本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1のショットピーニング方法を、図1を用いて説明する。
本実施例のショットピーニング方法には、図1に示す水流撹拌式のショットピーニング装置1が用いられる。ショットピーニング装置1は、チャンバ2、水流発生装置6、メッシュ8及び補給水供給管10を備えている。チャンバ2の一端は開放端になっており、チャンバ2の開放端の反対側は封鎖されて軸受7が設けられている。軸受7は水密タイプのスラスト軸受である。チャンバ3は、内径55mm、外径75mm及び高さが50mmであり、ステンレス鋼であるSUS316Lで作られている。
水流発生装置6は、回転羽根6a、回転軸6b及び電動モータ6cを有している。電動モータ6cは、チャンバ2の外側に配置され、チャンバ2に設置される。回転羽根6aは、チャンバ2内に配置され、回転軸6bに取り付けられる。回転羽根6aは、ステンレス鋼であるSUS304で作られた直径30mmの4枚羽根である。回転軸6bは、直径6mmのステンレス鋼であるSUS304製で、上記の軸受7によって支持されて電動モータ6cの回転軸に連結される。ケーブル6dが電動モータ6cに接続される。電動モータ6cは1kWの交流3相モータである。メッシュ8がチャンバ2内で回転羽根6aよりもチャンバ2の開放端側に配置され、メッシュ8の外周部の全面がチャンバ2の内面に溶接にて取り付けられる。メッシュ8には一辺が2mmの多数の升目(矩形の貫通孔)が形成されている。メッシュ8は、回転羽根6aに向かって凸になる曲面を有する。補給水供給管10がチャンバ2に接続される。メッシュ8は、シャッタ24が、チャンバ2の開放端付近に配置され、チャンバ2にスライド可能に取り付けられる。
押し付け機構3が、軸受7が設けられたチャンバ2の封鎖されている側の端面に取り付けられる。また、押し付け機構3がチャンバ移動装置(例えば、マニピュレータ)23に設置される。フィルタ装置(浄化装置)27が、吸引ホース25によってメッシュ8より回転羽根6a側でチャンバ2に接続され、さらに戻りホース28によってメッシュ8より回転羽根6a側でチャンバ2に接続されている。ポンプ26が吸引ホース25に設けられる。メッシュ8より回転羽根6a側のチャンバ2内の領域30B、吸引ホース26、フィルタ装置27、戻りホース28及び領域30Bを連絡する閉ループが形成される。シャッタ24が閉じている状態(シャッタ24がチャンバ2の開放端を封鎖している状態)で、190個のショット4がチャンバ2内のメッシュ8よりシャッタ24側の領域30Aに充填されている。ショット4は、SUS316L製で直径が4mmの球形をしている。メッシュ8に形成された升目の大きさはショット4の大きさ(例えば、直径)よりも小さい。
実施例1のショットピーニング方法が施工されるピーニング施工対象物11は、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設けられた、ステンレス鋼であるSUS316Lで作られた炉心シュラウドのV1溶接線の部分である。この炉心シュラウドに対する本実施例のショットピーニング方法の施工は、沸騰水型原子炉の運転停止後の、例えば、定期検査の期間において実施される。沸騰水型原子炉の運転停止後、原子炉圧力容器内から蒸気乾燥器、気水分離器及び燃料集合体が順次取り出される。炉心内の全燃料集合体が取り出された後、原子炉圧力容器内の冷却水を排出し、原子炉圧力容器内を空気雰囲気にする。チャンバ移動装置23により、チャンバ2を、空気雰囲気である原子炉圧力容器内において炉心シュラウド内まで移動させ、チャンバ2のシャッタ24を、ピーニング施工対象物11である炉心シュラウドに対向させた状態で、チャンバ2の開放された端部(以下、チャンバ2の開放端という)を炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の施工面に押し付ける。チャンバ2は押し付け機構3のばね(図示せず)により20kgfの押し付け力が付与される。チャンバ2はショットピーニング施工時において後述の水流9による反力を受けるが、20kgfの押し付け力により、チャンバ2のショットピーニング施工時における浮き上がりが防止される。
チャンバ2の開放端が炉心シュラウドの内面に押し付けられた後、シャッタ24が開けられる。シャッタ24の開閉は、開閉機構(図示せず)により行われる。この開閉機構は、図示されていないが、例えば、モータ、ボールネジ及びボールナットを有し、ボールネジが連結されたモータをチャンバ2の外面に取り付け、シャッタ24に取り付けたボールナットをボールネジに噛み合わせて構成される。モータによりボールネジを回転させることによってシャッタ24が開閉のために移動される。
補給水供給管10を通して純水5がチャンバ2内に供給され、チャンバ2内が純水5で満たされる。チャンバ2内が純水5で満たされたとき、補給水供給管10によるチャンバ2内への純水5の供給を停止する。チャンバ2の外側は空気雰囲気である。シャッタ24が開いた状態で、電動モータ6cを回転させる。電動モータ6cの回転力は回転軸6bを介して回転羽根6aに伝えられ、回転羽根6aを回転させる。回転羽根6aの回転によりチャンバ2内に循環する水流9が発生し、チャンバ2内の領域30Aに存在するショット4が水流9に同伴して移動し、チャンバ2で覆われた炉心シュラウドのV1溶接線の部分(ピーニング施工対象物11)の内面にショット4が衝突する。
このショット4の衝突により炉心シュラウドのその内面部が押し延しの塑性変形を受け、ショット4が衝突する内面部以外の、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の母材部が押し延しの塑性変形を受けた部分を弾性拘束するため、その内面部に圧縮応力が生成される。炉心シュラウドのその内面部に衝突したショット4は、衝突の反動で跳ね返り、水流9に同伴されて炉心シュラウドのその内面部からメッシュ8に向かって流れる水流9に同伴して移動し、メッシュ8の付近で回転羽根6aの回転により発生する水流9によって反転され、再び、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に向って移動し、その内面に衝突する。このように、チャンバ2内に存在する各ショット4は、回転羽根6aの回転により発生する水流9によって、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。ショット4の衝突による炉心シュラウドのその内面へのショットピーニングは、約2分間行われる。炉心シュラウドのその内面へのショットピーニングを約2分間実施することにより、その内面に適切な圧縮残留応力を付与することが得きる。
ショットピーニングの施工中において、チャンバ1の開放端と炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の間からチャンバ2内の純水5が若干漏洩する。補給水供給管10内はチャンバ2内と同じ圧力が付与されており、チャンバ1の開放端と炉心シュラウドのその内面の間からチャンバ2内の純水5が漏洩してチャンバ2内の圧力が低下したとき、補給水供給管10を通してチャンバ2内に純水5が補給される。
ショット4の衝突により炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面から剥された汚染物は、ポンプ26を駆動することにより、チャンバ2内の純水5とともに、メッシュ8の升目を通って領域30Aから領域30Bに移動し、さらに、吸引ホース25を通ってフィルタ装置27に流入する。フィルタ装置27は、流入した汚染物質を除去し、純水5を排出する。この純水5は、戻りホース28を通ってチャンバ2内に戻される。このように、チャンバ2内の純水5が、吸引ホース25、フィルタ装置27、戻りホース28及びチャンバ2を循環することによってチャンバ2内の上記汚染物がフィルタ装置27によって除去される。2基のフィルタ装置27が並列に吸引ホース25に設けられ、これらのフィルタ装置27が交互に汚染物を除去する。汚染物の除去によりフィルタ装置27の除去性能が低下した場合には、除去性能が低下したフィルタ装置27への通水が停止され、そのフィルタ装置27内のフィルタが新しいフィルタと交換される。
チャンバ2によって覆われた、炉心シュラウドの上記内面への圧縮残留応力の付与が完了したとき、電動モータ6cの駆動を停止して回転羽根6aの回転を止める。その後、シャッタ24を閉めてチャンバ2の開放端を封鎖し、チャンバ2を、チャンバ移動装置23により、炉心シュラウドの上記内面から若干離してその内面に沿って、炉心シュラウドの、圧縮残留応力を付与した内面の隣の領域まで移動させる。この位置で、チャンバ2が押し付け機構3により炉心シュラウドの表面に押し付けられ、シャッタ24が開けられる。そして、前述したように、補給水供給管10を通して純水5がチャンバ2内に供給され、回転羽根6aが回転されて水流9が発生し、衝突するショット4により、チャンバ2によって覆われている、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に圧縮残留応力が付与される。このようにして、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に、順次、圧縮残留応力が付与される。
本実施例のショットピーニング方法による炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、ピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の形状を模擬した、ステンレス鋼であるSUS316L製の平板の試験片に対して、ショットピーニング装置1を用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2の外側を空気雰囲気にし行った。上記の試験片は、200mm×200mm×厚さ10mmの平板である。発明者らは、本実施例のショットピーニングを施工する前の状態において炉心シュラウドの表面に生じている引張り残留応力を付与するために、試験片の本実施例のショットピーニングを施工する表面に、予め研削加工を施して図2に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験片に対してショットピーニング装置1を用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験片の表面に図2に実線で示す約−400MPaの圧縮残留応力を付与することができた。なお、試験片に生じている残留応力はX線残留応力測定装置で測定した。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。このような応力改善効果は応力腐食割れを防止するためには十分なものである。
また、発明者らは、上記した試験片と同じである、SUS316L製で200mm×200mm×厚さ10mmの平板の別の試験片を水に浸漬し、水中でその試験片に対してショットピーニング装置1を用いた前述の本実施例のショットピーニング方法を実施した。この結果、この試験片の表面に、上記した試験片と同様に、図2に実線で示す残留圧縮応力が付与された。
チャンバ2外側を空気環境および水中環境のそれぞれの環境にして前述の本実施例のショットピーニング方法を施工した各試験片を、42%の沸騰塩化マグネシウム溶液に浸漬させて応力腐食割れ試験を実施した結果、圧縮残留応力に改善された、各試験片の表面において応力腐食割れの発生は認められなかった。
本実施例では、特開2011−56616号公報のようにピーニング施工対象物に向かう水流を発生させるためにチャンバ内に外部から供給する高圧水を噴射させるのではなく、水流発生装置6の回転羽根6aを回転させることにより、ショット4をピーニング施工対象物11の表面に衝突させる水流9をチャンバ2内で発生させるので、チャンバ2内の水の量を増加させないで水流9を発生させることができ、チャンバ2内の純水5のチャンバ2外への流出を著しく減少させることができる。本実施例のショットピーニング方法の実施中においてチャンバ2内からチャンバ2外に漏洩する純水5の量を測定した結果、ショットピーニングを実施する一箇所あたりの2分間で、その漏洩水量が5cm3程度であることを確認することができた。この漏洩量は、チャンバ2内の容積110cm3の5%以下であり、ショット4の衝突により炉心シュラウドの表面から剥された汚染物がチャンバ2外の雰囲気、すなわち、原子炉圧力容器内に流出する量を著しく低減することができ、原子炉圧力容器内での汚染物の拡散を抑制することができる。
チャンバ2内で回転羽根6aの前面、すなわち、領域30Aと領域30Bの境界にメッシュ8を配置しているので、水流9によって循環しているメッシュ4が回転羽根6aに衝突することを防止できる。このため、回転羽根6aが損傷することを防止することができる。また、チャンバ2の開放端側に開閉可能なシャッタ24を設けているため、ピーニング施工対象物11の表面に対するショットピーニング施工対象表面を変えるためにチャンバ2を移動する際に、シャッタ24によりチャンバ2の開放端を封鎖することができる。このため、チャンバ2の移動時においてチャンバ2内のショット4がチャンバ2外にこぼれ落ちることを、閉じられたシャッタ24により防止することができる。
前述の炉心シュラウドの表面に対するショットピーニング装置1を用いた前述の本実施例のショットピーニング方法は、チャンバ2の外側を空気環境にして行ったが、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ移動装置23によりチャンバ2を原子炉圧力容器内の冷却水中を移動させてチャンバ2を炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に押しつけ、チャンバ2で覆われた炉心シュラウドのその内面に対して実施しても良い。この場合には、水流発生装置6の電動モータ6cとしては、水密構造の電動モータ6cを用いる。水中において、ショットピーニング装置1を用いた前述の本実施例のショットピーニング方法をピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に対して行っても、上記した空気雰囲気で実施するショットピーニング方法により生じる各効果を得ることができる。原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、ショットピーニング装置1を用いた前述の本実施例のショットピーニング方法を水中で行うことにより、原子炉圧力容器内に充填された冷却水により原子炉圧力容器内の炉内構造物から放出される放射線を遮へいすることができるので、放射線遮へい対策を別途講じる必要がなくなる。
本発明の他の実施例である実施例2のショットピーニング方法を、図3を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、例えば、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設置された炉心シュラウドのH3溶接線等の隅肉溶接部に対して実施される。
隅肉溶接部12を有するピーニング施工対象物11である、例えば、炉心シュラウドの隅肉溶接部に対して実施される本実施例のショットピーニング方法では、実施例1で用いられる、実質的に、ショットピーニング装置1が用いられる。本実施例で用いられるショットピーニング装置1は、チャンバ2の寸法、メッシュ8に形成される升目の大きさ、及びチャンバ2内で用いられるショットの個数及び大きさが実施例1で用いられるショットピーニング装置1と異なっているが、その構成は、実質的に実施例1で用いられるショットピーニング装置1と同じである。
本実施例に用いられるショットピーニング装置1において、実施例1で用いるショットピーニング装置1と異なっている構成のみについて説明する。本実施例で用いるショットピーニング装置1は、チャンバ2の大きさが内径55mm、外径75mm及び高さが40mmであり、チャンバ2内に設けられたメッシュ8の各升目の大きさが一辺が0.5mmの矩形となっている。さらに、本実施例に用いられるショットピーニング装置1では、チャンバ2内の領域30Aに、ステンレス鋼であるSUS316L製で直径4mmであるショット4を100個、及びSUS316L製で直径1mmであるショット4bを100個充填している。本実施例で用いるショットピーニング装置1の他の構成は実施例1で用いるショットピーニング装置1と同じである。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、実施例1と同様に、チャンバ移動装置23により、チャンバ2を、空気雰囲気(または冷却水雰囲気)である原子炉圧力容器内を移動させ、ピーニング施工対象物11である炉心シュラウドの隅肉溶接部12の位置まで移動させる。チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2が、炉心シュラウドの隅肉溶接部12に対向して炉心シュラウドに押し付けられる。チャンバ2は、チャンバ2が炉心シュラウドに押し付けられたときにチャンバ2の開放端の全面が隅肉溶接部12を含む炉心シュラウドの表面に接触する形状を有している。チャンバ2が炉心シュラウドに押し付けられた状態で、隅肉溶接部12と軸受7が取り付けられるチャンバ2の端面の間の最大距離Lは、60mmになる。
ショットピーニングを施工する前に、補給水供給管10を通して純水5がチャンバ2内に供給され、チャンバ2内が純水5で満たされる。原子炉圧力容器内の、チャンバ2の外側の領域は空気雰囲気(または冷却水)雰囲気である。電動モータ6cが駆動されて回転羽根6aが回転し、チャンバ2内の領域30Aで水流9が発生する。この水流9によりショット4及び4bがチャンバ2で覆われたピーニング施工対象物11である炉心シュラウドの表面、特に、隅肉溶接部12の表面に衝突する。ショット4及び4bが、領域30Aにおいて、隅肉溶接部12を含む、炉心シュラウドの表面部への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。
本実施例では、チャンバ2内の領域30Aにショット4、及びショット4(直径4mm)よりも直径が小さいショット4b(直径1mm)を充填している。このため、ショット4bが、ショット4が衝突できない隅肉溶接部12の表面に衝突し、隅肉溶接部12の表面部に押し延しの塑性変形が生じる。隅肉溶接部12の両側に存在する、炉心シュラウドの表面にはショット4及び4bが衝突する。この結果、チャンバ2で覆われた、隅肉溶接部12の表面を含む炉心シュラウドの表面に圧縮残留応力が付与される。
実施例1と同様に、隅肉溶接部12に沿ってチャンバ2を移動させ、隅肉溶接部12の異なる場所に対してショットピーニングが実施される。
本実施例のショットピーニング方法による、隅肉溶接部12を含む炉心シュラウドの表面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、炉心シュラウドの例えばH3溶接線の隅肉溶接部の形状を模擬した、ステンレス鋼であるSUS316L製の試験片に対して、ショットピーニング装置1を用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2の外側を空気雰囲気にして行った。上記の試験片は、200mm×200mm×厚さ10mmの2枚の平板を直角に配置してこれらの平板に隅肉溶接を施して作成した。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験片の表面に、研削加工により図4に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験片に対してショットピーニング装置1を用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験片の表面に図4に実線で示すように、隅肉溶接部12の中心から両側±30mmの範囲に−400MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11である隅肉溶接部12を含む炉心シュラウドの内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。特に、ショット4bを用いることによって隅肉溶接部12の表面にも圧縮残留応力を付与することができた。
また、チャンバ2内からチャンバ2外に漏洩する純水5の量を測定した結果、ショットピーニングを実施する一箇所あたりの2分間で、その漏洩水量が7cm3程度とわずかであることを確認することができた。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例のショットピーニング方法は、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ2を冷却水中に浸漬させても実施することができる。
本発明の他の実施例である実施例3のショットピーニング方法を、図5を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、例えば、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設置された配管であるライザ管の外面に対して実施される。SUS316L製のライザ管は、原子炉圧力容器内に設置されたジェットポンプに連絡されている。ジェットポンプ及びライザ管は、原子炉圧力容器と炉心シュラウドの間に形成される環状のダウンカマに配置されている。
ピーニング施工対象物11Aである、例えば、ライザ管の外面に対して実施される本実施例のショットピーニング方法では、図5に示すショットピーニング装置1Aが用いられる。ショットピーニング装置1Aは、実施例1で用いられるショットピーニング装置1においてチャンバ2をチャンバ2Aに替えた構成を有する。ショットピーニング装置1Aの他の構成は実施例1で用いられるショットピーニング装置1と同じである。チャンバ2Aは、チャンバ2の開放端部に、先端に向かって外径が減少する円筒状のテーパー部2aを形成した構成を有する。
チャンバ2Aのテーパー部2aの先端の内径Dは40mmである。テーパー部2aを有する、チャンバ2Aの他の寸法は、ショットピーニング装置1のチャンバ2と同じである。テーパー部2aの先端は、その全周がピーニング施工対象物11Aであるライザ管の外面に接触するような曲率の曲面を有している。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、ショットピーニング装置1Aのチャンバ2Aは、チャンバ移動装置23により、冷却水が存在しない原子炉圧力容器内のダウンカマ内を下降し、ダウンカマ内に配置されたライザ管の外面まで移動される。チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2Aのテーパー部2aの先端が、ライザ管の外面に押し付けられる。
補給水供給管10を通して純水5をチャンバ2A内に供給した後、回転羽根6aを回転させ、チャンバ2A内の領域30Aに水流9を発生させる。この水流9によりショット4がチャンバ2Aで覆われたピーニング施工対象物11Aであるライザ管の外面に衝突する。ショット4が、領域30Aにおいて、ライザ管の外面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。ライザ管の外面の一つの位置において、2分間の間、ショットピーニングを施工した後、チャンバ移動装置23によりチャンバ2Aをライザ管の周方向に移動させ、その周方向においてライザ管の外面の異なる位置で本実施例のショットピーニング方法を実施する。ライザ管の外面の全周に亘ってショットピーニングが施工される。全周に対するショットピーニングが終了した後、チャンバ2Aをライザ管の軸方向に移動させ、その軸方向の異なる位置でショットピーニングを施工する。このようなショットピーニングの実施により圧縮残留応力がライザ管の外面に付与される。
本実施例のショットピーニング方法による、ライザ管外面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、ライザ管を模擬したSUS316L製で外径300mmの円筒状の試験体の外面に対して、ショットピーニング装置1Aを用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2の外側を空気雰囲気にして行った。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験体の外面に、研削加工により図6に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験体に対してショットピーニング装置1Aを用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験体の外面に図6に実線で示すように、チャンバ2Aの中心から両側±15mmの範囲に−400MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11Aであるライザ管の外面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
また、チャンバ2A内からチャンバ2A外に漏洩する純水5の量を測定した結果、ショットピーニングを実施する一箇所あたりの2分間で、その漏洩水量が4cm3程度とわずかであることを確認することができた。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。チャンバ2Aにテーパー部2aを形成しないでチャンバを開放端まで内径が同じ円筒状にすると、その開放端付近の領域2b(チャンバ2Aのテーパー部2aよりもライザ管側の領域)にショット4及び4bBが滞留する。テーパー部2aを形成したチャンバ2Aでは、そのようなチャンバ内におけるショット4及び4bの滞留を防止することができる。
本実施例のショットピーニング方法は、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ2を冷却水中に浸漬させてライザ管の外面に対しても実施することができる。
本発明の他の実施例である実施例4のショットピーニング方法を、図7を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、例えば、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設置された、ピーニング施工対象物11Bである炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面に対して実施される。炉心シュラウドのH4溶接線の部分は円筒状になっている。
炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面を対象に実施される本実施例のショットピーニング方法では、実施例1で用いられるショットピーニング装置1が用いられる。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、実施例1と同様に、チャンバ移動装置23により、チャンバ2を、空気雰囲気である原子炉圧力容器内を移動させ、ピーニング施工対象物11Bである炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面の位置まで移動させる。チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2が、炉心シュラウドの内面に押し付けられる。
補給水供給管10を通して純水5をチャンバ2内に供給した後、回転羽根6aを回転させ、チャンバ2内の領域30Aに水流9を発生させる。この水流9によりショット4がチャンバ2で覆われたピーニング施工対象物11Bである炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面に衝突する。ショット4が、領域30Aにおいて、ライザ管の外面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面の一つの位置において、2分間の間、ショットピーニングを施工した後、チャンバ移動装置23によりチャンバ2を炉心シュラウドの周方向に移動させ、炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面の他の位置で本実施例のショットピーニング方法を実施する。H4溶接線の内面の全周に亘ってショットピーニングが施工される。このようなショットピーニングの実施により圧縮残留応力が炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面に付与される。
本実施例のショットピーニング方法による、炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、そのH4溶接線の部分を模擬したSUS316L製で厚さ50mm、半径2500mmの円弧状の試験体の外面に対して、ショットピーニング装置1を用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2の外側を空気雰囲気にして行った。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験体の内面に、研削加工により図8に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験体の内面に対してショットピーニング装置1を用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験体の内面に図8に実線で示すように、チャンバ2の中心から両側±20mmの範囲に−400MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11Bである炉心シュラウドのH4溶接線の部分の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
また、チャンバ2内からチャンバ2外に漏洩する純水5の量を測定した結果、ショットピーニングを実施する一箇所あたりの2分間で、その漏洩水量が5cm3程度とわずかであることを確認することができた。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例のショットピーニング方法は、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ2を冷却水中に浸漬させても実施することができる。
本発明の他の実施例である実施例5のショットピーニング方法を、図9及び図10を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、例えば、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の下鏡部と制御棒駆動機構スタブ(以下、CRDスタブという)の溶接部12Aの内面付近に対して実施される。その下鏡部及びCRDスタブは、600系のNi基合金で作られている。本実施例におけるピーニング施工対象物は、ピーニング施工対象物11Cである原子炉圧力容器の下鏡部、及びピーニング施工対象物11DであるCRDスタブの2つである。CRDスタブは円筒状をしている。
本実施例のショットピーニング方法に用いられるショットピーニング装置1Bは、実施例1に用いるショットピーニング装置1において、チャンバ2をチャンバ2Bに替え、複数の仕切り部材29及び円筒状の仕切り部材29Aを追加し、さらに、複数(例えば、4基)の水流発生装置6を設けた構成を有する。ショットピーニング装置1Bの他の構成はショットピーニング装置1と同じである。ショットピーニング装置1Bに用いられるそれぞれの水流発生装置6は、ショットピーニング装置1で用いられる水流発生装置6と同じ構成を有する。
チャンバ2Bの開放端は、全周にわたって原子炉圧力容器の下鏡部の内面に接触するように、その下鏡の内面の形状にマッチングするように形成されている。チャンバ2B内を領域30Aと領域30Bに分割するメッシュ8は、チャンバ2Bの内面に取り付けられ、一辺が0.5mmの矩形の多数の升目を形成している。メッシュ8よりもチャンバ2Bの先端側に形成された領域30Aには、CRDスタブの周囲を取り囲む円筒状の仕切り部材29A、及び仕切り部材29Aから放射状に配置された複数の仕切り部材29が配置されている。仕切り部材29Aの上端はメッシュ8に取り付けられ、仕切り部材29Aからチャンバ2Bの内面に向かって放射状に伸びる4枚の仕切り部材29が仕切り部材29Aとチャンバ2Bの間に配置される。仕切り部材29及び29AはSUS316Lで作られている。各仕切り部材29のチャンバ2Bの半径方向における両端部が、チャンバ2Bの内面及び仕切り部材29Aの外面にそれぞれ取り付けられる。4枚の板状の仕切り部材29によって、チャンバ2Bと仕切り部材29Aの間に形成された環状領域がチャンバ2Bの周方向において4つの領域に分けられる(図10参照)。チャンバ2BがCRDスタブを取り囲み、上記した4つの領域が形成されるため、チャンバ2Bの容積は、ショットピーニング装置1のチャンバ2の容積よりも大きくなっている。
4基の水流発生装置6が、チャンバ2Bの開放端の反対側でチャンバ2Bにそれぞれ取り付けられる。各水流発生装置6の回転羽根6aは、仕切り部材29で仕切られて形成された上記の4つの領域のそれぞれの真上で、メッシュ8より上方の領域30B内に配置される。
仕切り部材29で仕切られた、領域30内の4つの領域のそれぞれに、不純物の混入を防止するために600系のNi基合金で作られているショット4及び4Bを充填する。4つの領域のそれぞれに、直径4mmのショット4を200個、及び直径1mmのショット4bを200個充填している。ショット4bを加えている理由は、実施例2と同様に、原子炉圧力容器の下鏡部とCRDスタブの隅肉溶接部である溶接部12Aの内面に圧縮残留応力を付与するためである。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、実施例1と同様に、チャンバ移動装置23により、チャンバ2Bを、空気雰囲気である原子炉圧力容器内を移動させ、原子炉圧力容器の炉底部まで下降させる。さらに、チャンバ2Bは、ピーニング施工対象物11DであるCRDスタブを取り囲み、ピーニング施工対象物である下鏡部の内面に接触するまで下降される。チャンバ2Bの開放端が下鏡部の内面に接触したとき、チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2Bが、原子炉圧力容器の下鏡部の内面に押し付けられる。本実施例では、容積の大きなチャンバ2Bが押し付け機構3のバネにより40kgfの押し付け力で下鏡部の内面に押し付けられる。このとき、チャンバ2B内に設けられた仕切り部材29Aは、溶接部12A付近を除いてCRDスタブの周囲を取り囲んでいる。
補給水供給管10を通して純水5をチャンバ2B内に供給して領域30A内の4つの領域及び領域30Bを純水5で満たした後、4基の水流発生装置6の各回転羽根6aを回転させ、領域30A内の上記した4つの領域のそれぞれにおいて水流9を発生させる。仕切り部材29で仕切られた4つの領域内で、その水流9に同伴するショット4及び4bが、下鏡部の内面及び溶接部12Aの内面に衝突する。ショット4及び4bが、領域30A内のそれぞれの領域において、下鏡部の内面または溶接部12Aの内面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。溶接部12Aの内面、及び溶接部12A付近における、原子炉圧力容器の下鏡部の内面に対して、2分間の間、本実施例のショットピーニング方法が実施される。このようなショットピーニングの実施により圧縮残留応力が下鏡部の内面または溶接部12Aの内面に付与される。
本実施例のショットピーニング方法による、溶接部12Aの内面、及び溶接部12A付近における下鏡部の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、原子炉圧力容器の下鏡部及び下鏡部に取り付けらCRDスタブを模擬した600系のNi基合金製の試験体の溶接部12Aの内面及び下鏡部の内面に対して、ショットピーニング装置1Bを用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2Bの外側を空気雰囲気にして行った。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験体の溶接部12Aの内面及び下鏡部の内面に、研削加工により図11に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験体の上記のそれぞれの内面に対してショットピーニング装置1Bを用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験体の内面に図10に実線で示すように、位相1〜5のうちで最も応力改善効果が少ない部位でも−300MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。位相1〜5は、図10に示すように、各仕切り部材29で仕切られて形成された領域に面する、チャンバ2Bの領域である。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11Cである下鏡部とピーニング施工対象物11DであるCRDスタブの溶接部12Aの内面及び溶接部12A付近における下鏡部の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を少なくとも−300MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
また、チャンバ2B内からチャンバ2B外に漏洩する純水5の量を測定した結果、ショットピーニングを実施する一箇所あたりの2分間で、その漏洩水量が20cm3程度であった。この漏洩水量は、チャンバ2Bの容積である500cm3の5%以下である。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。仕切り部材29の設置はショット4及び4bを領域30A内で均一に分散させることができ、下鏡部の内面及び溶接部12Aの内面に圧縮残留応力の均一に付与することができる。
本実施例のショットピーニング方法は、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ2Bを冷却水中に浸漬させた状態でも実施することができる。
本発明の他の実施例である実施例6のショットピーニング方法を、図12を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、実施例1と同様に、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設けられた炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に対して行われる。本実施例におけるピーニング施工対象物11は炉心シュラウドのV1溶接線の部分である。本実施例のショットピーニング方法で用いられるショットピーニング装置1Cは、実施例1で用いられるショットピーニング装置1に、製氷装置14及び氷供給管15を追加した構成を有する。ショットピーニング装置1Cの他の構成はショットピーニング装置1と同じである。
製氷装置14に接続される氷供給管15は、チャンバ2に接続され、チャンバ2内の領域30Aに連絡される。本実施例のショットピーニング方法では金属製のショットの替りに氷の粒子4cが用いられる。この氷の粒子4cはショットの一種である。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、ショットピーニング装置1Cのチャンバ2は、チャンバ移動装置23により、冷却水が存在しない原子炉圧力容器内の炉心シュラウド内を下降し、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面まで移動される。そして、チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2の開放端が、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に押し付けられる。
補給水供給管10を通して純水5をチャンバ2内に供給し、さらに、製氷装置14で作成された氷の粒子4cが氷供給管15を通してチャンバ2の領域30Aに供給される。氷の粒子4cの直径は約10mmである。氷の粒子4cは、氷供給管15から、30cm3/minの供給量でチャンバ2内に供給される。チャンバ2内に純水5及び氷の粒子4cが供給された後、回転羽根6aを回転させ、チャンバ2A内の領域30Aに水流9を発生させる。この水流9により氷の粒子4cがチャンバ2Aで覆われたピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に衝突する。氷の粒子4cが、領域30Aにおいて、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。のV1溶接線の部分の内面の一つの位置において、2分間の間、ショットピーニングを施工した後、チャンバ移動装置23によりチャンバ2を炉心シュラウドの周方向に移動させ、その周方向において炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の異なる位置で本実施例のショットピーニング方法を実施する。このような氷の粒子4cを用いたショットピーニングの実施により圧縮残留応力が炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の外面に付与される。氷の粒子4cはチャンバ2内の領域30Aで水流9と共に循環している間に溶けてやがてなくなってしまうが、製氷装置14で製造された新たな氷の粒子4cをチャンバ2内の領域30Aに補給することができる。
本実施例のショットピーニング方法による、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の形状を模擬したSUS316L製の平板の試験片の表面に対して、ショットピーニング装置1Cを用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングはチャンバ2の外側を空気雰囲気にして行った。上記の試験片は、200mm×200mm×厚さ10mmの平板である。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験片の表面に、研削加工により図13に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験片に対してショットピーニング装置1Cを用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を実施した結果、試験片の表面に図13に実線で示すように、チャンバ2の中心から半径20mm以内の範囲に−200MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11であるのV1溶接線の部分の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−200MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、金属製のショット4の替りに氷の粒子4cを用いる本実施例は、万が一、金属製のショット4がチャンバ2の外部で原子炉圧力容器内にこぼれ落ちた場合には、こぼれ落ちたショット4を原子炉圧力容器内から回収しなければならない。こぼれ落ちたショット4をそのままにして原子炉の運転を開始した場合には、原子炉圧力容器内に残ったショット4が原子炉圧力容器内の冷却水の流れに同伴して、原子炉圧力容器内の炉内構造物または炉心に装荷された燃料集合体に衝突し、それらに損傷を与える。これを避けるために、前述したように、こぼれ落ちた金属製のショット4を回収しなければならないが、直径の小さいショット4の回収作業のために、原子炉を停止している時間が長くなる。金属製のショット4の替りに氷の粒子4cを用いている本実施例では、ショットピーニングの作業中において、氷の粒子4cがチャンバ2の外部で原子炉圧力容器内にこぼれ落ちても、氷の粒子4cは溶けて水になるため、原子炉圧力容器内にこぼれ落ちた氷の粒子4cによって原子炉圧力容器内の炉内構造物及び燃料集合体が損傷することが防止できる。
本実施例のショットピーニング方法は、原子炉圧力容器内に冷却水を充填した状態で、チャンバ2を冷却水中に浸漬させてライザ管の外面に対しても実施することができる。
本発明の他の実施例である実施例7のショットピーニング方法を、図14を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、実施例1と同様に、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設けられた、ピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に対して実施される。本実施例のショットピーニング方法に用いられるショットピーニング装置1Dは、実施例1で用いられるショットピーニング装置1において水流発生装置6を水流発生装置6Aに替え、補給水供給管10を取り除いた構成を有する。ショットピーニング装置1Dの他の構成はショットピーニング装置1と同じである。水流発生装置6Aは、水流発生装置6において電動モータ6cを水密式のエアーモータ16に替えた構成を有する。水流発生装置6Aの他の構成は水流発生装置6と同じである。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、ショットピーニング装置1Dのチャンバ2は、チャンバ移動装置23により、冷却水17が充填されている原子炉圧力容器内の炉心シュラウド内を下降し、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面まで移動される。そして、チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2の開放端が、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に押し付けられる。
チャンバ2内は冷却水17で満たされているので、エアーモータ16を駆動して回転羽根6aを回転させ、チャンバ2内の領域30Aに水流9を発生させる。この水流9によりショット4がチャンバ2で覆われたピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に衝突する。ショット4が、領域30Aにおいて、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の一つの位置において、2分間の間、ショットピーニングを施工した後、チャンバ移動装置23によりチャンバ2を炉心シュラウドの周方向に移動させ、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の他の位置で本実施例のショットピーニング方法を実施する。
本実施例のショットピーニング方法による、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の形状を模擬したSUS316L製の平板の試験片の表面に対して、ショットピーニング装置1Dを用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングは、試験片を水中に浸漬させてチャンバ2も水中で試験片の表面に押し付けて行った。上記の試験片は、200mm×200mm×厚さ10mmの平板である。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験片の表面に、研削加工により図15に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験片に対してショットピーニング装置1Dを用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を水中で実施した結果、試験片の表面に図15に実線で示すように、チャンバ2の中心から半径20mm以内の範囲に−400MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11であるのV1溶接線の部分の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例のショットピーニング方法は水中で実施されるので、原子炉圧力容器内の構造物から放出される放射線を、放射線遮へい体を別途設置する必要がなく、原子炉圧力容器内に充填した冷却水17で遮へいすることができる。
電動モータ6cを用いたときに電気の水中への漏洩が万が一生じた場合には、人身災害の危険性、及び原子炉圧力容器に設置されている既設センサの損傷等が危惧される。エアーモータ16を用いている本実施例は、そのような危惧を解消することができる。さらに、補給水供給管10が不要になるため、ショットピーニング装置1Dが簡素化される。
本発明の他の実施例である実施例8のショットピーニング方法を、図16、図17及び図18を用いて説明する。本実施例のショットピーニング方法は、実施例1と同様に、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設けられた、ピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に対して実施される。本実施例のショットピーニング方法に用いられるショットピーニング装置1Eは、実施例1で用いられるショットピーニング装置1において水流発生装置6を水流発生装置6Bに替えた構成を有する。ショットピーニング装置1Eの他の構成はショットピーニング装置1と同じである。水流発生装置6Bは、水流発生装置6において電動モータ6cを水流モータ18に替えた構成を有する。水流発生装置6Bの他の構成は水流発生装置6と同じである。
水流モータ18の構成を、図17及び図18を用いて説明する。水流モータ18は、ケーシング20内にインペラ19を配置し、このインペラに回転軸6bを連結している。回転軸6bはケーシング20を貫通してケーシング20の外部に達している。駆動水供給ホース21がケーシング20に接続され、駆動水排出ホース22がケーシング20に接続される。回転羽根6aがケーシング20の外部で回転軸6bに取り付けられる。
水流発生装置6Bの水流モータ18はチャンバ2の開放端の反対側に設置される。回転羽根6aはチャンバ2内で領域30Bに配置される。
沸騰水型原子炉の運転停止後における、例えば、定期検査において、ショットピーニング装置1Eのチャンバ2は、チャンバ移動装置23により、冷却水17が充填されている原子炉圧力容器内の炉心シュラウド内を下降し、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面まで移動される。そして、チャンバ移動装置23及び押し付け機構3により、チャンバ2の開放端が、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に押し付けられる。
チャンバ2内は冷却水17で満たされているので、駆動水供給ホース21を通してケーシング20内に駆動水を供給する。駆動水はケーシング20から駆動水排出ホース22に排出される。ケーシング20内のインペラ19は、駆動水の供給により回転し、回転羽根6aを回転させる。回転羽根6aの回転はチャンバ2内の領域30Aに水流9を発生させる。この水流9によりショット4がチャンバ2で覆われたピーニング施工対象物11である炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面に衝突する。ショット4が、領域30Aにおいて、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への衝突及びメッシュ8に向かう移動を繰り返す。炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の一つの位置において、2分間の間、ショットピーニングを施工した後、チャンバ移動装置23によりチャンバ2を炉心シュラウドの周方向に移動させ、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面の他の位置で本実施例のショットピーニング方法を実施する。
本実施例のショットピーニング方法による、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の内面への圧縮残留応力の付与を確認するために、発明者らは、炉心シュラウドのV1溶接線の部分の形状を模擬したSUS316L製の平板の試験片の表面に対して、ショットピーニング装置1Eを用いて上記したようにショットピーニングを行った。このショットピーニングは、試験片を水中に浸漬させてチャンバ2も水中で試験片の表面に押し付けて行った。上記の試験片は、200mm×200mm×厚さ10mmの平板である。発明者らは、実施例1で述べた平板の試験片と同様に、本実施例のショットピーニングを施工する、試験片の表面に、研削加工により図19に破線で示す400MPaの引張残留応力を付与した。この試験片に対してショットピーニング装置1を用いて前述した本実施例のショットピーニング方法を水中で実施した結果、試験片の表面に図19に実線で示すように、チャンバ2の中心から半径20mm以内の範囲に−400MPa程度の圧縮残留応力を付与することができた。
このように、本実施例のショットピーニングを実施することによってピーニング施工対象物11であるのV1溶接線の部分の内面において、本実施例のショットピーニング施工前の400MPaの引張り残留応力を−400MPa程度の圧縮残留応力に改善することができる。
本実施例は実施例7で生じる各効果を得ることができる。