自動車などの車体では、フロントガラスの車両前方側で、フードパネル後部の下側にフロントカウルメンバと呼ばれる部品が、車両幅方向に延在するように配置されている。
このフロントカウルメンバは、周知の通り、車体に対し略水平方向で車幅方向に対し平行に延在するように配置され、その端部をサスタワーと、また車体後方側をダッシュパネルなどの車体と連結され、車両上方向から流下する雨水などの水分を、エンジンルーム内に侵入させない雨樋の役目を果たしている。このため、フロントカウルメンバは、車両上方向を開口部とする略コの字あるいはL字型断面形状であるものが多く、必要に応じて種々の補強材や、ワイパーピボットなどの機能部品が接合される。
このフロントカウルメンバは、車両左右のタイヤからの入力荷重を受けるサスタワーの間を連結することで、走行時の車体剛性向上という役割も受け持っている。このため、本部品には、主に車両上下方向荷重に対するねじりおよび曲げ剛性、また、車幅方向圧縮力による圧縮剛性や強度が高いことも要求される。そして、自動車軽量化の観点から、これらの剛性や強度、更には歩行者保護性能を満足する機能を確保した上で、更に重量の軽量化を図り得ることも求められる。
アルミニウム合金(以下、アルミ合金とも言う)は、従来から使われている鋼板に比べて軽量であることから、このようなフレーム部品への適用も期待されている。しかし、鋼板に比べて素材コストが高く、加工性が低いこと、あるいは接合コストが高いことなどが問題になるため、それほど実用化は進んでおらず、カウルメンバへの適用事例も少ない。
このような適用事例に係る従来例1として、図8に示す如く、板材のカウルトップパネル22と、この部材の後上部に設けられたカウルボックスメンバ21で構成されたカウルボックス20において、フロントガラス26を支持するカウルボックスメンバ21に、軽合金の押出材を用いた事例が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、雨樋の役目を果たし、ワイパーピボットが連結されるフロントカウルメンバ本体に、アルミ合金等の軽合金押出型材を適用した従来例は見当らない。図8は、従来例1に係る車体カウルボックス部を、車幅方向に断面視したときの断面図である。
この原因のひとつとして、アルミ合金材料の破断限界が鋼板に比べて低いことがあげられる。フロントカウルメンバでは、特に車両幅方向端部側において、サスタワーなど他部品との干渉回避のために形状急変部を設けることが多いが、アルミ合金の場合、破断やしわなどの成形不良抑制のための縦壁角度や高さ、あるいは肩部位の角部半径などの制限が多く、前記形状急変部での成形性を確保することが難しいという問題があった。
また、近年では、歩行者保護性能を確保するために、従来例2に示される如く、フロントカウルメンバの一部に弱体化のための折れ点などを設けることも行われる(特許文献2参照)。
しかしながら、局部伸びの小さいアルミ合金では、局所的に折れ点などを形成する場合には、ひずみ集中による破断が生じやすいという問題があった。また、アルミニウム押出形材(以下、アルミ押出形材とも言う)をフロントカウルメンバに採用したとしても、前記従来例2に見られるような薄鋼板に比べて板厚が厚く、かつ素材耐力も高いために、変形強度が高いことが問題になる。このため、単純に棚などの折れ点を設けただけでは、所定の歩行者保護性能の確保は難しいという問題もあった。
一方、本フロントカウルメンバでは、サスタワーからの荷重入力に対して、曲げ、ねじりおよび圧縮剛性が要求される。軽量化効果を確保しつつ、効率よく剛性や強度を高めるためには、特にサスタワーと連結される部品フロント側のフランジ部の締結強度や剛性を高くすることが最も効率的である。このため、一般的な鋼板製部品では、フロント側フランジ部に補強材を接合して用いることが多い。しかし、単純にアルミ合金板に置換して同様の効果を得たとしても、素材費および接合費の上昇を招く上、加工面での製作などの面でメリットが小さいという問題も有していた。
従って、本発明の目的は、重量増加を抑えて変形強度と剛性を確保するとともに、軽量かつ低コストで製造可能なアルミ合金製フロントカウルメンバを提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明者らは、アルミ合金製フロントカウルメンバを構成するにあたり、素材としてアルミ押出形材を採用するとともに、前記カウルメンバの構成部位肉厚を最適化することによって、軽量化と剛性確保の両立が可能であるという知見に基づき本発明に至ったものである。
そして先ず、本発明の請求項1に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、車体に対し略水平でかつ車幅方向に略平行に延在する自動車用フロントカウルメンバにおいて、車幅方向に延在する車体前方側の前方フランジ部と、この前方フランジ部の車体後方端から車体下方向に連結された縦壁部と、この縦壁部の下端から車体後方側に連結された後方フランジ部とで構成されたアルミ押出形材のプレス成形品からなり、前記後方フランジ部は、この後方フランジ部を車幅方向と直交する断面で断面視したとき、上方向に開口部を有する樋状断面形状に形成される一方、前記前方フランジ部の一部領域に、他部品とボルト接合するためのボルト接合部が形成されるとともに、このボルト接合部の肉厚が前記後方フランジ部の肉厚より厚肉に構成されてなることを特徴とするものである。
本発明の請求項2に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、請求項1に記載の自動車用フロントカウルメンバにおいて、前記縦壁部の肉厚が、前記前方フランジ部のボルト接合部の肉厚より薄肉に、かつ前記後方フランジ部の肉厚より厚肉に形成されてなることを特徴とするものである。
本発明の請求項3に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、請求項1または2に記載の自動車用フロントカウルメンバにおいて、前記後方フランジ部の一部領域に、この後方フランジ部の他の領域の肉厚より厚いボルト接合面が形成され、このボルト接合面にボルトを介して車体と連結可能なボルト孔が設けられてなることを特徴とするものである。
本発明の請求項4に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、請求項1乃至3の何れか一つの項に記載の自動車用フロントカウルメンバにおいて、当該フロントカウルメンバを構成する前記前方フランジ部、縦壁部および後方フランジ部の何れかが、板厚面に傾斜面を形成してその肉厚が遷移するとき、前記傾斜面の板厚断面における角度変化が、5度以上かつ45度以下に形成されてなることを特徴とするものである。
本発明の請求項5に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、請求項1乃至4の何れか一つの項に記載の自動車用フロントカウルメンバにおいて、前記アルミ押出形材の前記縦壁部の高さ方向中間領域に車体前後方向に延びる棚部が配設されており、この棚部の車体前方側またはそれよりも車体上方側の前記縦壁部に弱体化部が設けられてなることを特徴とするものである。
本発明の請求項6に係る自動車用フロントカウルメンバが採用した手段は、請求項1乃至5の何れか一つの項に記載の自動車用フロントカウルメンバにおいて、前記アルミ押出形材が、5000系、6000系あるいは7000系の何れかのアルミニウム合金からなることを特徴とするものである。
本発明の請求項1に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、車体に対し略水平でかつ車幅方向に略平行に延在する自動車用フロントカウルメンバにおいて、車幅方向に延在する車体前方側の前方フランジ部と、この前方フランジ部の車体後方端から車体下方向に連結された縦壁部と、この縦壁部の下端から車体後方側に連結された後方フランジ部とで構成されたアルミ押出形材のプレス成形品からなり、前記後方フランジ部は、この後方フランジ部を車幅方向と直交する断面で断面視したとき、上方向に開口部を有する樋状断面形状に形成される一方、前記前方フランジ部の一部領域に、他部品とボルト接合するためのボルト接合部が形成されるとともに、このボルト接合部の肉厚が前記後方フランジ部の肉厚より厚肉に構成されてなる。
その結果、当該前方フランジ部を荷重入力点であるサスタワーに連結することにより、補強材を伴わずに部品の曲げおよびねじり剛性、また圧縮剛性や強度を確保することが出来る。このため、従来の補強材を有する鋼板構造に比べて、部品点数および溶接費用の低減によるコストダウンが可能になる。
また、素材にアルミ押出形材を用い、差厚押出形材のプレス成形により部品を構成することにより、接合や鍛造あるいは切削加工によらず断面内の肉厚差が設けられ、溶接軟化や強度の塑性加工に伴う材質変化が無く、かつ断面内で比較的均一な製品性能を低コストに確保することが出来る。更に、閉断面部の無い開断面型の押出形材を素材として用いるために、プレス下死点では製品両面を金型で拘束することが可能であり、形状精度も確保できる。
本発明の請求項2に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、前記縦壁部の肉厚が、前記前方フランジ部のボルト接合部の肉厚より薄肉に、かつ前記後方フランジ部の肉厚より厚肉に形成されてなるので、サスタワーとの連結部となる前記前方フランジ部から車幅方向に圧縮荷重が加わった際、フロントカウルメンバ後方側は車体と連結されているために、車体前方側になるほど高い圧縮力が加わることになり、最も前方側に配置される前記前方フランジのボルト接合部の肉厚が最も厚く、次いで縦壁部の肉厚が厚く、前記後方フランジの肉厚を最も薄くすることが、軽量化と剛性確保の両立という観点から好ましい。
また、本発明の請求項3に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、前記後方フランジ部の一部領域に、この後方フランジ部の他の領域の肉厚より厚いボルト接合面が形成され、このボルト接合面にボルトを介して車体と連結可能なボルト孔が設けられてなるので、曲げ、ねじりおよび圧縮荷重が加わった際に、局所的な応力が生じる前記後方フランジ部の軽量化と剛性向上の両立が可能となった。
更に、本発明の請求項4に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、当該フロントカウルメンバを構成する前記前方フランジ部、縦壁部および後方フランジ部の何れかが、板厚面に傾斜面を形成してその肉厚が遷移するとき、前記傾斜面の板厚断面における角度変化が、5度以上かつ45度以下に形成されてなるので、アルミ成形金型とアルミ合金素材との接触荷重も分散され、成形時のひずみ集中の緩和や折れ変形の防止に有効である。
また更に、本発明の請求項5に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、前記アルミ押出形材の前記縦壁部の高さ方向中間領域に車体前後方向に延びる棚部が配設されており、この棚部の車体前方側またはそれよりも車体上方側の前記縦壁部に弱体化部が設けられてなる。この弱体化部は、歩行者との衝突の際に、弱体化部を起点に容易に曲げ変形あるいは、座屈、破断などが生じやすくするために設けたものであり、変形時の荷重を低く出来ることで、歩行者の頭部に加わる衝撃を和らげる効果がある。同時に、この弱体化部を棚よりも上方向に設けることで、前記アルミ押出形材の成形において、この弱体化部を起点とする破断を防止出来る。
本自動車用フロントカウルメンバは差厚押出形材のプレス成形品として構成されている。従い、フロントカウルメンバに雨樋としての排水機能を持たせる関係上、車幅中央部に比べて両端部側のカウルメンバ底面は車両下方側に配置される必要がある。この際、プレス成形で、この領域の前記縦壁部高さを高くする必要があるが、縦壁部に棚が無く、前記弱体化部として折れ点や薄肉部がこの縦壁部に配設されている場合、プレス成形時にもこの弱体化部が優先的に変形してしまい、破断しやすいという問題点を有している。
また、棚を設けた場合でも、この棚よりも下側、つまりプレス成形での張力を直接受ける領域に前記弱体化部となる折れ点や薄肉部が配設されている場合も同様に、この部位に変形が集中しやすいために破断が生じやすいという問題がある、しかしながら、上述の如く縦壁部の高さ方向中間領域に車体前後方向に延びる棚部を配設するとともに、この棚部の車体前方側またはそれよりも車体上方側の前記縦壁部に、前記アルミ押出形材を成形する際に弱体化部を設けた場合、プレス成形での張力はこの棚部に対応する金型により支持されるために、前記弱体化部での変形は抑制されることになる。このため、プレス成形時の破断抑制と製品となった際の歩行者保護性能確保を両立させることが出来る。
そして、本発明の請求項6に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、前記アルミ押出形材が、5000系、6000系あるいは7000系の何れかのアルミニウム合金からなるので、素材として自動車用フロントカウルメンバに必要な強度と剛性を確保し得る。
先ず、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバについて、以下添付図1〜4を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバの模式的斜視図、図2は図1の自動車用フロントカウルメンバを車幅方向に断面視した模式的断面に係り、図(a)は図1の垂直断面AにおけるX方向矢視図、図(b)は図1の垂直断面BにおけるY方向矢視図、図3は本発明の他の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバの模式的斜視図、図4は図3の自動車用フロントカウルメンバを車幅方向に断面視した模式的断面に係り、図3の垂直断面BにおけるY方向矢視図である。尚、図1では、ストッパーを省略して図示している。
本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバは、図1に示す通り、車体に対し略水平でかつ車幅方向に略平行に延在する自動車用フロントカウルメンバにおいて、車幅方向に延在する車体前方側の前方フランジ部2と、この前方フランジ部2の車体後方端から車体下方向に連結された縦壁部3と、この縦壁部3の下端から車体後方側に連結された後方フランジ部4とで構成されたアルミ押出形材を素材として、車体の上下方向にプレス成形したプレス成形品1からなる。
ここで、上述の「車体に対し略水平でかつ車幅方向に略平行」とは、車幅方向へ曲率変化に沿って凸状に形成されたエンジンルームのフードに沿って、前記自動車用フロントカウルメンバも車幅方向へ曲率変化に沿って凸状に形成されているのに対し、前記フロントカウルメンバが、前記フードに対して平均的には水平状態を維持し、かつ車幅方向には平均的に平行な状態に形成されていることを言う。
そして、前方フランジ部2には、ボルト接合部17が車幅方向に渡って形成されるとともに、このボルト接合部17の肉厚t1は、後方フランジ部4の肉厚t3より厚肉に構成される。一方、ボルト接合部17の車幅方向両端部にはボルト孔17a,17aが夫々形成され、フロントサスペンション装置の上部を支持するため車体に取り付けられた図示しないサスタワー(サスペンションタワー)に、ボルトを介して結合可能に構成されている。尚、この場合、前記ボルト接合部17はフランジ部2と全く同一部位を形成している。
その結果、前方フランジ部2のボルト接合部17を荷重入力点であるサスタワーに連結することにより、補強材を伴わずに部品の曲げおよびねじり剛性、また圧縮剛性や強度を確保することが出来る。このため、従来の補強材を有する鋼板構造に比べて、部品点数および溶接費用の低減によるコストダウンが可能になる。
一方、後方フランジ部4は、図2に示す通り、この後方フランジ部4を車幅方向に断面視したとき、上方向に開口部を有する樋状断面形状(略コの字断面形状)に形成されている。その結果、この後方フランジ部4が、エンジンルーム内への水分の侵入を防止する雨樋の役割を果たし、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバは、前方フランジ部2と縦壁部3と後方フランジ部4を有するアルミ押出形材を素材とするプレス成形品1として一体化されることにより、部品点数の削減および溶接無用化によるコスト低減が可能となり、また従来の板材成形品の点接合部品に比べて剛性および強度を高くすることが出来る。
この後方フランジ部4の車体後方側の一部には、この後方フランジ部4の他の領域の肉厚t3より厚い厚肉t4を有するボルト接合面6が設けられ、更にこのボルト接合面6の後端にはストッパー7が設けられているのが好ましい。前記ストッパー7の役目については後述する。そして、このボルト接合面6に形成されたボルト孔6aにボルトを通して、図示しない車体のダッシュパネルと連結可能に構成されている。
その結果、曲げ、ねじりおよび圧縮荷重が加わった際に、局所的な応力が生じる後方フランジ部4の軽量化と剛性向上の両立が可能となった。尚、アルミ押出形材を用いるという関係上、上記構造を採用する場合には、軸線方向(形材長手方向)に沿う同一断面位置に、車体後方側のボルト接合部が存在するように車体とのボルト接合面6を形成し、この接合面6にボルト孔6aを設けることが肝要である。
また、縦壁部3の肉厚t2は、前方フランジ部2におけるボルト接合部17の肉厚t1より薄肉に、かつ後方フランジ部4の肉厚t3より厚肉に形成されるのが好ましい。即ち、サスタワーとの連結部となる前方フランジ部2から車幅方向に圧縮荷重が加わった際、フロントカウルメンバ後方側は車体と連結されているために、車体前方側になるほど高い圧縮力が加わることになり、最も前方側に配置される前方フランジ2のボルト接合部17の肉厚t1が最も厚く、次いで縦壁部3の肉厚t2が厚く、後方フランジ4の肉厚t3を最も薄くする(t1>t2>t3)ことが、軽量化と剛性確保の両立という観点で好ましい。
具体的には、前方フランジ部2のボルト接合部17の肉厚t1=2〜6mm、後方フランジ部4の肉厚t3=1〜2mmとし、縦壁部3の肉厚t2をt1>t2>t3の範囲で選択するのが好ましい。そして、更に前方フランジ部2のボルト接合部17の肉厚t1は、後方フランジ部4の肉厚t3の2倍以上とすることが好適である。その結果、本発明の実施の形態に係る自動車用フロントカウルメンバは、前方フランジ部2でサスタワーを連結して、車体剛性と強度に大きく寄与する一方、縦壁部3および後方フランジ部3で、エンジンルーム内への水分の侵入を防止する雨樋としての軽量化を図ることが出来る。
本発明のように、アルミ押出形材を素材とする自動車用フロントカウルメンバによれば、このような肉厚の異なる前方フランジ部2、縦壁部3、後方フランジ部4およびボルト接合面6が一体となった、複雑な断面形状を有する自動車用フロントカウルメンバを一気にかつ一体的に製造できる。即ち、前方フランジ部2やボルト接合面6ような比較的高い強度や剛性が必要な部位と、後方フランジ部4のようなそれほど高い強度や剛性が不要な部位とが結合した部材であって、互いに異なる厚み部分を有する差厚部材を、熱間押出によって、一気にかつ一体的に製造できる点が大きな利点である。
アルミ押出形材を成形する際、前記フランジ部2はボルト接合部17と全く同一部位を形成する必要はなく、図3,4に示す如く、ボルト接合部17の車体前方側の一部領域に薄肉部18を設けて形成されても良い。
即ち、前方フランジ部2のボルト接合部17を厚くした方が、軽量化効果も大きくなる場合が多いが、あまり厚くしすぎると端面をトリム加工できない等、施工面で問題が生じる。これを回避するために、ボルト接合部17の肉厚t1は厚肉にする一方、更に、このボルト接合部17の車体前方側に、薄肉部18を設けてアルミ押出形材を成形するのである。
前方フランジ部2全面を単純に厚肉のままとして成形した場合、レーザーカットなどで端部形状を形成するに当り、加工コストがかなり高くなってしまうが、このように、前方フランジ部2の車体最前方側に薄肉部18を形成した場合、この薄肉部18をトリミングすれば良いので、スクラップになる部分の肉厚も薄くなり、材料歩留まりという点でも有利である。そして、前記トリミング後にプレス成形して、所定のプレス成形品1が得られる。
通常用いられている鋼板製の自動車用フロントカウルメンバは、車幅方向全面に延在する補強材とメインメンバを接合して構成され、特にサスタワーの接合されるボルト接合部近傍の板厚を補強している。これに対して、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバは、メインメンバ一枚板の差厚押出形材で構成されている。単純にアルミ合金の一枚板によって、上記鋼板製の自動車用フロントカウルメンバと同等の剛性を確保しようとする場合、板厚が2.6mm以上となり比較的厚肉のアルミ合金板が必要になる。それでも、当該カウルメンバ重量は、鋼板からアルミ合金板に変更したことにより約60%程度まで軽減できる。
しかしながら、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、更に肉厚配分を上記の如く適正化することにより、前記カウルメンバ重量を鋼板製の45%程度まで軽減することが可能であり、同一厚さのアルミ合金製の一枚板で構成する場合に対して約15%も重量軽減が可能となるのである。
また、縦壁部3の板厚面に傾斜面8が形成されて、その肉厚が厚肉側肉厚t2から薄肉側肉厚t2aに遷移するとき、前記傾斜面8の板厚断面における角度変化(圧肉側または薄肉側の板厚面と傾斜面との断面上の角度差)θが、5度以上かつ45度以下に形成されるのが好ましい。そのため、アルミ成形金型と素材との接触荷重も分散され、成形時のひずみ集中の緩和や折れ変形を防止出来る。尚、前記傾斜面8は縦壁部3に限定されることなく、本フロントカウルメンバを構成する前方フランジ部2、縦壁部3および後方フランジ部4の何れか一つ以上の部位に形成されても良い。
本実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、素材にアルミ押出形材を用い、差厚押出形材のプレス成形品1として部品を構成することにより、接合や鍛造あるいは切削加工によらず断面内の肉厚差が設けられ、溶接軟化や強度の塑性加工に伴う材質変化が無く、かつ断面内で比較的均一な製品性能を低コストに確保することが出来る。即ち、Z字状あるいはL字状、コの字状など予め最終製品に近い断面形状の押出形材素材からプレス成形品1とすることが可能であり、成形時の張出量を低減できるという利点も生じる。
尚、図1〜4では、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバの基本構成のみ示しているが、ワイパーピボットなどの機能部品を連結するための接合用ブラケットなどや種々の補強材が更に接合されても良い。
更に、前記アルミ押出形材が、5000系、6000系あるいは7000系の何れかのアルミ合金からなるのが、素材として自動車用フロントカウルメンバに必要な強度と剛性を確保し得る点から好ましい。そして、耐腐食性や信頼性と素材強度の両立という観点からは、6000系アルミ合金で構成されていることが最も望ましい。
これらのアルミ合金の押出形材は、熱間押出後にプレス成形され、その後、熱処理型の6000系あるいは7000系合金では、溶体化処理および焼き入れ処理(質別記号T4)やその後の時効処理(質別記号T6)、過時効処理(質別記号T7)などが施されて、自動車用フロントカウルメンバ材(素材)として用いられる。ちなみに表面処理自体は不要であるが、例えばサスタワーや連結用のブラケットなど、他の鋼製や鉄製の自動車部材と接合される場合には、異材同士の電位差による電食の防止のために、接合部に樹脂(接合を兼ねた樹脂でも可)を介在させて、アルミと鋼や鉄とを絶縁することが好ましい。
尚、本願発明に係るフロントカウルメンバの一部に他部品と連結用のブラケットなどを接合する場合、MIG溶接、レーザー溶接、スポット溶接、あるいはセルフピアスリベットやボルト接合など必要に応じて便宜選択すれば良い。
以上、本発明の実施の形態1に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、最も前方側に配置される前方フランジ2のボルト接合部17の肉厚t1が最も厚く、次いで縦壁部3の肉厚t2が厚く、後方フランジ4の肉厚t3を最も薄くする(t1>t2>t3)ことにより、サスタワーとの連結部となる前方フランジ部2から車幅方向に圧縮荷重が加わった際、フロントカウルメンバ後方側は車体と連結されているために、車体前方側になるほど高い圧縮力に耐えうる構成を備えて車体剛性と強度に大きく寄与する一方、縦壁部3および後方フランジ部4で、エンジンルーム内への水分の侵入を防止する雨樋としての軽量化を図ることが出来る。
次に、本発明の実施の形態2に係る自動車用フロントカウルメンバにつき、以下添付図5,6を参照しながら説明する。図5は本発明の実施の形態2に係る自動車用フロントカウルメンバの模式的斜視図、図6は図5の自動車用フロントカウルメンバを車幅方向に断面視した模式的断面に係り、図(a)は図5の垂直断面AにおけるX方向矢視図、図(b)は図5の垂直断面BにおけるY方向矢視図である。尚、図5では、ストッパーを省略して図示している。
そして、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、棚部の有無にあり、その他は全く同構成であるから、棚部についての説明に止めるものとする。
即ち、本発明の実施の形態1においては、自動車用フロントカウルメンバが、車幅方向に延在する車体前方側の前方フランジ部2と、この前方フランジ部2の車体後方端から車体下方向に連結された縦壁部3と、この縦壁部3の下端から車体後方側に連結された後方フランジ部4とで構成されたアルミ押出形材のプレス成形品1から形成されていた。
これに対し、本発明の実施の形態2においては、前記アルミ押出形材が成形される際に、縦壁部3の高さ方向中間領域に車体前後方向に延びる棚部5が形成されるとともに、この棚部5の車体前方側またはそれよりも車体上方側の前記縦壁部3に弱体化部9が設けられている。そのため、前記アルミ押出形材の成形時に、この弱体化部9に張力が作用することがなく、この弱体化部9を起点として破断することを防止出来る。
本自動車用フロントカウルメンバは、差厚押出形材のプレス成形品1として構成されている。従い、フロントカウルメンバに雨樋としての排水機能を持たせる関係上、車幅中央部に比べて両端部側のカウルメンバ底面は車両下方側に配置される必要がある。この際、プレス成形で、この領域の縦壁部3高さを高くする必要があるが、縦壁部3に棚部5が無く、弱体化部9として折れ点や薄肉部がこの縦壁部3に配設されている場合、プレス成形時にもこの弱体化部9が優先的に変形してしまい、破断しやすいという問題点を有している。
また、棚部5を設けた場合でも、この棚部5よりも車体下方側、つまりプレス成形での張力を直接受ける領域に弱体化部となる折れ点や薄肉部が配設されている場合も同様に、この部位に変形が集中しやすいために破断が生じやすいという問題がある、しかしながら、上述の如くアルミ押出形材を成形する際に、縦壁部3の高さ方向中間領域に車体前後方向に延びる棚部5を配設するとともに、この棚部5の車体前方側またはそれよりも車体上方側における縦壁部3の一部に弱体化部9を設けた場合、プレス成形での張力はこの棚部5に対応する金型により支持されるために、前記弱体化部9での変形は抑制されることになる。このため、プレス成形時の破断抑制と製品となった際の歩行者保護性能確保を両立させることが出来る。
次に、本発明の実施の形態2に係る自動車用フロントカウルメンバの弱体部の作用効果を説明するため、以下図7とともに図5,6も併せて参照しながら説明する。図7は、本発明の実施の形態2に係る自動車用フロントカウルメンバと関連部材との取り合い関係を示す、図1の垂直断面AにおけるX方向相当の模式的矢視図であって、図(a)は本フロントカウルメンバを搭載する自動車が歩行者等に接触してフード上に人体が乗り上げた状態を、図(b)は弱体化部でこのフロントカウルメンバが折れ変形し、フードとともに陥没した状態を示す。
車体前方側のエンジンルームの上方を開閉可能に覆うフード12と、車体後方側のフロントガラス13との間には、車幅方向に延在する樹脂製のカウルルーバ14が配設されている。フロントガラス13はカウルアウタ15に固定支持され、このカウルアウタ15は、車体を構成する図示しないダッシュパネルに下記の通り取り付けられている。
即ち、本発明に係るフロントカウルメンバは、ボルト接合部17の車幅方向両端部に形成されたボルト孔17aに図示しないボルトを通して、車体の車幅方向両端部に配設された図示しないサスタワーに固定されると共に、後方フランジ部4の車体後方側に形成されたボルト接合面6のボルト孔6aにボルト10を通して、カウルアウタ15とともに車体を構成する図示しないダッシュパネルに固定されている。ストッパー7は、フロントガラス13を支持するカウルアウタ15を、フロントカウルメンバとともに前記ダッシュパネルに取り付ける際の仮止め機能を有している。
このフロントカウルメンバは、車幅方向への曲率変化に伴い凸状に形成されたエンジンルームのフード12の形状に沿って、車幅方向への曲率変化に伴って凸状に形成されている。そして、フロントカウルメンバの前方フランジ部2上面に、車幅方向に沿って延びるゴム製のリアシール16が取り付けられている。このリアシール16の断面には中空部が形成されており、フード12が閉じられたときはインナパネル12aと当接して、前記中空部が水平に潰されて弾性変形するようになっている。
従って、リアシール16は、フード12が閉じられたときにインナパネル12aとほぼ隙間無く当接することによって、フード12とカウルルーバ14との間をシールするものであり、これによりエンジンルームの熱気が外部に漏れるのを防止している。
一方、フロントカウルメンバの車体後方側に形成された後方フランジ部4も、前方フランジ部2と同様、車幅方向への曲率変化に伴って凸状に形成され、上方向に開口部を有する樋状断面形状をなしている。そのため、雨天時や洗車時にフロントガラス13表面から流下してくる水滴は、前記開口部から樋状断面形状をなす後方フランジ部4で受け止められた後、車幅方向両端部へ向かって流れて、車外へ排水されるように構成されている。
本フロントカウルメンバを構成する縦壁部3の一部には弱体化部9が設けられているので、本フロントカウルメンバを搭載する自動車が歩行者等に接触してフード12上に人体が乗り上げた時、図5(b)に示す如く、前記弱体化部9でこのフロントカウルメンバが折損して、フード12とともに陥没することによって、人体への衝撃が緩和される。
以上説明した通り、本発明に係る自動車用フロントカウルメンバによれば、前方フランジ部、縦壁部および後方フランジ部で構成されたアルミ押出形材のプレス成形品からなり、前記後方フランジ部は、この後方フランジ部を車幅方向と直交する断面で断面視したとき、上方向に開口部を有する樋状断面形状に形成される一方、前記前方フランジ部の一部領域に、他部品とボルト接合するためのボルト接合部が形成されるとともに、このボルト接合部の肉厚が前記後方フランジ部の肉厚より厚肉に構成されている。
その結果、当該前方フランジ部をサスタワーに連結することにより、補強材を伴わずに部品の曲げおよびねじり剛性、また圧縮剛性や強度を確保することが出来、従来の補強材を有する鋼板構造に比べて、部品点数および溶接費用の低減によるコストダウンが可能になる。また、素材にアルミ押出形材を用い、差厚押出形材のプレス成形により部品を構成することにより、接合や鍛造あるいは切削加工によらず断面内の肉厚差が設けられ、溶接軟化や強度の塑性加工に伴う材質変化が無く、かつ断面内で比較的均一な製品性能を低コストに確保することが出来る。