以下に、本願発明を具体化した実施形態を、船舶に搭載された複数台のディーゼル発電機に適用した場合の図面に基づいて説明する。
(1).船舶の概要
まず始めに、図1を参照しながら、船舶1の概要について説明する。
実施形態の船舶1は、船体2と、船体2におけるデッキ3上の後部に設けられたキャビン4と、キャビン4の後方に配置されたファンネル5(煙突)と、船体2の後方下部に設けられたプロペラ6及び舵7とを備えている。船体2内の後部には、プロペラ6の駆動源である主エンジン8(実施形態ではディーゼルエンジン)及び減速機9と、船体2内の電気系統に電力を供給するための発電装置10とが設置されている。主エンジン8から減速機9を経由した回転動力にて、プロペラ6が回転駆動することになる。
(2).発電装置の構造
次に、図2を参照しながら、発電装置10の構造について説明する。
発電装置10は、発電用ディーゼルエンジン12(以下、発電用エンジンという)と、発電用エンジン12の駆動にて発電する発電機13とを組み合わせたディーゼル発電機11を複数台(実施形態では3台)備えたものである。これらディーゼル発電機11は基本的に、船体2内の必要電力量に対応して効率的に稼働するように構成されている。例えば大量の電力を消費する航行時等には、全てのディーゼル発電機11を稼働させ、比較的電力消費の少ない停泊時等には、任意の台数のディーゼル発電機11を稼働させる。
各発電機13の駆動にて生じた発電電力は船体2内の電気系統に供給される。各発電機13は、発電機制御盤14内の電力トランスデューサ15に電気的に接続されている。電力トランスデューサ15は各発電機13による発電電力を検出するためのものである。電力トランスデューサ15の検出情報に基づき発電電力が発電機制御盤14にて予め設定された目標電力と一致するように、各発電用エンジン12の駆動がエンジン制御手段としてのエンジンコントローラ80(詳細は後述する)にて制御される。電力トランスデューサ15は、後述する還元剤供給装置43の還元コントローラ55にも電気的に接続されている。
(3).発電装置の燃料系統
次に、図2及び図3を参照しながら、発電装置10の燃料系統について説明する。
船体2内には、硫黄含有量の多い一般燃料としてのC重油を貯留する一般燃料タンク16aと、硫黄含有量の少ない低硫黄燃料としてのA重油を貯留する低硫黄燃料タンク16bとが設置されている。一般燃料タンク16aの燃料系統と低硫黄燃料タンク16bの燃料系統とはそれぞれ別個に構成されている。
これら燃料系統の構成は基本的に同様になっており、ここでは、一般燃料タンク16aの燃料系統について詳述する。なお、図2及び図3において、両燃料系統の構成のうち機能が同じもの同士には符号として同じ数字を付し、その上で、一般燃料タンク16a側のものにアルファベットの「a」を、低硫黄燃料タンク16b側のものアルファベットの「b」を添えている。
一般燃料タンク16aは1本の供給管路17aに接続されている。供給管路17aの上流側には、燃料フィルタ19aと燃料流量計20aとが設けられている。燃料流量計20aは、後述する還元剤供給装置43の還元コントローラ55に電気的に接続されている。供給管路17aのうち燃料流量計20aより下流側からは、複数の送り管路21a(実施形態では3本)が延びている。各送り管路21aは、燃料切換手段としての供給切換電磁弁81を介して、それぞれ対応する発電用エンジン12の燃料ポンプ18に接続されている。燃料ポンプ18に送られた燃料は、発電用エンジン12に設けられた燃料噴射装置83(図6参照)にて、発電用エンジン12における気筒毎の燃焼室(図示省略)内に噴射されることになる。供給切換電磁弁81は、後述するエンジンコントローラ80に電気的に接続されていて、エンジンコントローラ80からの制御情報に基づいて切換作動するように構成されている。
各送り管路21aの中途部にはリターンチャンバー22aが設けられている。燃料噴射装置83から発電用エンジン12外に延びる戻し管路23aは、リターンチャンバー22aを介して戻し切換電磁弁82に接続され、当該戻し切換電磁弁82から一般燃料タンク16aに接続されている。発電用エンジン12において未使用の余剰燃料は、戻し管路23aを通じて一般燃料タンク16aに戻されることになる。戻し管路23aのうちリターンチャンバー22aより下流側には逆止弁24aが設けられている。各戻し切換電磁弁82は、後述するエンジンコントローラ80に電気的に接続されていて、エンジンコントローラ80からの制御情報に基づいて切換作動するように構成されている。
各供給切換電磁弁81には、一般燃料タンク16aからの送り管路21aだけでなく、低硫黄燃料タンク16bからの送り管路21bも接続されている。供給切換電磁弁81の切換作動により、発電用エンジン12への供給燃料をC重油かA重油かに切り換えることになる。また同様に、各戻し切換電磁弁82には、一般燃料タンク16aへの戻し管路23aだけでなく、低硫黄燃料タンク16bへの戻し管路23bも接続されている。戻し切換電磁弁82の切換作動により、発電用エンジン12からの余剰燃料の戻し先を一般燃料タンク16aか低硫黄燃料タンク16bかに切り換えることになる。
(4).発電装置の吸排気系統
次に、図2を参照しながら、発電装置10の吸排気系統について説明する。
各発電用エンジン12には、空気取り込み用の吸気経路(図示省略)と排気ガス排出用の排気経路25とが接続されている。吸気経路を通じて取り込まれた空気は、発電用エンジン12の各気筒内(吸気行程の気筒内)に送られる。そして、各気筒の圧縮行程完了時に、燃料タンク16から吸い上げられた燃料を燃料噴射装置にて気筒毎の燃焼室(副室)内に圧送することにより、各燃焼室にて混合気の自己着火燃焼に伴う膨張行程が行われることになる。
各発電用エンジン12の排気経路25は、ファンネル5まで延びた主排気路29と、主排気路29の中途部から分岐した分岐排気路30とを有している。前述の通り、各主排気路29はファンネル5まで延びていて、外部に直接連通するように構成されている。各分岐排気路30はいずれも1つの集合経路26に合流している。集合経路26のうち最下流の分岐排気路30より更に下流側には、主として排気ガスの浄化処理(NOx還元処理)をする後処理装置27が設けられている。
各排気経路25における主排気路29と分岐排気路30には、それぞれを開閉する開閉部材として、気体作動式の開閉バルブ28a,28bが設けられている(実施形態では3組、計6個)。これら開閉バルブ28a,28bは、排気ガスの通過する経路を選択するためのものであり、一方を開けば他方を閉じるという関係になっている。また、詳細は後述するが、各開閉バルブ28a,28bは、それぞれ対応する発電用エンジン12の状態及び使用燃料の種類に応じて開閉させるように構成されている。
第2開閉バルブ28bが閉じて第1開閉バルブ28aが開いた状態では、膨張行程後の排気行程において、複数台の発電用エンジン12から各排気経路25に送られた排気ガスが、各主排気路29を経由して(後処理装置27を通過せずに)、直接船舶1外に放出される。第1開閉バルブ28aが閉じて第2開閉バルブ28bが開いた状態では、排気ガスが各分岐排気路30を介して集合経路26にてまとめられ、後処理装置27を経由して浄化処理をされた後、船舶1外に放出される。
このように、各排気経路25における主排気路29と分岐排気路30とに、各排気路29,30を開閉する開閉部材としての開閉バルブ28a,28bが設けられていると、例えば規制海域内の航行時と規制海域外の航行時のように、排気ガスの浄化処理が必要な場合と不要な場合とにおいて、両開閉バルブ28a,28bの開閉状態を切り換えるだけで、排気ガスの通過する経路を適宜選択できる。従って、排気ガスの効率よい処理が可能になる。また、例えば排気ガスの浄化処理が不要な場合は、後処理装置27を避けて外部に直接連通する主排気路29側に排気ガスを誘導できる。このため、排気効率のよい状態を維持でき、各発電用エンジン12の出力低下の回避が可能になる。更に、排気ガスの浄化処理が不要な場合は、後処理装置27(後述するNOx触媒62)が排気ガスにさらされないから、後処理装置27(後述するNOx触媒62)の寿命延長にも寄与するのである。
停止中の発電用エンジン12に対する開閉バルブ28a,28bは、少なくとも分岐排気路側の第2開閉バルブ28bが閉じるように構成されている。このため、集合経路26から停止中の発電用エンジン12に向けて排気ガスが逆流するのを簡単且つ確実に防止できる。もちろん、第1開閉バルブ28aが第2開閉バルブ28bと共に閉じても構わない。
前述の通り、各開閉バルブ28a,28bは気体作動式のものであり、気体の供給がない場合は開き状態に保持される(ノーマリーオープン形式)。各開閉バルブ28a,28bの駆動部は気体枝管路34を介して気体供給源32から延びる気体幹管路33に接続されている。気体供給源32は、各開閉バルブ28a,28b作動用の圧縮気体である空気(窒素ガスでもよい)を供給するためのものである。各気体枝管路34の中途部には、上流側から順に、ゲート電磁弁35と減圧バルブ36とが設けられている。各ゲート電磁弁35は、後述するエンジンコントローラ80に電気的に接続されている。そして、各ゲート電磁弁35は、エンジンコントローラ80からの制御情報に基づいて開閉作動し、対応する開閉バルブ28a,28bの駆動部に圧縮気体を供給したり停止したりするように構成されている。
気体幹管路33の出口側は、後処理装置27の前部、具体的には、後述するNOx触媒62及びスリップ処理触媒63より上流側の部位に設けられた噴気部としての噴気ノズル37に接続されている。噴気ノズル37は、気体供給源32からの圧縮気体をNOx触媒62及びスリップ処理触媒63に向けて吹き付けるものであり、当該噴気ノズル37の作用により、長期間の使用で後処理装置27内に溜まった煤塵を強制的に除去することが可能になる。
気体幹管路33のうち最下流の気体枝管路34と噴気ノズル37との間には、上流側から順に、ゲートバルブ38、減圧バルブ39、エアフィルタ40、レジューサ41及び噴気用電磁弁42が設けられている。噴気用電磁弁42は、後述する還元剤供給装置43の還元コントローラ55に電気的に接続されていて、還元コントローラ55からの制御情報に基づいて開閉作動するように構成されている。
(5).還元剤供給装置の構造
次に、図2、図4及び図6を参照しながら、還元剤供給装置43の構造について説明する。
船舶1に搭載された還元剤供給装置43は、集合経路26内の排気ガスにNOx還元用の還元剤を供給するためのものであり、還元剤供給通路44と還元剤制御盤45とを備えている。還元剤供給通路44の一端側は、還元剤としての尿素水溶液(以下、尿素水という)を貯留する尿素水タンク46に接続されている一方、他端側は、集合経路26のうちバイパス側切換バルブ31と後処理装置27との間に設けられた還元剤供給部としての尿素水噴射ノズル47に接続されている。
還元剤供給通路44には、上流側から順に、尿素水入口バルブ48、レジューサ49、フィードポンプ50、尿素水フィルタ51、尿素水流量計52及び噴射用電磁弁53等が設けられている。フィードポンプ50は、尿素水タンク46内の尿素水を吸い上げて尿素水噴射ノズル47に向けて吐出するためのものである。フィードポンプ50には電動モータ54が連結されている。後述する還元コントローラ55からインバータ56を経由した制御情報に基づいて電動モータ54の回転駆動量を調節することにより、フィードポンプ50からの尿素水供給量を調節する構成になっている。噴射用電磁弁53は後述する還元コントローラ55に電気的に接続されていて、還元コントローラ55からの制御情報に基づいて開閉作動するように構成されている。
還元剤制御盤45は、NOx制御手段としての還元コントローラ55と、インバータ56と、温度調節器57と、後処理装置27の詰り状態を検出する詰り検出手段としての圧力センサ58とを備えている。還元コントローラ55は主として、排気ガス中のNOx濃度に応じた適切な量の尿素水を集合経路26に供給するように、フィードポンプ50と噴射用電磁弁53とを作動させるという還元剤調節制御を実行するものである。
詳細は図示しないが、還元コントローラ55は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。
図6に詳細に示すように、還元コントローラ55には、インバータ56を介して電動モータ54に電気的に接続されている一方、温度調節器57を介して、集合経路26内の排気ガス温度を検出する温度検出手段としての温度センサ59が電気的に接続されている。また、還元コントローラ55には、発電機制御盤14の電力トランスデューサ15、燃料流量計20、尿素水流量計52、圧力センサ58、尿素水貯留量を検出する尿素水量センサ60、噴気用電磁弁42及び噴射用電磁弁53も電気的に接続されている。
詰り検出手段としての圧力センサ58は、前述した噴気ノズル37と同様に、後処理装置27の前部、具体的には、後述するNOx触媒62及びスリップ処理触媒63より上流側の部位に設けられている。実施形態では、後処理装置27内に煤塵が堆積していない新品状態でのNOx触媒62上流側の圧力(基準圧力値)を、還元コントローラ55のROM等に予め記憶させておき、同じ測定箇所における現在の圧力を圧力センサ58にて検出し、基準圧力値と圧力センサ58の検出値との圧力差を求め、当該圧力差に基づいて後処理装置27の煤塵堆積量が換算される。
そして、圧力差が設定値以上になると、還元コントローラ55からの指令にて噴気用電磁弁42が開き、気体供給源32から噴気ノズル37に圧縮気体が送られ、噴気ノズル37からNOx触媒62及びスリップ処理触媒63に向けて圧縮気体が吹き付けられることになる。なお、集合経路26のうち後処理装置27を挟んで上下流側に、それぞれ圧力センサを配置し、両者の検出値の差から後処理装置27の煤塵堆積量を換算するようにしてもよい。
集合経路26内の排気ガス温度を検出する温度センサ59は、集合経路26のうち尿素水噴射ノズル47と後処理装置27との間に設けられている。実施形態では、温度センサ59の検出温度が設定上限温度(例えば305℃)以上になると、還元コントローラ55からの指令にて噴射用電磁弁53が開き、フィードポンプ50の駆動にて尿素水タンク46から尿素水噴射ノズル47に尿素水が送られ、尿素水噴射ノズル47から集合経路26内に尿素水が噴射される。
尿素水貯留量を検出する尿素水量センサ60はフロート式のものであり、尿素水タンク46内に配置されている。この場合、尿素水量センサ60の上下高さ位置の変化に基づき、尿素水タンク46内の尿素水貯留量が検出される。
還元コントローラ55は、電力トランスデューサ15にて検出された発電電力量に基づき、インバータ56を介して電動モータ54の回転駆動量を調節して、フィードポンプ50からの尿素水供給量を調節するように構成されている。これは、排気ガス中のNOx濃度が、ディーゼル発電機11群の合計発電電力量(発電用エンジン12群の合計出力(又は合計負荷)でもよい)と概ね比例関係にあるためである。従って、NOxの還元に必要な尿素水供給量(還元剤供給量)は、合計発電電力量、ひいては排気ガス中のNOx濃度に概ね比例することになる。ここで、図示は省略するが、NOxの還元に必要な尿素水供給量と発電電力量との関係は、例えばマップ形式又は関数表形式にて、還元コントローラ55(例えばROM等)に予め記憶されている。
この場合、還元コントローラ55は、電力トランスデューサ15にて検出された合計発電電力量と、還元コントローラ55に予め記憶されたマップ又は関数表とから、NOxの還元に必要な尿素水供給量を求め、当該求められた供給量の尿素水を尿素水噴射ノズル47から適宜時間内に噴射するように電動モータ54を回転駆動させ、フィードポンプ50の作動量を調節している。
実施形態の電力トランスデューサ15はNOx検出手段に相当するものである。すなわち電力トランスデューサ15は発電機13群の合計発電電力量を検出し、当該電力トランスデューサ15の検出結果に基づき、排気ガス中のNOx濃度が間接的に把握されることになる。なお、NOx検出手段は、電力トランスデューサ15に限らず、各発電用エンジン12の出力を検出するものでもよいし、燃料噴射量から各発電用エンジン12の負荷を検出するものでもよい。また、排気ガス中のNOx濃度を直接検出するものでもよい。
このように、NOx検出手段としての電力トランスデューサ15は発電機13群の合計発電電力量を検出し、当該電力トランスデューサ15の検出結果に基づき、排気ガス中のNOx濃度が間接的に把握される構成になっていると、NOx濃度検出専用のセンサが要らず、構成を簡素化して製造コストの低減に寄与できる。
(6).後処理装置の構造
次に、図2、図4及び図5を参照しながら、後処理装置27の構造について説明する。
後処理装置27は、略筒型に形成された耐熱金属材料製の後処理ケーシング61内に、上流側から順に、排気ガス中のNOxの還元を促進させるNOx触媒62と、余分に供給された還元剤(この場合は加水分解後のアンモニア)の酸化処理を促進させるスリップ処理触媒63と、排気ガスの排気音を減衰させる消音器64とを直列に並べて収容したものである。各触媒62,63は、多孔質な(ろ過可能な)隔壁にて区画された多数個のセルからなるハニカム構造になっており、例えばアルミナ、ジルコニア、バナジア/チタニア又はゼオライト等の触媒金属を有している。
NOx触媒62は、尿素水噴射ノズル47からの尿素水の加水分解にて生じたアンモニアを還元剤として、排気ガス中のNOxを選択還元することにより、後処理装置27内に送られた排気ガスを浄化するものである。また、スリップ処理触媒63は、NOx触媒62から流出した未反応(余剰)のアンモニアを酸化して無害な窒素にするものである。この場合、後処理ケーシング61内では下記の反応式:
(NH2)2CO+H2O → 2NH3+CO2(加水分解)
NO+NO2+2NH3→ 2N2+3H2O(NOx触媒62での反応)
4NO+4NH3+O2→ 4N2+6H2O(NOx触媒62での反応)
6NO2+8NH3→ 7N2+12H2O(NOx触媒62での反応)
4NH3+3O2→ 2N2+6H2O(スリップ処理触媒63での反応)
が生ずることになる。
消音器64は後処理ケーシング61の後部側に形成されている。後処理ケーシング61の後部側は2枚の蓋板65,66にて塞がれていて、これら両蓋板65,66を略筒型の排出パイプ67が貫通している。排出パイプ67の出口側は後処理ケーシング61の出口に連通している。排出パイプ67における前後両蓋板65,66の間は閉鎖板68にて閉鎖されており、排出パイプ67のうち閉鎖板68を挟んで両側の周壁部には、それぞれ複数の連通穴69,70が形成されている。後処理ケーシング61における両蓋板65,66の間は、排出パイプ67内に複数の連通穴69,70を介して連通する共鳴室71になっている。従って、排出パイプ67の上流側に入り込んだ排気ガスは、上流側の連通穴69、共鳴室71、下流側の連通穴70を介して排出パイプ67の下流側を通過し、後処理ケーシング61外に放出されることになる。
主排気路29側の第1開閉バルブ28aを閉じて分岐排気路30側の第2開閉バルブ28bを開いた状態において、各分岐排気路30を介して集合経路26にてまとめられた排気ガスは、後処理ケーシング61内に進入し、NOx触媒62及びスリップ処理触媒63を通過して浄化処理をされる。そして、浄化処理後の排出ガスは、排出パイプ67の上流側から、上流側の連通穴69、共鳴室71、下流側の連通穴70を経由して、排出パイプ67の下流側に入り、後処理ケーシング61外ひいては船舶1外に放出される。
以上のように、NOx触媒62を収容する後処理ケーシング61内には、NOx触媒62より下流側に、余分に供給された還元剤(実施形態では加水分解後のアンモニア)の酸化処理を促すスリップ処理触媒63が配置されているから、NOx触媒62を未反応のまま通過しようとする余剰の還元剤(アンモニア)を、窒素に酸化処理して無害化でき、排気ガス中にアンモニアが残存するおそれを確実に回避できる。また、NOx触媒62とスリップ処理触媒63とをパッケージ化でき、排気構造の下流側をコンパクトに構成できる。
また、NOx触媒62を収容する後処理ケーシング61には、排気ガスの排気音を減衰させるための消音器64を備えているから、NOx触媒62、スリップ処理触媒63及び消音器64を単一の後処理ケーシング61にパッケージ化でき、排気構造の下流側をコンパクトに構成できる。
(7).エンジンコントローラの構造
次に、図6を参照しながら、エンジン制御手段としてのエンジンコントローラ80の構造について説明する。
船舶1に搭載されたエンジンコントローラ80は、主として各発電用エンジン12の駆動制御を司るものである。詳細は図示しないが、エンジンコントローラ80も、還元コントローラ55と同様に、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。
エンジンコントローラ80には、前述した供給切換電磁弁81及び各戻し切換電磁弁82と、各燃料ポンプ18に設けられた燃料噴射装置83と、各発電用エンジン12の回転数を検出する回転数検出手段としてのエンジン回転センサ84と、燃料噴射量を検出する噴射量検出センサ85とが電気的に接続されている。エンジンコントローラ80には、還元剤供給装置43の還元コントローラ55も電気的に接続されていて、コントローラ55,80同士が相互に制御情報を授受して各制御を実行するように構成されている。
また、エンジンコントローラ80には、人工衛星86や地上局87からの電波にて船舶1(自船)の現在位置を特定できる自船位置検出手段88を構成するGPSコントローラ89が電気的に接続されている。自船位置検出手段88は、例えば自動車用のものと同様に、全地球測位システム(GPS)を利用するものであり、前述のGPSコントローラ89と、これに接続されたGPSアンテナ90とを備えている。GPSアンテナ90は船舶1のキャビン4に突設されている。
GPSコントローラ89は、GPSアンテナ90にて捕捉した人工衛星86又は地上局87からの電波(人工衛星86又は地上局87の現在位置情報等)から、船舶1の現在位置情報を算出するものであり、還元コントローラ55やエンジンコントローラ80と同様に、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。
GPSコントローラ89には、NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)の排出量を規制する規制海域についての規制海域情報がデジタルマップデータとして予め記憶されている。かかる規制海域情報のマップデータは地球全体の情報を網羅したものでもよいし、航海範囲が限定されていれば当該範囲(例えば、太平洋のみや東経○○〜△△度の範囲)に限っていてもよい。規制海域は変更される場合があるので、規制海域情報のマップデータは更新可能であるのが好ましい。
なお、自船位置検出手段88はGPSを利用するものに限らず、例えばサテライトコンパスのように自船の位置を把握できるものであればよい。規制海域情報を記憶する手段は、例えば光ディスクのような外部記憶媒体でもよいし、ハードディスクのような内蔵型記憶媒体でもよい。また、規制海域情報を記憶する手段をエンジンコントローラ80側に設けることも可能である。
(8).切換制御の具体例
次に、図8及び図9のフローチャートを参照しながら、規制海域との関係における切換制御の一例について説明する。実施形態のエンジンコントローラ80は、各発電用エンジン12の駆動制御以外に、排気ガスの通過する経路や使用燃料を自動的に切り換える切換制御(開閉バルブの開閉制御や燃料切換制御の総称)も実行可能に構成されている。ここで、船舶1は航行中であるものとする。
この場合、図8のフローチャートに示すように、自船位置検出手段88にて船舶1の現在位置を特定した後、当該現在位置と規制海域情報のマップデータとを比較照合し、船舶1が規制海域外にいるか規制海域内にいるかを判別する。言うまでもないが、船舶1が規制海域外にいれば、燃料としてC重油が使用され、排気ガスは各主排気路29を介して直接船舶1外に放出される状況下にある。船舶1が規制海域内にいれば、燃料としてA重油が使用され、排気ガスは各分岐排気路30、集合経路26及び後処理装置27を経由して、船舶1外に放出される状況下にある。
船舶1が規制海域外にいる場合は、船舶1の現在位置から規制海域の境界までの距離を求め、次いで、当該距離が予め設定されたターゲット距離内か否かを判別する。ターゲット距離は、使用燃料等の切換に要する時間に対応した距離に相当するものであり、切換に要する時間と船舶1の航行速度とから定められる。なお、ターゲット距離は航行速度に比例する変数に設定しておいてもよい(高速の場合は早く境界に到達するので、準備のためのターゲット距離は長くする必要がある)。
船舶1から境界までの距離がターゲット距離内であると、駆動中の発電用エンジン12に対する第1開閉バルブ28aを、これに対応するゲート電磁弁35の駆動に基づく圧縮気体の供給にて閉止させると共に、第2開閉バルブ28bを、これに対応するゲート電磁弁35の駆動に基づく圧縮気体の供給停止にて開放させ、排気ガスを後処理装置27に送り込む(排気ガスの通過経路を後処理装置27側に切り換える)。また、供給切換電磁弁81の切換駆動にて、駆動中の発電用エンジン12の燃料ポンプ18と低硫黄燃料タンク16bとを連通させ、使用燃料をC重油からA重油に切り換える。このとき、戻し切換電磁弁82も切換駆動して、戻し管路23を低硫黄燃料タンク16bに連通させることになる。
その後、温度センサ59にて検出された排気ガス温度が設定上限温度(例えば305℃)以上になると、噴射用電磁弁53を開くと共に、フィードポンプ50の駆動にて尿素水タンク46から尿素水噴射ノズル47に尿素水を送り、尿素水噴射ノズル47から集合経路26内に尿素水を噴射するのである。
逆に、船舶1が規制海域内にいる場合は、その後、船舶1が規制海域の境界を超えてから、噴射用電磁弁53を閉じると共にフィードポンプ50の駆動を停止させ、尿素水の供給を停止する。そして、駆動中の発電用エンジン12に対する第1開閉バルブ28aを、これに対応するゲート電磁弁35の駆動に基づく圧縮気体の供給停止にて開放させると共に、第2開閉バルブ28bを、これに対応するゲート電磁弁35の駆動に基づく圧縮気体の供給にて閉止させ、排気ガスを各主排気路29から直接船舶1外に放出する。また、供給切換電磁弁81の切換駆動にて、駆動中の発電用エンジン12の燃料ポンプ18と一般燃料タンク16aとを連通させ、使用燃料をA重油からC重油に切り換えるのである。このとき、戻し切換電磁弁82も切換駆動して、戻し管路23を一般燃料タンク16aに連通させることになる。
以上の説明から明らかなように、実施形態では、各発電用エンジン12の駆動制御を司るエンジン制御手段としてのエンジンコントローラ80が各開閉バルブ28a,28bの開閉制御を実行するように構成されているから、排気ガスの浄化処理(NOx還元処理)が必要な場合と不要な場合とにおいて、両開閉バルブ28a,28bの開閉状態を自動的に切り換えでき、排気ガスの通過する経路を簡単に選択できる。従って、船舶1の置かれた状況に応じて、排気ガスを効率よく処理できる。その上、両開閉バルブ28a,28bの開閉切換作業を自動化できるので、船員の負担軽減に効果的である。
しかも、集合経路26内の排気ガス温度を検出する温度検出手段としての温度センサ59を備えており、駆動中の各発電用エンジン12に対する主排気路29側の第1開閉バルブ28aを閉じて分岐排気路30側の第2開閉バルブ28bを開いた状態において、温度センサ59にて検出された排気ガス温度が設定上限温度以上になると、還元剤供給部としての尿素水噴射ノズル47から還元剤である尿素水を供給するように構成されているから、NOx還元が効率よく進む温度域(約305℃以上)を使って排気ガスを浄化処理することになる。このため、後処理装置27でのNOx還元効果を高い状態に維持できる。また、尿素水を効率よく使用できるから、ランニングコストの抑制にも寄与する。
また、船舶1(自船)の現在位置を特定できる自船位置検出手段88を更に備えており、自船位置検出手段88には排気ガスの規制海域に関する規制海域情報が予め記憶されており、自船位置検出手段88にて、規制海域と船舶1の現在位置との位置関係が特定され、特定された位置関係情報に基づいて、エンジンコントローラ80が各開閉バルブ28a,28bを開閉させるように構成されているから、規制海域に進入する前や規制海域を出た後といった状況に応じて、自動的且つ的確に排気ガスの通過する経路を選択できることになる。従って、NOx規制を遵守して環境汚染に配慮できる。また、船舶1が規制海域外か規制海域内かの監視を省略できるから、船員の負担軽減に効果的である。
特に、エンジンコントローラ80は、駆動中の各発電用エンジン12に対する両開閉バルブ28a,28b群について、船舶1が規制海域内に進入する際に、分岐排気路30側の第2開閉バルブ28bを開放して主排気路29側の第1開閉バルブ28aを閉止させ、船舶1が規制海域外に進出する際に、主排気路29側の第1開閉バルブ28aを開放して分岐排気路30側の第2開閉バルブ28aを閉止させるように制御するので、排気ガスの浄化処理が必要な場合は、排気ガスを確実に後処理装置27側に誘導できる。また、浄化処理が不要な場合は、後処理装置27を避けて外部に直接連通する主排気路29側に排気ガスを確実に誘導して、排気効率のよい状態を維持できる。従って、各発電用エンジン12の出力低下を回避できる。
更に、実施形態では、各発電用エンジン12への燃料供給をA重油とC重油とに選択的に切り換える燃料切換手段としての供給切換電磁弁81を更に備えており、エンジンコントローラ80が供給切換電磁弁81による燃料切換制御を実行するように構成されているから、例えば規制海域内の航行時と規制海域外の航行時のように、A重油を使用する場合とC重油で済む場合とを、供給切換電磁弁81の切換駆動にて自動的に選択できることになる。従って、SOx排出規制に対処して環境汚染に配慮しながら、燃料コストの上昇を抑制できる。しかも、従来のような燃料切換作業を省略できるので、省力化及び船員の負担軽減にも貢献できる。
また、自船位置検出手段88にて、規制海域と船舶1の現在位置との位置関係が特定され、特定された位置関係情報に基づいてエンジンコントローラ80が供給切換電磁弁81を切換作動させるように構成されているから、規制海域に進入する前や規制海域を出た後といった状況に応じて、自動的且つ的確に使用燃料を選択・切り換えできることになる。従って、SOx排出規制を遵守して環境汚染の抑制に確実に寄与できる。
特に、実施形態のエンジンコントローラ80は、駆動中の各発電用エンジン12に対する両開閉バルブ28a,28bの開閉制御と、供給切換電磁弁81の切換制御とを相互に連動させて実行するから、NOx及びSOx排出規制の双方に的確に対処できるのである。
さて、実施形態のエンジンコントローラ80は、船舶1が規制海域内にいてその境界を超えるまでの間、適宜時間間隔にて集合経路26内の排気ガス温度をチェックする割り込み診断処理をも実行し得るように構成されている。ここで、駆動中の各発電用エンジン12に対する主排気路29側の第1開閉バルブ28aは閉じており、分岐排気路30側の第2開閉バルブ28bは開いているものとする。
この場合、図9のフローチャートに示すように、温度センサ59にて検出された排気ガス温度が設定下限温度(例えば300℃)以下になると、フィードポンプ50の駆動を抑えて尿素水の供給量を少なくするか、噴射用電磁弁53を閉じると共にフィードポンプ50の駆動を停止させ、尿素水の供給を停止する。次いで、発電用エンジン12の駆動台数を減らした上で、目標の発電電力量を維持するように、残り(駆動中)の発電用エンジン12のへの燃料噴射量を燃料噴射装置83にて増加させることにより、残りの発電用エンジン12への負荷を増大させる。なお、発電用エンジン12の駆動台数がもともと1台であれば、目標の発電電力量を維持するように、前記1台の発電用エンジン12への燃料噴射量を燃料噴射装置83にて増加させる。その結果、後処理装置27に向かう排気ガス温度が上昇することになる。
その後、排気ガス温度が設定上限温度(例えば305℃)以上になると、先に停止させた発電用エンジン12を駆動させて、発電用エンジン12の駆動台数を減らす前の台数(元の駆動台数)に戻し、燃料噴射装置83にて、各発電用エンジン12への燃料噴射量を目標の発電電力量供給に見合った量に戻す。そして、フィードポンプ50の駆動にて、尿素水の供給量を排気ガス温度低下前の状態まで戻すか、噴射用電磁弁53を開くと共にフィードポンプ50を駆動させ、尿素水の供給を再開するのである。
上記の説明から明らかなように、実施形態では、駆動中の各発電用エンジン12に対する主排気路29側の第1開閉バルブ28aを閉じて分岐排気路30側の第2開閉バルブ28bを開いた状態において、温度センサ59にて検出された排気ガス温度が設定下限温度以下になると、発電用エンジン12の駆動台数を減らした上で、目標の発電電力量を維持するように、残り(駆動中)の発電用エンジン12のへの燃料噴射量を燃料噴射装置83にて増加させる構成になっているから、NOx還元は進行し難いがNOx発生量自体も少ない低温度域(約300℃以下)になったとしても、NOx還元が効率よく進む温度域(約305℃以上)に排気ガス温度を強制的に上昇できる。従って、後処理装置27でのNOx還元を高効率な状態に維持でき、排気ガスの浄化処理の確実性が向上することになる。
なお、実施形態においては、上述のように「発電用エンジン12の駆動台数を減らす」の文言に「もともとの駆動台数が1台のみであればその1台の駆動を維持する」をいう意味を含めて使用していることを付言しておく。
また、排気ガス温度が設定下限温度以下になった場合は、還元剤供給部としての尿素水噴射ノズル47から還元剤(尿素水)の供給を少なくするか又は停止するように構成されているから、前述の低温度域(約300℃以下)では、排気ガスの浄化処理を積極的にしないことになる。このため、後処理装置27(NOx触媒62)の上流側に、還元剤が付着・残存するおそれを低減できる。特に実施形態のように、還元剤が尿素水であれば、後処理装置27(NOx触媒62)の上流側に、水分蒸発後の固体尿素が付着・残存するおそれは減るし、尿素の加水分解にて生ずるアンモニアと硫黄分との反応にて生成される硫酸アンモニウムに起因する害も抑制できる。更に、還元剤(尿素水)をより一層効率的に使用でき、ランニングコストの更なる抑制に貢献するのである。
更に、排気ガス温度が設定上限温度以上になった場合は、先に停止させた発電用エンジン12を駆動させて、発電用エンジン12の駆動台数を減らす前の台数(元の駆動台数)に戻し、各発電用エンジン12への燃料噴射量を目標の発電電力量供給に見合った量に戻すように構成されているから、排気ガス温度が設定上限温度以上になれば、各発電用エンジン12に過剰な負荷が掛かることはなく、排気ガス温度の強制上昇に伴う燃費の悪化を最小限に抑えられる。
その上、発電用エンジン12の駆動台数を減らす前の台数(元の駆動台数)に戻し、各発電用エンジン12への燃料噴射量を目標の発電電力量供給に見合った量に戻す場合は、尿素水の供給を排気ガス温度低下前の元の量まで戻すか、尿素水の供給を再開するように構成されているから、尿素水の供給及び停止をスムーズに切り換えでき、排気ガス温度に応じて排気ガスの浄化処理を効率的に実行できるのである。なお、図9に示す割り込み診断処理においては、尿素水の供給制御を省略し、発電用エンジンの駆動台数及び燃料噴射量制御のみを実行するように構成してもよい。
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。