JP5846599B2 - ガラクトース6硫酸結合性タンパク質 - Google Patents

ガラクトース6硫酸結合性タンパク質 Download PDF

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Description

本発明は、ガラクトース6硫酸に結合する新規なタンパク質に関する。
ガラクトースの6位に硫酸基を転移する酵素であるケラタン硫酸ガラクトース6硫酸転移酵素(CHST1)の遺伝子、並びにその産物であるガラクトース6硫酸を含有するケラタン硫酸は、脳腫瘍の悪性化にともなって、発現が増加することが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。
一方、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞など多分化能を有する未分化細胞表面で発現し、細胞分化と共に失われるTra-1-60及びTra-1-81抗原は、多能性幹細胞を判別する際の未分化マーカーとして広く用いられているが、その際に用いられるTra-1-60抗体及びTra-1-81抗体はいずれも糖タンパク質ポドカリキシン(podocalyxin)上のケラタン硫酸化を糖鎖エピトープとして認識していることが明らかになっている(非特許文献3)。ケラタン硫酸は、6位炭素が硫酸化されたガラクトース(Gal)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の繰り返しで構成され、硫酸基はGal及びGlcNAcの両方又は片方の6位の炭素に結合している構造を有している(-3[6S]Galβ1-4[6S]GlcNAcβ1-)。Tra-1-60抗体及びTra-1-81抗体が、ケラタン硫酸中のどの位置の硫酸結合糖鎖構造部分を認識しているのかは解明されていないが、細胞分化に関してもケラタン硫酸化の役割の重要性が指摘されたことから、さらにガラクトース6硫酸の指標としての重要性が高まってきている(非特許文献3)。
このように、ガラクトース6硫酸は癌などの疾患の悪性化を示す重要な指標であるのみならず、細胞の分化の過程で重要な役割を果たしている可能性も高いことが考えられるため、ガラクトース6硫酸含有糖鎖エピトープを検出することができるプローブとなる糖結合タンパク質を開発することができれば、細胞の分化度や癌などの疾患の進行度を調べるための診断技術の開発が期待できる。
しかしながら、ガラクトースの3位やN-アセチルグルコサミンの6位に硫酸が転移された硫酸化糖鎖に対する各種抗体は作製されているものの、ガラクトース6硫酸に対する抗体は報告されておらず、上述のTra-1-60抗体及びTra-1-81抗体は、ケラタン硫酸を認識しているとはいえるものの、特異的にガラクトース6硫酸を認識しているとは限らない。
糖結合タンパク質の代表的な分子として、抗体の他にレクチンがある。
レクチンは糖に結合するタンパク質であり、ヒトからウイルスまで全ての生物に存在する。レクチンは、進化的に保存された糖結合ドメイン(CRD)の構造に応じてファミリーに分類されている。例えば、L型、C型、R型、P型、シグレック、ガレクチン、カルネキシン/カルレティキュリンなどがある。
このうち、ヒトのC型レクチンの1種であるランゲリンはカルシウム依存的にガラクトース6硫酸含有糖鎖に結合することが報告されている(非特許文献4)。しかしランゲリンは高マンノース型糖鎖にも強く結合することから、ガラクトース6硫酸特異的なプローブとはいえない。また、親和性も非常に低く、ガラクトース6硫酸を検出するためのプローブとして産業的に使用することは困難である。
以上のように、ガラクトース6硫酸を検出可能なプローブについての開発は強く望まれていたが、未だに有効なプローブが提供されないため、その組織分布もほとんど明らかにされておらず、機能解明も進んでいない状況下にあった。
Hayatsu N, Ogasawara S, Kaneko MK, Kato Y, Narimatsu H., Biochem Biophys Res Commun. 2008 Apr 4;368(2):217-22. Kato Y, Hayatsu N, Kaneko MK, Ogasawara S, Hamano T, Takahashi S, Nishikawa R, Matsutani M, Mishima K, Narimatsu H., Biochem Biophys Res Commun. 2008 May 16;369(4):1041-6. Badcock G, Pigott C, Goepel J, Andrews PW., Cancer Res. 1999 Sep 15;59(18):4715-9. Tateno H, Ohnishi K, Yabe R, Hayatsu N, Sato T, Takeya M, Narimatsu H, Hirabayashi J.J Biol Chem. 2010 Feb 26;285(9):6390-400. Yabe R, Suzuki R, Kuno A, Fujimoto Z, Jigami Y, Hirabayashi J. J Biochem (Tokyo). 2007 Mar;141(3):389-399. Hemmi H, Kuno A, Ito S, Suzuki R, Hasegawa T, Hirabayashi J. FEBS J. 2009 Apr;276(7):2095-105. Suzuki R, Kuno A, Hasegawa T, Hirabayashi J, Kasai KI, Momma M, Fujimoto Z. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2009 Jan;65(Pt.1):49-57.
本発明の課題は、癌などの悪性化や細胞分化に対して重要な役割を果たしていると考えられるガラクトース6硫酸に結合する新規なタンパク質を提供することである。
本発明者らは、各種レクチンのうちでヒトからバクテリアまで広く生物に存在している唯一のタンパク質ファミリーであるR型レクチンがガラクトース特異的に結合することに着目し、そのうちでアミノ酸配列が既知で、R型レクチン固有のβ-トレフォイル構造が確認されているミミズ由来レクチンEW29(GenBank登録番号:AB010783)のC末端ドメイン(EW29Ch:配列番号1)を出発材料とし、糖認識ドメイン遺伝子を改変することで、6硫酸化ガラクトースを認識する新規タンパク質を提供できないかと考えた。
EW29Chの改変体としては、最近、エラー導入PCR/リボソームディスプレイ法の改法を用い、ガラクトース特異性を、α2−6シアル酸特異的に改変することに成功した例が報告されている(非特許文献5)。
しかし、従来のエラー導入PCR/リボソームディスプレイ法では、目的のクローンの糖結合特異性を迅速にスクリーニングすることができず、そのために有効なガラクトース6硫酸に結合するプローブを取得するのは容易ではなかった。
本発明者らは、本発明者らの研究グループで以前開発したエラー導入PCR/リボソームディスプレイ法(非特許文献5)をもとに、さらにスクリーニング効率を高める工夫を加えて、EW29のC末端側機能ドメイン(EW29Ch)にランダム変異を導入してスクリーニングすることで20クローンを選択し、各クローン由来の変異EW29Chのアミノ酸配列を詳細に検討すると、糖との結合に必須で糖骨格中の水酸基との水素結合に関与していることが知られているドメイン内で最初のアスパラギン酸(D)(非特許文献6、7)、即ち18位のアスパラギン酸(D)は全てのαドメインで保存されていた。また、糖結合に関与するといわれている33位のトリプトファン(W)、36位のリジン(K)及び43位のアスパラギン(N)のいずれにも変異の導入はなかったが、一方で20クローン中14クローンという高確率で20位のグルタミン酸(E)がリジン(K)に変異していた。そこで、E20K変異を有する14クローンから任意に8クローンを選択し、E20が保存されている他の8クローンから4クローン選択し、それぞれを大腸菌で発現させて糖結合活性を測定したところ、E20K変異を有するクローンは全てガラクトース6硫酸との結合が強くなっていたものの、E20が保存されているクローンはいずれもガラクトース6硫酸への結合活性に変化は見られなかった。次いで、野生型EW29Chのαドメイン中でE20Kのみに変異を有するEW29Ch変異体を作製して、当該EW29Ch変異体もまたガラクトース6硫酸への結合活性があることを確認した。
以上のことから、EW29のC末端側機能ドメイン(EW29Ch)においてαサブドメインの20位のグルタミン酸(E)がリジン(K)に変更されることがガラクトース6硫酸に結合するために必須であることを確定することができた。これらの知見を得たことで本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列において、20位が塩基性アミノ酸に置換されているアミノ酸配列を含む糖認識ドメインを有することを特徴とする、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質;
(a)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列において、18位のアスパラギン酸以外のアミノ酸のうち1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号59〜74に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつその54〜56位の塩基配列がコードするコドンがアスパラギン酸である塩基配列によりコードされたアミノ酸配列。
〔2〕 前記(b)又は(c)のアミノ酸配列が、33位のトリプトファン、36位のリジン及び43位のアスパラギンの少なくとも1つのアミノ酸が保存されていることを特徴とする、前記〔1〕に記載のタンパク質。
〔3〕 前記サブドメインのアミノ酸配列が、配列番号3〜16及び18から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列である、前記〔2〕に記載のタンパク質。
〔4〕 さらに、ミミズ由来レクチンEW29のC末端ドメイン(EW29Ch)のβもしくはγサブドメイン、又は他のR型レクチンの糖認識ドメインを少なくとも1つ含むことを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載のタンパク質。
〔5〕 β-トレフォイル構造を有していることを特徴とする、前記〔4〕に記載のタンパク質。
〔6〕 配列番号17及び配列番号30〜43から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列を含む、前記〔5〕に記載のタンパク質。
〔7〕 R型レクチンのβ-トレフォイル構造を形成する糖認識ドメイン中の少なくとも1つのサブドメインのアミノ酸配列において、EW29Chのαドメイン(EW29Ch-α)のアミノ酸配列(配列番号2)の18位に対応するガラクトース結合部位であるアスパラギン酸を変更することなく、当該アスパラギン酸に続くループ内に存在し、かつアスパラギン酸の下流1〜4アミノ酸のいずれかの位置に存在する、EW29Ch-αのアミノ酸配列の20位のグルタミン酸に対応する酸性又は中性アミノ酸が、塩基性アミノ酸に変異していることを特徴とする、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質。
〔8〕 前記サブドメインのアミノ酸配列が、配列番号2及び配列番号19〜28から選択されたいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、前記〔7〕に記載のタンパク質。
〔9〕 前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
〔10〕 前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載のタンパク質を有効成分として含む、ガラクトース6硫酸含有糖鎖検出用試薬。
〔11〕 ビーズ又は基板表面に固定化された、前記〔10〕に記載の試薬。
〔12〕 前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載のタンパク質を用いることを特徴とする、生物学的試料中に含まれるガラクトース6硫酸含有糖鎖を検出する方法。
〔13〕ビーズ又は基板表面に固定化された、前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載のタンパク質を用いることを特徴とする、ガラクトース6硫酸含有糖鎖を有する化合物を捕獲する方法。
本発明によって提供できた新規なEW29Ch変異体タンパク質などのR型レクチン由来変異体は、ガラクトース6硫酸を認識することができる優れたプローブとして用いることができる。当該プローブは、細胞の分化度の評価や癌などの疾患の進行度を調べるための診断に用いることができるから、再生医療技術や癌など各種疾患の診断技術におけるさらなる向上が期待できる。
各R型レクチンEW29Ch、Ricin B鎖、SoCBM13、ML1-B鎖、pp-GalNAcT-1の糖認識ドメインのアミノ酸配列をアライメントした結果を示す。糖結合活性に重要なアミノ酸(アスパラギン酸(D))を太字で示している。βシート構造のおおよその位置はβ1,β2などと表記しており、βシートに挟まれた部分のループ構造に対応する位置は、L1、L2などと表記している。また、ループ内の変異導入候補位置(EW29Ch-αのグルタミン酸(E)に相当する位置)のアミノ酸を*で示している。 EW29Ch(-α)の立体構造図。 EW29Chのαドメインにおいて糖結合に関与する4つのアミノ酸(D18、W33、K36、N43)がLine表示法で示されており、変異が起きているループ内のE20はStick表示法で示されている。 EW29Ch変異体 野生型EW29Ch、およびガラクトース6硫酸への親和性スクリーニングで得られた20クローンのアミノ酸配列。この親和性スクリーニングで得られた20クローンの全てのαドメインで、糖結合に関与する4つのアミノ酸(D18、W33、K36、N43)のいずれのアミノ酸にも変異の導入はなかった。野生型と比較し変異が導入された箇所を白抜き文字で示した。上向きの▲はR型レクチンの機能上不可欠なアスパラギン酸(D)の位置を示しており、αサブドメイン中での下向きの▼は、そのアスパラギン酸(D)から2残基だけC-末端側に存在したグルタミン酸(E)の位置を示す。酸性アミノ酸のグルタミン酸(E)が塩基性アミノ酸のリジン(K)に変異しているものを#1〜#14(配列番号30〜43、それぞれのα-サブドメインのアミノ酸配列は配列番号3〜16に対応する。)として並べ、変異していないものを#15〜#20として並べた。E20の14/20がKに変異していることが見て取れる。 野生型(EW29Ch)のアミノ酸配列(配列番号1)を併記した。実施例では、E20がKに変異しているクローンのうちの#1〜#8、E20の変異のないクローンのうちの#15〜#18について,大腸菌で発現させて糖結合特性を測定したところ、ガラクトース6硫酸への結合親和性を獲得したものは全てグルタミン酸(E)がリジン(K)に変換されていた。 ガラクトース6硫酸含有糖鎖への各種変異体の結合親和性をフロンタル・アフィニティークロマトグラフィーで解析した結果を示す。 図中、#1は配列番号3の変異体、#4は配列番号6の変異体である。「○−■−PA」などは、蛍光物質PA(2-aminopyridine)が付いた糖鎖を表し、糖の上部の「6S」は、6位の位置に硫酸基が存在していることを示す。 ガラクトース6硫酸含有糖鎖への野生型と変異体E20Kの結合親和性をフロンタル・アフィニティークロマトグラフィーで解析した結果を示す。
1.R型レクチンについて
R型レクチンはβ-トレフォイルと呼ばれる三つ葉のクローバー様の構造を有しており、β-トレフォイル構造を介してガラクトースを特異的に認識する。この三つ葉はサブドメインα、β、γで構成され、3回対称軸で配置されている。いずれのサブドメインも糖結合部位となりうるが、多くのR型レクチンではそのうちの1つ、もしくは2つにだけ糖結合に必須なアミノ酸が保存されている。特に各ドメインのN末端側に位置する進化的に保存されたアスバラギン酸(D)は糖との結合に必須であることが知られており、ガラクトースなど糖骨格中の水酸基との水素結合に関与しているといわれている(非特許文献6、7)。
本発明の出発原料として用いたミミズ由来レクチンEW29のC末端ドメイン(EW29Ch)のαサブドメイン、γサブドメインと共に、他の代表的R型レクチンの糖結合性ドメインを並べて示す(図1)。図1のRicin-B1(AAB22582)、Ricin-B2(AAB22582)はトウゴマ(ヒマ)の種子から抽出したレクチンRicinのB鎖であり、SoCBM13(1XYF_A)は放線菌Streptomyces olivaceoviridisE-86由来のキシラナーゼの基質認識ドメインであり、ML1-B1(1OQL_B)、ML1-B2(1OQL_B)はヤドリギから抽出したレクチンMLのB鎖であり、pp-GalNAcT-1(XP_687472)は、ムチンなどのO型糖鎖の生合成に関連する糖転移酵素である。いずれのR型レクチンにおいてもEW29Chのαサブドメインの18位に相当する位置の糖結合部位であるアスパラギン酸(D)は保存されている。結晶構造解析がなされているEW29Chのαサブドメインを図2として示す。図1及び図2に示されるように、アスパラギン酸(D)及びそれに続く1〜4アミノ酸まではβ-シートで囲まれて形成されたループ内に存在している。当該ループ構造全体が結合対象の糖を包み込む構造をとり、アスパラギン酸(D)の位置で糖と水素結合するが、その1〜4下流のアミノ酸位置の電荷などが結合対象の糖の種類を決定づけていると考えられる。本発明の結果によれば、EW29Ch-αの場合は、Dの2アミノ酸下流のEがガラクトースを対象に選んでいたのが、E→Kの変異導入によって電荷が(−)→(+)へとプラス側に変更され、マイナス電荷を有するガラクトース6硫酸への認識能を獲得したと説明できる。このことは、リジン(K)以外のアルギニン(R)への変異でも同様のガラクトース6硫酸認識性のレクチンに変更できると考えられる。また、図1に示されるように、他のR型レクチンの糖結合性ドメインにおいても、アスパラギン酸(D)の1〜4下流のアミノ酸のうちで、ループ構造を構造的に見たときにEW29Ch-αのEに対応する位置が、ガラクトース6硫酸結合活性獲得に重要な変異導入候補位置であり、この位置のアミノ酸を、電荷が+側の方向にシフトさせるアミノ酸への変異導入により、ガラクトース6硫酸結合レクチンを作製することができると期待できる。
反対に、Ricin毒素のRicin-B1αサブドメインもしくはγサブドメイン又はML1-B1αサブドメインなどで、すでにEW29Ch-αにおけるE20の位置は塩基性アミノ酸であるアルギニン(R)を有していることからみて、毒性が高くて取り扱いにくいレクチンであるため確認はなされていないが、本来のガラクトース結合活性と共に、ガラクトース6硫酸への結合活性も有しているものと解される。
2.本発明のガラクトース6硫酸結合タンパク質について
本発明では、ガラクトースに結合するR型レクチンのうちで、X線解析により立体構造が明らかとなっているミミズ由来のレクチンのC末端ドメインEW29Chを出発原料としたが、他のR型レクチンのガラクトース結合ドメインについても、ガラクトース結合部位のアスパラギン酸(D)の1〜4下流のアミノ酸のうちで、ループ構造を構造的に見たときにEW29Ch-αのEに対応する位置のアミノ酸の電荷を+側の方向にシフトさせるアミノ酸への改変によっても、同様のガラクトース6硫酸結合タンパク質を得ることができる。
そのようなタンパク質は、具体的には、以下のように記載することができる。
R型レクチンのβ-トレフォイル構造を形成する糖認識ドメインの少なくとも1つのサブドメインのアミノ酸配列において、EW29Chのαドメイン(EW29Ch-α)のアミノ酸配列(配列番号2)の18位に対応するガラクトース結合部位であるアスパラギン酸を変更することなく、当該アスパラギン酸に続くループ内に存在し、かつアスパラギン酸の下流1〜4アミノ酸のいずれかの位置に存在する、EW29Ch-αのアミノ酸配列の20位のグルタミン酸に対応する酸性又は中性アミノ酸が、塩基性アミノ酸に変異していることを特徴とする、ガラクトース6硫酸を認識する糖認識ドメインを含むタンパク質。
特に、本発明の実施例において実際にガラクトース6硫酸に結合することが確認できたEW29Chの、少なくとも変異αサブドメインを含むタンパク質が好ましく、具体的には、
「下記(a)〜(c)いずれかのアミノ酸配列において、20位が塩基性アミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなる糖認識ドメインを含む、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質;
(a)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列において、18位のアスパラギン酸以外のアミノ酸のうち1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号59〜74に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつその54〜56位の塩基配列がコードするコドンがアスパラギン酸である塩基配列によりコードされたアミノ酸配列。」
と表記することができる。
ここで、配列番号2〜16又は18には、天然のEW29Chのαサブドメインのアミノ酸配列のN末端にMet(M)が付加されている。このMetは天然EW29Ch-αには含まれておらず、大腸菌で発現させるために付加されたものであるから他の宿主細胞で発現させる場合、又は化学的に合成する場合は不要である。以下の配列番号17、30〜43も同様である。対応する塩基配列(配列番号29,44〜74)における5’末端の「ATG」コドンも同様である。
ここで、20位の塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニンが好ましく、特にリジンが好ましい。
また、(b)又は(c)のアミノ酸配列のうち、アミノ酸配列中の18位がアスパラギン酸(D)であって、かつ33位のトリプトファン(W)、36位のリジン(K)及び43位のアスパラギン(N)のうち、少なくとも1つが保存されているアミノ酸配列であることが好ましく、いずれも保存されていることがさらに好ましい。
なお、1もしくは数個が欠失、置換、付加する場合の変異の数は1〜20個でもよいが、1〜10個であることが好ましく、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個である。
また、ここでストリンジェントな条件というとき、ミスマッチ配列が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下のハイブリダイズ条件を指し、例えば0.5%SDS、5×デンハルツ[Denhardt’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400]及び100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃で4時間〜一晩保温を行う条件をいう(Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.(2001)Cold Spring Harbor Laboratoryなど)。
さらに具体的なアミノ酸配列としては、配列番号3〜16又は18に示されるアミノ酸配列をαドメインとして有するβ-トレフォイル構造含有タンパク質である。
ガラクトース6硫酸結合活性に関わる領域はαサブドメインであるので、本願発明のタンパク質と機能的に同等な変異体としては、αサブドメインを構成するアミノ酸配列においては、ガラクトース6硫酸結合活性を保持するために、通常はアミノ酸配列として90%以上、より好ましくは95%以上の相同性(同一性)を有するが、他のβ及びγサブドメインについては、β-トレフォイル構造を形成してαサブドメインを安定化させるための機能が保持されていればよい。
典型的には、配列番号17及び配列番号30〜43から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列、又はそのアミノ酸配列において、20位のリジン(K)、18位のアスパラギン酸(D)以外のアミノ酸が1もしくは数個が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列を有し、かつβ-トレフォイル構造を保持した、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質が含まれる。全長のアミノ酸配列の相同性(同一性)は、通常、80%以上、好ましくは90%、より好ましくは95%以上保持されている。
ここで、好ましくはさらに33位のトリプトファン(W)、36位のリジン(K)及び43位のアスパラギン(N)の1つ以上も変異されていないことが好ましい。
しかし、上述のように、β及びγサブドメインの役割としてはβ-トレフォイル構造を形成できればよいため、EW29Ch由来のアミノ酸配列である必要もなく、他の公知のR型レクチンのβ-トレフォイル構造を形成する糖認識ドメイン中のサブドメインを代替できる。また、公知の安定なタンパク質との融合タンパク質を形成させたり、薬理学的に許容される担体と化学的に結合させて用いることもできる。
以上のように、本発明のガラクトース6硫酸結合性タンパク質は、EW29Chに由来する変異蛋白質には限られないが、本願発明の典型的なタンパク質であるので、その取得方法、特性などについては、以下、EW29Ch由来変異タンパク質について述べる。
3.EW29Ch由来ガラクトース6硫酸結合性変異タンパク質
(1)EW29Ch由来変異タンパク質の取得方法
(1−1)エラー導入PCR/リボソームディスプレイ法によるスクリーニング
鋳型となる野生型のEW29Ch遺伝子を含むプラスミドを用い、矢部らの方法(非特許文献8)の方法に従い、エラー導入PCRを行う。具体的には、PCRによりランダム変異を導入したEW29Chの全コード領域、及びアンカーの繊維状ファージ由来の遺伝子geneIII部分を増幅し、両者をオーバーラップPCRで融合する。このPCR産物の精製物を、変異DNAライブラリーとしてリボソーム提示法を適用する。
その後、選択されてきたcDNAを用いて大腸菌を形質転換して得られる複数のクローンの配列を解析する。
これらのランダム変異導入EW29Ch遺伝子の塩基配列に対応するアミノ酸配列において、αサブドメインにおける18位のアスパラギン酸が変異されておらず、かつ20位のグルタミン酸が塩基性アミノ酸に、好ましくはリジンに変更されていたものであって、αサブドメイン全体のアミノ酸変異数が数個以内であるものを選択することで、新たにガラクトース6硫酸結合活性を有する変異EW29Chを取得することができる。
必要に応じて、下記4.の方法に従って、ガラクトース6硫酸との結合活性を確認する。
(1−2)遺伝子工学的な変異の導入法
本発明の変異EW29Ch-α遺伝子は、野生型の塩基配列(配列番号59)、又はすでに変異が導入されているEW29Ch-mutant#1〜14及び(E20K)-α遺伝子(以下、EW29Ch(m)-α遺伝子という。配列番号60〜74)に対して、例えば部位突然変異法などにより遺伝子工学的な改変を行うことができる。
また、EW29Ch-α遺伝子を含む糖認識ドメイン全体の野生型EW29Ch遺伝子(配列番号29)、又は既に変異が導入されているEW29Ch(m)遺伝子(配列番号44〜58)に対して、同様に遺伝子工学的な改変を行ってもよい。
その際には、αサブドメインにおける18位のアスパラギン酸には変異を導入することなく、好ましくは、33位のトリプトファン(W)、36位のリジン(K)及び43位のアスパラギン(N)の1つ以上も変異させず、かつ20位のグルタミン酸を塩基性アミノ酸に、好ましくはリジンに変更する変異を導入すると共に、その他の任意の位置に、αサブドメイン全体のアミノ酸変異数が数個以内となるように変異を導入する。
適宜、下記4.の方法に従って、ガラクトース6硫酸との結合活性を確認しながら、最適な変異導入位置を探ることができる。
(1−3)その他
EW29Ch遺伝子はミミズのうちでも環形動物門(Annelida)の一つの綱である貧毛類に属するフツウミミズ(Lumbricus terrestris)であるので、環形動物門(Annelida)の一つの綱である貧毛類、又は多毛類、蛭類などのDNAライブラリーを用いることで、ミミズ由来の野生型EW29Ch-α遺伝子(配列番号59)もしくはその変異遺伝子であるEW29Ch(m)-α遺伝子の塩基配列(配列番号60〜74)、またはEW29Ch遺伝子(配列番号29)もしくは変異が導入されたEW29Ch(m)遺伝子の塩基配列(配列番号44〜58)をもとにプライマー、プローブを設計することができるから、これらプライマー、プローブを用いたPCR法、ハイブリダイゼーション法でも取得することができる。得られた遺伝子に対して、さらに上記(1−2)の方法を適用することで、よりガラクトース6硫酸との結合活性の高い変異αサブドメインを有するEW29Ch(m)-α遺伝子、又はEW29Ch(m)遺伝子を取得することが可能である。
このようにして得られるガラクトース6硫酸との結合活性の高い変異EW29Ch-αをコードするEW29Ch(m)-α遺伝子は、配列番号59における54〜56位に対応するコドンがアスパラギン酸であり、同60〜62位に対応するコドンが塩基性アミノ酸である塩基配列であって、かつ、配列番号59〜74に示される塩基配列、又は当該配列番号59〜74の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む塩基配列として表現される。
そして、ガラクトース6硫酸との結合活性の高い変異EW29ChをコードするEW29Ch(m)遺伝子は、上記EW29Ch(m)-α遺伝子を含む遺伝子であり、また、配列番号29における54〜56位に対応するコドンがアスパラギン酸であり、同60〜62位に対応するコドンが塩基性アミノ酸である塩基配列であって、かつ、配列番号29もしくは44〜58に示される塩基配列、又は当該配列番号29もしくは44〜58の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む塩基配列として表現される。
上記した方法で得られた変異EW29Chのαサブドメイン領域を、他のR型レクチン由来のサブドメイン、Ricinus communisレクチン(RCA120)、Sambucus nigraレクチン(SNA)、Polyporus squamosasレクチン(PSL)、Marasmius oreadesレクチン(MOA)、Laetiporus sulphureusレクチン(LSL)、Momordica charantiaレクチン(MCL)、Sambucus sieboldianaレクチン(SSA)、Clitocybe nebularisレクチン(CNL)などと化学的に結合する方法も採用できる。また、これらの遺伝子配列は公知であるから、遺伝子工学的な周知の手法により適宜の宿主細胞から融合蛋白として発現させることができる。
(2)EW29Ch由来変異タンパク質の特性
EW29Chのαドメインとラクトース複合体の立体構造図を図2に示す。糖結合に関連する4つのアミノ酸(D18、W33、K36、N43)はLine表示法で、変異が導入されたE20はStick表示法で示される位置である。進化的に保存されたアスパラギン酸の下流の1〜4アミノ酸のループ部分は糖結合特異性の決定に関係していることが知られている。ガラクトース6硫酸との結合活性を獲得した変異EW29Chは、このループ部分に塩基性アミノ酸であるリジンもしくはアルギニンが導入されることにより、ガラクトースの6位の負に荷電している硫酸基と電荷−電荷相互作用を形成することが可能となり、結果として結合親和性が格段に強くなったものと推測される。
本発明のガラクトース6硫酸結合性タンパク質は、図4及び図5に示されるように、特に糖鎖非還元末端のガラクトースの6位が硫酸基で修飾された糖鎖を認識するので、「糖鎖非還元末端のガラクトース6硫酸結合活性を有するタンパク質」と表現することもできる。
本発明のタンパク質において、「ガラクトース6硫酸結合活性」に寄与している領域は、EW29Chのβ-トレフォイル構造を形成する3つのサブドメイン中、αサブドメインに相当する領域であるため、配列番号2に示されるアミノ酸配列又はその20位グルタミン酸の塩基性アミノ酸(リジン)置換を必須とする改変アミノ酸配列を含んでさえいれば「ガラクトース6硫酸結合活性」を有するタンパク質としての性質を有する。
しかしながら、レクチンアレイなど実用的な用途を考慮すると、EW29Chのβ-トレフォイル構造を形成する他のサブドメインであるβもしくはγサブドメイン、又は他のR型レクチンの糖認識ドメインを少なくとも1つ以上さらに含むことがタンパク質の安定性のためには重要である。特に、3つのサブドメインによりβ-トレフォイル構造を形成させることが望ましい。その際のサブドメインとして、EW29Chのαサブドメイン、又は変異EW29Chのαサブドメインを選択することもできる。
4.ガラクトース6硫酸との結合親和性の解析
ガラクトース6硫酸はガラクトースの6位に硫酸が付加された単糖で、ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカンの構成糖になっている。
本発明では、舘野らの方法(Tateno et al.,Glycobiology. 2008;18(10):789-98)に従って糖鎖複合体アレイを用いて糖結合活性を査定した。
具体的には、レクチンを含む溶液に、レクチンもしくはレクチンのタグに対する1次抗体と、蛍光ラベル化された2次抗体を混合し、その混合液を98種類の糖鎖複合体がスライドガラス上に固定化されたアレイと反応させる。結合はエバネッセント波励起蛍光型スキャナーで検出する。
しかし、当該方法に限定されることはなく、ELISA、表面プラズモン共鳴センサ、平衡透析法、滴定カロリメトリー、水晶発振子センサ検出法などの方法によっても結合活性の測定をすることができる。
5.ガラクトース6硫酸結合性変異タンパク質のプローブとしての用途
本発明のガラクトース6硫酸結合性タンパク質は、常法により蛍光や酵素、ビオチン等でラベル化して、蛍光染色、フローサイトメトリー、ELISA、レクチンブロッティングなどに、ガラクトース6硫酸含有糖鎖検出用プローブとして用いることができる。また、ビーズなどに固定化してガラクトース6硫酸含有糖タンパク質、複合糖質又は糖脂質などの濃縮、精製に活用することができる。また、スライドガラスなど基板上に固定化して、レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリングに用いることもできる。
すなわち、本願発明のガラクトース6硫酸結合性変異タンパク質を標識し、緩衝液に安定剤などと共に溶解して、ガラクトース6硫酸含有糖鎖検出用試薬として、患者血液等の被検体に対して適用することができる。典型的には、被検体中のガラクトース6硫酸含有糖鎖の検出及び定量に用いる。
また、基板表面に通常の方法で固定化してマイクロアレイ用のプローブなどとして用いることができる。
ここで、基板材料としては、好ましくは通常のマイクロアレイで使用される物質であり、シリコンウエハー、ガラス、ポリカーボネート、膜、ポリスチレンまたはポリウレタンのような高分子フィルム及び多孔性物質が用いられる。プローブの固定には、通常のマイクロアレイ製造方法で使用する方法を用いることができ、例えば、フォトリソグラフィ法、圧電印刷法、マイクロピペッティングまたはスポッティングなどの方法を用いてスポットの作成を行うことができる。
また、アレイの測定に関しては、通常の抗体アレイ、レクチンアレイで用いる通常の方法、例えば上記4.に示した測定法がいずれも適用できる。
被検体中に、ガラクトース6硫酸含有糖鎖が存在するか否かの検出と共にその存在量を定量することができる。被検体として、癌又は他の重篤な疾患でガラクトース6硫酸含有糖鎖が関連している疾病に罹患した患者、またはそれら疾病を疑う被験者などから採取した細胞、組織、又は血液、尿、唾液などの体液などに適用することで、診断用キットとして用いることができる。
また、固定化する対象の基板はスライドガラスなど平面状には限られず、どのような形状でも良い。例えば、ビーズ状のシリカもしくはポリマー担体など公知の担体、又は磁気ビーズ表面に浸積、噴霧、塗布などの通常の固定化方法により固定化することができる。これらビーズをそのまま溶液中に懸濁するか、又はカラムに充填して、ガラクトース6硫酸含有糖鎖を有するタンパク質、脂質、又は複合糖質などの化合物を捕獲するために用いることができる。典型的には、ガラクトース6硫酸含有糖鎖を有する化合物の濃縮もしくは精製のために用いる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
(実施例1)リボソーム提示法によるガラクトース6硫酸結合変異体の選出
EW29Chはミミズ由来のレクチンでR型レクチン固有のβ-トレフォイル構造をとっている。このレクチンは大腸菌で大量に発現でき、また、アミノ酸配列や立体構造がすでにわかっているため、ガラクトース6硫酸結合レクチン創出に理想な鋳型として用いた。矢部らの方法(非特許文献5)に従ってEW29Ch変異ライブラリーの作製を行った。プラスミドpRARE_EW29Chをテンプレートにエラー導入を行いEW29Chの全コード領域にランダム変異を導入した。同時にpRARE_EW29ChをテンプレートとしてPCRでアンカーのgeneIII部分を増やした。この二つのPCR産物を精製しオーバーラップPCRで融合した。このPCR産物を精製し、変異DNAライブラリーとしてリボソーム提示法に用いた。
変異DNAライブラリーをin vitroで転写させ、RNAを精製した。精製したmRNAを翻訳させ、結合緩衝液中で冷却後遠心した上清をBlockingした後、6’-sulfo-LN(6’HSO3-Galb1-4GlcNAc)糖鎖ポリマーを固定化したマグネティックビーズと混合して反応させた。洗浄後に溶出緩衝液を添加しビーズから結合したmRNAを溶出した。溶出液からmRNAを精製した。その後、精製したmRNAをcDNAに変換した。
選択工程後、選択されてきたcDNAを制限酵素NdeIとXhoIで処理しタンパク質のN末端にFlagタグを付けるようにデザインされたベクターに挿入した。大腸菌DH5aを形質転換し20クローンをランダムに選択後それぞれの配列を解析した(図3)。
図3は20クローンの変異体と変異導入前の野生型EW29Chのアミノ酸配列をアライメントした結果を示したものである。この20クローンの全てのαドメインで、糖結合に関与する4つのアミノ酸(D18、W33、K36、N43)のいずれのアミノ酸には変異の導入はなかった。特に顕著な変異がαサブドメインのD18に続くループ内の20位のグルタミン酸(E)のリジン(K)への変異(E20の14/20がKに変異している)であったので、E20Kの変異を有している配列を#1〜#14(配列番号30〜43、それぞれのα-サブドメインのアミノ酸配列が配列番号3〜16に対応する。)として並べ、変異を有さずE20のままのものを#15〜#20として並べた。図3では、野生型(EW29Ch)のアミノ酸配列(配列番号1)を併記した。実施例では、E20がKに変異しているクローンのうちの#1〜#8、E20の変異のないクローンのうちの#15〜#18について,大腸菌で発現させて糖結合特性を測定したところ、ガラクトース6硫酸への結合親和性を獲得したものは全てグルタミン酸(E)がリジン(K)に変換されていた。
二か所(矢印で示したE20とE68)に集中して同じ傾向の変異(E→K)が入っており、20位のEのK変異(E20K)を有している8クローン(#1〜8)は全て6'-sulfo-LNに対して親和性を有していた。逆に、20位のEが野生型のEのままに保存されていた4クローンは、いずれも6'-sulfo-LNへの親和性はほとんどなかった。
なお、ここでの親和性の値は、6'-sulfo-LN親和性を有する12クローンを大腸菌で発現させて、大腸菌抽出液に抗Flag抗体と蛍光ラベリングした二次抗体と逐次反応させ、舘野らの方法(Tateno et al., Glycobiology. 2008;18(10):789-98)に従って糖鎖複合体アレイで糖結合活性を査定した結果を示している。12クローン中の8クローン(#1〜8)での6'-sulfo-LNに対する結合活性の正確な定量的比較は難しいが、いずれのクローンでも野生型の6'-sulfo-LNへの結合活性と比較して少なくとも10倍以上の活性は確認されている。
以上のことから、αサブドメインの20位のEがKに変わることが6'-sulfo-LNとの結合に重要であると示唆された。
(実施例2)ガラクトース6硫酸含有糖鎖への各種変異体の結合親和性の解析
上記配列番号3〜10に示される変異体のガラクトース6硫酸含有糖鎖への結合親和性をフロンタル・アフィニティークロマトグラフィー(FAC)で解析し結合定数を算定した。上記8クローンのうち代表的な二つのクローン(#1,#4)を大腸菌で発現させ、Lactose-Sepharoseで糖結合活性が均一な分子群として精製した。精製したタンパク質をNHS-Sepharoseビーズに固定化後、FAC解析に供するため専用のミニチュアカラム(内径2mm、長さ10mm)に充填した。作製したレクチンカラムをFAC自動分析装置に接続してカラム体積(31.4μL)に対し過剰容積のPA化糖鎖を連続注入した。PA糖鎖の溶出液の蛍光強度をモニターして相互作用強度(非結合標準糖鎖に対する溶出液の差V-V0)を測定した。舘野らの方法(Tateno et al., Nat Protoc. 2007;2(10):2529-37)に基づき、相互作用強度および有効リガンド量から結合定数Ka(Kdの逆数で単位はM-1)を求めた(図4)。野生型(EW29Ch)と二つの変異体(#1,#4)は末端Galを有する糖鎖(901、902)に対する結合力はほとんど変わっていないが、非還元末端ガラクトースの6位に硫酸基を有する糖鎖(922)に対して結合親和性が顕著に強くなっていることが明らかである。一方、非還元末端のガラクトースの3位に硫酸を有する糖鎖(918)や6位にシアル酸を持つ糖鎖(704)には結合しなかったことから、得られた変異体は野生型と比べガラクトース6硫酸を有する糖鎖に強く結合することがわかった。
(実施例3)ガラクトース6硫酸との結合に重要なアミノ酸の同定
ガラクトース6硫酸に結合する活性を獲得した変異体は全て20番目のEがKに置換されていたことから、この変異がガラクトース6硫酸への結合に重要であると考えられた。そこで、野生型のEW29Chに部位特異的変異導入法で20番目のEをKに置換した変異体E20K(配列番号17)を作製した。実施例2と同様の手順で該変異体を大腸菌で発現して、Lactose-Sepharoseで精製した。精製したタンパク質がガラクトース6硫酸を持つ糖鎖への結合定数をフロンタル・アフィニティークロマトグラフィーで測定した(図5)。
野生型にE20Kを導入した場合でも、非還元末端Galを有する糖鎖(901,902)に対して結合の変化はほとんどないが、非還元末端ガラクトース6硫酸を有する糖鎖(922)に対しては結合が顕著に増強した。一方、E20Kは非還元末端のガラクトースの3位に硫酸を有する糖鎖(918)には結合しなかったことから、得られた変異体E20Kは野生型と比べガラクトース6硫酸を有する糖鎖を強く結合することがわかり、この結合にK20の存在が非常に重要であることが示された。
[配列表フリーテキスト]
配列番号1:EW29Ch(ミミズ由来レクチンEW29のC末端ドメイン)
配列番号2:EW29Ch-α
配列番号3:EW29Ch-mutant#1-α
配列番号4:EW29Ch-mutant#2-α
配列番号5:EW29Ch-mutant#3-α
配列番号6:EW29Ch-mutant#4-α
配列番号7:EW29Ch-mutant#5-α
配列番号8:EW29Ch-mutant#6-α
配列番号9:EW29Ch-mutant#7-α
配列番号10:EW29Ch-mutant#8-α
配列番号11:EW29Ch-mutant#9-α
配列番号12:EW29Ch-mutant#10-α
配列番号13:EW29Ch-mutant#11-α
配列番号14:EW29Ch-mutant#12-α
配列番号15:EW29Ch-mutant#13-α
配列番号16:EW29Ch-mutant#14-α
配列番号17:EW29Ch-mutant(E20K)
配列番号18:E20K-α
配列番号19:EW29ch-α’
配列番号20:EW29ch-γ
配列番号21:Ricin-B1-α
配列番号22:Ricin-B2-γ
配列番号23:SoCBM13-α
配列番号24:SoCBM13-β
配列番号25:SoCBM13-γ
配列番号26:ML1-B1-α
配列番号27:ML1-B2-γ
配列番号28:pp-GalNAcTase1-α
配列番号29:EW29Ch(gene)
配列番号30:EW29Ch-mutant#1
配列番号31:EW29Ch-mutant#2
配列番号32:EW29Ch-mutant#3
配列番号33:EW29Ch-mutant#4
配列番号34:EW29Ch-mutant#5
配列番号35:EW29Ch-mutant#6
配列番号36:EW29Ch-mutant#7
配列番号37:EW29Ch-mutant#8
配列番号38:EW29Ch-mutant#9
配列番号39:EW29Ch-mutant#10
配列番号40:EW29Ch-mutant#11
配列番号41:EW29Ch-mutant#12
配列番号42:EW29Ch-mutant#13
配列番号43:EW29Ch-mutant#14
配列番号44:EW29Ch-mutant#1(gene)
配列番号45:EW29Ch-mutant#2(gene)
配列番号46:EW29Ch-mutant#3(gene)
配列番号47:EW29Ch-mutant#4(gene)
配列番号48:EW29Ch-mutant#5(gene)
配列番号49:EW29Ch-mutant#6(gene)
配列番号50:EW29Ch-mutant#7(gene)
配列番号51:EW29Ch-mutant#8(gene)
配列番号52:EW29Ch-mutant#9(gene)
配列番号53:EW29Ch-mutant#10(gene)
配列番号54:EW29Ch-mutant#11(gene)
配列番号55:EW29Ch-mutant#12(gene)
配列番号56:EW29Ch-mutant#13(gene)
配列番号57:EW29Ch-mutant#14(gene)
配列番号58:EW29Ch-mutant E20K(gene)
配列番号59:EW29Ch-α(gene)
配列番号60:EW29Ch-(m)-α#1(gene)
配列番号61:EW29Ch-(m)-α#2(gene)
配列番号62:EW29Ch-(m)-α#3(gene)
配列番号63:EW29Ch-(m)-α#4(gene)
配列番号64:EW29Ch-(m)-α#5(gene)
配列番号65:EW29Ch-(m)-α#6(gene)
配列番号66:EW29Ch-(m)-α#7(gene)
配列番号67:EW29Ch-(m)-α#8(gene)
配列番号68:EW29Ch-(m)-α#9(gene)
配列番号69:EW29Ch-(m)-α#10(gene)
配列番号70:EW29Ch-(m)-α#11(gene)
配列番号71:EW29Ch-(m)-α#12(gene)
配列番号72:EW29Ch-(m)-α#13(gene)
配列番号73:EW29Ch-(m)-α#14(gene)
配列番号74:EW29Ch-(m)-α E20K(gene)

Claims (13)

  1. 下記(a)(b)又は(c)のアミノ酸配列において、20位が塩基性アミノ酸に置換されているアミノ酸配列を含む糖認識ドメインを有することを特徴とする、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質;
    (a)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列、
    (b)配列番号2〜16又は18に示されるアミノ酸配列において、18位のアスパラギン酸以外のアミノ酸のうち1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列、
    (c)配列番号59〜74に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつその54〜56位の塩基配列がコードするコドンがアスパラギン酸である塩基配列によりコードされたアミノ酸配列。
  2. 前記(b)又は(c)のアミノ酸配列が、33位のトリプトファン、36位のリジン及び43位のアスパラギンの少なくとも1つのアミノ酸が保存されていることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質。
  3. 前記(b)又は(c)のアミノ酸配列が、配列番号3〜16及び18から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列において、18位のアスパラギン酸以外のアミノ酸のうち1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列、又は、配列番号60〜74に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつその54〜56位の塩基配列がコードするコドンがアスパラギン酸である塩基配列によりコードされたアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項2に記載のタンパク質。
  4. さらに、ミミズ由来レクチンEW29のC末端ドメイン(EW29Ch)のβもしくはγサブドメイン、又は他のR型レクチンの糖認識ドメインを少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタンパク質。
  5. β-トレフォイル構造を有していることを特徴とする、請求項4に記載のタンパク質。
  6. 配列番号17及び配列番号30〜43から選択されたいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のタンパク質。
  7. R型レクチンのβ-トレフォイル構造を形成する糖認識ドメイン中の少なくとも1つのサブドメインのアミノ酸配列において、EW29Chのαドメイン(EW29Ch-α)のアミノ酸配列(配列番号2)の18位に対応するガラクトース結合部位であるアスパラギン酸を変更することなく、当該アスパラギン酸に続くループ内に存在する、EW29Ch-αのアミノ酸配列の20位のグルタミン酸に対応する酸性又は中性アミノ酸が、塩基性アミノ酸に変異していることを特徴とする、ガラクトース6硫酸に結合活性を有するタンパク質。
  8. 前記サブドメインのアミノ酸配列が、配列番号2及び配列番号19、20、23〜25、27および28から選択されたいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のタンパク質。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  10. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質を有効成分として含む、ガラクトース6硫酸含有糖鎖検出用試薬。
  11. ビーズ又は基板表面に固定化された、請求項10に記載の試薬。
  12. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、生物学的試料中に含まれるガラクトース6硫酸含有糖鎖を検出する方法。
  13. ビーズ又は基板表面に固定化された、請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、ガラクトース6硫酸含有糖鎖を有する化合物を捕獲する方法。
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