本発明はオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートに関し、ここでその固相はチオフィリック(thiophilic)であり、ここでそのオリゴヌクレオチドは少なくとも1個の式Iに従うチオオキソ核酸塩基を含み:
式中、XはCHまたはNであり、式中、R1はHまたはNH2であり、式中、---は共有結合を示し、ここで前記のオリゴヌクレオチドは前記の固相に前記のチオオキソヌクレオチドの硫黄原子を介して結合している。それはそのようなコンジュゲートを製造するための方法ならびにそのようなオリゴヌクレオチド金属コンジュゲートに関する様々な使用も開示する。
生体分子の固体表面へのコンジュゲーションは、例えば免疫アッセイまたは核酸アレイのような多くの診断的適用において重要な工程であり、それらは両方とも生体分子の固相への結合を必要とする。ポリスチレンまたはラテックスの表面または粒子、さらには金属でコートされた表面、金属粒子および量子ドットのような全く異なる固相物質が様々な異なる適用のために利用可能であり、これはそれらの一部にしか言及していない。
利用可能な金属ナノ粒子の中で、量子ドットおよび金ナノ粒子(AuNP)はそれらの化学的不活性および表面修飾の容易さのため、特別の注目を得た(Mitchell, G.P. et al., J. Am. Chem. Soc. 121 (1999) 8122-8123; Mahtab, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 117 (1995) 9099-9100; Mahtab, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 122 (2000) 14-17; Reynolds III, R.A. et al., Pure Appl. Chem. 72 (2000) 229-235; Thanh, N.T. et al., Anal. Chem. 74 (2002) 1624-1628; Csaki, A. et al., Exp. Rev. Mol. Diagn. 2 (2002) 187-193; Thaxton, C.S., and Mirkin, C.A. in: Nanobiotechnology, Niemeyer, C.M., and Mirkin, C.A. (編者), Wiley-VCH, Weinheim (2004) pp. 288-307)。
例えば、DNAを金ナノ粒子に結合させることが可能である。そのDNA金ナノ粒子コンジュゲート系(DNA−AuNP)は、金コロイドの好都合な特性をDNAの好都合な特性と組み合わせる。DNA分子は、(i)独特の分子認識特性を有し、(ii)それは自動化されたDNA合成または酵素的重合により容易に入手され、(iii)一本鎖オリゴヌクレオチドはナノスケールの装置の構築を可能にする多鎖の集合体を形成する能力を有する(Seeman, N.C., Nature 421 (2003) 427-431; Niemeyer, C.M., Curr. Opin. Chem. Biol. 4 (2000) 609-618; Gothelf, K.V. et al., Org. Biom. Chem. 3 (2005) 4023-4037; Seela, F. and Budow, S., Helv. Chim. Acta 89 (2006) 1978-1985; Seela, F. et al., Org. Biomol. Chem. 5 (2007) 1858-1872; Seela, F. et al., Chem. Biodiv. 2 (2005) 84-91)。
オリゴヌクレオチドで機能性付与した(functionalized)金ナノ粒子または金表面は、様々な適用のための、例えばインビトロ診断のために用いられるバイオセンサーのための、インビボ画像化のための、薬物キャリヤーとしての、そして定められたナノ構造物を構築するための核となる要素である。オリゴヌクレオチド金コンジュゲートの使用についての広範囲にわたる文献が存在し、それは以下:Letsinger, R.L. et al., Chemistry of Oligonucleotide - Gold Nanoparticle Conjugates, In: Phosphorus, Sulfur and Silicon and the Related Elements, Vol. 144-146 (1999) pp. 359-362; Ingenious nanoprobes in bioassays, Chan, Cangel Pui-yee, Bioanalysis 1 (2009) 115-133;およびBiosensors based on gold nanoparticle labeling, Moeller, R., Annual Review of Nano Research 1 (2006) 429-466において部分的に総説されている。
目的のオリゴヌクレオチドに関する製造の容易さおよびそのようなオリゴヌクレオチドの例えば金粒子への頑強なコンジュゲーション化学は、オリゴヌクレオチドでコートされた金粒子に関する広い範囲の適用を支持する基礎である。
オリゴヌクレオチドの金ナノ粒子(AuNP)表面上への付着のための一般に用いられるプロトコルは、それらの5’−または3’−末端においてチオール基により修飾されたオリゴヌクレオチドを利用する(Mirkin, C.A. et al., Nature 382 (1996) 607)。一本鎖オリゴヌクレオチドに、それらの5’−または3’−末端においてそれぞれチオール基を有する非環式リンカーを用いて官能基付与する(functionalized)。次いでそのチオールの機能をAuNPへの共有結合による固定のために用いる。しかし、この修飾は、オリゴヌクレオチド合成の後に追加のカップリング/取り扱い工程を必要とする。
オリゴヌクレオチドの金ナノ粒子(AuNP)表面上へのコンジュゲーションのための特定の他の方法は、チオールで修飾されたオリゴヌクレオチドの使用に基づく。これらの方法では、チオール基はオリゴヌクレオチド合成の間に商業的に入手可能な“チオール修飾剤”であるホスホラミダイト類を用いることにより導入される。そのチオール基は、硝酸銀を用いる特別な脱保護条件を必要とするトリチル基で保護されるか、またはDTTによる還元により切断されるジスルフィドとして保護されるかのどちらかである。両方の場合で、標準的な脱保護条件は適切でなく、そのオリゴヌクレオチドを金表面に付着させる前に過剰量のこれらの特別な脱保護試薬を完全に除去しなければならない。
オリゴヌクレオチドの化学合成の代わりに、酵素的合成も可能である。チオール修飾剤であるホスホロアミダイト類(phosphoroamidites)はいずれもオリゴヌクレオチド中への酵素的組み込みとは適合不能である。
金反応基の酵素的組み込みに関して、化合物4−チオ−チミジン三リン酸(4−チオTTP)が用いられた(Incorporation of DNA networks into microelectrode structures; Erler, C. and Mertig, M., Journal of Vacuum Science & Technology, B: Microelectronics and Nanometer Structures--Processing, Measurement, and Phenomena 27 (2009) 939-943)。
対応する4チオTホスホラミダイトは商業的に入手可能であり、望まれるチオ−dT含有オリゴヌクレオチドの化学合成において用いることができる。しかし、S−アルキル4チオTは求核種に対して非常に反応性である。従って、4チオTを用いて合成したオリゴヌクレオチドは、アンモニアの存在下でNaSHを用いて切断しなければならない。前に言及したように、あらゆる残存する脱保護試薬は完全に除去されなければならない。
しかし、実施例の節において示されるであろうように、その中に4−チオチミジン(4−チオT)が組み込まれたオリゴヌクレオチドは標準的な脱保護条件下での加水分解に対してあまり安定ではなく、一般に求核攻撃を受けやすい可能性がある。これは今度は結果として前記のチオヌクレオチドの組み込みに基づくコンジュゲートの不安定性をもたらすであろう。
上記の先行技術の論考から明らかになるように、オリゴヌクレオチドを含むチオヌクレオチドの合成のための、および/またはそのようなオリゴヌクレオチドを金または量子ドットのようなチオフィリック金属に付着させるための、対費用効果の高い単純な手順に関する必要性が存在する。単純性のための1つの前提条件は、例えばオリゴヌクレオチドの表面への付着を可能にする基をそのオリゴヌクレオチド中に、確立された標準的なオリゴヌクレオチド合成プロトコルから一切逸脱する必要なく、オリゴヌクレオチドの化学合成の間に直接導入することができることである。
驚くべきことに、式Iに従うチオオキソ核酸塩基のそのようなオリゴヌクレオチド中への組み込みを用いることにより、1個以上のチオール基を含むオリゴヌクレオチドを容易に合成することができることが分かった。
Mitchell, G.P. et al., J. Am. Chem. Soc. 121 (1999) 8122-8123
Mahtab, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 117 (1995) 9099-9100
Mahtab, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 122 (2000) 14-17
Reynolds III, R.A. et al., Pure Appl. Chem. 72 (2000) 229-235
Thanh, N.T. et al., Anal. Chem. 74 (2002) 1624-1628
Csaki, A. et al., Exp. Rev. Mol. Diagn. 2 (2002) 187-193
Thaxton, C.S., and Mirkin, C.A. in: Nanobiotechnology, Niemeyer, C.M., and Mirkin, C.A. (編者), Wiley-VCH, Weinheim (2004) pp. 288-307
Seeman, N.C., Nature 421 (2003) 427-431
Niemeyer, C.M., Curr. Opin. Chem. Biol. 4 (2000) 609-618
Gothelf, K.V. et al., Org. Biom. Chem. 3 (2005) 4023-4037
Seela, F. and Budow, S., Helv. Chim. Acta 89 (2006) 1978-1985
Seela, F. et al., Org. Biomol. Chem. 5 (2007) 1858-1872
Seela, F. et al., Chem. Biodiv. 2 (2005) 84-91
Letsinger, R.L. et al., Chemistry of Oligonucleotide - Gold Nanoparticle Conjugates, In: Phosphorus, Sulfur and Silicon and the Related Elements, Vol. 144-146 (1999) pp. 359-362
Ingenious nanoprobes in bioassays, Chan, Cangel Pui-yee, Bioanalysis 1 (2009) 115-133
Biosensors based on gold nanoparticle labeling, Moeller, R., Annual Review of Nano Research 1 (2006) 429-466
Mirkin, C.A. et al., Nature 382 (1996) 607
Incorporation of DNA networks into microelectrode structures; Erler, C. and Mertig, M., Journal of Vacuum Science & Technology, B: Microelectronics and Nanometer Structures--Processing, Measurement, and Phenomena 27 (2009) 939-943
本発明はオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートに関し、ここでその固相はチオフィリックであり、ここでそのオリゴヌクレオチドは少なくとも1個の式Iに従うチオオキソ核酸塩基を含み:
式中、XはCHまたはNであり、式中、R1はHまたはNH2であり、式中、---は共有結合を示し、ここで前記のオリゴヌクレオチドは前記の固相に前記のチオオキソヌクレオチドの硫黄原子を介して結合している。
オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートを製造する方法も開示し、その方法は以下の工程を含む:(a)チオフィリック金属、例えばCdに基づく量子ドットにおけるようなチオフィリック金属を含む無機酸化物、硫化物、セレン化物またはテルル化物からなる群から選択されるチオフィリック固相を提供し、そして(b)上記で示し、定義したような少なくとも1個の式Iに従うチオオキソ核酸塩基を含有するオリゴヌクレオチドを、前記のチオフィリック固相に結合させる。
核酸ハイブリダイゼーションに基づく検出法における本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの使用またはオリゴヌクレオチドナノ粒子コンジュゲートの標識としての使用のような様々な使用も開示し、記述する。
本発明の実施は、別途示さない限り、分子生物学(組み換え技法が含まれる)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来の技法を用いると考えられ、それは当技術分野の技術の範囲内である。そのような技法は、以下のような文献において完全に説明されている:“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”、第2版(Sambrook et al., 1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M. J. Gait, ed., 1984);“Animal Cell Culture”(R. 1. Freshney, 編者, 1987);“Methods in Enzymology” (Academic Press, Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F. M. Ausubel et al., 編者, 1987, および定期的な更新);“PCR: The Polymerase Chain Reaction”(Mullis et al., 編者, 1994)。
別途定義しない限り、本明細書で用いられる技術的および科学的用語は、この発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版, J. Wiley & Sons (ニューヨーク州ニューヨーク, 1994); March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure, 第4版, John Wiley & Sons (ニューヨーク州ニューヨーク, 1992); Lewin, B., Genes V, Oxford University Pressによる出版(1994), ISBN 0-19-854287 9); Kendrew, J. et al. (編者), The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Science Ltd.による出版(1994), ISBN 0-632-02182-9);およびMeyers, R.A. (編者), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, VCH Publishers, Inc.による出版(1995), ISBN 1-56081-569 8), Mueller, S. (編者) Nucleic Acids from A to Z, A Concise Encyclopedia, Wiley VCH 2008, ISBN-10: 3-527-31211-0)は、当業者に本出願において用いられている用語の多くについての一般的な手引きを提供する。
本明細書で引用される全ての参考文献を、特許出願および刊行物を含め、そのまま援用する。
定義
本明細書で用いられる際、以下の用語のそれぞれはこの節においてそれと関連づけられている意味を有する。
冠詞“a”および“an”は、本明細書において、その冠詞の文法上の目的語の1個を、または1個より多くを(すなわち少なくとも1個を)指して用いられる。例として、“抗体(an antibody)”は1個の抗体または1個より多くの抗体を意味する。用語“少なくとも”は、場合により1個以上のさらなる対象が存在していてよいことを示すために用いられる。例として、少なくとも2個の別個の領域を含むアレイは、場合により2個以上の別個の試験領域を含んでいてよい。
表現“1以上”は、1〜50、好ましくは1〜20を意味し、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、または15も好ましい。
当業者は、そのチオフィリック金属はチオフィリック金属を含む合金、半導体もしくは混合金属半導体であってよく、またはそれは本質的にチオフィリック金属で構成されていてよく、すなわちそれは純金属であってよいことを理解している。
そのチオフィリック金属が銅、金および銀からなる群から選択される貴金属である場合、そのチオフィリック金属固相は好ましくはそのような金属で構成される。チオフィリック半導体物質が固相として用いられる場合、そのチオフィリック金属はそのような物質中に含まれるが、その純金属の形態で存在する必要はない。そのような半導体物質中に、そのチオフィリック金属は好ましくは少なくとも35%w/wまで存在する。やはり好ましくは、そのような半導体物質は少なくとも40%、45%または50%のチオフィリック半導体金属を含む。
当業者は理解しているであろうように、特定の態様において、粒子、例えば金粒子または量子ドットが好ましい選択肢である可能性があるが、他の態様に関して、固体支持体物質上にコートされたチオフィリック金属またはチオフィリック半導体物質の層が好ましい代替物である可能性がある。用語“固相”は、本発明で用いられる際、これらの代替物:a)チオフィリック金属で作られた固相およびb)チオフィリック金属が固体支持体物質の表面上に存在する固相の両方を含むことを意図している。
固相を形成するためにチオフィリック金属でコートされるべき固体支持体物質は特別な制限を一切受けず、例えば金属(例えばアルミニウム)表面、SiO2を蒸気蒸着させた金属表面、金属/半金属酸化物(例えばAl2O3またはSiO2)表面、ガラス表面、ポリマー表面、例えば薄膜の形態のポリマー表面、ナイロン膜またはニトロセルロース膜の中から選択することができる。しかし、基本的に“半固体”またはゲル様の固相支持体も適切であることは、当業者には明らかである。
ガラスの固相支持体としての使用は、1つの好ましい態様である。ガラスは多孔性の表面を有しておらず、チオフィリック金属またはチオフィリック無機酸化物もしくは硫化物の半導体層による均一なコーティングを可能にする。ガラスは機械的に頑強、温度耐性および厳しい洗浄条件に非感受性でもあり、低い内部蛍光を有する。ガラスの全てのタイプおよび種類、例えば石英ガラスが適切である。
そのポリマー固相支持体は、例えばポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(アクリルガラスまたはPlexiglass)またはシクロオレフィンコポリマー類(COC類)で構成されていることができる。例えば、適切なCOCはTiconaから商品名“Topaz”の下で入手可能である。
用語“コンジュゲート”は、本明細書で用いられる際、チオオキソヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドは固相中に含まれるチオフィリック金属に前記のオリゴヌクレオチド中に含まれる硫黄基を介して結合するという事実に関する。チオフィリック金属およびチオールの間の結合の正確な化学的性質は、まだ研究中である。現行の理論に束縛されることを望むわけではないが、チオール−金結合に関する現在の知識を要約し、下記に示す。
金−硫黄結合は金と硫黄化合物、通常は有機硫黄化合物中の硫黄原子の間の独特の結合である。金と硫黄の間の水安定性金塩類はしばしばその+1酸化状態(第1金)の金を特徴とし、それはチオエーテル類およびチオレート類のような軟らかいリガンド(soft ligands)を用いて形成される。しかし、有機硫黄化合物は、中性のチオエーテル類およびチオール類でさえも、元素の金の表面、例えばコロイド性金ナノ粒子上にある元素の金の表面ならびにバルク金上の表面にもかなり強く結合することができる。
チオール−Au(0)表面結合のエレクトロニクスは厳密には明らかではないが、それは金の高い電気陰性度(ポーリングの尺度で2.4)のために共有結合に近い傾向があり、かなり強く(126〜146kJ/mol)、それは中性の配位子および中性のゼロ価貴金属の間のほとんどの表面結合に関して稀である。
何世紀もの間化学者を悩ませてきたこの結合の性質に関して数多くの仮説が提案されてきたが、ある仮説を別の仮説のために除外するであろう実験研究を実施するのは困難であった。その結合はおそらく供与相互作用を特徴とし、逆結合を特徴とする可能性がある。金−硫黄相互作用に関する結合エネルギーは、自己組織化した単層におけるように、表面が硫黄含有化合物で飽和した状態になるにつれて減少する。
チオール上のスルフヒドリル水素に、それが金表面に結合する際に何が起こっているのかは完全には理解されていない。競合する仮説は、それは陽子、水素化物またはヒドリル(H−ドット)ラジカルとして離れる可能性があり、それはおそらく金により、または最終的には水素の形で安定化されることを示唆している。陽子NMR研究を用いるあるグループは、その水素はしばしば全く離れない可能性があることを提唱している。しかし、過剰な(すなわち、金表面の50%より多くを覆う)チオールが用いられる場合、水素の喪失は“急速かつ不可逆的”である。
用語“チオフィリック金属”はHSAB概念に基づいており、軟らかいスルフィドが対応する軟らかい金属に結合する事実を記述している。HSAB概念は硬い(hard)および軟らかい(soft)(ルイス)酸(acids)および塩基(bases)に関する頭字語である。HSAB概念によれば、軟らかい金属イオンは対イオンとして軟らかいスルフィドを好み、従って硬いオキソフィリック(oxophilic)金属イオンに対してチオフィリックとも呼ばれている。
上記でチオフィリック貴金属である金に関して既に説明したように、例えばオリゴヌクレオチド中に含まれるようなチオオキソ基の硫黄原子の間の結合の正確な性質は未知である。しかし、これは適切なチオフィリック金属を選択することができ、望まれる結合が達成される限り、重要ではない。
本発明に従うチオフィリック金属または金属イオンは、好ましくは第11族:(Cu、Ag、Au);第12族(Cd、Hg);第13族(Ga、In、Tl)および第14族(Sn、Pb)金属からなる群から選択される。
本発明に従う1態様において、そのチオフィリック金属は、チオフィリック貴金属およびチオフィリック半導体物質からなる群から選択される。
1態様において、そのチオフィリック金属は、銅、銀および金からなる群から選択される貴金属である。1態様において、そのチオフィリック金属は銀または金から選択されるであろう。1態様において、金がチオフィリック固相物質として用いられる。1態様において、銀がチオフィリック固相物質として用いられる。
当業者が理解しているように、チオフィリック半導体物質は、カドミウム、ガリウムおよびインジウムからなる群から選択される1種類以上の金属(単数または複数)を含んでいてよく、この金属は酸化物、硫化物またはセレン化物として存在している。好ましい態様において、そのチオフィリック半導体物質はカドミウムまたはガリウムに基づく。好ましい態様において、その半導体物質はカドミウムに基づく。
1態様において、そのチオフィリック半導体物質はナノ結晶または量子ドットの形態で存在する。用語“量子ドット”は、そのような構造を全般的に含むように広く解釈されることを意図している。量子ドットは特許および技術文献において記述されており、例えば米国特許第6,322,901号、第5,990,749号、および第6,274,323号、ならびにMurphy, C.J., Analytical Chemistry 74 (2002) 520A-526Aを参照。これらの文書の開示を本明細書に援用する。量子ドットは3つの次元全てが1〜10nmの長さのスケールに制限されている半導体粒子である。無機半導体には、第14族(旧第IV族)元素であるケイ素およびゲルマニウム;GaN、GaP、GaAs、InP、およびInAsのような化合物(まとめて第III〜V族物質);ならびにZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、およびCdTe(第II〜VI族物質)が含まれる。
量子ドットは、例えばInvitrogen Corp.、Evident Technologies等から商業的に入手可能である。
本発明が属する重要な要素の1つは、少なくとも1個の式Iに従うチオオキソ核酸塩基を含むオリゴヌクレオチドであり:
式中、XはCHまたはNであり、式中、R1はHまたはNH2であり、式中、---は共有結合を示す。
N9共有結合を介して、式Iに従うチオオキソ核酸塩基は本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートのオリゴヌクレオチド部分中に結合している。N9原子が連結されているオリゴヌクレオチド骨格のC原子は、天然存在のプリン核酸塩基、すなわちアデノシンまたはグアノシンが通常オリゴヌクレオチド骨格に連結されているC原子と同じである。言い換えれば、式Iに従う核酸塩基は天然のプリン核酸塩基と置き換わっているが、その骨格への結合の性質および位置づけは天然存在のプリン核酸塩基によるものと同じままである。
式Iの核酸塩基に基づくチオオキソヌクレオチドはオリゴヌクレオチドの5’および/または3’末端に存在することができ、それは目的の配列の一部であることができる。後者の場合では、言い換えれば、式Iに従うチオオキソ核酸塩基は、そうでなければ目的のオリゴヌクレオチド配列中に存在している核酸塩基の1個以上と置き換わっている。
当業者は理解するであろうように、本発明に従うコンジュゲート中に含まれるオリゴヌクレオチドの重要な特徴は、その中に含まれる式Iに従う核酸塩基である。この核酸塩基は、例えばそのようなオリゴヌクレオチドのチオフィリック固相への結合を媒介している。
その核酸塩基がN9原子を介して共有結合により連結されている骨格の種類は、多くの異なる方式で様々であることができる。本発明に従う複合体の一部である、またはこの発明に従う方法でチオフィリック金属をコートするために用いられるオリゴヌクレオチドは、標準的なホスホリボース骨格を有していてよく、ここでそのリボシル糖部分は2’デオキシD−リボース、2’3’−ジデオキシD−リボースおよびD−リボースからなる群から選択され、またはそれはあらゆる適切な非標準的骨格を有していてよい。
非標準的骨格を有するオリゴヌクレオチドは、好ましくは以下:2’デオキシL−リボース、2’O−メチル、2’フルオロRNAからなる群から選択されるリボシル類似体を含み、またはロックド核酸(LNA)、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセニル核酸(CeNA)、アルトリトール核酸(ANA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)およびモルホリノオリゴヌクレオチドから選択される骨格を有する。
ヌクレオシド(またはチオオキソヌクレオシド)という用語は、本発明で用いられる際、標準的な2’デオキシD−リボース、2’3’−ジデオキシD−リボースおよびD−リボースを糖単位として有するヌクレオシドに限定されず、標準的な核酸塩基(または式Iに従う複素環式核酸塩基)の糖単位のリボシル類似体または構造類似体、例えばロックド核酸(LNA)、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセニル核酸(CeNA)、アルトリトール核酸(ANA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)およびモルホリノオリゴヌクレオチドにおいて用いられているような類似体とのあらゆる組み合わせも含まれる。
式Iに従う核酸塩基がオリゴヌクレオチド中に存在する場合、そのオリゴヌクレオチドはチオフィリック固体支持体に付着させることができる。これは標準的なリボシル糖骨格部分に基づくヌクレオチドに、ならびに上記で記述したような非標準的骨格構造に基づくオリゴヌクレオチドに、ならびに1つのオリゴヌクレオチド内に異なるタイプの骨格を有するオリゴヌクレオチドのキメラに当てはまる。
式Iの核酸塩基を有するヌクレオチドの、固相合成によるオリゴヌクレオチド中への組み込みに関して、その対応する単量体(例えばホスホロアミダイト類)は、標準的なDNAおよびRNAオリゴヌクレオチドの合成に関して、または骨格が改変されたオリゴヌクレオチドに関する単量体の合成に関して周知である手順を用いることにより合成することができる。
経済的理由および合成の容易さのために好ましいのは、保護された式Iに従う核酸塩基を有し、2’デオキシリボースを糖単位として有するヌクレオシドのベータシアノエチルホスホロアミダイト類である。3’から5’への合成に関して、3’ホスホロアミダイト類も好ましい。
ポリメラーゼまたはターミナルトランスフェラーゼを用いる酵素的方法による、式Iの核酸塩基を有するヌクレオチドのオリゴヌクレオチド中への組み込みのためには、対応するトリホスフェートを合成しなければならない。修飾されたヌクレオシド三リン酸の組み込みは既知であるが、選択された構造に限定される(例えば、HNAおよびANAは通常のリボシル糖三リン酸に加えてポリメラーゼにより組み立てられ得る)。酵素的合成に関して好ましいのは、D−リボース、2’デオキシD−リボースおよび2’3’ジデオキシDリボースをそのヌクレオシド三リン酸の糖単位として有するトリホスフェートである。
表現“ヌクレオシドに基づくヌクレオチド”は、式Iのヌクレオシドはオリゴヌクレオチド中への組み込みのために活性化、例えばリン酸化されなければならないことを明確にするために用いられ、それは一度オリゴヌクレオチド中に組み込まれたらヌクレオチドを表す。従ってそのようなヌクレオチドは、式Iの核酸塩基を有するヌクレオシドに由来する、または基づくと言われる。
用語“オリゴヌクレオチド”は、本明細書で用いられる際、一般に短い、一般に一本鎖の、少なくとも8ヌクレオチドを、最大で約1000ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを指す。好ましい態様において、オリゴヌクレオチドは少なくとも9、10、11、12、15、18、21、24、27または30ヌクレオチドの長さを有するであろう。好ましい態様において、オリゴヌクレオチドは1000、500、300、200、150、100、90、80、70、60、50、45、40、35または30ヌクレオチドより長くない長さを有するであろう。下記でポリヌクレオチドに関して示す記述は、オリゴヌクレオチドに等しく、かつ完全に適用可能である。
オリゴヌクレオチドという用語は非常に広く、あらゆる長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAならびにそれらの類似体および修飾を含む。
本発明に従うチオヌクレオチドが固相オリゴヌクレオチドの間に組み込まれる予定である場合、ある合成化学内で単量体性チオヌクレオシド基本単位(building blocks)と組み合わせることができる単量体性基本単位および修飾条件(例えばWO2007/059816において記述されているような異なる酸化剤を用いる)のみが用いられる。
オリゴヌクレオチドという用語には、核酸塩基において例えばメチル、プロパルギル、またはハロゲンで置換されている、またはペンダント部分もしくは官能基が核酸塩基に結合している天然塩基を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。必要であれば、ヌクレオチド構造への改変がそのポリマーの組み立ての前または後に加えられてよい。オリゴヌクレオチドは重合の後に、例えば標識構成要素とのコンジュゲーションによりさらに修飾されてよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素により遮られてよい。非ヌクレオシド構成要素はスペーサーおよびリンカーであり、それは官能基付与されておらず、または−NH2、−N3、−OH、−COOH、−C=C、ONH2のような反応性の基で官能基付与されており、またはペンダント部分に連結されている。ペンダント部分は、タンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、ペプチド、ポリ−L−リシン等)、インターカレーター(例えばアクリジン、ソラレン等)、小溝結合剤(例えばジスタマイシン)、キレート剤(例えば放射性金属が含まれる金属およびホウ素)、蛍光または非蛍光色素(例えばクマリン類、フルオレセイン類、ローダミン類、オキサジン類、4,4−ジフルオロ−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン色素(Bodipy)、アゾ色素、ポリアゾ色素、シアニン類、メロシアニン類、スチルベン類、ペリレン類、ピレン類、フタロシアニン類)および(ビオチン、ジゴキシゲニンのような)部分抗原である。
オリゴヌクレオチドという用語には、標準的な塩基を有する、および/またはCヌクレオシド類(フォルマイシン、プソイドウリジン)、7デアザプリン類、7デアザ8アザプリン類、および6アザピリミジン類のような塩基類似体(天然の塩基と同じ水素結合パターンを示す類似体)を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。そのような塩基類似体を例えば7Br7デアザdGのようにさらに置換することもできる。
非標準塩基、例えばニトロインドール、ニトロピロール(pyroll)のようなユニバーサル塩基(universal bases)および非水素結合性塩基代替物(surrogates)(例えばジフルオロフェニル(difluorphenyl))および(イソdGまたはイソdCのような)第3の塩基対を形成することができる非天然塩基も、本発明に従う固定法と適合可能な改変である。
オリゴヌクレオチドという用語には、骨格の改変を有するオリゴヌクレオチド、例えば置換されたデオキシリボース(例えば2’フルオロまたはメトキシ)を有する、二環式糖類(LNAとして知られている)または6員環糖類似体、例えばヘキシトール(HNAとして知られている)のような糖類似体、ならびにメチルホスホネート、ホスホロアミダイト類およびホスホロチオエートのような改変されたヌクレオシド間結合を有する骨格を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同じである必要はない。
オリゴヌクレオチドという用語には分枝状オリゴヌクレオチドも含まれ、ここで少なくとも3個のオリゴヌクレオチドが分枝単位を介して互いに連結されている。分枝状オリゴヌクレオチドの合成のための様々な単量体(例えば1−[5−(4,4’−ジメトキシトリチルオキシ)ペンチルアミド]−3−[5−フルオレノメトキシカルボニルオキシペンチルアミド]−プロピル−2−[(2−シアノエチル)−(N,N−ジイソプロピル)]−ホスホラミダイト)が商業的に入手可能である。
1態様において、例えばホスホロチオエート(phosphorthioate)または非ヌクレオチドスペーサー上のチオール基のようなオリゴヌクレオチド中のさらなる基が修飾として存在し、それもチオフィリック表面と反応することができ、そのような修飾は、チオフィリック表面と反応することができる異なる反応部位を有しないように、本発明に従うチオヌクレオシド類のすぐ近くに位置する。本発明に従うチオヌクレオチド類がポリメラーゼを用いる酵素的合成の間にトリホスフェートとして組み込まれる場合、増幅産物中のヌクレオチド修飾の数および種類は、そのポリメラーゼのそれらの修飾されたヌクレオチド三リン酸に関する許容性により制限される。十分に組み込まれるのは5位が置換された(d)CTPおよび(d)UTP、7位が置換された7デアザ−(d)GTPおよび7デアザ−(d)ATPであり、ここでその置換基は(例えば5Br dUTP、5エチニルdUTP、5−アミノアリルdUTPにおけるような)かさばらない置換基または小さいペンダント部分(例えば標識または部分抗原)または6〜30原子のスペーサーを介して5または7位に連結されている好ましくは−NH2、−N3、および−C=C部分を有する官能基である。
望まれるならば、これらの官能基は、大きいペンダント部分による修飾を得るために、さらに例えばタンパク質のそれらへの結合により修飾されることができる。
用語“アレイ”または“マイクロアレイ”は、本明細書で用いられる際、支持体上のハイブリダイズ可能なアレイ要素、好ましくはポリヌクレオチドプローブ(例えばオリゴヌクレオチド)の規則正しい配列を指す。その支持体は固体の支持体、例えばスライドガラス、または半固体の支持体、例えばニトロセルロース膜であることができる。そのヌクレオチド配列は、DNA、RNA、またはそれらのあらゆる並べ換え(permutations)であることができる。
“標的配列”、“標的核酸”または“標的タンパク質”は、本明細書で用いられる際、その検出が望まれる目的のポリヌクレオチドまたはタンパク質である。一般に、“鋳型”は、本明細書で用いられる際、標的核酸配列を含有するポリヌクレオチドである。一部の場合において、用語“標的配列”、“鋳型DNA”、“鋳型ポリヌクレオチド、“標的核酸”、“標的ポリヌクレオチド”、およびその変形は、互換的に用いられる。
“増幅”は、本明細書で用いられる際、一般に望まれる配列の多数のコピーを生成するプロセスを指す。“多数のコピー”は少なくとも2コピーを意味する。“コピー”は必ずしもその鋳型配列に対する完全な配列の相補性または同一性を意味しない。例えば、コピーにはヌクレオチド類似体、例えばデオキシイノシン、意図的な配列の変更(例えばその鋳型にハイブリダイズ可能であるが相補的ではない配列を含むプライマーにより導入された配列の変更)、および/または増幅の間に起こる配列のエラーが含まれ得る。
第1試料中の遺伝子、タンパク質またはバイオマーカーの発現/量は、第1試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量が第2試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量よりも大きい場合、第2試料中の発現/量と比較して高い、または増大している。1態様において、第1試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量における増大は、第2試料中のそれぞれの遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量の少なくとも約1.5×、1.75×、2×、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×、25×、50×、75×、または100×である。
第1試料中の遺伝子、タンパク質またはバイオマーカーの発現/量は、第1試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量が第2試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量よりも小さい場合、第2試料中の発現/量と比較して低い、または減少している。1態様において、第1試料中のその遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量における減少は、第2試料中のそれぞれの遺伝子、遺伝子産物、例えばタンパク質またはバイオマーカーの発現レベル/量よりも少なくとも約1.5×、1.75×、2×、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×、25×、50×、75×、または100×低い。
発現レベル/量は、mRNA、cDNA、タンパク質、タンパク質断片および/または遺伝子コピーが含まれるがそれらに限定されない当技術で既知のあらゆる適切な基準に基づいて決定することができる。発現レベル/量は、定性的に、および/または定量的に決定することができる。1態様において、その試料は、アッセイされるRNAまたはタンパク質の量の差および用いられるRNAまたはタンパク質試料の質における変動性の両方に関して標準化される。そのような標準化は、周知のハウスキーピング遺伝子、例えばGAPDHが含まれる特定の標準化遺伝子の発現を測定して組み込むことにより成し遂げることができる。あるいは、標準化はアッセイされた遺伝子の全てまたはその大きな亜集団の平均シグナルまたはシグナルの中央値に基づくことができる(全体的(global)標準化のアプローチ)。遺伝子ごとに(gene−by−gene)を基準にして、患者の腫瘍mRNAまたはタンパク質の測定された標準化された量を、基準セット中にあるその量に対して比較する。試験された腫瘍ごとの、患者ごとのそれぞれのmRNAまたはタンパク質に関する標準化された発現レベルは、その基準セットにおいて測定された発現レベルの百分率として表すことができる。分析されるべき特定の患者の試料において測定された発現レベルは、この範囲内のある百分位数に位置すると考えられ、それは当技術で周知の方法により決定され得る。
“検出”には、直接的および間接的な検出を含め、あらゆる検出の手段が含まれる。
用語“試料”または“試験試料”は、本明細書で用いられる際、例えば物理的、生化学的、化学的および/または生理学的特徴に基づいて特性付けられる、および/または同定されるべき細胞的および/または他の分子的な物を含有する興味の対象から得られる、またはそれに由来する組成物を指す。1態様において、その定義は血液および生物由来の他の液体試料ならびに組織試料、例えば生検標本または組織培養物またはそれに由来する細胞を含む。その組織試料の源は、新しい、凍結された、および/または保存された器官もしくは組織試料または生検または吸引物からの固体組織のような固体組織;血液またはあらゆる血液成分;体液;およびその対象の妊娠または発生におけるあらゆる時点からの細胞または血漿であってよい。試料は対象から処置(例えば癌の処置)の開始の前に、または処置(例えば癌の処置)の開始の後に得られてよい。試料は処置(例えば癌の処置)の開始後24時間、7、10、14、28、42、または56日以内に得られてよい。用語“試料”または“試験試料”には、それらの調達後にあらゆる方法で、例えば試薬を用いた処理、可溶化、または特定の構成要素、例えばタンパク質もしくはポリヌクレオチドに関する濃縮(enrichment)、または切片に切り分ける目的での半固体もしくは固体母材中への包埋により処理された生物学的試料が含まれる。本明細書における目的に関して、組織試料の“切片”は、組織試料の単一の部分または断片、例えば組織試料から切り取られた組織または細胞の薄切片を意味する。
試料には、初代または培養された細胞または細胞株、細胞上清、細胞溶解物、血小板、血清、血漿、硝子体液、リンパ液、関節液、卵胞液、精液、羊水、乳汁、全血、血液由来の細胞、尿、脳脊髄液、唾液、痰、涙、汗、粘液、腫瘍溶解物、および組織培養培地、組織抽出物、例えばホモジナイズした組織、腫瘍組織、細胞抽出物、およびそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。1態様において、その試料は臨床試料である。別の態様において、その試料は診断アッセイにおいて用いられる。一部の態様において、その試料は原発または転移腫瘍から得られたものである。組織生検はしばしば腫瘍組織の代表的な断片を得るために用いられる。あるいは、腫瘍細胞は、目的の腫瘍細胞を含有することが既知である、または含有すると考えられる組織または流体の形で間接的に得ることができる。例えば、肺癌病巣の試料は切除、気管支鏡検査、穿刺吸引、気管支擦過法により、または痰、胸膜液もしくは血液から得ることができる。
“プライマー”は、一般に短い一本鎖の、一般に遊離の3’−OH基を有するポリヌクレオチドであり、それは目的の試料中に存在する可能性のある標的に標的配列とハイブリダイズすることにより結合し、その後その標的に相補的なポリヌクレオチドの重合を促進する。外側または内側のプライマーまたはプローブの正確な配列は、実際の分析的問題に従って当業者により選択される。例えば、それは検出されるべき、または識別されるべき微生物に特異的なDNA配列にハイブリダイズする配列を含むことができる。例えば、生物特異的な配列は、配列データベースの比較および必要であれば“アラインメント”により確かめることができる。基本的に、プローブとしてのDNAまたは核酸全般に対する制限は存在しない。それらの既知の利点のため、DNA−PNA(ペプチド−核酸)ハイブリッドまたはキメラを用いることも可能である。修飾された核酸(例えばdI、dI−ビオチン、dU、dU−ビオチン)を用いることもできる。
“相互に関係させる”または“相互に関係させること”により、第1の分析またはプロトコルの性能および/または結果を第2の分析またはプロトコルの性能および/または結果と何らかの方法で比較することを意味する。例えば、第1の分析またはプロトコルの結果を第2のプロトコルの実施において用いることができ、および/または第1の分析またはプロトコルの結果を第2の分析またはプロトコルを実施すべきかどうかを決定するために用いることができる。遺伝子発現分析またはプロトコルの態様に関して、遺伝子発現分析またはプロトコルの結果を特定の療法計画を実施すべきかどうかを決定するために用いることができる。
語“標識”は、本明細書で用いられる際、直接的または間接的に試薬、例えば核酸プローブまたは抗体に融合しており、それによりそれがコンジュゲートしている、または融合している試薬の検出を促進する場合の本発明に従うコンジュゲートを指す。例えば本発明に従うオリゴヌクレオチド−金コンジュゲートが抗体に融合している場合、そのような抗体はその標識、すなわちそのオリゴヌクレオチド−金コンジュゲート中に含まれる金により検出することができる。
本発明に従うコンジュゲートおよびその使用:
1態様において、本発明はオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートに関し、ここでその固相はチオフィリック金属を含み、ここでそのオリゴヌクレオチドは少なくとも1個の式Iに従うチオオキソ核酸塩基を含み:
式中、XはCHまたはNであり、式中、R1はHまたはNH2であり、式中、---は共有結合を示し、ここで前記のオリゴヌクレオチドは前記の固相に前記のチオオキソヌクレオチドの硫黄原子を介して結合している。
式Iに従うチオオキソ核酸塩基に基づくチオオキソ核酸塩基のオリゴヌクレオチドの合成における使用は、型にはまった合成手順と適合可能であることが分かっている。式Iのヌクレオシドに基づくチオオキソヌクレオチドは、例えばオリゴヌクレオチドの化学合成において用いることができ、保護基は標準的なプロトコルに従って切断することができる。加えて、式Iに従う1個以上のヌクレオチド(単数または複数)を含むオリゴヌクレオチドは、チオフィリック固相に堅固に付着させることができる。
そのチオオキソヌクレオチドが6−デアザ−チオオキソヌクレオチドであるオリゴヌクレオチドは、それが6−アザヌクレオチドと比較した場合にあらゆる求核攻撃に対してさらにもっと安定であるという追加の利点を有する。従って、好ましい態様において、式IにおけるXはCHである。
本発明に従うチオフィリック金属または金属イオンは、好ましくは第11族:(Cu、Ag、Au);第12族(Cd、Hg);第13族(Ga、In、Tl)および第14族(Sn、Pb)金属からなる群から選択される。
本発明の1態様において、そのチオフィリック金属はチオフィリック貴金属およびチオフィリック半導体物質からなる群から選択される。1態様において、そのオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートは1個以上の式Iのチオオキソ核酸塩基(単数または複数)を含有するオリゴヌクレオチドおよびチオフィリック貴金属またはチオフィリック金属を含む半導体物質からなる群から選択されるチオフィリック固相を含む。
1態様において、本発明のオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲート中に含まれるチオフィリック金属は、銅、銀および金からなる群から選択される貴金属である。1態様において、そのチオフィリック金属は銀または金から選択される。1態様において、金がチオフィリック固相物質として用いられる。1態様において、銀がチオフィリック固相物質として用いられる。
当業者が理解しているように、チオフィリック半導体物質は、カドミウム、ガリウムおよびインジウムからなる群から選択される1種類以上の金属(単数または複数)を含んでいてよく、この金属は酸化物、硫化物、テルル化物またはセレン化物として存在している。好ましい態様において、本発明のオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲート中に含まれるチオフィリック半導体物質はカドミウムまたはガリウムに基づく。好ましい態様において、その半導体物質はカドミウムに基づく。
1態様において、本発明のオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲート中に含まれるチオフィリック半導体物質はナノ結晶または量子ドットの形態で存在する。
式Iの核酸塩基に基づくヌクレオチドは合成の間に容易にオリゴヌクレオチド中に組み込むことができるため、ここで、そのようなヌクレオチドをあらゆる望まれる位置で挿入することも可能であり、2個以上の式Iの核酸塩基に基づくヌクレオチドが組み込まれる予定である場合、これは1個のそのようなヌクレオチドから最寄りのそのようなヌクレオチドまであらゆる望まれる距離で行うことができる。1態様において、本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートはチオフィリック固相および少なくとも2個の式Iに従う核酸塩基を含むオリゴヌクレオチドの間で形成される。これらの2個の式Iに従う核酸塩基を有するヌクレオチドが少なくとも1個の他のヌクレオチドにより隔てられ、前記のオリゴヌクレオチド中の予め定められた位置に存在するのも好ましい。
1態様において、本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートはチオフィリック固体および少なくとも1個の式Iに従う核酸塩基を含むオリゴヌクレオチドの間で形成され、ここで前記のオリゴヌクレオチドは少なくとも8ヌクレオチドの長さである。
1態様において、本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートはチオフィリック固相および式Iに従う核酸塩基を有する少なくとも1個のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの間で形成され、ここで前記のオリゴヌクレオチドは最大で1000ヌクレオチドの長さである。
一部の態様において、本発明に従うコンジュゲート中に含まれるオリゴヌクレオチドは、それぞれ少なくとも9、10、11、12、15、18、21、24、27または30ヌクレオチドの長さを有する。一部の態様において、本発明に従うコンジュゲート中に含まれるオリゴヌクレオチドは、それぞれ1000、500、300、200、150、100、90、80、70、60、50、45、40、35または30ヌクレオチドより長くない長さを有する。
本発明に従う方法:
1態様において、本発明はオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートを製造する方法に関し、その方法は以下の工程を含む:(a)チオフィリック金属を含む固相を提供し、そして(b)式Iに従う核酸塩基を含む少なくとも1個のチオオキソヌクレオチドを含有するオリゴヌクレオチドを前記のチオフィリック固相に結合させる;
式中、XはCHまたはNであり、式中、R1はHまたはNH2であり、式中、---は共有結合を示す。
1つの好ましい態様において、本発明に従うオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートを製造する方法は、式Iのヌクレオシドに基づくヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを用いて実施され、ここで式I中のXはCHである。
本明細書で開示されるようなオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートを製造するこの方法を、図1において図式的に描写する。
本発明に従うチオフィリック金属または金属イオンは、好ましくは第11族(Cu、Ag、Au);第12族(Cd、Hg);第13族(Ga、In、Tl)および第14族(Sn、Pb)金属からなる群から選択される。
1態様において、本発明において開示されるような方法は、チオフィリック貴金属およびチオフィリック半導体物質からなる群から選択されるチオフィリック金属を用いて実施される。
1態様において、本発明に従う方法において用いられるチオフィリック金属は、銅、銀および金からなる群から選択される貴金属である。1態様において、そのチオフィリック金属は銀または金から選択される。1態様において、金がチオフィリック固相物質として用いられる。1態様において、銀がチオフィリック固相物質として用いられる。
好ましい態様において、オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの製造のための本発明に従う方法において用いられるチオフィリック半導体物質は、カドミウムまたはガリウムから選択される。好ましい態様において、オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの製造のための本発明に従う方法において用いられる半導体物質はカドミウムである。
1態様において、オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの製造のための本発明に従う方法において用いられるチオフィリック半導体物質は、ナノ結晶または量子ドットの形態で存在する。
1態様において、オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの製造のための本発明に従う方法は、式Iに従う核酸塩基を有する少なくとも1個のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを用いて実施され、ここで前記のオリゴヌクレオチドは少なくとも8ヌクレオチドの長さである。
1態様において、オリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートの製造のための本発明に従う方法は式Iに従う核酸塩基を有する少なくとも1個のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを用いて実施され、ここで前記のオリゴヌクレオチドは最大で1000ヌクレオチドの長さである。
本発明に従うコンジュゲートの使用:
本発明において記述されるようなオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートは、多くの極めて重要な目的のために用いることができる。
当業者に直接明らかであるように、本発明において記述されるようなオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲートは、1態様において、核酸ハイブリダイゼーションに基づく検出法において用いられる。そのような使用は、多様な適用に関して、またはバイオセンサーにおいて最高に重要である。
1態様において、本発明において記述されるようなオリゴヌクレオチド−固相コンジュゲート中の固相は、金ナノ粒子およびナノ結晶として存在するチオフィリック半導体物質からなる群から選択されるナノ粒子であり、標識として用いられる。そのような使用は、例えばハイブリダイゼーションの電気化学的検出に関して(Kafka, J. et al., Electrochimica Acta 53 (2008) 7467-7474)、または表面プラズモン共鳴による検出に関して(Milkani, E. et al., Biosensors & Bioelectronics 25 (2010) 1217-1220)記述された使用に類似している。
式Iのチオオキソ核酸塩基が6−デアザ−チオオキソヌクレオチドであるオリゴヌクレオチドは、容易に合成することができ、あらゆる求核攻撃に対して安定である。
以下の実施例、配列リスト、および図は、本発明の理解を助けるために提供されており、その真の範囲は添付された特許請求の範囲において述べられている。本発明の精神から逸脱することなく述べられた手順において修正を行うことができることは理解されている。
図1:アンカー分子として式Iに従う核酸塩基を有するチオオキソヌクレオシドの選択された例を含むオリゴヌクレオチドの間のオリゴヌクレオチド金コンジュゲート(AuNP)の形成に関する反応経路を図式的に示す。
図2:7デアザ6チオグアノシンに基づくオリゴヌクレオチドの化学合成のための基本単位の合成における工程を図式的に描写する。
図3:酵素消化後に得られたオリゴヌクレオチド7の酵素的加水分解産物のHPLC溶離プロフィールを図の左側部分(a)に示し、オリゴヌクレオチド7およびチオオキソヌクレオシド1の理論的に予想される加水分解産物を含む人工混合物のHPLC溶離プロフィールを図の右側部分(b)に示す。
図4:(a)未修飾のAuNP溶液(上の線、左端から出発する)、チオヌクレオシド1を用いたDNA−AuNPコンジュゲートAu8(中央の線)およびチオールヘキシルリンカーを含有するDNA−AuNPコンジュゲートAu24(下の線)の紫外−可視スペクトル;(b)それぞれ0分、4時間および12時間の異なる時間間隔の後に測定された、相補的オリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNPコンジュゲートAu8・Au9の紫外−可視スペクトル。
図5:部分(a)において、260nmにおいて観察された遊離オリゴヌクレオチド二本鎖8・9の融解プロフィールならびに520nmにおいて記録された会合体Au8・Au9およびAu24・Au25それぞれの融解プロフィールを示す。部分(b)において、全て520nmにおいて記録された会合体Au8・Au9、Au15・Au16およびAu17・Au18それぞれの融解プロフィールを示す。
図6:4−チオ−2’−デオキシチミジン(4−thio−2’−deoxythmidine)(化合物26;この図では1として示す)の加水分解安定性に関する逆相HPLCクロマトグラム。(a)4−チオ−2’−デオキシチミジン(4−thio−2’−deoxythmidine)(1)のHPLCプロフィール。(b)1の25%水性アンモニアによる60℃において16時間の処理後に得られたHPLCプロフィール。その化合物を、RP−18カラム(250×4mm)上で260nmにおいて逆相HPLCにより分析した。勾配:0〜15分 A中0〜30%B、30〜40分 A中30〜40%B、40〜45分 A中40〜0%B、流速0.7cm3分−1。この図中の5は5−メチルデオキシシチジンであり;同時注入HPLC実験により確かめた。
図7:2−チオ−2’−デオキシチミジン(2−thio−2’−deoxythmidine)(化合物27;この図では2として示す)の加水分解安定性に関する逆相HPLCクロマトグラム。(a)2−チオ−2’−デオキシチミジン(2)のHPLCプロフィール。(b)2の25%水性アンモニアによる60℃において16時間の処理後に得られたHPLCプロフィール。その化合物を、RP−18カラム(250×4mm)上で260nmにおいて逆相HPLCにより分析した。勾配:0〜15分 A中0〜30%B、30〜40分 A中30〜40%B、40〜45分 A中40〜0%B、流速0.7cm3分−1。
図8:6−チオ−2’−デオキシグアノシン(化合物28;この図では3として示す)の加水分解安定性に関する逆相HPLCクロマトグラム。(a)6−チオ−2’−デオキシグアノシン(3)のHPLCプロフィール。(b)3の25%水性アンモニアによる60℃において16時間の処理後に得られたHPLCプロフィール。その化合物を、RP−18カラム(250×4mm)上で260nmにおいて逆相HPLCにより分析した。勾配:0〜15分 A中0〜30%B、30〜40分 A中30〜40%B、40〜45分 A中40〜0%B、流速0.7cm3分−1。この図中の6は2,6−ジアミノプリン 2’−デオキシリボヌクレオシドであり;同時注入HPLC実験により確かめた。
図9:7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(化合物1;この図では4として示す)の加水分解安定性の逆相HPLCクロマトグラム。(a)7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(4)のHPLCプロフィール。(b)4の25%水性アンモニアによる60℃において16時間の処理後に得られたHPLCプロフィール。その化合物を、RP−18カラム(250×4mm)上で260nmにおいて逆相HPLCにより分析した。勾配:0〜15分 A中0〜30%B、30〜40分 A中30〜40%B、40〜45分 A中40〜0%B、流速0.7cm3分−1。この図中の7は2,6−ジアミノ−7−デアザプリン 2’−デオキシリボヌクレオシドであり;同時注入HPLC実験により確かめた。
図10:この図において、オリゴヌクレオチド合成において用いられたいくつかの異なるチオオキソヌクレオチド類に関する異なるホスホロアミダイト類基本単位を示す。
図11:この図において、概観およびアラインメントを容易にするために、重要な化合物、用いられた配列、ならびに目的の配列でコートした様々な金粒子を要約する。
図11:この図において、概観およびアラインメントを容易にするために、重要な化合物、用いられた配列、ならびに目的の配列でコートした様々な金粒子を要約する。
図11:この図において、概観およびアラインメントを容易にするために、重要な化合物、用いられた配列、ならびに目的の配列でコートした様々な金粒子を要約する。
図11:この図において、概観およびアラインメントを容易にするために、重要な化合物、用いられた配列、ならびに目的の配列でコートした様々な金粒子を要約する。
方法および試薬に関する全般的な情報
全ての化学物質はAcros,FlukaまたはSigma−Aldrich(Sigma−Aldrich Chemie GmbH,ドイツ、ダイゼンホーフェン)から購入した。5’−メルカプト修飾剤である6−(トリフェニルメチル)−S−(CH2)6 O−2−シアノエチルジイソプロピルホスホラミダイトはGlen Research(米国、ヴァージニア州)から得た。溶媒は実験室グレードのものであった。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、シリカゲル60 F254の0.2mmの層で覆われたアルミニウムのシート(0.2mm;Merck,ドイツ、ダルムシュタット)上で実施された。カラムフラッシュクロマトグラフィー(FC)は、0.4バールにおいてシリカゲル60H(VWR,ドイツ、ダルムシュタット)上で実施された。紫外−可視スペクトル:U3200分光光度計(日本、日立);nmでのλmax、dm3mol−1でのε。逆相HPLCは、可変波長モニター(モデル655A)と連結されたMerck−日立HPLCポンプ(モデルL−6250)を備えた250×4mm PR−18カラム(Merck)上で実施された。NMRスペクトル:Avance−DPX−300分光計(Bruker,ドイツ、ラインシュテッテン);化学シフト(δ)は内部SiMe4(1H,13C)に関するppmにおける。MALDI−TOF質量スペクトルは、Applied Biosystems Voyager DE PRO分光計を用いて、3−ヒドロキシピコリン酸(3−HPA)をマトリックスとして用いて記録された。微量分析はMikroanalytisches Labor Beller(ドイツ、ゲッティンゲン)により実施された。融解温度曲線は、Cary熱電制御装置を備えたCary−100 Bio紫外−可視分光光度計(Varian,オーストラリア)を用いて測定された。MembraPure水システム(Astacus)からのNanopure水(抵抗<0.055μS/cm)を全ての実験に関して用いた。
実施例1:
チオ置換基を有するオリゴヌクレオチド
1.1 基本単位の合成
基本単位の合成を、下記の図2およびスキーム2においても図式的に示す。
スキーム2.試薬および条件:(i)Me3SiCl、フェノキシアセチルクロリド、ピリジン、水性NH3、4時間、室温;(ii)3−ブロモプロピオニトリル、無水K2CO3、DMF、一夜、室温;(iii)DMTr−Cl、ピリジン、3時間、室温;(iv)(2−シアノエチル)ジイソプロピルホスホルアミドクロリダイト(chloridite)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、無水CH2Cl2、20分間、室温。
7-(2-デオキシ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)-2-フェノキシアセトアミノ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4(3H)-チオン(2)。
化合物1(1.6 g, 5.50 mmol)を乾燥ピリジン(3 × 8.0 ml)と同時蒸発させ、次いでピリジン(15 ml)中で懸濁した。トリメチルシリルクロリド(3.6 ml, 28.17 mmol)を乾燥した注射器により添加し、その反応物を1時間撹拌した。フェノキシアセチルクロリド(1.1 ml, 7.96 mmol)を乾燥した注射器により添加し、その反応物を室温で4時間撹拌しておいた。その反応容器を氷浴中で冷却し、水(5 ml)を撹拌しながら添加した。15分後、濃水性アンモニア(5 ml)を添加し、そのスラリーをさらに15分間撹拌した。溶媒を蒸発させ、残留物をFC(シリカゲル、カラム8 × 15 cm、CH2Cl2/MeOH、50:1→25:1)に適用した。主な領域を蒸発させると、2が無色の泡状物質として得られた(1.9 g, 80.9%);融点205 ℃; Rf = 0.53 (CH2Cl2/MeOH, 9:1)。UV (MeOH): λmax (ε) = 333 nm (47600)。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ = 2.15-2.22 (m, 1H, Hα-2’), 2.38-2.47 (m, 1H, Hβ-2’), 3.52 (m, 2H, H-5’), 3.82 (m, 1H, H-4’), 4.35 (m, 1H, H-3’), 4.88 (s, 2H, Pac-CH2), 4.95 (t, 3J(H,H) = 5.3 Hz, 1H, 5’-OH), 5.30 (d, 3J(H,H) = 3.6 Hz, 1H, 3’-OH), 6.41 (m, 1H, H-1’), 6.64 (d, 3J(H,H) = 3.7 Hz, 1H, H-5), 6.96-7.00 (m, 3H, フェノキシ), 7.28-7.34 (m, 2H, フェノキシ), 7.49 (d, 3J(H,H) = 3.7 Hz, 1H, H-6), 11.99 (s, br, 1H, N-H), 12.88 (s, br, 1H, CO-NH)。分析値:C19H20N4O5S (416.45)に関する計算値: C, 54.80; H, 4.84; N, 13.45。実測値: C, 54.74; H, 4.90; N, 13.40。
4-[(2-シアノエチル)チオ]-7-(2-デオキシ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)-2-フェノキシアセトアミノ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(3)。
3-ブロモプロピオニトリル(4.0 ml, 48.07 mmol)および無水K2CO3(3.0 g, 21.71 mmol)を25mlの乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)に添加し、その混合物を強く撹拌した。化合物2(1.9 g, 4.45 mmol)を5mlの乾燥DMF中で溶解させ、その撹拌溶液に30分以内に滴加した。その混合物を一夜撹拌状態に保った。DMFをキシレンとの同時蒸発により除去し、残留物をFC(シリカゲル、カラム8 × 15 cm、CH2Cl2/MeOH、500:1→100:1)に適用した。蒸発後、主な領域から3が無色の固体として得られた(1.2 g, 54.7%); Rf = 0.22 (CH2Cl2/MeOH, 95:5)。UV (MeOH): λmax (ε) = 301 nm (26700); 244 nm (73300)。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ = 2.22 (m, 1H, Hα-2’), 2.50 (m, 1H, Hβ-2’), 3.16 (t, 2H, CH2-CN), 3.51-3.56 (m, 4H, H-5’, H-5’’, CH2-S), 3.84 (m, 1H, H-4’), 4.37 (m, 1H, H-3’), 4.94 (t, 3J(H,H) = 5.4 Hz, 1H, 5’-OH), 5.00 (s, 2H, Pac-CH2), 5.32 (d, 3J(H,H) = 5.3 Hz, 1H, 3’-OH), 6.55 (m, 2H, H-5, H-1’), 6.95 (m, 3H, フェノキシ), 7.31 (m, 2H, フェノキシ), 7.65 (d, 3J(H,H) = 3.9 Hz, 1H, H-6), 10.69 (s, 1H, CO-NH)。分析値:C22H23N5O5S (469.51)に関する計算値: C, 56.28; H, 4.94; N, 14.92。実測値: C, 56.18; H, 4.98; N, 14.89。
4-[(2-シアノエチル)チオ]-7-[2-デオキシ-5-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-β-D-エリスロ-ペントフラノシル]-2-フェノキシアセトアミノ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(4)。
化合物6(469.5 mg, 1.00 mmol)を無水ピリジン(3 × 5.0 ml)と同時蒸発させ、次いでピリジン(5.0 ml)中で溶解させた。この溶液に、4,4’-ジメトキシトリフェニルメチルクロリド(DMT-Cl) (440.5 mg, 1.30 mmol)を添加し、その混合物を室温で3時間撹拌した。その反応をMeOHの添加により停止し、その混合物を蒸発させて乾燥させた。その混合物をCH2Cl2 (3.0 ml)中で溶解させ、FC(カラム4 × 10 cm、CH2Cl2/アセトン、20:1による溶離)で処理すると、4が無色の泡状物質として得られた(555.8 mg, 72 %); Rf = 0.61 (CH2Cl2/MeOH, 95:5)。UV (MeOH): λmax (ε) = 302 nm (14400); 240 nm (53500)。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ = 2.29 (m, 1H, Hα-2’), 2.59 (m, 1H, Hβ-2’), 3.16 (m, 4H, CH2-CN, H-5’, H-5”), 3.54 (m, 2H, CH2-S), 3.71 (s, 6H, OCH3), 3.95 (m, 1H, H-4’), 4.37 (m, 1H, H-3’), 5.00 (s, 2H, Pac-CH2), 5.37 (d, 3J(H,H) = 4.2 Hz, 1H, 3’-OH), 6.52-6.56 (m, 2H, H-5, H-1’), 6.78-7.35 (m, 18H, フェノキシ), 7.46 (d, 3J(H,H) = 3.6 Hz, 1H, H-6), 10.69 (s, 1H, CO-NH)。分析値:C43H41N5O7S (771.27)に関する計算値: C, 66.91; H, 5.35; N, 9.07。実測値: C, 67.05, H, 5.20; N, 9.17。
4-[(2-シアノエチル)チオ]-7-[2-デオキシ-5-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-β-D-エリスロ-ペントフラノシル]-2-フェノキシアセトアミノ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン 3’-[(2-シアノエチル)-N,N-ジイソプロピルホスホラミダイト](5)。
化合物4(555.8 mg, 0.72 mmol)を無水CH2Cl2(3.0 ml)中でArの下で溶解させ、(2-シアノエチル)ジイソプロピルホスホルアミドクロリダイト(chloridite)(225 μl, 0.95 mmol)と、iPr2EtN (220 μl, 1.27 mmol)の存在下で室温において反応させた。20分後、その反応混合物をCH2Cl2で希釈し、その溶液を5% NaHCO3水溶液で、続いてブラインで洗浄した。その有機溶液を無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。その残留物をFC(カラム4 × 10 cm、CH2Cl2/アセトン、25:1)で処理すると、5が無色の泡状物質として得られた(429.1 mg, 61.3%); Rf = 0.64 (CH2Cl2/アセトン、95:5)。31P NMR (300 MHz, CDCl3-d6): δ = 148.6; 148.7。
全ての化合物は紫外スペクトル、1H−および13C−NMRスペクトルにより、ならびに元素分析により特性付けされた(表1および実験の部)。糖部分および保護基の13C NMRの化学シフトの割り当ては、既に公開されたデータとの組み合わせでのゲート制御デカップリングされたスペクトル(gated−decoupled spectra)に基づいてなされた(Christopherson, M.S. and Broom, A.D., Nucleic Acids Res. 19 (1991) 5719-5724)。
1.2 オリゴヌクレオチド合成、そのオリゴヌクレオチドの精製および特性付け
1.2.1 オリゴヌクレオチドの合成
オリゴヌクレオチドを、自動化されたDNA合成装置、モデル392−08(ABI 392,Applied Biosystems,ドイツ、ヴァイターシュタット)において1μmolスケールで、標準的なホスホラミダイト類ならびにホスホラミダイト5を用いて、以前に記述されたようなオリゴヌクレオチドの固相合成のための標準的な手順(Seela, F., Budow, S., Helv. Chim. Acta 89 (2006) 1978-1985)に従って合成した。固体支持体からの切断の後、そのオリゴヌクレオチドを25%アンモニア水溶液中で60℃において12〜16時間脱保護した。
1.2.2 オリゴヌクレオチドの精製
チオヌクレオシド1を含有するオリゴヌクレオチドの精製を、まずDMT−on方式の逆相HPLC(Merck−日立−HPLC;RP−18カラム;勾配系[A:0.1M (Et3NH)OAc (pH 7.0)/MeCN 95:5;B:MeCN]:3分間、A中20%B、12分間、A中20〜50%B、および25分間、A中20%B、流速1.0ml/分)上で実施した。その溶液を乾燥させ、2.5% CHCl2COOH−CH2Cl2(400μl)で0℃において5分間処理して4,4’−ジメトキシトリチル残基を除去した。その脱トリチル化されたオリゴマーを、再度逆相HPLC[勾配:0〜20分 A中0〜20%B;流速1ml/分]により精製した。そのオリゴマーを短いカラム(RP−18、シリカゲル)上で脱塩し、Speed−Vac蒸発装置上で凍結乾燥すると無色の固体が得られ、それを−24℃で凍結させた。HPLC(勾配:0〜25分 B中0〜20%A;流速1.0ml/分)。
1.2.3 質量分析によるオリゴヌクレオチドの特性付け
MALDI−TOF質量スペクトルを、Applied Biosystems Voyager DE PRO分光計を用いて、3−ヒドロキシピコリン酸(3−HPA)をマトリックスとして用いて記録した。
オリゴヌクレオチドを完全な脱保護およびHPLC生成、続いて脱塩の後特性付けした。全ての場合において、計算された質量は測定値とよく一致していた(表2)。
1.2.4 酵素消化によるオリゴヌクレオチドの特性付け
オリゴヌクレオチドの酵素的加水分解を、SeelaおよびBecher(Seela, F., Becher, G., Nucleic Acids Res. 29 (2001) 2069-2078)により記述されたように、ヘビ毒ホスホジエステラーゼ(EC 3.1.15.1,ヒガシダイヤガラガラヘビ(Crotallus adamanteus))およびアルカリホスファターゼ(Roche Diagnostics GmbH(ドイツ)からのEC 3.1.3.1,大腸菌)を用いて、0.1Mトリス−HCl緩衝液(pH8.5)中で37℃において実施し、逆相HPLC上で実施した。(a)酵素消化後に得られたオリゴヌクレオチド7の酵素的加水分解産物ならびに(b)オリゴヌクレオチド7およびチオヌクレオシド1の理論的に予想される加水分解産物の人工的な混合物のHPLC溶離プロフィールを図3において示す。カラムおよび溶離条件は以下の通りであった:RP−18(200×10mm);勾配[A:0.1M(Et3NH)OAc(pH7.0)/MeCN 95:5;B:MeCN]:(a)および(b)に関して25分間 A、40分間 A中0〜65%B;(c)および(d)に関して100%A;流速:0.7ml/分。
図3(a)および図3(b)それぞれの比較から明らかであるように、ヘビ毒ホスホジエステラーゼはチオヌクレオチド1を切断しない。
実施例2:
修飾された金ナノ粒子の合成およびそれらの特性付け
2.1 金ナノ粒子溶液の調製
15nm金ナノ粒子溶液を、Turkevich, J. et al., Discuss. Faraday Soc. 11 (1951) 55において最初に報告され、後にLetsingerおよびMirkinにより記述されたように(Storhoff, J.J. et al., J. Am. Chem. Soc. 120 (1998) 1959-1964、およびJin, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 125 (2003) 1643)、HAuCl4溶液からシトレート還元により調製した。全てのガラス器具を王水(3部のHCl、1部のHNO3)中で洗浄し、nanopure水ですすぎ、次いで使用前にオーブンで乾燥させた。水性HAuCl4(1mM,250ml)を撹拌しながら還流状態にした。次いで、38.8mMのクエン酸三ナトリウム(25ml)を素早く添加した。その溶液の色が黄色から赤色へと変化し、還流を15分間継続した。室温に冷却した後、その赤色の溶液をMicron Separations Inc.1ミクロンフィルターを通して濾過した。
2.2 ヌクレオシド1を用いたオリゴヌクレオチドを用いる修飾された金ナノ粒子溶液の調製
金ナノ粒子(約6nM)を、それらの配列内の異なる位置にヌクレオシド1を含有する様々なオリゴヌクレオチドを用いて機能性付与した。そのDNA−AuNPコンジュゲートは、1mlの金ナノ粒子溶液を精製したオリゴヌクレオチド溶液(3μMの最終的なオリゴヌクレオチド濃度)と混合することにより調製した。そのカップリング反応はわずかに高い温度(40℃)で実施された。20時間静置した後、5μlの2M NaCl、0.2mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)を一定の撹拌の下で添加してそのコロイド溶液を0.01M NaClにして6〜8時間静置した。次にコロイドに塩を加えて0.02Mにしてさらに6〜8時間経過させ、次いでそれに塩を加えて0.05Mにして6〜8時間静置し、最後にそれに塩を加えて0.1M NaClにした。続いて、そのDNA金ナノ粒子溶液を遠心分離し、透明な上清を取り除いて未結合のオリゴヌクレオチドを除去した。その沈殿を1mlの0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)中で再度分散させた。保温(24時間、40℃)の後、そのコンジュゲート溶液を同じ緩衝液で再度洗浄し、最終的に1mlのDNA−AuNPコンジュゲートが得られた。
実施例3:
チオヌクレオシド1をリンカーとして用いるDNA−金ナノ粒子コンジュゲートのハイブリダイゼーション
典型的な実験において、0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートを含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液および0.5mlの相補的なオリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNPコンジュゲートを含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液を一緒に混合した(等濃度)。その両方のDNA−AuNPコンジュゲートを含有する溶液を一夜保温しておいた。この間に、赤色から紫色への色の変化と同時に起こるプラズモン共鳴バンドのゆっくりとした赤方移動および幅の広がりにより明示される、相補的なオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートのゆっくりとしたハイブリダイゼーションが起こった。最終的に、そのDNA金ナノ粒子網状構造の沈殿が観察され、結果として透明な上清および黒ずんだ沈殿が生じた。そのDNA−AuNP溶液を激しく振盪した後、その沈殿を再度分散させることができ、約564nmの紫外/可視極大を有する紫色の溶液がもたらされる。
実施例4:
オリゴヌクレオチドの金表面上での固定
4.1 オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション
チオヌクレオシド1を用いるオリゴヌクレオチド二本鎖の溶液中でのハイブリダイゼーション特性。原理的に、7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(1)がオリゴヌクレオチドの金ナノ粒子への結合のためのアンカー基として用いられる場合、そのオリゴヌクレオチド配列内のあらゆる位置を選択することができる。従って、いくつかの異なる修飾部位を組み込みのために選択した。硫黄原子のかさ高さがハイブリダイゼーションを妨げ得ることは周知である。解明のため、化合物1を組み込んだ遊離のオリゴヌクレオチドを用いてハイブリダイゼーション試験を実施した。12マーの二本鎖の中心部または周辺部におけるヌクレオシド1の単一置換は、元の未修飾二本鎖5’−d(TAG GTC AAT ACT)(10)・3’−d(ATC CAG TTA TGA)(11)と比較して、その二本鎖の安定性を低減した(表3)。その作用は、1がそのオリゴヌクレオチド二本鎖の中心部に組み込まれた場合(10・7:ΔTm=−7℃)に、周辺部に組み込まれた場合(10・12:ΔTm=−3℃)よりも顕著であった。多数の修飾は有意なさらなる不安定化につながった(13・14に関してΔTm=−30℃)(表3)。一貫して、2個のチオヌクレオシド(1)の24マー二本鎖の中心部内または周辺部における組み込み(21・22、23・6)は、元の未修飾二本鎖(19・20)と比較した場合にその二本鎖の安定性の強い減少に影響した。逆に、突出する末端としてのチオヌクレオシド1の1個または多数の組み込みを含有する二本鎖8・9、15・16および17・18では、その二本鎖の不安定化は観察されなかった。
4・2 オリゴヌクレオチド金ナノ粒子コンジュゲートの調製
15nm金ナノ粒子溶液を、Turkevichにより報告され、後にLetsingerおよびMirkinにより記述されたプロトコル(Elghanian, R., et al., Science 277 (1997) 1078-1081; Mirkin, C.A. et al., Nature 283 (1996) 607-609; Turkevich, J. et al., Discuss. Faraday Soc. 11 (1951) 55)に従って、HAuCl4溶液からシトレート還元により調製した。そのナノ粒子濃度は、ε520=4.2×108M−1cm−1(紫外/可視max:520nm)(Demers, L.M. et al., Anal. Chem. 72 (2000) 5535-5541)を用いて、おおよそ6.0nMであると決定された。未修飾の金ナノ粒子溶液の紫外/可視スペクトルを図4aにおいて示す。未修飾のAuNPを、表4において示したオリゴヌクレオチドを用いて機能性付与した。
DNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu18ならびにAu21およびAu6を、それぞれ(それぞれ表3および4)1mlの金ナノ粒子溶液を精製されたオリゴヌクレオチドの水溶液(1〜5μl)と混合して3μMの最終的なオリゴヌクレオチド濃度をもたらすことにより調製した。そのカップリング反応はわずかに高い温度(40℃)で実施された。24時間静置した後、5μlの2M NaCl、0.2mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)を一定の撹拌の下で添加してそのDNA−AuNP溶液を0.01MのNaCl濃度にした。そのDNA−AuNP溶液のNaCl濃度を、リン酸緩衝液(2M NaCl、0.2mMリン酸緩衝液、pH 7.0)を用いて0.1Mの最終的なNaCl濃度まで段階的に増大させた。そのDNA−AuNPコンジュゲートを0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)で2回洗浄して未結合のオリゴヌクレオチドを除去した。最後に、そのDNA−AuNPコンジュゲートを1mlの0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝液(pH 7.0)中で分散させた。全ての手順の間、そのDNA金ナノ粒子溶液の色は濃い赤色のままであった。さらに、結果として得られたDNA−AuNPコンジュゲートAu8、Au18およびAu21、Au6はそれぞれ予想された約525nmのプラズモン共鳴を示し、これは凝集していない状態を示している(表5、図4a)。比較のため、5’−ヘキシルチオールリンカーを組み込んだオリゴヌクレオチド24および25を、以前に他の者により報告された従来のプロトコル(Hurst, S.J. et al., Anal. Chem. 78 (2006) 8313-8318; Seela, F. et al., Chem. Biodiv. 2 (2005) 84-91)を用いてAuNPにコンジュゲートさせた(→それぞれAu24、Au25、表5)。1をアンカー分子として用いるDNA−AuNPコンジュゲートAu8の紫外/可視スペクトルは、商業的に入手可能なヘキシルチオールリンカーをアンカー基として用いるコンジュゲートAu24に関して観察されたプラズモン共鳴(523nm)に非常に近いプラズモン共鳴(526nm)を示す。
オリゴヌクレオチドがAuNPに内側の位置のチオヌクレオシド1を通して結合するDNA−AuNPコンジュゲートAu21およびAu6それぞれに関して記録された紫外/可視スペクトルは、それぞれ末端の位置に位置するアンカー分子を有するDNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu18ならびにAu24およびAu25に関して観察された紫外/可視スペクトルと質的に同一であることを特筆するのは興味深い。
全てのDNA−AuNPコンジュゲートは0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)中で安定であることが分かり;紫外/可視の極大の移動を伴う粒子の凝集は観察されなかった。機能性付与されていない金ナノ粒子溶液はNaClを含有する緩衝溶液中で数分以内に不可逆的な凝集を経て、その後沈殿するため、これは重要な特性である(Mirkin, C.A. et al., Nature 283 (1996) 607-609)。
両方の結果:(i)約523〜526nmにおける紫外/可視の極大および(ii)0.1M NaClリン酸緩衝溶液中での安定性は、オリゴヌクレオチドの7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(1)を介した共有結合的付着に関する強い証拠であると考えることができる。それにより、(オリゴヌクレオチドの5’もしくは3’末端における、または内部の位置における)化合物1のあらゆる位置が、安定なDNA−AuNPコンジュゲートの構築を可能にする。
4.3 組み立てられたDNA金ナノ粒子コンジュゲートのハイブリダイゼーション実験
この一連の実験において、チオヌクレオシド1を組み込んだDNA−AuNPコンジュゲートのハイブリダイゼーション特性を調べ、5’−ヘキシルチオールリンカーを有するDNA−AuNPコンジュゲートから得られたハイブリダイゼーション特性に対して比較した。典型的な実験において、相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNPコンジュゲートプローブ、例えばDNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu9を一緒に混合した(0.1M NaCl、10mMホスフェート、pH 7.0中で等濃度)。その混合物を保温しておいた。この間に、金ナノ粒子に付着している相補的オリゴヌクレオチドのゆっくりとしたハイブリダイゼーションが起こり;それは赤色から紫色への色の変化と同時に起こるプラズモン共鳴バンドの可視極大の赤方移動(Au8・Au9:526nm→546nm)および幅の広がりにより明示された(図4b)。最終的に、そのDNA金ナノ粒子網状構造の沈殿が観察され、結果として透明な上清および暗赤色の沈殿が生じる。そのハイブリダイズした試料はかなり安定であり、それは再度分散させることができるが、激しく振盪した後でさえ紫色のままである。従って、そのDNA−AuNP沈殿の激しい振盪の後でさえ564nmの紫外/可視極大(Au8・Au9)を有する紫色の溶液が得られる。
4.4 ハイブリダイズしたDNA−AuNPコンジュゲートを用いた融解実験。
相補的なオリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNPコンジュゲートにより形成された会合体を用いて融解実験を実施した。このために、凝集したDNA−AuNPコンジュゲート溶液を加熱し(15℃→75℃)、そのDNA−AuNP溶液を撹拌しながら520nmにおける可視吸収の変化を観察した。Tm値は融解転移の一次導関数の極大値を選ぶことにより決定され、それを表6において列挙する。
Au8・Au9の典型的な急な融解プロフィールを図5aに示し、これは二本鎖8・9により組み立てられたAuナノ粒子の3次元の相互に連結された網状構造に関する54℃のTm値を示している。比較のため、チオールヘキシルリンカーを有する相補的なオリゴヌクレオチドを用いたコンジュゲートAu24およびAu25により形成された網状構造の解離を、Au8・Au9の会合体に関して記述した条件と正確に同じ条件の下で調べた。Au24・Au25に関して、53℃のTm値が決定された(表6)。
チオールヘキシルリンカー(Au24・Au25)またはチオヌクレオシド1(Au8・Au9)を用いる両方の会合体の非常に狭い融解転移(約4℃の範囲)を有する融解プロフィールが図5aにおいて示したように検出され、一方で遊離のオリゴヌクレオチド二本鎖8・9に関して融解ははるかに広い温度範囲(約20℃)にわたって起こる(図5a)。この発見は、金ナノ粒子に共有結合しているオリゴヌクレオチドは網状構造を形成する二本鎖の非常に協調的な融解プロフィールを示し、それは急になった融解転移により反映されることを報告している、以前に他の者によりなされた観察と一致している(Jin, R. et al., J. Am. Chem. Soc. 125 (2003) 1643-1654; Taton, T.A. et al., Science 289 (2000) 1757-1760)。
さらに、多数の5’突出チオヌクレオシド1で機能性付与されたAuNPを、相補的なオリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNPコンジュゲートとハイブリダイズさせた(→Au15・Au16、Au17・Au18)。表6において示したように、これらのコンジュゲートの会合体は非常に類似したTm値を示す(Au15・Au16:Tm=50℃;Au17・Au18:Tm=51℃)。オリゴヌクレオチド鎖につき1個のチオヌクレオシド(1)のみを用いる会合体Au8・Au9に関して見られたTm値と比較して、これらの値は3〜4℃低いが、なお同じ範囲内にある。狭い融解転移範囲(約4℃)を示すAu8・Au9、Au15・Au16およびAu17・Au18の融解プロフィールを図5bにおいて示す。
チオヌクレオシド1をそれらの配列内の異なる内部位置においてアンカー分子として用いる24マーオリゴヌクレオチドを有するDNA−AuNP会合体の融解挙動も調べた(Au21・Au22、Au23・Au6)。これらのオリゴヌクレオチドは、24塩基対または部分的なハイブリダイゼーション(12塩基対)の形成を可能にする2回繰り返される認識配列で構成されている。チオヌクレオシド1が24マーオリゴヌクレオチド配列の周辺部に位置している会合体Au21・Au22に関して53℃のTm値が検出された。このTm値は、DNA−AuNP会合体内のオリゴヌクレオチドの部分的なハイブリダイゼーション、例えば(i)解れている(fraying)末端を有し、二本鎖の中心部でのみ塩基対合している完全にマッチした二本鎖または(ii)表6の項目5において示したような対合していないヌクレオシドを認識部位および金ナノ粒子の間のスペーサーとして残している二本鎖の部分的なハイブリダイゼーションを示している。
逆に、やはり相補的なオリゴヌクレオチドを用いているが化合物1がそれぞれのオリゴヌクレオチドの中心部に位置している、密接に関連するDNA−AuNPコンジュゲートAu23およびAu6は、DNA−AuNPの相互に連結された網状構造を形成することができない。一夜の保温でさえもその組み合わせられたコンジュゲート溶液の色の変化をもたらさず、可視極大の移動は観察されなかった。従って、凝集は起こらなかった。この結果は、認識部位と金ナノ粒子の間の距離が会合体の形成に必要であることを示している。
実施例5:
様々なチオオキソヌクレオシドの脱保護条件下での安定性
いくつかのヌクレオシド(1、26〜28)のチオオキソ基の安定性を、アルカリ性溶液(標準的なオリゴヌクレオチド脱保護条件:25%水性NH3、14〜16時間、60℃)中で試験した。
チオオキソヌクレオシド1、26〜28の標準的な脱保護条件(25%水性NH3、14〜16時間、60℃)下での加水分解安定性を、逆相HPLC(RP−18、250×4mm)により監視した。ヌクレオシド1、26〜28(それぞれ約1mg)を、密封した容器中で1mlの25%アンモニア水溶液中で溶解させ、60℃で保温した。16時間の保温後、水性アンモニアを蒸発により除去し、残留物を1mlのHPLC緩衝液A中で再度溶解させた。50μlのそれぞれの試料をHPLC装置中に注入し、スペクトルを260nmにおいて記録した。以下の溶媒勾配系を用いた:[A:0.1M (Et3NH)OAc (pH 7.0)/MeCN 95:5;B:MeCN;勾配:0〜15分 A中0〜30%B、30〜40分 A中30〜40%B、40〜45分 A中40〜0%B、流速0.7cm3分−1]。成分の定量化をピーク面積に基づいて行い、それをHPLC緩衝液A中のヌクレオシドの消衰係数(ε260)で割った。
以下のヌクレオシドの消衰係数(ε260)を用いた:26(1500)、27(6300)、28(7300)、および1(10100)。
表7から、ならびに対応する図6〜9から明らかであるように、ヌクレオシド27、28および1は適当な安定性を示し、一方でヌクレオシド26はかなり不安定であることが分かった。
実施例6:
異なるチオオキソヌクレオシドを組み込んだ様々なオリゴヌクレオチドの金ナノ粒子へのコンジュゲーション
6.1 オリゴヌクレオチドの合成、精製および特性付け。
ヌクレオシド1、26〜28を含有する一連のオリゴヌクレオチド(8〜9、32〜37)(表8参照)を、固相上で、1μmスケールで、通常のホスホロアミダイト類およびホスホロアミダイト5、38〜40(図10参照)を用いて、3’−(2−シアノエチル)−ホスホロアミダイト化学に関するプロトコルに従って合成した。固体支持体からの切断の後、27または1を含有するオリゴヌクレオチドを25%NH3水溶液中で60℃において14〜16時間(標準的な脱保護条件)脱保護した。26または28を組み込んだオリゴヌクレオチドを、50mM NaSHを含有する25%NH3水溶液中で、室温において一夜(供給業者の推奨条件)脱保護した。そのDMT含有オリゴヌクレオチドを、DMT−on方式の逆相HPLC(Merck−日立−HPLC;RP−18カラム)上で、以下の勾配系を用いて精製した:[A:0.1M (Et3NH)OAc (pH 7.0)/MeCN 95:5;B:MeCN]:3分間、A中20%B、12分間、A中20〜50%B、および25分間、A中20%B、流速1.0ml/分。溶媒を蒸発させ、そのオリゴヌクレオチドを2.5% Cl2CHCOOH/CH2Cl2(400μl)で0℃において5分間処理して4,4’−ジメトキシトリチル残基を除去した。その脱トリチル化されたオリゴマーを、再度逆相HPLC[勾配:0〜20分 A中0〜20%B;流速1ml/分]により精製した。そのオリゴマーを短いカラム(RP−18、シリカゲル)上でH2Oを塩の溶離のために用いて脱塩し、一方でそのオリゴマーをMeOH/H2O(3:2)で溶離した。そのオリゴヌクレオチドをSpeed−Vac蒸発装置上で凍結乾燥すると無色の固体が得られ、それを−24℃で凍結させた。
オリゴヌクレオチド8〜9、32〜37の分子質量を、線形陰性モード(linear negative mode)でのMALDI−TOF質量分析により決定した。その検出された質量は、計算値と同一であった(表8)。
6.2 チオオキソヌクレオシドを分子アンカーとして用いるオリゴヌクレオチド金ナノ粒子コンジュゲートの調製のための一般的な手順
15nm金ナノ粒子溶液を、Turkevichにより報告され、後にLetsingerおよびMirkinにより記述されたプロトコル(Mirkin, C.A. et al., Nature 283 (1996) 607-609; Elghanian, R., et al., Science 277 (1997) 1078-1081; Turkevich, J. et al., Faraday Soc. 11 (1951) 55-75)に従って、HAuCl4溶液からシトレート還元により調製した。その金ナノ粒子(約3nM)を、それらの5’末端においてチオオキソヌクレオシド1、26〜28の1つを含有するオリゴヌクレオチド8〜9、32〜37を用いて機能性付与した。そのDNA−AuNPコンジュゲートは、1mlの金ナノ粒子溶液を精製したオリゴヌクレオチド溶液(3μMの最終的なオリゴヌクレオチド濃度)と混合することにより調製した。そのカップリング反応はわずかに高い温度(40℃)で実施された。20時間静置した後、5μlの2M NaCl、0.2mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)を一定の撹拌の下で添加してそのナノ粒子溶液のNaCl濃度を0.01Mまで増大させた。その溶液を40℃で6〜8時間保温した。この手順を3回繰り返して、そのナノ粒子コンジュゲート溶液のNaCl濃度を0.02Mから0.05M、そして最終的に0.1M NaClまで段階的に増大させた。その間で、その溶液を常に40℃で6〜8時間経過させた。続いて、そのDNA金ナノ粒子溶液を遠心分離し(8000rpm)、透明な上清を取り除いて未結合のオリゴヌクレオチドを除去した。その沈殿を1mlの0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝溶液(pH 7.0)中で再度分散させた。保温(24時間、40℃)の後、そのナノ粒子溶液を同じ緩衝液(0.1M NaCl、10mMリン酸緩衝液、pH 7.0)で再度洗浄し、最終的に1mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu8−Au9、Au32−Au37が得られた。
6.2.1 4−チオ−2’−デオキシチミジン(4−thio−2’−deoxythmidine)に関する実験の詳細
4−チオ−2’−デオキシチミジン(26)を含有するオリゴヌクレオチド32および33の紫外−可視スペクトルは、ヌクレオシド26のチオオキソ基による337nmにおける特徴的な紫外吸収を示す(26に関する報告された文献の値:335nm;Fox, J.J. et al., J. Am. Chem. Soc. 81 (1959) 178-187)(図9a)。オリゴヌクレオチド32または33を用いるDNA−AuNPを、上記で記述したように調製した。結果として得られたDNA−AuNPコンジュゲートAu32およびAu33は524nmにおけるプラズモン共鳴を示し、これは凝集していない状態を示している。DNA−AuNPコンジュゲートAu32およびAu33の安定性を、0.2M NaCl、10mMホスフェート(pH 7)緩衝溶液中でさらに試験した。ガラスキュベット中での0.2M NaClの存在下での一夜の保温後、両方のコンジュゲートは524.5nmにおけるプラズモン共鳴を示す。しかし、著しい量のDNA−AuNPコンジュゲートがそのキュベットのガラス表面に接着することが分かった。このため、そのDNA−AuNPコンジュゲート溶液の吸光度の高さは元の値から約36%減少した。この結果に基づいて、4−チオ−2’−デオキシチミジン(26)をアンカー分子として用いるDNA−AuNPコンジュゲートは、0.2M NaClの存在下では不安定と分類される(表9、項目1参照)。
次に、チオヌクレオシド26を組み込んだオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートのハイブリダイゼーション特性を調べた。典型的な実験において、0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu32を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液および0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu33を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液を一緒に混合した(等濃度)。DNA−AuNPコンジュゲートAu32およびAu33を含有する溶液を一夜保温しておいた。この間に、赤色から紫色への色の変化と同時に起こるプラズモン共鳴バンドのゆっくりとした赤方移動(524nm→548nm)および幅の広がりにより明示される、相補的なオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートAu32およびAu33のゆっくりとしたハイブリダイゼーションが起こった。最終的に、そのDNA金ナノ粒子網状構造の沈殿が観察され、結果として透明な上清および黒ずんだ沈殿が生じた。そのDNA−AuNP溶液を激しく振盪した後、その沈殿を再度分散させることができ、548nmの紫外/可視極大を有する紫色の溶液がもたらされる。
6.2.2 2−チオ−2’−デオキシチミジン(2−thio−2’−deoxythmidine)に関する実験の詳細
オリゴヌクレオチド34および35の紫外スペクトルは、264nmにおいて唯一の吸収極大を示す(27に関する報告された文献の値:264nm;Vorbrueggen, H. et al., Chem. Ber. 106 (1973) 3039-3061)。オリゴヌクレオチド34および35を用いるDNA−AuNPを、上記で記述したように調製した。結果として得られたDNA−AuNPコンジュゲートAu−16およびAu−17は524nmにおけるプラズモン共鳴を示し、これは0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液中での凝集していない状態を示している。しかし、0.2M NaCl(10mMホスフェート(pH 7)緩衝液)の存在下では、凝集(溶液が黒色になる)、それに続く沈殿が即時に起こった。この結果に基づいて、2−チオ−2’−デオキシチミジン(27)をアンカー分子として用いるDNA−AuNPコンジュゲートは、0.2M NaClの存在下では不安定と分類される(表9、項目2参照)。
次に、チオヌクレオシド27を組み込んだオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートのハイブリダイゼーションを試験した。典型的な実験において、0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu34を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液および0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu35を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液を一緒に混合した(等濃度)。DNA−AuNPコンジュゲートAu34およびAu35を含有する溶液を一夜保温しておいた。そのDNA−AuNPコンジュゲート溶液の色の変化は観察されなかった。相補的なコンジュゲートAu34およびAu35を含有するDNA−AuNP溶液の紫外/可視スペクトルは524nmにおけるプラズモン共鳴を示し、これは凝集していない状態を示している
6.2.3 6−チオ−2’−デオキシグアノシンに関する実験の詳細
6−チオ−2’−デオキシグアノシン(28)を含有するオリゴヌクレオチド36および37の紫外−可視スペクトルは、ヌクレオシド28のチオオキソ基による343nmにおける特徴的な紫外吸収を示す(28に関する報告された文献の値:341nm;Iwamoto, R.H. et al., J. Med. Chem. 6 (1963) 684-688)。オリゴヌクレオチド36または37を用いるDNA−AuNPを、上記で記述した手順に従って調製した。しかし、我々は、36または37を有するDNA−AuNPコンジュゲートの調製は困難に直面することを見出した。オリゴヌクレオチド36および37のAuNPへのコンジュゲーションは数回失敗した(50%が失敗)。また、その遠心速度を8000rpm(標準的な速度)から5800rpmへとかなり低減させなければならず、そうでなければその沈殿を再度分散させることができなかった。
得られたDNA−AuNPコンジュゲートAu36およびAu37は524nmにおけるプラズモン共鳴を示し、これは凝集していない状態を示している。DNA−AuNPコンジュゲートAu36およびAu37の安定性を、0.2M NaCl、10mMホスフェート(pH 7)緩衝溶液中でさらに試験した(図13)。ガラスキュベット中での0.2M NaClの存在下での一夜の保温後、両方のコンジュゲートは525nmにおけるプラズモン共鳴を示す。少量のDNA−AuNPコンジュゲートのみがそのキュベットのガラス表面に接着する。そのDNA−AuNPコンジュゲート溶液の吸光度の高さは元の値から10〜14%減少した(図13)。この結果に基づいて、6−チオ−2’−デオキシグアノシン(28)をアンカー分子として用いるDNA−AuNPコンジュゲートは、0.2M NaClの存在下で安定と分類される(表9、項目3参照)。
次に、チオヌクレオシド28を組み込んだオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートのハイブリダイゼーション特性を調べた。典型的な実験において、0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu36を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液および0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu37を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液を一緒に混合した(等濃度)。DNA−AuNPコンジュゲートAu36およびAu37を含有する溶液を一夜保温しておいた。そのDNA−AuNPコンジュゲート溶液のごくわずかな色の変化が観察された。相補的なコンジュゲートAu36およびAu37を含有するDNA−AuNP溶液の紫外/可視スペクトルは、プラズモン共鳴バンドの赤方移動(524nm→538nm)、吸収の減少およびプラズモン共鳴バンドのわずかな幅の広がりを示す。しかし、我々は4−チオ−2’−デオキシチミジン(26)または7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(1)に関して記述したような一夜の保温後のDNA−AuNPの沈殿(節6.2.1および6.2.4を参照)を観察しなかった。数日(約1週間)後にようやくDNA金ナノ粒子網状構造の沈殿が観察され、結果として透明な上清および黒ずんだ沈殿が生じた。そのDNA−AuNP溶液を激しく振盪した後、その沈殿を再度分散させることができ、549.5nmの紫外/可視極大を有する紫色の溶液がもたらされる。
6.2.4 7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシンに関する実験の詳細
7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(1)を含有するオリゴヌクレオチド8および9の紫外−可視スペクトルは、ヌクレオシド1のチオオキソ基による345nmにおける特徴的な紫外吸収を示す(1に関する報告された文献の値:345nm;Seela, F. et al., Liebigs Ann. Chem. 1 (1987) 15)。オリゴヌクレオチド8または9を用いるDNA−AuNPを、上記で記述したように調製した。結果として得られたDNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu9は524nmにおけるプラズモン共鳴を示し、これは凝集していない状態を示している。DNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu9は、0.2M NaCl、10mMホスフェート(pH 7)緩衝溶液中でも再度分散した。
ガラスキュベット中での0.2M NaClの存在下での一夜の保温後、両方のコンジュゲートは524.5nmにおけるプラズモン共鳴を示す。少量のDNA−AuNPコンジュゲートのみがそのキュベットのガラス表面に接着する。そのDNA−AuNPコンジュゲート溶液の吸光度の高さは元の値から10〜14%減少した。この結果に基づいて、7−デアザ−6−チオ−2’−デオキシグアノシン(1)をアンカー分子として用いるDNA−AuNPコンジュゲートは、0.2M NaClの存在下で安定と分類される(表9、項目4参照)。
次に、チオヌクレオシド1を組み込んだオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートのハイブリダイゼーション特性を調べた。典型的な実験において、0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu8を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液および0.5mlのDNA−AuNPコンジュゲートAu9を含有する0.1M NaCl、10mMホスフェート(pH7)緩衝溶液を一緒に混合した(等濃度)。DNA−AuNPコンジュゲートAu8およびAu9を含有する溶液を一夜保温しておいた。この間に、赤色から紫色への色の変化と同時に起こるプラズモン共鳴バンドのゆっくりとした赤方移動(524nm→567nm)および幅の広がりにより明示される、相補的なオリゴヌクレオチドAuNPコンジュゲートAu8およびAu9のゆっくりとしたハイブリダイゼーションが起こった。最終的に、そのDNA金ナノ粒子網状構造の沈殿が観察され、結果として透明な上清および黒ずんだ沈殿が生じた。そのDNA−AuNP溶液を激しく振盪した後、その沈殿を再度分散させることができ、約567nmの紫外/可視極大を有する紫色の溶液がもたらされる。
上記で要約した実験(特に表9を参照)から、オリゴヌクレオチドが式Iに従うヌクレオシドに基づくチオオキソヌクレオチドを含んでいるオリゴヌクレオチド金コンジュゲートは、少なくとも特定の技術的観点において、そのオリゴヌクレオチドが先行技術から既知であるようなチオオキソヌクレオチド(例えば、表9の物質26および27それぞれ)を含んでいるオリゴヌクレオチド金コンジュゲートよりも優れていると思われる。