以下、図を参照しつつ、様々な実施形態による液晶光学素子を有する光学素子について説明する。この光学素子は、入射する直線偏光の位相または偏光面を制御する液晶光学素子の光軸を、その液晶光学素子を透過した光束を集光させる対物レンズの光軸に一致させるべく、対物レンズの光軸に対して液晶光学素子の位置を調整可能な光軸調整機構を有する。
図1は、本発明の実施形態に係る光学素子を備えたレーザー顕微鏡の概略構成図である。レーザ顕微鏡100において、直線偏光を出力するコヒーレント光源であるレーザー光源101から出射した光束は、コリメート光学系102により平行光とされ、ビームスプリッタ106を透過する。そしてその平行光は、光学素子103が有する液晶光学素子を透過し、対物レンズ104により試料105上に集光される。なお、光学素子103と対物レンズ104とは一体化され、光学素子103が有する液晶光学素子の光軸と対物レンズ104の光軸とが一致するように、液晶光学素子と対物レンズ104とのアライメント調整がなされている。試料105により反射または散乱した光束、あるいは試料より発生した蛍光等、試料105の情報を含んだ光束は、光路を逆にたどり、ビームスプリッター106で反射され、第2の光学系であるコンフォーカル光学系107で再び共焦点ピンホール108上に集光される。そしてその光束中に含まれる、試料の焦点位置以外からの光束がカットされ、その焦点位置からの光束のみが、フォトダイオードまたは光電子増倍管を有する検出器109で検出される。そして検出器109は、検出した光の光量に応じた電気信号をコントローラ110へ出力する。
コントローラ110は、例えば、プロセッサと、メモリと、コントローラ110をレーザ顕微鏡100の各部と接続するためのインターフェース回路とを有する。そしてコントローラ110は、レーザ光源101及び光変調素子103を制御する。そしてコントローラ110は、レーザ光源101に対して所定の電力を供給することにより、レーザ光源101に照明光を出力させる。またレーザ光源101が複数の発光素子を有する場合、コントローラ110は、例えば、図示しないユーザインターフェースを介したユーザの操作に従って、複数の発光素子のうちの何れか一つの発光素子に照明光を出力させる制御信号をレーザ光源101へ送信する。
さらにコントローラ110は、駆動回路111を有し、その駆動回路111を介して光変調素子103を制御する。すなわち、コントローラ110は、レーザ光源101から出力される光の波長に応じた印加電圧が光学素子103の液晶光学素子が有する各液晶層に印加されるように、駆動回路111を制御する。これにより、光学素子103は、所定の波長を持つ直線偏光の位相及び偏光面を制御できる。なお、駆動回路111は、コントローラ110とは独立して設けられてもよい。この場合、コントローラ110と駆動回路11とは、信号線で接続される。
特に、レーザ光源101が、互いに波長の異なる光を出力する複数の発光素子を有している場合、コントローラ110は、発光させる発光素子に応じて、光学素子103の液晶光学素子が有する液晶層に印加される電圧を調節する。
なお、駆動回路111から光学素子103の液晶光学素子が有する液晶層に対して印加される駆動電圧は、例えば、パルス高さ変調(PHM)またはパルス幅変調(PWM)された交流電圧であってもよい。また駆動回路111は、後述するように、光学素子103が有する光軸調整機構を操作中にも、光学素子103の液晶光学素子が有する液晶層に電圧を印加可能である。
ここで、試料105の表面に平行な方向の解像度を高くするためには、試料105上に集光された光束のスポットサイズは極力小さいことが好ましい。一方、試料105上に集光された光束をz偏光とすることで、試料105上に集光された光束のスポットサイズを回折限界よりも小さくするとともに、焦点深度を深くできる。そして、対物レンズ104を透過する光束をラジアル偏光とすることで、試料105上で光束をz偏光にすることができる。
そこで、本発明の第1の実施形態では、光学素子103は、対物レンズ104を透過する光束をラジアル偏光にするよう構成される。
図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る光学素子103を対物レンズ側から見た概略正面図であり、図2(b)は、光学素子103の概略側面図であり、図2(c)は、図2(a)の点線における矢印AA'の方向から見た光学素子103の概略側面断面図である。光学素子103は、液晶光学素子3と、光軸調整機構4と、筺体5とを有し、対物レンズ104と一体化されている。
対物レンズ104は、液晶光学素子3によってラジアル偏光とされた光を対象となる物体上に集光する。対物レンズ104は、例えば、1枚の単レンズであってもよく、あるいは、複数のレンズが組み合わされたものであってもよい。対物レンズ104の結像特性、レンズ構成、形状及びサイズは、その対物レンズの用途に応じて決定されればよく、特定の構成に限定されるものではない。
対物レンズ104が有する1枚または複数のレンズは鏡枠21に固定されている。そのため、対物レンズ104は、対物レンズ104を構成する全てのレンズを一体として取り扱うことが可能となっている。
また対物レンズ104は筺体5に対して固定的に取り付けられる。そのため、例えば、対物レンズ104の鏡枠21の外周及び筺体5の取り付け口51には、それぞれ、ネジ溝が形成されている(ネジ溝の図示は省略)。そして対物レンズ104は、筺体5の取り付け口51に螺合することにより固定される。あるいは、対物レンズ104は、レンズをそのレンズを利用する装置本体に固定するための他の様々な固定方法の何れかによって筺体5の取り付け口51に取り付けられてもよい。この場合、鏡枠21には、その固定方法に応じた機構が設けられる。
液晶光学素子3は、筺体5内に、対物レンズ104よりも光源側、言い換えれば、略平行な光束が入射する側に配置され、光軸調整機構4によって対物レンズ104の光軸OA1に対して相対的に移動可能に支持される。そして本実施形態における液晶光学素子3は、偏光面回転素子であり、入射した直線偏光を、液晶光学素子3の光軸OA2を中心とした放射状の直線偏光分布を持つラジアル偏光に変換する。
図3は、液晶光学素子3の概略正面図である。また図4(a)及び図4(b)は、それぞれ、図3に示された矢印XX'の方向から見た点線における液晶光学素子3の概略側面断面図である。このうち、図4(a)は、液晶光学素子3に電圧が印加されていないときの液晶光学素子3に含まれる液晶分子の状態を表し、図4(b)は、液晶光学素子3に電圧が印加されたときの液晶光学素子3に含まれる液晶分子の状態を表す。
説明の便宜上、液晶光学素子3に入射する直線偏光の偏光面は、図3の矢印Aに示されるように、図3が表された面に直交し、かつ縦方向の面にあるものとする。
液晶光学素子3は、液晶層30と、光軸OA2に沿って液晶層30の両側に略平行に配置された透明基板31、32を有する。また液晶光学素子3は、透明基板31と液晶層30の間に配置された透明電極33と、液晶層30と透明基板32の間に配置された透明電極34とを有する。そして液晶層30に含まれる液晶分子37は、透明基板31及び32と、シール部材38との間に封入されている。なお、透明基板31、32は、例えば、ガラスまたは樹脂など、所定の波長域に含まれる波長を持つ光に対して透明な材料により形成される。また透明電極33、34は、例えば、ITOと呼ばれる、酸化インジウムに酸化スズを添加した材料により形成される。さらに、透明電極33と液晶層30の間に配向膜35が配置される。また透明電極34と液晶層30の間に配向膜36が配置される。これら配向膜35、36は、液晶分子37を所定の方向に配向させる。なお、基板側に構造物を形成して液晶分子37を配向させる構造配向など、配向膜を用いない方法によって配向される場合、配向膜35、36は省略されてもよい。
さらに、各基板、各透明電極及び各配向膜の外周には鏡枠39が配置され、この鏡枠39が、各基板を保持している。
液晶層30に封入された液晶分子は、例えば、ホモジニアス配向される。また液晶層30は、光軸OA2に直交する面内で円周方向に沿って配置された複数の扇形領域を含む。そして各扇形領域に含まれる液晶分子37は、入射する直線偏光の偏光面が、光軸OA2を中心とした放射方向に略平行となるようにその偏光面を回転させるように配向される。
図5は、液晶層30の各扇形領域における液晶の配向方向と、各扇形領域を透過した直線偏光の偏光方向を示す液晶層30の概略正面図である。
本実施形態では、液晶層30は、時計回りに配置され、互いに配向方向が異なる8個の扇形領域30a〜30hを有し、各扇形領域30a〜30hの中心角は等しくなるように設定される。また図5において、矢印40a〜40hは、それぞれ、各扇形領域30a〜30hに含まれる液晶分子の配向方向を表す。また、矢印50a〜50hは、それぞれ、各扇形領域30a〜30hから出射する直線偏光の偏光面を表す。なお、矢印50a〜50hのうち、矢印の先端が反対方向を向いている二つの矢印は、それら矢印で表される直線偏光の位相が互いにπだけずれていることを表す。
なお、光軸OA2と液晶層30との交点c1を通って扇形領域を2等分する直線を、その扇形領域の中心線と呼ぶ。
各扇形領域30a〜30hの配向方向は、例えば、各扇形領域を透過した後の直線偏光成分の偏光面が、その透過した扇形領域の中心線と平行となるように決定される。そこで、交点c1を通り、入射する直線偏光の偏光面Aに平行な面と交差する扇形領域30aを1番目の領域とし、扇形領域30aから時計回りまたは反時計回りに第n番目の扇形領域について、その扇形領域の配向方向と、扇形領域30aを通る偏光成分の偏光面Aとがなす角θは次式に従って設定される。
θ=360°×(n-1)/(2N) (n=1,2,...,N) (1)
ただし、Nは扇形領域の総数であり、本実施形態ではN=8である。
例えば、n=1である扇形領域30aでは、θ=0となる。すなわち、扇形領域30aでは、入射する直線偏光の偏光面が回転することなく直線偏光が透過するように、液晶分子の配向方向は、入射する直線偏光の偏光面Aと略平行に設定される。
また、第n番目の扇形領域を、扇形領域30aを1番目の領域として時計回りにn番目の領域としたとき、各扇形領域30b〜30hの配向方向と扇形領域30aを通る偏光成分の偏光面Aとがなす角は、それぞれ、時計回りを正として、22.5°、45°、67.5°、90°、112.5°、135°、157.5°となるように、各扇形領域30b〜30hの配向方向は設定される。
あるいは、第n番目の扇形領域を、扇形領域30aから反時計回りにn番目の領域としたとき、各扇形領域30b〜30hの配向方向と扇形領域30aを通る偏光成分の偏光面Aとがなす角は、それぞれ、時計回りを正として、-157.5°、-135°、-112.5°、-90°、-67.5°、-45°、-22.5°となるように、各扇形領域30b〜30hの配向方向は設定される。
透明電極33、34は、液晶層30全体を挟んで対向するように配置される。そして透明電極33と34との間に、所定の波長域に含まれる波長に対して液晶層30の扇形領域30a〜30hが半波長板として機能するように、駆動回路111によって所定の電圧が印加される。
ここで、透明電極33と34との間に電圧が印加されると、液晶分子がその電圧に応じて電圧が印加された方向に対して平行になる方向に傾く。液晶分子の長軸方向と、電圧が印加された方向とがなす角をψとすれば、液晶層30を透過する光は、長軸方向に対して角ψをなす。このとき、液晶分子が配向された方向と平行な偏光成分に対する液晶分子の屈折率をnψとすると、no≦nψ≦neとなる。ただし、noは液晶分子の長軸方向に直交する偏光成分(すなわち、常光線)に対する屈折率であり、neは液晶分子の長軸方向に平行な偏光成分(すなわち、異常光線)に対する屈折率である。
そのため、液晶層30に含まれる液晶分子がホモジニアス配向されており、液晶層30の厚さがdであると、液晶分子の配向方向に平行な偏光成分と液晶分子の配向方向に直交する偏光成分との間に、光路長差Δnd(=nψd-nod)が生じる。したがって、透明電極33と34との間に印加する電圧を調節することにより、液晶分子の配向方向に平行な偏光成分と、液晶分子の配向方向に直交する偏光成分との光路長差を調節できる。そのため、例えば、駆動回路111が透明電極33と34との間に印加する電圧を調節することにより、所望の波長に対して扇形領域30a〜30hが、それぞれ半波長板として機能する。
各扇形領域30a〜30hが半波長板として機能する場合、液晶分子37の配向方向に対して角度θをなす偏光面を有する直線偏光がそれら扇形領域を透過すると、その偏光面は、透過した扇形領域の配向方向に対して角度−θをなすように回転する。すなわち、偏光面は、配向方向を中心として、角度2θだけ回転する。
図5に示した例では、各扇形領域30a〜30hにおける液晶分子の配向方向は、扇形領域30aに入射する直線偏光の偏光面Aに対する角度が、各扇形領域の中心線と液晶層30の扇形領域30aに入射する直線偏光の偏光面Aとの角度の1/2となるように設定されている。そのため、交点c1から入射直線偏光の偏光面Aに沿って上方を向く方向を基準とし、時計回り方向を正とすると、各扇形領域30a〜30hを透過した直線偏光成分の偏光面の角度は、それぞれ、0°、45°、90°、135°、180°、225°、270°、315°となる。このように、液晶光学素子3から出射する光線は、光軸OA2を中心として放射状の直線偏光成分を持つ。
なお、各扇形領域30a〜30hを透過した偏光成分の偏光面は、交点c1を中心とした放射状に分布すればよく、その偏光面は、透過した扇形領域の中心線と平行でなくてもよい。各扇形領域30a〜30hの配向方向は、各扇形領域30a〜30hを透過した偏光の偏光面が当該扇形領域及び交点c1を通る所定の直線と平行となるように設定されればよい。例えば、各扇形領域30a〜30hの配向方向と、扇形領域30aに入射した直線偏光の偏光面Aとのなす角が、上記の(1)式で求められる値に所定のオフセット値を加えた値となるように、各扇形領域30a〜30hの配向方向が設定されてもよい。この場合、所定のオフセット値は、各扇形領域30a〜30hの中心線と偏光面Aとのなす角にそのオフセット値の2倍を加算した角度(すなわち、扇形領域を透過した偏光成分の偏光面と扇形領域30aに入射する直線偏光の偏光面とがなす角)が、隣接する扇形領域との境界が偏光面Aとなす角度を超えないように、例えば、±5°に設定される。
また、液晶光学素子3の液晶層30が有する、配向方向の異なる領域の数は、8個に限られない。液晶層30が有する配向方向が異なる領域の数は、ラジアル偏光による効果が得られるために必要な数であればよい。例えば、液晶層30は、4、5、6あるいは16個の互いに配向方向が異なる領域を有していてもよい。
図6は、液晶層30が6個の扇形領域30i〜30nを含むときの各扇型領域における液晶の配向方向と、各領域を透過した直線偏光の偏光方向を示す概略正面図である。なお、この変形例においても、透明電極33、34は、液晶層30全体を挟んで対向するように配置される。
この変形例において、矢印40i〜40nは、それぞれ、各扇形領域30i〜30nに含まれる液晶分子の配向方向を表す。また、矢印50i〜50nは、それぞれ、各扇形領域30i〜30nから出射する直線偏光の偏光面を表す。なお、矢印50i〜50nのうち、矢印の先端が反対方向を向いている二つの矢印は、それら矢印で表される直線偏光の位相が互いにπだけずれていることを表す。
各扇形領域30i〜30nのうち、光軸OAと液晶層30の交点c1の上方に位置する扇形領域30iでは、入射する直線偏光の偏光面Aと、扇形領域30iの中心線とが一致する。そのため、扇形領域30iを1番目の領域とする。このとき、時計回り方向にn番目の扇形領域の配向方向は、例えば、その配向方向と偏光面Aとがなす角が上記の(1)式に従って算出される角度となるように設定される。
この場合、各扇形領域30i〜30nの配向方向と扇形領域30aを通る偏光成分の偏光面Aとがなす角は、それぞれ、時計回りを正として、0°、30°、60°、90°、120°、150°となる。
この場合も、各扇形領域30i〜30nを透過した直線偏光に対して液晶層30が半波長板として機能するように、扇形領域30i〜30nを挟む透明電極33、34間には入射光の波長に応じた電圧が印加される。
これにより、交点c1から入射直線偏光の偏光面に沿って上方を向く方向を基準とし、時計回り方向を正とすると、各扇形領域30i〜30nを透過した直線偏光成分の偏光面の角度は、それぞれ、0°、60°、120°、180°、240°、300°となる。このように、液晶光学素子3から出射する光線は、光軸OA2を中心として放射状の直線偏光成分を持つ。
図7は、透明電極33、34間の液晶層30に印加される電圧と液晶層30により生じる常光線と異常光線の光路長差の一例を示す図である。
図7において、横軸は液晶層30に印加される電圧を表し、縦軸は光路長差を表す。グラフ701は、波長405nmを持つ光について、印加電圧と光路長差の関係を表す。グラフ702は、波長650nmを持つ光について、印加電圧と光路長差の関係を表す。グラフ703は、波長780nmを持つ光について、印加電圧と光路長差の関係を表す。
例えば、波長405nmを持つ光に対して液晶層30を半波長板として機能させるために、透明電極33、34間には、405nmの整数倍に202.5nmを加えた光路長差が生じる電圧が印加されればよい。そこでグラフ701を参照すると、透明電極33、34間に、光路長差1012.5nmに相当する約1.4Vrmsの電圧が印加されればよい。
また、例えば、波長650nmを持つ光に対して液晶層30を半波長板として機能させるために、透明電極33、34間には、650nmの整数倍に325nmを加えた光路長差が生じる電圧が印加されればよい。そこでグラフ702を参照すると、透明電極33、34間に、光路長差975nmに相当する約1.5Vrmsの電圧が印加されればよい。
さらに、例えば、波長780nmを持つ光に対して液晶層30を半波長板として機能させるために、透明電極33、34間には、780nmの整数倍に390nmを加えた光路長差が生じる電圧が印加されればよい。そこでグラフ703を参照すると、透明電極33、34間に、光路長差1170nmに相当する約1.1Vrmsの電圧が印加されればよい。
光軸調整機構4は、液晶光学素子3の光軸OA2を筺体5に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1と一致させるように、液晶光学素子3を対物レンズ104に対して相対的に移動可能に支持する。
そのために、本実施形態では、光軸調整機構4は、並進移動機構41と、ティルト調整機構42とを有する。
本実施形態では、並進移動機構41は、いわゆるXYステージにより構成される。そのXYステージは、筺体5に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1に対して直交する面に平行で、かつ、互いに直交する2軸に沿ってそれぞれ独立に移動可能な二つのステージを有する。そしてXYステージ上に液晶光学素子3が固定的に取り付けられる。またXYステージが有する二つのステージの略中央部には、対物レンズ104及び液晶光学素子3を通る光束を遮らないように、例えば、対物レンズ104の瞳径よりも大きい直径を持つ略円形の貫通孔が形成されている。
なお、このXYステージは、例えば、クロスローラ式XYステージとすることができる。しかし、光軸調整機構4が有するXYステージは、ネジ送り式あるいはリニアボール式など、他の様々な方式のXYステージの何れかであってもよい。また例えば、筺体5の側壁に設けられた貫通孔を介して、XYステージの各ステージの位置を調整するための調整ネジなどの調整用部材が筺体5の外部に位置するようにXYステージは配置される。そしてユーザがその調整用部材を操作することで、XYステージ上の液晶光学素子3が、対物レンズ104の光軸OA1に直交する面内で移動する。なお、並進移動機構41は、各ステージの調整用部材として、モータあるいはピエゾ素子といった電動駆動素子を含んでもよい。この場合、例えば、コントローラ110または駆動回路111からの制御信号に応じてその電動駆動素子が動作することで、各ステージが移動する。
さらに、光軸調整機構4は、対物レンズ104の光軸OA1に対して液晶光学素子3の光軸OA2の傾きを調整するためのティルト調整機構42を有する。本実施形態では、ティルト調整機構42は、取り付け口51周囲において、取り付け口51の中心を略重心とする正三角形の頂点の位置に配置された筺体5の外壁の貫通孔にそれぞれ挿入された送りねじ42a〜42cを有する。そして各送りねじ42a〜42cの先端は、XYステージの土台に固定される。各送りねじ42a〜42cを回転させると、その回転量に応じて送りねじ42a〜42cの先端の位置が対物レンズ104の光軸OA1と略平行な方向に沿って移動する。そして送りねじ42a〜42cのうちの何れか一つを回転させると、他の二つの送りねじにより固定された部分で結ばれた直線を回転軸として、XYステージが送りねじの先端の移動量に相当する量だけ回転する。その結果、XYステージ上に配置された液晶光学素子3の光軸OA2が、XYステージの回転量に相当する角度だけ光軸OA1に対して傾く。そこで、ユーザは、各送りねじ42a〜42cを操作することにより、液晶光学素子3の光軸OA2を、対物レンズ104の光軸OA1と略平行となるように、その光軸OA2の傾きを調節できる。
なお、光軸調整機構4は、ティルト調整機構42を有さなくてもよい。この場合、並進調整機構41を構成するXYステージは、筺体5の対物レンズ104の取り付け口51が形成された外壁の内側に、例えばネジまたは接着剤により固定されてもよい。また光軸調整機構4は、並進調整機構41を有さなくてもよい。この場合、光軸調整機構4は、XYステージの代わりに、例えば、対物レンズ104の瞳径よりも大きい直径を持つ略円形の開口を持つステージを有し、そのステージ上に液晶光学素子3が配置される。
筺体5は、その内部に液晶光学素子3及び光軸調整機構4を収容可能なように中空状に形成される。例えば、筺体5は、金属あるいは樹脂により形成される。そして上述したように、筺体5の一つの外壁に、対物レンズ104の取り付け口51が形成される。また、取り付け口51が形成された外壁と対向する側の外壁(図2(b)及び図2(c)における上側の外壁)には、対物レンズ104及び液晶光学素子3を通る光束を遮らないように、対物レンズ104の瞳径よりも大きい直径を持つ貫通孔52が形成される。そしてその貫通孔52の周囲には、筺体5を対物レンズ104を用いる光照射装置に取り付けるためのネジ溝が外周に形成された略円筒状の突起部53が形成される。なお突起部53は、光照射装置側の対物レンズの取り付け機構、例えば、レボルバの取り付け機構に応じた構造を有するものであればよい。
また筺体5は、液晶光学素子3を筺体5内のXYステージ上に載置できるように、例えば、図2(b)における上側と下側とに分離する二つの部材により形成されてもよい。あるいは、筺体5の側壁の何れか一つに、液晶光学素子3を筺体5内へ挿入したり、筺体5から取り出すことが可能なサイズを持つ取り出し口が形成されていてもよい。
以下、本実施形態による光学素子の組み立て手順について、図8を参照しつつ説明する。
先ず、対物レンズ104を筺体5の取り付け口51に取り付ける(ステップS101)。次に、液晶光学素子3を筺体5内の光軸調整機構4に取り付ける(ステップS102)。なお、対物レンズの取り付けよりも先に、液晶光学素子が取り付けられてもよい。
そして、筺体5ごと、液晶光学素子3を観察可能な観察光学系を有する光軸調整用装置に、対物レンズ104よりも液晶光学素子3が観察光学系側に位置するように取り付ける(ステップS103)。例えば、光軸調整用装置は、図1に示したレーザ顕微鏡100そのものであってもよい。この場合、筺体5は、レーザ顕微鏡100の対物レンズの取り付け位置に取り付けられる。光軸調整用装置は、例えば、筺体5の位置を調節可能な機構を有し、その機構を操作することで対物レンズ104の光軸が観察光学系の像面の所定の位置、例えば、視野の中心に位置するように、筺体5が取り付けられる。なお、対物レンズ104の光軸と観察光学系の光軸の位置合わせには、光学系の光軸調整を行うために利用される一般的な光軸調整手順に従って行われればよい。例えば、対物レンズ104が組み込まれた観察光学系の物点に置かれた光源の像の位置が予め決められた位置となるように、筺体5の位置を調整すればよい。
そして、例えば、対物レンズ104を通して液晶光学素子3を照明することにより、その観察光学系の像面に形成される液晶光学素子3の像を観察しつつ、液晶光学素子3の光軸OA2が対物レンズ104の光軸OA1と一致するように、光軸調整機構4を操作して液晶光学素子3の対物レンズ104に対する相対的な位置を調整する(ステップS104)。対物レンズ104の光軸OA1は、例えば、その像面における視野の中心となる。
ここで、例えば、対物レンズ104の焦点側から対物レンズ104を介して液晶光学素子3を直線偏光で照明すると、液晶光学素子3を直線偏光が透過することによって扇形領域ごとに偏光方向が回転するので、観察光学系の像面において、液晶光学素子3の各扇形領域ごとに明るさが異なる。そのため、像面において、各扇形領域の境界が観察される。そして、その境界が交わる中心が、光軸OA2の位置であることが分かる。なお、光軸調整用装置は、液晶光学素子3と観察用の光学系の間に検光子を有してもよい。検光子を配置することにより、像面における扇形領域ごとの像の明るさの差がより明確となる。そのため、ユーザは扇形領域の境界をより観察し易くなるので、液晶光学素子3の光軸OA2の位置をより正確に特定可能となり、その結果、対物レンズ104の光軸OA1と液晶光学素子3の光軸OA2を一致させることが容易となる。
また、光軸調整用装置は観察用光学系の像面に配置された2次元イメージセンサを有してもよい。この場合、そのイメージセンサにより、液晶光学素子3の像が写った画像が生成される。ユーザは、その画像を、例えば光軸調整用装置と接続された表示装置上で観察しながら液晶光学素子3の位置を調整してもよい。
また、上記の光軸調整用装置がレーザ顕微鏡100のようなレーザ共焦点顕微鏡である場合、発明者は、対物レンズ104によってレーザ共焦点顕微鏡の光源から発せられたレーザ光が集光する集光面に何も置かずに、その光源から発したレーザ光の向きを例えばガルバノミラーなどで変えながら集光面を走査すると、集光面の各点からの光の強度を対応する画素の値とすることにより得られる画像に液晶光学素子3の各扇形領域の像が写るという知見を得た。そこで、ユーザは、その画像を観察しつつ、光軸OA2に相当する、各扇形領域の中心の交点の像が対物レンズ104の光軸OA1に対応する画像上の画素の位置と重なるように、光軸調整機構4を操作して液晶光学素子3の位置を調整すればよい。
以上説明してきたように、本発明の第1の実施形態に係る光学素子は、液晶光学素子の位置を調整するだけで液晶光学素子の光軸と対物レンズの光軸の位置合わせが可能であるため、液晶光学素子と対物レンズのアライメント調整を容易にする。そしてこの光学素子は、光軸の一致した液晶光学素子と対物レンズとをユーザが一体的に取り扱うことを可能にする。そのため、この光学素子は、対物レンズ及び液晶光学素子が組み込まれた顕微鏡装置に対物レンズ及び液晶光学素子を組み込むためのアライメント調整の手間を削減できる。
次に、第2の実施形態による光学素子について説明する。この光学素子は、液晶光学素子として、偏光面回転素子とともに位相反転素子を有する。そしてこの光学素子が有する光軸調整機構は、偏光面回転素子の光軸及び位相反転素子の光軸を、それぞれ対物レンズの光軸と一致させるように、偏光面回転素子及び位相反転素子の位置をそれぞれ独立に調整可能とする。
なお、以下では、第2の実施形態による光学素子のうち、第1の実施形態による光学素子と異なる点について説明する。
図9(a)は、本発明の第2の実施形態に係る光学素子10の概略側面図であり、図9(b)は、図9(a)の矢印BB'の方向から見た垂直方向の点線に沿った光学素子10の概略側面断面図であり、図9(c)は、図9(a)の矢印CC'の方向から見た水平方向の点線に沿った光学素子10の概略断面図である。光学素子10は、偏光面回転素子12と、位相反転素子13と、光軸調整機構14と、筺体15とを有し、対物レンズ104と一体化されている。
第1の実施形態による光学素子1と同様に、対物レンズ104は、筺体15の外壁の一つに設けられた取り付け口に取り付けられる。また筺体15の対物レンズ104が取り付けられた外壁と対向する側の外壁には、対物レンズ104、偏光面回転素子12及び位相反転素子13を通る光束を遮らないように、対物レンズ104の瞳径よりも大きい直径を持つ貫通孔が形成される。そしてその貫通孔の周囲には、筺体15を図1に示したレーザ顕微鏡100に取り付けるためのネジ溝が外周に形成された略円筒状の突起部が形成される。
また、筺体15の側壁の内側には、偏光面回転素子12及び位相反転素子13を保持するためのガイド溝151及び152が形成される。ガイド溝151は、筺体15に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1と直交する面に平行となるように筺体15の内周に沿って、かつ偏光面回転素子12を挿入可能な幅を持つように形成される。同様に、ガイド溝152は、ガイド溝151よりも対物レンズ12から離れた位置に、筺体15に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1と直交する面に平行となるように筺体15の内周に沿って、かつ位相反転素子13を挿入可能な幅を持つように形成される。
また、ガイド溝151、152に沿って偏光面回転素子12及び位相反転素子13を筺体15内に挿入できるように、筺体15の側壁のうちの一つは筺体15本体に対して取り外し可能となっていてもよい。
偏光面回転素子12は、例えば、第1の実施形態による液晶光学素子3と同様の液晶光学素子であり、入射した直線偏光をラジアル偏光に変換する。偏光面回転素子12は、その光軸OA2が筺体15に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1と略平行になるように、ガイド溝151に挿入される。
位相反転素子13は、光照射装置の光源から発し、位相反転素子13に入射するする直線偏光を、位相反転素子13の光軸OA3を中心とする同心円状の複数の輪帯のうちの一部を透過する光の位相を他の輪帯を通る光の位相に対して反転させる。位相反転素子13は、その光軸OA3が筺体15に取り付けられた対物レンズ104の光軸OA1と略平行になるように、ガイド溝152に挿入される。そのため、光照射装置の光源から発し、位相反転素子13を透過した光(図9(b)に示した例では、上方から下方へ向けて位相反転素子13を透過した光)は、偏光面回転素子12によりラジアル偏光に変換された後、対物レンズ104を通って集光される。これにより、対物レンズ104により集光された光は、偏光面回転素子のみによって生成されたラジアル偏光が集光された光よりも、より良好なz偏光となる。
図10(a)は、位相反転素子の一例の概略正面図であり、図10(b)は、位相反転素子の他の一例の概略正面図である。なお、図10(a)に示された位相反転素子と図10(b)に示された位相反転素子とは、輪帯状電極の構造についてのみ相違する。輪帯状電極の詳細については後述する。また図11(a)及び図11(b)は、それぞれ、図10(a)または図10(b)に示された矢印Y、Y'で示された線における位相反転素子13の概略側面断面図である。このうち、図11(a)は、位相反転素子13に電圧が印加されていないときの位相反転素子13に含まれる液晶分子の状態を表し、図11(b)は、位相反転素子13に電圧が印加されたときの位相反転素子13に含まれる液晶分子の状態を表す。
位相反転素子13は、入射した直線偏光のうち、光軸OA3を中心とする少なくとも一つの輪帯状の部分の位相を他の部分の位相に対して反転させる。そのために、位相反転素子13は、液晶層130と、光軸OA3に沿って液晶層130の両側に略平行に配置された透明基板131、132を有する。そして液晶層130に含まれる液晶分子137は、透明基板131及び132と、シール部材138との間に封入されている。また位相反転素子13は、透明基板131と液晶層130の間に配置された透明電極133と、液晶層130と透明基板132の間に配置された透明電極134とを有する。なお、透明基板131、132は、例えば、ガラスまたは樹脂など、所定の波長域に含まれる波長を持つ光に対して透明な材料により形成される。また透明電極133、134は、例えば、ITOにより形成される。透明電極133と液晶層130の間に配向膜135が配置される。また透明電極134と液晶層130の間に配向膜136が配置される。これら配向膜135、136は、液晶分子137を所定の方向に配向させる。なお、液晶分子137が、構造配向など、配向膜を用いない方法によって配向される場合、配向膜135、136は省略されてもよい。
さらに、各基板、各透明電極及び各配向膜の外周には鏡枠139が配置され、この鏡枠139が、各基板を保持している。
図11(a)に示されるように、液晶層130に封入された液晶分子137は、例えば、ホモジニアス配向となり、かつ、入射する直線偏光の偏光面と略平行な方向に配向されている。
再度図10(a)または図10(b)を参照すると、透明電極133は、光軸OA3と位相反転素子2の交点c2を中心とする、円状の中心電極133aと、同心円状の少なくとも一つの輪帯状の電極とを有する。この例では、透明電極133は、中心電極133aの周囲に、5個の輪帯状電極133b〜133fを有する。また、各電極間の隙間は小さい方が好ましい。一方、透明電極134は、液晶層130全体を覆うように形成される。これにより、液晶層130には、中心電極133a及び中心から偶数番目の輪帯状電極133c、133eの何れかと透明電極134に挟まれた第1の輪帯状部分と、中心から奇数番目の輪帯状電極133b、133d、133fの何れかと透明電極134に挟まれた第2の輪帯状部分とが、同心円状に交互に形成される。
なお、透明電極134も、透明電極133の形状と同様の形状を有してもよく、あるいは、透明電極134が同心円状の少なくとも一つの輪帯状の形状を有し、透明電極133が液晶層130全体を覆うように形成されてもよい。
図10(a)に示した例では、円状の中心電極及び各輪帯状電極は独立に制御可能なように、各輪帯状電極から配線がそれぞれ引き出されており、その配線が駆動回路111と接続されている。また図10(b)に示した例では、円状の中心電極133aから順に偶数番目の輪帯状電極同士、及び奇数番目の輪帯状電極同士がそれぞれ同一の配線で電気的に接続され、偶数番目の輪帯状電極と接続された配線及び奇数番目の輪帯状電極と接続された配線がそれぞれ駆動回路111と接続される。これにより、偶数番目の各輪帯状電極は同一の電位で駆動可能となっている。同様に、奇数番目の各輪帯状電極も同一の電位で駆動可能となっている。また図10(b)では、奇数番目の輪帯状電極群と偶数番目の輪帯状電極群のうち、一方の電極群は電気的に制御されなくてもよい。この場合、他方の電極群と透明電極134との間に電圧を印加することで、その他方の電極群と透明電極134との間に挟まれた液晶層により、光の位相を反転可能である。なお、輪帯状電極も厚さがあるので、輪帯状電極を通った光の位相は、輪帯状電極を透過しない光の位相に対してずれる。そこで、図10(a)及び図10(b)に示されるように、電圧制御に利用される輪帯状電極だけでなく、電圧制御が不要な輪帯状電極も配置することで、位相反転素子13は、液晶層130に電圧が印加されない場合に位相反転素子13を透過する光束のほぼ全体を同位相にすることができる。
さらに、電気的に制御する必要がない偶数番目、あるいは奇数番目の輪帯状電極群の電位を、その輪帯状電極群と対向する側の透明基板に設けられた透明電極134と同一の基準電位、あるいは液晶層130内の液晶分子が動作しない電位の最大値である閾値電位に設定することが好ましい。閾値電位は、一般には実効電圧で約1V〜2Vである。このように電気的に制御する必要がない輪帯状電極群の電位を設定することで、位相反転素子13は、液晶層130の電位を一定に制御できるので、静電気等のノイズにより液晶層130の液晶137が誤動作することを防止できる。また電気的に制御する必要がない輪帯状電極群の電位を閾値電位とすることで、液晶層130の熱揺らぎも抑制できる。
図11(b)に示されるように、中心電極133a及び偶数番目の輪帯状電極133c、133eと、液晶層130を挟んで対向して配置された透明電極134との間に、駆動回路111によって電圧が印加されると、それらの電極で挟まれた第1の輪帯状部分130aに含まれる液晶分子の長軸方向が、光軸OA3に直交する方向から光軸OA3に平行な方向に近づくように液晶分子が傾く。一方、奇数番目の輪帯状電極133b、133d、133fと透明電極134との間には電圧が印加されなければ、それらの電極で挟まれた第2の輪帯状部分130bに含まれる液晶分子は、その長軸が光軸OA3に直交する方向を向いたままとなる。
ここで、透明電極133の一部の電極と134との間に電圧が印加されたときの、第1の輪帯状部分130aに含まれる液晶分子の長軸方向と、電圧が印加された方向、すなわち光軸OAの方向とがなす角をψとすれば、液晶層130を透過する光は、液晶分子137の長軸方向に対して角ψをなす。このとき、液晶分子137が配向された方向と平行な偏光成分に対する液晶分子の屈折率をnψとすると、no≦nψ≦neとなる。そのため、液晶層130に含まれる液晶分子137がホモジニアス配向されており、液晶層130の厚さがdであると、液晶層130のうち、第1の輪帯部分130aを通る偏光成分と、第2の輪帯部分130bを通る偏光成分との間に、光路長差Δnd(=nψd- ned)が生じる。そしてそれら二つの偏光成分間に生じる位相差Δは、2πΔnd/λとなる。なお、λは、液晶層130に入射する光線の波長である。
このように、透明電極133と透明電極134との間に印加する電圧を調節することにより、位相反転素子13は、液晶層130を透過する光の位相を変調することができる。従って、透明電極133と透明電極134との間に入射光の波長に応じた所定の電圧が印加されると、位相反転素子13は、第1の輪帯部分130aを通る光の位相を、第2の輪帯部分130bを通る光の位相に対してπだけずらすことができる。
光軸調整機構14は、偏光面回転素子12の位置を調整するための並進調整機構141と、位相反転素子13の位置を調整するための並進調整機構142とを有する。なお、並進調整機構141と142とは同一の構造を有するので、以下では、並進調整機構141について説明する。
並進調整機構141は、二つの弾性部材1411、1412と、二つの軸位置調整部材1413、1414とを有する。
弾性部材1411は、筺体5の側壁のうちの一つにおいて、ガイド溝151内に、光軸OA1と直交する面と略平行な方向に沿って形成された孔151aに挿入される。同様に、弾性部材1412は、孔151aが形成された側壁と隣接する側壁の一方において、ガイド溝151内に、光軸OA1と直交する面と略平行な方向に沿って形成された孔151bに挿入される。そして弾性部材1411、1412の一端は、それぞれ、孔151a、151bの底面(すなわち、ガイド溝151内の筺体15の側壁側の面)と接し、弾性部材1411、1412の他端は、偏光面回転素子12の外周と接している。そして弾性部材1411は、偏光面回転素子12を孔151aが形成された側壁と対向する側の側壁へ向けて付勢する。また弾性部材1412は、偏光面回転素子12を孔151bが形成された側壁と対向する側の側壁へ向けて付勢する。すなわち、弾性部材1412により付勢される方向は、弾性部材1411により付勢される方向と略直交する。
なお、弾性部材1411、1412は、それぞれ、例えば、コイルバネ、あるいはスプリングプランジャとすることができる。
軸位置調整部材1413は、例えば、外周にネジ溝が形成されたネジ状部材であり、弾性部材1411が挿入された孔151aが形成された側壁と対向する側の筺体15の側壁に、ガイド溝151の底面から筺体15の外側に向けて貫通するように形成された貫通孔151c内に挿入される。また貫通孔151cの内周にもネジ溝が形成されており、軸位置調整部材1413と貫通孔151cとは螺合している。
軸位置調整部材1413の先端は、弾性部材1411が接している側と反対側の偏光面回転素子12の外周と接している。軸位置調整部材1413をその中心線を回転軸として例えば時計回りに回転させると、軸位置調整部材1413の先端が筺体15の内部へ、すなわち、図9(c)における水平方向に沿って左側へ向けて移動する。その結果、偏光面回転素子12も、軸位置調整部材1413に押圧されて弾性部材1411の方へ移動する。逆に、軸位置調整部材1413をその中心線を回転軸として反時計回りに回転させると、軸位置調整部材1413の先端が筺体15の外側へ、すなわち、図9(c)における水平方向に沿って右側へ向けて移動する。上記のように、偏光面回転素子12は、弾性部材1411によって貫通孔151cが形成された側壁へ向けて付勢されているので、軸位置調整部材1413の先端が筺体15の外側へ向けて移動するにつれて、偏光面回転素子12も貫通孔151cが形成された側壁の方へ(すなわち、図9(c)における右側へ)移動する。
同様に、軸位置調整部材1414は、例えば、外周にネジ溝が形成されたネジ状部材であり、弾性部材1412が挿入された孔151bが形成された側壁と対向する側の筺体15の側壁に、ガイド溝151の底面から筺体15の外側に向けて貫通するように形成された貫通孔151d内に挿入される。また貫通孔151dの内周にもネジ溝が形成されており、軸位置調整部材1414と貫通孔151dとは螺合している。
軸位置調整部材1414の先端は、弾性部材1412が接している側と反対側の偏光面回転素子12の外周と接している。軸位置調整部材1414をその中心線を回転軸として例えば時計回りに回転させると、軸位置調整部材1414の先端が筺体15の内部へ、すなわち、図9(c)における垂直方向に沿って下方へ向けて移動する。その結果、偏光面回転素子12も、軸位置調整部材1414に押圧されて弾性部材1412の方へ移動する。逆に、軸位置調整部材1414をその中心線を回転軸として反時計回りに回転させると、軸位置調整部材1414の先端が筺体5の外側へ、すなわち、図9(c)における垂直方向に沿って上方へ向けて移動する。上記のように、偏光面回転素子12は、弾性部材1412によって貫通孔151dが形成された側壁へ向けて付勢されているので、軸位置調整部材1414の先端が筺体15の外側へ向けて移動するにつれて、偏光面回転素子12も貫通孔151dが形成された側壁の方へ(すなわち、図9(c)における上側へ)移動する。
このように、軸位置調整部材1413、1414をそれぞれ回転させることにより、偏光面回転素子12は、対物レンズ104の光軸OA1と直交する面内で、互いに直交する二つの方向に移動する。そのため、並進調整機構141は、偏光面回転素子12の光軸OA2を対物レンズ104の光軸OA1と一致させることができる。
なお、軸位置調整部材1413、1414は、ネジ状部材でなくてもよい。例えば、軸位置調整部材1413、1414は、ピエゾ素子であってもよい。この場合、軸位置調整部材1413、1414の一端は偏光面回転素子12の外周と接し、軸位置調整部材1413、1414の他端は、筺体5の側壁の内側に固定される。この場合、コントローラ110または駆動回路111からピエゾ素子に印加する電圧を変えることにより、ピエゾ素子の長さも変化する。そのため、ピエゾ素子の長さの変化に応じて偏光面回転素子12が対物レンズ104の光軸OA1と直交する面内で移動する。そこで、軸位置調整部材1413、1414のピエゾ素子に印加する電圧を適切に調節することで、並進調整機構141は、偏光面回転素子12の光軸OA2を対物レンズ104の光軸OA1と一致させることができる。
この第2の実施形態による光学素子10についても、図8に示した組み立て手順と同様の手順により、液晶光学素子である偏光面回転素子12及び位相反転素子13の光軸が、筺体15に取り付けられた対物レンズ104の光軸と一致するように、光学素子10を組み立てることができる。
ただし、位相反転素子13の光軸を対物レンズ104の光軸と一致させる際には、図示しない駆動回路111から位相反転素子13の液晶層に電圧を印加する。これにより、透明電極のパターンに応じた、位相の異なる輪帯ごとに明るさが異なる像が、光軸位置調整用装置の観察光学系を介して観察できるようになる。そこで、ユーザは、輪帯の像の中心が、対物レンズの光軸に対応する位置と重なるように、並進調整機構142を操作して、位相反転素子13の位置を調整すればよい。
次に、本発明の第3の実施形態による光学素子について説明する。第3の実施形態による光学素子は、液晶光学素子として、対物レンズを含む光学系で生じる波面収差を補正するよう、透過した光束の位相を制御する位相変調素子を有する。第3の実施形態による光学素子は、第1の実施形態による光学素子と比較して、筺体5内に収容されている位相変調素子の機能及びその位相変調素子が有する透明電極の構造が、液晶光学素子3の機能及び液晶光学素子3が有する透明電極の構造と異なる。また第3の実施形態では、光学素子が有する液晶光学素子は、位相変調素子のみである。そこで以下では、位相変調素子の機能、及び位相変調素子が有する透明電極及びその関連部分について説明する。また第3の実施形態による位相変調素子が有する透明電極以外の点、及び、光軸調整機構及び筺体に関しては、第1の実施形態における対応する構成要素の説明を参照されたい。
第3の実施形態による光学素子が有する位相変調素子も、第1の実施形態による液晶光学素子と同様に、2枚の透明基板及びそれら透明基板間に挟まれた液晶層を有する。そして液晶層に封入された液晶分子は、例えば、ホモジニアス配向されている。さらに、液晶層と各透明基板の間には、それぞれ、透明電極が設けられており、この2枚の透明電極間に印加する電圧を調節することで、液晶光学素子を透過する光束に、レーザ顕微鏡100の光学系で生じる収差をキャンセルさせるための位相分布を与える。
図12は、第3の実施形態による位相変調素子が有する二つの透明電極のうちの一方の構造の一例を示す位相変調素子の概略正面図である。なお、位相変調素子が有する二つの透明電極のうちの他方は、例えば、液晶層全体を覆うように形成される。あるいは、両方の透明電極とも、図12に示されれる形状を有してもよい。
図12に示されるように、透明電極71は、位相変調素子7の光軸と位相変調素子7の交点c0を中心とする、円状の電極71aと、同心円状の複数の輪帯状の電極71b〜71iとを有する。そして、輪帯状電極71iの外周が、液晶分子が駆動されるアクティブ領域の外周に対応する。アクティブ領域の直径は、例えば、対物レンズ104の瞳径と略一致するように設計される。
図12に示した例では、円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iは独立に制御可能なように、円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iから配線がそれぞれ引き出されており、その配線が駆動回路111と接続されている。さらに、円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iとは互いに離して配置されることで絶縁されている。そして円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iにより液晶層に印加する電圧を制御することで、円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iに応じた液晶層の輪帯状の部分ごとに光路長を変えることができる。その結果として、光学素子は、位相変調素子7を透過する光束に、同心円状の所望の位相分布を与えることが可能となっている。
なお、円状電極71aの直径及び各輪帯電極71b〜71iの幅は、例えば、光束の直径方向に沿った所望の位相分布プロファイルを等位相間隔で分割することにより設定される。すなわち、光軸からの距離の変化に対する位相変調量の変化が大きい位置に対応する輪帯ほど狭く設定されることが好ましい。
また、円状電極71a及び各輪帯電極71b〜71iのそれぞれは、隣接する輪帯電極と、同一の電気抵抗を持つ電極(抵抗子)によって接続されてもよい。この場合には、所望の位相分布から、位相変調量が最大となる位置及び最小となる位置に対応する輪帯電極が決定される。そして、位相変調量が最大となる位置にある輪帯電極または円状電極に、最大位相変調量に応じた電位が与えられ、一方、位相変調量が最小となる位置にある輪帯電極または円状電極に、最小位相変調量に応じた電位が与えられる。この結果、抵抗分割により、隣接する輪帯電極間の電位差が同一となる。そのため、液晶光学素子は、各輪帯電極を独立駆動するよりも単純な駆動回路で駆動できる。
図13(a)及び図13(b)は、それぞれ、第3の実施形態による位相変調素子7において、電圧が印加される電極の一例を示す図である。図13(a)及び図13(b)において、電極71aは中心の円状電極であり、輪帯電極71iは最外周の輪帯電極である。そして輪帯電極71b〜71hのうちの何れかである輪帯電極71mは、最高電位が与えられる輪帯電極を表す。また隣接する輪帯電極同士は、抵抗値Rの抵抗により接続されている。
図13(a)では、各電極は、2レベルの電圧により駆動される。中心の円状電極71aと最外周の輪帯電極71iに同一の最低電位V1が与えられ、一方、輪帯電極71mには、最高電位V2が与えられる。レーザ顕微鏡100の光学系で発生した波面収差の位相分布における中心及び端部の位相が等しくなるように、対物レンズ104により集光されるスポットと観察対象位置間のデフォーカス値を選ぶことで、中心の円状電極71aを通る光束の位相と最外周の輪帯電極71iを通る光束の位相とを一致させることができる。この場合、図13(a)のように、中心の円状電極71aと最外周の輪帯電極71iに与えられる電位を同一としても、波面収差による位相分布をキャンセルできる位相変調量を、液晶層に生じさせることができる。このように、2レベル駆動の例では、最低電位V1と最高電位V2間の電位差を変えることにより、位相変調プロファイルの形状を変えずに、液晶層中の各輪帯電極に対応する領域についての位相変調量の大きさを変更できる。
これに対して、図13(b)は、各電極は、3レベルの電圧により駆動される。この構成では、最外周の輪帯電極71iに、円状電極71aに与えられる電位V1とは異なる電位V3が与えられる。このように、最外周の輪帯電極71iにも任意の位相変調量が発生するように電位V1と異なる電位V3を与えることで、対物レンズ104として、開口数NAの異なる対物レンズが用いられた場合でも、位相変調素子7は、対物レンズごとに異なる位相変調量の分布を液晶層に生じさせることができる。そのため、位相変調素子7は、使用される対物レンズに応じて、波面収差を高精度に補償することができる。
図14(a)は、対物レンズを含む光学系により生じる波面収差を補正するために、液晶光学素子の各輪帯電極と対向する透明電極との間に印加される電圧の分布の一例を示す図であり、図14(b)は、図14(a)に示された電圧の分布に応じて位相変調素子7が生じる位相変調量の分布の一例を示す図である。図14(a)及び図14(b)において、横軸は、光軸OAからの距離を表し、領域71a〜71iは、それぞれ、円状電極71a及び輪帯電極71b〜71iに対応する。また図14(a)において、縦軸は電極間に印加される電圧を表す。そしてグラフ1401は、光軸からの距離に応じた電圧の分布を表す。一方、図14(b)において縦軸は位相変調量を表し、下へ行くほど位相が遅れることを表す。そしてグラフ1402は、光軸からの距離に応じた、位相変調素子7が生じる位相変調量の分布を表す。この例では、中心部と最外周における位相変調量が異なっているので、液晶光学素子は、3レベルの電圧で駆動されることが好ましい。
グラフ1401及び1402に示されるように、電極間の電圧が大きいほど、位相変調量も大きくなる。
対物レンズを交換する度に、光学系で発生した波面収差に応じた位相分布がキャンセルされるよう、円状電極71a、輪帯電極71m、及び輪帯電極71iに与える電位V1、V2、V3の比が設定される。最終的な電圧の調整は、例えば、像を見ながら手動で、もしくは像から得られるコントラスト等の情報をコントローラが求め、その情報を印加する電位にフィードバックしながら最適となる電位を自動で設定してもよい。
なお、一般的なレーザー顕微鏡は、波長が異なるレーザ光源を複数備えており、レーザ光源ごとに、それぞれ、必要な位相変調量が異なる。波長の違いによる、位相変調量の違いは、液晶層に印加する電圧を変化させることで対応することができる。更に、温度変化等による位相変調量の違いも印加電圧の調整でキャンセルすることができる。
上記のように、この実施形態における位相変調素子7も、位相変調素子7自身の光軸を回転中心とした位相変調量を与えるので、対物レンズの光軸と位相変調素子7の光軸とが一致していなければ、位相変調素子7は、対物レンズを含む光学系で生じる波面収差を適切に補正できないおそれがある。そのため、この実施形態でも、対物レンズ104の光軸と位相変調素子7の光軸とを一致させることが好ましい。
この第3の実施形態による光学素子についても、図8に示した組み立て手順と同様の手順により、位相変調素子7の光軸が、筺体に取り付けられた対物レンズ104の光軸と一致するように、光学素子を組み立てることができる。
ただし、第3の実施形態においては、位相変調素子7の光軸を対物レンズ104の光軸と一致させる際には、第2の実施形態における位相反転素子13の光軸を対物レンズ104の光軸と一致させるときと同様に、駆動回路111から位相変調素子7の液晶層に、個々の輪帯電極ごとに異なる電圧を印加することで、液晶層を透過する光束について、その輪帯電極に対応した輪帯部分ごとに明るさが異なる像が観察できる状態として、輪帯の像の中心が対物レンズ104の光軸に対応する位置と重なるように光軸調整機構4を操作すればよい。
なお、光学素子は、液晶光学素子として、対物レンズ104の光軸方向に沿って並べられた複数の位相変調素子を有してもよい。そして各位相変調素子は、互いに異なる種類の波面収差を補正するように、それぞれ、位相変調素子を透過する光束に異なる位相変調量の分布を与えてもよい。
各位相変調素子は、例えば、第3の実施形態による位相変調素子7と同一の構成を有することができる。そして各位相変調素子が有する液晶層に封入された液晶分子の配向方向が互いに平行となるように、各位相変調素子は配置される。そして各位相変調素子は、例えば、第3の実施形態による液晶光学素子と同様に、図12に示されたような同心円状の輪帯電極を有してもよい。この場合でも、二つの位相変調素子のうちの一方の各輪帯電極に印加する電位を、他方の位相変調素子の各輪帯電極に印加する電位とを異ならせることで、例えば、一方の位相変調素子が3次球面収差を補正する位相変調量の分布を光束に与え、他方の位相変調素子が5次球面収差を補正する位相変調量の分布を光束に与えてもよい。
あるいは、二つの位相変調素子が有する透明電極パターンが互いに異なっていてもよい。
図15は、この変形例による、二つの位相変調素子のうちの一方が有する二つの透明電極のうちの一方の構造の一例を示す概略正面図である。なお、位相変調素子が有する液晶層に封入された液晶分子は、図15におけるx軸に直交する方向に沿って配向される。また、位相変調素子が有する二つの透明電極のうちの他方は、例えば、液晶層全体を覆うように形成される。あるいは、両方の透明電極とも、図15に示される形状を有してもよい。なお、この変形例でも、他方の位相変調素子は、例えば、第3の実施形態による液晶光学素子と同一の構成とすることができる。
図15に示された透明電極72は、レーザ顕微鏡100の光学系で生じるコマ収差を補正するのに適した位相変調量の分布を、位相変調素子を透過する光束に与えるように最適化されている。図15に示されるように、位相変調素子に入射される光束の有効径721から所定距離(例えば、50μm)内側に入った内側領域722に、位相を進ませるための二つの電極72a及び72bと、位相を遅らせるための二つの電極72c及び72dが配置されている。さらに、内側領域721内で電極72a〜72dが配置されていないところには、基準電圧を印加するための基準電極72eが配置される。簡単化のために図示していないが、各電極間にはスペースが設けられ、互いに絶縁されている。
基準電極72eに印加される基準電位(例えば0V)に対して正(+)の電位を電極72a及び72bに印加すると液晶層を挟んで対向する透明電極との間に電位差を生じ、その間の液晶の配向性が電位差に応じて変化する。したがって、この部分を通過する光ビームは、その位相を進められるような作用を受ける。また、基準電極72eに印加される基準電位に対して負(−)の電位を電極72c及び72dに印加すると、液晶層を挟んで対向する透明電極との間に電位差を生じ、その間の液晶の配向性が電位差に応じて変化する。したがって、この部分を通過する光ビームは、その位相を遅らせるような作用を受ける。
この結果、各電極に印加する電位を適切に調節することにより、この位相変調素子は、図15におけるx軸方向に沿って対物レンズ104に対して斜入射する光束に対してコマ収差に応じた光束の位相分布をキャンセルさせる位相変調量の分布を与えることができる。
なお、さらに他の変形例によれば、光学素子は、図15に示された電極パターンを持つ位相変調素子と、図15に示された電極パターンを光軸のまわりに90度回転させた電極パターンを持つ位相変調素子とを有してもよい。これにより、光変調素子は、図15におけるx軸方向だけでなく、任意の方向に沿って対物レンズに斜入射する光束のコマ収差も補正できる。
これらの変形例のように、二つの位相変調素子を持つ光学素子の場合、各位相変調素子は、第2の実施形態による光学素子の光軸調整機構14及び筺体15と同様の構成を有する光軸調整機構及び筺体によって保持可能である。
そしてこの変形例の場合も、対物レンズの光軸に対して各位相変調素子の光軸を一致させる場合、対物レンズの光軸に対して光軸を一致させる位相変調素子の液晶層に対して電圧を印加する。そしてユーザは、電圧が印加されることで得られる電極のパターンを観察しつつ、電極のパターンと位相変調素子の光軸との位置関係から位相変調素子の光軸の位置を推定して、その推定位置を対物レンズの光軸に合わせるように光軸調整機構を操作すればよい。
また他の変形例によれば、第1の実施形態のように、光学素子が液晶光学素子として偏光面回転素子しか有さない場合でも、その液晶光学素子の光軸を対物レンズの光軸と位置合わせするために、光学素子は、第2の実施形態による光軸調整機構を有してもよい。
また光軸調整機構全体あるいはその一部は筺体から取り外し可能なものであってもよい。例えば、第2の実施形態において、偏光面回転素子及び位相反転素子の光軸が対物レンズの光軸に対して位置合わせされた後、偏光面回転素子及び位相反転素子は、例えば、接着剤を用いて筺体に固定される。その後、光軸調整機構の軸位置調整部材が筺体から取り外される。このように光軸調整機構を構成することで、光軸調整機構の一部または全ての部品を、本発明による複数の光学素子に対して共通に利用できる治具として利用することができるので、光学素子自体の部品点数が減少し、その結果光学素子のコストが低減される。
また、光学素子が複数の液晶光学素子を有する場合、予め液晶光学素子同士の光軸を一致させてそれら液晶光学素子を一体化した後に、その一体化された液晶光学素子を第1の実施形態による筺体内に配置してもよい。例えば、第1の実施形態による液晶光学素子は、偏光面回転素子と位相変換素子とが一体化されたものでもよい。この場合には、予め偏光面回転素子の光軸と位相変換素子の光軸とが位置合わせされる。そのために、例えば、偏光面回転素子と位相反転素子とは、一つの筺体に支持される。その筺体は、例えば、第2の実施形態による光学素子の筺体と同様の構造を有するものとすることができる。ただし、その筺体は、対物レンズの取り付け口及び筺体を光照射装置に取り付ける突起部を有さなくてよい。その代わりに、筺体には、偏光面回転素子と位相反転素子を透過する光束の直径よりも大きい直径を持つ略円形の開口が、偏光面回転素子及び位相反転素子と略平行となる外壁に形成されていればよい。また、偏光面回転素子または位相反転素子の一方のみが他方に対して移動可能であればよいので、筺体には、偏光面回転素子または位相反転素子の何れか一方に対して、図9(c)に示されるような並進調整機構が設けられていればよい。
偏光面回転素子の光軸と位相反転素子の光軸を一致させるために、例えば、偏光面回転素子と位相反転素子とを支持する筺体を、上記のような光軸用調整装置に取り付ける。そしてユーザは、その光軸用調整装置の観察光学系にて形成される偏光面回転素子の像と位相反転素子の像とを観察しつつ、偏光面回転素子の光軸に相当する各扇形領域の境界の交点と、位相反転素子の光軸に相当する位相反転素子の同心円状の輪帯の中心とが一致するように、偏光面回転素子または位相反転素子を移動させればよい。
さらに、対物レンズと、液晶光学素子及び光軸調整機構とは、光照射装置に直接取り付けられてもよい。この場合、液晶光学素子及び光軸調整機構を支持する部品は、対物レンズを支持する部品と別個の部品であってもよい。
なお、上記の各実施形態またはその変形例による光学素子と一体化される対物レンズは、顕微鏡用の対物レンズでなくてもよい。例えば、その対物レンズは、レーザ加工装置、または干渉計などで用いられる対物レンズであってもよい。そして上記の各実施形態またはその変形例による光学素子は、様々な光照射装置、例えば、レーザ加工装置、あるいは干渉計にも好適に用いられる。
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。