前述の通り、鋼管を用いた車体補強用部材では、自動車車体の軽量化への要請に有効に対応するには、補強用部材として高強度鋼管を使用するのでは限界が見られることから、補強用部材をドアフレームのドアアウタの湾曲面に沿って湾曲させることによって、軸方向の拘束を活用して、優れた耐衝撃性を発揮させる試みが行われている。
前記図1に示すように、自動車補強用部材のうちドアインパクトバーは、必要に応じて両端にブラケットを設け、ヒンジおよびドアブロック部を介し、剛性の高い車体に接合されている。このため、インパクトバーの湾曲面に沿った実際の長さがインパクトバー両端の接合間の直線距離よりも長くなっている。
したがって、ドアフレームの側面衝突時に衝突荷重がインパクトバーに加わると、この衝突荷重はインパクトバーの車体前後方向に分散し、インパクトバーの車体前後方向に両端を押し広げようとする作用が生じる。このため、インパクトバーの変形開始時の荷重を増加させることができ、それにともなって吸収エネルギーも増加でき、耐衝撃性を著しく向上させることができる。
図2は、インパクトバーの試験材として真直管を用いた場合と部材の全長に亘り一定の曲がり半径Rを有する曲がり管(以下、「全長R曲がり管」という)を用いた場合の3点曲げ試験の結果を示す図であり、同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値に相当する吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mm、長さ1000mmで、引張強度1500MPaの供試管を用い、「全長R曲がり管」は全長に亘り曲がり半径Rを5000mmとした。さらに、3点曲げ試験は車体に接合されているインパクトバーの変形挙動を実体に即して評価できるように、両端支持による3点曲げの試験装置を用いて実施した。
図2に示す結果によれば、真直管が表す変形挙動は、圧子の変位が増加するのにともない、圧子に加わる荷重は増大し、最高荷重に達したのち漸減する。圧子の変位途中から荷重が減少に転ずるのは、試験材が偏平、または座屈開始によって、荷重を負担できなくなるためである。
これに対し、「全長R曲がり管」では変形開始時に圧子に生じる荷重が急激に増大し、最大値を示したのち減少し、その後は真直管と同じ変形挙動を示している。このため、全長R曲がり管を用いることにより、変形開始時の負荷荷重の増大を図ることができ、これにともなって吸収エネルギーの増加が可能になり、耐衝撃性を向上させることができる。
ところで、最近においては環境保全に対する意識の高まりから、自動車車体の軽量化への要請が一層強くなっている。このため、安全性を高めるための補強用部材に対しても、徹底した軽量化とともに、耐衝撃品質の安定と向上への更なる検討が要求されるようになっている。
例えば、「全長R曲がり管」を加工する場合に、前記特許文献3に記載のドアガードビームの曲げ加工法は、直線状のパイプを直接通電加熱したのち、型を押し付けながら冷却水を噴射する方法によるものであるから、補強用部材の全長全周に亘って、均一に冷却し焼入れることは困難であり、焼きムラが発生するおそれがある。
したがって、前記特許文献3に記載の曲げ加工を伴うドアガードビームは、焼きムラの発生に起因して品質が不安定となり、不均一な変形が要因で寸法精度、形状凍結性が確保できず、耐衝撃品質の安定化を要求される製品となり得ないという問題がある。
また、車体補強用部材としての「全長R曲がり管」は、従来の真直管と比べ、吸収エネルギーを増加させ、耐衝撃性をある程度向上させることができる。しかしながら、自動車の性能に関し、さらに軽量化、低燃費化、室内空間の拡大および安全性向上の要請が一層強くなり、それに応えるためには、車体補強用部材の更なる吸収エネルギー特性の改善と総合的な耐衝撃品質の向上とが必要になる。
本発明は、上述した課題に対応してなされたものであり、従来の真直管を用いた補強用部材に比べて優れていることは勿論のこと、「全長R曲がり管」を用いた補強用部材と比較しても、部材の軽量化を図りつつ、車体衝突時の吸収エネルギー特性の改善と耐衝撃品質の安定化を達成することができ、優れた耐衝撃性を有する車体補強用部材を提供することを目的としている。
本発明者らは、前述の課題を達成するため、種々の形状を有する車体補強用部材の変形挙動を鋭意調査した。前記図2に示すように、「全長R曲がり管」は、真直管と比較すると、吸収エネルギー特性を改善することができる。ところが、さらなる吸収エネルギー特性を改善しようとする場合には、「全長R曲がり管」が有する技術思想(作用効果)を敷衍したままでは限界があることが判明した。
すなわち、「全長R曲がり管」による作用効果は、前記図2(a)に示すように、車体補強用部材に衝撃荷重が負荷された直後の負荷加重を最大化させることによって、図2(b)に示す吸収エネルギーを増加させるものである。そのため、「全長R曲がり管」を用いる場合には、負荷荷重が最大化した後においては、真直管と全く同様の変形挙動(負荷荷重特性)を示すことになるので、車体補強用部材の吸収エネルギーを増加させるには、衝撃直後の負荷荷重を如何にして最大化させるかということに尽きる。
本発明者らは、衝撃直後の負荷荷重を極力大きくすることに留意しつつも、衝撃直後の負荷荷重の最大化に拘らず、真直管を用いる場合においても、また「全長R曲がり管」を用いる場合においても放置され、かつ諦められていた車体補強用部材の座屈開始に注目した。具体的には、如何にすれば、車体補強用部材の座屈開始を遅らせることができるかに注目したのである。すなわち、座屈開始を遅らせることができるならば、車体補強用部材の吸収エネルギー特性をさらに改善することができると考えたのである。
「全長R曲がり管」を用いる場合、車体補強用部材の全長に亘って、衝撃荷重方向(車体の外面方向)に湾曲していることが、衝撃荷重を受けた直後の負荷荷重が最大化する理由になる。しかし、本発明者らは、衝撃荷重を受ける部位に衝撃荷重方向(車体の外面方向)に湾曲した部位(以下、「凸形状の曲がり部」という)を設けるものの、衝撃荷重を受ける部位の隣接部に、衝撃荷重方向と反対方向(車体の内面方向)に湾曲した部位(以下、「凹形状の逆曲がり部」という)を設けたり、または真直部を設けたりすることを思いついた。
すなわち、衝撃荷重に対して、「凸形状の曲がり部」がある程度の負荷荷重に耐えられるようにするものの、決して「凸形状の曲がり部」での負荷荷重を最大化しようとする意図ではなく、衝撃荷重に対しては効果のない「凹形状の逆曲がり部」や真直部に早期に負荷荷重を分散させることが有効であることを知見した。
換言するならば、衝撃荷重に対し、「凸形状の曲がり部」で車体補強用部材が過度に変形することを防ぎつつ、その隣接部である「凹形状の逆曲がり部」または真直部に衝撃荷重を分散させることとした。なぜならば、荷重作用点である「凸形状の曲がり部」の荷重を分散させ、車体補強用部材全体で広範囲に衝撃荷重を受け持つようにすることにより、結果的に車体補強用部材の座屈開始を遅らせることができることを知見したからである。
上記の知見に基づく試験結果を、後述する図10に示している。後述する図10は、試験材として「全長R曲がり管」の他に、部材の部分的に曲がり半径Rの曲がり部を有する曲がり管(以下、「部分R曲がり管」という)等を用いた場合の3点曲げ試験の結果を示す図であり、同図に示すように「部分R曲がり管」等を採用することによって、座屈開始を遅らすことができ、これにより吸収エネルギーを増大させることができる。以下、そのメカニズムについて説明する。
(「全長R曲がり管」と「部分R曲がり管」の比較)
図3は、車体補強用部材として適用される「全長R曲がり管」および「部分R曲がり管」の全体形状を説明する図であり、同(a)は「全長R曲がり管」を示しており、同(b)は「部分R曲がり管」を示している。車体補強用部材として曲がり管をドアフレームに装着する場合に、インパクトバーはドアフレームの隙間空間を想定して全長Wと突出量δを具備する。
図3(a)に示す「全長R曲がり管」では、部材の全長に亘り単一の曲がり半径R0を有しているのに対し、図3(b)に示す「部分R曲がり管」では、補強用部材の中央部1箇所に曲がり半径R1からなる凸形状の曲がり部を形成し、その曲がり部両側の隣接部を真直部で構成している。
図4は、試験材として「全長R曲がり管」を用いた場合と「部分R曲がり管」を用いた場合の3点曲げ試験の結果を示す図であり、同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値に相当する吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mm、長さ1000mmで、引張強度1500MPaの供試管を用い、「全長R曲がり管」の曲がり半径Rを6200mmとし、「部分R曲がり管」の曲率1/Rを0.8m-1とし、両端支持による3点曲げの試験装置を用いて実施した。ここで、曲率は部材の部分的な曲がり程度を示しており、部分的な円弧の曲がり半径がRであるときに1/Rで示す。
図4に示すように、「部分R曲がり管」ではその最高荷重後の座屈開始が、「全長R曲がり管」に比べて遅れ、それにともなって負荷荷重の積分値で示される吸収エネルギーも増大する。また、図4に示す試験結果から、「部分R曲がり管」によれば最高荷重も若干増加する傾向になる。これらの作用により、「部分R曲がり管」は、優れた耐衝撃性を発揮することができる。
「部分R曲がり管」による座屈開始の遅れ、それにともなう吸収エネルギーの増大は、「部分R曲がり管」の曲率1/Rに依存することになる。すなわち、「部分R曲がり管」の曲率1/Rを大きくすること、すなわち、部分的な曲がり部の曲がり半径Rを小さくすることによって、吸収エネルギーの増大を図ることができる。
図5は、「全長R曲がり管(曲がり半径6200mm)」の特性を基準として「部分R曲がり管」の曲率1/Rが及ぼす影響を示した図である。図5(a)では、真直管の最高荷重と「全長R曲がり管(R:6200mm)」の最高荷重との比を基準として、「部分R曲がり管」の曲率1/Rを0.4、0.8および2.0と変化させた場合の真直管の最高荷重と「部分R曲がり管の最高荷重」との比を示している。
同様に、図5(b)では、真直管の吸収エネルギーと全長R曲がり管(R:6200mm)の吸収エネルギーの比を基準として、「部分R曲がり管」の曲率1/Rを0.4、0.8および2.0と変化させた場合の真直管の最高荷重と部分R曲がり管の吸収エネルギーとの比を示している。
図5に示す結果から、「部分R曲がり管」の曲率1/Rが小さい場合には、真直管の最高荷重と「部分R曲がり管」の最高荷重との比、および真直管の最高荷重と「部分R曲がり管」の吸収エネルギーとの比は小さな値に留まっているが、「部分R曲がり管」の曲率1/Rが大きくなることによって、例えば、0.8m-1以上になると、「全長R曲がり管(R:6200mm)」が示す特性より優れた特性を発揮することが可能になる。
(「全長R曲がり管」と「多部分R曲がり管」の比較)
前述の通り、「部分R曲がり管」を適用することにより、衝撃荷重の負荷にともなう座屈開始の遅れが発生し、吸収エネルギーの増大を図ることができるが、前記図4(a)に示すように、荷重初期の立ち上がり荷重が「全長R曲がり管」に比べ低下する現象が観られ、耐衝撃性を低下させる懸念がある。
そこで、部材全長の複数箇所に凸形状の曲がり部とその隣接部に真直部を設けた曲がり管(以下、「多部分R曲がり管」という)を採用することによって、荷重初期の立ち上がり荷重を「全長R曲がり管」のそれと同等以上として、吸収エネルギーの増大を図ることができる。
図6は、車体補強用部材として適用できる「多部分R曲がり管」の全体形状を説明する図である。図6に示す「多部分R曲がり管」は、3箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)の凸形状の曲がり部を有しており、曲がり部の両側または片側の隣接部を真直部で構成し、ドアフレームの隙間空間を想定した全長Wと突出量δを備えている。
図7は、試験材として「全長R曲がり管」を用いた場合と「多部分R曲がり管」を用いた場合の3点曲げ試験の結果を示す図であり、同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値に相当する吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mm、長さ1000mmで、引張強度1500MPaの供試管を用い、「全長R曲がり管」の曲がり半径Rを6200mmとした。多部分R曲がり管は、前記図6に示す形状で各凸形状の曲がり部の曲率1/Rを2.0m-1(R:500mm)とし、両端支持による3点曲げの試験装置を用いて実施した。
図7に示すように「多部分R曲がり管」を採用することによって、「全長R曲がり管」と同等の荷重初期の立ち上がり荷重を確保できるとともに、座屈開始を遅らすことができることから、吸収エネルギーを増大させることができる。
図8は、「全長R曲がり管(曲がり半径6200mm)」の特性を基準として「多部分R曲がり管」に設けられた複数の凸形状の曲がり部とその隣接部の真直部が及ぼす影響を示した図であり、真直管の吸収エネルギーと「全長R曲がり管(R:6200mm)」の吸収エネルギーの比を基準として、「多部分R曲がり管」の全長に亘って設ける「凸形状の曲がり部」を1〜9箇所の範囲で変化させた場合の真直管の吸収エネルギーと「多部分R曲がり管」の吸収エネルギーとの比を示している。
図8に示すように「多部分R曲がり管」であっても凸形状の曲がり部の部位を増加させることによって、「全長R曲がり管」と同等の荷重初期の立ち上がり荷重を確保できるものの、「凸形状の曲がり部」の部位の増加にともなって、座屈開始の遅れの効果が減衰するため、吸収エネルギーが減少することが分かる。このため、「多部分R曲がり管」を採用する場合には、凸形状の曲がり部は2箇所以上であって9箇所程度に留めるのが望ましい。
(「全長R曲がり管」、「部分R曲がり管」および「部分凹凸曲がり管」の比較)
前述の通り、「多部分R曲がり管」を採用することによって、「全長R曲がり管」と同等の荷重初期の立ち上がり荷重を確保できるとともに、座屈開始を遅らすことから、吸収エネルギーを増大させることができるが、凸形状の曲がり部の部位の増加にともなって、「全長R曲がり管」と同等の吸収エネルギーに減少することになる。
これを防止するには、部分的な曲がり半径Rの凸形状の曲がり部の隣接部に凹形状の逆曲がり部を有する曲がり管(以下、「部分凹凸曲がり管」という)を採用することにより、座屈開始が遅れるという効果が増幅するので有効である。
図9は、車体補強用部材として適用できる「部分凹凸曲がり管」の全体形状を説明する図である。図9に示す「部分凹凸曲がり管」は、3箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)からなる凸形状の曲がり部を有しており、その凸形状の曲がり部の間を曲がり半径R2(曲率1/R2)からなる凹形状の逆曲がり部で構成し、ドアフレームの隙間空間を想定した全長Wと突出量δを備えている。
通常、3点曲げ試験においては、圧子が当接する荷重作用点近傍のみに変形が集中するが、図9に示すような凹形状の逆曲げ部を設けることにより相対的に弱い部位が設けられ、荷重による変形を分散させることができる。このような作用によって、「部分凹凸曲がり管」では衝撃にともなうひずみエネルギー吸収をより広範囲で分担するようにして、荷重作用点での集中を緩和し、座屈開始変位を大幅に増大させることができる。
図10は、試験材として「全長R曲がり管」、「部分R曲がり管」および「部分凹凸曲がり管」を用いた場合の3点曲げ試験の結果を示す図であり、同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値に相当する吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mm、長さ1000mmで、引張強度1500MPaの供試管を用い、「全長R曲がり管」の曲がり半径Rを6200mmとし、「部分R曲がり管」の曲率1/Rを0.8m-1とした。「部分凹凸曲がり管」は前記図9に示す形状とし、各凸形状の曲がり部の曲率1/R1は2.0m-1(R1:500mm)で各凹形状の曲がり部の曲率1/R2は1.0m-1(R2:1000mm)とし、両端支持による3点曲げの試験装置を用いて実施した。
図10に示すように「部分凹凸曲がり管」を採用することによって、「全長R曲がり管」と同等の荷重初期の立ち上がり荷重を確保できるとともに、「部分R曲がり管」よりさらに座屈開始を遅らすことができることから、さらに吸収エネルギーを増大させることができる。
図11は、「全長R曲がり管(曲がり半径6200mm)」の特性を基準として「部分凹凸曲がり管」に設けられた複数の凸形状の曲がり部と凹形状の逆曲がり部が及ぼす影響を示した図であり、真直管の吸収エネルギーと「全長R曲がり管(R:6200mm)」の吸収エネルギーの比を基準として、「多部分R曲がり管」の全長に亘って設ける凸形状の曲がり部および真直部を1〜9箇所の範囲で変化させた場合と「部分凹凸曲がり管」の全長に亘って凸形状の曲がり部および凹形状の逆曲がり部を1〜5箇所の範囲で変化させた場合の真直管の吸収エネルギーと「多部分R曲がり管」および「部分凹凸曲がり管」の吸収エネルギーとの比を示している。
図11に示すように、「多部分R曲がり管」では凸形状の曲がり部の部位の増加にともなって、座屈開始の遅れによる吸収エネルギー増大の効果は減少するが、「部分凹凸曲がり管」では凹形状の逆曲がり部を設けることによって、いずれの凹形状の逆曲がり部の部位数であっても、吸収エネルギー増大の効果が維持されることが分かる。
「部分凹凸曲がり管」が発揮する優れた効果のメカニズムは、ひずみエネルギー密度(kN・mm/kg)の分布解析で説明できる。局所的にひずみエネルギーの大きな部分が有ると座屈し易くなるため、外部からの荷重に対して広い範囲でひずみエネルギーを分布させることで、座屈開始の遅れを促進させることができる。
図12は、試験材として「全長R曲がり管」、「部分R曲がり管」および「部分凹凸曲がり管」を用いた3点曲げ試験におけるひずみエネルギー密度(kN・mm/kg)分布の解析結果を模擬的に示す図である。図12(a)が「全長R曲がり管」を用いた場合、図12(b)が「部分R曲がり管」を用いた場合、図12(c)が「部分凹凸曲がり管」を用いた場合を示している。試験材7は、前記図10の3点曲げ試験で用いた試験材と同じとし、図中のハッチィング部は圧子9の負荷にともなう、ひずみエネルギー密度が4500kN・mm/kg以上の分布領域を示している。
詳細なひずみエネルギー密度(kN・mm/kg)の分布解析によれば、「部分凹凸曲がり管」を適用することによって、荷重負荷位置でのひずみエネルギー密度が4500kN・mm/kg以上の分布領域は狭く、その領域以外の広い範囲でひずみエネルギーを分担していることが分かる。すなわち、「部分凹凸曲がり管」により、凹形状の逆曲がり部が衝撃を緩和する作用を発揮するので、衝撃の負荷位置である凸形状の曲がり部にひずみエネルギーが集中せず、その結果、座屈発生までの変位が大きくなり、吸収エネルギーを増大させることができる。
本発明者らは、上記の知見に加えて、さらに優れた座屈強度を確保するには、車体補強用部材の断面形状を円若しくは楕円、またはこれらに類似する形状にするのが有効であること、さらに、部材の部分的または複数箇所に凸形状の曲がり部および隣接する凹形状の逆曲がり部、或いは真直部を形成するには、高周波加熱を用いた逐次加熱、逐次の曲げ加工および逐次の均一冷却の組み合わせが効果的であることを明らかにした。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)〜(5)の車体補強用部材および(6)、(7)の車体補強用部材の製造方法を要旨としている。
(1)耐衝撃用として自動車の車体に装着される鋼管製の補強用部材であって、前記補強用部材の長手方向の2箇所以上に前記車体の外面方向に対向する凸形状の曲がり部を有し、前記凸形状の曲がり部の曲率が0.8(m-1)以上であり、前記曲がり部の片側または両側の隣接部に真直部を有することを特徴とする車体補強用部材である。すなわち、前記「多部分R曲がり管」からなる車体補強用部材である。
(2)耐衝撃用として自動車の車体に装着される鋼管製の補強用部材であって、前記補強用部材の長手方向の少なくとも1箇所に前記車体の外面方向に対向する凸形状の曲がり部を有し、前記凸形状の曲がり部の曲率が0.8(m-1)以上であり、前記曲がり部の片側または両側の隣接部に前記車体の外面方向に対向する凹形状の逆曲がり部を有することを特徴とする車体補強用部材である。すなわち、前記「部分凹凸曲がり管」からなる車体補強用部材である。
(3)耐衝撃用として自動車の車体に装着される鋼管製の補強用部材であって、前記補強用部材の長手方向の少なくとも1箇所に前記車体の外面方向に対向する凸形状の曲がり部を有し、前記凸形状の曲がり部の曲率が0.8(m-1)以上であり、前記曲がり部の両側の隣接部に真直部および前記車体の外面方向に対向する凹形状の逆曲がり部を有することを特徴とする車体補強用部材である。同様に、前記「部分凹凸曲がり管」からなる車体補強用部材である。
(4)上記(1)〜(3)の車体補強用部材では、前記補強用部材の素材である鋼管の断面形状が円若しくは楕円、またはこれらに類似する形状にするのが望ましい。
また、前記凸形状の曲がり部および凹形状の逆曲がり部は、素材である鋼管を管軸方向に逐次移動させつつ、前記鋼管の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記鋼管を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後急冷して形成するのが望ましい。
(5)上記(1)〜(3)の車体補強用部材は、素材として前記鋼管に替えてプレス成形品を用いることができる。さらに、衝突時に乗員を保護するために車体各部の構造体に配置され、例えば、ドアインパクトバー、フロントバンパービーム、リアバンパービーム、クロスメンバー、フロントピラーレインフォース、センターピラーレインフォースおよびサイドシル等として適用することができる。
(6)上記(1)〜(4)の車体補強用部材の製造方法であって、素材である鋼管を管軸方向に逐次移動させつつ、前記鋼管の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記鋼管を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し加熱部を形成し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後、急冷して前記凸形状の曲がり部または前記凸形状の曲がり部および凹形状の逆曲がり部を形成することを特徴とする車体補強用部材の製造方法である。
(7)上記(5)の車体補強用部材の製造方法であって、素材であるプレス成型品を管軸方向に逐次移動させつつ、前記プレス成型品の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記プレス成型品を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し加熱部を形成し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後急冷して前記凸形状の曲がり部または前記凸形状の曲がり部および凹形状の逆曲がり部形成することを特徴とする車体補強用部材の製造方法である。
本発明の車体補強用部材によれば、「多部分R曲がり管」または「部分凹凸曲がり管」のいずれであっても、車体衝突時に、従来の真直管や「全長R曲がり管」を用いた補強用部材に比べ、吸収エネルギーを増加させることが可能になり、より優れた耐衝撃性を発揮することができる。
これにより、耐衝撃性を維持しつつ、車体補強用部材として用いられる鋼管の寸法(外径、肉厚)を減少させ、管形状の見直しが可能となり、車体の軽量化とともにコスト低減を図り、益々向上する車体耐衝撃性に対する要求レベルにも対応することができる。
本発明の車体補強用部材の内容を図面に基づいて説明する。
(「多部分R曲がり管」および「部分凹凸曲がり管」の形状例)
本発明の車体補強用部材ではないが「部分R曲がり管」の形状例は、前記図3(b)に示す通りであり、中央部の1箇所に曲がり半径R1からなる凸形状の曲がり部を有し、その曲がり部両側の隣接部に真直部からなり、ドアフレーム空間に装着させるため、全長Wと突出量δの形状を構成している。
本発明の「多部分R曲がり管」の形状例は、前記図6に示しており、3箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)の凸形状の曲がり部を有しており、曲がり部の間は真直部で構成し、同様に、ドアフレーム空間に装着させるため、全長Wと突出量δの形状を構成している。
図13は、本発明の「多部分R曲がり管」の他の形状例を示す図である。図13(a)、(b)は、2箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)の凸形状の曲がり部を有しており、曲がり部間および片端は真直部で構成している。なお、前記図3、図6および図13において、紙面の上方はドアフレームの外面方向を示している。
図13(a)、(b)に示すいずれの「多部分R曲がり管」を用いる場合であっても、「部分R曲がり管」比べ、荷重初期の立ち上がり荷重を上昇させることができるので、吸収エネルギーを増大させることが可能になる。しかし、凸形状の曲がり部の増加にともなって、座屈開始の遅れ現象が減衰することから吸収エネルギー増大の効果は減少するので、曲がり部は9箇所程度に留めるのが望ましい。
図14は、本発明の車体補強用部材のうち「部分凹凸曲がり管」の形状例を示す図である。図14(a)に示す「部分凹凸曲がり管」は、1箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)からなる凸形状の曲がり部を有しており、その凸形状の両側の隣接部には曲がり半径R2(曲率1/R2)からなる凹形状の逆曲がり部および真直部で構成している。この場合であっても、ドアフレーム空間に配置させるため、全長Wと突出量δの形状を構成している。同図において、紙面の上方はドアフレームの外面方向を示している。
図14(b)〜(g)に示す「部分凹凸曲がり管」は、前記図9に示すと同様に、2乃至4箇所の部分的な曲がり半径R1(曲率1/R1)からなる凸形状の曲がり部を有しており、その凸形状の曲がり部の片側または両側の隣接部に曲がり半径R2(曲率1/R2)からなる凹形状の逆曲がり部で構成し、または真直部および凹形状の逆曲がり部で構成するようにしている。
図14においては、便宜的に凸形状の曲がり部の曲がり半径をR1、凹形状の逆曲がり部の曲がり半径をR2で表示しているが、それぞれ同一の曲がり半径を採用する必要がなく、適宜異なる曲がり半径を採用することができる。例えば、図14(d)、(f)、(g)に示すように、部材端部に曲がり半径R0を大きくした曲がり部を設けることができ、また、曲がり半径を大きくした逆曲がり部も設けることができる。なお、図14において、曲がり半径はR0>R2>R1を想定している。
図14に示す「部分凹凸曲がり管」によれば、凹形状の逆曲げ部が衝撃に対して相対的に弱い部位となり、衝撃荷重を分散させることができる。これにより、衝撃にともなうひずみエネルギーをより広範囲で分担することが可能になり、座屈開始を大幅に遅らすことができ、一層、吸収エネルギーを増大させることができる。
本発明の車体補強用部材では、車体の外面方向から衝撃を受ける少なくとも1箇所の凸形状の曲がり部の曲率を0.8(m-1)以上にする。前記図5に示すように、衝撃を受ける凸形状の曲がり部の曲率1/Rが小さい場合には、真直管の吸収エネルギーとの差は少ないが、凸形状の曲がり部の曲率1/Rが大きくなると、例えば、0.8(m-1)以上になると、著しく吸収エネルギーを増大させることができる。
本発明の車体補強用部材は、凸形状の曲がり部が車体の外面方向に対向するように配置されるが、部材端部に車体との接合に用いられるブラケットを設け、ブラケットを車体と接合させる構造であってもよく、また、部材両端にブラケットを設けることなく、補強用部材の端部と車体とを直接に結合する、いわゆるブラケットレス構造を採用してもよい。
本発明の車体補強用部材を接合する場合に、部材端部を真直部、または前記凸形状の曲がり部の曲率と異なる曲率を有する凸形状の曲がり部若しくは凹形状の逆曲がり部で構成することができる。
(車体補強用部材の断面形状)
前述の通り、自動車部品等の軽量化をさらに図ることが求められており、そのためには、可能な限り肉厚の薄いものが望ましいが、耐衝撃性を確保するため、所定の曲げ強度と吸収エネルギーを確保するとともに、衝突時に座屈強度が得られるように、曲げ変位に対し偏平変形し難くすることも重要である。
このような観点から、本発明の車体補強用部材として用いられる鋼管の断面形状は、円若しくは楕円、またはこれらに近似する形状にするのが望ましい。
図15および図16は、本発明の車体補強用鋼管に適用することができる断面形状を示す図である。図15(a)〜(e)は円または楕円の断面形状例を示す図であり、周方向の座屈に対し安定した形状であり、変形に対して急激な強度低下を生じず、大変形まで使用することができる。
図15(c)は4隅にrを有する矩形形状を、同(d)は小判型形状を示しており、いずれも長径側の2辺に直線部を有することで、曲げ剛性を大きく向上させることができる。
図15(e)は円による断面形状の他の例を示す図であり、車体補強用鋼管7を全長に亘りスリット10を有するオープン管で構成している。この場合に、その両端にスリット10を広げて平坦面からなるブラケット部を一体形成することも容易になる。同(e)に示す断面形状の車体補強用鋼管を用いれば、管製造に要する溶接工程等が不要となり、コスト低減が図れるとともに、所定の耐衝撃性を確保できる。
図16(a)〜(e)は円または楕円に類似する断面形状例を示す図であり、同(a)に示す釣り鐘型形状は、円形状の異形化であり、圧下方向に対して丸管より小さいRを持つ形状とし耐座屈特性を向上させ、その反対側の断面形状を四角形状にすることにより断面係数を増加させ、最高荷重を向上させることができる。
図16(b)は、長径側の2辺に直線部を有すると同時に、荷重を受ける面と対向する辺に直線を有する蒲鉾型形状であり、耐座屈特性を向上させて曲げ剛性を大きく向上させることができる。
図16(c)、(d)は、プレス成形品7a、7bを溶接した閉断面形状であり、所定の耐衝撃性を確保しつつ、長手方向に形状が異なる鋼管、または複雑な断面形状の鋼管として適用できる。
図16(e)は、複雑な閉断面形状の他の例を示しており、バンパービームやセンターピラーレインホースのように、取付スペースの制約から断面形状が限定される場合に好適である。
(車体補強用鋼管の逐次加熱、逐次曲げ加工、逐次冷却)
本発明の車体補強用鋼管では、曲がり管の形成方法について各種の曲げ加工方法を採用することができ、例えば、プレス曲げ、引張曲げ、圧縮曲げ、ロール曲げ、押し通し曲げおよび偏心プラグ曲げ等を適用することができる。
引張強さが1000MPaを超えるような高強度の鋼管を用いる場合があるが、この場合には上記の曲げ加工法を考慮することが重要である。一般には、引張強さ500〜700MPa程度の金属素管を出発材料として曲げ加工を行った後、熱処理によって強度を上げ、高強度の鋼管を得ている。
ところが、最近の車体の耐衝撃性に対する高度な要求は、曲がり管に対しても真直管と同等の品質レベルを求められることが予測される。このため、出発材料を曲げ加工した後、熱処理によって高強度の鋼管を得る場合に、前記特許文献3で提案されたように、直線状のパイプを直接通電加熱し、全長全周に亘って焼入れする方法を採用した場合には、歪の発生を防止することが困難である。
鋼管の軽量化も考慮すれば、工業技術的に安定して確保できる強度として、引張強さ1300MPa以上を選定するのが望ましく、さらに1470MPa級を選定するのがより望ましい。そこで本発明の車体補強用鋼管の曲がり部を形成するに際して、高周波加熱コイルを用いて鋼管を局部的に加熱しつつ、加熱部を逐次曲げ加工した後、急冷して焼き入れを行い、所定の高強度を確保することとした。
これにより、熱間状態で曲げ加工を行うため残留応力に起因するスプリングバックが生じ難いこと、熱間加工のため塑性変形し易く曲げ加工に大きな荷重が必要でないこと、さらに成形後すぐに急冷して形状凍結することから形状精度に優れ、逐次加熱された断面を逐次均等に冷却することから、焼きムラが生じ難いため、焼きムラに起因する残留応力による変形や、強度バラツキがほとんど発生しない安定した品質を確保することができる。
例えば、鋼管を曲げ加工する場合に、高周波加熱コイルにより被加工材である素管を逐次A3変態点以上で、かつ組織が粗粒化しない温度まで加熱をおこない、加熱された領域で治工具を用いて塑性変形させ、その直後に水もしくはその他の冷却液、または気体を素管の外面または内外面から均等に吹き付けることにより、100℃/sec以上の冷却速度を確保する。
このように曲げ加工された鋼管は均一な冷却が行われることから、形状凍結性がよく均一な硬さの鋼管が得られるとともに、大きな残留応力が発生し難く高強度にもかかわらず耐遅れ破壊性にも優れた特性を発揮することができる。このときの材質設計では、例えばTi(チタン)、B(ボロン)のように焼きが入り易い化学成分を含有させることにより、より高強度で硬度分布の均一性や耐遅れ破壊性に優れた鋼管を得ることができる。
本発明の曲げ加工では、低強度の素管を出発材料として熱間加工を行った後、焼入によって強度を上げ、高強度の鋼管を得るだけでなく、更に焼入れされた高強度の素管を再度熱間曲げ加工を行った後、2回焼入することにより組織の細粒化を図り、より耐衝撃性に優れた鋼管を得ることもできる。
したがって、本発明ではこの逐次加熱、逐次曲げ加工および逐次冷却を採用することによって、車体補強用鋼管に曲がり部を形成する場合であっても、車体の耐衝撃性に対する高度な要求を満足することができる。
図17は、本発明の車体補強用鋼管の曲がり部を成形する際に使用する高周波加熱曲げ装置の概略構成、および例えば「部分凹凸曲がり管」を加工する場合の要領を説明する図である。同(a)は装置に鋼管をセットした状態、同(b)は鋼管の管端に曲げ加工を行わず直管のままで焼入れを行う状態、同(c)は第1の凸形状の曲がり部を加工する状態、同(d)は第1の凹形状の逆曲がり部を加工する状態、同(e)は中央部となる第2の凸形状の曲がり部を加工する状態、同(f)は第2の凹形状の逆曲がり部を加工する状態、同(g)は第3の凸形状の曲がり部を加工する状態をそれぞれ示している。
装置構成としては、入り側から鋼管7をガイドし逐次移動させるガイドロール14、15を配置し、その出側に環状の誘導加熱コイル11を配置している。誘導加熱コイル11の出側直近には加熱後の鋼管7を焼き入れしつつ、形状凍結するために冷却水を噴霧する冷却装置12を配置する。誘導加熱コイル11および冷却装置12は、鋼管7の環状加熱幅が小さいほど曲げ加工にともなう偏平を防止できることから、可能な限り接近させることが望ましく、さらには一体構造で構成するのが望ましい。
さらに、誘導加熱コイル11および冷却装置12の出側には、一対のオフセットロール13が配置され、このオフセットロール13を鋼管7に当接させることにより、鋼管7に曲げモーメントを付与し環状加熱部に曲げ加工を施す。
以下では、図17(a)〜(g)に基づいて、両管端に真直部を有し、3つの凸形状の曲がり部と2つの凹形状の曲がり部を有する「部分凹凸曲がり管」の加工要領を説明する。
図17(a)に示すように、鋼管7は高周波加熱曲げ装置にセットされた後、ガイドロール14、15によってオフセットロール13側に駆動させる。図17(b)に示すように、鋼管7の管端部は曲げ加工を行わず、熱処理のみを行うため、オフセットロール13に当接させず、直管のままで熱処理を行う。
次いで、図17(c)に示すように、鋼管7をガイドロール14、15によって前進させつつ、オフセットロール13を矢印の方向に移動させ鋼管7に当接させることにより、鋼管7に曲げモーメントを付与し環状加熱部に曲げ加工を施す。環状加熱部は、曲げ変形後、直ちに誘導加熱コイル11出側の冷却装置12によって、急速冷却されて焼き入れされる。
このとき、焼き入れ後の鋼管7の強度は高いため、オフセットロール13によって付与させる曲げモーメントによって変形するのは、強度の低下している環状加熱部のみとなることから、優れた形状凍結性を得ることができる。したがって、鋼管7の軸方向の送りおよびオフセットロール13の送りを制御することにより、所望の曲げ加工を行うことができる。
図17(d)に示すように、第1の凸形状の曲がり部を加工した後は、鋼管7を軸方向に移動させつつ、オフセットロール13を矢印で示すように逆方向に送ることにより、第1の凹形状の曲がり部を加工する。その後、図17(e)、(f)、(g)に示すように、曲がり部の曲げ方向と曲げ形状に合わせて、鋼管7を軸方向に連続的に移動させつつオフセットロール13を当接させ、曲げモーメントを付与することにより、鋼管に形成された環状加熱部に曲げ加工を施し、所望の曲がり部を形成することができる。
このような方法によって、曲がり部が形成された鋼管は、優れた形状凍結性および安定した品質を確保できるので、車体の耐衝撃性に対し要求されるレベルにも対応することができる。また、低強度の素管を出発材料として曲げ加工を行った場合でも、均一焼入によって強度を上げ、引張強さ1300MPa以上の鋼管、さらに1470MPa級に相当する鋼管を得ることができる。
本発明の車体補強用部材は、高強度で、かつ優れた形状凍結性および安定した品質を確保できることから、例えば、前記図1に示すドアインパクトバーの他にも、バンパービーム(図18(a))、クロスメンバー補強用部材(図18(b))、フロントピラーレインフォース(図19(a))、センターピラーレインフォース(図19(b))およびサイドシル等として適用することができる。
(実施例1)
本発明の車体補強用部材として鋼管を用いた場合の薄肉化(軽量化)の効果を確認するため、出発材料として代表成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bからなる低強度(YP:450MPa、TS:555MPa、EL:23%)の素管を用いて、950℃に高周波加熱し、熱間で逐次曲げ加工ののち、水冷により冷却速度300℃/secで逐次急冷を施し、前記図6に示す3箇所の部分的な曲がり半径R(曲率1/R)の凸形状の曲がり部と隣接部に真直部を有する「多部分R曲がり管」からなる1470MPa級の供試鋼管を製作した。
製作した供試鋼管は、表1に示す寸法および形状を有し、引張強さは1500MPa超えであり、組織はマルテンサイトおよびベイナイトであった。
比較例1として表1に示す寸法および形状を有し、引張強さが1500MPa超えの「全長R曲がり管」と、比較例2として同表に示す外径、肉厚、長さ寸法で、引張強さは1500MPa超えの真直管を準備した。その比較例1、2は、本発明例とともに両端支持の3点曲げ試験機にてスパンを1000mmとして曲げ試験を行い、立ち上がり荷重および吸収エネルギーを測定した。立ち上がり荷重および吸収エネルギーにおける真直管(比較例2)との比を表1に示した。
表1の結果から、本発明例の「多部分R曲がり管」を用いることによって、真直管や「全長R曲がり管」に比べ、薄肉であるにも拘わらず、吸収エネルギーの増加が図れ、優れた耐衝撃性が確保できることが分かる。
(実施例2)
本発明の車体補強用部材として鋼管を用いて曲げ加工した場合の諸特性、すなわち、引張強度、組織、硬度分布、形状凍結性、へん平度、残留応力および耐遅れ破壊性について詳細な調査を実施した。出発材料として外径が31.8mm、肉厚が2.3mmであり、成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bであり、強度レベルを変動させた素管を準備した。準備した素管に曲げ加工を施し、供試鋼管を作製して、諸特性の調査を行った。素管の強度レベル、曲げ加工条件並びに供試鋼管の強度レベルおよび組織を表2に示す。
(1)曲げ加工条件および供試鋼管の強度レベル等
表2に示すように、曲げ加工条件は逐次加熱による逐次曲げ、冷間曲げ、および全長加熱による全長曲げの3種類とし、前記図6に示す3箇所の部分的な凸形状の曲がり部を有する「多部分R曲がり管」からなる供試鋼管を製作した。得られた供試鋼管の目標加工形状は、全長Wを1000mmとし、突出量δを20mmとした。詳細な曲げ加工条件を表3に示す。
まず、本発明例および比較例3での逐次加熱による逐次曲げでは、素管の送り速度を15mm/secとし、980℃に高周波加熱し熱間で逐次曲げ加工ののち、水冷による冷却温度20℃まで急冷と、自然冷却による除冷とに区分した。
図20は、実施例2で採用した冷間曲げ加工方法を説明する図である。同図に示すように、比較例4、5では素管は常温のままで、両管端をチャック17で保持しながら、曲げ治具16に押し付けて管軸方向に引張曲げを行った。
図21は、実施例2で採用した全長加熱による全長曲げ加工方法を説明する図である。同図に示すように、比較例6〜8では素管の両端に直接通電の接続端子18を接触させ素管全長に亘り加熱し、その後曲げ治具16によりプレス曲げを実施した後、急冷する場合は曲げ治具16と反対側に設けた冷却ノズル19から冷却水を鋼管7外面に噴射させ、除冷する場合は自然冷却とした。
曲げ加工後の供試鋼管の真直部から試験片を採取し、引張試験および顕微鏡による組織観察を行い、その結果を前記表2に示す。引張試験はJIS Z 2201の11号試験片を用いて、JIS Z 2241に規定する方法で実施し、顕微鏡による組織観察はナイタルエッチした管周方向断面を500倍で観察した。
前記表2に示す結果によれば、本発明例では、マルテンサイトおよびベイナイトを主体とする組織が得られ、1470MPa級の強度を確保することができたが、比較例3では、逐次加熱による逐次曲げの後自然冷却による除冷としたため、フェライトおよびパーライトからなる組織が主体となり、素管の強度レベルを超えることができなかった。
(2)供試鋼管による硬度分布、形状凍結性、へん平度および残留応力の測定
表4にビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)による部分的な曲がり部の硬度分布の測定結果を示す。測定時の試験荷重を1kgとし、図22に示すように、測定位置を管周方向の45度ピッチの8方向で、1方向で5箇所測定し、供試鋼管当たり40箇所とした。このときのHv硬度差が100未満の場合に、硬度均一性は良好と評価した。
表5に部分的な曲がり部の形状凍結性の測定結果を示す。前記図6に示す目標加工形状で製作された供試鋼管の中央部での突出量δを測定して、最大突出量と最小突出量の変動量を測定した。突出差が1.5mm以下の場合に、形状凍結性は良好と評価した。
表6に部分的な曲がり部のへん平度の測定結果を示す。供試鋼管の外径を円周4方向で測定し、最大値と最小値の比を比較した。最大外径径と最小外径径の比が99.0%以上の場合に、へん平度は良好と評価した。
図23は、実施例2で採用した残留応力の測定要領を説明する図である。供試鋼管7の周方向の90°ピッチの外面4箇所に歪みゲージ20を貼付したのち、歪みゲージ20貼付領域を10mm×10mm角に切り出し、歪み差を計測して残留応力を測定した。表7に部分的な曲がり部の最大残留応力値を示す。
(3)耐遅れ破壊性の評価
図24は、実施例2で採用した遅れ破壊試験装置の構成を説明する図である。供試鋼管7は0.5%酢酸+人工海水液に浸漬され、両端をスパン距離800mmで固定治具21に保持され、中央部に設けた引張治具22によって曲げ負荷応力400MPaの状態で1000Hr保持された後、目視により供試鋼管7に生じる亀裂の有無を確認した。
表8に耐遅れ破壊性の評価結果を示すが、上記の遅れ破壊試験後、目視により亀裂が確認できない場合を良好と評価した。
(4)総合評価
本発明例では逐次加熱による逐次曲げ後の急冷により、出発材料を低強度素管とした場合でも強度レベルは1470MPa級の引張強度を十分に満足することができた。さらに、本発明例では形状凍結性に優れるとともに、全長全断面位置における硬度均一性およびへん平度が良好であり、残留応力も軽減できることから耐遅れ破壊性は著しく良好な結果が得られた。
これに対し、比較例3では、逐次加熱による逐次曲げを採用したことから、硬度均一性、形状凍結性、および遅れ破壊特性は良好な評価であったが、冷却が除冷であったため十分な強度レベルを得ることができなかった。
比較例4は、低強度の素管を冷間曲げ加工したために、若干の加工硬化による強度上昇しか認められず、冷間加工によりスプリングバックが発生し、形状凍結性およびへん平度は不良であった。
比較例5は、高強度の素管を冷間曲げ加工したことから、若干の加工硬化にも拘わらず高強度を確保できたが、形状凍結性は不良であり、さらに大きな残留応力が発生し耐遅れ破壊性も不良であった。
比較例6〜8は、全長加熱による全長曲げ加工であるため曲げ形状にバラツキが大きく、形状凍結性は不良であった。比較例6、8は高強度が得られたが、素管全体を一度に冷却する方法であるため、焼入が不均一であり硬度均一性は不良であった。また、硬度のバラツキに起因して残留応力も大きくなり、遅れ破壊特性は不良であった。比較例7は、冷却が除冷であったため十分な強度が得られなかった。
(実施例3)
本発明の車体補強用部材として鋼板を用いた場合の薄肉化(軽量化)の効果を確認するため、出発材料として代表成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bからなる低強度(YP:450MPa、TS:555MPa、EL:23%)の鋼板を用いて、950℃に高周波加熱し、熱間でプレス成形後、プレス金型にてそのまま冷却し焼き入れすることにより、コの字断面の1470MPa級のプレス成形品を製作した。
図25は、実施例3で用いたプレス成形品の形状を示す図であり、同(a)は本発明例1として供試した「部分凹凸曲がり成形品」の全体形状、同(b)は本発明例2として供試した「部分凹凸曲がり成形品」の全体形状を示し、同(c)は本発明例1、2の断面形状を示している。
供試したプレス成形品の引張強さは1500MPa級であり、主な組織はマルテンサイトおよびベイナイトであった。また、図25(c)に示される断面形状の寸法は、a=30mm、b=30mm、c=50mm、およびr=3mmとした。
比較例1として同材質、同工程で断面形状である「全長曲げ成型品」、さらに比較例2として同材質、同工程で断面形状で曲がりのない「真直成型品」を準備した。その比較例、本発明例とともに両端支持の3点持曲げ試験機にてスパンを1000mmとして曲げ試験を行い、最高荷重および吸収エネルギーを測定した。その結果を表9に示す。
表9に示す結果から、比較例2に対する本発明例の最高荷重比は1.11、吸収エネルギーの比は1.23であった。したがって、鋼板を用いたプレス成形品においても、本発明例の「部分凹凸曲がり成形品」を採用することによって、「真直成型品」に比べ、吸収エネルギーの増加が図れ、優れた耐衝撃性が確保できることが分かる。