JP5856018B2 - 高滴点の半固体状組成物 - Google Patents
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しかし、これらの線状体の使用される環境雰囲気が高温であったり、近年、線状体の稼働条件が高速、長尺、高加重等の増加により60〜80℃の滴点では油膜が垂れたり、飛散することが多くなってきた。また、線状体の製造工程では半固体状のものを加熱して液状にして塗油するが、作業の都合で加熱を停止したり、固化したものを再び加熱したりすることが多々あり、そのような状況に対して、熱可逆性で、かつ、その油の物理的性状の内、特に滴点が変化しない安定性が要求されている。
かかる要求に対応すべく、より融点の高いワックスを用いて半固体状油の滴点を挙げることが行われたが、ちょう度が硬くなり、油膜の亀裂が生じたり、また、低温時の安定性に支障がでた。他の手段として、融点の高い熱可逆性の金属石鹸で鉱油・合成油とワックス混合体に可溶なアルミニウムやリチウムの金属石鹸を含有させる方法があるが、高い滴点の性状は得られるものの、線状体の塗布工程において前述したような加熱と冷却を繰り返すことがある状況下では、油剤の滴点が下がったりして不安定となり満足が得られなかった。
本発明者は、多くの試行を繰り返し、炭化水素系の鉱油及び/又は合成油と天然及び/又は合成系のワックスの混合体である半固体状油剤(以下、「基油」という。)にアミド(アマイド)化合物を混合することにより滴点が上昇することを見出したが、加熱した油剤を放冷する固化時の過渡期に油膜表面に薄膜の析出物が皮張りしたりし、また油剤の内層でもぶつぶつのものが出来たりする不均一な油層を呈した。
アミド化合物を使用した油剤は、特許文献1−3に記載されているように種々知られている。しかし、それらは、アミドの構成物が熱可逆性であることを利用しているが、いずれも低摩擦化、安定した摩擦特性の維持等のあくまで潤滑性の保持と強化を課題としており、線状体用として要求される高滴点性を含む上記の視点については触れられていない。
すなわち、本発明は、
(A)炭化水素系鉱油及び/又は合成油の流動状油と、炭化水素系の天然及び/又は合成ワックスとの混成からなる、半固体状油剤(基油)48〜85質量%、
(B)12−ヒドロキシステアリン酸のビスアミド3〜10質量%、
(C)ヒマシ油脂肪酸縮合物又は12−ヒドロキシステアリン酸縮合物と、単価又は多価アルコールとで成り立つエステル3〜30質量%、
(D)脂肪酸基にOHのある油脂3〜10%、
を含んでなる半固体状組成物である。
さらに、本発明に係る半固体状組成物は、ワイヤロープ、ワイヤー、ケーブル等の撚り線等からなる線状体に浸潤塗布して使用される、滴点が120℃以上のものである。
また、120℃以上ある高滴点を有し、油膜は加熱冷却を繰り返しても異物の析出がなく、塗膜が滑らかに均質に形成され、ワイヤロープ、ワイヤー、ケーブル等の線状体に浸潤塗布して使用するのに好適である。
(A)成分は、線状体に適用される公知の半固体状油剤を用いることができる。
すなわち、炭化水素系鉱油及び/又は合成油の流動状油と、炭化水素系の天然及び/又は合成ワックスとの混成からなる、常温で半固体状の油剤を用いることができる。この基油は、組成物全体の48〜85質量%、好ましくは52〜85質量%である。
基油は、(1)炭化水素系の鉱油及び/又は合成油の液状油(流動油)と、(2)炭化水素系の天然及び/又は合成ワックスの混合で構成されており、(1)としては、パラフィン系、ナフテン系鉱油、アルファーオレフィンボリマーオイル(PAO)、ポリブテン等から選択され、(2)は、マイクロワックスやその他の石油系硬質及び軟質ワックス、ポリエチレンワックスやオレフィン系合成ワックス等から選択される。
上記液状油とワックスの混成比率は、一例として、50:50 〜60:40であり、滴点は67〜70℃、ちょう度は150〜160である。本来アミドを含有しない通常の線状体油剤の基油のちょう度は90〜110程度で固めてあるので、アミドを含有させると50〜60程度硬質になるのを予測して予め軟質のものを用いる。
(B)成分として用いられるアミド(アマイド)化合物は、融点120℃以上の12−ヒドロキシステアリン酸のビスアミドが用いられ、その量は、組成物全体の3〜10質量%、好ましくは3〜8質量%である。当該量より少ないと軟質になり、当該量より多いと硬質になる。
脂肪酸とアミンを反応させると、下記(1)式のモノアミドが出来るが、このものを更に縮合させると(2)式のビスアミド(N−置換脂肪酸アミド)ができる。
(1)R1−CO−NH2
(2)R1−CONH−R2−NH−CO・R3
このうちR1,R3は炭素数1〜22の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1〜12の脂肪族または芳香族炭化水素基である。
(1)で示されるものモノタイプのアミドの代表例としてはステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等がある。(2)で示されるビスタイプの飽和または不飽和脂肪酸の例としてはエチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等がある。しかし、本発明組成物としての半固体状油剤の滴点を高く保つ効能として(2)式のビスアミドタイプで、脂肪族あるいは芳香族炭化水素基において、一部にヒドロキシ基を有するものが後述するエステルとの混溶がよく、また、融点が120℃以上のものがあり、組成物油剤の高滴点化には好ましく、例として特に12−ヒドロキシステアリン酸のビスアミドがよい。融点は120℃以上あるものとして具体的にはN.N’−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N.N’−ヘキサメチレン−ビス−12ヒドロキシステアリルアミド、N、N’−キシレン−ビス−12ヒドロキシステアリルアミド等がよい。
(C)成分として用いられるエステルは、ヒマシ油脂肪酸縮合物又は12−ヒドロキシステアリン酸縮合物と、単価又は多価アルコールとで成り立つエステルであり、その量は、組成物全体の3〜30質量%、好ましくは5〜30質量%である。当該量より少ないとアミドと混溶する能力が低くなり、当該量より多いと組成物全体が軟化する。
脂肪酸のエスエルには種々多様な分子構造のものがあり、ジエステル、ポリオールエステルなど各種のものがある。このうち前記のアミド化合物とよく混溶するものとして、鋭意探索した結果、ヒマシ油の脂肪酸縮合物のエステルがよいことを見出した。ヒマシ油は脂肪酸の大部分がリシノール酸であり、このものは炭素数12の位置にOH基が、炭素数9−10間に二重結合があり、他の油脂にはない特殊な構造になっている。またこのものを加水分解すると液状のヒマシ油脂肪酸が得られる。また一方ヒマシ油を水素添加(以下水添と略)すると固形状になり、このものを加水分解すると12−ヒドロキシステアリン酸と言われるものが得られる。この両者のOHのある脂肪酸それぞれに一分子の同じ脂肪酸を一定温度下で触媒により反応させるとOH基ともう一分子のCOOH基が分子間でエステル結合を起こす(分子開縮合反応)。さらにこの縮合反応を繰り返すと2量体から6量体にまでなってゆく。本発明で必要とするエステルは、このヒマシ油脂肪酸又は12−ヒドロキシ脂肪酸に単価のアルコール又は多価のアルコールと反応させたものを使用することである。一例としてあげると、ヒマシ油脂肪酸縮合物とグリセリンとのエステル(粘度100〜1000mm2/S, 沃素価50〜75)、12−ヒドロキシステアリン酸縮合物とトリメチプロパノールとのエステル(粘度330mm2/S、沃素価10以下)、12−ヒドロキシステアリン酸縮合物とペンタエリスリトールとのエステル(粘度150〜250mm2/S、沃素価10以下)、12−ヒドロキシステアリン酸縮合物と単一アルコールとのエステル(粘度30〜50mm2/S 、沃素価10以下)等がある。これらのエステルのうち、前述せるアミド(アマイド)化合物とよく混溶し、かつ、結果としての高滴点を得られるものとしては粘度が100〜1200mm2 /S(@40℃)のものがよい。
(D)成分として用いられる油脂成分は、脂肪酸基にOHのある油脂であり、その量は、組成物全体の3〜10%、好ましくは4〜6%質量である。当該量より少ないとアミドやエステルを混溶する能力が低くなる。当該量より多い方は増えても効果ない。
油脂はグリセリンと脂肪酸のエステルとしてグリセライドが主体の構造である。
本発明の試作段階で、上記アミド化合物と、ヒマシ油脂肪酸縮合物あるいは12−ヒドロキシステアリン酸縮合物と多価アルコールとのエステルの混溶を更に助長するものとして特殊な油脂を採用した。油脂には犬豆油、ヒマシ油、サフラワー油、等々多々あるが、このうち油脂の脂肪酸基にOHがあるヒマシ油が最も良く混溶することを見出した。
例えば、上記各種添加剤は、予めA成分(基油)に対し通常4質量%以下添加して用いることができる。
本発明の組成物は、例えば、(A)基油を最初に製造しておき、その上で(B)アミド、(C)エステル、(D)油脂を所定配合割合で添加して加温して混合して得られる。すなわち、まず流動油とワックスと添加剤を混合して約80〜130℃に加温して、特に酸化防止剤の種類によりその融点が高い場合はその融点の10℃以上高い温度まで上げて溶融させ、全体を均一にする。この基油が80℃以下になってから、次にアミド、エステル、油脂を同時に添加して今度はアミドの融点以上になるように、最高150℃まで加熱撹拌混合を続け、全成分が均一に溶解することにより目的の組成物を作り上げる。混合手段としてはタンクブレンド方式のような混合混煉装置を用いる。
一例を挙げると、ワイヤロープのような場合は、構成する芯綱とストランド(ワイヤー素線が多数本で撚り上げられたもの)各々に、組成物油剤を滴点以上の温度に上げて溶融して液状にし、これを油箱や塗油器に入れて、浸漬や流しかけ方法にて塗油する。最後に塗油芯綱の周りに数本の塗油ストランドを撚り合わせて、最終的に、半固体状の本発明組成物油剤を浸潤塗油させたワイヤロープを完成させる。
(A)基油を最高120℃まで加温して溶融させ、全体を均一にした。この基油が80℃以下になってから、次に(B)アミド、(C)エステル、(D)油脂を同時に添加して今度はアミドの融点以上になるように、最高150℃まで加熱撹拌混合を続け、全成分が均一となるように溶解した。
実施例及び比較例で使用した各成分は下記のとおりである。
(A)基油
・鉱油とワックスの混成:パラフィン系混合鉱油(粘度390mm2/S@40℃)と鉱油系混合ワックス(融点80℃)―(混合比率57:43)
・合成油とワックスの混成:PAO混合油(粘度260mm2/S@40℃)
と鉱油・合成油系の混合ワックス(融点85℃)―(混合比率60:40)
上記各基油は、予め添加剤(防錆剤、酸化防止剤及び粘着向上剤)を各基油に対して3質量%添加したものであり、表中における質量%の表示は、添加剤を含む数値である。
(B)アミド
・N.N'−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアマイド(MP142℃)
・N.N'−エチレン−ビス−ステアリルアマイド(MP142℃)
(C)エステル
・ひまし油脂肪酸縮合物とグリセリンとのエステル
・12ヒドロキシステアリン酸縮合物とトリメチルプロパノールとのエステル
(D)油脂
・ひまし油(VIS.680cps/25℃)
その他
・リチウムステアレート(MP210℃)
なお、粘度:JIS K 2283、融点:JIS K 2235に夫々準拠した数値である。
<組成物(油剤)の性状試験の方法>
滴点:JIS K 2220 に則り、滴点試験機を用いて測定した。
ちょう度:JIS K 2235 に則り、測定した。
鋼板への形成膜上の均一・平滑性:25×50mmの鋼板に、油を100μmの厚さに塗油し、これを140℃の保たれた熱板器上に5分間のせ油を完全に一度溶融させてから、取り出して常温で放冷した後の油膜を観察した。加熱・冷却の繰り返しの回数は合計3回行った。
<評価項目・評価方法>
・加熱油の放冷時における油膜表面上の皮張り
A:皮張りまたは浮遊物なし C:あり B:AとCの中間
・加熱油が放冷した固化油の内層部分の状態
A:均一でぶつ(ぶつぶつ状の異物の析出)なし C:あり B:AとCの中間
・鋼板への形成膜上の均一・平滑性
A:均一で滑らか C:ぶつや亀裂あり B:AとCの中間
表の「性状」に示すとおり、実施例1−5いずれも、120℃以上の高滴点であることに加えて、加熱と冷却に対しても滴点が変化しない安定性を備えていた。
これに対し、比較例のものは120℃以上の高滴点が得られないか、あるいは得られたとしても、油膜状態が不安定となったり、加熱・冷却の繰り返しにより、滴点の下降が見られ安定性に欠けるものだった。比較例1と2はA.基油にB.アミドだけ配合しても高滴点が得られず油が軟化した例を示す。比較例3はOH基のないアミドでは高滴点が得られず軟化する例を示す。比較例4では必須成分のD.油脂が入っていない場合油膜が不安定になる例を示す。比較例5はLi石鹸では最初高滴点が出るが熱可逆性が不安定な例を示す。
Claims (2)
- (A)炭化水素系鉱油及び/又は合成油の流動状油と、炭化水素系の天然及び/又は合成ワックスとの混成からなる、半固体状油剤(基油)48〜85質量%、
(B)12−ヒドロキシステアリン酸のビスアミド3〜10質量%、
(C)ヒマシ油脂肪酸縮合物又は12−ヒドロキシステアリン酸縮合物と、単価又は多価アルコールとで成り立つエステル3〜30質量%、
(D)脂肪酸基にOHのある油脂3〜10%、
を含んでなる半固体状組成物。 - ワイヤロープ、ワイヤー、ケーブル等の線状体に浸潤塗布して使用される、滴点が120℃以上である、請求項1に記載の半固体状組成物。
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