次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.装置構成と全体処理手順:
B.基本メディアのLUT作成手順:
B−1.全体手順:
B−2.力学モデル:
B−3.スムージング処理(平滑化および最適化処理)の処理手順:
B−4.最適化処理の内容:
C.印刷装置の構成:
D.転用メディアのLUT作成手順:
E.変形例:
A.装置構成と全体処理手順:
図1は、本発明の一実施例におけるプロファイル作成装置の構成を示すブロック図である。プロファイル作成装置は、プロファイル作成方法の実行主体となる。当該装置の主要部は実体的にはコンピューター10により実現される。具体的には、コンピューター10が備えるCPU12が、ハードディスクドライブ(HDD)400等に記憶されたプログラム(プロファイル作成プログラム等)を読み込み、プログラムをRAM13に展開しながらプログラムに従った演算を実行することにより、ベースLUT作成モジュール100、色補正LUT作成モジュール200、LUT作成条件設定モジュール700等の各機能を実現する。コンピューター10には図示しない表示装置(例えば、液晶ディスプレイ)が接続されており、各処理に必要なUI(ユーザーインターフェイス)の表示が表示装置において行われる。さらに、コンピューター10には図示しない入力装置(例えば、キーボードやマウス。)が接続されており、各処理に必要な情報が入力装置を介して入力される。また、コンピューター10にはプリンター20(図17)と図示しない測色機が接続されている。また、コンピューター10は、フォワードモデルコンバーター300を備える。フォワードモデルコンバーター300は、さらに分光プリンティングモデルコンバーター310と色算出部320とを備える。フォワードモデルコンバーター300は、色予測モデルに該当する。これらの各部の機能については後述する。「LUT」は、プロファイルの一種としてのルックアップテーブルの略語である。
ベースLUT作成モジュール100は、初期値設定モジュール120と、スムージング処理モジュール130と、テーブル作成モジュール140とを有している。スムージング処理モジュール130は、色点移動モジュール132と、インク量最適化モジュール134と、画質評価指数コンバーター136とを有している。LUT作成条件設定モジュール700は、インク量コンバーター710と、UIモジュール720と、設定情報格納モジュール730とを備えている。設定情報格納モジュール730は、HDD400に格納されたメディアテーブルMTBと設定テーブルSTBとを管理する。これらの各部の機能については後述する。
HDD400は、インバースモデル初期LUT410や、ベース3D−LUT510,ベース4D−LUT520,色補正3D−LUT610,色補正4D−LUT620などを格納するための記憶装置でもある。ただし、インバースモデル初期LUT410以外のLUTは、ベースLUT作成モジュール100や色補正LUT作成モジュール200によって作成されるものである。ベース3D−LUT510は、RGB表色系を入力とし、インク量を出力とする色変換ルックアップテーブルである。ベース4D−LUT520は、CMYK表色系を入力とし、インク量を出力とする色変換ルックアップテーブルである。なお、「3D」や「4D」は、入力値の数を意味している。これらのベースLUT510,520の入力表色系であるRGB表色系やCMYK表色系は、いわゆる機器依存表色系では無く、特定のデバイスとは無関係に設定された仮想の表色系(あるいは抽象的な表色系)である。これらのベースLUT510,520は、例えば色補正LUT610,620を作成する際に使用される。「ベースLUT」という名前は、色補正LUTを作成する基礎として用いられるからである。また、「ベースLUT」は本発明のプロファイル作成方法によって作成される「プロファイル」に相当する。色補正LUT610,620は、標準的な機器依存表色系(例えばsRGB表色系やJAPAN COLOR 2001表色系)を、特定のプリンターのインク量に変換するためのルックアップテーブルである。インバースモデル初期LUT410については後述する。なお、本実施例では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4種類のインクを利用可能なプリンターのためのLUTを作成する。本実施例では、説明の簡略化のために4種類のインクを想定するが、他のインクについてのLUTを作成する場合にも本発明を適用することができる。
図2は、コンピューター10が実行する本実施例の全体の処理手順を示すフローチャートである。ステップS01では、LUT作成条件設定モジュール700のUIモジュール720が表示装置および入力装置を介してLUTを作成したいメディアの指定を受け付ける。UIモジュール720は各メディアの一覧をリスト表示し、その中から所望のメディアをユーザーに選択させるメディア選択UI画像を表示装置に表示させる。ユーザーは、例えば、基本メディアとして基本光沢紙,基本マット紙,基本普通紙,基本プルーフ紙等を選択することができる。「基本メディア」とは、例えばプリンターメーカーが供給する印刷媒体を意味し、特に本発明においてはフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)と画質評価指数コンバーター136とが予め準備されている印刷媒体を意味する。基本メディアの特性は既知であり、各基本メディアにインクを付着させた場合の発色特性やデューティー制限値を特定するデータが予めメディアテーブルMTBに格納されている。基本光沢紙,基本マット紙,基本普通紙,基本プルーフ紙は、それぞれ光沢紙系,マット紙系,普通紙系,プルーフ系の各系統に属する。
一方、前記メディア選択UI画像においては、基本メディアの他に、本発明の転用メディアとして、光沢紙系用紙,マット紙系用紙,普通紙系用紙,プルーフ系用紙,未分類用紙等を選択することができる。「転用メディア」とは、基本メディアのいずれとも同一でない印刷媒体を意味し、特に本発明においてはフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)と画質評価指数コンバーター136とが予め準備されていない印刷媒体を意味する。ユーザーがLUTを作成しようとするメディアの系統を認知している場合には、該系統のメディアを選択することができる。メディアの系統が不明もしくは分類が困難である場合には、未分類用紙を選択することができる。なお、メディアをユーザーが指定するのではなく、メディアを測色することにより得られた色相等に基づいてメディアの系統を自動判別するようにしてもよい。LUT作成対象のメディアが指定されると、メディアを特定する情報を設定テーブルSTBに登録する(ステップS02)。
ステップS03において、LUT作成条件設定モジュール700は、指定されたメディアの系統に対応するデフォルト重みw L*,w a*…をHDD400に格納されたメディアテーブルMTBを参照することにより取得する。メディアの系統は、光沢紙系,マット紙系,普通紙系,プルーフ系,未分類系であり、各系統についてデフォルト重みw L*,w a*…がメディアテーブルMTBに格納されている。ステップS04において、UIモジュール720は、重み指定用UI画像を表示装置に表示させ、入力装置により重みw L*,w a*…の指定を受け付ける。
図3は重み指定用UI画像を示し、図4はメディアテーブルMTBの一例を示している。重み指定用UI画像においては、後述する目的関数Eを構成する各項の重みw L*,w a*…(0〜100%)の指定を受け付ける。同図に示すように、粒状性と色恒常性とランニングコストとガマットと階調性の各設定項目についてスライダーバーが設けられており、個々のポインターを右側にスライドさせるほど個々の項目についての重みが増す設定がなされる。また、スライダーバーの中央の位置が、重みw L*,w a*…の中央値(50%)に対応する。重み指定用UI画像における粒状性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みwGIの値が大きく設定される。色恒常性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みw CII(A)・・w CII(F12)の値が大きく設定される。本実施例では、重みw CII(A)・・w CII(F12)の値は互いに等しくする。むろん、光源の重要度に応じて重みw CII(A)・・w CII(F12)の値を異ならせてもよい。ランニングコストのポインターを右側にスライドさせるほど、重みwTIの値が大きく設定される。ガマットのポインターを右側にスライドさせるほど、重みwGMIの値が大きく設定される。階調性のポインターを右側にスライドさせるほど、重みw L*,w a*,w b*が大きく設定される。本実施例では、重みw L*,w a*,w b*の値は互いに等しくする。なお、明度L*・彩度a*,b*別に異なる重みw L*,w a*,w b*が設定できるようにしてもよい。ポインターのスライダーバーにおける位置と各重みw L*,w a*…の値の関係は、単調増加の関係にあればよく、線形関数や2次関数等の各種関数で規定することができる。
ステップS04にてスライダーバーを最初に表示させる際の各ポインターの初期位置は、ステップS03においてメディアテーブルMTBから取得したデフォルト重みw L*,w a*…に対応する位置とする。デフォルト重みw L*,w a*…は、メディアテーブルMTBにおいてメディアの各系統について好ましい値が予め設定されている。図4に示すように、普通紙系についてはランニングコストのデフォルト重みwTIが中央値よりも大きく、ガマットのデフォルト重みwGMIが中央値よりも小さくされており、それ以外は中央値とされている。マット紙系と未分類系については、すべての項のデフォルト重みw L*,w a*…が中央値とされている。光沢紙系については、粒状性と階調性とガマットの重みwGI,w L*,w a*,w b*,wGMIが中央値よりも大きくされており、それ以外は中央値とされている。プルーフ紙系は、ガマットの重みwGMIのみが中央値よりも大きくされており、それ以外は中央値とされている。ポインターの初期位置をユーザーが変更することなく重み指定用UI画像内の決定ボタンをクリックすると、ステップS03で取得したデフォルト重みw L*,w a*…がそのまま設定されることとなる。
デフォルト重みw L*,w a*…は、各系統のメディアの使用目的等を考慮して好適な値に設定されているため、基本的には変更しなくてもよい。ユーザーが特に意図する場合には、初期位置からポインターを所望の位置にスライドさせることにより、所望の重みw L*,w a*…を設定することができる。なお、各重みw L*,w a*…は、相対的な大きさの差が意味をなし、全体的に一様に大小させることの意義は小さい。従って、ある項目のポインターを移動させたことにより、他の項目のポインターが逆方向に一様に移動するようにしてもよい。ステップS05では、設定情報格納モジュール730が、重み指定用UI画像内の決定ボタンがクリックされたときの各ポインターの位置に対応する重みw L*,w a*…を設定テーブルSTBに登録する。
ステップS06では、ステップS01で指定されたメディアが基本メディアであるか否か判定し、基本メディアである場合には、メディアテーブルMTBを参照して該基本メディアについてのデューティー制限値を取得する(ステップS07)。本実施例では、CMYKの4種類のインクを自然数の下付文字j(j=1〜4)によって区別し、メディアに付着させるインク量を個々のインクのインク量I1〜I4をベクトルI=(I1,I2,I3,I4)によって表すこととする。なお、インク量Ij(後述するI j(R,G,B),ΔIj,Ijr,hjも含む。)を下付文字jを付すことなく示す場合は、各インクのインク量Ijを各行要素として有する行列(ベクトル)を意味することとする。さらに、下付文字j(j=5〜7)によってCMYの3種類のインクを2種類ずつ混色したときの2次色のインク量を示すこととする。すなわち、I5=I1+I2,I6=I1+I3,I7=I2+I3とする。2次色のインク量I5〜I7は、それぞれブルー(B)、レッド(R)、グリーン(G)の色相に対応する色をメディア上で再現させる。さらに、下付文字j(j=8)によってCMYKの4種類のインクをすべて混色したときのインク量を示すこととする。すなわち、I8=I1+I2+I3+I4とする。
本実施例では、各インクのインク量Ijは8ビットで表現する。図4に示すように、デューティー制限値DIjは、各インク単独(1次色)と、2次色のインクの合計と、全インクの合計について記憶されている。デューティー制限値DIjは、各基本メディアに対して単位面積あたりに最大限付着させることができるインク量を意味し、例えばインクにじみが生じる下限値が設定される。インク滴のメディア上における物理的性質は、インクとメディアの組み合わせごとに異なっており、これらの組み合わせごとに異なるデューティー制限値DIjが設定されている。また、複数インクを混色する場合にも、単一インクとは異なる物理的性質を示すため、本実施例では1次色だけでなく、2次色(2インク混色)と全インク合計についてもデューティー制限値DIj(j=1〜8)が設定されている。基本メディアについてデューティー制限値DIjが取得できると、ステップS08において、設定情報格納モジュール730が、該取得したデューティー制限値DIjを設定テーブルSTBに格納させる。さらに、ステップS08においては、インク量コンバーター710を無効とする旨の無効フラグを設定テーブルSTBに格納させる。本明細書において、単にインク量Ijと表記した場合には下付文字jの範囲はj=1〜4であり、デューティー制限値DIjと表記した場合には下付文字jの範囲はj=1〜8であるとする。
図5は、設定テーブルSTBの一例を示している。基本メディアが指定された場合には、設定テーブルSTBに、上述した指定された基本メディアの種類と、重みw L*,w a*…と、デューティー制限値DIjと、無効フラグと、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)が記憶される。基本メディアの場合、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)=(0,0)とされる。一方、転用メディアが指定された場合には、以上とは異なる処理(ステップS09〜)が実行されるが、ここではまず基本メディアが指定された場合について、LUTを作成する処理を一通り説明する。
B.基本メディアのLUT作成手順
B−1.全体手順
図6は、実施例においてコンピューター10が基本メディアのベースLUTを作成する手順を示すフローチャートである。図7(A)〜(C)は、図6のステップS100〜S300によってベース3D−LUTを作成する場合の処理内容を示す説明図である。ステップS100では、設定テーブルSTBに記憶された情報に基づいて、フォワードモデルコンバーター300とインバースモデル初期LUT410と画質評価指数コンバーター136とが準備(起動)される。上述したように、基本メディアについては、該基本メディアのための分光プリンティングモデルコンバーター310と画質評価指数コンバーター136とが準備されているため、これらを起動して使用可能とする。また、設定テーブルSTBには無効フラグが添付されているため、インク量コンバーター710は起動させない。ここで「フォワードモデル」とは、インク量Ijを機器非依存表色系の色彩値に変換する(インク量から測色値を予測する)変換モデルを意味し、「インバースモデル」とは、逆に、機器非依存表色系の色彩値をインク量に変換する変換モデルを意味している。実施例では、機器非依存表色系としてCIE−Lab表色系を使用する。なお、以下では、CIE−Lab表色系の色彩値を、単に「L*a*b*値」または「Lab値」とも呼ぶ。
図7(A)に示すように、フォワードモデルコンバーター300の前段を構成する分光プリンティングモデルコンバーター310は、複数種類のインクのインク量Ijを、対応する基本メディアに付着させて形成したカラーパッチの分光反射率R(λ)に変換する。なお、本明細書において「カラーパッチ」という用語は、有彩色のパッチに限らず、無彩色のパッチも含む広い意味で使用される。また「印刷する」とは、メディアにインク量に応じてインクを付着させることを指す。分光プリンティングモデルコンバーター310は、上述した4種類のインクのインク量Ijを入力としている。色算出部320は、分光反射率R(λ)からLab表色系の色彩値を算出する。この色彩値の算出には、予め選択された光源(例えば標準の光D50)がカラーパッチの観察条件として使用される。なお、分光プリンティングモデルコンバーター310を作成する方法としては、例えば特表2007−511175号公報に記載された方法を採用することが可能である。
インバースモデル初期LUT410は、L*a*b*値を入力とし、インク量Ijを出力とするルックアップテーブルである。当該初期LUT410は、例えば、L*a*b*空間を複数の小セルに区分し、各小セル毎に最適なインク量Ijを選択して登録したものである。この選択は、例えば、そのインク量Ijで基本メディアに印刷されるカラーパッチの画質を考慮して行われる。一般に、ある1つのL*a*b*値を再現するインク量Ijの組み合わせは多数存在する。そこで、初期LUT410では、ほぼ同じL*a*b*値を再現する多数のインク量Ijの組み合わせの中から、画質等の所望の観点から最適なインク量を選択したものが登録されている。この初期LUT410の入力値であるL*a*b*値は各小セルの代表値である。一方、出力値であるインク量Ijはそのセル内のいずれかのL*a*b*値を再現するものである。従って、この初期LUT410では、入力値であるL*a*b*値と出力値であるインク量Ijとが厳密に対応したものとなっておらず、出力値のインク量をフォワードモデルコンバーター300でL*a*b*値に変換すると、初期LUT410の入力値とは多少異なる値が得られる。ただし、初期LUT410として、入力値と出力値とが完全に対応するものを利用してもよい。また、初期LUT410を用いずにベースLUTを作成することも可能である。なお、小セル毎に最適なインク量を選択して初期LUT410を作成する方法としては、例えば前記特表2007−511175号公報に記載された方法を採用することが可能である。前記特表2007−511175号公報の方法では、対象の印刷媒体にカラーパッチを形成することにより、分光プリンティングモデルコンバーター310とインバースモデル初期LUT410とが作成される。すなわち、基本メディアのベースLUTを作成するためには、基本メディアにカラーパッチを形成することにより作成された分光プリンティングモデルコンバーター310とインバースモデル初期LUT410とを準備することとなる。
図6のステップS200では、ベースLUT作成のための初期入力値がユーザーによって設定される。図7(B)は、ベース3D−LUT510の構成とその初期入力値設定の例を示している。ベース3D−LUT510の入力値としては、RGBの各値として予め定められたほぼ等間隔の値が設定される。1組のRGB値はRGB色空間内の点を表していると考えられるので、1組のRGB値を「入力格子点」とも呼ぶ。ステップS200においては、複数の入力格子点のうちから予め選択されたいくつかの少数の入力格子点に対するインク量Ijの初期値がユーザーによって入力される。本実施例では、RGBの各値を8ビットで表現した場合に、(R,G,B)=(16n1−1,16n2−1,16n3−1)を満足するすべて(173個)の入力格子点を選択する。n1〜n3は、それぞれ0〜16の整数であり、R,G,B=−1のときはR,G,B=0とする。この初期入力値が設定される入力格子点には、RGB色空間における3次元色立体の頂点に相当する入力格子点が含まれる。この3次元色立体の頂点では、RGBの各値がその定義範囲の最小値または最大値を取る。具体的には、(R,G,B)=(0,0,0)、(0,0,255)、(0,255,0)、(255,0,0)、(0,255,255)、(255,0,255)、(255,255,0)、(255,255,255)である8つの入力格子点に関してインク量Ijの初期入力値が設定される。また、n1=n2=n3となる17個の入力格子点(以下、グレー格子点と表記する。)は、RGB色空間上のグレー軸上に存在することとなる。なお、(R,G,B)=(255,255,255)の入力格子点に対するインク量Ijは、すべて0に設定される。他の入力格子点に対するインク量Ijの初期入力値は任意であり、例えば0に設定される。図7(B)の例では、(R,G,B)=(0,0,32)の入力格子点に対するインク量が0以外の値になっているが、これはこのLUT510が完成したときの値である。
図6のステップS300では、スムージング処理モジュール130(図1)が、ステップS200で設定された初期入力値に基づいてスムージング処理(平滑化および最適化処理)を実行する。図7(C)は、ステップS300の処理内容を示している。図7(C)の左側には、スムージング処理前の状態における複数の色彩値の分布が2重丸と白丸とで示されている。これらの色彩値は、L*a*b*空間における3次元色立体CSを構成している。各色彩値のL*a*b*座標値は、ベース3D−LUT510の複数の入力格子点におけるインク量Ijを、フォワードモデルコンバーター300(図7(A))を用いてL*a*b*値に変換した値である。上述したように、ステップS200では一部の少数の入力格子点についてのみインク量Ijの初期入力値が設定される。そこで、他の入力格子点に対するインク量の初期値は、初期入力値から初期値設定モジュール120(図1)によって設定される。この初期値設定方法については後述する。
Lab表色系の3次元色立体CSは、以下の8つの頂点(図7(C)の2重丸の点)を有している。
・点PK:(R,G,B)=(0,0,0)に対応する紙黒点。
・点PW:(R,G,B)=(255,255,255)に対応する紙白点。
・点PC:(R,G,B)=(0,255,255)に対応するシアン点。
・点PM:(R,G,B)=(255,0,255)に対応するマゼンタ点。
・点PY:(R,G,B)=(255,255,0)に対応するイエロー点。
・点PR:(R,G,B)=(255,0,0)に対応するレッド点。
・点PG:(R,G,B)=(0,255,0)に対応するグリーン点。
・点PB:(R,G,B)=(0,0,255)に対応するブルー点。
図7(C)の右側は、スムージング処理後の格子点(色彩値)の分布を示している。スムージング処理は、L*a*b*空間における複数の格子点を移動させて、それらの格子点の分布を等間隔に近い平滑なものにする処理である。スムージング処理では、さらに、移動後の各格子点のL*a*b*値を再現するために最適なインク量Ijも決定される。この最適なインク量がベースLUT510の出力値として登録されると、ベースLUT510が完成する。
図8(A)〜(C)は、入力表色系の格子点(すなわち入力格子点)とLab表色系の格子点との対応関係を示している。Lab表色系の3次元色立体CSの頂点は、ベースLUT510の入力表色系の3次元色立体の頂点と一対一に対応している。また、各頂点を結ぶ辺(稜線)も、両方の色立体で互いに対応しているものと考えることができる。スムージング処理前のLab表色系の各格子点の色彩値は、ベースLUT510の入力格子点にそれぞれ対応付けられており、従って、スムージング処理後のLab表色系の各格子点の色彩値もベースLUT510の入力格子点にそれぞれ対応付けられる。なお、ベースLUT510の入力格子点はスムージング処理によって変化しない。スムージング処理後のLab表色系の3次元色立体CSは、ベースLUT510の出力表色系を構成するインクセットで再現可能な色域(ガマット)の全体に対応している。従って、ベースLUT510の入力表色系は、このインクセットで再現可能な色域の全体を表す表色系としての意義を有している。
ベースLUT510を作成する際に、L*a*b*空間においてスムージング処理を行う理由は以下の通りである。ベースLUT510では、なるべく大きな色域を再現できるように出力表色系のインク量Ijを設定したいという要望がある。一方で、特定のインクセットでメディア上に再現可能な色域は、メディア特有のデューティー制限値DIj等に依存することとなる。そこで、スムージング処理の際にデューティー制限値DIj等の制限条件を考慮してL*a*b*空間内の色彩値の取り得る範囲を決定すれば、特定のインクセットで再現可能な色域を決定することが可能となる。なお、格子点の移動を行うアルゴリズムとしては、例えば、後述する力学モデルを使用したものが利用される。
図6のステップS400では、スムージング処理の結果を用いて、テーブル作成モジュール140がベースLUT510を作成する。すなわち、テーブル作成モジュール140は、各入力格子点に対応付けられたLab表色系の格子点の色彩値を再現するための最適なインク量IjをベースLUT510の出力値として登録する。なお、スムージング処理では、その計算負荷を軽減するために、ベースLUT510の入力格子点の一部のみに対応する格子点の色彩値のみを処理対象として選択することも可能である。例えば、ベースLUT510の入力格子点におけるRGB値の間隔が16である場合に、スムージング処理の対象となる入力格子点におけるRGB値の間隔を32に設定すれば、スムージング処理の負荷を半減することができる。この場合には、テーブル作成モジュール140は、スムージング処理結果を補間することによってベースLUT510のすべての入力格子点に対するインク量Ijを決定して登録する。
図9(A)〜(C)は、図6のステップS100〜S300によってベース4D−LUT520を作成する場合の処理内容を示す説明図である。図9(A)は、図7(A)と同じである。図9(B)に示すベース4D−LUT520は、入力がCMYK表色系である点が図7(B)に示したベース3D−LUT510と異なっている。このベース4D−LUT520の初期入力値としては、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0),(0,0,255,0),(0,255,0,0),(0,255,255,0),(255,0,0,0),(255,0,255,0),(255,255,0,0),(255,255,255,0),(0,0,0,255),(0,0,255,255),(0,255,0,255),(0,255,255,255),(255,0,0,255),(255,0,255,255),(255,255,0,255),(255,255,255,255)である16個の入力格子点に関してインク量の初期値が設定される。他の入力格子点に対するインク量の初期入力値は任意であり、例えば0に設定される。本実施例では、ベース4D−LUT520を作成する場合においても、C=M=Yとなるグレー軸上のグレー格子点が入力格子点として17個含まれることとする。
図9(C)は、スムージング処理の様子を示している。なお、L*a*b*空間においてベース4D−LUT520に対応する色立体としては、図9(C)の右端に示すように、入力値のうちのK値のそれぞれの値に対して1つの3次元色立体CSが存在する。この例では、K=0の色立体とK=32の色立体とを含む複数の色立体CSが図示されている。本明細書では、これらの個々の色立体CSを「Kレイヤ」とも呼ぶ。この理由は、各色立体CSが、CMYK値のうちのK値が一定でC,M,Y値が可変である入力層に対応するものと考えることができるからである。複数の色立体CSは、K値が大きいほど暗い色域を表現するものとなっている。これらの複数の色立体CSは、入力表色系のK値が大きいほどブラックインクKのインク量I4が多くなるようにブラックインクKのインク量を決定することによって実現できる。上述したように、再現可能な色域はデューティー制限値DIj等によって制限される。このデューティー制限値DIjは、指定されたメディアの種類に依存する。一方、暗い色を再現する方法としては、ブラックインクKなどの無彩色インクを用いる方法と、コンポジットブラックを用いる方法とがある。しかし、コンポジットブラックは合計インク量が多くなるので、ブラックインクKに比べてデューティー制限値に抵触する可能性が高く、暗い色を再現するのには不利である。従って、入力表色系のK値が大きくブラックインクKのインク量I4が多い色立体の方が、入力表色系のK値が小さく濃ブラックインクKのインク量I4が少ない色立体に比べてより暗い色を再現することが可能となる。
図10(A),(B)は、色補正LUT作成モジュール200が実行する、ベースLUTを用いた色補正LUTの作成方法を示す説明図である。図10(A)に示すように、ベース3D−LUT510は、RGB値をインク量Ijに変換する。変換後のインク量Ijは、フォワードモデルコンバーター300によってL*a*b*値に変換される。一方、sRGB値は、既知の変換式に従ってL*a*b*値に変換される。この変換後のL*a*b*値は、その色域が、フォワードモデルコンバーター300で変換されたL*a*b*値の色域と一致するようにガマットマッピングされる。一方、ベース3D−LUT510とフォワードモデルコンバーター300を通じて、RGB値から変換したL*a*b*値を、逆方向ルックアップテーブルとして、逆変換LUT511を作成する。ガマットマッピングされたL*a*b*値は、この逆変換LUT511によってRGB値に変換される。このRGB値は、さらに、ベース3D−LUT510によってインク量Ijに再度変換される。この再度変換されたインク量Ijと最初のsRGB値の対応関係をルックアップテーブルに登録することによって、色補正3D−LUT610を作成することができる。この色補正3D−LUT610は、sRGB表色系をインク表色系に変換する色変換テーブルである。
図10(B)は、色補正LUT作成モジュール200が実行する、色補正4D−LUT620の作成方法を示している。図10(A)との違いは、3D−LUT510およびその逆変換LUT511の代わりに、4D−LUT520およびその逆変換LUT521を利用している点と、sRGB表色系をL*a*b*値に変換する既知変換式の代わりにJAPAN COLOR表色系(図中では「jCMYK」と記したもの)をL*a*b*値に変換する既知変換式を使用している点である。良く知られているように、JAPAN COLORは、CMYKの4色で構成される表色系である。なお、図10(B)の方法では、逆変換LUT521において、L*a*b*値からCMYK値に変換する際に、既知変換前の最初のjCMYK値のK値から、逆変換LUT521のKレイヤ(K値が一定を取る部分)が選択される。従って、色補正4D−LUT620として、ベース4D−LUT520のうちのKレイヤにおける特性を反映したものを作成することが可能である。なお、設定情報格納モジュール730は、作成したベースLUT510,520や色補正LUT610,620に設定テーブルSTBを添付する。これにより、ベースLUT510,520や色補正LUT610,620がどのようなメディアについて作成されたものか、どのような重みw L*,w a*…で作成されたものであるかを識別することができる。
なお、通常は、ベースLUT510,520がプリンタドライバに実装されており、色補正LUTの作成処理以外の処理にも活用されているが、ここでは他の活用例の説明は省略する。以下では、実施例のスムージング処理(平滑化および最適化処理)に利用される力学モデルについて簡単に説明した後に、スムージング処理の処理手順、および、最適化処理の内容について順次説明する。
B−2.力学モデル:
図11は、本実施例のスムージング処理(平滑化および最適化処理)に利用される力学モデルを示す説明図である。ここでは、L
*a
*b
*色空間内に上述した入力格子点に対応する格子点(白丸および2重丸)が配列されている様子を示している。ただし、ここでは説明の便宜上、格子点の配置を2次元的に描いている。この力学モデルでは、着目格子点gに対して次式の仮想的な力F
pgが係るものと仮定する。
ここで、F
gは着目格子点gが隣接格子点gn(nは1〜N)から受ける引力の合計値、V
gは着目格子点gの速度ベクトル、−k
vV
gは速度に応じた抵抗力、X
gは着目格子点gの位置ベクトル、X
gnは隣接格子点gnの位置ベクトル、k
p,k
vは係数である。係数k
p,k
vは予め一定の値に設定される。なお、文中では、ベクトルを示す矢印は省略される。
このモデルは、バネで互いに結ばれた質点の減衰振動モデルである。すなわち、着目格子点gに係る仮想合力Fpgは、着目格子点gと隣接格子点gnとの距離が大きいほど大きくなるバネ力Fgと、着目格子点gの速度が大きいほど大きくなる抵抗力−kvVgとの合計値である。この力学モデルでは、各色点について、位置ベクトルXgと速度ベクトルVgの初期値を設定した後に、微小時間dt経過後の速度ベクトルVgと位置ベクトルXgとを順次算出して更新してゆく。なお、複数の色点の速度ベクトルVgの初期値は、例えば0に設定される。このような力学モデルを用いた計算(シミュレーション)を利用すれば、L*a*b*色空間内における各色点を徐々に移動させて、平滑な色点分布を得ることが可能である。
なお、各色彩値に係る力としては、バネ力Fgと抵抗力−kvVg以外の力を用いても良い。例えば、本出願人により開示された特開2006−197080号公報で説明されている他の種々の力をこの力学モデルで利用してもよい。また、力学モデルを適用して各色彩値を移動させる際に、特定の色彩値は、力学モデルによって移動しない拘束点として取り扱うことも可能である。本実施例では、上述した17個のグレー軸格子点に対応する格子点の色彩値が、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)が示す色相方向にずれるように拘束する。基本メディアの場合には、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)=(0,0)としていされているため、グレー軸格子点に対応する格子点の色彩値は、L*a*b*色空間のL*軸上の位置を示すように拘束される。
図12は、グレー軸格子点に対応する格子点の位置(色彩値)がグレーターゲットに拘束される様子を示している。同図に示すように、グレー軸格子点に対応する格子点(白丸)が、L*a*b*色空間のL*軸上の紙黒点と紙白点とを結ぶ線分(グレーターゲット)を16等分する位置を示すように拘束されている。なお、特開2006−217150公報に開示された手法によって、特定の格子点をL*a*b*色空間の特定の位置に拘束することができる。このように、L*a*b*色空間のL*軸上において均等に格子点を拘束することにより、スムージング処理後のベースLUT510,520を用いて色補正LUT610,620を作成する際に行われるグレー軸まわりの補間演算の精度を向上させることができる。従って、グレー軸まわりの色再現性や階調性に優れた色補正LUT610,620を作成することができる。
B−3.スムージング処理(平滑化および最適化処理)の処理手順:
図13は、スムージング処理(図6のステップS300)の典型的な処理手順を示すフローチャートである。ステップT100では、初期値設定モジュール120(図1)が、スムージング処理の対象とする複数の格子点を初期設定する。
図14は、ステップT100の詳細手順を示すフローチャートである。ステップT102では、インク量の初期入力値(図7(B),図9(B))から、スムージング処理の対象となる各格子点の仮インク量が決定される。例えば、3D−LUT用のスムージング処理では、次の(2)式、(3)式に従って、各入力格子点に対する仮インク量I
(R,G,B)が決定される。
ここで、I
(R,G,B)は、入力格子点のRGB値に対するインクセット(複数のインクのインク量の組合せ)全体のインク量I
j(図7の例では4種類のインクのインク量I
j)を表している。RGB値が0または255を取る入力格子点に対するインク量(仮インク量)は、図6のステップS200においてユーザーによって予め入力された初期入力値である。前記(2)式および(3)式によれば、任意のRGB値における仮インク量I
(R,G,B)を求めることが可能である。
4D−LUT用のスムージング処理では、次の(4)式、(5)式に従って、各入力格子点に対する仮インク量I
(C,M,Y,K)が決定される。
なお、(4)式からも理解できるように、4D−LUT用のインク量の初期入力値は16個存在するので、初期入力値の設定が煩雑である。そこで、例えば、インク量の初期入力値を設定する入力格子点を、K=0の8個の頂点、すなわち、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0),(0,0,255,0),(0,255,0,0),(0,255,255,0),(255,0,0,0),(255,0,255,0),(255,255,0,0),(255,255,255,0)の8個の頂点と、K=255の1個の頂点、例えば、(C,M,Y,K)=(0,0,0,255)の頂点のみとし、K=255の格子点のインク量を次の(6)式または(7)式で決定してもよい。
ここで、I
(C,M,Y,K)は、K=0の8個の頂点におけるインク量の初期入力値から、前記(2)式と同様の式で算出されたインク量である。(6)式の関数f
D1は値I
(C,M,Y,0)と値I
(0,0,0,255)の合計値がデューティー制限値D
I8をオーバーする場合に、値I
(C,M,Y,0)を減じることによって、インク量I
(C,M,Y,255)がデューティー制限値D
I8内に納まるようにする関数である。また(7)式の関数f
D2は、値I
(C,M,Y,0)と値I
(0,0,0,255)の合計値がデューティー制限値D
I8をオーバーする場合に、合計値(I
(C,M,Y,0)+I
(0,0,0,255))の全体を減じることによって、インク量I
(C,M,Y,255)がデューティー制限値D
I8内に納まるようにする関数である。
図14のステップT104では、フォワードモデルコンバーター300を用いて、仮インク量に対応する色彩値L
*a
*b
*を求める。この演算は、以下の(8)式または(9)式で表すことができる。
ここで、L
* (R,G,B)、a
* (R,G,B)、b
* (R,G,B)、L
* (C,M,Y,K) 、a
* (C,M,Y,K)、b
* (C,M,Y,K)はフォワードモデルコンバーター300による変換後の色彩値L
*a
*b
*を示しており、関数f
L*FM、f
a*FM、f
b*FMはフォワードモデルコンバーター300による変換を意味している。なお、これらの式からも理解できるように、この変換後の色彩値L
*a
*b
*は、ベースLUTの入力値であるRGB値またはCMYK値に対応付けられている。
図14のステップT106では、ステップT104で得られた色彩値L*a*b*を、インバースモデル初期LUT410を用いてインク量に再度変換する。ここで、インバースモデル初期LUT410を用いてインク量に再度変換する理由は、インク量Ijの初期入力値や、ステップT102で決定された仮インク量が、L*a*b*値を再現するインク量として必ずしも好ましいインク量Ijでは無いからである。一方、インバースモデル初期LUT410では、画質等を考慮した好ましいインク量が登録されているので、これを用いてL*a*b*値をインク量Ijに再度変換すれば、そのL*a*b*値を実現するための好ましいインク量Ijを初期値として得ることができる。ただし、ステップT106を省略してもよい。ステップT107では、上述したL*軸上のグレーターゲットを設定する。
上述のステップT100の処理の結果、スムージング処理の対象となる色彩値について、以下の初期値が決定される。
(1)ベースLUTの入力格子点の値:(R,G,B)または(C,M,Y,K)
(2)各入力格子点に対応するL*a*b*空間の格子点の初期座標値:(L* (R,G,B),a* (R,G,B),b* (R,G,B))または(L* (C,M,Y,K),a* (C,M,Y,K),b* (C,M,Y,K))
(3)各入力格子点に対応する初期インク量:I(R,G,B)またはI(C,M,Y,K)
以上の説明から理解できるように、初期値設定モジュール120は、代表的な入力格子点に関する入力初期値から他の入力格子点に関する初期値を設定する機能を有している。なお、初期値設定モジュール120は、スムージング処理モジュール130に含まれるものとしてもよい。
図13のステップT120では、色点移動モジュール132が、上述した力学モデルに従ってL*a*b*空間内の色彩値を移動させる。
図15(A)〜(D)は、図13のステップT120〜T150の処理内容を示す説明図である。図15(A)に示すように、スムージング処理前には、格子点の分布にはかなりの偏りがある。図15(B)は、微小時間経過後の各格子点の位置を示している。この移動後の各色彩値のL*a*b*値を「ターゲット値(L* ta* tb* tあるいはLABt)」と表記する。「ターゲット」という修飾語は、このL* ta* tb* t値が、以下で説明するインク量の最適値の探索処理の際の目標値として使用されるからである。
ステップT130では、インク量最適化モジュール134が、予め設定された目的関数Eを用いて、ターゲット値LABtに対するインク量Ijの最適値を探索する(図15(C)参照)。つまり、ターゲット値LABtを略再現するものとして指定したインク量IjのインクをステップS01の指定にかかるメディアに付着させたときの画質を評価するための目的関数Eを用いてインク量を最適化(最適なインク量を探索)し、インク量を決定する。この目的関数Eを用いた最適化では、力学モデルで微小量だけ移動した後の色彩値の座標値LABtに近いL*a*b*値を再現するインク量Ijが指定され、指定されたインク量Ijの中で、複数のパラメータΔL*,Δa*,ΔGI,ΔCII,ΔTI…の2乗誤差の和がより小さいインク量が最適なインク量Ijとして決定される。また、最適なインク量Ijの探索は、ステップT100で設定された各入力格子点の初期インク量から開始される。従って、探索で得られるインク量Ijは、この初期インク量を修正した値となる。後で詳述するように、(EQ1)式で与えられる目的関数Eは、(EQ2)式のようなインク量ベクトルIに関する2次形式の関数として書き表すことができる。インク量Ijの最適化は、このような2次形式の目的関数Eを用いて、2次計画法に従って実行される。なお、ステップT130の詳細手順や目的関数Eの内容については後述する。
図13のステップT140では、ステップT130で探索された(直近のステップT130で最適値であるとして決定された)インク量Ijに対応するL*a*b*値が、フォワードモデルコンバーター300で再計算される(図15(D)参照)。ここで、L*a*b*値を再計算する理由は、探索されたインク量Ijが目的関数Eを最小とするインク量なので、そのインク量Ijで再現されるL*a*b*値は、最適化処理のターゲット値LABtから多少ずれているからである。こうして再計算されたL*a*b*値が、各格子点の移動後の座標値として採用される。
ステップT150では、各格子点の色彩値の移動量の平均値(ΔLab) aveが、予め設定された閾値ε以下であるか否かが判定される。平均値(ΔLab) aveは、各格子点の色彩値L*a*b*についての、ステップT120による移動前の値とステップT140で再計算された後の値との差異の平均値である。平均値(ΔLab) aveが閾値εよりも大きい場合には、ステップT120に戻りステップT120〜T150のスムージング処理が継続される。一方、平均値(ΔLab) aveが閾値ε以下の場合には、色彩値の分布が十分に平滑になっているので、スムージング処理が終了する。なお、閾値εは、予め適切な値が実験的に決定される。
このように、本実施例の典型的なスムージング処理(平滑化および最適化処理)では、力学モデルによって各格子点を微小時間毎に移動させつつ、移動後の色点に対応する最適なインク量Ijを最適化手法で探索する。そして、色点の移動量が十分に小さくなるまでそれらの処理が継続される。この結果、図7(C)または図9(C)に示したように、スムージング処理によって、平滑な格子点分布を得ることが可能である。
B−4.最適化処理の内容:
最適化処理の目的関数E(図15(C)参照)は、インク量の関数である色彩値(L*a*b*値)および画質評価指数に関するヤコビ行列Jを用いて表現することが可能である。各画質評価指数は、画質評価指数コンバーター136によって算出される。後述するように、各画質評価指数は、各インク量のインクを基本メディアに付着させた場合の画質を評価する指数である。ヤコビ行列Jは、例えば以下の(10)式で表される。
(10)式の右辺の第1行〜第3行は、色彩値L*a*b*を個々のインク量Ijで偏微分した値を示している。また、第4行以下は、1組のインク量Ij(j=1〜8)で印刷されるカラーパッチの画質を表す画質評価指数(粒状性指数GI(Graininess Index)と、非色恒常性指数CII(Color Inconstancy Index)と、ガマット評価指数GMIと、合計インク量TIを個々のインク量Ijで偏微分した値を示している。なお、画質評価指数GI,CII,GMI,TIは、その値が小さいほど、インク量Ijで再現されるカラーパッチの画質が良い傾向にあることを示す指数である。
色彩値L
*a
*b
*は、フォワードモデルコンバーター300を用いて、以下の(11)式でインク量I
jから変換される。
画質評価指数GI,CII,TI,GMIも、一般に1次色のインク量I
j(j=1〜4)の関数としてそれぞれ表現できる。
なお、(13)式の非色恒常性指数CIIillの下付文字「ill」は、光源の種類を表している。上述した(10)式では、光源の種類として、標準の光Aと標準の光F12とを用いている。なお、非色恒常性指数CIIの計算方法の例は後述するが、非色恒常性指数CIIとしては一種類または複数種類の任意の標準光源に関するものを利用することが可能である。
粒状性指数GIは、各種の粒状性予測モデルを用いて算出可能であり、例えば以下の(16)式で算出することができる。
ここで、aLは明度補正係数、WS(u)はカラーパッチの印刷に利用されるハーフトーンデータが示す画像のウイナースペクトラム、VTF(u)は視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。ハーフトーンデータは、カラーパッチのインク量I
jからハーフトーン処理(プリンター20が実行するハーフトーン処理と同一のものとする)によって決定される。前記(16)式は一次元で表現しているが、空間周波数の関数として二次元画像の空間周波数を算出することは容易である。粒状性指数GIの計算方法としては、例えば、本出願人により開示された特開2006−103640号公報に記載された方法を利用することができる。特開2006−103640号公報の方法では、印刷媒体にテストインク量I
jのインクを付着させて形成したカラーパッチを測定することにより得られた粒状性指数GIに基づいて学習したニューラルネットワークによって任意のインク量I
jで印刷した場合の粒状性指数GIを予測する。本実施例では、ニューラルネットワークが基本メディアに形成したカラーパッチの測定結果に基づいて学習されている。実体的には、画質評価指数コンバーター136がニューラルネットワークに任意のインク量I
jを入力することにより、該インク量I
jのインクを基本メディアに付着させた場合の粒状性指数GIを算出する。
非色恒常性指数CIIは、例えば以下の(17)式で与えられる。
ここで、ΔL
*は2つの異なる観察条件下(異なる光源下)におけるカラーパッチの明度差、ΔC
* abは彩度差、ΔH
* abは色相差を示す。非色恒常性指数CIIの計算時には、2つの異なる観察条件下でのL
*a
*b
*値は、色順応変換(CAT)を用いて標準観察条件(例えば標準の光D65の観察下)に変換される。なお、観察条件下でのL
*a
*b
*値は、上述したフォワードモデルコンバーター300によって算出される。フォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)は基本メディアについて準備されたものであるため、非色恒常性指数CIIによれば各インク量I
jのインクを基本メディアに付着させた場合の非色恒常性を評価することができる。CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129, pp. 213-215を参照。
ガマット評価指数GMIは、フォワードモデルコンバーター300によって得られる色彩値L*a*b*と目標色彩値LGM *aGM *bGM *との色差ΔE(CIE 1976)で与えられる。目標色彩値LGM *aGM *bGM *は、L*a*b*色空間の最外縁の色彩値とされる。ガマット評価指数GMIはすべての格子点について考慮されるのではなく、ガマットの頂点や稜線や外面上の格子点についてのみ考慮すればよい。また、各格子点に応じて目標色彩値LGM *aGM *bGM *は異なる。例えば、フォワードモデルコンバーター300によって得られる色彩値L*a*b*と色相角が同じで、かつ、より高彩度(L*a*b*色空間の最外縁)の色彩値を目標色彩値LGM *aGM *bGM *とすれば高彩度側にガマットが広いか否かを評価することができる。なお、グレー軸格子点に対応する格子点についての目標色彩値LGM *aGM *bGM *を、グレーターゲットの色彩値とすることによっても、該格子点をグレーターゲットに拘束することもできる。
ヤコビ行列Jの複数の成分(「要素」とも呼ぶ)のうち、例えばL
*値に関する成分は、(18)式で与えられる。
ここで、f
L*FMは、フォワードモデルによるインク量IからL
*値への変換関数、I
rはインク量Iの現在値(平滑化および最適化処理前のインク量)、h
jはj番目のインク量I
jの微小変動量である。L
*値について(17)式を例示したが、a
*b
*値についても同様である。L
*a
*b
*値は、上述したフォワードモデルコンバーター300((11)式)によって算出されるため、L
*a
*b
*値は各インク量I
jのインクを基本メディアに付着させた場合の色彩値を意味する。ヤコビ行列Jの最下行を除く他の成分も同様の形式で表される。前記(14)、(18)式に準じて、ヤコビ行列Jの最下行の要素を算出すると、ヤコビ行列Jの最下行の要素はすべて1となる。あるインクのインク量I
jが微小変動量h
jだけ変動した場合の合計インク量TIの変動量もh
jとなるからである。
最適化の目的関数Eは、例えば以下の(19)式で与えられる。
ここで、右辺の各項の最初に記載されているw
L*,w
a*等は、各項の重みである。各項の重みw
L*,w
a*…は、ステップS05において、ユーザーから指定され、設定テーブルSTBに格納された重みw
L*,w
a*…が使用される。特に、ユーザーがポインターの位置を初期位置から移動させなかった場合には、デフォルト重みw
L*,w
a*…が使用される。従って、目的関数Eによって重要視される項目がメディアおよびユーザーの設定に依存することとなる。
(19)式の右辺第1項w
L*(ΔL
*−ΔL
* t)
2は、色彩値L
*の変動量ΔL
*,ΔL
* tに関する2乗誤差である。これらの変動量変動量ΔL
*,ΔL
* tは、次の式で与えられる。
前記(20)式の右辺における偏微分値はヤコビ行列((10)式)で与えられる値であり、Ijは最適化処理の結果として得られるインク量であり、Ijrは現在のインク量である。第1の変動量ΔL*は、最適化処理によるインク量の変動量ΔIjを、ヤコビ行列の成分である偏微分値で線形変換した量である。一方、第2の変動量ΔL* tは、ステップT120の平滑化処理で得られたターゲット値L* tと、現在インク量Irで与えられる色彩値L*(Ir)との差分である。なお、第2の変動量ΔL* t は、平滑化処理の前後におけるL*値の差分と考えることが可能である。
前記(19)式の右辺の第2項以降の各項も、前記(20)式および(21)式と同様の式で与えられる。すなわち、目的関数Eは、最適化処理によるインク量の変動量ΔIjをヤコビ行列の成分で線形変換して得られる第1の変動量ΔL*,Δa*,Δb*,ΔGI…と、パラメータL*,a*,b*,GI…に関する平滑化処理の前後における第2の変動量ΔL* t,Δa* t,Δb* t,ΔGIt…と、の2乗誤差の和として与えられている。
ところで、第1の変動量ΔL
*,Δa
*,Δb
*,ΔGI…は、行列を用いて以下の(22)式および(23)式の形式に書き表すことが可能である。
前記(19)式は、行列を用いて(24)式のように表記できる。
ここで、Tは行列の転置を表している。行列W
Mはそれぞれ対角要素に重みを配置した対角行列((25)式参照)であり、行列ΔMは各パラメータに関する目標変動量ベクトル((26)式参照)である。
(26)式の右辺は、各パラメータL*,a*,b*,CII…(「要素」とも呼ぶ)に関するターゲット値と、現在のインク量Irで与えられる各パラメータ値との差分である。各パラメータのターゲット値のうち、色彩値L* t,a* t,b* tは平滑化処理(ステップT120)で決定される。画質評価指数のターゲット値と現在の画質評価指数から求められる目標変動量ΔGIt,ΔCIIt,ΔTIt,ΔGMItについては、いくつかの決定方法がある。第1の方法は、目標変動量ΔGIt,ΔCIIt,ΔTIt,ΔGMItとして所定の定数(例えばΔGIt=−2,ΔCIIt=−1,ΔTIt=−1,ΔGMIt=−1)を使用する方法である。なお、定数としてマイナスの値を使用する理由は、これらの画質評価指数は、より小さいほど高画質であることを示す指数だからである。また、粒状性指数GIのターゲット値GItは、ゼロとすることも好ましい。第2の方法は、ターゲット値GIt,CIIt,TIt,ΔGMItを色彩値のターゲット値L* t,a* t,b* tの関数として定義しておく方法である。以上のように、各パラメータのターゲット値は最適化処理前に決められているので、目標変動量ベクトルΔMの各成分はすべて定数である。
前記(24)式の右辺の各項のうち、第3項(Ir TJT+ΔMT)WM(JIr+ΔM)、は、最適化処理の結果として得られるインク量Iを含まないので定数である。一般に、最適化のための目的関数Eにおいて定数項は不要である。そこで、前記(24)式から定数項を削除して全体に1/2を乗じると、次の(27)式が得られる。
ここで、以下の(28)式および(29)式のように行列Aおよびベクトルgを定義すると、前記(27)式は(30)式のように書き表せる。
(30)式で与えられる目的関数Eは、最適化で得られるインク量ベクトルIに関する2次形式であることが理解できる。図15(C)に示した(EQ1)式と(EQ2)式は、(19)式と(30)式とそれぞれ同じものである。
本実施例の最適化処理では、(30)式のような2次形式の目的関数Eを用いるので、最適化手法として2次計画法を使用することが可能である。ここで、「2次計画法」とは、逐次2次計画法を含まない狭義の2次計画法を意味している。2次形式の目的関数を用いた2次計画法を利用すれば、準ニュートン法や逐次2次計画法などの他の非線形計画法を利用する場合に比べて、処理を大幅に高速化することが可能である。
ところで、本実施例における最適化処理によるインク量の探索は、以下の条件の下で実行される。
(最適化条件)目的関数Eを最小とする。
(制約条件)デューティー制限値を守る。
基本メディアの場合、デューティー制限値として、ステップS08において設定テーブルSTBに格納したデューティー制限値DIjがそのまま使用される。なお、画質評価指数コンバーター136とフォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)は、デューティー制限値DIjを満足するインク量Ijについて色彩値や画質評価指数GI等を予測することができる。
デューティー制限値に関する制約条件は、次の(31)式で表すことができる。
ここで、ベクトルbは、デューティー制限値の対象となるインク種類を識別するための係数であり、要素に0か1を持つベクトルである。例えば、1種類のインクに関するデューティー制限値の場合には、ベクトルbの1個の要素のみが1となる。一方、全インクの合計インク量に関するデューティー制限値の場合には、ベクトルbのすべての要素が1となる。(31)式の右辺のD
Iは、個々のデューティー制限値D
Ijを要素とするベクトルである。(31)式の右辺、左辺とも、j=1〜8であるとする。すなわち、デューティー制限値に関する制約条件を課す際には、2次色の合計インク量I
5〜I
7と全部の合計インク量I
8も考慮する。
各インク量I
j(j=1〜8)には、負でないという制約も存在する。この非負制限は、以下の(32)式で表せる。
前記(31)式と(32)式とを合体すると、デューティー制限値は、次の(33)式で与えられる。
この(33)式で表される制約は、線形不等号制約である。一般に、2次計画法は線形制約の下で実行することが可能である。すなわち、本実施例における最適化処理では、(33)式の制約の下で、前記(30)式で与えられる2次形式の目的関数Eを用いた2次計画法を実行することによって、最適なインク量を探索する。この結果、この線形制約を厳密に満足しつつ、インク量探索を高速に実行することが可能である。
図16は、最適化処理(図13のステップT130)の詳細手順を示すフローチャートである。ステップT132では、まず、前記(26)式で与えられる目標変動量ΔMを求める。この目標変動量ΔMは、前述したように、ステップT120(平滑化処理)で得られたターゲット値L* t,a* t,b* tと現在インク量Ir等に基づいて決定される。
ステップT134では、前記(10)式で与えられるヤコビ行列Jを算出する。なお、ヤコビ行列Jの各成分は、前記(18)式で例示されるように、インク量の現在値Ir(平滑化および最適化前の値)に関して算出される値である。
ステップT136では、ヤコビ行列Jによる線形変換の結果ΔL*,Δa*,Δb*,ΔGI…と、目標変動量ΔM(ΔL* t,Δa* t,Δb* t,ΔGIt…)との差が最小になるように、インク量Ijの最適化を実行する(ターゲット値LABt近傍のL*,a*,b*を再現し且つデューティー制限値を守る複数のインク量セット(一つのインク量セットはI1,I2,I3,I4で構成される。)の中で目的関数Eを最小にするインク量セットを決定する)。この最適化は、前記(30)式で与えられる2次形式の目的関数Eを用いた2次計画法を実行することによって実現される。上述したようにステップS08において設定テーブルSTBに格納したデューティー制限値DIjによる制約の下でインク量Ijが最適化されるため、メディアに応じて異なる最適化の結果が得られることとなる。特にガマットの大きさは、デューティー制限値DIjに大きく依存し、各メディア間で異なったものとなる。むろん、画質評価指数コンバーター136とフォワードモデルコンバーター300による色彩値や画質評価指数GI等の予測結果も各メディアに応じて異なるため、異なるインク量Ijの最適化の結果となる。
なお、図13のフローチャートにおいて既に説明したように、ステップT130の最適化処理の後、収束が不十分と判断される場合(ステップT150において“No”)には、平滑化処理(ステップT120)および最適化処理(ステップT130)が再度実行される。この際、平滑化および最適化処理の初期値としては、その前の平滑化および最適化処理で得られた値が利用される。なお、このような繰り返し処理は必須ではなく、少なくとも1回の平滑化および最適化処理を行えばよい。
C.印刷装置の構成:
図17は、プリンター20の構成を示している。同図において、プリンター20はCPU50とRAM52とROM51とメモリーカードスロット53とバス54とASIC55を備えている。ROM51に記憶されたプログラムデータ15aをRAM52に展開しつつCPU50がプログラムデータ15aにしたがった演算を行うことによりプリンター20を制御するためのファームウェアFWが実行される。ファームウェアFWは、メモリーカードスロット53に装着されたメモリーカードMCに記憶された印刷データPDに基づいて駆動データを生成可能である。ASIC55は駆動データを取得し、紙送り機構57やキャリッジモータ58や印刷ヘッド59の駆動信号を生成する。ROM51においては、コンピューター10から提供された色補正3D−LUT610が記憶されている。色補正3D−LUT610には設定テーブルSTBが添付されており、設定テーブルSTBに記述されたメディアごとに色補正3D−LUT610が用意されている。プリンター20はキャリッジ60を備えており、キャリッジ60は複数のインクカートリッジ61を取り付け可能なカートリッジホルダー61aを備える。キャリッジ60は、各インクカートリッジ61から供給されるCMYKの各色インクを多数のノズルから吐出する印刷ヘッド59を備える。
図18は、ファームウェアFWのソフトウェア構成を示している。ファームウェアFWは、画像データ取得部FW1とレンダリング部FW2と色変換部FW3とハーフトーン部FW4とラスタライズ部FW5とから構成されている。画像データ取得部FW1は、メモリーカードMCに記憶された印刷データPDを印刷対象として取得する。印刷データPDは、文書データやグラッフィックデータであってもよいし、写真画像データであってもよい。レンダリング部FW2は、印刷データPDに基づいて印刷に使用する入力画像データIDを生成する。入力画像データIDは、印刷解像度(例えば2880×2880dpi)に対応した画素数(印刷解像度×印刷実サイズ)の画素で構成されており、各画素が8ビット(0〜255)のCIE−sRGB色空間に準拠したRGB値で表現されている。
色変換部FW3は、入力画像データIDを取得し、該入力画像データIDを色変換する。具体的には、色変換部FW3は、色補正3D−LUT610を参照しつつ補間演算を実行することにより、RGB値を各インクのインク量Ijに変換する。メディアごとに色補正3D−LUT610が用意されているが、対応する色補正3D−LUT610が記憶されていないメディアがプリンター10にセットされたり、指定されたりした場合には、該メディアに印刷を実行することができない。ハーフトーン部FW4は、色変換部FW3が出力した各インクのインク量Ijに基づくハーフトーン処理を実行する。ラスタライズ部FW5は、ハーフトーン処理後のハーフトーンデータの各画素(吐出可否)を印刷ヘッド59の各主走査および各インクノズルに割り当て、駆動データを生成する。駆動データはASIC55に出力され、ASIC55が紙送り機構57やキャリッジモータ58や印刷ヘッド59の駆動信号を生成する。本実施例では、プリンター20上のファームウェアFWによって色変換処理が行われることとしたが、プリンター20が接続されたコンピューター上で色変換処理が行われてもよい。すなわち、色補正3D−LUT610はプリンター20だけでなくプリンター20を制御するコンピューター(印刷制御装置)に組み込まれてもよい。
上述したように、対応する色補正3D−LUT610が記憶されていないメディアには印刷を実行することができない。色補正3D−LUT610を作成する際に使用したフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136が、あるメディア(基本メディア)を対象として準備されたものであり、他のメディアについて色補正3D−LUT610を使用しても所望の再現色や画質が実現できないからである。そのため、理想的には、あらゆる印刷媒体について色補正3D−LUT610を用意しておく必要がある。すなわち、あらゆる印刷媒体について、上述した手順によって、色補正3D−LUT610を作成する処理を行っておく必要がある。しかしながら、フォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136を準備(生成)するためには各メディアに多数のカラーパッチを形成し、測定を行う必要があるため、あらゆるメディアについてフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136を準備するのは困難である。また、未知のメディアについてフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136を準備しておくのは、そもそも不可能である。そこで本発明では、フォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136をメディア毎に準備することなく、限られたメディア(基本メディア)について用意されたフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136を流用して、基本メディアとは異なる転用メディアについてのLUTを作成する方法を提供する。以下、その手順について説明する。
D.転用メディアのLUT作成手順:
図2の全体処理のステップS06において、コンピューター10は、転用メディアが指定されたと判定した場合ステップS09〜を実行する。まず、ステップS09において、LUT作成条件設定モジュール700は、被転用メディアを決定する。被転用メディアとは、基本メディアのうち、ステップS01で指定された転用メディアの系統と同じ系統の基本メディアを言う。指定された転用メディアの系統が未分類であった場合には、基本メディアのうち各インクの発色特性が標準的なものを被転用メディアとする。被転用メディアを特定する情報は、設定情報格納モジュール730によって設定テーブルSTBに登録される。ステップS10においては、設定情報格納モジュール730が、メディアテーブルMTBに記憶された被転用メディアの発色特性データとデューティー制限値DIj(以下、被転用メディアのデューティー制限値DIjを基準デューティー制限値DSIjと表記する。)とを取得し、基準デューティー制限値DSIjを設定テーブルSTBに登録する。
ステップS11においては、LUT作成条件設定モジュール700がメディアの発色特性(色彩値特性)評価用のカラーパッチを指定された転用メディアに印刷させる。具体的には、LUT作成条件設定モジュール700がカラーパッチを印刷させるためのパッチ画像データを生成し、該パッチ画像データをプリンター20のハーフトーン部FW4に出力する。パッチ画像データは、各画素がインク量Ij(j=1〜4)を有する画像データであり、各インクの1次色(C,M,Y,K)、2次色(R,G,B)、全インクを混色した色、それぞれのインク量Ij(j=1〜8)のグラデーションに基づくカラーパッチを印刷させるものである。例えば、2次色、全インク夫々のグラデーションにおける個々のインク量Ij(j=1〜4)は均等とする。各カラーパッチには、該カラーパッチの印刷につき使用されたインク量Ij(j=1〜8)を表す文字が付記される。ステップS12においては、プリンター20により転用メディアに印刷された各カラーパッチが測色機により測色され、コンピューター10は、その測色値(CIE−L*a*b*表色系)を取得する。ステップS13においては、UIモジュール720が転用メディアの発色特性を指定するためのメディア特性指定UI画像を表示装置に表示させる。
図19は、メディア特性指定UI画像を例示する図である。同図において、各グラデーションのカラーパッチ(ただしC,M,Y,Kのみ)を測色して得られた測色値(色彩値)がグラフによって例示されている。有彩色を示すカラーパッチ(C,M,Y)についてのグラフでは縦軸が彩度C*を表している。無彩色を示すカラーパッチ(K)についてのグラフでは縦軸が明度L*を表している。横軸は、インク量Ij(j=1〜8)を表している。各グラフでは、ステップS11で印刷した各カラーパッチの測色値に基づく彩度C*または明度L*が複数の参照点(各カラーパッチのインク量)に対応してプロット(白丸)されている。これにより、転用メディアにおけるインク量Ij(j=1〜8)に応じた発色特性がグラフに表されたこととなる。また、各グラフにおいては、メディアテーブルMTBから取得した被転用メディアについての発色特性も対比可能にプロット(黒丸)されている。つまり被転用メディア(基本メディア)についても、同様のカラーパッチが予め印刷・測色されており、各カラーパッチのインク量に対応する測色結果(複数の参照点に対応する各測色値)が発色特性データとしてメディアテーブルMTBに格納されている。
また、各インクの1次色(C,M,Y,K)と2次色(R,G,B)と全インクのカラーパッチをユーザーが観察した結果、にじみが生じ始めたカラーパッチに付記されたインク量Ij(j=1〜8)をそれぞれデューティー制限値DIjとして入力するためのテキストボックスがメディア特性指定UI画像に設けられている。ユーザーの観察によらず、にじみ等により測色値が不安定となり始めたインク量Ij(j=1〜8)をLUT作成条件設定モジュール700が判定し、そのインク量をデューティー制限値DIjとして設定してもよい。メディア特性指定UI画像には、デューティー制限値確定ボタンが設けられており、該ボタンをクリックされたことを受け、設定情報格納モジュール730が入力されたデューティー制限値DIjを取得し(ステップS14)、該デューティー制限値DIjを設定テーブルSTBに格納する(ステップS15)。以上により、デューティー制限値DIjが未知であった転用メディアについてデューティー制限値DIjが設定できた。なお、当該「D.転用メディアのLUT作成手順:」における説明では、以降、DIjは特に断らない限り、ステップS01で指定された転用メディアについてのデューティー制限値DIjを指すものとする。
デューティー制限値D
Ijが設定できると、LUT作成条件設定モジュール700は、下記の(34)式によって、被転用メディアについての各基準デューティー制限値D
SIjと、転用メディアについての各デューティー制限値D
Ijとに基づいてデューティー制限値補正比RWを算出し、設定テーブルSTBに登録する(ステップS16)。
(34)式が示すように、デューティー制限値補正比RWは、各基準デューティー制限値D
SIjを各デューティー制限値D
Ijによって除算した値のうちの最小値とされる。
ステップS17では、LUT作成条件設定モジュール700は、被転用メディアの基準デューティー制限値D
SIjまでのインク量の変化に対応する被転用メディアにおける色彩値の変化を示した色彩値特性(第一色彩値特性)と、転用メディアのデューティー制限値D
Ijまでのインク量の変化に対応する転用メディアにおける色彩値の変化を示した色彩値特性(第二色彩値特性)とを正規化する。
図20(A)は、正規化前のこれら2つの色彩値特性を例示しており、図20(B)および図21は、正規化後のこれら2つの色彩値特性を例示している。図20および図21では、第一色彩値特性を鎖線で例示し、第二色彩値特性を実線で例示している。ここでは、第一色彩値特性および第二色彩値特性として、Kインク(インク量I4)に対する明度L*の特性(明度特性)を採用している。つまり図20(A)に示した2つのグラフは、図19に例示したカラーパッチ(K)についての2つのグラフに相当する(むろん各図は例示であるためグラフの内容が一致している訳ではない。)。正規化の具体的手法は特に限られず、例えば、デューティー制限値DIjに対する基準デューティー制限値DSIjの比率(D SI4/D I4)を第二色彩値特性のインク量Ijに乗算することにより第一色彩値特性を基準として第二色彩値特性のインク量範囲(0〜D I4)を正規化してもよい。あるいは、第一色彩値特性のインク量範囲(0〜D SI4)と第二色彩値特性のインク量範囲(0〜D I4)とをそれぞれ所定の数値範囲(例えば、0〜1.0)へ正規化してもよい。図20(B)では後者の手法により正規化を行なっている。
つまり図20(B)では、第一色彩値特性に対しては、被転用メディアに印刷したカラーパッチ(K)の測色値のプロットの横軸方向の位置を示すインク量I4に、正規化比1/D SI4を乗算することにより第一色彩値特性のインク量範囲を0〜1.0へ正規化し、第二色彩値特性に対しては、転用メディアに印刷したカラーパッチ(K)の測色値のプロットの横軸方向の位置を示すインク量I4に、正規化比1/D I4を乗算することにより第二色彩値特性のインク量範囲を0〜1.0へ正規化している。なお図20では、縦軸の明度L*については0〜100に正規化した状態で示している。ステップS10〜S17の処理は、本発明における第一取得工程および第二取得工程を含む。
ステップS18では、LUT作成条件設定モジュール700は、第二色彩値特性を第一色彩値特性に近似させるためのインク量に対する補正値を、複数のインク量について決定する(補正値決定工程)。具体的には、LUT作成条件設定モジュール700は、図21に例示するように、上記正規化後の第二色彩値特性において、一定間隔(一定インク量W間隔)で参照点(白丸)を複数(例えば、17点や32点)設定し、各参照点のインク量毎に補正値を決定する。例えば、インク量I4mに対応する参照点に注目すると、インク量I4mを、当該参照点の明度L*を被転用メディア(第一色彩値特性)において再現するインク量I4m´へ補正する係数(I4m´/I4m)が補正値として決定される。このようにして他の参照点にかかるインク量についても補正値を決定する。更にLUT作成条件設定モジュール700は、補正値を決定したインク量以外のインク量については、当該決定した補正値に基づく補間(例えば線形補間)により、対応する補正値を算出する。ここまでの処理で得られた各補正値は、正規化された各インク量に対応しているため、LUT作成条件設定モジュール700は、これら各補正値を、正規化前後のインク量の対応関係に基づいて正規化前のインク量(0〜255階調で表されるインク量)に対応付けて記憶する。これにより、全階調のインク量に関して補正値が得られる。
以上により、転用メディアに各インクを付着させた場合の発色特性が、被転用メディアに各インクを付着させた場合の発色特性に近似するようにインク量を補正する補正値が得られたこととなる。すなわち、あるインク量Ijを当該インク量Ijに対応する補正値によって補正した後のインクを被転用メディアに付着した場合の発色(L*,C*値)は、当該インク量Ijのインクを転用メディアに付着した場合の発色(L*,C*値)とほぼ等しくなるということが言える。
ステップS19では、LUT作成条件設定モジュール700は、ステップS18で取得した全階調のインク量毎の補正値をインク量コンバーター710に設定する。これにより、インク量コンバーター710は、インク量Ij(j=1〜4)に上記補正値を乗算して補正することが可能となる。つまり、転用メディアについてのベースLUT510,520を生成するために、被転用メディアに対して用意されているフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136を用いてインク量の最適化を実行する際に、インク量を補正(変換)することができる。
ステップS20においては、転用メディアに対してCMYインクをそれぞれ単独でデューティー制限値DIj(j=1〜3)まで付着させたときのa*,b*値(以下、転用メディア色味(aCj *,bCj *)(j=1〜3)と表記する。)、および、被転用メディアに対してCMYインクをそれぞれ単独で基準デューティー制限値DSIj(j=1〜3)まで付着させたときのa*,b*値(以下、被転用メディア色味(aSj *,bSj *)(j=1〜3)と表記する。)を取得し、これらを解析する。これらの色彩値は、ステップS10,S12において、デューティー制限値DIj(j=1〜3)と基準デューティー制限値DSIj(j=1〜3)に対応するカラーパッチから得られた測色値として取得されている。なお、転用メディア色味(aCj *,bCj *)と、被転用メディア色味(aSj *,bSj *)は、所定の明度L*や彩度C*が再現されるカラーパッチから取得してもよいし、デューティー制限値DIj,DSIj以外の所定のインク量Ij(例えば、デューティー制限値DIj,DSIjに対して15%等。)によるカラーパッチから取得してもよい。さらに、インク量Ij(j=1〜3)を等量ずつ各メディアに付着させて形成したコンポジットグレーのカラーパッチから、転用メディア色味(aCj *,bCj *)と、被転用メディア色味(aSj *,bSj *)とを取得してもよい。いずれの場合も、各メディアそのものの色彩値を取得するよりも、ある程度インクが付着した状態の各メディアの色彩値が取得されるため、中明度領域の色味を評価することができる。
図22は、転用メディア色味(a
Cj *,b
Cj *)(j=1〜3)(白丸)と、被転用メディア色味(a
Sj *,b
Sj *)(j=1〜3)(黒丸)をa
*b
*平面にプロットしたグラフである。転用メディアと被転用メディアは、互いに異なる色味を有しているため、転用メディア色味(a
Cj *,b
Cj *)と、被転用メディア色味(a
Sj *,b
Sj *)は完全には一致しない。ステップS20では、(35)式のように、転用メディア色味(a
Cj *,b
Cj *)(j=1〜3)を、原点a
*,b
*=0からの位置ベクトルとして、互いに足し合わせることにより転用メディア色味(a
C *,b
C *)(白三角)を算出する。同様に、被転用メディア色味(a
Sj *,b
Sj *)を互いに足し合わせることにより、被転用メディア色味(a
S *,b
S *)(黒三角)を算出する。
さらに、(36)式のように、転用メディア色味(a
C *,b
C *)(白三角)から被転用メディア色味(a
S *,b
S *)(黒三角)を差し引くことにより、差分色味(a
D *,b
D *)を算出する。
以上のようにして、差分色味a
D *,b
D *を算出できると、差分色味(a
D *,b
D *)の符号を逆にしたベクトル(−a
D *,−b
D *)が示す色相方向を、グレーターゲットの色味(a
gt *,b
gt *)の色相方向として設定する(ステップS21)。すなわち、グレーターゲットの色味(a
gt *,b
gt *)は、ベクトル(−a
D *,−b
D *)に正の係数kを乗算したベクトルとなる。係数kの大きさは、例えばユーザーによって設定される。ステップS22では、設定情報格納モジュール730が、グレーターゲットの色味(a
gt *,b
gt *)を設定テーブルSTBに格納する。さらに、ステップS23において、設定情報格納モジュール730は、インク量コンバーター710を有効とする旨の有効フラグを設定テーブルSTBに格納させる。以上の処理により、図5に示す設定テーブルSTBには、必要な設定情報が記憶されたこととなる。以降、設定テーブルSTBを参照しながら、転用メディアのためのベースLUTを作成する処理に移行する。ここでは、基本メディアのためのベースLUTを作成する処理と異なる部分について順に説明していく。
まず、図6のステップS100において、設定テーブルSTBに記憶された情報に基づいて、各コンバーター等300,310,410,136を準備(起動)することとなるが、転用メディアの場合には設定テーブルSTBに記憶された被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136が準備(起動)されることとなる。すなわち、転用メディアについては各コンバーター等300,310,410,136が準備されていないため、基本メディアである被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136を転用する。また、有効フラグが添付されているため、インク量コンバーター710が起動し、インク量コンバーター710によるインク量Ijの変換が可能となる。
図13のステップT100における初期設定処理(図14のステップT107)では、図2のステップS22にて設定テーブルSTBに格納されたグレーターゲットの色味(agt *,bgt *)=k×(−aD *,−bD *)が設定される。すなわち、基本メディアのベースLUTを作成する場合は常にL*軸上にグレーターゲットが設定されていたのに対して、転用メディアのベースLUTを作成する場合は、グレーターゲットが転用メディアの相対的な色味の逆色相方向に遷移することとなる。
図23は、転用メディアのLUTを作成する場合のグレーターゲットを示す図である。同図に示すように、グレー軸格子点に対応する格子点(白丸)が、L*a*b*色空間のL*軸上の紙黒点と紙白点とを結び、かつ、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)の色相方向に湾曲した線分を16等分する位置を示すように拘束されている。これにより、スムージング処理後のグレー軸格子点に対応する格子点の位置は、L*軸からずれた位置となる。湾曲する量は中明度領域において最大となり、本実施例ではL*=50における最大値がグレーターゲットの色味(agt *,bgt *)となる。また、グレーターゲットにユーザーがドラッグ&ドロップ可能な単一または複数の制御点を設け、該ドラッグ&ドロップされた制御点を通過するような湾曲する量を規定する係数kを決定するようにしてもよい。
図13のステップT130における最適化処理では、ターゲット値LABtを略再現するものとして指定したインク量Ijを、インク量コンバーター710に入力し、インク量コンバーター710によって補正(変換)されたインク量Ijを対象として、被転用メディアのために用意されているフォワードモデルコンバーター300や画質評価指数コンバーター136による変換を行い、インク量の最適化(最適なインク量であるか否かの決定)を行なう。よって、転用メディアが指定された上で実行されるステップT130の処理は、指定したインク量のインクを被転用メディアに付着させたときの色彩値を予測可能な色予測モデルによる色彩値の予測結果を用いて当該指定されたインク量による画質を目的関数で評価し、当該評価に基づくインク量の最適化によって格子点が示す色彩値を略再現するインク量を決定する際に、上記指定したインク量を上記補正値で補正した上で最適化を実行するインク量決定工程に該当する。
加えて、図13のステップT130における最適化処理では、設定テーブルSTBに記憶された転用メディアについての各インクのデューティー制限値DIj(j=1〜8)に、デューティー制限値補正比RWが乗算され、新たな制限値(=仮デューティー制限値DPIj。j=1〜8。)へと変換される。すなわち、設定テーブルSTBに記憶された転用メディアの各インクのデューティー制限値DIj(j=1〜8)をそのまま最適化処理時のデューティー制限値として使用するのではなく、仮デューティー制限値DPIjに変換した上で使用する。従って、仮デューティー制限値DPIjの制約条件の下でインク量Ijの最適化が実行される。
仮デューティー制限値DPIjは、デューティー制限値DIj(j=1〜8)に対しデューティー制限値補正比RWを一律に乗算したものであるため、各インク間の真のデューティー制限値(デューティー制限値DIj)の大きさの相対比は、仮デューティー制限値DPIjにおいても維持される。従って、転用メディアにおける各インクの真のデューティー制限値DIj(j=1〜8)に応じたインク量Ijの最適化を実現することができ、転用メディアにおける各インクのデューティー制限値DIjの相対比に応じたガマットを形成することができる。
上記(34)式が示すように、デューティー制限値補正比RWは、被転用メディアの基準デューティ制限値D
SIj(j=1〜8)を、転用メディアのD
Ij(j=1〜8)で除した比D
SIj/D
Ijの最も小さいインク成分である。ここで、比D
SIj/D
Ijが最も小さいインク成分j=zとし、それ以外のインク成分j=qとすると、下記の(37)式が成り立つ。
(37)式の両辺に、転用メディアに対するインク成分j=zについてのデューティー制限値D
Izと、転用メディアに対するインク成分j=qについてのデューティー制限値D
Iqとを乗算すると、それぞれ下記の(38)(39)式が成り立つ。
(38)(39)式の左辺のRW・D
Iz,RW・D
Iqは、インク成分j=z,qについての仮デューティー制限値D
PIz,D
PIqを意味する。インク成分j=zについては、仮デューティー制限値D
PIzが被転用メディアについての基準デューティ制限値D
SIzと等しくなる。従って、インク成分j=zについては、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量I
jの範囲の全体にわたってインク量I
jの最適化を行うことができる。
一方、インク成分j=qについては、仮デューティー制限値DPIqが被転用メディアについての基準デューティ制限値DSIjよりも小さくなる。従って、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ij(j=1〜8)の範囲内においてインク量Ijの最適化を行うことができる。いずれの場合も、被転用メディアの各コンバーター等300,310,410,136が色彩値等を予測可能なインク量Ijの範囲でインク量Ijの最適化が行われるため、これらによる予測が破綻を来すことが防止できる。反対に、転用メディアのデューティー制限値DIjが、被転用メディアの基準デューティー制限値DSIjを下回る場合にも、被転用メディアの基準デューティー制限値DSIjによって制限されたインク量Ijが取り得る範囲を最大限に利用してインク量Ij(j=1〜4)を最適化することができる。
さらに、図6のステップS400におけるベースLUTの作成においては、平滑化および最適化処理によって最終的に得られた各格子点に対応するインク量Ij(j=1〜4)をベースLUT510,520の出力値としてそのまま登録するのではなく、1次色の種類毎にインク量コンバーター710によって逆変換し、当該逆変換後のインク量をベースLUT510,520の出力値として登録する。ここで言う逆変換とは、インク量コンバーター710に設定されている上記補正値により除算することである。被転用メディアについての各コンバーター等300,310,410,136は、被転用メディアにおける各インクの色彩値特性に対応した予測結果を出力するものである。例えば、ある格子点について、図20に図示したKインクのあるインク量I4が最適なインク量であるとして最適化されたとする。このとき、当該格子点については、当該インク量I4が最適であると同時に、当該インク量I4による発色、すなわち当該インク量I4のKインクによって再現される明度L*が最適であると捉えることができる。
被転用メディアにおいて最適な明度L*が再現できるKインクのインク量I4は、転用メディアにおいて同じ最適な明度L*が再現できるKインクのインク量とは異なる。すなわち、被転用メディアにおいて最適な明度L*が再現できるKインクのインク量I4ではなく、転用メディアにおいて同じ最適な明度L*が再現できるKインクのインク量が転用メディアに関して真に最適なインク量である。転用メディアにおいて当該同じ最適な明度L*が再現できるKインクのインク量は、被転用メディアにおいて最適な明度L*が再現できるKインクのインク量I4を上記逆変換することにより略得られる。従って、平滑化および最適化処理によって最終的に得られた各格子点のインク量Ijを上記インク量コンバーター710によって逆変換して得られた最適なインク量IjをベースLUT510,520の出力値として登録することにより、転用メディアについて最適なインク量Ijが規定されたベースLUT510,520を得ることができる。つまりステップS400は、上記最適化により決定されたインク量を第一色彩値特性と第二色彩値特性とに基づく変換関係によって変換し、当該変換したインク量を規定した第二印刷媒体のためのプロファイルを作成するプロファイル作成工程に該当する。
図3に示す重み指定用UI画像を表示させることにより、インク量Ijを最適化する際の目的関数Eにおける重みw L*,w a*…は、特にユーザーが設定を変更しない限り、転用メディアの系統に適したデフォルト重みw L*,w a*…が設定される。従って、転用メディアの系統に適した画質項目を重視するベースLUT510,520を作成することができる。メディアの指定に引き続いて重み指定用UI画像を表示することにより、メディアの性質や使用目的に応じた重みw L*,w a*…を設定することができる。
ところで、転用メディアと被転用メディアは、それら自身が有する色味が異なるため、フォワードモデルコンバーター300(分光プリンティングモデルコンバーター310)による色彩値の予測結果にずれが生じることとなる。むろん、L*軸まわりについても転用メディアと被転用メディア自身の色味に応じて、色彩値の予測結果にずれが生じる。これに対して、本実施例では、グレーターゲットの色味(agt *,bgt *)を意図的に転用メディアと被転用メディアとの差分色味(aD *,bD *)の逆色相方向にずらしているため、グレーターゲットに拘束したグレー軸格子点に対応する格子点の真の色彩値(フォワードモデルコンバーター300による予測の色彩値ではなく、該格子点に対応するインク量Ijのインクを転用メディアに付着させた場合に再現される色彩値)をL*軸上に位置させることができる。このようなベースLUTによれば、真に無彩色(グレー)が再現できるインク量Ijを使用した補間演算を行うこと可能となる。従って、ベースLUT510,520に基づく補間演算を使用して作成した色補正LUT610,620によれば、特に無彩色(グレー)の色再現性や階調性に優れた印刷結果を得ることができる。色補正LUT610,620をプリンター20のROM51に記憶させることにより、転用メディアについての色変換が可能となり、転用メディアに対して印刷を実行させることができるようになる。
このように本実施形態によれば、転用メディアにおける色彩値特性を被転用メディアの被転用メディアにおける色彩値特性に近似させるためのインク量に対する補正値(補正係数)を、複数のインク量について決定し、当該決定した複数のインク量についての補正値をインク量コンバーター710が各インク量に対する補正に適用する。そのため、転用メディアにおける色彩値特性と被転用メディアにおける色彩値特性とのずれを反映して高精度に補正したインク量に基づいて、被転用メディア用に用意された色予測モデル等を用いてインク量の最適化を行なうことができる。そのため、このように最適化した各インク量をインク量コンバーター710にて逆変換した後の各インク量(転用メディアのためのプロファイルが規定する各インク量)は、被転用メディアにおいて最適な(目的関数Eによる評価が高い)インク量で再現される色彩値と同様の色彩値を転用メディアにおいて再現する最適なインク量となる。つまり、転用メディアについての最適なプロファイルが作成できる。
E.変形例:
本発明は前記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。例えば、以下のような変形例も可能である。上記実施形態や各変形例は適宜組み合わせることができる。
上記実施形態のステップS18では、LUT作成条件設定モジュール700は、無彩色インク(Kインク)にかかる第一色彩値特性および第二色彩値特性に基づいて上記補正値を取得した。そして、インク量コンバーター710には、当該Kインクにかかる第一色彩値特性および第二色彩値特性に基づいて決定された各補正値が設定され、Kインクはもとより、他のC,M,Yインクのインク量についても、その値(階調値)に応じてインク量コンバーター710によって変換および逆変換されるとした。かかる構成とすれば、インク量コンバーター710を設定する処理が効率化され、かつインク量コンバーター710に設定される情報量も少なくて済み、メモリーの節約となる。
しかしながら上記ステップS18において、LUT作成条件設定モジュール700は、C,M,Y,Kインク毎の第一色彩値特性および第二色彩値特性に基づいて、これらインク種類毎に上述した手法により補正値を取得し、これらインク種類毎の補正値をインク量コンバーター710に設定するとしてもよい。そして、インク量コンバーター710は、C,M,Y,Kインクの各インク量について、その色および値(階調値)に応じて対応する補正値を用いて上記変換および逆変換を行なうとしてもよい。かかる構成とすれば、インク種類毎の転用メディアにおける色彩値特性と被転用メディアにおける色彩値特性とのずれを反映して、高精度にインク量を補正することができる。
また、色彩値特性といった場合、インク種類に応じて明度特性か彩度特性かを変えるとしてもよい。上記では、有彩色(C,M,Y)インクについては彩度C*の特性を用い、無彩色(K)インクについては明度L*の特性を用いるとしたが、例えば、インク量の変化に対する明度変化が相対的に大きい所定のインク種類については明度変化を示した第一色彩値特性および第二色彩値特性に基づいて上記補正値を決定し、一方、インク量の変化に対する明度変化が相対的に小さい所定のインク種類については彩度変化を示した第一色彩値特性および第二色彩値特性に基づいて上記補正値を決定するとしてもよい。この場合、具体的にはYインクにかかる上記補正値を得る際には彩度特性を用い、C,M,Kインクにかかる上記補正値を得る際には明度特性を用いる。当該構成とすれば、インク種類毎に、転用メディアにおける色彩値特性と被転用メディアにおける色彩値特性とのずれを明確に反映したインク量に対する補正値が得られる。
前記実施例では、機器非依存表色系としてCIE−Lab表色系を利用していたが、CIE−XYZ表色系やCIE−L*u*v*表色系などの他の任意の機器非依存表色系を利用することが可能である。ただし、滑らかな色再現を実現するという意味からは、CIE−Lab表色系やCIE−L*u*v*表色系などの均等色空間である機器非依存表色系を用いることが好ましい。
前記実施例では、平滑化処理として力学モデルを利用した処理を採用していたが、他の種類の平滑化処理を採用してもよい。例えば、隣接する色彩値同士の間隔を測定し、その平均値になるべく近づくように個々の間隔を調整する平滑化処理を採用することも可能である。
本明細書において「インク」とは、インクジェットプリンタやオフセット印刷等に用いられる液体状インクに限らず、レーザプリンタに用いられるトナーも含む広い意味で使用されている。このような「インク」の広い意味を有する他の用語としては、「色材」や「着色材」、「着色剤」を用いることも可能である。
前記実施例では、ルックアップテーブルのような色変換プロファイルを作成する方法および装置に関して説明したが、本発明は、こうして得られた色変換プロファイルを印刷装置に組み込む組み込み部を備える印刷装置製造システムにも適用可能である。色変換プロファイルを作成する色変換プロファイル作成装置は、この印刷装置製造システムに含まれるものとしてもよく、他のシステムや装置に含まれるものとしてもよい。なお、この製造システムの組み込み部は、例えば、プリンタドライバのインストーラ(インストールプログラム)として実現することができる。