[実施形態1]
図1に示す水蒸気蒸留装置1で用いる原液は、水と混じり合わない揮発性成分を含む懸濁液、乳濁液又はコロイド溶液である。水と混じり合わない揮発性成分としては、例えば、精油が挙げられる。このため、水蒸気蒸留装置1では、例えば、精油を含む原料に加水して当該原料を破砕等して調製した原料懸濁液を、原液として用いることができる。
原液から精油を得る場合に、当該原液の原料は、生物が産生する物質、及び、当該物質を加工して得られた食糧、食品等の天然物由来の素材のうちで精油を含むものである。天然物由来の素材のうちで精油を含むものとしては、従来から精油の原料とされてきた農作物等の植物体や、天然香料基原物質リスト(平成22年10月20日 消食表第377号 消費者庁次長通知「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」別添2)に例示された素材のうちで精油を含むものが挙げられる。その他にも、有用な精油を含む天然物由来の素材は、原液の原料となり得る。原液の原料が含水率の高い素材である場合、例えば、原料が果汁である場合には、原料に加水をしたり原料を破砕したりしなくとも、そのまま原液として扱うことができる。
以下、図1により、水蒸気蒸留装置1の構成を説明する。蒸留室2は、密閉された器体であり、筒5を内蔵する。また、蒸留室2の器体は、筒状の側壁3と、側壁3の上面開口部を塞ぐ天井部11と、側壁3の下面開口部を塞ぐ底部8から構成される。
蒸留室2の側壁3は、外壁面10と、内壁面4を有する。内壁面4は、内壁面部分22と、内壁面上部21と、内壁面下端部26を含む。内壁面部分22は、内壁面4のうちで、筒5を囲み筒5の外周面6と対向する部分である。内壁面上部21は、内壁面4のうちで、内壁面部分22より上の部分と、内壁面部分22の上端部を合わせた部分である。内壁面下端部26は、内壁面4のうちで、内壁面部分22より下の部分である。
蒸留室2の天井部11の中央では、回転軸15が天井部11を貫通する。貫通箇所には、軸封部材としてメカニカルシール14が設けられる。
蒸留室2の底部8は、内底面9と外底面12を有し、原液導出管57と連結する。底部8は、原液が内底面9上を流れて原液導出管57の開口58に至るように、傾斜している。底部8の中央には、回転軸15の軸受部75が設けられる。軸受部75には、軸封部材としてメカニカルシール76が設けられる。
筒5は、縦型であり、上部気体遮断部材19及び下部気体遮断部材20を介して回転軸15に取り付けられている。回転軸15は、その下端部で軸受部75に支えられ、その上端部が天井部11を貫通することで蒸留室2に固定されており、その上端部は蒸留室2外でモーター13と連結している。モーター13が駆動すると、回転軸15が回転するため、筒5が軸心周りに回転する。図2は、図1のA−A線で切断した、蒸留室2の断面図である。図2に示すように、筒5の外周面6と内壁面部分22の間隙63は、環状断面の筒状の空間となる。
図1に示すように、上部気体遮断部材19は、筒5の上面開口部を塞ぐ、上向きの円錐面状の部材である。原液導入管17は、蒸留室2の天井部11を貫通する配管であり、蒸留室2外の部分に逆流防止のバルブ98が設けられる。原液導入管17の開口18は、蒸留室2内で上部気体遮断部材19の付近に設けられ、その直下が上部気体遮断部材19上になるように配される。原液導入管17と上部気体遮断部材19を組み合わせた構成は、原液を蒸留室2外から蒸留室2内へ導入して内壁面上部21に供給する、原液供給手段101として機能する。
図1及び図2に示すように、ワイパー80は、筒5の外周面6に複数個が設けられ、筒5の回転時に筒5の重心がぶれないように、重量配分に偏りがないように設けられる。また、個々のワイパー80は、筒5の外周面6の上縁から下縁にかけて、概ね筒5の軸方向に向けて並べて設けられる。ワイパー80は、内壁面部分22に触れるブレード81と、ブレード81を支えワイパー80を筒5の外周面6に固定するブレード支持部82を含む。この構成により、ワイパー80のブレード81が、筒5の回転に伴い内壁面部分22を周方向に相対移動する。
ワイパー80のブレード81は、例えば、フッ素樹脂からなる可撓性部材であり、内壁面部分22に触れると撓む。ブレード81は、ブレード支持部82から取り外し交換することができる。ブレード支持部82は、ブレード81を支える金具又は弾性部材である。
ブレード支持部82は、ブレード81が内壁面部分22を周方向に相対移動すると、内壁面部分22を流下する原液がかき上げられるような配置で設けられる。このような配置で設けるために、ブレード支持部82が、筒5の外周面6のうちで下側、上側、及び、その中間に固定される位置の関係が重要となる。具体的には、外周面6の中間に固定されるブレード支持部82の位置に対して、外周面6の下側に固定されるブレード支持部82は、筒5が回転で進む向きの側に少しずらした位置に固定される。また、外周面6の中間に固定されるブレード支持部82の位置に対して、外周面6の上側に固定されるブレード支持部82は、筒5が回転で進む向きとは逆側に少しずらした位置に固定される。
図1に示すように、原液導出管57は、その一の端部が蒸留室2の底部8を貫通して内底面9上に開口58を有し、その蒸留室2外の部分に逆流防止のバルブ60と送液ポンプ59が設けられた配管である。この構成により、原液導出管57は、内壁面部分22を流下し内壁面部分22を通過した原液を蒸留室2外に導出する、原液導出手段108として機能する。
図3は、図1のB−B線で切断した、原液溜容器7の断面図である。図1及び図3に示すように、原液溜容器7は、内壁面下端部26から内側に張り出した環状の容器底板25と、容器底板25の内縁に立設した容器側板24とを有する。原液溜容器7は、容器側板24に対向する内壁部分23と、容器側板24と、容器底板25とで形成される環状の凹部を有する形状である。この構成により、原液溜容器7は、原液を溜めることができる。
図1に示すように、原液溜容器7には、原液還流管77が連結している。通常は、原液還流管77に設けられたバルブ(78,97)が閉じられているため、原液溜容器7に溜められた原液201は、原液還流管77内に流れない。この場合に、原液溜容器7に原液が流入し続けると、溜められた原液201が、原液溜容器7から溢れ出る。よって、原液溜容器7は、内壁面部分22を通過し原液導出手段108に至る原液を一時的に溜める、原液溜部107として機能する。
原液溜容器7の内容積(原液溜容器7に溜められた原液201の体積)は、容器底板25の内のりの底面積と、容器側板24の内のりの高さにより定まる。原液溜容器7の内容積は、溜められた原液201に残された精油や水が効率よく気化するように、原液や原液の原料に応じて適宜設計される。
加熱ジャケット99は、蒸留室2の外壁面10及び外底面12を囲み密接し、その内部を加熱媒体が上昇するように構成されている。また、加熱ジャケット99は、ジャケット下端部83と、ジャケット中間部84と、ジャケット上端部85を含む。ジャケット下端部83は、加熱ジャケット99のうちで、外底面12を囲み密接する部分である。ジャケット中間部84は、加熱ジャケット99のうちで、外壁面10を囲み密接する部分であり、その内部には外壁面10に沿って不図示の螺旋状の仕切りが設けられる。ジャケット上端部85は、加熱ジャケット99において、蒸留室2を側方から見て内壁面部分22と重なる領域部分より上の部分である。
蒸気ボイラー94は、水を加熱して、加熱媒体としての水蒸気を生じさせる。加熱媒体導入管95は、加熱媒体としての水蒸気を、蒸気ボイラー94からジャケット下端部83内へ送る配管である。加熱媒体導出管96は、ジャケット下端部83内からジャケット上端部85内へ上昇した後の加熱媒体を、加熱ジャケット99外に導出する配管である。
蒸気ボイラー92は、水を加熱して、キャリヤガスとしての水蒸気を生じさせる。図1及び図3に示すように、水蒸気導入管72は、その一の端部が蒸留室2外で蒸気ボイラー92と連結し、その中間部が蒸留室2の底部8を貫通し、他の端部が蒸留室2内で連結部73を介して水蒸気放出部74と連結する配管である。さらに、水蒸気導入管72は、蒸留室2外にある部分に逆流防止のバルブ93が設けられ、原液溜容器7の内側に設けられた連結部73に至る配管である。
水蒸気放出部74は、連結部73を介して水蒸気導入管72の他の端部と連結し、原液溜容器7に溜められた原液201内に配された環状の配管である。また、水蒸気放出部74には、溜められた原液201内の全体に水蒸気を放出することができるように、配管に水蒸気を放出するための不図示の開口が多数設けられる。上述の蒸気ボイラー92、水蒸気導入管72、連結部73及び水蒸気放出部74を組み合わせた構成は、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201内に水蒸気を放出することで、蒸留室2外から蒸留室2内へ水蒸気を供給する、水蒸気供給手段117として機能する。
図1に示すように、下部気体遮断部材20は、筒5の下面開口部を塞ぐ、下向きの円錐面状の部材である。上部気体遮断部材19と下部気体遮断部材20の各々が、筒5の中空部50を蒸気が通過しないように中空部50を塞ぐ、気体遮断部材109として機能する。
蒸気導出管29は、蒸留室2内の蒸気を、蒸留室2の天井部11に設けられた開口28から導出する配管である。凝縮器27は、蒸留室2外に導出された蒸気が流入する凝縮管33と、凝縮管33内に流入した蒸気を冷却して凝縮させる第一の冷却ジャケット30と、凝縮して生じた留出液を冷却する第二の冷却ジャケット31を含む。不図示の冷却水循環装置により、第一の冷却ジャケット30と第二の冷却ジャケット31に設けられた冷却水導入口(34,35)から冷却水導出口(36,37)へ冷水が流れることで、前述の冷却作用が発揮される。留出液流下管38は、凝縮管33内で生じた留出液を、凝縮器27外へ導出する配管である。蒸気導出管29、凝縮器27、及び、留出液流下管38等を組み合わせた構成は、蒸留室2内から蒸気を導出して凝縮する、凝縮手段105として機能する。
貯留槽40は、その天井部で留出液流下管38と連結し、その内部に留出液を溜める水槽である。貯留槽40は、その側壁の上部、その側壁の下部、及び、その底部に、貯留槽40に溜められた留出液202等を装置外へ導出する留出液導出管(42,44,46)が設けられる。留出液導出管(42,44,46)には、逆流防止のバルブ(43,45,47)が設けられ、必要に応じて送液ポンプ48も設けられる。
吸気管55は、真空ポンプ54と貯留槽40の天井部を連結し、その中間部に逆流防止のバルブ56が設けられた配管である。真空ポンプ54と吸気管55を組み合わせた構成は、蒸留室2内を減圧する、減圧手段115として機能する。
原液予備加熱管66は、その一の端部に原液を投入する開口64が設けられ、その中間部に送液ポンプ67が設けられ、他の端部で原液導入管17の蒸留室2外の部分と連結する配管である。加熱媒体冷却管68は、その一の端部で加熱媒体導出管96と連結し、他の端部に加熱媒体を排出する開口69が設けられた配管である。原液冷却管70は、その一の端部で原液導出管57の蒸留室2外の部分と連結し、他の端部に原液を排出する開口71が設けられた配管である。熱交換器65は、原液予備加熱管66の中間部と、加熱媒体冷却管68の中間部と、原液冷却管70の中間部とが、各々密接して並ぶように束ねる部材である。
原液予備加熱管66、加熱媒体冷却管68、原液冷却管70、及び、熱交換器65を組み合わせた構成は、蒸留室2内に導入前の原液と蒸留室2外に導出後の原液とを熱交換させ、蒸留室2内の導入前の原液と加熱ジャケット99外に導出後の加熱媒体とを熱交換させる、熱回収手段111として機能する。
原液還流管77は、原液溜容器7に溜められた原液201を抜き取り、抜き取られた原液を原液供給管17内へ送る配管である。また、原液還流管77には、逆流防止のバルブ(78,97)と、送液ポンプ79が設けられる。よって、バルブ(78,97)が開かれた場合に、原液還流管77と原液供給手段101を組み合わせた構成は、原液溜容器7に溜められた原液201を抜き取り、抜き取られた原液を原液供給手段101により内壁面上部21に再供給する、原液還流手段113として機能する。
以下、原液から精油を得るために、水蒸気蒸留装置1を用いて水蒸気蒸留を行なうと、原液、加熱媒体、水蒸気や精油の蒸気、留出液がどのように流れるか、図1を参照しながら説明する。
原液は、その調製後に開口64に投入されると、熱回収手段111の原液予備加熱管66内を流下して、熱交換器65内を通過する。熱交換器65内を通過する際に、原液予備加熱管66内を流下する原液は、加熱媒体冷却管68内を上向きに流れて装置外に排出される前の加熱媒体、及び、原液冷却管70内を上向きに流れて装置外に排出される前の原液と、熱交換をして、予備的に加熱される。
熱交換器65内を通過した原液は、ポンプ67により原液供給手段101の原液導入管17内に送液される。原液導入管17内に送液された原液は、開口18から上部気体遮断部材19上へ滴下することで、蒸留室2外から蒸留室2内へ導入される。上部気体遮断部材19上に滴下した原液は、上部気体遮断部材19が上向きの円錐面状であり筒5と共に回転するため、筒5の回転軸15の周囲を周方向に移動しながら上部気体遮断部材19上を流下する。上部気体遮断部材19上を流下した原液は、筒5の上縁から遠心力により飛散して、内壁面上部21の周方向に沿って供給される。
内壁面上部21に供給された原液は、内壁面部分22を流下する。内壁面部分22を流下する原液は、筒5の回転により生じる風圧で内壁面部分22に押し付けられて薄膜状となり、更にワイパー80により内壁面部分22に塗り広げられて、より薄く均一な薄膜状となる。あるいは、内壁面部分22を流下する原液は、ワイパー80にかきあげられる。このため、内壁面部分22を流下する原液は、薄膜状となり、内壁面部分22を流下してはワイパー80にかきあげられることを繰り返す。
流下してはかきあげられることを繰り返す間に、内壁面部分22を流下する原液は、加熱ジャケット99内を上昇する加熱媒体と熱交換をするため、加熱されて昇温する。昇温により、内壁面部分22を流下する原液は、その液面から水や精油が蒸発する。この際に、液面には水蒸気圧の高い蒸気が接するため、精油の方が水よりも効率よく液面から蒸発すると考えられる。したがって、内壁面部分22を流下する原液は、流下中に、当該原液に含まれる精油の量が徐々に少なくなる。
内壁面部分22を流下して内壁面部分22を通過した原液は、内壁面下端部26を流下し、内壁面下端部26に設けられた原液溜容器7内に流入する。原液溜容器7の形状と配置により、内壁面部分22を通過した全ての原液が、原液溜容器7内に流入する。原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201は、加熱ジャケット99内を上昇する水蒸気と熱交換をするため、加熱されて昇温する。これにより、溜められた原液201に残された水と精油が、気化する。よって、溜められた原液201から、水蒸気と精油の混合蒸気が生じる。また、溜められた原液201に残された水と精油の量が減少する。
原液溜部107(原液溜容器7)には、内壁面部分22を通過した原液が、次々と流入する。このため、原液還流管77のバルブ(78,97)が閉じられている場合に、溜められた原液201は、その体積が原液溜部107(原液溜容器7)の内容積を超えたときに、超過した分量が原液溜部107(原液溜容器7)から溢れ出る。このため、内壁面部分22を通過した原液は、原液溜部107(原液溜容器7)に一時的に溜められた後に、原液導出手段108に至ることとなる。また、溜められた原液201に残された水と精油が気化した後であるため、残された精油の量が更に大幅に減少した原液が、順次、原液導出手段108に至ることとなる。
原液溜容器7から溢れ出た原液は、内底面9上を流れて原液導出手段108に至る過程で、ジャケット下端部83内に導入直後の加熱媒体と熱交換をして加熱されるため、当該原液に残された水が気化する。この際に、原液に精油が残されていれば、当該精油も気化する。内底面9上を流れて原液導出手段108の開口58に至った原液は、開口58から原液導出管57内へ流下して蒸留室2外に導出される。
蒸留室2外に導出後の原液は、ポンプ59により原液導出管57内から熱回収手段111の原液冷却管70内へ送液されて、熱交換器65内を上向きに送液される過程で、原液予備加熱管66内を流下する原液と熱交換をして冷却される。冷却後の原液は、原液冷却管70の開口71から排出される。
蒸気ボイラー94で水を加熱すると、加熱媒体としての水蒸気が生じる。生じた水蒸気は、加熱媒体導入管95を介して、ジャケット下端部83内に導入される。ジャケット下端部83内に導入された水蒸気は、内底面9上を流れる原液と熱交換をして冷却される。このため、ジャケット下端部83内で、水蒸気の一部分が凝縮して、熱水の微小な水滴となる。これにより生じた、水蒸気と熱水の混合流体も、加熱媒体として作用する。ジャケット下端部83内の混合流体は、内底面9上を流れる原液と熱交換をして冷却されつつ、混合流体に含まれる水蒸気の浮力によりジャケット下端部83内を上昇して、ジャケット中間部84内に達する。
ジャケット中間部84内に達した直後の混合流体は、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201と熱交換をして、当該原液を加熱する。よって、加熱ジャケット99において、蒸留室2を側方から見て原液溜部107(原液溜容器7)と重なる領域部分は、専ら原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201を加熱する、第二の加熱手段104として機能する。また、溜められた原液201との熱交換により、ジャケット中間部84内に達した直後の混合流体が冷却されて、混合流体に含まれる水蒸気の占める割合が減り、熱水の占める割合が増す。さらに、混合流体は、ジャケット中間部84内に設けられた不図示の仕切りに沿って、外壁面10の周りを螺旋状に上昇する。
外壁面10の周りを螺旋状に上昇する混合流体は、上昇の過程で、内壁面下端部26を流下する原液、内壁面部分22を流下する原液、内壁面上部21に供給された直後の原液の順で熱交換をする。よって、加熱ジャケット99において、蒸留室2を側方から見て内壁面部分22と重なる領域部分は、専ら内壁面部分22を流下する原液を加熱する第一の加熱手段103として機能する。また、蒸留室2の周りを螺旋状に上昇する混合流体は、熱交換をする度に冷却されるため、その温度は上昇するほど低温になり、混合流体に含まれる水蒸気の占める割合が減り、熱水の占める割合が増す。
内壁面上部21に供給された直後の原液との熱交換を済ませた混合流体は、ジャケット上端部85内に達する。ジャケット上端部85内に達した混合流体は、その大半を熱水が占めるようになっており、加熱媒体導出管96により加熱ジャケット99外に導出される。
上述のように、加熱媒体としての水蒸気や混合流体は、熱交換により冷却されながら加熱ジャケット99内を上昇するため、蒸留室2内の原液は、流下するほど更に高温の加熱媒体により加熱されることとなる。より具体的には、内底面9上を流れる原液と、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201が、最も高温の加熱媒体により加熱される。次いで、内壁面下端部26を流下する原液、内壁面部分22を流下する原液、内壁面上部21に供給された直後の原液の順に、加熱媒体の温度が低温となる。よって、第二の加熱手段104により、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201の温度が内壁面部分22を流下する原液の温度よりも高温となるように、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201が加熱される。
加熱ジャケット99外に導出された混合流体は、加熱媒体導出管96内を経て、熱回収手段111の加熱媒体冷却管68内を流れる。加熱媒体冷却管68内の混合流体は、熱交換器65内を上向きに流れる際に、原液予備加熱管66内を流下する原液と熱交換をする。熱交換器65内での熱交換により、加熱媒体としての混合流体が冷却されて、混合流体に含まれる水蒸気のほぼ全てが凝縮する。このため、混合流体は、熱水又は温水となる。熱水又は温水は、加熱媒体冷却管68の開口69から排出される。
水蒸気供給手段117の蒸気ボイラー92で水を加熱すると、キャリヤガスとしての水蒸気が生じる。生じた水蒸気は、水蒸気導入管72を通って、図1及び図3に示す水蒸気放出部74内へ流れる。水蒸気放出部74内の水蒸気は、水蒸気放出部74の配管に設けられた複数の開口から、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201内の全体へ放出される。このため、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201内の全体で、水蒸気の気泡が噴出する。よって、水蒸気供給手段117により、水蒸気が供給される。蒸留室2内に供給後の水蒸気は、精油の蒸気を運ぶキャリヤガスとして作用することとなる。
水蒸気等が蒸留室2内でどのように流れ、作用をするかを説明する前提として、一旦、薄膜蒸発や水蒸気蒸留について説明する。薄膜蒸発や水蒸気蒸留を行なうと、原液を100℃より高温に加熱しなくとも、原液から精油を得ることができる。精油は、その標準沸点が100℃を超えるものが多く、また、100℃より高温で加熱すると熱変性するおそれがあるため、薄膜蒸発や水蒸気蒸留は、熱変性させることなく精油を得るうえで適した方法である。
薄膜蒸発は、薄膜状にした原液を加熱して、その液面から精油を蒸発させる方法である。薄膜蒸発を行なうと、液面の面積が増すため、液面からの単位時間あたりの精油の蒸発量を増やすことができる。しかし、原液に含まれる精油の量が少なくなった場合には、液面に露出する精油の量も少なくなるため、液面からの単位時間あたりの精油の蒸発量は減少すると考えられる。
水蒸気蒸留は、沸点の高い物質の沸点を下げて蒸留する方法であり、目的物質が水と溶け合わないときに適用される。精油は、水と溶け合わないため、水蒸気蒸留の目的物質とすることができる。原液では水と精油が混合されており、水と精油は、各々が単独で存在するときと同じ蒸気圧を示す。このため、水蒸気と精油の蒸気圧の和が蒸留室の内圧と等しくなる温度で、原液が沸騰する。したがって、例えば、内圧が1気圧である場合には、蒸留室2内の原液は、必ず100℃よりも低温で沸騰する。
水蒸気蒸留の観点では、原液が沸騰するか否かは、水蒸気と精油の蒸気圧の和に依存しており、原液に含まれる精油の量と無関係である。つまり、原液に含まれる精油の量が少ない場合でも、水蒸気と精油の蒸気圧の和が内圧に等しい混合蒸気が当該原液に接すると、当該原液が低温で沸騰して精油が効率よく気化すると考えられる。また、原液が沸騰すると、原液に含まれる水と精油が、液面を含めた原液の全体から気化する。このため、薄膜蒸発のみを行なう場合よりも、水蒸気蒸留により原液を沸騰させつつ薄膜蒸発を行なう場合の方が、原液から精油が効率よく気化すると考えられる。
蒸留室内の水蒸気圧は、蒸留室内にキャリヤガスとして水蒸気を供給等すると、容易に飽和水蒸気圧まで高まる。一方、原液に含まれる精油の量は少なく、原液から生じた精油の蒸気はキャリヤガスとしての水蒸気に押し流されるため、蒸留室内の精油の蒸気圧は高まりにくいと考えられる。水蒸気蒸留の観点から、原液をなるべく低温で沸騰させるには、蒸留室内で、水蒸気圧を飽和水蒸気圧まで高めるだけでなく、精油の蒸気圧も積極的に高める機会を設けて、水蒸気と精油の蒸気圧の和を高めることが重要であると考えられる。
以下、図1により、蒸留室2内で、水蒸気等が、どのように流れ、作用するかを説明する。水蒸気供給手段117により、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201内で水蒸気の気泡が噴出すると、当該気泡の表面は気液接触面として作用する。このため、気泡が噴出すると、溜められた原液201と気泡内の水蒸気との気液接触面積が拡張された状態となる。水蒸気は、溜められた原液201と気液接触面で熱交換をするため、当該原液は効率よく加熱される。さらに、噴出直後の水蒸気は、精油の蒸気を含まないため、溜められた原液201に残された精油は、気泡の表面で蒸発しやすい。これにより、気泡内で精油の蒸気量が増えるため、水蒸気と精油の蒸気圧の和が高い混合蒸気が気泡内に生じる。よって、水蒸気蒸留の観点から、溜められた原液201が低温で沸騰しやすくなり、当該原液に残された水と精油が、効率よく気化すると考えられる。
気泡内で生じた混合蒸気は、その浮力により、溜められた原液201内から当該原液よりも上方へ上昇する。混合蒸気は、気体遮断部材109により筒5の中空部50が塞がれているため、中空部50を上向きに通過することができず、筒5の外周面6と内壁面部分22の間隙63に誘導される。よって、混合蒸気が中空部50を通って蒸留室2内を上昇する事態は、避けられる。
混合蒸気は、気体遮断部材109の下部気体遮断部材20の下面に沿って上昇し、間隙63を上昇するように誘導される。間隙63に誘導される直前の混合蒸気は、溜められた原液201の気泡内で生じた混合蒸気や、当該原液の本来の液面から蒸発して生じた混合蒸気や、内底面9上を流れる原液から気化して生じた水蒸気等が、合流した状態となる。これにより、水蒸気と精油の蒸気量が増すため、間隙63を上昇する混合蒸気は、間隙63に誘導前に予め水蒸気と精油の蒸気圧の和が高められた状態となっている。
間隙63を上昇する混合蒸気は、筒5の回転により生じた風圧により流速を増した状態で、内壁面部分22を流下する薄膜状の原液と向流接触をする。このため、内壁面部分22を流下する原液の液面から蒸発して生じた水蒸気と精油の混合蒸気が、液面から上向きに押し流される。これにより、液面で水蒸気と精油の蒸気圧が低下する。さらに、間隙63を上昇する混合蒸気と、内壁面部分22を流下する薄膜状の原液とが、液面で熱交換をして、当該原液が加熱される。よって、内壁面部分22を流下する薄膜状の原液は、加熱ジャケット99内を上昇する加熱媒体と、間隙63を上昇する混合蒸気の両方と熱交換をして加熱されることとなる。したがって、液面で、原液から水と精油が続けて蒸発しやすくなる。
また、間隙63を上昇する混合蒸気は、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和を高められている。このため、内壁面部分22の下端部を流下する原液は、混合蒸気と向流接触をすると、水蒸気蒸留の観点から、低温で沸騰しやすくなると考えられる。これにより、内壁面部分22の下端部を流下する原液から、効率よく水蒸気と精油の混合蒸気が生じ、生じた混合蒸気は間隙63を上昇する混合蒸気に合流する。このように、間隙63を上昇する混合蒸気は、上昇するほど精油の蒸気圧が高まるため、上昇するほど水蒸気と精油の蒸気圧の和が高まると考えられる。
よって、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22を流下する原液は、内壁面部分22の上端部から下端部にかけての全体で、低温で沸騰しやすくなると考えられる。さらに、内壁面部分22の上端部に近い範囲を流下する原液ほど、水蒸気と精油の蒸気圧の和が高い混合蒸気と接し得るため、より低温で沸騰し得ると考えられる。内壁面部分22の上端部を流下する原液が沸騰すると、当該上端部を上昇する混合蒸気に含まれる精油が、凝縮しにくくなる。このため、間隙63を上向きに通過した後の混合蒸気は、精油の蒸気量が多い状態に維持される。
間隙63を上向きに通過した後の混合蒸気は、蒸留室2内から凝縮手段105の開口28と蒸気導出管29を介して凝縮管33内へ導出される。凝縮管33内へ導出された混合蒸気は、第一の冷却ジャケット30内を流れる冷却水と熱交換をして冷却され、凝縮して留出液となる。留出液は、凝縮管33内を流下する際に、第二の冷却ジャケット31内を流れる冷却水と熱交換をして、更に冷却される。更に冷却された留出液は、凝縮管33内から留出液流下管38を介して分離回収手段119の貯留槽40内へ流下し、当該貯留槽40内に溜められる。
貯留槽40に溜められた留出液202は、その大部分が芳香蒸留水204である。芳香蒸留水204は、水蒸気蒸留により原液から精油を得る際に得られる、副産物の水溶液である。溜められた留出液202に含まれる液体状の精油203は、水と混じりあわないため、その比重が水より軽い場合には、芳香蒸留水204の上層に浮遊して芳香蒸留水204と分離する。例外的に、クローブオイル等の比重が水より重い精油は、芳香蒸留水204の下層に沈んで芳香蒸留水204と分離する。
貯留槽40に溜められた留出液202は、バルブ(43,45,47)のうちの1箇所又は複数箇所を開くと、留出液導出管(42,44,46)を介して、装置外に導出される。これにより、溜められた留出液202を回収することができる。また、溜められた留出液202に含まれる液体状の精油203や芳香蒸留水204の水位によっては、例えば、貯留槽40の側壁の上部に設けられた留出液導出管42からは液体状の精油203のみが回収され、貯留槽40の底部に設けられた留出液導出管46からは芳香蒸留水204のみを回収することができる場合がある。このため、貯留槽40と留出液導出管(42,44,46)等を組み合わせた構成は、貯留槽40に溜められた留出液202から液体状の精油203を分離して回収する、分離回収手段119として機能する。
なお、原液還流手段113のバルブ(78,97)が開かれている場合に、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201は、原液還流管77内に抜き取られる。抜き取られた原液は、ポンプ79により原液還流管77内から原液導入管17内へ送液されて、原液供給手段101により内壁面上部21に再供給される。
また、減圧手段115のバルブ56を開き真空ポンプ54を稼働させると、蒸留室2内の気体が吸気されるため、蒸留室2内が減圧される。減圧下で蒸留をすれば、蒸留室2の内圧の低下に応じて、更に原液の沸点が降下するため、原液から水と精油が更に気化しやすくなる。さらに、吸気により、蒸留室2内の蒸気が、蒸留室2内から凝縮管33内へ導出されやすくなる。
以下、一旦、特許文献1に記載の装置の問題点を指摘したうえで、水蒸気蒸留装置1の効果を説明する。特許文献1に記載の装置で水蒸気蒸留を行うと、内壁面部分を流下し内壁面部分を通過した原液には、流下中に気化しきれなかった精油が少なからず残されている。この原液がそのまま導出されてしまうため、特許文献1に記載の装置では、原液からの精油の回収効率が低いものとなっている。
特許文献1に記載の装置では、次の理由により、原液からの精油の回収効率を高めるのは難しいと考えられる。まず、特許文献1に記載の装置では、原液が内壁面部分を流下中以外に加熱されないため、原液から精油を気化させる機会が充分でないと考えられる。また、内壁面部分の面積は限られているため、内壁面部分を流下中だけでは、原液が加熱される時間を充分に長く設けることはできないと考えられる。
さらに、精油は、元々、原料の植物細胞内に蓄えられている物質である。精油を得る目的で水蒸気蒸留を行なう際に、原液は、原料をグラインダーで破砕等して調製される。このため、原液には、壊されていない植物細胞等が残されている。よって、原液に含まれる精油の一部分は、原液に残された植物細胞内に蓄えられたままの状態にある。植物細胞内にある精油を気化させるには、その前提として、原液を充分に加熱して細胞壁を壊し、植物細胞内から精油を漏出させる必要がある。しかし、特許文献1に記載の装置では、原液が加熱される時間を充分に長く設けることができないため、細胞壁を壊すことができる程度に原液を充分に加熱することができない。よって、特許文献1に記載の装置では、植物細胞内に残された精油を得るのは難しいと考えられる。
さらに、特許文献1に記載の装置では、水蒸気供給手段により蒸留室内に供給された直後の水蒸気が、そのまま筒の外周面と内壁面部分の間隙を上昇し始める。間隙を上昇し始めた蒸気が、初めて向流接触をするのは、内壁面部分の下端部を流下する原液である。初めて向流接触をする時点で、間隙を上昇し始めた蒸気は、水蒸気圧のみは高いが、精油の蒸気をほとんど含まないため精油の蒸気圧は極めて低い。このため、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分の下端部を流下する原液は、低温では沸騰しにくい。
特許文献1に記載の装置で、間隙を上昇する蒸気は、向流接触により液面から精油が蒸発するため、水蒸気と精油の混合蒸気となり、上昇するほど徐々に精油の蒸気量が増えて精油の蒸気圧が高まると考えられる。混合蒸気が、間隙をある程度上昇して、水蒸気と精油の蒸気圧の和が蒸留室の内圧と等しくなった所で、水蒸気蒸留の観点から、当該混合蒸気に接する原液が沸騰すると考えられる。よって、原液が低温で沸騰しやすくなるのは、内壁面部分の上端部や中間部を流下中に限られると考えられる。
さらに、特許文献1に記載の装置では、内壁面部分の下端部を流下する原液は、内壁面部分を流下中に精油が気化したため、当該原液に含まれる精油の量が少なくなっている。このため、内壁面部分の下端部を流下する原液では、その液面からの精油が蒸発する効率は高くないと考えられる。したがって、特許文献1に記載の装置では、内壁面部分を流下する原液から精油が充分に気化していないと考えられる。
上述の諸問題に対して、特許文献1に記載の装置で、蒸留室外から蒸留室内に供給する水蒸気量を大幅に増やす対策が考えられる。しかし、かかる対策をとった場合には、蒸気ボイラーにより水を加熱してキャリヤガスとしての水蒸気を生じさせる燃料コストが、大幅に高くなる。このため、かかる対策は、採算の面から実用的ではない。
また、上述の諸問題に対して、特許文献1に記載の装置で、同じ原液を繰り返し蒸留する対策が考えられる。しかし、かかる対策をとった場合には、蒸留を繰り返すために水蒸気の供給量を増やす必要があり、水蒸気を生じさせる燃料コストが大幅に高くなる。また、蒸留を繰り返す回数が増すほど、原液に含まれる精油の量が少なくなるため、精油の回収効率が低くなる。さらに、同じ原液を繰り返し蒸留している間は、新たな原液の投入が制限されるため、装置に大量の原液を連続的に投入して蒸留するのが難しくなる。このため、かかる対策も実用的ではない。
また、上述の諸問題に対して、特許文献1に記載の装置で、蒸留室の側壁と筒の高さを延ばして、内壁面部分の面積を拡張する対策が考えられる。しかし、特許文献1に記載の装置は、原液に含まれる精油の量が少なくなると、精油の回収効率が低くなる。このため、精油の回収効率が明らかに更に高くなるように内壁面部分の面積を拡張しようとすると、側壁と筒を極端に大型化する必要がある。側壁を極端に大型化すると、装置の取り扱いが難しくなる。また、筒を大型化すると、筒の回転に要するエネルギーコストが大幅に増す。このため、かかる対策も、採算の面から実用的ではない。
上述の諸問題の解決手段として、水蒸気蒸留装置1では、内壁面部分22を流下して内壁面部分22を通過した原液を、原液溜部107に一時的に溜めて、溜められた原液201を第二の加熱手段104により加熱する。これにより、水蒸気蒸留装置1では、特許文献1に記載の装置でそのまま導出されてしまう原液から、更に精油が気化する。また、水蒸気蒸留装置1では、特許文献1に記載の装置と比べて、原液が加熱される時間の長さが大幅に増しているため、細胞壁を壊すことができるように原液を充分に加熱することができると考えられる。これにより、植物細胞内に蓄えられていた精油が、気化すると考えられる。
さらに、水蒸気蒸留装置1によれば、第二の加熱手段104により加熱された原液から、水蒸気と精油の混合蒸気が生じる。混合蒸気は、間隙63を上昇して、内壁面部分22を流下する薄膜状の原液と向流接触をする。つまり、向流接触をする蒸気は、初めて向流接触をするときに、既に混合蒸気となっており、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和が高められた状態にある。このため、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22の下端部を流下する原液をも含めて、内壁面部分22を流下する原液の全体が、低温で沸騰しやすくなると考えられる。よって、水蒸気蒸留装置1では、特許文献1に記載の装置と比べて、内壁面部分22を流下する原液から、精油が効率よく気化すると考えられる。
さらに、水蒸気蒸留装置1では、原液の含水率が高い場合には、溜められた原液201から大量の水蒸気が生じる。この場合には、水蒸気供給手段117により蒸留室2外から蒸留室2内へ水蒸気を供給しなくとも、溜められた原液201から生じた水蒸気がキャリヤガスとして作用するため、水蒸気蒸留を行なうことができる。また、溜められた原液201は、内壁面部分22を流下中に加熱された後の原液である。このため、溜められた原液201を加熱すると、加熱量が少なくても当該原液から水蒸気が生じる。よって、特許文献1に記載の装置で、蒸気ボイラーにより水を加熱して生じさせた水蒸気を蒸留室内に供給する場合と比べると、水蒸気蒸留装置1では、水蒸気を生じさせる燃料コストを抑えることができる。
また、特許文献1に記載の装置で、蒸留室外に導出後の原液を加熱して水蒸気を生じさせて、当該水蒸気を当該蒸留室内に供給する場合と比べると、水蒸気蒸留装置1は、溜められた原液201が蒸留室2内で加熱されるため、熱損失が少なく燃料コストを抑えることができると考えられる。
また、水蒸気蒸留装置1は、特許文献1に記載の装置と比べて、側壁3の極端な大型化を伴わないため、装置の取り扱いが難しくなる問題は生じない。さらに、水蒸気蒸留装置1は、特許文献1に記載の装置と比べて、筒5の大型化を伴わないため、筒5の回転に要するエネルギーコストが大幅に増す問題も生じない。
また、水蒸気蒸留装置1では、溜められた原液201のうちで原液溜部107(原液溜容器7)の内容積を超過した分量は、原液溜部107(原液溜容器7)から流出して、原液導出手段108により蒸留室2外に導出される。このため、原液溜部107を備えても、装置に大量の原液を連続的に投入して水蒸気蒸留を行ううえで支障はない。
また、水蒸気蒸留装置1では、原液溜部107(原液溜容器7)で原液が流入しては流出し、溜められた原液201が第二の加熱手段104により加熱されるため、溜められた原液201内で対流が生じる。対流が生じると、残渣が原液溜部107(原液溜容器7)内に堆積するのを免れることができる。これにより、精油に残渣由来のイモ臭が付くのを避けることができる。また、水や精油の気化に伴い気化熱として熱が吸収されるため、溜められた原液201は、焦げ付きが生じるのを免れることができる。
したがって、水蒸気蒸留装置1を用いて水蒸気蒸留を行なうと、特許文献1に記載の装置を用いるよりも、原液から精油を効率よく得ることができる。
上述の諸問題や効果とは別に、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201には、内壁面部分22を流下する原液よりも、精油が気化しにくい問題がある。この問題は、まず、溜められた原液201に残された精油の量が、内壁面部分22を流下する原液に含まれる精油の量よりも少ないため、溜められた原液201では精油が蒸発しにくいことによる。また、溜められた原液201に接する混合蒸気は、内壁面部分22を流下する原液と向流接触をする混合蒸気と比べると、精油の蒸気量が少ないため、水蒸気と精油の蒸気圧の和が充分に高められてない場合がある。このため、水蒸気蒸留の観点から、溜められた原液201は、内壁面部分22を流下する原液と比べると、低温では沸騰しにくい場合があると考えられることによる。
上述の問題の解決手段として、水蒸気蒸留装置1は、第二の加熱手段104により、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201の温度が内壁面部分22を流下する原液の温度よりも高温となるように、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201を加熱することができる。この加熱条件により、溜められた原液201が沸騰したり、液面から精油が蒸発したりしやすくなる。また、溜められた原液201で、細胞壁が壊れる可能性が更に高まると考えられる。よって、溜められた原液201に残された精油が更に気化するため、精油の回収量を更に増やすことができる。
さらに、溜められた原液201の温度が内壁面部分22を流下する原液の温度よりも高温となるように、溜められた原液201を加熱すると、溜められた原液201から生じる水蒸気と精油の混合蒸気の量が、更に増す。これにより、向流接触をする混合蒸気は、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和を更に高められた状態になる。このため、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22を流下する原液の全体が、更に低温で沸騰しやすくなると考えられる。また、水蒸気の発生量が増すことで、水蒸気供給手段117による水蒸気の供給量を抑えることができるため、キャリヤガスとしての水蒸気を生じさせる燃料コストを抑えることができる。
上述の諸問題や効果とは別に、溜められた原液201が第二の加熱手段104により必要以上に加熱されるのを避けるべき問題がある。原液が必要以上に加熱されると、精油の香気成分が熱変性して、水蒸気蒸留により得られる精油からフレッシュ感のある香りが損なわれてしまう。また、原液が必要以上に加熱されると、原液の原料由来の成分が熱変性して、イモ臭、煮え臭等の原因となる揮発性成分を生成する。このような好ましくない揮発性成分が、水蒸気蒸留により得られる精油に混入すると、精油の品質劣化を招いてしまう。
溜められた原液201が必要以上に加熱されるのを避けるべき問題の解決手段として、水蒸気蒸留装置1では、原液溜部107として原液溜容器7を備える。原液溜容器7を備えると、原液が原液溜容器7に溜められる時間の長さは、装置に投入する原液の流量と原液溜容器7の内容積に応じて、一定の範囲内に収まる。このため、大量の原液を連続的に装置に投入して水蒸気蒸留を行なう際に、溜められた原液201が第二の加熱手段104により加熱される時間が、必要以上に長時間となるのを避けることができる。よって、原液溜容器7を備えると、原液が必要以上に加熱されるのを避けることで、熱変性により精油のフレッシュ感を損ない精油の品質劣化を招くのを免れることができる。
また、原液溜容器7を備えると、水蒸気蒸留を行なう際に、原液が原液溜部107に溜められる時間の長さを調節する操作を行なわなくとも済む。このため、水蒸気蒸留装置1は、原液溜容器7を備えることで、水蒸気蒸留を行なう際の操作が複雑になることはない。よって、水蒸気蒸留装置1では、原液溜容器7を備えることで、熱変性により精油のフレッシュ感を損ない精油の品質劣化を招くのを、容易に免れることができる。
さらに、水蒸気蒸留装置1では、水蒸気供給手段117により、原液溜部107に溜められた原液201内に水蒸気が放出される。水蒸気の気泡により、溜められた原液201と水蒸気との気液接触面積が拡張されるため、当該原液が効率よく加熱され、当該原液に残された精油が効率よく蒸発すると考えられる。さらに、水蒸気と精油の蒸気圧の和が高まることで、水蒸気蒸留の観点から、溜められた原液201が低温で沸騰しやすくなり、当該原液に残された水と精油が効率よく気化すると考えられる。
さらに、溜められた原液201内に水蒸気が放出されると、条件によっては、溜められた原液201に残された精油の全量を気化させることもできる。この場合には、残された精油の全量が気化したため精油を含まなくなった原液が、順次、原液導出手段108に至ることとなる。
さらに、溜められた原液201に水蒸気が放出されると、当該原液は、水蒸気の気泡により攪拌されて、温度や精油の分布が均一になりやすい。このため、溜められた原液201が残渣を多く含む場合でも、焦げ付きが生じにくくなる。
また、水蒸気蒸留装置1では、熱回収手段111により、蒸留室2内に導入前の原液が予備的に加熱される。予備加熱後に内壁面部分22の上端部を流下する原液は、第一の加熱手段103により加熱されると、直ちに沸騰しやすい。内壁面部分22の上端部を流下する原液が沸騰すると、混合蒸気に含まれる精油の蒸気が凝縮して原液に移行するのは、抑えられる。このため、蒸留室2内から凝縮管33内へ導出される混合蒸気は、精油の蒸気量が多い状態に維持される。これにより、原液からの精油の回収効率を高めることができる。
また、熱回収手段111により、蒸留室2内に導入前の原液が、蒸留室2外に導出後の原液や、加熱ジャケット99外に導出後の加熱媒体と、熱交換をして加熱される。これにより、原液を加熱する燃料コストを節約することができる。また熱交換手段111により、蒸留室2外に導出後の原液や、加熱ジャケット99外に導出後の加熱媒体が、冷却されてから装置外に排出される。よって、排液を冷却する手間が省かれるため、排液処理が容易となる。
また、原液供給手段101で、原液導入管17の開口18は上部気体遮断部材19の付近に設けられる。これにより、開口と上部気体遮断部材19との落差が小さいため、開口18から滴下した原液が、上部気体遮断部材19上で弾かれて飛沫となるのを避けることができる。これにより、原液の飛沫がそのまま貯留槽40に溜められた留出液202に混入するのを防ぎ、精油の品質低下を避けることができる。
また、原液供給手段101で、上部気体遮断部材19は、上向きの円錐面状であり、筒5と共に回転する。このため、上部気体遮断部材19上を流下する原液は、内壁面上部21の周方向に沿って供給される。これにより、供給後に内壁面部分22を流下する原液が、筒5の回転により生じる風圧で薄く均一な薄膜状となりやすくなるため、精油が液面で蒸発しやすくなる。
また、ワイパー80により、内壁面部分22を流下する原液が、内壁面部分22に塗り広げられる。このため、内壁面部分22を流下する原液は、その流動性が低い場合でも、薄く均一な薄膜状となる。また、内壁面部分22を流下する原液は、ワイパー80により塗り広げられる度に、攪拌されて液面を更新するため、液面で局所的に精油の量が少なくなるのを防ぐことができる。これにより、精油が液面で蒸発しやすくなる。
また、ワイパー80を数多く設けると、その数が少ない場合と比べて、内壁面部分22を流下する原液が塗り広げられる頻度が高まる。このため、筒5の回転速度が遅くても、原液が薄膜状となりやすくなる。よって、筒5の回転に要するエネルギーコストを抑えつつ、精油が液面で蒸発しやすくなる。
また、ワイパー80により、内壁面部分22を流下する原液がかき上げられると、原液が内壁面部分22を流下する時間が増す。よって、内壁面部分22を流下する原液で、精油が気化しやすくなる。ワイパー80のブレード81が劣化した場合でも、ブレード81を交換すれば、上述のワイパー80の効果が維持される。
また、加熱ジャケット99は、一個のジャケットで第一の加熱手段103と第二の加熱手段104の両方の機能を備える。このため、第一の加熱手段の加熱ジャケットと第二の加熱手段の加熱ジャケットが別個に設けられた装置と比べると、水蒸気蒸留装置1は、装置構成が単純であり、操作が簡単である。
また、ジャケット下端部83内に導入直後の加熱媒体と熱交換をすることで、内底面9上を流れる原液に残された水と精油が気化する。これにより生じた水蒸気と精油の混合蒸気は、間隙63に誘導される前に、溜められた原液201から生じた混合蒸気に合流する。よって、混合蒸気が向流接触をする前に、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和を更に高めることができる。これにより、水蒸気蒸留の観点から、原液が低温で沸騰しやすくなるため、精油が更に効率よく気化する。
また、内壁面部分22を流下する原液は、例えば、第一の加熱手段103の約90℃〜100℃の加熱媒体と熱交換をして加熱され、原液溜部107に溜められた原液201は、例えば、第二の加熱手段104の約120℃の加熱媒体と熱交換をして加熱される。第二の加熱手段104の約120℃の加熱媒体としては、例えば、過熱水蒸気や、過熱水蒸気と熱水との混合流体が挙げられる。このように、第一の加熱手段103及び第二の加熱手段104により、原液をその沸点よりも高い温度で加熱すると、溜められた原液201や内壁面部分22を流下する原液が沸騰し続けるため、精油が効率よく気化する。
なお、溜められた原液201よりも、内壁面部分22を流下する原液の方が、水蒸気と精油の蒸気圧の和が高い蒸気と接し得るため、水蒸気蒸留の観点から、より低温で沸騰し得ると考えられる。このため、例えば、第二の加熱手段104の加熱媒体の温度が、第一の加熱手段103の加熱媒体の温度より低温である場合でも、原液溜部107に溜められた原液201の温度が内壁面部分22を流下する原液の温度よりも高温で沸騰する状態が生じ得る。この状態は、第一の加熱手段103の加熱媒体の温度と、第二の加熱手段104の加熱媒体の温度が、各々の加熱媒体により加熱される原液の沸点よりも高い場合に、生じると考えられる。
また、加熱ジャケット99内を上昇する加熱媒体は、内壁面上部21に供給された直後の原液の温度、内壁面部分22を流下する原液の温度、内壁面下端部26を流下する原液の温度の順で、内壁面4を流下した原液ほど温度が高温となるように原液を加熱する。原液は、内壁面4を流下するほど低温で沸騰しにくくなり、また、精油の量が少なくなるため精油が蒸発しにくくなることを考慮すると、このように原液を加熱すると、原液から精油を気化させるうえで加熱の効率がよい。
また、加熱ジャケット99内を上昇する加熱媒体により、内壁面下端部26を流下する原液が、内壁面部分22を流下する原液よりも高温で加熱される。このため、内壁面下端部26を流下する原液から水蒸気と精油の混合蒸気が生じ、当該混合蒸気は、間隙63に誘導前の混合蒸気に合流する。これにより、混合蒸気が向流接触をする前に、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和が更に高められる。よって、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22を流下する原液が低温で沸騰しやすくなり、当該原液から精油が更に効率よく気化する。
また、下部気体遮断部材20により、混合蒸気は、筒5の中空部50に流入することなく、間隙63に誘導される。このため、蒸留室2内の蒸気の流れが円滑になり、当該蒸気の熱損失が抑えられる。これにより、水蒸気の供給量を節約することができるため、水蒸気を生じさせる燃料コストを抑えることができる。
また、原液還流手段113により、必要に応じて、同じ原液を繰り返し蒸留することができる。例えば、原料由来の細胞壁が厚く壊れにくいため、原液に残された精油の全量を得るのが難しくなる場合が想定される。そのような場合でも、同じ原液について繰り返し蒸留をすれば、原液に残された精油の全量を得ることができる。
また、真空ポンプ54を用いると、蒸留室2の内圧を下げることができる。これにより、原液の沸点が降下するため、原液から精油や水が気化しやすくなる。さらに、原液の温度が約100℃となるように加熱しなくても、原液に含まれる精油の全量を気化させることができるため、熱変性により精油のフレッシュ感を損ない精油の品質劣化を招くのを、免れることができる。
[実施形態2]
図4に示す水蒸気蒸留装置1aについて、水蒸気蒸留装置1と異なる構成及び作用効果のみを説明する。水蒸気蒸留装置1の水蒸気供給手段117に代えて、図4に示すように、水蒸気蒸留装置1aは、水蒸気供給手段117aを備える。
図5は、図4のC−C線で切断した、水蒸気蒸留装置1aの蒸留室2aの底部8の断面図である。図4及び図5に示すように、水蒸気導入管72aは、その一の端部が蒸留室2a外で蒸気ボイラー92と連結し、その中間部が蒸留室2aの底部8を貫通し、他の端部が蒸留室2a内で連結部73aを介して水蒸気放出部74aと連結する配管である。さらに、水蒸気導入管72aは、蒸留室2a外にある部分に逆流防止のバルブ93が設けられる。
水蒸気放出部74aは、連結部73aを介して水蒸気導入管72aの他の端部と連結する、環状の配管である。水蒸気放出部74aの配管には、水蒸気を放出するための不図示の開口が多数設けられる。水蒸気供給手段117aの水蒸気導入管72aの他の端部と、水蒸気放出部74aと、これらの連結部73aは、原液溜容器7の容器底板25の付近の直下に配されており、溜められた原液201内に収められていない。蒸気ボイラー92、水蒸気導入管72a、連結部73a及び水蒸気放出部74aを組み合わせた構成は、水蒸気供給手段117aとして機能する。
水蒸気供給手段117aにより、内壁面部分22の下方のうちで、特に原液溜容器7の下方に水蒸気が放出される。これにより、蒸留室2a外から蒸留室2a内へ水蒸気が供給される。よって、原液の含水率が低い場合でも、水蒸気蒸留を行なううえで充分量の水蒸気を蒸留室2内に供給することができる。供給された水蒸気の一部分は、その浮力により蒸留室2a内を上昇する過程で、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201に接する。これにより、溜められた原液201の液面で水蒸気と精油の混合蒸気が押し流されるため、当該液面で続けて水と精油が蒸発しやすくなる。よって、間隙63を上昇する混合蒸気は、向流接触をする前に、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和が更に高められる。
[実施形態3]
図6に示す水蒸気蒸留装置1bについて、水蒸気蒸留装置(1,1a)と異なる構成及び作用効果のみを説明する。水蒸気蒸留装置1の蒸留室2、原液導出手段101、第一の加熱手段103、第二の加熱手段104、凝縮手段105、原液導出手段108、水蒸気供給手段117に代えて、図6に示すように、水蒸気蒸留装置1bは、蒸留室2b、原液導入手段101b、第一の加熱手段103b、第二の加熱手段104b、凝縮手段105b、原液導出手段108b、水蒸気供給手段117bを備える。水蒸気蒸留装置1bは、熱回収手段及び原液還流手段を備えない。
蒸留室2bの軸受部75bは、蒸留室2bの側壁3bと連結した不図示の梁に設けられる。原液導入手段101bの原液導入管17bは、側壁3bの上端部を貫通する。原液導出手段108bの原液導出管57bは、他の端部に原液を排出する開口71が設けられる。水蒸気供給手段117bは、蒸気ボイラー92と、水蒸気導入管72bを含む。水蒸気供給手段117bは、水蒸気放出部や連結部を含まない。水蒸気供給手段117bについて、その他の構成は、前述の水蒸気蒸留装置1aの水蒸気供給手段117aと同様である。
上部加熱ジャケット86は、蒸留室2bを側方から見て、外壁面10bのうちで内壁面上部21及び内壁面部分22と重なる領域部分を囲み密接する。上部加熱ジャケット86は、その下端部に加熱媒体導入口88が設けられ、その上端部に加熱媒体導出口89が設けられる。さらに、上部加熱ジャケット86の加熱媒体導入口88及び加熱媒体導出口89は、各々が不図示の配管を介して、不図示の加熱媒体循環装置と連結する。これらの構成により、加熱媒体循環装置を稼働させると、加熱媒体としての熱水又は温水が、加熱媒体導入口88から上部加熱ジャケット86内を通って加熱媒体導出口89へ流れる。
下部加熱ジャケット87は、蒸留室2bを側方から見て、外壁面10bのうちで、内壁面部分22の下端部と、内壁面下端部26と、原液溜部107(原液溜容器7)と重なる領域部分を囲み密接する。下部加熱ジャケット87は、その下端部に加熱媒体導入口90が設けられ、その上端部に加熱媒体導出口91が設けられる。さらに、下部加熱ジャケット87の加熱媒体導入口90及び加熱媒体導出口91は、各々が不図示の配管を介して、不図示の加熱媒体循環装置と連結する。これらの構成により、加熱媒体循環装置を稼働させると、加熱媒体としての水蒸気、又は、加熱媒体としての水蒸気と熱水の混合流体が、加熱媒体導入口90から下部加熱ジャケット87内を通って加熱媒体導出口91へ流れる。
これにより、内壁面部分22のうちの上端部と中間部を流下する原液は、上部加熱ジャケット86内を流れる加熱媒体と熱交換をして加熱される。また、内壁面部分22のうちの下端部を流下する原液は、下部加熱ジャケット87内の上端部を流れる加熱媒体と熱交換をして加熱される。よって、上部加熱ジャケット86及び下部加熱ジャケット87において、蒸留室2bを側方から見て内壁面部分22と重なる領域部分は、専ら第一の加熱手段103bとして機能する。
同様に、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201は、下部加熱ジャケット87内の下端部を流れる加熱媒体と熱交換をして加熱される。よって、下部加熱ジャケット87において、蒸留室2bを側方から見て原液溜部107(原液溜容器7)と重なる領域部分は、専ら第二の加熱手段104bとして機能する。
さらに、下部加熱ジャケット87内を流れる加熱媒体としての水蒸気又は混合流体は、上部加熱ジャケット86内を流れる加熱媒体としての熱水又は温水よりも高温である。また、下部加熱ジャケット87内を流れる加熱媒体は、溜められた原液201との熱交換により冷却された後に、当該ジャケット内を上昇して、内壁面部分22の下端部を流下する原液と熱交換をする。よって、第二の加熱手段104bにより、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201の温度が内壁面部分22を流下する原液の温度よりも高温となるように、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201が加熱される。
また、上部加熱ジャケット86内を流れる加熱媒体及び下部加熱ジャケット87内を流れる加熱媒体により、蒸留室2b内の原液は、内壁面上部21に供給直後の原液、内壁面部分22の上端部及び中間部を流下する原液、内壁面部分22の下端部を流下する原液、内壁面下端部26を流下する原液、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201の順で、蒸留室2内を流下した原液ほど高温となるように加熱される。
蒸気導出管29bは、蒸留室2b内の蒸気を、内壁面4の上端部に設けられた開口28bから、凝縮器27bに内蔵された凝縮管33b内へ導出する配管である。凝縮器27bは、蒸留室2内から導出された蒸気が流入する凝縮管33bと、当該蒸気を冷却して凝縮する冷却タンク32を含む。不図示の冷却装置により、冷却タンク32に設けられた冷却水導入口35bから冷却水導出口37bへ冷却水が流れるため、前述の冷却作用が発揮される。留出液流下管38bは、凝縮して生じた留出液を、凝縮器27b外へ導出する配管である。蒸気導出管29b、凝縮器27b、及び、留出液流下管38bを組み合わせた構成は、凝縮手段105bとして機能する。
[その他の実施形態]
図1,4,6に示す水蒸気蒸留装置(1,1a,1b)は、調製直後の原液を溜める原液貯留槽と、当該槽内に溜められた原液を当該槽内から水蒸気蒸留装置(1,1a,1b)内へ送る配管を備えてもよい。この構成により、原液を水蒸気蒸留装置(1,1a,1b)内へ連続的に投入するのが容易となる。
また、回転軸15は、減速機等を介してモーター13に接続されてもよい。
また、筒5は、斜め型や、下向きの円錐型、下向きの円錐台型であってもよい。内壁面部分22は、筒5の外周面6に対向するため、筒5の形状に応じて、斜め型の筒状、又は、下向きの円錐台の周面状となってもよい。
また、図2に示すように、筒5の寸法は、筒5の直径をR1、内壁面部分22の内径をR2としたとき、R1/R2は0.50以上0.99以下であることが好ましい。R1/R2が0.5未満である場合には、筒5の外周面6に沿って上昇する混合蒸気が、内壁面部分22を流下する薄膜状の原液と向流接触をしないため、当該原液に含まれる精油が気化しにくい。R1/R2が0.99を超える場合には、間隙63を上昇する混合蒸気と、内壁面部分22を流下する原液が、互いに通り抜けにくくなるため、蒸留室2からの混合蒸気の導出が進まない。また、筒5が回転するときに、筒5が内壁面部分22に接触するおそれがある。
また、筒5の回転速度は、例えば、筒5の直径R1が64mmの場合に、筒5の外周面6の表面速度が2.4km/h以上12.1km/h以下となるのが好ましい。R1が64mmの場合に表面速度が2.4km/h未満では、回転により生じる風圧が弱いため、原液の液面から精油が蒸発する効率が低くなる。また、R1が64mmの場合に表面速度が12.1km/hを超えると、風圧が強すぎるため混合蒸気が間隙63を上昇するのを妨げられて、蒸留室(2,2a,2b)内から凝縮手段(105,105b)への導出が妨げられることによる。
また、筒5の回転速度は、例えば、筒5の直径R1が1.25mの場合に、筒5の外周面6の表面速度が5km/h以上30km/h以下となるのが好ましい。その理由は、R1が64mmの場合と同様である。
また、図1,4,6に示すワイパー80のブレード81は、筒5の軸方向の上下幅を超えて更に上下方向に張り出して設けられてもよい。この構成により、内壁面上部21に供給直後の原液や、内壁面下端部26を流下する原液が、ワイパー80により薄膜状となるため、当該原液から精油が蒸発しやすくなる。なお、この場合には、ブレード81が、ブレード支持部82及び内壁面4以外の装置構成に触れないようにする。
また、図1,3に示す原液溜容器7は、水蒸気供給手段117の水蒸気導入管72と連結した泡鐘段(バブルキャップトレイ)であってもよい。この場合には、容器底板25は泡鐘段の棚段として機能し、容器側板24は泡鐘段上にじかに原液を溜める堰として機能する。この場合には、水蒸気放出部74に代わり、水蒸気導入管72から泡鐘段の棚段を介して原液溜容器7に溜められた原液201の全体へ水蒸気が放出される。
また、図1,4,6に示す原液導出手段(108,108b)は、当該手段により蒸留室(2,2a,2b)外に導出された原液等を常圧に戻す圧力調整部を備えてもよい。圧力調整部は、原液導出管(57,57b)の蒸留室(2,2a,2b)外の部分に設けられる。
圧力調整部は、蒸留室(2,2a,2b)外に導出された原液と蒸気を一時的に溜める圧力調整槽と、当該槽内の圧力を検知する圧力センサーと、当該槽内から蒸留室(2,2a,2b)内への逆流防止のバルブと、外気を当該槽内に取り込む開放弁と、圧力センサーに検知された圧力に応じてバルブや開放弁の開閉を自動的に調節する圧力制御機構を含む。圧力調整部を備えると、減圧手段115により蒸留室(2,2a,2b)内を減圧して水蒸気蒸留を行う場合に、蒸留室(2,2a,2b)内から連続的に原液を導出するのが容易となる。
原液還流手段113の原液還流管77は、原液導出手段108の原液導出管57と連結して、連結部位に逆流防止のバルブが設けられてもよい。この構成により、同じ原液を繰り返し蒸留する場合に、連結部位のバルブを開くと、原液還流管77内に抜き取られた原液を原液導出管57へ流して、開口71から装置外へ排出することができる。
また、図1,4に示す水蒸気蒸留装置(1,1a)は、加熱媒体導出管96に設けられた温度センサーと、加熱媒体導入管95に設けられたバルブとを含んでなる、加熱媒体流量制御機構を備えてもよい。加熱媒体流量制御機構を備える場合には、温度センサーが加熱媒体導出管96内を流れる加熱媒体の温度を検知して、検知された温度に応じて加熱媒体導入管95に設けられたバルブの開閉が自動的に調節されて、ジャケット下端部83内に導入される加熱媒体の流量が調整される。このため、水蒸気蒸留を行なう際に、第一の加熱手段103及び第二の加熱手段104等により、蒸留室2内の原液が加熱される温度条件が安定したものとなる。
また、水蒸気蒸留装置(1,1a)は、加熱媒体導出管96に設けられた温度センサーと、蒸気ボイラー94とを含んでなる、加熱媒体発生量制御機構を備えてもよい。例えば、温度センサーにより、加熱媒体導出管96内を流れる加熱媒体の温度が約95℃を超えると検知された場合には、加熱媒体発生量制御機構により蒸気ボイラー94での水の加熱を自動的に一旦停止させる。これにより、蒸留室(2,2a)内で焦げ付きが生じることや、熱変性による精油の品質劣化を、避けることができる。また、水蒸気を生じさせる燃料コストを節約することができる。
なお、例えば、加熱媒体導出管96内を流れる加熱媒体の温度が約95℃を超えたと温度センサーに検知されて、加熱媒体導入管95に設けられたバルブを閉じた場合や、蒸気ボイラー94で水の加熱を止めた場合には、加熱ジャケット99内に高温の加熱媒体が留まる。このため、加熱ジャケット99内に留まる加熱媒体により、蒸留室2内が保温される。また、加熱媒体導入管95に設けられたバルブを閉じた後や、蒸気ボイラー94で水の加熱を止めた後でも、水蒸気供給手段(117,117a)により蒸留室2内に水蒸気を供給し続けると、前記内壁面部分22を流下する原液や、溜められた原液201が、蒸留室2内に供給された水蒸気により加熱される。このため、加熱媒体導入管95に設けられたバルブを閉じた後や、蒸気ボイラー94の加熱を止めた後でも、原液から精油が効率よく気化する。
また、ジャケット下端部83には、スチームトラップが設けられてもよい。これにより、ジャケット下端部83内に溜まったドレンを排出することができる。よって、加熱ジャケット99内の加熱媒体の流れを円滑にして熱損失を抑えることができるため、水蒸気を生じさせる燃料コストを節約することができる。
また、蒸気ボイラー94に代えて、熱水ボイラーが設けられてもよい。この場合には、加熱ジャケット99内で、加熱媒体として60℃より高く100℃以下の熱水が上向きに流れる。
また、蒸気ボイラー94に代えて、シリコンオイルの循環装置が設けられてもよい。この場合には、加熱ジャケット99内では、例えば、加熱媒体として約130℃のシリコンオイルが上向きに流れる。シリコンオイルは、加熱により100℃よりも高温となるため、シリコンオイルの循環装置を含むと、第一の加熱手段103及び第二の加熱手段104により加熱された原液から精油が効率よく気化する。
また、図1,4,6に示す第一の加熱手段(103,103b)及び第二の加熱手段(104,104b)は、ヒーターや誘導加熱等により原液を直接加熱する構成であってもよい。また、第一の加熱手段(103,103b)及び第二の加熱手段(104,104b)は、加熱ジャケット99又は上部加熱ジャケット86及び下部加熱ジャケット87に代えて、三個以上に分割された加熱ジャケットを含む構成であってもよいし、丸パイプ又は角パイプを外壁面(10,10b)に巻きつけた構成であってもよい。
また、第二の加熱手段(104,104b)として、加熱ジャケット99又は下部加熱ジャケット87とは別に、原液溜部107(原液溜容器7)内、及びその付近に、他の加熱ジャケットやヒーターを設けてもよい。この構成により、第一の加熱手段(103,103b)により加熱される原液の温度と、第二の加熱手段(104,104b)により加熱される原液の温度が、大きく異なるように加熱することができる。よって、水蒸気蒸留を行なう際に、原液から精油を効率よく気化させるために、加熱条件を細かく調整することができる。
また、気体遮断部材109は、上部気体遮断部材19さえあれば、下部気体遮断部材20を含まなくてもよい。
また、分離回収手段119は、貯留槽40に溜められた留出液202から液体状の精油203と芳香蒸留水204とを分離する油水分離槽を含んでもよい。油水分離槽は、留出液導出管(42,44,46)のうちのいずれか一つ又は複数と連結する。さらに、油水分離槽には、油水分離槽内の上部から液体状の精油を回収する精油回収管と、油水分離槽内の底部から芳香蒸留水を回収する芳香蒸留水回収管が設けられる。精油回収管や芳香蒸留水回収管には、逆流防止のバルブや、送液ポンプが設けられる。
油水分離槽を含むと、貯留槽40内に溜められた留出液202が、留出液導出管(42,44,46)のうちのいずれか一つ又は複数を介して油水分離槽内に流入して、油水分離槽内で液体状の精油と芳香蒸留水に分離する。分離した液体状の精油は、精油回収管を介して回収され、分離した芳香蒸留水は、芳香蒸留水回収管を介して回収される。よって、油水分離槽を含むと、回収前に、液体状の精油や芳香蒸留水を更に効率よく分離することができる。
また、減圧手段115の吸気管55には、減圧された蒸留室(2,2a,2b)内を常圧に戻す開放弁が設けられていてもよく、さらに、留出液流下管(38,38b)には、逆流防止のバルブが設けられていてもよい。留出液流下管(38,38b)に設けられたバルブを一時的に閉じ、吸気管55に設けられた開放弁を一時的に開けば、蒸留室(2,2a,2b)内を減圧したままの状態で、貯留槽40内を一時的に常圧に戻すことができる。これにより、水蒸気蒸留を行ないつつ、貯留槽40に溜められた留出液202から、液体状の精油203や芳香蒸留水204を回収するのが容易となる。
また、水蒸気蒸留装置(1,1a,1b)は、当該装置に設けられた様々なバルブや開放弁の開閉を調節することにより、装置内に原液を連続的に投入し、蒸留室(2,2a,2b)内から導出後の原液や加熱ジャケット99内から導出後の加熱媒体を装置外に連続的に排出し、貯留槽40に溜められた留出液202から液体状の精油203や芳香蒸留水204を連続的に回収することができる。このため、水蒸気蒸留装置(1,1a,1b)は、連続的に又は断続的に水蒸気蒸留を行うことができる。
[比較例1,2と、実施形態3との比較試験]
[比較例1の試験]
図7に示す水蒸気蒸留装置1cは、本願の発明者が、本発明に係る水蒸気蒸留装置を完成させるまでの過程で試作した装置である。比較例1の試験では、水蒸気蒸留装置1cを用いて水蒸気蒸留を行なった。水蒸気蒸留装置1cについて、前述の水蒸気蒸留装置1bと異なる構成及び作用のみを説明する。
水蒸気蒸留装置1bの蒸留室2b、筒5、原液供給手段101b、第一の加熱手段103b、原液溜部107、水蒸気供給手段117b、減圧手段115、分離回収手段119に代えて、水蒸気蒸留装置1cでは、蒸留室2c、板状の攪拌翼16、原液供給手段101c、第一の加熱手段103c、原液溜部107c、減圧手段115c、水蒸気供給手段117c、分離回収手段119cを備える。水蒸気蒸留装置1cは、第二の加熱手段、気体遮断部材及びワイパーを備えない。
図7に示すように、蒸留室2cは、密閉された器体であり、板状の攪拌翼16を内蔵する。モーター13を駆動すると、攪拌翼16が回転軸15周りに回転する。蒸留室2cの内壁面4は、攪拌翼16を囲む内壁面部分22cと、内壁面部分22cの上端部である内壁面上部21cを含む。
図8は、図7のD−D線で切断した、蒸留室2cの断面図である。図7及び図8を参照して、攪拌翼16を回転させると生じる円柱状の回転体を想定すると、当該回転体の外周面と内壁面部分22cとの間隙63cは、環状断面の筒状の空間となる。攪拌翼16の表面と前述の回転体の外周面との間には、中空部50cが形成される。図8に示すように、攪拌翼16の長辺の長さB1は76mmであり、内壁面部分22cの内径R3は78mmであり、間隙63cの幅((R3−B1)/2)は1mmであり、B1/R3は約0.97であった。
図7に示すように、原液導入管は、蒸留室2cの側壁を貫通して内壁面上部21cに開口を有しており、原液供給手段101cとして機能する。原液溜部107cは、内壁面4の下方に設けられる。水蒸気供給管は、不図示の水蒸気発生器で生じさせた水蒸気を、内壁面4と原液溜部107cの間の部分に放出することで、蒸留室2c外から蒸留室2c内へ水蒸気を供給する水蒸気供給手段117cとして機能する。原液溜部107cの下部には、原液導出手段108bが設けられる。
内壁面加熱ジャケット62は、蒸留室2cの外壁面10bを囲み外壁面10bに密接する。不図示の温水循環装置により、加熱媒体として約60℃の温水が、加熱ジャケット62の下端部に設けられた加熱媒体導入口88cから、加熱ジャケット62の上端部に設けられた加熱媒体導出口89cへ流れる。このため、内壁面加熱ジャケット62において、蒸留室2cを側方から見て、内壁面部分22cと重なる領域部分は、専ら第一の加熱手段103cとして機能する。
貯留槽40cは、分離回収手段119cとして機能する。吸気管55cは、真空ポンプ54と留出液流下管38bを連結する配管である。真空ポンプ54と吸気管55cを組み合わせた構成は、減圧手段115cとして機能する。
以下、比較例1の試験で水蒸気蒸留を行なった際の、原液等の流れを説明する。原料として、柚子果皮2kgを準備した。原料に水2kgを加え、当該原料を破砕し、更にグラインダーですり潰して、原料懸濁液約4kgを調製し、当該原料懸濁液を原液とした。真空ポンプ54を稼動させて、蒸留室2cの内圧を、26.7kPa(200Torr)に保った。
調製直後の原液を、1.2kg/hの流量で、原液供給手段101c内に投入した。投入された原液は、内壁面上部21cに供給され、内壁面部分22cを流下した。蒸留室2c内で、攪拌翼16が回転速度700rpmで回転したため、回転により生じた風圧で、内壁面部分22cを流下する原液は、内壁面部分22cに押し付けられ薄膜状となった。また、内壁面部分22cを流下する原液は、第一の加熱手段103cの加熱媒体である約60℃の温水と熱交換をして加熱された。これにより、薄膜状となった原液の液面から、水と精油が蒸発した。
内壁面部分22cを流下して内壁面部分22cを通過した原液は、原液溜部107cに流入して、原液溜部107cに一時的に溜められた。溜められた原液201cは、加熱されなかった。原液導出手段108bのバルブ60を開きポンプ59を稼動させることで、溜められた原液201cは、原液導出管57bを介して蒸留室2c外に導出された。
水蒸気供給手段117cの不図示の水蒸気発生器で、キャリヤガスとしての水蒸気を生じさせた。生じた水蒸気は、蒸留室2c内の中空部50cと間隙63cを上昇した。この際に、間隙63cを上昇する水蒸気は、内壁面部分22cを流下する原液と向流接触をした。向流接触をしたことで精油の蒸気が生じたため、水蒸気と精油の混合蒸気が生じた。混合蒸気は、蒸留室2cから導出され、凝縮手段105bで冷却されて留出液となり、貯留槽40cに溜められた。水蒸気蒸留を終えた後に、貯留槽40cを凝縮手段105bから取り外し、溜められた留出液202から液体状の精油203と芳香蒸留水204を回収した。
[比較例2の試験]
図9に示す水蒸気蒸留装置1dは、本願の発明者が、本発明に係る水蒸気蒸留装置を完成させるまでの過程で試作した装置である。比較例2の試験では、水蒸気蒸留装置1dを用いて水蒸気蒸留を行なった。水蒸気蒸留装置1dについて、前述の水蒸気蒸留装置(1b,1c)と異なる構成及び作用のみを説明する。
水蒸気蒸留装置1bの蒸留室2b、原液供給手段101b、第一の加熱手段103b、原液溜部107、水蒸気供給手段117b、減圧手段115、分離回収手段119に代えて、水蒸気蒸留装置1dでは、蒸留室2d、原液供給手段101c、第一の加熱手段103c、原液溜部107c、減圧手段115c、水蒸気供給手段117c、分離回収手段119cを備える。水蒸気蒸留装置1dは、第二の加熱手段及びワイパーを備えない。
蒸留室2dは、密閉された器体であり、筒5を内蔵する。蒸留室2dの内壁面4は、筒5を囲み、筒5の外周面6と対向する内壁面部分22dを有する。図10は、図9のE−E線で切断した、蒸留室2dの断面図である。図10に示すように、内壁面部分22dと筒5の外周面6との間隙63dは、環状断面の筒状の空間となる。筒5の直径R4は64mmであり、内壁面部分22dの内径R5は78mmであり、間隙63dの幅((R5−R4)/2)は7mmであり、R4/R5は約0.82である。
比較例2の試験では、筒5を回転速度700rpmで回転させた。このため、図10に示すように、内壁面部分22dを流下する原液は、回転により生じた風圧により、内壁面部分22dに押し付けられ薄膜状となった。また、水蒸気供給手段117cにより蒸留室2d内に供給された水蒸気は、気体遮断部材109により間隙63dに導かれ、間隙63dを上昇する過程で、内壁面部分22dを流下する原液と向流接触をした。比較例2の試験で、その他の条件については、比較例1の試験と同じ条件で水蒸気蒸留を行なった。
[実施形態3の試験]
実施形態3の試験では、図6に示す水蒸気蒸留装置1bを用いて水蒸気蒸留を行なった。筒5の直径と、内壁面部分22の内径は、比較例2の試験のものと同じである。実施形態3の試験では、水蒸気供給手段117bの水蒸気導入管72bのバルブ93を閉じて、蒸留室2b内に水蒸気を供給することなく水蒸気蒸留を行なった。
また、実施形態3の試験では、上部加熱ジャケット86内に、加熱媒体として約60℃の温水を流した。また、下部加熱ジャケット87の加熱媒体導入口90に、加熱媒体として水蒸気と熱水の混合流体を導入した。加熱媒体導入口90に導入時の加熱媒体の温度は、80℃であった。下部加熱ジャケット87内に導入直後の加熱媒体は、原液溜部107(原液溜容器7)に溜められた原液201との熱交換により冷却されて、60℃より高く80℃未満となった。60℃より高く80℃未満となった加熱媒体は、下部加熱ジャケット87内を上昇して、下部加熱ジャケット87内の上端部で、内壁面部分22の下端部を流下する原液と熱交換をした。実施形態3の試験で、その他の条件については、比較例1,2の試験と同じ条件で水蒸気蒸留を行なった。
[比較例1,2、実施形態3の試験結果等]
比較例1,2、実施形態3の試験条件と、各々の試験結果を、表1に示す。
[比較例1,2の試験結果の比較と考察]
表1に示すように、比較例1の試験で液体状の精油の回収量は1ml未満であったのに対して、比較例2の試験では約5mlであった。この試験結果の違いは、比較例1の試験と比較例2の試験では、蒸留室に内蔵された回転物が異なることに起因すると考えられる。
比較例1の試験では、図7,8に示すように、蒸留室2cに内蔵された回転物は、板状の攪拌翼16であった。このため、蒸留室2c内を上昇する水蒸気の大部分が、間隙63cで向流接触をすることなく、中空部50cを素通りしたと考えられる。よって、内壁面部分22cを流下する原液から、精油が効率よく気化しなかったと考えられる。一方、比較例2の試験では、図9,10に示すように、蒸留室2dに内蔵された回転物は、気体遮断部材109を備えた筒5であった。このため、蒸留室2d内を上昇する水蒸気の大部分が、間隙63dで向流接触をしたと考えられる。よって、比較例2の試験では、比較例1の試験と比べると、内壁面部分22dを流下する原液から、精油が効率よく気化したと考えられる。
[比較例2と実施形態3の試験結果の比較と考察]
表1に示すように、比較例2の試験で液体状の精油の回収量は約5mlであったのに対して、実施形態3の試験では約6mlであった。この回収量の違いは、原液溜部に溜められた原液を加熱する第二の加熱手段の有無に起因すると考えられる。
比較例2の試験で、図9に示す原液溜部107cに溜められた原液201cは、第二の加熱手段により加熱されなかった。このため、比較例2の試験で、溜められた原液201cに残された精油は、ほとんど気化しなかったと考えられる。これに対して、実施形態3の試験で、図6に示す原液溜部107に溜められた原液201は、第二の加熱手段104bにより加熱された。このため、実施形態3の試験で、溜められた原液201に残された精油は、当該原液から気化したと考えられる。
さらに、比較例2の試験で、図9に示す水蒸気供給手段117cにより供給された水蒸気は、ほとんどそのままの状態で間隙63dを上昇して、向流接触をした。これに対して、実施形態3の試験で、図6に示す水蒸気供給手段117bにより供給された水蒸気は、溜められた原液201から生じた混合蒸気と合流してから、間隙63を上昇して向流接触をした。このため、実施形態3の試験では、比較例2の試験と比べて、向流接触をする蒸気は、予め水蒸気と精油の蒸気圧が高められていた。よって、実施形態3の試験では、比較例2の試験と比べて、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22を流下する原液の全体が低温で沸騰しやすくなり、当該原液から精油が効率よく気化したと考えられる。
さらに、表1に示すように、比較例2の試験では、図9に示す内壁面部分22dを流下する原液が、約60℃で加熱された。一方、実施形態3の試験では、図6に示す内壁面部分22の上端付近を流下する原液は60℃で加熱され、次いで、内壁面部分22の下端付近を流下する原液は60℃より高く80℃未満の温度で加熱され、そのうえで、原液溜部107に溜められた原液201は80℃で加熱された。このため、実施形態3の試験では、内壁面部分22を流下する原液の温度よりも原液溜部107に溜められた原液201の温度の方が高温となるように、原液溜部107に溜められた原液201が加熱された。この加熱条件により、実施形態3の試験では、比較例2の試験と比べて、内壁面部分22を流下して精油の量が少なくなった原液から、精油が効率よく気化したと考えられる。
さらに、比較例2の試験では、水蒸気蒸留を行なうにあたり、図9に示す蒸留室2d内に水蒸気を供給する必要があった。一方、実施形態3の試験では、図6に示す蒸留室2b内に水蒸気を供給しなくとも、水蒸気蒸留を行なうことができた。これは、実施形態3の試験で、原液溜部107に溜められた原液201が第二の加熱手段104bに加熱されて、当該原液から水蒸気が生じ、生じた水蒸気がキャリヤガスとして作用したことによる。さらに、実施形態3の試験で、内壁面部分22を流下する原液の温度よりも溜められた原液201の温度の方が高温となるように、溜められた原液201が加熱されたため、当該原液から大量の水蒸気が生じたと考えられる。
柚子果皮は、その組成の約90%を水分が占めるため、比較試験で用いた原液は、含水率が高かった。このため、実施形態3の試験では、柚子果皮由来の水分から水蒸気が生じて、水蒸気を供給することなく水蒸気蒸留を行なうことができたと考えられる。
[実施形態1,2の比較試験]
[実施形態1の試験]
実施形態1の試験では、図1に示す水蒸気蒸留装置1を用いて水蒸気蒸留を行なった。原料として、柚子果皮1.2tを準備した。原料に水1.2tを加え、当該原料を破砕し、更にグラインダーですり潰して、原料懸濁液約2.4tを調製し、当該原料懸濁液を原液とした。真空ポンプ54を稼動させて、蒸留室2の内圧を、53.3kPa(400Torr)に保った。調製直後の原液を、0.25t/hの流量で、開口64に投入した。
図2に示すように、実施形態1の試験で、筒5の直径R1は1.25mであり、内壁面部分22の内径R2は1.5mであり、間隙63の幅((R2−R1)/2)は0.125mであり、R1/R2は約0.83であった。筒5は、回転速度85rpmで回転させた。原液溜容器7の内容積は約0.65m3であり、原液溜容器7に溜められた原液201は、後で装置内に投入された原液と約160分で入れ替わった。
実施形態1の試験では、図1に示す蒸気ボイラー94で水を加熱して、加熱媒体として約120℃の過熱水蒸気を生じさせた。ジャケット下端部83内に導入直後の加熱媒体は、約120℃であり、内底面9上を流れる原液と熱交換をした。ジャケット中間部84内の下端部に上昇した加熱媒体は、約120℃であり、原液溜容器7に溜められた原液201と熱交換をした。ジャケット中間部84内を上昇する加熱媒体は、内壁面部分22の下端部では約100℃であり、内壁面部分22の上端部では約95℃であり、各々の水蒸気は内壁面部分22を流下する原液と熱交換をした。
実施形態1の試験では、蒸気ボイラー92で水を加熱して、キャリヤガスとして約100℃の飽和水蒸気を生じさせた。図1及び図3に示すように、飽和水蒸気は、蒸気ボイラー92から水蒸気導入管72及び連結部73を介して水蒸気放出部74内へ流れ、水蒸気放出部74に設けられた複数の開口から原液溜容器7に溜められた原液201内の全体に放出された。これにより、水蒸気が蒸留室2外から蒸留室2内に供給された。
実施形態1の試験では、熱回収手段111により、蒸留室2内に導入前の原液と蒸留室2外に導出後の原液とが熱交換をし、蒸留室2に導入前の原液と加熱ジャケット99外に導出後の加熱媒体とが熱交換をした。開口64に投入時に約25℃であった原液は、熱交換器65内を通過時に約70℃に予備加熱されていた。一方、蒸留室2内から導出時に約100℃であった原液は、開口71で排出時に約55℃に冷却されていた。
実施形態1の試験では、水蒸気蒸留を終えた後に、貯留槽40の留出液導出管42に設けられたバルブ43を開いた。これにより、貯留槽40に溜められた留出液202のうちで、留出液導出管42よりも水位の高い範囲に溜められた液体状の精油203と芳香蒸留水204の一部分が、合計120kg分、貯留槽40内から留出液導出管42を介して水蒸気蒸留装置1外へ導出された。導出された留出液について、液体状の精油を芳香蒸留水と分離して回収した。
[実施形態2の試験]
実施形態2の試験では、図4に示す水蒸気蒸留装置1aを用いて水蒸気蒸留を行なった。実施形態2の試験について、前述の実施形態1の試験と異なる条件のみを説明する。実施形態2の試験では、キャリヤガスとして約100℃の飽和水蒸気が、蒸気ボイラー92から水蒸気導入管72a及び連結部73aを介して水蒸気放出部74a内へ流れ、水蒸気放出部74aに設けられた複数の開口から原液溜容器7の下方に放出された。これにより、内壁面部分22の下方に水蒸気を放出することで、蒸留室2a外から蒸留室2a内へ水蒸気が供給された。
[実施形態1,2の試験結果等]
実施形態1,2での試験条件と、各々の試験結果を、表2に示す。
[実施形態1,2の試験結果の比較と考察]
表2に示すように、実施形態1の試験で液体状の精油の回収量は6.0kgであったのに対して、実施形態2の試験で4.0kgであった。また、実施形態1の試験では、装置外へ排出後の原液から精油を検出することができなかった。このため、実施形態1の試験では、原液に含まれる精油の全量を気化させて回収することができたと考えられる。実施形態1の試験と実施形態2の試験での回収量の差は、水蒸気供給手段(117,117a)により蒸留室(2,2a)外から蒸留室(2,2a)内に供給された水蒸気が、溜められた原液201内に放出されるか、溜められた原液201外に放出されるかの違いに起因すると考えられる。
実施形態2の試験で、図4に示す蒸留室2a内に供給後の水蒸気は、溜められた原液201外に放出されるため、液面でしか当該原液に接することができない。このため、溜められた原液201に残された精油は、当該原液の本来の液面からしか蒸発することができない。よって、溜められた原液201に残された精油が、充分に気化しなかったと考えられる。これにより、蒸気が、向流接触をする前に予め水蒸気と精油の蒸気圧の和を高められることとなるが、その高まりの程度が充分でなかったと考えられる。したがって、実施形態2の試験では、内壁面部分22を流下する原液が沸騰しやすくなる程度が、小さかったと考えられる。
これに対して、実施形態1の試験では、図1に示す蒸留室2内に供給直後の水蒸気は、溜められた原液201内に放出されて、気泡の表面が気液接触面として作用する。このため、溜められた原液201の本来の液面に加えて、気泡の表面により当該原液の気液接触面積が拡張されている。よって、溜められた原液201が水蒸気と効率よく熱交換をして加熱され、当該原液に残された精油が気泡内へ効率よく蒸発したと考えられる。これにより、気泡内で水蒸気と精油の蒸気圧の和が高い混合蒸気が生じ、水蒸気蒸留の観点から、溜められた原液201が低温で沸騰しやすくなったと考えられる。したがって、実施形態1の試験では、実施形態2の試験よりも、溜められた原液201に残された精油が、効率よく気化したと考えられる。
さらに、同様の理由により、実施形態1の試験では、蒸気が向流接触をする前に、予め水蒸気と精油の蒸気圧の和が充分に高められたと考えらえる。よって、実施形態1の試験では、実施形態2の試験と比べて、水蒸気蒸留の観点から、内壁面部分22を流下する原液が低温で沸騰しやすくなったと考えらえる。したがって、実施形態1の試験では、実施形態2の試験よりも、内壁面部分22を流下する原液から精油が効率よく気化したと考えられる。