JP5904481B2 - ピロリ菌の分泌毒素に結合するペプチドおよびその用途 - Google Patents
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Description
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
[1]下式:
X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7
(式中、X1は疎水性アミノ酸、X2は塩基性アミノ酸、X3は疎水性アミノ酸、X4は親水性中性アミノ酸、X5は親水性中性アミノ酸、X6は任意のアミノ酸もしくはジペプチド、X7は疎水性アミノ酸をそれぞれ示す)
で示されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含むペプチドであって、H. ピロリのVacAに対して特異的親和性を有するペプチド。
[2]X1がGlyもしくはTrp、X2がArg、X3がValもしくはTyr、X4がAsnもしくはThr、X5がGln、X6がArg、CysもしくはVal-Thr、及びX7がLeuもしくはProである、上記[1]記載のペプチド。
[3]X1がGly、X6がArgもしくはVal-Thr、及びX7がLeuである、上記[2]記載のペプチド。
[4]配列番号1〜4:
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Arg-Leu(配列番号1)
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Cys-Leu(配列番号2)
Trp-Arg-Val-Thr-Gln-Arg-Pro(配列番号3)
Gly-Arg-Tyr-Asn-Gln-Val-Thr-Leu(配列番号4)
のいずれかで表されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含む、上記[2]記載のペプチド。
[5]N末端及びC末端にそれぞれCysを含む1〜3個のアミノ酸が付加され、該Cys間のジスルフィド結合により環状化した、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のペプチド。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のペプチドを含有してなる、H. ピロリのVacA検出試薬。
[7]該ペプチドが標識されている、上記[6]記載の試薬。
[8]固相表面に固定化されている、上記[6]記載の試薬。
[9]固相がセンサーチップである、上記[8]記載の試薬。
[10]検体中のH. ピロリのVacAを検出する方法であって、
(1) 検体と、上記[6]〜[9]のいずれかに記載の試薬とを接触させる工程、および
(2) 該検体中のVacAと該試薬中のペプチドとの結合を測定する工程
を含む方法。
[11](1) 検体と、上記[9]記載の試薬とを接触させる工程、および
(2) 該検体中のVacAと該試薬中のペプチドとの結合を表面プラズモン共鳴により測定する工程
を含む、上記[10]記載の方法。
[12]検体中のH. ピロリのVacAを検出する方法であって、
(1) 検体と、蛍光標識された上記[1]〜「5」のいずれかに記載のペプチドとを混合して試料溶液を調製する工程、および
(2) 共焦点様光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程
を含む方法。
[13]検体が除菌処理されたものである、上記[10]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のペプチドを含有してなる、H. ピロリのVacAの中和剤。
[15]H. ピロリ感染に起因する疾患の予防及び/又は治療用である、上記[14]記載の剤。
X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7 (I)
(式中、X1は疎水性アミノ酸、X2は塩基性アミノ酸、X3は疎水性アミノ酸、X4は親水性中性アミノ酸、X5は親水性中性アミノ酸、X6は任意のアミノ酸もしくはジペプチド、X7は疎水性アミノ酸をそれぞれ示す)
で示されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含むペプチドである。
本明細書において、アミノ酸配列は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。また、逆鎖とは、N末端からC末端の並びを逆にしたアミノ酸配列、即ち、(N末端)-X7-X6-X5-X4-X3-X2-X1-(C末端)を意味する。
また、ここで疎水性アミノ酸とは、Ile、Leu、Val、Ala、Phe、Pro、Met、Trp、Tyr及びGlyを意味し、塩基性アミノ酸とは、Arg、Lys及びHisを意味し、親水性中性アミノ酸とは、Asn、Gln、Ser、Thr及びCysを意味し、任意のアミノ酸とは天然に存在する20種のアミノ酸を意味し、任意のジペプチドとは2個の任意のアミノ酸からなるペプチドを意味する。これらのアミノ酸はL体であってもD体であってもよく、両者が混在していてもよいが、好ましくはL体である。
(Gly/Trp)-Arg-(Val/Tyr)-(Asn/Thr)-Gln-(Arg/Cys/Val-Thr)-(Leu/Pro) (II)
Gly-Arg-(Val/Tyr)-(Asn/Thr)-Gln-(Arg/Val-Thr)-Leu (III)
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Arg-Leu(配列番号1)
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Cys-Leu(配列番号2)
Trp-Arg-Val-Thr-Gln-Arg-Pro(配列番号3)
Gly-Arg-Tyr-Asn-Gln-Val-Thr-Leu(配列番号4)
のいずれかで表されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含む。
さらに、本発明のペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものなども含まれる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)〜(5)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド (The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
(3)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株) (1975年)
(4)矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座 1、蛋白質の化学IV 205 (1977年)
(5)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にペプチドが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、ターシャリーペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2-ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ターシャリーブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4-ニトロベンジルエステル、4-メトキシベンジルエステル、4-クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、ターシャリーブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2-Bzl、2-ニトロベンジル、Br-Z、ターシャリーブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
ペプチドのエステル体は、例えば、C末端アミノ酸のα-カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、上記ペプチドのアミド体の場合と同様にして得ることができる。
(1) 検体と、本発明のペプチドを含有する上記いずれかの検出用試薬とを接触させる工程、および
(2) 該検体のVacAと、該試薬中の本発明のペプチドとの結合を測定する工程
を含む。
(1) 検体と蛍光標識した本発明のペプチドとを混合して試料溶液を調製する工程、および
(2) 蛍光検出系を用いて前記試料溶液の蛍光信号全体の強さ、蛍光信号の時間経過による変化または蛍光偏光の度合いを計測する工程
を含む。
(1) 検体と、蛍光標識された本発明のペプチドとを混合して試料溶液を調製する工程、および
(2) 共焦点様光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程
を含む方法を提供する。
本発明のペプチドは、VacAの検出に十分な蛍光シグナルを与える限り、すべての分子が蛍光標識されている必要はなく、一部のみが標識されていてもよい。
(i) レーザ光を対物レンズでフェムトリットル以下の領域まで焦点を絞る。
(ii) 分子がレーザの焦点領域を通過するミリ秒以下の時間内に、数百〜数千個のフォトンが発生する。
(iii) 試料溶液中のVacAと蛍光標識した本発明のペプチドとを結合させ、VacAを蛍光標識する。こうすることにより分子サイズが大きくなるために、溶液中の移動速度が遅くなる。本発明のペプチドはVacAの凝集体形成を促進するので、より分子サイズが大きくなり、検出感度の向上が期待できる。
(iv) 蛍光標識されたVacAの共焦点領域における蛍光信号の時間変化を、検出器にて測定する。
測定時間は特に制限されないが、例えば、30〜3600秒の範囲で適宜選択することできる。測定結果は、例えば、VacAを含有しない対照試料を用いて同様に測定を行った場合に得られる蛍光シグナル強度に基づいて適当な閾値を決定し、当該閾値を超えたシグナル強度を与えた数(シグナル数)あるいは当該閾値を超えたシグナル強度の総和(シグナル強度積算値)を計測・算出することにより、VacAの有無を容易に判定することができる。
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Arg-Leu(配列番号1)
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Cys-Leu(配列番号2)
Trp-Arg-Val-Thr-Gln-Arg-Pro(配列番号3)
Gly-Arg-Tyr-Asn-Gln-Val-Thr-Leu(配列番号4)のいずれかで表されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含むペプチド、あるいは該ペプチドのN末端及びC末端にそれぞれCysを含む1〜3個のアミノ酸が付加され、該Cys間のジスルフィド結合により環状化したペプチドは、VacAに対して特異的親和性を有し、これに吸着することで、VacAの宿主細胞への作用を中和することができる。従って、本発明はまた、これらのペプチドを含有してなる、H. ピロリのVacAの中和害剤を提供する。VacAは宿主細胞に空胞を形成させて細胞を死滅させ、胃炎や胃潰瘍を引き起こすことが知られているので、上記ペプチドはまた、H. ピロリの感染に起因する疾患、特にVacAが主に関与する胃炎や胃潰瘍などの疾患の予防及び/又は治療に用いることができる。
ジェナシス株式会社の特許技術(特許4318721号「mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体作製用リンカー」および特開2008-253176「高親和性分子取得のためのリンカー」)に開示された方法により、図1に示すペプチド配列がVacA結合ペプチド候補として得られた。これらの配列のアライメントから、以下の配列(式(I))がアプタマーとして定義された。
X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7 (I)
(式中、X1:疎水性アミノ酸、好ましくはGly;X2:塩基性アミノ酸、好ましくはArg;X3:疎水性アミノ酸、好ましくはValまたはTyr;X4:親水性中性アミノ酸好ましくはAsnまたはThr;X5:親水性中性アミノ酸好ましくはGln;X6:任意のアミノ酸またはジペプチド、好ましくはArgまたはVal-Thr;X7:疎水性アミノ酸好ましくはLeu。)
GRVNQRL(配列番号1;以下、ペプチド1)、IRLYSDSG(配列番号7;以下、ペプチド2)、CGRVNQRLC(配列番号8;以下、ペプチド3)をペプチド合成機 (ABI 433A Peptide Synthesizer) を用いて定法に従い化学合成した。また、文献「ペプチド合成の基礎と実際 泉谷信夫 丸善株式会社」に記載の方法により合成樹脂よりペプチドを遊離させ、30%酢酸1 mlに溶解の後、逆相HPLCにて精製した。ODSカラム (Cosmosil Type 5C18 AR-II4.6 × 150 mm) により分離、220 nmにおいて紫外吸収を測定することで目的とするペプチドを検出した。MALDI-TOF-MS Voyger DE PRO(Applied Biosystems) により分子量を確認した。
塩酸により110℃で20時間かけて加水分解を行った。反応後、日立カスタムイオン交換樹脂 (2622SC-PH) を装着した高速アミノ酸分析計(HITACHI L-8800A形)を使用して組成分析した。
実施例2で合成した各ペプチドと1.2等量のBODIPY(登録商標)-FL, succinimidyl ester(Invitrogen社)とをDMF中で混合し、遮光条件下で反応させた。反応終了後、ODSカラム (Cosmosil 5C18-AR-II) を装着した日立製HPLCにより精製した。
(注) BODIPY-FL: 4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-pentanoic acid
蛍光標識したアプタマー候補ペプチド(1)GRVNQRL(ペプチド1)、(2)IRLYSDSG(ペプチド2)のVacAに対する結合力をFCS装置により測定した。VacA濃度13 nM、37 nM、111 nM、333 nM、1000 nMに、10 nMのペプチドアプタマーと100 mg/mlのウシ血清アルブミンを加え、37℃、1時間反応させた。その後、蛍光相関分光装置FCS-101B(光源波長473 nm、東洋紡績・浜松ホトニクス社製) により蛍光強度変動の自己相関解析により並進拡散時間を測定した。その自己相関解析の結果を図2に示す。
ペプチド1はVacA濃度の増加に伴い、並進拡散時間が増加した(自己相関曲線が濃度に応じて右に移動した)。これは溶液中の動きが遅くなったためであり、VacAとペプチドアプタマーが結合することを示している。よって、ペプチド1はVacAへの結合力が大きい。一方、ペプチド2はVacAが高濃度に存在するにもかかわらず並進拡散時間がわずかにしか増加しなかった(自己相関曲線が濃度に応じてほとんど右に移動しなかった)。これはペプチド2とVacAが結合力が小さいことを示している。
ペプチド1を環状化したアプタマー候補ペプチド(3)CGRVNQRLC(両端のCは分子内ジスルフィド結合を形成;ペプチド3)も同様にVacA濃度の増加に伴い、並進拡散時間が増加した。その増加はペプチド1よりも低濃度のVacAで、大きな並進拡散時間を示した。この結果は、ペプチド1を環状化した場合、環状化しなかった場合と比較してさらに大きな結合力でVacAと結合することを示している。
これらの結果をアプタマー候補ペプチド(1)GRVNQRL(ペプチド1)、(2)IRLYSDSG(ペプチド2)、(3)CGRVNQRLC(ペプチド3)、(4)IDCGSCPI(配列番号9)、(5)SSTWRTLL(配列番号10)について図3に比較した。個々の自己相関曲線から得られた並進拡散時間の変化を左図、個々の自己相関曲線を2成分解析することにより得られた高分子量成分の比率(結合率)の変化を右図に示した。この結果からも、ペプチド1およびこれを環状化させたペプチド3の結合が著しいことがわかった。
0〜1000 nMのVacA溶液に、1%モル量を蛍光標識した1 μMのアプタマー候補ペプチド1または2、および100 μg/mlのウシ血清アルブミンを加えて混合し、遮光条件下で37℃、1時間反応させた。反応後、波長473 nmレーザーを光源とするFCS分析装置101-B (TOYOBO) で並進拡散時間の測定を行った結果を図4に示す。自己相関解析(図4上)の結果、ペプチド1では、VacA濃度の増加に伴い並進拡散時間が増加した(図4下、左図)。VacAの凝集体が形成されていると考えられる。一方、結合力の弱いアプタマー候補ペプチド2では凝集体は形成されなかった(図4下、右図)。
SPR装置用センサーチップ上にピランハ溶液 (過酸化水素水:濃硫酸=30:70) を滴下後、5分間静置し、表面洗浄を行った。MilliQ水でリンス後、N2ガスで表面を乾燥させ、クロロホルムを溶媒とした自己組織化膜(SAM)形成試薬 (11-Hydroxy-1-undecanthiol : HS-(CH2)11-NHCO-Biotin = 9 : 1、アルテック株式会社より入手) に24時間浸漬した。SAM形成後、クロロホルムで洗浄し、 N2ガスで乾燥させた。次に、400 mg/mlのストレプトアビジンを添加し、洗浄後、ビオチン修飾したペプチドアプタマー (アミノ酸配列:GRVNQRL (配列番号1)、終濃度200 mM) を添加することでセンサーチップ表面に該ペプチドアプタマーを固定化した。ビオチン修飾したペプチドの調製には、実施例2で合成した配列GRVNQRLと等量のBiotin-AC5-OSu(同仁化学株式会社より入手)とをDMF中で混合し、30℃で18時間反応させた。反応終了後、ODSカラム (Cosmosil 5C18-AR-II) を装着した日立製HPLCにより精製した。
そこにVacAを含む溶液 (終濃度1 mM)、VacAを含まない溶液をそれぞれ添加し、センサーグラムの変化を測定した。その結果、VacAを含む混合溶液は、添加後、センサーグラムが大きく上昇した。これはセンサーチップ表面において質量変化が起こったためであり、ペプチドアプタマーにVacAが吸着していることを示している。一方で、VacAを含まない溶液ではほとんど変化がみられなかった。以上の結果から、ペプチドアプタマー(アミノ酸配列:GRVNQRL)は、SPR測定装置を用いたセンサーとして、VacAの検出に利用できることがわかった。
実験例2に示す反応条件で、蛍光標識したペプチド1又はペプチド2と種々の濃度のVacAとを反応させ、実験例1に示すFCS法での測定条件において蛍光の変動値を計測した。特開2008-116440に開示された方法で、データ解析した結果を図6に示す。ペプチド1ではVacA濃度13 nM以上より凝集体特有の蛍光強度変動が観察され、そのバックグラウンド値を差し引いた蛍光強度積算値は、VacA濃度に応じて上昇することが示された(図6A)。一方、ペプチド2では、蛍光強度積算値は顕著に変化しなかった(図6B)。このことから、VacAに対して強い結合力を有するペプチドアプタマーは、VacAの凝集を促進する効果があり、微小領域に存在にする蛍光分子の蛍光強度の時間変化を計測するFCS法に利用すると、VacAの高感度な検出用試薬として有用であることがわかった。
Claims (10)
- 配列番号1〜7:
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Arg-Leu(配列番号1)
Gly-Arg-Val-Asn-Gln-Cys-Leu(配列番号2)
Trp-Arg-Val-Thr-Gln-Arg-Pro(配列番号3)
Gly-Arg-Tyr-Asn-Gln-Val-Thr-Leu(配列番号4)
Gly-Arg-Ser-Thr-Ser-Val-Thr-Leu(配列番号5)
Ile-Arg-Val-Tyr-Ser-Leu-Arg(配列番号6)
Ile-Arg-Leu-Tyr-Ser-Asp-Ser-Gly(配列番号7)
のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、H. ピロリのVacAに対して特異的親和性を有するペプチド。 - N末端及びC末端にそれぞれCysを含む1〜3個のアミノ酸が付加され、該Cys間のジスルフィド結合により環状化した、請求項1に記載のペプチド。
- 請求項1または2に記載のペプチドを含有してなる、H. ピロリのVacA検出試薬。
- 該ペプチドが標識されている、請求項3記載の試薬。
- 固相表面に固定化されている請求項3記載の試薬。
- 固相がセンサーチップである、請求項5記載の試薬。
- 検体中のH. ピロリのVacAを検出する方法であって、
(1) 検体と、請求項3〜6のいずれか1項に記載の試薬とを接触させる工程、および
(2) 該検体中のVacAと、該試薬中のペプチドとの結合を測定する工程
を含む方法。 - (1) 検体と、請求項6記載の試薬とを接触させる工程、および
(2) 該検体中のVacAと該試薬中のペプチドとの結合を表面プラズモン共鳴により測定する工程
を含む、請求項7記載の方法。 - 検体中のH. ピロリのVacAを検出する方法であって、
(1) 検体と、蛍光標識された請求項1または2に記載のペプチドとを混合して試料溶液を調製する工程、および
(2) 共焦点様光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程
を含む方法。 - 検体が除菌処理されたものである、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
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