以下、実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電力装置の一例として示されるDC/DCコンバータ10の構成を示す回路図である。DC/DCコンバータ10は、例えば、直流電源1から受ける直流電圧Vinを昇圧して、昇圧後の電圧Voutを出力する昇圧コンバータである。
図1を参照して、DC/DCコンバータ10は、変換回路2と、制御回路4と、分圧回路6とを備える。DC/DCコンバータ10の入力ノード11には、直流電源1が接続され、出力ノード18には、負荷20が接続される。
変換回路2は、磁気装置であるリアクトルL1と、ダイオードD1と、コンデンサC1と、スイッチング素子としてのNMOS(Negative-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ12とを含む。リアクトルL1およびダイオードD1は、入力ノード11および出力ノード18の間にこの順で直列に接続される。NMOSトランジスタ12は、リアクトルL1およびダイオードD1の接続ノードと、接地ノードGNDとの間に接続される。コンデンサC1は、出力ノード18と接地ノードGNDとの間に接続される。
DC/DCコンバータ10において昇圧は以下のように行なわれる。NMOSトランジスタ12のオン時間では、直流電圧VinはリアクトルL1を通じて短絡され、電流Iが流れる。リアクトルL1は、電圧時間積を吸収し磁束レベルが上昇する。NMOSトランジスタ12のオフ時間では、リアクトルL1に電圧が発生し、その電圧は直流電圧Vinに加算されてダイオードD1が導通し、出力電圧Voutを直流電圧Vinより上昇させる。NMOSトランジスタ12のスイッチング周期に対するオン時間の比(通流率)を変化させることによって、出力電圧Voutを直流電圧Vinより大きな値に制御できる。
分圧回路6は、出力ノード18の電圧Voutを抵抗素子61,62で分圧する。分圧回路6の分圧比kは、抵抗素子61,62の抵抗値R1,R2を用いて、R2/(R1+R2)で表わされる。分圧回路6は、分圧電圧Vout2を制御回路4へ出力する。
制御回路4は、出力電圧Voutが所望の指令値Vout*に一致するように、変換回路2を制御する。具体的には、制御回路4は、比較器14と、増幅器16とを含む。
増幅器16は、参照電圧Vrefと分圧電圧Vout2の偏差を求め、求めた偏差を制御信号として比較器14へ出力する。参照電圧Vrefは、指令値Vout*および分圧比kを用いて、k×Vout*で与えられる。
比較器14は、増幅器16からの制御信号と所定の周波数の搬送波信号との比較に基づき、NMOSトランジスタ12をオン・オフするための駆動信号を生成する。搬送波信号には、一般的に三角波信号やのこぎり波信号が用いられる。搬送波信号の周期は、NMOSトランジスタ12のスイッチング周波数に相当する。制御回路4は、出力電圧Voutの分圧電圧Vout2のフィードバックを受けることにより、出力電圧Voutが指令値Vout*に達したときに変換回路2における昇圧動作を中断させる。
図2は、図1におけるリアクトルL1の外観を示す斜視図である。図3は、図2中のIII−III線上に沿ったリアクトルL1を示す断面図である。
図2および図3を参照して、リアクトルL1は、コア部50と、コア部50の外周に巻き付けられたコイル52とによって構成される。コア部50は、磁性体から形成される。また、コイル52は、銅やアルミニウムなどの電気導体から形成される。コイル52の一方端子58は、入力ノード11(図1)に接続され、コイル52の他方端子60は、ダイオードD1(図1)に接続される。さらに、コイル52の一方端子58および他方端子60の間には、後述する温度保護装置30(図1)が接続される。
リアクトルL1は、金属ケース54に収容される。金属ケース54の材料は特に制限されず、例えば、アルミニウムなどを用いることができる。金属ケース54には、コア部50全体を覆うように放熱樹脂56がポッティングされている。放熱樹脂56は、コア部50、コイル52を配置した金属ケース54の内部に低粘度の樹脂を注入し、次工程でその樹脂を熱硬化させることによって形成される。
このような構成とすることにより、コア部50およびコイル52で発生した熱は放熱樹脂56を放熱経路として金属ケース54へ放熱される。ただし、リアクトルL1の放熱性は放熱樹脂56の使用量などによって左右されるため、様々なDC/DCコンバータ10の使用環境に耐えるためには、リアクトルL1の温度管理が必要となる。
再び図1を参照して、リアクトルL1の温度管理を行なうための構成として、DC/DCコンバータ10は、リアクトルL1の温度保護装置30をさらに備える。温度保護装置30は、リアクトルL1の2つの端子58,60間に接続され、リアクトルL1の温度Tを推定する。そして、温度保護装置30は、リアクトルL1の推定温度Tに応じて変換回路2における昇圧動作を制御するための制御指令を生成する。制御回路4は、温度保護装置30から与えられる制御指令に従って変換回路2を制御する。このようにして、リアクトルL1の推定温度Tに応じて、リアクトルL1に供給される電流が調整される。その結果、リアクトルL1が過熱されるのを防止できる。
図4は、図1における温度保護装置30の制御構造を示すブロック図である。
図4を参照して、温度保護装置30は、電圧検出部32と、電流検出部34と、演算部36と、初期設定部38と、判定部40と、電流センサ42と、電圧センサ44とを含む。
電圧検出部32は、リアクトルL1の端子間に接続された電圧センサ44を用いて、リアクトルL1の端子間の電圧Vを検出する。電流検出部34は、入力ノード11およびリアクトルL1を結ぶ電力線に介挿接続された電流センサ42を用いて、リアクトルL1に流れる電流Iを検出する。電圧検出部32および電流検出部34によって検出されたリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iは、演算部36に与えられる。
なお、図1および図4では、電圧検出部32および電流検出部34はそれぞれ、電圧センサ44および電流センサ42を用いてリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを検知する構成としたが、周知の様々な方法でリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを検知することが可能である。
電圧検出部32および電流検出部34は、演算部36、初期設定部38および判定部40とともに図示しないプリント基板などに実装される。なお、図4に示した各機能ブロックについては、温度保護装置30の内部に、当該機能に相当する回路(ハードウェア)を構成してもよいし、予め設定された制御プログラムに従って温度保護装置30がソフトウェア処理を実行する構成としてもよい。
初期設定部38は、温度保護装置30の初期設定を記憶しておくための記憶領域(図示せず)を含む。この初期設定では、リアクトルL1の温度推定に用いられる、リアクトルL1のインピーダンスの初期値Zi(以下、「初期インピーダンス」とも称する)が設定される。この初期インピーダンスZiは、リアクトルL1の温度Tが基準温度TstdとなるときのリアクトルL1のインピーダンスZに相当する。
初期インピーダンスZiは、例えば、DC/DCコンバータ10の製品出荷時において取得され、初期設定部38に記憶される。具体的には、DC/DCコンバータ10を停止させてリアクトルL1を予め定められた基準温度Tstdに保った状態で、電圧検出部32および電流検出部34によりリアクトルL1の電圧V1および電流Iを検出する。そして、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1のインピーダンスZを算出する。算出されたインピーダンスZは、初期インピーダンスZiとして、基準温度Tstdと対応付けて初期設定部38に格納される。
演算部36は、DC/DCコンバータ10の動作中、電圧検出部32および電流検出部34から与えられる検出値(電圧Vおよび電流I)に基づいてリアクトルL1の温度Tを推定する。具体的には、演算部36は、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1のインピーダンスZを演算する。そして、演算されたリアクトルL1のインピーダンスZと、初期設定部38に予め格納される初期インピーダンスZiとに基づいて、リアクトルL1の推定温度Tを算出する。
演算部36によるリアクトルL1の推定温度Tの算出は、例えば、以下のように行なわれる。リアクトルL1のインピーダンスZは、抵抗成分をRとし、誘導リアクタンス成分をXLとすると、
Z=R+XL ・・・(1)
と表わされる。演算部36は、リアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを取得すると、リアクトルL1の電圧Vと電流Iとの位相差がπ/2[rad]であることを用いて、抵抗成分Rおよび誘導リアクタンス成分XLの大きさをベクトル演算により算出する。
一方、初期インピーダンスZiは、上述したように、DC/DCコンバータ10が停止しているため、誘導リアクタンス成分XL=0となる。よって、初期インピーダンスZiは、抵抗成分をRiとすると、
Zi=Ri ・・・(2)
で与えられる。
ここで、リアクトルL1において、抵抗成分Rは、正の温度特性を持ち、温度上昇に応じて増大する。演算部36は、抵抗成分Rの温度特性を区間で分割し、区間ごとに抵抗成分Rと温度との関係を予め線形近似する。演算部36は、線形近似した関係に、初期インピーダンスZi(=Ri)とインピーダンスZの抵抗成分Rとを当てはめることにより、推定温度Tを算出する。
演算部36は、算出した推定温度Tを判定部40へ出力する。判定部40は、推定温度Tと所定の判定値とを比較し、その比較結果に応じて制御指令を生成する。具体的には、判定部40は、複数の判定値を予め有しており、判定値の各々と推定温度Tとを比較する。例えば、判定部40が2つの判定値T1,T2(T1<T2とする)を有する場合、判定部40は、最初に判定値T1と推定温度Tとを比較する。そして、推定温度T1が判定値T1以上であると判定されたとき、判定部40はさらに、判定値T1よりも大きい判定値T2と推定温度Tとを比較する。
上記の2つの比較動作によって推定温度Tが判定値T1以上判定値T2未満であると判定された場合、判定部40は、DC/DCコンバータ10の出力を制限する。具体的には、判定部40は、変換回路2内部のNMOSトランジスタ12の通流率を下げるための制御指令を生成する。制御回路4は、判定部40からの制御指令に従って、比較器14から出力される駆動信号におけるオン期間を短くする。
一方、推定温度Tが判定値T2以上であると判定された場合、判定部40は、DC/DCコンバータ10の出力を停止する。具体的には、判定部40は、NMOSトランジスタ12をオフするための制御指令を生成する。制御回路4は、判定部40からの制御指令に従って比較器14から出力される駆動信号を非活性状態に固定する。
なお、推定温度Tが判定値T1未満であると判定された場合には、判定部40は、上述したDC/DCコンバータ10の出力制限および出力停止を行なわない。したがって、変換回路2は、指令値Vout*に基づいた昇圧動作を実行する。
ここで、判定部40における比較動作において、判定値T1,T2は、リアクトルL1の特性値が大幅に変化する領域であるか否かを判別するための閾値である。例えば、判定値T1,T2は、これ以上のリアクトルL1の温度上昇が進行するとインダクタンス値等の特性値が大きく変化する虞があるような、スペック上の耐熱限界温度に対してマージンを有するように設定される。これにより、リアクトルL1が耐熱限界温度を超えないように、変換回路2における昇圧動作が制御される。すなわち、リアクトルL1の推定温度Tが判定値T1に達すると、DC/DCコンバータ10の出力を制限することによってリアクトルL1の温度上昇が抑制される。そして、DC/DCコンバータ10の出力制限にも拘わらず、推定温度Tが判定値T2に達した場合にのみDC/DCコンバータ10の出力が停止される。
このように判定値を複数個設け、多段階の判定を経てDC/DCコンバータ10の出力を停止させる構成としたことにより、DC/DCコンバータ10の出力を突然に停止させる場合と比較して、ユーザに与えるストレスを軽減することができる。例えば、DC/DCコンバータ10が車両などを駆動するための駆動系システムに適用される場合、DC/DCコンバータ10の出力が突然に停止することで駆動力が急激に変化し、車両のユーザに違和感を与えてしまう可能性がある。これに対して、本実施の形態1では、DC/DCコンバータ10は、出力が制限された状態で出力が停止されることになるため、上記のような違和感をユーザに与えるのを防ぐことができる。これら一連の処理は、次のような処理フローにまとめることができる。
図5は、この発明の実施の形態1による温度保護装置における磁気装置の温度管理を実現するための制御処理手順を示したフローチャートである。
図5を参照して、まず、温度保護装置30は、ステップS01により、磁気装置であるリアクトルL1の初期インピーダンスZiを設定して初期設定部38に記憶する。このステップS01の動作は、例えば、電力装置であるDC/DCコンバータ10の製品出荷時において実行される。具体的には、リアクトルL1を基準温度Tstdに保った状態での電圧Vおよび電流Iに基づいてリアクトルL1のインピーダンスZを算出し、その算出したインピーダンスZを初期インピーダンスZiとして、基準温度Tstdと対応付けて初期設定部38に格納する。
図5のフローチャート中のステップS02〜S09については、DC/DCコンバータ10の製品出荷後の使用段階において、所定周期または所定の条件が成立したことに応答して実行されることによって実現される。例えば、温度保護装置30に予め格納されたプログラムが所定周期もしくは所定の条件が成立するごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。
ステップS02では、DC/DCコンバータ10を搭載したシステムの制御装置により、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対してDC/DCコンバータ10を起動するための起動指令が与えられる。この起動指令に応答してDC/DCコンバータ10が起動し、変換回路2における昇圧動作が開始されると、温度保護装置30は、ステップS03により、電圧検出部32および電流検出部34によりリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを検出する。
ステップS04では、温度保護装置30は、演算部38により、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1のインピーダンスZを演算する。そして、ステップS05により、演算されたリアクトルL1のインピーダンスZと、初期設定部38に予め格納される初期インピーダンスZiとに基づいて、リアクトルL1の推定温度Tを算出する。
温度保護装置30は、ステップS05により算出されたリアクトルL1の推定温度Tに応じてDC/DCコンバータ10における昇圧動作を制御する。具体的には、まずステップS06により、温度保護装置30は、予め有している複数の判定値T1,T2のうちの小さいほうの判定値T1と推定温度Tとを比較する。推定温度Tが判定値T1未満であるとき(ステップS06においてNO)、温度保護装置30は、処理をステップS03に戻す。
一方、推定温度Tが判定値T1以上であるとき(ステップS06においてYES)、温度保護装置30は、ステップS07により、大きいほうの判定値T2と推定温度Tとを比較する。推定温度Tが判定値T2未満であるとき(ステップS07においてNO)、すなわち、推定温度Tが判定値T1以上判定値T2未満であるとき、温度保護装置30は、ステップS09により、DC/DCコンバータ10の出力を制限する。具体的には、温度保護装置30は、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12(図1)の通流率を下げるための制御指令を出力する。さらに温度保護装置30は、処理をステップS03に戻す。
これに対して、推定温度Tが判定値T2以上であるときには(ステップS07においてYES)、温度保護装置30は、ステップS08により、DC/DCコンバータ10の出力を停止する。具体的には、温度保護装置30は、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12をオフするための制御指令を出力する。以上に述べたステップS06〜S09の処理は、図4に示した判定部40の機能に対応する。
このように、実施の形態1による磁気装置の温度保護装置によれば、磁気装置のインピーダンスに基づいて磁気装置の温度を推定するため、磁気装置の温度を検出するための温度センサが不要となる。そのため、温度センサの取り付け誤差等によって磁気装置の推定温度に誤差が生じることがない。そして、磁気装置の温度を正確に推定できることにより、磁気装置の性能を最大限に活用することが可能となる。これにより、磁気装置を小型化できるとともに、磁気装置を冷却するための冷却器の構成を簡素化できる。また、磁気装置を収容する筺体内部に充填させる放熱樹脂の使用量を必要最小限まで減らすことができるため、磁気装置の小型化および低コスト化に有効に寄与する。
さらに、磁気装置の信頼性が向上することで、電力装置の信頼性も向上する。
また、温度センサの設置が不要となったことにより、温度センサを取り付け工程およびセンサの検知精度の管理が不要となり、電力装置の製造コストおよびランニングコストを削減できる。
また、例えば電力装置が車両に搭載される場合、電力装置内部の電子部品や磁気装置などの構成部品を冷却するための冷媒の温度が、車両の走行モード、季節および天候などの使用環境によって大きく変動するため、磁気装置の温度も電力装置の使用環境に大きく左右される。このため、電力装置においては、使用環境のうちの最悪の環境を想定して構成部品の熱設計が行なわれる。しかしながら、使用環境の想定範囲を広げすぎた場合、磁気装置の仕様が実際の使用環境に対してオーバースペックとなり、無駄に装置を大型化および高コスト化させてしまう。これに対して、本実施の形態1では、磁気装置の温度を精度良くモニタできるため、実際の使用環境に対して適正な仕様で磁気装置の熱設計を行なうことが可能となる。その結果、磁気装置の小型化および低コスト化を実現できる。
さらに、本実施の形態1によれば、温度保護装置によって磁気装置の温度をモニタすることで磁気装置が熱暴走するのを防止できるため、磁気装置の熱設計における拘束条件を緩和することができる。例えば、図2および図3に示したように磁気装置の放熱性のために放熱樹脂を用いる構成では、放熱樹脂内に含まれるボイド(気泡)によって放熱性が低下することから、一般的に、放熱樹脂で磁気装置をポッティングする工程を真空状態で行なう。一方、本実施の形態1では、磁気装置の温度を温度保護装置でモニタできることから、放熱樹脂に多少のボイドが発生するのを容認することができる。そのため、上述したポッティングの工程において、真空状態にするための真空引きが不要となり、製造工程を簡素化できる。その結果、製造設備のコストおよび製造コストを削減できる。
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2による磁気装置の温度保護装置30Aの制御構造を示すブロック図である。なお、この発明の実施の形態2による電力装置の概略構成は、温度保護装置30での制御構造を除いて、図1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図6を参照して、温度保護装置30Aにおける制御構造は、図4に示す温度保護装置30における制御構造において、電圧検出部32および電流検出部34と演算部36との間にフィルタ46をさらに設けたものである。
フィルタ46は、電圧検出部32および電流検出部34から出力される信号のノイズを除去する機能を有する。電圧検出部32により検出されるリアクトルL1の電圧V、および電流検出部34により検出されるリアクトルL1の電流Iには、動作環境に応じて様々なノイズ(例えば他の回路のスイッチングノイズ、電源ノイズ等)が含まれる。フィルタ46は、電圧Vおよび電流Iの各々からDC/DCコンバータ10の動作周波数の成分を抽出して演算部36へ出力する。演算部36は、フィルタ46によって抽出された電圧Vおよび電流Iの動作周波数成分に基づいて、リアクトルL1のインピーダンスZを演算する。そして、演算されたリアクトルL1のインピーダンスZと、初期設定部38に予め格納される初期インピーダンスZiとに基づいて、リアクトルL1の推定温度Tを算出する。
なお、フィルタ46については、ソフトウェア処理によって、電圧検出部32および電流検出部34による検出値に基づく演算処理を実行するように構成される。例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)または移動平均などの演算処理によって、検出値から動作周波数成分を抽出するように構成される。あるいは、フィルタ46を、受動素子を用いたアナログ回路で実現してもよい。
このように、実施の形態2による磁気装置の温度保護装置によれば、電圧検出部および電流検出部の検出値(電圧Vおよび電流I)から電力装置の動作周波数成分を抽出したものを用いて磁気装置のインピーダンスを演算するため、ノイズの影響によってインピーダンス値に誤差が生じるのを防止できる。これにより、磁気装置の温度の推定精度が向上するため、温度保護装置の信頼性が高められる。
そして、磁気装置の温度の推定精度が向上したことにより、磁気装置の実使用温度をさらに耐熱限界温度に近付けることが可能となるため、磁気装置の一層の小型化および低コスト化を実現できる。
実施の形態3.
上記の実施の形態1,2では、リアクトルL1のインピーダンスZのうちの抵抗成分Rに基づいてリアクトルL1の推定温度Tを算出する構成について説明したが、DC/DCコンバータ10の動作周波数が高くなるに従って誘導リアクタンス成分XLが支配的になり、抵抗成分Rを実質的に無視できる。そのため、高周波動作時には抵抗成分Rに基づく温度推定が難しくなる。
そこで、この発明の実施の形態3では、誘導リアクタンス成分XLに基づいてリアクトルL1の温度を推定する構成について説明する。
図7は、この発明の実施の形態3による磁気装置の温度保護装置30Bの制御構造を示すブロック図である。なお、この発明の実施の形態3による電力装置の概略構成は、温度保護装置30出の制御構造を除いて、図1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図7を参照して、温度保護装置30Bによる制御構造は、図4に示す温度保護装置30における制御構造において、電圧検出部32および電流検出部34と演算部36Bとの間にフィルタ46を設けるとともに、演算部36、初期設定部38および判定部40に代えて、演算部36B、初期設定部38Bおよび判定部40Bを設けたものである。
フィルタ46は、電圧検出部32および電流検出部34から出力される信号の各々からDC/DCコンバータ10の動作周波数の成分を抽出して演算部36Bへ出力する。
演算部36Bは、フィルタ46によって抽出された電圧Vおよび電流Iの動作周波数成分に基づいて、リアクトルL1のインピーダンスZを演算する。演算部36Bは、演算したインピーダンスZを判定部40Bへ出力する。
初期設定部36Bは、温度保護装置30Bの初期設定を記憶しておくための記憶領域(図示せず)を含む。初期設定では、リアクトルL1の温度推定に用いられる初期インピーダンスZiが設定される。
本実施の形態3では、初期インピーダンスZiは、リアクトルL1が異常温度上昇したときのリアクトルL1のインピーダンスZに相当する。初期インピーダンスZiは、例えば、DC/DCコンバータ10の製品出荷時において、DC/DCコンバータ10を高温状態で動作させることによって取得されて初期設定部38Bに記憶される。具体的には、DC/DCコンバータ10の使用環境として想定される温度範囲の上限値に保った状態でDC/DCコンバータ10を動作させることにより、リアクトルL1の温度を上昇させる。そして、リアクトルL1がスペック上の耐熱限界温度に近い所定の温度(以下、異常温度と称する)に達したときに電圧検出部32および電流検出部34により検出される電圧Vおよび電流Iを用いて、リアクトルL1のインピーダンスZを算出する。算出されたインピーダンスZは、初期インピーダンスZiとして、異常温度と対応付けて初期設定部38Bに格納される。
ここで、初期インピーダンスZiとして異常温度時のインピーダンスZを取得する方法としては、例えば、DC/DCコンバータ10を、想定される温度範囲の上限値に設定した恒温槽内に入れて、リアクトルL1のインピーダンスZを測定する方法がある。このとき、DC/DCコンバータ10を実際の動作条件で動作させることが望ましい。実際にDC/DCコンバータ10で発生する動作周波数以外の高周波成分などの影響を、初期インピーダンスZiに反映させるためである。これにより、異常温度時のインピーダンスZを正確に取得することができる。
なお、DC/DCコンバータ10の想定温度範囲の上限値が、金属ケース54に充填した放熱樹脂56(図2および図3)を熱硬化させる工程の処理温度に近い場合には、放熱樹脂56を熱硬化させる工程とリアクトルL1のインピーダンスZの取得とを同時に行なうことで生産性を上げることができる。
判定部40Bは、演算部30Bから与えられるインピーダンスZと、初期設定部38Bから読み出した初期インピーダンスZiとを比較し、その比較結果に基づいてリアクトルL1の温度Tを推定する。具体的には、判定部40Bは、算出したインピーダンスZのうちの誘導リアクタンス成分XLと、初期インピーダンスZiのうちの誘導リアクタンス成分(以下、「初期誘導リアクタンス成分」と称する)XLiとを比較する。誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi以上であるとき、判定部40Bは、リアクトルL1の温度Tが異常温度以上であると推定する。
このように、本実施の形態3では、算出された誘導リアクタンス成分XLと初期誘導リアクタンス成分XLiとを比較することにより、リアクトルL1の温度Tが異常温度以上であるか否かを推定する。これは、リアクトルをはじめとする磁気装置においては、誘導リアクタンス成分XLの温度特性を、抵抗成分Rの温度特性のように、線形近似することが難しいことによる。
ただし、温度保護装置30Bの初期設定時に初期インピーダンスZi(初期誘導リアクタンス成分XLi)を複数個設定しておくことにより、リアクトルL1の温度Tをより正確に推定することが可能となる。特に、異常温度付近の複数の温度に対応させて複数の初期インピーダンスZiを設定しておく構成とすれば、リアクトルL1の異常温度上昇を正確に検出することができる。さらに、後述するように、複数の初期インピーダンスZiの各々とインピーダンスZとを比較した結果に応じて、DC/DCコンバータ10の出力を段階的に制限する構成とすれば、DC/DCコンバータ10の出力を突然に停止させる構成と比較して、ユーザに与えるストレスを軽減できる。
図8は、この発明の実施の形態3による温度保護装置における磁気装置の温度管理を実現するための制御処理手順を示したフローチャートである。
図8を参照して、まず、温度保護装置30Bは、ステップS11により、電力装置であるDC/DCコンバータ10を高温状態で動作させる。ステップS12では、温度保護装置30Bは、リアクトルL1が異常温度に達したときの電圧Vおよび電流Iの検出値を用いて、リアクトルL1のインピーダンスZを算出する。温度保護装置30Bは、その算出したインピーダンスZを初期インピーダンスZiとして、異常温度と対応付けて初期設定部38Bに格納する。
以下では、一例として、2つの異常温度T1,T2(T2>T1)に対応付けて2つの初期インピーダンスZi1,Zi2(Zi2>Zi1)が初期設定部38Bに格納される場合を想定する。XLi1は、初期インピーダンスZi1の誘導リアクタンス成分を示し、XLi2は初期インピーダンスZi2の誘導リアクタンス成分を示すものとする。
図8のフローチャート中のステップS13〜S19については、DC/DCコンバータ10の製品出荷後の使用段階において、所定周期または所定の条件が成立したことに応答して実行されることによって実現される。例えば、温度保護装置30Bに予め格納されたプログラムが所定周期もしくは所定の条件が成立するごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。
ステップS13では、DC/DCコンバータ10を搭載したシステムの制御装置により、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対してDC/DCコンバータ10を起動するための起動指令が与えられる。この起動指令に応答してDC/DCコンバータ10が起動し、変換回路2における昇圧動作が開始されると、温度保護装置30Bは、ステップS14により、電圧検出部32および電流検出部34によりリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを検出する。検出された電圧Iおよび電流Iは、フィルタ46でDC/DCコンバータ10の動作周波数の成分が抽出された後、演算部36Bへ与えられる。
ステップS15では、温度保護装置30Bは、演算部36Bにより、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1のインピーダンスZを演算する。温度保護装置30Bは、演算されたインピーダンスZのうちの誘導リアクタンス成分XLに基づいて、リアクトルL1の温度Tを推定する。そして、温度保護装置30Bは、推定温度Tに応じて、DC/DCコンバータ10における昇圧動作を制御する。
具体的には、まずステップS16により、温度保護装置30Bは、複数の初期インピーダンスZi1,Zi2のうちの小さいほうの初期誘導リアクタンス成分XLi1とインピーダンスZの誘導リアクタンス成分XLとを比較する。誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi1未満であるとき(ステップS16においてNO)、温度保護装置30Bは、リアクトルL1の温度Tが異常温度T1未満であると推定する。そして、温度保護装置30Bは、処理をステップS14に戻す。
一方、誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi1以上であるとき(ステップS16においてYES)、温度保護装置30Bは、ステップS17により、大きいほうの初期誘導リアクタンス成分XLi2と誘導リアクタンス成分XLとを比較する。誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi2未満であるとき(ステップS17においてNO)、すなわち、誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi1以上XLi2未満であるとき、温度保護装置30Bは、リアクトルL1の温度Tが異常温度T1以上異常温度T2未満であると推定する。この場合、温度保護装置30Bは、ステップS19により、DC/DCコンバータ10の出力を制限する。具体的には、温度保護装置30Bは、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12(図1)の通流率を下げるための制御指令を出力する。さらに温度保護装置30Bは、処理をステップS14に戻す。
これに対して、誘導リアクタンス成分XLが初期誘導リアクタンス成分XLi2以上であるときには(ステップS17においてYES)、温度保護装置30Bは、リアクトルL1の温度Tが異常温度T2以上であると推定する。この場合、温度保護装置30Bは、ステップS18により、DC/DCコンバータ10の出力を停止する。具体的には、温度保護装置30Bは、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12をオフするための制御指令を出力する。以上に述べたステップS16〜S19の処理は、図7に示した判定部40Bの機能に対応する。
このように、実施の形態3による磁気装置の温度保護装置によれば、動作周波数が高い電力装置においても、磁気装置の温度を正確に推定することができる。これにより、磁気装置の実使用温度をさらに限界温度に近付けることが可能となるため、磁気装置の一層の小型化および低コスト化を実現できる。
また、磁気装置が異常温度上昇したときのインピーダンスを初期インピーダンスとして初期設定部に予め記憶しておくことにより、演算部の処理負荷を軽減できる。これにより、演算部を構成するマイクロコンピュータなどの電子回路を安価なものとすることができる。
実施の形態4.
上記の実施の形態1〜3による磁気装置の温度保護装置では、電力装置であるDC/DCコンバータ10の動作中にリアクトルL1のインピーダンスZを演算する構成について説明したが、DC/DCコンバータ10が搭載されるシステムの動作に支障がなければ、リアクトルL1の抵抗成分Rを直接的に演算するためにDC/DCコンバータ10の動作を一時停止させるようにしてもよい。
この発明の実施の形態4では、DC/DCコンバータ10を一時停止させてリアクトルL1の抵抗成分Rを演算する構成について説明する。なお、この発明の実施の形態4によるDC/DCコンバータ10Cにおいて昇圧動作を行なう構成は、図1と同様であるので詳細な説明は繰り返さない。また、DC/DCコンバータ10Cの概略構成についても、温度保護装置30Cでの制御構造を除いて、図1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図9は、この発明の実施の形態4による温度保護装置30Cにおける制御構造を示すブロック図である。
図9を参照して、温度保護装置30Cにおける制御構造は、図4に示す温度保護装置30における制御構造において、演算部36および初期設定部38に代えて演算部36Cおよび初期設定部38Cを設けるとともに、直流電源50およびスイッチ48をさらに設けたものである。
直流電源50およびスイッチ48は、リアクトルL1の一方端子と他方端子との間に直列に接続される。直流電源50は、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素などの二次電池が適用される。スイッチ48は、演算部36Cから与えられる制御信号STに応答して、オン・オフされる。
具体的には、演算部36Cは、DC/DCコンバータ10の動作中、所定周期または所定の条件が成立したことに応答して、一定時間活性化された制御信号STを出力する。スイッチ48は、活性化された制御信号STを受けて一定時間オンされる。スイッチ48がオンすることにより、スイッチ48、リアクトルL1および直流電源50からなる閉回路が形成される。
一方、DC/DCコンバータ10においては、制御回路4(図1)が活性化された制御信号STを受けると、比較器14から出力される駆動信号を一定時間非活性状態に固定する。駆動信号を受けてNMOSトランジスタ12がオフすることにより、DC/DCコンバータ10の出力が一定時間停止する。
温度保護装置30Cは、この一定時間を用いてリアクトルL1の抵抗成分Rを演算する。そして、演算された抵抗成分Rに基づいてリアクトルL1の温度Tを推定する。温度保護装置30Cは、一定時間が経過してDC/DCコンバータ10が再び起動すると、推定温度Tに応じて、変換回路2における昇圧動作を制御するための制御指令を生成する。
具体的には、スイッチ48がオンすることによってスイッチ48、リアクトルL1および直流電源50からなる閉回路が形成されると、リアクトルL1には直流電流が流れる。電圧検出部32は、電圧センサ44を用いてリアクトルL1の端子間の電圧Vを検出する。電流検出部34は、電流センサ42を用いてリアクトルL1に流れる電流Iを検出する。
初期設定部38Cは、温度保護装置30Cの初期設定を記憶しておくための記憶領域(図示せず)を含む。初期設定では、リアクトルL1の温度推定に用いられる初期抵抗Riが設定される。
本実施の形態4では、初期抵抗Riは、リアクトルL1の温度が基準温度TstdとなるときのリアクトルL1のインピーダンスZの抵抗成分Rに相当する。初期抵抗Riは、例えば、DC/DCコンバータ10の製品出荷時において取得され、初期設定部38Cに記憶される。具体的には、DC/DCコンバータ10を停止させてリアクトルL1を予め定められた基準温度Tstdに保った状態で、制御信号STによりスイッチ48をオンする。このときのリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを電圧検出部32および電流検出部34により検出する。そして、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1の抵抗成分Rを算出する。算出された抵抗成分Rは、初期抵抗Riとして、基準温度Tstdと対応付けて初期設定部38Cに格納される。
演算部36Cは、一定時間内に電圧検出部32および電流検出部34から与えられる検出値(電圧Vおよび電流I)に基づいてリアクトルL1の温度Tを推定する。具体的には、演算部36Cは、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1の抵抗成分Rを演算する。抵抗成分Rは、
R=V/I ・・・(3)
で与えられる。演算部36Cは、演算されたリアクトルL1の抵抗成分Rと、初期設定部38に予め格納される初期抵抗Riとに基づいて、リアクトルL1の推定温度Tを算出する。例えば、演算部36Cは、抵抗成分Rの温度特性を区間で分割し、区間ごとに抵抗成分Rと温度との関係を予め線形近似する。そして、演算部36Cは、線形近似した関係に、初期抵抗Riと抵抗成分Rとを当てはめることにより、推定温度Tを算出する。
演算部36Cは、算出した推定温度Tを判定部40へ出力する。判定部40は、推定温度Tと複数の判定値の各々とを比較し、その比較結果に応じて制御指令を生成する。
図10は、この発明の実施の形態4による温度保護装置30Cにおける磁気装置の温度管理を実現するための制御処理手順を示したフローチャートである。
図10を参照して、まず、温度保護装置30Cは、ステップS21により、磁気装置であるリアクトルL1の初期抵抗Riを設定して初期設定部38Cに記憶する。このステップS21の動作は、例えば、電力装置であるDC/DCコンバータ10の製品出荷時において実行される。具体的には、リアクトルL1を基準温度Tstdに保った状態でスイッチ48をオンしたときのリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iに基づいてリアクトルL1の抵抗成分Rを算出する。その算出した抵抗成分Rを初期抵抗Riとして、基準温度Tstdと対応付けて初期設定部38に格納する。
図10のフローチャート中のステップS22〜S31については、DC/DCコンバータ10の製品出荷後の使用段階において、所定周期または所定の条件が成立したことに応答して実行されることによって実現される。例えば、温度保護装置30Cに予め格納されたプログラムが所定周期もしくは所定の条件が成立するごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。
ステップS22では、DC/DCコンバータ10を搭載したシステムの制御装置により、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対してDC/DCコンバータ10を起動するための起動指令が与えられる。この起動指令に応答してDC/DCコンバータ10が起動し、変換回路2における昇圧動作が開始される。
温度保護装置30Cは、ステップS23により、制御信号STを一定時間活性化させる。この制御信号STを受けて、DC/DCコンバータ10の出力が一定時間停止する。
さらにステップS24では、スイッチ48が一定時間オンすることにより、スイッチ48、リアクトルL1および直流電源50からなる閉回路が形成される。これにより、リアクトルL1は直流通電される。ステップS25では、電圧検出部32および電流検出部34によりリアクトルL1の電圧Vおよび電流Iを検出する。
ステップS26では、温度保護装置30Cは、演算部36Cにより、電圧Vおよび電流Iの検出値を用いてリアクトルL1の抵抗成分Rを演算する。そして、ステップS27により、演算されたリアクトルL1の抵抗成分Rと、初期設定部38Cに予め格納される初期抵抗Riとに基づいて、リアクトルL1の推定温度Tを算出する。
温度保護装置30Cは、ステップS27により算出されたリアクトルL1の推定温度Tに応じてDC/DCコンバータ10における昇圧動作を制御する。具体的には、まずステップS28により、温度保護装置30Cは、予め有している複数の判定値T1,T2のうちの小さいほうの判定値T1と推定温度Tとを比較する。推定温度Tが判定値T1未満であるとき(ステップS28においてNO)、温度保護装置30Cは、処理をステップS23に戻す。
一方、推定温度Tが判定値T1以上であるとき(ステップS28においてYES)、温度保護装置30Cは、ステップS29により、大きいほうの判定値T2と推定温度Tとを比較する。推定温度Tが判定値T2未満であるとき(ステップS29においてNO)、すなわち、推定温度Tが判定値T1以上判定値T2未満であるとき、温度保護装置30Cは、ステップS31により、DC/DCコンバータ10の出力を制限する。具体的には、温度保護装置30Cは、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12(図1)の通流率を下げるための制御指令を出力する。さらに温度保護装置30Cは、処理をステップS23に戻す。
これに対して、推定温度Tが判定値T2以上であるときには(ステップS29においてYES)、温度保護装置30Cは、ステップS30により、DC/DCコンバータ10の出力を停止する。具体的には、温度保護装置30Cは、DC/DCコンバータ10の制御回路4に対して、NMOSトランジスタ12をオフするための制御指令を出力する。以上に述べたステップS28〜S31の処理は、図9に示した判定部40の機能に対応する。
このように、実施の形態4による磁気装置の温度保護装置によれば、磁気装置に直流電圧を印加したときの直流電流を用いて磁気装置の抵抗成分を直接的に演算する構成としたことにより、上記の実施の形態1で示した磁気装置のインピーダンスを演算する構成と比較して、電圧検出部および電流検出部の構成を簡素化できる。また、演算部では、処理負荷が軽減されるとともに、磁気装置の抵抗成分をより正確に求めることができる。
なお、コイルに一般的に用いられる銅やアルミニウムなどの電気導体は、電気抵抗率と温度との関係を、広い温度範囲にわたって線形近似することができる。そのため、例えば車載用の電力装置のように、想定される温度範囲が広い場合であっても、正確に磁気装置の温度を推定することができる。
ここで、本実施の形態4によれば、温度保護装置が磁気装置の抵抗成分を取得するために電力装置を一定時間停止させる必要がある。そのため、一定時間停止させても動作に支障が生じないような電力装置に対して、本実施の形態4による温度保護装置を適用することが可能である。例えば、充電器のように、一時的に動作を停止させてもユーザに違和感を与えず、かつ充電動作に支障のないものであれば、本実施の形態4は有効である。
特に、大出力の電力装置においては、搭載される磁気装置は比較的大型であり、熱容量も大きい。このような磁気装置は、放熱樹脂でポッティングすることで熱容量がさらに大きくなるため、磁気装置の温度を測定する時間間隔を比較的大きく取ることができる。例えば、5分ごとに1秒間の測定時間を設けた場合であっても、8時間充電した際に充電器が停止される時間はたかだか1.5分程度であり、充電量に大きな問題が生じない。なお、このような充電器の一例としては、車両外部からの充電が可能な電動車両に搭載される充電器が挙げられる。充電動作中に磁気装置の温度を検出するための一時的に充電器を停止させても、車両のユーザには違和感を与えることがない。
これに対して、実施の形態4による温度保護装置を、車両の駆動システムに搭載される電力装置に適用する場合には、磁気装置の温度を測定するタイミングを車両の停止中もしくは減速中に限定することで、車両のユーザの違和感を抑えることができる。なお、電動車両は、通常、減速時には電力装置を用いて走行用モータの回生動作を行なうように構成されるため、磁気装置の温度測定のために回生動作を一時停止させることになる。しかしながら、磁気装置の小型化・軽量化および高効率化という大きなメリットがある。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。