以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態によるカップリング装置100の構造について説明する。
本発明の第1実施形態によるカップリング装置100は、図1に示すように、回転軸線700が延びる方向(X方向)における一方側(X1側)に配置された駆動側回転部1と、他方側(X2側)に配置された従動側回転部2とを備えている。この駆動側回転部1と従動側回転部2とは、互いにX方向に対向するように配置されている。なお、駆動側回転部1は、本発明の「第1回転体」の一例であり、従動側回転部2は、本発明の「第2回転体」の一例である。
駆動側回転部1は、X方向に延びるとともに、図示しないモータに一方端部側(X1側)が接続された軸部10と、SS400(熱間圧延鋼材、JIS規格)からなり、軸部10の他方端部側(X2側)に固定されたヨーク11と、ヨーク11のX2側に固定された磁石12とを含んでいる。また、従動側回転部2は、X方向に延びるとともに、回転部などからなる図示しない負荷部に一方端部側(X2側)が接続された軸部20と、SS400からなり、軸部20の他方端部側(X1側)に固定されたヨーク21と、ヨーク21のX1側に固定された磁石22とを含んでいる。また、駆動側回転部1と従動側回転部2とは、共に、回転軸線700を回転中心としてA1方向またはA2方向に回転するように構成されている。
また、図2に示すように、磁石12の対向面12aと磁石22の対向面22aとが、所定の間隔を介してX方向に対向するように配置されている。これにより、磁石12および22によって、駆動側回転部1と従動側回転部2とが互いに磁気を介して回転力(トルク)が伝達される(磁気カップリングされる)ように構成されている。なお、対向面12aおよび22aは、本発明の「対向する面」の一例である。
また、磁石12と磁石22とは、図3に示すように、駆動側回転部1および従動側回転部2が停止している場合および定速回転している場合において、互いに反対の磁極が回転軸線700の延びる方向(X方向)に対向するように配置されている。具体的には、磁石12の後述するN極12dと磁石22の後述するS極22eとが互いに回転軸線700の延びる方向(X方向:図2参照)に対向するように配置されているとともに、磁石12の後述するS極12eと磁石22の後述するN極22dとが互いに回転軸線700の延びる方向(X方向)に対向するように配置されている。これにより、磁石12のA1方向またはA2方向への回転に伴って、磁石22がA1方向またはA2方向に回転されることによって、駆動側回転部1の回転が従動側回転部2に伝達されるように構成されている。
磁石12は、図3に示すように、平面的に見て、回転軸線700を中心とする円環状の形状を有している。また、図2に示すように、磁石12は、X方向に厚みL1を有する。また、磁石12の内周部12bの内径は、D1であり、磁石12の外周部12cの外径は、D2である。
また、磁石12では、図3に示すように、円周方向に沿ってN極12dとS極12eとが約45度間隔で互いに隣り合うように配置されている。すなわち、磁石12は、4つのN極12dと4つのS極12eとからなる8つの磁極を有している。また、隣接するN極12dとS極12eとの間のニュートラルゾーン(磁化されていない領域)には、溝部12fが形成されている。また、溝部12fは、約45度間隔で8つ形成されている。この8つの溝部12fは、磁石12の中心である回転軸線700を中心として、磁石12の内周部12bから外周部12cまで半径方向に延びるように形成されている。なお、N極12dおよびS極12eは、本発明の「磁極」の一例である。
また、8つの溝部12fは、平面的に見て、略長方形形状を有しているとともに、略長方形形状の垂直断面形状(図4参照)を有している。なお、磁石12の対向面12aにおける溝部12f(開口端12g)の幅W1は、約1mm以上約9mm以下であるとともに、図2に示すように、溝部12fの開口端12gから底部12hまでの長さ(溝部12fのX方向の深さ)L2は、約1mm以上であるように形成されている。
また、磁石12は、約12原子%以上約17原子%以下の希土類元素Rと、約5原子%以上約8原子%以下のB(ホウ素)と、残部のFeを主とする遷移元素Tとを含むR−T−B系磁石からなる。また、R−T−B系磁石には、希土類元素Rとして、NdおよびPrの少なくともいずれか一方の軽希土類元素RLが主に含まれている。
なお、一般的に磁石は、残留磁束密度が大きいと比較的保磁力が小さく、逆に、保磁力が大きいと比較的残留磁束密度が小さいというトレードオフの性質を有する。このため、残留磁束密度が大きいR−T−B系磁石であると、外部環境が変化した(外部磁界が加えられた、または、温度が上昇した)後に、外部環境が元の状態(外部磁界が解除された、または、温度が元に戻るように低下した)に戻ったとしても、不可逆減磁を起こす場合がある。
ここで、第1実施形態では、図4に示すように、磁石12の溝部12fの内側面12i近傍と、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(図4においてドットで示される領域)が形成されている。また、重希土類元素拡散領域12jは、N極12dのA1側の端部近傍(N極12dのA1側の内側面12iと、内側面12iから磁石12の内部(A2側)に所定の距離進んだ領域(近傍領域)(図3参照))およびS極12eのA1側の端部近傍(S極12eのA1側の内側面12iと、内側面12iから磁石12の内部(A2側)に所定の距離進んだ領域(近傍領域)(図3参照))に少なくとも形成されている。また、図5に示すように、駆動側回転部1が従動側回転部2に対して相対的にA1方向にずれる場合(駆動側回転部1がA1方向に加速される場合、および、従動側回転部2がA2方向に制動を受ける場合)に、磁石22の後述するS極22eと対向している状態からN極12dがA1方向にずれることにより、N極12dのA1側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域12jは、磁石22の後述するN極22dのA2側の一部とオーバーラップする(図5の細い斜線部)ように構成されている。同様に、磁石22のN極22dと対向している状態からS極12eがA1方向にずれることにより、S極12eのA1側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域12jは、磁石22のS極22eのA2側の一部とオーバーラップする(図5の太い斜線部)ように構成されている。
また、重希土類元素拡散領域12jは、N極12dのA2側の端部近傍(N極12dのA2側の内側面12iと、内側面12iから磁石12の内部(A1側)に所定の距離進んだ領域(近傍領域)(図3参照))およびS極12eのA2側の端部近傍(S極12eのA2側の内側面12iと、内側面12iから磁石12の内部(A1側)に所定の距離進んだ領域(近傍領域)(図3参照))に少なくとも形成されている。また、図6に示すように、駆動側回転部1が従動側回転部2に対して相対的にA2方向にずれる場合(駆動側回転部1がA2方向に加速される場合、および、従動側回転部2がA1方向に制動を受ける場合)に、磁石22のS極22eと対向している状態からN極12dがA2方向にずれることにより、N極12dのA2側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域12jは、磁石22のN極22dのA1側の一部とオーバーラップする(図6の細い斜線部)ように構成されている。同様に、磁石22のN極22dと対向している状態からS極12eがA2方向にずれることにより、S極12eのA2側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域12jは、磁石22のS極22eのA1側の一部とオーバーラップする(図6の太い斜線部)ように構成されている。
また、重希土類元素拡散領域12jは、Tb、DyまたはHoからなるグループより選択される少なくともいずれかの重希土類元素を拡散させることによって形成されている。なお、重希土類元素を拡散させる方法としては、WO2007/102391に開示された方法がある。WO2007/102391に開示された方法を具体的に説明する。まず、軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR2Fe14B型化合物結晶粒を主相として有するR−Fe−B系希土類焼結磁石体を用意し、次に、焼結磁石体の表面に重希土類元素RH(Dy、Ho、およびTbからなる群から選択された少なくとも1種)を供給しつつ、焼結磁石体を加熱し、焼結磁石体の内部に拡散させる。
さらに、WO2007/102391に開示された方法では、気化(昇華)しにくい重希土類元素RHのバルク体および希土類焼結磁石体を処理室内に至近距離に配置し、双方を約700℃以上約1000℃以下に加熱する。これにより、RHバルク体の気化(昇華)を重希土類元素RH膜の成長速度が重希土類元素RHの焼結磁石体内部への拡散速度よりも極度に大きくならない程度に抑制しつつ、焼結磁石体の表面に飛来した重希土類元素RHを速やかに焼結磁石体内部に拡散させる。なお、約700℃以上約1000℃以下の温度範囲は、重希土類元素RHの気化(昇華)がほとんど生じない温度であるが、R−Fe−B系焼結磁石体内部における希土類元素の粒界を通じた拡散が活発に生じる温度である。また、加熱時間は、約10分以上約48時間以下の範囲に設定される。
重希土類元素の拡散時における処理室内の雰囲気は真空または不活性ガスが充填した不活性雰囲気であり、処理室内の真空度は、効率的に重希土類元素の拡散を行うために、約10−5Pa以上約500Pa以下に設定される。ここで、不活性ガスとしては、たとえばアルゴン(Ar)などの反応性の低い希ガスを用いることが可能であるが、RHバルク体および焼結磁石体との間で化学的に反応しないガスであれば、不活性ガスとして用いることが可能である。また、重希土類元素の拡散処理の後、焼結磁石体に第一熱処理(約700℃以上約1000℃以下)を行っても良い。また、必要に応じてさらに第二熱処理(約400℃以上約700℃以下)を行ってもよい。これら第一熱処理と第二熱処理とは、同じ処理室内で行っても良い。
上記WO2007/102391に開示された方法によって作製された磁石において、重希土類元素拡散領域12jは、R−T−B系磁石の結晶粒からなる主相のR2T14B相の外殻部(粒界の近傍)に位置するR2T14B相の軽希土類元素RLが、重希土類元素と置換されることによって形成されている。これにより、主相であるR2T14B相の外殻部における結晶磁気異方性が高められるので、重希土類元素拡散領域12jにおける保磁力が大きくなる。一方、主相であるR2T14B相自体(結晶粒の内部)には重希土類元素は拡散しないので、磁石12において、残留磁束密度の低下を抑制しつつ、保磁力を大きくすることが可能である。
また、第1実施形態では、重希土類元素拡散領域12jを形成する際に、溝部12fの内側面12iと、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部とから重希土類元素を拡散させるように構成されている。そのため、重希土類元素拡散領域12jでは、磁石12における位置に応じて重希土類元素の拡散量に差が生じる。つまり、重希土類元素拡散領域12jにおける重希土類元素の拡散量の分布は、溝部12fの内側面12iに近い部分と、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部とにおいて、重希土類元素の含有量が大きくなるような分布になる。特に、開口端12gの近傍の内側面12iおよび対向面12aには、溝部12fの内側面12iからだけでなく、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部に重希土類元素が拡散することにより、重希土類元素の含有量が他の重希土類元素拡散領域12jよりも特に大きい領域(高濃度領域12k)が形成されている。この高濃度領域12kでは、重希土類元素拡散領域12jの他の領域と比べて、より保磁力が大きくなるように構成されている。
また、従動側回転部2の磁石22については、駆動側回転部1の磁石12と同様の構成を有している。つまり、磁石22は、図3に示すように、回転軸線700を中心とする円環状の形状を有しており、磁石22の内周部22bの内径は、D1であり、磁石22の外周部22cの外径は、D2である。また、磁石22では、N極22dとS極22eとが約45度間隔で互いに隣り合うように配置されており、N極22dとS極22eとの間のニュートラルゾーン(磁化されていない領域)には、溝部22fが約45度間隔で8つ形成されている。この8つの溝部22fは、回転軸線700を中心として、磁石22の内周部22bから外周部22cまで半径方向に延びるように形成されている。また、磁石22の対向面22aにおける溝部22f(開口端22g)の幅W1は、約1mm以上約9mm以下であるとともに、図2に示すように、溝部22fの開口端22gから底部22hまでの長さ(溝部22fのX方向の深さ)L2は、約1mm以上であるように形成されている。また、磁石22は、磁石12と同様のR−T−B系磁石からなる。なお、N極22dおよびS極22eは、本発明の「磁極」の一例である。
また、第1実施形態では、図4に示すように、磁石22の溝部22fの内側面22i近傍と、対向面22aのうちの開口端22gの周辺部とに重希土類元素拡散領域22j(図4においてドットで示される領域)が形成されている。また、重希土類元素拡散領域22jは、N極22dのA2側の端部近傍およびS極22eのA2側の端部近傍(図示せず)に少なくとも形成されている。また、図5に示すように、駆動側回転部1が従動側回転部2に対して相対的にA1方向にずれる場合に、磁石12のS極12eがN極22dと対向している状態からA1方向にずれることにより、N極22dのA2側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域22jは、磁石12のN極12dのA1側の一部とオーバーラップする(図5の細い斜線部)ように構成されている。同様に、磁石12のN極12dがS極22eと対向している状態からA1方向にずれることにより、S極22eのA2側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域22jは、磁石12のS極12eのA1側の一部とオーバーラップする(図5の太い斜線部)ように構成されている。
また、重希土類元素拡散領域22jは、N極22dのA1側の端部近傍(図示せず)およびS極22eのA1側の端部近傍に少なくとも形成されている。また、図6に示すように、駆動側回転部1が従動側回転部2に対して相対的にA2方向にずれる場合に、磁石12のS極12eがN極22dと対向している状態からA2方向にずれることにより、N極22dのA1側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域22jは、磁石12のN極12dのA2側の一部とオーバーラップする(図6の細い斜線部)ように構成されている。同様に、磁石12のN極12dがS極22eと対向している状態からA2方向にずれることにより、S極22eのA1側の端部近傍に形成された重希土類元素拡散領域22jは、磁石12のS極12eのA2側の一部とオーバーラップする(図6の太い斜線部)ように構成されている。
また、重希土類元素拡散領域22jのうち、開口端22g近傍の内側面22iおよび対向面22aには、重希土類元素の含有量が他の重希土類元素拡散領域22jよりも特に大きい領域(高濃度領域22k)が形成されている。
次に、図3、図4および図7を参照して、本発明の第1実施形態によるカップリング装置100の製造方法について説明する。
まず、磁石12および22を形成する。なお、磁石22は、磁石12と同様の製造方法で形成されるので、以下では、磁石12の製造方法についてのみ説明する。
まず、所定の板厚(図示せず)を有する円盤状の磁石体112(図7参照)を準備する。この磁石体112は、約12原子%以上約17原子%以下の主に軽希土類元素RLからなる希土類元素Rと、約5原子%以上約8原子%以下のB(ホウ素)と、残部のFeを主とする遷移元素Tとを含むR−T−B系磁石体からなる。そして、図7に示すように、磁石体112を切削することによって、磁石体112に8つの溝部12fを約45度間隔で形成する。この際、8つの溝部12fを、磁石体112の中心である回転軸線700を中心として、内周部12bから外周部12cまで半径方向に延びるように形成する。
その後、磁石体112の溝部12fおよび対向面12aのうちの開口端12gの周辺部を除く部分に、対向面12a側からマスク130を形成する。そして、磁石体112と、Tb、DyまたはHoの少なくともいずれか1つの重希土類元素からなる拡散源とを処理室(図示せず)に導入する。その後、磁石体112のマスク130が形成された部分を除く部分に、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、重希土類元素を拡散させる。具体的には、磁石体112と拡散源(バルク体)とが至近距離に配置されている処理室内を約700℃以上約1000℃以下に加熱することにより、拡散源から重希土類元素を磁石体112の表面に供給しつつ、重希土類元素を磁石体112の内部に拡散させる。これにより、対向面12a側から拡散源の重希土類元素が拡散されることによって、溝部12fの内側面12i(内側面)と、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部とを介して、重希土類元素を磁石体112の内部に拡散させる。これにより、図4に示すように、磁石12の溝部12fの内側面12i近傍と、対向面12aのうちの開口端12gの周辺部とに重希土類元素拡散領域12jが形成されるとともに、開口端12gの近傍の内側面12iおよび対向面12aに重希土類元素の含有量が他の重希土類元素拡散領域12jよりも特に大きい高濃度領域12kが形成される。
そして、磁石体112の対向面12a側に形成したマスクを除去した後、磁石体112全体にAlまたはNiをコーティングする表面処理を行う。その後、1つの溝部12fを境に異なる磁極(N極およびS極)になるように磁石体112を着磁(磁化)する。これにより、図3に示すように、N極12dとS極12eとが約45度間隔で互いに隣り合うように配置された磁石12が形成される。
その後、上記の方法で形成した磁石12および22を、SS400からなる所定の形状のヨーク11および21にそれぞれ固定する。そして、磁石12と磁石22とが互いに対向するようにヨーク11とヨーク21とを配置した状態で、軸部10および20を、ヨーク11および12にそれぞれ固定する。このようにして、カップリング装置100が製造される。
第1実施形態では、上記のように、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)と、対向面12a(22a)のうちの開口端12g(22g)の周辺部とを介して、重希土類元素を磁石体112の内部に拡散させることにより、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)近傍と、対向面12a(22a)のうちの開口端12g(22g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(22j)を形成することによって、重希土類元素拡散領域12j(22j)により、R−T−B系磁石からなる磁石12(22)の保磁力を大きくすることができるので、対向する磁石22(12)によって発生する外部磁界などに起因する磁石12(22)の減磁を抑制することができる。また、重希土類元素を磁石12(22)に拡散させることによって、残留磁束密度の低下を抑制しつつ、保磁力を大きくすることができるので、保磁力が大きいが残留磁束密度が小さい磁石を用いる必要がない。これにより、カップリング装置100を小型化および軽量化することができる。この結果、カップリング装置100における慣性力を低減することができ、加速時および制動時のトルクをより確実に伝達させることができる。さらに、磁石12(22)に溝部12f(22f)を設けることによって、磁石12(22)の体積が減少される分、磁石12(22)およびカップリング装置100を軽量化することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)近傍と、対向面12a(22a)のうちの開口端12g(22g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(22j)を形成することによって、磁石12(22)の保磁力を大きくする重希土類元素拡散領域12j(22j)を、磁石12(22)の減磁が生じやすい対向面12a(22a)近傍に形成している分、磁石12(22)の減磁を効果的に抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、開口端12g(22g)の近傍の内側面12i(22i)および対向面12a(22a)に、重希土類元素の含有量が他の重希土類元素拡散領域12j(22j)よりも大きい高濃度領域12k(22k)を形成することによって、磁石12(22)の保磁力をより大きくする高濃度領域12k(22k)を、磁石12(22)の減磁が生じやすい対向面12a(22a)近傍に形成している分、磁石12(22)の減磁をより効果的に抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、重希土類元素拡散領域12jを、駆動時に、磁石22のN極22dのA2側の一部とオーバーラップする位置である、N極12dのA1側の端部近傍と、S極22eのA2側の一部とオーバーラップする位置である、S極12eのA1側の端部近傍とに形成するとともに、N極22dのA1側の一部とオーバーラップする位置である、N極12dのA2側の端部近傍と、S極22eのA1側の一部とオーバーラップする位置である、S極12eのA2側の端部近傍とに形成する。また、重希土類元素拡散領域22jを、駆動時に、磁石12のN極12dのA1側の一部とオーバーラップする位置である、N極22dのA2側の端部近傍と、S極12eのA1側の一部とオーバーラップする位置である、S極22eのA2側の端部近傍とに形成するとともに、N極12dのA2側の一部とオーバーラップする位置である、N極22dのA1側の端部近傍と、S極12eのA2側の一部とオーバーラップする位置である、S極22eのA1側の端部近傍とに形成する。これにより、同一の磁極が互いに対向することによる外部磁界に起因して減磁が生じやすい位置に重希土類元素拡散領域12j(22j)を設けることができるので、外部磁界に起因する磁石12(22)の減磁をより効果的に抑制することができる。この結果、磁石12のN極12dと磁石22のS極22eとの対向状態(カップリング)と、磁石12のS極12eと磁石22のN極22dとの対向状態とが、回転方向(A1方向またはA2方向)にずれることに起因してトルクが低下するのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、溝部12f(22f)を、隣接するN極12dとS極12eとの間のニュートラルゾーンに形成することによって、磁極が形成されない領域に溝部12f(22f)を設けることができるので、磁石12(22)におけるN極12d(22d)およびS極12e(22e)の占める領域が小さくなるのを抑制しつつ、重希土類元素を磁石12(22)に拡散するための溝部12f(22f)を磁石12(22)に設けることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、磁石12(22)の対向面12a(22a)(溝部12f(22f)の開口端12g(22g))から溝部12f(22f)の底部12h(22h)までの長さ(X方向の深さ)L2を約1mm以上にすることによって、保磁力を大きくするために必要な最低限の深さ位置における磁石12(22)の部分にまで、溝部12f(22f)を介して重希土類元素を拡散させることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、開口端12g(22g)の幅W1を約1mm以上約9mm以下にすることによって、溝部12f(22f)の幅W1を約1mm未満にすることに起因して重希土類元素が溝部12f(22f)に十分入り込まないという不都合が生じるのを抑制することができる。また、溝部12f(22f)の幅W1を約9mmよりも大きくすることに起因して磁石12(22)におけるN極12d(22d)およびS極12e(22e)の占める領域が小さくなりすぎるのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、R−T−B系磁石が、軽希土類元素RLとして、NdおよびPrの少なくともいずれか一方の元素を主に含むとともに、重希土類元素が、Tb、DyまたはHoからなるグループより選択される少なくともいずれかの重希土類元素からなるからなるように構成することによって、重希土類元素拡散領域12j(22j)において、R−T−B系磁石におけるNdおよびPrの少なくともいずれか一方の軽希土類元素RLの一部を、Tb、DyまたはHoからなるグループより選択される少なくともいずれかの重希土類元素に置換することにより、容易に、磁石12(22)の保磁力を大きくすることができる。
(実施例1)
次に、図2〜図4および図7〜図10を参照して、上記第1実施形態によるカップリング装置100の効果を確認するために行った確認実験について説明する。以下、確認実験として行ったカップリング装置の温度−トルク測定について説明する。
まず、実施例1−1として上記第1実施形態のカップリング装置100を用いた。具体的には、磁石12および22のR−T−B系磁石体として、図2に示すように、5mmの厚みL1と、18.8mmの内径D1と、43.7mmの外径D2とを有するNMX−40CH(日立金属株式会社製)を用いた。なお、溝部および重希土類元素拡散領域を設けない状態で着磁したNMX−40CHの残留磁束密度は、1.21T以上1.30T以下であり、保磁力は、1273kA/m以上である。
また、NMX−40CH(磁石体112(図7参照))に対して、上記磁石12(22)の製造プロセスに基づいて、8つの溝部12f(22f)を45度間隔(図3参照)で形成した。その際、溝部12f(22f)の幅W1(図3参照)を3mmに設定するとともに、溝部12f(22f)の深さL2(図2参照)を4mmに設定した。そして、磁石体112の溝部12fおよび対向面12aのうちの開口端12gの周辺部を除く部分に、対向面12a側からマスク130(図7参照)を形成した。そして、マスク130を形成した磁石体112の対向面12a(主面)が重希土類元素のDyからなる拡散源に対向するように、磁石体112と拡散源とを5mmの間隔を隔てて配置させて、処理室(図示せず)に導入した。
その後、磁石体112のマスク130が形成された部分を除く部分に、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、処理室内を圧力1×10−2Paの真空度にして、850℃に加熱し、その後、Ar雰囲気中で第一熱処理(850℃)を行った。そして、一旦冷却した後さらに第二熱処理(500℃)をすることにより、拡散源からDyを磁石体112の表面に供給しつつ、Dyを磁石体112の内部に拡散させた。これにより、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)およびその近傍に、磁石体112全体で1.0質量%のDyをさらに含むように構成した重希土類元素拡散領域12j(22j)(図4参照)を形成した。その後、磁石体112を着磁することによって、実施例1−1の磁石12(22)を作製した。そして、実施例1−1の磁石12(22)を用いて、実施例1−1のカップリング装置100を作製した。
一方、本実施例1−1に対する比較例1−1として、溝部12fおよび重希土類元素拡散領域12jが形成されていないNMX−40CHからなる一対の磁石212(図8参照)が設けられたカップリング装置(図示せず)を作製した。
また、比較例1−2として、溝部12fが形成されていないNMX−40CHからなる一対の磁石312が設けられたカップリング装置を作製した。具体的には、一対のNMX−40CH(磁石体)の各々において、磁石体の主面(対向面)がDyからなる拡散源と対向するように、磁石体と拡散源とを5mmの間隔を隔てて配置させて、処理室(図示せず)に導入した。そして、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、処理室内を圧力1×10−2Paの真空度にして、850℃に加熱し、その後、Ar雰囲気中で第一熱処理(850℃)を行った。そして、一旦冷却した後さらに第二熱処理(500℃)をすることにより、拡散源からDyを磁石体の表面に供給しつつ、Dyを磁石体の内部(ニュートラルゾーンとその近傍)に拡散させた。これにより、重希土類元素拡散領域(図示せず)を形成し、磁石体全体で1.0質量%のDyをさらに含むように構成した。その後、磁石体を着磁することによって、比較例1−2の一対の磁石312を作製した。そして、比較例1−2の一対の磁石312を用いて、比較例1−2のカップリング装置を作製した。
なお、図8に示すように、比較例1−1の一対の磁石212と比較例1−2の一対の磁石312とを、実施例1−1の磁石12(22)と同様に、5mmの厚み(図示せず)と、18.8mmの内径D1と、43.7mmの外径D2とを有するように構成した。また、一対の磁石212および312では、実施例1−1の磁石12(22)と同様に、N極212d(312d)とS極212e(312e)とを円周方向に沿って45度間隔で互いに隣り合うように配置した。
(温度−トルク測定)
温度−トルク測定について説明する。この温度−トルク測定では、実施例1−1と比較例1−1および1−2との各々において、20℃(室温状態)から温度を上昇させつつ、20℃、50℃、60℃、70℃、85℃、95℃、110℃および120℃の温度条件においてカップリング装置を駆動させた際の、駆動側回転部から従動側回転部に対して伝達可能なトルクの最大値を測定した。なお、トルクは残留磁束密度に比例して大きくなる。すなわち、上記した各温度条件におけるトルクを測定することによって、各々の温度条件下での残留磁束密度を間接的に測定することが可能である。
図9および図10に示した温度−トルク測定の測定結果としては、実施例1−1と比較例1−1および1−2との各々において、20℃では、トルクは2.46(N・m)になり、50℃では、トルクは2.30(N・m)になった。一方、比較例1−1において、60℃では、トルクは2.23(N・m)になり、70℃では、トルクは2.00(N・m)になった。また、比較例1−2において、85℃では、トルクは2.12(N・m)になり、95℃では、トルクは1.90(N・m)になった。また、実施例1−1において、110℃では、トルクは1.97(N・m)になり、120℃では、トルクは1.70(N・m)になった。
これにより、実施例1−1と比較例1−1および1−2とにおいて、20℃(室温)の場合、トルクの値が同一(2.46(N・m))であることが判明した。すなわち、1.0質量%のDyを含む重希土類元素拡散領域を形成した実施例1−1および比較例1−2と、重希土類元素拡散領域を形成しない比較例1−1とにおいて、磁石の残留磁束密度が変化しないことが判明した。この結果、重希土類元素拡散領域を形成した場合においても、重希土類元素拡散領域を形成しない場合と同様の残留磁束密度を得ることができることが判明した。
また、図10に示すように、比較例1−1における70℃での状態(トルク:2.00(N・m))と、比較例1−2における95℃での状態(トルク:1.90(N・m))と、実施例1−1における120℃での状態(トルク:1.70(N・m))とを除く他の温度条件下でのトルク値は、共に一次直線上に略位置した。なお、一次直線上においては、磁石は温度変化に対して所定の割合でトルク値が減少しているので、磁石を室温付近にまで戻した際に、磁石の残留磁束密度は20℃におけるトルク値まで戻る可逆減磁を起こしていると考えられる。一方、上記した一次直線上に位置せずに、一次直線よりも下方に移動したトルク値(比較例1−1における70℃、比較例1−2における95℃および実施例1−1における120℃の各温度条件)においては、磁石は温度変化に対して可逆減磁の場合よりも大きな割合で減少しているので、この状態から磁石を室温付近にまで戻した際に、磁石の残留磁束密度は20℃におけるトルク値に戻らない不可逆減磁を起こしていると考えられる。
これにより、比較例1−1の磁石212においては、温度が60℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。また、比較例1−2の磁石312においては、温度が85℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。また、実施例1−1の磁石12においては、温度が110℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。
この結果、磁石に重希土類元素拡散領域を形成した場合(比較例1−2および実施例1−1)は、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない場合(比較例1−1)と比較して、より高い温度範囲(60℃から85℃までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。これにより、磁石に重希土類元素拡散領域を形成した場合、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない場合よりも磁石全体の保磁力が大きくなり不可逆減磁を起こしにくくなることが判明した。
また、磁石に溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させた場合(実施例1−1)は、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた場合(比較例1−2)と比較して、より高い温度範囲(85℃から110までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。これにより、磁石に溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させた場合、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた場合よりも磁石の保磁力が大きくなり不可逆減磁を起こしにくくなることが判明した。これは、溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させたことによって、磁石の対向面、溝部端部近傍に重希土類元素が多く拡散した高濃度領域が形成されていることによるものであると考えられる。
上記測定結果から、本発明の第1実施形態のカップリング装置100に対応する実施例1−1は、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない比較例1−1、および、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた比較例1−2と比較して、より磁石の保磁力が大きくなるとともに、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない比較例1−1と同一の残留磁束密度が得られるので、カップリング装置に最も適していると考えられる。
(第2実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態のカップリング装置では、上記第1実施形態と異なり、磁石412(422)の溝部412f(422f)をV字状の垂直断面形状を有するように形成した場合について説明する。
本発明の第2実施形態による磁石412(422)の隣接するN極412d(422d)とS極412e(422e)との間のニュートラルゾーンには、溝部412f(422f)が形成されている。この溝部412f(422f)は、共にV字状の垂直断面形状を有している。具体的には、溝部412f(422f)の底部412h(422h)は、約20度以上約90度以下の角度θを有するように形成されている。これにより、開口端412g(422g)から底部412h(422h)に向かって溝部412f(422f)の幅がV字状に小さくなるように、溝部412f(422f)の内側面412i(422i)が直線状に傾斜している。また、溝部412f(422f)の開口端412g(422g)から底部412h(422h)までの長さ(X方向の深さ)は、L2であるとともに、磁石412(422)の対向面12a(22a)における開口端412g(422g)の幅は、W1である。なお、第2実施形態のカップリング装置のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
また、本発明の第2実施形態による磁石412(422)の製造方法は、V字状の垂直断面形状を有するように溝部412f(422f)を形成する点を除いて、上記第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、上記のように、溝部412f(422f)の内側面412i(422i)と、対向面12a(22a)の開口端412g(422g)の周辺部とを介して、重希土類元素を磁石体の内部に拡散させることにより、溝部412f(422f)の内側面412i(422i)近傍と、開口端412g(422g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域412j(422j)を形成することによって、対向する磁石422(412)によって発生する外部磁界などに起因する磁石412(422)の減磁を抑制することができる。また、重希土類元素を磁石412(422)に拡散させることによって、保磁力が大きいが残留磁束密度が小さい磁石を用いる必要がないので、カップリング装置を小型化および軽量化することができる。さらに、磁石412(422)に溝部412f(422f)を設けることによって、磁石412(422)の体積が減少される分、磁石412(422)およびカップリング装置を軽量化することができる。また、溝部412f(422f)の内側面412i(422i)近傍と、対向面12a(22a)の開口端412g(422g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(22j)を形成することによって、磁石412(422)の減磁を効果的に抑制することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、開口端412g(422g)から底部412h(422h)に向かって溝部412f(422f)の幅をV字状に小さくすることによって、溝部412f(422f)の断面積を減少させることができるので、相対的に溝部412f(422f)周辺の磁石412(422)の占める割合(体積的な割合)を増加させることができる。これにより、上記第1実施形態のように溝部12f(22f)が長方形形状の断面形状を有している場合と比べて、磁石412(422)の溝部412f(422f)周辺の強度が向上されるので、回転により発生する遠心力に起因して磁石412(422)の溝部412f(422f)周辺が破損するのを抑制することができる。なお、第2実施形態のカップリング装置のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第3実施形態)
次に、図12を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態のカップリング装置では、上記第1実施形態と異なり、磁石512(522)の溝部512f(522f)の底部512h(522h)を半円状(略U字状)の垂直断面形状を有するように形成した場合について説明する。
本発明の第3実施形態による磁石512(522)の隣接するN極512d(522d)とS極512e(522e)との間のニュートラルゾーンには、溝部512f(522f)が形成されている。この溝部512f(522f)の底部512h(522h)付近は、垂直断面が曲率半径Rで半円状(略U字状)になるように形成されている。また、溝部512f(522f)の開口端512g(522g)から底部512h(522h)の最深部までの長さ(X方向の深さ)は、L2であるとともに、磁石512(522)の対向面12a(22a)における開口端512g(522g)の幅は、W1である。なお、第3実施形態のその他のカップリング装置の構成は、上記第1実施形態と同様である。
また、本発明の第3実施形態による磁石512(522)の製造方法は、溝部512f(522f)の底部512h(522h)を半円状の垂直断面形状を有するように形成する点を除いて、上記第1実施形態と同様である。
第3実施形態では、上記のように、溝部512f(522f)の内側面512i(522i)と、対向面12a(22a)の開口端512g(522g)の周辺部とを介して、重希土類元素を磁石体の内部に拡散させることにより、溝部512f(522f)の内側面512i(522i)近傍と、開口端512g(522g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域512j(522j)を形成することによって、対向する磁石522(512)によって発生する外部磁界などに起因する磁石512(522)の減磁を抑制することができる。また、重希土類元素を磁石512(522)に拡散させることによって、保磁力が大きいが残留磁束密度が小さい磁石を用いる必要がないので、カップリング装置を小型化および軽量化することができる。さらに、磁石512(522)に溝部512f(522f)を設けることによって、磁石512(522)の体積が減少される分、磁石512(522)およびカップリング装置を軽量化することができる。また、溝部512f(522f)の内側面512i(522i)近傍と、対向面12a(22a)の開口端512g(522g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(22j)を形成することによって、磁石512(522)の減磁を効果的に抑制することができる。
また、第3実施形態では、上記のように、溝部512f(522f)の底部512h(522h)を、垂直断面が曲率半径Rで半円状になるように形成することによって、底部512h(522h)の一部に回転によって発生する遠心力が集中して加わることを抑制することができる。これにより、第1実施形態のように溝部12f(22f)が長方形形状の断面形状を有している場合と比べて、遠心力に起因して磁石512(522)の溝部512f(522f)周辺が破損するのを抑制することができる。なお、第3実施形態のカップリング装置のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(実施例2)
次に、図2〜図4、図7〜図9および図11〜15を参照して、上記第1〜第3実施形態によるカップリング装置の効果を確認するために行った確認実験について説明する。以下、確認実験として行ったカップリング装置の温度−トルク測定について説明する。
まず、実施例2−1として上記第1実施形態のカップリング装置100を用いた。具体的には、磁石12および22のR−T−B系磁石体として、図2に示すように、7.5mmの厚みL1と、28.2mmの内径D1と、65.55mmの外径D2とを有するNMX−37SH(日立金属株式会社製)を用いた。なお、溝部および重希土類元素拡散領域を設けない状態で着磁したNMX−37SHの残留磁束密度は、1.17T以上1.26T以下であり、保磁力は、1671kA/m以上である。なお、NMX−37SH(日立金属株式会社製)は、上記実施例1において磁石として用いられたNMX−40CH(残留磁束密度:1.21T以上1.30T以下、保磁力:1273kA/m以上)よりも、保磁力が大きい。
また、NMX−37SH(磁石体112(図7参照))に対して、上記磁石12(22)の製造プロセスに基づいて、8つの溝部12f(22f)を45度間隔(図3参照)で形成した。その際、溝部12f(22f)の幅W1(図3参照)を6mmに設定するとともに、溝部12f(22f)の深さL2(図2参照)を6mmに設定した。そして、磁石体112の溝部12fおよび対向面12aのうちの開口端12gの周辺部を除く部分に、対向面12a側からマスク130(図7参照)を形成した。そして、マスク130を形成した磁石体112の対向面12a(主面)が重希土類元素のDyからなる拡散源に対向するように、磁石体112と拡散源とを6mmの間隔を隔てて配置させて、処理室(図示せず)に導入した。
その後、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、処理室内を圧力1×10−1Paの真空度にして、900℃に加熱し、その後、Ar雰囲気中で第一熱処理(900℃)を行った。そして、一旦冷却した後さらに第二熱処理(450℃)をすることにより、拡散源から磁石体112のマスク130が形成された部分を除く部分の表面にDyを1.5質量%供給しつつ、Dyを磁石体112の内部に拡散させた。これにより、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)およびその近傍に、重希土類元素拡散領域12j(22j)(図4参照)を形成し、磁石体112全体で1.5質量%のDyをさらに含むように構成した。
その後、磁石体112を着磁することによって、実施例2−1の磁石12(22)を作製した。そして、実施例2−1の磁石12(22)を用いて、実施例2−1のカップリング装置100を作製した。
なお、実施例2−1の磁石12(22)は、上記実施例1−1および比較例1−2の磁石12(22、312)(磁石体全体で1.0質量%のDyをさらに含む)と比べて、重希土類元素であるDyをより多く含む(磁石体全体で1.5質量%のDyをさらに含む)ように構成されている。
また、実施例2−2として上記第2実施形態のカップリング装置を用いた。具体的には、図11に示すように、8つの溝部412f(422f)の底部412h(422h)を50度の角度θを有するように、略V字状の垂直断面形状に形成した点以外は、実施例2−1と同様にして、実施例2−2の磁石412(422)を作製した。そして、実施例2−2の磁石412(422)を用いて、実施例2−2のカップリング装置を作製した。
また、実施例2−3として上記第3実施形態のカップリング装置を用いた。具体的には、図12に示すように、8つの溝部512f(522f)の底部512h(522h)を、垂直断面が3mmの曲率半径Rで半円状になるように形成した点以外は、実施例2−1と同様にして、実施例2−3の磁石512(522)を作製した。そして、実施例2−3の磁石512(522)を用いて、実施例2−3のカップリング装置を作製した。
一方、本実施例2−1、2−2および2−3に対する比較例2−1として、溝部12fおよび重希土類元素拡散領域12jが形成されていないNMX−37SHからなる一対の磁石212(図8参照)が設けられたカップリング装置(図示せず)を作製した。
また、比較例2−2として、溝部12fが形成されていないNMX−37SHからなる一対の磁石312(図8参照)が設けられたカップリング装置を作製した。具体的には、一対のNMX−37SH(磁石体)の各々において、磁石体の主面(対向面)とDyからなる拡散源とが対向するように、磁石体と拡散源とを6mmの間隔を隔てて配置させて、処理室(図示せず)に導入した。そして、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、処理室内を圧力1×10−1Paの真空度にして、900℃に加熱し、その後、Ar雰囲気中で第一熱処理(900℃)を行った。そして、一旦冷却した後さらに第二熱処理(450℃)をすることにより、拡散源からDyを磁石体の表面に供給しつつ、Dyを磁石体の内部(ニュートラルゾーンとその近傍)に拡散させた。これにより、重希土類元素拡散領域(図示せず)を形成し、実施例の溝部12fに対応する部分(ニュートラルゾーン)とその近傍とに、磁石体全体で1.5質量%のDyをさらに含むように構成した。その後、磁石体を着磁することによって、比較例2−2の一対の磁石312を作製した。そして、比較例2−2の一対の磁石312を用いて、比較例2−2のカップリング装置を作製した。
また、比較例2−3として、図13に示すように、8つのNMX−37SHが溝部612fを隔てて各々配置された一対の磁石群612を備えるカップリング装置を作製した。具体的には、まず、上記第1実施形態の8つの磁極12d(12e)(図3参照)の各々に対応する形状を有する8つの磁石体を、NMX−37SH(磁石体)を用いて作製した。そして、8つの磁石体と、Dyからなる拡散源とを6mmの間隔を隔てて対向するように配置させて、処理室(図示せず)に導入した。そして、WO2007/102391に開示された方法に基づいて、処理室内を圧力1×10−1Paの真空度にして、900℃に加熱し、その後、Ar雰囲気中で第一熱処理(900℃)を行った。そして、一旦冷却した後さらに第二熱処理(450℃)をすることにより、拡散源からDyを磁石体の表面に供給しつつ、Dyを磁石体の内部に拡散させて、8つの磁石体の全面にあらかじめ重希土類元素拡散を行った。これにより、8つの磁石体の各々に重希土類元素拡散領域612mを形成するとともに、磁石体群全体で1.5質量%のDyをさらに含むように構成した。そして、溝部612fを形成するように、8つの磁石体を6mmの間隔W1を隔ててヨーク11に配置した状態で、ヨーク11と8つの磁石体とを接着剤(図示せず)を用いて固定した。これにより、8つの磁石体からなる磁石体群を作製した。その後、磁石体群を着磁することによって、8つの磁石612lからなる比較例2−3の磁石群612を一対作製した。なお、一対の磁石群612の体積は、実施例2−1の磁石12(22)と同一になるように構成している。そして、比較例2−3の一対の磁石群612を用いて、比較例2−3のカップリング装置を作製した。
なお、比較例2−1の一対の磁石212と比較例2−2の一対の磁石312と比較例2−3の一対の磁石群612とを、実施例2−1の磁石12(22)と同様に、7.5mmの厚み(図示せず)と、28.2mmの内径D1(図3および図8参照)と、65.55mmの外径D2(図3および図8参照)とを有するように構成した。また、実施例2−1の磁石12(22)と同様に、一対の磁石212および312では、N極212d(312d)とS極212e(312e)とを円周方向に沿って45度間隔で互いに隣り合うように配置するとともに、一対の磁石群612では、N極612dとS極612eとを円周方向に沿って45度間隔(図示せず)で互いに隣り合うように8つの磁石612lを配置した。
(温度−トルク測定)
温度−トルク測定について説明する。この温度−トルク測定では、実施例2−1、2−2および2−3と比較例2−1、2−2および2−3との各々において、20℃(室温状態)から温度を上昇させつつ、20℃、80℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃および170℃の温度条件においてカップリング装置を駆動させた際の、駆動側回転部から従動側回転部に対して伝達可能なトルクの最大値を測定した。
図14および図15に示した温度−トルク測定の測定結果としては、実施例2−1、2−2および2−3と比較例2−1、2−2および2−3との各々において、20℃では、トルクは5.41(N・m)になり、80℃では、トルクは4.78(N・m)になった。また、比較例2−1において、110℃では、トルクは4.48(N・m)になり、比較例2−1および2−2の各々において、120℃では、トルクは4.38(N・m)になった。一方、比較例2−1において、130℃では、トルクは3.90(N・m)になった。
また、実施例2−1、2−2および2−3と比較例2−2および2−3との各々において、130℃では、トルクは4.29(N・m)になり、比較例2−2および2−3の各々において、140℃では、トルクは4.19(N・m)になった。一方、比較例2−2において、150℃では、トルクは3.65(N・m)になった。
また、実施例2−1、2−2および2−3と比較例2−3との各々において、150℃では、トルクは4.09(N・m)になった。一方、比較例2−3において、160℃では、トルクは3.53(N・m)になった。また、実施例2−1、2−2および2−3の各々において、160℃では、トルクは4.00(N・m)になり、170℃では、トルクは3.50(N・m)になった。
これにより、実施例2−1、2−2および2−3と比較例2−1、2−2および2−3とにおいて、20℃(室温)の場合、トルクの値が同一(5.41(N・m))であることが判明した。すなわち、1.5質量%のDyを含む重希土類元素拡散領域を形成した実施例2−1、2−2、2−3、比較例2−2および2−3と、重希土類元素拡散領域を形成しない比較例2−1とにおいて、磁石の残留磁束密度が変化しないことが判明した。
また、図15に示すように、比較例2−1における130℃での状態(トルク:3.90(N・m))と、比較例2−2における150℃での状態(トルク:3.65(N・m))と、比較例2−3における160℃での状態(トルク:3.53(N・m))と、実施例2−1、2−2および2−3における170℃での状態(トルク:3.50(N・m))とを除く他の温度条件下でのトルク値は、共に一次直線上に略位置した。なお、一次直線上においては可逆減磁を起こしていると考えられる。一方、上記した一次直線上に位置せずに、一次直線よりも下方に移動したトルク値(比較例2−1における130℃、比較例2−2における150℃、比較例2−3における160℃および実施例2−1、2−2および2−3における170℃の各温度条件)においては不可逆減磁を起こしていると考えられる。
これにより、比較例2−1の磁石212においては、温度が120℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。また、比較例2−2の磁石312においては、温度が140℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。また、比較例2−3の磁石群612においては、温度が150℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。また、実施例2−1、2−2および2−3の磁石12(22、412、422、512、522)においては、温度が160℃よりも高い範囲において、不可逆減磁を起こすと考えられる。
この結果、上記実施例1と同様に、磁石に重希土類元素拡散領域を形成した場合(比較例2−2、2−3、実施例2−1、2−2および2−3)は、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない場合(比較例2−1)と比較して、より高い温度範囲(120℃から140℃までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。また、磁石に溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させた場合(実施例2−1、2−2および2−3)は、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた場合(比較例2−2)と比較して、より高い温度範囲(140℃から160℃までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。
また、磁石に溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させた場合(実施例2−1、2−2および2−3)は、あらかじめ重希土類元素を拡散させた磁石を接着して溝部を形成した場合(比較例2−3)と比較して、より高い温度範囲(150℃から160℃までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。これにより、磁石に溝部を形成した後に重希土類元素を拡散させた場合、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた場合よりも磁石の保磁力が大きくなり不可逆減磁を起こしにくくなることが判明した。これは、比較例2−3では、8つの磁石を接着して溝部を形成する前に、8つの磁石の全面にあらかじめ重希土類元素拡散を行うことによって、8つの磁石において、対向面だけでなくヨークとの接着面にも略均一に重希土類元素が拡散されたため、磁石群の対向面に重希土類元素が多く拡散した高濃度領域が十分に形成されなかったと考えられる。一方、実施例2−1、2−2および2−3では、ヨークに固定した状態の磁石に対向面側から重希土類元素を拡散させたことによって、磁石の対向面に高濃度領域が十分に形成されたと考えられる。この結果、実施例2−1、2−2および2−3の方が、比較例2−3よりも磁石の対向面における保磁力が大きくなったので、不可逆減磁を起こしにくくなったと考えられる。
また、実施例2−1、2−2および2−3において、可逆減磁および不可逆減磁の温度範囲が略同一であることが判明した。これにより、溝部の垂直断面形状に拘わらず、磁石の保磁力はほとんど変化しないことが判明した。
また、上記実施例1−1(図9参照)と比べて、実施例2−1、2−2および2−3は、より高い温度範囲(110℃から160℃までの範囲)においても不可逆減磁を起こさないことが判明した。これは、実施例2−1、2−2および2−3において用いたR−T−B系磁石体(NMX−37SH)が、実施例1−1において用いたR−T−B系磁石体(NMX−40CH)よりも保磁力が大きい点と、実施例2−1、2−2および2−3において用いた磁石が、実施例1−1において用いた磁石よりもDyを多く含む点とによるものであると考えられる。
上記測定結果から、本発明の第1実施形態のカップリング装置100に対応する実施例2−1、本発明の第2実施形態のカップリング装置に対応する実施例2−2および本発明の第3実施形態のカップリング装置に対応する実施例2−3は、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない比較例2−1、磁石に溝部を形成せずに重希土類元素を拡散させた比較例2−2、および、あらかじめ重希土類元素を拡散させた磁石を接着して溝部を形成した比較例2−3と比較して、より磁石の保磁力が大きくなるとともに、磁石に重希土類元素拡散領域を形成しない比較例2−1と同一の残留磁束密度が得られるので、カップリング装置に適していると考えられる。さらに、実施例2−2および2−3のカップリング装置は、実施例2−1のカップリング装置100と同一の保磁力を有しつつ、溝部付近の強度を向上させることができるので、実施例2−1よりもよりカップリング装置に適していると考えられる。
(第4実施形態)
次に、図4、図16および図17を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。この第4実施形態によるカップリング装置800では、上記第1実施形態と異なり、駆動側回転部801を従動側回転部802の半径方向の内側に配置した状態で、駆動側回転部801と従動側回転部802とが半径方向に対向する場合について説明する。
本発明の第4実施形態によるカップリング装置800では、図16に示すように、駆動側回転部801は、従動側回転部802の半径方向の内側に配置されている。また、駆動側回転部801は、回転軸線700を中心とする円筒状に形成されており、軸部810と、軸部810が内周部に挿入された円筒状のヨーク811と、ヨーク811が内周部に挿入された円筒状の磁石812とを含んでいる。また、従動側回転部802は、回転軸線700を中心とする円筒状に形成されており、軸部820と、軸部820にX2側で接続された円筒状のヨーク821と、ヨーク821の内周部に挿入された円筒状の磁石822とを含んでいる。なお、駆動側回転部801は、本発明の「第1回転体」の一例であり、従動側回転部802は、本発明の「第2回転体」の一例である。
また、軸部810、ヨーク811および磁石812は、各々X方向(回転軸線700方向)に延びるように形成されているとともに、軸部820、ヨーク821および磁石822は、各々X方向に延びるように形成されている。また、駆動側回転部801と従動側回転部802とは、共に、回転軸線700を回転中心としてA1方向またはA2方向に回転するように構成されている。
また、図17に示すように、磁石812の外周面812cと磁石822の内周面822bとが、所定の間隔を介して半径方向に対向するように配置されている。すなわち、駆動側回転部801は、従動側回転部802の内側に、互いに半径方向に非接触の状態で対向するように配置されている。
また、磁石812では、円周方向に沿ってN極812dとS極812eとが約45度間隔で互いに隣り合うように配置されている。また、隣接するN極812dとS極812eとの間には、約45度間隔で8つの溝部812fが形成されている。この8つの溝部812fは、磁石812の外周面812cから内周面812b側に向かって、半径方向に所定の深さL2(図4参照)になるように形成されているとともに、図16に示すように、回転軸線700に沿ってX方向に延びるように形成されている。また、溝部812fの外周面812c(外周側開口端812g)における幅は、W1(図4参照)になるように形成されている。
また、図17に示すように、溝部812fの内側面812iと、外周面812cのうちの外周側開口端812gの周辺部とに重希土類元素拡散領域812j(図4参照)が形成されている。この重希土類元素拡散領域812jは、磁石812の溝部812fの内側面812iと、外周面812cのうちの外周側開口端812gの周辺部とからTb、DyまたはHoからなるグループより選択される少なくともいずれかの重希土類元素を拡散させることによって形成されている。また、外周側開口端812gの近傍には、重希土類元素の含有量が他の重希土類元素拡散領域812jよりも大きい領域(高濃度領域812k(図4参照))が形成されている。なお、N極812dおよびS極812eは、本発明の「磁極」の一例である。
また、磁石822では、磁石812と同様に、4つのN極822dと、4つのS極822eと、8つの溝部822fとが形成されている。また、溝部822fは、磁石822の外周面822cから内周面822b側に向かって形成されているとともに、図16に示すように、回転軸線700に沿ってX方向に延びるように形成されている。なお、磁石822には、重希土類元素を拡散させていない。また、8つの溝部822fを設けることによって、磁石822およびカップリング装置800を軽量化することが可能である。なお、第4実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
次に、図16を参照して、本発明の第4実施形態によるカップリング装置800の製造方法について説明する。
まず、磁石812および822を形成する。なお、磁石822は、重希土類元素を拡散させる工程を除いて、磁石812と同様の製造方法で形成されるので、以下では、磁石812の製造方法の一部についてのみ説明する。
まず、円筒状の磁石体(図示せず)を準備する。そして、図16に示すように、磁石体を切削することによって、磁石体に8つの溝部812fを約45度間隔で形成する。この際、溝部812fを、磁石812の外周面812cから内周面812b側に向かって、半径方向に所定の深さになるように形成するとともに、回転軸線700に沿ってX方向に延びるように形成する。なお、第4実施形態のその他の磁石812および822の製造方法およびカップリング装置800の製造方法は、上記第1実施形態と同様である。
第4実施形態では、上記のように、駆動側回転部801および従動側回転部802を、回転軸線700を中心として円筒状に形成し、駆動側回転部801を、従動側回転部802の内側に、互いに半径方向に非接触の状態で対向するように配置し、溝部812fおよび822fを、回転軸線700に沿ってX方向に延びるように形成することによって、駆動側回転部801と従動側回転部802とを同一の回転軸線700上に配置した状態で、各々の磁石812および822を互いに半径方向に対向するように配置して磁気カップリングさせやすくすることができる。また、溝部812fおよび822fを回転軸線700に沿ってX方向に延びるように形成することによって、溝部812fおよび822fを境として、磁石812および822の異なる磁極を円周方向に沿って並べて形成することができる。なお、第4実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1実施形態では、磁石12(22)の溝部12f(22f)を、回転軸線700を中心として、磁石12(22)の内周部12b(22b)から外周部12c(22c)まで半径方向に延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図18に示す第1実施形態の第1変形例のように、溝部の代わりに、スリット部912fを、磁石912の内周面912bよりも外周面912c側の位置から、外周面912cよりも内周面912b側の位置まで、半径方向に延びるように形成してもよい。すなわち、スリット部912fの半径方向の両端部を、それぞれ、磁石912の内周面912bおよび外周面912cまで延びるように形成しないことによって、内周面912bおよび外周面912cから露出しないように構成してもよい。なお、図19に示すように、スリット部912fは、対向面912aから対向面912aとは反対側の裏面(ヨーク11側の面)まで貫通するように構成されている。
また、上記第1実施形態では、磁石12(22)の重希土類元素拡散領域12j(22j)を、N極12d(22d)の回転方向の両側(A1側およびA2側)の端部近傍にそれぞれ形成するとともに、S極12e(22e)の回転方向の両側(A1側およびA2側)の端部近傍にそれぞれ形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図20および図21に示す第1実施形態の第2変形例のように、磁石1012の重希土類元素拡散領域12jを、N極12dの回転方向の一方側(A1側)の端部近傍のみに形成(図20参照)してもよい。また、磁石1012の重希土類元素拡散領域12jを、S極12eの回転方向の一方側(A1側)の端部近傍のみに形成(図21参照)してもよい。これにより、磁石1012を製造する際に、重希土類元素の使用量を減少させることが可能である。
また、上記第1〜第4実施形態では、溝部12f(22f、412f、422f、512f、522f、812f)内に何も配置しない例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図22に示す第1実施形態の第3変形例のように、磁石1112の溝部12f内に、Alやオーステナイト系ステンレス、プラスチックなどの非磁性の補強材1113を埋め込んでもよい。この補強材1113は、溝部12fの形状に合うように略長方形形状の垂直断面形状を有しているとともに、エポキシ系およびアクリル系の樹脂などからなる接着層1114によって、溝部12fの内側面12iおよび底面12hに固定されている。さらに、補強材1113の上端は、磁石1112の対向面12aから突出しないように構成されている。この補強材1113によって、回転により発生する遠心力に起因して変形を起こすような場合でも磁石1112の溝部12f周辺が破損するのを抑制することが可能である。また、補強材1113を非磁性の材料とすることによって、磁束の影響を受けずに溝部12fの強度上の補強を行うことが可能である。
また、上記第2実施形態のように、溝部412f(422f)がV字状の垂直断面形状を有する場合や、上記第3実施形態のように、溝部512f(522f)の底部512h(522h)が半円状の垂直断面形状を有する場合には、補強材を、それぞれ、V字状の垂直断面形状および底部が半円状の垂直断面形状を有するように形成すればよい。また、上記第1実施形態の第1変形例のように、スリット部912fが形成されている場合にも、補強材をスリット部912fの形状に合わせて形成すればよい。
また、図23に示す第1実施形態の第4変形例のように、ヨーク1211、磁石1212および補強材1213に、それぞれ、ねじ穴1211a、ねじ穴1212nおよびねじ挿入孔1213aを形成するとともに、非磁性材からなるねじ1215を用いることによって、接着層を設けずに、ヨーク1211、磁石1212および補強材1213を固定してもよい。これにより、より強固にヨーク1211、磁石1212および補強材1213を固定することが可能である。この際、ねじ1215の頭部がねじ挿入孔1213aから突出しないように構成することによって、第1回転体および第2回転体を近接して配置することが可能である。なお、この第1実施形態の第4変形例のねじ止めにより磁石と補強材とを固定する構成は、溝部に加わる遠心力の大きい大型のカップリング装置においてより有効である。
また、補強材としてエポキシ樹脂などの非磁性材の樹脂を溝部の内部に配置してもよい。この際、接着層を設ける必要がないので、部品点数を削減することが可能である。
また、上記第1実施形態では、溝部12f(22f)の内側面12i(22i)近傍と、対向面12a(22a)のうちの開口端12g(22g)の周辺部とに重希土類元素拡散領域12j(22j)を形成するとともに、上記第4実施形態では、溝部812fの内側面812iと、外周面812cのうちの外周側開口端812gの周辺部とに重希土類元素拡散領域812jを設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、溝部の開口端側の内側面近傍と、開口端の周囲の対向面近傍とにのみ重希土類元素拡散領域を設けてもよい。すなわち、溝部の底部側の内側面および底部に重希土類元素拡散領域を設けなくてもよい。これにより、重希土類元素の使用量を減少させることが可能である。また、重希土類元素拡散領域を磁石の対向面全体に形成してもよい。
また、上記第1〜第4実施形態では、Tb、DyまたはHoの少なくともいずれか1つの重希土類元素からなる拡散源を用いて、重希土類元素を磁石体に蒸着拡散させた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、拡散源は、Tb、DyまたはHoの少なくともいずれか1つの重希土類元素のみからなる必要はなく、不純物として、Ce、La、Nd、Pr、YおよびGdなどからなるグループより選択される希土類元素を含んでいてもよい。
また、上記第1〜第4実施形態では、R−T−B系磁石が約12原子%以上約17原子%以下の希土類元素Rと、約5原子%以上約8原子%以下のB(ホウ素)と、残部のFeを主とする遷移元素Tとを含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、R−T−B系磁石における希土類元素Rとして、重希土類元素RHが含まれていてもよい。なお、希土類元素Rに含まれる重希土類元素RHとして、Tb、DyおよびHoからなるグループより選択される少なくともいずれかの重希土類元素RHのいずれかが含まれるのが好ましい。さらに、重希土類元素RHとして、DyおよびTbの少なくとも一方が含まれるのがより好ましい。また、R−T−B系磁石におけるBの一部は、C(炭素)によって置換されていてもよい。また、Feを主とする遷移元素Tには、CoおよびNiが含まれていてもよい。さらに、R−T−B系磁石は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、PbおよびBiのいずれか1つ以上を約2原子%以下含んでいてもよい。
また、上記第1および第4実施形態では、駆動側回転部1(801)および従動側回転部2(802)に、それぞれ、磁石12(812)および磁石22(822)を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、駆動側回転部または従動側回転部のいずれか一方にのみ磁石を設けるとともに、駆動側回転部または従動側回転部のいずれか他方に、磁石と磁気カップリングした状態で磁石と共に回転可能なヨーク部材またはAl、TiおよびCuなどの導電材料からなる部材を設けてもよい。
また、上記第1および第4実施形態では、磁石12(22、812、822)に8つの磁極を設けるとともに、隣接する異なる磁極の間に溝部12f(22f、812f、822f)を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁石に設ける磁極および溝部の数は、8つ以外の複数個でもよい。この際、予め磁石における磁場解析を行うことによって、溝部の位置を予め設計するのが好ましい。
また、上記第4実施形態では、従動側回転部802の磁石822に外周面822cから内周面822b側に向かって溝部822fを形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、従動側回転部802の磁石822に内周面822bから外周面822c側に向かって溝部を形成してもよい。この際、磁石822の内周面822b側から重希土類元素を拡散させることによって、駆動側回転部801の磁石812と対向する面(外周面812c)側である磁石822の内周面822b側に、重希土類元素拡散領域および高濃度領域を形成することが可能である。
また、上記第4実施形態では、従動側回転部802の磁石822に重希土類元素を拡散させない例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁石822の内周面822bおよび外周面822cから重希土類元素を拡散させてもよい。この際、内周面822b側から拡散する重希土類元素と、溝部822fの底面から拡散して内周面822bに到達した重希土類元素とによって、駆動側回転部801の磁石812と対向する面(外周面812c)側である磁石822の内周面822b側に、重希土類元素拡散領域を形成することが可能である。
また、上記第4実施形態では、従動側回転部802の磁石822に溝部822fを形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、従動側回転部の磁石に重希土類元素を拡散させない場合において、従動側回転部の磁石に溝部を設けなくてもよい。これにより、従動側回転部の磁石に溝部を形成する工程を省略することが可能である。
また、上記第1および第4実施形態では、磁石12(22、812、822)を製造する際に、磁石体を準備した後に溝部12f(22f、812f、822f)を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁石体を焼結する際の金型に予め溝部に対応する部分を形成することによって、磁石体の焼結と同時に、溝部を形成してもよい。
また、上記第2実施形態では、開口端412g(422g)から底部412h(422h)に向かって幅が小さくなるように形成した溝部412f(422f)を、磁石412(422)に設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、対向面から対向面とは反対側の面に向かって幅が小さくなるように形成されたスリット部を、磁石に設けてもよい。