JP5893231B1 - 耐衝突性に優れた船体構造及び船体構造の設計方法 - Google Patents

耐衝突性に優れた船体構造及び船体構造の設計方法 Download PDF

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Abstract

船体構造は、船側部の互いに対向する外板又は内板のうち、ひとつ以上の部材の一部の部位又は全ての部位に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びを有することを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用した船殻構造を有する。更に、前記鋼板を使用した部位(外板、内板)に付随する防撓材に、前記高延性鋼板を使用することが好ましい。

Description

本発明は、特に船側部に衝突された大型船舶において船殻の破口を抑制できる、耐衝突性に優れた船体構造、及び当該船体構造の設計方法に関するものである。
鉱石運搬船や石炭運搬船などのバルクキャリアにおいては、現在でも一重船殻構造(シングルハル)が採用されている。これら船舶からの積荷は海洋を汚染するものはないが、船舶には燃料油なども積載されており、燃料油の流出は海洋汚染を引き起こす。このため、衝突事故などによる船殻の破口を抑制する必要がある。
また、タンカーからの油の流出はさらに顕著に海洋汚染を引き起こすため、国際的な問題になっている。近年、衝突事故などによる油の流出を抑制するため、二重船殻構造(ダブルハル)への切り替えが進みつつある。ダブルハルはシングルハルと比較し、油の漏洩比率が減少しているものの、効果は不十分との指摘もなされている。
荷油タンク数の増加や、ダブルボトムの高さの増加、ダブルサイド間隔の増加によって、船体構造の耐衝突性を向上させることは可能である。しかし、これらの対策は、建造コストやオペレーションコストの増加、搭載効率の低下をもたらす。これに対し、船側外板、船側外板付き防撓材、内板、内板付き防撓材のうち、いずれか一つ以上に、降伏応力と一様伸びの積の値や一様伸びまでのエネルギー吸収量、又は、降伏応力は同等以上で一様伸びそのものを増加させた鋼材を使用する船体構造が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。また、強度及び延性を向上させ、衝突時の衝撃に対する吸収エネルギーを増加させた、船体用鋼板が提案されている(例えば、特許文献2〜6、参照)。
特開2002−87373号公報 特開平11−193438号公報 特開平11−193441号公報 特開平11−193442号公報 特開平11−246934号公報 特開平11−246935号公報
内板に破口を生じるまでのエネルギー吸収量は、一様伸びに支配されるものであるかどうかは自明ではなく、さらに船殻を構成する船側鋼板以外の他の部材(アッパーデッキ、ビルジ、トランス、ストリンガー)が有する船殻の破口抑制へ寄与も明確ではない。
したがって、特許文献1の船体構造には、合理的な船体設計が不可能であるという問題があった。衝突船が被衝突船に側面衝突にすることによって、被衝突船に生じる最終的な破口の抑制を考えると、特許文献1にあるような一様伸びではなく、破断に至るまでの全伸びを考慮することが必要である。
なお、特許文献1では、一様伸びに基づいて定量的に規定した鋼材、すなわち降伏応力と一様伸びの積の値、一様伸びまでのエネルギー吸収量、又は、降伏応力は同等以上で一様伸びそのものをそれぞれ20%以上増加させた鋼材が提案されている。しかし、このように一様伸びを20%増加させても、局部伸びはほぼ変わらないと考えられるため、一様伸びと局部伸びの和である全伸びは、20%弱しか増加しない。したがって、後述する本発明の全伸びの規定には至らず、破口を抑制することはできない。
また、特許文献1は、単に二重船殻構造(ダブルハル)の船体に破口が生じるまでに吸収できるエネルギー量を大幅に増加させることを目的としているため、破口を生じない条件に関しては明確な記載が無く、一重船殻構造(シングルハル)の破口を生じない条件に関しても記載がされていない。
また、特許文献2〜6に記載された鋼板を用いた場合、衝突時の吸収エネルギーを増加できるものの、特許文献1の船体構造と同様に、鋼板が破断する全伸びを考慮しておらず、船殻の破口抑制に改善の余地がある。
また、特許文献2〜6には、船舶同士の衝突事故が起こったときに、船体が破断して穴が開くことを防止或は破断面積を従来の鋼板の場合よりも減少できる旨の記載はあるものの、鋼板としての単体の衝撃吸収性能が記載されているに過ぎなく、実際の船体構造との関係や破口を生じない条件に関しても記載がされていない。
本発明は、このような実情に鑑み、従来と変わらない船体構造のままで、船殻の破口を抑制するように、部材が吸収できるエネルギーを増加させた、耐衝突性に優れた船体構造の提供を課題とするものである。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 船側部の外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たしたことが確認された高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする耐衝突性に優れた船体構造。ここでいう耐衝突性とは、例えば所定の速度で他船の側面衝突を受けても船殻の破口を抑制できる性質をいう。
(2) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする上記(1)に記載の船体構造。
(3) 船側部の内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たしたことが確認された高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする耐衝突性に優れた船体構造。
(4) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする上記(3)に記載の船体構造。
(5) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記部位に付随する防撓材の一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の船体構造。なお、本発明における防撓材とは、外板及び内板を含む船体を構成する板材の撓み・変形を抑制するためのあらゆる部材の総称であり、例えばダブルハルの場合、外板の面内・面外の撓みを抑制するための部材(ロンジ)をいい、例えばシングルハルの場合、面外の撓みを抑制する部材に加えて、主に外板の面外への撓みを抑制するための部材(骨材)をいう。
(6) 更に、ストリンガーの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の船体構造。
(7)更に、アッパーデッキの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の船体構造。
(8)更に、ビルジの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の船体構造。
(9)更に、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の船体構造。
(10) 前記高延性鋼板の板厚は、12mm超、且つ、50mm以下であることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の船体構造。
(11) 船側部の外板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
(12) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)に記載の船体構造の設計方法。
(13) 船側部の内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
(14) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(13)に記載の船体構造の設計方法。
(15) 更に、前記高延性鋼板が使用された前記部位に付随する防撓材の一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれかに記載の船体構造の設計方法。
(16) 更に、ストリンガーの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)〜(15)のいずれかに記載の船体構造の設計方法。
(17)更に、アッパーデッキの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)〜(16)のいずれかに記載の船体構造の設計方法。
(18)更に、ビルジの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)〜(17)のいずれかに記載の船体構造の設計方法。
(19)更に、トランスの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする上記(11)〜(18)のいずれかに記載の船体構造の設計方法。
本発明によれば、大幅なコストの上昇なく、例えば大型船舶の衝突による船殻の破口の発生が抑制される、耐衝突性に優れた船体構造の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
二重船殻構造の部材を説明するための図である。 図1における船側部底部を拡大した図である。 有限要素法による解析の衝突シナリオを説明するための図である。 有限要素法による各部材の吸収エネルギー解析結果の一例を説明する図であり、二重船殻構造の全ての部材が従来鋼である場合の各部材の吸収エネルギーの割合を示す図である。ただし、OS:外板、IS:内板、LongiWeb:防撓材ウエブ部、Longi Face:防撓材フランジ面部、Trans:トランス、STR:ストリンガー、UPDK:アッパーデッキ(上部甲板)、BILGE:ビルジ、T.BHD:トランスバルクヘッド、S.BHD:スワッシュバルクヘッド。ここで、防撓材ウエブ部とは一般に防撓材を構成する部分の中で防撓材が付随する外板あるいは内板に垂直な部分をいい、防撓材フランジ面部とは一般に防撓材を構成する部分の中で防撓材が付随する外板あるいは内板に平行な部分をいう。 有限要素法による各部材の吸収エネルギー解析結果の一例を説明する図であり、二重船殻構造の外板、内板及び防橈材が高延性鋼板である場合の各部材の吸収エネルギーの割合を示す図である。 有限要素法による各部材の吸収エネルギー解析結果の一例を説明する図であり、船体の全ての部材が高延性鋼板である場合の各部材の吸収エネルギーの割合を示す図である。 有限要素法による被衝突船の吸収エネルギー解析結果を説明する図であり、内板に破口が生ずる(荷油流出が生ずる)まで又は衝突が終了した時点までに被衝突船で吸収したエネルギー量の絶対値の比較図である。 有限要素法による内板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、統一規格の全伸びの値の1.3倍である場合の内板の損傷を示す図である。 有限要素法による内板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、統一規格の全伸びの値の1.4倍である場合の内板の損傷を示す図である。 有限要素法による内板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、統一規格の全伸びの値の1.5倍である場合の内板の損傷を示す図である。 有限要素法による内板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、二重船殻構造の外板、内板及び防橈材が統一規格の全伸びの値の1.5倍である場合の内板の損傷の解析結果を示す図である。 一重船殻構造における有限要素法による解析の衝突シナリオを説明するための模式図である。 有限要素法によるバルクキャリアの吸収エネルギー解析結果を説明する図であり、外板に破口が生ずるまでにバルクキャリアで吸収したエネルギー量の絶対値の比較図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が従来鋼である場合の衝突開始から1.4秒後における外板の損傷を示す図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が高延性鋼板である場合の衝突開始から1.4秒後における外板の損傷を示す図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が従来鋼である場合の衝突後6秒後における外板の損傷を示す図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が高延性鋼板である場合の衝突後6秒後における外板の損傷を示す図である。 バルクキャリアに衝突するVLCCの限界衝突速度(バルクキャリアに破口が発生しない限界速度)の比較図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が従来鋼である場合の衝突終了時における外板の損傷を示す図である。 有限要素法による外板の損傷の解析結果の一例を説明する図であり、バルクキャリアの外板及び骨材が高延性鋼板である場合の衝突終了時における外板の損傷を示す図である。
図1及び図2に示すように、油槽の二重船殻構造を構成する主要な部材は、船側外板10と内板11、外板10と内板11にそれぞれ付随する防撓材12、13、トランス14、ストリンガー15、アッパーデッキ16及びビルジ17である。本発明者らは、大型原油タンカー(Very Large Crude oil Carrier、VLCCという)の衝突事故を想定し、二重船殻構造の部材の変形及び変形によって吸収されるエネルギーを有限要素法(FEM)によって求めた。
FEMによる解析では、図3に示すように、衝突船が、停止している被衝突船(VA=0kt)の船体の中央部付近の真横90度から12ktで衝突するシナリオを想定した。解析は、被衝突船の速度(kt)と衝突船の速度VB(kt)が等速になるまで行った。ここで、1ktは、1時間に1海里(1852m)進む速さである。
この12ktは日本国の海上交通安全法施行規則(昭和48年3月27日運輸省令第9号)で制定された東京湾の中ノ瀬航路等での速力の制限である。また、衝突船も被衝突船と同一のVLCCとし、衝突船の載荷状態は、初期運動エネルギーが最も大きく、かつ、慣性力の影響が大きい、満載状態とした。これは、被衝突船にとって最も厳しい衝突シナリオの1つである。そして、被衝突船の船体全ての部材が従来鋼(全伸び17%)の場合(ケース1)、被衝突船の外板、内板及び防橈材(外板付き防撓材及び内板付き防橈材、以下同じ)が高延性鋼板(全伸び27%)の場合(ケース2)、被衝突船の船体全ての部材が高延性鋼板の場合(ケース3)について、FEMによる解析を行い、各部材の吸収エネルギーの割合を求めた。なお、ケース1における全伸び17%は、次のように決定している。すなわち、船舶に多く使用されている鋼板は、板厚が15mm〜20mmであって、且つ後述する国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)における強度の区分が36であるため、当該統一規格で規定された全伸び17%を従来鋼の代表値としている。そして、高延性鋼板を用いた船舶の吸収エネルギー等を把握するために、ケース2及びケース3においては、従来鋼の全伸び17%の1.4倍にあたる23.8%でなく、高延性鋼板の製造のバラツキを考慮して、高延性鋼板の平均的な全伸びが27%と仮定して解析を行った。
ケース1、ケース2及びケース3の解析における、二重船殻構造の部材の変形によって吸収されるエネルギーの割合をそれぞれ図4、図5及び図6に示す。図5及び図6のように、少なくとも、外板、内板及び防橈材に高延性鋼板を適用した場合、これらの吸収エネルギーの割合の合計(OS+IS+Longi Web +Longi Face)が50%を超えることがわかる。一方、図4のように、全ての部材が従来鋼である場合、外板、内板及び防橈材の吸収エネルギーの割合の合計は50%以下となる。したがって、高延性鋼板によってエネルギーを効率良く吸収させる場合、少なくとも外板、内板及び防橈材に高延性鋼板を適用することが好ましいと考えられる。なお、図4〜図6において、外板、内板及び防橈材のうち、防橈材とは、Longi Web及びLongi Faceを表す。また、外板、内板及び防橈材の吸収エネルギーの割合の合計50%とは、OS、IS、Longi Web及びLongi Faceで吸収したエネルギーの総和を表す。高延性鋼板を適用することにより、その高い延性効果によって外板及び内板の破口発生が大幅に遅れることとなる。内板に破口が生ずると荷油が海洋に流出し大規模な海洋汚染となることから、内板破口発生までにできるだけ多くの衝突エネルギーを吸収することが重要となる。ケース1、ケース2及びケース3において、内板破口発生まで又は衝突が終了した時点までに被衝突船で吸収したエネルギーの絶対値の比較を図7に示す。ケース3では内板に破口が生じていないので、衝突が終了した時点までに被衝突船が吸収したエネルギーを示す。図7より、高延性鋼板の適用部材拡大に伴い、荷油流出に至るまでのエネルギー吸収量が大幅に向上できることが分かる。
ここで、ケース3とケース1の吸収エネルギーの差(1816MJ)と、図4の高延性鋼板が適用された外板、内板及び防橈材の吸収エネルギーの割合(50%=0.50)の積(908MJ)に、ケース1の吸収エネルギー(478MJ)を加えて、ケース2の吸収エネルギーを推定すると、1386MJとなる。この値は、有限要素法による解析により得られた吸収エネルギー1393MJ(図7のケース2の吸収エネルギー)と、ほぼ同じ値である。このことから、有限要素法による解析により、高延性鋼板適用率100%と0%の吸収エネルギーと、図4のような高延性鋼板適用率0%(従来鋼100%)の部材毎の吸収エネルギーの割合を予め算出しておけば、高延性鋼板の適用部材を変更した場合の吸収エネルギーを予測できることが判る。
船舶の建造コスト等から高延性鋼板の適用比率が、予め決まっている場合が多い。このような場合、有限要素法による解析により、図4のような従来鋼を使用した場合の部材毎の吸収エネルギーの割合を予め求めておけば、部材毎の吸収エネルギーの割合と当該部材の重量の割合の比から、高延性鋼板の適用部材の優先度(経済性)を評価できる。つまり、この比(=吸収エネルギーの割合/重量の割合)が高い部材から高延性鋼板を適用することにより、高延性鋼板を適用すべき部材を容易に決定することができる。
次に、外板、内板に加えて各々に付随する防撓材、トランス、ストリンガー、上部甲板及びビルジに従来の国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値の1.3倍、1.4倍及び1.5倍の全伸びを有する鋼板を使用した場合の、内板の損傷の解析結果をそれぞれ図8、図9及び図10に示す。図8〜図10は、衝突開始から6秒後の図である。なお、図8〜図10は、船体内部の荷油タンク内側から内板を見た図であり、被衝突船の右舷半分は非表示として表示している。図8に示すように、全伸びの値が1.3倍の場合、内板に破口(内板を縦通する亀裂)が生じている。一方、図9及び図10に示すように、全伸びの値が1.4倍以上になると、内板には破口が生じていない。また、図8では、タンクの下部に複数の亀裂・損傷があるが、図9及び図10では、これらの複数の亀裂・損傷が生じていないことが確認できる。
なお、統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)で規定された全伸びの値は表1の通りである。表1は、板厚とGradeに応じて、使用する船体材料が満足するべき最小の伸び値を規定している。統一規格ではGradeにおけるアルファベット(A、B、D、EおよびF)はシャルピー衝撃試験で要求される試験温度の違いを示し、数字(32、36、および40)は強度の区分を示している。高延性鋼板は、これらの表1で示す全伸びの規格値を上回る伸びを有するので統一規格を満足している。
以上の解析結果、及び、製造コスト、生産性を考慮して、本発明の船体構造の実施形態は次のようになる。
本発明は、船側部の外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用した船体構造である。更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用することが好ましい。
また本発明は、船側部の内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用した船体構造である。更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用することが好ましい。
更に、前記高延性鋼板が使用された前記部位(外板、内板)に付随する防橈材の一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより好ましい。
更に、ストリンガーの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。更に、アッパーデッキの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。更に、ビルジの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。更に、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用することがより一層好ましい。
図7より、前記高延性鋼板を適用する部材が増えるにつれて、エネルギー吸収量の絶対値が増えていくことが分かる。以上より、1つでも多くの部材に前記高延性鋼板を適用することが望ましい。しかしながら、経済性及び効率的エネルギー吸収の観点からは、外板、内板及び防撓材にまず適用することが望ましい。この場合、内板に付随する防撓材への適用は止めて、外板、内板及び外板に付随する防撓材へ適用するバリエーションや外板及び内板に前記高延性鋼板を適用するバリエーションもあり得る。外板及び内板のいずれか片方のみを前記高延性鋼板とする場合には、外板のエネルギー吸収量が内板の吸収エネルギー量より高いため、内板より外板を前記高延性鋼板とすることがより好ましい。しかしながら、内板のみに前記高延性鋼板を使用することを、妨げるものではない。また、船底構造、船首構造、船尾構造に高延性鋼板を使用してもよい。さらに、上部構造(ブリッジ等)に高延性鋼板を使用してもよい。
応力ひずみ曲線において、一様伸び以降もエネルギー吸収は大きいので、本発明では、最終的な破口を抑制するために、部材に使用する鋼材の全伸びを考慮する。前記高延性鋼板を、外板、内板及び防橈材に適用すると、一般的な港湾内での制限速度である12ノットでの側面衝突で、内板に破口が生じない。このように、前記高延性鋼板の適用部材を限定することは、経済的にも合理的である。
このように本発明は、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用するものであるが、高延性鋼板の品質管理上、前記高延性鋼板の現実的な製造目標としては1.5倍又は1.5倍以上としてもよい。前記高延性鋼板の全伸びの平均は、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.5倍程度又は1.5倍以上と看做すことができる。後述する実施例においては、本発明として、この1.5倍を用いた例を示している。なお、前記高延性鋼板の全伸びの仕様として、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上ではなくより高い値、例えば1.5倍以上又は27%以上としても差し支えない。
なお、全伸びの値は、試験片に依存することが知られている。IACSの統一規格で規定された全伸びの値は、GL(標点間距離)=200mm、w(幅)=25mmの平形試験片によるものである。この試験片以外を用いる場合には、公知の方法、例えば、日本海事協会の鋼船規則K編2章の2.2.2及び表K.2.2から下記式(1)の換算式を用いてもよい。
ここで、n:任意の試験片を用いた場合の全伸び、E:GL(標点間距離)=200mm、w(幅)=25mmの平形試験片を用いた場合の全伸び、A:任意の試験片の断面積、L:任意の試験片の標点間距離である。
本発明は、大型船舶に加えて小型船舶にも適用可能であるが、特に大型船舶に適用した場合に効果が大きい。かかる大型船舶に使用される鋼板は、その板厚が12mmより大きく、また50mm以下である。例えば外板や内板には12mm超50mm以下の鋼板が多く使用され、また防撓材には12mm超30mm以下の鋼板が多く使用される。したがって、本発明で用いられる前記高延性鋼板の板厚は、12mm超、且つ、50mm以下であるのが好ましい。さらに言えば、これら大型船舶に使用される鋼板(特に、外板)の板厚は20mm超であることが特に多く、本発明で用いられる前記高延性鋼板は、その適用範囲を板厚20mm超の部材に制限してもよい。なお、鋼板は、原則として、表1に記載のGradeに相当する各船級協会の降伏強度が235MPa以上級(IACSのNormal Strength Steel)、315MPa以上級(IACSの強度区分32)、355MPa以上級(IACSの強度区分36)、390MPa以上級(IACSの強度区分40)の船体構造用鋼板とする。鋼板の引張強さは、原則として、400MPa以上660MPa以下とする。
本発明の効果は、効果が特に大きいVLCCで具体的に示したが、例えば、図5で示したように、外板だけでも衝突時の吸収エネルギーの30%近くを担保すること、並びに、外板の吸収し得るエネルギー量の絶対値を考慮すると、破口後、沈没までの時間が短く、同じく衝突安全性が厳しく問われるバルクキャリア(鉱石運搬船)等の一重船殻構造(シングルハル)に適用しても、破口抑制の効果を発揮するものである。なお、本発明の請求の範囲においては、外板と内板という2つの部材を区別している。一重船殻構造の場合、外板は内板でもあると看做せる(逆に、内板は外板でもあると看做せる)ため、一重船殻構造の場合も本発明の技術的範囲内である。また言うまでもなく、このようなバルクキャリア等の被衝突時の破口により油漏洩が危惧されるその燃料油タンク部(船体が基本的に一重船殻構造であっても、多くの場合、当該燃料油タンク部は、外板と内板にて囲まれた(局部的な)二重船殻構造となっている。)に適用すれば、破口を抑制し、油漏洩の抑制効果を有する。なお、一重船殻を有する船舶でも、前記高延性鋼板を使用した場合、船速、衝突角度に依存するものの、衝突時に破口を生じない可能性は高くなる。換言すれば、船殻に破口を生じない衝突速度を引き上げることができる。あるいは衝突時に破口が生じたとしても、その破口を極めて小さくすることができる。このため、衝突安全性を向上させることができる。
IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上という全伸びは非常に高い値であり、この高い全伸びを満足するような特殊な製造方法で鋼板を製造しないと満足させることができないレベルである。しかしながら、全伸び値は、ある程度のバラツキがある。このため、通常の製造方法で鋼板を製造した際に、偶然にもIACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸び特性を持つ鋼板ができ、その鋼板が(意図せず)偶然に船殻構造に使用されるケースが、考えられる。しかしながら、このようなケースは、本発明の技術的範囲に属さない。本発明を実施するためには、破口を抑制する必要がある船側鋼板部材を特定し、当該部材に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用する必要がある。特に外板又は内板においては破口を抑制する必要がある部位まで特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用する必要がある。具体的には、鋼板仕様書等にてIACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸び値が要求され、(その仕様書に合致するように製造され、その後の引張試験で測定された)全伸びがIACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上であることが確認された鋼板のみを使用することを意図している。つまり、破口を抑制する必要がある部材を特定し、当該船側鋼板部材に使用する鋼板に、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びを有することを仕様として課せられ且つ前記仕様を満たすことが確認された高延性鋼板を使用する船体構造の設計方法を意図している。このような意図した船体構造の設計方法の結果、このようなIACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上であることが確認された鋼板のみが、船殻構造の特定の船側鋼板部材(破口を抑制する必要がある部材)に使用された船殻構造を有することを特徴とする船体構造を得ることができる。
なお、船体構造に用いられる鋼板は、IACSの統一規格に準拠した各船級協会の規格を満たす必要がある。このため、各船級協会の規格で規定された頻度で引張試験が行われる。通常、その試験結果が、鋼材仕様書等を満たす鋼板のみが各製鉄会社の検査に合格と判定され、その引張試験結果等が鋼材検査証明書等に記載される。鋼材検査証明書等は、各船級協会の検査員の確認を受けたのち、製鉄会社から発注した造船会社に引き渡される。
本発明において、「IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍が仕様として課せられ」とは、鋼板仕様書等にて、IACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びの値が要求されることを意図している。造船会社と製鉄会社との鋼材取引き等のコンピューター処理化が進んでおり、鋼板仕様書等の書面の送付等を行わない場合も多い。本発明においては、データの電送などの書面によらない方法で、仕様として課されてもよい。また、「前記仕様を満足することが確認できた」とは、少なくとも各船級協会の規格で規定された頻度で引張試験が行われ、各製鉄会社の検査で、その結果で測定された全伸びの値がIACSの統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上であることが確認されることを意図している。この確認は、一般的には、各製鉄会社内のコンピュータシステムにより行われる(例えば、試験結果が鋼板仕様書等の要求値を満たしているか否かが、コンピュータシステムにより判定される)。
破口を抑制する必要がある船側鋼板部材(外板又は内板においては破口を抑制する必要がある部位)は、船殻構造の設計者の耐衝突安全性に対する考え方によるが、船舶の種類に大きく依存する。例えば、バルクキャリアにおいては、バラストタンクがなく船倉が外板1枚の部位(つまり、内板がない部位)を、破口を抑制する必要がある外板と特定し、当該部位の外板に前記高延性鋼板を使用してもよい。あるいは、燃料タンクの一部となる外板がある部位を、破口を抑制する必要がある外板と特定し、当該部位の外板に前記高延性鋼板を使用してもよい。
また、例えばタンカーにおいては、製品油(原油タンカーの場合には、原油)が貯蔵されているタンクがある部位(内板の部位)に対向する外板を、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。この場合、当該部位は、外板の高さ方向及び長さ方向にほぼ全体の部位となり、その部位の外板に前記高延性鋼板を使用することになる。船殻設計者の耐衝突安全性に対する考え方にもよるが、前記高延性鋼板を使用した前記外板に対向する内板にも、前記高延性鋼板を使用してもよく、前記外板及び前記内板に付随する防撓材の一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用してもよい。
また、例えば球形タンク方式のLNG船においては、LNGが貯留されている球形タンクが最も近接する船側外板の部位を、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。この場合、タンクは球形であるため、当該部位は、平面視及び側面視においてタンク全体をカバーする部分である必要はなく、タンクが最も近接する部分のみでよい。そして、特定された部位の外板に前記高延性鋼板を使用してもよい。必要に応じて、球形タンクが最も近接する船側外板の周辺の部位も、破口を抑制する必要がある外板と特定してもよい。
また、船舶の種類によらず、前記外板、前記内板及び前記防撓材に加え、ストリンガーの一部又は全部、アッパーデッキの一部又は全部、ビルジの一部又は全部、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用してもよい。
以上の方法は、船殻の設計図面から、破口を抑制する必要がある部材を特定する方法である。有限要素法による各部材の吸収エネルギー解析を行って、破口を抑制する必要がある部材を特定してもよい。例えば、従来鋼の場合の部材毎の吸収エネルギーの割合を示す図4を用いて、最も吸収エネルギーが高い外板を破口を抑制する必要がある部材と特定し、外板に前記高延性鋼板を使用してもよい。また、図4〜図7の解析結果とそれぞれの建造コストの比較から、外板及び内板を破口を抑制する必要がある部材と特定し、外板及び内板に前記高延性鋼板を使用してもよい。同様に、図8〜図10と後述の図11の解析結果とそれぞれの建造コストの比較から、外板及び内板を破口を抑制する必要がある部材と特定した上で、更に外板及び内板を破口を特に抑制する必要がある部材と特定し、外板、内板及び各々に付随する防橈材に前記高延性鋼板を使用してもよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
先ず、本発明を二重船殻構造(ダブルハル)に適用した場合の効果について説明する。図1に示す部材のうち、外板、内板及び各々に付随する防橈材に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11)で規定された全伸びの値の1.5倍の全伸びを有する鋼板を使用した場合を想定し、図3に示す衝突シナリオで、内板の損傷をFEMで解析した。その結果、図11に示すように、内板のき裂進展や大破口には至らないことが明らかになった。
次に、本発明を一重船殻構造(シングルハル)に適用した場合の効果について説明する。本発明者らは、VLCCがシングルハルのバルクキャリアに衝突した事故を想定し、バルクキャリアの部材の変形及び変形によって吸収されるエネルギーをFEMによって求めた。
FEMによる解析では、図3に示したように、VLCCが、停止しているバルクキャリア(VA=0kt)の船体の中央部付近の真横90度から12ktで衝突する厳しいシナリオを想定した。具体的には、図12に示すようにVLCCの船首を一重船殻構造のバルクキャリアの外板20に衝突させ、衝突後6秒まで解析を行った。この衝突箇所は外板の破口に対して厳しい衝突位置であると想定される。なお、図12では、バルクキャリアの右舷半分は非表示として表示している。
そして、バルクキャリアの船体全ての部材が従来鋼(全伸び17%)の場合(ケース4)、バルクキャリアの外板20及び外板20に付随する骨材21が高延性鋼板(全伸び27%)の場合(ケース5)について、FEMによる解析を行った。骨材21は、外板20に付随して設けられ、当該外板20の面外の撓みを抑制するための防撓材である。なお、ケース4における全伸び17%は、IACSの統一規格で規定された全伸びの下限値である。そして、ケース5における全伸び27%は、ケース4における全伸び17%の1.5倍に相当する。
ケース4及びケース5の解析において、外板破口発生までにバルクキャリアで吸収したエネルギーの絶対値の比較を図13に示す。図13より、バルクキャリアの外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を適用することによって、外板の破口発生までのエネルギー吸収量を大幅に向上できることが明らかになった。
また、ケース4及びケース5の解析における外板の損傷の解析結果を図14〜図17に示す。なお、図14〜図17は、バルクキャリアの外側から外板を見た図である。
図14及び図15は、衝突開始から1.4秒後におけるケース4及びケース5の図である。図14に示すように、外板と骨材(防撓材)に従来鋼を用いた場合、外板に破口(外板を縦通する亀裂)が生じている。一方、図15に示すように、外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を用いた場合、外板に破口が生じていない。
図16及び図17は、バルクキャリアの速度(kt)とVLCCの速度VB(kt)が等速になった際の図であり、本解析では衝突開始から6秒後の図である。図16に示すように、外板と骨材(防撓材)に従来鋼を用いた場合、外板が大きく損傷している。一方、図17に示すように、外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を用いた場合、外板に破口が生じるものの、その外板の損傷度合は従来鋼を用いた場合に比べて小さい。以上より、バルクキャリアの外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を適用することにより、外板の破口発生を大幅に遅らせられることができ、またその破口を小さくできることが明らかになった。
さらに本発明者らは、図13に示したバルクキャリアで吸収したエネルギーに基づいて、VLCCの限界衝突速度を算出した。限界衝突速度は、バルクキャリアの外板に破口が発生する際の速度であって、換言すれば、外板に破口を発生させない限界の速度である。
図18は、ケース4及びケース5におけるVLCCの限界衝突速度の推定値を示す。ケース4では、VLCCの速度が3ktを超えるとバルクキャリアの外板に破口が発生するが、ケース5では、VLCCの速度が5ktまで上がってもバルクキャリアの外板に破口が発生しなかった。これにより、バルクキャリアの外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を適用することによって、限界衝突速度が大幅に向上することが明らかになった。
この点、本発明者らは、VLCCが、停止しているバルクキャリア(VA=0kt)の船体の中央部付近の真横90度から5ktで衝突するシナリオを想定し、FEMによる解析も行った。この解析では、上述した図12〜図17で行った解析と比較して、VLCCの速度が異なるが、その他の条件は同じである。
図18及び図19は、バルクキャリアの速度VA(kt)とVLCCの速度VB(kt)が等速になった際の図であり、本解析では衝突開始から6秒後の図である。図19に示すように、バルクキャリアの外板と骨材が従来鋼(全伸び19%)である場合、外板に破口が発生した。一方、図20に示すように、バルクキャリアの外板と骨材が高延性鋼板(全伸び28.5%)である場合、外板に破口は発生しなかった。なお、解析を行ったバルクキャリアの外板等は、IACSの強度の区分が36であり且つ板厚が25mm〜30mmであった。このため、表1により従来鋼の全伸び19%として、高延性鋼板の全伸びはその1.5倍の28.5%として、解析を行った。
高延性鋼板の適用範囲を板厚20mm超の部材に制限する場合、高延性鋼板の全伸びは、製造バラツキを考慮して27%を超えることが望ましい。この点は、二重船殻構造についても同様である。
ここで、例えば日本船舶海洋工学会講演会論文集 第17号 論文番号 2013A−GS10−4 「海難審判庁裁決録に基づく我が国沿岸の船舶の衝突事故データベース構築とその類型化について」に記載されたデータによれば、衝突船の速度が5kt以下における衝突事故の発生頻度は衝突事故全体の約20%である。本データは、バルクキャリア以外の船種も含むが、概して、大型のバルキャリアについて、同程度の発生頻度を仮定すると、バルクキャリアの外板と骨材(防撓材)に高延性鋼板を適用することで、バルクキャリアを被衝突船とする事故の約20%の衝突事故において外板に破口が発生するのを抑制できることが分かった。これは衝突による人命や積荷の損害防止、海洋環境の保護を考慮すれば、十分経済合理性に適っている。
次に、Yasuhira Yamada, Hisayoshi Endo及びPreben
Terndrup Pedersenらの論文「Effect of Buffer Bow Structure in
Ship-Ship Collision」International Journal of Offshore
and Polar Engineering, Vol.18 No.2, 2008, p. 1-9より、上述した限界衝突速度の算出方法について以下の式(2)から(4)に従って説明する。算出条件として、図3に示したように、衝突船(B船)が、停止している被衝突船(A船)の船体の中央部付近の真横90度から衝突するものとする。限界衝突速度の算出に際しての各パラメータは以下のとおりである。
VA:被衝突船速度(=0)
VB:衝突船速度
MA:被衝突船排水量(付加水質量込み)
MB:衝突船排水量(付加水質量込み)
Es:衝突終了までに船体運動以外で被衝突船が吸収したエネルギー
そして、衝突直前及び衝突後において、運動エネルギー保存則及び運動量保存則を適用する。ここで、限界衝突速度で衝突した場合には、衝突後の両船の速度は等しくV’となると仮定する。また、船体の剛体回転運動はないものとする。かかる場合、運動エネルギー保存則より下記式(2)が導出され、運動量保存則より下記式(3)が導出される。
上記式(2)と式(3)からV’を消去して、VBについて解くと下記式(4)が得られる。そして、この式(4)におけるEsが、限界衝突速度で衝突した場合に、衝突終了までに船体運動以外で被衝突船が吸収したエネルギーEs,crである場合、当該Es,crに基づいて限界衝突速度VB,crが算出される。
なお、本発明では図18に示した限界衝突速度を算出するにあたっては、被衝突船を固定し(MA=∞)、上記式(4)を下記式(5)に簡略化して、限界衝突速度VB,crを算出している。

本発明は、船体構造において優れた耐衝突性が重要である船舶に有用である。
10 外板
11 内板
12 外板に付随する防撓材
13 内板に付随する防撓材
14 トランス
15 ストリンガー
16 アッパーデッキ
17 ビルジ
20 外板
21 骨材(防撓材)
22 アッパーデッキ
23 防撓材
24 ビルジ
25 トランス

Claims (20)

  1. 船側部の外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)に準拠した規格を満たし、前記IACSの前記統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ、且つ前記仕様を満たしたことが確認された、強度区分32、36または40の高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする船体構造。
  2. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする請求項1に記載の船体構造。
  3. 船側部の内板の一部の部位又は前記内板の全ての部位に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)に準拠した規格を満たし、前記IACSの前記統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ、且つ前記仕様を満たしたことが確認された、強度区分32、36または40の高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする船体構造。
  4. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の一部の部位又は前記外板の全ての部位に、前記高延性鋼板を使用した船殻構造を有することを特徴とする請求項3に記載の船体構造。
  5. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記部位に付随する防撓材の一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の船体構造。
  6. 更に、ストリンガーの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の船体構造。
  7. 更に、アッパーデッキの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の船体構造。
  8. 更に、ビルジの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の船体構造。
  9. 更に、トランスの一部又は全部に、前記高延性鋼板を使用したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の船体構造。
  10. 前記高延性鋼板の板厚は、12mm超、且つ、50mm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の船体構造。
  11. 前記高延性鋼板の板厚は、25mm超、且つ、50mm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の船体構造。
  12. 船側部の外板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)に準拠した規格を満たし、前記IACSの前記統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ、且つ前記仕様を満たすことが確認された、強度区分32、36または40の高延性鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
  13. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記外板に対向する内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12に記載の船体構造の設計方法。
  14. 船側部の内板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、国際船級協会連合(IACS)の統一規格(Unified Requirement W11 Rev.8 2014)に準拠した規格を満たし、前記IACSの前記統一規格で規定された全伸びの値の1.4倍以上の全伸びが仕様として課せられ、且つ前記仕様を満たすことが確認された、強度区分32、36または40の高延性鋼板を使用することを特徴とする船体構造の設計方法。
  15. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記内板に対向する外板の中で、破口を抑制する必要がある部位を特定し、当該部位に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項14に記載の船体構造の設計方法。
  16. 更に、前記高延性鋼板が使用された前記部位に付随する防撓材の一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の船体構造の設計方法。
  17. 更に、ストリンガーの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12〜16のいずれか一項に記載の船体構造の設計方法。
  18. 更に、アッパーデッキの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12〜17のいずれか一項に記載の船体構造の設計方法。
  19. 更に、ビルジの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12〜18のいずれか一項に記載の船体構造の設計方法。
  20. 更に、トランスの一部又は全部に使用する鋼板に、前記高延性鋼板を使用することを特徴とする請求項12〜19のいずれか一項に記載の船体構造の設計方法。
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