JP5835385B2 - 無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法 - Google Patents
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Description
このため、スラグを路盤材等の道路用に使用する場合には、JIS A 5015(道路用鉄鋼スラグ)に準じて、3ヶ月以上のエージング及び水浸膨張比1.5%以下である条件を満足させることになっている。しかしながら、酸化マグネシウムによる膨張は発現が遅いため、現行JIS A 5015では酸化マグネシウムによる膨張性が評価できない。
特許文献1に記載の方法は、化合物選択性、再現性に乏しい。
特許文献2に記載の方法は、完全に酸化マグネシウムを水和させて水酸化マグネシウムに変化させる必要があるため、評価に長時間が必要で実用的でない。
非特許文献1に記載の方法は、多核測定機能を搭載した高機能の分析装置が必要なのに加え、測定に長時間(2%で2-3日)を要するという課題があり汎用性がない。
例えば、スラグ中に存在するマグネシウム化合物のうち、酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムがヨウ素含有アルコール溶液に選択的に溶解すること、及び、スラグの熱重量分析法では水酸化マグネシウムの脱水量から水酸化マグネシウムが定量可能であり、選択的に溶解した酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの量と水酸化マグネシウムの量の差分から酸化マグネシウムが定量できることを知見した。そして、以上の知見により、本発明を完成するに至った。なお、本発明においては、JIS K0129(2005年)記載の熱重量測定(TG;試料の温度を一定のプログラムによって変化又は保持させながら、その試料の質量を温度又は時間の関数として測定する方法)を熱重量分析と称する。
[1]無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法であり、前記試料を溶解液であるヨウ素含有アルコールと接触させることにより、溶解液中に前記試料に含まれる酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムを溶解させ、溶解したマグネシウム量を求め、次いで、前記試料に対して熱重量分析を行い、水酸化マグネシウムの脱水に起因する質量減量から水酸化マグネシウム量を算出し、次いで、前記溶解したマグネシウム量から前記熱重量分析から算出されるマグネシウム量を差し引いて得られるマグネシウム量を基に、酸化マグネシウム量を求めることを特徴とする無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[2]無機化合物系試料が、鉄鋼スラグであることを特徴とする前記[1]に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[3]前記溶解液のアルコール成分が、1価のアルコールとエチレングリコールの混合物であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[4]前記溶解液の温度が70℃以上90℃未満であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[5]前記溶解液のヨウ素含有率が3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[6]前記熱重量分析は、前記試料をエチレングリコール溶液中で加熱処理した後に熱重量分析に供し、質量減量のベースライン補正を行うことを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[7]前記熱重量分析において、用いる試料質量は50mg以上であり、昇温は不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
[8]前記試料は、粒度:100μm以下の試料であることを特徴とする前記[7]に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
さらに、本発明の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法を用いることで、路盤材中に割れや破壊が発生するかどうかを予見することができ、水和反応に起因する割れ、破壊を抑制し路盤材の品質、耐久性を向上させることができる。
スラグを例えば路盤材に用いた場合、体積が膨張し路盤材中に割れや破壊が発生する原因となる酸化マグネシウムを事前に評価でき、有用である。
溶解液であるヨウ素含有アルコールと接触させることにより、溶解液中に酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムを溶解させ、溶解したマグネシウム量を求める。
この時、溶解液として用いるアルコールについては特に限定しない。メタノール、エタノール等を用いることができる。さらに、溶解液のアルコール成分が、1価のアルコールとエチレングリコールの混合物であることが好ましい。
また、溶解液のヨウ素含有率は3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。なお、ヨウ素の含有率(%)は、ヨウ素とアルコールの合量を100%とした時のヨウ素の含有率である。
また、溶解液の温度は、70℃以上90℃未満が好ましい。
製鋼スラグ中に、マグネシウムは主にマグネシオフェライト(MgO-Fe2O3又はMgO-2Fe2O3)やマグネシウムシリケート(Mg3SiO5)等の複合酸化物、あるいはトリカルシウムシリケート((Mg、Ca、Mn、Fe)3SiO5)のような形で存在し、製法や製造容器起因のMgOが少量存在する。マグネシオフェライトやマグネシウムシリケート等はヨウ素含有アルコール溶液中では安定に存在することが知られており、ヨウ素含有アルコール中で鉄鋼を加熱溶解して鉄マトリックスを溶解し、種々の酸化物を選択的に沈殿(固形分)として採取する方法が鋼中の標準的な介在物分析法として広く用いられている。しかし、鉄やケイ素と複合酸化物を形成しない単体の酸化マグネシウムはこの方法では溶解することも知られている。そこで上記を基に、本発明では、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムを選択的に溶解するにあたり、溶解液としてヨウ素含有アルコールに着目した。検討した結果、試料を溶解液としてヨウ素含有エタノールと接触させると、溶解液中に酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムが溶解することがわかった。同様に、溶解液としてヨウ素含有メタノールを用いた場合でも溶解液中に酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムが溶解することがわかった。さらに、溶解液のアルコール成分が、1価のアルコールとエチレングリコールの混合物の場合でも同様の結果が得られた。
ここで、アルコールとしてメタノールとエチレングリコールを用いる場合、70℃が上限である。したがって、溶解処理の好適な温度範囲70℃以上90℃未満を安定的に保持するためには、アルコールとしてエタノールとエチレングリコールを用いることが好ましい。
一方、無機化合物系試料中にマグネシウムの硫化物、硫酸塩、リン酸塩がある程度含まれる場合は、マグネシウムの硫化物、硫酸塩、リン酸塩は水溶性であり、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムは水溶性でないことを利用して、別途、試料を水と接触させ水溶性マグネシウム化合物を水中に溶出させることで上記の水溶性マグネシウム化合物を定量してこの結果をもとに分析値を補正することにより、より正確さの高い分析結果を得ることができる。すなわち、無機化合物系試料中にマグネシウムの硫化物、硫酸塩、リン酸塩がある程度含まれる場合は、まず、試料を水と接触させ水溶性マグネシウム化合物を水中に溶出させることで水溶性マグネシウム化合物のマグネシウム量(Mgaq)を定量しておく。また、一方で、本発明の定量方法を用い、溶解液であるヨウ素含有アルコールと接触することで溶解液中に酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム及び水溶性マグネシウム化合物を溶解させ、溶解したマグネシウム量(Mgsol)を求め、そこから上記で求めておいた水溶性マグネシウム化合物のマグネシウム量を差し引き(Mgsol −Mgaq)、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのマグネシウム量を求める。また、一方で、後述する熱重量分析を行い、水酸化マグネシウムの脱水に起因する質量減量からマグネシウム量を算出する。次いで、上記で求められた酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのマグネシウム量から熱重量分析により算出されるマグネシウム量を差し引いて得られるマグネシウム量を基に酸化マグネシウム量を求める。
試料に対して熱重量分析を行い、水酸化マグネシウムの脱水に起因する質量減量から水酸化マグネシウム量を算出する。この時、熱重量分析法による水酸化マグネシウムの定量においては、分析精度を向上させるためには、試料量の増大と熱重量曲線のベースライン補正、及び共存成分の干渉除去を行うことが好ましい。具体的には、用いる試料質量は50mg以上とするのが好ましい。試料をエチレングリコール溶液中で加熱処理した後に熱重量分析に供し、質量減量のベースライン補正を行うことが好ましい。昇温は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
図3に粒度:75μm以下(篩目が75μmの篩を通る粒度)とした製鋼スラグを試料とし、試料量を10mg(通常測定)と100mgとした場合のアルゴンガス雰囲気下、昇温速度10℃/分で測定した熱重量曲線、及びその微分曲線を示す。なお、TGは熱重量曲線における質量減量率(%)、DTGは熱重量曲線の微分曲線である。試料量の増大により、試料量10mgでは不明確だった390℃近傍の水酸化マグネシウムの脱水による熱重量曲線及び微分曲線の変化が明確になっていることがわかる。
また、試料量を10mgから100mgに増大させることによって質量減量率の精度は大幅に向上した。また、大気雰囲気下での昇温では酸化カルシウムや酸化マグネシウムの炭酸化の影響で、測定値のばらつきが大きいが、アルゴンのような不活性ガス雰囲気下では、このような影響も受けにくいことが確認できた。
図4にエチレングリコール処理前後のスラグの熱重量曲線及びその微分曲線を示す。図4より、事前にエチレングリコール処理を行うことで、試料より水酸化カルシウムを除去できたため、水酸化マグネシウムの脱水温度域に干渉していた水酸化カルシウムの脱水減量は消失したことがわかった。また、水酸化マグネシウムによる脱水が起こる前および後の温度領域においても干渉していた水酸化カルシウムの脱水による質量減少の影響も除去されたため、その温度領域での熱重量曲線がほぼ一定の傾きを持つ直線となり、水酸化マグネシウムの脱水減量を定量するためのベースラインとして熱重量曲線の傾き補正に用いることができることがわかった。鉄鋼スラグでは、室温から水酸化マグネシウムの脱水温度域まで連続的に質量減少し、水酸化マグネシウムの定量に影響を与える場合が多い。そのためベースラインの傾き補正の必要があるが、水酸化カルシウムを事前に除去することにより適切なベースライン補正が可能になった。エチレングリコール中での加熱処理は通常60〜80℃で、30分〜2時間行えばよく、場合により、マグネティックスターラーなどで攪拌してもよい。また、試料(スラグ)は、粒度:100μm以下(篩目が100μmの篩を通る粒度)とすることが好ましい。そして、このようにベースラインが補正され、これに基づき水酸化マグネシウムを定量することで、より正確に、高精度な分析が可能となる。
ヨウ素−アルコール溶解液を用いて溶解されたマグネシウム量から前記熱重量分析から算出されるマグネシウム量を差し引いて得られるマグネシウム量を基に、酸化マグネシウム量を求める。
実際の転炉スラグ中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム量を定量した。分析試料として、製造場所が異なり、マグネシウム含有率(トータルMg)がほぼ同等で、水浸膨張特性が異なる2種のスラグA、スラグBを3ヶ月間大気エージング処理をしたもの、及び上記スラグAを100℃で3日間蒸気エージング処理したもの、の3種類を用いた。なお、トータルMgは、酸分解後、残渣をアルカリ融解法で分解・溶液化して合液し、ICP発光分析法で測定した。
水浸膨張試験はJIS A5015に従って行い、80℃での6時間処理を断続的に10日間行った後の水浸膨張率を測定した。
上記エチレングリコールでの加熱処理後の試料0.1gに対して、熱分析装置を用いてアルゴン雰囲気下で常温から500℃まで10℃/分で昇温し、質量減量を測定した。この時350〜415℃の質量変化量の絶対値を[TG(1)(%)]、285〜350℃の質量変化量の絶対値を[TG(2)(%)]とし、式(1)から水酸化マグネシウム含有率[加熱処理後Mg(OH)2(%)]を算出し、さらに式(2)から水酸化マグネシウム体のマグネシウム含有率[加熱処理後Mg as Mg(OH)2]を算出し、さらに、式(3)より、エチレングリコールでの加熱処理前の試料(スラグ)に対する水酸化マグネシウム体のマグネシウム含有率(Mg as Mg(OH)2)を求めた。得られた結果を表4に示す。
また、上記8質量% ヨウ素−エタノール−エチレングリコール溶液による溶解により求められたMg as [MgO+Mg(OH)2]と上記熱重量分析により求められたMg as Mg(OH)2との差分から酸化マグネシウム体のマグネシウム量(Mg as MgO)を求めた。これら結果を、トータルMg含有率と共に併せて表4に示す。
[加熱処理後Mg(OH)2(%)]= ( [TG(1)(%)]−[TG(2)(%)] )×(58.326/18.016)
・・・・・式(1)
[加熱処理後Mg(%) as Mg(OH)2 ]= [加熱処理後Mg(OH)2(%)]×(24.305/58.326)・・式(2)
Mg(%) as Mg(OH)2 = [加熱処理後Mg(%) as Mg(OH)2 ]×(エチレングリコールでの加熱処理後の試料質量)/(エチレングリコールでの加熱処理前の試料質量)・・・式(3)
また、水浸膨張率と酸化マグネシウム量は非常によい相関関係を有しており、結果として、本発明により酸化マグネシウムを定量することにより、水浸膨張率を正確に予想することができることがわかる。
なお、酸化マグネシウムは1000℃で加熱して恒量化したものを用い、試薬の添加、混合操作は乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内で行った。
以上のように、本発明がスラグ中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウム分析法として有効であることが確認された。
Claims (8)
- 無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法であり、
前記試料を溶解液であるヨウ素含有アルコールと接触させることにより、溶解液中に前記試料に含まれる酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムを溶解させ、溶解したマグネシウム量を求め、
次いで、前記試料に対して熱重量分析を行い、水酸化マグネシウムの脱水に起因する質量減量から水酸化マグネシウム量を算出し、
次いで、前記溶解したマグネシウム量から前記熱重量分析から算出されるマグネシウム量を差し引いて得られるマグネシウム量を基に、酸化マグネシウム量を求めることを特徴とする無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。 - 無機化合物系試料が、鉄鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記溶解液のアルコール成分が、1価のアルコールとエチレングリコールの混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記溶解液の温度が70℃以上90℃未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記溶解液のヨウ素含有率が3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記熱重量分析は、前記試料をエチレングリコール溶液中で加熱処理した後に熱重量分析に供し、質量減量のベースライン補正を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記熱重量分析において、用いる試料質量は50mg以上であり、昇温は不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
- 前記試料は、粒度:100μm以下の試料であることを特徴とする請求項7に記載の無機化合物系試料中の酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの定量方法。
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