JP5842617B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
上記のように、吸入空気量の演算精度や応答性はその演算手法によって異なる。そこで、これらの手法をエンジンの運転状態に応じて使い分けることによって、吸入空気量をより正確に把握する技術が提案されている。
例えば、通常燃焼時の燃焼室内には、前行程で燃焼した排気の残留分である既燃ガスが存在する。図7(a)に示すように、既燃ガスはピストンが排気上死点に位置するときにシリンダーの上端部側に残留するガスであり、新気(すなわち、燃焼室に導入される外気)よりも酸素濃度が著しく低く、エンジントルクの増大にほとんど寄与しない。そのため、従来のエンジントルクの算出手法では、図7(b)に示すように、燃焼室内に存在する気体のうち、ピストンが吸気下死点まで移動する過程でシリンダー内に導入される新気の気体量が、いわゆる吸入空気量として演算されている。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
また、前記吸入空気量演算手段で前記加算値に基づいて演算された前記吸入空気量を用いて、前記エンジンの出力するトルクを演算するトルク演算手段と、前記始動時判定手段にて前記始動時であると判定されたときに、前記トルク演算手段で演算された前記トルクに基づき前記エンジンの運転パラメーターを制御する制御手段とを備える。
さらに、前記トルク演算手段が、前記新気空気量と前記加算値との比に基づき、前記始動時の前記トルクを演算する。
なお、前記始動時判定手段は、前記エンジンの何れかのシリンダーで最初の吸気行程又は燃焼行程が完了していない場合に、前記始動時であると判定することが好ましい。一方、全てのシリンダーで最初の吸気行程又は燃焼行程が完了している場合に、前記始動時でないと判定することが好ましい。
(4)また、前記新気空気量演算手段が、前記エンジンの吸気通路を流通する吸気流量に基づき前記新気空気量を演算することが好ましい。この場合、前記吸気流量を検出するエアフローセンサーを前記エンジンの吸気通路上(例えば、スロットルバルブの上流側)に設けることが好ましい。
(6)また、前記エンジンの吸気系に設けられたスロットルバルブ部の上流圧に対する下流圧の圧力比を演算する圧力比演算手段を備えることが好ましい。この場合、前記新気空気量演算手段が、前記圧力比と前記エンジンの回転速度とに基づき、前記新気空気量を演算することが好ましい。
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、図1に示す車載のガソリンエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面19aに沿って往復摺動自在に内装される。また、シリンダー19の天井面19bは、シリンダーヘッド側へ向かって突出した凸形状に形成される。図1では、天井面19bがペントルーフ型(三角屋根形状)に形成されたものが例示されている。この天井面19b,シリンダー19の内周面19a,ピストン16の頂面16aの三者に囲まれた空間は、エンジン10の燃焼室26として機能する。
燃焼室26の空間の容積は、ピストン16の上下方向(シリンダー19の筒軸方向)の位置に応じて変化する。例えば、ピストン16が上死点に位置するときに燃焼室26の容積が最小となり、ピストン16が下死点に位置するときに最大となる。なお、ピストン16が上死点に位置するときの容積(燃焼室26の最小容積であって隙間容積)をVcとおき、ピストン16が上死点から下死点まで移動するときの容積(行程容積であって、いわゆるシリンダー容積)をVとおくと、シリンダー19の圧縮比eは以下の式1で表される。
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
エンジン10のクランクシャフト17には、その回転角を検出するエンジン回転速度センサー31が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量(角速度)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー31は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。なお、エンジン回転速度センサー31で検出された回転角に基づいて、エンジン制御装置1の内部で実回転速度Neを演算する構成としてもよい。
また、車両の任意の位置(例えばアクセルペダルの近傍)には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサー33が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。
また、エアフローセンサー35は、吸気流量Qを検出する流量検出手段として機能する。吸気流量Qも、シリンダー19内に導入された吸入空気量に対応する実充填効率Ecの演算に用いられる。
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。
エンジン始動時判定部2(始動時判定手段)は、エンジン10の状態が停止状態からの始動時であるか否かを判定するものであり、所定の始動時条件が成立するときに、エンジン10の状態が始動時であると判定する。所定の始動時条件とは、例えば以下の全ての条件が成立することであり、キーセンサー36で検出された操作位置の情報やエンジン回転速度センサー31で検出された実回転速度Neの情報に基づいて判定される。
〔1〕キーセンサーで検出された操作位置がスタート位置又はオン位置である
〔2〕クランキング中である(実回転速度Neが所定の範囲内にある)
〔3〕クランキング行程数が所定値以下である
第一演算部3は、エンジン10の吸気性能を評価するための指標値の一つである体積効率係数Kmapを演算するものである。この体積効率係数Kmapとは、体積効率Evを吸気系圧力について標準化したものである。ここでいう吸気系圧力とは、エンジン10の吸気系で検出される圧力を意味し、例えばインマニ圧PIMやスロットルバルブ23の下流圧,上流圧,大気圧BPなどである。本実施形態では、測定時の大気圧が標準大気圧(一気圧;760[mmHg])であるときの値に体積効率Evを換算したもののことを、体積効率係数Kmapと定義する。
圧力比演算部3A(圧力比演算手段)は、エンジン10の吸気系圧力に基づいて、スロットルバルブ23部の上流圧に対する下流圧の比を圧力比RPRSとして演算するものである。本実施形態の圧力比RPRSは、インマニ圧センサー34で検出されたインマニ圧PIMと、大気圧センサー32で検出された大気圧BPとに基づいて演算される。ここで演算された圧力比RPRSの値は、体積効率係数演算部3Bに伝達される。なお、大気圧BPから吸気通路24内の圧力損失量を減じたものをスロットルバルブ23の上流圧として求め、これに対するインマニ圧PIMの比を圧力比RPRSとして演算してもよい。
第二演算部4は、シリンダー19に吸入されているものと推定される吸入空気量を演算するものである。ここでは、吸入空気量に相当するパラメーターとして、各シリンダー19の充填効率が演算される。充填効率とは、一サイクルで吸入された吸入空気の質量を標準大気条件での行程容積相当の空気質量で除したものである。また、第二演算部4は、エンジン10の始動時と始動時以外の時とでは異なる手法を用いて充填効率を演算する。図5に示すように、第二演算部4には、残留空気量演算部4A,新気空気量演算部4B,第二新気空気量演算部4C及び吸入空気量演算部4Dが設けられる。
トルク演算部5(トルク演算手段)は、第二演算部4で演算された吸入空気量を用いて、エンジン10から出力されるトルクを演算するものである。図6に示すように、トルク演算部5には、標準トルク演算部5A,吸気量比演算部5B及び始動時トルク演算部5Cが設けられる。
残留空気量と新気吸気量との加算値(すなわち、式6の分子に対応する値)は、実際に筒内に存在する空気量である。つまりここでは、実際に筒内に存在するトータルの空気量が新気空気量に対して何倍であるかを演算し、これと同じ割合でエンジン10から出力されるトルクが増大するものとしている。なお、式1,式2,式6を用いると、補正後トルクTESTは以下の式7のように二通りに表現することができる。
制御部6(制御手段)は、トルク演算部5で演算された補正後トルクTESTに基づいて、インジェクター18から噴射される燃料量や点火プラグ13での点火時期(点火リタード量),スロットルバルブ23のスロットル開度,可変動弁機構27で制御されるバルブリフト量及びバルブタイミング等を制御するものである。
(1)このように、本エンジン制御装置1では、エンジン10の始動時にシリンダー19内に導入される新気空気量に対応する値(センサー充填効率EcAFS)と、燃焼室26の容積に相当する残留空気量に対応する値(残留空気相当充填効率EcREM)との加算値に基づいて、エンジン10の始動時における吸入空気量に対応する充填効率(トータル充填効率EcTOTAL)が演算される。
したがって、残留空気量が考慮された正確な吸入空気量を求めることができ、エンジン10の制御性や始動性を高めることができる。例えば、エンジン10の始動直後の燃料噴射量,点火時期,スロットル開度等を適切に制御することができる。
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態の新気空気量演算部4Bは、エアフローセンサー35で検出された吸気流量Qに基づいてセンサー充填効率EcAFSを演算しているが、充填効率の演算手法はこれに限定されない。例えば、体積効率係数Kmap及びインマニ圧PIMに基づいてセンサー充填効率EcPIMを演算してもよい。この場合、体積効率係数Kmapは、体積効率係数演算部3Bで演算されたものを使用すればよい。あるいは、体積効率Evに吸気密度補正を施すことで充填効率を求めてもよい。
前述の吸気量比演算部5Bでは、式6に示すように、吸気流量Qから推定される新気空気量に対する比率が演算されているが、「吸気流量Qから推定される新気空気量」の代わりに「対象となるシリンダー19で吸気行程が実施されたときに導入されたものと推定される新気吸気量」を用いることも可能である。つまり、上記の式6の代わりに以下の式10を用いることが考えられる。この場合、始動時トルク演算部5Cで演算される補正後トルクは、以下の式11のように二通りに表現することができる。
上述の実施形態では、残留空気量と新気吸気量とのそれぞれに対応する充填効率を加算したものを実質的なエンジン10の吸入空気量としているが、充填効率を用いることなく実質的な吸入空気量を求めることも考えられる。例えば、残留空気の物質量(モル数)をn1とおき、新気の物質量をn2とおくと、エンジン始動時にシリンダー19内の空気の物質量はn1+n2である。一方、物質量n1及びn1+n2はそれぞれ、以下の式12,式13のように表現することができる。なお、これらの式12,式13中のTempは空気の温度,Rは気体定数であり、インマニ圧PIMの単位は[kPa]とする。
上述の実施形態のエンジン始動時判定部2は、条件〔1〕〜〔3〕の全てが成立したときにエンジン10の状態が始動時であると判定しているが、具体的なエンジン10の始動時の判定条件はこれに限定されない。例えば、クランキング行程数のみに基づいて始動時であるか否かを判定してもよいし、あるいは上記の始動時条件に加えて(または代えて)、イグニッションキースイッチが操作されてからの経過時間に関する条件を用いてもよい。少なくとも、図2(a),(b)に示すような残留空気がシリンダー19内に存在する状態であるか否かを判定するための条件が上記の始動時条件に含まれていればよい。
なお、上述の実施形態は、本エンジン制御装置1をガソリンエンジンに適用したものを例示したが、ディーゼルエンジンやその他の燃焼形式の内燃機関に適用することも可能である。
2 エンジン始動時判定部(始動時判定手段)
3 第一演算部
3A 圧力比演算部(圧力比演算手段)
3B 体積効率係数演算部(体積効率係数演算手段)
4 第二演算部
4A 残留空気量演算部(残留空気量演算手段)
4B 新気空気量演算部(新気空気量演算手段)
4C 第二新気空気量演算部(新気空気量演算手段)
4D 吸入空気量演算部(吸入空気量演算手段)
5 トルク演算部(トルク演算手段)
6 制御部(制御手段)
10 エンジン
31 エンジン回転速度センサー(回転速度検出手段)
32 大気圧センサー
33 アクセル開度センサー
34 インマニ圧センサー
35 エアフローセンサー
36 キーセンサー
Claims (7)
- エンジンのシリンダー内に残留する残留空気量を演算する残留空気量演算手段と、
前記エンジンのシリンダーに流入する新気空気量を演算する新気空気量演算手段と、
停止中の前記エンジンを始動させる始動時であるか否かを判定する始動時判定手段と、
前記始動時判定手段にて前記始動時であると判定されたときに、前記残留空気量及び前記新気空気量の加算値に基づいて前記エンジンの吸入空気量を演算する吸入空気量演算手段と、
前記吸入空気量演算手段で前記加算値に基づいて演算された前記吸入空気量を用いて、前記エンジンの出力するトルクを演算するトルク演算手段と、
前記始動時判定手段にて前記始動時であると判定されたときに、前記トルク演算手段で演算された前記トルクに基づき前記エンジンの運転パラメーターを制御する制御手段とを備え、
前記トルク演算手段が、前記新気空気量と前記加算値との比に基づき、前記始動時の前記トルクを演算する
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。 - 前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、
前記トルク演算手段が、前記回転速度及び前記新気空気量に基づき標準トルクを演算するとともに、前記標準トルクを前記比で補正することにより前記始動時の前記トルクを演算する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。 - 前記残留空気量演算手段が、前記始動時の大気圧に基づいて前記残留空気量を演算する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。 - 前記新気空気量演算手段が、前記エンジンの吸気通路を流通する吸気流量に基づき前記新気空気量を演算する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。 - 前記新気空気量演算手段が、前記エンジンの吸気系圧力に基づいて前記新気空気量を演算する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。 - 前記エンジンの吸気系に設けられたスロットルバルブ部の上流圧に対する下流圧の圧力比を演算する圧力比演算手段を備え、
前記新気空気量演算手段が、前記圧力比と前記エンジンの回転速度とに基づき、前記新気空気量を演算する
ことを特徴とする、請求項5記載のエンジンの制御装置。 - 前記圧力比と前記回転速度とに基づき、前記エンジンの体積効率を前記吸気系圧力で標準化した値に相当する体積効率係数を演算する体積効率係数演算手段を備え、
前記新気空気量演算手段が、前記体積効率係数に基づき、前記新気空気量を演算する
ことを特徴とする、請求項6記載のエンジンの制御装置。
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