JP5870464B2 - 長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子 - Google Patents

長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子 Download PDF

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Description

本発明は、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子、該遺伝子を含む発現ベクターにより形質転換された植物、および該植物を用いるトランス−1,4−ポリイソプレンの製造方法に関する。
イソプレノイド化合物の一種であるポリイソプレン(ゴム)は、イソプレン単位の重合の様式の相違からシス型とトランス型とに分類される。長鎖シス型ポリイソプレン(シス−1,4−ポリイソプレン)を産生する植物としては、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、キク科のタンポポ(Taraxacum)およびアキノノゲシ(Lactuca indica)などの多くの植物が知られている。なかでも、パラゴムノキが産生するシス−1,4−ポリイソプレンは、天然ゴムとして商業的に広く利用されている(非特許文献1)。一方、長鎖トランス型ポリイソプレン(トランス−1,4−ポリイソプレン)については、天然には、トチュウ科のトチュウ(杜仲、Eucommia ulmoides)、キョウチクトウ科のペリプロカ(Periploca sepium)、アカテツ科のバラタ(Mimusops balata)およびグッタペルカノキ(Palaquium gutta)などの少数の植物が産生することが知られているが、商業的には利用されていない(非特許文献2)。なかでも、中国原産の木本植物であるトチュウは、繊維状のトランス−1,4−ポリイソプレンを産生する。トチュウの葉、樹皮および果皮には大量のトランス−1,4−ポリイソプレンが含まれている(非特許文献2)。しかし、現在、トランス−1,4−ポリイソプレンは、化学的に合成され、ゴルフボール外皮、ギプス、スポーツプロテクターなどに使用されている。トランス−1,4−ポリイソプレンは、低融点および高弾性を示す熱可塑性エラストマーであり、絶縁体としても有用である。なお、天然ゴムという語句は、一般的には天然物由来のゴム全般を指すが、産業的にはパラゴムノキから得られるシス型ゴムのみを指す場合がある。高等植物におけるゴムの産生は珍しいものではなく、約500の植物種でゴムの含有が確認されている(非特許文献3)。
天然のイソプレノイド化合物は、いずれも炭素数5(C5)のイソプレン単位が連続的につながったプレニル二リン酸を中間体として生合成され、このプレニル二リン酸は、いずれもプレニル二リン酸合成酵素によって生合成される(非特許文献4および5)。プレニル二リン酸合成酵素とは、プライマー基質となるプレニル二リン酸(アリル基質)に、炭素数5(C5)の化合物であるイソペンテニル二リン酸(IPP)が縮合する反応を触媒し、プライマー基質よりもイソプレン単位数(鎖長)が大きいプレニル二リン酸を生成物とする酵素の総称である(特許文献1)。プレニル二リン酸合成酵素はまた、プレニル基転移酵素(プレニルトランスフェラーゼ)またはプレニル鎖延長酵素とも呼ばれる(非特許文献6)。
プレニル二リン酸合成酵素の基質であるIPPは、メバロン酸経路などにより生合成される。メバロン酸経路に関与する酵素の遺伝子群の一部は、トチュウなどの種々の植物において、明らかにされている。
プレニル二リン酸合成酵素には、IPPの縮合の際に形成される二重結合が、E型(トランス型)を形成する縮合反応を触媒する酵素と、Z型(シス型)を形成する縮合反応を触媒する酵素とがある。また、プレニル二リン酸合成酵素は、縮合反応により生成したプレニル二リン酸にさらにIPPが縮合する反応を触媒することがある。各プレニル二リン酸合成酵素によって、このようなIPPの縮合重合反応により生成可能な最大のイソプレン鎖長(IPPの重合度)が決まっている。そして、生成物のイソプレン鎖長に応じて生成物の疎水性が変化するので、酵素活性の発現様式には大きな違いがある。
具体的には、プレニル二リン酸合成酵素は、プレニル二リン酸合成酵素I(E型短鎖プレニル二リン酸合成酵素)、プレニル二リン酸合成酵素II(E型中鎖プレニル二リン酸合成酵素)、プレニル二リン酸合成酵素III(E型長鎖プレニル二リン酸合成酵素)およびプレニル二リン酸合成酵素IV(Z型長鎖プレニル二リン酸合成酵素)の4つに分類される(特許文献1)。
プレニル二リン酸合成酵素I(E型短鎖プレニル二リン酸合成酵素)としては、ゲラニル二リン酸(GPP)合成酵素(C5→C10)、ファルネシル二リン酸(FPP)合成酵素(C10→C15)およびゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)合成酵素(C15→C20)が挙げられる。ここで、例えば、「C5→C10」とは、炭素数5(C5)のプライマー基質となるプレニル二リン酸から、炭素数5のIPPの縮合により、炭素数10(C10)のプレニル二リン酸が生成する反応を触媒することを意味する。
プレニル二リン酸合成酵素II(E型中鎖プレニル二リン酸合成酵素)としては、ヘキサプレニル二リン酸(HexPP)合成酵素(C15→C30)およびヘプタプレニル二リン酸(HepPP)合成酵素(C15→C35)が挙げられる。
プレニル二リン酸合成酵素III(E型長鎖プレニル二リン酸合成酵素)としては、オクタプレニル二リン酸(OctPP)合成酵素(C15→C40)、ノナプレニル二リン酸(NonPP)合成酵素(C10→C45)およびデカプレニル二リン酸(DecPP)合成酵素(C15→C50)が挙げられる。
プレニル二リン酸合成酵素IV(Z型長鎖プレニル二リン酸合成酵素)としては、Z−ノナプレニル二リン酸合成酵素(C15→C45)、ウンデカプレニル二リン酸(UPP)合成酵素(C15→C55)およびデヒドロドリキル二リン酸(deDolPP)合成酵素(C15→C85〜105)が挙げられる。
シス型ゴム産生植物であるパラゴムノキからラバートランスフェラーゼ遺伝子(HRT2)が単離され、HRT2遺伝子がコードするタンパク質はゴム粒子にIPPを縮合させるシス型プレニル二リン酸合成活性を有することが認められている。さらに、HRT2遺伝子は出芽酵母のデヒドロドリキル二リン酸合成酵素の機能欠損を相補することが認められている(非特許文献7)。しかし、HRT2遺伝子を含む発現ベクターによってパラゴムノキを形質転換し、パラゴムノキが産生するシス−1,4−ポリイソプレン(シス型ゴム)の含量を増大させたとの報告はない。
一方、トランス型ゴム産生植物であるトチュウ、ペリプロカ、バラタおよびグッタペルカノキから、トランス型ゴムの生合成に関与する長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素の遺伝子は単離同定されていない。本発明者らは、トチュウからプレニルトランスフェラーゼの遺伝子を単離しているが(塩基配列:GenBank登録番号AB041626およびアミノ酸配列:GenBank登録番号BAB16687)、シス型プレニル二リン酸合成酵素であるかトランス型プレニル二リン酸合成酵素であるか、および短鎖プレニル二リン酸合成酵素であるか長鎖プレニル二リン酸合成酵素であるかについては未だ同定していない。
ところで、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A還元酵素(HMGR)は、プレニル二リン酸合成酵素の基質であるIPPの生合成系における鍵酵素と考えられる。このHMGRの触媒ドメイン(HMGR−CD)をコードするDNAを含む発現ベクターによってシロイヌナズナを形質転換すると、形質転換されたシロイヌナズナは、野生型と比較して、ステロール類の総含量が約3.6倍に増大する(非特許文献8)。ここで、ステロール類は、IPPを基質として生合成されるイソプレノイド化合物の一種である。
コエンザイムQ10なども、トランス型イソプレノイド化合物の一種として知られている。野生型のイネは、ソラネシル二リン酸(イソプレン単位が9個重合したもの)を中間体として、コエンザイムQ9を産生する。グルコノバクターサブオキシダンス(Gluconobacter suboxydans)由来のデカプレニル二リン酸(イソプレン単位が10個重合したもの)合成酵素をコードするDNAを含む発現ベクターによってイネを形質転換すると、形質転換されたイネは、コエンザイムQ9を産生せず、デカプレニル二リン酸を中間体とするコエンザイムQ10を産生する(非特許文献9)。真菌由来のデカプレニル二リン酸合成酵素をコードするDNAを含む発現ベクターによって大腸菌を形質転換すると、形質転換された大腸菌は、デカプレニル二リン酸を中間体とするコエンザイムQ10を効率よく産生する(特許文献2および3)。
特開2004−24275号公報 国際公開第2002/092811号 国際公開第2002/040682号
N. OhyaおよびT. Koyama、「Biosynthesis of natural rubber and other natural polyisoprenoids」、Biopolymers、(独国)、WILEY-VCH、2001年、第2巻、p. 73-109 T. Bambaら、「In-situ chemical analyses of trans-polyisoprene by histochemical staining and Fourier transform infrared microspectroscopy in a rubber-producing plant, Eucommia ulmoides Oliver」、Planta、2002年、第215巻、p. 934-939 「ゴムについて」、[online]、日本海護謨株式会社、[平成20年9月2日検索]、インターネット<http://www.nihonkai-r.co.jp/semi02.htm> K. WangおよびS. Ohnuma、「Chain-length determination mechanism of isoprenyl diphosphate synthases and implications for molecular evolution」、TIBS、1999年、第24巻、p. 445-451 古山種俊および小倉協三、「天然ゴム生合成の謎に迫る―生体内でのイソプレン鎖構築のしくみ」、現代化学、1990年、第237巻、p. 42-49 高山征司および古山種俊、「イソプレノイド生合成酵素の分子解析」、化学と生物、2005年、第43巻、p. 296-304 K. Asawatreratanakulら、「Molecular cloning, expression and characterization of cDNA encoding cis-prenyltransferases from Hevea brasiliensis」、Eur. J. Biochem.、2003年、第270巻、p. 4671-4680 D. Manzanoら、「The metabolic imbalance underlying lesion formation in Arabidopsis thaliana overexpressing farnesyl diphosphate synthase (isoform 1S) leads to oxidative stress and is triggered by the developmental decline of endogenous HMGR activity」、Planta、2004年、第219巻、p. 982-992 S. Takahashiら、「Metabolic engineering of coenzyme Q by modification of isoprenoid side chain in plant」、FEBS Lett.、2006年、第580巻、p. 955-959
本発明は、植物のトランス−1,4−ポリイソプレンの含量を増大させる方法、および植物を用いるトランス−1,4−ポリイソプレンの効率的な製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、トチュウから長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を単離同定し、この遺伝子を含む発現ベクターにより植物を形質転換することによって、植物のトランス−1,4−ポリイソプレンの含量を増大させることができ、該植物を用いることによって、トランス−1,4−ポリイソプレンを効率的に製造できることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を提供し、該遺伝子は、以下の(a)から(d)のいずれかのDNAからなる:
(a)配列番号1に記載の塩基配列の88位から1134位までの塩基配列またはその相補配列、配列番号3に記載の塩基配列の42位から1088位までの塩基配列またはその相補配列、および配列番号5に記載の塩基配列の91位から1140位までの塩基配列またはその相補配列からなる群から選択される少なくとも1つの塩基配列でなるDNA;
(b)該(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリッドを形成するDNAであって、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列との間において10−80以下のE−valueを有し、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質、をコードするDNA;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質、をコードするDNA。
本発明はまた、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素を提供し、該酵素は、以下の(A)から(C)のいずれかのタンパク質からなる:
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列でなるタンパク質;
(B)該(A)のタンパク質のアミノ酸配列との間において10−80以下のE−valueを有し、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質;
(C)該(A)のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質。
本発明はさらに、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を含む発現ベクターを提供する。
本発明はさらに、上記発現ベクターにより形質転換された植物を提供する。
1つの実施態様では、上記植物は、トチュウ(Eucommia ulmoides)である。
他の実施態様では、上記植物は、タバコ(Nicotiana tabacum)である。
本発明はさらに、植物のトランス−1,4−ポリイソプレンの含量を増大させる方法を提供し、該方法は、上記発現ベクターによって該植物を形質転換する工程を含む。
本発明はさらに、トランス−1,4−ポリイソプレンを製造する方法を提供し、該方法は、上記植物を栽培する工程、および該栽培された植物から該トランス−1,4−ポリイソプレンを回収する工程を含む。
本発明によれば、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を含む発現ベクターにより植物を形質転換することによって、トランス−1,4−ポリイソプレンの含量が増大した植物を提供することができる。このような植物を栽培することによって、トランス−1,4−ポリイソプレンを効率的に製造することができる。
pCold-TPL1、pCold-TPL3および pCold-TPL5の構造を示す模式図である。 TPLタンパク質のSDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果を示す電気泳動写真である。 TPLタンパク質のプレニル二リン酸合成活性を示すグラフである。 TPL発現植物形質転換ベクターpBIsGFP-TPL1の構造を示す模式図である。 TPL1のmRNAの量を示すグラフである。 形質転換トチュウ培養根内に産生されたゴムの分布状況を示すリアルスペクトルイメージング顕微鏡である。 野生型トチュウ培養根内に産生されたゴムの分布状況を示すリアルスペクトルイメージング顕微鏡である。 TPL発現植物形質転換ベクターpHis-TPL1の構造を示す模式図である。 TPL1およびGFPのmRNAの量を示すグラフである。 野生型タバコ(A)、GFP形質転換タバコGFP#1(B)およびTPL1形質転換タバコTPL1#8(C)のSEC分析の結果を示すグラフおよび分析に供したタバコの葉の形態を示す写真である。 トチュウ(上)およびTPL1形質転換タバコ(下)の成葉抽出物のH−NMR分析の結果を示すスペクトルおよびトランス1,4−ポリイソプレンの構造式である。
本発明は、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を提供する。本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、好適にはトチュウ(Eucommia ulmoides)に由来する。本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、例えば、以下の実施例4〜6に実質的に記載されるように、分子量10〜10の長鎖トランス型ポリイソプレン(トランス−1,4−ポリイソプレン)合成活性を有する。本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、トランス型のプレニル二リン酸の合成反応を触媒する点で、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来のシス型プレニル二リン酸合成酵素とは異なる。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、(a)配列番号1に記載の塩基配列の88位から1134位までの塩基配列またはその相補配列、配列番号3に記載の塩基配列の42位から1088位までの塩基配列またはその相補配列、および配列番号5に記載の塩基配列の91位から1140位までの塩基配列またはその相補配列からなる群から選択される少なくとも1つの塩基配列でなるDNAからなり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリッドを形成するDNAであって、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードするDNAからなり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列との間において10−80以下のE−valueを有し、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質、をコードするDNAからなり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質、をコードするDNAからなり得る。
本発明の遺伝子は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1に記載の塩基配列の88位から1134位までの塩基配列またはその相補配列、配列番号3に記載の塩基配列の42位から1088位までの塩基配列またはその相補配列、および配列番号5に記載の塩基配列の91位から1140位までの塩基配列またはその相補配列からなる群から選択される少なくとも1つの塩基配列でなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリッドを形成するDNAからなり得る。
上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性は、例えば、以下の実施例4〜6に実質的に記載される方法のような、当業者が通常用いる方法を用いて確認し得る。
本発明において、ストリンジェントな条件とは、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードするDNAのみが、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素をコードするDNAとハイブリッド(いわゆる特異的ハイブリッド)を形成し、上記合成活性を有しないタンパク質をコードするDNAは、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素をコードするDNAとハイブリッド(いわゆる非特異的ハイブリッド)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリッドを形成させるために用いる反応液および洗浄液の塩濃度や、反応および洗浄の温度などを適宜選択することによって、このような条件を容易に決定することができる。具体的には、反応液として、6×SSC(0.9M NaCl、0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl、0.2M NaH2PO4、20mM EDTA・2Na、pH7.4)を用いて、42℃でハイブリッドを形成させ、次いで、洗浄液として、0.5×SSCを用いて、42℃で洗浄する条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明の遺伝子は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列でなるタンパク質のアミノ酸配列との間において10−80以下、好ましくは10−100以下、より好ましくは10−120以下、さらに好ましくは10−140以下、よりさらに好ましくは10−160以下のE−valueを有するタンパク質をコードするDNAからなり得る。
本発明において、E−valueとは、相同性の指標である期待値、すなわちデータベースにおいて全く偶然に見つかる相同な配列の数の期待値をいい、NCBIの相同性検索プログラムBLASTにおいて、デフォルトパラメーターを用いて、比較する一方の配列をクエリー配列として入力した場合に、他方の配列について表示される比較結果(Expect)の値である。E−valueが小さいほど相同性が高い。
本発明の遺伝子は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードする限り、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列において1または数個(20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなるタンパク質をコードするDNAからなり得る。このようなアミノ酸配列の変異は、DNA上の塩基の置換、付加、欠失または挿入に由来し得、天然による変異誘発または人為的な変異誘発(例えば、部位特異的変異導入法の使用)のいずれによっても生じ得る。
本発明の遺伝子は、当業者が通常用いる方法を用いて、本明細書に記載の配列情報に基づいてプローブまたはプライマーを調製し、トチュウの染色体DNAまたはcDNAを鋳型とするPCRによって得ることができる。もちろん、RNAを鋳型とする逆転写PCRを介しても得ることができる。本発明の遺伝子は、DNA、RNAなどの天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であり得る。また本発明の遺伝子は、DNA−RNAのキメラ分子でもあり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列でなるタンパク質からなり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、(B)上記(A)のタンパク質のアミノ酸配列との間において10−80以下のE−valueを有し、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質からなり得る。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素は、(C)上記(A)のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質からなり得る。
本発明の酵素は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有する限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列でなるタンパク質のアミノ酸配列との間において10−80以下、好ましくは10−100以下、より好ましくは10−120以下、さらに好ましくは10−140以下、よりさらに好ましくは10−160以下のE−valueを有するタンパク質からなり得る。
本発明の酵素は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有する限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列、および配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列でなるタンパク質のアミノ酸配列において1または数個(20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなるタンパク質からなり得る。
本発明の酵素は、分類学的にはトランスフェラーゼ(EC2.5.1)に属し、長鎖プレニル二リン酸合成酵素III(E型長鎖プレニル二リン酸合成酵素)に分類される。本発明の酵素は、炭素数5n(nは整数)のプレニル二リン酸(C5n)と炭素数5のイソペンテニル二リン酸(IPP,C5)とを基質とし、プレニル二リン酸(C5n)にイソプレニル基(C5)が転移する縮合反応を触媒し、炭素数5(n+1)のプレニル二リン酸(C5(n+1))および副生物の二リン酸を生成する。この縮合反応は、プレニル二リン酸(C5n)とイソプレニル基とがトランスの位置で行われることを特徴とする。縮合反応のくり返しによる縮合重合反応によって生成可能な最大のイソプレン単位数(鎖長)またはIPPの重合度は、11以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上である。本発明の酵素は、常法に従って精製することができ、例えば、以下の実施例4に記載の方法により精製することができる。
本発明の酵素は、真核生物のFPP合成酵素とアミノ酸配列上高い相同性(E−value<10−80)を有する。真核生物のプレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列は、2つのAspartate-Rich Motif(First Aspartate-Rich Motif:FARMおよびSecond Aspartate-Rich Motif:SARM)を有する。本発明の酵素では、FARM配列とは、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の99位から102位までのアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列の99位から102位までのアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列の100位から103位までのアミノ酸配列に見られるアスパラギン酸−アルパラギン酸−イソロイシン−メチオニンからなるアミノ酸配列をいう。真核生物のFPP合成酵素のアミノ酸配列においてFARMのアミノ末端側近傍には、チロシンとフェニルアラニンとの連続したアミノ酸配列、またはフェニルアラニンとフェニルアラニンとの連続したアミノ酸配列が存在する。これらのアミノ酸配列は、プレニル二リン酸合成酵素が触媒する縮合重合反応におけるIPPの重合度に関与すると考えられている。本発明の酵素では、これらのアミノ酸配列がシステインとアラニンとの連続したアミノ酸配列に置き換わっている。この置換により、本発明の酵素は長鎖プレニル二リン酸合成活性を有すると考えられる。
したがって、本発明の遺伝子は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードする限り、そのアミノ酸配列においてFARMのアミノ末端側近傍に存在するシステインとアラニンとの連続したアミノ酸配列をコードするDNA、例えば、配列番号1に記載の塩基配列の367位から372位までの塩基配列、配列番号3に記載の塩基配列の321位から326位までの塩基配列、または配列番号5に記載の塩基配列の373位から378位までの塩基配列を有するDNAからなり得る。
また、本発明の酵素は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有する限り、そのアミノ酸配列においてFARMのアミノ末端側近傍に存在するシステインとアラニンとの連続したアミノ酸配列、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の94位から95位までのアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列の94位から95位までのアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列の95位から96位までのアミノ酸配列を有するタンパク質からなり得る。
さらに、本発明の酵素は、アミノ酸配列のアミノ末端とFARMとの間において、真核生物のFPP合成酵素には存在しない6アミノ酸の挿入配列を有する。この挿入配列は、予測立体構造モデルの解析から、タンパク質の表面で突起状の構造を形成することが示唆され、局在化シグナルとして機能する可能性が考えられる。
したがって、本発明の遺伝子は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードする限り、そのアミノ酸配列のアミノ末端とFARMとの間に存在する、FPP合成酵素には存在しない6アミノ酸の挿入配列をコードするDNA、例えば、配列番号1に記載の塩基配列の277位から294位までの塩基配列、配列番号3に記載の塩基配列の231位から248位までの塩基配列、または配列番号5に記載の塩基配列の283位から300位までの塩基配列を有するDNAからなり得る。
また、本発明の酵素は、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有する限り、そのアミノ酸配列のアミノ末端とFARMとの間に存在する、FPP合成酵素には存在しない6アミノ酸の挿入配列、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の64位から69位までのアミノ酸配列、配列番号4に記載のアミノ酸配列の64位から69位までのアミノ酸配列、または配列番号6に記載のアミノ酸配列の65位から70位までのアミノ酸配列を有するタンパク質からなり得る。
本発明の発現ベクターは、上記長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を含む。本発明の発現ベクターは、当業者が通常用いる方法を用いて、構築することができる。基礎とするベクターとしては、形質転換する宿主に応じて、種々のものが利用できる。例えば、大腸菌では、pUC19、pMAL-p2、pCold I、pGEX、pET、pMalc2、pTrc99Aなど、酵母では、pYES、pYC、pYI、pYL、pYEUra3TMなど、植物ではpIG121-Hm、pBI12、pBI221、pBIN19、pCAMBIA2301、pCC22、pGA482、pPCV001、pCGN1547、pJJ1881、pPZP111、pGreen0029、pBI101、pBI121、pYLTAC7などが挙げられる。ベクターには、目的とする遺伝子のほかに、遺伝子を発現するためのプロモーター、ターミネーターなどの遺伝子発現の調節に関与するDNA、および形質転換体を選択するための選択マーカーが適宜含まれる。プロモーターとしては、形質転換する宿主に応じて、種々のものが利用できる。例えば、大腸菌では、T7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター、cspAプロモーターなど、酵母では、PMA1プロモーター、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、PGKプロモーター、PHO5プロモーター、GAPDHプロモーターなど、植物では、CaMV35Sプロモーター、NOSプロモーター、CABプロモーター、UBIプロモーターなどが挙げられる。
本発明において、形質転換する宿主としては、大腸菌、酵母などの微生物、または植物などが挙げられる。好ましくは植物、より好ましくはトチュウ科のトチュウ(Eucommia ulmoides)およびキョウチクトウ科のペリプロカ(Periploca sepium)である。形質転換方法としては、形質転換する宿主に応じて、種々のものが利用できる。例えば、大腸菌では、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法など、酵母では、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法など、植物ではアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。形質転換体は、ベクターに含まれる選択マーカーを利用することにより、形質転換されなかった野生型から選択、分離できる。選択マーカーとしては、抗生物質耐性遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子などが一般的に利用することができ、形質転換する宿主に応じても、種々のものが利用できる。例えば、大腸菌では、アンピシリン耐性、クロラムフェニコール耐性など、酵母では、オーレオバシジンA耐性などのほか、種々のアミノ酸などの栄養要求性など、植物ではカナマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性などの遺伝子が挙げられる。
本発明の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、トランス−1,4−ポリイソプレンの含量が増大した形質転換植物(例えば、トチュウ、ペリプロカ、タバコなど、好ましくはトチュウ)を作製するために、それぞれの植物を形質転換するために好適に用いられ得る。
本発明の形質転換植物(好ましくは形質転換トチュウ)は、当業者が通常用いる方法を用いて栽培することができる。形質転換トチュウの成木の葉、樹皮、果皮などから、当業者が通常用いる方法を用いて、トランス−1,4−ポリイソプレンを回収、精製することができる。
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(実施例1:TPL1−cDNA(配列番号1)の単離)
(トチュウのトータルRNAの調製1)
トチュウ植物体試料として、愛媛県生名村に生育するトチュウ標準木より5月下旬に採取した若い当年枝に付いた葉を使用した。トチュウ植物体試料(当年枝に付いた葉)を、液体窒素で冷却しつつ乳鉢・乳棒で破砕し、試料の10倍量(w/v)の2×CTAB溶液(2%(w/v)ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)、1%(w/v)β−メルカプトエタノール、0.1M Tris−HCl[pH9.5]、1.4M NaCl、20mM EDTA)に懸濁した。これを65℃にて10分間インキュベートし、次いでクロロホルム/イソアミルアルコールで処理(洗浄)した(2回くり返す)。回収した水層に1/4量(w/v)の10M LiClを加えて混合し、−20℃にて2時間静置し、RNAの選択的沈殿を行った。これを遠心分離し、沈殿を適量のトリス−EDTA(TE)緩衝液に溶解後、遠心分離し、上清を回収して、多糖類を排除した。回収した上清をフェノール処理、フェノール/クロロホルム処理、およびクロロホルム/イソアミルアルコール処理し、再度LiClによるRNAの選択的沈殿を行った。沈殿を70%エタノールで洗浄し、減圧乾燥し、次いでジエチルピロカーボネート(DEPC)処理水に溶解して、トータルRNAを得た。
(トチュウ由来のcDNAの調製)
上記のトチュウ葉由来トータルRNAを鋳型として、AMV Reverse Transcriptase XL(タカラバイオ株式会社製)を用いて、逆転写反応を行い、トチュウ由来のcDNAを得た。逆転写反応のプライマーには、Oligo dT Adaptor Primer(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
(縮重PCRによるTPL1−cDNAの部分配列の決定)
上記のトチュウ由来のcDNAを鋳型として、TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて、1回目のPCRを行った。次いで、1回目のPCR産物を鋳型として、TaKaRa Ex Taqを用いて、2回目のPCRを行った。いずれのPCRでも、プライマーには縮重プライマーを用い、その塩基配列は以下の通りである。いずれのPCRでも、94℃にて5分のサイクルを1サイクル、94℃にて1分、54℃にて1分および74℃にて2分のサイクルを30サイクル、ならびに74℃にて7分のサイクルを1サイクル行った。2回目のPCRにより得られた増幅断片をpUC18ベクターにクローニングし、複数のプラスミドクローンについて塩基配列を決定した結果、いくつかのクローンは配列番号1の塩基配列の部分配列を有していた。
1回目のPCR用プライマーセット
センスプライマー:CIYTIGGITGGTGYRTNGARTGG(配列番号7)
アンチセンスプライマー:GTYCANGTYCTRCTIATIIAICTIAC(配列番号8)
2回目のPCR用プライマーセット
センスプライマー:GGTGIRTIGARTGGYTNCARGC(配列番号9)
アンチセンスプライマー:CCCNTRNATRAAIGTICAIGTIC(配列番号10)
(トチュウのトータルRNAの調製2)
トチュウ植物体試料として、愛媛県生名村に生育するトチュウ標準木より5月下旬に採取した若い当年枝の師部(樹皮)および木部を使用した以外は、トチュウのトータルRNAの調製1と同様に調製した。得られたトータルRNAを吸光度測定により定量し、そして電気泳動によって確認した。師部約4gから2mgおよび木部約4gから0.84mgのトータルRNAが得られた(260nmと280nmとにおける吸収の比は、それぞれ1.991および1.956であった)。
(トチュウのcDNAライブラリの調製)
上記のトチュウ師部および木部由来トータルRNA試料から、Oligotex-dT30<Super>(タカラバイオ株式会社製)を用いて、mRNAを精製した。次いで、mRNAから、Lambda ZAP II XR Library Construction Kit(Stratagene社製)を用いて、cDNAライブラリを調製した。
(cDNAライブラリスクリーニング用プローブの調製)
上記の縮重PCRで得られた、配列番号1の塩基配列の部分配列を含むプラスミドクローンを鋳型として、TaKaRa Ex Taqを用いて、PCRを行った。使用したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。PCRでは、94℃にて5分のサイクルを1サイクル、94℃にて1分、50℃にて1分および72℃にて1分のサイクルを30サイクル、ならびに72℃にて7分のサイクルを1サイクル行った。PCR反応産物を、AlkPhos Direct Labelling and Detection System with CDP-Star(GE Healthcare社製)を用いて、アルカリフォスファターゼで標識し、スクリーニング用プローブとした。
PCR用プライマーセット
センスプライマー:GTGCTCTTGTTCTTGATGATA(配列番号11)
アンチセンスプライマー:CAAGAAGTATGTCCTTCATGT(配列番号12)
(トチュウcDNAライブラリのスクリーニング)
上記のトチュウcDNAライブラリから、常法に従い、Hybond Nメンブラン(GE Healthcare社製)上にファージプラークリフティングを行った。次いで、このメンブランを、上記のスクリーニング用プローブおよびAlkPhos Direct Labelling and Detection System with CDP-Starを用いて、ハイブリダイゼーション、洗浄およびシグナル検出に供した。ハイブリダイゼーションは55℃にて16時間、1次洗浄は55℃にて10分間を2回、そして2次洗浄は室温にて5分間を2回行った。スクリーニングの結果、23個の陽性ファージプラークが得られた。次いで、これらのファージクローンを、Lambda ZAP II XR Library Construction Kitを用いて、in vivo excisionにより、プラスミドクローンへ変換した。23個のプラスミドクローンについて塩基配列を決定した結果、10個のクローンが配列番号1の塩基配列と同一の塩基配列またはそのスプライシングバリアントと考えられる塩基配列を有していた。
(実施例2:TPL3−cDNA(配列番号3)の単離)
実施例1と同様にしてTPL3−cDNAを単離した。得られた完全長のcDNA(TPL3−cDNA)は、配列番号3の塩基配列を有する。配列番号3に記載の塩基配列の37位から1089位までの塩基配列は、TPL1のcDNAの塩基配列(配列番号1:GenBank登録番号AB041626)と76%の相同性を有する。配列番号3に記載の塩基配列の42位から1088位の塩基配列は、オープンリーディングフレームであった。このcDNAによりコードされる推定アミノ酸配列は、配列番号4に示す通りである。配列番号4に記載の全アミノ酸配列(1位から348位)は、TPL1のアミノ酸配列(配列番号2:GenBank登録番号BAB16687)との間において10−169のE−value(77%の相同性)を有する。
(実施例3:TPL5−cDNA(配列番号5)の単離)
(トチュウのcDNAライブラリの調製)
実施例1と同様に調製したトチュウ師部および木部由来トータルRNA試料から、日立計測器サービス株式会社にてG−キャッピング法によりcDNAライブラリを調製した。師部由来のcDNAライブラリは、ライブラリサイズが3.8×10、インサート率が、88%(24試料/アガロースゲル電気泳動)、完全長率は86%(インサートのあるクローンに対して)であった。木部由来のcDNAライブラリは、ライブラリサイズが2.2×10、インサート率が79%(24試料/アガロースゲル電気泳動)、完全長率が63%(インサートのあるクローンに対して)であった。
(トチュウにおけるEST解析)
上記のトチュウ師部および木部由来cDNAライブラリの各々約20000クローンについて、北里大学北里生命科学研究所ゲノム情報学研究室にて塩基配列の解析を行った。配列解析により得られた配列情報から、インサートを保持しないクローンおよび配列が読めていないクローンを除去し、精度の高い配列情報を得た。師部および木部のライブラリについて、それぞれ16567、16113の精度の高いEST配列が得られた(合計32680)。次いで、得られた配列について、グループ分け(clustering)および注釈付け(annotation)を行った。「グループ分け」はEST配列の中で同一の配列、類似した配列をグループ分けする。グループ分けのために、NTTソフトウェアのVISUALBIO clusteringを使用した。「注釈付け」は、既知遺伝子との比較によりEST配列の注釈付けを行う。注釈付けには、NCBI BLASTを使用した相同性検索を用いた。検索の際に使用したデータベースは nr(All non-redundant GenBank CDS translations + PDB + SwissProt + PIR (Peptide Sequence Database))である。
(TPL5−cDNAの単離)
上記のグループ分けおよび注釈付けで得られた情報により、TPL1(配列番号1)と極めて高い相同性を示すTPL5(配列番号5)の5’末端側の配列を見出した。TPL5(配列番号5)の3’末端側の配列は、3’−RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends, RACE)により決定した。3’−RACEには、3’-Full RACE Core Set(タカラバイオ株式会社製)を使用した。まず、実施例1で得たトータルRNAを鋳型として、3’-Full RACE Core Setに付属のOligo dT-3 sites Adaptor Primerをプライマーとして用いて逆転写反応を行った。次いで、逆転写反応産物を鋳型として1回目のPCRを行い、さらに、1回目のPCR産物を鋳型として2回目のPCRを行った。使用したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。1回目および2回目のPCRでは、いずれも94℃にて60秒、54℃にて60秒および74℃にて2分のサイクルを30サイクル行った。2回目のPCRにより得られた増幅断片をpT7Blueベクター(タカラバイオ株式会社製)にTAクローニングし、塩基配列を決定した。
1回目のPCR用プライマーセット
センスプライマー:ACAGTGGCTGGGCAGATGATAG(配列番号13)
アンチセンスプライマー:3’-Full RACE Core Setに付属の3 sites Adaptor Primer
2回目のPCR用プライマーセット
センスプライマー:TTACCACACTTCTCGGAGAGGC(配列番号14)
アンチセンスプライマー:CGCTTGCATCCATTCGATACACC(配列番号15)
得られた完全長のcDNA(TPL5−cDNA)は、配列番号5の塩基配列を有する。配列番号5に記載の塩基配列の113位から1132位までの塩基配列は、TPL1のcDNAの塩基配列(配列番号1:GenBank登録番号AB041626)と76%の相同性を有する。配列番号5に記載の塩基配列の91位から1140位までの塩基配列は、オープンリーディングフレームであった。このcDNAによりコードされる推定アミノ酸配列は、配列番号6に示す通りである。配列番号6に記載の全アミノ酸配列(1位から349位)は、TPL1のアミノ酸配列(配列番号2:GenBank登録番号BAB16687)との間において10−166のE−value(79%の相同性)を有する。
(実施例4:TPLタンパク質の調製および解析)
(TPL発現ベクターの構築)
上記のトチュウ標準木の葉から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて、トータルRNAを調製した。トータルRNA抽出用緩衝液には、キットに添付のバッファーRLCを用いた。次いで、トータルRNAを鋳型として、High Fidelity RNA PCR Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて、TPL1、TPL3およびTPL5のcDNA断片をPCRで増幅した。使用したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。PCRでは、94℃にて30秒、55℃にて30秒および72℃にて2分のサイクルを35サイクル行った。
TPL1−cDNA増幅用プライマーセット
センスプライマー:ACGCTGTCCTTGCACTTG(配列番号16)
アンチセンスプライマー:GGAGAACCAAATATGCAATAAAGCCTG(配列番号17)
TPL3−cDNA増幅用プライマーセット
センスプライマー:GGCCTTTCGTTCTCTCTCTCTCTCTT(配列番号18)
アンチセンスプライマー:ACGACTACATTTATTCAGGTTCGAAGTC(配列番号19)
TPL5−cDNA増幅用プライマーセット
センスプライマー:GATCAACACATCCTTGAGCGTTACC(配列番号20)
アンチセンスプライマー:GTTAGTCGTTGCAATTTATTTGTTCCCTC(配列番号21)
上記のPCRにより得られた各増幅断片を、プラスミドpBluescript II KS-(Stratagene社製)のマルチクローニングサイトの制限酵素EcoRV部位に挿入し、プラスミドクローンを構築した。TPL1、TPL3およびTPL5のcDNAが挿入されたプラスミドクローンを、それぞれpBluescript-TPL1、pBluescript-TPL3およびpBluescript-TPL5とした。各クローンについて塩基配列決定を行い、PCRの増幅による突然変異がないことを確認した。
上記の各プラスミドクローンを鋳型として、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いて、TPL1、TPL3およびTPL5のタンパク質コード配列断片をPCRでそれぞれ増幅した。使用したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。センスプライマーは、5’末端に制限酵素NdeI認識配列を有し、アンチセンスプライマーは、5’末端に制限酵素XhoI認識配列を有する。PCRでは、94℃にて30秒、55℃にて30秒および72℃にて2分のサイクルを35サイクル行った。
TPL1 タンパク質コード配列増幅用プライマーセット
センスプライマー:GAGAGAGCATATGGCGGAACTGAAGAAAGAATTTC(配列番号22)
アンチセンスプライマー:CCGCTCGAGCTACTTGAGCCTCCTGTGAATCTTAG(配列番号23)
TPL3 タンパク質コード配列増幅用プライマーセット
センスプライマー:GAGAGAGCATATGACCGAGCTGAAGAGCAAATTTG(配列番号24)
アンチセンスプライマー:CCGCTCGAGCTACTTGAGCCTCTTGTGTATCTTAGC(配列番号25)
TPL5 タンパク質コード配列増幅用プライマーセット
センスプライマー:GAGAGAGCATATGGCGGAAACGACCCAA(配列番号26)
アンチセンスプライマー:CCGCTCGAGTCAATAATGCCTCCGATAGATCTTTGC(配列番号27)
上記のPCRにより得られた各増幅断片を、コールドショック発現ベクターpCold I(タカラバイオ株式会社製)のマルチクローニングサイトの制限酵素NdeI−XhoI部位間に挿入し、TPL発現ベクターをそれぞれ構築した。pCold Iは、マルチクローニングサイトに挿入された遺伝子が発現するタンパク質とヒスチジン6量体タグ(His−Tag)とが融合タンパク質として産生できるような構造を有する。TPL1、TPL3およびTPL5のタンパク質コード配列断片が挿入されたTPL発現ベクターを、それぞれpCold-TPL1、pCold-TPL3およびpCold-TPL5とした(図1)。各ベクターについて塩基配列決定を行い、PCR増幅による突然変異がないことを確認した。
(大腸菌の形質転換)
TPLタンパク質を可溶性タンパク質として大腸菌細胞内で発現させるために、まず、大腸菌BL21(DE3)株コンピテント細胞を、シャペロンプラスミドpG-Tf2(タカラバイオ株式会社製)で形質転換した。次いで、得られた形質転換大腸菌からさらにコンピテント細胞を調製し、このコンピテント細胞を、TPL発現ベクターpCold-TPL1、pCold-TPL3またはpCold-TPL5で形質転換した。このようにして、TPL発現ベクターとシャペロンプラスミドとを共発現する形質転換大腸菌を得た。
(TPLタンパク質の調製)
上記の共発現形質転換大腸菌を、形質転換体選択薬剤であるアンピシリン(50μg/mL)およびクロラムフェニコール(20μg/mL)、ならびにシャペロン発現誘導薬剤であるテトラサイクリン(1ng/mL)を含む50mLのLB培地を用いて、37℃で振蘯培養し、培養液の600nmの吸光度が0.5程度になるまで続けた(発現誘導前)。次いで、培養液を15℃で30分間冷却し、これにイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(終濃度0.5mM)を添加した。次いで、振蘯培養を15℃で24時間さらに続けた(発現誘導後)。
上記の発現誘導後の培養液10mLから遠心分離によって大腸菌を回収し、1mLの細胞破砕用緩衝液(50mM NaHPO、300mM NaCl、10mM イミダゾール、0.5mM PMSF、2% TritonX100、1mg/mL リゾチーム、pH8.0)に懸濁した。懸濁液を氷上で10分間静置した後、懸濁液中の大腸菌を、超音波破砕機SONIFIER450(BRANSON社製)を用いて氷上で破砕し、次いで、破砕液を4℃下の10000×gにて30分間の遠心分離によって上清と沈殿とに分離した。上清からNi−NTA spin column(Qiagen社製)を用いて非変性条件下でヒスチジン6量体タグとの融合タンパク質として産生されたTPLタンパク質を精製した。カラムの洗浄には、洗浄用緩衝液(50mM NaHPO、300mM NaCl、50mM イミダゾール、0.1% TritonX100、pH8.0)を用い、TPLタンパク質の溶出には、溶出用緩衝液(50mM NaHPO、300mM NaCl、500mMイミダゾール、0.1% TritonX100、pH8.0)を用いた。
(TPLタンパク質の解析)
上記TPLタンパク質の調製過程の試料をSDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングにより解析した。SDS−PAGEでは、ゲル用緩衝液、電気泳動用緩衝液および試料用緩衝液として、2%のSDSおよび6%のβ−メルカプトエタノールを含む0.05mM Tris−HCl[pH 6.8]を用い、分離ゲルのアクリルアミドの濃度は10%とした。上記の発現誘導前の培養液および発現誘導後の培養液、ならびに上記のTPLタンパク質の溶出画分をそれぞれ試料用緩衝液中で100℃にて5分間加熱した後、それぞれ10μLをSDS−PAGEに供した。ウェスタンブロッティングでは、SDS−PAGE後のゲルからHybond−P PVDFメンブラン(GE Healthcare社製)上に転写を行い、このメンブランに、1次抗体として1,000倍希釈のHis・Tag Monoclonal Antibody(Novagen社製)を反応させ、次いで、2次抗体として5,000倍希釈のAnti-Mouse IgG (H+L) AP Conjugate(Promega社製)を反応させた。ProtoBlot II AP System with Stabilized Substrate(Promega社製)を用いて、メンブラン上のシグナルを検出した。この結果を図2に示す。図2は、上記TPLタンパク質が精製されていることを示す。
次に、上記精製したTPLタンパク質のプレニル二リン酸合成活性を測定した。5%のTPLタンパク質溶出画分(試料)、10μMまたは4μMのアリル基質、および100μMの放射性32P標識IPP[37GBq/mol]を緩衝液(100mM K−MOPS[pH 8.0]、5mM MgCl、0.1% TritonX100)中に含む200μLの酵素反応液を調製し、30℃にて16時間静置した。次いで、酵素反応液に200μLのNaCl飽和水および1mLのNaCl飽和水飽和ブタノールを加え、1分間激しくボルテックスすることにより酵素反応を停止させた。これを室温にて3分間遠心分離に供し、水層とブタノール層とに分離した。次いで、200μLのブタノール層を3mLの液体シンチレーションカクテルClear−sol I(ナカライテスク株式会社製)と混合し、液体シンチレーションカウンターTri−Carb 2100(Packard社製)を用いて、混合液の放射活性(dpm)を測定した。IPPはブタノールに対して不溶性であるが、IPPとアリル基質との反応産物はブタノールに対して可溶性とあるため、ブタノール層の放射活性はプレニル二リン酸合成酵素によるIPP縮合重合反応活性を示している。この結果を図3に示す。図3は、各試料について、試料を加えた酵素反応液の放射活性から試料を加えていない酵素反応液の放射活性(バックグランド)を差し引いた値を3回の実験で得、この平均値(棒グラフ)および標準偏差値(エラーバー)を示している。図3より明らかなように、TPL1、TPL3およびTPL5は、いずれもFPPあるいはGGPPをアリル基質としたときにIPP重合反応を触媒することを示した。しかし、DMAPP(ジメチルアリルピロリン酸)をアリル基質としたときにはIPP重合反応を触媒しなかった。
(実施例5:トチュウ培養根の形質転換)
(TPL発現植物形質転換ベクターの構築)
上記のTPL発現ベクターpCold-TPL1の制限酵素NdeI−XhoI断片を、植物形質転換ベクターpBIsGFP(株式会社豊田中央研究所生物部光川典宏氏より分与)のマルチクローニングサイトの制限酵素XhoI−KpnI部位間に挿入し、TPL発現植物形質転換ベクターpBIsGFP-TPL1を構築した(図4)。pBIsGFPには、カナマイシン耐性遺伝子および改変型GFP遺伝子が含まれている。
(トチュウ培養根の形質転換)
中国四川省成都に生育するトチュウ雌株より採取した種子を発芽培地(1/2MS培地、20g/L スクロース)に無菌播種した。播種後10〜20日経過した幼植物体から幼根を2〜3cmに切り出し、増殖培地(1/2MS液体培地、1μM NAA)中で往復振蘯(120回/分)培養を行った。このトチュウ培養根は、4週間毎に継代培養することにより、長期にわたって増殖させることができ、実験材料に供した。増殖した新根を、1.5cm程に切断して、アグロバクテリウム法により、pBIsGFP-TPL1で形質転換した。アグロバクテリウム法には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)LBA4404株を用いた。アグロバクテリウム菌の感染を促進させるために、感染の前に、培養根を超音波で20分間処理した。アグロバクテリウム菌を感染させた培養根をカルス誘導寒天培地(MS培地、1μM 2−iP、1μM NAA)に移してカルスを誘導した後、形質転換トチュウカルスを選択した。形質転換カルスは、GFPシグナルを利用して選択した。次いで、選択した形質転換カルスを根誘導培地(MS培地、1μM NAA)に移し、カルスから根を分化・増殖させた。得られた形質転換トチュウ培養根のうち、20系統を維持し、解析に用いた。
(形質転換トチュウ培養根の解析1)
形質転換トチュウ培養根20系統について、TPL1のmRNAの量をリアルタイムPCRにより定量した(図5)。形質転換トチュウ培養根から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出した。まず、RNase-Free DNase I(Qiagen社製)を用いて、混入DNAの除去を行った。次いで、RNA試料の濃度を測定した。同時に、6種類の濃度の検量線用試料(RNA濃度:400、100、25、6.25、1.56および0.39ng/μL)を調製した。形質転換トチュウ培養根から抽出したRNA試料および検量線用試料から、High Capacity Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを調製した。このcDNAを鋳型として、ABI Prism 7300 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)を用いて、SYBR Green法により、リアルタイムPCRを行った。使用したプライマーの塩基配列は、以下の通りである。リアルタイムPCRでは、50℃にて2分および95℃にて10分のサイクルを1サイクル、ならびに95℃にて15秒および60℃にて1分のサイクルを40サイクル行った。次いで、95℃にて15秒、60℃にて1分、95℃にて15秒および60℃にて15秒の反応を行い、解離状況を観察した。
TPL1定量用プライマーセット
センスプライマー:AAGGAGCTCAACTCACTGAGAGC(配列番号28)
アンチセンスプライマー:AATGCACCAACCCAACACAG(配列番号29)
検量線用プライマーセット(内部参照遺伝子EF1αの検出)
センスプライマー:CCGAGCGTGAACGTGGTAT(配列番号30)
アンチプライマー:TAGTACTTGGTGGTTTCGAATTTCC(配列番号31)
(形質転換トチュウ培養根の解析2)
TPL1のmRNAの量が最も多い形質転換トチュウ培養根TPL1−9−7(図6)と野生型トチュウ培養根(図7)とについて、培養根内に産生されたゴムの分布状況を、リアルスペクトルイメージング顕微鏡(SCLSM)を用いて評価した。SCLSMとして株式会社ニコン製DIGITAL ECLIPSE C1siを用いて、培養根の蛍光分離画像を取得した。蛍光分離は、参照スペクトルを用いて、株式会社ニコン製EZ-C1 3.40のソフトウェアにより行った。参照スペクトルは、次のように取得した。生薬用のトチュウ樹皮から取り出してNile redで染色した繊維状トランスポリイソプレン、ならびにNile red(粒子状脂溶性物質の染色)およびFluorescent Brightener 28(細胞壁の染色)で染色したトチュウ当年枝の樹皮の横断面切片について、DIGITAL ECLIPSE C1siを用いて蛍光スペクトル画像を取得し、EZ-C1 3.40により指定した10箇所のRegion of interest(ROI)の蛍光スペクトルを測定し、その平均値を参照スペクトルとした。Nile Red由来の蛍光スペクトルの取得では、固体レーザ(488nm、20mW)を用い、418〜578nmの範囲のスペクトルを取得し、Fluorescent Brightener 28由来の蛍光スペクトルの取得では、BDレーザ(408nm、17mW)を用い、498〜658nmの波長範囲のスペクトルを取得した。取得した参照スペクトルの蛍光最大波長は、545nm(Nile Red由来、トランスポリイソプレン)、575nm(Nile Red由来、粒子状脂溶性物質)および450nm(Fluorescent Brightener 28由来、細胞壁)であった。培養根の蛍光分離画像の取得では、固体およびBDレーザを用い、423〜723nmの範囲のスペクトルを取得した。
この結果、形質転換トチュウ培養根TPL1−9−7は、野生型トチュウ培養根に対して1.4倍のゴムの鎖長変化を示した。また、野生型トチュウ培養根では、ゴムが顆粒状に蓄積しているのに対して、形質転換トチュウ培養根TPL1−9−7では、ゴムが繊維状に変化していた。したがって、TPL1は、トチュウにおいてゴムの鎖長制御に関与することが判明した。
(実施例6:タバコの形質転換)
(TPL発現植物形質転換ベクターの構築)
実施例4に記載のpBluescript-TPL1に由来するTPL1タンパク質コード配列断片、ならびにpBI221(Clontech社製)に由来するCaMV35Sプロモーター断片およびNOSターミネーター断片から構成されるTPL1発現カセットを構築し、これを、植物形質転換ベクターpCAMBIA2301(CAMBIA社製)のマルチクローニングサイトに挿入し、TPL発現植物形質転換ベクターpHis-TPL1を構築した(図8)。pCAMBIA2301には、カナマイシン耐性遺伝子およびβ−グルクロニダーゼ遺伝子が含まれている。
(タバコの形質転換)
タバコ(Nicotiana tabacum cv Xanthi)の葉(リーフディスク)を、アグロバクテリウム法により、pHis-TPL1で形質転換した。コントロールとしてpBIsGFPで形質転換した。アグロバクテリウム法には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)LBA4404株を用いた。
(形質転換タバコの解析)
pHis-TPL1で形質転換して得られた形質転換タバコ(TPL1形質転換タバコ)およびpBIsGFPで形質転換して得られた形質転換タバコ(GFP形質転換タバコ)について、それぞれTPL1およびGFP(コントロール)のmRNAの量をリアルタイムPCRにより検定した(図9)。実験の方法および条件は、実施例5と同様である。次いで、mRNAの量が多いTPL1形質転換タバコTPL1#8、GFP形質転換タバコGFP#1および野生型タバコから、花芽が形成される前の成葉を採取して、エタノールによるソックスレー抽出を行い、次いで、トルエンによるソックスレー抽出を行った。トルエン抽出物をポリイソプレンとした。抽出物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を行った。Hitachi7000シリーズの液体クロマトグラフィー装置(株式会社日立製作所製)を用いた。カラムには、PLgel Mini Mixed B(10μm、250×内径4.6mm、Polymer Laboratories社製,Shopshire,英国)を用い、溶出液にはTHFを用いた。40℃のカラム温度で、0.2mL/分の流速で分析を行ない、紫外線吸収(210nm)を検出した。SEC分析のための検量線用試料としてPolymer Source社製の7種のシス−1,4−ポリイソプレン(Mn=1199400、Mw/Mn=1.10;Mn=138000、Mw/Mn=1.05;Mn=30000、Mw/Mn=1.04;Mn=12000、Mw/Mn=1.04;Mn=6000、Mw/Mn=1.04;Mn=2560、Mw/Mn=1.08;Mn=1150、Mw/Mn=1.11)を用いた。System Instruments社製SIC−480IIおよび解析ソフトを用いて、データの取り込みならびに検量線の作成および分子量分布の算出を行った。
この結果、TPL1形質転換タバコTPL1#8では、分子量10〜10の高分子成分が認められた(図10C)。TPL1のmRNAの量が多いTPL1形質転換タバコTPL1#1、#3、#6および#7でも、同様に分子量10〜10の高分子成分が認められた。これに対して、GFP形質転換タバコGFP#1および野生型タバコでは、高分子成分は認められなかった(図10AおよびB)。GFPのmRNAの量が多いGFP形質転換タバコGFP#2および#6〜#8でも、同様に高分子成分は認められなかった。次いで、上記TPL1形質転換タバコTPL1#8の成葉抽出物から、SEC分析による分子量10〜10の高分子画分を分取し、Varian Unity−INOVA 600 Spectrometer(Varian社製)を用いたH−NMR分析による構造解析を行った。この結果、上記分子量10〜10の高分子画分には、トチュウのゴムと同様のトランス−1,4−ポリイソプレンの存在が確認された(図11)。したがって、TPL1は、トランス−1,4−ポリイソプレン合成酵素の1つであり、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素であることが判明した。
本発明によれば、長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を含む発現ベクターにより植物を形質転換することによって、トランス−1,4−ポリイソプレンの含量が増大した植物を得ることができる。本発明によれば、植物のトランス−1,4−ポリイソプレンの含量を増大させることができ、そしてこのような植物を用いてトランス−1,4−ポリイソプレンを効率的に製造することができる。特に、トランス−1,4−ポリイソプレンの含量が高い形質転換トチュウの果皮からは容易にトランス−1,4−ポリイソプレンを抽出できるため、トランス−1,4−ポリイソプレンを工業原料として容易に提供できる。

Claims (8)

  1. 長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子であって、
    配列番号5に記載の塩基配列の91位から1140位までの塩基配列またはその相補配列でなるDNA;あるいは
    配列番号6に記載のアミノ酸配列または当該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質をコードするDNA
    のいずれかのDNAからなる、遺伝子。
  2. 長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素であって、
    配列番号6に記載のアミノ酸配列でなるタンパク質;あるいは
    該配列番号6に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入されたアミノ酸配列でなり、かつ長鎖トランス型プレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質
    のいずれかのタンパク質からなる、酵素。
  3. 請求項1に記載の長鎖トランス型プレニル二リン酸合成酵素遺伝子を含む発現ベクター。
  4. 請求項3に記載の発現ベクターにより形質転換された植物。
  5. 前記植物が、トチュウ(Eucommia ulmoides)である、請求項4に記載の植物。
  6. 前記植物が、タバコ(Nicotiana tabacum)である、請求項4に記載の植物。
  7. 植物のトランス−1,4−ポリイソプレンの含量を増大させる方法であって、
    請求項3に記載の発現ベクターによって該植物を形質転換する工程
    を含む、方法。
  8. トランス−1,4−ポリイソプレンを製造する方法であって、
    請求項4から6のいずれかの項に記載の植物を栽培する工程、および
    該栽培された植物から該トランス−1,4−ポリイソプレンを回収する工程
    を含む、方法。
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