以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、原則として、全図を通じ同一の部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る描画装置(複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置)の構成を示す図である。本実施形態の描画装置は、荷電粒子線毎に投影ユニットを備えた、いわゆるマルチカラム式の描画装置である。荷電粒子線として電子線(電子ビーム)を用いた例を説明するが、それに限らず、イオン線等の他の荷電粒子線を用いてもよい。図1において、電子源108から、ウェーネルト電極109による調整を介して、アノード電極110によって引き出された電子ビームは、クロスオーバ調整光学系111(クロスオーバ調整系)を介してクロスオーバ112(照射系クロスオーバ)を形成する。ここで、電子源108は、LaB6またはBaO/W(ディスペンサーカソード)等を電子放出部に含むいわゆる熱電子型の電子源としうる。クロスオーバ調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、各静電レンズは、3枚の電極から構成され、中間電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズとしうる。クロスオーバ112から広角をもって放射された電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行ビームとなり、アパーチャアレイ117を照射する。
アパーチャアレイ117を照射した平行ビームは、アパーチャアレイ117によって分割され、マルチ電子ビーム118(複数の電子線)となる。マルチ電子ビーム118は、それぞれ、(第1)集束レンズアレイ119によって集束され、ブランカーアレイ122上に結像する。ここで、集束レンズアレイ119は、3枚の多孔電極から構成され、3枚の電極のうち中間の電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。なお、アパーチャアレイ117は、集束レンズアレイ119の瞳面を通過する電子ビームの領域を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面の位置(集束レンズアレイ119の前側焦点面の位置)に置かれている。
ブランカーアレイ122は、個別に制御可能な偏向電極(より正確には、偏向電極対)を含むデバイスである。ブランカーアレイ122は、描画パターン発生回路102・ビットマップ変換回路103・ブランキング指令回路107によって生成されたブランキング信号に基づき、マルチ電子ビーム118を個別に偏向してブランキングを行う。電子ビームをブランキングしない場合は、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、電子ビームをブランキングする場合は、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加すればよい。ここで、ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビームは、後側にあるストップアパーチャアレイ123によって遮断されてブランキング状態となる。本実施形態において、ブランカーアレイ・ストップアパーチャアレイは2段で構成されている。すなわち、(第1)ブランカーアレイ122及び(第1)ストップアパーチャアレイ123と同じ構造の(第2)ブランカーアレイ127および(第2)ストップアパーチャアレイ128が後側に配置されている。
ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビーム118は、第2集束レンズアレイ126によって第2ブランカーアレイ127上に結像する。さらに、マルチ電子ビーム118は、第3集束レンズ130・第4集束レンズ132によって集束されてウエハ133(基板)上に結像する。ここで、第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130・第4集束レンズアレイ132は、第1集束レンズアレイ119と同様に、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。
ここで、第4集束レンズアレイ132は、対物レンズアレイとなっており、その投影倍率は、例えば、1/100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122上の中間結像面での電子ビーム121のスポット径(FWHM(半値全幅)で2μm)は、ウエハ133上で100分の1程度に縮小され、FWHMで20nm程度のスポット径となる。
ウエハ133上でのマルチ電子ビーム118のスキャン(走査)は、偏向器131で行うことができる。偏向器131は、対向する電極対によって形成され、例えば、x・y各方向について2段の偏向を行うため、4段の対向電極対で構成されうる(図中では、簡単のため、2段の偏向器を1ユニットとして示している)。偏向器131は、偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
パターンの描画中は、ウエハ133を保持するステージ134をX方向に連続的に移動させる。これと並行して、位置計測器(例えばレーザ測長機を利用したもの)による実時間でのステージ134の位置計測結果に基づき、ウエハ上の電子ビーム135を偏向器131によってY方向に偏向する。さらに、これらと並行して、第1ブランカーアレイ122及び第2ブランカーアレイ127によって、描画パターンに応じて電子ビームのブランキングを行う。このような動作により、ウエハ133上にパターンを高速に描画することができる。
なお、以上に説明した電子(荷電粒子)光学系は、つぎの3つの部分に大別できる。1つ目は、電子源108からコリメータレンズ115までの要素を含む照射光学系140(照射系ともいう)である。2つ目は、照射光学系140から射出した電子ビームをマルチ電子ビームに分割するアパーチャアレイ117と、当該マルチ電子ビームから複数のクロスオーバを形成する集束レンズアレイ119とを含むマルチビーム形成光学系150である。なお、マルチビーム形成光学系150は、単にマルチビーム形成系ともいう。3つ目は、当該複数のクロスオーバに対応する複数の開口を備えた素子と、当該複数の開口に対してそれぞれ設けられて電子ビーム(クロスオーバ)をウエハ上(基板上)に投影する複数の投影光学ユニットとを含む投影光学系160である。ここで、当該素子は、例えば、ブランカーアレイ122である。なお、投影光学ユニットは、単に投影ユニットともいい、投影光学系は、単に投影系ともいう。本実施形態は、マルチビーム形成光学系150の構成に特徴を有するものである。
図2は、本発明を適用しない場合において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図2は、図1におけるマルチビーム形成光学系150を含む部分を図示している。図2において、クロスオーバ112から広角に放射された電子ビームは、コリメータレンズ115に入射し、コリメータレンズ115によってコリメート(略平行化)される。しかし、電子ビームの発散角(発散半角)が大きい場合、電子ビームは、照射光学系140の収差により、完全には平行化されず、被照射面内の位置によって照射角度(入射角度)が異なる不均一性が生じてしまう。ここで照射光学系の収差は、クロスオーバ調整光学系111の球面収差や、コリメータレンズ115の球面収差、電子源からアパーチャアレイ117までの間の空間電荷効果による収差(凹レンズの球面収差に相当する)を含む。例えば、照射光学系140の収差のうち、コリメータレンズ115の球面収差が支配的である場合、凸レンズの球面収差(正の球面収差)により、アパーチャアレイ117に入射する電子ビーム204は、電子ビームがより外側になるほどより内側に傾いてしまう。よって、アパーチャアレイを通過したマルチ電子ビームの主光線205も、同様に、より外側のものほどより内側に傾いた状態となる。
これにより、集束レンズアレイ119を通過した電子ビームは、より外側になるほど、ブランカーアレイ122上において所望の位置から、より内側にずれてしまうことになる。このようにして、マルチ電子ビームのビーム配列が不均一となり、外側の電子ビームがブランカーアレイ122の開口203の中心を通らなくなる。その結果、ブランカーアレイ122の偏向特性が不均一になってしまう。
また、空間電荷効果による収差の影響が支配的になった場合には、凹レンズの球面収差(負の球面収差)により、アパーチャアレイ117に入射する電子ビーム204は、逆に、電子ビームがより外側になるほどより外側に傾くことになる。よって、クロスオーバ調整光学系111及びコリメータレンズ115による凸レンズの球面収差(正の球面収差)と、空間電荷効果による収差(凹レンズの(すなわち負の)球面収差に相当)との和が電子ビームの角度分布を決める。すなわち、当該和によって、より外側の電子ビームがより内側に傾いてしまうか、または、より外側に傾いてしまうかが決まる。本願明細書の実施形態では、図2と同様、照射光学系の収差は、コリメータレンズ115の球面収差が支配的であり、アパーチャアレイに入射する電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより内側に傾く不均一性を有している場合を例に説明する。
図3は、図2の構成において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列と、結像面における電子ビームの配列とを示す図である。図3の(A)におけるアパーチャアレイの開口配列201及び集束レンズアレイの開口配列202は、図3の(B)におけるブランカーアレイの開口配列203に一致するようにしている。ここでは、一例として、ブランカーアレイの開口203の配列を正方格子状の配列としているが、それに限らず、例えば、千鳥格子状の配列など規則性を有する他の配列としてもよい。図3の(B)に示すように、照射光学系の収差により、前述したとおり、結像面(またはブランカーアレイ)上の電子ビーム121の位置は、ブランカーアレイの開口203の位置に対して、電子ビームがより外側になるほどより内側となる。すなわち、照射光学系の収差により、ブランカーアレイ(結像面)上のビーム配列121は、ブランカーアレイの開口203の配列に対してずれてしまう。したがって、照射光学系の収差を前提にすると、アパーチャアレイの開口201の配列及び集束レンズアレイの開口202の配列をブランカーアレイの開口203の配列に一致させるのは好ましくないことになる。
これに対し、図4は、本実施形態1において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図4において、アパーチャアレイ117及び集束レンズアレイ119の各開口の位置は、ブランカーアレイ122(または結像面)上の対応する開口の位置(所望の電子ビームの位置)に対して、共に同量だけずらすようにしている。ここで、同量とは、量が完全に一致している場合のみならず、製造誤差や配置誤差等により、描画装置に要求される精度から設定される許容範囲内で量が不一致である場合も含む。この開口位置の変位量(偏心量)は、照射光学系の収差に対応した電子ビームの入射角に基づいて設定すればよい。当該入射角は、ブランカーアレイ122上の位置のブランカー中心(ブランカーアレイ122の中心)からの距離の関数、例えば、3次の多項式(後述)、により設定することができる。
このように電子ビームの入射角を考慮し、アパーチャアレイ117及び集束レンズアレイ119の開口位置をずらした場合のマルチ電子ビームの軌道401は、図4のようになる。すなわち、ブランカーアレイ122(または結像面)上の電子ビーム配列121がブランカーアレイの開口203の中心の配列に一致するような軌道となる。このようにマルチ電子ビームのビーム配列の不均一性を補償することにより、外側の電子ビームもブランカーアレイの開口203の中心を通るようになり、ブランカーアレイ122の偏向特性が改善される。図4は、比較のため、図2の構成におけるマルチ電子ビームの軌道402を点線で示している。
図5は、実施形態1において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列と、結像面(またはブランカーアレイ122上)における電子ビーム配列とを示す図である。図5の(A)は、アパーチャアレイの各開口201の位置及び集束レンズアレイの各開口202の位置を、ブランカーアレイの対応する開口203の位置に対し、ともに同量だけ変位させたアパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列を示している。図5の(B)は、結像面上の電子ビーム配列を示しており、当該電子ビーム配列は、補償の結果、所望の電子ビーム配列に整合している。ここで、整合とは、各電子ビームの位置の目標位置に対するずれがトレランス内であることを意味する。
ここで、アパーチャアレイ117は集束レンズアレイ119の瞳面(前側焦点面)上に置かれているのが好ましい。アパーチャアレイ117が集束レンズアレイ119の瞳面上に置かれた状態で、アパーチャアレイの開口配列201及び集束レンズアレイの開口配列202を同量ずらした場合、集束レンズアレイ119の瞳面を通過する電子ビームの領域は変化しない。そのため、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口中心が同軸上にある状態を保って開口位置を同量だけ変位させても、結像面に入射するマルチ電子ビームの主光線の角度を均一に保つことができる。つまり、アパーチャアレイ117を集束レンズアレイ119の前側焦点面に配置して上述の補償を行うことで、結像面上のマルチ電子ビームのビーム配列の不均一性を補償できるだけでなく、結像面への入射角の均一性も保つことができる。
なお、アパーチャアレイ117と集束レンズアレイ119との間に平行偏心があった場合、集束レンズアレイ119の瞳面を通過する電子ビームの領域がマルチ電子ビーム全体で一様に変化し、結像面上においてマルチ電子ビーム全体が一様に傾斜することになる。このような均一な傾斜は、アライナー偏向器120によって、一括の補正が容易に行える。問題は、マルチ電子ビームの個別の傾斜によって生じる不均一性であって、本発明の目的は、照射光学系の収差によって生じる当該不均一性を低減することにある。
実施形態1において、アパーチャアレイの開口配列201及び集束レンズアレイ202の開口配列をずらす量は、具体的には、ブランカーアレイ上の電子ビームのブランカーアレイ中心からの距離(像高)Yに加え、3つのパラメータにより決定できる。当該3つのパラメータは、照射光学系の球面収差係数Cs・コリメータレンズの焦点距離f・デフォーカス調整量Δfである。ここで、デフォーカス調整量Δfは、クロスオーバ調整光学系111によって調整できるが、それには限定されず、例えば、コリメータレンズのパワーを変えることによって調整してもよい。
ここで、照射光学系の球面収差係数Csは、Cs=Cs(CO_adjust)+Cs(CL)+Cs(Coulomb)という数式で表わすことができる。Cs(CO_adjust)は、クロスオーバ調整光学系の球面収差係数、Cs(CL)は、コリメータレンズの球面収差係数、Cs(Coulomb)は、空間電荷効果による球面収差係数(特定の凹レンズの球面収差係数に相当)である。
照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量Δθは、上記のパラメータを用いて、Δθ=Cs(Y/f)3+Δf(Y/f)と近似的に表すことができる。この式は、距離Yに関して3次の多項式となっている。
図6は、実施形態1において、照射光学系のデフォーカスの有無によるアパーチャアレイ・集束レンズアレイの開口配列の違いを示す図である。図6の(A)はデフォーカス調整量Δfが0(デフォーカス量がゼロ)のときのアパーチャアレイの開口配列201及び集束レンズアレイの開口配列202である。図6の(B)はデフォーカス調整を行った(デフォーカスさせた)場合のアパーチャアレイの開口配列201及び集束レンズアレイの開口配列202である。図6の(C)は距離(像高)Yを横軸とし、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量(電子ビームが内側に傾いた場合を正とする)を縦軸として表したグラフである(Cs=5000mm、f=500mm、Δf=1.5mmの場合を示す)。
図6の(C)において、デフォーカス調整がない場合の電子ビームの角度ずれ量は、距離Yの3乗に比例する。このため、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列も、図6の(A)のように距離Yの3乗に比例したずれ量をもった開口配列とすることにより、補償を行う。
一方、図6の(C)において、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームの角度ずれ量は、距離Yの3乗に比例する項に加え、距離Yに比例するデフォーカス項が加わる。このため、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームは、図6の(C)からわかるように、距離Yが小さな領域では電子ビームが外側に傾き、距離Yが大きな領域では電子ビームが内側に傾くことになる。これを考慮すると、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列は、図6の(B)のように、結像面上の所望のビーム配列に対し、距離Yの小さな領域の開口601は内側に、距離Yの大きな領域の開口602は外側にずらして、補償を行うことになる。
このように、デフォーカス調整を行った場合は、開口配列パターンが多少複雑になる。しかし、図6の(C)のグラフから明らかなように、デフォーカス調整を行った場合のほうが角度ずれ量の絶対値のレンジは小さくなる。そのため、デフォーカス調整を行ったほうがアパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列をずらす量を小さくできるというメリットがある。このことは、図6(A)と図6(B)とを比較するとよくわかる。
以上のように、デフォーカス調整の有無には、それぞれ長所・短所がある。そして、本発明の全実施形態において、デフォーカス調整によってアパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列のパターンは変化しうるものである。また、実施形態で示す開口の配列パターンは、例示に過ぎず、照射光学系の収差によって生じる電子ビームの角度の不均一性を補償するような配列パターンである限りは、本発明の範囲内である。
[実施形態2]
図7は、実施形態2において、アパーチャアレイ117及び集束レンズアレイ19を通る電子ビームを示す図である。図7は、図1のマルチビーム形成光学系150に対応する部分であり、本実施形態のその他の構成要素は実施形態1のそれと同様である。
同図において、集束レンズアレイの開口位置202は、実施形態1と同様に、照射光学系の収差による結像面での電子ビーム配列の不均一性を補償するために、距離(像高)Yに関して3次の多項式に従ってずらされている。また、アパーチャアレイ117の位置は、集束レンズアレイ119の前側焦点面701からずれた位置に配置されている。理想的には、アパーチャアレイ117の位置は、集束レンズアレイ119の前側焦点面701に置かれるのが好ましい。しかし、実装スペースが確保できない場合や集束レンズアレイ119の焦点距離が非常に長い場合など、理想的な配置ができない場合も想定される。
このような場合においても、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれが正確に把握できていれば、実施形態1の場合と同様、ブランカーアレイ122(または結像面)に対して均一な主光線の角度でマルチ電子ビームを入射させることができる。そのためには、図7において、アパーチャアレイ117の開口配列は、集束レンズアレイ119による電子ビームの収束角度分布がマルチ電子ビーム全体で一様になるように決定する必要がある。
すなわち、マルチ電子ビームの収束角度分布は集束レンズアレイの前側焦点面701を通る電子ビームの分布で決まる。よって、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ(角度分布)が正確に把握できている場合には、前側焦点面701を通る電子ビームの分布を規定することができる。
具体的には、図7に示すようにすればよい。すなわち、実施形態1と同様に、集束レンズアレイの前側焦点面701における(仮想的な)電子ビーム分布703の中心が集束レンズアレイの光軸704上にあるように、アパーチャアレイ117の開口位置を決定すればよい。
例えば、図7において、アパーチャアレイ117の位置は、集束レンズアレイ119と集束レンズアレイの前側焦点面701との間のおよそ中央に配置されている。この場合、アパーチャアレイの開口201をずらす量は、集束レンズアレイの開口202をずらす量のおよそ半分にする。そうすることで、集束レンズアレイの前側焦点面701における(仮想的な)電子ビーム分布703の中心が集束レンズアレイの光軸704上に位置する。より一般的には、アパーチャアレイの開口201をずらす量は、集束レンズアレイの前側焦点面とアパーチャアレイとの間の距離710に比例させればよい。
図8は、実施形態2において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列と、結像面における電子ビーム配列とを示す図である。図8の(A)は、集束レンズアレイの開口202の配列、図8の(B)は、アパーチャアレイの開口201の配列、図8の(C)は、結像面上の電子ビーム配列を示す。図8の(A)及び(B)の丸点線は、ブランカーアレイの開口203を示している。図8の(B)において、アパーチャアレイの開口をずらす量は、集束レンズアレイの前側焦点面701における電子ビーム分布703を前述のとおり規定するように、集束レンズアレイの開口をずらす量のおよそ半分に設定されている。以上のように、アパーチャアレイ117を集束レンズアレイの前側焦点面701に配置しない場合においても、本実施形態のように構成することによって、実施形態1と類似の効果を得ることができる。
しかし、次に図9及び図10を参照して説明するように、できる限り実施形態1のように、アパーチャアレイ117は集束レンズアレイの前側焦点面701に配置するのが好ましい。図9は、スポットビーム内の各部分に到達する電子ビームを示す図である。図9の(A)は、実施形態1のスポットビーム内の各部分に到達する電子ビームを示す図で、アパーチャアレイ117が集束レンズアレイの前側焦点面701に置かれている。このため、スポットビーム像の外側部分に向かう軸外ビームの主光線901も含めて、軸上・軸外の主光線が光軸と平行となる。
図9の(B)は、実施形態2のスポットビーム内の各部分に到達する電子ビームを示す図で、アパーチャアレイ117は前側焦点面701に置かれていない。この場合、図からわかるように、集束レンズアレイの前側焦点面701上において、軸外の電子ビームの角度分布は軸上のそれとは異なっている。すなわち、スポットビーム像の外側部分へ向かう軸外ビームの主光線901は光軸とは平行とならずに傾いてしまうことになる。その結果、フォーカスがずれると、ビームスポットがボケやすくなる。つまり、実施形態2の構成では、軸上・軸外の主光線をともに光軸に平行にすることはできないということである。ただし、結像面上のビームスポット径が小さい場合は、この影響も小さい。よって、実施形態2の構成においては、結像面上のビームスポット径を軸外光線の傾きの影響が許容できる程度に小さくするのが好ましい。
続いて、図10は、電子ビームの角度ずれの見積もりに誤差がある場合の電子ビームを示す図である。図10の(A)は、実施形態1において、電子ビームの角度ずれの見積もりに誤差がある場合、実際の電子ビームを実線で、見積もり上の電子ビームを点線で示している。見積もり誤差があるために電子ビームの結像位置121は見積もられた結像位置1002に対してずれているが、電子ビームの主光線205は光軸と平行となる。これは、見積もり誤差がある場合でも、アパーチャアレイの開口201が集束レンズアレイの前側焦点面にあるためである。
図10の(B)は、実施形態2において、電子ビームの角度ずれの見積もりに誤差がある場合、実際の電子ビームを実線で、見積もり上の電子ビームを点線で示している。見積もり誤差があるために電子ビームの結像位置121は見積もられた結像位置1002に対してずれているのに加え、実施形態2の場合は、電子ビームの主光線205の角度もずれてしまう。これは、アパーチャアレイ117が集束レンズアレイの前側焦点面701上にないため、図をみるとわかるように、集束レンズアレイの前側焦点面701上の電子ビーム分布が見積もりに対してさらにずれてしまうからである。つまり、実施形態2の構成では、電子ビームの角度ずれの見積もりに誤差がある場合、マルチ電子ビームの結像位置121のみならず、主光線205の角度もずれてしまう点に留意する必要がある。
以上説明したように、実施形態2の構成をとる場合には、結像面上のビームスポット径を軸外ビームの傾きの影響が許容できる程度に小さくしたり、電子ビームの角度ずれの見積もり誤差が主光線の角度に与える影響に注意したりするべきである。
[実施形態3]
図11は、実施形態3の描画装置の構成を示す図である。図1の構成とは異なる照射光学系140及びマルチビーム形成光学系150のみ説明する。
電子源アレイ1110は、熱電界放出(TFE)型の電子源を複数配列したものである。熱電界放出型の電子源は、熱電界放出型エミッタ1101・サプレッサー電極1102・第1アノード電極1103・第2アノード電極1104から構成されうる。熱電界放出型エミッタ1101は、カソードに相当する。サプレッサー電極1102は、カソード先端部以外からの電子放出を制限する機能を有する。第1アノード電極1103及び第2アノード電極1104は、熱電界放出型エミッタ1101から電子を放出させるための電界を形成する。熱電界放出型エミッタ1101は、加熱による熱電子放出作用とアノード電極による強電界の下でのショットキー効果との組合せにより、電子を放出する。アレイ状に配列された熱電界放出型エミッタ1101から放出された電子ビーム群は、同様にアレイ状に配列されたクロスオーバ調整光学系111によって、アレイ状に配列された(照射光学系)クロスオーバ112を形成する。ここで、熱電界放出型エミッタ1101には、例えば、ZrO/W等の熱電界放出型のカソード材が用いられる。
アレイ状に配列されたクロスオーバ112から放射された電子ビーム114は、コリメータレンズアレイ1105によって各々平行化され、互いにオーバーラップしない複数の電子ビームを形成する。当該複数の電子ビームは、それぞれ、アパーチャアレイ117上の複数のサブアレイ領域(それぞれ複数の開口を含む)を照射する。
図11からわかるように、複数の電子源アレイ1110のうちの一つに着目すれば、その光学系の構成は、図1のそれと等価である。よって、上述の実施形態の構成は、各電子源(各サブアレイ領域)に対応する光学系に並列に適用することができる。
図12は、実施形態3において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列と、結像面における電子ビーム配列とを示す図である。図12の(A)は、本実施形態において、3×3のサブアレイ領域におけるアパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列を、図12の(B)は、3×3のサブアレイ領域における結像面上の電子ビーム配列121を示す図である。
図12の(A)に示すように、各サブアレイ領域において、照射光学系の収差による電子ビームの角度の不均一性を補償するように、アパーチャアレイの開口201及び集束レンズアレイの開口202を、ブランカーアレイの開口203に対してずらしている。同様の構成の照射光学系を並列に複数有しているため、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列は、どのサブアレイも同様としている。図12の(A)において、アパーチャアレイ117は集束レンズアレイの前側焦点面701に置かれており、アパーチャアレイの開口201と集束レンズアレイの開口202とは同量だけずらすようにしている。
図12の(A)のように、サブアレイ毎に第1実施形態の構成を適用することによって、図12の(B)のように、マルチビームの不均一性が補正される。このように、照射光学系が並列に設けられていれば、複数の照射光学系に対して並列的に本発明を適用すればよい。よって、前述した照射光学系のデフォーカス調整を行った場合であっても、アパーチャアレイ・集束レンズアレイの開口配列は、図6で示した配列を照射光学系(サブアレイ)毎に適用すればよい。また、アパーチャアレイ117を集束レンズアレイの前側焦点面701からずらして配置した場合であっても、アパーチャアレイ・集束レンズアレイの開口配列は、図8で示した配列を照射光学系(サブアレイ)毎に適用すればよいのは明らかである。
[実施形態4]
図13は、実施形態4の前提となる描画装置の構成を示す図である。同図において、上部の電子源108からアパーチャアレイ117までは図1と同様の構成であるため、繰り返しの説明は省略し、アパーチャアレイ117より後側にある構成要素について説明する。
アパーチャアレイ117によって形成されたマルチ電子ビームは、集束レンズアレイ119によって集束される。実施形態4において、集束レンズアレイ119の各レンズのパワーは、後側のストップアパーチャアレイ1303上にマルチ電子ビームが集束するように設定されている。マルチ電子ビームは、集束レンズアレイ119を通過して直ちに、投影アパーチャアレイ1301によって、サブマルチ電子ビームへとさらに分割される。同図では、マルチ電子ビームの1つを3×3のサブマルチ電子ビームへと分割する様子を示している。
集束レンズアレイ119の各レンズのパワーが上述のように設定されているため、サブマルチ電子ビームは、ストップアパーチャアレイ1303上に集束する。ここで、ストップアパーチャアレイ1303には、サブマルチ電子ビームに対して1つの開口が設けられている。ストップアパーチャアレイの開口1304の配列は、投影アパーチャアレイ1301の3×3のサブアパーチャアレイの中心の開口の配列と一致するように構成されている。
投影アパーチャアレイ1301の直下にはブランカーアレイ122が備えられていて、図1の構成と同様、個別偏向によって、各電子ビームのブランキング動作を行うことができる。電子ビームをブランキング(遮断)したい場合、ブランカーアレイ122の対応する電極対に電圧を印加すれば、ストップアパーチャアレイ1303によって当該電子ビームが遮断される。図13に、ブランカーアレイによって偏向(ブランキング)された電子ビーム125を示している。
ストップアパーチャアレイ1303を通過したサブマルチ電子ビームは、第2集束レンズアレイ132によって集束され、ウエハ133面上に結像する。第2集束レンズアレイの物体面には投影アパーチャアレイ1301が配置されており、投影アパーチャアレイ1301の3×3の開口パターンが第2集束レンズアレイの各レンズによりウエハ133面上に縮小投影される。例えば、投影アパーチャアレイ1301の開口径は2.5μmであり、第2集束レンズアレイ132の投影倍率は1/100倍に設定され、その結果、ウエハ133面上には25nm径の像が形成される。なお、ストップアパーチャアレイ1303は、第2集束レンズアレイ132の前側焦点面に配置されており、第2集束レンズアレイ132の瞳面を通過する電子ビームの領域を規定している。
ストップアパーチャアレイ1303の近傍には偏向器アレイ1302が配置され、図1の構成同様、サブマルチ電子ビームの偏向(スキャン)を行うことができる。偏向器アレイ1302は、より単純には、共通の印加電圧で駆動され、電極構造は、くし歯状の対向電極で構成されうる。
図14は、図13の構成(本発明を適用していない場合)において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームと、ストップアパーチャアレイ上の電子ビーム配列とを示す図である。
照射光学系の収差によって電子ビームの角度分布が不均一となった場合、前述の通り、集束レンズアレイ119によってストップアパーチャアレイ1303上に形成される電子ビーム(クロスオーバ)の配列が不均一となってしまう。つまり、ストップアパーチャアレイ1303上のサブマルチ電子ビームのスポットの配列が照射光学系の収差によって不均一になってしまう。その配列を示したのが図14の(B)であり、図3の(B)同様、電子ビームがより外側になる(像高がより高くなる)ほど、所望の位置(ストップアパーチャアレイの開口1304の位置)に対してより内側に集束してしまう不均一性が生じる。
本実施形態においては、マルチ電子ビームを投影アパーチャアレイ1301によってサブマルチ電子ビームにさらに分割しているため、投影アパーチャアレイ1301に照射される電子ビームがシフトしている影響も新たに考慮する必要がある。図14からわかるように、投影アパーチャアレイ1301に照射される電子ビームは、照射光学系の収差によって、電子ビームが外側になるほどより内側にシフトする。その結果、サブマルチ電子ビームの各主光線は、照射光学系の収差によって、主光線が外側になるほどより内側に傾いてしまうことになる(図14の中央の電子ビーム群と左右の電子ビーム群とを比較するとわかる)。このようにして、ストップアパーチャアレイ1303によって規定される電子ビームの角度分布は、サブアレイに依って異なってしまう。その結果、ウエハ133面上における電子ビームの配列や強度(電流強度)の不均一性を引き起こしてしまう。
図15は、図13の構成に本発明を適用した場合において、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームと、ストップアパーチャアレイ上の電子ビーム配列とを示す図である。本実施形態は、実施形態1と同様、アパーチャアレイの開口201及び集束レンズアレイの開口202を、図15の(A)のように、距離(像高)Yに関して3次の多項式に従ってずらすことによって、上記不均一性の補償を行う。実施形態1及び実施形態2で用いた構成は、いずれも、本実施形態においても適用可能であり、それらも本発明の範囲内の実施形態である。
図15に示すような本実施形態により、サブマルチ電子ビームの各主光線が照射光学系の収差によって傾くことなく、かつ、ストップアパーチャアレイの開口1304の中心に集束するように、補償を行うことができる。
[実施形態5]
以上の実施形態において、アパーチャアレイの開口201及び集束レンズアレイの開口202の配列は、照射光学系の球面収差に応じて決定した。ここで、照射光学系の球面収差は、実際には、シミュレーションまたは実測によってあらかじめ見積もられるものであるところ、この見積もりには誤差が含まれうるものである。よって、この見積もり誤差が許容値を超える場合、当該見積もりによって得られたアパーチャアレイの開口201及び集束レンズアレイの開口202の配列による補正は、許容できない補正残差(誤差)を有してしまう。このような場合、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイを再度製造することは、製造コストの点で好ましくない。この点に鑑み、本実施形態を含む以下の実施形態は、照射光学系の球面収差の見積もり誤差に起因して補正残差が生じた場合に有利な構成に関するものである。当該構成は、照射光学系の収差を調整する調整手段を含むものである。当該調整手段は、当該収差に依る入射角でアパーチャアレイに入射して集束レンズアレイにより形成される複数のクロスオーバのそれぞれの位置が対応する開口に整合するように、当該収差を調整するものである。ここで、当該対応する開口は、上述したように、ブランカーアレイまたはストップアパーチャアレイ等の素子における対応する開口のことである。
図16は、実施形態5に係る描画装置の構成を示す図である。本実施形態の構成は、コリメータレンズ115の構成に特徴を有するため、その構成について説明する。本施形態において、コリメータレンズ115は、3段のレンズ(荷電粒子レンズ)によって構成され、中段のメインコリメータレンズ1701と上段の第1調整レンズ1702と下段の第2調整レンズ1703とによって、発散する荷電粒子線をコリメートする。このようにコリメータレンズを多段構成(複数の荷電粒子レンズを含む構成)とすることにより、コリメータレンズの焦点距離を一定に保ったまま照射光学系の球面収差を調整することができる。ここで、コリメータレンズの焦点距離は、多段のコリメータレンズを1つのレンズとみなしたときの焦点距離(合成焦点距離)を意味する。
上記の球面収差の調整は、例えば、第1調整レンズ1702・メインコリメータレンズ1701・第2調整レンズ1703のパワーを個別に制御(調整)することにより、前側焦点位置(物面側焦点位置)・前側(物面側主面位置)を保ったまま行うことができる。ここで、前側焦点位置及び前側主面位置は、多段のコリメータレンズを1つのレンズとみなしたときの前側焦点位置及び前側主面位置を意味する。なお、1706は、コリメータレンズが1段の電子レンズのみからなる場合の電子ビームを示す。また、上記の球面収差の調整は、多段のコリメータレンズ中の各レンズを移動させることによっても、行うことができる。この場合、例えば、メインコリメータレンズ1701・第1調整レンズ1702・第2調整レンズ1703を、それぞれ移動に係るユニットとして(すなわち、各レンズを構成する3枚の電極を1ユニットとして)、ユニット単位で駆動する機構を設ければよい。さらに、上記の球面収差の調整は、各電子レンズのパワーの調整と位置の調整との組合せによって行ってもよい。なお、3段の電子レンズを含むコリメータレンズを例示したが、コリメータレンズの構成は、3段の電子レンズを含むものに限られず、2段、または、4段以上の電子レンズを含むものであってもよい。
このような調整は、前側焦点位置及び前側主面位置を固定しつつ電子線の経路を変更して照射光学系の球面収差を変化させるものであって、要するに、2種類の光学特性を固定しつつ1種類の光学特性を可変にしているものである。したがって、このような調整は、原理的(数学的)には、制御パラメータが3つ以上あれば可能である。例えば、上記構成例では、3段の電子レンズそれぞれに印加する電位を可変とすることにより、制御パラメータの数を3としている。また、例えば、2段の電子レンズで構成する場合、それぞれに印加する電位の調整に、少なくとも一方の電子レンズの位置の調整(移動)を加えれば、制御パラメータの数を3以上とすることができる。また、4段以上の電子レンズを含む場合においても、制御パラメータを3つ以上有するように構成することにより上記の調整が可能となる。
以上のような調整は、照射光学系の球面収差の見積もり誤差量に基づいて行うことができる。当該見積もり誤差量は、例えば、ウエハ133上での電子ビームの位置ずれの計測を介して得ることができる。より具体的には、例えば、異なる複数の像高に関して電子ビームの位置を計測し、電子ビームの位置ずれ量(目標位置からのずれ量)に像高に関する上記のような3次関数で表される相関があるかどうかを調べればよい。もし、当該相関があるならば、その3次関数の係数を見積もり誤差として上記の調整を行うことができる。
本実施形態のようにコリメータレンズを多段とすることによって、収差(球面収差)以外の光学特性を保ったまま収差(球面収差)を調整することができる。これにより、上述の補正残差の問題を解決することができる。この点について図17を参照して説明する。図17は、多段構成のコリメータレンズの構成および機能を説明する図である。図17の(A)は、多段構成のコリメータレンズの球面収差の変化と照射角度のずれ量の変化との関係を例示するグラフである。また、図17の(B)は、見積もられた照射光学系の球面収差に応じて予め定められたアパーチャアレイの開口201及び集束レンズアレイの開口202の配列を示す図である。図17の(A)に示されるように、多段のコリメータレンズによる球面収差の調整により、照射光学系による電子ビームの照射角度のずれ量を調整することができる。よって、見積もられた照射光学系の球面収差が実際の球面収差に対して誤差を有していても、照射光学系の球面収差を調整することにより、球面収差の見積もり誤差に起因する補正残差を低減(補償)することができる。ここで、図17の(B)の開口パターンは、予め見積もられた球面収差の値にしたがって形成されたものであるから、その補正残差は通常小さい。よって、そのような補正残差は、照射光学系の球面収差を微調整することによって通常は補償しうるものである。
図17の(C)及び(D)は、多段のコリメータレンズによる球面収差の調整例を示している。図17の(C)及び(D)の調整において、3段のコリメータレンズを1つのレンズと見なした場合の(合成)前側焦点面1704及び(合成)前側主面1705の位置は、一定に保たれていることが分かる。これにより、照射光学系の収差(球面収差)以外の光学特性、例えば、近軸における電子ビームの平行度や照射角が保たれる。このように収差(球面収差)以外の光学特性を保ったまま照射光学系の収差(球面収差)を調整することが図17の(C)及び(D)に例示する如く可能である。
[実施形態6]
アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列の変更による照射角度ずれの補償(補正)の残差を多段のコリメータレンズによる照射光学系の球面収差の調整によって低減することは、実施形態5の構成に限らず可能である。本実施形態は、実施形態4の構成に対して多段のコリメータレンズを適用した構成例を説明する。
図18は、実施形態6に係る描画装置の構成を示す図である。本実施形態は、実施形態4のコリメータレンズ115を実施形態5と同様の多段のコリメータレンズ115に置換して照射光学系の球面収差を可変としたものである。よって、本実施形態の実施形態4に対する差異は、コリメータレンズ115の構成である。ここで、多段のコリメータレンズ115の構成や機能は、実施形態5のそれと同様である。すなわち、コリメータレンズを多段として収差(球面収差)以外の光学特性を保ったまま収差(球面収差)を調整することにより、照射光学系の収差(球面収差)の見積もり誤差に起因する補正残差を低減(補償)することができる。
なお、本実施形態においては、照射光学系の球面収差の見積もり誤差は、ストップアパーチャアレイ1303上での電子ビームの位置ずれとして現れる。したがって、当該見積もり誤差の量は、例えば、複数の異なる像高に関してストップアパーチャアレイ1303上での電子ビームの位置ずれ(目標位置からのずれ)の量を計測して得ることができる。より具体的には、例えば、ステージ134上に配置された、電子ビーム(入射電流)を検出するセンサを利用すればよい。すなわち、アライナー120を用いてストップアパーチャアレイ上で電子ビームを走査させ、ストップアパーチャアレイの開口を通過した電子ビームを上記センサで検出することにより、上記位置ずれを計測できる。そして、この計測を複数の異なる像高にそれぞれ対応する複数の電子ビームに対して行えば、電子ビームの位置ずれ量に像高に関する上記3次関数の相関があるかどうかを調べることができる。
[実施形態7]
実施形態5および6は、コリメータレンズを多段のレンズから構成することにより、他の光学特性を変化させないようにして照射光学系の球面収差の調整を行う形態を示した。本実施形態は、他の光学特性の変化量を、実施形態5および6の構成よりは大きくなるものの、許容範囲内に抑えつつ、照射光学系の球面収差の調整を行える構成としている。本実施形態の構成は、以下に説明する点を除いて、実施形態1・3・4のいずれかと同様である。
本実施形態の特徴は、コリメータレンズ115の焦点距離(またはパワー)を調整し、かつ、それに整合するようにコリメータレンズ115の前側に形成されるクロスオーバ112の位置を調整することにより、照射光学系の球面収差の調整を行う点にある。ここで、コリメータレンズ115のパワーを調整することにより、照射光学系の球面収差の像高に対する依存性を調整することができる。このことは、上述したΔθを表す3次関数から理解することができる。照射光学系の球面収差による電子ビームの角度ずれ量Δθは、上述したように、Δθ=Cs(Y/f)3+Δf(Y/f)という3次関数で近似的に表すことができる。したがって、コリメータレンズ115の焦点距離f(またはパワー)を調整することにより、Δθの像高Yに対する依存性を調整できることになる。
なお、例えば、カソードの電子放出面が平面である場合等、電子源の構成によっては、コリメータレンズ115の前側に、実際に電子が集束・発散するクロスオーバ(実クロスオーバ)を持たず、仮想または虚のクロスオーバ(虚クロスオーバ)を形成しうる。その場合、コリメータレンズの後側の電子は、あたかも虚クロスオーバから発散してコリメータレンズにより平行化されたかのような軌道をとる。よって、その虚クロスオーバを虚物点としてコリメータレンズより後側の光学系を構成することができる。したがって、このようにコリメータレンズ115の前側に実クロスオーバを持たない系においては、上記の調整におけるクロスオーバ112の位置として、当該虚クロスオーバの位置を採用することができる。ここで、照射光学系がコリメータレンズの前側の位置に形成するクロスオーバ(照射系クロスオーバ)は、上述の実クロスオーバ・虚クロスオーバの双方を指すものとする。
クロスオーバ112の位置を調整する調整手段としては、例えば、カソード電極からクロスオーバ調整光学系にわたる部分(荷電粒子源ともいう)を移動させる駆動手段や、クロスオーバ調整光学系を構成する電極の電位を調整する調整手段を採用することができる。図19は、それら2つの手段を説明する図である。図19の(A)は、調整前の状態を示している。図19の(B)は、電子源部(図中の点線で囲まれた部分)を移動させる上記駆動手段によりクロスオーバの位置を調整した状態を示している。また、図19の(C)は、クロスオーバ調整光学系を構成する電極の電位を調整する調整手段によりクロスオーバの位置を調整した状態を示している。図19から、上記駆動手段および上記調整手段のいずれによっても、クロスオーバの位置が目標位置になる(目標とするクロスオーバ面1901上にある)ように調整できることがわかる。ここで、当然ながら、これら2つの手段を組み合わせることによってクロスオーバ112の位置を調整してもよい。
なお、本実施形態の構成を採用した場合、後段の光学系への影響も考慮する必要がある。当該影響として、例えば、コリメータレンズの焦点距離の変化によって後側の光学系の倍率が変化してしまうことが挙げられる。この倍率変化の比率は、変更前の焦点距離f及び変更後の焦点距離f´を用いてf´/fで表される。したがって、本実施形態の構成を採用する場合、後側の光学系の倍率変化を補償する手段を備えるか、または、後側の光学系の倍率変化が許容できる範囲で上述の調整を行うか、のいずれかとするのが好ましい。ここで、当該倍率変化を補償する手段としては、例えば、クロスオーバ調整光学系を用いてクロスオーバの径を調整することによるものがある。ただし、クロスオーバ調整光学系による調整を行うと、クロスオーバ調整光学系の球面収差が変化しうるため、当該変化も考慮して調整を行う必要がある。また、荷電粒子源にクロスオーバ調整光学系を含まない構成を採用した場合、当然、クロスオーバ調整光学系による倍率変化の補償は行えないことになる。クロスオーバ調整光学系を含まない構成は、電流密度が高い領域でのクロスオーバではクーロン効果が大きいため、この影響を回避するために採用しうるものである。その場合は、例えば、後側の光学系の倍率変化が許容できる範囲で上述の調整を行うようにすればよい。
[実施形態8]
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、当該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、アパーチャアレイの開口はずらさずに集束レンズアレイの開口をずらすことによって、集束レンズアレイの形成するクロスオーバの位置をブランカーアレイまたはストップアパーチャアレイ等の後側の素子の開口(の中心)に整合させるように構成してもよい。但し、当該構成は、当該素子の開口に入射する電子ビームの主光線が光軸とは平行にならないため、その点には留意が必要である。当該構成は、例えば、そのような主光線の角度ずれが許容できる場合や、当該角度ずれを補償する光学要素を別途追加する場合には、利用可能である。