以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
〈合成経路作成装置1の構成〉
図1は、本実施形態に係る合成経路作成装置1の構成図である。図1に示すように、合成経路作成装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、ハードディスク駆動装置4、可搬媒体駆動装置5、入力装置6、表示装置7及び外部インターフェース8を有している。
CPU2は、メモリ3に格納されているコンピュータプログラムを実行するとともに、メモリ3に格納されているデータを処理することにより、合成経路作成装置1を制御する。メモリ3は、CPU2で実行されるプログラムやCPU2で処理されるデータを記憶する。メモリ3は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)とを含む。
ハードディスク駆動装置4は、メモリ3にロードされるプログラムを記憶する。また、ハードディスク駆動装置4は、CPU2で処理されるデータを記憶する。可搬媒体駆動装置5は、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、HD−DVD(High Definition−DVD)、ブルーレイディスク等の可搬媒体の駆動装置である。また、可搬媒体駆動装置5は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを有するカード媒体の入出力装置であってもよい。可搬媒体駆動装置5によって駆動される可搬媒体は、例えば、ハードディスク駆動装置4にインストールされるコンピュータプログラム、入力データ等を保持する。入力装置6は、例えば、キーボード、マウス、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン等である。
表示装置7は、CPU2で処理されるデータやメモリ3に記憶されるデータを表示する。表示装置7は、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、CRT(Cathode Ray Tube)、エレクトロルミネッセンスパネル等である。
外部インターフェース8は、合成経路作成装置1を外部ネットワークに接続する。外部インターフェース8は、例えば、モデム、ターミナルアダプタ等の通信装置を備えており、合成経路作成装置1と外部ネットワーク上の機器との通信の制御を行う。外部ネットワークは、例えば、インターネットやローカルエリアネットワーク(LAN)である。また、電話線、専用線、光通信網、通信衛生などの通信回線により外部ネットワークを構成してもよい。
本実施形態に係る合成経路作成装置1は、出発化合物から目的化合物までの化合物合成経路を作成する。化合物合成経路の作成は、仮想反応法及び最適化法の2種類がある。仮想反応法及び最適化法では、化合物を独自の表現方法によって定義する。
〈化合物を独自の表現方法によって定義する手順の一例〉
まず、化合物を独自の表現方法によって定義する手順の一例について説明する。この手順においては、化合物の化学構造式に含まれている部分構造を所定の基準に従って分類し、化合物の化学構造式に含まれている部分構造を文字列として定義する。所定の基準は、化合物構造について厳密に定義した基準であってもよいし、化合物構造の類似性を考慮した基準であってもよい。また、所定の基準は、官能基別(alkane、alkeneなど)に基づいた基準であってもよい。例えば、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)のデータベースに登録されているatom typesに従って、化合物の化学構造式に含まれている部分構造を分類してもよい。また、例えば、KEGGのデータベースに登録されているatom typesをグループ化し、グループ化されたatom typesに従って、化合物の化学構造式に含まれている部分構造を分類してもよい。
KEGGのデータベースに登録されている炭素(C)を有する化合物についてのatom typesをグループ化した場合の例を図2に示す。図2では、化学反応類似性に基づいて、atom typesのグループ化が行われているが、官能基別(alkane、alkeneなど)に基づいて、atom typesのグループ化を行ってもよい。図2のC1a、C1b、C1c及びC1dは、KEGGのデータベースに登録されているatom typesに割り当てられた識別番号である。図2のC2aやC3a等についても同様である。図2のC01は、C1a、C1b、C1c及びC1dをグループ化したデータ(情報)に割り当てられた識別番号である。図2のC02やC03等についても同様である。
図3は、KEGGのデータベースに登録されている化合物についてのatom typesをグループ化した場合の例である。図3の識別番号Aのフィールドには、KEGGのデータベースに登録されている化合物についてのatom typesに割り当てられた識別番号が入力されている。図3の識別番号Bのフィールドには、KEGGのデータベースに登録されている化合物についてのatom typesをグループ化したデータに割り当てられた識別番号が入力されている。
図4は、化合物(3-Hydroxypropionate)の化学構造式に含まれている部分構造の個数及び部分構造の結合状態の個数をカウントした場合の例である。図4では、化合物(3-Hydroxypropionate)の化学構造式に含まれている部分構造の個数が、部分構造の種類毎にカウントされ、また、化合物(3-Hydroxypropionate)の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数が、部分構造の種類及び結合状態の種類毎にカウントされている。
図4の符号101で示すフィールドには、KEGGのデータベースに登録されている化合物についてのatom typesをグループ化したデータに割り当てられた識別番号が入力されている。図4の符号102で示すフィールドには、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の個数を、部分構造の種類毎にカウントした後の数値が入力されている。また、図4の符号102で示すフィールドには、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数を、部分構造の種類及び結合状態の種類毎にカウントした後の数値が入力されている。なお、図4において、一重結合は−で表記され、二重結合は=で表記され、三重結合は%で表記されている。本実施形態では、図4の符号102で示すフィールドに入力されている数値を連続的に並べたものを、UF(Universal Feature)と表記する。図4に示すように、化合物のUFは、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の個数を示す原子情報と、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数を示す結合情報とから構成されている。
〈合成経路作成装置1の機能構成〉
図5は、本実施形態に係る合成経路作成装置1の機能構成図である。図5に示す合成経路作成装置1は、ユーザの操作を受け付けて合成経路作成装置1を操作する操作部10と、化合物データベース11、既知反応データベース12、部分構造データベース13、共通構造データベース14、UFデータベース15、差分データベース16、17及び仮想反応データベース18を有する記憶部20と、各種の処理を実行する制御部21と、各種の情報を表示する表示部22とを備える。これらの各機能部は、CPU2、メモリ3等やCPU2で実行されるコンピュータプログラムによって実現される。
〈化合物データベース11〉
化合物データベース11には、化合物の名称と、化合物の化学構造式のデータとが関連付けて格納される。例えば、KEGGのデータベースに登録されている化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを関連付けて、化合物データベース11に格納してもよい。また、化合物データベース11には、KEGGのデータベースに登録されている化合物に加えて目的化合物(非天然化合物を含む)の化合物の名称と、化合物の化学構造式のデータとが関連付けて格納されてもよい。また、例えば、PubChem、BRENDA、MetaCycなどの代謝物データベースに登録されている化合物の名称と、化合物の化学構造式のデータとを関連付けて、化合物データベース11に格納してもよい。これに限らず、種々の化学物質データベースに登録されている化合物の名称と、化合物の化学構造式のデータとを関連付けて、化合物データベース11に格納してもよい。
本実施形態では、化合物データベース11に格納されている化合物について、化合物(例えば、化合物A)から化合物(例えば、化合物B)が合成されることが知られている化合物ペアにおける反応を、既知反応と表記する。既知反応であるか否かについては、ユーザが設定することが可能であるが、例えば、KEGGのデータベースに登録されている反応については、既知反応であるとしてもよい。
本実施形態では、化合物データベース11に格納されている化合物について、化合物(例えば、化合物A)から化合物(例えば、化合物B)が合成されることが知られている化合物ペアを、既知化合物ペアと表記する。この時、化合物Aと化合物Bとの間に中間体である化合物A’が存在していてもよい。
本実施形態では、化合物データベース11に格納されている化合物について、或る化合物(例えば、化合物C)から或る化合物(例えば、化合物D)が合成されることが知られていない化合物ペアにおける反応を、未知反応と表記する。本実施形態では、化合物データベース11に格納されている化合物について、或る化合物(例えば、化合物C)から或る化合物(例えば、化合物D)が合成されることが知られていない化合物ペアを、未知化合物ペアと表記する。
本実施形態では、化合物データベース11に格納されている化合物について、化合物(例えば、化合物A)から化合物(例えば、化合物B)が合成されることが知られている化合物ペアにおける反応に用いられる酵素を、既知反応酵素と表記する。
〈既知反応データベース12〉
既知反応データベース12には、既知化合物ペアにおける各化合物の名称と、既知化合物ペアにおける反応方向と、既知反応酵素とが、関連付けて格納される。既知反応酵素は、複数であってもよい。
例えば、KEGGのデータベースに登録されている化合物ペアにおける各化合物の名称と、化合物ペアの反応における反応方向と、化合物ペアにおける反応に用いられる酵素とを関連付けて、既知反応データベース12に格納してもよい。また、例えば、PubChem、BRENDA、MetaCycなどの代謝物データベースに登録されている化合物ペアにおける各化合物の名称と、化合物ペアにおける反応方向と、化合物ペアにおける反応に用いられる酵素とを関連付けて、既知反応データベース12に格納してもよい。また、大腸菌の代謝反応データベースに登録されている化合物ペアにおける各化合物の名称と、化合物ペアにおける反応方向と、化合物ペアにおける反応に用いられる酵素とを関連付けて、既知反応データベース12に格納してもよい。これに限らず、種々の化学物質データベースに登録されている化合物ペアにおける各化合物の名称と、化合物ペアにおける反応方向と、化合物ペアにおける反応に用いられる酵素とを関連付けて、既知反応データベース12に格納してもよい。
〈部分構造データベース13〉
部分構造データベース13には、化合物の化学構造式の部分データと、化合物の化学構造式の部分データに割り当てられた識別番号とが格納される。化合物の化学構造式の部分データは、所定の基準に従い、化合物の化学構造式から一部分の化学構造を抽出することによって作成されたデータである。例えば、KEGGのデータベースに登録されているatom typesに基づいて、化合物データベース11に登録されている化合物の化学構造式から一部分の化学構造を抽出することによって、化合物の化学構造式の部分データを作成してもよい。本実施形態では、化合物の化学構造式の部分データに割り当てられた識別番号を、構造番号と表記する。例えば、図2の例であれば、C1a、C1b、C1c及びC1dが、構造番号に相当する。
〈共通構造データベース14〉
共通構造データベース14には、化合物の化学構造式の部分データをグループ化したデータと、グループ化したデータに割り当てられた識別番号とが格納される。本実施形態では、化合物の化学構造式の部分データをグループ化したデータに割り当てられた識別番号を、共通構造番号と表記する。例えば、図2の例であれば、C01が共通構造番号に相当する。
〈UFデータベース15〉
UFデータベース15には、化合物のUFが、化合物の名称と関連付けて格納される。
〈化合物のUFの作成〉
制御部21は、化合物データベース11に格納されている化合物のUFを作成する。そして、制御部21は、作成した化合物のUFを、化合物の名称と関連付けてUFデータベース15に格納する。
なお、UFデータベース15に格納されている化合物のUF及び化合物の名称については、化合物のUFが同一であるが、化合物の名称が異なる場合がある。例えば、図2の例を用いて化合物A及び化合物Bが分類され、化合物Aについては、C1aが2個、化合物Bについては、C1aが1個、C1bが1個であったとする。C1a及びC1bは、グループ化されているので、化合物A及び化合物Bは、共にC01が2個あるとして、化合物のUFが作成される。そのため、化合物のUFが同一であるが、化合物の名称が異なる場合がある。この場合、UFデータベース15には、化合物のUFに対して、複数の化合物の名称が関連付けて格納されている。
上記では、制御部21は、共通構造データベース14を参照して、化合物のUFを作成している。すなわち、制御部21は、化合物の化学構造式の部分データをグループ化したデータと、共通構造番号とを参照して、化合物のUFを作成している。しかし、本実施形態は、これに限定されず、制御部21は、部分構造データベース13を参照して、化合物のUFを作成してもよい。すなわち、制御部21は、化合物の化学構造式の部分データと、構造番号とを参照して、化合物のUFを作成してもよい。
〈差分データベース16〉
差分データベース16には、化合物ペアのUFの差分と、化合物ペアにおける各化合物の名称とが、関連付けて格納される。例えば、化合物AのUFから化合物BのUFを減算した値が、化合物ペアのUFの差分である。なお、差分データベース16には、化合物ペアにおける各化合物の名称に代えて、化合物ペアにおける各化合物のUFを格納してもよい。
〈差分データベース16に格納されるDFの作成〉
制御部21は、UFデータベース15に格納されている全ての化合物についてペアを作成し、作成した化合物ペアのUFの差分を算出する。本実施形態では、化合物ペアのUFの差分を、DF(Difference Feature)と表記する。
制御部21は、UFデータベース15に格納されている全ての化合物ペアで反応が生じると仮定して、UFデータベース15に格納されている全ての化合物についてペアを作成する。例えば、UFデータベース15に化合物A、B及びCが格納されている場合、制御部21は、化合物Aと化合物Bとのペア、化合物Aと化合物Cとのペア、化合物Bと化合物Cとのペアを作成する。また、例えば、化合物Aと化合物BとのペアについてのDFを算出する場合、制御部21は、化合物AのUFから化合物BのUFを減算した値と、化合物BのUFから化合物AのUFを減算した値とを算出する。そして、制御部21は、DFと化合物ペアにおける各化合物の名称とを関連付けて差分データベース16に格納する。
〈差分データベース17〉
差分データベース17には、既知化合物ペアのUFの差分と、既知化合物ペアにおける各化合物の名称と、既知反応酵素とが、関連付けて格納される。なお、差分データベース17には、既知化合物ペアにおける各化合物の名称に代えて、既知化合物ペアにおける各化合物のUFを格納してもよい。
〈差分データベース17に格納されるDFの作成〉
制御部21は、UFデータベース15に格納されている化合物のうち既知化合物ペアのUFの差分を算出する。本実施形態では、既知化合物ペアのUFの差分を、既知DFと表記する。例えば、化合物Aから化合物Bを合成する反応が既知反応である場合、制御部21は、化合物BのUFから化合物AのUFを減算することにより、既知DFを算出する。そして、制御部21は、既知DFと、既知化合物ペアにおける各化合物の名称と、既知反応酵素とを関連付けて差分データベース17に格納する。制御部21は、既知化合物ペアにおける各化合物の名称、既知反応酵素については、既知反応データベース12に格納されているデータを用いる。
〈仮想反応法による化合物合成経路の作成〉
図6を参照して、仮想反応法による化合物合成経路の作成のフローを説明する。図6のフローは、操作部10を介してユーザから仮想反応法による化合物合成経路の作成の指示を受け付けることにより開始される。この際、操作部10を介してユーザから出発化合物及び目的化合物の指定を受け付けるようにしてもよい。
図6のS601の処理において、制御部21は、化合物データベース11に格納されている化合物のUFを作成する。すなわち、制御部21は、化合物データベース11に格納されている化合物の化学構造式に含まれている部分構造の個数を、部分構造の種類毎にカウントするとともに、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数を、部分構造の種類及び結合状態の種類毎にカウントすることにより、化合物の化学構造式を数値に変換する。また、図6のS601の処理において、制御部21は、作成したUFと、化合物の名称とを関連付けてUFデータベース15に格納する。図6のS601の処理を実行する制御部21が、変換部として機能する。
次に、図6のS602の処理において、制御部21は、UFデータベース15に格納されている全ての化合物についてペアを作成し、作成した化合物ペアのDFを算出する。制御部21は、算出したDFと、化合物ペアにおける各化合物の名称とを関連付けて差分データベース16に格納する。
また、図6のS602の処理において、制御部21は、UFデータベース15に格納されている化合物ペアのうち既知化合物ペアについての既知DFを算出する。制御部21は、算出した既知DFと、既知化合物ペアにおける各化合物の名称と、既知反応酵素とを関連付けて差分データベース17に格納する。図6のS602の処理を実行する制御部21が、算出部として機能する。
そして、図6のS603の処理において、制御部21は、差分データベース16に格納されているDFと、差分データベース17に格納されている既知DFとを比較する。
次いで、図6のS604の処理において、制御部21は、差分データベース16に格納されているDFのうち、差分データベース17に格納されている既知DFと一致するDFについての未知化合物ペアにおける未知反応を仮想反応として決定する。既知DFと一致するDFについての未知化合物ペアにおける未知反応は、起こり得ると予測される。なお、制御部21は、差分データベース16に格納されているDFのうち、差分データベース17に格納されている既知DFと一致するDFについての既知化合物ペアにおける既知反応については、仮想反応として決定しない。
また、図6のS604の処理において、制御部21は、差分データベース16に格納されているDFと差分データベース17に格納されている既知DFとが一致する場合、一致する既知DFと関連付けられている既知反応酵素を、仮想反応に用いられる酵素として決定する。制御部21は、既知DFと関連付けられている既知反応酵素が複数ある場合、複数の既知反応酵素を仮想反応に用いられる酵素として決定する。図6のS603及びS604の処理を実行する制御部21が、決定部として機能する。
次に、図6のS605の処理において、制御部21は、仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物の名称と、仮想反応に用いられる酵素とを関連付けて、仮想反応データベース18に格納する。
そして、図6のS606の処理において、制御部21は、既知反応データベース12及び仮想反応データベース18に基づいて、化合物の合成経路を作成する。この場合、制御部21は、既知化合物ペアの各化合物及び仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物を示すノード(頂点)と、既知反応及び仮想反応を示すエッジ(辺)とによって、化合物の合成経路を作成する。すなわち、制御部21は、既知化合物ペアの各化合物及び仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物をノード、既知反応及び仮想反応をエッジとして、全ての反応を含むグラフ(ネットワーク)を構築することにより、化合物の合成経路を作成する。制御部21は、既知化合物ペアの各化合物及び既知反応については、既知反応データベース12を参照し、仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物及び仮想反応については、仮想反応データベース18を参照する。図6のS606の処理を実行する制御部21が、作成部として機能する。
グラフは、形式的にノードの集合Vと、ノード同士を結ぶエッジの集合Eからなる順序対G=(V,E)として定義される。順序対Gは、グラフに含まれる化合物が、各反応を通してどのように隣接しているか(ネットワークを形成しているか)を表現するものである。グラフは、図形によって表現してもよいし、配列の各要素をノードとした配列処理によって表現してもよい。
グラフを図形によって表現した場合の例を図7に示す。図7では、既知化合物ペアの各化合物及び仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物が、ノード201−207によって示され、既知反応及び仮想反応が、エッジ301−307によって示されている。また、図7では、実線のエッジが既知反応を示しており、破線のエッジが仮想反応を示している。
次いで、図6のS607の処理において、制御部21は、出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から探索する。制御部21は、所定数以下の反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から探索してもよい。制御部21は、深さ優先探索又は幅優先探索等により、出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から探索してもよい。制御部21は、出発化合物又は原料化合物を開始点、目的化合物を終点とする方法(順方向探索法)、又は、目的化合物を開始点、出発化合物又は原料化合物を終点として経路探索を行う方法(逆方向探索)を実施してもよい。原料化合物は、目的化合物を合成する場合において原料となる化合物である。経路探索の目的に応じて、順方向探索法又は逆方向探索法の何れの方法を実施するかを決定してもよい。原料化合物の指定は、操作部10を介してユーザから受け付けることにより行ってもよい。
次に、図6のS608の処理において、制御部21は、出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から選択する(手順1)。図6のS608の処理において、手順1に代えて、制御部21は、所定の数以下の反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から選択してもよい(手順2)。図6のS608の処理において、手順1に代えて、制御部21は、所定の数又は所定の範囲数の反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を、図6のS606の処理で作成された化合物の合成経路から選択してもよい(手順3)。図6のS608の処理を実行する制御部21が、選択部として機能する。
例えば、図7において、ノード201を原料化合物、ノード203を出発化合物、ノード205を目的化合物とする場合、ノード203、204、205と、エッジ303、304とから構成される合成経路、及び、ノード203、207、205と、エッジ306、307とから構成される合成経路が、出発化合物から目的化合物までの合成経路として選択される。ノード204及び207は、中間化合物である。
そして、図6のS609の処理において、制御部21は、図6のS608の処理で選択された出発化合物から目的化合物までの合成経路のうち、所定の数以下の仮想反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を抽出する(手順A)。図6のS609の処理において、手順Aに代えて、制御部21は、図6のS608の処理で選択された出発化合物から目的化合物までの合成経路のうち、所定の数又は所定の範囲数の仮想反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を抽出してもよい(手順B)。
次いで、図6のS610の処理において、制御部21は、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路について、熱力学的な実行可能性を判定する。
熱力学的な実行可能性の判定は、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる各反応における自由エネルギー変化を、例えば、Biophys. J. Vol.92, No.7, pp1792-1805(2007)に記載された方法により計算し、計算結果に基づいて各反応の向きを決定することにより行われる。図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる各反応が、正方向の反応及び可逆反応である場合、制御部21は、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路について熱力学的な実行可能性があると判定する。また、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる各反応に逆反応が存在する場合、制御部21は、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路について熱力学的な実行可能性がないと判定する。
次に、図6のS611の処理において、制御部21は、図6のS609の処理で抽出された出発化合物から目的化合物までの合成経路のうち、熱力学的に実行可能性のある合成経路を抽出する。図6のS610及びS611の処理を実行する制御部21が、熱力学判定部として機能する。
そして、図6のS612の処理において、制御部21は、図6のS611の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物のモル理論収率(%)を算出する。この場合、制御部21は、図6のS611の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出してもよい。制御部21は、図6のS611の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出する場合、既知反応データベース12を参照して、原料化合物から出発化合物までの合成経路を作成する。そして、制御部21は、原料化合物から出発化合物までの合成経路及び図6のS611の処理で抽出された合成経路を用いて、図6のS611の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出する。原料化合物の指定は、操作部10を介してユーザから受け付けることにより行ってもよい。この場合、制御部21は、既知反応データベース12に格納されている大腸菌の代謝反応に関するデータを参照して、原料化合物から出発化合物までの合成経路を作成してもよい。モル理論収率の計算は、例えば、Biotechnology and Bioengineering, Volume 42, p.59-73 (1993)に記載の方法により実施することができる。
次いで、図6のS613の処理において、制御部21は、図6のS612の処理で算出されたモル理論収率(%)が閾値以上であるか(又は閾値より大きいか)否かを判定する。閾値は、例えば、0%や100%や200%等の任意の値を設定することが可能である。
次に、図6のS614の処理において、制御部21は、図6のS611の処理で抽出された合成経路のうち、図6のS612の処理で算出されたモル理論収率(%)が閾値以上である(又は閾値より大きい)目的化合物を合成する合成経路を抽出する。図6のS612、S613及びS614の処理を実行する制御部21が、モル理論収率判定部として機能する。
そして、図6のS615の処理において、制御部21は、図6のS614の処理で抽出された合成経路について、実用的な合成経路を抽出する。実用的な合成経路の抽出は、合成経路に含まれる各反応の炭素数の変化や炭素数の大小を評価すること、個別の仮想反応酵素の改変の難易度などを考慮して行ってもよい。
また、制御部21は、図6のS608の処理で選択された出発化合物から目的化合物までの合成経路における仮想反応を、事前に得られる情報等を参考にして、改変の実績のある酵素反応に予め限定するようにしてもよい。更に、制御部21は、図6のS608の処理で選択された出発化合物から目的化合物までの合成経路における仮想反応の実現有無を評価して、合成経路を絞り込むようにしてもよい。この場合、化合物の部分構造の比較を取り入れて、仮想反応の実現有無の評価を行ってもよい。
なお、制御部21は、図6のS609の処理を省略してもよいし、図6のS610及びS611の処理を省略してもよいし、図6のS612からS614の処理を省略してもよいし、図6のS615の処理を省略してもよい。また、制御部21は、図6のS609の処理と、図6のS610及びS611の処理と、図6のS612からS614の処理と、図6のS615の処理と、を実行する順番を変更してもよい。例えば、制御部21は、図6のS610及びS611の処理を実行した後に、図6のS609の処理を実行するようにしてもよい。
次に、図6のS616の処理において、制御部21は、図6のS615の処理で抽出された合成経路と、合成経路に含まれる出発化合物、中間化合物及び目的化合物の各名称と、合成経路における各反応で用いられる酵素とを、含む情報を出力する。この場合、制御部21は、図6のS615の処理で抽出された合成経路における各反応について、既知反応であるか又は仮想反応であるかを特定して、図6のS615の処理で抽出された合成経路の情報を出力する。制御部21は、合成経路における各反応で用いられる酵素として、酵素EC番号を用いてもよい。
例えば、制御部21は、図8に示すグラフ80及び表81によって、図6のS615の処理で抽出された合成経路の情報を出力してもよい。図8に示すように、出発化合物(化合物A)から中間化合物(化合物B)を合成する反応が既知反応であることが特定され、中間化合物(化合物B)から目的化合物(化合物C)を合成する反応が仮想反応であることが特定されている。また、図8では、既知反応に用いられる酵素として既知反応酵素A、Bが割り当てられ、仮想反応に用いられる酵素として既知反応酵素B、Cが割り当てられている。
制御部21は、図6のS614の処理で抽出された合成経路について、図6のS612の処理で算出されたモル理論収率(%)が大きい順に順位付けを行ってもよい。更に、制御部21は、図6のS616の処理で出力される情報に、図6のS612の処理で算出されたモル理論収率(%)が大きい順に順位付けを行った合成経路についての情報を追加してもよい。
制御部21は、図6のS616の処理で出力した情報を、データベース化して記憶部20に記憶するようにしてもよい。また、図6のS616の処理で出力した情報を、表示部22に表示するようにしてもよい。
本実施形態では、制御部21が、化合物の化学構造を所定の基準に従ってUFに変換するとともに、化合物ペアの一方の化合物についてのUFから他方の化合物についてのUFを減算することによりDFを算出する。本実施形態では、制御部21が、既知化合物ペアの既知DFと、未知化合物ペアのDFとを比較し、既知化合物ペアの既知DFと一致するDFについての未知化合物ペアの未知反応を仮想反応と決定する。本実施形態では、制御部21が、既知化合物ペアの各化合物及び仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物を示すノードと、既知反応及び仮想反応を示すエッジとによって、化合物の合成経路を作成する。本実施形態では、制御部21が、出発化合物から目的化合物までの合成経路を、既知化合物ペアの各化合物及び仮想反応に関しての化合物ペアの各化合物を示すノードと、既知反応及び仮想反応を示すエッジとから構成される化合物の合成経路から選択する。本実施形態によれば、化合物を示すノード、既知反応及び仮想反応を示すエッジによって作成された化合物の合成経路から、出発化合物から目的化合物までの新規の化合物の合成経路を選択することが可能となる。
本実施形態では、制御部21が、既知化合物ペアの既知DFと、未知化合物ペアのDFとを比較し、未知化合物ペアのDFと一致する既知化合物ペアの既知DFと関連付けられている既知反応酵素を、仮想反応に用いられる酵素として決定する。本実施形態によれば、選択された出発化合物から目的化合物までの化合物の合成経路に含まれる仮想反応に既知反応酵素を用いることが可能となる。
〈最適化法による化合物合成経路の作成〉
図9を参照して、最適化法による化合物合成経路の作成のフローを説明する。図9のフローは、操作部10を介してユーザから最適化法による化合物合成経路の作成の指示を受け付けることにより開始される。この際、操作部10を介してユーザから出発化合物及び目的化合物の指定を受け付けるようにしてもよい。
図9のS901の処理において、制御部21は、化合物データベース11に格納されている化合物のUFを作成する。すなわち、制御部21は、化合物データベース11に格納されている化合物の化学構造式に含まれている部分構造の個数を、部分構造の種類毎にカウントするとともに、化合物の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数を、部分構造の種類及び結合状態の種類毎にカウントすることにより、化合物の化学構造式を数値に変換する。また、図9のS901の処理において、制御部21は、作成したUFと、化合物の名称とを関連付けてUFデータベース15に格納する。図9のS901の処理を実行する制御部21が、変換部として機能する。
次に、図9のS902の処理において、制御部21は、UFデータベース15に格納されている化合物ペアのうち既知化合物ペアについての既知DFを算出する。制御部21は、算出した既知DFと、既知化合物ペアにおける各化合物の名称と、既知反応酵素とを関連付けて差分データベース17に格納する。図9のS902の処理を実行する制御部21が、第1算出部として機能する。
そして、図9のS903の処理において、制御部21は、目的化合物についてのUFから出発化合物についてのUFを減算することにより、出発化合物と目的化合物との化合物ペアのUFの差分を算出する。本実施形態では、出発化合物と目的化合物との化合物ペアのUFの差分を、Difference Totalと表記する。出発化合物及び目的化合物の指定は、操作部10を介してユーザから受け付けることにより行われる。図9のS903の処理を実行する制御部21が、第2算出部として機能する。
次いで、図9のS904の処理において、制御部21は、整数計画法を用いて、複数の既知DFの合計値とDifference Totalの値とが一致するように、差分データベース17から複数の既知DFを抽出する。この場合、制御部21は、既知DFの個数を限定して、差分データベース17から複数の既知DFを抽出するようにしてもよい。例えば、制御部21は、差分データベース17から所定数以下又は所定数の既知DFを抽出するようにしてもよい。整数計画法を用いて、適切な条件を指定することにより、短い計算時間で幅広い組み合わせの中から探索を実施することができる。ただし、制御部21は、整数計画法に代えて、他の方法を用いてもよい。
制御部21は、図9のS904の処理を所定回数繰り返すことにより、複数の既知DFを含む組(グループ)を作成する。本実施形態では、複数の既知DFを含む組を、DF組合せ群と表記する。制御部21は、図9のS904の処理を繰り返すごとに、差分データベース17から、複数の既知DFをランダムに抽出することにより、1種類又は複数種類のDF組合せ群を作成する。
図9のS904の処理において、制御部21は、差分データベース17から、複数の既知DFを抽出し、抽出した複数の既知DFを用いてDF組合せ群を作成するようにしてもよい。そして、制御部21は、図9のS904の処理を所定回数繰り返すことにより、1種類又は複数種類のDF組合せ群を作成するようにしてもよい。この場合、制御部21は、図9のS904の処理を繰り返すごとに、差分データベース17から、複数の既知DFをランダムに抽出するようにしてもよい。
次に、図9のS905の処理において、制御部21は、図9のS904の処理で作成されたDF組合せ群について、出発化合物及び目的化合物と、DF組合せ群に含まれる複数の既知DFとによって、化合物の合成経路を作成する。制御部21は、図9のS904の処理で複数種類のDF組合せ群が作成されている場合、各DF組合せ群について、化合物の合成経路を作成する。図9のS904及びS905の処理を実行する制御部21が、作成部として機能する。
出発化合物及び目的化合物と、DF組合せ群に含まれる複数の既知DFとからなる化合物の合成経路の例を、図10に示す。図10に示すように、DF組合せ群に含まれる複数の既知DFの組合せは6通りである。
そして、図9のS906の処理において、制御部21は、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFを算出する。制御部21は、中間化合物のUFを、以下の手順によって算出する。
例として、図10のDF組合せ群における“出発化合物,既知DF1,既知DF2,既知DF3,目的化合物”の化合物の合成経路について説明する。また、出発化合物から中間化合物Aが合成され、中間化合物Aから中間化合物Bが合成され、中間化合物Bから目的化合物が合成される場合について説明する。まず、制御部21は、目的化合物のUFから既知DF3を減算することにより、中間化合物BのUFを算出する。次に、制御部21は、中間化合物BのUFから既知DF2を減算することにより、中間化合物AのUFを算出する。このように、制御部21は、目的化合物のUFから各既知DFを逐次減算することにより、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFを算出する。
図9のS906の処理において、制御部21は、図9のS904の処理で作成されたDF組合せ群に含まれる複数の既知DFの全組合せについて、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFを算出する。制御部21は、図9のS904の処理で複数種類のDF組合せ群が作成されている場合、各DF組合せ群について、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFを算出する。図9のS906の処理を実行する制御部21が、第3算出部として機能する。
次いで、図9のS907の処理において、制御部21は、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路について、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するか否かを判定する。制御部21は、図9のS905の処理で複数の化合物の合成経路が作成されている場合、各合成経路について、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するか否かを判定する。
出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するか否かの判定の例を説明する。
〔判定例1〕図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFがマイナスの値を有する場合、制御部21は、その中間化合物を含む化合物の合成経路については、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立しないと判定する。中間化合物のUFがマイナスの値を有する場合、その中間化合物は化合物として成立しないので、制御部21は、その中間化合物を含む化合物の合成経路については、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立しないと判定する。
〔判定例2〕制御部21は、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFの原子情報と結合情報とを比較する。そして、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFの原子情報と結合情報との間で矛盾がある場合、制御部21は、その中間化合物を含む化合物の合成経路については、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立しないと判定する。すなわち、中間化合物の化学構造式に含まれている部分構造の個数と、中間化合物の化学構造式に含まれている部分構造の結合状態の個数とが整合しない場合、制御部21は、その中間化合物を含む化合物の合成経路については、出発化合物から目的化合物までの化合物の合成経路として成立しないと判定する。
次に、図9のS908の処理において、制御部21は、図9のS905の処理で作成された化合物の合成経路のうち、図9のS907の処理で出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立すると判定された化合物の合成経路を抽出する。
そして、図9のS909の処理において、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路について、化合物の合成経路に含まれる化合物の合成で用いられる酵素を決定する。この場合、制御部21は、差分データベース17を参照して、化合物の合成経路に含まれる化合物の合成で用いられる酵素を決定する。差分データベース17には、既知DFと既知反応酵素とが関連付けて格納されている。したがって、制御部21は、差分データベース17に格納されている既知DFと関連付けて格納されている既知反応酵素を、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる各既知DFに対して割り当てることにより、化合物の合成経路に含まれる化合物の合成で用いられる酵素を決定する。制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる各既知DFに対して、差分データベース17に格納されている複数の既知反応酵素を割り当てるようにしてもよい。
次いで、図9のS910の処理において、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路のそれぞれについて、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFに基づいて、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称を決定する。この場合、制御部21は、UFデータベース15を参照して、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称を決定する。制御部21は、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFと、UFデータベース15に格納されている化合物のUFとが一致する場合、UFデータベース15に格納されている化合物のUFと関連付けられている化合物の名称を、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称として決定する。化合物のUFに対して複数の化合物の名称が関連付けられてUFデータベース15に格納されている場合、制御部21は、化合物の合成経路に含まれる中間化合物について、複数の名称を決定する。
制御部21は、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFと、UFデータベース15に格納されている化合物のUFとが一致しない場合、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称を決定せずに、その中間化合物に所定の番号を割り当てる。本実施形態では、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称を決定せずに、所定の番号が割り当てられた中間化合物を、仮想化合物と表記する。
例えば、化合物データベース11に、KEGGのデータベースに登録されている化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを関連付けて格納する場合がある。この場合、UFデータベース15には、KEGGのデータベースに登録されている化合物のUFのみが格納される。UFデータベース15に、KEGGのデータベースに登録されている化合物のUFのみが格納される場合、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFと、UFデータベース15に格納されている化合物のUFとが一致しない可能性がある。
また、図9のS910の処理において、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路のそれぞれについて、化合物の合成経路に含まれる各反応が、既知反応であるか仮想反応であるかを決定する。化合物の合成経路に含まれる各反応が、既知反応であるか仮想反応であるかは、以下の処理によって決定される。
制御部21は、差分データベース17から、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる中間化合物の既知DFと関連付けられている既知化合物ペアを抽出する。制御部21は、抽出した既知化合物ペアの各化合物の名称と、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる化合物ペアの各化合物の名称とが一致する場合、一致する化合物ペアの反応を既知反応と決定する。制御部21は、抽出した既知化合物ペアの各化合物の名称と、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる化合物ペアの各化合物の名称とが一致しない場合、一致しない化合物ペアの反応を仮想反応と決定する。また、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に仮想化合物が含まれている場合、仮想化合物から他の化合物を合成する反応、及び、仮想化合物を合成する反応を仮想反応と決定する。
次に、図9のS911の処理において、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物までの合成経路について、熱力学的な実行可能性を判定する。
熱力学的な実行可能性の判定は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる各反応における自由エネルギー変化を計算し、計算結果に基づいて各反応の向きを決定することにより行われる。図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる各反応が、正方向の反応及び可逆反応である場合、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路について熱力学的な実行可能性があると判定する。また、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる各反応に逆反応が存在する場合、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路について熱力学的な実行可能性がないと判定する。
そして、図9のS912の処理において、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路のうち、熱力学的に実行可能性のある合成経路を抽出する。図9のS911及びS912の処理を実行する制御部21が、熱力学判定部として機能する。
図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に仮想化合物が含まれている場合、制御部21は、仮想化合物の名称を決定した後に、図9のS911及びS912の処理を実行する。制御部21は、外部ネットワーク上の機器が備えるデータベースを参照することにより仮想化合物の名称を決定してもよい。例えば、UFデータベース15に、KEGGのデータベースに登録されている化合物のUFのみが格納される場合、制御部21は、PubChem、BRENDA、MetaCycなどの代謝物データベースを参照することにより仮想化合物の名称を決定してもよい。また、制御部21は、表示部22を介して仮想化合物の名称をユーザに問い合わせ、操作部10を介してユーザから仮想化合物の名称の入力を受け付けることにより、仮想化合物の名称を決定してもよい。
熱力学的に実行可能性のある合成経路であるか否かは、化合物の化学構造を把握する必要がある。そのため、制御部21は、図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に含まれる化合物の名称を決定し、化合物の名称から化合物の化学構造を把握して、熱力学的に実行可能性のある合成経路の判定を行っている。制御部21は、化合物データベース11を参照することにより、化合物の化学構造を把握してもよい。制御部21は、外部ネットワーク上の機器が備えるデータベースを参照することにより、化合物の化学構造を把握してもよい。制御部21は、表示部22を介して化合物の化学構造をユーザに問い合わせ、操作部10を介してユーザから化合物の化学構造データの入力を受け付けることにより、化合物の化学構造を把握してもよい。
次いで、図9のS913の処理において、制御部21は、図9のS912の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物のモル理論収率(%)を算出する。この場合、制御部21は、図9のS912の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出してもよい。制御部21は、図9のS912の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出する場合、既知反応データベース12を参照して、原料化合物から出発化合物までの合成経路を作成する。そして、制御部21は、原料化合物から出発化合物までの合成経路及び図9のS912の処理で抽出された合成経路を用いて、図9のS911の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)を算出する。原料化合物の指定は、操作部10を介してユーザから受け付けることにより行ってもよい。この場合、制御部21は、既知反応データベース12に格納されている大腸菌の代謝反応に関するデータを参照して、原料化合物から出発化合物までの合成経路を作成してもよい。モル理論収率の計算は、例えば、Biotechnology and Bioengineering, Volume 42, p.59-73 (1993)に記載の方法により実施することができる。
次に、図9のS914の処理において、制御部21は、図9のS913の処理で算出されたモル理論収率(%)が閾値以上であるか(又は閾値より大きいか)否かを判定する。閾値は、例えば、0%や100%や200%等の任意の値を設定することが可能である。
そして、図9のS915の処理において、制御部21は、図9のS912の処理で抽出された合成経路のうち、図9のS913の処理で算出されたモル理論収率(%)が閾値以上である(又は閾値より大きい)目的化合物を合成する化合物の合成経路を抽出する。図9のS913、S914及びS915の処理を実行する制御部21が、モル理論収率判定部として機能する。図9のS908の処理で抽出された化合物の合成経路に仮想化合物が含まれている場合であっても、制御部21は、図9のS913、S914及びS915の処理を実行することは可能である。未知の仮想化合物を基質または生産物とする変換反応が合成経路に含まれる場合でも、仮想化合物のUFには仮想化合物を構成する部分構造(原子)の数情報が含まれるため、変換反応に伴う変化(分子数の増減)を把握することできる。
次いで、図9のS916の処理において、制御部21は、図9のS915の処理で抽出された合成経路について、実用的な合成経路を抽出する。実用的な合成経路の抽出は、合成経路に含まれる各反応の炭素数の変化や炭素数の大小を評価すること、個別の仮想反応酵素の改変の難易度などを考慮して行ってもよい。
なお、制御部21は、図9のS911及びS912の処理を省略してもよいし、図9のS913からS915の処理を省略してもよいし、図9のS916の処理を省略してもよい。また、制御部21は、図9のS911及びS912の処理と、図9のS913からS915の処理と、図9のS916の処理と、を実行する順番を変更してもよい。例えば、制御部21は、図9のS913からS915の処理を実行した後に、図9のS911及びS912の処理を実行するようにしてもよい。
次に、図9のS917の処理において、制御部21は、図9のS916の処理で抽出された合成経路と、合成経路に含まれる出発化合物、中間化合物及び目的化合物の各名称及び各UFと、合成経路における各反応で用いられる酵素と、を含む情報を出力する。この場合、制御部21は、図9のS916の処理で抽出された合成経路における各反応について、既知反応であるか又は仮想反応であるかを特定して、図9のS916の処理で抽出された合成経路の情報を出力する。制御部21は、合成経路における各反応で用いられる酵素として、酵素EC番号を用いてもよい。図9のS916の処理で抽出された合成経路に仮想化合物が含まれている場合、制御部21は、中間化合物の名称に代えて、中間化合物に割り当てられた所定の番号を、図9のS917の処理で出力される情報に追加する。
例えば、制御部21は、図11に示す表121及び122によって、図9のS916の処理で抽出された合成経路と、合成経路に含まれる出発化合物、中間化合物及び目的化合物の各名称及び各UFと、合成経路における各反応で用いられる酵素と、を出力してもよい。図11は、2つの合成経路が出力された場合の例である。
表121及び表122では、化合物A、B、C及びDが化合物の名称であり、VC00001が仮想化合物に割り当てられた所定の番号である。表121において、出発化合物から中間化合物Aを合成する反応、及び、中間化合物Aから中間化合物Bを合成する反応が既知反応であることが特定されている。また、表121において、中間化合物Bから目的化合物を合成する反応が仮想反応であることが特定されている。表122において、出発化合物から中間化合物Aを合成する反応が既知反応であることが特定されている。また、表122において、中間化合物Aから中間化合物Cを合成する反応、及び、中間化合物Cから目的化合物を合成する反応が仮想反応であることが特定されている。
表121及び122の既知反応酵素A及びBは、UF3によって特定される化合物とUF4によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。表121及び121の既知反応酵素C及びDは、UF5によって特定される化合物とUF6によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。表121及び122の既知DF1は、UF3からUF4を減算した値、及び、UF5からUF6を減算した値の2つのパターンがある。すなわち、UF3からUF4を減算した値と、UF5からUF6を減算した値とは、同一の値である。したがって、表121及び122では、出発化合物から中間化合物Aを合成する反応で用いられる酵素として、既知反応酵素A、B、C及びDが割り当てられている。
表121の既知反応酵素E及びFは、UF7によって特定される化合物とUF8によって特定される化合物とのペアにおける反応に用いられる酵素である。表121の既知DF2は、UF7からUF8を減算した値である。したがって、表121では、中間化合物Aから中間化合物Bを合成する反応で用いられる酵素として、既知反応酵素E及びFが割り当てられている。
表121の既知反応酵素G及びHは、UF9によって特定される化合物とUF10によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。既知反応酵素I及びJは、UF11によって特定される化合物とUF12によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。表121の既知DF3は、UF9からUF10を減算した値、及び、UF11からUF12を減算した値の2つのパターンがある。すなわち、UF9からUF10を減算した値と、UF11からUF12を減算した値とは、同一の値である。したがって、表121では、中間化合物Bから目的化合物を合成する反応で用いられる酵素として、既知反応酵素G、H、I及びJが割り当てられている。
表122の既知反応酵素K及びLは、UF15によって特定される化合物とUF16によって特定される化合物とのペアにおける反応に用いられる酵素である。表122の既知DF4は、UF15からUF16を減算した値である。したがって、表122では、中間化合物Aから中間化合物Cを合成する反応で用いられる酵素として、既知反応酵素K及びLが割り当てられている。
表122の既知反応酵素M及びNは、UF17によって特定される化合物とUF18によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。既知反応酵素O及びPは、UF19によって特定される化合物とUF20によって特定される化合物とのペアの反応に用いられる酵素である。表122の既知DF5は、UF17からUF18を減算した値、及び、UF19からUF20を減算した値の2つのパターンがある。すなわち、UF17からUF18を減算した値と、UF19からUF20を減算した値とは、同一の値である。したがって、表122では、中間化合物Cから目的化合物を合成する反応で用いられる酵素として、既知反応酵素M、N、O及びPが割り当てられている。
制御部21は、図9のS915の処理で抽出された合成経路について、図9のS913の処理で算出されたモル理論収率(%)が大きい順に順位付けを行ってもよい。更に、制御部21は、図9のS917の処理で出力される情報に、図9のS913の処理で算出されたモル理論収率(%)が大きい順に順位付けを行った合成経路についての情報を追加してもよい。
制御部21は、図9のS917の処理で出力した情報を、データベース化して記憶部20に記憶するようにしてもよい。また、制御部21は、図9のS917の処理で出力した情報を、表示部22に表示するようにしてもよい。
本実施形態では、制御部21が、化合物の化学構造を所定の基準に従ってUFに変換するとともに、化合物ペアの一方の化合物についてのUFから他方の化合物についてのUFを減算することによりDF(第1差分値)を算出する。本実施形態では、制御部21が、目的化合物についてのUFから出発化合物についてのUFを減算することにより出発化合物と目的化合物とのペアのDF(第2差分値)を算出する。本実施形態では、制御部21が、出発化合物から目的化合物までの合成経路における第1差分値の合計値と、第2差分値とが一致するように化合物の合成経路を作成する。化合物の合成経路は、出発化合物及び目的化合物と、複数の第1差分値とから構成される。
本実施形態によれば、出発化合物及び目的化合物と、複数の第1差分値とから構成される化合物の合成経路を作成することにより、出発化合物から目的化合物までの新規の化合物の合成経路を作成することが可能となる。本実施形態では、作成された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる化合物は、既知化合物であってもよいし、仮想化合物(未知化合物)であってもよい。したがって、本実施形態によれば、仮想化合物を含む合成経路を作成することが可能となる。本実施形態では、作成された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる化合物ペアにおける反応は、既知反応であってもよいし、仮想反応(未知反応)であってもよい。したがって、本実施形態によれば、仮想反応を含む合成経路を作成することができる。
本実施形態では、作成された出発化合物から目的化合物までの合成経路に含まれる第1差分値に対して既知反応酵素が割り当てられている。本実施形態によれば、出発化合物から目的化合物までの化合物の合成経路に含まれる仮想反応に既知反応酵素を用いることができる。
<3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法〜1>
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法の第一の態様は、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸して3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程を含む。この工程は、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸して3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する酵素、または該酵素の活性が非改変株と比べて高められた微生物を用いて行う。
ここで、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸して3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する酵素としては、EC 1.1.1.92として登録されているオキサログリコール酸レダクターゼ(oxaloglycolate reductase)が挙げられる。この酵素については、例えば、反応系に基質としてオキサログリコール酸やオキサロ酢酸を添加し、還元反応に伴うNADHのNAD+への酸化に基づく吸光度(約340nm)の変化を指標にして活性を測定することができる。そして該活性を指標として、例えば、J. Biol. Chem. Vol. 243, No. 10, pp2486-2493 (1968) に記載されたような方法で、シュードモナス属細菌、エシェリヒア属細菌、バチルス属細菌、コリネ型細菌、酵母などから精製することができる。なお、部分精製酵素や該酵素の活性を有する画分を使用してもよい。また、遺伝子組み換えによって作製される組換え酵素を用いてもよい。
オキサログリコール酸レダクターゼの活性を有する微生物は、精製蛋白質の配列をもとに該酵素をコードするDNAを取得し、これをエシェリヒア属細菌などの適当な宿主に、ベクターや相同組換えなどを利用した形質転換法等により導入することで得ることができる。また、宿主染色体上のオキサログリコール酸レダクターゼをコードする遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換することによっても該酵素の活性を有する微生物を得ることができる。なお、該活性を天然に有する微生物を用いてもよい。
微生物の種類は特に限定されないが、大腸菌(エシェリヒア属細菌)、コリネ型細菌、シュードモナス属細菌、バチルス属細菌、リゾビウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、サクシノバチルス属細菌、アナエロビオスピリラム属細菌、アクチノバチルス属細菌、糸状菌、酵母等が例示される。なお、微生物は微生物の処理物を用いてもよい。処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
オキサログリコール酸レダクターゼまたはオキサログリコール酸レダクターゼの活性を有する微生物の菌体もしくはその処理物を、オキサロ酢酸を含む反応液中に加え、通常20〜40℃で反応させることにより3−ヒドロキシプロピオン酸を生成させることができる。ただし、この酵素は補酵素NADHを必要とするので反応系にNADHを存在させる必要がある。効率的に反応を進めるには、NAD+からNADHを再生する酵素反応をカップルさせることが好ましい。微生物を用いる場合は、オキサログリコール酸レダクターゼの活性が高められ、かつ、NAD+からNADHを再生する能力を有する微生物を用いることが好ましい。
また、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、オキサログリコール酸レダクターゼの活性を有する微生物を用い、グルコースなどの炭素源から発酵法により3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することもできる。この場合、微生物の培養に用いる培地及び培養条件は、使用する微生物の種類に応じて適宜設定することができるが、炭素源、窒素源、無機塩及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地を用いることができる。培養は、用いる微生物の生育に好適な条件で行われる。通常、培養温度10℃〜45℃で12〜96時間実施する。なお、「3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し」とは炭素源を含む培地中で培養したときに培地または菌体内に3−ヒドロキシプロピオン酸を蓄積しうる能力を有することをいう。
微生物の培養におけるpHは、宿主の生育を妨害せず、かつ培養液から3−ヒドロキシプロピオン酸を分離するときの障害とならない試薬を用いて調整する。pH調整には無機又は有機の酸性又はアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。炭酸ナトリウム、アンモニア、ナトリウムイオン供給源、例えば塩化ナトリウムを添加してもよい。また、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液等の一般的なアルカリ試薬を用いてもよい。培養中、pHは、5.0以上、好ましくは5.5以上で、10.0以下、好ましくは9.7以下に保持する。
炭素源は、上記微生物が資化して3−ヒドロキシプロピオン酸を生成させうる炭素源であれば特に限定されないが、例えば、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられる。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が用いられる。
また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加してもよい。
3−ヒドロキシプロピオン酸の精製法は当該技術分野において周知である。例えば、有機溶媒を用いる抽出、蒸留及びカラムクロマトグラフィーなどにより、培地から3−ヒドロキシプロピオン酸を得ることができる(米国特許第5,356,812号)。培地を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析にかけることにより、3−ヒドロキシプロピオン酸を直接同定することもできる。
上記方法によって得られた3−ヒドロキシプロピオン酸は、脱水することによりアクリル酸の製造に使用できる。3−ヒドロキシプロピオン酸の脱水は、公知の反応によって実施することができる。例えば、US2469701にも記載されているように、3−ヒドロキシプロピオン酸は、触媒の存在下で減圧蒸留することにより容易にアクリル酸に変換することができる。
<3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法〜2>
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法第二の態様は、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸してマロン酸に変換する工程、およびマロン酸を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程を含む。ここで、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸してマロン酸に変換する工程は、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸してマロン酸に変換する酵素、または該酵素の活性が非改変株と比べて高められた微生物を用いて行う。
ここで、オキサロ酢酸を還元的に脱炭酸してマロン酸に変換する酵素としては、EC1.2.4.-として登録されている反応を触媒する酵素が挙げられる。この酵素は、酵素活性を指標として、例えば、シュードモナス属細菌、エシェリヒア属細菌、バチルス属細菌、コリネ型細菌、酵母などから精製することができる。なお、部分精製酵素や該酵素の活性を有する画分を使用してもよい。また、遺伝子組み換えによって作製される組換え酵素を用いてもよい。
該酵素の活性を有する微生物は、該酵素をコードするDNAを取得し、これをエシェリヒア属細菌などの適当な宿主に、ベクターや相同組換えなどを利用した形質転換法等により導入することで得ることができる。また、宿主染色体上の該酵素をコードする遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換することによっても該酵素の活性を有する微生物を得ることができる。なお、該活性を天然に有する微生物を用いてもよい。
微生物の種類は特に限定されず、上述したような微生物を用いることができる。なお、微生物は微生物の処理物を用いてもよい。処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
上記酵素または該酵素の活性を有する微生物の菌体もしくはその処理物を、オキサロ酢酸を含む反応液中に加え、通常20〜40℃で反応させることによりマロン酸を生成させることができる。ただし、この酵素は補酵素NADHを必要とするので反応系にNADHを存在させる必要がある。効率的に反応を進めるには、NAD+からNADHを再生する酵素反応をカップルさせることが好ましい。微生物を用いる場合は、該酵素の活性が高められ、かつ、NAD+からNADHを再生する能力を有する微生物を用いることが好ましい。
マロン酸を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程はEC1.2.1.15として登録されている反応を触媒する酵素(Biochim. Biophys. Acta. 50 (1961) 147-52.)およびEC1.1.1.59として登録されている反応を触媒する酵素(J. Biol. Chem. 234 (1959) 1666-71.)を用いて行うことができる。これらの酵素は、精製や遺伝子組み換えなどにより得ることができる。この工程についても通常20〜40℃で行うことができる。なお、両酵素の反応を別々に行ってもよい。
また、EC1.2.4.-として登録されている反応を触媒する酵素と、malonate-semialdehyde dehydrogenase および3-hydroxypropionate dehydrogenaseを共存させ、両工程を同一反応系で連続的に行ってオキサロ酢酸から3−ヒドロキシプロピオン酸を生成させることが好ましい。したがって、微生物を用いる場合は、EC1.2.4.-として登録されている反応を触媒する酵素の活性が高められ、かつmalonate-semialdehyde dehydrogenase および3-hydroxypropionate dehydrogenase活性も高められた微生物を用いることが好ましい。
また、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、上記酵素の活性を有する微生物、好ましくは、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、EC1.2.4.-として登録されている反応を触媒する酵素の活性が高められ、かつmalonate-semialdehyde dehydrogenase および3-hydroxypropionate dehydrogenase の活性も高められた微生物を用い、グルコースなどの炭素源から発酵法により3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することもできる。
なお、培養条件や3−ヒドロキシプロピオン酸の精製法は上述したとおりである。
<3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法〜3>
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法の第三の態様は、ピルビン酸を脱炭酸して蟻酸に変換する工程、および蟻酸を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程を含む。
ここで、ピルビン酸を脱炭酸して蟻酸に変換する工程は、ピルビン酸を脱炭酸して蟻酸に変換する酵素、または該酵素の活性が非改変株と比べて高められた微生物を用いて行う。
ここで、ピルビン酸を脱炭酸して蟻酸に変換する酵素としては、EC 4.1.1.71として登録されている、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ(2-oxoglutarate decarboxylase)が挙げられる。この酵素については、例えば、FEBS Lett. 195 (1986) 43-47に記載の方法に従って活性を測定することができる。そして該活性を指標として、例えば、 Arch Biochem Biophys. 288 (1991) 22-28に記載されたような方法で、シュードモナス属細菌、エシェリヒア属細菌、バチルス属細菌、コリネ型細菌、酵母などから精製することができる。なお、部分精製酵素や該酵素の活性を有する画分を使用してもよい。また、遺伝子組み換えによって作製される組換え酵素を用いてもよい。
該酵素の活性を有する微生物は、公知の配列をもとに該酵素をコードするDNAを取得し、これをエシェリヒア属細菌などの適当な宿主に、ベクターや相同組換えなどを利用した形質転換法等により導入することで得ることができる。また、宿主染色体上の該酵素をコードする遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換することによっても該酵素の活性を有する微生物を得ることができる。なお、該活性を天然に有する微生物を用いてもよい。
公知の配列としては特に制限されないが、エシェリヒア・コリの2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼをコードする配列番号1の塩基配列が例示される。ただし、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ活性を有する蛋白質をコードする限り、上記塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAのようなホモログであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。また、配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
微生物の種類は特に限定されず、上述したような微生物を用いることができる。なお、微生物は微生物の処理物を用いてもよい。処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
上記酵素または該酵素の活性を有する微生物の菌体もしくはその処理物を、ピルビン酸を含む反応液中に加え、通常20〜40℃で反応させることにより蟻酸を生成させることができる。
蟻酸を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程はmalonate semialdehyde decarboxylase(EC 1.2.1.18)という酵素を用いて行うことができる。この酵素は J Biol Chem. 2003 (49) 48674-48683に記載されており、精製や遺伝子組み換えなどにより得ることができる。この工程についても通常20〜40℃で行うことができる。
ただし、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼとmalonate semialdehyde decarboxylaseを共存させ、両工程を同一反応系で連続的に行ってピルビン酸から3−ヒドロキシプロピオン酸を生成させることが好ましい。したがって、微生物を用いる場合は、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ活性が高められ、かつmalonate semialdehyde decarboxylaseの活性も高められた微生物を用いることが好ましい。
また、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、上記酵素の活性を有する微生物、好ましくは、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ活性が高められ、かつmalonate semialdehyde decarboxylase活性も高められた微生物を用い、グルコースなどの炭素源から発酵法により3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することもできる。
なお、培養条件や3−ヒドロキシプロピオン酸の精製法は上述したとおりである。
<3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法〜4>
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸の製造方法の第四の態様は、C02107((S,S)-Tartaric acid)をC00222(3-Oxopropanoate)に変換する工程、およびC00222を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程を含む。
ここで、C02107((S,S)-Tartaric acid)をC00222(3-Oxopropanoate)に変換する工程は、C02107をC00222に変換する酵素、または該酵素の活性が非改変株と比べて高められた微生物を用いて行う。
ここで、C02107をC00222に変換する酵素としては、4.2.1.41として登録されている、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydrataseが挙げられる。この酵素については、例えば、Biochem. J. 115 (1969) 977-83.に記載の方法に従って活性を測定することができる。そして該活性を指標として、同文献に記載されたような方法で、シュードモナス属細菌、エシェリヒア属細菌、バチルス属細菌、コリネ型細菌、酵母などから精製することができる。なお、部分精製酵素や該酵素の活性を有する画分を使用してもよい。また、遺伝子組み換えによって作製される組換え酵素を用いてもよい。
該酵素の活性を有する微生物は、公知の配列をもとに該酵素をコードするDNAを取得し、これをエシェリヒア属細菌などの適当な宿主に、ベクターや相同組換えなどを利用した形質転換法等により導入することで得ることができる。また、宿主染色体上の該酵素をコードする遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換することによっても該酵素の活性を有する微生物を得ることができる。なお、該活性を天然に有する微生物を用いてもよい。
公知の配列としては特に制限されないが、Bacillus subtilisの5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydrataseが挙げられる。この酵素については、例えば、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydrataseをコードする配列番号3の塩基配列が例示される。ただし、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydratase活性を有する蛋白質をコードする限り、上記塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAのようなホモログであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。また、配列番号4のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydratase活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
微生物の種類は特に限定されず、上述したような微生物を用いることができる。なお、微生物は微生物の処理物を用いてもよい。処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
上記酵素または該酵素の活性を有する微生物の菌体もしくはその処理物を、C02107を含む反応液中に加え、通常20〜40℃で反応させることによりC00222を生成させることができる。
C00222を3−ヒドロキシプロピオン酸に変換する工程はhydroxypropionate dehydrogenaseという酵素を用いて行うことができる。この酵素はJ. Biol. Chem. 234 (1959) 1666-71.に記載されており、精製や遺伝子組み換えなどにより得ることができる。この工程についても通常20〜40℃で行うことができる。ただし、この反応は補酵素NAD+を必要とするので反応系にNAD+を存在させる必要がある。効率的に反応を進めるには、NADHからNAD+を再生する酵素反応をカップルさせることが好ましい。微生物を用いる場合は、該酵素の活性が高められ、かつ、NADHからNAD+を再生する能力を有する微生物を用いることが好ましい。
ただし、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydrataseとhydroxypropionate dehydrogenaseを共存させ、両工程を同一反応系で連続的に行ってC02107から3−ヒドロキシプロピオン酸を生成させることが好ましい。したがって、微生物を用いる場合は、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydratase活性が高められ、かつhydroxypropionate dehydrogenase活性も高められた微生物を用いることが好ましい。
また、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、上記酵素の活性を有する微生物、好ましくは、3−ヒドロキシプロピオン酸生産能を有し、5-dehydro-4-deoxyglucarate dehydrataseが高められ、かつhydroxypropionate dehydrogenase活性も高められた微生物を用い、グルコースなどの炭素源から発酵法により3−ヒドロキシプロピオン酸を製造することもできる。
なお、培養条件や3−ヒドロキシプロピオン酸の精製法は上述したとおりである。
<クロトニルアルコールおよびブタジエンの製造方法>
本発明のクロトニルアルコールの製造方法は、アセチル-CoAをアセト-アセチル-CoAに変換する工程、アセト-アセチル-CoAを3−ヒドロキシブチル-CoAに変換する工程、3−ヒドロキシブチル-CoAをクロトニル-CoAに変換する工程、クロトニル-CoAをクロトニルアルデヒドに変換する工程、およびクロトニルアルデヒドをクロトニルアルコールに変換する工程を含む。
ここで、アセチル-CoAをアセト-アセチル-CoAに変換する工程、アセト-アセチル-CoAを3−ヒドロキシブチル-CoAに変換する工程、3−ヒドロキシブチル-CoAをクロトニル-CoAに変換する工程、クロトニル-CoAをクロトニルアルデヒドに変換する工程、およびクロトニルアルデヒドをクロトニルアルコールに変換する工程は、これらの変換反応を触媒する酵素、または該酵素の活性を有する微生物、好ましくは、アセチル-CoAをアセト-アセチル-CoAに変換する酵素活性、アセト-アセチル-CoAを3−ヒドロキシブチル-CoAに変換する酵素活性、および3−ヒドロキシブチル-CoAをクロトニル-CoAに変換する酵素活性を有し、クロトニル-CoAをクロトニルアルデヒドに変換する酵素活性およびクロトニルアルデヒドをクロトニルアルコールに変換する活性が非改変株と比べて高められた微生物を用いて行う。
アセチル-CoAをアセト-アセチル-CoAに変換する酵素としてはAcetyl-CoA acetyltransferase (EC1.3.1.9)が挙げられ、アセト-アセチル-CoAを3−ヒドロキシブチル-CoAに変換する酵素としては3-hydroxybutyryl-CoA dehydrogenase (1.1.1.157)が挙げられ、3−ヒドロキシブチル-CoAをクロトニル-CoAに変換する酵素としてはEnoyl-CoA hydratase(EC4.2.1.17)が挙げられる。
これらの酵素は多くの微生物で保存されており、例えば、3−ヒドロキシブチル-CoAは、クロストリジウム属の微生物などにより、Acetyl-CoA acetyltransferaseおよび、3-hydroxybutyryl-CoA dehydrogenaseを経て、合成されることが知られている(Youngleson S. at el., J Bac.171:6800-6807 (1989))。また、大腸菌においても、Acetyl-CoA acetyltransferase、3-hydroxybutyryl-CoA dehydrogenase、Enoyl-CoA hydrataseをコードする遺伝子はそれぞれ大腸菌の染色体上に存在しており、菌体内部で活性が存在すること知られている(Duncombe G et al., Arch Biochem Biophys. 176:159-170 (1976); Yang S. and Schulz H., J. Biol. Chem. 258:9780-9785(1983); ObrienW., J. Bac. 132:532-540 (1977) )。
Acetyl-CoAはどの生物においてもグルコース合成される代謝中間体であるため、大腸菌などを宿主に用いてクロトニルアルコールを合成させる場合、クロトニル-CoA をクロトニルアルデヒドに変換する酵素であるCrotonyl-CoA reductaseと、クロトニルアルデヒドをクロトニルアルコールに変換する酵素であるCrotonyl alcohol hydrogenaseをコードするそれぞれの遺伝子をともに用いて大腸菌などの宿主を形質転換することが必要である。
下記に、Crotonyl-CoA reductaseおよび、Crotonyl alcohol dehydrogenaseの遺伝子候補と、それらを利用してCrotonyl alcoholを醗酵生産する微生物を作成する方法の具体例を説明する。
<Crotonyl-CoA reductase(クロトニル−CoAからクロトアルデヒドを生成する還元酵素)の候補遺伝子>
クロトニル−CoAの還元反応は、補酵素Aエステル還元酵素による。その中でも、2−エン構造を持つ、シナモイルCoAリダクターゼ(EC 1.2.1.44)(CCR)が候補として挙げられる。シナモイルCoAリダクターゼは高等植物におけるリグニンの生合成に必要な酵素であり、これらの植物には普遍的に存在すると考えられる。シロイヌナズナには2つのイソザイムが存在し、AtCCR1及びAtCCR2と呼ばれる。互いに約82%の相同性があり(タンパク質配列あたり)、それぞれは大腸菌で機能的に発現されている(Lauvergeat V Phytochemistry. 2001 57(7):1187-95)。その結果によると、AtCCR1はフェルオイルCoA( feruloyl-CoA)やシナポイルCoA(sinapoyl-CoA)に対してAtCCR2に比べ約5倍反応性が高いなどその基質により反応性に違いが見られる。
同様にポプラ由来のCCRタンパク質も大腸菌で発現され、その基質特異性について詳細に調べられている。Liらによると、ポプラ由来CCRタンパク質はシナモイルCoAのうち、フェルオイルCoA(Feruloyl-CoA)に最も高い親和性を示し反応速度も高い(Li L et al, Plant Cell Physiol. 2005 46(7):1073-82)。Caffeoyl-CoAに対して親和性は中程度なものの飽和最大速度が著しく低く、Feruloyl-CoA存在下では反応が阻害される。一方、5-hydroxyferuloyl-CoAないしSinapoyl-CoAに対しては親和性が低く、このようにシナモイルCoAリダクターゼのその基質選択性は広いものの反応性は大きく変化することがわかる。シナモイルCoAリダクターゼをコードする遺伝子配列が報告されているものは、他にもヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、イネ(Oryza sativa japonica)、モロコシ(Sorghum bicolor)、ヒメツリガネコケ(Physcomitrella patens)など多くある。
シナモイルCoAリダクターゼと同様に、アルデヒドと補酵素Aエステルの酸化還元反応を行う酵素群は他にもある。アセトアルデヒドとアセチルCoAとの反応を行うアセトアルデヒド脱水素酵素(EC 1.2.1.10)はエチルアルコールを酢酸へと代謝する一連の反応にみられる。宿主として有効であると考えられる大腸菌が保持するアセトアルデヒド脱水素酵素は、adhE遺伝子およびmhpF遺伝子にコードされている。うちmhpF遺伝子は3-(3-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸 (3-HPP) 異化経路の一連の遺伝子とオペロンを形成しており、同経路の最終反応を行っていると考えられている。
シュードモナスプチダ株も複数のアセトアルデヒド脱水素酵素を保持している。dmpF遺伝子はフェノールなどの分解を行うメタ開裂経路に必要なタンパク質をコードする遺伝子群とオペロンを形成し、大腸菌で活性型で発現することが示されている。Powlowski J.et al, (J. Bacteriol. 1993 175, 377-385)。さらにトルエンを分解する系の遺伝子とオペロンを形成しているTodI(Lau P et al, Gene,146(1) 1994; 7-13)が見出されている。
さらに、マロン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.18)をコードするマウスAldh6A1(Alnouti Y and Klaassen CD. Toxicol Sci. 2008 101(1):51-64)も使用しうる。
長鎖脂肪酸アルコールと補酵素Aエステルの酸化還元酵素も有用であると考えられる。アシネトバクター属などはワックスエステルを生成することが知られているが、これをつかさどる酵素のひとつがヘキサデカナールデヒドロゲナーゼ(アシル化)(EC 1.2.1.42)であり、コードするAcr1遺伝子(Reiser S and Somerville C J. Bacteriol. 1997 179, 2969-2975)はクローニングされ、大腸菌を宿主としての活性が確認されている。
<Crotonyl alcohol dehydrogenase(Crotonyl-aldehydeからCrotonyl alcoholを生成する脱水素酵素)の候補遺伝子>
Crotonyl-aldehydeの還元反応はアルコールデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.1)により達成される反応であり、2−エン1−オン構造への反応性が高い酵素が望ましい。例えば、サッカロミセスセレビジエのADH1-3遺伝子にコードされるアルコールデヒドロゲナーゼはアリルアルコールである4-ジメチルアミノ-トランス-シンナムアルデヒドを基質とすることが報告されている(Leskovac V et al, FEMS Yeast Res. 2002 2(4):481-94)。バジルより見出されたアルコールデヒドロゲナーゼの一種であるGEDH1は大腸菌によって過剰発現された後に精製した酵素を用いて分析を行った結果、ゲラニオールなどのテルペンアルコール類のほか、シナミルアルコールを基質とすることが示されており、大腸菌を宿主としたクロトニルアルデヒドの還元反応が実施できる(Iijima Y et al, Arch Biochem Biophys.2006 448(1-2):141-149)。同様にシロイヌナズナのシナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.195)であるAtCAD5 a及び AtCAD4も、大腸菌で発現され詳細な立体構造解析がされている(Youn B et al, Org. Biomol. Chem., 2006, 4, 1687-1697)
またフラボバクテリウム属由来のAlcdh(Genbank AB084581.1)遺伝子にコードされるアルコールデヒドロゲナーゼ(Kazuoka T et al, Extremophiles. 2007 11(2):257-67)やチモモナス属由来のZMO1696遺伝子にコードされるアルコールデヒドロゲナーゼ(Kinoshita, S et al, Appl. Microbiol. Biotechnol.1985 22:249-254)においてもアリルアルコールの酸化反応が報告されており、原核生物由来のアルコールデヒドロゲナーゼも本反応に利用できる。さらに、大腸菌No.17株から精製されたアルコールデヒドロゲナーゼもアリルアルコールとアクロレインの反応を行う報告があり(Otsuka K, J. Gen. Appl. Microbiol. 1958 4(4):211-215)、宿主として大腸菌を用いた場合には、自身がもつアルコールデヒドロゲナーゼにより本反応が実施されることも期待できる。
Crotonyl-aldehydeを基質とする報告は今のところないが、ウマEquus caballusの肝臓由来アルコールデヒドロゲナーゼはCrotonyl alcoholをCrotonyl-aldehydeへ酸化する逆反応があることが示されており(Fontaine FR et al, Chem. Res. Toxicol., 2002, 15 (8) 1051-1058)、哺乳動物由来のアルコールデヒドロゲナーゼがCrotonyl-aldehydeを基質とした還元反応が可能であることを示唆している。
<クロトニルアルコールをバイオ法で合成する微生物を作製する具体例>
クロトニルアルコールを生産する能力を有する大腸菌株は一般的な分子生物学的手法(Ausubel et al, Current Protocol in Molecular Biology (2003); Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition (2001) など)を用いることにより、次の手順で作成することができる。
例えば上記のArabidopsis thaliana由来CCR1 遺伝子( Genbank受入番号: NC_003070.9 )とOcimum basilicum由来GEDH1遺伝子(Genbank受入番号: AY879285.1 )を連結した上で、この連結遺伝子を大腸菌プラスミドベクターpUC19(タカラバイオ社製)のlacプロモーター下流側に組み込んだプラスミドpCCR1−GEDH1を構築する。さらに、このプラスミドDNAで大腸菌JM109株を形質転換することによりCCR1とGEDH1を保持する組み換え大腸菌株を作製し、この大腸菌株をJM109/pCCR1−GEDH1と命名する。
JM109/pCCR1−GEDH1は当業者に周知の方法(日本生物工学会編,生物工学実験書(2002); Vogel H. et al, Fermentation and Biochemical Engineering Handbook, 2nd Ed.(2007) など)により培養することができる。例えば、20g/Lのグルコース、50μg/mlアンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加した最小合成培地100mlに大腸菌JM109/pCCR1−GEDH1を播種し、フラスコを用いることで、37℃で24時間以上培養することができる。ジャーファーメンターを使用して培養を実施する際は、基質の供給速度、攪拌回転数、通気量、pHなどを適正な範囲で制御することができる。必要に応じて、嫌気条件、微好気条件、好気条件を選択することができる。また、回分培養、半回分培養、連続培養などの形態を自由に選択することができる。
培養液中のクロトニルアルコールの濃度は、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC−MS)、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC−MS)などにより測定することができる。
また、CCR1およびGEDH1遺伝子が発現していることの確認は、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR法、免疫ブロット法などの当業者に周知の方法により調べることができる。
一般的な分子生物学的手法(Ausubel et al, Current Protocol in Molecular Biology (2003); Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition (2001) など)により、大腸菌株JM109/pCCR1−GEDH1は改良することができ、クロトニルアルコールの生産性を改善することができる。例えば、クロトニルアルコール生産経路の律速反応となっている酵素に関して、遺伝子コピー数を増やすこと、コドン最適化、または酵素活性部位近辺のアミノ酸置換により酵素活性を増加させ、クロトニルアルコールの生産性を改善することできる。また、副生成物を生産する反応を触媒する酵素の遺伝子を破壊することなどでCrotonyl alcoholの生産性を改善することもできる。また、NTGや紫外線による変異処理を行いクロトニルアルコール生産性が向上した菌体を選抜することを繰り返し行う方法を利用することもできる。
<ブタジエンの製造方法>
上記のようにして得られたクロトニルアルコールを脱水反応に供することで、ブタジエンを得ることができる。例えば、モリブデン酸ビスマス触媒によりクロトニルアルコールからブタジエンが生成することをAdamsらが報告している(Ind. Eng. Chem.,1969,61(6), pp 30-33)。グルコースなどの糖を原料としてクロトニルアルコールを微生物による醗酵生産し、必要に応じて単離したクロトニルアルコールをAdamsらの方法などでブタジエンに変換することで、原油を使用せずにブタジエンを製造することが可能である。
以下、実施例について説明する。ただし、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されない。
本実施形態に係る第1の実施例(以下、実施例1という)を説明する。実施例1は、合成経路作成装置1が実行する仮想反応法による化合物合成経路の作成の具体例であるが、実施例1に係る数値は、例示であって、本実施形態は、実施例1の数値に限定されるものではない。
実施例1では、KEGGのデータベースに登録されている化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータと、KEGGのデータベースに登録されている化合物に加えて目的化合物(非天然化合物を含む)の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータとを使用して、1万3213個の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを化合物データベース11に格納した。KEGGのデータベースの全化合物についてKEGG ATOM TYPEで表記されたKFCフォーマットデータをKEGGデータベースからダウンロードすることにより、化合物データベース11に化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを格納した。KEGGデータベースに登録されていない化合物は、KegDrawツールを使用してKFCフォーマットに変換した。
上記条件において、出発化合物としてピルビン酸が指定され、目的化合物として3−Hydroxypropionateが指定されて、化合物の合成経路の作成を開始した。制御部21が、図6のS601の処理を行うことにより、1万3213個の化合物のUFが作成され、UFデータベース15に格納された。制御部21が、図6のS602の処理を行うことにより、約1億7400万個のDFが算出され、差分データベース16に格納された。
制御部21が図6のS603及びS604の処理を行うことにより、約13万4000個の未知反応が仮想反応として決定され、制御部21により図6のS605の処理が行われた。制御部21が、図6のS606の処理を行うことにより、既知反応および仮想反応を含むグラフ(ネットワーク)が作成された。
制御部21が図6のS607の処理を行うことにより、出発化合物を開始点、目的化合物を終点とする順方向探索法により、作成された合成経路の探索が行われた。
4以下の反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を選択するという条件下で、制御部21が図6のS608の処理を行うことにより、4以下の反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路が選択された。1以下の仮想反応ステップを含む出発化合物から目的化合物までの合成経路を抽出するという条件下で、制御部21が図6のS609の処理を行うことにより、50個の化合物の合成経路が、出発化合物から目的化合物までの合成経路として抽出された。
制御部21が図6のS610及びS611の処理を行うことにより、50個の化合物の合成経路のうち24個の化合物の合成経路が、熱力学的に実行可能性のある合成経路として抽出された。原料化合物としてグルコースが指定され、制御部21が図6のS612の処理を行うことにより、原料化合物から出発化合物までの合成経路が作成された。この場合、制御部21は、既知反応データベース12に格納されている大腸菌の代謝反応に関するデータを参照する。そして、制御部21が図6のS612の処理を行うことにより、図6のS611の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)が算出された。原料化合物としてグルコースが指定され、原料化合物からのモル理論収率(%)が200%以上である目的化合物を合成する化合物の合成経路を抽出するという条件下で、制御部21が図6のS613及びS614の処理を行うことにより、13個の化合物の合成経路が抽出された。制御部21が図6のS615の処理を行うことにより、5個の化合物の合成経路が実用的な合成経路として抽出された。
最終的に抽出された化合物の合成経路の中には、Cargillが独自に見出して、特許文献(WO/2006/022664)に記載されているルート(ピルビン酸(pyruvate)→αアラニン(α-alanine)→βアラニン(β-alanine)→マロン酸セミアルデヒド(malonate semialdehyde)→3HP(3−hydroxypropionate))が含まれていた(下記式1参照)。
αアラニンをβアラニンに変換する酵素は、リジン2,3アミノムターゼ(EC5.4.3.2)を改変して作成された非天然型酵素であり、KEGGデータベースには登録されていない。また、最終的に抽出された他の4つの合成経路を下記式2−5に示す。
本実施形態に係る第2の実施例(以下、実施例2という)を説明する。実施例2は、上述の最適化法による化合物合成経路の作成の具体例であるが、実施例2に係る数値は、例示であって、本実施形態は、実施例2の数値に限定されるものではない。
実施例2では、KEGGのデータベースに登録されている化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータと、KEGGのデータベースに登録されている化合物に加えて目的化合物(非天然化合物を含む)の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータとを使用して、13213個の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを化合物データベース11に格納した。KEGGのデータベースの全化合物についてKEGG ATOM TYPEで表記されたKFCフォーマットデータをKEGGデータベースからダウンロードすることにより、化合物データベース11に化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを格納した。KEGGデータベースに登録されていない化合物は、KegDrawツールを使用してKFCフォーマットに変換した。
上記条件において、出発化合物として4-hydroxybutyryl-CoAを指定し、目的化合物として1,4-butanediolを指定して、化合物の合成経路の作成を開始した。制御部21が、図9のS901の処理を行うことにより、1万3213個の化合物のUFが作成され、UFデータベース15に格納された。制御部21が、図9のS902の処理を行うことにより、約7000個の既知DFが算出され、差分データベース17に格納された。
制御部21が、図9のS903の処理を行うことにより、目的化合物である1,4-butanediolのUFから出発化合物である4-hydroxybutyryl-CoAのUFを減算することにより、4-hydroxybutyryl-CoAと1,4-butanediolとの化合物ペアについてのDifference Totalが算出された。
制御部21が、図9のS904の処理を行うことにより、Difference Totalの値と複数の既知DFの合計値とが一致するように、差分データベース17から2個以下の既知DFを含むDF組合せ群の作成が行われた。制御部21は、差分データベース17からランダムに500個の既知DFを抽出し、抽出した500個の既知DFを用いてDF組合せ群の作成を行った。制御部21は、差分データベース17からランダムに500個の既知DFを抽出し、抽出した500個の既知DFを用いてDF組合せ群を作成するという操作を1000回繰り返すことにより、6種類のDF組合せ群を作成した。
制御部21が、図9のS905の処理を行うことにより、6種類のDF組合せ群について、出発化合物及び目的化合物と、DF組合せ群に含まれる複数の既知DFとによって、6個の化合物の合成経路を作成した。
制御部21が、図9のS906の処理を行うことにより、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFが算出された。制御部21が、図9のS907の処理を行うことにより、6個の化合物の合成経路について、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するか否かの判定が行われた。制御部21が、図9のS908の処理を行うことにより、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するとして、6個の化合物の合成経路が抽出された。
制御部21が、図9のS909の処理を行うことにより、6個の化合物の合成経路について、化合物の合成経路に含まれる化合物の合成で用いられる酵素が決定された。制御部21が、図9のS910の処理を行うことにより、6個の化合物の合成経路のそれぞれについて、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称が決定され、中間化合物の名称を決定できない中間化合物に対して所定の番号が割り当てられた。
原料化合物としてグルコースが指定され、制御部21が図9のS913の処理を行うことにより、原料化合物から出発化合物までの合成経路が作成された。この場合、制御部21は、既知反応データベース12に格納されている大腸菌の代謝反応に関するデータを参照する。そして、制御部21が図9のS913の処理を行うことにより、図9のS908の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)が算出された。そして、原料化合物としてグルコースが指定され、原料化合物からのモル理論収率(%)が0%より大きい目的化合物を合成する化合物の合成経路を抽出するという条件下で、制御部21が、図9のS914及びS915の処理を行うことにより、5個の化合物の合成経路が抽出された。また、原料化合物としてグルコースが指定され、原料化合物からのモル理論収率(%)が100%以上である目的化合物を合成する化合物の合成経路を抽出するという条件下で、制御部21が、図9のS914及びS915の処理を行うことにより、1個の化合物の合成経路が抽出された。
図12に、最終的に抽出された化合物の合成経路を示す。最終的に抽出された化合物の合成経路は、4−ヒドロキシ酪酸(4-hydroxybutyric acid)を経由して、3つの酵素(EC2.8.3.-、EC1.2.1.-、EC1.1.1.-)が連続して反応することで、1,4ブタンジオール(1,4- butanediol)を生成することができることを示している。最終的に抽出された化合物の合成経路に含まれる仮想化合物は、UFデータベース15に格納されている化合物のUFの何れとも一致しないために所定の番号(VC00002)が割り当てられた中間化合物である。
最終的に抽出された化合物の合成経路は、Genomatica Inc.(CA,USA)が独自に見出し、特許文献(WO/2008/115840)に記載されている経路(4-hydroxybutryl-CoA→(EC1.2.1.-)→4-hydroxybutyrylaldehyde→(EC1.2.1-)→1,4-butanediol)と同一である。最適化法は、化合物の合成経路と、化合物の合成経路における各反応で用いられる酵素とを含む情報を出力するため、中間化合物が既知である必要はない。例えば、4-hydroxybutyrylaldehydeは、KEGGのデータベースに登録されていない化合物(非天然型化合物)であるが、合成経路作成装置1によって作成される合成経路は、KEGGのデータベースに登録されていない化合物を含むことが可能である。すなわち、合成経路作成装置1は、KEGGのデータベースに登録されていない化合物を含む合成経路を作成することが可能である。
本実施形態に係る第3の実施例(以下、実施例3という)を説明する。実施例3は、上述の最適化法による化合物合成経路の作成の具体例であるが、実施例3に係る数値は、例示であって、本実施形態は、実施例3の数値に限定されるものではない。
実施例3では、Butadieneの合成経路の作成の具体例を説明する。実施例3では、KEGGのデータベースに登録されている化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータと、KEGGのデータベースに登録されている化合物に加えて目的化合物(非天然化合物を含む)の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータとを使用して、13213個の化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを化合物データベース11に格納した。KEGGのデータベースの全化合物についてKEGG ATOM TYPEで表記されたKFCフォーマットデータをKEGGデータベースからダウンロードすることにより、化合物データベース11に化合物の名称及び化合物の化学構造式のデータを格納した。KEGGデータベースに登録されていない化合物は、KegDrawツールを使用してKFCフォーマットに変換した。
上記条件において、出発化合物としてAcetyl-CoAを指定し、目的化合物としてButadieneを指定して、化合物の合成経路の作成を開始した。制御部21が、図9のS901の処理を行うことにより、化合物のUFが作成され、UFデータベース15に格納された。制御部21が、図9のS902の処理を行うことにより、約7000個の既知DFが算出され、差分データベース17に格納された。
制御部21が、図9のS903の処理を行うことにより、目的化合物であるButadieneのUFから出発化合物であるAcetyl-CoAのUFを減算することにより、Acetyl-CoAとButadieneとの化合物ペアについてのDifference Totalが算出された。
制御部21が、図9のS904の処理を行うことにより、Difference Totalの値と複数の既知DFの合計値とが一致するように、差分データベース17から2個以下の既知DFを含むDF組合せ群の作成が行われた。制御部21は、差分データベース17からランダムに500個の既知DFを抽出し、抽出した500個の既知DFを用いてDF組合せ群の作成を行った。制御部21は、差分データベース17からランダムに500個の既知DFを抽出し、抽出した500個の既知DFを用いてDF組合せ群を作成するという操作を1000回繰り返すことにより、DF組合せ群を作成した。
制御部21が、図9のS905の処理を行うことにより、DF組合せ群について、出発化合物及び目的化合物と、DF組合せ群に含まれる複数の既知DFとによって、複数の化合物の合成経路を作成した。
制御部21が、図9のS906の処理を行うことにより、化合物の合成経路に含まれる中間化合物のUFが算出された。制御部21が、図9のS907の処理を行うことにより、複数の化合物の合成経路について、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するか否かの判定が行われた。制御部21が、図9のS908の処理を行うことにより、出発化合物から目的化合物までの合成経路として成立するとして、化合物の合成経路が抽出された。
制御部21が、図9のS909の処理を行うことにより、化合物の合成経路に含まれる化合物の合成で用いられる酵素が決定された。制御部21が、図9のS910の処理を行うことにより、化合物の合成経路に含まれる中間化合物の名称が決定され、中間化合物の名称を決定できない中間化合物に対して所定の番号が割り当てられた。
原料化合物としてグルコースが指定され、制御部21が図9のS913の処理を行うことにより、原料化合物から出発化合物までの合成経路が作成された。この場合、制御部21は、既知反応データベース12に格納されている大腸菌の代謝反応に関するデータを参照する。そして、制御部21が図9のS913の処理を行うことにより、図9のS908の処理で抽出された合成経路によって合成される目的化合物について、原料化合物からのモル理論収率(%)が算出された。そして、原料化合物としてグルコースが指定され、原料化合物からのモル理論収率(%)が0%より大きい目的化合物を合成する化合物の合成経路を抽出するという条件下で、制御部21が、図9のS914及びS915の処理を行うことにより、化合物の合成経路が抽出された。
図13に、最終的に抽出された化合物の合成経路を示す。最終的に抽出された化合物の合成経路は、Acetyl-CoAを出発化合物として、Crotonyl-CoAを経由することで、Butadieneを生成することができることを示している。最終的に抽出された化合物の合成経路に含まれる仮想化合物は、UFデータベース15に格納されている化合物のUFの何れとも一致しないために所定の番号が割り当てられた中間化合物である。これらは、未知中間体の構造はDF情報をもとに、Crotonyl-aldehyde及びCrotonyl-alcoholと決定した。
〈コンピュータ読み取り可能な記録媒体〉
コンピュータに上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータに、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。また、コンピュータに固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。