本発明の半導体片の製造方法は、例えば、複数の半導体素子が形成された半導体ウエハなどの基板状の部材を分割(個片化)して、個々の半導体片(半導体チップ)を製造する方法に適用される。分割対象の基板としては、シリコン、SiC、化合物半導体、サファイア等で構成される基板であることができるが、基板内にレーザで改質領域(詳細後述)を形成して、この改質領域を利用して基板を分割できるものであれば、材料や大きさ等は問わない。また、基板上に形成される半導体素子は、特に制限されるものではなく、発光素子、能動素子、受動素子等を含むことができる。一例として、本発明の製造方法は、発光素子を含む半導体片を基板から取り出す方法に適用され、発光素子は、例えば、面発光型半導体レーザ、発光ダイオード、発光サイリスタであることができる。1つの半導体片は、単一の発光素子を含むものであってもよいし、複数の発光素子をアレイ状に配置されたものであってもよく、さらに1つの半導体片は、そのような1つまたは複数の発光素子を駆動する駆動回路を包含することもできる。なお、本実施の形態では、面発光型半導体レーザや発光ダイオード等の発光素子が形成される、GaAs等のIII−V族化合物半導体基板である。
以下の説明では、複数の発光素子が半導体基板上に形成され、当該半導体基板から個々の半導体片(半導体チップ)を取り出す方法について図面を参照して説明する。なお、図面のスケールや形状は、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールや形状と同一ではないことに留意すべきである。
図1は、本発明の実施例に係る半導体片の製造工程の一例を示すフローである。同図に示すように、本実施例の半導体片の製造方法は、発光素子を形成する工程(S100)、レジストパターンを形成する工程(S102)、半導体基板の表面に微細溝を形成する工程(S104)、レジストパターンを剥離する工程(S106)、基板表面にダイシング用テープを貼付ける工程(S108)、基板裏面からダイシングのためにレーザを照射する工程(S110)、ダイシング用テープに紫外線(UV)を照射し、半導体基板の裏面にエキスパンド用テープを貼付ける工程(S112)、ダイシング用テープを剥離し、エキスパンド用テープに紫外線を照射する工程(S114)、エキスパンド用テープをエキスパンドし、半導体基板に応力を印加して半導体片に分割する工程(S116)、半導体片(半導体チップ)をコレットによりピッキングし、プリント回路基板等に半導体チップをダイマウントする工程(S118)を含む。図2(A)ないし(E)、および図3(F)ないし(J)に示す半導体基板の断面図は、それぞれステップS100ないしS118の各工程に対応している。
発光素子を形成する工程(S100)では、図2(A)に示すように、GaAs等の半導体基板Wの表面に、複数の発光素子100が形成される。発光素子100は、例えば、面発光型半導体レーザ、発光ダイオード、発光サイリスタ、等である。なお、図面には、発光素子100として1つの領域を示しているが、1つの発光素子100は、個片化された1つの半導体片に含まれる素子を例示しており、1つの発光素子100の領域には、1つの発光素子のみならず、複数の発光素子やその他の回路素子が含まれ得ることに留意すべきである。また、説明を分かり易くするために発光素子100を基板表面から突出するように強調して示しているが、発光素子100は、基板表面とほぼ同一面に形成されるものであってもよい。
図4は、発光素子の形成工程が完了したときの半導体基板Wの一例を示す平面図である。ここには、便宜上、中央部分の発光素子100のみが例示されている。半導体基板Wの表面には、複数の発光素子100が行列方向にアレイ状に形成されている。1つの発光素子100の平面的な領域は、概ね矩形状であり、各発光素子100は、一定間隔Sを有するスクライブライン等で規定される切断領域120によって格子状に離間されている。
発光素子の形成が完了すると、次に、半導体基板Wの表面にレジストパターンが形成される(S102)。図2(B)に示すように、レジストパターン130は、半導体基板Wの表面のスクライブライン等で規定される切断領域120が露出されるように加工される。レジストパターン130の加工は、フォトリソ工程によって行われる。
次に、半導体基板Wの表面に微細な溝が形成される(S104)。図2(C)に示すように、レジストパターン130をマスクに用い、半導体基板Wの表面に一定の深さの微細な溝(以下、便宜上、微細溝または表面側の溝という)140が形成される。ここには、基板表面からほぼ垂直に延びる側面をもつ、開口幅Saに対して深さが十分に大きい、高アスペクト比のストレート状の微細溝140が例示されている。微細溝140の幅Saは、切断領域120の間隔Sよりも小さく、幅Saを小さく加工することができれば、それに応じて、切断領域120の間隔Sを小さくすることができ、それ故、半導体基板の切り代を小さくすることができる。微細溝140は、例えば、異方性エッチングにより形成でき、より幅の狭い微細な溝を形成する場合は、異方性ドライエッチングである異方性プラズマエッチング(リアクティブイオンエッチング)により形成される。厚みの薄いダイシングブレードや等方性エッチング等で形成してもよいが、異方性ドライエッチングを用いることで、等方性エッチングで表面側の溝を形成するよりも、幅が狭くても深い溝を形成が形成され、かつダイシングブレードを使用したときよりも微細溝周辺の発光素子100に振動や応力等が影響するのが抑制される。微細溝140の幅Saは、レジストパターン130に形成された開口の幅とほぼ等しく、微細溝140の幅Saは、例えば、数μmから十数μmである。また、その深さは、例えば、約10μmから100μm程度であり、少なくとも発光素子等の機能素子が形成される深さよりも深く形成される。微細溝140を一般的なダイシングブレードによって形成した場合には、切断領域120の間隔Sが、ダイシングブレード自体の溝幅及びチッピング量を考慮したマージン幅の合計として40ないし60μm程度と大きくなる。一方、微細溝140を半導体プロセスで形成した場合には、溝幅自体が狭いだけでなく切断のためのマージン幅もダイシングブレードを使用した場合のマージン幅より狭くなる。言い換えれば、切断領域120の間隔Sが小さくなるため、発光素子をウエハ上に高密度に配置すれば半導体片の取得数が増加する。なお、本実施例における「表面側」とは発光素子等の機能素子が形成される面側をいい、「裏面側」とは「表面側」とは反対の面側をいう。
次に、レジストパターンを剥離する(S106)。図2(D)に示すように、レジストパターン130を半導体基板の表面から剥離すると、表面には、微細溝140が形成された切断領域120が露出される。
次に、基板表面に紫外線硬化型のダイシング用テープを貼り付ける(S108)。図2(E)に示すように、発光素子側に粘着層を有するダイシング用テープ160が貼り付けられ、基板表面が保護される。
次に、基板裏面からダイシングのためにレーザ照射が行われる(S110)。レーザ照射は、図3(F)に示すように、基板に対して透過性のある波長のレーザ光170を対物レンズ等によって基板内に集光させる。集光されたレーザ光170のスポット径は、非常に小さく、そこにエネルギーが集中される。その結果、レーザ光170が集光された領域のみが局所的、選択的に、基板の他の領域とは異なる性質に変化される。このようなレーザ照射によって性質が変化された領域は、改質領域と呼ばれる。改質領域は、表面側の微細溝140に対応する位置に、かつ基板内の所望の深さに形成され、後に行われるエキスパンド工程のときに、改質領域が亀裂(クラック)の基点となり、この亀裂が基板裏面から微細溝140に伸展することで半導体片の個片化が行われる。このようなダイシングの詳細は後述する。
次に、基板表面に貼付されたダイシング用テープ160へ紫外線(UV)を照射し、また基板裏面にエキスパンド用テープを貼り付ける(S112)。図3(G)に示すようにダイシング用テープ160に紫外線180が照射され、その粘着層が硬化され、他方、半導体基板の裏面にエキスパンド用テープ190が貼り付けられる。エキスパンド用テープ190は、基材に伸縮性を有し、テープを伸ばすことで半導体片の割断を可能にし、かつ個片化された半導体片のピックアップを容易にする。なお、紫外線180の照射と、エキスパンド用テープ190の貼り付けの順序は、どちらが先に行われてもよい。
次に、ダイシング用テープを剥離し、エキスパンド用テープに紫外線を照射する(S114)。図3(H)に示すように、ダイシング用テープ160が半導体基板の表面から剥離される。
次に、エキスパンド用テープをエキスパンドし、半導体片に分割する(S116)。エキスパンド用テープ190に紫外線200を照射し、その粘着層を硬化させた後、図3(I)に示すように、エキスパンド用テープ190が1次元または2次元方向に拡張される。このエキスパンドにより、基板には主に引っ張り方向の応力が印加され、基板内に形成された改質領域を起点とする亀裂が発生し、半導体片が個々に割断される。
次に、個片化された半導体片のピッキングおよびダイマウントを行う(S118)。図3(J)に示すように、エキスパンド用テープ190からコレットによりピッキングされた半導体片210が、はんだ等の導電性ペーストなどを用いた接着剤220を介して回路基板230上に接着される。
次に、本実施例のダイシングの詳細について説明する。本実施例のダイシングは、基板に対して透過性のある波長のレーザ光を対物レンズ等の光学系で基板の内部に焦点を結ぶように集光し、基板の内部に選択的に改質領域を形成し、基板に応力を与えることで改質領域を基点とする亀裂を発生させ、基板を内部から割断する方式である。これに対し、従来のレーザダイシングは、基板に対して吸収性のある波長のレーザ光を基板表面に照射することで、基板を熱溶融または蒸散(アブレーション)させ、基板表面から割断する方式である。従来のレーザダイシングでは、基板表面の発光素子が、熱の影響やアブレーションによる発塵の影響を受け、素子の信頼性が低下する問題があるが、本実施例のダイシングは、従来のレーザダイシングと比較して、熱や発塵の影響が少なくなるという利点がある。
ここで、レーザ照射によって形成される改質領域は、一般に次のように定義される。すなわち、改質領域とは、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。
また、本実施例のダイシングにパルスレーザを用いた場合、予め決められた周波数で駆動される1パルスのレーザショットは、1つの改質スポット(加工痕)を形成し、複数の改質スポット(加工痕)があたかも連続するかの如く集まることで改質領域が形成される。例えば、半導体基板の切断領域に応じてレーザ光をスキャンさせるとき、切断領域に沿って形成された複数の改質スポットの集まりが切断領域に沿った改質領域を形成する。改質スポットは、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御される。
図5は、本実施例によるダイシングに関する具体的な工程を説明する概略断面図である。図5(A)に示すように、基板Wは、厚さWtを有し、その表面には、ドライプロセスにより幅Sa、深さD1のアスペクト比の大きな微細溝140が形成される。
次に、図5(B)に示すように、基板裏面からレーザ照射が実施される。これは、図1のステップS110に対応する。レーザ光170は、表面の微細溝140の位置を確認しながら、微細溝140の位置に一致するように基板裏面から走査される。例えば、基板を、X、Y、Zの3次元方向に移動可能なステージ上に搭載し、ステージを相対移動させることでレーザ走査したり、基板を固定し、レーザ光源を相対移動させることでレーザ走査される。あるいは、基板およびレーザ光源を固定し、その間のポリゴン等の光学系を作動させることでレーザ走査される。
基板内部に形成される改質領域は、割断する距離に応じて、基板の厚さ方向に少なくとも1つ以上形成される。本実施例のように微細溝140が形成された基板では、割断する距離は、基板の厚さWtと微細溝の深さD1の差(Wt−D1)であり、この距離に応じて、基板の厚さ方向に1つまたは複数の改質領域が形成される。図5(B)の例では、微細溝140−1の下方には、4つの改質領域300、302、304、306が形成され、微細溝140−2の下方には、4つの改質領域310、312、314、316が形成される。基板の厚さ方向の異なる位置に改質領域を形成するため、レーザ光170の焦点位置が厚さ方向に調整される。上記したように、1つの改質領域は、図面の奥行き方向に走査された複数の改質スポットの集まりであり、言い換えれば、図5(B)の断面に表された改質領域は、1つの改質スポットを表していると見ることができる。
また、図5(B)に示す例では、改質領域(または改質スポット)が縦長に強調して示されているが、これは、焦点深度によって焦点位置の前後にも高いエネルギー密度が生じ、改質領域が縦長に形成され得ることを示している。一方、改質領域の基板表面と水平方向の幅は、概ね、対物レンズ等によって集光されるレーザ光のスポット径に等しくなる。
次に、基板Wは、エキスパンド工程(図1のステップS116に対応)によって、半導体チップに個片化ないし分割される。基板裏面は、エキスパンド用テープの粘着層によって保持されており、エキスパンド用テープを2次元方向に拡張したとき、基板には、その拡張する方向に応力が印加される。すると、図5(C)に示すように、4つ改質領域300〜306を起点として概ね縦方向に亀裂Q1が発生し、この亀裂Q1が最終的に基板裏面から微細溝140−1の底部に伸展する。同様に、4つの改質領域310〜316を起点として概ね縦方向に亀裂Q2が発生し、この亀裂Q2が基板裏面から微細溝140−2の底部に伸展する。こうして、微細溝140を介した割断により半導体チップが個片化される。なお、分割される半導体チップがより小さくなると、その裏面の接着面積が小さくなり、エキスパンドによる応力では、亀裂Q1、Q2が十分に生じ得ないことがある。そのような場合には、半導体基板に対して、基板が反るような曲げ応力を加えた後に、エキスパンドを行うようにしてもよい。
次に、本実施例の改質領域について図6(A)を参照して説明する。同図に示すように、基板表面には、デバイス領域としての発光素子100が間隔Sで離間され、その間隔Sよりも小さい幅Saの微細溝140−1、140−2(総称するとき、微細溝140という)が形成される。微細溝140−1の下方には、微細溝140−1に整列された複数の改質領域320、322、324が形成されている。第1の態様では、改質領域の基板と水平方向の最大幅Wpは、微細溝140の幅Saよりも小さくなるように形成される。例えば、微細溝140の幅Saが5μ程度であるとき、改質領域の幅Wpは、例えば、1〜2μmに調整される。模式的に、改質領域324の幅Wpの拡大図が示されている。もし、微細溝140の幅Saが改質領域の幅Wpよりも小さいと、最上部の改質領域から微細溝140への亀裂が微細溝140から外れてしまうおそれがある。これに対し、微細溝140の幅Saが改質領域の幅Wp大きければ、最上部の改質領域からの亀裂が微細溝140から外れることが抑制される。
第2の態様では、微細溝140−1の深さ方向に形成される複数の改質領域320、322、324が予め決められた間隔Taで形成されるとき、微細溝140の深さD1は、改質領域の間隔Taよりも大きい関係にある。微細溝140の深さD1が間隔Taよりも大きいことは、割断する距離Wt−D1の減少であり、基板の厚さ方向に形成する改質領域の数が低減し、レーザ照射の回数が減ることになる。
第3の態様では、微細溝140−1の深さ方向に改質領域320、324、326が予め決められた間隔Taで形成されるとき、微細溝140−1の底部と、当該底部に一番近い改質領域320との間隔Tbは、改質領域間の間隔Taよりも小さい。微細溝140−1の底部と、これに一番近い改質領域320の間隔Tbを狭くすることで、改質領域320の亀裂が伸展する方向が微細溝140−1から外れることがより効果的に抑制される。
第4の態様では、微細溝140の底部近傍に改質領域が形成される。例えば、微細溝140−2の深さ方向には、改質領域330、332、334が形成され、このうち、微細溝140−2の底部に最も近い改質領域330が、微細溝140−2の底部またはその近傍に形成される。これにより、改質領域330のそれ自身の亀裂がほぼ完全に微細溝140−2の底部に一致する。よって、改質領域330の亀裂方向がほぼ間違いなく微細溝140−2に向かうようになる。第4の態様は、第3の態様において、微細溝140の底部と改質領域320との間隔Tbを限りなくゼロにしたものと見ることができる。なお、後述するように、改質領域330の位置は、基板表面から深さD1だけ離れているため、レーザ照射による熱的な影響によって発光素子100が実質的な損傷を受けることがなく、かつ、亀裂の際に発生する発塵が基板表面の発光素子100へ悪影響を及ぼすことも回避される。
図6(B)は、基板表面に微細溝が形成されていない半導体基板をレーザ照射によりダイシングするときの説明図である。このようなダイシングでは、改質領域を基点とする亀裂の方向が必ずしも一意に決まらない。この影響を少なくするために、改質領域340を基板表面近くに形成することが考えられる。しかし、基板表面には発光素子100が形成されており、改質領域340を形成する際のレーザ照射により基板近傍に熱が発生し、熱源までの距離が近いと発光素子が損傷を受けてしまう。さらに、改質領域を介して亀裂が発生するとき、塵が発生する。改質領域が基板表面にあると、その発塵が、基板表面の発光素子100に付着するおそれがある。レーザ照射による熱や発塵から発光素子を保護するためには、改質領域から距離的に大きく離間されるように、発光素子100の間隔Scを非常に大きく設定しなければならない。このことは、切断領域の幅を大きくすることであり、1枚の基板から取得できる半導体チップの数の減少を意味する。さらに、基板の厚さWtが大きいと、基板表面までのレーザの透過距離が大きくなり、レーザが減衰し、所望の改質領域を形成することができないおそれがある。
また、基板表面での熱や塵の影響を回避するため、図示するように、改質領域350を、基板表面から離れた基板内部に形成することも可能であるが、この場合、改質領域350からの亀裂Qが、必ずしも真上方向に伸展するとは限らず、斜め方向に伸展することもある。この亀裂Qが発光素子100へ伸展することがないようにするには、発光素子100の間隔Scを大きく設定しなければならない。
一方、本実施例のように、基板表面に形成された微細溝を介して半導体チップをダイシングする方法を採用することで、改質領域を基板表面から離れた位置に形成することができ、発光素子が、改質領域の形成による熱や割断のときの塵から保護される。さらに改質領域を基点とする亀裂が基板内部の微細溝の底部に伸展されるため、基板表面において、改質領域による不確実な亀裂のマージンを考慮する必要がない。それ故、本実施例では、発光素子間の間隔Sを小さく設定することができ(S<Sc)、半導体チップの取得数が増加する。
次に、本実施例に適用可能な微細溝について図7を参照して説明する。図7(A)は、矩形状の微細溝140が基板表面に形成され、その深さ方向に4つの改質領域360が形成された様子を表している。矩形状の微細溝140は、表面側の幅Saが一様となるように、表面から垂直に延びる側面が底部まで延在している。図7(B)に示す微細溝140Aは、表面側の幅Saが底部の幅Sbに向けて徐々に広がるような逆テーパ形状を有し(Sb>Sa)、この底部の深さ方向に改質領域370が形成されている。微細溝140Aを逆テーパ形状にすることで、底面の幅Sbが大きくなるため、最上部の改質領域370Aからの亀裂Qが曲がっても微細溝140Aに到達し易くなる。言い換えれば、微細溝140Aとこれに隣接する改質領域370Aとの間隔を大きくすることが可能となる。どの程度大きくできるかは、幅Sb−幅Saの差に応じて決定される。その結果、基板の深さ方向に形成される改質領域370の数を、例えば、図7(A)のときの4つから3つに減らすことができるため、レーザの照射回数が少なくなり、処理時間が短縮される。
図7(C)に示す微細溝は、図7(B)に示すような完全な逆テーパ形状と異なり、底部に向かう途中に、表面側の幅Saよりも広い幅Sbの部分を含んでいる。微細溝140Bは、幅Saが一様な直線状の第1の溝部分と、この下方に連通する幅Saよりも大きな幅を有する球形状の第2の溝部分とを有する。微細溝140Cは、幅Saの直線状の第1の溝部分と、この下方に連通する幅Saよりも大きな幅を有する半円状の第2の溝部分を有する。微細溝140B、140Cは、それぞれ、幅Saよりも広い幅Sbの部分を含むため、最上部の改質領域380A、390Aからの亀裂Qが、微細溝140B、140Cに到達し易くなる。それ故、図7(B)のときと同様に、基板の厚さ方向の改質領域の数を減らすことが可能になる。なお、図7(A)〜(C)に示す微細溝の形状は一例であり、表面側の幅Saを有する第1の溝部分と、そこから下方に連通する幅Sbを有する第2の溝部分を含んでいれば、同様の効果が得られる。
次に、本実施例に適用され得る微細溝の詳細を図8(A)ないし(D)に示す。図8(A)に示す微細溝500は、深さDaのほぼ均一な幅Saを形成する直線状の側面を含む第1の溝部分510と、第1の溝部分510の下方に連結され、深さDbの球面状の側面及び裏面を有する第2の溝部分520とを有する。第2の溝部分520の幅Sbは、基板表面と平行な方向の対向する側壁間の内径であり、Sb>Saの関係にある。図の例では、第2の溝部分520の中心近傍において、幅Sbが最大となる。
図8(B)に示す微細溝500Aは、深さDaのほぼ均一な幅Saを形成する直線状の側面を含む第1の溝部分510と、第1の溝部分510の下方に連結され、深さDbのほぼ直線状の側面を有する矩形状の第2の溝部分530とを有する。第2の溝部分530は、図8(A)に示す第2の溝部分520の球面状の側面及び裏面を直線状に変化させたものであり、第2の溝部分530の幅Sbは、基板表面と平行な方向の対向する側壁間の距離であり、この距離は、ほぼ一定である(Sb>Sa)。なお、ここに示す第2の溝部分の形状は例示であって、第2の溝部分の形状は、第1の溝部分の幅Saよりも大きな幅をもつ形状であれば良く、例えば、図8(A)に示す第2の溝部分520と、図8(B)に示す第2の溝部分530の中間の形状、すなわち第2の溝部分が楕円状であってもよい。更に言い換えれば、第2の溝部分は、第1の溝部分との境界部の溝の幅(Daの深さでの溝の幅)よりも広い幅の空間を有する形状であればよい。
図8(C)に示す微細溝500Bは、深さDaのほぼ均一な幅Saを形成する側面を有する第1の溝部分510と、第1の溝部分510の下方に連結され、深さD2の逆テーパ状の第2の溝部分540とを有する。第2の溝部分540の側面は、底部に向けて幅が徐々に大きくなるように傾斜されている。第2の溝部分540の幅Sbは、基板表面と水平な方向の対向する側面間の距離であり、当該距離は、第2の溝部分540の最下部近傍(下端近傍)で最大となる。なお、図8(C)においては、第2の溝部分540の側面の傾斜角度と異なる角度であれば、第1の溝部分510側面が底部に向けて幅が徐々に大きくなるように傾斜していてもよい。
図8(D)に示す微細溝500Cは、基板表面の開口幅Saから最下部近傍の幅Sbまで、徐々に幅が大きくなる形状を有している。つまり、深さDb有する逆テーパ状の溝から構成され、微細溝500Cは、図8(C)に示す第1の溝部分510の深さDaを限りなく小さくしたものである。なお、図8(D)の形状は、図8(A)ないし図8(C)の形状のように、第1の溝部分と第2の溝部分の境界で側面の角度が変わる形状ではないが、溝全体の上部と下部を比較すると、下部の方が溝幅が広くなっている形状であり、第1の溝部分(上部)と第1の溝部分よりも広い幅の第2の溝部分(下部)を有している。
図8(A)ないし(C)に示すように、深さDaのほぼ均一な幅Saを形成する直線状の側面を含む第1の溝部分510を有する形状は、図8(D)に示すような完全な逆メサ形状よりも、半導体チップのコーナー部のチッピングやクラックが抑制される。
図9に、他の微細溝の形状を示す。同図に示す微細溝500Dは、図8(C)に示す垂直形状の第1の溝部分510を逆テーパ形状の溝部分560に変更したものである。微細溝500Dは、基板表面の開口幅Saから深さDaの幅Sa1まで順方向に傾斜した対向する側面を有し、幅Sa1から底部の幅Sbまで逆方向に傾斜した対向する側面を有する。
上記した微細溝500、500A、500B、500C、500Dは、基板と直交する中心線に関して線対称に構成されても、線対称に構成されなくてもよい。また、これらの微細溝は、その特徴を分かり易く説明するために直線または曲面により描かれたものであり、実際に形成される微細溝の側面には、段差または凹凸が含まれてもよく、コーナーは必ずしも厳密に角形状にはならず、曲面で形成されうることに留意すべきである。また、図8(A)〜(D)、図9は、あくまで微細溝の一例をしての形状を示したものであり、第1の溝部分と連通する下方に、第1の幅よりも大きい幅を有する第2の溝部分が形成される形状であれば他の形状であってもよい。例えば、図10の形状においては、深さD1の順テーパ形状と深さD2の逆メサ形状との間に、基板表面に対して略垂直な側面を有する溝部分が含まれていてもよい。その他として、図8(A)〜(D)、図9に示すそれぞれの形状を組み合わせた形状や、組み合わせた後に更に変形させた形状であってもよい。また、図8(A)〜(D)、図10に示す順テーパ形状や逆メサ形状の角度もあくまで一例であり、基板面に垂直な面に対して傾斜を有すればよく、その傾斜の程度は問わない。
次に、本実施例の微細溝の製造方法について説明する。図10は、本実施例の微細溝を製造するための第1の製造方法を示すフローである。図8(A)ないし(D)、図9に示されるような微細溝は、幅Saを有する第1の溝部分を第1のエッチングにより形成する工程(S150)、次に、第1の溝部分の下方に幅Saよりも広い幅Sbを有する第2の溝部分を第2のエッチングにより形成する工程(S160)を含む。ここで、第2のエッチングは第1のエッチングよりも側壁方向へのエッチング強度が強いエッチングを用いる。一例として、第1のエッチングとして異方性ドライエッチングを、第2のエッチングとして等方性ドライエッチングを使用する場合の例を説明する。
図11は、図8(A)に示す微細溝500の製造工程を説明する概略断面図である。GaAs基板Wの表面に、フォトレジスト700が形成される。フォトレジストは、例えば、粘性100cpiのi線レジストであり、約8μmの厚さに塗布される。公知のフォトリソ工程、例えばi線ステッパー、TMAH2.38%の現像液を用いて、フォトレジスト700に開口710が形成される。この開口710の幅は、第1の溝部分の幅Saを規定する。
フォトレジスト700をエッチングマスクに用い、異方性ドライエッチングにより基板表面に第1の溝部分510を形成する。一例として、リアクティブイオンエッチング(RIE)装置として誘導結合プラズマ(ICP)が用いられる。エッチング条件は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)のパワー500W、バイアスパワー50W、圧力3Pa、エッチングガスとして、Cl2=150sccm、BCl3=50sccm、C4F8=20sccm、エッチング時間20分である。公知のようにCF系のガスを添加することで、エッチングと同時に側壁に保護膜720が形成される。反応ガスのプラズマによりラジカル、イオンが生成される。溝の側壁はラジカルのみでアタックされるが、保護膜720があるためエッチングされない。一方、底部は垂直入射したイオンにより保護膜が除去され、除去された部分がラジカルによりエッチングされる。このため、異方性エッチングが達成される。
次に、エッチング条件を変更することで、等方性ドライエッチングが行われる。一例として、ここでは、側壁保護膜720を形成する役割のC4F8の供給を停止する。誘導結合プラズマ(ICP)のパワー500W、バイアスパワー50W、圧力3Pa、エッチングガスとして、Cl2=150sccm、BCl3=50sccm、エッチング時間10分である。C4F8の供給が停止されたことで、側壁保護膜720が形成されなくなるため、第1の溝部分510の底部において等方性エッチングが達成される。これにより、第1の溝部分510の下方に第2の溝部分520が形成される。第2の溝部分520は、第1の溝部分510の幅Saからさらに横及び下方向に広がった球面状の側面及び裏面を有する。なお、上記のエッチング条件は一例であり、微細溝の幅、深さ、形状等に応じてエッチング条件が適宜変更され得る。
なお、図8(C)のような形状は、第2の溝部分を形成する際に、側壁方向へのエッチング強度を図8(A)の第2の溝部分を形成する場合よりも弱めればよい。側壁方向へのエッチング強度は、エッチング装置の出力やエッチングガスなどのエッチング条件を変えることで変更可能であり、具体的には、例えば、側壁保護用のガスであるC4F8の供給を完全に停止せずに、第1の溝部分を形成する際の流量よりも減したり、エッチング用のガスであるCl2などの流量を増やしたり、または、これらを組み合わせればよい。言い換えると、第1の溝部分の形成時及び第2の溝部分の形成時の両方において、エッチングガスに含まれる側壁保護用のガス及びエッチング用のガスの両方を供給するものの、それぞれの流量を変えることで形成すればよい。そして、このような流量の設定を、第1の溝部分を形成する前に予め設定しておけば、第1の溝部分及び第2の溝部分が一連の連続したエッチング工程にて形成される。なお、粘着層の残存を抑制するために、第1の溝部分を、基板表面から裏面に向けて幅が徐々に狭くなる形状(順テーパ形状)に形成する場合は、そのような形状になるように、C4F8やCl2の流量やエッチング装置の出力を適正化したり、流量を切り替えるようにすればよい。また、図8(D)のような形状は、図8(C)における第1の溝部分の形成を省略すれば形成可能である。また、このようなエッチングは一般的に異方性ドライエッチングとして達成される。
次に、本実施例の微細溝を製造するための第2の製造方法のフローを図12に示し、これに併せて、微細溝の第2の製造工程の概略断面図を図13に示す。
先ず、第1の製造方法のときと同様に、図13(A)に示すように基板表面にフォトレジスト800が形成され、微細溝をエッチングするための開口810がフォトレジストに形成される。次に、レジスト800をマスクに、基板表面に1回目の等方性エッチングにより一定の深さの第1の溝820が形成される(S200)。1回目の等方性エッチングは、例えば、第1の製造方法のときの等方性エッチングと同様のエッチング条件で行われる。
次に、図13(B)に示すように、第1の溝820の側壁および底部に第1の保護膜830を堆積する(S210)。第1の保護膜830は、例えば、CF系のポリマーであり、1回目の等方性エッチングのときからガスのみをC4F8に変更することで堆積される。
次に、2回目の等方性エッチングが行われる(S220)。2回目の等方性エッチングも1回目の等方性エッチングと同様に、C4F8を含まないエッチングガスで行われる。なお、2回目の等方性エッチングは、1回目の等方性エッチングよりも幅の広い溝が形成できるエッチング条件で行う。例えば、1回目の等方性エッチングよりも長い時間行われる。2回目の等方性エッチングの初期に、図13(C)に示すように、第1の保護膜830の底部がイオンによりエッチングされて除去され、底部が露出される。そして、例えば、1回目よりも2回目の時間を長くすることで、図13(D)に示すように、第1の溝820の下方に、横方向に広がり、かつ深い第2の溝840が形成される。
2回目の等方性エッチングの終了後、図13(E)に示すように、第1の溝820および第2の溝840の側壁および底部に第2の保護膜850が堆積される(S230)。第2の保護膜850の形成は、図13(B)に示す1回目の保護膜形成と同条件である。このような1回目、2回目等方性エッチングと第1および第2の保護膜堆積の工程により、第1の溝部分と、第1の溝部分よりも広い幅を有する第2の溝部分を有する表面側の微細溝が形成される。なお、このような1回目、2回目等方性エッチングと第1および第2の保護膜堆積の工程をさらに連続的に複数回繰り返すことで、逆テーパ状の微細溝が形成される。
以上、本実施例の微細溝を製造するための製造方法について説明したが、第1の溝部分と第1の溝部分よりも広い幅を有する第2の溝部分とを形成できるのであれば、他の方法で形成してもよい。例えば、ドライエッチングとウエットエッチングの組合せで形成してもよい。また、第1の溝部分は第1のエッチングのみで形成される必要はなく、第2の溝部分は第2のエッチングのみで形成される必要はない。つまり、第1の溝部分に対しては、第1のエッチングが主要なエッチングであれば、第1のエッチング以外のエッチングが含まれても良く、第2の溝部分に対しては、第2のエッチングが主要なエッチングであれば、第2のエッチング以外のエッチングが含まれてもよい。また、少なくとも第1の溝部分と第2の溝部分が形成されればよいため、例えば、第1の溝部分と第2の溝部分との間や第2の溝部分よりも基板の裏面側に近い位置に第3や第4の溝部分が存在してもよく、また、それらは、第3のエッチングや第4のエッチングによって形成されてもよい。また、第2の溝部分は、第1の溝部分の最下部の幅よりも必ずしも広い幅を有している必要はない。これは、第1の溝部分の形状が基板の裏面に向けて徐々に狭くなる形状である場合等において、この狭くなる度合いを緩めるようにエッチングの条件を変更すれば、単一のエッチングで表面側の溝を形成する場合と比較し、同じ深さにおける溝の幅を広がることになり、亀裂の伸展が表面側の溝幅から外れることが抑制されるためである。
また、ドライエッチングのみで表面側の溝を形成する場合における等方性ドライエッチングと異方性ドライエッチングの使い分けについては、例えば、以下のようにすればよい。すなわち、第1の溝部分は、等方性エッチングではなく異方性エッチングで形成すれば、より狭い溝を形成しやすく、より狭い溝を形成できれば1枚の基板から取得できる半導体片の数が増える。また、第2の溝部分を等方性エッチングで形成すれば、異方性エッチングで形成するよりも幅の広い溝が形成しやすく、より幅の広い溝を形成できれば亀裂の伸展が第2の溝部分から外れることが抑制される。一方、第2の溝部分を異方性エッチングで形成すれば、等方性エッチングで形成するよりも深い溝が形成しやすくなる。以上のように、どのようなエッチングを使用するかは、加工対象の基板の材料や使用する装置の精度などの条件を加味して、所望の半導体チップの形状を生成する方法を選択すればよい。
次に、本発明の他の実施例の製造工程について説明する。上記の図1に示す製造工程では、基板表面に微細溝を形成し、その後に、基板裏面からダイシングのためのレーザ照射を行う例を示したが、微細溝の形成とレーザ照射の順序は、逆であっても良い。この製造工程を図14に示す。同図に示すように、発光素子の形成後(S100)に、基板裏面からダイシングのためのレーザ照射を行う(S101)。レーザ照射は、切断領域120に沿うように、例えば切断領域120の間隔Sの中心に沿うように行われる。レーザ照射後、レジストパターンを形成し(S102)、基板表面に微細溝が形成される(S104)。それ以外の工程は、図1に示した製造工程と同様である。
さらに図1に示す製造工程では、基板表面をダイシング用テープ160によって保持した状態で、基板裏面からダイシングのためのレーザ照射を行う例を示したが、基板表面をダイシング用テープで覆うことなく、基板裏面をエキスパンド用テープによって保持した状態で、基板裏面からレーザ照射を行うようにしてもよい。このときの製造工程を図15に示す。ステップS100〜S106までは、図1のときと同様である。レジストパターンを剥離した後(S106)、基板表面にダイシング用テープを貼り付けることなく、基板裏面にエキスパンド用テープを貼り付ける(S107)。この工程は、図1のS112に対応する。次に、基板裏面から、エキスパンド用テープを介してレーザ照射を行う(S110)。エキスパンド用テープは、紫外線照射によって粘着層が硬化される紫外線硬化型の樹脂であるが、同時に、レーザの波長を透過する性質を有する。従って、照射されたレーザ光は、粘着層を硬化させることなくそこを透過し、基板内部に改質領域を形成する。レーザ照射が終了したら、次に、エキスパンド用テープに紫外線を照射する(S111)。その後は、図1のときと同様に、エキスパンド用テープをエキスパンドして半導体チップの個片化が行われる(S116)。このような方法によれば、製造工程が図1の工程よりも少なくなり、製造工数および時間が短縮される。
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、各実施の形態や、実施の形態に開示した個々の機能や構造は、その作用や効果が矛盾しない範囲において組み合わせることができる。また、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。