JP5897620B2 - ステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法 - Google Patents

ステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法 Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼からなる部材のクリープ余寿命を推定する方法に関する。
火力発電設備や原子力発電設備等には、動力用蒸気配管等の金属配管など、ステンレス鋼の部材が多く使用される。このようなステンレス鋼の部材は長期間に渡って高温・高圧条件におかれることから、徐々に塑性変形が進み、クリープ寿命に達すると破断してしまう。従って、火力発電設備や原子力発電設備を安全かつ経済的に運転するためには、クリープ余寿命をなるべく早い段階で予測することが求められる。
ここで、例えばオーステナイト系ステンレス鋼の寿命評価方法としては、その表面に析出したσ相面積率を算出し、算出したσ相面積率が閾値以下か否かを判定し、閾値以下の場合は、算出したσ相面積率を予め作成しておいたσ相面積率と寿命消費率の相関関係図にあてはめてクリープ寿命消費率を算出する方法が開示されている(特許文献1)。
また、特許文献2には、クリープボイドの部位を走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡及びレーザー顕微鏡で観察し、クリープボイド結晶粒界占有率の最大値を測定し、実機サイズ試験片及び実機のシミュレート試験の結果から内部の損傷状態等を考慮し修正したマスターカーブに当てはめ、部材のクリープ寿命消費率を推定する方法が記載されている。
特開2013−174528号公報 特開2000−258306号公報
しかしながら、特許文献1では、σ相そのものはクリープ損傷部ではないのでクリープ損傷の指標としては間接的なものであり、一方、特許文献2のクリープボイドによる推定は、クリープボイドがある程度成長しないと適用できないため、寿命の後半にならないと正確な余寿命診断ができないという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステンレス鋼からなる部材の余寿命をより早い段階でかつ正確に推定する方法を提供することにある。
前述の目的を達成するための本発明の一つは、熱応力によりクリープ損傷を受ける、ステンレス鋼からなる対象部材の余寿命を推定する方法であって、前記対象部材における所定の観察範囲の表面にσ相が存在するか否かを判断するσ相判断工程と、前記σ相判断工程においてσ相が存在すると判断した場合には、前記σ相界面にボイド核が存在するか否かを判断するボイド核判断工程と、前記ボイド核判断工程においてボイド核が存在すると判断した場合に、前記観察範囲における前記ボイド核の占有割合を求めるボイド核占有割合算出工程と、前記ボイド核占有割合算出工程において求めた占有割合と、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイド核の占有割合と余寿命との関係を表す検量線とに基づき、前記部材の余寿命を推定するボイド核余寿命推定工程とを含むことを特徴とする。
ボイド核はσ相界面に発生する空孔であり、これはやがてボイドに成長するので、ボイド核はクリープ損傷の原因となるものであるといえる。そこで、σ相界面にボイド核が存在する場合はその占有割合を求め、この求めた占有割合と、予め作成した、ステンレス鋼におけるボイド核の占有割合と余寿命との関係を表す検量線とを用いることで、ステンレス鋼からなる部材の余寿命をより早い段階で、かつ正確に推定することができる。
また、本発明の他の一つは、前記σ相判断工程を行う前に、前記観察範囲にボイドが存在するか否かを判断するボイド判断工程と、前記ボイド判断工程においてボイドが存在すると判断した場合には、前記観察範囲における前記ボイドの占有割合を求めるボイド占有割合算出工程と、前記ボイド占有割合算出工程において求めた占有割合と、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイドの占有割合と余寿命との関係を表す検量線とに基づき、前記部材の余寿命を推定するボイド余寿命推定工程とを行うことを特徴とする。
本発明のように、対象部材にボイドが存在する場合はボイドの検量線に基づく余寿命推定を行い、ボイドが確認できない場合にはボイド核の検量線に基づく余寿命推定を行うようにすることで、対象部材のクリープ損傷の段階に応じた、適切な余寿命推定を行うことができる。
なお、前記観察範囲におけるボイド核の占有割合は、例えば、単位面積当たりに存在するボイド核の個数であってもよいし、単位面積当たりのボイド核の占有面積であってもよい。
本発明によれば、ステンレス鋼からなる部材の余寿命をより早い段階でかつ正確に推定することができる。
ステンレス鋼におけるクリープ損傷の進行を説明する図である 熱応力を受けたステンレス鋼の表面におけるSEM写真である。 本実施形態に係るステンレス鋼の部材の余寿命の推定方法を説明するフローチャートである。 対象部材が配管である場合の観察範囲を説明する図である。 ボイド検量線のグラフの一例である。 ボイド核検量線のグラフの一例である。
図1は、ステンレス鋼におけるクリープ損傷の進行を説明する図である。同図に示すように、ステンレス鋼におけるクリープ損傷は、ボイド核(ST1)→ボイド(ST2)→亀裂(ST3)の順に進行する。
ボイド核とは、鉄とクロムの化合物であるσ相界面に転位が集中することで発生する空孔である。このボイド核が成長するとボイドとなり、これらはやがて亀裂に進展する。
例えば、図2は熱応力を受けたステンレス鋼の表面のSEM(Scanning Electron Microscope)の写真である。同図に示すように、ステンレス鋼の表面の各部には、SEMでは窪みのように見えるσ相11が存在する。そして、σ相11界面には白濁の点として見えるボイド核12が発生していることがわかる。このボイド核12が将来、クリープボイドになると予想される。
そこで本発明者らは、このボイド核12がクリープ損傷の適切な指標となることを発見し、これに基づきステンレス鋼の余寿命を推定する方法を開発した。すなわち、ステンレス鋼の部材に対して所定の観察範囲を設定し、この観察範囲に現れたボイドやボイド核を指標として余寿命を推定する方法を開発した。
なお、この方法により余寿命を推定できるステンレス鋼の部材(以下、対象部材という)としては、例えば、火力発電設備や原子力発電設備等に設けられる動力用蒸気配管などの配管やタービン車室が挙げられる。
以下、本実施形態に係る余寿命の推定方法について、図3に基づき説明する。
図3に示すように、本実施形態の余寿命の推定方法は、観察範囲にボイドが確認できるときはボイドに基づき余寿命を推定し(S1〜S5)、一方、観察範囲にボイドが確認できないときは、ボイド核に基づき余寿命を推定する(S6〜S10)というものである。
まず始めに、対象部材における観察範囲(以下、単に「観察範囲」という)を設定する(S1)。
そして、この観察範囲にボイドが存在するか否かを確認する(S2)。
ボイドが存在するか否かは、例えばレプリカ法により確認する。すなわち、観察範囲のレプリカを採取し、このレプリカを走査型電子顕微鏡(1000倍程度の倍率)で観察、確認する。
なお、観察範囲は、例えば対象部材のうち熱応力を最も受けやすいと考えられる位置に設ける。例えば、対象部材が配管である場合は、図4に示すように配管20の長手方向の中央部21の所定範囲の周面を観察範囲とする。
また、観察範囲の面積は、後述するボイド核の個数のカウントが行える程度の面積であることが好ましく、0.05mm2未満が好ましい。
S2においてボイドが観察できた場合(S2:YES)は、S3に進み、ボイドが観察できなかった場合(S2:NO)は、S6に進む。
S3では、観察範囲におけるボイドの個数を数える。そして、観察範囲におけるボイドの占有割合を計算する(S4)。
本実施形態では、ボイドの占有割合を、単位面積当たりのボイドの個数(以下、ボイドの個数密度という)として表す。具体的には、以下の式(1)で表す。
1=m1/S ・・・(1)
1:ボイドの個数密度
1:ボイドの個数
S:ボイドの観察範囲の面積
そして、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイドの個数密度と寿命比の関係を表す検量線(以下、ボイド検量線と称する)に、S4で求めたボイドの占有割合をあてはめることにより、対象部材の余寿命を推定する(S5)。
なお、ボイド検量線は、例えば、対象部材を模擬した模擬体(例えば、対象部材と同型又は相似形の部材で、対象部材と同一素材からなる部材)を用意し、この模擬体についてクリープ試験を行うことにより作成する。すなわち、模擬体を対象部材と同様の温度、圧力条件下に設置して、ボイドの個数密度と寿命比の関係を求めることにより、ボイド検量線を作成する。
図5は、ボイド検量線のグラフの一例を示している。同図に示すように、ボイド検量線31のグラフは、横軸に寿命比、縦軸にボイドの個数密度をとったものである。同図の例では、ボイド検量線31は寿命比がL0以上で求められている。L0は観察範囲においてボイドが最初に発生した時点での寿命比である。
ボイド検量線31の使い方としては、例えば図5に示すように、S4で求めたボイドの個数密度がR1であった場合、ボイド検量線31においてR1に対応する寿命比であるL1が対象部材の現在の寿命比である、といったように用いる。
これまで説明してきたように、観察範囲にボイドが観察された場合は、ボイドの占有割合に基づき対象部材の余寿命を推定する。
一方、観察範囲にボイドが観察されなかった場合は、以下に説明するように、ボイド核に基づき余寿命の推定を行う(S6〜S10)。
まず、観察範囲においてσ相が存在するか否かを確認する(S6)。σ相が存在するか否かは、例えばレプリカ法により確認する。すなわち、観察範囲のレプリカを採取し、このレプリカを透過型電子顕微鏡(1000倍程度の倍率)で観察し、確認する。
σ相が確認できなかった場合は(S6:NO)、クリープ余寿命は充分に長いとして余寿命推定を終了する。
一方、σ相が確認できた場合は(S6:YES)、確認されたσ相界面にボイド核が存在するか否かを判断する(S7)。具体的には、例えばS6で使用したレプリカを用いてσ相の位置を特定し、特定した位置のレプリカを対象部材の観察範囲から採取する。そして、採取したレプリカを用いて、走査型電子顕微鏡(1000倍程度の倍率)によりボイド核の有無を確認する。
ボイド核の存在が確認できなかった場合は(S7:NO)、クリープ余寿命は充分に長いとして余寿命推定を終了する。
一方、ボイド核が確認できた場合は(S7:YES)、観察範囲に存在するボイド核の個数を数える(S8)。
そして、S8で数えたボイド核の個数に基づき、ボイド核の占有割合を計算する(S9)。
本実施形態では、ボイド核の占有割合を、単位面積当たりのボイド核の個数(以下、ボイド核の個数密度という)として表す。具体的には、以下の式(2)で表す。
3=m3/S ・・・(2)
3:ボイド核の個数密度
3:ボイド核の個数
S:観察範囲の面積
そして、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイド核の占有割合と寿命比との関係を表す検量線(以下、ボイド核検量線という)にS9で求めたボイド核占有割合をあてはめることにより、対象部材の余寿命を推定する(S10)。
なお、ボイド核検量線は、例えば、対象部材を模擬した模擬体(例えば、対象部材と同型又は相似形の部材で、対象部材と同一素材からなる部材)を用意し、この模擬体についてクリープ試験を行うことにより作成する。すなわち、模擬体を対象部材と同様の温度、圧力条件下に設置して、ボイド核の個数密度と寿命比の関係を求めることにより、ボイド核検量線を作成する。
図6は、ボイド核検量線のグラフの一例を示している。同図に示すように、ボイド核検量線32のグラフは、横軸に寿命比、縦軸にボイドの個数密度をとったものである。同図の例では、ボイド核検量線32は寿命比がL2以上L4以下の範囲で求められている。L2は観察範囲においてボイド核がはじめて発生した時点での寿命比、L4は観察範囲におけるボイド核のうち少なくとも1つがボイドに変化した時点の寿命比である。
ボイド核検量線32の使い方としては、例えば図6に示すように、S9で求めたボイド核の個数密度がR3であった場合、ボイド核検量線32においてR3に対応する寿命比であるL3が対象部材の現在の寿命比である、といったように用いる。
このように、本実施形態の余寿命の推定方法では、観察範囲においてσ相界面にボイド核が存在する場合は観察範囲におけるボイド核の占有割合を求め、この求めた占有割合と、予め作成した検量線とを用いて推定を行う。σ相界面に発生するボイド核はやがてボイドに成長し、クリープ損傷の原因となるものであるから、本実施形態の余寿命の推定方法によれば、ステンレス鋼からなる部材の余寿命をより早い段階で、かつ正確に推定することができる。
ただし、観察範囲にボイドが現れている場合は、ボイド核によらずとも、確認がより容易な(観察しやすい)ボイドに基づき余寿命を推定することができるので、そのような場合はボイドに基づく余寿命の推定を行っている(S1〜S6)。
このように、本実施形態の余寿命推定は、クリープ損傷の段階に応じた、適切な余寿命推定を行うことが可能となっている。
なお、本実施形態では、ボイドやボイド核の占有割合を個数密度に基づき求めたが、以下のように占有面積に基づき求めてもよい。例えば、ボイドについては、ボイドの占有割合を以下の式(3)で表す。
2=m/S ・・・(3)
2:占有面積に基づくボイドの占有割合
2:観察されたボイドの面積
S:観察範囲の面積
一方、ボイド核については、ボイド核の占有割合を以下の式(4)で表す。
4=m/S ・・・(4)
4:占有面積に基づくボイド核の占有割合
4:観察されたボイド核の面積
S:観察範囲の面積
このように、個数密度ではなく占有面積に基づきボイドやボイド核の占有割合を表すことで、ボイドやボイド核の成長をより正確に表すことができる。
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
11 σ相、12 ボイド核、20 配管、21 中央部、31 ボイド検量線、32 ボイド核検量線

Claims (4)

  1. 熱応力によりクリープ損傷を受ける、ステンレス鋼からなる対象部材の余寿命を推定する方法であって、
    前記対象部材における所定の観察範囲の表面にσ相が存在するか否かを判断するσ相判断工程と、
    前記σ相判断工程においてσ相が存在すると判断した場合には、前記σ相界面にボイド核が存在するか否かを判断するボイド核判断工程と、
    前記ボイド核判断工程においてボイド核が存在すると判断した場合に、前記観察範囲における前記ボイド核の占有割合を求めるボイド核占有割合算出工程と、
    前記ボイド核占有割合算出工程において求めた占有割合と、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイド核の占有割合と余寿命との関係を表す検量線とに基づき、前記部材の余寿命を推定するボイド核余寿命推定工程と
    を含むことを特徴とする、ステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法。
  2. 前記σ相判断工程を行う前に、
    前記観察範囲にボイドが存在するか否かを判断するボイド判断工程と、
    前記ボイド判断工程においてボイドが存在すると判断した場合には、前記観察範囲における前記ボイドの占有割合を求めるボイド占有割合算出工程と、
    前記ボイド占有割合算出工程において求めた占有割合と、予め作成しておいた、ステンレス鋼におけるボイドの占有割合と余寿命との関係を表す検量線とに基づき、前記部材の余寿命を推定するボイド余寿命推定工程と
    を行うことを特徴とする、請求項1に記載のステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法。
  3. 前記観察範囲における前記ボイド核の占有割合は、単位面積当たりに存在するボイド核の個数であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法。
  4. 前記観察範囲における前記ボイド核の占有割合は、単位面積当たりのボイド核の占有面積であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のステンレス鋼からなる部材の余寿命を推定する方法。
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