JP2008006935A - 自動車用複合部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】軽量化を犠牲とせずに、むしろ軽量化させた上で、ハイテンを用いる自動車用中空部材の最大荷重や初期剛性を向上できる自動車用複合部材を提供することを目的とする。
【解決手段】高張力鋼製中空部材2の少なくとも長手方向中央部2cの中空部内に、アルミニウム合金補強材5が挿入され、この中空部内面にアルミニウム合金補強材外縁部が当接するように嵌合されている自動車用複合部材とし、複合部材の荷重変位関係における最大荷重と初期剛性とを高め、高張力鋼製中空部材2の軽量化を犠牲とせずに、むしろ軽量化させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車用ドアビームなどに用いられる自動車用複合部材に関し、高張力鋼製中空部材とアルミニウム合金補強材とが組み合わされ、単位重量当たりの強度、剛性に優れた自動車用複合部材に関する。
本発明自動車用複合部材によれば、単位重量当たりの強度、剛性(以下、単に強度、剛性とも言う)が向上するため、アルミニウム合金補強材付加による重量増加が最小限に抑制される。また、更に、設計によっては、複合部材の全体重量として、高張力鋼製中空部材単体の場合よりも軽量化が可能である。
したがって、本発明自動車用複合部材は、ドアビーム、ピラー(A、B、Cの各ピラー)、ロッカー(サイドロッカー)、ヒンジ(フードヒンジ)、ロック(フードロック)、ウエイスト(ドアウエイスト)ル−フサイドレールなどの自動車用の高張力鋼製中空部材に適用できる。ただ、以下の説明は、自動車のドア用補強部材としてのドアビームを中心に行なう。
自動車においては、側方から衝突された場合に発生するドアの車室内への陥入を防止して乗員を保護するため、ドアの内部に、ドア自体を補強し、衝突時の衝撃を吸収するするドアビーム(インパクトビームとも言う)が一般に装着されている。
図6はドアビームの取付状態を示す図で、ドア100の内部の略中央部に地面と平行にドアビーム50が装着され、車両の側面からの衝突に対して、ドア100が車両内部に陥入するのを防止している(図示は車体前部に向かって左側のドア)。このドアビーム50には、軽量化および低コスト化を図るため、通常は高張力鋼(高張力鋼板)が使用されている。
ドアビーム50の構造は、例えば、図7に示すように、各々高張力鋼板(薄板)を成形した、略円形断面がその長手方向に亙って延在する中空ビーム部51と、この中空ビーム部51の長手方向の両端部に取り付けられた、平坦な取付ブラケット部52、53とからなる。この取付ブラケット部52、53によって、ドアビーム50はドア100(インナパネル)へ接合、取付される。
このようなドアビームは、自動車の車室外の側方からの衝突(以下、側突とも言う)において、ドアビームの横断面方向に衝突荷重が負荷される。この際、ドアビームには曲げ荷重が加わり、中央部で最大の応力を受けることになるり、曲げ荷重を効果的に克服する強度(座屈強度)が必要となる。また、車両用補強部材としてのドアビームには、自動車の燃費向上の観点から、前記強度とともに、軽量かつ低コストであることが要求されている。
このようなドアビームには、従来から、前記した軽量化および低コスト化を図るために、引張強さが490MPa以上、場合によっては約1000MPa級などの高張力鋼鈑(以下、ハイテンとも言う)が使用されている。
しかし、使用するハイテンの引張強さを高くしても、薄肉化されたハイテン製ドアビームでは、管の径(d)と肉厚(t)との比、径厚比(d/t)によって定まる耐局部変形性はどうしても弱くなる。このため、ハイテンを高強度化して薄肉化したドアビームほど、耐局部変形性は弱くなり、座屈荷重(座屈強度)が低く、荷重を高くするためには薄肉化に限界がある。
この局部変形を向上させようとすると、どうしてもハイテンの肉厚を厚くする必要があるが、これでは高強度化による軽量化の方が犠牲となるために、ハイテンをドアビーム用いる意義自体が失われる。これは、ドアビームに限らず、前記したハイテンを用いる自動車用中空部材に共通する問題である。
また、ドアビームでは、側突において、ドアビームの横断面方向に衝突荷重が負荷される。この際、ドアビームには曲げ荷重が加わり、中央部で最大の応力を受けることになり、曲げ荷重を効果的に克服する強度、剛性が必要となる。
これに対して、従来から、ハイテン製ドアビームの中央部に部分的に補強材を設けて、補強する手段が提案されている。例えば、特許文献1には、円形中空断面のドアビームの中央部に、ドアインナパネルにドアビームを支持する補強ブラケット(保持部材)を設けることが提案されている。特許文献1では、この補強ブラケットによって、ドアビーム長手方向の中間部を保持し、ドアビームの支持点を増して、座屈荷重(座屈強度)を向上させようとするものである。
また、特許文献2には、円形中空断面のドアビームに鋼板をプレス成形する際に、鋼板の幅方向の両端部同士を中空断面内に収容する形で更に折り曲げ、想定される側突方向に平行に延在する折り曲げ部(リブ部)を設けることが提案されている。特許文献2では、この側突方向に平行に延在する折り曲げ部(リブ部)によって、自動車の側面衝突時における荷重の入力方向が車幅方向と一致しない場合でも、十分な衝撃エネルギー吸収効率を得ようとしている。
更に、特許文献3には、棒状の中空ドアビームの中央部の断面を、両端部側よりも大きく、太径とすることが提案されている。特許文献3では、肉厚の代わりに、ドアビームの中央部の径を大きくして、肉厚増加と同じ、座屈荷重(座屈強度)向上効果を得ようとしている。
特開平10−138757号公報(全文) 特開平11−59181号公報(全文) 特開2002−154327号公報(全文)
特許文献1のように、円形中空断面のドアビームの中央部に補強ブラケットを設ける場合には、この補強ブラケットを接合するための、ドア(インナパネル)側の構造変更が必要となる。また、補強ブラケットを設ける工程も負荷されることとなる。そして、座屈荷重を向上させるだけの鋼製補強ブラケットとしては、十分な大きさや厚さが当然必要となり、その分の重量も増加される。
また、特許文献2も、十分な衝撃エネルギー吸収効率を得るためには、側突方向に平行に延在する折り曲げ部(リブ部)の十分な厚みが必要となる。この厚みが薄くては、衝撃エネルギー吸収効果が薄く、折り曲げ部(リブ部)を設ける意味が無い。このため、この厚みを確保するためには、当然、ドアビームに成形される鋼板の厚みを厚くする必要があり、軽量化が犠牲にならざるを得ない。また、帯鋼板をプレス成形して折り曲げ、更に継ぎ目を設けるなどの複雑な加工を行なうため、加工性が優れた鋼板しか使用できず、加工性が劣る高張力鋼板を使うには大きな制約がある。このため、低強度の鋼板を使わざるを得ず、板厚が厚くなり、軽量化が犠牲にならざるを得ない。
更に、特許文献3も、座屈荷重(座屈強度)や曲げ剛性向上効果を得るためには、中空ドアビームの中央部の断面を相当太径化する必要があり、ドア内部の狭い設置スペースと矛盾することとなる。また、一枚の鋼板を成形して、両端部の小径部と中央部の太径部を作る場合には、中央部の太径化部分では、当然板厚が減少する。したがって、この板厚減少によっても座屈荷重向上効果を得るためには、元の鋼板板厚を大きくする必要があり、結局、軽量化が犠牲にならざるを得ない。
したがって、これら従来技術に共通しているのは、ハイテン製ドアビームの座屈荷重(座屈強度)や曲げ剛性を高めるなどの補強をするためには、ドアビームの軽量化が犠牲にならざるを得ない点である。これらは、ドアビームに限らず、前記したハイテンを用いる自動車用中空部材に共通する課題である。
この点に鑑み、本発明は、軽量化を犠牲にせずに、ドアビームなどの高張力鋼製中空部材の補強が可能な自動車用複合部材を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための、本発明自動車用複合部材の要旨は、高張力鋼製中空部材の少なくとも長手方向中央部の中空部内に、アルミニウム合金補強材が挿入され、この中空部内面にアルミニウム合金補強材外縁部が当接するように嵌合されていることである。
この際、前記高張力鋼製中空部材がその長手方向に亙って略円形状の半径方向断面を有し、前記アルミニウム合金補強材がその長手方向に亙って略円形状の半径方向断面を有する押出中空形材からなることが好ましい。
また、前記アルミニウム合金補強材が、その長手方向に亙って延在するとともに、当該自動車用複合部材の想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に延在する補強リブを有していることが好ましい。
また、前記アルミニウム合金補強材が、前記高張力鋼製中空部材の長手方向の中央部と両端部の中空部内に、各々アルミニウム合金補強材が挿入されていることが好ましい。
そして、軽量化を犠牲にせずにドアビームなどの高張力鋼製中空部材の補強を可能とするためには、具体的な性能として、前記複合部材の、前記アルミニウム合金補強材を設けない以外は同じ条件とした高張力鋼製中空部材単体に対する、最大荷重が1.2倍以上であるとともに初期剛性が1.1倍以上であることが好ましい。これらは実際の測定試験に依らずとも、解析(シミュレーション)によるものであっても良い。
更に、軽量化を犠牲にせずにドアビームなどの高張力鋼製中空部材の補強を可能とするとは、具体的に、自動車用複合部材の前記高張力鋼製中空部材側の肉厚が、前記アルミニウム合金補強材を設けない高張力鋼製中空部材単体であって、同じ高張力鋼を用い、最大荷重と初期剛性とを前記複合部材と同じレベルとした、高張力鋼製中空部材単体の肉厚よりも小さいことが好ましい。この効果の確認も、実際の測定試験に依らずとも、解析によるものであって良い。
本発明自動車用複合部材の用途はドアビームであることが好ましい。
本発明では、高張力鋼製中空部材の少なくとも長手方向中央部の中空部内に、アルミニウム合金補強材を挿入して、この中空部内面にアルミニウム合金補強材外縁部が当接するように嵌合する。言い換えると、中空部内に挿入するアルミニウム合金補強材は、高張力鋼製中空部材の中空部内面に外縁部が当接するような外縁部形状とする。
アルミニウム合金は比較的軽量であるために、高張力鋼製中空部材にとって大きな重量増加にならない範囲で、このアルミニウム合金補強材の肉厚乃至板厚をある程度(比較的)厚くすることができる。
このアルミニウム合金補強材の肉厚乃至板厚増加効果によって、肉厚の大きさ(肉厚効果)によって定まる耐局部変形性が大幅に向上する。このため、ハイテンを高強度化して薄肉化したドアビームでも、耐局部変形性を大幅に向上できる。この結果、側突などの衝突荷重による、曲げ荷重や衝撃力の負荷に対する耐局部変形性が向上し、座屈強度や曲げ剛性を高くできる。
更に、このアルミニウム合金補強材の全体変形効果により、側突などの衝突荷重を吸収できる効果が高い。例えば アルミニウム合金補強材が中空部内に挿入された場合、負荷された衝突荷重は、高張力鋼製中空部材に対して曲げ荷重として負荷される。この際、曲げモーメントが大きくなる中空部材の中央部付近において、中空部材の中空断面の局部的な座屈による変形を、アルミニウム合金補強材が断面方向に圧縮を受けながら抑制する効果がある。これによって、負荷された衝突荷重を吸収することができる。この効果は、アルミニウム合金補強材が、その長手方向に亙って半径方向の断面形状(横断面形状)として、略円形状の半径方向断面を有しているなど、閉断面形状を有する場合に、特に大きい。
これらの特性を、自動車用複合部材における、図11に示す荷重−変位関係で言うと、衝突時の荷重の立ち上がりが速く、高くなり、最大荷重(Pmax)や初期剛性を大きく高めることができ、エネルギ吸収量が増加する。
この効果は非常に高く、本発明者らのシミュレーション解析例では、本発明複合部材(ドアビーム)の、高張力鋼製中空部材(ドアビーム)単体に対する、最大荷重を1.2倍以上、初期剛性を1.1倍以上にできる。ここで、高張力鋼製中空部材(ドアビーム)は、本発明に係るアルミニウム合金補強材を設けない以外は、全て同じ条件とした場合である。
本発明に係るアルミニウム合金補強材を設けた分は当然重量増加になる。しかし、このように最大荷重や初期剛性の向上効果が大きいため、高張力鋼製中空部材側の負荷、負担を減らすことが可能となる。このため、従来は限界のあった中空部材側に用いる高張力鋼の更なる高強度化と薄肉化とを両立することができる。また、この高張力鋼の更なる高強度化、薄肉化と合わせて、実施する場合に必要な上記最大荷重と初期剛性とを選択設計すれば、複合部材全体として軽量化することができる。
具体的には、本発明に係るアルミニウム合金補強材を設けない高張力鋼製中空部材単体であって、同じ高張力鋼を用い、最大荷重と初期剛性とを前記複合部材と同じレベルとした、高張力鋼製中空部材単体の肉厚よりも小さくできる。
したがって、本発明自動車用複合部材は、軽量化を犠牲とせずに、むしろ軽量化させた上で、ドアビームに限らず、ハイテンを用いる自動車用中空部材の単位重量当たりの最大荷重や初期剛性を向上できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面などを用いて以下に説明する。
(高張力鋼製中空部材)
本発明自動車用複合部材における構造形状の前提として、高張力鋼製中空部材側は、通常の高張力鋼製中空部材と、構造形状に関しては、本発明における高張力鋼の肉厚(板厚)減少効果を除いて、同じものを用いて良い。例えば、通常の自動車用の高張力鋼製中空部材としての、ドアビーム、ピラー(A、B、Cの各ピラー)、サイドロッカー、フードヒンジ、フードロックなどの各車種に応じて設計される構造形状が適用可能である。
(高張力鋼)
図1〜3の本発明ドアビーム1を含めて、これら種々の高張力鋼製中空部材は、軽量化および低コスト化を図るため、前提として、引張強さが490MPa以上の通常の(常法による)高張力鋼が使用できる。ここで言う高張力鋼の形状は、中空部材に成形できる薄鋼鈑(帯鋼板)が主である。
前記図6の従来のドアビームと同様に、この高張力鋼は、普通鋼の引張強さ以上の490MPa以上の高強度のものが使用でき、製造や成形が可能であれば、1000MPa以上の引張強さの高張力鋼も使用できる。前記した通り、本発明は、アルミニウム合金補強材の最大荷重や初期剛性の向上効果が大きいため、中空部材側に用いる高張力鋼を更に高強度化、薄肉化することができ、軽量化を図ることができるためである。
(ドアビームの態様)
図1は本発明自動車用複合部材の一つであるドアビームの一実施態様を示す斜視図、図2は図1のA−A線断面図である。図3は本発明ドアビームの他の実施態様を示す斜視図である。図4、5は本発明に係るアルミニウム合金補強材の種々の実施態様を各々示す斜視図である。
図1、3とも、ドアビーム1の高張力鋼製中空部材側の構造は、共通して、略円形断面が長手方向に亙って延在する中空ビーム部2と、この中空ビーム部2の両端部に取り付けられた、図示しないドアへの取付ブラケット部3、4とからなる。
なお、これら取付ブラケット部3、4によるドア(主としてドアインナパネル)への取付の具体的な態様は、前記した図6に示すような、従来の態様と同じである。即ち、この取付ブラケット部3、4のドア(インナパネル)へ接合、取付は、ボルトなどの機械的な接合手段、あるいは溶接などの接合手段が適宜選択されて用いられる。
中空ビーム部2は、高張力鋼鈑のロールフォーミングによる成形や電縫管方式によって、半径方向の断面(横断面)が閉断面な略円形状、あるいは略円管(パイプ)状に成形されている。この中空ビーム部2の半径方向の断面形状は、このような略円形状に限らず、略U字状、略三角や略四角などの多角形状、不定形の中空形状であっても良い。また、断面は、閉断面でなくとも、略U字状など外縁部(外周部)の一部が開放された開断面などでも良い。
取付ブラケット部3、4は、中空ビーム部2と同じく高張力鋼鈑の成形によって、中空ビーム部2の両端2a、2bとの取り付け用の中空部分3a、4aと、ドアへの取り付け用の外方向に向かって開く平板状の3b、4bとが形成されている。
図1、3の態様では、取付ブラケット部3、4を、中空ビーム部2と、各々別個に作成して、互いに嵌合して一体化している。この点、前記図6に示すように、中空ビーム部2と取付ブラケット部3、4とを、一枚の鋼板から予め一体化して成形するようにしても良い。
(アルミニウム合金補強材の態様)
図1〜3において、本発明自動車用複合部材は、以上説明した高張力鋼製中空部材側の構造を前提として、高張力鋼製中空部材である中空ビーム部2の少なくとも長手方向中央部2cの中空部内に、アルミニウム合金補強材5が挿入されている。
このアルミニウム合金補強材5の肉厚乃至板厚増加効果によって、ハイテンを高強度化して薄肉化したドアビームでも、耐局部変形性を大幅に向上でき、側突などの衝突荷重による曲げ荷重や衝撃力の負荷に対する座屈強度や曲げ剛性を高くできる。更に、このアルミニウム合金補強材5の全体変形効果により、横断面方向に圧壊しつつ、負荷された衝突荷重を吸収することができる。
(アルミニウム合金補強材を設ける位置)
ここでアルミニウム合金補強材5は、上記各効果を発揮させるために、必ずしも、中空ビーム部2の長手方向全域に亙って設ける、あるいは、中空ビーム部2の長さと同じにする必要は無い。これは前記した通り、例えばドアビームでは、側突において、ドアビームの中央部で衝突荷重による最大の応力を受けるからである。また、アルミニウム合金補強材5の追加分だけは、純粋にドアビームの重量増加になり、この重量増加は、前記したハイテン側の板厚減少による、本発明自動車用複合部材全体の軽量化達成のためにも、極力抑制したいからである。
これは、ドアビームに限らず、前記したハイテンを用いる自動車用中空部材に共通しており、衝突荷重による最大あるいは大きな応力を受ける部分(補強が必要な部分)のみを、最低限アルミニウム合金補強材5で補強すれば良い。
この点、図1においては、衝突荷重による最大応力を受ける部分として、中空ビーム部2の長手方向中央部2cの中空部内のみにアルミニウム合金補強材5が挿入されている。また、図3においては、中空ビーム部2の長手方向中央部2cに加えて、中空ビーム部2の長手方向の両端部2a、2bの中空部内にも、衝突荷重による大きな応力を受ける部分として、アルミニウム合金補強材5が挿入されている。
(アルミニウム合金補強材の嵌合)
ここで、挿入されたアルミニウム合金補強材5は、図2に示すように、中空ビーム部2の中空部内面2dに、アルミニウム合金補強材5の外縁部5aが当接するように嵌合されていることが、効果を発揮するために重要である。
嵌合されていない場合、衝突荷重による大きな応力を受けた場合に、中空ビーム部2の中空部内で、アルミニウム合金補強材5が移動したり、逃げたりするために、アルミニウム合金補強材5の前記効果が十分発揮されない。したがって、本発明で嵌合されているとは、衝突荷重による大きな応力を受けた場合に、中空ビーム部2の中空部内で、アルミニウム合金補強材5が移動したり、逃げたりしないような、中空ビーム部2(中空部内面2d)との接合度を有していることである。
この嵌合のために、中空ビーム部2の中空部内面2dに、できるだけ大きな面積(領域)だけ適合、当接する形状を、後述する通り、アルミニウム合金補強材5の横断面(半径方向の断面)形状なり、外縁部5a形状なりがしている必要がある。
この点、図1〜3に示すように、中空ビーム部2(高張力鋼製中空部材)の横断面形状が略円形状あるいは略円管状に成形されている場合には、アルミニウム合金補強材5が、その長手方向に亙って略円形状の半径方向断面を有する押出形材や押出中空形材からなることが好ましい。
また、この嵌合のためには、アルミニウム合金補強材5を中空ビーム部2の中空部内に挿入後に、中空ビーム部2の外側から、加圧してかしめる、あるいはボルトなどの機械的接合や溶接を加えて、アルミニウム合金補強材5と中空ビーム部2同士を積極的に接合しても良い。
(アルミニウム合金補強材の補強)
図1〜3の態様では、アルミニウム合金補強材5が、その長手方向に亙って延在するとともに、当該自動車用複合部材の想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向(図の左右方向)に延在する補強リブ6を有している。
このような補強リブ6の存在によって、アルミニウム合金補強材の重量を増加させずに、肉厚乃至板厚の増加効果を増すことができる。また、アルミニウム合金補強材の全体変形効果を増し、側突などの衝突荷重を吸収できる効果を増すことができる。そして、自動車用複合部材の荷重変位関係で言う、最大荷重や初期剛性を大きく高めることができ、エネルギ吸収量が増加する。
このような補強リブ6の効果を発揮させるためには、補強リブ6は当該自動車用複合部材の想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に延在することが必要である。補強リブの設置方向がこれと異なり、想定される衝突荷重負荷方向と大きく異なる場合には、上記補強リブ6の効果が小さくなる。
(アルミニウム合金補強材のバリエーション)
以上のような効果を発揮するアルミニウム合金補強材の横方向断面の形状のバリエーションを、図4、5を用いて説明する。これらは押出形材とすれば簡便に製作することができる。
図4(a)は、アルミニウム合金補強材7が前記した補強リブを有しない略中空円形(パイプ)形状をしている。図4(b)は、前記図1〜3の補強リブ6を有する略中空円形(パイプ)形状のアルミニウム合金補強材5である。図4(c)は、アルミニウム合金補強材8が、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に、2本平行に間隔を開けて延在する補強リブ9、10を有した略中空円形(パイプ)形状をしている。図4(d)は、アルミニウム合金補強材11が、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に延在する補強リブ13と、これに直交して垂直方向に延在する補強リブ12とを十字状に2本有した略中空円形(パイプ)形状をしている。
図5(a)は、アルミニウム合金補強材14が、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向(略水平方向、図の左右方向)に延在するリブ15と、このリブ15の左右両端部に各々略垂直方向(図の縦方向)に延在する、円弧状外縁フランジ(外縁片)16、17とからなる。この円弧状外縁フランジ16、17は、中空ビーム部2の中空部内面2dに適合、当接する形状をしており、アルミニウム合金補強材14を中空部内面2dに嵌合させる役割を果たす。したがって、この円弧状外縁フランジ16、17の大きさ(面積)は、前記嵌合目的を達成し、アルミニウム合金補強材14の効果を発揮させる観点から設計される。
図5(b)は、アルミニウム合金補強材18の横断面形状が矩形中空形状をしている。即ち、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向(略水平方向、図の左右方向)に、2本平行に間隔を開けて延在するリブ19、20と、このリブ19、20の左右両端部を結んで、各々垂直(縦)方向に延在する円弧状外縁フランジ(外縁片)21、22とからなる。この円弧状外縁フランジ21、22も、図5(a)の円弧状外縁フランジ16、17と同じく、前記中空ビーム部2の中空部内面2dに適合、当接する形状をしており、アルミニウム合金補強材18を中空部内面2dに嵌合させる役割を果たす。
図5(c)のアルミニウム合金補強材23は、基本的には、前記した図5(a)のアルミニウム合金補強材14と同様の形状をしており、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向(略水平方向、図の左右方向)に延在するリブ24と、このリブ24の左右両端部に各々略垂直方向(図の縦方向)に延在する、円弧状外縁フランジ(外縁片)25、26とからなる。ただ、この円弧状外縁フランジ(外縁片)25、26が、図5(a)の円弧状外縁フランジ16、17に比して、より短尺なだけである。
図5(d)のアルミニウム合金補強材27は、想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に延在するリブ28と、これに直交して垂直方向に延在するリブ29とを2本有した十字状形状をしている。そして、これらのリブ28、29の両端部に、各々略垂直方向(図の縦方向)や水平方向(図の横方向)に各々延在する、4つの円弧状外縁フランジ(外縁片)30、31、32、33とからなる。これらの円弧状外縁フランジは、図5(c)のものと同一乃至類似している。
(アルミニウム合金補強材板厚)
アルミニウム合金補強材の板厚は、上記板厚効果や衝突エネルギ吸収効果などの各効果を発揮させるためには大きい方が良いが、重量が増加する。このために、アルミニウム合金補強材の板厚は、軽量化が必要な複合材としての重量増加許容量からも決定される。この点、アルミニウム合金補強材の板厚は、上記効果発揮のためには最低でも1.5mm以上とし、軽量化のためには最大でも5mm以下とすることが好ましい。
(アルミニウム合金補強材の製造)
前記図4、5を用いて説明したアルミニウム合金補強材の形状は、横方向(半径方向)の断面形状をその長手方向に亙って有している。このようなアルミニウム合金補強材の形状は、熱間押出による押出形材によって簡便に得られる。この他、鍛造や鋳造(鍛造材や鋳造材)によって得ても良い。また、形状によっては、アルミニウム合金板から成形や加工によって得る方法もあるが、成形が困難な形状もあり、成形や加工のコストが高くなる可能性も高い。
(アルミニウム合金)
アルミニウム合金補強材の強度は、上記比較的薄肉の板厚条件下で板厚効果や衝突エネルギ吸収効果などの各効果を発揮させるためには、大きい方が良い。具体的には、0.2%耐力で170MPa以上の高強度であることが好ましい。このような条件を満たすアルミニウム合金としては、JIS乃至AA規格で言う、Al−Mg−Si系の6000系やAl−Mg−Zn系の7000系の熱処理型アルミニウム合金、あるいはAl−Mg系の5000系アルミニウム合金が、上記した製法による製造後に、必要な調質処理(熱処理)を施して使用される。
前記図4や図5に示した断面形状を有する押出形材としたアルミニウム合金補強材を、図1に示すように中央部のみに設けた本発明複合材ドアビームの、前記図11に示した最大荷重や初期剛性を、FEM解析による荷重−変位関係から各々求めて評価した。
解析対象とした図1のドアビームの形状は、ブラケットを装着しない中空ビーム部2のみとし、共通して、中空ビーム部2をΦ30mmの円筒形状、長さを900mmとした。アルミニウム合金補強材の長さは、共通して100および200mmの二種類とした。
この際、アルミニウム合金補強材の板厚は2.0mm、3.0mmの二種類とした。アルミニウム合金補強材を設けるハイテン製ドアビームの板厚を1.5mmとした。比較例として、アルミニウム合金補強材を設けない、図1(図7)に示すハイテン製ドアビーム単体であって、ハイテンの板厚を1.5mm、2.0mmと二種類変化させたものも同時に解析した。
ドアビームの高張力鋼板(ハイテン)の引張強度は980MPaとし、アルミニウム合金補強材のアルミニウム合金は7000系のT5調質材:耐力470MPaとした。
FEM解析には、汎用の動的陽解法ソフトLS−DYNA r.960を用いて動的圧壊試験解析を行なった。荷重データ採取は、図10に示すように、ドアビームの両端部を、支点間距離を800mmとして支持した上で、ドアビーム中央部へ準静的に載荷(荷重)する3点曲げ試験の要領とした。
アルミニウム合金補強材の各外径は、上記各板厚条件に応じて、中空ビーム部2の中空部内にアルミニウム合金補強材を挿入でき、かつ、図2に示すように、中空ビーム部2の中空部内面2dにアルミニウム合金補強材の各外縁部が当接、嵌合できるよう、アルミニウム合金補強材の外径を、中空部内径よりも若干小さい径とした。また、アルミニウム合金補強材を挿入後に、中空ビーム部2の中空部内面2dと、アルミニウム合金補強材外縁部とをかしめた。
図8に解析結果である最大荷重(縦軸)と重量(横軸)との関係を示す。図9に解析結果である初期剛性(縦軸)と重量(横軸)との関係を示す。
図8、9のドアビーム解析例において、印の黒抜きあるいは白抜きの色に依らず、菱形印が図4(b)即ち図1、2の形状例、四角印が図5(b)の形状例、三角印が図5(d)の形状例である。そして、これらの各形状例において、アルミニウム合金補強材の板厚は、共通して、黒抜きの形状例が3.0mm、板厚白抜きの形状が板厚2.0mmである。また、同じ黒抜きの同一形状同士あるいは同じ白抜きの同一形状同士において、アルミニウム合金補強材の長さは、共通して、形状の大きな方が200mm、形状の小さな方が100mmである。
また、図8、9において、白い丸印が、アルミニウム合金補強材を設けない板厚1.5mmの比較例ハイテン製単体ドアビームである。また、黒い丸印がアルミニウム合金補強材を設けない板厚2.0mmの比較例ハイテン製単体ドアビームである。
図8、9の解析結果から、本発明複合部材ドアビームは、アルミニウム合金補強材を設けない黒い丸印である板厚1.5mmの比較例ハイテン製単体ドアビームに比して、最大荷重、初期剛性ともに著しく向上していることが分かる。
具体的には、本発明複合部材ドアビームは、アルミニウム合金補強材を設けることによって、ハイテン製ドアビームの最大荷重、初期剛性を、ともに板厚が1.5倍の黒い三角印の比較例ハイテン製単体ドアビームに近づけ、更にこれを超える例もある。したがって、アルミニウム合金補強材を設けることによって、最大荷重を1.2〜1.6倍、初期剛性を1.1〜1.2倍にできることが分かる。これらは、高張力鋼製中空部材であるドアビームを、本発明に係るアルミニウム合金補強材を設けない以外は、全て同じ条件とした結果である。
この図8、9の解析結果から、最大荷重と初期剛性とを同じレベルとするのであれば、本発明複合部材ドアビームは、アルミニウム合金補強材を設けたことによって、ハイテン製ドアビーム側の板厚(肉厚)を、2.0mmから1.5mmへと、より薄く(小さく)できることも分かる。
アルミニウム合金補強材を設けた分は、通常であれば、また、本発明複合部材にとっても、当然重量増加になる。しかし、これらの解析結果から、本発明複合部材は、最大荷重や初期剛性の向上効果が著しく大きいために、複合部材の高張力鋼製中空部材側の負荷、負担を減らすことが可能となることが分かる。このため、複合部材の中空部材側に用いる高張力鋼を更に高強度化することができることが分かる。また、この高張力鋼の更なる高強度化と合わせて、実施する場合に必要な上記最大荷重と初期剛性とを選択設計すれば、複合部材の高張力鋼製中空部材側(ドアビーム側)の板厚を逆に減少させ、軽量化できることが分かる。
したがって、本発明自動車用複合部材は、軽量化を犠牲とせずに、むしろ軽量化させた上で、ドアビームに限らず、ハイテンを用いる自動車用中空部材の単位重量当たりの耐局部変形性である、最大荷重や初期剛性を向上できる。
以上のように、本発明自動車用複合部材は、軽量化を犠牲とせずに、むしろ軽量化させた上で、ドアビームに限らず、ハイテンを用いる自動車用中空部材の単位重量当たりの耐局部変形性である、最大荷重や初期剛性を向上できる。したがって、本発明自動車用複合部材は、軽量化要求と衝突時のエネルギ吸収要求のある、ドアビーム、ピラー(A、B、Cの各ピラー)、ロッカー(サイドロッカー)、ヒンジ(フードヒンジ)、ロック(フードロック)、ウエイスト(ドアウエイスト)ル−フサイドレールなどの自動車用の高張力鋼製中空部材に好適である。
本発明自動車用複合部材の一つであるドアビームの一実施態様を示す斜視図である。 図1のA−A線断面図である。 本発明ドアビームの他の実施態様を示す斜視図である。 本発明に係るアルミニウム合金補強材の実施態様を示す斜視図である。 本発明に係るアルミニウム合金補強材の実施態様を示す斜視図である。 従来のドアビームのドアへの取付状態を示す斜視図である。 従来のドアビームを示す斜視図である。 実施例の解析結果である最大荷重と重量との関係を示す説明図である。 実施例の解析結果である初期剛性と重量との関係を示す説明図である。 3点曲げ試験の要領を示す説明図である。 荷重−変位関係における最大荷重や初期剛性を示す説明図である。
符号の説明
1:ドアビーム、2:ビーム部、3、4:取付ブラケット部、
5、7、8、11、14、18、23、27:アルミニウム合金補強材、
6、9、10、12、13:補強リブ、
15、19、20、24、28、29:リブ、
16、17、20、21、25、26、30、31、32、33:円弧状外縁フランジ

Claims (7)

  1. 高張力鋼製中空部材の少なくとも長手方向中央部の中空部内に、アルミニウム合金補強材が挿入され、この中空部内面にアルミニウム合金補強材外縁部が当接するように嵌合されていることを特徴とする自動車用複合部材。
  2. 前記高張力鋼製中空部材がその長手方向に亙って略円形状の半径方向断面を有し、前記アルミニウム合金補強材がその長手方向に亙って略円形状の半径方向断面を有する押出中空形材からなる請求項1に記載の自動車用複合部材。
  3. 前記アルミニウム合金補強材が、その長手方向に亙って延在するとともに、当該自動車用複合部材の想定される衝突荷重負荷方向に対して略平行方向に延在する補強リブを有している請求項1または2に記載の自動車用複合部材。
  4. 前記アルミニウム合金補強材が、前記高張力鋼製中空部材の長手方向の中央部と両端部の中空部内に、各々アルミニウム合金補強材が挿入されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車用複合部材。
  5. 前記複合部材の、前記アルミニウム合金補強材を設けない以外は同じ条件とした高張力鋼製中空部材単体に対する、最大荷重が1.2倍以上であるとともに初期剛性が1.1倍以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動車用複合部材。
  6. 前記複合部材の前記高張力鋼製中空部材側の肉厚が、前記アルミニウム合金補強材を設けない高張力鋼製中空部材単体であって、同じ高張力鋼を用い、最大荷重と初期剛性とを前記複合部材と同じレベルとした、高張力鋼製中空部材単体の肉厚よりも小さい請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動車用複合部材。
  7. 前記自動車用複合部材の用途がドアビームである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自動車用複合部材。
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