.49eV)および、これらの誘導体からなる層であることが好ましい。また、この場合の誘導体としては、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基などのアルキル基、アルキル基中にヘテロ基を有するヘテロアルキル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物が挙げられる。本発明者らの検討によれば、p型有機半導体材料がこれら官能基を有することにより、溶媒への溶解性が高まり、この結果、p型有機半導体層を形成する場合に印刷法を適用することが可能となり、平滑な半導体表面を容易に形成することが可能となるばかりでなく、官能基による相互作用により電荷の伝達性が改善される場合もあるので、より好ましい。これらの材料よりなるp型有機半導体薄膜(層)は、単独材料を使用して形成することもできるが、2成分以上からなる混合材料によって形成した混合層としてもよい。さらに、本発明の有機トランジスタ素子を構成するコレクタ層は、2層以上の異なるp型有機半導体層からなる積層構造を有するものであればよく、その他の有機半導体層をさらに積層した積層構造であってもよい。
また、本発明の有機トランジスタ素子を構成するコレクタ層の膜厚は、通常、50nm〜5,000nmを挙げることができるが、好ましくは100nm〜500nm程度である。なお、その厚さが50nm未満の場合、トランジスタ素子として動作しないおそれがあるので好ましくなく、一方、5,000nmを超える場合は、製造コスト、材料コストが高くなるという問題を生じるので好ましくない。
但し、コレクタ層の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm2/V・s以上であることが望ましい。電荷移動度が低いと、トランジスタ素子としての性能、例えば、オン電流が小さくなるなどの問題を生じるおそれがあるので好ましくない。
(電極)
本発明のトランジスタ素子に用いられる電極について説明する。本発明のトランジスタ素子を構成する電極としては、コレクタ電極11、エミッタ電極12、およびベース電極13があり、図1に示すように、コレクタ電極11は基板10上に設けられ、ベース電極13は、p型有機半導体層であるエミッタ層21と、積層構造を有するコレクタ層22との間に埋め込まれるように設けられ、エミッタ電極12は、コレクタ電極11と対向する位置に、上記p型有機半導体層21、22とベース電極13とを挟むように設けられる。
本発明のトランジスタ素子を構成する各電極に使用する材料は、以下のものであることが好ましい。例えば、本発明のトランジスタ素子を構成するコレクタ層22は、p型有機半導体からなるp型半導体層であるので、コレクタ電極11の形成材料としては、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO2、ZnOなどの透明導電膜、金、銀、銅のような金属、ポリアニリン、ポリピロールン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子などが挙られる。一方、エミッタ電極12の形成材料としては、アルミニウム、銀などの単体金属、Mg−Ag、Mg−Inなどのマグネシウム合金、Al−Li、Al−Ca、Al−Mgなどのアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類、それらアルカリ金属類の合金のような仕事関数の小さな金属などを挙げることができる。
また、本発明においては、OFF時の暗電流を抑制し、高いオン/オフ比を達成するベース電極として、アルミニウムにより電極を形成した後、空気中で熱酸化処理することにより、電極表面に酸化膜を形成したベース電極を使用することも好ましい形態である。また、ベース電極として、アルミニウム層/フッ化リチウム層よりなる層構造の電極を使用することにより、ON電流が大きく、暗電流が抑制された、高いオン/オフ比をなすトランジスタ素子の形成が可能となる。
本発明のトランジスタ素子に用いられるベース電極の厚さは、0.5nm〜100nmあることが好ましく、さらに好ましくは、1nmから30nm、さらに、さらに好ましくは、5nm〜20nmが好ましい。ベース電極は、ベース電極の厚さが100nm以下であれば、ベース電圧Vbで加速された電子を容易に透過することができる。なお、ベース電極は、半導体層中に切れ目なく(すなわち、穴やクラックなどの欠陥部なく)設けられていれば問題なく使用できるが、0.5nm未満であると欠陥を生じ、有機トランジスタ素子として動作しないおそれがあるので好ましくない。
本発明のトランジスタ素子に用いられる電極の形成方法としては、上記の各電極のうちコレクタ電極とエミッタ電極については、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの真空プロセス或いは塗布方法が挙げられる。これらの方法により形成された電極の膜厚は使用する材料などによっても異なるが、例えば、10nm〜1,000nm程度であることが好ましい。なお、その厚さが10nm未満の場合、トランジスタ素子として動作しないおそれがあり、1,000nmを超える場合は、製造コスト、材料コストが高くなるのでいずれも好ましくない。
(暗電流抑制層)
本発明のトランジスタ素子は、下記のようにして暗電流抑制層を形成したものであってもよい。その方法としては、ベース電極を形成した後に、当該ベース電極を加熱処理して形成することが好ましい。さらに、本発明のトランジスタ素子においては、前記ベース電極を金属からなるものとし、該ベース電極の片面または両面に該ベース電極の酸化膜を形成することで、エミッタ電極−ベース電極間に電圧VBを印加しない場合に流れる暗電流を効果的に抑制することができるものになる。
また、OFF時の暗電流を抑制し、高いオン/オフ比を達成するベース電極として、アルミニウムにより電極を形成した後、空気中で熱酸化処理により、電極表面にアルミニウム酸化膜よりなる暗電流抑制層を形成したベース電極を使用することも好ましい。また、ベース電極として、アルミニウム層/フッ化リチウム層よりなる層構造の電極を使用することにより、ON電流が大きく、暗電流が抑制された、高いオン/オフ比をなすトランジスタ素子の形成が可能となる。
これらの形態の本発明によれば、暗電流抑制層がコレクタ電極とベース電極との間に設けられていることにより、暗電流が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比を向上させることができる。このように構成した本発明のトランジスタ素子は、見かけ上、バイポーラトランジスタと同様の電流変調型のトランジスタ素子として有効に機能し、高いオン/オフ比、大きなコレクタ電流、電流増幅率を示す優れた有機トランジスタ素子として機能するものになる。
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、有機半導体材料のHOMO準位は、先述した大気中光電子分光装置で測定し、各p型有機半導体層の表面の粗さについては、平均2乗粗さRMSを原子間力顕微鏡にて測定し、結晶粒子径についてはX線回折による半値幅から計算し、原子間力顕微鏡で確認をした。
実施例および比較例で作製したトランジスタ素子の評価は、下記の方法で行ったが、まず、その方法について説明する。
(トランジスタ素子の評価)
作製したトランジスタ素子について、エミッタ電極−コレクタ電極間に印加電圧(VC)を印加し、エミッタ電極−ベース電極間に印加するベース電圧(VB)を0V〜−3、−5、−10Vの範囲で変調させた。出力変調特性の測定は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧(VC)を印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VB(0〜−3V)を印加したときの、ベース電流IB、および、コレクタ電流ICの変化量(オフ電流、オン電流)を測定した。また、コレクタ電流の変化に対するベース電流の変化の比率、すなわち、電流増幅率(hFE)、オン電流とオフ電流の比率であるオン/オフ比(IC-ON/IC-OFF)を算出した。
(実施例1)
[コレクタ層:CuPc/DIP、エミッタ層:ペンタセン]
ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上にコレクタ電極側コレクタ層として、p型有機半導体材料である銅フタロシアニン(CuPc)からなる平均厚さ240nmのp型有機半導体層を形成し、さらに、その上にDIPからなる平均厚さ160nmのベース電極側コレクタ層を、それぞれ真空蒸着法により形成し、上記異なる2層が積層した構造のコレクタ層を作製した。得られたコレクタ層表面は、粗さがRMS=1.68nmであり、平均の結晶粒子径が26nmであった。次に、上記コレクタ層の上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、その上にアルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、その上に金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に各層および電極を積層し、実施例1のトランジスタ素子を得た。
上記のようにして得られた実施例1のトランジスタ素子のトランジスタ特性を、表1に示した。実施例1のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと、印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。ベース電圧を印加したときのコレクタ電流の変化(IC−VB特性)、ベース電流の変化を図4、5に示した。また、コレクタ電圧VC=−5V、ベース電圧VB=−3Vを印加したときの、コレクタ電流ICのオン電流、電流増幅率、VB=0Vの時のオフ電流、さらに、オン/オフ比を表1に示した。
(実施例2)
[コレクタ層:CuPc/DNTT、エミッタ層:ペンタセン]
ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上にコレクタ電極側コレクタ層として、p型有機半導体材料である銅フタロシアニン(CuPc)からなる平均厚さ300nmのp型有機半導体層を形成し、さらに、その上にDNTTからなる平均厚さ100nmのベース電極側コレクタ層を、それぞれ真空蒸着法により形成し、上記異なる2層が積層した構造のコレクタ層を作製した。得られたコレクタ層表面は、粗さがRMS=13.6nmであり、平均の結晶粒子径が107nmであった。次に、上記コレクタ層の上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、その上にアルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、その上に金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に各層および電極を積層し、実施例2のトランジスタ素子を得た。
上記のようにして得られた実施例2のトランジスタ素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。得られたトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−10V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと、印加しないとき(0〜−4V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。その結果、コレクタ電圧VC=−5V、ベース電圧VB=−3Vを印加したときの、コレクタ電流ICのオン電流密度IC-ON=61.7mA/cm2、電流増幅率hFE=715.3、VB=0Vの時のオフ電流密度IC-OFF=5.9×10-2mA/cm2であり、さらに、オン/オフ比は1.1×103であった。
(実施例3〜8)
[コレクタ層:CuPc/DIP、エミッタ層:ペンタセン]
実施例1のトランジスタ素子において、2層構造からなるコレクタ層の厚みの総計は400nmで同様とし、銅フタロシアニンとジインデノペリレンの各材料から形成したp型有機半導体層の厚さを、表2に記載した厚さにそれぞれ変えてコレクタ層を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例3〜8のトランジスタ素子を作製した。
具体的には、ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上にコレクタ電極側コレクタ層として、p型有機半導体材料である銅フタロシアニン(CuPc)からなる、平均厚さが、それぞれ、390、350、320、300、280、200nmのp型有機半導体層を真空蒸着法により形成した。さらに、その上に積層させたベース電極側コレクタ層としては、DIPからなる平均厚さが、それぞれ、10、50、80、100、120、200nmのp型有機半導体層を真空蒸着法により作製した。次に、上記でそれぞれ得たコレクタ層の上に、フッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、次に、アルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上に、フッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に積層し、実施例3〜8のトランジスタ素子を得た。得られたトランジスタ素子の構造を図2に示し、特性を表2にまとめて示した。
(実施例9)
[コレクタ層:CuPc/NiPc、エミッタ層:ペンタセン]
実施例2のトランジスタ素子において、ベース電極側コレクタ層を、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)からニッケルフタロシアニン(NiPc)に変えて、それ以外は実施例2と同様にして実施例9のトランジスタ素子を得た。具体的には、ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上に、コレクタ電極側コレクタ層として、p型有機半導体材料である銅フタロシアニン(CuPc)からなる平均厚さ300nmの有機半導体層を形成し、さらに、その上にNiPcからなる平均厚さ100nmのベース電極側コレクタ層を真空蒸着法により形成した。得られたコレクタ層表面は、粗さがRMS=8.36nmであり、平均の結晶粒子径41nmであった。次に、上記コレクタ層の上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、アルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、その上に金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に積層し、実施例9のトランジスタ素子を得た。
得られたトランジスタ素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。得られたトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと、印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。その結果、コレクタ電圧VC=−5V、ベース電圧VB=−3Vを印加したときの、コレクタ電流ICのオン電流密度IC-ON=16.9mA/cm2、電流増幅率hFE=25、VB=0Vの時のオフ電流密度IC-OFF=0.12mA/cm2であり、さらに、オン/オフ比は136であった。
(比較例1)
[コレクタ層:CuPc、エミッタ層:ペンタセン]
ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上にp型有機半導体材料である銅フタロシアニン(CuPc)からなる平均厚さ400nmのp型有機半導体層をコレクタ層として真空蒸着法により作成した。次に、その上に、フッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、その上にアルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、その上に金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に積層し、比較例1のトランジスタ素子を得た。素子の構造を図3に示す。
得られた比較例1の素子のトランジスタ特性を表1に示した。比較例1で得られたトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−10V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。ベース電圧を印加したときのコレクタ電流の変化(IC−VB特性)、ベース電流の変化を図4、5に示した。また、コレクタ電圧VC=−5V、ベース電圧VB=−3Vを印加したときの、コレクタ電流ICのオン電流、電流増幅率、VB=0Vの時のオフ電流、さらに、オン/オフ比を表1に示した。
(比較例2)
[コレクタ層:DIP、エミッタ層:ペンタセン]
ITO透明基板をコレクタ電極とし、該基板上にp型有機半導体材料であるジインデノペリレン(DIP)からなる平均厚さ400nmの有機半導体層をコレクタ層として真空蒸着法により作成した。次に、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成し、次に、その上にアルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。その後、大気中で150℃、1時間の熱処理により、アルミ電極表面に、酸化アルミニウムからなる暗電流抑制層を形成した。さらに、その上にフッ化リチウムからなる3nmの電流透過促進層を形成した後、エミッタ層として、ペンタセンからなるp型有機半導体層(平均膜厚100nm)を真空蒸着法により積層した。次に、金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極12を真空蒸着法による成膜手段で形成し、上記した順に積層し、比較例2のトランジスタ素子を得た。
得られたトランジスタ素子のトランジスタ特性を表1に示した。比較例2で得られたトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−10V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。ベース電圧を印加したときのコレクタ電流の変化(IC−VB特性)、ベース電流の変化を図4、5に示す。また、コレクタ電圧VC=−5V、ベース電圧VB=−3Vを印加したときの、コレクタ電流ICのオン電流、電流増幅率、VB=0Vの時のオフ電流、さらに、オン/オフ比を表1に示した。
Figure 0005923338
Figure 0005923338
(評価結果)
トランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧VCを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧VBを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。実施例のトランジスタ素子は、いずれもMBOTとして動作が確認された。
本発明のトランジスタ素子は、比較例の素子との比較から、コレクタ層を2層以上の積層構造としたことにより、優れたコレクタ電流値、オン/オフ比が得られることが確認された。また、ベース電極に積層されるコレクタ層のp型有機半導体層を平滑な表面とすることで、さらに優れた性能が得られ、実用化が期待されるトランジスタ特性が得られることを確認した。
本発明の有機トランジスタ素子は、オフ電流が小さく、オン/オフ比が高くなるため、有機ELなどのディスプレイ用駆動素子、有機発光層を組み込んだ有機発光トランジスタ素子として利用することができ、その多様な分野での利用が期待される。
10:基板
11:コレクタ電極
12:エミッタ電極
13:ベース電極
21:有機半導体層(エミッタ層)
22:有機半導体層(コレクタ層)
22A:有機半導体層(ベース電極側コレクタ層)
22B:有機半導体層(コレクタ電極側コレクタ層)

Claims (10)

  1. エミッタ電極とコレクタ電極との間にシート状のベース電極が配置され、かつ、該ベース電極の表裏それぞれの側にp型有機半導体層が設けられている積層構造をなすトランジスタ素子において、
    エミッタ電極とベース電極との間に少なくとも1層のp型有機半導体を含む有機半導体層が設けられ、かつ、ベース電極とコレクタ電極との間に、同一又は異なるp型半導体材料で形成された、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)がそれぞれに異なる2層のp型有機半導体層が順に積層した積層構造(但し、ベース電極とコレクタ電極との間に有機EL素子部が設けられている場合における、正孔注入層と正孔輸送層とが順に積層した積層構造を除く。)を有するコレクタ層が設けられており、かつ、コレクタ電極側コレクタ層のHOMO準位よりもベース電極側コレクタ層のHOMO準位が大きいことを特徴とするトランジスタ素子。
  2. 前記異なる2層のp型有機半導体層が順に積層した積層構造が、コレクタ電極側コレクタ層とベース電極側コレクタ層の2つの有機半導体層からなり、コレクタ電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)4.5から5.5eVにあるp型有機半導体層からなり、ベース電極側コレクタ層が、HOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)5.0〜6.0eVにあるp型有機半導体層からなり、かつ、コレクタ電極側コレクタ層よりもベース電極側コレクタ層のHOMO準位(最高被占軌道エネルギー準位)が大きい請求項1に記載のトランジスタ素子。
  3. 前記コレクタ層の異なる2層のp型有機半導体層が順に積層した積層構造を形成している各p型有機半導体層の表面の粗さが、平均2乗粗さ(RMS)で5nm以下である請求項1又は2に記載のトランジスタ素子。
  4. 前記コレクタ層の異なる2層のp型有機半導体層が順に積層した積層構造を形成している複数のp型有機半導体層のうちのベース電極側に配置されている有機半導体層が、ジインデノペリレン、ジナフトチエノチオフェン、フタロシアニンおよび、これらの誘導体を含んでなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
  5. 前記コレクタ層の異なる2層のp型有機半導体層が順に積層した積層構造を形成しているp型有機半導体層のうちのコレクタ電極側に配置されている有機半導体層が、フタロシアニン、ジインデノペリレンおよび、これらの誘導体を含んでなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
  6. 前記エミッタ電極とベース電極との間に配置されているp型有機半導体層が、ペンタセン、フタロシアニンおよび、これらの誘導体を含んでなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
  7. 前記シート状ベース電極の表裏の一方の面或いは両方の面に積層された状態で、電流透過促進層がさらに設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
  8. 前記電流透過促進層が、フッ化リチウムで形成されている請求項7に記載のトランジスタ素子。
  9. 前記電流透過促進層の膜厚が、0.1nmから100nmの厚みである請求項7又は8に記載のトランジスタ素子。
  10. 前記エミッタ電極と前記ベース電極間に電圧(VB)を印加し、さらに前記エミッタ電極と前記コレクタ電極間に電圧(VC)を印加することで流れたコレクタ電流IC-ONと、エミッタ電極とベース電極間に電圧(VB)を印加せずに、前記エミッタ電極と前記コレクタ電極間に電圧(VC)を印加することにより流れるコレクタ電流IC-OFFとの比であるON/OFF(IC-ON/IC-OFF)が、1,000以上となる電流変調性を示す請求項1〜9のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
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