JP4015896B2 - 車体構造材および耐衝突補強材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車体の衝突に対する衝撃吸収性を有している車体構造材および耐衝突補強材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知の通り、自動車の車体を構成する構造材の多くに、近年、基本的な特性である剛性や強度とともに、車体の衝突に対する衝撃吸収性を有していることが求められるようになっている。
【0003】
これら自動車の車体構造材の内、センターピラー、ドア、サイドシルなど、車体側面側に設置される比較的大型の中空構造部材は、基本的に、鋼やアルミニウム合金、あるいは樹脂などの板をプレス成形されたアウタパネルとインナパネルとを互いに接合し、袋構造乃至中空構造とした成形パネルにより構成される。
【0004】
近年の自動車の軽量化指向に伴い、これら成形パネルの板厚は、アウタパネルやインナパネルとも、大幅に薄肉化されている。この際、成形パネルに用いられる鋼板やアルミニウム合金板は、ハイテン化 (高強度化) されている。
【0005】
しかし、成形パネルの薄肉化は、中空構造部材としての強度、剛性の低下や、衝突時の衝撃吸収性の低下を伴う。したがって、中空構造部材の軽量化と強度、剛性、衝突時の衝撃吸収性などの特性を両立させるためには、中空構造部材全面にわたって存在するパネルの板厚を薄くして軽量化するとともに、中空構造部材の一部に補強部材を設置し、効率的に特性の向上を図るように補強することが重要となっている。このため、従来から、種々の補強構造が提案されている。
【0006】
図9 〜13に、これらの補強構造例を自動車中空構造部材の縦方向の断面図で示す。図9 〜13において、前提となる中空構造部材の構造は同じである。即ち、成形された鋼板製のアウタパネル2 とインナパネル3 とを互いに接合した袋構造からなる。
【0007】
先ず、図9 の構造部材20は、アウターパネル2 の内側に補強パネル5aを接合することで、衝突時の衝撃吸収性能の向上を図っている。ここにおいて、補強による中空構造部材重量の増加をできるだけ抑制するために、これら補強パネル5aにアルミニウム合金板を、また、後述する中空の補強形材5bにはアルミニウム合金押出中空形材などを、各々用いたいという要求がある。ただ、前記図9 の場合では、鋼板製アウタパネルに、素材の異なるアルミニウム補強材を直接接合するような異材接合となり、電食などからくる外観問題あるいは耐食性、水漏れ性などシール性などの問題が生じる。また、このような補強パネル方式では、アルミニウム合金に代えて鋼板のプレス成形品を用いたとしても、重量増加の割には衝突時の衝撃吸収性能が低いという問題がある。
【0008】
そこで、図10〜13において、各図(a) に正面、各図(b) に平面を各々断面図で示すように、インナパネル側にアルミニウム合金製の耐衝突部材を接合することで、上記問題を解決していることが多い。この耐衝突部材にはアルミニウム合金押出中空形材などが用いられることが多い。
【0009】
例えば、図10の構造部材21は、ドアなどに使用されている構造部材で、インナパネル3 側にブラケット14を介して中空の補強形材 (耐衝突部材)5b を支持、接合している。しかし、この図10の構造では、中空の補強形材5bを支持するブラケット14の部品点数が当然増加するとともに、ブラケット14に衝突荷重が直接伝わるため、ブラケット14の強度を比較的高くするため、比較的厚肉化する必要がある。このため、補強効果の割りには、部品点数が増加し、重量増加が大きい。
【0010】
次に、図11の構造部材22では、中空の補強形材5bをアウタパネル2 とインナパネル3 の間に設けた、鋼板製パネルからなるセパレータ4aに支持している。しかし、このセパレータ4aを構成する鋼板製パネルの重量増加が大きく、中空の補強形材5bにアルミニウム材料を適用しても、十分な軽量化効果が得られない。
【0011】
一方、図12の構造部材23のように、直接インナパネル3 に中空の補強形材 5b を接合する構成では、衝突初期に補強材に荷重が入力されずに変形が進み、所定のエネルギ吸収が得られるストロークが大きくなってしまう。この問題点を解決するために、図13の構造部材24のように、より大型の中空断面形状を持つ補強形材5bを用いると、この補強形材5bの断面積増加による重量増加が大きく、また、ウェブ幅が長くなりすぎることで座屈しやすいなど、結果として所定の衝撃吸収(E/A) 量および軽量化効果が得られない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
このような部品構造が要求される背景には、自動車の安全性の向上の点から、中空構造部材に要求される衝撃吸収性能自体が高く乃至厳しくなるとともに、地球環境への配慮から更なる燃費向上−軽量化−要求が強くなっていることがあげられる。しかし、上記した従来の補強構造では、このように高度化する軽量化および耐衝突性能向上要求の双方を満足することが益々困難になってきている。
【0013】
これに対し、特にセンターピラーなど比較的大型の形材では、少しでも耐衝突部材への衝撃荷重の入力を早めるべく、重量増加量が最小限となる比較的小さな断面形状を持つ補強部材を、セパレータを介して車体外側に配置するような構造も考案されている。しかし、セパレータの重量増加が非常に大きく、中空構造部材の衝撃吸収性を向上させるためには大きな限界があった。
【0014】
このため、衝突時のエネルギ吸収性能を効率よく発揮し、かつ、部品点数の増加や重量増加をできるだけ避けた上で、衝撃吸収性能を発揮する車体構造材( 車体部品) が求められていた。
【0015】
したがって、本発明の目的は、中空構造部材の重量や部品点数の増加を最小限に抑えて、車体衝突に対する衝撃吸収性を向上させた車体構造材および耐衝突補強材を提供しようとするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明車体構造材の要旨は、成形パネルにより構成された中空構造部材内部に、この中空構造部材の幅方向または長手方向に渡って、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させた車体構造材であって、前記アルミニウム合金中空形材が、中空構造部材に対して定まる車体衝突方向に向かって中空形材自体の一部が張り出す湾曲形状を長手方向に渡って有する一方、このアルミニウム合金中空形材の両端部において中空構造部材と接合されて、中空構造部材への車体衝突に対する衝撃吸収部を構成したことである。
【0017】
また、本発明耐衝突補強材の要旨は、上記車体構造材に用いられる補強用アルミニウム合金中空形材であって、中空形材自体の一部が張り出す湾曲形状を長手方向に渡って有したことである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の車体構造材および補強用アルミニウム合金中空形材の実施の形態について図面を用いて詳述する。
【0019】
図1 は本発明の補強用アルミニウム合金中空形材の1 実施態様を示す斜視図、図2 はこの中空形材を中空構造部材内部に取り付けた車体構造材の1 実施態様を示す平面断面図 (図3 のB-B 線断面図) 、図3 は図2 のA-A 線断面図である。
【0020】
図1 において、先ず、本発明の耐衝突補強材としての補強用アルミニウム合金中空形材6aは、中空形材の一部である中央部11が外方 (車体衝突方向、矢印F)に張り出す、例えば円弧状の湾曲形状を長手方向に渡って有する一方、中空形材の両端部12a 、12b において、中空構造部材の例えばインナー部材などとの接合部を有する。
【0021】
この中空形材6aの断面は、縦方向の直線状の前面フランジ (前面縦壁部)7と、前面フランジ7 に略直交し、略水平方向に後面側より前面フランジ7 を支持する 2つの直線状のウエブ9 、10と、ウエブ9 、10に略直交する直線状の後面フランジ (後面壁部)8とを有する。なお、前面乃至後面とは、車体衝突方向 (矢印F)に対する位置関係で表している。そして、前面フランジ7 と後面フランジ8 とは、ウエブ9 と10による幅以上に縦方向に張り出した張出フランジ7a、7bと8a、8bとを各々有する。
【0022】
次に、図2 、3 において、本発明の車体構造材は、図2 の水平方向の位置関係において、図1 のアルミニウム合金中空形材6aは湾曲形状を有し、中空構造部材1aに対して定まる車体衝突方向 (矢印F 、図の上方、中空構造部材の外方) に張り出した中空形材の中央部11を向けて、中空構造部材1aの中空空間13内に配置されている。また、中空形材の中央部11の張出高さ (張出量) が、鋼板製のアウタパネル2 から所定のクリアランス(施工上の問題で定まる)を設けた位置まで張り出した形状としている。
【0023】
更に、図3 の縦方向の位置関係において、中空形材6aの前面フランジ7 と後面フランジ8 とが略垂直になるように (ウエブ9 、10が略水平になるように) 中空構造部材1aの中空空間13内に配置されている。
【0024】
そして、アルミニウム合金中空形材6aは、図2 の通り、両端部12a 、12b において、中空構造部材1aの鋼板製インナパネル3 側の縦壁3aと、直接(あるいは耐腐食性の観点からブラケット等を介して)、溶接接合あるいはボルトなどの機械的接合等、汎用されている適宜の接合手段により、剛結合乃至固着され、車体乃至車体構造体と剛結合されている。この中空形材6aの両端部12a 、12b での、車体乃至車体構造体との剛結合は、衝突時に十分な反力の発生を保証する意味からも重要である。通常の車体構造体において、これら補強用中空形材 (耐衝突部材) は、その機能発揮と中空構造部材の構造からして、中空構造部材の背面を構成する前記インナパネル (インナ部材) と結合されることが好ましい。但し、その機能が発揮できるのであれば、中空構造部材の構造に応じて、中空構造部材のアウタなどとも結合されて良い。
【0025】
一方、本発明では、前記中空形材中央部11の部分などの張出部の方は、アウタパネルに剛結合乃至固着する必要は無い。
【0026】
以下、この本発明アルミニウム合金中空形材6aのエネルギー吸収量向上効果の機構について説明する。今、アルミニウム合金中空形材6aに対し、アウタパネル2 の頭部2aを介して、矢印F の方向から、衝突などによる荷重 (外力) がかかった当初、本発明アルミニウム合金中空形材6aは車体衝突方向 (矢印F)に対して張り出した湾曲形状を有している (円弧状中央部11を有している) ので、衝突荷重に対して、張り出した中央部11が、時間的な遅滞なく、いち早く衝突荷重のエネルギー吸収を行うことができる。
【0027】
なお、前記中空形材中央部11などの外方に張り出させる張出部の湾曲形状は、上記時間的な遅滞なく衝突荷重のエネルギー吸収を行える張出部形状であれば、必ずしも円弧状でなくても良い。例えば、四角状、台形状などの角張った凸状張出部形状や、先端に凹部などを有する略円弧状の張出部形状を設けて、前記補強用の中空形材を湾曲させたような形状が適宜選択される。ただ、後述する通り、衝突荷重による中空形材長手方向の曲げ座屈を防ぎ、エネルギー吸収量を増すためには、張出部形状は上記円弧状などの曲線的な張出部形状とすることが好ましい。また、同様に、中空形材の外方に張り出させる位置 (張出部を設ける部分) も、適用する構造部材のエネルギー吸収必要部位によって適宜選択される。即ち、必ずしも中央部1 箇所でなくても、中空形材のいずれか長手方向端部側に偏った部位や、中空形材長手方向の複数箇所を外方に張り出し、湾曲形状を中空形材長手方向に渡って複数箇所、同じ形状乃至異なった形状の張出部を存在させるようにしても良い。
【0028】
これに対して、直線状の中空形材を補強材5bとして用いた従来構造部品(図10)では、衝突初期にはアウタパネル2 の変形でしかエネルギー吸収手段が無く、本発明構造に比較して、特に衝突初期のエネルギ吸収量に差異が生じることとなる。また、アウターパネルに直接補強板5aを接合した構造(図9)では、衝突中期にアウターパネルおよび補強板5aの座屈が生じ、これによるエネルギ吸収量の低下が生じる。
【0029】
更に、本発明構造では、アルミニウム合金中空形材6aの長手方向に渡る形状あるいは張出形状を円弧状(アーチ型)の湾曲形状としていることで、上記した通り、衝突荷重に対する曲げ座屈が生じにくいという利点もある。アルミニウム合金中空形材が、従来のような直線状であった場合、曲げ変形時の圧縮荷重は、圧縮側フランジ7 だけで分担され、初期の荷重が負荷された際、圧縮側フランジ7 の中央部で、圧縮側フランジ7 のみの局部的な座屈が生じやすい。圧縮側フランジ7 にこのような局部的な座屈が生じた場合、圧縮側フランジ7 は、それ以降の圧縮応力を負担する能力が低下し、エネルギー吸収量は大幅に低下してしまうからである。
【0030】
また、従来のような直線状アルミニウム合金中空形材の場合、圧縮側フランジ7 が局部的に座屈すると、これに加えて、それ以降の曲げ変形の進行によって、圧縮側フランジ7 とウエブ9 、10のつぶれ変形 (中央部での局部的な座屈) が生じる。このつぶれ変形が生じた場合、引張側フランジ8 の引張応力も、それ以降増加せず、更なる耐曲げ荷重の低下が生じ、エネルギー吸収量はより大幅に低下してしまう。
【0031】
したがって、前記した、本発明アルミニウム合金中空形材6aの中央部11が車体衝突方向に円弧状に張り出すことで、圧縮側フランジ7 が局部的に座屈しないことの、エネルギー吸収量向上に対する意義は大きい。また、この効果は、中空形材6aの中央部11の中心部に荷重された場合のみではなく、中央部11の中心部以外の円弧状張出部に負荷された場合にも発揮される。これは、前記した円弧状以外の形状の張出部でも同様に発揮される。したがって、実際に起こりうる、衝突荷重作用点の張出部中心部からのズレを大きくカバーできる点が本発明の利点でもある。
【0032】
また、本構造は、単純に補強材をインナーパネルに接合するだけでも十分な効果を発揮するが、特に補強材の接合部をクロスメンバーとの接合部に一致させ、荷重をクロスメンバー側に逃がすような構造とすれば、さらにエネルギ吸収量を大きくすることも可能である。
【0033】
アルミニウム合金中空形材6aの例えば中央部11などの張出部の張出量 (張出高さ) は、中空構造部材1aが用いられる車体構造部材毎に、想定される車体衝突荷重量や、要求乃至必要エネルギー吸収量は異なるので、これと、中空構造部材1aの中空空間13の大きさ (中空構造部材1aの長さあるいは幅) により、適宜設計される。中空構造部材1aの中空空間13の大きさが大きければ、中空形材6aの中央部 11 などの張出部の張出量を大きく取ることができる。
【0034】
ピラー、ドア、サイドシルなどの、車体衝突が車体両サイド側から生じる側突に対応した車体構造材は、前記中空空間が大きく取れ、かつ、乗員保護のために大きなエネルギ吸収が必要なことから、本発明の適用が望まれる。なお、ドア、サイドシルでは、これらの中空空間内の衝突 (側突) 対応位置に、アルミニウム合金中空形材6aを略水平方向に延在させ、中央部11の張出方向も略水平方向に張り出す。これに対して、縦方向の部材であるピラーなどでは、これらの中空空間内の衝突 (側突) 対応位置に、アルミニウム合金中空形材6aを略垂直方向に延在させ、張出部11の張出方向を略水平方向に張り出すことになる。
【0035】
また、センターピラーでは、側面衝突時に荷重が加わることが多い車体バンパーの高さ付近に張り出し部を設けることが最も有効であり、センターピラーあるいはドア構造では、最も変形が生じやすい中央部に張り出し部を設けることが有効である。
【0036】
なお、中空形材6aにおける円弧状などの張出部や湾曲形状の長手方向の長さや曲率の大きさも、前記した、中空形材6aの中央部11の張出量の設計基準と同様である。また、接合部12a 、12b の長さや面積、あるいは接合手段も適宜設計される。
【0037】
本発明では、特に図3 から分かる通り、鋼板製のアウタパネル2aとインナパネル3aとを仕切る、従来の鋼板製補強セパレータ (図9 、9 、10におけるセパレータ24a)が不要である。言い換えると、従来の鋼板製補強セパレータを設けずとも、エネルギー吸収量を大きくすることができる。したがって、この分、構造部材を軽量化でき、補強形材による重量増加を最小化できる効果を有する。
【0038】
以下に、補強アルミニウム合金中空形材の断面形状について説明する。図1 の中空形材6aは、前面フランジ7 が、前面フランジ7 に略直交するウエブ9 、10により、略水平方向に後面側より支持されるため、車体衝突によって、前面フランジ7 に Fの方向から衝撃が加わった場合でも、構造体としての剛性が大きくなり、座屈しにくくなる。この結果、比較的大きな衝突荷重であっても、前面フランジ7 などの折れ曲りや座屈を防止し、衝突荷重のエネルギー吸収量を大きくすることができる。なお、中空形材の断面形状は、重量増加を最小限に抑える観点も加えて、適宜選択される。
【0039】
また、図1 の中空形材6aの前面フランジ7 と後面フランジ8 とは、前記張出フランジ7a、7bと8a、8bとを各々有することで、前面フランジ7 と後面フランジ8 とは、充分な壁面積と衝突荷重方向をもって、車体衝突に応対することができる。即ち、車体衝突によって、前面フランジ7 に Fの方向から衝撃が加わった場合でも、前面フランジ7 の曲げ剛性が大きくなり、圧壊乃至損壊を防止できるとともに、前面フランジ7 を含めた中空形材6a全体が衝突方向( 図の横方向) に変形して、衝撃荷重を吸収する点で好ましい。
【0040】
また、後面フランジ8 の張出フランジ8a、8bの部分で、後述するように、中空構造部材のインナパネル側と溶接あるいはボルトなどの機械的が接合ができ、接合性や接合作業性の点からも好ましい。
【0041】
なお、前面フランジ7 と後面フランジ8 、あるいはウエブ9 と10は、直線状でなくとも、外側や内側に膨らむ円弧状などの、曲線的であっても良い。また、その表面も平坦でなくとも、凹凸を設けても良い。
【0042】
また、本発明の場合、軽量化のためのアルミニウム合金材採用の利点なり目的を達成するためには、肉厚が5mm 以下の比較的薄い補強用アルミニウム合金中空形材からなることが好ましい。肉厚が5mm を越えた場合、重量と強度との関係からは、鋼材と大差なくなり、軽量化のためのアルミニウム合金材採用の利点そのものが損なわれてしまう。言い換えると、本発明の補強用アルミニウム合金中空形材では、肉厚が5mm 以下の薄いものでも、車体衝突時の衝撃吸収効果を高めることが可能である利点がある。また、このためには、使用するアルミニウム合金材の0.2%耐力が200MPa以上の高強度であることが好ましい。
【0043】
これらの要求特性を満足するアルミニウム合金材としては、通常、この種構造部材用途に汎用される、AA乃至JIS 規格に規定された3000系、5000系、6000系、7000系等の汎用 (規格) アルミニウム合金材 (圧延板材、押出形材で、O 、T4、T6、T7等の要求性能に見合った調質をされたもの) が好適かつ選択的に用いられる。その中でも、成形性が良く、耐力の比較的高い6000系、7000系等のアルミニウム合金材が好ましい。
【0044】
本発明アルミニウム合金中空形材自体は、これらの条件を満足した上で、押出加工や、圧延板を成形加工および溶接接合するなどの、常法にて製造された直線状の中空形材を製造できる。そして、曲げ加工などにより、中空形材の中央部などの一部を円弧状とするなど、中空形材の長手方向に適宜の湾曲形状を形成することが可能である。
【0045】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を説明する。
図2 、図3 の発明例の車体構造材 (センターピラーを模擬) を、図6(b)に断面図で示すように、モデル化した。これの基本となるモデルは、アウタ2 とインナ3 とからなる鋼板製成形パネル図6(a)である。そして、この基本モデルの断面積 (mm2)に対し、補強材6a (アルミニウム合金中空形材) の断面積(mm2) と肉厚(mm)を変えた場合の、車体構造材の荷重−変位関係、車体構造材重量、エネルギー吸収量 (E/A 量、変位量150mm 時) 、最大荷重、を各々求めた。
【0046】
比較として、図9 、10の従来の車体構造材とを、各々図6(c)、(d) に断面図で示すようにモデル化したものの車体構造材の荷重−変位関係、エネルギー吸収量 (E/A 量、変位量150mm 時) 、最大荷重、を各々求めた。これらの結果を、表1 、図7 に示す。
【0047】
ここで、比較例の図6(c)、(d) のモデルは、図6(a)のアウタ2 とインナ3 とからなる車体中空構造部材に、前記図9 、10と同様に、各々アルミニウム合金製の補強板5aなり補強材5bを取り付けたものである。発明例の図6(b)は、図6(a)の車体中空構造部材に図2(図3)の発明例のように、中央部が張出し、湾曲した補強材6aを中空構造部材内に設けたものである。また、表1 に示す参考例は、上記図6(c)のように、980N級高張力鋼板の補強パネル5aをアウター2 の裏面に直接接合したものである。
【0048】
なお、補強用のアルミニウム合金中空形材の0.2%耐力は300MPaとした。また、曲げ荷重の負荷は、図8 に示すΦ200mm の円筒工具を用い、長さ1200mmの車体構造材 (アウタ2)の一部 (左端から400mm 、右端から800mm の位置) に、静的に押しつける条件で行った。この解析は 3点曲げの解析モデルを用い、汎用の動的陽解法ソフトLS-DYNA3D を用いて行った。
【0049】
表1 には、解析前提条件として、鋼板製成形パネル (アウタ2 とインナ3 との合計) 断面積 (mm2)、アルミニウム合金中空形材の断面積(mm2) と肉厚(mm)、車体構造材全体重量(kg/m)を示す。そして解析結果から得られたエネルギー吸収量 (kN-m、但し変位量300mm 時) 、車体構造材全体重量(b) とエネルギー吸収量(a) との比(a/b) を示す。また、図7 に、車体構造材の荷重−変位関係を示す。
【0050】
表1 から明らかな通り、図2 のタイプの発明例2 、3 の車体構造材は、比較例4 、5 に比して、エネルギー吸収量と車体構造材重量との比(a/b) が高く、従来の同じ断面形状で直線状押出形材を使用するよりもエネルギー吸収量を大きくできることが分かる。また、高強度な980N級高張力鋼板の補強パネルをアウターに直接接合した構造である参考例に比べても、E/A 量が大きく、かつ大幅な軽量化が可能であることが分かる。
【0051】
図7 の荷重−変位関係において、図2 のタイプの発明例2 の車体構造材は、比較例4 、5 に比して、荷重変位曲線の衝突初期の立ち上がり時のピークもなく、その後も緩やかに増加する理想的な荷重変位曲線を示し、エネルギー吸収量が大きい。このことは、大きな曲げ荷重が掛かる初期であっても、発明例の中空形材では、圧縮側フランジの局部的な座屈が生じず、形材全体での曲げ変形による継続的で大きなエネルギー吸収が行われることを表わしている。
【0052】
これに対し、図7 において、比較例5 では、荷重変位曲線の立ち上がり時のピークが高く、衝突後期において荷重が低下している。これは、アウターおよび補強材がともに座屈し、断面のつぶれ変形による荷重低下が生じたことを示している。また、比較例4 では、衝突初期に補強材が被衝突部材と接触しないことで、衝突初期の荷重の立ち上がりが遅れ、その分、エネルギ吸収量が低下してしまっている。この荷重の立ち上がりの遅れは、対象となる中空構造部材の中空領域が大きくなるほど顕著になることは明白である。つまり、本発明は、中空領域が大きい耐衝突部材ほど、その効果が大きくなると言える。
【0053】
【表1】
Figure 0004015896
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、中空構造部材の重量増加を最小限に抑えて、車体衝突に対する衝撃吸収性を向上させた車体構造材および補強用アルミニウム合金中空形材を提供することができる。本発明はこのような優れた効果を有するので、ピラー、ドア、サイドシルなど、車体衝突が車体両サイド側から生じる側突に対応した車体構造材への採用が適している。
このため、自動車の軽量化に大きく寄与するとともに、車体構造材へのAl合金材の用途も大きく拡大するものであり、工業的な価値が高い。
また、自動車車体の衝撃吸収性や衝突安全性が充分機能乃至確保される効果もあり、大きな社会的意義を持つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明補強用アルミニウム合金中空形材の一実施態様を示す斜視図である。
【図2】本発明車体構造材の一実施態様を示す平面断面図である。
【図3】図2のA-A 断面図である。
【図4】本発明車体構造材の他の実施態様を示す断面図である。
【図5】本発明車体構造材の他の実施態様を示す断面図である。
【図6】本発明車体構造材の解析モデルの態様を示し、図6(a)は基本形、図6(b)は比較例、図6(c)は発明例、図6(d)は比較例を各々示す、断面図である。
【図7】本発明車体構造材の荷重−変位曲線を示す説明図である。
【図8】本発明車体構造材の衝撃吸収性能解析の際の試験条件を示す説明図である。
【図9】従来の車体構造材の正面断面図である。
【図10】従来の車体構造材を示し、(a) は正面断面図、(b) は平面断面図である。
【図11】従来の車体構造材を示し、(a) は正面断面図、(b) は平面断面図である。
【図12】従来の車体構造材を示し、(a) は正面断面図、(b) は平面断面図である。
【図13】従来の車体構造材を示し、(a) は正面断面図、(b) は平面断面図である。
【符号の説明】
1:車体構造材、2:アウタパネル、3:インナパネル、4:セパレータ
5:補強材、6:補強アルミニウム合金中空形材、7 、8:フランジ、
9 、10: ウエブ、11: 円弧状湾曲 (張出) 部、12、端部

Claims (6)

  1. 成形パネルにより構成された中空構造部材内部に、この中空構造部材の幅方向または長手方向に渡って、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させた車体構造材であって、前記アルミニウム合金中空形材が、中空構造部材に対して定まる車体衝突方向に向かって中空形材自体の一部が張り出す湾曲形状を長手方向に渡って有する一方、このアルミニウム合金中空形材の両端部において中空構造部材と接合されて、中空構造部材への車体衝突に対する衝撃吸収部を構成したことを特徴とする車体構造材。
  2. 前記車体構造材がピラー、ドア、サイドシルから選択される車体側面に位置する部品であり、前記車体衝突が側面衝突である請求項1に記載の車体構造材。
  3. 前記アルミニウム合金中空形材の耐力が200MPa以上である請求項1または2に記載の車体構造材。
  4. 前記アルミニウム合金中空形材が熱間押出により製造されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車体構造材。
  5. 前記アルミニウム合金中空形材に補強用の中リブを設けた請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車体構造材。
  6. 請求項1乃至5に記載のいずれか1項の車体構造材に用いられる補強用アルミニウム合金中空形材であって、アルミニウム合金中空形材自体の一部が張り出す湾曲形状を長手方向に渡って有することを特徴とする耐衝突補強材。
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