鋼の製造に使用される耐火物には、室温ないしは数百℃程度の低温状態から溶鋼の接触等により急激に高温に曝される条件で使用されるものがある。例えば、溶鋼の排出に使用する各種鋳造用ノズル、溶鋼の流量制御のためのスライディングノズル装置に使用されるプレート耐火物、それに付帯した上部ノズル及び下部ノズルなどは事前の十分な予熱又は保温が困難であってそれらの工程がない等により、低温状態で溶鋼と接触する、すなわち最大約1550℃程度の急昇温を伴う使用方法が一般的となっている。更にこれらの耐火物は、そのような急加熱ないし冷却を繰り返し受ける。
このような急加熱ないし冷却による熱衝撃により耐火物が破壊(亀裂、欠け等を含む耐火物組織の断裂をいう。)された場合、耐火物自体に酸化損耗、鉄酸化物等の生成に伴う耐食性の低下等を惹き起こし、その耐火物構造体自体の具備すべき機能が維持できなくなる。また鋼の品質が低下したり、鋼の製造にかかる操業の中断や漏鋼等の危険性が増大する等、大きな影響を及ぼすことになる。このため、このような耐火物及びその耐火物を使用した鋳造用ノズル等の耐火物構造体には、高度な耐熱衝撃性(「耐スポーリング特性」ともいう。)が要求される。
特に、鋳造用ノズルやプレート耐火物の内孔部において溶鋼の通過によって発生する熱応力は、溶鋼温度、鋼種、鋳造時間などの操業条件や耐火物の材質及び形状によって複雑なものとなり、耐火物に様々な亀裂を発生、伸展させる。亀裂の発生及び伸展は耐火物の耐用(寿命)低下を招くだけでなく、鋼品質の低下や漏鋼などの事故の誘因となるため、近年ユーザーからはコスト競争力を背景に鋼品質の高位安定化、操業安定化を目指し、耐食性はもとより耐熱衝撃性を高めた耐火物の開発への要望が高まってきている。
耐火物の熱衝撃による亀裂発生、伸展に関しては、機械的特性と一定の関係式が成り立つことが知られており、熱衝撃破壊抵抗係数や熱衝撃損傷抵抗係数など、また破壊エネルギーなどにより、耐火物の耐熱衝撃性として評価され、材質開発の手法として用いられることが多い。
その手法としては、例えば、(1)異方性の高いファイバーや原料の添加による破壊靭性及び破壊エネルギーの向上(特許文献1〜3)、(2)熱間で軟化特性を持つピッチカーボンの添加による低弾性率化(特許文献4,5)、(3)ZrO2含有原料などの加熱時の結晶相の変態を利用した低熱膨張率化、低弾性率化(特許文献6)などにより、熱的スポーリングによる亀裂の発生及び伸展を抑制する手法が知られている。
しかし、前記(1)の手法では、高温域においてファイバーや原料が劣化し、又は耐火物組織と反応するため、使用環境によってはファイバー等の添加効果が得られないことや、耐火物製造時に作業性や成形性を著しく損なうため、添加する形状や量に制限を受ける等の問題がある。前記(2)の手法では、耐火物の炭素含有量が増加するため、その量によっては耐火物の強度が低下し、耐熱衝撃性を高めることにならないことがあり、また酸化による損耗が助長される使用条件下では著しい耐食性の低下を招くことがある。前記(3)の手法では、ZrO2含有原料は酸素濃度が高い鋼種に対しては耐食性が低下することがあるので、その使用量等が限定され、特定の粒子構造及び組成においては一定の効果は得られるものの、一般化できる技術にはなり得ない。
このように従来の手法では、十分な、また広く耐火物全般に適用可能な耐熱衝撃性改善効果を得ることは困難である。
本発明が解決しようとする課題は、耐熱衝撃性に優れた耐火物及びその耐火物を使用した耐火物構造体を提供することにある。
本発明は、次の(1)〜(4)の耐火物、及び(5)〜(7)の耐火物構造体を提供する。
(1) 500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の化学成分として、フリーの炭素を2.0質量%以上7.0質量%以下含有し、かつ前記フリーの炭素として耐火物組織を結合する結合炭素を含有する耐火物において、
500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の測定において、見掛け気孔率が4%以上12%以下であり、かつ径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下であることを特徴とする耐火物。
(2) 前記結合炭素の含有量が、1.0質量%以上3.0質量%以下である(1)に記載の耐火物。
(3) 前記結合炭素を除く残部が、粒子径0.2mm以上0.5mm以下の耐火性材料が20体積%以上50体積%以下、粒子径0.2mm未満の耐火性材料が20体積%以上40体積%体積%以下、及び粒子径0.5mm超5mm以下の耐火性材料で構成されている(1)又は(2)に記載の耐火物。
(4) 500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の化学成分として、更に金属アルミニウムを4質量%以下(ゼロを含まない)含有する(1)から(3)のいずれかに記載の耐火物。
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の耐火物を一部又は全体に配置した耐火物構造体。
(6) 内部に溶鋼と接触する空間を備えた殻状又は筒状である(5)に記載の耐火物構造体。
(7) 鋳造用ノズルである(6)に記載の耐火物構造体。
以下、本発明を詳しく説明する。
溶鋼温度より低い温度の耐火物に溶鋼が接触する条件で使用されるとき、溶鋼と接触する際に受ける熱衝撃によって生じる初期破壊は、熱衝撃の程度すなわち溶鋼温度と耐火物との温度差が大きくなるほど発生しやすく、また破壊の進展、拡大も大きくなる。言い換えると、溶鋼に接触する際の耐火物温度が低いほど、初期破壊、破壊の進展、拡大も大きくなる。
このような破壊は、耐火物の熱衝撃を受ける面付近に最初に生じ、これが起点になることもあるが、その対極の低温側が起点になることもある。破壊の起点の位置は耐火物構造体の構造や使用条件等の複数の要因によって変わるが、本発明者の知見によれば、特に内部に溶鋼が通過するための空間(内孔)を備えている鋳造用ノズル等の筒状の耐火物構造体では、溶鋼と接触する面と対極にある、筒の外部(最外周)に最初に破壊が生じ、これが起点となって破壊が進展又は拡大することが多い。なお、本明細書でいう「破壊」とは、亀裂、損壊を含む、耐火物組織の連続性を断絶して耐火物構造体の具備すべき機能を阻害する程度の変化の一切をいう。
溶鋼に接触する耐火物の多くは、その耐火物組織が炭素によって結合され、又は更にフリーの炭素を主成分とする炭素基質材料を含有する。その理由は、これら炭素結合又は炭素結合に炭素基質材料を含む耐火物は、一般に、酸化物結合又は炭素を含有しない耐火物よりも耐熱衝撃性及び耐食性に優れるからであり、また、鋳造用ノズル等の繰り返し使用する操業条件に対しても優位であるからである。
この点から本発明の耐火物は、前述の溶鋼に接触する用途における一般的な耐火物、具体的にはフリーの炭素を2.0質量%以上7.0質量%以下含有し、かつ前記フリーの炭素として耐火物組織を結合する結合炭素を含有することを前提条件とし、好ましくは前記結合炭素に加えて炭素基質材料由来のフリーの炭素を含有する。
なお、本明細書でいう「フリーの炭素」とは、炭素以外の元素との化合物を除く炭素をいい、「炭素基質材料」とは、粒子状、繊維状等の独立した形状を有する材料をいい、例えば黒鉛、カーボンブラック等のいわゆる骨材としての材料をいう。
また、本発明において前述のフリーの炭素等の化学成分、並びに後述する見掛け気孔率及び開気孔の合計体積の特定は、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後に行う。樹脂等の結合材に含まれる有機溶媒や吸着水分が除去できると共に、含有される金属成分等が耐火物組織又は雰囲気ガスと大凡反応しない熱処理条件であり、重量及び化学組成(耐火物組織)が安定するからである。また、前述の結合炭素は典型的には樹脂等の結合材由来のフリーの炭素であるが、その結合炭素の含有量は、JIS−K6910に準じた方法により、使用した樹脂(結合材)を500℃の非酸化雰囲気中で熱処理して定量することができるほか、耐火物を500℃の非酸化雰囲気中で熱処理した後に炭素成分を定量し、原料として加えた炭素質骨材原料分との差分として定量することができる。
本発明者らは、前述のような結合炭素を含む耐火物の耐熱衝撃性を向上させるために研究を重ねた結果、その耐火物中の気孔の存在形態が耐熱衝撃性に大きく影響することを見いだした。すなわち本発明の耐火物において耐熱衝撃性は、耐火物組織内の気孔が熱衝撃(熱応力)を吸収することによって高められる。具体的には本発明の耐火物は、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の測定において、見掛け気孔率が4%以上12%以下であり、かつ径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下であることを特徴とする。
耐火物の見掛け気孔率はJIS−R2205の測定方法により測定することができる。前述のとおり本発明において気孔の存在は耐熱衝撃性改善のための前提となるものであり、本発明ではその存在量を見掛け気孔率として4%以上12%以下と特定している。見掛け気孔率が4%未満では、気孔の存在量(体積)が相対的に小さすぎて、特に熱衝撃が大きい場合にその熱衝撃を十分に吸収することができない。また、見掛け気孔率が4%未満の場合は耐熱衝撃性に劣ることに加え、見掛け気孔率を4%未満にするためには特異な粒度構成、特別な成形等を要することから、製造上も現実的ではない。見掛け気孔率が12%を超えると、耐火物の強度低下が著しく、溶鋼又はスラグに対する耐食性や耐摩耗性の低下が顕著になり、多くの用途、特に鋳造用ノズルとしての耐火物構造体としての求められる耐用性を充足することができなくなる。
開気孔の合計体積は、水銀ポロシメータにより測定することができ、例えばマイクロメリティックス社製オートポアIII9420による。この測定方法により得た気孔の累積体積の総量は、径が200μm以下の開気孔の合計体積と等しいものとみなすことができる。これは、この測定方法により測定可能な開気孔の最大の大きさが200μmであることによる。なお、開気孔は見掛け気孔率で示される気孔と同意であるが、耐火物内部には密封気孔も存在する。しかし、耐火物は均一な組織として製造するのであって、耐火物の密封気孔の形態を直接又は間接に測定することなく、この開気孔に関する測定を行うことで、密封状態にある耐火物内部の気孔もこの開気孔の形態と同じであるとみなすことができる。
本発明者らは、さまざまな開気孔の大きさとその体積割合を検討した結果、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合が、耐熱衝撃性に顕著な影響を及ぼすこと、及びこの割合は、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下とすることで耐熱衝撃性を顕著に高めることができることをみいだした。すなわち、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%未満の場合、気孔径が細孔径化し高弾性率化する、応力緩和能が小さくなる等により耐熱衝撃性を顕著に高めることはできない。50体積%を超えると、見掛け気孔率が12%を超える危険が高まると共に、相対的に粗大な気孔が多くなり充填性も低下して、強度が大幅に低下しやすくなり、また、品質のバラツキも大きくなりやすく、安定した品質の耐火物を得にくくなると共に、溶鋼又はスラグに対する耐食性や耐摩耗性が低下する傾向となる。
これらの耐火物の開気孔体積は、前述の水銀ポロシメータなどを用いて細孔径分布を測定することにより測定することができるほか、200μm以下の気孔径の分布を測定することができて、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合を相対的に知ることができる装置や方法であれば測定することができ、特定の装置や方法に限定する必要はない。
耐火物組織と気孔径分布を、代表例を用いて図1〜4に示す。図1及び図3はそれぞれ従来一般的な耐火物(比較例)の耐火物組織及び気孔径分布を示し、図2及び図4はそれぞれ本発明の耐火物(実施例)の耐火物組織及び気孔径分布を示す。図1及び図2の耐火物組織において気孔は黒色の領域として表れている。
従来一般的な耐火物(比較例)の気孔径分布は、図3に示すように大きい径から小さい径になるに従って累積体積が漸次なだらかに増加する。すなわち、径の大きい方から小さい方への分布がほぼ均一に近い。また、前述の傾向に加え、約10μm以下程度の体積割合が相対的に多い。これに対し本発明の耐火物(実施例)の気孔径分布は、図4に示すように従来一般的な耐火物と比較して、径が10μm以上100μm以下の領域の分布が突出して多いことがわかる。
次に本発明の作用ないし効果を、常温における応力−歪みの関係から、代表例を用いて図5に示す。図5において横軸(X軸)は歪み(変位)(μm)、縦軸(Y軸)は応力(N)を表す。なお、比較例と実施例両方にある、いわゆる降伏点前の各々の曲線は、降伏点前で応力を除去した場合の挙動を示している。
従来一般的な耐火物(比較例)の挙動は以下のとおりである。
(1)弾性率(最大応力点までの曲線の傾き)が大きい。
(2)最大応力点(ピーク値)が高い。
(3)最大応力点から破断点までの変位の絶対値が小さい。
すなわち、従来一般的な耐火物(比較例)は、いわゆる急な立ち上がりと急な降下を示している。
これに対し本発明の耐火物(実施例)は、前記従来一般的な耐火物と比較して以下の挙動を示している。
(1)弾性率(最大応力点までの曲線の傾き)が小さい。
(2)最大応力点(ピーク値)が低い。
(3)最大応力点から破断点までの変位の絶対値が大きくなだらか。
すなわち、本発明の耐火物(実施例)は、全体になだらかで低位な応力を示している。
このように本発明の耐火物(実施例)は、前記(1)から(3)の点で従来一般的な耐火物(比較例)と相違する。このうち前記(1)の相違は本発明において初期の破壊に対する抵抗性(破壊抵抗性)が増大していること、前記(3)の相違は本発明において破壊の進展・拡大に対する抵抗性(いわゆる靭性)が増大していることを示している。また、前記(2)に関しては、破壊抵抗性を強度/(弾性率×熱膨張率)とする場合にはこの値が大きい方が破壊抵抗性は高くなるが、靭性とも関係する内部組織の変形による応力緩和効果の観点では、この値が小さい方が破壊の進展・拡大に対する抵抗性(いわゆる靭性)の増大に寄与していると考えられる。このように本発明の耐火物では、前述した応力−歪み特性の改善により、耐熱衝撃性が顕著に増大すると考えられる。なお、このような応力−歪みの特性は、測定装置、個別の試料、測定条件等によって絶対値等は異なるが、本発明者らは、複数の測定装置により相対的に同様な傾向を示すことを確認している。
以上のとおり、本発明の耐火物は、フリーの炭素を含有する特定の耐火物において前述のように見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合を特定することを特徴要件とし、言い換えると、この特徴要件さえ充足すれば顕著な耐熱衝撃性向上効果を得ることができる。このことは、耐火物の他の構成要素としての基材の成分、鉱物組成、粒度構成等は限定されず、前記特徴要件が充足されていれば、本発明の効果を得ることができることを意味する。すなわち、例えばアルミナ質、アルミナ−シリカ質、マグネシア質、カルシア質、ジルコニア質等の成分、コランダム質、シリマナイト質、ムライト質、スピネル質、ペリクレース質、ライム質等の鉱物組成等、さまざまな成分や鉱物組成等の材料には固有の熱膨張特性等があるものの、それら成分や鉱物組成に固有の特性は同じ材質では同一と考えることができ、またこれら他の要素は前述の本発明の見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合の特徴要件には無関係の特性であるので、同じ材質間相互において本発明の見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合の特徴要件を備える場合には、耐熱衝撃性の顕著な向上効果が得られる。
また、本発明の耐火物は、フリーの炭素として結合炭素を含有する耐火物でありさえすれば、酸化を防止する条件下で、いわゆる不焼成(約300℃以下程度の熱処理)、いわゆる低温焼成(約500℃以上約1000℃以下程度の熱処理)、一般的な焼成(約1000℃以上の熱処理)等の製造時の熱処理温度に依存せず、同様な耐熱衝撃性の向上効果を得ることができる。なお、本発明においては、耐火物の化学成分、見掛け気孔率及び開気孔の合計体積を正確に特定するため、これらの特性は前述のとおり500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後に測定するが、これはあくまで前記各特性の測定条件であって、本発明の耐火物が500℃の非酸化雰囲気中での熱処理を経たものに限定されるものではなく、耐火物の製造時の熱処理温度の違いに拘わらず、本発明の効果を得ることができる。このことは、耐火物を複数回使用する、すなわち溶鋼に接触すること、溶鋼と接触しないことの熱サイクルを複数回受ける、いわゆる多数回使用の場合にも同様に、耐熱衝撃性の顕著な向上効果を維持することができることを意味する。
本発明によれば、耐熱衝撃性に優れた耐火物及びその耐火物を使用した耐火物構造体を提供することができる。特に鋳造用ノズル等の内部に溶鋼通過のための空間(内孔)を備えた殻状又は筒状の耐火物構造体では、外周側を起点とする破壊の発生及び進展・拡大を防止又は抑制することができ、外周からの空気の巻き込み等による耐火物の酸化ないし損傷や鋼の品質低下を防止又は抑制することができる。
本発明の耐火物は、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理により揮発分を除去した全体の質量を100質量%とするときに、フリーの炭素を2.0質量%以上7.0質量%以下含有し、かつ前記フリーの炭素として耐火物組織を結合する結合炭素を含有することを前提とするが、このような耐火物は従来一般的な製造方法により得ることができる。すなわち本発明の耐火物の製造方法としては、粒度や形状等を調整された耐火物を構成する骨材としての耐火性材料を混和する工程、混和した耐火性材料に、化学変化又は熱処理後に炭素結合を形成する結合材を添加混練して成形用はい土を作製する工程、はい土をCIP(Cold Isostatic Press)、油圧(静圧)プレス、フリクション・プレス等により成形する工程、成形した耐火物構造体を乾燥又は熱処理する工程、整形のため又は金属ケース等を装着するための加工工程等からなる従来一般的な耐火物の製造方法を採用することができる。
耐火物中のフリーの炭素のうち結合炭素の含有量は、1.0質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。結合炭素の含有量が1.0質量%未満の場合は耐火物の弾性率が低くなるものの強度も低くなり、耐火物構造体の構造や大きさ等によって異なるものの、耐熱衝撃性や耐摩耗性等の低下を招来しやすくなる。また、耐火物構造体として充分な強度が得られないため、製造時その他のハンドリングや実使用時に機械的な衝撃等で破壊する等の問題が生じやすくなる。また、炭素が本来有するスラグ等に対する濡れ性の低減効果やスラグ等の浸潤抑制効果、焼結(酸化物の焼結による結合を含む)防止効果等が小さくなりすぎて、耐食性、耐構造スポーリング性等の低下をも惹き起こしやすくなる。
一方、結合炭素の含有量が3.0質量%を超えると、弾性率及び強度が高くなり、応力吸収能やいわゆる靭性が低下して耐熱衝撃性の低下を招来しやすくなる。また加えて、はい土の付着力が著しく増し、混練機や成形金型への付着、はい土の固化などが起こり、生産性も低下しやすくなる。
この結合炭素は、結合材として使用されるフェノール樹脂、ピッチ、タール等に由来し、少なくとも500℃の非酸化雰囲気の熱処理後に炭素結合を形成するものである。したがって結合炭素源としては、フェノール樹脂、ピッチ、タール等を任意に単独又は複数を組み合わせて使用することができ、また、成形時の保形性をも得る目的からは、液状のものを使用することが好ましい。なお、これらとは別に成形時の保形性をも得る又は成形体としての素地強度を補強する等の目的で他の炭素結合を形成しない結合材を併用することもできる。また、フェノール樹脂にフラン樹脂、珪素樹脂等の1種以上を併用して使用することもできる。これらの樹脂はエチレングリコール等の有機溶媒に希釈して粘度を調整して使用することもできる。
本発明の耐火物は、フリーの炭素として前記結合炭素に加えて炭素基質材料由来の炭素を含有することが好ましい。この炭素基質材料、すなわちフリーの炭素を主たる構成成分とする骨材としての炭素質材料としては、球状、粒状、繊維状等のさまざまな形状の黒鉛、カーボンブラック、コークス粉、電極その他の炭素製品再利用原料等を、結晶質か非晶質に拘わらず、また複合物等をも使用することができる。これらの中にはその由来によって不可避的にアルカリ金属成分、シリカ等の炭素以外の成分が混入することがあるが、これら不可避成分は概ね各原料中の約6質量%以下程度であれば、炭素基質材料としての、耐熱衝撃性付与、耐食性付与等の機能を大きく阻害することはないので、使用することができる。また、これら炭素基質材料はその目的とする特性、例えば耐熱衝撃性を主とする場合には粒子状黒鉛を採用し、耐食性を主とする場合はカーボンブラックを採用する等、求める特性によって、任意に単独又は複数を組み合わせて使用することができる。
なお、本発明の耐火物は、主として溶鋼と接触する部位に使用することを想定しているので、そのフリーの炭素の含有量は、この用途に一般的に使用されている耐火物と同程度の2.0質量%以上7.0質量%以下としている。また、耐火物を構成する骨材たる耐火性材料としては、アルミナ質、アルミナ−シリカ質、マグネシア質、カルシア質、ジルコニア質等の成分、コランダム質、シリマナイト質、ムライト質、スピネル質、ペリクレース質、ライム質等の鉱物組成等、用途及びその用途に必要な特性に応じて、さまざまな成分や鉱物組成等の材料を任意に単独又は複数を組み合わせて採用することができる。
本発明で特定する見掛け気孔率及び気孔径分布を得るためには、主たる要素として、基材(耐火性材料)の粒度構成を調整すればよい。典型的には、前記結合炭素を除く残部が、粒子径0.2mm以上0.5mm以下の耐火性材料が20体積%以上50体積%以下、粒子径0.2mm未満の耐火性材料が20体積%以上40体積%体積%以下、及び粒子径0.5mm超5mm以下の耐火性材料で構成されている場合に、見掛け気孔率が4%以上12%以下であり、かつ径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下の耐火物を得ることができる。
このような耐火物における耐火性材料の粒度毎の体積割合は、耐火物を、例えば約350〜500℃以下の酸化雰囲気中で最大24時間程度酸化処理することで結合炭素を除去して粉状とし、これを篩分けし、乾式密度計などで各粒度の体積を測定することにより確認することができる。または、混練後の材料混合物からも測定することができ、混合物にバインダー等により生成した造粒粉が含まれる場合は、適当な有機溶剤で処理することで造粒粉を解砕し、篩分けし、乾式密度計などで正確な粒度構成が確認できる。なお、前述の粒度毎の設計体積割合に合致する耐火物を得るには、前述の設計体積割合に合致するように粒度ごとに分級した耐火性材料を調整して混和することが好ましい。
また、本発明で特定する見掛け気孔率及び気孔径分布を得るための他の要素として、成形時の圧力、加圧時間、加圧方法等を調整することができる。これらは使用する成形機によっても異なるので、成形機、製品の大きさ等に応じて本発明の見掛け気孔率及び気孔径分布を得ることができるように、個別に最適な条件を設定すればよく、特別な条件である必要はない。
更に、本発明で特定する見掛け気孔率及び気孔径分布を得るための更に他の要素として、使用する原料(耐火性材料)の潤滑性等、例えば炭素質材料の種類、形状、量等によっても成形時の充填性(すなわち見掛け気孔率及び気孔径分布)を調整することが可能である。
本発明の耐火物には、はい土の成形時の充填性を高める又は素地強度を高める等の目的で粘土を添加しても構わない。ただし、粘土を過剰に添加した場合、耐食性が低下するため、5質量%以下に制限することが好ましい。粘土としてはアルミナ−シリカ系の天然鉱物、合成鉱物などいずれでも構わないが、含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属成分が多い場合には、高温域で焼結が過度に進行したり低融物が生成したりして耐熱衝撃性の低下を招来しやすいので、これら成分の含有量はできるだけ小さいことが好ましい。
本発明の耐火物は更に、金属アルミニウムを4質量%以下(ゼロを含まない)含有することもできる。この場合の金属アルミニウムは前記のフリーの炭素以外の骨材たる基材の一部として添加すればよい。金属アルミニウムは、主として約630℃以上の被熱後の強度を高めることに寄与する。また、高温下での耐火物中の炭素の酸化防止機能もある。したがって金属アルミニウムは、耐火物構造体の中でも特に、耐火物の肉厚が薄い部分、溶鋼流速が大きく又は集中する部分、高温下で空気に接触する部分等の、耐機械的衝撃性や耐摩耗性等に関する強い物理的又は機械的な特性が要求される場合や、耐酸化性を要求される場合などに使用することが好ましい。金属アルミニウムの形態は特に限定されず、フレーク状、アトマイズ状等さまざまな形態のものを使用することができる。
また、金属アルミニウムの含有量は、炭素含有量、結合炭素の量、熱処理条件等が異なる個別の製品ごとにその使用条件又は具備条件に応じて任意に決定すればよい。金属アルミニウムの効果の程度は、炭素含有量、結合炭素の量、熱処理条件等によって異なるので、含有量の下限値は、個別の条件等に応じて求める物性に適合するように決定すればよい。例えば、いわゆる不焼成の熱処理温度で処理する場合、すなわち約300℃以下(例えば結合材としての樹脂の硬化温度程度)の熱処理を行う製品に関して酸化防止効果や耐摩耗性等を顕著に改善するためには、1質量%以上であることが好ましい。またいずれの炭素含有量、熱処理条件等の製品においても、概ね4質量%を超えると、弾性率及び強度が大幅に高くなり、応力吸収能やいわゆる靭性が低下して耐熱衝撃性の低下を招来しやすくなるので、4質量%以下であることが好ましい。
なお、金属アルミニウムと同様の目的で、金属マグネシウム、金属シリコン、金属アルミニウムや金属マグネシウムの合金等も使用することができる。これら金属の多量添加も被熱後の弾性率及び強度が大幅に高くなり、応力吸収能やいわゆる靭性が低下して耐熱衝撃性の低下を招来しやすくなるので、これら金属も総含有量として4質量%以下であることが好ましい。
本発明の耐火物は、溶鋼に接触する部位であれば特に限定することなく、さまざまな耐火物構造体の一部又は全体として好適に使用することができる。例えば、溶鋼容器の内張層、溶鋼容器から溶鋼を排出するノズル、スライディングノズルプレート等の溶鋼排出制御・流量制御用の部材、これらと併用される上部及び下部ノズル、中間ノズル、浸漬ノズル、オープンノズル、ロングノズル等の筒状の鋳造用ノズル、いわゆる湯路管等の耐火物構造体として、またこれら耐火物構造体の溶鋼接触部分の一部若しくは全部、又は耐火物構造体全体として使用することができる。特に、内部に溶鋼と接触する空間(内孔)を有する殻状又は筒状の耐火物構造体の外周側に最適である。
以下、本発明を実施例により説明する。
[実施例A]
実施例Aは、気孔径分布等の影響を調査した例である。本実施例では、表1及び表2に示すように耐火物を構成する骨材としてアルミナ材料を使用し、その他の材料を配合の上、混練後、非酸化雰囲気中で熱処理を行い耐火物の製品を製造した。そして、その製品について、化学成分、気孔径、品質及び耐熱衝撃性を評価した。なお、これらの製品の評価は、耐熱衝撃性の評価を除いて製品製造時の熱処理温度に拘わらず、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後に行った。耐熱衝撃性の評価は製品製造時の熱処理後のままで行った。アルミナ材料としては、Al2O3成分を約95質量%含有する、電融法により製造されたクリンカーを使用した。なお、前述のように金属アルミニウムは必須成分ではないが、本実施例では異なる熱処理温度での、それぞれ最良又は最良に近い実施形態を例示することを目的に、金属アルミニウムを含む系での実験結果を示した。
製品の化学成分はJIS−R2011の評価方法により評価し、製品の気孔径はマイクロメリティックス社製オートポアIII9420により測定し、評価した。また、製品の品質のうち、見掛け気孔率はJIS−R2205の評価方法により評価し、常温曲げ強さは試料サイズとして幅25mm、高さ12mm、長さ110mmに加工し、オリエンテック社製テンシロンによりスパン100mmの3点曲げ強さにより測定し、常温曲げ弾性率は3点曲げ強さ測定時のサンプル変位をレーザー変位計を用い測定し、評価した。なお、表1及び表2に示す混練後の粒度構成は、混練後の材料配合物を篩分けし、粒度毎の体積をマイクロメリティックス社製AccuPycII1340により測定し、評価した。この混練後の粒度構成は製品の粒度構成とみなすことができる。
製品の耐熱衝撃性は耐熱衝撃性試験により評価した。耐熱衝撃性試験では、外径90mm、内径30mm、高さ75mmの円筒形状の試料を、酸素−プロパンガスバーナーを用い試料の内孔部を約1500℃まで15分で急加熱した後30分保持し、室温まで冷却する急加熱・冷却サイクルを計4サイクル行った。そして、発生した亀裂の状態及びその伸展状況を観察し、これを次の3段階に分類し、○又は△を合格とした。
○:亀裂発生なし。
△:亀裂は発生するが小さく、外周部から内孔部まで伸展、貫通していない。
×:亀裂が大きく発生し、外周部から内孔部まで伸展、貫通している。
本発明の実施例の構成及び評価結果を表1に、比較例の構成及び評価結果を表2に示す。
実施例1〜5は熱処理温度が200℃のいわゆる不焼成の例、実施例6〜8は熱処理温度が800℃のいわゆる軽焼の例、実施例9〜11は非酸化雰囲気中での熱処理温度が1200℃のいわゆる高温焼成の例である。いずれの例でも、見掛け気孔率が4%〜12%、かつ気孔径分布として、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合(以下「気孔径体積割合」という。)で20体積%〜50体積%の範囲内にあり、優れた耐熱衝撃性を示していることがわかる。
比較例1〜7は熱処理温度が200℃のいわゆる不焼成の例である。いずれも、フリーの炭素の含有量が2.0質量%〜7.0質量%であって、見掛け気孔率が4%〜12%、かつ気孔径分布として気孔径体積割合が20体積%〜50体積%という本発明の要件を充足するものではなく、耐熱衝撃性に劣っている。
また、見掛け気孔率が12%を超え、かつ気孔径分布として10μm以上100μm以下の気孔径体積割合が20体積%〜50体積%の範囲にない場合(比較例1,3,5)は、強度が低くなって耐熱衝撃性を正確に評価することができないことがわかる。見掛け気孔率は4%〜12%の範囲にあるが、気孔径分布として10μm以上100μm以下の気孔径体積割合が20体積%未満の場合(比較例2,4)は、気孔径が細孔径化し高弾性率化し、応力緩和能が小さくなる等により本発明の耐熱衝撃性が得られないことがわかる。見掛け気孔率が4%〜12%の範囲にあり、気孔径分布として10μm以上100μm以下の気孔径体積割合が20体積%〜50体積%の範囲にあってもフリーの炭素の含有量が2.0質量%未満の場合(比較例6)は、炭素による耐熱衝撃性改善効果が不足していることがわかる。フリーの炭素の含有量が7質量%を超える比較例7では、耐熱衝撃性試験時に酸化が顕著となって、正確な評価が困難であることがわかる。
比較例8は、熱処理温度が1200℃のいわゆる高温焼成の例で、見掛け気孔率が12%を超える15%である。この場合、気孔径分布として気孔径体積割合が30%であっても、強度が低くなって耐熱衝撃性を正確に評価することができないことがわかる。
[実施例B]
実施例Bは、前記実施例Aとは耐火物を構成する骨材が異なる例である。すなわち、本実施例では、前記実施例Aの骨材であるアルミナ材料の一部又は全部を、他の骨材の代表例としてマグネシア材料又はスピネル材料で置換した。その他の配合の材料構成、粒度構成及び製造条件は実施例Aと同じである。製品の評価方法も実施例Aと同じである。
なお、マグネシア原料としては、MgO成分を約95質量%含有する、電融法により製造されたクリンカーを使用した。スピネル材料としては、MgO成分を約68質量%、Al2O3成分を約23質量%含有するコモンスピネルからなる、電融法により製造されたクリンカーを使用した。
実施例Bの構成と評価結果を表3及び表4に示す。骨材の種類を除いた配合の材料構成及び熱処理温度において表3の実施例1〜11は表1の実施例1〜11と同じで、表4の比較例1〜8は表2の比較例1〜8と同じである。
実施例Bの各例は実施例Bの各例と同様の傾向を示しており、本発明の効果は骨材の種類に拘わらず得られることがわかる。