本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
<実施例A>
図1ないし図4を用いて実施例のACインレットについて説明する。図1ないし図4はそれぞれ、ACインレット140の外観を示す斜視図、側断面図、平断面図および底断面図である。
図1において、電源ケーブルが差し込まれるACインレット140は、電源ケーブルを通じて外部から電流を入力する一対の入力端子101a,101bと、アース入力端子102と、絶縁部材103と、電源源ケーブルを抜き取る方向において絶縁部材103よりも後方に配置されたシールドケース116を備えている。シールドケース116には、コネクタ接続用の窓部141が設けられている。窓部141を通じて、電流、電圧または電力の検知結果を出力するためのケーブルがコネクタに142接続される。絶縁部材103は、第1入力端子101a,第2入力端子101bと、アース入力端子102とを保持する端子保持部である。実施例において、絶縁部材103は、包囲する筒状の絶縁部材である。
図2において、ACインレット140の前側には、電子機器の外部からの電源を受け取る一対の入力端子101a,101bと、アース入力端子102が設けられている。絶縁部材103は、たとえば、絶縁性の樹脂部材で形成されており、電源ケーブルのプラグが挿抜されるソケット部(レセプタクル部)を構成している。入力端子101a,101b、アース入力端子102、および、絶縁部材103の寸法等は、たとえば、国際規格であるIEC60320−1スタンダード・シートC14に定められている。もちろん、この規格に合致していることは、本発明にとって必須ではない。
ACインレット140の後ろ側には、一対の入力端子101a,101bにより入力された電流をシールドケース116の外部に出力する一対の出力端子104a,104bが設けられている。一対の出力端子104a,104bから出力された電流が画像形成装置や画像読取装置などの電子機器の電源部に供給される。なお、ACインレット140は、電源部に直接的に実装されていてもよいし、電子機器の筐体に実装されていてもよい。
図2が示すように、ACインレット140には、シールドケース116の内部を複数の部屋に仕切る仕切り部材110が設けられている。仕切り部材110は、たとえば、絶縁体で且つ非磁性体であり、交流側(1次側)と直流側(2次側)とを絶縁する部材である。仕切り部材110は、図2が示すように、一対の入力端子101a,101bの底面側の端部が構成する面と平行であれば、シールドケース116の内部におけるスペースの効率が良い。
仕切り部材110によってシールドケース116の内側は第1の空間(第1の部屋107)と第2の空間(第2の部屋111)とに仕切られる。第1の部屋107は、一対の入力端子101a,101bと一対の出力端子104a,104bとを接続する一対の電流路106a,106bが配置されている。一対の入力端子101a,101bと一対の出力端子104a,104bは、たとえば、銅または銅合金により一体成型した部材である。入力端子101a,101bと電流路106a,106bは、たとえば、半田108で電気的に接続される。入力端子101a,101bと、電流路106a,106bとが相互に嵌合するような形状に加工されていてもよい。また、入力端子101a,101bと、電流路106a,106bとが相互に嵌合した後で、半田108によって半田付けされてもよい。図3が示すように、電流路106a,106bは、仕切り部材110の上面側に接着剤114によって固定されている。
仕切り部材110によって確定される第2の部屋111には、磁気検知素子109や、電流、電圧、電力などを計算するマイクロプロセッサ143など、直流電流を供給されて動作する弱電部品が実装されている。また、第2の部屋111には、導体115が設けられている。導体115は、筒状の絶縁部材103に包囲されたアース入力端子102と、シールドケース116の外部に露出したアース出力端子105とを接続する導体である。導体115は、シールドケース116に電気的に接続されている。これにより、シールドケース116は、電磁波ノイズや磁界から内部の回路を保護するシールドとして機能しやすくなる。
磁気検知素子109は、回路基板112に実装されており、電流路106aから発する磁界を検知することで、電流路106aに流れる電流を検知する。なお、磁気検知素子109を動作させるためには、別途、直流電源が必要となる。磁気検知素子109は、電流路106aからの磁界を直接検知するため、マイクロテスラオーダーの磁界が検知できる高感度の磁気センサが採用されてもよい。たとえば、特許文献1や特許文献2に示されているような、磁気インピーダンス素子、フラックスゲートセンサ、または、巨大磁気抵抗素子が採用されてもよい。
図4が示すように、磁気検知素子109の磁界検知方向は矢印mの方向である。磁気検知素子109は、仕切り部材110を挟んで、電流路106aに対向するように、回路基板112の上に実装される。
電流路106aから発生する磁界は電流路106aに流れる電流量と磁気検知素子109との距離に依存する。よって、磁気検知素子109に適した磁界範囲になるように、上記の距離を定める。また、電流路106a,106bは互いに逆方向へ電流が流れる。よって、それぞれの影響を考慮して、磁気検知素子109の置く位置を設定する。
磁気検知素子109の寸法関係を維持するために、電流路106a,106bを仕切り部材110に固定する。さらに回路基板112は、仕切り部材110に取り付けられた脚部材である高さ規制凸部113によって支持される。これにより、磁気検知素子109は、電流路106a,106bに対して、距離変動が制限されるため、ばらつきの少ない電流センサが実現できる。
実施例Aでは、電流路106a,106bを接着剤114で仕切り部材110に固定しているが、仕切り部材110に使われる樹脂材に圧入嵌合させるか、一体的にインサート成型してもよい。
実施例Aでは、磁気検知素子109が回路基板112に実装されている。しかし、端子が出ている磁気検知素子109は、回路基板112を介さなくとも、直接的に仕切り部材110に接着されても良い。
回路基板112の入出力はコネクタ142を介して行われる。ACインレット140の前側は入力端子101a,101bなどが占有し、後ろ側の面は出力端子104a,104bなどが占有している。さらに、絶縁するための距離をとる関係から、それ以外の側面(上面、底面、左側面または右側面)に、コネクタ142用の窓部141が設けられていてもよい。
高感度の磁気検知素子109を使う場合、ACインレット140の前面を除いた他の面にシールドケース116を被せておく。実施例Aのシールドケース116は、鉄系の材料で深絞り加工をされている。しかし、シールドケース116は、パーマロイ等の高透磁率を有する薄板で箱状に形成されていてもよい。
ところで、ACインレット140は、レセプタクルと電流検知装置から構成されている。レセプタクルは、一対の入力端子101a,101bと、アース入力端子102と、絶縁部材103とから構成されている。レセプタクルは、規格化されており、市場において複数のメーカーから入手可能である。そこで、実施例Aで説明したACインレット140のうち電流検知装置の部分だけを実施してもよい。この場合、レセプタクルの部分を自由に選択して購入し、電流検知装置を後付けでレセプタクルに接続することで、ACインレット140を完成させることができる。
このように、本実施例によれば、絶縁部である仕切り部材110の一方面側に電流路106a,106bを配置し、仕切り部材110の他方面側に磁気検知素子109を配置している。つまり、電流路106a,106bを流れる交流から、磁気検知素子109を仕切り部材110によって保護することができる。なお、仕切り部材110の一方面と他方面は電源ケーブルの差込方向に沿って仕切り部材110に形成された2つの面(交流側の面と、直流側の面)に相当する。また、磁気検知素子109を交流から保護できるため、ACインレットを小型化できるのである。なお、仕切り部材110は、絶縁部材103の出力端子側の端部に取り付けられていてもよいし、仕切り部材110は絶縁部材103と一体に構成されていてもよい。後者の場合、仕切り部材110は絶縁部材103から出力端子側に突出するように成形されることになろう。
電子機器は、電源部を備えているため、その電源部で電流や電力を検知できれば便利である。しかし、電源回路基板は絶縁のために沿面距離を十分に取る必要がある。そのため、弱電系のセンサやマイコンを高密度に実装できず、以外とスペースを要してしまう。また、電源部のトランスから漏洩する磁界の影響により、電流センサが正確に動作しない恐れもある。さらに、電力演算をするマイコンが電源部からのノイズにより誤動作する恐れもある。すなわち、電源回路基板上へ電流や電力の検知回路を組み込むには各種の制約が生じ得る。そこで、装置内の電源部と、商用交流電源などの電源コンセントに接続されるケーブルとを結ぶために装置の外周部に設けられるACインレットにおいて、このACインレットと検知回路とを一体にできれば、省スペース化につながることを見出した。
つまり、本実施例によれば、筒状の絶縁部材103の後方に設けたシールドケース116の内部に電流を検知する磁気検知素子109が実装された、ACインレット140が提供される。とりわけ、シールドケース116によって、電子機器が備える電源部からの磁界やノイズの影響が低減する。また、シールドケース116の内側は、仕切り部材110によって複数の部屋に仕切られている。第1の部屋107は、一対の電流路106a,106bが通過する。第2の部屋111には磁気検知素子109が設けられている。このように、第2の部屋111に電流を検知する磁気検知素子109を配置しているため、ACインレット140の省スペース化を実現している。
仕切り部材110を絶縁体で且つ非磁性体の材料で形成することで、一次側と二次側との絶縁距離を十分に確保できる。とりわけ、第2の部屋111には、直流電流を供給されて動作する弱電部品をまとめて実装しているため、弱電部品を交流から保護することができる。
また、第2の部屋111において仕切り部材110に脚部材を取り付け、それによって回路基板112を支持し、その回路基板112に磁気検知素子109を備えている。これにより、電流測定対象である電流路106aに対して磁気検知素子109を精度よく位置決めできる。また、これにより、電流の測定精度も高まることになろう。また、第2の部屋111の内部をアース用の導体115が通過する。これは、電流路106a,106bとアース用の導体115との間にある小さな空間に仕切り部材110を配置することを意味する。このような配置は、少なくとも電流検知機能を備えたACインレット140を小型化するうえで役に立っている。なお、本実施例では、仕切り部材110によってシールドケース116の内部を区切って1次側の部屋と2次側の空間とを形成した構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば、シールドケースを設けず、一対の入力端子を保持する絶縁部材(端子保持部)の端部(具体的には端面の中央部)から絶縁部を突出して設けた構成としてもよい。この場合には、絶縁部の一方面(電源ケーブルの差込方向に沿った一方面)に電流路を設け、絶縁部の他方面(電源ケーブルの差込方向に沿った他方面)に磁気検知素子を設けるようにすればよい。このような構造とすることで、更なる省スペース化を実現できる。また、上述した絶縁部を端子保持部の端部から一対の出力端子側に突出して一体的に設けるようにすれば、一体的に成型できて好ましい。また、上述した本実施例においてはシールドケース116で全体を覆った構造を例示した。しかし、シールド機能を持たないケースで覆った構造としてもよい。あるいは、上述した端子保持部の端部周縁を出力端子側に筒状に延設することで、電流路や磁気検知素子等の機能部を端子保持部の一部で覆う構造としてもよい。
<実施例B>
実施例Bでは、さらに電圧検知回路を付与し電力検知を可能とした実施形態を説明する。電力を評価する上では電流計測だけでも大まかには評価が可能である、しかし、電力は、負荷に依存する。よって、電流だけでは電力を正確に評価できない。そこで、電流と電圧を検知すれば、より正確に電力を求めることができる。以下の説明で、実施例Aと同じ部品のものは、同じ引用番号を付与することで説明の簡潔化を図る。
ところで、商用交流電源などの外部電源からの電源ケーブルのプラグは一対の入力端子101a,101bに接続されるが、入力端子101a,101bのどちらがHOTでCOLDかが明確に決まっていないことが多い。そこで、実施例Bでは、入力端子101a,101bそれぞれの電圧を評価し、その差を取れば、極性接続に関係なく、正確な検知電圧が得られる。
図5はACインレット140の側断面図であり、図6はACインレット140の上断面図であり、図7はACインレット140の底断面図である。図8に容量分圧方式で電圧を検知する電圧検知回路を示す図である。
図5、図6が示すように、コンデンサC1aは、電流路106aに対して一端が接続された第1分圧素子である。コンデンサC1bは、電流路106bに対して一端が接続された第2分圧素子である。コンデンサC1a,C1bの容量は、それぞれ低容量(例:15pF)である。コンデンサC1a,C1bは、第1の部屋107に設けられている。電流路106a,106bにそれぞれ接続されるコンデンサC1a,C1bを第1の部屋107に配置しているのは、絶縁の観点から有利だからである。コンデンサC1a,C1bとしては、端子の引き回しの観点から、リード付のコンデンサが適している。また、コンデンサC1a,C1bとしては、サージ耐性の観点から、耐圧の高いものを使う必要がある。そのため、コンデンサC1a,C1bのサイズが大きくなりがちであるが、これらを寝かせて並べて組み込むことで、第1の部屋107に収めることができる。
一方で、図7が示すように、第2の部屋111においては、第3分圧素子であるコンデンサC2aと、第4分圧素子であるコンデンサC2bが回路基板112に実装されている。コンデンサC2a,C2bは、大容量(例:15000pF)のコンデンサである。コンデンサC2a,C2bの一端はそれぞれコンデンサC1a,C1bの他端に接続されている。また、コンデンサC2a,C2bの他端はそれぞれアースに接続されている。
コンデンサC1a,C1bの2つの端子のうち電流路106a,106bと接続されない他端は、仕切り部材110に設けられた貫通孔部25に挿し通され、第2の部屋111の回路に接続されている。なお、電流路106a,106bに対するコンデンサC1a,C1bの他端の沿面距離が不足する場合、図6に示したように、囲み壁26を設けてもよい。囲み壁26も絶縁性を有する部材で形成される。囲み壁26は、仕切り部材110と一体に成形されてもよい。
図8が示すように、コンデンサC1a,C2aは第1分圧回路を形成しており、コンデンサC1b,C2bは第2分圧回路を形成している。これらの分圧点の電圧をVa,Vbとする。たとえば、電流路106a,106bにAC100Vが印加されると、分圧点の電圧Va,Vbには、インピーダンス比に応じた電圧が現れる。インピーダンス比が1000:1であれば、±0.28Vppの電圧が現れる。
分圧回路の後段にはブートストラップ回路のようなインピーダンス変換回路123が設けられている。さらに、インピーダンス変換回路123の後段には差動増幅回路124が設けられている。差動増幅回路124は、第1分圧素子と第3分圧素子とによって分圧された電圧と第2分圧素子と第4分圧素子とによって分圧された電圧とを差動増幅する差動増幅回路である。インピーダンス変換回路123や差動増幅回路124も第2の部屋111に設けられている。これらにより、電圧検知回路の出力としてSVoutが得られる。SVoutは、マイクロプロセッサ143のA/Dポートに入力される。マイクロプロセッサ143が備える別のA/Dポートには磁気検知素子109からの検知結果が入力される。マイクロプロセッサ143は、検知された電流と電圧とから電力を算出し、コネクタ142を通じて、表示装置や外部のコンピュータに出力する。このように、マイクロプロセッサ143は、磁気検知素子109により検知された電流と、電圧検知回路により検知された電圧とから電力を決定する電力決定回路として機能する。
コンデンサの容量に僅かなばらつきがあり、VaとVbで感度差が気になることもある。この場合、インピーダンス変換回路123と差動増幅回路124の間にアッテネーターを挿入することで、感度バランスを微調整してもよい。また、図8に示した電圧検知回路を単電源で動作させる場合、図8に示したアースをセンサGND(中点電位)に設定してもよい。
実施例Bでは電圧検知をコンデンサで行ったが、コンデンサを抵抗に置換することで、抵抗分圧回路が採用されてもよい。
ところで、実施例BのACインレット140は、レセプタクルと、電流検知装置と電圧検知装置とから構成されている。電圧の検知だけが必要であれば、電流検知装置はACインレット140から省略されてもよい。つまり、電圧検知装置だけが内蔵されたACインレット140が提供されてもよい。また、実施例Aで説明したように、レセプタクルを除いた、実施例Bにおける、電流検知装置と電圧検知装置が電力検知装置として提供されてもよい。この場合、レセプタクルの部分を自由に選択して購入し、電圧検知装置または電力検知装置を後付けでレセプタクルに接続することで、ACインレット140を完成させることができる。
本発明によれば、一対の入力端子101a,101bに印加される電圧を検知する電圧検知回路をACインレット140に設けることで、電圧検知機能を備えたACインレット140を提供できる。さらに、上述した電流検知回路と一緒に搭載すれば、電圧と電流の検知結果からより正確に電力を測定できるようになる。
とりわけ、電圧検知回路のうち、第1分圧素子であるコンデンサC1aと第2分圧素子であるコンデンサC1bを第1の部屋107に配置している。一方で、第3分圧素子であるコンデンサC2aと第4分圧素子であるコンデンサC1bを第2の部屋111に配置している。分圧回路を形成するためにこれらの分圧素子は接続されなければならない。そこで、仕切り部材110には、第1容量素子の他端と第2容量素子の他端とが挿し通される孔部が設けられている。これにより、絶縁距離を確保しつつ、電圧を測定しやすくなる。また、分圧素子を複数の部屋に分散配置することで、省スペース化を図っている。
<実施例C>
実施例Cでは実施例A、Bで説明したACインレット140の応用例を説明する。ACインレット140のレセプタクル部分は、国際規格で定められて広く普及している。よって、何カ国にも供給される電子機器や電子タップでは、その国の電源プラグにあった変換コード(電源ケーブル)を同梱して販売すればよい。これにより、電子機器や電子タップの本体が共通化できる。とりわけ、このような電子機器や電子タップに、実施例A、BのACインレット140を用いれば、電源回路と関係なく、容易に電力の監視や制御ができる。
たとえば、図9に示すような画像形成装置27では、その外周部にACインレット140を設ける。そのブロック図を図10に示す。
外部電源の電源コンセントは、様々な種類が存在する。電源コンセント128a,128bなどが存在する。そこで、変換コード129は、一端が各国の電源コンセントに合致したプラグであり、他端がACインレット140のレセプタクルに合致したプラグである。ACインレット140の一対の出力端子104a,104bやアース出力端子105には、電源回路130が接続されている。電源回路130は、入力された交流を変換して、電子機器が必要とする複数の直流を生成する。
ACインレット140はマイクロプロセッサ143が交流の電流、電圧および電力などを求め、UARTやSPI等のインターフェイスを介して、求めた値を制御回路131へ出力する。制御回路131は、電子機器全体の電力量を把握して、事前に設定した上限を超えないように駆動部132を制御する。あるいは、制御回路131は、電力量を示す表示データを表示部133に送り、電力の使用量を可視化してもよい。また、LANコネクタ134により、電力データを外部のコンピュータ等に配信してもよい。これにより、ネットワークより電力量を管理することも可能となる。
このように普及しているレセプタクルを備えたACインレット140によって、電流、電圧または電力を検知することで、電子機器本体のハード設計にほとんど負担を掛けずに、電源の状況を容易に把握することが可能となる。
図11が示すように、ACインレット140を電源タップ135に組み込んでもよい。電源タップ135は、ACインレット140から供給された電流を出力する少なくとも1つのコンセント136を備えている。電源タップ135のACインレット140のコネクタ142から、電流、電圧または電力のデータをUSBやLAN回線を介して、外部のコンピュータで監視してもよい。データの転送は有線であってもよいし、無線であってもよい。
このように本発明によれば、ACインレット140を備えた電子機器や電源タップ135を提供できる。ACインレット140に、電流や電圧、電力を検知する検知機能を備えているため、電子機器等に対して容易に検知機能を追加できる利点がある。また、ACインレット140は、非常にコンパクトな構成のため、電子機器側のスペースの自由度を確保しやすい。
ところで、ACインレット140に対して上述の電流検知回路を組み込むためには、シールドケース116内の第2の部屋111の内部に十分に収まるほど、電流検知回路を小型化しなければならない。また、シールドケース116内にノイズフィルターとともに電流検知回路などを組み込むためには、さらに、スペースの制約が厳くしなる。電流検知回路としては、たとえば、カレントトランスを用いる回路がある。しかし、磁性体コアを飽和させないためにカレントトランスはある程度の大きさが必要となってします。よって、カレントトランスを用いる電流検知回路は、ACインレット140に組み込む用途には向かない。また、ホール素子を用いる電流検知回路も集磁コアを必要とするため、磁気飽和の観点から、そのコアを小さくできない。シャント抵抗をACラインに挿入すればサイズの問題は生じにくい。しかし、取り出す信号に対して絶縁が必要であるため、フォトカプラ等が必須となる。そのため、コンパクトには課題がある。また、シャント抵抗は、電流が多いと発熱が多くなるため、数A程度の電流までしか対応できない。そこで、本発明では、電流路からの磁界を直接検知することで、電流を検知する磁気検知素子について提供する。
なお、以下において、電流路106aは一次導体と呼ぶことにする。
<実施例1>
図12は被測定電流に対する電流測定を行う実施例1の基本的な構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れ、一次導体1は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
一次導体1のほぼ中央には、電流の遮断を部分的に行うために、非導電領域である円形の貫通孔2が設けられており、このため被測定電流Iの一部は図13に示すようにこの貫通孔2の両側において外側を対称的に回り込む迂回電流Iaとなっている。説明の便宜のために、一次導体1に座標軸を設定し、貫通孔2の中心を原点Oとして、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
一次導体1上には、一方向にのみ磁界検知感度を有する磁気検知素子3が配置されている。磁気検知素子3の検知部4をY軸方向が磁界検知方向となるようにし、検知部4の中心位置は、貫通孔2の中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dyずらした個所に配置されている。
本来、電流により発生する磁束は電流方向と直交する方向を向くので、一次導体1の貫通孔2の影響がない個所では、被測定電流Iは主方向であるY軸方向に流れる。従って、図13に示す磁界ベクトル成分Hc0のように、一次導体1の幅w内ではX軸方向のベクトル成分Hxしか持たない磁場となる。
しかし貫通孔2の近傍では、迂回電流IaはY軸方向に対し傾くことから、この迂回電流Iaにより貫通孔2の両側で磁場が歪んだ磁界ベクトル成分Hc1が発生する。つまり、迂回電流Iaの傾き部分においては、Y軸方向のベクトル成分Hy及びX軸方向のベクトル成分Hxが発生する。ベクトル成分Hyとベクトル成分Hxのベクトル和は被測定電流Iの大きさに比例し、貫通孔2のY軸の正負両側では電流方向が対称形のため、ベクトル成分HyはX軸を挟んで対称となり、極性は逆になる。
また図12に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し、近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’による磁界ベクトル成分はX軸方向のみの成分であり、Y軸方向成分を持たない。検知部4の磁界検知方向をY軸方向とすると、磁気検知素子3は近接電流I’による磁界による干渉は受けず、迂回電流Iaのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
使用する磁気検知素子3として、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知することは望ましくない。従って、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子が好適であり、実施例1では磁気インピーダンス素子を用い、Y軸方向にのみ磁界検知が可能とされている。検知部4として磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列され、両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4の両端からの電圧振幅変化をセンサ信号として得ている。図示は省略しているが、検知部4の動作には、バイアス磁界が必要となるものがあり、必要に応じて近くにバイアス磁石の設置又はバイアスコイルを巻き付けて電流を流して設定する。
図14に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3の検知部4の高さhは、一次導体1と磁気検知素子3の位置関係を保持する構造上、必要なスペースと空間距離、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
図15は電流測定装置として機能する検知回路100Aの構成図を示す。CRパルス発振回路30に対しブリッジを構成する抵抗Rに、磁気検知素子3の検知部4が接続されている。検波回路31は、検知部4の検知信号である両端電圧からの振幅変化を取り出して増幅回路32へ出力する。増幅回路32は、振幅変化を増幅して出力する。推定回路33は、増幅回路32の出力から被測定電流の電流量を推定する回路である。
図16、図17は貫通孔2による迂回電流Iaに係わるY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1はX軸方向の幅w=10mm、Z軸方向の厚さt=70μmの断面で、Y軸方向に計算上は無限長とした十分に長い銅板であり、X軸方向の中央に貫通孔2を穿けてある。検知部4は一次導体1から1.6mmの高さhに固定し、Y軸方向に被測定電流Iを1アンペア(A)流した際のY軸方向の磁界ベクトル成分Hyの変化を調べた。
図16は貫通孔が2mmの場合、図17は3mmの場合におけるY軸方向磁界のベクトル成分Hyの磁界分布の計算結果を等高線の分布として示している。座標はX≧0、Y≧0の第1象限で、ベクトル成分Hyの頂点を100%として、10%刻みで等高線を描いている。他の象限ではX軸又はY軸に関し対称な磁界分布が形成され、第3象限は第1象限と同一極性で、第2、第4象限は第1象限と逆極性の磁場が形成される。
図16、図17から磁界が最大となるピーク位置は、貫通孔2から約45度方向にあり、直径2mmの貫通孔2では(X、Y)=(1.5mm、1.625mm)、3mmの貫通孔2では(X、Y)=(1.75mm、1.75mm)辺りにある。これらの磁界のピーク位置での磁界成分Hyは、それぞれ電流1アンペア(A)に対して、Hy=25.6mガウス(G)、Hy=47.9mガウス(G)となっている。
図18は貫通孔2の直径とY軸方向の磁界ベクトル成分Hyのピーク位置の関係のグラフ図である。図16、図17に示す等高線図では図示を省略しているが、直径1mm、4mmでの結果も併せて記載している。図18から分るように、貫通孔2の直径の大きさはピーク部の位置に殆ど依存することはない。幅w=5mmでの貫通孔2の直径1mmの結果も併せて考えると、実用的な一次導体1の使用範囲では、ベクトル成分Hyのピークの範囲は、X、Y軸方向共に1〜2mm程度であると云える。
また、ピーク位置から10%下がった90%の範囲が、半径0.5mm程度のサークルとなっていることから、設計的には図1の距離dx、dyは共に0.5〜2.5mmの範囲で、この範囲に磁気検知素子3の検知部4が掛かるようにすればよい。
図19は一次導体1の貫通孔2の径とY軸方向のベクトル成分Hyのピーク値とのグラフ図であり、径が大となるにつれて、2次関数的にベクトル成分Hyが大きくなってゆくことが分かる。つまり、図12で示す距離dx=1.5mm、dy=1.5mm辺りに、磁気検知素子3の検知部4を固定し、貫通孔2の径の大きさを変えるだけで、数倍もの測定レンジを選択できることが可能となる。
図12においては、磁気検知素子3はXY平面上の第1象限に設けているが、対称性から当然のことながら、その他の象限に配置することもできる。
図20は変形例を示し、貫通孔2’を貫通孔2のある原点OからX軸方向に対して45度方向に設けて、その中間位置に磁気検知素子3を配置することで、両貫通孔2、2’による迂回電流Iaによる効果を重ねY軸方向成分の磁界を増加し、感度を上げている。2つの貫通孔2、2’は同一の大きさである必要はなく、更に貫通孔2の数を増やすこともできるし、設置する角度位置は電流の検知仕様に応じて設計すればよい。
電流を迂回させる手段としては、貫通孔2だけではなく切欠孔を用いることにより非導電領域を形成し、大小の電流に対応させることができる。例えば、図21に示すように、一次導体1の幅方向の端部に切欠孔8を設けることでも迂回電流を生成できる。大電流により迂回電流による磁界を抑制したい場合には、この構成が好適である。
また、逆に図22に示すように切欠孔8を深くし、迂回電流を集中させ、Y軸方向成分の磁界を大きくし、小電流に対応させることも可能である。更に、図23に示すように反対側からの端部からも切欠孔8をずらして設けることで、更に迂回電流を強めて、より小さな電流にも対応させることができる。
<実施例2>
図24は実施例2の構成図である。例えば、厚さ1.6mmのガラスエポキシ材のセンサ基板11の片面に、X軸方向の幅10mm、Z軸方向の厚さ70μm、Y軸方向の長手方向50mmの銅パターンから成る一次導体12が設けられている。そして、一次導体12のX軸方向の中央に例えば直径2mmの貫通孔13がエッチングにより形成されている。センサ基板11の他面には、図25と同様の位置に、一体型の磁気検知ユニット14が配置され、半田付けのための電極15a〜15bがセンサ基板11上に引き出されている。
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられ、Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16は、それぞれ例えば幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い11本のパターンが並列に配置されている。そして、検知部16の磁界検知方向はY軸方向のみとされている。
検知部16の位置は、貫通孔13の中心からX軸及びY軸方向に距離dx=1.5mm、dy=1.5mmだけオフセットされて配置されている。検知部16の複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれて、両端はそれぞれの電極に接続され、センサ基板11上の電極15a、15bに半田接合され、図示しないセンサ回路に接続されている。図24では、電極15a→15bの流れにより高周波パルスを印加する。
磁気検知ユニット14の磁性薄膜にはX軸方向の幅方向に磁化容易軸が設けられており、高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、図24に示すように、一次導体12から10mmの間隔をおいて直径2mmの銅棒18を並行に配置し、10Armsの50Hzの電流I’を流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定した。すると、磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は観測されず、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。
隣接する平行な電流線からの磁界はX軸又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、磁気インピーダンス素子がX軸方向には感度を持たないことが効果的に作用し、隣接の電流による磁界の影響は問題とはならないレベルであることが確認された。
この磁気検知ユニット14は5Vの5MHzのパルス駆動では、図25に示すように磁界に対してV字のインピーダンス変化の特性を示し、感度の良い傾きの個所を利用している。そのためには、図24に示すように磁気検知ユニット14の背面にバイアス用磁石17を配置して、検知部16に10ガウス(G)程度のバイアス磁界が掛かるように設定している。直線性の良好な範囲は、この磁気検知ユニット14の場合ではバイアス動作点を挟んで±3ガウス(G)程度である。
図26は一次導体1にAC電流(50Hz)を0.1〜40Armsまで可変で通電させて、電流測定したデータを示している。10Armsは28.28Appの正弦波であり、そのときの磁界はシミュレーション結果から、724mGppとなる。図15はこの10Armsを基準に理想値と実測値の誤差を示し、5V電源で10Arms時に1Vppとなるように調整したため、上限は40Armsとした。精度として、0.2Arms以上で±1%以内の誤差が保証される。
貫通孔13の直径を2mmとし、磁気検知ユニット14の直線性範囲が6ガウス(G)の特性のものを使用した場合では、80Arms強の個所で越えてしまう。仮に、200Armsまで対応させる場合では、貫通孔13の直径を1mmにするだけで、磁気検知ユニット14に掛かる磁界は1/3になり、270Armsのような大電流にも同じレイアウトで可能になる。また、逆に小電流の仕様には、貫通孔13を大きくするだけで対応できる。
実施例2では、一次導体12をセンサ基板11上に配置している例を想定している。しかし、図27の変形例に示すように、一次導体が銅板から成るバスバー19の場合は、図24の形態から一次導体12を除いたものをセンサ基板20の上にモジュール化することもできる。この場合には、バスバー19に穿けた貫通孔21にセンサ基板20を位置合わせして、センサ基板20をバスバー19に貼り合わせなどにより固定して使用することが可能である。なお、22はセンサ基板20上に設けられた回路素子、23は磁気検知ユニット14の信号を引き出す信号線である。
このような構成とすることにより、予めバスバー19を布設した後においても、磁気検知ユニット14をモジュール化してバスバー19に組み付けることにより容易に組立てが可能となる。
なお、上述の各実施例においては、貫通孔、切欠孔による非導電領域を設けて電流を迂回させたが、必ずしも孔部ではなく、絶縁材料を配置することによっても電流を迂回させることができる。
<実施例3>
特開2006−184269号公報によれば、2個の磁気検知素子を使用することで、差動検知により外乱磁界を回避しようとする提案がなされている。この特許文献では、被測定電流による磁界検知を単一の磁気センサで検知する場合の外部磁界の影響を回避するために、一次導体としてのバスバーの中央部に開口部を形成して被測定電流を分流している。そして、開口部内に2つの導体部近傍に電流からの磁界がそれぞれ逆相になるようにそれぞれ磁気検知素子を配し、差動増幅によりバスバーから発生する磁界のみを検知している。
しかしながら、この方法でも一様な磁界に対する影響は排除できても、隣接して電流線が平行して流れる場合には、2つの磁気検知素子にはその外乱となる磁界が等しく印加されず、結局は磁気シールドが不可欠となる。この点を解決する方法として、非導電領域を一次導体に設けるとともに、非導電領域の近傍に1つの磁気検知素子を設けることを実施例1、2で提案した。ここで、磁気検知素子は複数であってもよい。そこで、実施例3では、複数の磁気検知素子を設ける案について説明する。
図28は被測定電流に対する電流測定を行う実施例3の基本的な電流センサの構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れ、一次導体1は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
一次導体1のほぼ中央には、電流の遮断を部分的に行うため非導電領域である円形の貫通孔2が設けられており、このため被測定電流Iの一部は図29に示すようにこの貫通孔2の両側において外側を対称的に回り込む迂回電流Iaとなっている。説明の便宜のために、一次導体1に座標軸を設定し、貫通孔2の中心を原点Oとして、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
一次導体1上には、2つの磁気検知素子3a、3bがY軸方向に向けて直列的に配置されて差動検知が行われる。磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bをY軸方向が磁界検知方向となるようにし、検知部4a、4bの中心位置は、貫通孔2の中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dyずらした個所に配置されている。図28に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’の磁束Fによる磁界の影響はX軸方向のベクトル成分となり、Y軸方向成分を持たない。検知部4a、4bの磁界検知方向をY軸方向に取ると、磁気検知素子3a、3bは近接電流I’による磁界による干渉は受けず、被測定電流Iのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
使用する磁気検知素子3a、3bとして、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知することは望ましくないため、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子が好適であり、実施例1では磁気インピーダンス素子を用いている。検知部4a、4bとして磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列され、両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4a、4bの両端からの電圧振幅変化をセンサ信号として得ている。
図30に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bの高さhは、一次導体1と磁気検知素子3a、3bの位置関係を保持する構造上、必要なスペースと空間距離、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
図31は検知回路100Aの構成図を示し、CRパルス発振回路30に対しブリッジを構成する抵抗Rに、磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bが接続されている。検知部4a、4bの両端電圧からの振幅変化を検波回路31により取り出した後に、差動増幅回路32で検知部4a、4bの出力に対し差動増幅が行われて、電流センサとしての出力を得る。
この場合に、検知部4a、4bの出力は、感度が同じでX軸を挟んで対称な位置にあれば絶対値は同じになり、極性が異なるため、差動的に検知すると、出力は検知部4a又は4bの絶対値の2倍となる。また、外来の磁界ノイズは狭い範囲にある検知部4a、4bでは同相となり、検知部4a、4bの出力を差動的に捉えることにより、磁界ノイズは相殺されて、電流センサの出力に重畳されることはなく、迂回電流のベクトル成分Hyのみが測定されることになる。なお、磁気検知素子の出力を差動的に検知するには、少なくとも2個の検知部を用いればよい。
なお、図31と図15とを比較すれば明らかなように、ブリッジ回路を形成している4つの抵抗が検知部に置き換わることになる。たとえば、3つの検知部を採用するのであれば、4つある抵抗のうちの3つの抵抗が検知部に置換される。さらに、4つの検知部を採用するのであれば、すべての抵抗が検知部に置換されることになる。
図28においては、磁気検知素子3a、3bはXY平面上の第1、第4象限にそれぞれ設けているが、対称性から当然のことながら、その他の象限に隣接して配置することもできる。
図32はこの場合の変形例を示し、磁気検知素子3aは第1象限に、磁気検知素子3bは第2象限に設け、Y軸に対して対称的に配置した場合においても同様の結果が得られる。迂回電流Iaによる磁界ベクトル成分Hc1は第1象限と第2象限においてY軸に関して対象ともなっている。従って、磁気検知素子3a、3bを第1象限、第2象限にそれぞれ配置し、絶対値が等しく極性が逆のY軸方向のベクトル成分Hyをそれぞれ検知することができる。この場合においては、隣接して平行する電流線の影響は僅かに受けるが、磁気検知素子3同士の間隔が狭いために、ほぼ磁界ノイズを差動検知により相殺することができる。
<実施例4>
磁気検知素子である磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲートセンサ等のように、磁気飽和や直線性の点で、検知磁界範囲を或る範囲内で管理しなくてはならない場合には、一次導体1の貫通孔2の径だけで測定レンジを調整できることが好ましい。
図33は実施例4の電流センサの構成図である。図28における磁気検知素子3、4の検知部4a、4bの距離は短いことから、同一の素子基板6にX軸に関して対称に配置した磁気検知素子3a、3bを一体型として取り付けた磁気検知ユニット7とされ、性能のばらつきが抑制可能となっている。
図34の変形例に示すように、一次導体1のX軸の正の領域だけ使う発想で、幅方向の端部に切欠孔8を設けることでも迂回電流を利用できる。この切欠孔8によっても、図28に示すように貫通孔2を設けた場合と同様に測定が可能である。なお、迂回電流をX軸に関して対称的に流すためには、切欠孔8はX軸に関して対称形であることが必要である。
図35は他の変形例の構成図である。4個の磁気検知素子3a〜3dを一体化した磁気検知ユニット7において、第1、第2、第3、第4象限にそれぞれ検知部4a、4b、4c、4dを配置し、4素子によりブリッジ構成として動作させると、更にS/Nを向上させることができる。このように、貫通孔2の両側に検知部4a〜4dをX軸、Y軸に対称に配置すると、ベクトル成分HyがX軸、Y軸にそれぞれ対称となる。
従って、X軸に関して検知部4aと4dの出力を差動検知、検知部4bと4cの差動検知、Y軸に関して検知部4aと4bの差動検知、検知部4dと4cの差動検知を同時に行うことができ、これらの検知結果の平均を求めれば更に測定精度が向上する。
<実施例5>
図36は実施例3の電流センサの構成図である。厚さ1.6mmのガラスエポキシ材のセンサ基板11の片面に、X軸方向の幅10mm、Z軸方向の厚さ70μm、Y軸方向の長手方向50mmの銅パターンから成る一次導体12が設けられている。そして、一次導体12のX軸方向の中央に直径2mmの貫通孔13がエッチングにより形成されている。センサ基板11の他面には、図33と同様の位置に、一体型の磁気検知ユニット14が配置され、半田付けのための電極15a〜15cがセンサ基板11上に引き出されている。
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられ、Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16a、16bは、それぞれ幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い11本のパターンが並列に配置されている。そして、検知部16a、16bの磁界検知方向はY軸方向とされている。
検知部16a、16bの位置は、貫通孔13の中心からX軸方向に距離dx=1.5mmだけオフセットされ、検知部16a、16bの中心間隔は、dy=3mmとし、貫通孔13の中心Oから幅方向に延びるX軸に対して対称的に配置されている。
検知部16a、16bの複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれて、両端はそれぞれの電極に接続され、センサ基板11上の電極15a〜15cに半田接合され、図示しないセンサ回路に接続されている。図36では、センサ基板11に引き出された電極15a→15c及び電極15b→15cの流れにより高周波パルスを印加する。
磁気検知ユニット14はX軸方向の幅方向に磁化容易軸を設けておき、高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、一次導体12から10mmの間隔を離して直径2mmの銅棒18を並列に配置し、10Armsの50Hzの電流I’を流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定した。すると、磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は観測されず、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。隣接する平行な電流線からの磁界はX又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、検知部16a、16bと隣接する銅棒18との距離が等しいことで差動除去機能が効果的に働き、ノイズ的な磁界の影響もほぼ完全に除去できていることが確認された。
実施例5では、一次導体12をセンサ基板11上に配置している例を想定した。しかし、図37の変形例に示すように一次導体が銅板から成るバスバー19の場合は、図36の形態から一次導体12を除いたものをセンサ基板20の上にモジュール化することもできる。この場合には、バスバー19に穿けた貫通孔21にセンサ基板20を位置合わせして、センサ基板20をバスバー19に貼り合わせなどにより固定して使用することが可能である。なお、22はセンサ基板20上に設けられた回路素子、23は磁気検知ユニット14の信号を引き出す信号線である。
このような構成とすることにより、予めバスバー19を布設した後においても、磁気検知ユニット14をモジュール化してバスバー19に組み付けることにより容易に組立てが可能となる。
なお、上述の各実施例においては、貫通孔、切欠孔による非導電領域を設けて電流を迂回させたが、必ずしも孔部ではなく、絶縁材料を配置することによっても電流を迂回させることができる。そして、これらの非導電領域はX軸に関しその両側で形状が対称であることが必要である。
<実施例6>
実施例1ないし実施例5では、方向変更領域として非導電領域を採用した。つまり、実施例1ないし実施例5は、電流が非導電領域を迂回して流れることで発生する歪み磁界を検知し、検知した磁界から電流量を推定する発明である。実施例1ないし実施例5において共通した概念は、電流が非直線的に流れることを促進する領域を一次導体に設けることである。つまり、電流の流れる方向を曲げることができるのであれば、必ずしも非導電領域である必要はない。そこで、実施例6では、方向変更領域についての他の例について説明する。
図38は被測定電流に対する電流測定を行う実施例6の基本的な電流センサの構成図である。一次導体1には検知対象の被測定電流Iが流れる。一次導体1の形態は例えばプリント基板上の銅箔パターン又は銅板で形成されたバスバー等の形態とされている。
一次導体1のうち磁界の検知対象とする部分(主要部)は、長さがLで幅がW0で形成された矩形状の部分である。主要部において、電流が流れる後方と前方にはそれぞれ幅W1、W2の入口9a、出口9bが形成されている。幅W1、W2はいずれも幅W0よりも狭い。説明を判りやすくするため、入口9a、出口9bを幅W0に対して中央に設置しておく。
一次導体1に座標軸を設定する。ここでは、磁気検知部の中心を原点Oとする。図38および図39が示すように、入口9a、出口9bを結ぶ線であって、磁気検知部の幅W0を2分割する直線と、磁気検知部の長さLを2分割する直線との交点を原点Oとしている。他の実施例と同様に、被測定電流Iが流れる主方向をY軸、その直交軸である幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする。
一次導体1上には、2つの磁気検知素子3a、3bがY軸方向に向けて直列的に配置されて差動検知が行われる。なお、実施例1、2と同様に、磁気検知素子は1つでもよい。磁気検知素子3a、3bの構成は実施例1乃至5と同様である。磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bをY軸方向が磁界検知方向となるようにし、磁気検知素子3a、3bが配置される。検知部4a、4bの中心位置は、原点Oの中心よりもX軸方向に距離dx、Y軸方向にはX軸を挟んで距離dy1、dy2ずつずらした個所に配置されている。
本来、電流により発生する磁束は電流方向と直交する方向を向く。そのため、一次導体1の幅方向を向く電流成分がない個所、つまり原点Oを通るX軸上ではX軸方向のベクトル成分Hxしか持たない磁場HC1ができる。
しかし、原点Oよりもその電流が流れる前後方向でずれた位置での電流は、入口9a、出口9bに向けてY軸方向に対し傾いて流れる電流成分を持っている。これによって、Y軸方向のベクトル成分Hyが発生し、Hc2、Hc3のように磁場が蛇行する。Hc2、Hc3の磁場は、X軸に対して線対称である。ベクトル成分HyはX軸を挟んで逆極性になっている。
図38に示すように、異なる相の電流が流れる一次導体1’が近接し近接電流I’の方向が被測定電流Iと平行していても、近接電流I’による磁界の影響はX軸方向のベクトル成分となり、Y軸方向成分を持たない。検知部4a、4bの磁界検知方向をY軸方向に取ると、磁気検知素子3a、3bは近接電流I’による磁界による干渉は受けず、被測定電流Iのベクトル成分Hyのみを検知できる。従って、このベクトル成分Hyを校正して換算すれば、被測定電流Iの電流量を求めることができる。
磁気検知素子3a、3bが、X軸方向の磁界ベクトル成分Hxを検知すると電流の推定精度が低下する。そのため、磁気検知素子3a、3bとしては、たとえば、指向性の高い磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲート素子がある。実施例6では磁気検知素子3a、3bとして磁気インピーダンス素子を用いている。検知部4a、4bとして磁性薄膜のパターンが磁界検知方向のY軸方向につづら折りにより並列されている。両端の電極5にMHz帯の高周波パルスを印加し、磁界の変化による検知部4a、4bの両端からの電圧振幅変化がセンサ信号として得られる。バイアス磁界が必要な場合は、不図示ではあるが、磁気検知素子3a、3bに近接した磁石または巻回したコイルにより印加する。
図40に示すように、一次導体1に対する磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bの高さhは、たとえば、発生する磁界の大小調整、一次導体1と磁気検知素子3a、3bの位置関係を保持する構造上必要なスペース、空間距離、および、沿面距離等の絶縁耐圧の関係で決められる。
電流検知装置として機能する検知回路100Aの構成は、図31に示した回路構成を採用できる。なぜなら、電流の流れる方向を変更する領域方向変更領域の具体的な構成が変わったとしても、本発明の電流検知装置の基本的な部分はそのまま使用できるからである。
図41,図42,図43及び図44、並びに、図45は狭い出入口からの拡散電流に係わるY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1はX軸方向の幅W0=8mm、Z軸方向の厚さt=0.8mmの断面で、入口9a、出口9bは間隔Lを7.5mmとし、その幅方向の位置を幅W0の中央にする。入口9a、出口9bの幅をW1=W2=dとして、d=0.8、 1.2、 2.4、 3.6mmと振って、一次導体の表面(高さH=1.6mm)で、電流が流れる主方向の磁界Hyを計算した。被測定電流Iは1アンペア(A)とした。
図41ないし図41Dは、d=0.8、 1.2、 2.4、 3.6mmのそれぞれにおけるシミュレーション結果である。座標はX≧0、Y≧0の第1象限で、ベクトル成分Hyの頂点を100%として、10%刻みで等高線を描いている。他の象限ではX軸又はY軸に関し対称な磁界分布が形成され、第3象限は第1象限と同一極性で、第2、第4象限は第1象限と逆極性の磁場が形成される。
ピーク位置Pは、Y方向が2.5mmでほぼ変わらず、X方向は出入口の幅が広くなるに連れて1.7mmから2.15mmまで緩やかに移動している。
出入口からのY方向の距離をLとする。ピーク位置Pは、L=7.5mmで1.25(=L/2−2.5)mmにあるが、L=11.5mmで計算したところでも1.35mmとなり、両者は大きくは変わらない。実用的な距離Lの寸法としては、ピークが明確に形成でき、かつ、隣接の逆相となるピークと干渉しないことを考慮して決定する。たとえば、距離Lは、1.25mmの4倍の5mm以上は確保すべきである。
図45はピーク位置での磁界Hyを示したグラフである。図45によれば、入口9a、出口9bの幅W1とW0との比が10%(W0=8mm、d=0.8mm)では、1Aあたり0.08ガウスの磁界を発生していることがわかる。ミリガウス以下を検知できる磁気検知素子では、ピーク位置に置くことで1A以下の小さな被対象電流でも十分なS/Nで検知できる。
入口9a、出口9bの幅W1、W2を広げていくと、幅方向に広がる電流成分が減ることで、急激に磁界Hyが下がる。よって、大電流を検知するには幅W1、W2を広げればよい。幅W1とW0との比が100%、つまりd=8mmでは、磁界がゼロになる。これは、大電流に対しての調整範囲を広く取れることを意味する。以上のことより、X=2mm、Y=2.5mmのところに磁気検知素子を固定すれば、幅W1、W2を変えるだけでいろいろな電流検知範囲の仕様に対応できることを意味する。
このような特性は、磁気インピーダンス素子や直交フラックスゲートセンサ等のように、磁気飽和や直線性の点で、検知磁界範囲を或る範囲内で管理しなくてはならない素子には極めて都合が良い。生産性でも、素子の位置を固定しておいて、一次導体の出入口の幅を変えたものを数種類用意しておくことで、各種電流仕様に対応でき、電流センサのコスト低減に大きく寄与するだろう。
図38においては、磁気検知素子3a、3bはXY平面上の第1、第4象限にそれぞれ設けている。しかし、対称性から当然のことながら、その他の象限に隣接して配置することもできる。図46は、磁気検知素子3aを第1象限に配置し、磁気検知素子3bを第2象限に配置した例を紙滅している。図47は、全ての象限に磁気検知素子を設けた例を示している。
図47では、4個の磁気検知素子3a〜3dを一体化した磁気検知素子ユニットにおいて、第1、第2、第3、第4象限にそれぞれ検知部4a、4b、4c、4dを配置している。さらに、図31に示したように検知部4a、4b、4c、4dをブリッジ構成として動作させると、検知回路100AのS/Nを向上させることができる。このように、2原点Oの両側に検知部4a〜4dをX軸、Y軸に対称に配置すると、ベクトル成分HyがX軸、Y軸にそれぞれ対称となる。
従って、X軸に関して検知部4aと4dの出力を差動検知、検知部4bと4cの差動検知、Y軸に関して検知部4aと4bの差動検知、検知部4dと4cの差動検知を同時に行うことができ、これらの検知結果の平均を求めれば更に測定精度が向上する。
入口9a、出口9bが一次導体1の幅方向の中央にある場合は、素子の感度を同等に調整した素子をX軸又はY軸に対称に設置して差動動作させることで、一次導体1からの磁界による出力は2倍となり、同相の外部磁界はキャンセルされることになる。
図48は変形例を示している。入口9aに至る導体の幅や、出口9b以降の導体の幅が細すぎると、大電流印加時に発熱の問題が発生するかもしれない。そこで、図48が示すように、電流の出入口をスリット溝7a、7b、7c、7dで規制することで、発熱自体を抑えることができるとともに、熱拡散も良くすることができるだろう。なお、図48から、一次導体1にスリット溝7a、7b、7c、7dを入れることで、上述した主要部、入口9a、および、出口9bが形成されていることを理解できよう。
<実施例7>
実施例6では、座標位置で(2, 2.5)と(2, −2.5)の付近にそれぞれ磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bを置けば、入口9a、出口9bの幅W1、W2を変えることだけで被測定電流の仕様に対応できることを示した。別の方法としては入口9a、出口9bの配置位置を一次導体1の幅方向にオフセットさせても良い。図49にそのレイアウトを示す。図39のレイアウトから、入口9a、出口9bを幅方向にdwだけずらしたものである。これにより、電流の広がりが変わるため、磁気検知素子3a、3bの検知部4a、4bが配置された位置での磁界の方向を変えることができる。
図50は、実施例7についてY軸方向の磁界成分Hyのシミュレーションの結果を示している。一次導体1のX軸方向の幅W0=8mm、Z軸方向の厚さt=0.8mmである。入口9a、出口9bは幅W1、W2ともに1.2mmである。磁気検知部である一次導体1のY軸方向の長さLを7.5mmとしている。実施例6のように入口9a、出口9bの位置が幅W0の中央にした状態では、オフセット量dw=0である。実施例7ではオフセット量dw=−2、 −1、 0、 1、 2mmのそれぞれについてシミュレーションを行った。
磁気検知素子3aの座標位置をX=2、Y=2.5mmに固定している。電流が主に流れる方向の磁界成分Hyの磁界は、図50が示すとおり、オフセット量がマイナスになると調整シロが少ない。一方、オフセット量がプラスになると、つまり入口9a、出口9bと磁気検知素子との距離が縮まると、急激に磁界が低下し、反対の極性にまでいたる。よって、オフセット量がプラスになる領域では、磁界成分Hyを大幅に調整可能である。
<実施例8>
図51は実施例8の電流センサの構成図である。センサ基板11は、ガラスエポキシ材であり、その厚さ1.6mmである。センサ基板11の片面に一次導体12が設けられている。一次導体12は、X軸方向の幅8mm、Y軸方向の長さが7.5mmで、Z軸方向の厚さ70μmの銅パターンである。X、Y軸の原点Oは一次導体12の中心に設定する。
一次導体12の入口9a、出口9bは、X軸方向の幅Wの中央から幅W1=W2=1.2mmでY軸に沿って引き出されている。入口9a、出口9bを1.2mmの幅のままで長く引き出すと、大電流側では発熱が発生するかもしれない。そこで、実験では入口9a、出口9bの直ぐ近くで、芯線径1.6mmのケーブル線を半田付けして、被測定電流を印加した。
センサ基板11の他面には、2つの磁気検知素子が一体化された磁気検知ユニット14が配置されている。磁気検知ユニット14からは半田付けのための電極15a〜15cがセンサ基板11上に引き出されている。
磁気検知ユニット14には磁気インピーダンス素子が用いられている。Fe−Ta−C系の磁性薄膜から成る検知部16a、16bは、それぞれ幅18μm、厚さ2.65μm、長さ1.2mmの細長い並列に配置された11本のパターンにより構成されている。そして、検知部16a、16bの磁界検知方向はY軸方向とされている。
図51が示すように、検知部16a、16bの位置は、貫通孔13の中心からX軸方向に距離dx=2mmだけオフセットされている。検知部16a、16bの中心間隔dyは5mmとしている。このように、磁気検知ユニット14はX軸に対して対称的に配置されている。
検知部16a、16bの複数本の磁性薄膜パターンは、図示は省略しているが電気的にはつづら折りで直列につながれている。直列につながれた磁性薄膜パターンの両端はそれぞれの電極に接続されている。図51が示すように、磁性薄膜パターンの端部は、センサ基板11上の電極15a〜15cに半田接合され、検知回路100Aに接続されている。図51では、センサ基板11に引き出された電極15aから電極15cと、電極15bから電極15cとをペアとして高周波パルスを印加する。
磁気検知ユニット14にはX軸方向(幅方向)に磁化容易軸を設けておく。高周波のパルスを磁性薄膜のパターンに通電することで、外部磁界によりインピーダンスが変化し、磁気検知ユニット14の両端電圧を振幅検波によりセンサ信号に変換する。それぞれの素子のバイアス磁界や回路ゲインを、相対的に差が出ないよう合わせておくと、差動検知の効果が高まる。
平行して流れる被測定電流I以外の電流の影響評価では、一次導体12の端から10mmの間隔を離して直径2mmの銅棒18を並列に配置した。10Armsの50Hzの電流I’を銅棒18に流して、一次導体12には電流を流さない条件で測定を行った。磁気検知ユニット14では銅棒18を流れる電流I’の影響は、ノイズレベル以下(10mVpp以下)であった。隣接する平行な電流線からの磁界はX又はZ軸方向となり、Y軸方向の成分は持たないことと、検知部16a、16bと隣接する銅棒18との距離が等しいことで、差動除去機能が効果的に働き、ノイズ的な磁界の影響もほぼ完全に除去できていることが確認された。
図52には、一次導体1の入口9a、出口9bの幅W1(=W2)を1.2mmと4.8mmとしたときの測定電流と出力電圧との関係を示す。なお、検知回路100Aを5Vの単電源で駆動したため、測定電流0Aに対する出力電圧を2.5Vに合わせてある。
図45で示したように素子に掛かるY方向の磁界Hyは、1Aあたり0.078ガウスであり、前述の直線性が±3ガウスの範囲で確保されたセンサでは、±38.5Aを越えると直線性が低下することになる。図52に示した実測データでも40Aを越えたあたりから直線精度が低下していることが判る。この条件では、±40Aの仕様となる。
直線性の良い範囲を広げるためには、入口9a、出口9bの幅を大きくすれば良い。幅W1、W2を4.8mmにしたものは、磁界Hyは1Aあたり0.038ガウスとなり、±79Aまでは直線精度が確保されることになり、実測のデータでも±80Aで直線精度が確保されていることが判る。感度の差は、差動増幅のゲインで調整すればよい。
このことは使用する磁気検知素子や回路構成を同じにして、電流の出入口の幅だけを変えることで、所望の測定電流範囲で直線精度を確保することができることを意味する。
このように、実施例1ないし8に記載の電流検知回路であれば、カレントトランス等と比較して、非常にサイズを小さくできる。したがって、実施例AないしCで説明したようなACインレット140にも十分に組み込むことが可能である。